説明

蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法

【課題】膜分離設備の非定常状態や膜性能が低下した場合においても、規定値を満足できる製品だけを取り出すことができる、蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法を提供する。
【解決手段】蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法である。同設備の起動時に、膜の一次側および二次゛側が定常状態になるまで、膜モジュール、凝縮器、蒸発器を経た一次側の処理流体を再び膜モジュールに循環させながら有機溶媒の濃縮を続ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばエタノール等有機溶剤中の水分を蒸気透過法により除去する膜分離施設の運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エタノール等有機溶剤の膜分離による無水化技術においては、起動時や、原液が供給されないといった非定常状態でも、運転制御方法を特に変更することなく、そのまま膜分離処理を続けていた。例えば、特許文献1記載の方法では、膜分離処理エタノールは原液槽(凝縮液槽)に戻されることなくすべて製品として取り出されていた。この場合、運転制御ロジックは複雑にならず、シンプルなプログラミングが可能であるが、温度、圧力などに非定常状態が生じるに伴い、製品が規定値を一時的に満足されない状況が起こる恐れがあった。
【0003】
また、エタノール等有機溶剤の脱水処理においては、製品の規定値(濃縮度)をインラインで常時監視できるセンサーが殆ど存在しないため、適宜製品をサンプリングして分析評価を行う必要があり、それにも限界があるため、結果的に製品が規定値を満足していない状況を検知できない場合が起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2004/073841A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、膜分離設備の非定常状態や膜性能が低下した場合においても、規定値を満足できる製品だけを取り出すことができる、蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法であって、同設備の起動時に、膜の一次側および二次゛側が定常状態になるまで、膜モジュール、凝縮器、蒸発器を経た一次側の処理流体を再び膜モジュールに循環させながら有機溶媒の濃縮を続けることを特徴とする、蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法である。
【0007】
請求項2に係る発明は、蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法であって、同設備の運転途中に膜モジュールの一次側への処理すべき有機溶媒の供給が途絶えた場合、膜モジュール、凝縮器、蒸発器を経た一次側の処理流体を再び膜モジュールに循環させながら膜モジュールの一次側を定常状態に保持することを特徴とする、蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法である。
【0008】
請求項3に係る発明は、蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法であって、原液タンク内または蒸発器内の液面が規定値まで下がった時に循環運転モードに移行し、逆に同液面が規定値まで上がった時は循環運転モードを解除することを特徴とする、請求項2記載の運転制御方法である。
【0009】
請求項4に係る発明は、蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法であって、膜分離処理された流体の有機溶媒濃度をセンサーで検知し、該濃度が規定値を満足しない場合は膜モジュール、凝縮器、蒸発器を経た一次側の処理流体を再び膜モジュールに循環させながら有機溶媒の濃縮を続け、該濃度が規定値を満足した時点で循環運転モードを解除することを特徴とする、蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、膜分離設備の起動時において、規定値を満足しない製品は取り出さないようにすることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、膜分離設備の運転途中に原液の供給が一時的に停止した場合でも、膜モジュールの一次側を温度および圧力の定常状態に保持することができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、膜モジュールの一次側を温度および圧力の定常状態に保持するために、原液タンクまたは蒸発器内の液面が規定値まで下がった時に凝縮液の一部を原液タンクへ戻して膜モジュールへ供給する原液の蒸発蒸気がゼロにならないようにし、逆に同液面が規定値まで上がった時は凝縮液を製品として取り出すことができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、凝縮液が規定値を満足しているか否かをセンサーでインライン検知し、凝縮液が規定値を満足しない場合は凝縮液の一部を原液タンクへ戻し、規定値を満足したら凝縮液を製品として取り出すように、センサーから切り替え電磁弁に開閉信号を送ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例を挙げる。
【0016】
<全体プロセス>
蒸気透過法による膜分離設備の全体プロセスを、エタノール脱水を例に、図1に示す。
【0017】
原液タンクから蒸発器に原液を送液し、そこで蒸発させた原液の蒸気を膜モジュールへ導入する。膜モジュールへ導入された原液蒸気は、膜により水分だけが透過され、透過しないエタノールが濃縮される。濃縮エタノール蒸気はエタノールコンデンサに導かれて液化され、製品として取り出される。
【0018】
このプロセスを自動で運転させるために、図1の通り各々の制御フローが必要となる。
【0019】
本発明においては、製品として取り出される凝縮エタノールのライン(7)から分岐し、同エタノールの少なくとも一部を原液タンクに戻す循環ライン(4)を設け、ライン(7)(4)の分岐点後流側に各々切替弁(1)(2)を設置して、製品をそのまま取り出すかまたは循環するかを自動的に操作させる。また凝縮エタノールのライン(7)にエタノール濃度を検知するセンサー(3)を設置して、製品が規定値を満足しているかどうかをチェックする機能を持たせる。センサー(3)は密度計と温度計を備え密度と温度の測定値からエタノール濃度を算出し切替弁(1)(2)に弁開閉信号を送る。切替弁(1)(2)は、起動時や通常運転時に凝縮エタノールが製品規定値を満足していない場合や、原液が供給されない場合に、それを検知したセンサー(3)からの信号で、凝縮エタノールを原液タンクへ戻すように、開閉される電磁弁である。
【0020】
製品として必要なエタノール濃縮度を得るためには、膜の一次側及び二次側が規定の圧力まで到達していることが必要である。つまり一次側は規定圧以上、二次側は規定圧以下を満足していないと、膜を透過する水分が不足することになり、透過しないエタノールの濃縮度が不足する可能性が出てくる。
【0021】
尚、図1中、LICは液面表示制御装置を示し、PICは圧力表示制御装置を示す。
【0022】
<起動時>
膜分離設備の起動前は膜一次側/二次側とも大気圧状態である。二次側については真空ポンプを稼動して、空気を主体とした不凝縮ガスを取り除くことで真空状態を作る。一次側は蒸発器にてエタノールが加熱蒸発して圧力が徐々に上昇していく。両側とも規定の圧力に到達するまで時間が必要ではあるが、その間も処理すべき流体は膜モジュール内を流れることになり、膜モジュールを出たあとの製品規定値が満足していない状況がしばらく続く。
【0023】
そこで膜一次側/二次側の温度、圧力が定常状態になるまでの間は、膜処理液を原液タンクに戻して循環させるように、切替弁(1)を閉、切替弁(2)を開にする。ただしこの時、原液タンク液面制御もしくは製品タンク液面制御のどちらかについては、コントロール弁(5)および/または(6)を固定開度とする必要がある。
【0024】
製品のエタノール濃度を検知するセンサー(3)で濃縮度が満足される状態が検知されたならば、切替弁(1)(2)の開閉の切り換えを行い、制御フローを全て自動制御状態にする。この時には原液タンク及び蒸発器に滞留しているエタノールは上述した循環状態で濃縮されており、原液タンクと蒸発器の原液は通常濃度のエタノールが供給されながら徐々に水分が増えていき、最終的には原液と同じ濃度になるため、脱水処理する上では非常に滑らかな運転操作が実現できる。
【0025】
<原液一時供給停止時>
膜分離での定常運転が続きながら、原液の供給が一時的に停止する場合があり得る。この時に自動制御フローの連係から、蒸発器への原液供給が途絶えることになる。蒸発器への原液供給が途絶えると、そこで加熱に利用しているスチーム供給が制御上ストップすることになり、結果として膜一次側の圧力がキープできなくなる。原液供給がない間は濃縮エタノールがエタノールコンデンサに流れて来ないので、濃縮エタノールを製品として取り出されないが、次の原液供給が始まる際には、圧力、温度が定常状態になるまで時間がかかり、その間の製品濃縮度が怪しくなる可能性がある。
【0026】
そこでセンサー(3)が原液供給が無くなったことを検知したならば、処理液を原液タンクに戻して循環させるよう、上記起動時と同様の操作を行い、原液供給が復活したら循環状態を解除する。この時も原液タンク及び蒸発器に滞留しているエタノールは循環状態で濃縮されているので、脱水処理復帰の上では非常に滑らかな運転操作が実現できる。
【0027】
尚、定常運転から循環運転へのモード移行及び解除の際に、膜一次側の状態(温度・圧力)ができるだけ変化しないようにすることが重要であるが、そのための方策として、
・膜一次側への原料蒸気の供給がゼロにならないように、原液供給の下限値を設ける。具体的には、原液タンク液面制御のコントロール弁(5)の開度下限値を設定することで、コントロール弁(5)が全閉しないようにする。こうすることで、蒸発器から常に原液の蒸気が発生することになり、膜一次側の温度・圧力が低下することはない。
【0028】
・原液タンク液面により循環運転に移行または解除を行う。具体的には、原液が供給されなくなってもコントロール弁(5)が全閉にはならないので、コントロール弁(5)計測値が下降する。そしてある設定値Lになった時に循環運転へ移行させる。逆に原液供給が復活されれば、循環運転中にコントロール弁(5)計測値が上昇する。そしてある設定値Hに戻った時に循環運転を解除させる。このような制御を行うことで、前段の運転状況に関係なく、脱水設備独自で原液供給の有無が判断でき、前段設備との信号のやり取りも不要となる。
【0029】
<製品濃度検知のセンサー>
センサー(3)は密度計と温度計を備え密度と温度の測定値からエタノール濃度を算出し切替弁(1)(2)に弁開閉信号を送る。検知された濃度の絶対値が正確ではなくても、相対的に評価できれば、製品品質の異常警報やそれに伴う運転自動操作は十分に対応可能となる。
【符号の説明】
【0030】
(1)(2) 切替弁
(3) センサー
(4)(7) ライン
(5) (6) コントロール弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法であって、同設備の起動時に、膜の一次側および二次゛側が定常状態になるまで、膜モジュール、凝縮器、蒸発器を経た一次側の処理流体を再び膜モジュールに循環させながら有機溶媒の濃縮を続けることを特徴とする、蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法。
【請求項2】
蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法であって、同設備の運転途中に膜モジュールの一次側への処理すべき有機溶媒の供給が途絶えた場合、膜モジュール、凝縮器、蒸発器を経た一次側の処理流体を再び膜モジュールに循環させながら膜モジュールの一次側を定常状態に保持することを特徴とする、蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法。
【請求項3】
蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法であって、原液タンク内または蒸発器内の液面が規定値まで下がった時に循環運転モードに移行し、逆に同液面が規定値まで上がった時は循環運転モードを解除することを特徴とする、請求項2記載の運転制御方法。
【請求項4】
蒸気透過法により有機溶媒中の水分を除去する膜分離設備の運転制御方法であって、膜分離処理された流体の有機溶媒濃度をセンサーで検知し、該濃度が規定値を満足しない場合は膜モジュール、凝縮器、蒸発器を経た一次側の処理流体を再び膜モジュールに循環させながら有機溶媒の濃縮を続け、該濃度が規定値を満足した時点で循環運転モードを解除することを特徴とする、蒸気透過法による膜分離施設の運転制御方法。

【図1】
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