説明

蓄光性白色発光蛍光体、蛍光ランプ、蓄光性表示体、及び蓄光性成型品

【課題】 紫外線で励起され、該励起源が遮断された後の残光強度が大で、特に白色の色純度が良好な残光の持続が可能な蓄光性白色発光蛍光体、及び該蛍光体を用いた蛍光ランプ、蓄光性表示体、及び蓄光性成型品を提供すること。
【解決手段】 紫外線を吸収し第1の波長域に長残光性の発光をする第1の蛍光体と、該第1の波長域の発光の少なくとも1部を吸収し第2の波長域の発光をする第2の蛍光体とを混合、又は互いに付着させた蛍光体で、発光の色度点が色度座標上のP点(0.200,0.200)、Q点(0.300,0.400)、R点(0.400,0.400)、及びS点(0.300,0.400)で囲まれる四角形の内部にあり、かつ常用光源D65の蛍光灯により200lxの照度で20分間照射し、該照射を遮断してから10分経過後の残光の強度(I[10])が、110mcd/m以上である蛍光体とし、該蛍光体を用いた蛍光ランプ、蓄光性表示体、及び蓄光性成型品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽光中の紫外線や蛍光灯等の紫外線を吸収して長残光性の白色発光を呈する蛍光体(以下、蓄光性白色発光蛍光体ともいう)、及び該蛍光体を用いた蛍光ランプ、避難誘導標識、ディスプレイ等の蓄光性表示体、及び蓄光性成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震等による大都市での高層ビル、地下鉄、家庭等における突然の停電時や屋外において津波の危険がある状況で、安全かつ適切な避難誘導対策が検討されており、避難誘導のための製品として、停電時や夜間においても長時間発光する蓄光性蛍光体を用いた避難誘導標識や、階段、手すり等に貼付する蓄光シート、蓄光テープが使用されるようになってきている。
また蓄光性蛍光体は、家庭やオフィスで使用される蛍光灯の蛍光膜や、蛍光灯に付設された拡散板やカバーシート、蛍光灯スイッチ等にも使用されている。その外、壁のディスプレー、玩具、釣具等のプラスチック成型品やガラス、セラミック、陶板等の成型品として多種多様に蓄光性蛍光体が使われるようになってきていおり、これら多様な用途のために、近年より高輝度でかつ種々の発光色の発光を呈する蓄光蛍光体の開発が強く望まれてきている。
【0003】
ところで、前記のような用途の蓄光蛍性光体として、従来、青色発光の(Ca,Sr)S:Bi蛍光体、黄緑色発光のZnS:Cu蛍光体、また赤色発光の(Zn,Cd)S:Cu蛍光体等の硫化物系の蛍光体が知られている。
しかし前記の(Ca,Sr)S:Bi蛍光体は母体の安定性が極めて悪く、輝度および残光特性も十分ではない。また、(Zn,Cd)S:Cuも毒性物質であるCdが母体の半分ほどを占めており、輝度、および残光も満足できないため、いずれも現在ではほとんど使用されていない。また、ZnS:Cu蛍光体は安価なため避難誘導標識、屋内の夜間表示等かなり使用されてきているが肉眼で認識できる残光時間が1〜2時間とそれほど長くはなく、耐候性も劣る。
【0004】
近年、より高輝度の新規な蓄光性蛍光体として、青色発光のEu及びDyで付活されたSr−Mg−Si系複合酸化物蛍光体(特許文献1)や緑色発光のSrAl:Eu,
Dy(特許文献2)、緑青色発光のSrAl1425:Eu,Dy(特許文献3)、SrSiO:Eu:Dy、SrAlSi:Eu,Dy、SrAl18Si37:Eu,Dy(特許文献4)等のEu及びDyで付活されたSr−Al系や、Sr−Al−Si系の複合酸化物系蛍光体が開発されている。
【0005】
ところで、最近では表示の多様化が進み、使用場所、目的にあった色々な発光色の蓄光性蛍光体が望まれてきており、また、特に目にやさしく自然な白色発光を呈する高輝度の蓄光性蛍光体が強く望まれて来ている。
従来、蓄光性の白色発光蛍光体としては、例えば、組成式が(Ca1−p−q−rEuNdMn)O・(Al1−m・kPで表される蛍光体(特許文献5)が知られているが、その残光特性は十分ではなく、かつその白色の色度値はほぼ(x/y=0.300/0.430)であって、望まれる白色色度(x/y=0.300/0.300)に比べて色純度が悪く実用されていない。
【0006】
また特許文献6には、励起源のエネルギーを吸収して第一の発光スペクトルを有する蓄光性蛍光物質と、この第一の発光スペクトルの少なくとも一部を変換して第一の発光スペクトルとは異なる第二の発光スペクトルを有する第二の蛍光物質との複数の蛍光物質からなる蛍光物質、及びこの第一の発光スペクトルを有する蓄光性蛍光物質と第二の蛍光物質とをそれぞれ層状に形成した蛍光物質を蛍光膜とする蛍光ランプが記載されている。
そして、前記の第一の発光スペクトルを有する蓄光性蛍光物質として硫化物系蛍光物質、特定の希土類元素で付活されたアルミン酸塩系蛍光物質、酸硫化物系蛍光物質等が例示されており、また、第二の蛍光物質としては、Ce付活酸化イットリウム・アルミニウム系蛍光物質、希土類元素で付活された窒化物系蛍光物質、希土類元素で付活されたオキシ窒化物系蛍光物質、Euで付活されたケイ酸塩系蛍光物質等が例示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献6に記載の蛍光物質を適用した蛍光ランプ及び発光装置は、2種類の蛍光体がそれぞれ層状に塗布された蛍光膜を備え、特殊な透過光を利用した構造をしており、また、その発光色は特許文献6によれば真の白色に最も近いものでも色度点がおよそx/y=0.302/0.375であって、真の白色(色度点x/y=0.300/0.300)とはかなり外れており、その残光も白色としては純度の悪い発光を呈する。
そのため、外光である太陽光中の紫外線や、紫外線を含む蛍光灯より刺激され、残光の強度が大で、かつ、残光の持続時間が長く、特に色純度のよい白色の残光を呈する蓄光性蛍光体、及び表示板等の蓄光性蛍光体の応用製品の開発が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特許第3257942号明細書
【特許文献2】特許第2543825号明細書
【特許文献3】特許第2697688号明細書
【特許文献4】特開2004−359701号公報
【特許文献5】特開平 8−151573号公報
【特許文献6】特開2005−330459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記状況に鑑みてなされたものであり、紫外線や紫外線を含む太陽光、蛍光灯等の紫外線で励起され、その励起光(紫外線)が遮断された後の残光強度が大で、特に従来のものよりも色純度の良好な白色の残光を持続することができる蓄光性の白色発光蛍光体、及び該蛍光体を用いた蛍光ランプ、蓄光性表示体、及び蓄光性成型品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は多数の蛍光体の蓄光性の有無を検討する中で、紫外線や太陽光、蛍光灯中の紫外線で励起されて発光する特定の蓄光性蛍光体と、この蛍光体の発光の少なくとも1部を吸収して該蓄光性蛍光体の発光と補色関係にある色に発光をする特定の蛍光体とからなる混合蛍光体は、従来のものよりも白色純度に優れた良好な白色発光を呈し、しかも励起源を遮断した後も一定の発光強度を維持し蓄積性に優れた蓄積性白色発光蛍光体が得られることを見いだし、該蛍光体を蛍光膜に適用した蛍光ランプとし、ディスプレイ部に用いて蓄光性表示体とし、また、プラスチック等に含有させて成型品とすることにより前記課題を解決した。
【0011】
(1)本発明の蓄光性白色発光蛍光体は、紫外線を吸収して第1の波長域に長残光性の発光をする第1の蛍光体と、前記第1の波長域の発光の少なくとも1部を吸収して第2の波長域の発光をする第2の蛍光体とを混合、もしくは互いに付着させてなる蛍光体であって、その発光の色度座標がP点(0.200,0.200)、Q点(0.300,0.400)、R点(0.400,0.400)、及びS点(0.300,0.200)の4点で囲まれる四角形の辺上、及びその内部(但し、P点とQ点とを結ぶ線上は除く。以下、この色度座標の範囲を「4点で囲まれる四角形の内部」ということにする)にあり、かつ常用光源D65の蛍光灯により200lxの照度で20分間照射した後、その照射を遮断した時点から10分後の残光の強度(I[10])が、110mcd/m以上であることを特徴とする。
【0012】
(2)また、本発明の蓄光性白色発光蛍光体は、前記P点の色度座標が(0.200,0.200)、前記Q点の色度座標が(0.300,0.400)、前記R点の色度座標が(0.400,0.400)、及び前記S点の色度座標が(0.250,0.200)であることを特徴とする。
【0013】
(3)さらに本発明の蓄光性白色発光蛍光体は、前記P点の色度座標が(0.220,0.240)、前記Q点の色度座標が(0.275,0.350)、前記R点の色度座標が(0.350,0.350)、及び前記S点の色度座標が(0.270,0.240)であることを特徴とする。
【0014】
(4)本発明の蛍光ランプは、前記(1)〜(3)のいずれかに記載された蓄光性白色発光蛍光体を蛍光膜とすることを特徴とする。
【0015】
(5)本発明の蓄光性表示体は、少なくとも表示部の文字及び/又は、図形及び/又は画像の一部が前記(1)〜(3)のいずれかにに記載の蓄光性白色発光蛍光体により形成されていることを特徴とする。
【0016】
(6)本発明の蓄光性成型品は、前記(1)〜(3)のいずれかに記載された蓄光性白色発光蛍光体を含有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蓄光性白色発光蛍光体は、第1の蛍光体と第2の蛍光体の選択により、励起光が遮断された後の残光の色度座標がP点(0.200,0.200)、Q点(0.300,0.400)、R点(0.400,0.400)、及びS点(0.300,0.200)の4点で囲まれる四角形の内部にあるもので、色純度の良好な白色を呈し、かつ、例えば常用光源D65の蛍光灯により200lxの照度で20分間照射した後、その照射を遮断した時点から10分後においても、その強度(I[10])が110mcd/m以上の発光強度を示し、従来のものよりもより色純度が良好で長残光を呈する。
また、本発明の蓄光性白色発光蛍光体を蛍光膜として用いた蛍光ランプ、蓄光性表示体及び蓄光性成型品は励起源の遮断後も高輝度で色純度の高い白色の残光を持続させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の蓄光性蛍光体は、紫外線や、太陽光、蛍光灯中の紫外線により励起されて第1の波長域に長残光性の発光をする下記の第1の蛍光体と、この第1の蛍光体の発光の少なくとも一部を吸収して励起され、第1の波長域とは異なる波長域の発光(第2の発光)を呈する第2の蛍光体との混合物からなる。
本発明の蓄光性蛍光体は前記の構成とすることによって、励起光(紫外線)により励起されている時は、第1の蛍光体は紫外線により励起されて第1の発光を呈し、第2の蛍光体は第1の蛍光体の発光により励起されて第2の発光を呈するため、第1、2の発光の混色光である白色系の発光を呈する。
そして、励起光が遮断された後も、第1の蛍光体が発する第1の発光の残光を第2の蛍光体が吸収して励起され第2の発光を呈するため、励起光が遮断された後も第1の発光(残光)と第2の発光との混色光の蛍光である従来のものよりも極めて色純度の良好な白色系の発光を持続することができる。
【0019】
前記の第1の蛍光体は紫外線により励起されて単独で長残光性の発光を呈する、いわゆる蓄光性の蛍光体であり、本発明に用いられる第1の蛍光体としては、例えばSr、Mg及びSiを母体構成金属成分として含む複合酸化物をEu及びDyで共付活した珪酸マグネシウム・ストロンチウム系蛍光体が用いられる。
【0020】
用いられる前記第1の蛍光体は、残光の強度及び持続時間の観点から、特に、前記の珪酸マグネシウム・ストロンチウム系蛍光体の中でも、組成式m(Sr1−a)O・n(Mg1−b)O・2(Si1−cGe)O:Eux,Dy(ただし、式中MはCa及びBaから選択された一種以上の元素であり、MはBe,Zn及びCdから選択された一種以上の元素であり、式中a,b,c,x,m,n,x及びyはそれぞれ、0≦a≦0.80、0≦b≦0.2、0≦c≦0.2、1.5≦m≦3.5、0.5≦n≦1.5、1×10-5≦x≦1×10-1及び1×10-5≦y≦1×10-1なる条件を満たす数である)で表される蛍光体がより好ましく、組成式SrMgSi:Eu,Dyで表される蛍光体が特に好ましい。
なお、前記の珪酸マグネシウム・ストロンチウム系蛍光体は、各蛍光体母体1モルに対して0.1グラム原子以下のハロゲン(X)を添加するか、又は0.6グラム原子以下の硼素(B)を含有させることにより、よりその発光及び残光の強度を高めることができる。
【0021】
本発明において用いられる前記第2の蛍光体は、前記第1の蛍光体の発光(第1の発光)の少なくとも1部を吸収し、この発光により励起されて該第1の発光とは異なる発光色の発光を呈し得る蛍光体であって、かつ、前記第1の蛍光体は青色発光を呈するので、第2の蛍光体としては第1の蛍光体の発光色と補色関係にある黄色系の発光を呈する蛍光体か、または、緑色発光蛍光体と赤色発光蛍光体との混合蛍光体が選択される。
【0022】
例えば、前記第2の蛍光体として、組成式(Y1−x−yGdSmAl12:Ce,Tbで表されるCe及びTbで共付活した希土類アルミン酸塩蛍光体を用いると、この蛍光体の励起スペクトルと前記第1の蛍光体の発光スペクトルとの波長のマッチングが極めて良好である。それは前記の第1の蛍光体の発光(第1の発光)の波長域と、このCe及びTbで共付活した希土類アルミン酸塩蛍光体(第2の蛍光体)の励起波長域との重複領域が広いためであり、第2の蛍光体が第1の蛍光体の残光(第1の発光)により効率良く励起されて発光効率の極めて高い発光を呈し、励起光の遮断後も高輝度の発光を持続させることができるので特に好ましい。
【0023】
図1は本発明の蓄光性白色発光蛍光体の一方の成分である、第1の蛍光体を波長365nmの紫外線で励起した時の発光スペクトルを例示するグラフであり、曲線は、前記珪酸マグネシウム・ストロンチウム系蛍光体に属する蛍光体の1つである、SrMgSi:Eu,Dy蛍光体の発光スペクトルである。
図1に示すように、該珪酸マグネシウム・ストロンチウム系蛍光体はおよそ467nmに発光スペクトルのピーク波長を持った青色発光を呈する。
【0024】
図2は本発明の蓄光性蛍光体のもう一方の成分である、第2の蛍光体を波長460nmの光(前記第1の蛍光体の発光ピーク波長に近い光)で励起した時の発光スペクトルを例示するグラフであり、曲線c、曲線d及び曲線eはそれぞれ(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体、(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体の改良品、及びYAl12:Ce,Tb蛍光体の発光スペクトルである。なお、前記の(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体の改良品とは、一度焼成して得た(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体を特定の雰囲気下で再焼成することにより、その発光輝度の向上を図った蛍光体(化成オプトニクス社製、品番「KX−692B」、以下、(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体の改良品という)である。
図2からわかるように、前記の第2の蛍光体は560〜580nmに発光スペクトルのピーク波長を有する黄色系の発光を示す。
【0025】
また、図3は前記の第2の各蛍光体の発光を得るための励起スペクトル(蛍光体を励起する励起光の波長と、その励起光が照射されて発光する蛍光体の発光ピーク波長における発光の強度との相関を示す曲線)を例示するもので、曲線f、曲線g及び曲線hはそれぞれ(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体、前記の(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体の改良品、及びYAl12:Ce,Tb蛍光体の発光励起スペクトルである。
【0026】
図1と図3からわかるように、本発明の蓄光性白色蛍光体の一方の成分である前記第2の蛍光体の励起スペクトルのピーク波長はほぼ460nmを中心とする波長域にあり、他方の成分である前記第1の蛍光体、特に前記のSrMgSiO:Eu,Dy蛍光体(図1の曲線)の発光ピーク波長域とのマッチングが極めて良好である。このことは前記第2の蛍光体は前記第1の蛍光体の発光によって効率の良い黄色発光を呈し、前記第1の蛍光体の青色発光との混色により高効率の白色発光を呈することを示している。
【0027】
また、特に第1の蛍光体として前記の珪酸マグネシウム・ストロンチウム系蛍光体を用い、第2の蛍光体として前記のCeで付活した希土類アルミン酸塩蛍光体の改良品を用いた場合、前記第1の蛍光体が色純度の良好な青色発光を呈し、前記第2の蛍光体が色純度の良好な黄色発光を呈するため、この組み合わせからなる蓄光性蛍光体は、励起光(紫外線)が照射されている時だけではなく、励起光が遮断された後の残光も色純度の高い白色発光を呈することができる。
【0028】
本発明の蓄光性白色蛍光体を製造するには、所定量の第1の蛍光体と第2の蛍光体とをボールミル、Vコンなどの混合手段により、機械的に混合することによって製造することができる。
また、第1の蛍光体と第2の蛍光体とを、例えばアクリル樹脂、ゼラチンなどのバインダーを含む溶媒中に懸濁させて混合した後、固液分離して脱水、乾燥させる等、公知の方法によってバインダーを介して第1の蛍光体と第2の蛍光体とを互いに付着させても製造することができる。
ただし、長残光性を有する第1の蛍光体と第2の蛍光体とを単に混合するよりも、第1の蛍光体の表面に第2の蛍光体を被覆させておく方が、残光の発光強度を高めることができるのでより好ましい。
【0029】
このようにして得られる本発明の蓄光性白色発光蛍光体は、その発光の色度点が図4に示す色度座標のP点(0.200,0.200)、Q点(0.300,0.400)、R点(0.400,0.400)、及びS点(0.300,0.200)の4点で囲まれる四角形の内部にあり、かつ常用光源D65の蛍光灯により200lxの照度で20分間照射した後に、その照射を遮断した時点から10分後の残光の強度(I[10])が110mcd/m以上であって、従来のものよりもより長残光性で、しかも色純度の良好な白色発光を呈する。そして、第1の蛍光体と第2の蛍光体の種類、及びその混合割合の選択によって、前記P点の色度座標が(0.220,0.240)、前記Q点の色度座標が(0.275,0.350)、前記R点の色度座標が(0.350,0.350)、及び前記S点の色度座標が(0.270,0.240)の色度座表範囲にある、さらに高純度の白色発光を呈する蓄積性白色発光蛍光体が得られる。
【0030】
なお、本発明において各蓄光性白色発光蛍光体の残光特性は、粉体群の表面が平滑化された被測定蛍光体の粉体に蛍光体粉体の表面における照度が200lxの明るさとなる常用光源D65の蛍光灯の光を該蛍光体粉体の表面に対してその光束がほぼ垂直となるような方向に20分間照射し、その照射を停止してから一定時間経過した後の該蛍光体の発光強度(残光の強度)を比較することによって評価した。
【0031】
本発明の蓄光性白色発光蛍光体において第1の蛍光体と第2の蛍光体との混合割合は、得られる蛍光体の所望とする発光色によって適宜選択されるが、発光の色度座標がP点(0.200,0.200)、Q点(0.300,0.400)、R点(0.400,0.400)、及びS点(0.300,0.200)の4点で囲まれる四角形の内部にあり、かつ常用光源D65の蛍光灯により200lxの照度で20分間照射した後に、その照射を遮断した時点から10分後の残光の強度(I[10])が110mcd/m以上示す蓄光性白色発光蛍光体とするためには、第1の蛍光体の含有量を蓄光性白色発光蛍光体の全量に対して30〜99.5重量%(その場合、第2の蛍光体の含有量は蓄光性蛍光体全量に対して0.5〜70重量%)の範囲とするのが好ましく、より好ましくは30〜99重量%、更に好ましくは40〜98重量%とするのがよい。
【0032】
第1の蛍光体の含有量が蓄光性白色発光蛍光体の全量に対して30重量%より少ないと、該蛍光体中の第1の蛍光体に基づく発光強度が低下し、励起光(紫外線)が遮断された時の第1の蛍光体に基づく残光強度も低下するため、これにより励起される蓄光性蛍光体自体の残光強度も低下しやすい。特に輝度を重視する場合には、第1の蛍光体の含有量が、蓄光性白色発光蛍光体の全量に対して40重量%以上であることが好ましい。しかしながら、第1の蛍光体の発光と第2の蛍光体の発光との混色である蓄光性白色発光蛍光体の発光色の色度座標が前記のP点(0.200,0.200)、Q点(0.300,0.400)、R点(0.400,0.400)、及びS点(0.300,0.200)の4点で囲まれる四角形の外部にずれ、白色としての色純度が著しく悪化するため、得られる蛍光体の発光色の白色としての色純度の点から第1の蛍光体の含有量は99.5重量%以下、好ましくは99重量%以下、さらに好ましくは98重量%以下とするのがよい。
【0033】
また、本願発明の蓄光性蛍光体に使用される第1、第2の蛍光体の粒径に関しては、特に限定されないが、色の均一性の点から、それぞれ1〜3000μm程度の範囲から任意に選択すればよく、好ましくは5〜1000μmである。第1の蛍光体と、第2の蛍光体の粒径の比を適宜選択することで、前述の蛍光体の配合割合が大きく変わっても、真の白色に近い白色を得ることも可能である。しかしながら特にランプ用に使用する際には、第1、第2の蛍光体とも1〜30μmの範囲であることが好ましい。
【0034】
なお、2種の蛍光体を用いると、基本的にはその2つの蛍光体の混合割合に応じて両蛍光体のそれぞれの発光の色度点を結んだ線上の色座標のものが得られる。この線から外れた色度点を得たい場合には、適当な顔料を追加して、発光色の一部を吸収させるか、第1又は第2の蛍光体、好ましくは第1の蛍光体の発光により発光する第3の蛍光体を添加することにより、上記線上から外れた発光色を得ることが出来る。このとき添加する第3の蛍光体の量は、第2の蛍光体の量を超えないことが好ましく、本発明の蓄光性蛍光体全量に対し、20重量%以下であることが好ましい。
本発明において前記第3の蛍光体として好適に使用し得る蛍光体を例示すると、例えばCaAlSiN:Eu等のいわゆるCASN蛍光体、例えば(Sr,Ca)AliN:Eu等のいわゆるSCASN蛍光体、例えばCaSi:Eu,Tm等のいわゆる258蛍光体、例えば(Ba,Sr)SiO:Eu等のいわゆるBSS蛍光体、例えばBaSi12:Eu等のいわゆるBSON蛍光体、例えばCaSc:Ce等のいわゆるCSO蛍光体、例えばCa(Sc,Mg)Si12:Ce等のいわゆるCSMS蛍光体などが挙げられる。
【0035】
本発明の蛍光ランプは、前記の本発明の蓄光性白色発光蛍光体を、例えば低融点ガラス粉末、微粒子金属酸化物、あるいは微粒子金属硼酸塩または燐酸塩等の結着剤とともに水等の溶媒中に懸濁させて蛍光体塗布スラリーを調製し、これをガラスバルブ内面に塗布し乾燥させ蛍光体層を形成する以外は従来の蛍光ランプと同様にして製造される。
なおこの場合、本発明の蓄光性白色発光蛍光体は第1の蛍光体と第2の蛍光体とを予め混合しておくのではなく、ガラス管壁側に第2の蛍光体を塗布し、次いでその上(放電による紫外線が発生する側)に第1の蛍光体を塗布することによって、第1の蛍光体と第2の蛍光体とが積層された蛍光膜をガラス管壁に形成しても良い。
【0036】
本発明の蛍光ランプは、ガラスバルブ内に封入された水銀蒸気中の放電により発生する紫外線によって、第1の蛍光体が発光する(第1の発光)と共に、水銀蒸気や希ガスの放電により発生する紫外線、及び第1の蛍光体による第1の発光を吸収して第2の蛍光体が発光(第2の発光)して第1の発光と第2の発光との混色光を発する。そして蛍光ランプへの通電が停止されても前記第1の蛍光体による第1の発光が持続するため、この第1の発光(残光)を蛍光膜中の第2の蛍光体が吸収し、励起されて第2の発光をし、蛍光ランプへの通電を中止しても引き続き第1の発光(残光)と第2の発光との混色光である色純度の高い白色の発光を持続する。
【0037】
本発明の蓄光性表示体はアクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等のプラスチック、金属板、木材、タイル等の基材の片面または両面に、前記本発明の蓄光性蛍光体によって文字及び/又は、図形及び/又は画像が形成された表示部を設けてなる。表示すべき文字、図形及び画像は、例えば、本発明の蓄光性蛍光体を含有するペイント、インク等を塗布するとか、蓄光性蛍光体が混入され、それ自体が蓄光性を有する板状のプラスチック等の成型品を前記基材とし、その表面にさらに種々の色のペイント、インク等により文字を書いたり、図形及び画像を描いて表示部としてもよく、本発明の蓄光性表示体には、文字、図形及び画像からなる表示部の少なくとも一部に本発明の蓄光性蛍光体を用いた表示体が含まれる。
【0038】
本発明の蓄光性表示体の具体例としては、例えば、前記の本発明の蓄光性蛍光体を使用して非常出口や避難階段のある方向を基板上に表示した表示部を少なくとも1つの面に設けた直方体、円筒体形状等の箱体内に蛍光ランプ等からなるバックライトが収納された避難誘導標識や誘導灯が挙げられる。表示部の後方にバックライトを備えた避難誘導標識や誘導灯等、本発明の蓄光性表示体では停電時などでバックライトが消灯した際にも表示部に用いられている本発明の蓄光性蛍光体が残光を呈し、この残光により第2の蛍光体が励起されて自らも発光を持続するため、暗闇中においても第1の蛍光体と第2の蛍光体の混色光により表示部に描かれている文字や図形を視認することができる。
【0039】
従来、高輝度、長残光性で、色純度の良好な白色発光を呈する蓄光蛍光体がないことから、例えば人が歩いている図形が描かれた表示部を有する避難誘導標識ではやむなく人の図形部分を黒色とし、その背景が緑色で表示されているが、本発明の蓄光性表示体は特に高輝度の白色発光(残光)を呈するため、例えば、最近改訂条例化された蓄光式非難誘導標識を誘導灯と同じく人の図形は緑とし、背景は本発明の蓄光性蛍光体を用いた白色として実現できる。
【0040】
本発明の蓄光性表示体は、前記のようにバックライトを用いるだけではなく、板状、又はシート状にして、室内外の壁や床などの所定の場所に設置しておいても良い。その場合は、表示部の外部から蛍光灯や太陽光中の紫外線により励起されて、表示部の蓄光性蛍光体が発光し、蛍光灯や太陽光中が遮断されて暗闇となっても前記と同様に一定の時間表示部の文字や図形を視認することができる。
本発明の蓄光性表示体のその他の具体例としては、本発明の蓄光性蛍光体を用いた時計の文字板、本発明の蓄光性蛍光体を含有するペイントなどにより表示部に画像等を描き、この表示部を額などに格納した壁面ディスプレイ、また表示部全体が本発明の蓄光性蛍光体からなるシートを壁面に設置しておくことによって、停電時の壁面照明等とすることもできる。
【0041】
また、本発明の蓄光性成型品はアクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、合成ゴムなど、従来から成型品の原料として使用されているプラスチック樹脂や合成ゴムの原料に本発明の蓄光性蛍光体の粉末を添加して、所望とする2次元的、3次元的形状に成型加工したり、ガラス、セラミック、タイル等の原料中に混合しておいてこれを所望の形状に成型加工することによって製造される。
本発明の蓄光性成型品としては、例えば、玩具、釣り具、室内のスイッチ板、アクセサリーなどをはじめとする成型品が例示されるが、本発明の蓄光性蛍光体が樹脂やセラミックス、ガラス等をはじめとする成型用基材中に分散、含有されている成型品であれば、特にその形状、使用環境や用途などに限定されるものではない。
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
〔実施例1〜3〕
第1の蛍光体として組成式SrMgSi:Eu,Dyで表される長残光蛍光体(以下、蛍光体「A」という)を用い、第2の蛍光体として組成式(Y,Gd)Al12:Ceで表される黄色発光蛍光体(以下、蛍光体「C」という)を用いて、前記蛍光体1と前記蛍光体2とをそれぞれ表1に示す割合で混合して実施例1〜3の蓄光性白色発光蛍光体を得た。
得られた蓄光性白色発光蛍光体について365nmの紫外線を照射した時の各蛍光体の発光の色度値、及び常用光源D65の蛍光灯の照射を遮断した時点から10分後の残光の強度(I[10])、及び60分後の残光の強度(I[60])をそれぞれ表1に示す。また、実施例1〜3の各蛍光体の色度点を図4に示す。
なお、実施例1〜3、及び下記の実施例、比較例において常用光源D65の蛍光灯の照明とは、前記のようにD65の蛍光灯により200lxで20分間照射したことを意味するものとする。
【0043】
〔実施例4〜6〕
第1の蛍光体として実施例1の蛍光体「A」を用い、第2の蛍光体として前記蛍光体「C」を改良して得た黄色発光蛍光体である、(Y,Gd)Al12:Ceの改良品(化成オプトニクス社製、品番;KX−692B、蛍光体「C」にさらに添加物を含有させ、焼成温度、雰囲気などの製造条件を変えて製造されたもの。以下、蛍光体「D」という)を用いて、それぞれ表1に示す混合割合で混合して実施例4〜6の蓄光性白色発光蛍光体を得た。
得られた蓄光性白色発光蛍光体について365nmの紫外線を照射した時の各蛍光体の発光の色度値、及び常用光源D65の蛍光灯の照射を遮断した時点から10分後の残光の強度(I[10])、及び60分後の残光の強度(I[60])をそれぞれ表1に示す。また、実施例4〜6の各蛍光体の色度点を図4に示す。
【0044】
〔実施例7〜9〕
第1の蛍光体として実施例1の蛍光体「A」を用い、第2の蛍光体として組成式YAl12:Ce,Tbで表される黄色発光蛍光体(以下、蛍光体「E」という)を用いて、それぞれ表1に示す割合で混合して実施例7〜9の蓄光性白色発光蛍光体を得た。
得られた蓄光性蛍光体について365nmの紫外線を照射した時の各蛍光体の発光の色度値、及び常用光源D65の蛍光灯の照射を遮断した時点から10分後の残光の強度(I[10])、及び60分後の残光の強度(I[60])をそれぞれ表1に示す。また、実施例4〜6の各蛍光体の色度点を図4に示す。
【0045】
〔比較例〕
組成式がSrAl1425:Eu,Dyで表される蛍光体(以下、蛍光体「F」という)と、実施例1で用いた蛍光体「C」とを60重量部:40重量部の割合で混合して比較例の蓄光性蛍光体を得た。
得られた比較例の蓄光性蛍光体について365nmの紫外線を照射した時の各蛍光体の発光の色度値、及び常用光源D65の蛍光灯の照射を遮断した時点から10分後の残光の強度(I[10])、及び60分後の残光の強度(I[60])をそれぞれ表1に示す。また、本比較例の蛍光体の色度点を図4に示す。
【0046】
〔参考例〕
前記実施例及び比較例に用いた蛍光体「A」について、365nmの紫外線を照射した時の発光色度、及び常用光源D65の蛍光灯の照射を遮断した時点の残光の強度(I[10])、及び60分後の残光の強度(I[60])をそれぞれ表1に参考例として示す。また、本参考例の蛍光体の色度点を図4に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1からわかるように、本発明の蓄光性白色蛍光体(実施例1〜9)では、従来の蓄光性蛍光体(比較例)とは違ってその発光の色度点がP点(0.200,0.200)、Q点(0.300,0.400)、R点(0.400,0.400)、及びS点(0.300,0.200)の4点で囲まれる四角形内にあり、それに加えて従来の蓄光性蛍光体(比較例)に比べて励起光を遮断してから10分後の粉体での残光強度(I[10])が大で、いずれも少なくとも110mcd/cmより高い値となっており、蓄光性蛍光体として実用的に十分な発光強度を有する。
【0049】
なお実施例(1)、(4)〜(9)では、その構成成分として用いた第1の蛍光体より発光色が長波長にシフトしていて輝度測定の視感度カーブに近づいているため、その構成成分として用いた第1の蛍光体に比べて明るかった。またこの蛍光体を使用した蛍光ランプや表示体、及び蓄光性成型品は濃度等の最適化により粉体での残光輝度より明るくすることができ、暗闇での視認性も良好であった。
また、その構成成分である第1の蛍光体と第2の蛍光体との混合比の調整や第2の蛍光体の種類を選択することによって、例えば実施例5の蓄光性蛍光体のように、発光の色度点が0.300/0.308であって、従来のものに比べて特に白色純度が極めて良好で高輝度の白色発光を呈する蓄光性白色発光蛍光体、及びその応用製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の蓄光性蛍光体の一方の成分である、第1の蛍光体(SrMgSi:Eu,Dy蛍光体)の発光スペクトルを例示するグラフである。
【図2】本発明の蓄積性蛍光体のもう一方の成分である、第2の蛍光体の発光スペクトルを例示するグラフであり、曲線c、曲線d及び曲線eはそれぞれ(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体、(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体の改良品及びYAl12:Ce,Tb蛍光体の発光スペクトルである。
【図3】前記の第2の各蛍光体(図2)の発光を得るための励起スペクトルを例示するもので、曲線f、曲線g及び曲線hはそれぞれ(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体、(Y,Gd)Al12:Ce蛍光体の改良品、及びYAl12:Ce,Tb蛍光体の発光励起スペクトルである。
【図4】本発明の実施例、比較例及び参考例の各蛍光体の発光色の色度点を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を吸収して第1の波長域に長残光性の発光をする第1の蛍光体と、前記第1の波長域の発光の少なくとも1部を吸収して第2の波長域の発光をする第2の蛍光体とを混合、もしくは互いに付着させてなる蛍光体であって、その発光の色度座標がP点(0.200,0.200)、Q点(0.300,0.400)、R点(0.400,0.400)、及びS点(0.300,0.200)の4点で囲まれる四角形の辺上、及びその内部(但し、P点とQ点とを結ぶ線上は除く)にあり、かつ常用光源D65の蛍光灯により200lxの照度で20分間照射した後、その照射を遮断した時点から10分後の残光の強度(I[10])が、110mcd/m以上であることを特徴とする蓄光性白色発光蛍光体。
【請求項2】
前記P点の色度座標が(0.200,0.200)、前記Q点の色度座標が(0.300,0.400)、前記R点の色度座標が(0.400,0.400)、及び前記S点の色度座標が(0.250,0.200)であることを特徴とする請求項1記載の蓄光性白色発光蛍光体。
【請求項3】
前記P点の色度座標が(0.220,0.240)、前記Q点の色度座標が(0.275,0.350)、前記R点の色度座標が(0.350,0.350)、及び前記S点の色度座標が(0.270,0.240)であることを特徴とする請求項1記載の蓄光性白色発光蛍光体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された蓄光性白色発光蛍光体を蛍光膜とすることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項5】
少なくとも表示部の文字及び/又は、図形及び/又は画像の一部が請求項1〜3の蓄光性白色発光蛍光体により形成されていることを特徴とする蓄光性表示体。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された蓄光性白色発光蛍光体を含有する蓄光性成型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−249396(P2009−249396A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95095(P2008−95095)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(390019976)化成オプトニクス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】