落下防止具
【課題】ボルトやナットを保持し、かつ保持した状態でこれらを螺合させることを可能とすることにより、落下を確実に防止することのできる落下防止具を提供する。
【解決手段】本発明にかかる落下防止具10の代表的な構成は、ボルトの頭21またはナット30を保持する保持部100と、保持部に接続され保持部を吊下しうる吊着部200とを備え、保持部は、一端が開口した筒体102を有し、ボルトまたはナットをそのネジ部が筒体の開口端に露出した状態で保持することを特徴とする。
【解決手段】本発明にかかる落下防止具10の代表的な構成は、ボルトの頭21またはナット30を保持する保持部100と、保持部に接続され保持部を吊下しうる吊着部200とを備え、保持部は、一端が開口した筒体102を有し、ボルトまたはナットをそのネジ部が筒体の開口端に露出した状態で保持することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として高所作業においてボルトまたはナットの落下を防止するための落下防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔及び構造物の組立作業や補修作業、電柱の装柱の着脱作業などのように高所で作業する場合には、ボルトやナット、部材などの資材を落下させてしまうと、部材等の損傷や遺失を招き、また下方にある建築物や構造物、車輌に損傷を与えるおそれがある。特に鉄塔や電柱において作業をする場合、厚い絶縁手袋を着用して作業する場合が多い。するとボルトやナットのような小さなものは把持しにくく、取り落としてしまう可能性もある。
【0003】
施工用地に余裕があれば、資材の落下が想定される範囲に作業区画を設定し、下方に何もない状態とすることにより、資材が落下しても支障がない状態にできる場合もある。しかし必ずしも十分な作業区画を確保できるとは限らず、また物置などの構造物は容易には動かすことができない。そのため、そもそも落下させないための落下防止対策が必要となる。
【0004】
現状において多く実施されている落下防止対策として、作業位置の直下に収納用の工具袋を設置(吊下)し、万が一資材を落下させた場合には工具袋内に落下するようにしている。また鉄塔などの躯体に槍出しの支柱を設け、この支柱に網を張った落下防止網を使用することも行われている。
【0005】
また特許文献1(特開2005−287168)には、ボルトのネジ山を挟み込んでボルトを保持する挟持体を備え、ナットを交換する際にボルトに装着してボルトの落下を防止する落下防止金具が開示されている。特許文献1によれば、ボルトの抜け落ちに起因する電線の落下を防止し、腐蝕したナットの交換を容易に行うことができるとしている。
【特許文献1】特開2005−287168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上記従来の落下防止対策において、工具袋を用いる場合には、作業位置は頻繁に変わるため、そのたびに工具袋を設置し直す作業がわずらわしいという問題がある。また工具袋を設置しようとした場合に、高所では設置できる場所が極めて限られるため、作業位置の直下に設置できない場合もある。さらには、風にあおられて工具袋が安定しない場合もあり、かならずしも落下資材を捕集できるとは限らない。また落下防止対策として槍出しの落下防止網を用いる場合、落下した資材が網で跳ねて外部に飛び出してしまう場合があり、捕集の確実性は必ずしも高くない。また、作業箇所の四方を網で囲う方法もあるが、コストと手間がかかるという問題がある。
【0007】
特許文献1に記載の構成はボルトの抜け落ちには有効である。しかし、ボルトやナットを着脱するときにこれを保持することはできず、これらを取り落とした場合に落下を防止することはできない。
【0008】
そこで本発明は、ボルトやナットを保持し、かつ保持した状態でこれらを螺合させることを可能とすることにより、落下を確実に防止することのできる落下防止具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる落下防止具の代表的な構成は、ボルトまたはナットを保持する保持部と、保持部に接続され保持部を吊下しうる吊着部とを備え、保持部は、一端が開口した筒体を有し、ボルトまたはナットを筒体で保持することを特徴とする。特に筒体は、ボルトまたはナットをそのネジ部が筒体の開口端に露出した状態で保持することが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、保持部によってボルトまたはナットを保持し、吊着部を作業員の体や周囲の構造物に連結することにより、万が一作業員が保持部を取り落としたとしても、ボルトまたはナットは吊下されるため、その落下を防ぐことができる。そして保持部がボルトまたはナットをネジ部が露出した状態で保持していることにより、保持したままの状態でこれらを螺合させることができる。従って、本発明にかかる落下防止具を2つ用いて、一方の落下防止具にはボルトを保持させ、他方の落下防止具にはナットを保持させた状態である程度まで螺合させることにより、常にボルトとナットとは何らかの形で保持されており、落下する場合がない。これらのことから、落下を確実に防止することができる。
【0011】
保持部は弾性を有し、伸張してボルトまたはナットを内包し、収縮してこれらを保持するよう構成してもよい。換言すれば、ボルトまたはナットを保持部に圧入することによって保持させることにより、吊下しても脱落することなく保持することができる。
【0012】
保持部は、筒体の開口端から筒体の軸心方向に延びる切込を有していてもよい。これにより、保持部の開口端近傍がたわみやすくなり、ボルトまたはナットを保持部に圧入しやすくなる。また保持するものがボルトであれば雄ネジ部が保持部から大きく突出するが、ナットである場合には保持部の内部に埋もれた状態で収容されてしまうため、取り出しにくいおそれがある。かかる場合にも、切込を有していれば筒体を大きく開くことができ、ナットを側面から露出させることができるため、容易に取り出すことが可能となる。
【0013】
また保持部は筒体をその軸方向に沿って分割し、筒体を弾性部材によって閉じる方向に付勢して構成してもよい。保持部の筒体が弾性を有していない場合であっても、筒体が開閉し、弾性部材の付勢力によって挟持することにより、吊下しても脱落することなく保持することができる。
【0014】
保持部は、筒体の開口端側に配置された大径部と、奥側に配置された小径部とを有していてもよい。これにより、異なる複数のサイズのボルトまたはナットを保持することが可能となる。なお大径部と小径部とは2段に限らず、奥側に行くほど小径となる多段としてもよい。
【0015】
保持部は、筒体の内周面に内側に向かって立設したフランジを有していてもよい。これにより、必ずしも筒体が収縮または付勢によってボルトまたはナットの側面を挟持しなくとも、フランジが係止することにより、これらを保持することができる。なお、収縮または挟持とフランジによる係止とをあわせることにより、より確実に保持することが可能となる。フランジは、筒体の内周面の全周に設けてもよいが、一部または断続的に数カ所に設けることでもよい。一部にでも係止すれば落下を防止できるからである。
【0016】
またフランジは、特に開口端近傍に設けるとよい。これにより筒体の長さを可能な限り短くすることができる。筒体が大径部と小径部とを有している場合には、それぞれの径の開口側端部に設けるとよい。これにより各サイズのボルトまたはナットをそれぞれ確実に保持することが可能となる。
【0017】
筒体の内周面にボルトまたはナットの側面の多角形の稜線と嵌合するラック部を設けてもよい。これにより、作業員が保持部を把持して回転させたとき、保持部とボルトまたはナットとが滑ることなく、容易に螺合させることが可能となる。
【0018】
吊着部は、保持部に対して回転可能に接続されていることが好ましい。これにより、作業員が保持部を回転させてボルトとナットとを螺合させる際に、吊着部がその回転の支障となることを防止することができる。
【0019】
切込の開口端とは反対側の端部に、円孔部を設けることが好ましい。これにより、ボルトまたはナットの着脱のために幾度も切込を開いたとしても、切込の進行を防止することができる。
【0020】
切込の開口端とは反対側の端部に、筒体の肉厚を増加させた厚肉部を形成してもよい。切込が進行しようとするとき、筒体の壁面の肉厚が厚ければ裂けにくくなるため、切込の進行を防止することができる。
【0021】
厚肉部は、筒体の外周に沿って環状(帯状)に形成されていることが好ましい。これにより切込の進行を防止するのみならず、ボルトの頭またはナットを保持する保持力を増加させることができる。
【0022】
さらに、切込の端部に円孔部を設け、かつ円孔部に隣接して筒体の外周に沿う環状の厚肉部を設けることが好ましい。円孔部によって切込の進行を効果的に防止しうると共に、厚肉部によってさらに確実に切込の進行を防止し、かつ適切かつ高い保持力を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる落下防止具によれば、ボルトやナットを保持し、かつ保持した状態で螺合させることを可能としたことにより、これらの落下を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1実施形態]
本発明にかかる落下防止具の第1実施形態について説明する。なお、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0025】
図1は落下防止具の全体構成を説明する図である。図に示す落下防止具10は、ボルト20の頭21またはナット30を保持する保持部100と、保持部100を吊下しうる吊着部200とから構成されている。また本実施形態においては2つの落下防止具10をコイルストラップ40にまとめて接続している。
【0026】
図2は保持部100を説明する図であって、図2(a)は保持部の部分断面図、図2(b)はボルト頭21を保持した状態を示す図、図2(c)はナットを収納した状態を示す図である。
【0027】
図2(a)に示すように、保持部100は一端が開口した筒体102を有し、開口端104と反対側の壁面106に吊着部200を回転可能に接続するための回転継手108を有している。筒体102の内周面には、内側に向かって立設したフランジ110を有している。また筒体102には、開口端104から筒体102の軸心方向に延びる切込112を有している。なお筒体102の形状としては図示のようなキャップ型のほか、釣鐘型であってもよい。
【0028】
筒体102は弾性を有する材質によって形成されている。また使用環境に合わせた耐熱性および耐候性を備えていればよい。具体例としてはEPDM(エチレンプロピレンゴム)、シリコンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴムなどを用いることができる。中でも安価で成形性に優れたEPDMを好適に用いることができる。
【0029】
そして図2(b)、図2(c)に示すように、筒体102の内径は対象とするボルト頭21やナット30の最大径よりも小さく形成されている。最大径とは、ボルト頭21やナット30が多角形(六角形、四角形、八角形など)をしている場合にはその稜線に接する円の直径をいう。
【0030】
すなわち、ボルト頭21やナット30を保持させる際には、筒体102の弾性を利用してこれを伸張(または多角形を挿入することによる曲げ変形)させて圧入する。すると筒体102がその弾性により収縮し、内包したボルト頭21の側面21aまたはナット30の側面30aを挟持して保持することができる。このように筒体102によってボルト頭21またはナット30を保持する構成であるため、これらのネジ部(雄ネジ部22または雌ネジ部31)が筒体102の開口端104に露出した状態(露出した姿勢)で保持することができる。
【0031】
フランジ110の高さや幅に制限はないが、フランジ110の内径がボルト頭21やナット30の最大径よりも小さければよい。このようなフランジ110を設けることにより、必ずしも筒体102が収縮によってボルト頭21またはナット30の側面を挟持しなくとも、フランジ110が係止することにより脱落を防止し、これらを保持することができる。
【0032】
なお本実施形態では、筒体102の収縮による挟持とフランジ110による係止とをあわせることにより、より確実に保持することを可能としている。なおフランジ110は、筒体102の内周面の全周に設けてもよいが、一部または断続的に数カ所に設けることでもよい。一部にでも係止すれば落下を防止できるからである。
【0033】
また図2に示すように、フランジ110は筒体102の開口端104近傍に配置している。これにより、ボルト頭21やナット30を内包させるための長さを有効に確保することができ、筒体の長さを可能な限り短くすることができる。
【0034】
図3は筒体に形成した切込を説明する図である。図3(a)に示すように、筒体102の開口端104は切込112によってたわみやすくなり、ボルト頭21またはナット30を保持部100に圧入しやすくなる。
【0035】
また保持するものがボルト20であれば雄ネジ部22が筒体102から大きく突出するが、ナット30である場合には保持部100の内部に埋もれた状態で収容されてしまうため、取り出しにくいおそれがある。かかる場合にも、切込112を有していれば図3(b)に示すように筒体102を大きく開くことができ、ナット30を側面30aから露出させることができるため、容易に取り出すことが可能となる。
【0036】
吊着部200は、図1に示すように保持部100を作業員の体や周囲の構造物に連結するための索体であって、本実施形態では両端にループを形成したワイヤーによって構成している。吊着部200の一端は保持部100に取り付けた回転継手108に接続し、他端はコイルストラップ40のリング41に取り付けている。索体としてはワイヤーのほか、紐やベルト、鎖などを用いることができる。
【0037】
コイルストラップ40は、吊着部200を取り付けるリング41をコイルワイヤー42の一端に取り付け、他端にナスカン43を取り付けている。本実施形態においてリング41には2つの落下防止具10を接続し、一対の落下防止具10にそれぞれボルト20とナット30とを保持して、着脱作業を行う構成となっている。
【0038】
コイルワイヤー42を伸縮可能な構成とすることにより、作業員の可動範囲を拡大し、ボルト20とナットの着脱作業を容易にすることができる。コイルワイヤーの他には、繰り出し可能な巻き取り式のワイヤーなども好適に利用することができる。ナスカン43はこれに限定するものではなく、作業員の体(安全ベルト等)や周囲の構造物に取り付け可能であればよい。したがって例えばカラビナやフックなどのような掛止部としたり、ループを形成して作業員の手首などに取り付けたり、磁石を取り付けて鉄塔に貼着させることでもよい。
【0039】
なお本実施形態においては、落下防止具10の吊着部200をコイルストラップ40に接続し、コイルストラップ40を作業員等に取り付ける構成であることから、落下防止具10は間接的に作業員に取り付けているということができる。しかし吊着部200の先端(保持部100と反対側)を直接作業員等に取り付ける係止部などを設けてもいいことはいうまでもなく、直接的であるか間接的であるかに技術的な差異はない。
【0040】
上記構成の落下防止具10を用いた高所作業の手順について説明する。まずボルト20を取り付ける場合には、作業員はコイルストラップ40のナスカン43を自分の体のベルトなどに取り付け、一方の落下防止具10にボルト頭21を保持させ、他方の落下防止具10にナット30を保持させる。これにより、万が一作業員が保持部(ボルト20やナット30)を取り落としたとしても、ボルト20またはナット30は吊着部200によって吊下されるため、その落下を防ぐことができる。
【0041】
そしてボルト20を取り付けるべき場所に挿入し、その先端にナット30を螺合させる。このとき保持部100がボルト20またはナット30をネジ部(雄ネジ部22、雌ネジ部31)が露出した状態で保持していることにより、保持したままの状態でこれらを螺合させることができる。なお螺合は保持部100ごと回転させるが、回転継手108の作用によって円滑に回転させることができる。ボルト20とナット30とは、3山ほども螺合させれば、もはや脱落することはない。そして両方の保持部100を取り外し、レンチを用いてボルト20とナット30とを締め付けることにより、取り付ける作業を完了する。
【0042】
次にボルトを取り外す場合には、作業員はまずレンチを用いてボルト20とナット30とを緩め、雄ネジ部22先端がナット30に入り込む程度の位置まで回転させる。そしてボルト頭21とナット30とに2つの落下防止具10の保持部100を取り付け、保持部100ごと回転させて分離させる。そして工具袋の中において保持部100からボルト20またはナット30を取り出して、取り外す作業を完了する。
【0043】
上記説明した如く、ボルト20とナット30とは常に何らかの形で保持されており、手を離しても落下する場合がない。これらのことから、落下を確実に防止することができる。
[第1実施形態の他の構成例]
【0044】
上記第1実施形態においては、筒体102は単一のサイズのボルトまたはナットを保持する構成として説明した。しかし、複数のサイズのボルト等を保持できるようにすれば、さらに利便性を増すことができる。
【0045】
図4は複数の内径を有する保持部の例を示す図である。図4に示す保持部100は、筒体120の開口端126側に配置された大径部122と、奥側に配置された小径部124とを有している。これにより、異なる複数のサイズのボルト頭21またはナット30を保持することが可能となる。なお大径部122と小径部124とは2段に限らず、奥側に行くほど小径となる3段以上の多段としてもよい。ただし段数を多くするほど筒体120の奥行きが深くなり、ボルト20の雄ネジ部22の長さが足りずに保持できなくなってしまうおそれがあるため、2段程度とすることが好適である。
【0046】
また図4に示すように筒体120が大径部122と小径部124とを有している場合には、それぞれの径の開口端126、128にフランジ130、132を設けることができる。これにより上記第1実施形態と同様に、各サイズのボルト頭21またはナット30をさらに確実に保持することが可能となる。
【0047】
図5は筒体の内周面に回転止めの滑り止めのラック部を設けた例を示す図である。上記した如く、保持部100がネジ頭21またはナット30を保持したままの状態で回転させることにより、これらを螺合させる。筒体102はネジ頭21などを挟持していることから滑りにくくはなっているが、さらに確実に回転力を伝えることが好ましい。
【0048】
そこで図5に示す筒体102は、内周面にボルト頭21またはナット30の側面の多角形の稜線と嵌合するラック部134を設けている。ラック部134は、例えば六角ボルトを対象とする場合であっても六角にする必要はなく、ある程度の細かなピッチで形成すれば足りる。これにより、作業員が保持部100を把持して回転させたとき、保持部100とボルト頭21またはナット30とが滑ることなく、容易に螺合させることが可能となる。
【0049】
図6は硬質材料からなる筒体140の例を示す図である。上記第1実施形態においては、筒体102は弾性を有するものであると説明した。しかし保持部は、ボルト20またはナット30をネジ部(雄ネジ部22、雌ネジ部31)が露出した状態で保持できればよい。
【0050】
そこで図6に示す筒体140は軸方向に沿って分割されており、開口端142と反対側にヒンジ部144を有して開閉可能に構成されている。そしてヒンジ部144にはトーションバネ146が設けられており、筒体140を閉じる方向に付勢している。このように構成することにより、筒体140が開いてネジ頭21またはナット30を挿入することができ、またトーションバネ146の付勢力によって挟持して保持することができる。
【0051】
図7は保持部に連結された索体を作業員の体に連結するための他の構成を示す図である。上記第1実施形態においては、索体である吊着部200はコイルストラップ40のリング41に取り付け、コイルストラップのナスカン43を作業員の体(例えば安全ベルト)に連結すると説明した。
【0052】
これに対し図7においては、吊着部200は作業員の手首に取り付けるためのリストバンド300に接続されている。リストバンド300は面ファスナ302を備え、作業員の手首を巻回させた状態で固定可能に構成されている。このように構成したことにより吊着部200を短くすることができ、作業員の取り回しが向上する。また、万が一作業員が保持部100を取り落としたとしても保持部100は手に近いところに吊下されるため、作業の続行を容易にすることができる。
【0053】
[第2実施形態]
本発明に係る落下防止具の第2実施形態について説明する。図8は第2実施形態に係る落下防止具の保持部の4面図および断面図、図9は保持部の斜視図であって、上記第1実施形態と説明の重複する部分については同一の符号を付して説明を省略する。上記第1実施形態に対し、第2実施形態は落下防止具のうち差異を有する保持部のみについて説明する。
【0054】
図8および図9に示すように、本実施形態に係る保持部150は、切込112の開口端104とは反対側の端部に、円孔部114を設けている。円孔部114の径は切込112の幅よりも広く形成しており、換言すれば切込112の幅が端部において広がった構成となっている。これは、形状の先鋭部には応力集中が発生するために切込112の最奥部にて亀裂が成長しやすいところ、円孔部114を設けることにより極端な先鋭部が形成されることを回避するものである。これにより、ボルトまたはナットの着脱のために幾度も切込を開いたとしても、切込の進行を防止することができる。
【0055】
また切込112の開口端104とは反対側の端部に、筒体102の肉厚を増加させた厚肉部116を形成している。厚肉部116は、断面図からわかるように、筒体102の外側に向かって肉厚が厚くなるように形成している。したがって筒体102の内側には段差がなく、ボルト20の頭21やナット30を挿抜する際にこれを阻害することがない。また厚肉部116は、筒体102の外周に沿って帯状に形成されており、かつ全周を取り囲むように環状に形成されている。したがって厚肉部116は、円孔部114に隣接した状態となっている。
【0056】
上記のように、切込112の端部に厚肉部116を設けたことにより、切込が進行しようとするとき、筒体の壁面の肉厚が厚ければ裂けにくくなるため、切込の進行を防止することができる。すなわち、円孔部114によって切込の進行を効果的に防止しうると共に、厚肉部116によってさらに確実に切込の進行を防止することができる。
【0057】
また特に、厚肉部116によって筒体102の全周を取り囲むように環状に形成したことにより、ボルト20の頭21またはナット30を保持する保持力を増加させることができる。筒体102の内径がボルト20またはナット30の多角柱の最外径よりも小さく、圧入することを前提として、ボルト20またはナット30を挿入すると筒体102は変形する。このとき厚肉部116があることによって、厚肉部116は厚みが薄い部分よりも伸縮しにくくなり、筒体102の剛性(曲げ剛性)が高くなる。したがってボルト20またはナット30を挿入した際にきつく締め付けるため、環状の厚肉部116によって保持力が増大し、大きくて重いボルト20であっても滑落を防止することができる。
【0058】
このとき、厚肉部116は厚くするほど保持力が増大するが、その幅(厚肉部116における筒体102の軸方向の幅)を狭くすることによって保持力を減少させることができ、適切な保持力を設定(調節)することが可能である。
【0059】
すなわち、切込112の進行を防止するためには厚肉部116が厚いほど効果的であり、また筒体102の径方向の剛性が高くなって保持力が増大するという効果も奏する。しかし極端に剛性が高くなると、ボルト20またはナット30を挿入しにくくなってしまう。そこで環状(帯状)に形成した厚肉部116の幅を狭めることにより、径方向の剛性を弱めることができる。すなわち、環状の厚肉部116の厚みと幅によって、切込112の進行防止と、適切かつ高い保持力とを両立させることが可能となる。
【0060】
[第2実施形態の他の構成例]
図10は保持部150の他の構成例を説明する図である。上記第2実施形態においては、切込112の端部に、円孔部114と、環状の厚肉部116の両方を設けるよう説明した。そして上記説明したように、円孔部114によって切込の進行を効果的に防止しうると共に、厚肉部116によってさらに確実に切込の進行を防止し、かつ適切かつ高い保持力を得ることができる。しかし、円孔部114または厚肉部116のいずれか一方を設けるだけでもその効果を奏することができる。
【0061】
図10(a)に示す保持部152は、切込112の開口端104とは反対側の端部に、円孔部114のみを配置した例である。これにより、切込112の進行を防止することができる。
【0062】
図10(b)は、切込112の開口端104とは反対側の端部のみに、厚肉部116aを設けた例である。図では円孔部114を設けているためにこれを取り囲むように厚肉部116aを設けているが、円孔部114を設けない場合には単に切込112の端部を取り囲むように配置すればよい。このように筒体102の一部の肉厚を厚くすれば、筒体102の開口端104を開いたときに他の薄い部分がより多く屈曲するため、切込112の端部の変形(開きの程度)を少なくすることができ、応力集中を減少させることができる。
【0063】
図10(c)は、切込112の開口端104とは反対側の端部に、厚肉部116のみを設けた例である。これにより、上述の如く、切込112の進行防止と保持力の増大を図ることができる。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0065】
例えば、上記説明および図面においては六角ボルトおよび六角ナットを説明に用いているが、四角ボルトや八角ボルト、六角穴ボルトなども対象とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、主として高所作業におけるボルトまたはナットの落下防止具として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】落下防止具の全体構成を説明する図である。
【図2】保持部を説明する図である。
【図3】は筒体に形成した切込を説明する図である。
【図4】複数の内径を有する保持部の例を示す図である。
【図5】筒体の内周面に回転止めの滑り止めのラック部を設けた例を示す図である。
【図6】硬質材料からなる筒体の例を示す図である。
【図7】保持部に連結された索体を作業員の体に連結するための他の構成を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る落下防止具の保持部の4面図および断面図である。
【図9】第2実施形態に係る落下防止具の保持部の斜視図である。
【図10】第2実施形態に係る保持部の他の構成例を説明する図である。
【符号の説明】
【0068】
10…落下防止具、20…ボルト、21…頭、21a…側面、22…雄ネジ部、30…ナット、30a…側面、31…雌ネジ部、40…コイルストラップ、41…リング、42…コイルワイヤー、43…ナスカン、100…保持部、102…筒体、104…開口端、106…壁面、108…回転継手、110…フランジ、112…切込、120…筒体、122…大径部、124…小径部、126…開口端、128…開口端、130…フランジ、132…フランジ、134…ラック部、140…筒体、142…開口端、144…ヒンジ部、146…トーションバネ、200…吊着部、300…リストバンド
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として高所作業においてボルトまたはナットの落下を防止するための落下防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔及び構造物の組立作業や補修作業、電柱の装柱の着脱作業などのように高所で作業する場合には、ボルトやナット、部材などの資材を落下させてしまうと、部材等の損傷や遺失を招き、また下方にある建築物や構造物、車輌に損傷を与えるおそれがある。特に鉄塔や電柱において作業をする場合、厚い絶縁手袋を着用して作業する場合が多い。するとボルトやナットのような小さなものは把持しにくく、取り落としてしまう可能性もある。
【0003】
施工用地に余裕があれば、資材の落下が想定される範囲に作業区画を設定し、下方に何もない状態とすることにより、資材が落下しても支障がない状態にできる場合もある。しかし必ずしも十分な作業区画を確保できるとは限らず、また物置などの構造物は容易には動かすことができない。そのため、そもそも落下させないための落下防止対策が必要となる。
【0004】
現状において多く実施されている落下防止対策として、作業位置の直下に収納用の工具袋を設置(吊下)し、万が一資材を落下させた場合には工具袋内に落下するようにしている。また鉄塔などの躯体に槍出しの支柱を設け、この支柱に網を張った落下防止網を使用することも行われている。
【0005】
また特許文献1(特開2005−287168)には、ボルトのネジ山を挟み込んでボルトを保持する挟持体を備え、ナットを交換する際にボルトに装着してボルトの落下を防止する落下防止金具が開示されている。特許文献1によれば、ボルトの抜け落ちに起因する電線の落下を防止し、腐蝕したナットの交換を容易に行うことができるとしている。
【特許文献1】特開2005−287168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上記従来の落下防止対策において、工具袋を用いる場合には、作業位置は頻繁に変わるため、そのたびに工具袋を設置し直す作業がわずらわしいという問題がある。また工具袋を設置しようとした場合に、高所では設置できる場所が極めて限られるため、作業位置の直下に設置できない場合もある。さらには、風にあおられて工具袋が安定しない場合もあり、かならずしも落下資材を捕集できるとは限らない。また落下防止対策として槍出しの落下防止網を用いる場合、落下した資材が網で跳ねて外部に飛び出してしまう場合があり、捕集の確実性は必ずしも高くない。また、作業箇所の四方を網で囲う方法もあるが、コストと手間がかかるという問題がある。
【0007】
特許文献1に記載の構成はボルトの抜け落ちには有効である。しかし、ボルトやナットを着脱するときにこれを保持することはできず、これらを取り落とした場合に落下を防止することはできない。
【0008】
そこで本発明は、ボルトやナットを保持し、かつ保持した状態でこれらを螺合させることを可能とすることにより、落下を確実に防止することのできる落下防止具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる落下防止具の代表的な構成は、ボルトまたはナットを保持する保持部と、保持部に接続され保持部を吊下しうる吊着部とを備え、保持部は、一端が開口した筒体を有し、ボルトまたはナットを筒体で保持することを特徴とする。特に筒体は、ボルトまたはナットをそのネジ部が筒体の開口端に露出した状態で保持することが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、保持部によってボルトまたはナットを保持し、吊着部を作業員の体や周囲の構造物に連結することにより、万が一作業員が保持部を取り落としたとしても、ボルトまたはナットは吊下されるため、その落下を防ぐことができる。そして保持部がボルトまたはナットをネジ部が露出した状態で保持していることにより、保持したままの状態でこれらを螺合させることができる。従って、本発明にかかる落下防止具を2つ用いて、一方の落下防止具にはボルトを保持させ、他方の落下防止具にはナットを保持させた状態である程度まで螺合させることにより、常にボルトとナットとは何らかの形で保持されており、落下する場合がない。これらのことから、落下を確実に防止することができる。
【0011】
保持部は弾性を有し、伸張してボルトまたはナットを内包し、収縮してこれらを保持するよう構成してもよい。換言すれば、ボルトまたはナットを保持部に圧入することによって保持させることにより、吊下しても脱落することなく保持することができる。
【0012】
保持部は、筒体の開口端から筒体の軸心方向に延びる切込を有していてもよい。これにより、保持部の開口端近傍がたわみやすくなり、ボルトまたはナットを保持部に圧入しやすくなる。また保持するものがボルトであれば雄ネジ部が保持部から大きく突出するが、ナットである場合には保持部の内部に埋もれた状態で収容されてしまうため、取り出しにくいおそれがある。かかる場合にも、切込を有していれば筒体を大きく開くことができ、ナットを側面から露出させることができるため、容易に取り出すことが可能となる。
【0013】
また保持部は筒体をその軸方向に沿って分割し、筒体を弾性部材によって閉じる方向に付勢して構成してもよい。保持部の筒体が弾性を有していない場合であっても、筒体が開閉し、弾性部材の付勢力によって挟持することにより、吊下しても脱落することなく保持することができる。
【0014】
保持部は、筒体の開口端側に配置された大径部と、奥側に配置された小径部とを有していてもよい。これにより、異なる複数のサイズのボルトまたはナットを保持することが可能となる。なお大径部と小径部とは2段に限らず、奥側に行くほど小径となる多段としてもよい。
【0015】
保持部は、筒体の内周面に内側に向かって立設したフランジを有していてもよい。これにより、必ずしも筒体が収縮または付勢によってボルトまたはナットの側面を挟持しなくとも、フランジが係止することにより、これらを保持することができる。なお、収縮または挟持とフランジによる係止とをあわせることにより、より確実に保持することが可能となる。フランジは、筒体の内周面の全周に設けてもよいが、一部または断続的に数カ所に設けることでもよい。一部にでも係止すれば落下を防止できるからである。
【0016】
またフランジは、特に開口端近傍に設けるとよい。これにより筒体の長さを可能な限り短くすることができる。筒体が大径部と小径部とを有している場合には、それぞれの径の開口側端部に設けるとよい。これにより各サイズのボルトまたはナットをそれぞれ確実に保持することが可能となる。
【0017】
筒体の内周面にボルトまたはナットの側面の多角形の稜線と嵌合するラック部を設けてもよい。これにより、作業員が保持部を把持して回転させたとき、保持部とボルトまたはナットとが滑ることなく、容易に螺合させることが可能となる。
【0018】
吊着部は、保持部に対して回転可能に接続されていることが好ましい。これにより、作業員が保持部を回転させてボルトとナットとを螺合させる際に、吊着部がその回転の支障となることを防止することができる。
【0019】
切込の開口端とは反対側の端部に、円孔部を設けることが好ましい。これにより、ボルトまたはナットの着脱のために幾度も切込を開いたとしても、切込の進行を防止することができる。
【0020】
切込の開口端とは反対側の端部に、筒体の肉厚を増加させた厚肉部を形成してもよい。切込が進行しようとするとき、筒体の壁面の肉厚が厚ければ裂けにくくなるため、切込の進行を防止することができる。
【0021】
厚肉部は、筒体の外周に沿って環状(帯状)に形成されていることが好ましい。これにより切込の進行を防止するのみならず、ボルトの頭またはナットを保持する保持力を増加させることができる。
【0022】
さらに、切込の端部に円孔部を設け、かつ円孔部に隣接して筒体の外周に沿う環状の厚肉部を設けることが好ましい。円孔部によって切込の進行を効果的に防止しうると共に、厚肉部によってさらに確実に切込の進行を防止し、かつ適切かつ高い保持力を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる落下防止具によれば、ボルトやナットを保持し、かつ保持した状態で螺合させることを可能としたことにより、これらの落下を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1実施形態]
本発明にかかる落下防止具の第1実施形態について説明する。なお、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0025】
図1は落下防止具の全体構成を説明する図である。図に示す落下防止具10は、ボルト20の頭21またはナット30を保持する保持部100と、保持部100を吊下しうる吊着部200とから構成されている。また本実施形態においては2つの落下防止具10をコイルストラップ40にまとめて接続している。
【0026】
図2は保持部100を説明する図であって、図2(a)は保持部の部分断面図、図2(b)はボルト頭21を保持した状態を示す図、図2(c)はナットを収納した状態を示す図である。
【0027】
図2(a)に示すように、保持部100は一端が開口した筒体102を有し、開口端104と反対側の壁面106に吊着部200を回転可能に接続するための回転継手108を有している。筒体102の内周面には、内側に向かって立設したフランジ110を有している。また筒体102には、開口端104から筒体102の軸心方向に延びる切込112を有している。なお筒体102の形状としては図示のようなキャップ型のほか、釣鐘型であってもよい。
【0028】
筒体102は弾性を有する材質によって形成されている。また使用環境に合わせた耐熱性および耐候性を備えていればよい。具体例としてはEPDM(エチレンプロピレンゴム)、シリコンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴムなどを用いることができる。中でも安価で成形性に優れたEPDMを好適に用いることができる。
【0029】
そして図2(b)、図2(c)に示すように、筒体102の内径は対象とするボルト頭21やナット30の最大径よりも小さく形成されている。最大径とは、ボルト頭21やナット30が多角形(六角形、四角形、八角形など)をしている場合にはその稜線に接する円の直径をいう。
【0030】
すなわち、ボルト頭21やナット30を保持させる際には、筒体102の弾性を利用してこれを伸張(または多角形を挿入することによる曲げ変形)させて圧入する。すると筒体102がその弾性により収縮し、内包したボルト頭21の側面21aまたはナット30の側面30aを挟持して保持することができる。このように筒体102によってボルト頭21またはナット30を保持する構成であるため、これらのネジ部(雄ネジ部22または雌ネジ部31)が筒体102の開口端104に露出した状態(露出した姿勢)で保持することができる。
【0031】
フランジ110の高さや幅に制限はないが、フランジ110の内径がボルト頭21やナット30の最大径よりも小さければよい。このようなフランジ110を設けることにより、必ずしも筒体102が収縮によってボルト頭21またはナット30の側面を挟持しなくとも、フランジ110が係止することにより脱落を防止し、これらを保持することができる。
【0032】
なお本実施形態では、筒体102の収縮による挟持とフランジ110による係止とをあわせることにより、より確実に保持することを可能としている。なおフランジ110は、筒体102の内周面の全周に設けてもよいが、一部または断続的に数カ所に設けることでもよい。一部にでも係止すれば落下を防止できるからである。
【0033】
また図2に示すように、フランジ110は筒体102の開口端104近傍に配置している。これにより、ボルト頭21やナット30を内包させるための長さを有効に確保することができ、筒体の長さを可能な限り短くすることができる。
【0034】
図3は筒体に形成した切込を説明する図である。図3(a)に示すように、筒体102の開口端104は切込112によってたわみやすくなり、ボルト頭21またはナット30を保持部100に圧入しやすくなる。
【0035】
また保持するものがボルト20であれば雄ネジ部22が筒体102から大きく突出するが、ナット30である場合には保持部100の内部に埋もれた状態で収容されてしまうため、取り出しにくいおそれがある。かかる場合にも、切込112を有していれば図3(b)に示すように筒体102を大きく開くことができ、ナット30を側面30aから露出させることができるため、容易に取り出すことが可能となる。
【0036】
吊着部200は、図1に示すように保持部100を作業員の体や周囲の構造物に連結するための索体であって、本実施形態では両端にループを形成したワイヤーによって構成している。吊着部200の一端は保持部100に取り付けた回転継手108に接続し、他端はコイルストラップ40のリング41に取り付けている。索体としてはワイヤーのほか、紐やベルト、鎖などを用いることができる。
【0037】
コイルストラップ40は、吊着部200を取り付けるリング41をコイルワイヤー42の一端に取り付け、他端にナスカン43を取り付けている。本実施形態においてリング41には2つの落下防止具10を接続し、一対の落下防止具10にそれぞれボルト20とナット30とを保持して、着脱作業を行う構成となっている。
【0038】
コイルワイヤー42を伸縮可能な構成とすることにより、作業員の可動範囲を拡大し、ボルト20とナットの着脱作業を容易にすることができる。コイルワイヤーの他には、繰り出し可能な巻き取り式のワイヤーなども好適に利用することができる。ナスカン43はこれに限定するものではなく、作業員の体(安全ベルト等)や周囲の構造物に取り付け可能であればよい。したがって例えばカラビナやフックなどのような掛止部としたり、ループを形成して作業員の手首などに取り付けたり、磁石を取り付けて鉄塔に貼着させることでもよい。
【0039】
なお本実施形態においては、落下防止具10の吊着部200をコイルストラップ40に接続し、コイルストラップ40を作業員等に取り付ける構成であることから、落下防止具10は間接的に作業員に取り付けているということができる。しかし吊着部200の先端(保持部100と反対側)を直接作業員等に取り付ける係止部などを設けてもいいことはいうまでもなく、直接的であるか間接的であるかに技術的な差異はない。
【0040】
上記構成の落下防止具10を用いた高所作業の手順について説明する。まずボルト20を取り付ける場合には、作業員はコイルストラップ40のナスカン43を自分の体のベルトなどに取り付け、一方の落下防止具10にボルト頭21を保持させ、他方の落下防止具10にナット30を保持させる。これにより、万が一作業員が保持部(ボルト20やナット30)を取り落としたとしても、ボルト20またはナット30は吊着部200によって吊下されるため、その落下を防ぐことができる。
【0041】
そしてボルト20を取り付けるべき場所に挿入し、その先端にナット30を螺合させる。このとき保持部100がボルト20またはナット30をネジ部(雄ネジ部22、雌ネジ部31)が露出した状態で保持していることにより、保持したままの状態でこれらを螺合させることができる。なお螺合は保持部100ごと回転させるが、回転継手108の作用によって円滑に回転させることができる。ボルト20とナット30とは、3山ほども螺合させれば、もはや脱落することはない。そして両方の保持部100を取り外し、レンチを用いてボルト20とナット30とを締め付けることにより、取り付ける作業を完了する。
【0042】
次にボルトを取り外す場合には、作業員はまずレンチを用いてボルト20とナット30とを緩め、雄ネジ部22先端がナット30に入り込む程度の位置まで回転させる。そしてボルト頭21とナット30とに2つの落下防止具10の保持部100を取り付け、保持部100ごと回転させて分離させる。そして工具袋の中において保持部100からボルト20またはナット30を取り出して、取り外す作業を完了する。
【0043】
上記説明した如く、ボルト20とナット30とは常に何らかの形で保持されており、手を離しても落下する場合がない。これらのことから、落下を確実に防止することができる。
[第1実施形態の他の構成例]
【0044】
上記第1実施形態においては、筒体102は単一のサイズのボルトまたはナットを保持する構成として説明した。しかし、複数のサイズのボルト等を保持できるようにすれば、さらに利便性を増すことができる。
【0045】
図4は複数の内径を有する保持部の例を示す図である。図4に示す保持部100は、筒体120の開口端126側に配置された大径部122と、奥側に配置された小径部124とを有している。これにより、異なる複数のサイズのボルト頭21またはナット30を保持することが可能となる。なお大径部122と小径部124とは2段に限らず、奥側に行くほど小径となる3段以上の多段としてもよい。ただし段数を多くするほど筒体120の奥行きが深くなり、ボルト20の雄ネジ部22の長さが足りずに保持できなくなってしまうおそれがあるため、2段程度とすることが好適である。
【0046】
また図4に示すように筒体120が大径部122と小径部124とを有している場合には、それぞれの径の開口端126、128にフランジ130、132を設けることができる。これにより上記第1実施形態と同様に、各サイズのボルト頭21またはナット30をさらに確実に保持することが可能となる。
【0047】
図5は筒体の内周面に回転止めの滑り止めのラック部を設けた例を示す図である。上記した如く、保持部100がネジ頭21またはナット30を保持したままの状態で回転させることにより、これらを螺合させる。筒体102はネジ頭21などを挟持していることから滑りにくくはなっているが、さらに確実に回転力を伝えることが好ましい。
【0048】
そこで図5に示す筒体102は、内周面にボルト頭21またはナット30の側面の多角形の稜線と嵌合するラック部134を設けている。ラック部134は、例えば六角ボルトを対象とする場合であっても六角にする必要はなく、ある程度の細かなピッチで形成すれば足りる。これにより、作業員が保持部100を把持して回転させたとき、保持部100とボルト頭21またはナット30とが滑ることなく、容易に螺合させることが可能となる。
【0049】
図6は硬質材料からなる筒体140の例を示す図である。上記第1実施形態においては、筒体102は弾性を有するものであると説明した。しかし保持部は、ボルト20またはナット30をネジ部(雄ネジ部22、雌ネジ部31)が露出した状態で保持できればよい。
【0050】
そこで図6に示す筒体140は軸方向に沿って分割されており、開口端142と反対側にヒンジ部144を有して開閉可能に構成されている。そしてヒンジ部144にはトーションバネ146が設けられており、筒体140を閉じる方向に付勢している。このように構成することにより、筒体140が開いてネジ頭21またはナット30を挿入することができ、またトーションバネ146の付勢力によって挟持して保持することができる。
【0051】
図7は保持部に連結された索体を作業員の体に連結するための他の構成を示す図である。上記第1実施形態においては、索体である吊着部200はコイルストラップ40のリング41に取り付け、コイルストラップのナスカン43を作業員の体(例えば安全ベルト)に連結すると説明した。
【0052】
これに対し図7においては、吊着部200は作業員の手首に取り付けるためのリストバンド300に接続されている。リストバンド300は面ファスナ302を備え、作業員の手首を巻回させた状態で固定可能に構成されている。このように構成したことにより吊着部200を短くすることができ、作業員の取り回しが向上する。また、万が一作業員が保持部100を取り落としたとしても保持部100は手に近いところに吊下されるため、作業の続行を容易にすることができる。
【0053】
[第2実施形態]
本発明に係る落下防止具の第2実施形態について説明する。図8は第2実施形態に係る落下防止具の保持部の4面図および断面図、図9は保持部の斜視図であって、上記第1実施形態と説明の重複する部分については同一の符号を付して説明を省略する。上記第1実施形態に対し、第2実施形態は落下防止具のうち差異を有する保持部のみについて説明する。
【0054】
図8および図9に示すように、本実施形態に係る保持部150は、切込112の開口端104とは反対側の端部に、円孔部114を設けている。円孔部114の径は切込112の幅よりも広く形成しており、換言すれば切込112の幅が端部において広がった構成となっている。これは、形状の先鋭部には応力集中が発生するために切込112の最奥部にて亀裂が成長しやすいところ、円孔部114を設けることにより極端な先鋭部が形成されることを回避するものである。これにより、ボルトまたはナットの着脱のために幾度も切込を開いたとしても、切込の進行を防止することができる。
【0055】
また切込112の開口端104とは反対側の端部に、筒体102の肉厚を増加させた厚肉部116を形成している。厚肉部116は、断面図からわかるように、筒体102の外側に向かって肉厚が厚くなるように形成している。したがって筒体102の内側には段差がなく、ボルト20の頭21やナット30を挿抜する際にこれを阻害することがない。また厚肉部116は、筒体102の外周に沿って帯状に形成されており、かつ全周を取り囲むように環状に形成されている。したがって厚肉部116は、円孔部114に隣接した状態となっている。
【0056】
上記のように、切込112の端部に厚肉部116を設けたことにより、切込が進行しようとするとき、筒体の壁面の肉厚が厚ければ裂けにくくなるため、切込の進行を防止することができる。すなわち、円孔部114によって切込の進行を効果的に防止しうると共に、厚肉部116によってさらに確実に切込の進行を防止することができる。
【0057】
また特に、厚肉部116によって筒体102の全周を取り囲むように環状に形成したことにより、ボルト20の頭21またはナット30を保持する保持力を増加させることができる。筒体102の内径がボルト20またはナット30の多角柱の最外径よりも小さく、圧入することを前提として、ボルト20またはナット30を挿入すると筒体102は変形する。このとき厚肉部116があることによって、厚肉部116は厚みが薄い部分よりも伸縮しにくくなり、筒体102の剛性(曲げ剛性)が高くなる。したがってボルト20またはナット30を挿入した際にきつく締め付けるため、環状の厚肉部116によって保持力が増大し、大きくて重いボルト20であっても滑落を防止することができる。
【0058】
このとき、厚肉部116は厚くするほど保持力が増大するが、その幅(厚肉部116における筒体102の軸方向の幅)を狭くすることによって保持力を減少させることができ、適切な保持力を設定(調節)することが可能である。
【0059】
すなわち、切込112の進行を防止するためには厚肉部116が厚いほど効果的であり、また筒体102の径方向の剛性が高くなって保持力が増大するという効果も奏する。しかし極端に剛性が高くなると、ボルト20またはナット30を挿入しにくくなってしまう。そこで環状(帯状)に形成した厚肉部116の幅を狭めることにより、径方向の剛性を弱めることができる。すなわち、環状の厚肉部116の厚みと幅によって、切込112の進行防止と、適切かつ高い保持力とを両立させることが可能となる。
【0060】
[第2実施形態の他の構成例]
図10は保持部150の他の構成例を説明する図である。上記第2実施形態においては、切込112の端部に、円孔部114と、環状の厚肉部116の両方を設けるよう説明した。そして上記説明したように、円孔部114によって切込の進行を効果的に防止しうると共に、厚肉部116によってさらに確実に切込の進行を防止し、かつ適切かつ高い保持力を得ることができる。しかし、円孔部114または厚肉部116のいずれか一方を設けるだけでもその効果を奏することができる。
【0061】
図10(a)に示す保持部152は、切込112の開口端104とは反対側の端部に、円孔部114のみを配置した例である。これにより、切込112の進行を防止することができる。
【0062】
図10(b)は、切込112の開口端104とは反対側の端部のみに、厚肉部116aを設けた例である。図では円孔部114を設けているためにこれを取り囲むように厚肉部116aを設けているが、円孔部114を設けない場合には単に切込112の端部を取り囲むように配置すればよい。このように筒体102の一部の肉厚を厚くすれば、筒体102の開口端104を開いたときに他の薄い部分がより多く屈曲するため、切込112の端部の変形(開きの程度)を少なくすることができ、応力集中を減少させることができる。
【0063】
図10(c)は、切込112の開口端104とは反対側の端部に、厚肉部116のみを設けた例である。これにより、上述の如く、切込112の進行防止と保持力の増大を図ることができる。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0065】
例えば、上記説明および図面においては六角ボルトおよび六角ナットを説明に用いているが、四角ボルトや八角ボルト、六角穴ボルトなども対象とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、主として高所作業におけるボルトまたはナットの落下防止具として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】落下防止具の全体構成を説明する図である。
【図2】保持部を説明する図である。
【図3】は筒体に形成した切込を説明する図である。
【図4】複数の内径を有する保持部の例を示す図である。
【図5】筒体の内周面に回転止めの滑り止めのラック部を設けた例を示す図である。
【図6】硬質材料からなる筒体の例を示す図である。
【図7】保持部に連結された索体を作業員の体に連結するための他の構成を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る落下防止具の保持部の4面図および断面図である。
【図9】第2実施形態に係る落下防止具の保持部の斜視図である。
【図10】第2実施形態に係る保持部の他の構成例を説明する図である。
【符号の説明】
【0068】
10…落下防止具、20…ボルト、21…頭、21a…側面、22…雄ネジ部、30…ナット、30a…側面、31…雌ネジ部、40…コイルストラップ、41…リング、42…コイルワイヤー、43…ナスカン、100…保持部、102…筒体、104…開口端、106…壁面、108…回転継手、110…フランジ、112…切込、120…筒体、122…大径部、124…小径部、126…開口端、128…開口端、130…フランジ、132…フランジ、134…ラック部、140…筒体、142…開口端、144…ヒンジ部、146…トーションバネ、200…吊着部、300…リストバンド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトまたはナットを保持する保持部と、
前記保持部に接続され該保持部を吊下しうる吊着部とを備え、
前記保持部は、一端が開口した筒体を有し、ボルトまたはナットを該筒体で保持することを特徴とする落下防止具。
【請求項2】
前記保持部は弾性を有し、伸張してボルトまたはナットを内包し、収縮してこれらを保持することを特徴とする請求項1記載の落下防止具。
【請求項3】
前記保持部は、前記筒体の開口端から該筒体の軸心方向に延びる切込を有することを特徴とする請求項2記載の落下防止具。
【請求項4】
前記保持部は、前記筒体の開口端側に配置された大径部と、奥側に配置された小径部とを有することを特徴とする請求項1記載の落下防止具。
【請求項5】
前記保持部は、前記筒体の内周面に内側に向かって立設したフランジを有することを特徴とする請求項1記載の落下防止具。
【請求項6】
前記吊着部は、前記保持部に対して回転可能に接続されていることを特徴とする請求項1記載の落下防止具。
【請求項7】
前記切込の前記開口端とは反対側の端部に円孔部を設けたことを特徴とする請求項3に記載の落下防止具。
【請求項8】
前記切込の前記開口端とは反対側の端部に、前記筒体の肉厚を増加させた厚肉部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の落下防止具。
【請求項9】
前記厚肉部は、前記筒体の外周に沿って環状に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の落下防止具。
【請求項1】
ボルトまたはナットを保持する保持部と、
前記保持部に接続され該保持部を吊下しうる吊着部とを備え、
前記保持部は、一端が開口した筒体を有し、ボルトまたはナットを該筒体で保持することを特徴とする落下防止具。
【請求項2】
前記保持部は弾性を有し、伸張してボルトまたはナットを内包し、収縮してこれらを保持することを特徴とする請求項1記載の落下防止具。
【請求項3】
前記保持部は、前記筒体の開口端から該筒体の軸心方向に延びる切込を有することを特徴とする請求項2記載の落下防止具。
【請求項4】
前記保持部は、前記筒体の開口端側に配置された大径部と、奥側に配置された小径部とを有することを特徴とする請求項1記載の落下防止具。
【請求項5】
前記保持部は、前記筒体の内周面に内側に向かって立設したフランジを有することを特徴とする請求項1記載の落下防止具。
【請求項6】
前記吊着部は、前記保持部に対して回転可能に接続されていることを特徴とする請求項1記載の落下防止具。
【請求項7】
前記切込の前記開口端とは反対側の端部に円孔部を設けたことを特徴とする請求項3に記載の落下防止具。
【請求項8】
前記切込の前記開口端とは反対側の端部に、前記筒体の肉厚を増加させた厚肉部を形成したことを特徴とする請求項3に記載の落下防止具。
【請求項9】
前記厚肉部は、前記筒体の外周に沿って環状に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の落下防止具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−25302(P2010−25302A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190636(P2008−190636)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 電気新聞 平成20年6月13日(金曜日) 発行所 日本電気協会新聞部 公開日 平成20年6月13日
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000223687)藤井電工株式会社 (60)
【出願人】(507270997)中央送電工事株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 電気新聞 平成20年6月13日(金曜日) 発行所 日本電気協会新聞部 公開日 平成20年6月13日
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000223687)藤井電工株式会社 (60)
【出願人】(507270997)中央送電工事株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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