説明

蒸着装置及び成膜方法

【課題】放射線画像変換パネルの蛍光体を蒸着法で成膜するときに、突沸や再蒸発による膜欠陥がない薄膜を作製することを可能とする蒸着装置、及び、該成膜方法を用いた放射線画像変換パネルの蛍光体の成膜方法を提供することを目的とする。
【解決手段】蒸着装置1のルツボ2の蓋3に、ルツボ2の内部方向に凸部を有し凸部の側壁面8にルツボ2内部へ連通する穿孔34を備えルツボ2に取り外し可能な蓋3を採用し、穿孔34を通して蒸着面のいかなる場所からもルツボ2内部の原材料を直接見ることができない位置に穿孔34を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置、及び、該蒸着装置を用いた放射線画像変換パネルの蛍光体の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線画像のような放射線画像は医療現場において病状の診断に広く用いられている。特に、増感紙−フィルム系による放射線画像は、長い歴史のなかで高感度化と高画質化が図られた結果、高い信頼性と優れたコストパフォーマンスを併せ持った撮像システムとして、いまなお、世界中の医療現場で用いられている。
【0003】
しかしながらこれら画像情報はいわゆるアナログ画像情報であって、近年発展を続けているデジタル画像情報のような、自由な画像処理や瞬時の電送ができない。
【0004】
そして、近年ではコンピューテッドラジオグラフィ(CR)やフラットパネル型の放射線ディテクタ(FPD)等に代表されるデジタル方式の放射線画像検出装置が登場している。これらは、デジタルの放射線画像が直接得られ、陰極管や液晶パネル等の画像表示装置に画像を直接表示することが可能なので、必ずしも写真フィルム上への画像形成が必要なものではない。その結果、これらのデジタル方式のX線画像検出装置は、銀塩写真方式による画像形成の必要性を低減させ、病院や診療所での診断作業の利便性を大幅に向上させている。
【0005】
ところで、近年、高輝度、高感度、高鮮鋭性の輝尽性蛍光体を用いた放射線像変換方法として、CRでは臭化セシウム(CsBr)などのハロゲン化アルカリを母体にEuを賦活した輝尽性蛍光体を用いた放射線画像変換パネルが提案されている。特にEuを賦活剤とすることで、従来不可能であったX線変換効率の向上が可能になるとされている。同様にFPDではヨウ化セシウム(CsI)などのハロゲン化アルカリを母体にTlを賦活した蛍光体を用いた放射線画像変換パネルが提案されている。
【0006】
また、診断画像の解析において、より高鮮鋭性の放射線画像変換パネルが要求されており、鮮鋭性改善のための手段として、例えば形成される輝尽性蛍光体の形状そのものをコントロールして感度及び鮮鋭性の改良を図る試みがされている。
【0007】
これらの試みの1つとして、例えば、気相堆積法によって支持体上に、支持体の法線方向に対し一定の傾きをもった細長い柱状結晶を形成した輝尽性蛍光体層を有する放射線画像変換パネルが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、気相体積法(蒸着法)では、ルツボ内の粉末原料が固体から液体に変わる際、もしくは液体に変わった後に、突沸(スプラッシュ)が発生する。その突沸が画像欠陥となり放射線画像変換パネルの収率を大きく低下させている。
【0009】
これを解決する手段として、ルツボの開口部にノズルをつけて直接突沸が基板に付着しないようにする方法開示されている(例えば特許文献2、3参照)。
【0010】
また、突沸による画像欠陥を解消する方法として、2枚のカバーを用いて直接突沸した材料が基板に付着しないようにする方法が開示されている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−58000号公報
【特許文献2】特開平8−269696号公報
【特許文献3】特開平8−274090号公報
【特許文献4】特開2009−108408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2、3で開示されている技術のように、ルツボの開口部の上にノズルなどの筒状のものをつけるとその部分の温度がルツボより低くなってしまい、蒸着膜の組成の変化を惹起してしまう。またノズル部分を別途加熱しようとすれば、余分に加熱装置が必要であり、既存の装置に込み入れる際に大きな障害になってしまう。
【0013】
また、特許文献4で開示されている技術のように、カバーを2枚重ねると内側のカバーを抜けてきた上記が外側のカバーへ付着し、原料溜まりが生じる。かかる原料溜まりが再蒸発することにより、基板に原料が付着し、画像欠陥を発生させる可能性がある。
【0014】
本発明は、放射線画像変換パネルの蛍光体を蒸着法で成膜するときに、突沸や再蒸発による膜欠陥がない薄膜を作製することを可能とする蒸着装置、及び、該成膜方法を用いた放射線画像変換パネルの蛍光体の成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0016】
1.ルツボと、
前記ルツボの内部方向に凸部を有し、前記凸部の側壁面に前記ルツボ内部へ連通する穿孔を備え、前記ルツボに取り外し可能な蓋と、
前記ルツボを加熱する加熱手段と、
を有し、
前記加熱手段による加熱により蒸発された前記ルツボ内部の原材料を、前記穿孔を通して蒸着面に成膜する基板を所定の位置に搭載可能な蒸着装置であって、
前記蒸着面のいかなる場所からも前記ルツボ内部の前記原材料を直接見ることができない位置に前記穿孔を配置することを特徴とする蒸着装置。
【0017】
2.前記凸部は前記ルツボの内部方向に広がり形状を有していることを特徴とする前記1記載の蒸着装置。
【0018】
3.蓋3の材質と前記ルツボの材質の熱膨張率の差は一方の熱膨張率を基準として50%以内であることを特徴とする前記1または2記載の蒸着装置。
【0019】
4.前記蓋と、前記ルツボの材質が、融点が900℃以上3600℃以下の金属、もしくは熱伝導率が10W/(m・K)以上400W/(m・K)以下のセラミックスであることを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【0020】
5.下記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする放射線画像変換パネルの蛍光体を成膜するのに用いられることを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の蒸着装置。
一般式(1)
X・aMX′・bMX″:eA
[式中、MはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MはM以外のLi、Na、K、Rb、及びCsからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選ばれる少なくとも一種の三価金属を表し、X、X′及びX″はF、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Eu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、及びTlから選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の範囲の数値を表す。]
6.前記1から5のいずれか1項に記載の蒸着装置を用いて製造することを特徴とする放射線画像変換パネルの蛍光体の成膜方法。
【発明の効果】
【0021】
放射線画像変換パネルの蛍光体を蒸着法で成膜するときに、突沸や再蒸発による膜欠陥がない薄膜を作製することを可能とする蒸着装置、及び、該成膜方法を用いた放射線画像変換パネルの蛍光体の成膜方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】蒸着装置1の主要部の断面図である。
【図2】側壁面32が、フランジ部31に垂直に形成されている場合の主要部の蒸着装置1の断面図である。
【図3】比較の蒸着装置の主要部の一例を表す断面図である。
【図4】比較の蒸着装置の主要部の一例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施形態を図面により説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限られるものではない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0024】
図1は、本実施形態にかかる蒸着装置1の主要部の断面図である。
【0025】
本発明の蒸着装置1は、ルツボ2と、ルツボ2から取り外し可能な蓋3と、ルツボ2を加熱する加熱手段7とから構成される。
【0026】
蓋3は凸部を有する形状を成しており、フランジ部31、側壁面32、底面33を備えている。底面33はフランジ部31に対して、ルツボ2内部に向けられる。
【0027】
側壁面32は、ルツボの内部方向に、フランジ部31から底面33に向かって広がり形状を有している。図1において、フランジ部31の垂線と側壁面32とのなす角度θは、0度<θ<90度であることが好ましく、より好ましくは、0度<θ<85度であり、特に好ましくは、0度<θ<80度である。
【0028】
側壁面32には側壁面32を連通する穿孔34が形成されている。
【0029】
蓋3はルツボ2に対して取り外し可能であり、蓋3を開けてルツボ2に蒸着すべき原材料を充填する。穿孔34を有する蓋3が取り外し可能であるので、蒸発材料の充填や、ルツボ2の洗浄も容易である。
【0030】
真空装置9内には原材料を蒸着させて堆積させる被蒸着体である基板5が搭載可能に構成されている。
【0031】
蓋3の材質とルツボ2の材質の熱膨張率の差は一方の熱膨張率を基準として50%以内であることが好ましい。ルツボ2や蓋3が加熱された際、熱膨張率の差が大きいと、ルツボ2と蓋3の間に隙間が生じて原材料が穿孔34以外の場所から真空装置9内に飛び出して被蒸着体である基板5に堆積し、放射線画像変換パネルの特性が悪化する場合がある。しかし、蓋3の材質とルツボ2の材質の熱膨張率の差は一方の熱膨張率を基準として50%以内に設定しておけば、かかる不具合は発生しない。
【0032】
蒸着装置1と、基板5とは、真空装置9内の所定の位置に配置されている。蒸着対象である基板5は、所定の基板ホルダー10に取り付けられている。
【0033】
穿孔34を有する蓋3は、上記のように、ルツボ2の内部方向に凸部を有する構造であり、凸部の側壁面8にルツボ2内部へ連通する穿孔34を有することによって、基板の蒸着面のいかなる場所からも、ルツボ2中の原材料が直接見えない構造になっている。すなわち、図1において、基板5の端部から穿孔34方向に描かれた直線13は、ルツボ2内の原材料の上面12は見えないようになる。
【0034】
これに対し、図2のように、側壁面32が、フランジ部31に垂直に形成されている場合には、基板5の端部から穿孔34に通して描かれた直線13は、ルツボ2内の原材料の上面12に到達してしまう。図2は、側壁面32が、フランジ部31に垂直に形成されている場合の蒸着装置1の主要部の断面図である。
【0035】
このように、側壁面32は、ルツボの内部方向に、フランジ部31から底面33に向かって広がり形状を有することによって、ルツボ2内部から、突沸によって直線的に飛行する突沸粒子はルツボから基板にぶつかることはない。
【0036】
従って、突沸粒子が付着することによる膜欠陥がない薄膜を成膜することができる。
【0037】
本発明の蒸着装置1においては、蓋3とルツボ2には固定用の出っ張りを設けることで、蓋3とルツボ2を金属ワイヤー15等で固定でき(図1参照)、好ましい。金属ワイヤー15で固定することでルツボ2内の内圧が上がっても、蓋3が外れることはない。
【0038】
本発明の蒸着装置1においては、蓋3とルツボ2の材質は、融点が900℃以上3600℃以下、好ましくは1400℃以上3500℃以下、さらに好ましくは2000℃以上3100℃以下の金属であることが好ましい。このような金属としては、例えば、金、銀、コバルト、タングステン、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉄、銅、ニオブ、ニッケル、ネオジウム、白金、モリブデン、マンガン、ステンレスなどが挙げられる。上記において、融点が上記範囲のようであることにより高い耐久性、蒸着レートの安定性、膜厚の高い均一性の効果を奏することができる。
【0039】
もしくは、本発明の蒸着装置1においては、蓋3とルツボ2の材質は、熱伝導率が10W/(m・K)以上400W/(m・K)以下、好ましくは50W/(m・K)以上350W/(m・K)以下、さらに好ましくは80W/(m・K)以上300W/(m・K)以下のセラミックスでも可能であり好ましい。このようなセラミックスとしては、例えば、窒化アルミ、炭化珪素、アルミナ、窒化ボロン、カーボンなどが挙げられる。
【0040】
上記において、熱伝導率が上記範囲のようであることによりルツボ2が均一に加熱され、蒸着レートの安定性、膜厚・賦活剤の高い面内均一性の効果を奏することができる。
【0041】
蓋3とルツボ2を固定するのに用いられる金属ワイヤーは、融点が900℃以上3600℃以下、好ましくは1400℃以上3500℃以下、さらに好ましくは2000℃以上3100℃以下の金属が好ましく、例えば、金、銀、コバルト、タングステン、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉄、銅、ニオブ、ニッケル、ネオジウム、白金、モリブデン、マンガン、ステンレスなどが挙げられ、径は0.2〜1.0mmが好ましい。上記において、融点が上記範囲のようであることにより蒸着中にワイヤーが緩んだり切れたりしないので、蒸着レート安定性の効果を奏することができる。
(蛍光体の成膜方法)
ルツボ2は真空装置9内のクヌーセンセル(間接加熱蒸発源、以下Kセルと表記する)にセットされ、被蒸着対象の基板5をセット後、真空排気される。
【0042】
蒸着装置1はルツボ2に直接電流を流し抵抗加熱する方法やルツボを周りのヒーターで間接的に加熱する方法、高周波誘導加熱でルツボ、蒸発材料を加熱する方法などにより加熱されることができる。
【0043】
基板5は平坦な金属の基板5が用いられ、例えばアルミニウム、マグネシウム合金などを用いることができるが、樹脂、セラミックでもよい。また基板5上に反射層や保護層を設けてもよい。
【0044】
真空装置9内は、好ましくは1.0×10−3Pa程度まで真空に排気した後、Arガス、酸素ガス、窒素ガス等のガスを導入し、5.0×10−2Pa程度のガス圧に真空度を調節する等して適宜に調整される。基板5を回転して基板5を好ましくは60〜250℃に加熱したあと、ルツボ2を加熱する。初期溶融中はルツボ2の上にシャッターをして所定の温度(好ましくは700〜900℃)になったところでシャッターを開け、基板5に蛍光体材料(例えば、CsBr:Eu、CsI:Tl等)を蒸着する。膜厚が所望所定の厚さ(100〜1000μm、(好ましくは500μm等))となったところで蒸着を終了し、冷却後、基板5に蛍光体を成膜した基板5を取り出す。さらに、必要に応じて、輝尽性蛍光体層の支持体とは反対の側の面に、物理的にあるいは化学的に前記蛍光体層を保護するための保護層を設けてもよい。保護層は、保護層用の塗布液を蛍光体層の表面に直接塗布して形成もよいし、また、予め別途形成した保護層を蛍光体層に接着してもよい。
【0045】
当該保護膜は種々の材料を用いて形成することができる。例えば、CVD法によりポリパラキシリレン膜を形成する。即ち、蛍光体を成膜した基板5の表面全体にポリパラキシリレン膜を形成し、保護膜とすることができる。
【0046】
また、別の態様の保護膜として、高分子保護フィルムを設けることもできる。
【0047】
上記の高分子保護フィルムの厚さは、空隙部の形成性、蛍光体層の保護性、鮮鋭性、防湿性、作業性等を考慮し、12μm以上、100μm以下が好ましく、更には20μm以上、60μm以下が好ましい。また、ヘイズ率が鮮鋭性、放射線画像ムラ、製造安定性、作業性等を考慮し、3%以上、40%以下が好ましく、更には3%以上、10%以下が好ましい。ヘイズ率は日本電色工業株式会社NDH 5000Wにより測定した値を示す。
【0048】
必要とするヘイズ率は市販されている高分子フィルムから適宜選択し、容易に入手することが可能である。以上により基板5に蛍光体を成膜した本発明の放射線画像変換パネルが得られる。
【0049】
本発明の蒸着装置1を用いて好適に成膜し製造される放射線画像変換パネルの蛍光体としては、CsBr:Eu、CsI:Tl等、が挙げられるが、中でも、下記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする放射線画像変換パネルの蛍光体が好ましい。
一般式(1)
X・aMX′・bMX″:eA
[式中、MはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MはM以外のLi、Na、K、Rb、及びCsからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選ばれる少なくとも一種の三価金属を表し、X、X′及びX″はF、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Eu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、及びTlから選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の範囲の数値を表す。]
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0051】
本発明の蒸着装置1は図1に示した蒸着装置を使用する。比較の蒸着装置は、図3及び図4に示した蒸着装置を使用する。
《本発明の放射線画像変換パネルP1の作製》
図1に示す本発明の蒸着装置1を使用して、蒸着装置1の窒化アルミ製のルツボ2に、CsBr:Euを400g充填し、側面に穿孔34を有する窒化アルミ製の蓋(取り外し可能であり穿孔34を有する蓋)を金属ワイヤー15(金属:タンタル、融点:3017℃)でルツボ2に固定した。
【0052】
ルツボ2を真空装置9内のKセルにセットし、500mm□の基板(種類:ポリイミド樹脂シート)をセット後、真空引きする。
【0053】
蒸着装置1はKセルを使用する。
【0054】
真空装置内を1.0×10−3Paまで真空に排気した後、Arを導入し、5.0×10−2Paに真空度を調節する。基板5を回転して基板5を100℃に加熱した後、ルツボ2を加熱する。初期溶融中はルツボ2の上にシャッターをして所定の温度(800℃)になったところでシャッターを開け、基板5にCsBr:Euを蒸着する。膜厚が150μmとなったところで蒸着を終了し、基板5に蛍光体を成膜した基板5を冷却後取り出して、基板5に蛍光体を成膜した本発明の放射線画像変換パネルP1を作製した。
《本発明の放射線画像変換パネルP4の作製》
蛍光体材料CsI:Tlを使用した他は上記「《本発明の放射線画像変換パネルP1の作製》」の場合と同様にして、基板5に蛍光体を成膜した本発明の放射線画像変換パネルP4をそれぞれ作製した。
《比較の放射線画像変換パネルP2、P3の作製》
図1に示す本発明の蒸着装置1をそれぞれ使用する代わりに、図3に示す比較の蒸着装置20(上面に穿孔14を有する蓋16を使用)、図4に示す比較の蒸着装置30(仕切板11を2枚重ねるルツボ2を使用)、をそれぞれ使用した他は、上記《本発明の放射線画像変換パネルP1の作製》の場合と同様にして、基板5に蛍光体を成膜した本発明の放射線画像変換パネルP2、P3をそれぞれ作製した。
《比較の放射線画像変換パネルP5、P6の作製》
蛍光体材料CsI:Tlを使用した他は上記「《本発明の放射線画像変換パネルP2、P3の作製》」の場合と同様にして、基板5に蛍光体を成膜した本発明の放射線画像変換パネルP5、P6をそれぞれ作製した。
《評価方法》
作製した放射線画像変換パネルの表面を顕微鏡(倍率:100倍)で観察し、500mm□内にある50μm以上の突起物の数を調べた。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例P2、P5の正面に穿孔14を有す蓋を付したルツボ2で作製した膜は50μm以上の突起がそれぞれ10個、8個あり。比較例P3、P6の蓋なしのルツボ2で作製した膜は50μm以上の突起がそれぞれ97個、52個あったのに対して、側面に穿孔34を有する蓋A、Bを使用した場合0個であった。
【0057】
表1から、本発明の場合には、気相蒸着法で薄膜を作製するときに突沸による膜欠陥がない薄膜を成膜することができることがわかる。
【0058】
以上のように、蒸着装置のルツボ2の蓋3に、ルツボ2の内部方向に凸部を有し凸部の側壁面8にルツボ2内部へ連通する穿孔34を備えルツボ2に取り外し可能な蓋3を採用し、穿孔34を通して蒸着面のいかなる場所からもルツボ2内部の原材料を直接見ることができない位置に穿孔34を配置することで、突沸粒子が付着することによる膜欠陥がない薄膜を成膜することができる。従って、放射線画像変換パネルの蛍光体を蒸着法で成膜するときに、突沸や再蒸発による膜欠陥がない薄膜を作製することを可能とする蒸着装置、及び、該成膜方法を用いた放射線画像変換パネルの蛍光体の成膜方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0059】
1、20、30 蒸着装置
2 ルツボ
3、16 蓋
5 基板
8 側壁面
9 真空装置
10 基板ホルダー
14、34 穿孔
15 金属ワイヤー
31 フランジ部
32 側壁面
33 底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボと、
前記ルツボの内部方向に凸部を有し、前記凸部の側壁面に前記ルツボ内部へ連通する穿孔を備え、前記ルツボに取り外し可能な蓋と、
前記ルツボを加熱する加熱手段と、
を有し、
前記加熱手段による加熱により蒸発された前記ルツボ内部の原材料を、前記穿孔を通して蒸着面に成膜する基板を所定の位置に搭載可能な蒸着装置であって、
前記蒸着面のいかなる場所からも前記ルツボ内部の前記原材料を直接見ることができない位置に前記穿孔を配置することを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記凸部は前記ルツボの内部方向に広がり形状を有していることを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
蓋3の材質と前記ルツボの材質の熱膨張率の差は一方の熱膨張率を基準として50%以内であることを特徴とする請求項1または2記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記蓋と、前記ルツボの材質が、融点が900℃以上3600℃以下の金属、もしくは熱伝導率が10W/(m・K)以上400W/(m・K)以下のセラミックスであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるハロゲン化アルカリを母体とする放射線画像変換パネルの蛍光体を成膜するのに用いられることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の蒸着装置。
一般式(1)
X・aMX′・bMX″:eA
[式中、MはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MはM以外のLi、Na、K、Rb、及びCsからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MはY、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuから選ばれる少なくとも一種の三価金属を表し、X、X′及びX″はF、Cl、Br、及びIから選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Eu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、及びTlから選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の範囲の数値を表す。]
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の蒸着装置を用いて製造することを特徴とする放射線画像変換パネルの蛍光体の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−21223(P2011−21223A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166454(P2009−166454)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】