蓄熱積層体
【課題】住宅環境等の居住空間における省エネルギー化を図ることができる蓄熱積層体を提供する。
【解決手段】蓄熱積層体は、10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する「高熱伝導率層」2(アルミニウム板を好適に用いることができる)、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる「蓄熱層」3(無機系潜熱蓄熱材、有機系潜熱蓄熱材)、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する「低熱伝導率層」4、スレート板、石膏ボード、ALC板、木毛セメント板等が順に積層されてなる。
【解決手段】蓄熱積層体は、10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する「高熱伝導率層」2(アルミニウム板を好適に用いることができる)、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる「蓄熱層」3(無機系潜熱蓄熱材、有機系潜熱蓄熱材)、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する「低熱伝導率層」4、スレート板、石膏ボード、ALC板、木毛セメント板等が順に積層されてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅環境等の居住空間における省エネルギー化を図ることができる蓄熱積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅環境におけるエネルギー消費の増大が重大な問題となっており、エネルギー利用効率の高い、省エネルギー住宅の開発が進められている。
例えば、夜間電力を利用した蓄熱システム、蓄熱床暖房システム等のアクティブ蓄熱を利用した省エネルギー住宅がある。このような省エネルギー住宅では、消費電力量を極力抑えることができる。
【0003】
これに対し、最近では、直接的な電力を使用しないパッシブ蓄熱を利用した省エネルギー住宅の研究が盛んに行われている。
このような省エネルギー住宅としては、例えば、建築部材にパッシブ蓄熱を導入し、建築物全体の熱容量を高めたもの等がある。このような建築物は、夏場には、夜間の冷熱や冷房による冷熱を、冬場には、日中の温熱や暖房による温熱を蓄熱させ、冷暖房効率を向上させ、省エネルギー化を実現しようとするものである。
【0004】
例えば、石膏ボードのような内壁材に、潜熱蓄熱材をカプセル化したものを混ぜ合わせ、内壁全体としての熱容量を増加させ、室内環境を改善するものがある(非特許文献1)。
また、塗膜またはシート等に潜熱蓄熱カプセルを担持させ、内装用仕上げ材として利用するものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−311693号公報(請求の範囲)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本建築学会計画系論文集 第540号、23−29、2001年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、何れの場合も、蓄熱材をカプセル化したものを、無機バインダーや樹脂等に固定化したものであり、蓄熱材自体への効果的な熱伝導が阻害されるため、蓄熱性能が十分に発揮されず、外気温度の影響による室内空間温度の変化が大きいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、鋭意検討をした結果、住宅等の建築物において、室内側から順に、熱伝導率の高い層、特定の蓄熱層、熱伝導率の低い層を積層することにより、室内空間の温度変化に対する蓄熱層の熱効率性を高め、外気温度の影響による室内空間温度の変化を抑制し、快適な室内空間が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の特徴を含むものである。
1.10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層が順に積層されてなることを特徴とする蓄熱積層体
2.1000kJ/(m3・K)未満の熱容量及び0.3W/(m・K)以下の熱伝導率を有する層、10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層が順に積層されてなることを特徴とする蓄熱積層体
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄熱積層体は、建築物の室内保温性と室内温度変化に対する熱効率性に優れた性能を示すため、夏場の冷房を利用時には冷熱を、冬場の暖房時を利用時には温熱を蓄熱することから冷暖房効率を向上させ、住宅環境における省エネルギー化を実現するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明参考例1の蓄熱積層体を示す。
【図2】本発明参考例2の蓄熱積層体を示す。
【図3】本発明参考例3の蓄熱積層体を示す。
【図4】本発明参考例4の蓄熱積層体を示す。
【図5】本発明参考例5の蓄熱積層体を示す。
【図6】本発明参考例1の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図7】本発明参考例2の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図8】本発明参考例3の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図9】本発明参考例4の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図10】本発明参考例5の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図11】本発明参考例6の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図12】本発明参考例7の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図13】本発明参考例8の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図14】本発明参考例9の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【符号の説明】
【0012】
1 仕上げ材
2 アルミニウム板
3 蓄熱層1
4 スレート板
5 ポリウレタンフォーム
6 蓄熱層2
7 意匠合板
8 けい酸カルシウムボード
9 蓄熱層3
10 蓄熱層4
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、実施するための最良の形態とともに詳細に説明する。
【0014】
本発明の蓄熱積層体は、主として、住宅等の建築物の内壁、天井、床等における内装材として好適に用いられるが、車輌等の内装用としても適用可能である。
以下、本発明を、建築物の内装材に用いた場合を例として、その実施の形態とともに詳細に説明する。
【0015】
本発明は、室内側から順に、10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層(以下、「高熱伝導率層」ともいう。)、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層(以下、単に「蓄熱層」ともいう。)、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層(以下、「低熱伝導率層」ともいう。)が順に積層されてなることを特徴とする。このような積層構造とすることにより、室内から蓄熱層への熱の侵入をスムーズにし、熱効率を向上させるとともに、外気から蓄熱層への熱の侵入および蓄熱層から外気への熱の逃げを適度に制御することができる。そのため、室内の温度変化を最小限に抑えることができ、昼夜、春夏秋冬問わず、室内温度を快適な温度に、低コストで保つことができる。
【0016】
(10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層)
本発明では、表面側(室内側)に、10.0W/(m・K)以上(好ましくは20.0W/(m・K)以上、さらに好ましくは100W/(m・K)以上)の熱伝導率を有する層が積層される。10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有することにより、熱の移動速度が速く、蓄熱層の熱効率性が向上する。10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、真鍮、亜鉛、マグネシウム、ニッケル等の金属材料からなる鋼板等、あるいはこれらの金属材料を含む塗膜またはシート等が挙げられる。本発明では、特に、アルミニウム板を好適に用いることができる。
高熱伝導率層の厚さとしては、特に限定されないが、通常5〜1000μm程度であることが好ましい。
【0017】
なお、本発明における熱伝導率は、熱伝導率計(京都電子工業株式会社製、Kemtherm.QTM−D3(商品名))を用いて測定した値である。
【0018】
(蓄熱層)
本発明の蓄熱層は、優れた蓄熱性を有し、室内温度変化の抑制効果を発揮するものである。蓄熱層は、蓄熱性を有する蓄熱材を含有していれば、特に限定されないが、固−液変化に伴う潜熱を利用した潜熱蓄熱材を含有していることが好ましい。潜熱蓄熱材としては、無機系潜熱蓄熱材、有機系潜熱蓄熱材が挙げられる。
【0019】
無機系潜熱蓄熱材としては、例えば、硫酸ナトリウム10水和物、炭酸ナトリウム10水和物、リン酸水素ナトリウム12水和物、チオ硫酸ナトリウム5水和物、塩化カルシウム6水和物等の水和塩等が挙げられる。
【0020】
有機潜熱蓄熱材としては、例えば、脂肪族炭化水素、長鎖アルコール、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、ポリエーテル化合物、芳香族炭化水素、脂肪酸トリグリセリド等が挙げられ、これらの蓄熱材のうち1種または2種以上を用いることができる。
本発明では、特に有機潜熱蓄熱材を好適に用いることができ、有機潜熱蓄熱材を用いた場合、用途に応じた相変化温度の設定が容易であり、沸点が高くほとんど揮発することがないため、長期に亘り蓄熱性能が持続するため、好ましい。
【0021】
脂肪族炭化水素(パラフィン化合物)としては、例えば、炭素数8〜30の脂肪族炭化水素を用いることができ、具体的には、テトラデカン、ペンタデカン(融点6℃)、ヘキサデカン(融点18℃)、ヘプタデカン(融点22℃)、オクタデカン(融点28℃)、ノナデカン(融点32℃)、イコサン(融点36℃)、ドコサン(融点44℃)、パラフィンワックス等が挙げられる。
【0022】
長鎖アルコールとしては、例えば、炭素数8〜30の長鎖アルコールを用いることができ、具体的には、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ミリスチルアルコール等が挙げられる。
【0023】
長鎖脂肪酸としては、例えば、炭素数8〜30の長鎖脂肪酸を用いることができ、具体的には、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。
【0024】
長鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数8〜30の長鎖脂肪酸エステルを用いることができ、具体的には、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸ステアリル、フタル酸ジステアリル等が挙げられる。
【0025】
ポリエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールジアクリレート、エチルエチレングリコール等が挙げられる。
【0026】
本発明では蓄熱材として、特に、脂肪族炭化水素、長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましく、さらには、長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましい。長鎖脂肪酸エステルの中でも、特に、炭素数15〜22の長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましく、このような長鎖脂肪酸エステルは、潜熱量が高く、実用温度領域に相変化温度(融点)を有するため、様々な用途に使用しやすい。
【0027】
このような蓄熱材は、単独でも良いし、2成分以上を混合して使用することもできる。2成分以上を混合する場合は、融点を自由に設計することができる点で、有機系潜熱蓄熱材を用いることが好ましい。特に、内装材に蓄熱材を適用する場合には、0℃以上50℃未満の融点をもつ蓄熱材を使用することが好ましい。
【0028】
上記の蓄熱材は、特に限定されないが、多孔質体への充填法等で固定化することが好ましい。固定化することにより、蓄熱材の漏れやしみ込みを防ぐことができる。
【0029】
多孔質体への充填法としては、蓄熱材を、ウレタン樹脂多孔質体に充填し、樹脂等で表面を被覆する方法等が挙げられる。
本発明では、このようなウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材(好ましくは潜熱蓄熱材)を蓄熱層として用いることができる。
【0030】
ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層は、多孔質体の孔内に蓄熱材が細分離化されているため、蓄熱層における蓄熱材の偏りが少なく、また、蓄熱層の一部が破損したとしても蓄熱材が漏れにくく、好ましい。
また、ウレタン樹脂多孔質体の孔内に蓄熱材が細分離化されているため、蓄熱材と蓄熱材との熱伝導が遅延され、蓄熱材の固−液変化が抑えられ、蓄熱効果が持続するため好ましい。
特に多孔質体成分の熱伝導率が低い場合(具体的には、0.15W/(m・K)以下)、熱伝導がより遅延され、蓄熱効果がより持続するため好ましい。
ウレタン樹脂多孔質体は、可とう性を有し、蓄熱材の固−液変化にともなう体積変化に追従することもできる。
【0031】
ウレタン樹脂多孔質体に蓄熱材を充填する方法としては、ウレタン樹脂多孔質体に直接蓄熱材を充填させる方法の他に、有機樹脂と蓄熱材の混合物から有機樹脂を硬化・多孔質化させ、蓄熱材が充填された有機多孔質体を得る方法等が挙げられる。
【0032】
後者の場合、ウレタン樹脂多孔質体の形成及び蓄熱材の充填を同じ工程で行なうことができ好ましい。具体的には、ウレタン樹脂と蓄熱材を含有した互いに相溶した混合系から、ウレタン樹脂を硬化させることにより得られるものが好ましい。この際、ウレタン樹脂の硬化による高分子量化にともなって、互いに相溶した混合系は、ウレタン樹脂の硬化体相と蓄熱材相がミクロ的に相分離したミクロ相分離構造を有する系へと変化する。次いで、ミクロ相分離構造が維持されたままウレタン樹脂多孔質体が形成され、蓄熱材がウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱層を形成することができる。
【0033】
ウレタン樹脂としては、1液タイプ、2液タイプのいずれも使用することができるが、2液タイプのほうが好ましい。2液タイプは、ヒドロキシル基とイソシアネート基の官能基の反応により硬化するものである。本発明では特に、ヒドロキシル基とイソシアネート基の組み合わせが好ましい。
【0034】
さらに、硬化反応の際、反応促進剤や粘性調整剤を添加することが好ましい。特に粘性調整剤を添加することにより、蓄熱材の粘度を上昇させ、ウレタン樹脂多孔質体内に蓄熱材をより保持し続けやすくすることができる。
【0035】
このようにして得られた蓄熱層は、ウレタン樹脂多孔質体が、ミクロ相分離構造を維持したまま形成され、その緻密な構造故、蓄熱材をより多く含むことができ、多く含んだとしても外部へ漏れ出すのを防ぐことができるため、高い蓄熱材含有率を達成することができ、好ましい。このような場合、必ずしも蓄熱層の表面を、樹脂等で被覆する必要もない。
具体的に蓄熱材含有率は、好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、最も好ましくは65重量%以上の高い蓄熱材含有率を有することができる。
【0036】
このような蓄熱層の厚さは、0.5mm〜20mmであることが好ましい。
【0037】
(0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層)
蓄熱層の裏面側には、0.1〜1.0W/(m・K)(好ましくは、0.1〜0.7W/(m・K))の熱伝導率を有する層を積層する。このような低熱伝導率層を積層することにより、熱の移動速度が遅延され、外気から蓄熱層への熱の侵入および蓄熱層から外気への熱の逃げを適度に制御することができ、室内温度を快適に保つことができる。
0.1〜1.0W/(m・K)の低熱伝導率を有する材料としては、スレート板、石膏ボード、ALC板、木毛セメント板、合板等が挙げられる。
0.1〜1.0W/(m・K)の低熱伝導率を有する層の厚さは、1mm〜30mmであることが好ましい。
【0038】
さらに、低熱伝導率層は、熱容量が2000kJ/(m3・K)以上、(好ましくは、2000kJ/(m3・K)以上3000kJ/(m3・K)以下)であることが望ましい。熱容量が2000kJ/(m3・K)以上であることにより、顕熱による蓄熱効果が大きく、層内に熱が溜まりやすくなる。そのため、熱の移動が抑えられ、室内温度の温度変化を制御することができ、より室内温度を快適に保つことができる。このような材料としては、スレート板、石膏ボード、ALC板、木毛セメント板等が挙げられる。
【0039】
なお、熱容量(kJ/(m3・K))は、比熱(kJ/(kg・K))と比重(kg/m3)の積から算出される値である。
【0040】
本発明の蓄熱積層体の積層方法は、高熱伝導率層、蓄熱層、低熱伝導率層の順に積層する限り特に限定されず、例えば、蓄熱層を、接着剤等で、高熱伝導率層及び/または低熱伝導率層に貼着して積層する方法、高熱伝導率層と低熱伝導率層を平板とする容器に蓄熱層を充填し形成する方法等が挙げられる。本発明では、蓄熱性能を考慮し、高熱伝導率層と低熱伝導率層を平板とする容器に蓄熱層を充填し形成する方法が好ましい。
【0041】
本発明では、さらに、高熱伝導率層側に、何らかの表面層を設けることが好ましい。
表面層としては、けい酸カルシウムボード、石膏ボード等の無機系ボード、松、ラワン、ブナ、ヒノキ、合板等の木質材料、塗り材料、シート材料、壁紙等を用いることができ、これらのうち1種または2種以上を積層して用いることができる。
【0042】
塗り材料(または仕上げ材ともいう。)としては、通常建築物の塗装に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、JIS K 5663「合成樹脂エマルションペイント」等に規定されるものが好適に使用できる。塗り材料の乾燥膜厚としては、特に限定されないが、200μm以下であることが好ましい。
【0043】
本発明では、特に、表面層として0.3W/(m・K)以下(好ましくは0.1W/(m・K)以上0.3W/(m・K)以下)の熱伝導率及び1000kJ/(m3・K)未満(好ましくは400kJ/(m3・K)以上900kJ/(m3・K)以下)の熱容量を有するものが好ましい。このような層を設けることにより、蓄熱層と室内空間との熱の移動を適度に調整することができる。つまり、熱容量が1000kJ/(m3・K)未満と小さいため、顕熱による蓄熱効果が小さく層内に熱が溜まりにくくなるとともに、熱伝導率が0.3W/(m・K)以下と低いため、熱の移動速度が遅延され、蓄熱材の固−液変化温度に達するまでの温度変化を和らげることができ、室内の温度をより快適なものにすることができる。
このような材料としては、0.3W/(m・K)以下の熱伝導率および1000kJ/(m3・K)未満の熱容量を有する層であれば特に限定されないが、けい酸カルシウムボードや松、ラワン、ブナ、ヒノキ、合板等の木質材料が好適に用いられる。また層の厚さとしては、2〜10mm程度が好ましい。
【0044】
本発明では、更に、低熱伝導率層の外側に、断熱層を設けることが好ましい。断熱層を設けることにより、室内温度変化を抑制することができる。
断熱層としては、特に限定されないが、0.1W/(m・K)未満(好ましくは0.01W/(m・K)以上0.07W/(m・K)以下)の熱伝導率および1000kJ/(m3・K)以上(好ましくは1000kJ/(m3・K)以上2000kJ/(m3・K)以下)の熱容量を有する層であることが好ましい。
断熱層に用いられる材料としては、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム等の発泡系断熱層、グラスウール、ロックウール等の繊維系断熱材が用いられる。厚みは特に限定されないが、厚みが増すほど室内保温性は上がる。
【0045】
本発明の蓄熱積層体は、前述したようなパッシブ蓄熱を主とするものであるが、必要に応じ、面状発熱体等のヒーター等を併用したアクティブ蓄熱として用いてもよい。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0047】
(参考例1)
表1、図1に示すように、アルミニウム板(150mm×150mm×0.8mm、熱伝導率200W/(m・K))とスレート板(150mm×150mm×3.0mm、熱伝導率0.6W/(m・K)、熱容量2400kJ/(m3・K))との間隔が5.0mmとなるように側面にバックアップ材を設け、平板状容器を作製した。
この平板状容器に、蓄熱材1(融点(固−液変化温度)が25℃の潜熱蓄熱材(パラフィン))を、ゼラチンでカプセル化したもの(1.5mmφ))を充填して蓄熱層1とし、蓄熱積層体を得た。さらに、アルミニウム板側に、仕上げ材(合成樹脂エマルションペイント、固形分60%)をローラーで、乾燥膜厚が50μmとなるように塗付した。さらにスレート板側には、ポリウレタンフォーム(150mm×150mm×25mm、熱伝導率0.03W/(m・K)、熱容量1200kJ/(m3・K))を接着剤で積層し、試験体を得た。
【0048】
【表1】
【0049】
(蓄熱性能評価試験)
試験体を4枚用意し、ポリウレタンフォームを外側として、側面の最表面どうしを突き合わせ、内寸が150mm×150mm×150mmの立方体となる様にし、この上面、下面及び試験体間に生じた空隙を厚さ25mmのポリウレタンフォームで塞ぎ、試験体ボックスとし、ボックス内部に熱電対を設置した。
この試験体ボックスを恒温器内に設置し、恒温器内の温度を外気温度、試験体ボックス内の温度を室内温度と見たて、次の実験を行った。
恒温器内の温度を18℃で2時間保持し、その後30℃で6時間保持し、さらに18℃で7時間保持した時の、試験体ボックス内の温度を経時的に測定した。結果は図6に示す。
図6に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の最高温度は25.8℃にしか達せず、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。
【0050】
(参考例2)
表1、図2に示すように、蓄熱層として、蓄熱層2を用いた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得、蓄熱性能評価試験を行った。
蓄熱層2:融点が25℃の潜熱蓄熱材(パラフィン)と21℃の潜熱蓄熱材(パラフィン)をポリエチレンフィルムを用いてラミネート処理したもの。
図7は、蓄熱性能評価試験の結果である。図7に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の最高温度は25.2℃にしか達せず、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。
【0051】
(参考例3)
図3に示すように、参考例1で作製した蓄熱積層体のアルミニウム板側に、意匠合板(150mm×150mm×2.0mm、熱伝導率0.16W/(m・K)、熱容量550kJ/(m3・K))を接着剤で積層し、蓄熱積層体を得た。さらにスレート板側には、ポリウレタンフォーム(150mm×150mm×25mm)を接着剤で積層し、試験体を得、蓄熱性能評価試験を行った。
図8は、蓄熱性能評価試験の結果である。図8に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の最高温度は25.0℃にしか達せず、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。さらに、蓄熱材1の固−液変化温度(25℃)に達するまでの温度変化を和らげることができた。
【0052】
(参考例4)
図4に示すように、けい酸カルシウムボード(150mm×150mm×5.0mm、熱伝導率0.22W/(m・K)、熱容量900kJ/(m3・K))とスレート板(150mm×150mm×3.0mm、熱伝導率0.6W/(m・K)、熱容量2400kJ/(m3・K))との間隔が5.0mmとなるように側面にバックアップ材を設け、平板状容器を作製した。
この平板状容器に、蓄熱材1(融点(固−液変化温度)が25℃の潜熱蓄熱材(パラフィン))を、アルミ蒸着フィルム(ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/ポリエチレン)を用いてラミネートした蓄熱層3を充填し、蓄熱積層体を得た。
さらに、けい酸カルシウムボード側に、仕上げ材(合成樹脂エマルションペイント、固形分60%)をローラーで、乾燥膜厚が50μmとなるように塗付した。さらにスレート板側には、ポリウレタンフォーム(150mm×150mm×25mm)を接着剤で積層し、試験体を得、蓄熱性能評価試験を行った。
図9は、蓄熱性能評価試験の結果である。図9に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の最高温度は25.0℃にしか達せず、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。さらに、蓄熱材1の固−液変化温度(25℃)に達するまでの温度変化を和らげることができた。
【0053】
(参考例5)
表1、図5に示すように、蓄熱層として、蓄熱層4を用いた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得、蓄熱性能評価試験を行った。
蓄熱層4:融点が25℃の潜熱蓄熱材(パラフィン)を有機ベントナイトで増粘させ、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートを加え均一に混合し、硬化反応させることにより、ウレタン樹脂多孔質体に潜熱蓄熱材を担持させたもの
図10は、蓄熱性能評価試験の結果である。図10に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の温度は25.0℃で一定化し、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。
【0054】
(参考例6)
表1に示すように、蓄熱材を使用しない以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得た。図11に示すように、ボックス内の保温性が著しく低く、ボックス内の最高温度が30.0℃に達してしまった。
【0055】
(参考例7)
表1に示すように、スレート板をアルミニウム板に変えた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得た。図12に示すように、ボックス内の保温持続性が低く、ボックス内の最高温度が28.0℃に達してしまった。
【0056】
(参考例8)
表1に示すように、スレート板をアルミニウム板に、アルミニウム板をスレート板に変えた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得た。図13に示すように、ボックス内の保温持続性が低く、ボックス内の最高温度が27.6℃に達してしまった。
【0057】
(参考例9)
表1に示すように、スレート板を用いず、アルミニウム板をスレート板に変えた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得た。図14に示すように、ボックス内の保温持続性が低く、ボックス内の最高温度が28.0℃に達してしまった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅環境等の居住空間における省エネルギー化を図ることができる蓄熱積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅環境におけるエネルギー消費の増大が重大な問題となっており、エネルギー利用効率の高い、省エネルギー住宅の開発が進められている。
例えば、夜間電力を利用した蓄熱システム、蓄熱床暖房システム等のアクティブ蓄熱を利用した省エネルギー住宅がある。このような省エネルギー住宅では、消費電力量を極力抑えることができる。
【0003】
これに対し、最近では、直接的な電力を使用しないパッシブ蓄熱を利用した省エネルギー住宅の研究が盛んに行われている。
このような省エネルギー住宅としては、例えば、建築部材にパッシブ蓄熱を導入し、建築物全体の熱容量を高めたもの等がある。このような建築物は、夏場には、夜間の冷熱や冷房による冷熱を、冬場には、日中の温熱や暖房による温熱を蓄熱させ、冷暖房効率を向上させ、省エネルギー化を実現しようとするものである。
【0004】
例えば、石膏ボードのような内壁材に、潜熱蓄熱材をカプセル化したものを混ぜ合わせ、内壁全体としての熱容量を増加させ、室内環境を改善するものがある(非特許文献1)。
また、塗膜またはシート等に潜熱蓄熱カプセルを担持させ、内装用仕上げ材として利用するものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−311693号公報(請求の範囲)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本建築学会計画系論文集 第540号、23−29、2001年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、何れの場合も、蓄熱材をカプセル化したものを、無機バインダーや樹脂等に固定化したものであり、蓄熱材自体への効果的な熱伝導が阻害されるため、蓄熱性能が十分に発揮されず、外気温度の影響による室内空間温度の変化が大きいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、鋭意検討をした結果、住宅等の建築物において、室内側から順に、熱伝導率の高い層、特定の蓄熱層、熱伝導率の低い層を積層することにより、室内空間の温度変化に対する蓄熱層の熱効率性を高め、外気温度の影響による室内空間温度の変化を抑制し、快適な室内空間が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の特徴を含むものである。
1.10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層が順に積層されてなることを特徴とする蓄熱積層体
2.1000kJ/(m3・K)未満の熱容量及び0.3W/(m・K)以下の熱伝導率を有する層、10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層が順に積層されてなることを特徴とする蓄熱積層体
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄熱積層体は、建築物の室内保温性と室内温度変化に対する熱効率性に優れた性能を示すため、夏場の冷房を利用時には冷熱を、冬場の暖房時を利用時には温熱を蓄熱することから冷暖房効率を向上させ、住宅環境における省エネルギー化を実現するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明参考例1の蓄熱積層体を示す。
【図2】本発明参考例2の蓄熱積層体を示す。
【図3】本発明参考例3の蓄熱積層体を示す。
【図4】本発明参考例4の蓄熱積層体を示す。
【図5】本発明参考例5の蓄熱積層体を示す。
【図6】本発明参考例1の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図7】本発明参考例2の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図8】本発明参考例3の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図9】本発明参考例4の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図10】本発明参考例5の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図11】本発明参考例6の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図12】本発明参考例7の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図13】本発明参考例8の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【図14】本発明参考例9の蓄熱性能評価試験における、空間温度変化を測定した結果である。
【符号の説明】
【0012】
1 仕上げ材
2 アルミニウム板
3 蓄熱層1
4 スレート板
5 ポリウレタンフォーム
6 蓄熱層2
7 意匠合板
8 けい酸カルシウムボード
9 蓄熱層3
10 蓄熱層4
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、実施するための最良の形態とともに詳細に説明する。
【0014】
本発明の蓄熱積層体は、主として、住宅等の建築物の内壁、天井、床等における内装材として好適に用いられるが、車輌等の内装用としても適用可能である。
以下、本発明を、建築物の内装材に用いた場合を例として、その実施の形態とともに詳細に説明する。
【0015】
本発明は、室内側から順に、10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層(以下、「高熱伝導率層」ともいう。)、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層(以下、単に「蓄熱層」ともいう。)、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層(以下、「低熱伝導率層」ともいう。)が順に積層されてなることを特徴とする。このような積層構造とすることにより、室内から蓄熱層への熱の侵入をスムーズにし、熱効率を向上させるとともに、外気から蓄熱層への熱の侵入および蓄熱層から外気への熱の逃げを適度に制御することができる。そのため、室内の温度変化を最小限に抑えることができ、昼夜、春夏秋冬問わず、室内温度を快適な温度に、低コストで保つことができる。
【0016】
(10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層)
本発明では、表面側(室内側)に、10.0W/(m・K)以上(好ましくは20.0W/(m・K)以上、さらに好ましくは100W/(m・K)以上)の熱伝導率を有する層が積層される。10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有することにより、熱の移動速度が速く、蓄熱層の熱効率性が向上する。10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、真鍮、亜鉛、マグネシウム、ニッケル等の金属材料からなる鋼板等、あるいはこれらの金属材料を含む塗膜またはシート等が挙げられる。本発明では、特に、アルミニウム板を好適に用いることができる。
高熱伝導率層の厚さとしては、特に限定されないが、通常5〜1000μm程度であることが好ましい。
【0017】
なお、本発明における熱伝導率は、熱伝導率計(京都電子工業株式会社製、Kemtherm.QTM−D3(商品名))を用いて測定した値である。
【0018】
(蓄熱層)
本発明の蓄熱層は、優れた蓄熱性を有し、室内温度変化の抑制効果を発揮するものである。蓄熱層は、蓄熱性を有する蓄熱材を含有していれば、特に限定されないが、固−液変化に伴う潜熱を利用した潜熱蓄熱材を含有していることが好ましい。潜熱蓄熱材としては、無機系潜熱蓄熱材、有機系潜熱蓄熱材が挙げられる。
【0019】
無機系潜熱蓄熱材としては、例えば、硫酸ナトリウム10水和物、炭酸ナトリウム10水和物、リン酸水素ナトリウム12水和物、チオ硫酸ナトリウム5水和物、塩化カルシウム6水和物等の水和塩等が挙げられる。
【0020】
有機潜熱蓄熱材としては、例えば、脂肪族炭化水素、長鎖アルコール、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、ポリエーテル化合物、芳香族炭化水素、脂肪酸トリグリセリド等が挙げられ、これらの蓄熱材のうち1種または2種以上を用いることができる。
本発明では、特に有機潜熱蓄熱材を好適に用いることができ、有機潜熱蓄熱材を用いた場合、用途に応じた相変化温度の設定が容易であり、沸点が高くほとんど揮発することがないため、長期に亘り蓄熱性能が持続するため、好ましい。
【0021】
脂肪族炭化水素(パラフィン化合物)としては、例えば、炭素数8〜30の脂肪族炭化水素を用いることができ、具体的には、テトラデカン、ペンタデカン(融点6℃)、ヘキサデカン(融点18℃)、ヘプタデカン(融点22℃)、オクタデカン(融点28℃)、ノナデカン(融点32℃)、イコサン(融点36℃)、ドコサン(融点44℃)、パラフィンワックス等が挙げられる。
【0022】
長鎖アルコールとしては、例えば、炭素数8〜30の長鎖アルコールを用いることができ、具体的には、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ミリスチルアルコール等が挙げられる。
【0023】
長鎖脂肪酸としては、例えば、炭素数8〜30の長鎖脂肪酸を用いることができ、具体的には、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。
【0024】
長鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数8〜30の長鎖脂肪酸エステルを用いることができ、具体的には、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸ステアリル、フタル酸ジステアリル等が挙げられる。
【0025】
ポリエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールジアクリレート、エチルエチレングリコール等が挙げられる。
【0026】
本発明では蓄熱材として、特に、脂肪族炭化水素、長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましく、さらには、長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましい。長鎖脂肪酸エステルの中でも、特に、炭素数15〜22の長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましく、このような長鎖脂肪酸エステルは、潜熱量が高く、実用温度領域に相変化温度(融点)を有するため、様々な用途に使用しやすい。
【0027】
このような蓄熱材は、単独でも良いし、2成分以上を混合して使用することもできる。2成分以上を混合する場合は、融点を自由に設計することができる点で、有機系潜熱蓄熱材を用いることが好ましい。特に、内装材に蓄熱材を適用する場合には、0℃以上50℃未満の融点をもつ蓄熱材を使用することが好ましい。
【0028】
上記の蓄熱材は、特に限定されないが、多孔質体への充填法等で固定化することが好ましい。固定化することにより、蓄熱材の漏れやしみ込みを防ぐことができる。
【0029】
多孔質体への充填法としては、蓄熱材を、ウレタン樹脂多孔質体に充填し、樹脂等で表面を被覆する方法等が挙げられる。
本発明では、このようなウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材(好ましくは潜熱蓄熱材)を蓄熱層として用いることができる。
【0030】
ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層は、多孔質体の孔内に蓄熱材が細分離化されているため、蓄熱層における蓄熱材の偏りが少なく、また、蓄熱層の一部が破損したとしても蓄熱材が漏れにくく、好ましい。
また、ウレタン樹脂多孔質体の孔内に蓄熱材が細分離化されているため、蓄熱材と蓄熱材との熱伝導が遅延され、蓄熱材の固−液変化が抑えられ、蓄熱効果が持続するため好ましい。
特に多孔質体成分の熱伝導率が低い場合(具体的には、0.15W/(m・K)以下)、熱伝導がより遅延され、蓄熱効果がより持続するため好ましい。
ウレタン樹脂多孔質体は、可とう性を有し、蓄熱材の固−液変化にともなう体積変化に追従することもできる。
【0031】
ウレタン樹脂多孔質体に蓄熱材を充填する方法としては、ウレタン樹脂多孔質体に直接蓄熱材を充填させる方法の他に、有機樹脂と蓄熱材の混合物から有機樹脂を硬化・多孔質化させ、蓄熱材が充填された有機多孔質体を得る方法等が挙げられる。
【0032】
後者の場合、ウレタン樹脂多孔質体の形成及び蓄熱材の充填を同じ工程で行なうことができ好ましい。具体的には、ウレタン樹脂と蓄熱材を含有した互いに相溶した混合系から、ウレタン樹脂を硬化させることにより得られるものが好ましい。この際、ウレタン樹脂の硬化による高分子量化にともなって、互いに相溶した混合系は、ウレタン樹脂の硬化体相と蓄熱材相がミクロ的に相分離したミクロ相分離構造を有する系へと変化する。次いで、ミクロ相分離構造が維持されたままウレタン樹脂多孔質体が形成され、蓄熱材がウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱層を形成することができる。
【0033】
ウレタン樹脂としては、1液タイプ、2液タイプのいずれも使用することができるが、2液タイプのほうが好ましい。2液タイプは、ヒドロキシル基とイソシアネート基の官能基の反応により硬化するものである。本発明では特に、ヒドロキシル基とイソシアネート基の組み合わせが好ましい。
【0034】
さらに、硬化反応の際、反応促進剤や粘性調整剤を添加することが好ましい。特に粘性調整剤を添加することにより、蓄熱材の粘度を上昇させ、ウレタン樹脂多孔質体内に蓄熱材をより保持し続けやすくすることができる。
【0035】
このようにして得られた蓄熱層は、ウレタン樹脂多孔質体が、ミクロ相分離構造を維持したまま形成され、その緻密な構造故、蓄熱材をより多く含むことができ、多く含んだとしても外部へ漏れ出すのを防ぐことができるため、高い蓄熱材含有率を達成することができ、好ましい。このような場合、必ずしも蓄熱層の表面を、樹脂等で被覆する必要もない。
具体的に蓄熱材含有率は、好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、最も好ましくは65重量%以上の高い蓄熱材含有率を有することができる。
【0036】
このような蓄熱層の厚さは、0.5mm〜20mmであることが好ましい。
【0037】
(0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層)
蓄熱層の裏面側には、0.1〜1.0W/(m・K)(好ましくは、0.1〜0.7W/(m・K))の熱伝導率を有する層を積層する。このような低熱伝導率層を積層することにより、熱の移動速度が遅延され、外気から蓄熱層への熱の侵入および蓄熱層から外気への熱の逃げを適度に制御することができ、室内温度を快適に保つことができる。
0.1〜1.0W/(m・K)の低熱伝導率を有する材料としては、スレート板、石膏ボード、ALC板、木毛セメント板、合板等が挙げられる。
0.1〜1.0W/(m・K)の低熱伝導率を有する層の厚さは、1mm〜30mmであることが好ましい。
【0038】
さらに、低熱伝導率層は、熱容量が2000kJ/(m3・K)以上、(好ましくは、2000kJ/(m3・K)以上3000kJ/(m3・K)以下)であることが望ましい。熱容量が2000kJ/(m3・K)以上であることにより、顕熱による蓄熱効果が大きく、層内に熱が溜まりやすくなる。そのため、熱の移動が抑えられ、室内温度の温度変化を制御することができ、より室内温度を快適に保つことができる。このような材料としては、スレート板、石膏ボード、ALC板、木毛セメント板等が挙げられる。
【0039】
なお、熱容量(kJ/(m3・K))は、比熱(kJ/(kg・K))と比重(kg/m3)の積から算出される値である。
【0040】
本発明の蓄熱積層体の積層方法は、高熱伝導率層、蓄熱層、低熱伝導率層の順に積層する限り特に限定されず、例えば、蓄熱層を、接着剤等で、高熱伝導率層及び/または低熱伝導率層に貼着して積層する方法、高熱伝導率層と低熱伝導率層を平板とする容器に蓄熱層を充填し形成する方法等が挙げられる。本発明では、蓄熱性能を考慮し、高熱伝導率層と低熱伝導率層を平板とする容器に蓄熱層を充填し形成する方法が好ましい。
【0041】
本発明では、さらに、高熱伝導率層側に、何らかの表面層を設けることが好ましい。
表面層としては、けい酸カルシウムボード、石膏ボード等の無機系ボード、松、ラワン、ブナ、ヒノキ、合板等の木質材料、塗り材料、シート材料、壁紙等を用いることができ、これらのうち1種または2種以上を積層して用いることができる。
【0042】
塗り材料(または仕上げ材ともいう。)としては、通常建築物の塗装に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、JIS K 5663「合成樹脂エマルションペイント」等に規定されるものが好適に使用できる。塗り材料の乾燥膜厚としては、特に限定されないが、200μm以下であることが好ましい。
【0043】
本発明では、特に、表面層として0.3W/(m・K)以下(好ましくは0.1W/(m・K)以上0.3W/(m・K)以下)の熱伝導率及び1000kJ/(m3・K)未満(好ましくは400kJ/(m3・K)以上900kJ/(m3・K)以下)の熱容量を有するものが好ましい。このような層を設けることにより、蓄熱層と室内空間との熱の移動を適度に調整することができる。つまり、熱容量が1000kJ/(m3・K)未満と小さいため、顕熱による蓄熱効果が小さく層内に熱が溜まりにくくなるとともに、熱伝導率が0.3W/(m・K)以下と低いため、熱の移動速度が遅延され、蓄熱材の固−液変化温度に達するまでの温度変化を和らげることができ、室内の温度をより快適なものにすることができる。
このような材料としては、0.3W/(m・K)以下の熱伝導率および1000kJ/(m3・K)未満の熱容量を有する層であれば特に限定されないが、けい酸カルシウムボードや松、ラワン、ブナ、ヒノキ、合板等の木質材料が好適に用いられる。また層の厚さとしては、2〜10mm程度が好ましい。
【0044】
本発明では、更に、低熱伝導率層の外側に、断熱層を設けることが好ましい。断熱層を設けることにより、室内温度変化を抑制することができる。
断熱層としては、特に限定されないが、0.1W/(m・K)未満(好ましくは0.01W/(m・K)以上0.07W/(m・K)以下)の熱伝導率および1000kJ/(m3・K)以上(好ましくは1000kJ/(m3・K)以上2000kJ/(m3・K)以下)の熱容量を有する層であることが好ましい。
断熱層に用いられる材料としては、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム等の発泡系断熱層、グラスウール、ロックウール等の繊維系断熱材が用いられる。厚みは特に限定されないが、厚みが増すほど室内保温性は上がる。
【0045】
本発明の蓄熱積層体は、前述したようなパッシブ蓄熱を主とするものであるが、必要に応じ、面状発熱体等のヒーター等を併用したアクティブ蓄熱として用いてもよい。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0047】
(参考例1)
表1、図1に示すように、アルミニウム板(150mm×150mm×0.8mm、熱伝導率200W/(m・K))とスレート板(150mm×150mm×3.0mm、熱伝導率0.6W/(m・K)、熱容量2400kJ/(m3・K))との間隔が5.0mmとなるように側面にバックアップ材を設け、平板状容器を作製した。
この平板状容器に、蓄熱材1(融点(固−液変化温度)が25℃の潜熱蓄熱材(パラフィン))を、ゼラチンでカプセル化したもの(1.5mmφ))を充填して蓄熱層1とし、蓄熱積層体を得た。さらに、アルミニウム板側に、仕上げ材(合成樹脂エマルションペイント、固形分60%)をローラーで、乾燥膜厚が50μmとなるように塗付した。さらにスレート板側には、ポリウレタンフォーム(150mm×150mm×25mm、熱伝導率0.03W/(m・K)、熱容量1200kJ/(m3・K))を接着剤で積層し、試験体を得た。
【0048】
【表1】
【0049】
(蓄熱性能評価試験)
試験体を4枚用意し、ポリウレタンフォームを外側として、側面の最表面どうしを突き合わせ、内寸が150mm×150mm×150mmの立方体となる様にし、この上面、下面及び試験体間に生じた空隙を厚さ25mmのポリウレタンフォームで塞ぎ、試験体ボックスとし、ボックス内部に熱電対を設置した。
この試験体ボックスを恒温器内に設置し、恒温器内の温度を外気温度、試験体ボックス内の温度を室内温度と見たて、次の実験を行った。
恒温器内の温度を18℃で2時間保持し、その後30℃で6時間保持し、さらに18℃で7時間保持した時の、試験体ボックス内の温度を経時的に測定した。結果は図6に示す。
図6に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の最高温度は25.8℃にしか達せず、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。
【0050】
(参考例2)
表1、図2に示すように、蓄熱層として、蓄熱層2を用いた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得、蓄熱性能評価試験を行った。
蓄熱層2:融点が25℃の潜熱蓄熱材(パラフィン)と21℃の潜熱蓄熱材(パラフィン)をポリエチレンフィルムを用いてラミネート処理したもの。
図7は、蓄熱性能評価試験の結果である。図7に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の最高温度は25.2℃にしか達せず、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。
【0051】
(参考例3)
図3に示すように、参考例1で作製した蓄熱積層体のアルミニウム板側に、意匠合板(150mm×150mm×2.0mm、熱伝導率0.16W/(m・K)、熱容量550kJ/(m3・K))を接着剤で積層し、蓄熱積層体を得た。さらにスレート板側には、ポリウレタンフォーム(150mm×150mm×25mm)を接着剤で積層し、試験体を得、蓄熱性能評価試験を行った。
図8は、蓄熱性能評価試験の結果である。図8に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の最高温度は25.0℃にしか達せず、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。さらに、蓄熱材1の固−液変化温度(25℃)に達するまでの温度変化を和らげることができた。
【0052】
(参考例4)
図4に示すように、けい酸カルシウムボード(150mm×150mm×5.0mm、熱伝導率0.22W/(m・K)、熱容量900kJ/(m3・K))とスレート板(150mm×150mm×3.0mm、熱伝導率0.6W/(m・K)、熱容量2400kJ/(m3・K))との間隔が5.0mmとなるように側面にバックアップ材を設け、平板状容器を作製した。
この平板状容器に、蓄熱材1(融点(固−液変化温度)が25℃の潜熱蓄熱材(パラフィン))を、アルミ蒸着フィルム(ポリエチレンテレフタレート/アルミニウム/ポリエチレン)を用いてラミネートした蓄熱層3を充填し、蓄熱積層体を得た。
さらに、けい酸カルシウムボード側に、仕上げ材(合成樹脂エマルションペイント、固形分60%)をローラーで、乾燥膜厚が50μmとなるように塗付した。さらにスレート板側には、ポリウレタンフォーム(150mm×150mm×25mm)を接着剤で積層し、試験体を得、蓄熱性能評価試験を行った。
図9は、蓄熱性能評価試験の結果である。図9に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の最高温度は25.0℃にしか達せず、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。さらに、蓄熱材1の固−液変化温度(25℃)に達するまでの温度変化を和らげることができた。
【0053】
(参考例5)
表1、図5に示すように、蓄熱層として、蓄熱層4を用いた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得、蓄熱性能評価試験を行った。
蓄熱層4:融点が25℃の潜熱蓄熱材(パラフィン)を有機ベントナイトで増粘させ、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートを加え均一に混合し、硬化反応させることにより、ウレタン樹脂多孔質体に潜熱蓄熱材を担持させたもの
図10は、蓄熱性能評価試験の結果である。図10に示すように、外気温度の影響を受け難く、ボックス内の温度は25.0℃で一定化し、ボックス内の保温性に優れた結果が得られた。
【0054】
(参考例6)
表1に示すように、蓄熱材を使用しない以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得た。図11に示すように、ボックス内の保温性が著しく低く、ボックス内の最高温度が30.0℃に達してしまった。
【0055】
(参考例7)
表1に示すように、スレート板をアルミニウム板に変えた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得た。図12に示すように、ボックス内の保温持続性が低く、ボックス内の最高温度が28.0℃に達してしまった。
【0056】
(参考例8)
表1に示すように、スレート板をアルミニウム板に、アルミニウム板をスレート板に変えた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得た。図13に示すように、ボックス内の保温持続性が低く、ボックス内の最高温度が27.6℃に達してしまった。
【0057】
(参考例9)
表1に示すように、スレート板を用いず、アルミニウム板をスレート板に変えた以外は、参考例1と同様の方法で、試験体を得た。図14に示すように、ボックス内の保温持続性が低く、ボックス内の最高温度が28.0℃に達してしまった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層が順に積層されてなることを特徴とする蓄熱積層体
【請求項2】
1000kJ/(m3・K)未満の熱容量及び0.3W/(m・K)以下の熱伝導率を有する層、10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層が順に積層されてなることを特徴とする蓄熱積層体
【請求項1】
10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層が順に積層されてなることを特徴とする蓄熱積層体
【請求項2】
1000kJ/(m3・K)未満の熱容量及び0.3W/(m・K)以下の熱伝導率を有する層、10.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する層、ウレタン樹脂多孔質体に充填された蓄熱材からなる蓄熱層、0.1〜1.0W/(m・K)の熱伝導率を有する層が順に積層されてなることを特徴とする蓄熱積層体
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−249506(P2010−249506A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94963(P2010−94963)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【分割の表示】特願2003−367971(P2003−367971)の分割
【原出願日】平成15年10月28日(2003.10.28)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【分割の表示】特願2003−367971(P2003−367971)の分割
【原出願日】平成15年10月28日(2003.10.28)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】
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