説明

蒸散性不織布

【課題】抗菌性又は防黴性の機能に優れると共に、吸水性及び保液性に優れた蒸散性不織布を提供する。
【解決手段】抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が結合されており、前記抗菌性熱接着性繊維は融点が異なる2以上の樹脂成分からなる複合繊維であり、前記樹脂成分の中で最も低い融点を有する低融点成分が繊維表面の少なくとも一部に露出しており、前記低融点成分に抗菌剤が含まれており、前記構成繊維に親水性の無機粒子が付着していることを特徴とする蒸散性不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性又は防黴性を有しながら、吸水性及び保液性に優れており、加湿器用吸水材、結露吸水材、水蒸散板、調湿板などに好適な蒸散性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、暖房器具の使用に伴う室内の乾燥状態を回避し、室内を正常な湿度に保つため暖房器具の使用に際しては気化式加湿器などが併用されている。気化式加湿器は水を入れた加湿皿中に、紙、繊維などの吸水性に富む吸水性材料から成形された加湿器用エレメントの端を漬け、あるいは加湿器用エレメントの上部から水を供給して、吸水性材料に水を含ませ、通気することにより、この吸水性材料に含まれる水分が蒸発気化して室内を加湿するものである。
【0003】
このような加湿器用エレメントに使用される吸水性材料として、本出願人は特許文献1に加湿器用気化促進材を提案した。この加湿器用気化促進材は、熱接着性繊維と吸水性繊維とを含む熱接着性不織布を基材とし、この基材に親水性多孔質微粉末と抗菌剤とを配合した合成樹脂エマルジョンを含浸することにより、親水性多孔質微粉末と抗菌剤とが合成樹脂を介して基材に付着している加湿器用気化促進材である。
【0004】
しかし、このような加湿器用気化促進材では、加湿下で長期間使用することにより、合成樹脂の劣化が進み、あるいは合成樹脂の一部に剥離が生じ、吸水性や抗菌性の機能が低下するという問題があった。また、湿潤時に、合成樹脂に含まれる界面活性剤によって気泡が多数発生して、気泡のために気化が妨げられるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】登録実用新案公報第3001285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決し、抗菌性又は防黴性の機能に優れると共に、吸水性及び保液性に優れた蒸散性不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、請求項1の発明では、抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が結合されており、前記抗菌性熱接着性繊維は融点が異なる2以上の樹脂成分からなる複合繊維であり、前記樹脂成分の中で最も低い融点を有する低融点成分が繊維表面の少なくとも一部に露出しており、前記低融点成分に抗菌剤が含まれており、前記構成繊維に親水性の無機粒子が付着していることを特徴とする蒸散性不織布であり、抗菌性又は防黴性の機能に優れると共に、吸水性及び保液性に優れた蒸散性不織布を提供することが可能である。
【0008】
請求項2の発明では、前記無機粒子が、鱗片状シリカの薄片1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成される葉状シリカ2次粒子からなる鱗片状シリカ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の蒸散性不織布であり、無機粒子が鱗片状シリカ粒子であるため、接着剤を用いなくても繊維表面に強固に付着するという利点があり、耐久性に優れた蒸散性不織布を提供することが可能である。
【0009】
請求項3の発明では、前記構成繊維が、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を25%以上含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸散性不織布であり、特に難燃性に優れるという利点がある。
【0010】
請求項4の発明では、前記蒸散性不織布がハロゲンを含有しないことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の蒸散性不織布であり、特に環境に優しい素材であるという利点がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蒸散性不織布によって、抗菌性又は防黴性を有しながら、吸水性及び保液性に優れており、加湿器用吸水材、結露吸水材、水蒸散板、調湿板などに好適な蒸散性不織布を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の蒸散性不織布は、抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が結合されており、前記構成繊維に親水性の無機粒子が付着している。
【0013】
本発明の蒸散性不織布は、前記抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が結合されている限り、不織布の構造は限定されることはなく、例えば繊維長15〜100mmの、捲縮数5〜30個/インチを有する通常ステープル繊維と呼ばれる各繊維をカード機などを使用して、繊維ウエブに形成した後、繊維同士を接着性繊維によって結合する、一般的に乾式法と呼ばれる製法によって得られる不織布がある。乾式法の場合、繊維長は15〜100mmが好ましく、20〜70mmがより好ましい。また、繊維の太さは、0.5〜100デシテックスが好ましく、0.7〜50デシテックスがより好ましい。
【0014】
また、本発明の蒸散性不織布は、乾式法に限らずに任意の不織布製法により、例えば湿式法又はスパンボンド法などによって形成される不織布を適用することができる。湿式法による場合は、繊維長が1〜20mm、好ましくは3〜10mmであり、繊維の太さも10デニール以下の各繊維を水中で分散させ、湿式抄造させ、乾燥と熱接着により繊維同士を接着性繊維によって結合することができる。また、スパンボンド法による場合は、2成分以上の繊維形成性重合体の樹脂からなる例えばサイドバイサイド型の複合繊維として形成されるようにノズルから長繊維として紡出させると共に前述のステープル繊維を混入させて、複合繊維の一成分を加熱により溶融させて、構成繊維を結合することができる。上述の乾式法と呼ばれる製法によって得られる不織布の場合、剛性などの力学的特性、成形加工性などに優れるので加湿器用エレメントなどの用途として好適である。
【0015】
なお、本発明の蒸散性不織布は、前述の乾式法、湿式法又はスパンボンド法などに、さらにニードルパンチや水流絡合を組合せて、構成繊維を交絡させてから繊維同士を接着性繊維によって結合した不織布も適用可能である。また、他の素材であるネットなどを一体化させた複合不織布も適用可能である。
【0016】
前記抗菌性熱接着性繊維は融点が異なる2以上の樹脂成分からなる複合繊維であり、前記樹脂成分の中で最も低い融点を有する低融点成分が繊維表面の少なくとも一部に露出している。このような複合繊維としては、例えば、芯鞘型、サイドバイサイド型、断面が2成分以上の樹脂で分割されたオレンジ型、海島型の複合繊維などがある。このような複合繊維であれば、接着後も高融点成分の骨格が残り、構成繊維間の結合が強固になるという利点がある。なお、抗菌性熱接着性繊維の接着には、加熱処理が施されるが、この加熱処理の方法としては、前記構成繊維からなる繊維ウェブを直接加熱する方法、或いは繊維ウェブに加熱空気または加熱蒸気を噴射する方法などを適用することができる。
【0017】
また、前記抗菌性熱接着性繊維の材質としても、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系樹脂およびポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂などを挙げることができる。また、複合繊維の場合、これらの樹脂の中から同じ種類の樹脂成分を選んで構成することも可能であり、異なる樹脂成分を選んで構成することも可能である。
【0018】
具体例を挙げると、共重合ポリエステル/ポリエステル、ポリブチレン/ポリエステル、共重合ポリブチレン/ポリエステル、共重合ポリプロピレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリアミド、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエステル、ポリエチレン/ポリエステルなどの繊維形成性重合体の組み合わせからなる複合繊維がある。このような抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が結合されていることによって、湿潤時に、合成樹脂に含まれる界面活性剤によって泡が発生するという問題もなく、またバインダーで繊維を接着した不織布に比べて、熱成形が行いやすく、簡便に成形でき、しかも成形後の形状の保形性にも優れている。
【0019】
本発明では、このような複合繊維からなる抗菌性熱接着性繊維を繊維ウェブに含むことによって、当該抗菌性熱接着性繊維の融点以上の温度で加熱処理することにより、構成繊維同士を結合して本発明の蒸散性不織布を形成することができる。なお、前記抗菌性熱接着性繊維は他の繊維の融点よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、15℃以上低いことが更に好ましい。5℃未満であると、当該接着性繊維を含む繊維ウェブを加熱処理した際に、加熱温度にばらつきがあると、複合繊維全体が溶融してしまい、繊維ウェブが樹脂フィルム化して柔軟性を失う場合がある。
【0020】
また、前記抗菌性熱接着性繊維の繊度が2デシテックス以上であることが好ましく、3デシテックス以上であることがより好ましく、4デシテックス以上であることが更に好ましい。抗菌性熱接着性繊維の繊度が2デシテックス以上であれば、骨格となる抗菌性熱接着性繊維の繊度が大きいため、繊維構造が強固となっており、特に耐久性に富むという利点がある。
【0021】
本発明では、前記抗菌性熱接着性繊維を構成する低融点成分に抗菌剤が含まれている。具体的には、複合繊維からなる熱接着性繊維を形成する際に低融点成分の樹脂に、抗菌剤を練り込むことによって抗菌剤を含むことが可能である。このように低融点成分に抗菌剤が含まれることによって、従来技術のように抗菌剤が剥離することなく耐久性のある抗菌性の機能を保持することが可能となっている。
【0022】
前記抗菌剤としては、低融点成分の樹脂に練り込むことが可能である限り特に限定されず、有機系、無機系、または有機と無機の複合系の抗菌剤を適用することが可能である。有機系抗菌剤としては、例えばポリビニル、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリアミドなどのポリマー鎖にピグアナイトまたは第4アンモニウム塩を固定化したポリマー型固定化殺菌剤、3−(トリメトキシシリル)−プロピルトリメチルオクタデシルアンモニウムクロライドなどのシリコーン型固定化殺菌剤などを挙げることができる。
【0023】
また、無機系抗菌剤としては、例えば金属イオン付加無機系抗菌剤がある。ここで抗菌性金属イオン付加無機系抗菌剤とはXM /nO・Al YSiO ・ZH Oで表されるアルミノシリケートよりなる天然または合成ゼオライトのイオン交換可能な部分に殺菌作用を有する金属イオンの1種又は2種以上を保持しているものをいう。式中Mはイオン交換可能な金属イオンを表す1価〜2価の銀、銅、亜鉛等の金属である。nはこの原子価に対応する。Xは金属酸化物、Yはシリカの係数、Zは結晶水を示している。具体的には特開昭59−133235号に示された銀−A型ゼオライト、銀−B型ゼオライト、銀−Y型ゼオライト、銅−天然モルデナイト1、銀−天然チャバサイト、亜鉛−A型ゼオライト等を挙げることができる。
【0024】
また、有機と無機の複合系の抗菌剤としては、例えば有機系抗菌剤と無機系抗菌剤を含有する抗菌性組成物がある。ここで、無機系抗菌剤は、銀または銅を担持したリン酸ジルコニウムまたはその塩を適用することができ、有機系抗菌剤は、2−メルカプトピリジン−N−オキシドナトリウム、カルベンダジム(1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル)、チアベンダゾール(2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール)を適用することができる。
【0025】
本発明の蒸散性不織布は、前記抗菌性熱接着性繊維を30〜100質量%含むことが好ましく、40〜100質量%含むことがより好ましく、50質量〜100質量%含むことが更に好ましい。抗菌性熱接着性繊維の割合が上記の範囲であれば、構成繊維同士を確実に固定することができる。その結果、繊維構造が強固となっており、特に耐久性に富むという利点がある。また、抗菌性の機能を十分に発揮できるという利点がある。抗菌性熱接着性繊維の割合が上記の範囲よりも少ないと、抗菌性熱接着性繊維による構成繊維の結合が不十分となるため、形態安定性が損なわれたり、剛性などの力学的特性、成形加工性、あるいは寸法安定性に劣り、加湿器用エレメントなどの用途に用いることが困難になる場合がある。また、抗菌性の機能が不十分になる場合がある。
【0026】
本発明の蒸散性不織布は、より機能を付加するため、前記抗菌性熱接着性繊維以外にも他の繊維を含むことが可能であり、他の繊維としては天然繊維、半合成繊維、合成繊維または無機繊維などを挙げることができる。付加する機能としては、難燃性、防臭性、芳香性などを挙げることができる。
【0027】
例えば、難燃性の機能を付加する場合は、構成繊維として、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を25質量%以上含有していることが好ましく、30%質量以上含有していることがより好ましい。25質量%以上含有していることにより、蒸散性不織布が特に難燃性に優れるという利点がある。上記範囲の難燃性繊維の配合量であれば、本発明の蒸散性不織布の難燃性の程度を、アンダーライター・ラボラトリーズ・インコーポレーテッドが定めるUL94の燃焼試験(以下、単に燃焼試験と略記する)に準ずる評価が「V−0」の基準条件を満たすことが可能である。25質量%未満であると、やや燃え易くなり、「V−0」の基準条件を満たさない場合がある。
【0028】
前記非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維としては、日本工業規格JIS K7201(酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法)に準拠して求められるLOI値が28以上の繊維が好ましく、LOI値が35以上の繊維がより好ましく、具体的には、耐炎化繊維、難燃剤配合難燃性繊維、難燃化処理難燃性繊維等を適用することができる。耐炎化繊維としては、酸化アクリル繊維(LOI値:55)、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維(LOI値:41)、フェノール繊維(LOI値:34)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(LOI値:68)、ポリパーフルオロエチレン(テフロン:登録商標)繊維(LOI値:95)などを挙げることができる。難燃剤としては、ハロゲン化物、燐系化合物およびアンチモン化合物を助剤として用いたものがあり、これらを配合した難燃性繊維、またこれらを含浸等で処理した難燃性繊維が挙げられる。難燃性繊維の素材としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨン、その他の天然繊維などが使用できる。本発明において、特に好ましい難燃性繊維としては、非溶融性である難燃化レーヨン(LOI値:28)を挙げることができる。
【0029】
なお、更に特性を付加する目的で、前記抗菌性熱接着性繊維および前記難燃性繊維以外の繊維を構成繊維として含むことも可能である。このような、他の繊維としては、目的とする抗菌性、防黴性、吸水性、保液性、熱接着性または難燃性などを確保できる限り、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維およびポリビニルアルコール繊維などの合成繊維に限らず、レーヨンなどの半合成繊維、あるいは綿、セルロース系繊維などの天然繊維を挙げることができる。また、他の繊維として、前記抗菌性熱接着性繊維と同様の樹脂成分からなるが、低融点成分には抗菌剤が含まれていない熱接着性繊維を含むことも可能である。
【0030】
また、前記構成繊維の平均繊維径は、蒸散性不織布全体の形状を保持する必要から、2デシテックス以上であることが好ましく、3デシテックス以上であることがより好ましく、4デシテックス以上であることが更に好ましい。なお、平均繊度の計算方法としては、各繊維の繊度をaデシテックス、bデシテックス、cデシテックス・・・として、各繊維の含有割合をそれぞれa’質量%、b’質量%、c’質量%・・・とすると、(a’/a)+(b’/b)+(c’/c)・・・=(100/x)の関係式が成り立ち、この関係式から平均繊度xを求めることができる。
【0031】
本発明では、前記構成繊維は前記抗菌性熱接着性繊維によって結合しているが、さらに、形態安定性、剛性などの力学的特性、成形加工性、あるいは寸法安定性を向上のため、交絡していることも可能である。この交絡は、具体的には、前記構成繊維からなる繊維ウェブに対して、ニードルパンチ、水流絡合、またはスチームジェット処理などを施すことによって達成される。また、構成繊維が絡合していることにより、構成繊維同士の接触部分が多くなり、毛細管現象による吸水性や保液性が向上するという利点もある。
【0032】
また、前記構成繊維を抗菌性熱接着性繊維によって結合する方法としては、抗菌性熱接着性繊維を含む繊維ウェブを加熱する方法があり、この加熱処理の方法としては、前述のように、前記構成繊維からなる繊維ウェブを直接加熱する方法、或いは繊維ウェブに加熱空気または加熱蒸気を噴射する方法などを適用することができる。
【0033】
本発明では、前記構成繊維の面密度が80〜450g/mであることが好ましく、110〜400g/mであることがより好ましく、130〜350g/mであることが更に好ましい。80g/m未満であると、吸水特性に劣る場合や形態安定性に劣る場合があり、450g/mを超えると、成型加工性に劣る場合がある。
【0034】
本発明の蒸散性不織布は、前記構成繊維に親水性の無機粒子が付着している。このような無機粒子としては、例えば粒径1μm以下のシリカ粒子を挙げることができる。このようなシリカ粒子は、例えば無水珪酸又は含水珪酸の微粒子、あるいは珪酸ナトリウムの希薄水溶液を酸で中和して得られる水性シリカゲルなどを挙げることができる。また、無機粒子としては、例えば鱗片状シリカの薄片1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成される葉状シリカ2次粒子からなる鱗片状シリカ粒子を挙げることができる。このような鱗片状シリカ粒子には、自己造膜性を有しており、接着剤を用いなくても繊維表面に強固に付着するという利点があり、例えばこの鱗片状シリカ粒子を水に分散させてスラリー状にしたものを前記構成繊維に塗布させた場合、常温乾燥するだけで強靭な塗膜を形成することが可能である。これは、鱗片状シリカ粒子が繊維表面と平行的に積層し、表面のシラノール基同士で結合するためと考えられる。また、加熱することによりさらに塗膜の強度は向上するという利点がある。このように、この鱗片状シリカ粒子は、自己造膜性を有しており、接着剤を用いなくても繊維表面に強固に付着するという利点があり、接着剤が劣化するというリスクを考慮する必要はなく、耐久性に優れた蒸散性不織布を形成可能である。
【0035】
前記鱗片状シリカ粒子は、例えば、シリカヒドロゲル、活性ケイ酸または含水ケイ酸のいずれかをアルカリ金属塩の存在下に水熱処理し、前記葉状シリカ2次粒子が3次元的に重なり合って形成される3次粒子からなる鱗片状シリカ3次凝集体粒子を形成した後に、このシリカ3次凝集体粒子を解砕・分散化し、2次粒子からなる葉状シリカ粒子を形成する工程により形成することができる。
【0036】
前記鱗片状シリカ粒子は、具体的な形状として、例えば薄片1次粒子の粒子径が厚さ0.05μm以下の鱗片形状粒子であり、葉状シリカ2次粒子の厚さが0.05〜0.5μm(平均粒子径が0.1〜1.5μm)である鱗片状シリカ粒子を挙げることができ、水スラリー状の形態として、市販されているものを適用することができる。例えば、市販の葉状シリカ2次粒子分散液としては、サンラブリーLFS−HN−010(平均粒径:0.1μm、比表面積370m/g以下、シラノール基:7500μmol/g以下)、サンラブリーLFS−HN−020(平均粒径:0.2μm、比表面積200m/g以下、シラノール基:4900μmol/g以下)、サンラブリーLFS−HN−050(平均粒径:0.5μm、比表面積150m/g以下、シラノール基:4600μmol/g以下)、サンラブリーLFS−HN−150(平均粒径:1.5μm、比表面積70m/g以下、シラノール基:4100μmol/g以下)(以上AGCエスアイテック株式会社製)を適用することができる。
【0037】
本発明では、構成繊維に前記親水性の無機粒子が付着しているが、付着の方法としては、抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が接着された繊維基材に、無機粒子を水などに分散させた分散液をスプレー法などにより塗布するか、含浸した後に乾燥させることによって付着させることができる。なお、分散性を良好にするため、分散液中に界面活性剤などの分散剤を含ませることも可能であるが、この場合は蒸散性不織布の使用時に泡が発生しない程度に少量含ませることが好ましい。また、無機粒子の付着を確実にするため、接着剤を含ませることも可能であるが、この場合も界面活性剤を極力用いないように配慮する必要がある。このような接着剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂を適用することができ、例えばポリアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテル・エーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、シリコーン系樹脂、などを適用することができる。
【0038】
本発明の蒸散性不織布は、加湿器用吸水材、結露吸水材、水蒸散板、調湿板などの用途に好適に用いることができるが、見掛け密度は0.1〜0.5g/cmであることが必要であり、0.15〜0.5g/cmであることが好ましく、0.15〜0.4g/cmであることがより好ましい。見掛け密度が0.1g/cm未満の場合、毛細管現象が不十分となり、吸水力が低下する問題があり、0.5g/cmを超えた場合、成型加工性に劣るという問題がある。また、面密度は100〜500g/mであることが好ましく、130〜450g/mであることがより好ましく、150〜400g/mであることが更に好ましい。100g/m未満であると、吸水特性に劣る場合や形態安定性に劣る場合があり、500g/mを超えると、成型加工性に劣る場合がある。また、厚さは0.5〜2mmであることが好ましく、0.6〜1.7mmであることがより好ましく、0.7〜1.5mmであることが更に好ましい。0.5mm未満であると、吸水特性に劣る場合や形態安定性に劣る場合があり、2mmを超えると、成型加工性に劣る場合がある。なお、厚さは1.96kPaの加圧時の厚さで表すものとする。
【0039】
また、本発明の蒸散性不織布の曲げ強度は、曲げ強度が0.8N以上であることが好ましく、1N以上であることがより好ましく、1.2N以上であることが更に好ましい。曲げ強度が0.8N以上であることにより、蒸散性不織布の形態安定性や成型加工性に優れるからである。曲げ強度が0.8N未満の場合、蒸散性不織布の形態安定性や成型加工性に劣る場合がある。なお、この曲げ強度の測定は、図1に示す装置により、所謂、三点曲げの手法により行なうことができる。図1は、当該測定方法を説明するため、要部のみを示す説明図であるが、図示を省略した市販の定速伸張型引張試験機である『テンシロン』(オリエンテック社製,商品名)の一対のチャックに、各々、上治具11と下治具13とを装着する。これら治具は、一方のチャックに装着された上治具11のみが図中矢印A方向に定速移動して荷重測定するように設計されている。上治具11に形成された略『コ』の字型の載置部15上に載置された試験片17は、その中央部分で、他方のチャックに固定装着されている下治具13によって曲げられ、この際に、上治具11と下治具13との間で検出される最大応力を曲げ強度として測定記録する。なお、この際、上治具11は100mm/分の定速で引き上げ、試験片としてはヨコ方向の曲げ強度の測定にはタテ3cm、ヨコ10cmに裁断したものを用い、タテ方向の曲げ強度の測定にはヨコ3cm、タテ10cmに裁断したものを用い、このタテ方向とヨコ方向の平均値で本発明の蒸散性不織布の曲げ強度を表すものとする。また、タテ方向は蒸散性不織布の生産方向とする。
【0040】
また、本発明の蒸散性不織布の吸水速度は、吸水高さ50mmに達するまでの時間が、50秒以下であることが好ましく、40秒以下であることがより好ましい。尚、吸水速度の評価方法としては、2.5cm巾×10cm長さの試験片を、その短辺が下端となるようにして、少なくとも深さ5cmになるように、蒸留水を貯留した容器に、試験片の下端から2cm長さまで浸漬するように、垂直に保持した後、吸水高さ50mmに達するまでの時間を測定する。なお、試験片は予め水道水の流水で30分間洗浄し、その後乾燥させる処理を、5回繰り返すことによって、付着している界面活性剤や分散剤を除去し、この処理を行なった試験片を上記の測定に用いるものとする。また、この試験は25℃で相対湿度65%の室内で測定するものとし、巾方向で吸水高さが異なる場合は、平均高さで表すものとする。また、蒸留水にインクなどで着色して測定することも可能である。
【0041】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本願発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
(難燃性)
アンダーライター・ラボラトリーズ・インコーポレーテッドが定めるUL94の燃焼試験に準じて試験を行い、難燃性の優れる順に、「V−5」、「V−0」、「V−1」、「V−2」、「HF−1」、「HF−2」、「HB」の基準で評価した。
【0043】
(抗菌性)
JIS Z2911「かび抵抗性試験方法」に規定される「7.繊維製品の試験(C)湿式法」によって評価した。なお、試験片の表面に菌糸を接種して、培養試験の期間を2週間とした。結果の表示は、試料又は試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない場合を0とし、試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が全面積の1/3を超えない場合を1とし、試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が全面積の1/3を超える場合を2と表示した。
【0044】
(熱接着性繊維Aの準備)
芯鞘型の複合繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:51mm、芯の樹脂成分はポリエチレンテレフタレート樹脂、鞘の樹脂成分は低融点ポリエステル樹脂)を熱接着性繊維Aとした。
(抗菌性熱接着性繊維Bの準備)
芯鞘型の複合繊維(繊度:4.4デシテックス、繊維長:51mm、芯の樹脂成分はポリエチレンテレフタレート樹脂、鞘の樹脂成分は低融点ポリエステル樹脂)の鞘成分の低融点ポリエステル樹脂に、有機と無機の複合系の抗菌剤である出光テクノファイン株式会社製のコーキンマスターを鞘部の樹脂質量に対して0.5質量%練り込むことにより、抗菌性熱接着性繊維Bを形成した。
(抗菌性熱接着性繊維Cの準備)
芯鞘型の複合繊維(繊度:4.4デシテックス、繊維長:51mm、芯の樹脂成分はポリエチレンテレフタレート樹脂、鞘の樹脂成分は低融点ポリエステル樹脂)の鞘成分の低融点ポリエステル樹脂に、有機と無機の複合系の抗菌剤である出光テクノファイン株式会社製のコーキンマスターを鞘部の樹脂質量に対して0.5質量%練り込み、更に熱接着性繊維Bの芯、鞘の両成分の樹脂に、燐系難燃剤を各樹脂質量に対してそれぞれ0.8質量%練り込むことにより、抗菌性熱接着性繊維Cを形成した。
【0045】
(実施例1)
抗菌性熱接着性繊維B60質量%と熱接着性繊維A40質量%とを混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層し、さらにニードルパンチ加工を行い絡合ウェブとした。次いで、この絡合ウェブに熱風を吹き付けて、抗菌性熱接着性繊維B及び熱接着性繊維Aにより構成繊維を接着固定して、面密度200g/mの繊維基材を形成した。
次いで、鱗片状シリカの薄片1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成される葉状シリカ2次粒子からなる鱗片状シリカ粒子を水に分散させてなる、鱗片状シリカ粒子の分散液である、AGCエスアイテック株式会社製のサンラブリーLFS−HN−050(平均粒径:0.5μm、比表面積150m/g以下、シラノール基:4600μmol/g以下)を準備して、上記繊維基材に含浸した後、乾燥させて、鱗片状シリカ粒子を繊維基材に付着させて、蒸散性不織布を得た。得られた蒸散性不織布は、面密度が235g/mであり、鱗片状シリカ粒子の付着量は35g/mであり、厚さが0.8mmであり、見掛け密度は0.29g/cmであった。また、吸水速度は29sec/50mmであり、曲げ強度は2.0Nであり、抗菌性を有していた。得られた蒸散性不織布の物性値を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
抗菌性熱接着性繊維B60質量%と熱接着性繊維A15質量%と難燃性レーヨン繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:40mm、LOI値:28)25質量%とを混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層し、さらにニードルパンチ加工を行い絡合ウェブとした。次いで、この絡合ウェブに熱風を吹き付けて、抗菌性熱接着性繊維B及び熱接着性繊維Aにより構成繊維を接着固定して、面密度220g/mの繊維基材を形成した。
次いで、上記繊維基材にサンラブリーLFS−HN−050を含浸した後、乾燥させて、鱗片状シリカ粒子を繊維基材に付着させて、蒸散性不織布を得た。得られた蒸散性不織布は、面密度が260g/mであり、鱗片状シリカ粒子の付着量は40g/mであり、厚さが0.8mmであり、見掛け密度は0.33g/cmであった。また、吸水速度は28sec/50mmであり、曲げ強度は1.8Nであり、抗菌性を有しており、難燃性はHF−1クラスであった。得られた蒸散性不織布の物性値を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
抗菌性熱接着性繊維B50質量%と熱接着性繊維A10質量%と難燃性レーヨン繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:40mm、LOI値:28)40質量%とを混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層し、さらにニードルパンチ加工を行い絡合ウェブとした。次いで、この絡合ウェブに熱風を吹き付けて、抗菌性熱接着性繊維B及び熱接着性繊維Aにより構成繊維を接着固定して、面密度170g/mの繊維基材を形成した。
次いで、上記繊維基材にサンラブリーLFS−HN−050を含浸した後、乾燥させて、鱗片状シリカ粒子を繊維基材に付着させて、蒸散性不織布を得た。得られた蒸散性不織布は、面密度が187g/mであり、鱗片状シリカ粒子の付着量は17g/mであり、厚さが0.8mmであり、見掛け密度は0.23g/cmであった。また、吸水速度は23sec/50mmであり、曲げ強度は1.2Nであり、抗菌性を有しており、難燃性はHF−1クラスであった。得られた蒸散性不織布の物性値を表1に示す。
【0048】
(実施例4)
抗菌性熱接着性繊維C100質量%をカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層し、さらにニードルパンチ加工を行い絡合ウェブとした。次いで、この絡合ウェブに熱風を吹き付けて、抗菌性熱接着性繊維Cにより構成繊維を接着固定して、面密度200g/mの繊維基材を形成した。
次いで、上記繊維基材にサンラブリーLFS−HN−050を含浸した後、乾燥させて、鱗片状シリカ粒子を繊維基材に付着させて、蒸散性不織布を得た。得られた蒸散性不織布は、面密度が235g/mであり、鱗片状シリカ粒子の付着量は35g/mであり、厚さが0.8mmであり、見掛け密度は0.29g/cmであった。また、吸水速度は33sec/50mmであり、曲げ強度は1.6Nであり、抗菌性を有しており、難燃性はHF−1クラスであった。得られた蒸散性不織布の物性値を表1に示す。
【0049】
(比較例1)
熱接着性繊維A100質量%をカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層し、さらにニードルパンチ加工を行い絡合ウェブとした。次いで、この絡合ウェブに熱風を吹き付けて、熱接着性繊維Aにより構成繊維を接着固定して、面密度220g/mの繊維基材を形成した。
次いで、上記繊維基材にサンラブリーLFS−HN−050を含浸した後、乾燥させて、鱗片状シリカ粒子を繊維基材に付着させて、比較例1の不織布を得た。得られた不織布は、面密度が260g/mであり、鱗片状シリカ粒子の付着量は40g/mであり、厚さが1.2mmであり、見掛け密度は0.22g/cmであった。また、吸水速度は38sec/50mmであり、曲げ強度は2.0Nであり、抗菌性を有していなかった。得られた不織布の物性値を表2に示す。
【0050】
(比較例2)
抗菌性熱接着性繊維B50質量%と熱接着性繊維A10質量%と難燃性レーヨン繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:40mm、LOI値:28)40質量%とを混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層し、さらにニードルパンチ加工を行い絡合ウェブとした。次いで、この絡合ウェブに熱風を吹き付けて、抗菌性熱接着性繊維B及び熱接着性繊維Aにより構成繊維を接着固定して、面密度170g/mの繊維基材を形成した。
得られた繊維基材を比較例2の不織布とした。この不織布は、面密度が170g/mであり、厚さが0.8mmであり、見掛け密度は0.21g/cmであった。また、吸水速度は2480sec/50mmであり吸水性に劣っており、曲げ強度は1.0Nであり、抗菌性を有しており、難燃性はHF−1クラスであった。この不織布の物性値を表2に示す。
【0051】
(表1)

【0052】
(表2)

【0053】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜4は、抗菌性又は防黴性を有しながら、吸水性及び保液性に優れており、剛性などの力学的特性、成形加工性、および寸法安定性に優れており、加湿器用吸水材、結露吸水材、水蒸散板、調湿板などに好適な蒸散性不織布であった。また、実施例2〜4の蒸散性不織布は、難燃性にも優れていた。これに対して、比較例1の不織布は抗菌性を有しておらず、比較例2の不織布は吸水性に劣り、加湿器用吸水材、結露吸水材、水蒸散板、調湿板などとして不適な不織布であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の実施例で用いた曲げ強度の測定方法を説明するため、要部を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
11:上治具
13:下治具
15:(上治具の)載置部
17:試験片
A:上治具の移動方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性熱接着性繊維によって構成繊維が結合されており、前記抗菌性熱接着性繊維は融点が異なる2以上の樹脂成分からなる複合繊維であり、前記樹脂成分の中で最も低い融点を有する低融点成分が繊維表面の少なくとも一部に露出しており、前記低融点成分に抗菌剤が含まれており、前記構成繊維に親水性の無機粒子が付着していることを特徴とする蒸散性不織布。
【請求項2】
前記無機粒子が、鱗片状シリカの薄片1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成される葉状シリカ2次粒子からなる鱗片状シリカ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の蒸散性不織布。
【請求項3】
前記構成繊維が、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を25%以上含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸散性不織布。
【請求項4】
前記蒸散性不織布がハロゲンを含有しないことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の蒸散性不織布。

【図1】
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【公開番号】特開2010−70859(P2010−70859A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236030(P2008−236030)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】