説明

落体式血液粘度測定方法及び落体式血液粘度測定装置

【課題】採血管内の採取血液を移し替える操作を省略できて、血液を採取したのち非常に短い時間で血液の粘度測定を開始できる落体式血液粘度測定方法を提供する。
【解決手段】この発明の落体式血液粘度測定方法は、落体導入用貫通路20が形成されたニードル体4を、中に血液が採取された採血管3の密封栓23に貫通せしめる工程と、前記ニードル体4の落体導入用貫通路20を介して略針状落体2を前記採血管3内に導入して血液60中を落下させる工程と、前記採血管3内の血液60中を落下する略針状落体2の落下終端速度又は落下加速度を測定することにより血液60の粘度を求める工程とを包含することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、血液を採取したのち非常に短い時間で血液の粘度測定を開始することを可能ならしめる落体式血液粘度測定方法及び落体式血液粘度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の血液の粘度に関して非常に関心が高まっている。例えば、一般に「ドロドロ血液」では健康状態が良くない状態であるとされ、これを「サラサラ血液」にするために効果のある食品や成分の紹介が新聞やテレビ等で多く行われている。このような血液の粘度特性を把握することができれば、血液疾患の予測が可能になったり、病気を早期に発見することも可能になると言われている。
【0003】
従来、流体の粘度を測定する装置としては、流体を満たした円筒状測定容器内を落下する円柱状落体の落下終端速度を測定することにより流体の粘度を求める落体式粘度測定装置が公知である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−219973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記粘度測定装置を用いて血液の粘度を測定する際には、例えば、人等の動物の体から血液を採血管に採取した後、この採血管内の採取血液を粘度測定装置の測定容器内に移し替えて粘度測定を開始することになる。
【0005】
一般に、血液は、空気に触れると凝固作用によって徐々に凝固していくことから、通常の血液検査においては採取血液に抗凝固剤を添加している。この抗凝固剤の添加は、成分分析にはそれほど影響しないが、血液の状態を評価する粘度測定には大きく影響する。そのため、血液の粘度を測定するためには、抗凝固剤を添加せず、且つ血液の凝固が始まらないように血液を採取してから3分以内に粘度測定を完了するのが望ましい。いずれにせよ血液の粘度測定を精度高く行うためには、血液採取後できるだけ速やかに(短時間で)粘度測定を開始することが重要である。
【0006】
しかるに、上記粘度測定装置では、血液の粘度測定に際し、採血管内に採取した血液を粘度測定装置の測定容器内に移し替える操作を要するために、血液を採取してから3分を超えないまでも、粘度測定開始までに少なからず時間を要するものとなっていた。また、採取血液の測定容器内への移し替えの際に、採取血液の空気との接触機会が増大して血液凝固を促進させることも懸念されるところである。
【0007】
このような背景から、血液を採取してから粘度測定を開始するに至るまでの時間を短縮できる手段、方法の開発が求められていた。
【0008】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、採血管内の採取血液を移し替える操作を省略できて、血液を採取したのち非常に短い時間で血液の粘度測定を開始することのできる落体式血液粘度測定方法及び落体式血液粘度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]落体導入用貫通路が形成されたニードル体を、中に血液が採取された採血管の密封栓に貫通せしめる工程と、
前記ニードル体の落体導入用貫通路を介して略針状落体を前記採血管内に導入して血液中を落下させる工程と、
前記採血管内の血液中を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を測定することにより血液の粘度を求める工程とを包含することを特徴とする落体式血液粘度測定方法。
【0011】
[2]密度の異なる複数の略針状落体をそれぞれ落下させて各落体毎に落下終端速度又は落下加速度を測定する前項1に記載の落体式血液粘度測定方法。
【0012】
[3]所定温度に制御された液体が循環供給される恒温槽内に前記採血管を配置せしめた状態で前記落体を落下させて測定を行う前項1または2に記載の落体式血液粘度測定方法。
【0013】
[4]前記略針状落体として、密度1.0g/cm3以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体を用いる前項1〜3のいずれか1項に記載の落体式血液粘度測定方法。
【0014】
[5]前記略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂である前項4に記載の落体式血液粘度測定方法。
【0015】
[6]略針状落体と、密封栓によって密栓されてなる採血管と、前記略針状落体の通過を許容する落体導入用貫通路が形成されたニードル体であって、前記採血管の密封栓に対して貫通状態に刺入されるニードル体と、前記採血管内を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を検出する検出手段とを備えることを特徴とする落体式血液粘度測定装置。
【0016】
[7]密度の異なる複数の略針状落体と、密封栓によって密栓されてなる採血管と、前記略針状落体の通過を許容する落体導入用貫通路が形成されたニードル体であって、前記採血管の密封栓に対して貫通状態に刺入されるニードル体と、前記採血管内を落下する各略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を検出する検出手段とを備えることを特徴とする落体式血液粘度測定装置。
【0017】
[8]所定温度に制御された液体が循環供給される恒温槽をさらに備える前項6または7に記載の落体式血液粘度測定装置。
【0018】
[9]前記検出手段は、前記恒温槽に固定されている前項8に記載の落体式血液粘度測定装置。
【0019】
[10]前記ニードル体は、取付基体に貫通した状態で該取付基体に固定されている前項6〜9のいずれか1項に記載の落体式血液粘度測定装置。
【0020】
[11]前記略針状落体は、密度1.0g/cm3以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体からなる前項6〜10のいずれか1項に記載の落体式血液粘度測定装置。
【0021】
[12]前記略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂である前項11に記載の落体式血液粘度測定装置。
【発明の効果】
【0022】
[1]の発明では、内部に落体導入用貫通路が形成されたニードル体を、血液の入った採血管の密封栓に貫通せしめて該ニードル体の落体導入用貫通路を介して略針状落体を採血管内に導入するだけで粘度測定を開始することができ、血液の粘度測定に際し従来技術のように採血管内の採取血液を粘度測定装置の測定容器内に移し替える操作をする必要がないので、この血液粘度測定方法を用いれば、血液を採取したのち非常に短時間で(速やかに)血液の粘度測定を開始することができる。従って、この発明の血液粘度測定方法を用いれば、血液の粘度測定を精度高く行うことが可能となる。
【0023】
[2]の発明では、密度の異なる複数の略針状落体をそれぞれ落下させて各落体毎に落下終端速度又は落下加速度を測定して血液粘度を求めるから、血液の粘度測定をより精度高く行うことができる。
【0024】
[3]の発明では、所定温度に制御された液体が循環供給される恒温槽内に採血管を配置せしめた状態で落体を落下させて測定を行うので、一定の温度条件の中での血液の粘度測定が可能になる。
【0025】
[4]の発明では、略針状落体として、密度1.0g/cm3以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体を用いるので、略針状落体の表面に血液がこびり付くことがなく、従って血液の粘度測定を精度高く行うことができる。
【0026】
[5]の発明では、略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂であるので、落体の表面への血液のこびり付きを確実に防止することができ、これにより血液の粘度測定の精度をさらに向上させることができる。
【0027】
[6][7]の発明では、内部に落体導入用貫通路が形成されたニードル体を、血液の入った採血管の密封栓に貫通せしめて該ニードル体の落体導入用貫通路を介して略針状落体を採血管内に導入するだけで粘度測定を開始することができ、血液の粘度測定に際し従来技術のように採血管内の採取血液を粘度測定装置の測定容器内に移し替える操作をする必要がないので、この落体式血液粘度測定装置を用いれば、血液を採取したのち非常に短時間で(速やかに)血液の粘度測定を開始することができる。従って、この発明の落体式血液粘度測定装置を用いれば、血液の粘度測定を精度高く行うことが可能となる。更に[7]の発明では、密度の異なる複数の略針状落体を用いて測定できるので、血液の粘度測定をより精度高く行うことができる。
【0028】
[8]の発明では、所定温度に制御された液体が循環供給される恒温槽をさらに備えるから、一定の温度条件の中での血液の粘度測定が可能になる。
【0029】
[9]の発明では、検出手段は恒温槽に固定されているから、装置の小型化を図り得ると共により精度の高い粘度測定を行い得る。
【0030】
[10]の発明では、ニードル体は、取付基体に貫通した状態で該取付基体に固定されているから、ニードル体を採血管の密封栓に貫通せしめる際の貫通操作が非常に容易化される。
【0031】
[11]の発明では、略針状落体は、密度1.0g/cm3以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体からなるので、略針状落体の表面に血液がこびり付くことがなく、従って血液の粘度測定を精度高く行うことができる。
【0032】
[12]の発明では、略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂であるので、落体の表面への血液のこびり付きを確実に防止することができ、これにより血液の粘度測定の精度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
この発明に係る落体式血液粘度測定方法で用いる落体式血液粘度測定装置(1)の一実施形態を図1に示す。この落体式血液粘度測定装置(1)は、略針状落体(2)、採血管(3)、ニードル体(4)、検出手段(5)及び恒温槽(6)を備えてなる。
【0034】
前記採血管(3)は、図1に示すように、合成樹脂からなる有底管体(22)の上端開口部が弾性体からなる密封栓(23)によって密栓されたものからなる。前記密栓された有底管体(22)の内部空間は、即ち採血管(3)の内部空間は、減圧処理されて減圧状態になっている、即ち大気圧より低い減圧状態になっている。前記密封栓(23)としては、ニードル体(4)をこれ(23)に貫通できる部材であれば特に限定されないが、中でも、ゴム、熱可塑性エラストマー等の弾性体が好適である。
【0035】
前記略針状落体(2)は、密度1.0g/cm3以上の錘(12)を中に封入した合成樹脂製の略針状体(11)からなる。本実施形態では、図3に示すように、有底円筒状の合成樹脂製の略針状体(11)の内部に金属製錘(12)が配置されると共に略針状体(11)の上部開口端にキャップ(13)が嵌合されてなる略針状落体(2)が用いられている。本実施形態では、前記略針状落体(2)として、密度の異なる複数の略針状落体を用いている(図1参照)。
【0036】
前記ニードル体(針体)(4)は、図2に示すように、長さ方向の一端に先鋭な針刺し部を有した針体からなる。このニードル体(4)の内部には、ニードル体(4)の軸線方向に沿って落体導入用貫通路(20)が形成されている。この落体導入用貫通路(20)の直径は、前記落体(2)の通過を許容できる大きさに設定されている。前記ニードル体(4)は、図2に示すように、盤状の取付基体(21)の中央部に貫通した状態で該取付基体(21)に固定されている。
【0037】
前記恒温槽(6)は、図1に示すように、有底筒状体からなる恒温槽である。この恒温槽(6)の上端側に排出口(32)が設けられ、該恒温槽(6)の下端側に導入口(31)が設けられている。しかして、前記導入口(31)に供給された水等の液体は、前記恒温槽(6)の内部空間を通過した後、前記排出口(32)から出て恒温制御ユニット部(図示しない)に戻る。この恒温制御ユニット部では、加熱装置等により水等の液体を一定温度に制御する。前記恒温制御ユニット部に戻された水等の液体は、ここで所定温度に調整された後、再び前記導入口(31)に供給されて、これらの間を循環することによって前記恒温槽(6)内に配置される採血管(3)内の血液の温度を一定温度に保つことができる。
【0038】
前記恒温槽(6)の長手方向(高さ方向)の中間部の外側に、採血管(3)内を落下する略針状落体(2)の落下終端速度を検出する検出手段(5)が配置されている。本実施形態では、検出手段(5)として一対の磁気センサー(5A)(5B)及び計測装置(5C)が用いられている。即ち、上側の磁気センサー(5A)は恒温槽(6)の高さの二等分位置より上側の位置に配置される一方、下側の磁気センサー(5B)は恒温槽(6)の高さの二等分位置より下側の位置に配置され、このように両磁気センサー(5A)(5B)は所定間隔をあけて配置されている(図1参照)。また前記計測装置(5C)は、上側の磁気センサー(5A)からの検知信号を受けた後、下側の磁気センサー(5B)からの検知信号を受けるまでの時間を計測する装置である。この計測装置(5C)により、採血管(3)内において落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間を各落体(2)毎に得ることができる。なお、前記「落下終端速度」とは、流体(血液)中を等速度落下運動しているときの速度のことである。
【0039】
しかして、上記構成からなる落体式血液粘度測定装置(1)を用いた血液の粘度測定方法の一例について説明する。
【0040】
まず、恒温槽(6)に連結されている恒温制御ユニット部を運転状態とし、この恒温槽(6)内に所定温度に調整された水等の液体を流しておく。
【0041】
次いで、図4に示すように、ホルダ(27)の先端部に貫通状態に固定された針(28)を人体の皮膚(29)に刺し入れた後、前記採血管(3)をホルダ(27)内に挿入していくことによって前記針(28)を前記密封栓(23)に貫通せしめて該針(28)の先端を採血管(3)の内部空間内に配置せしめる。この時、採血管(3)の内部空間は減圧状態になっているので採血管(3)の内部に血液(60)が採血される。
【0042】
次に、図5に示すように、内部に血液(60)が採血された採血管(3)の密封栓(23)に前記ニードル体(4)を貫通状態に刺し入れる(刺入する)ことによって、ニードル体(4)の先鋭な針刺し部を前記採血管(3)の内部空間内に配置せしめる。これにより、ニードル体(4)の落体導入用貫通路(20)を介して採血管(3)の内部空間と外部とが連通状態になる。この時、前記取付基体(21)は、前記採血管(3)の上部の密封栓(23)の上面に当接した状態で固定される。
【0043】
次いで、前記採血管(3)を前記恒温槽(6)内に配置せしめる。この時、図6に示すように、前記採血管(3)の上部に固定された取付基体(21)の周縁部が、前記恒温槽(6)の上端縁に当接することによって(蓋をすることによって)、前記恒温槽(6)内において前記採血管(3)が吊り下げられた状態に配置されるものとなる。
【0044】
しかる後、前記ニードル体(4)の落体導入用貫通路(20)に略針状落体(2)を挿通して落体導入用貫通路(20)を落下させることによって略針状落体(2)を前記採血管(3)内に導入する。こうして採血管(3)内に導入された略針状落体(2)は、採血管(3)内の血液(60)中を落下する(図6参照)。落体(2)が上側の磁気センサー(5A)を通過した時に、計測装置(5C)は上側の磁気センサー(5A)からの検知信号を受け、その後落体(2)が下側の磁気センサー(5B)を通過した時に、計測装置(5C)は下側の磁気センサー(5B)からの検知信号を受け、これらにより、計測装置(5C)は、落体(2)が上側の磁気センサー(5A)から下側の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間を算出する。求められた落下時間と磁気センサー(5A)(5B)間の距離とから各落体(2)の落下終端速度Utを算出する。
【0045】
次に、前記得られた落体(2)の落下終端速度Utを用いて血液粘度を求める方法について説明する。
【0046】
図7は、略針状落体(2)が落下している時の状態を示す概念図であり、図8は、落下する略針状落体(2)が押し退ける血液(60)の移動方向を示す速度断面図である。これら図7、図8において、「L」は略針状落体(2)の長さ、「kR」は略針状落体(2)の半径、「R」は採血管(3)の半径であり、また(50)は落下する落体により押し退けられる落体周囲の流体要素としての微小円柱殻であり、「r」は微小円柱殻の内半径、「r+dr」は微小円柱殻の外半径、「L」は微小円柱殻の長さである。
【0047】
略針状落体(2)の落下速度が0.1×10-3m/s〜0.18m/sと非常に小さく、血液と落体の間および血液と採血管内壁面の間には滑りが発生せず、血液は非圧縮性であり、管内流動は層流であるという条件(仮定)の下で、採血管(3)に満たされた血液(60)の中央を略針状落体(2)が落下終端速度Utで落下すると、図7に示すように、微小円柱殻(50)の上面及び下面にはそれぞれ圧力p1、p2が働き、内側面及び外側面にはそれぞれ剪断応力τ、τ+dτが働く。また、血液は等速落下運動をしているので、運動量増加速度は0となる。従って、このときの微小円柱殻(50)に働く力の釣り合いから以下の関係式<1>が成り立つ。
【0048】
【数1】

【0049】
但し、△p=p1−p2 (△p<0)である。
【0050】
また、このとき、落体(2)の壁面と採血管(3)の内壁面には滑りが生じないと仮定しているので、速度に関する境界条件として以下の関係式<2>が成り立つ。
【0051】
【数2】

【0052】
また、落体(2)の壁面と採血管(3)の内壁面との間に形成される環状流路を単位時間当たりに通過する血液の量は落体(2)が押し退ける血液の量と等しいので、以下の関係式<3>が成り立つ。
【0053】
【数3】

【0054】
さらに、落体(2)の壁面において、重力、浮力、圧力及び粘性力が釣り合っているので、以下の関係式<4>が成り立つ。
【0055】
【数4】

【0056】
以上の式<1>〜<4>に、血液の構成方程式(Newton流体の構成方程式)である式<5>を連立させることによって、血液の粘度を解析することができる。即ち、血液は、凝固する前の状態であればNewton流体であるから、式<1>〜<4>にNewton流体の構成方程式である式<5>を連立させることによって、血液の粘度を解析することができる。例えば、密度の異なる複数の略針状落体(2)毎に血液粘度を求めて、これらの平均値を血液粘度の測定値として採用する。
【0057】
【数5】

【0058】
式<5>において、τは剪断応力、γ(ガンマ)は剪断速度、μ(ミュー)は血液の粘度である。
【0059】
この発明において、前記採血管(3)の有底管体(22)を構成する素材は、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。この場合には、有底管体(22)の内面への血液のこびり付きを十分に防止することができるので、血液の粘度測定をより精度高く行うことができる。
【0060】
また、前記略針状体(11)を構成する合成樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。この場合には、落体(2)の表面への血液のこびり付きを確実に防止することができ、血液の粘度測定をより精度高く行うことができる利点がある。なお、合成樹脂からなる略針状体(11)の表面に、気泡が付着するのを防止するためのコーティング層が形成されても良い。このような気泡付着防止コーティング層としては、例えば親水性コーティング層を例示できる。
【0061】
また、前記密度1.0g/cm3以上の錘(12)としては、密度が1.0g/cm3以上の材料からなるものであればその材質は特に限定されないが、金属製の錘が好適である。また、前記錘(12)は、塊状、粒体、粉体等どのような形態であっても良い。このような錘(12)の封入量を変えることで密度の異なる略針状落体(2)を製作することができる。血液の粘度測定を行うには、密度0.7〜2.0g/cm3の範囲で密度の異なる複数個の略針状落体(2)を用いるのが好ましい。また、前記錘(12)は、略針状体(11)の下方部に封入されるのが好ましく、この場合には落体(2)の重心が低くなるので、落下挙動が安定するという効果が得られる。
【0062】
前記略針状落体(2)の大きさとしては、特に限定されないものの、より少量の血液量での粘度測定を可能にすると共に粘度測定の精度を向上させる観点から、外径(m1、m2)が0.5〜3mm、長さ(L)が5〜100mmの範囲に設定されるのが好ましい。図3において、m1=m2、m1>m2、m1<m2、いずれの関係が成立する構成でも良い。なお、前記略針状落体(2)の密度とは、見かけ密度を意味するものであり、落体(2)の質量を落体の体積(空隙部を含めた体積)で除した値である。
【0063】
なお、前記実施形態では、検出手段(5)として、一対の磁気センサー(5A)(5B)及び計測装置(5C)が用いられているが、特にこのような構成のものに限定されるものではなく、落下する略針状落体(2)の落下終端速度を検出できる手段であればどのようなものでも良い。
【0064】
また、前記実施形態では、略針状落体(2)の落下終端速度を測定することにより血液の粘度を求めているが、これに代えて略針状落体(2)の落下加速度を測定することにより血液の粘度を求めるようにしても良い。このような落体(2)の落下加速度を測定する検出手段(5)としては、上下方向(落体の落下方向)に離間して配置された3つ以上の磁気センサー及び計測装置からなる構成等が挙げられる。
【0065】
また、前記実施形態では、密度の異なる複数の略針状落体(2)を落下させて測定を行うものとしているが、特にこれに限定されるものではなく、1つの略針状落体(2)を落下させてその落下終端速度又は落下加速度を測定することにより血液の粘度を求めるようにしても良い。
【実施例】
【0066】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0067】
<実施例1>
40歳の男性の血液を図1に示す採血管(3)内に採取した後、図1に示す構成からなる血液粘度測定装置(1)を用いて前項で説明した手順に従って血液の粘度測定を行った(図5、6参照)。採血管(3)の内径は8mm、長さは90mmであり、採血管(3)の内容量は5mLであった。略針状落体(2)の長さ(L)は20mm、上方側の外径(m1)は2.0mm、下方側の外径(m2)は2.0mmであった。また、略針状落体(2)(2)(2)(2)の密度はそれぞれ1.538、1.460、1.385、1.360g/cm3であった。また、採取した血液の密度は1.0556g/cm3であった。採血管(3)内の血液の温度が37.0℃になるように恒温制御ユニット部を制御して測定を行った。
【0068】
各略針状落体(2)が一方の磁気センサー(5A)から他方の磁気センサー(5B)の位置まで落下するのに要した時間と、これより求められた各落体(2)の落下終端速度Utを表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
式<1>〜式<4>の4式とNewton流体の構成方程式<5>とを連立させて血液の粘度μを算出した。これらの平均値から、この血液の粘度μは5.30mPa・secであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
この発明の落体式血液粘度測定方法及び落体式血液粘度測定装置では、内部に落体導入用貫通路が形成されたニードル体を、採取血液の入った採血管の密封栓に貫通せしめて該ニードル体の落体導入用貫通路を介して略針状落体を採血管内に導入するだけで粘度測定を開始することができ、このように血液を採取したのち非常に短時間で血液の粘度測定を開始することができるので、血液の粘度測定を精度高く行うことができて、血液疾患の予測や病気の早期発見に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】この発明に係る落体式血液粘度測定装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】取付基体に固定されたニードル体の拡大断面図である。
【図3】略針状落体の一実施形態を示す断面図である。
【図4】採血管を用いた採血状態を示す模式図である。
【図5】ニードル体を採血管の密封栓に貫通せしめた状態を示す断面図である。
【図6】ニードル体の落体導入用貫通路を介して略針状落体を採血管内に導入して血液中を落下させている状態を示す断面図である。
【図7】略針状落体が落下している時の状態を示す概念図である。
【図8】落下する略針状落体が押し退ける血液の移動方向を示す速度断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1…落体式血液粘度測定装置
2…略針状落体
3…採血管
4…ニードル体
5…検出手段
6…恒温槽
11…略針状体
12…錘
20…落体導入用貫通路
21…取付基体
22…有底管体
23…密封栓
60…血液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落体導入用貫通路が形成されたニードル体を、中に血液が採取された採血管の密封栓に貫通せしめる工程と、
前記ニードル体の落体導入用貫通路を介して略針状落体を前記採血管内に導入して血液中を落下させる工程と、
前記採血管内の血液中を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を測定することにより血液の粘度を求める工程とを包含することを特徴とする落体式血液粘度測定方法。
【請求項2】
密度の異なる複数の略針状落体をそれぞれ落下させて各落体毎に落下終端速度又は落下加速度を測定する請求項1に記載の落体式血液粘度測定方法。
【請求項3】
所定温度に制御された液体が循環供給される恒温槽内に前記採血管を配置せしめた状態で前記落体を落下させて測定を行う請求項1または2に記載の落体式血液粘度測定方法。
【請求項4】
前記略針状落体として、密度1.0g/cm3以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体を用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の落体式血液粘度測定方法。
【請求項5】
前記略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂である請求項4に記載の落体式血液粘度測定方法。
【請求項6】
略針状落体と、
密封栓によって密栓されてなる採血管と、
前記略針状落体の通過を許容する落体導入用貫通路が形成されたニードル体であって、前記採血管の密封栓に対して貫通状態に刺入されるニードル体と、
前記採血管内を落下する略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を検出する検出手段とを備えることを特徴とする落体式血液粘度測定装置。
【請求項7】
密度の異なる複数の略針状落体と、
密封栓によって密栓されてなる採血管と、
前記略針状落体の通過を許容する落体導入用貫通路が形成されたニードル体であって、前記採血管の密封栓に対して貫通状態に刺入されるニードル体と、
前記採血管内を落下する各略針状落体の落下終端速度又は落下加速度を検出する検出手段とを備えることを特徴とする落体式血液粘度測定装置。
【請求項8】
所定温度に制御された液体が循環供給される恒温槽をさらに備える請求項6または7に記載の落体式血液粘度測定装置。
【請求項9】
前記検出手段は、前記恒温槽に固定されている請求項8に記載の落体式血液粘度測定装置。
【請求項10】
前記ニードル体は、取付基体に貫通した状態で該取付基体に固定されている請求項6〜9のいずれか1項に記載の落体式血液粘度測定装置。
【請求項11】
前記略針状落体は、密度1.0g/cm3以上の錘を中に封入した合成樹脂製の略針状体からなる請求項6〜10のいずれか1項に記載の落体式血液粘度測定装置。
【請求項12】
前記略針状体を構成する合成樹脂がオレフィン樹脂である請求項11に記載の落体式血液粘度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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