説明

蒸気タービンのシール構造

【課題】比較的簡易な加工で作製でき、スチームホワールの発生を抑制することができる蒸気タービンのシール構造を提供することにある。
【解決手段】ケーシング3と、ケーシング3に回転可能に支持されるタービンロータ2と、タービンロータ2に設けられた複数の動翼11と、動翼11に対向するタービンケーシング3の内周部に設けられた複数のシールフィン7,8とを備えた蒸気タービンのシール構造であって、ケーシング3における隣接するシールフィン7,8間に溝部9を形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンにおけるロータ軸の蒸気の漏洩を防止するラビリンスシール部では旋回流により不安定振動に繋がる力が発生することが知られている。前記力に起因する不安定振動はスチームホワールと呼ばれ、このスチームホワールの対策として、例えば、流体機械の旋回流防止装置(例えば、下記の特許文献1参照)やラビリンスシール装置(例えば、下記の特許文献2参照)などが提案されている。
【0003】
上述の流体機械の旋回流防止装置は、ダイアフラムの側面であって、ラビリンスシールのシールフィンの入口側に臨む位置に設けられた突出し部(スワールブレーカ)を備えることで、蒸気に与える抵抗を大きくして蒸気の旋回流の発生を抑制するようにしている。
【0004】
上述のラビリンスシール装置は、ラビリンスシール部材の一側部に蒸気を導入する流入路(孔)を設けると共に、この流入路に連通する流出口をシールチャンバーの上流側に設けることで、旋回流と逆方向流れを発生させて蒸気の旋回流を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−104952号公報(例えば、段落[0065]〜[0068]、[図10]など参照)
【特許文献2】特開昭62−118008号公報(例えば、第1図〜第4図など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の流体機械の旋回流防止装置においては、突出し部の設置が強度の不安を招くものでありスチームホワールの対策には適していなかった。上述のラビリンスシール装置においては、前記流入路および流出口が軸方向および径方向の加工で作製されておりその加工が煩雑であった。
【0007】
そのため、従来の蒸気タービンのシール構造においては、前述のスチームホワールの対策を施していない構造とし、不安定振動が発生しないことを試験的にチェックしていた。このような構造では、過負荷などの特殊な運転をしたときに不安定振動が発生することがあるが、運用などで対処していた。このようなことから、比較的簡易な加工で作製でき、スチームホワールの発生を抑制することができる蒸気タービンのシール構造が求められている。
【0008】
以上のことから、本発明は前述した課題を解決するために為されたものであって、比較的簡易な加工で作製でき、スチームホワールの発生を抑制することができる蒸気タービンのシール構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決する本発明に係る蒸気タービンのシール構造は、
ケーシングと、前記ケーシングに回転可能に支持されるロータと、前記ロータに設けられた複数の動翼と、前記動翼に対向する前記ケーシングの内周部に設けられた複数のシールフィンと、を備えた蒸気タービンのシール構造であって、
前記ケーシングにおける隣接する前記シールフィン間に溝部を形成した
ことを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決する本発明に係る蒸気タービンのシール構造は、
前述した発明に係る蒸気タービンのシール構造であって、
前記溝部が第1段目の前記動翼に対向する箇所である
ことを特徴とする。
【0011】
上述した課題を解決する本発明に係る蒸気タービンのシール構造は、
前述した発明に係る蒸気タービンのシール構造であって、
前記溝部が第2段目以降の前記動翼に対向する箇所である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る蒸気タービンのシール構造によれば、ケーシングにおける隣接するシールフィン間に溝部を形成したことにより、隣接するシールフィン間の空間が、溝部が無い従来の蒸気タービンのシール構造の場合と比べて実質的に大きくなるため、スチームホワールの発生を抑制することができる。また、溝部がケーシングの周方向にのみあることになり、比較的簡易な加工で作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施例に係る蒸気タービンのシール構造を説明するための図であって、図1Aにその全体を示し、図1Bに図1Aにおける囲み線Iの拡大を示す。
【図2】本発明の第1の実施例に係る蒸気タービンのシール構造を具備する蒸気タービンの縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る蒸気タービンのシール構造を具備する蒸気タービンの要部拡大図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る蒸気タービンのシール構造を説明するための図であって、図4Aにその全体を示し、図4Bに図4Aの拡大を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る蒸気タービンのシール構造について、各実施例にて説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の第1の実施例に係る蒸気タービンのシール構造について、図1A,図1B、図2、および図3を参照して具体的に説明する。
【0016】
図2および図3に示すように、蒸気タービン1は、タービンロータ(回転体)2と、このタービンロータ2を収容するケーシング(車室)3とを備える。タービンロータ2は、両端部が軸受(図示せず)を介して軸受台(図示せず)に支持される。つまり、タービンロータ2はケーシング3に回転可能に支持される。ケーシング3の内部空間は、高圧ダミー環(静止部)4によって高圧車室空間5と中圧車室空間6とに仕切られる。高圧ダミー環4は環状の部材で、ケーシング3の内側に固定して取り付けられる。
【0017】
タービンロータ2の外周面部には、高圧車室空間5および中圧車室空間6に対応する部分にて、外方に向けて放射状に突出する多数の動翼11が、軸線方向Lに沿って間隔を空けて複数段取り付けられる。
【0018】
ケーシング3の内側には、高圧車室空間5および中圧車室空間6に対応する部分にて、翼環13が軸線方向Lに沿ってそれぞれ複数取り付けられる。
各翼環13には、内方に向けて放射状に突出する多数の静翼14が軸線方向Lに沿って間隔を空けて複数取り付けられる。
【0019】
高圧車室空間5の中圧車室空間6側には、環状の高圧入口部15が設けられ、軸線方向反対側には、環状の高圧出口部17が設けられる。中圧車室空間6の高圧車室空間5側には、環状の中圧入口部19が設けられ、軸線方向反対側には、環状の中圧出口部21が設けられる。
【0020】
高圧入口部15は、主蒸気管23と連通し、図示しないボイラから供給される蒸気が主蒸気管23を通って流入するように形成される。流入した蒸気は、高圧段で仕事をし、高圧排気蒸気として高圧出口部17から高圧出口配管25を通って導出される。この高圧排気蒸気は、中圧入口配管27を通って中圧入口部19へ導入される。中圧入口部19へ導入された高圧排気蒸気は、中圧段で仕事をし、中圧出口部21から中圧排気管29を通って排気される。なお、中圧車室空間21側には、中圧入口部19と連通する中圧側蒸気室31が設けられる。中圧側蒸気室31は、接続流路33によって高圧出口部17と連通される。
【0021】
図1Aおよび図1Bに示すように、第1段目の動翼11の頂部にはシュラウド12が設けられる。第1段目の動翼11に対向するケーシング3の内周面には、周方向にリング状に突出した2つのシールフィン7,8が軸線方向Lに沿って間隔L2を空けて設けられ、シュラウド12の外周面とでラビリンスシール構造をなしている。これにより、蒸気がシュラウド12とケーシング3との間を通過することを抑制している。なお、シールフィン7の高さはH1でありシールフィン8の高さはH2(<H1)である。
【0022】
ケーシング3の内周面における隣接するシールフィン7,8間には、周方向に延在する溝部9が設けられる。溝部9は、軸方向にてL1(<L2)の大きさであり、径方向にてD1の大きさ(深さ)である。これにより、隣接するシールフィン7,8と溝部9とで構成される空間が、隣接するシールフィン7,8だけで構成される空間よりも大きくなり、スチームホワールの発生を抑制することができる。また、シールフィン7,8の径方向の大きさを変更せずにシールフィン7,8で囲まれる空間を実質的に大きくすることができる。つまり、シールフィン7,8の強度を低下させずに、シールフィン7,8の径方向にて大きくした場合と同様の効果を得ることができる。なお、溝部9の軸方向の大きさL1は、シールフィン7,8を支持する強度を低下させない程度に設定される。
【0023】
以上説明したように、本実施例に係る蒸気タービンのシール構造によれば、第1段目の動翼11に対向するケーシング3の内周面であって、隣接するシールフィン7,8間に溝部9を形成したことで、隣接するシールフィン7,8間で構成される空間が溝部9により実質的に大きくなり、溝部が無い従来の蒸気タービンのシール構造の場合と比べて、スチームホワールの発生を抑制することができる。また、溝部9がケーシング3の内周面の周方向にのみあることなり、比較的簡易な加工で作製することができる。
【0024】
溝部9が最も圧力の高い第1段目(調速段)の動翼11に対向する箇所にあるので、スチームホワールの発生を効果的に抑制することができる。
【実施例2】
【0025】
本発明の第2の実施例に係る蒸気タービンのシール構造について、図4Aおよび図4Bを参照して具体的に説明する。
【0026】
本実施例に係る蒸気タービンのシール構造は、第2段目以降の動翼に対向して配置されるシールリングに適用したものである。図4Aおよび図4Bに示すように、第2段目以降の動翼の頂部にはシュラウド12が設けられ、シュラウド12に対向するケーシング3の内周部には、リング状のシールリング41が取り付けられる。シールリング41の内周面には、リング状に突出した複数(図示例では4つ)のシールフィン42が軸線方向Lに沿って間隔L4を空けて設けられ、シュラウド12の外側面とでラビリングシール構造をなしている。これにより、蒸気がシュラウド12とケーシング3との間を通過することを抑制している。なお、シールフィン42の高さはH3である。
【0027】
シールリング41の内周面における隣接するシールフィン42,42間には、周方向に延在する溝部43がそれぞれ設けられる。溝部43は、軸方向にてL3(<L4)の大きさであり、径方向にてD2の大きさ(深さ)である。これにより、隣接するシールフィン42,42と溝部43とで構成される空間が、隣接するシールフィン42,42だけで構成される空間よりも大きくなり、スチームホワールの発生を抑制することができる。また、シールフィン42,42の径方向の大きさを変更せずにシールフィン42,42で囲まれる空間を実質的に大きくすることができる。つまり、シールフィン42,42の強度を低下させずに、シールフィン42,42の径方向にて大きくした場合と同様の効果を得ることができる。なお、溝部43の軸方向の大きさL3は、シールフィン42,42を支持する強度を低下させない程度に設定される。
【0028】
以上説明したように、本実施例に係る蒸気タービンのシール構造によれば、2段目以降の動翼11に設けられたシュラウド12に対向するシールリング41の内周面であって、隣接するシールフィン42,42間に溝部43を形成したことで、隣接するシールフィン42,42間の空間が溝部43により実質的に大きくなり、溝部が無い従来の蒸気タービンのシール構造の場合と比べて、スチームホワールの発生を抑制することができる。また、溝部43がシールリング41の周方向にのみあることになり、比較的簡易な加工で作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は蒸気タービンのシール構造であり、比較的簡易な加工で作製でき、スチームホワールの発生を抑制することができるため、発電産業などで有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 蒸気タービン
2 タービンロータ
3 ケーシング
4 高圧ダミー環
5 高圧車室空間
6 中圧車室空間
7,8 シールフィン
9 溝部
11 動翼
12 シュラウド
13 翼環
14 静翼
15 高圧入口部
17 高圧出口部
19 中圧入口部
21 中圧出口部
23 主蒸気管
25 高圧出口配管
27 中圧入口配管
29 中圧排気管
31 中圧側蒸気室
33 接続流路
41 シールリング
42 シールフィン
43 溝部
D1,D2 溝部の深さ
H1〜H3 シールフィンの高さ(長さ)
L1,L3 溝部の軸方向の大きさ
L2,L4 隣接するシールフィン間の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシングに回転可能に支持されるロータと、前記ロータに設けられた複数の動翼と、前記動翼に対向する前記ケーシングの内周部に設けられた複数のシールフィンと、を備えた蒸気タービンのシール構造であって、
前記ケーシングにおける隣接する前記シールフィン間に溝部を形成した
ことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載された蒸気タービンのシール構造であって、
前記溝部が第1段目の前記動翼に対向する箇所である
ことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項3】
請求項1に記載された蒸気タービンのシール構造であって、
前記溝部が第2段目以降の前記動翼に対向する箇所である
ことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate