説明

菌糸体細胞壁の溶解方法およびそれに用いられる菌糸体細胞壁の溶解装置

【課題】椎茸菌糸体細胞壁などの菌糸体細胞壁を短時間に効率よく微粉砕し溶解速度を高め得るような菌糸体細胞壁の溶解方法およびそれに用いられる菌糸体細胞壁の溶解装置を提供する。
【解決手段】増殖した菌糸体を含む固体培地と、菌糸体の細胞壁を分解し得る酵素を含む反応液とを接触させて、菌糸体の細胞壁を反応液中に溶解させるに際して、固体培地と反応液とを反応釜4内に収容して接触および溶解を行うと共に、反応液の一部を、反応釜4の上部側から抜き出して、外部の循環通路6を通して強制的に反応釜4の下部側に注入することにより、反応釜4内において下方から上方へ向かう強制的な循環を生じさせ、この強制循環の最中にギアポンプ8を介して反応液中の固体培地および菌糸体の細胞壁を擂り潰すようにしたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌糸体細胞壁の溶解方法およびそれに用いられる菌糸体細胞壁の溶解装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、椎茸菌糸体細胞壁などの菌糸体細胞壁を短時間に効率よく微粉砕し溶解速度を高め得るような菌糸体細胞壁の溶解方法およびそれに用いられる菌糸体細胞壁の溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、椎茸、松茸、エノキ茸などの担子菌類の茸は食用されており、中には、担子菌類サルノコシカケ科に属する茸のように漢方薬として重用されているものもある。
一方で、このような担子菌類から有効成分を抽出する種々の方法が提案されている。例えば、特開昭54-46859号公報(特許文献1)には、担子菌類を主としてバガスか
らなる培地に接種し、菌糸を繁殖させた後、この菌糸体繁殖培地を圧搾して、有効成分を採取する、保健食品の製造方法が開示されている。
【0003】
しかしながら上記公報に記載の方法では、分離液中の有効成分の濃度が低く、手間のかかる濃縮操作が必要であるなど、抽出効率が悪いという問題点があった。
このような問題点を解決すべく鋭意研究して、本願出願人は、先に、「バガスを基材とする固体培地上に、エノキ茸菌を接種し、次いで菌糸体を増殖して得られる菌糸体を含む固体培地を、12メッシュ通過分が30重量%以下となるように解束し、この解束された固体培地に、水およびセルラーゼ、プロテアーゼまたはグルコシターゼから選ばれる酵素の1種またはそれ以上を添加し、そして前記固体培地を酵素の存在下で粉砕および擂り潰してバガス繊維の少なくとも70重量%以上が12メッシュ通過分であるようにし、次いで95℃までの温度に加熱することにより酵素を失活させかつ滅菌することを特徴とする、エノキ茸菌糸体およびバガス培地からの有用成分の抽出方法。」を、特願昭62-34
123号(特許文献2)として提案した。
【0004】
また特公昭60-23826号公報(特許文献3)において、本発明者らは接種菌として
椎茸菌を用いた以外は上記特願昭62-34123号記載の方法と同様の方法で保健飲料
を製造する方法を提案している。
【0005】
さらにまた特願昭59-5355号(特公平4-35149号公報、特許文献4)、特願昭59-5356号(特公平4-6171号公報、特許文献5)においては、霊芝菌を用いた保健飲料の製造方法を提案している。
【0006】
また、本発明者らは特開平9−234087号公報(特許文献6)において、解束された上記各公報に記載の固体培地を、β-1,3−グルカナーゼを主成分とし、さらにキチナ
ーゼ、セルラーゼを含有している酵素液(a)(例:ファンセラーゼ含有液)と接触させて
、菌糸体含有培地からの有用成分を短時間に高収率で得ることができる方法を提案している。
【0007】
これらの方法によれば、上記菌糸体(エノキ茸菌糸体、椎茸菌糸体、あるいは霊芝菌糸体)およびバガス培地からの有用成分を高濃度で効率よく抽出することができる。
ところで、このような従来法では、上記解束されたバガスなどの固体培地を種々の酵素液と接触させて、固体培地の酵素存在下での粉砕及び擂潰工程を行っているが、係る工程では、軽い固体培地は、反応液の上部に浮き上がってしまう傾向があり、酵素と効率よく接触せず、その結果、固体培地上で予め増殖された菌糸体細胞壁の溶解、固体培地の主成分であるバガスの微粉砕が効率よく進行しない。その結果、固体培地の酵素存在下での粉
砕及び擂潰処理に長時間かかる。
【0008】
そこで、従来法では、反応釜内に、例えば3連の攪拌翼が配設され、これらの攪拌翼により反応液の上部に浮き上がっている固体培地を強制的に攪拌・分散させていた。また、従来法では、このように単に攪拌翼付きの反応釜を用いるだけでなく、反応釜の底部から反応液を一旦系外に抜き出して再び反応釜の頭頂部に注入することにより、反応釜内を上部から下部に向かって流れるように強制的に循環させて、バガス等の浮上を抑制しつつ、固体培地の微粉砕や菌糸体細胞壁の破壊、溶解を促進していた。
【0009】
しかしながら、このような方法であっても菌糸体細胞壁の抽出スピードの点でさらなる改善の余地があった。
【特許文献1】特開昭54-46859号公報
【特許文献2】特願昭62-34123号
【特許文献3】特公昭60-23826号公報
【特許文献4】特公平4-35149号公報
【特許文献5】特公平4-6171号公報
【特許文献6】特開平9−234087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、椎茸菌糸体細胞壁などの菌糸体細胞壁を運転開始の直後から短時間のうちに効率よく微粉砕し溶解速度を高め得るような菌糸体細胞壁の溶解方法およびそれに用いられる菌糸体細胞壁の溶解装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る菌糸体細胞壁の溶解方法は、
増殖した菌糸体を含む固体培地と、前記菌糸体の細胞壁を分解し得る酵素を含む反応液とを接触させて、前記菌糸体の細胞壁を前記反応液中に溶解させるに際して、
前記固体培地と前記反応液とを前記反応釜内に収容して前記接触および前記溶解を行うと共に、
前記反応液の一部を、前記反応釜の上部側から抜き出して、強制的に前記反応釜の下部側に注入することにより、前記反応釜内において下方から上方へ向かって内容物の強制的な循環を生じさせ、この強制循環の最中に前記反応液中の前記固体培地および前記菌糸体の細胞壁を擂り潰し、前記固体培地内に含まれる前記菌糸体の前記細胞壁を破壊しながら溶解させることを特徴としている。
【0012】
このような方法によれば、運転開始の直後から強制循環を行なう最中に、菌糸体含有の固体培地の解束を促進させることができる。
また、本発明に係る菌糸体細胞壁の溶解装置は、上部開口部に少なくとも一部が開閉自在な蓋体が配置された反応釜本体の外方に、該反応釜本体の上部側と下部側との間を連通させる循環通路を設けるとともにこの循環通路の途中にギアポンプを配設し、
前記反応釜本体内に、増殖した菌糸体を含む固体培地と前記菌糸体の細胞壁を分解し得る酵素を含む反応液との混合物を収容し、
前記ギアポンプの駆動により、前記反応釜本体の上部側から下部側に向けて前記循環通路を介して前記混合物を強制的に循環させながら、前記細胞壁を破壊して前記反応液中に溶解させることを特徴としている。
【0013】
このような装置によれば、特に、ギアポンプにおけるケーシングとギアとの隙間を菌糸体含有の固体培地が通過するときに、この固体培地の解束を促進させることができる。し
たがって、有効成分である菌糸体細胞壁の反応液中への溶解が促進される。
【0014】
ここで、本発明では、前記反応釜本体の下部側に接続された前記循環通路の噴出口に対向して、邪魔板が配設されていても良い。
このようにすれば、強制循環されてくる反応液が邪魔板に衝突するので、固体培地の解束もしくは菌糸体細胞壁の破壊を促進することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る菌糸体細胞壁の溶解方法およびそれに用いられる菌糸体細胞壁の溶解装置によれば、固体培地の投入が容易であるとともに、運転開始の直後から強制循環を行なうことにより、通常であれば水溶液の上部に浮いてしまう固体培地をギアポンプで積極的に解束した後に、水溶液の流れとともに反応釜の下部側に戻すようにしたので、固体培地の解束が促進され、ひいては菌糸体細胞壁の破壊が促進され、有効成分の溶出が速やかに行なわれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に示した実施例を参照しながら本発明について説明する。
図1は本発明の一実施例に係る菌糸体細胞壁の溶解方法が実施例される溶解装置を示したものである。
【0017】
この溶解装置2は、縦長の反応釜4を主要部として構成されるもので、反応釜本体4aは上部が開口して形成されている。また、この開口部4bを覆うように、ドーム状の蓋体4cが設置されている。蓋体4cは、少なくとも一部が開閉自在に形成されていれば、蓋体本体4dと開閉扉4eとの2部材から構成されていても良い。
【0018】
一方、反応釜4の本体4aの外周面には、上部側と下部側とを連通させる循環通路6が設けられている。なお、本実施例の循環通路6の上部側開口は、反応釜本体4aの側壁の上段に接続されているが、この上段に加えて、側壁の中段に接続口を設けることもできる。このようにすれば、内溶液の液面高さに応じて配管経路を選択することができる。
【0019】
さらに、反応釜本体4aの外方に設けられた循環通路6の途中には、ギアポンプ8が配置されている。このギアポンプ8は、一対の歯車8a、8bが矢印a方向に回転されることにより、ケーシング8cと歯車8a、8bとの間の間隙を矢印b方向に流体が流れるように構成されたもので、この間隙を通った流体が反応釜本体4aの下部側に強制的に導出される。なお、この循環通路6の下部側開口は、反応釜本体4aの底面に直接接続されているが、これに代え、本体4aの側壁に接続することも可能である。
【0020】
さらに、本実施例の溶解装置2では、反応釜4の本体4a内に温度計10が設置され、外部から内部温度が測定できるようになっている。また、安全弁12が設置され、内部圧力が所定圧力以上にはならように設定されている。さらに、反応釜本体4aの側壁には、覗き窓が設置されることが好ましい。このように覗き窓が設置されていれば、内部で流体の流れる様子を外部から確認することができる。
【0021】
本実施例による溶解装置2は上記のように構成されたもので、以下に作用について説明する。
先ず、砂糖キビの絞りかすであるバガスあるいは、このバガスに米糖などを添加した菌糸体の固体培地に、椎茸、エノキ茸等の担子菌類を接種し、温度、湿度さらには照度が調節された培養室内に所定期間放置し、固体培地中に担子菌類菌糸体を増殖させた、菌糸体含有のバガス処理体が予め用意される。
【0022】
図1の溶解装置2は、このように多量に菌糸体を増殖させたバガス処理体を菌糸体の細胞壁を分解し得る酵素を含有した反応液に接触させて、有効成分を溶出するために使用されるもので、溶解装置2を用いることにより、バガス処理体の解束と細胞壁の分解とを1つの装置内で行なうことができる。
【0023】
すなわち、反応釜4の本体4a内には、菌糸体の細胞壁を分解し得る酵素を含有した公知の反応液が貯留される。この反応液内には、例えば、上記特許文献2に記載されているように、水およびセルラーゼ、プロテアーゼ、プロテアーゼまたはグルコシターゼから選ばれる酵素の1種またはそれ以上が添加されている。また、反応釜4の内部は、50〜80℃、好ましくは60〜70℃の温度に設定されている。
【0024】
次いで、蓋体4cの開閉扉4eを開き、反応釜本体4a内に、上記菌糸体含有のバガス処理体が投入される。このバガス処理体は、反応液に対して比重が小さくしかも繊維質であるため、その多くは反応液に対して浮いた状態となっている。したがって、このままではバガス処理体の解束は行なわれず、菌糸体細胞壁からの有効成分の溶出も行なわれ難い。
【0025】
そこで、この状態からギアポンプ8を駆動させると、このポンプ駆動により反応釜本体4aの上部側から反応液の一部をバガス処理体ととともに外部に抜き出すことができる。すると、そのバガス処理体を含む反応液は、循環通路6内に導出され、ギアポンプ8に至るとともに、反応釜本体4aおよび循環通路6を通る一連の循環経路が運転直後に構成される。
【0026】
一方、ギアポンプ8内では、一対の歯車8a、8bの矢印a方向の回転により、内容物が矢印b方向に導かれるので、このとき、反応液中のバガスは、ケーシング8cとの間隙を通る際に機械的に解束され、一部は裁断される。このようにして、ギアポンプ8により機械的に解束または裁断されたバガス処理体は、本実施例では反応釜本体4aの底面に直接供給される。なお、反応釜本体4a内での液の流れは、下方から上方に向かう流れが形成され、再び反応釜本体4aの上部から循環通路6内に導出される。そして、下方から上方に向かってバガス処理体が流れる際に、内部の反応液中の酵素により菌糸体の細胞壁が分解され、有効成分が反応液中に溶解される。このようにして、所定時間ギアポンプ8を駆動させれば、解束されたバガス処理体からの有効成分の溶出を積極的に行なうことができる。
【0027】
さらに、所定時間の経過後は、この反応釜4から全ての内容物が取り出され、次工程に供給される。なお、次工程では、細胞壁溶解生成物含有液を加熱して酵素を失活させるとともに滅菌処理を行なった後に固液分離される。あるいは、細胞壁溶解生成物含有液を一旦固液分離した後に、得られた分離液を加熱し酵素を失活させるとともに、滅菌しても良い。固液分離手段としては、圧搾、遠心分離、ろ過などの方法を適宜採用することができる。
【0028】
このように、本実施例によれば、比重が小さく軽いバガス培地の被処理体であっても、運転の開始直後から有効に反応液と混合させ、内部の有効成分を溶出することが可能になる。
【0029】
なお、以上の実施例では、ギアポンプ8を反応釜4に対し一台設置したが、このギアポンプ8は一台に限定されず、2台併設することもできる。その場合、反応釜4内での上方に向かう液の流れを損なわないように、ラセン状の流れを構成するように2台のポンプの吐出方向を変えたり、あるいは配設高さを変えたりしても良い。
【0030】
また、反応釜本体4a内に空気導入管を設け、この導入管を介して外部から空気を導入し、バブリング効果でバガス処理体を拡散させることもできる。さらに、上記実施例では、蓋体4cが上方に膨出したドーム状に形成されているが、これに代え、蓋体4cの中央部が最も低くなるように、逆三角形状の屋根を備えた蓋体を採用することもできる。このような蓋体であれば、蓋体に付着した内溶液を最も低い中央部に集めて、ここから滴下させることが可能になる。
【0031】
さらに、上記実施例の構成に加えて、反応釜本体4aの下部側に接続された循環通路6の噴出口に対向するように邪魔板を設け、この邪魔板に対して循環通路6から噴出されてくる被処理体を衝突させるようにしても良い。このようにすれば、被処理体の解束もしくは菌糸体細胞壁の破壊をより促進することができる。また、この邪魔板に開口部を設けても良い。さらに、反応釜本体4aの底面は、すり鉢状であっても、平坦な鏡面形状であっても良い。このように本発明は様々な改変が可能である。
【0032】
いずれにしても、本発明に係る溶解装置2を用いれば、これまで、運転の開示時には、反応液の上に浮いてしまい勝ちであったバガス処理体の解束を直ちに行うことが可能になる。これにより、細胞壁を破壊しての有効成分の溶出を速やかに行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明の一実施例に係る菌糸体細胞壁の溶解方法を実施するための菌糸体細胞壁の溶解装置を示した概略図である。
【符号の説明】
【0034】
2 溶解装置
4 反応釜
4a 反応釜本体
4b 開口部
4c 蓋体
4d 蓋体本体
4e 開閉扉
6 循環通路
8 ギアポンプ
8a,8b 歯車
8c ケーシング
10 温度計
12 安全弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖した菌糸体を含む固体培地と、前記菌糸体の細胞壁を分解し得る酵素を含む反応液とを接触させて、前記菌糸体の細胞壁を前記反応液中に溶解させるに際して、
前記固体培地と前記反応液とを前記反応釜内に収容して前記接触および前記溶解を行うと共に、
前記反応液の一部を、前記反応釜の上部側から抜き出して、強制的に前記反応釜の下部側に注入することにより、前記反応釜内において下方から上方へ向かって内容物の強制的な循環を生じさせ、この強制循環の最中に前記反応液中の前記固体培地および前記菌糸体の細胞壁を擂り潰し、前記固体培地内に含まれる前記菌糸体の前記細胞壁を破壊しながら溶解させることを特徴とする菌糸体細胞壁の溶解方法。
【請求項2】
上部開口部に少なくとも一部が開閉自在な蓋体が配置された反応釜本体の外方に、該反応釜本体の上部側と下部側との間を連通させる循環通路を設けるとともにこの循環通路の途中にギアポンプを配設し、
前記反応釜本体内に、増殖した菌糸体を含む固体培地と前記菌糸体の細胞壁を分解し得る酵素を含む反応液との混合物を収容し、
前記ギアポンプの駆動により、前記反応釜本体の上部側から下部側に向けて前記循環通路を介して前記混合物を強制的に循環させながら、前記細胞壁を破壊して前記反応液中に溶解させることを特徴とする菌糸体細胞壁の溶解装置。
【請求項3】
前記反応釜本体の下部側に接続された前記循環通路の噴出口に対向して、邪魔板が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の菌糸体細胞壁の溶解装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−159496(P2007−159496A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361044(P2005−361044)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(390041243)
【出願人】(502303359)
【Fターム(参考)】