説明

蓄電デバイス用耐熱セパレータおよび該セパレータの製造方法

【課題】 ポリオレフィン系樹脂に無機粉体を含ませた厚さ100μm以下のポリオレフィン系微多孔質フィルムにあって、無機粉体を含ませたことによる耐熱性向上効果を高度に発揮させるための補助的な耐熱性向上手法として、大幅な製造設備の改良や製造工程の変更を必要とせず、簡便かつ容易に適用でき、耐熱性が向上した前記フィルム(蓄電デバイス用耐熱セパレータ)を安価に提供する。
【解決手段】 重量平均分子量50万以上のポリオレフィン系樹脂、比表面積100m/g以上の無機粉体、可塑剤を主成分とした原料組成物を溶融混練して製膜すると共に可塑剤を除去することで多孔質化した、厚さ10〜100μm、平均孔径0.01〜0.5μm、空隙率75〜95%の微多孔質フィルムであって、原料組成物に更にフェノール樹脂を含み、ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量%、無機粉体を60〜80重量%、フェノール樹脂を0.2〜0.5重量%含むようにして耐熱性を向上させた微多孔質フィルムからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、ポリマーリチウム二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、アルミニウム電解コンデンサ等の蓄電デバイス用セパレータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長寿命、急速充放電が可能、メンテナンスが不要などの優れた特長からコンデンサが注目されており、特に、容量が大きい電気二重層キャパシタの需要が増加している。電気二重層キャパシタは、主に各種電子機器のバックアップ電源等に使用されており、ポータブル電子機器類の小型化、高性能化に伴い、電気二重層キャパシタも小型化、高性能化が要求されている。そのため、セパレータには、厚さが薄く、高空隙率であり、かつ信頼性(耐短絡性)の高いことが要求されている。
【0003】
有機系電解液(非水溶液系電解液)を使用した電気二重層キャパシタは、水分を嫌うため、製造工程において、高温で乾燥する必要があり、セパレータには、理想的には200℃程度で2h程度の加熱暴露に耐える耐熱性が求められる。このため、このようなセパレータには、従来から、耐熱性の繊維材料からなる不織布がよく使用されている。しかし、繊維材料からなる不織布は、安価で経済性に優れる反面、孔径が大きいため、電気二重層キャパシタの信頼性(耐短絡性)や自己放電の面で劣る欠点がある。これを改善するため、小さい孔径の得られるポリオレフィン系微多孔質フィルムにあって、耐熱性を向上させるための無機粉体を多量に含ませたポリオレフィン系微多孔質フィルムを適用することが考えられる。
【0004】
ポリオレフィン系樹脂に多量の無機粉体を含ませたポリオレフィン系微多孔質フィルムは、耐熱性が向上し、耐熱性が良好となる。しかし、この無機粉体を含ませたことによる耐熱性向上効果は、膜厚さが200μm以上のポリオレフィン系微多孔質フィルムにあっては、効果が発揮されやすいものの、膜厚さが100μm以下、特に50μm以下になると、効果が発揮されにくくなり、耐熱性の向上に限界がある。
【0005】
これを補うため、ポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性向上のための方策は、電子線照射による材料改質や、樹脂材料の変更など従来公知の方法が考えられるが、いずれも、製造設備の大幅な改良や製造工程の大幅な変更が必要であり、結果的に製造コスト(製品コスト)の増大を伴うという欠点があり、導入は容易でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑み、ポリオレフィン系樹脂に無機粉体を含ませてなる膜厚さが100μm以下のポリオレフィン系微多孔質フィルムにあって、無機粉体を含ませたことによるポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性向上効果を高度に発揮させるための、補助的な耐熱性向上手法として、製造設備の大幅な改良や製造工程の大幅な変更を必要とせず、簡便かつ容易に適用でき、耐熱性が向上したポリオレフィン系微多孔質フィルム(蓄電デバイス用耐熱セパレータ)を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記目的を達成するべく鋭意検討し、次のような考え方と知見を得るに至った。
(1)ポリオレフィン系微多孔質フィルムは、小さい孔径が容易に得られることから、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスの信頼性(耐短絡性)の向上や自己放電の低減の面で、従来の耐熱繊維不織布よりも優位性が高いセパレータ基材であるが、水分混入を嫌う有機系電解液(非水溶液系電解液)を使用した蓄電デバイスにおける水分除去のための加熱処理に耐える十分な耐熱性を有していない。
(2)そこで、ポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性を向上させるため、ポリオレフィン系樹脂に多量の無機粉体を含ませるようにしたポリオレフィン系微多孔質フィルムとすることが考えられる。ポリオレフィン系樹脂に多量の無機粉体を含ませたポリオレフィン系微多孔質フィルムは、耐熱性が向上し、耐熱性が良好となる。
(3)しかし、無機粉体を含ませたことによる耐熱性向上効果は、膜厚さが200μm以上のポリオレフィン系微多孔質フィルムにあっては、効果が発揮されやすいものの、膜厚さが100μm以下、特に50μm以下になると、効果が発揮されにくくなり、耐熱性の向上に限界があることがわかった。
(4)これを補うため、ポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性向上のための方策として、従来公知の電子線照射による材料改質や樹脂材料の変更などの一般的な方法を活用することが考えられる。しかし、これらの方法は何れも、製造設備の大幅な改良や製造工程の大幅な変更が必要であり、結果的に製造コスト(製品コスト)の増大を伴うという欠点があり、導入は容易でない。
(5)よって、耐熱性向上のためポリオレフィン系樹脂に多量の無機粉体を含ませるようにした膜厚さが100μm以下(50μm以下)であるポリオレフィン系微多孔質フィルムにおいて、更に「微量の添加剤」を添加することによって、無機粉体を含ませたことによるポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性向上効果を効率的かつより高度に発揮させ得るような補助的な働きができる添加剤があれば面白いと考え、この考え方に基づいて添加剤を探索、検討した結果、目的に合致する有効な添加剤としてフェノール樹脂を見出した。
(6)フェノール樹脂は、ポリオレフィン系樹脂に多量の無機粉体を含ませたポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性を、従来公知の電子線照射による材料改質や樹脂材料の変更のような一般的な耐熱性向上法のように、著しく改善することはできないが、従来公知の電子線照射による材料改質や樹脂材料の変更のような一般的な耐熱性向上法のように、製造設備の大幅な改良や製造工程の大幅な変更を必要とせず、安価な材料を微量添加するという簡便、容易かつ安価な方法で、適度な耐熱性向上効果(適度な耐熱性押し上げ効果)を発揮することができる。つまり、フェノール樹脂を微量含ませるだけで、耐熱性向上のためポリオレフィン系樹脂に多量の無機粉体を含ませるようにしたポリオレフィン系樹脂微多孔質フィルムにあって、無機粉体による耐熱性向上効果が発揮されにくくなる膜厚さが100μm以下(50μm以下)においても、耐熱性向上効果の低下を抑え、無機粉体による耐熱性向上効果を高度に発揮できるようになること(つまり、ポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性向上策として、「多量の無機粉体の添加」と「微量のフェノール樹脂の添加」を組み合わせることで、相乗効果が発揮されて、耐熱性向上効果が高まること)を知見した。
【0008】
本発明の蓄電デバイス用耐熱セパレータは、このような考え方や知見に基づき、請求項1に記載の通り、重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン系樹脂と、比表面積が100m/g以上の無機粉体と、可塑剤とを主成分とした原料組成物を溶融混練して製膜するとともに前記可塑剤を除去することで多孔質化した、厚さが10〜100μmで、平均孔径が0.01〜0.5μmで、空隙率が75〜95%である微多孔質フィルムであって、前記原料組成物に更にフェノール樹脂を含み、前記ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量%、前記無機粉体を60〜80重量%、前記フェノール樹脂を0.2〜0.5重量%含むようにして耐熱性を向上させた微多孔質フィルムからなることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の蓄電デバイス用耐熱セパレータは、請求項1記載の蓄電デバイス用耐熱セパレータにおいて、前記厚さが50μm以下であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の蓄電デバイス用耐熱セパレータは、請求項1または2記載の蓄電デバイス用耐熱セパレータにおいて、前記蓄電デバイスは有機系電解液または非水溶液系電解液を使用した蓄電デバイスであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の蓄電デバイス用耐熱セパレータの製造方法は、請求項4に記載の通り、重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン系樹脂と、比表面積が100m/g以上の無機粉体と、可塑剤とを主成分とした原料組成物を溶融混練して製膜するとともに前記可塑剤を除去することで多孔質化した、厚さが10〜100μmで、平均孔径が0.01〜0.5μmで、空隙率が75〜95%である微多孔質フィルムであって、前記原料組成物に更にフェノール樹脂を含ませ、前記フェノール樹脂を含むようにして耐熱性を向上させた微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用耐熱セパレータの製造方法であって、前記原料組成物を溶融混練する工程において、前記原料組成物として、前記ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量部、前記無機粉体を60〜80重量部および前記可塑剤を120〜200重量部に対して、前記フェノール樹脂を0.2〜0.5重量部含むようにして、前記微多孔質フィルムとして、前記ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量%、前記無機粉体を60〜80重量%、前記フェノール樹脂を0.2〜0.5重量%含むようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂に無機粉体を含ませてなる膜厚さが100μm以下のポリオレフィン系微多孔質フィルムにあって、無機粉体を含ませたことによるポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性向上効果が高度に発揮されるようにするための補助的な耐熱性向上手法を、効果的にかつ、製造設備の大幅な改良や製造工程の大幅な変更を伴うことなく簡便かつ容易に適用できたことにより、耐熱性が向上したポリオレフィン系微多孔質フィルム(蓄電デバイス用耐熱セパレータ)を安価に提供することができる。特に、有機系電解液(非水溶液系電解液)を使用した蓄電デバイス用セパレータとして用いた場合に有用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の微多孔質フィルム(微多孔膜)は、重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン系樹脂と、比表面積が100m/g以上の無機粉体と、可塑剤とを主成分とした原料組成物を溶融混練して製膜するとともに前記可塑剤を除去することで多孔質化した、厚さが10〜100μmで、平均孔径が0.01〜0.5μmで、空隙率が75〜95%である微多孔質フィルムであって、前記原料組成物に更にフェノール樹脂を含み、前記ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量%、前記無機粉体を60〜80重量%、前記フェノール樹脂を0.2〜0.5重量%含むようにして耐熱性を向上させたものである。
【0014】
微多孔質フィルムは、前述の通り、ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量%含む樹脂膜でありながら、無機粉体を60〜80重量%含むことにより、樹脂膜にしっかりとした骨格形成がなされ、樹脂膜の補強(耐収縮性など)と耐熱補強が図られており、加熱暴露時の膜形状の維持性が高くなっている。
【0015】
微多孔質フィルムを得るための原料組成物の主成分は、ポリオレフィン系樹脂、無機粉体、可塑剤、フェノール樹脂である。セパレータの用途、つまり、セパレータを適用する蓄電デバイスの種類によっては、電解液に対する濡れ性を確保するための界面活性剤を更に配合してもよい。通常、有機系電解液(非水溶液系電解液)を使用する蓄電デバイスに適用する場合は、有機系電解液に対して元々十分な濡れ性を有しているので界面活性剤の配合は不要であるが、水溶液系電解液を使用する蓄電デバイスに適用する場合は、界面活性剤を配合し水溶液系電解液に対する濡れ性を確保することが好ましい。尚、本願において、有機系電解液や非水溶液系電解液とは、イオン液体電解液を含むものである。
【0016】
本発明の微多孔質フィルムは、前述の通り、高性能化が進む蓄電デバイスに用いるセパレータにあって、厚さが薄いこと、孔径が小さいこと、空隙率が高いことの要求に適合し、厚さが10〜100μmで、平均孔径が0.01〜0.5μmで、空隙率が75〜95%の微多孔質フィルムである。膜厚さが10μm未満であると、セパレータとしての隔離効果を発揮しづらくなり蓄電デバイスの寿命性能に悪影響を与えるため不適である。また、膜厚さが100μmを超えると、セパレータの電気抵抗が高くなり蓄電デバイスの内部抵抗を高めるため不適である。よって、膜厚さは50μm以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の微多孔質フィルムを得る方法は、前述の通り、ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を主体とする原料組成物を溶融混練して製膜するとともに可塑剤を除去することによる。これにより、膜全体に均一かつ微細で複雑に入り組んだ複雑な経路を有する無数の連通孔が形成された膜が得られる。具体的な製造法の一例を以下に示す。まず、ポリオレフィン系樹脂、無機粉体、可塑剤に、フェノール樹脂、必要に応じて親水化剤(界面活性剤)を加えた原材料をヘンシェルミキサーまたはレーディゲミキサー等の混合機により攪拌・混合し、原料混合物を得る。次に、この混合物を先端にTダイを取り付けた二軸押出機に投入し加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、圧延・延伸等の二次加工により所定厚さのシートに成形する。次に、このシートを、適当な溶剤(例えば、n−ヘキサン)中に浸漬し、可塑剤を抽出除去し乾燥、必要に応じて熱処理すれば、目的の微多孔質フィルムが得られる。尚、延伸処理は、可塑剤の抽出処理の前工程で行っても、後工程で行っても、また、前後の工程で行うようにしてもよい。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂としては、重量平均分子量が50万以上であり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等の単独重合体または共重合体およびこれらの混合物が使用できる。中でも、成形性や経済性の面で、ポリエチレンを主体とすることが好ましい。ポリエチレンは、溶融成形温度がポリプロピレンよりも低く、生産性が良好で製造コストを抑えられる。ポリオレフィン系樹脂は、重量平均分子量が50万以上とすることにより、無機粉体が主体の微多孔質フィルムにあって、微多孔質フィルムの機械的強度を確保することができる。そのため、ポリオレフィン系樹脂は、重量平均分子量が100万以上であることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、無機粉体との混合性も良好で、微多孔質フィルムにあって無機粉体の骨格を接着機能材料として結合させながら強度を維持するとともに、化学的に安定であり安全性が高い。ポリオレフィン系樹脂は、更なる耐熱性を必要とする用途の場合は、ポリメチルペンテン(4−メチル−1−ペンテン)や環状ポリオレフィン(エチレン・ノルボルネン)等の高融点または高軟化点の樹脂を併用することが好ましい。
【0019】
無機粉体としては、粒径が細かく内部や表面に孔構造を備えた比表面積が100m/g以上である、シリカ、アルミナ、チタニア、珪酸カルシウム、カオリンクレー、タルク、クレー、ガラス微細粉体等の1種または2種以上が使用できる。中でも、粒子径、比表面積等の各種粉体特性の選択範囲が広く、比較的安価で入手しやすく、不純物が少ない点で、シリカが好ましい。無機粉体は、比表面積が100m/g以上であることで、微多孔質フィルムの孔径を微細化かつ複雑化して耐短絡性を高め、微多孔質フィルムの電解液保持力を高め、粉体表面に多数の親水基(−OH)を備えることにより微多孔質フィルムの親水性を高める。そのため、無機粉体の比表面積は150m/g以上であることがより好ましい。また、無機粉体の比表面積は400m/g以下であることが好ましい。無機粉体の比表面積が400m/gを超える場合は、粒子の表面活性度が高く凝集力が強くなるため、微多孔質フィルム中で無機粉体が均一分散されにくくなるため好ましくない。
【0020】
フェノール樹脂としては、有機溶剤に不溶であり、ノボラックタイプまたはレゾールタイプのもの、またはエポキシ樹脂変性フェノール樹脂等が使用できる。尚、本願において、フェノール樹脂とは、特開平5−298934号公報の従来例に取り上げられるようないわゆるフェノール系酸化防止剤を含むものではない。
【0021】
可塑剤としては、ポリオレフィン系樹脂の可塑剤となり得る材料を選択することが好ましく、ポリオレフィン系樹脂と相溶性を有し各種溶剤等で容易に抽出できる各種有機液状体が使用でき、具体的には、飽和炭化水素(パラフィン)からなる工業用潤滑油等の鉱物オイル、ステアリルアルコール等の高級アルコール、フタル酸ジオクチル等のエステル系可塑剤等が使用できる。中でも、再利用がしやすい点で、鉱物オイルが好ましい。可塑剤は、原料組成物中の無機粉体100部に対して200〜250部程度を配合されることが好ましい。
【0022】
可塑剤を抽出除去するために用いる溶剤(溶媒)としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の飽和炭化水素系の有機溶剤を使用することができる。
【0023】
本発明の微多孔質フィルムは、親水性の無機粉体を多量に含有しており、親水性を有するが、セパレータの用途に応じて、水溶液系電解液を使用する蓄電デバイスに適用する場合は、更に親水性を高めるための親水性付与手段を講じるようにしても良い。親水性付与手段としては、界面活性剤を処理あるいは添加する方法、水溶性モノマーをグラフト重合する方法、スルホン化処理、プラズマ処理、オゾン処理等の中から自由に選択できる。中でも、界面活性剤を処理あるいは添加する方法が比較的簡易であり好ましい。
【0024】
界面活性剤を処理あるいは添加する方法としては、溶融製膜前の原料組成物中に予め分散状態に添加しておく方法(内添法)、溶融製膜された微多孔質フィルムに対して後処理する方法(外添法)があるが、製造工程が簡略化できる点と、本発明の微多孔質フィルムから界面活性剤を染み出しにくくできる点で、原料組成物中に予め添加する方法(内添法)が好ましい。
【0025】
界面活性剤としては、ポリオレフィン系樹脂の親水性を向上できる材料であればよく、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤の何れも使用できる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル類等が使用できる。カチオン系界面活性剤としては、脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキシド等が使用できる。アニオン系界面活性剤としては、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等が使用できる。中でも、ポリオレフィン系樹脂に対して、少量の添加で、高い親水性の付与が可能であることから、アルキルスルホコハク酸塩が好ましい。
【0026】
原料組成物または微多孔質フィルムには、その他、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、滑剤、抗菌剤、防黴剤、顔料、染料、着色剤、防曇剤、艶消し剤等の添加剤を、本発明の目的および効果を損なわない範囲で添加(配合)または含有させてもよい。
【0027】
本発明の微多孔質フィルムは、前述の通り、ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量%と、無機粉体を60〜80重量%と、フェノール樹脂を0.2〜0.5重量%含む。ポリオレフィン系樹脂の含有量が20重量%未満であると、ポリオレフィン系樹脂を微多孔質フィルム全体に均一に分散できなくなり、微多孔質フィルムの十分な機械的強度を確保できなくなるため不適である。無機粉体の含有量が80重量%を超える場合も、ポリオレフィン系樹脂の含有量が20重量%未満となるため、同様の理由により不適である。また、無機粉体の含有量が60重量%未満であると、微多孔質フィルムの耐熱性向上効果、微多孔質フィルムの孔構造を微細化かつ複雑化し短絡を防止する効果、微多孔質フィルムの電解液を保持する効果等が十分に発揮できなくなるため不適である。また、無機粉体の含有量が60重量%未満であると、可塑剤の配合量が減少するため、微多孔質フィルムの密度が上昇し、空隙率が低下し、蓄電デバイスの内部抵抗を高めるため不適である。ポリオレフィン系樹脂の含有量が40重量%を超える場合も、無機粉体の含有量が60重量%未満となるため、同様の理由により不適である。尚、本発明の微多孔質フィルムは、前述の通り、ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を主体とする原料組成物を溶融混練して製膜するとともに可塑剤を除去することによって得られるが、原料組成物中のポリオレフィン系樹脂と無機粉体の構成比率と、微多孔質フィルム中のポリオレフィン系樹脂と無機粉体の構成比率は、基本的に変わらない。また、フェノール樹脂は、微多孔質フィルム中に0.2重量%以上含ませることにより、無機粉体を含ませたことによるポリオレフィン系微多孔質フィルムの耐熱性向上効果を補助し同効果を高度に発揮させる効果を有するが、0.5重量%を超えて含ませても、その効果は向上しない。また、フェノール樹脂を0.5重量%を超えて多く含ませると、高温時のポリオレフィン系樹脂の粘度を低下させるため、溶融混練押出時の樹脂圧力が低くなり、溶融混練押出時に原料組成物が均一に分散せず、製膜された膜の欠陥数が多くなるため不適である。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の実施例について比較例と共に詳細に説明する。
(実施例1)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体70部(重量部、以下同じ)と、重量平均分子量20万の高密度ポリエチレン樹脂粉体30部、ノボラックタイプフェノール樹脂粉体0.7部、無機粉体として比表面積150m/gのシリカ粉体190部、可塑剤として鉱物オイルの一種であるパラフィン系オイル410部をレーディゲミキサーで混合し、先端にTダイを取り付けた二軸押出成形機で加熱溶融・混練しながらシート状に押出成形し、次いで成形ロールにて圧延処理して厚さ130μmのシートを得た。次に、このシートを一軸方向に延伸処理した後、前記可塑剤を有機溶剤で抽出除去し、加熱乾燥して、ポリエチレン樹脂34.4重量%、フェノール樹脂0.2重量%、シリカ粉体65.4重量%で構成される厚さ41μmの微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用セパレータを得た。得られたセパレータの耐熱性を測定した結果、雰囲気温度200℃、保持時間120分の条件で形状保持し、目標を満足した。
【0029】
(実施例2)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体70部と、重量平均分子量20万の高密度ポリエチレン樹脂粉体30部、ノボラックタイプフェノール樹脂粉体1.4部、無機粉体として比表面積150m/gのシリカ粉体190部、可塑剤として鉱物オイルの一種であるパラフィン系オイル410部をレーディゲミキサーで混合し、実施例1と同様にして、ポリエチレン樹脂34.3重量%、フェノール樹脂0.5重量%、シリカ粉体65.2重量%で構成される厚さ40μmの微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用セパレータを得た。得られたセパレータの耐熱性を測定した結果、雰囲気温度200℃、保持時間120分の条件で形状保持し、目標を満足した。
【0030】
(実施例3)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体70部と、重量平均分子量20万の高密度ポリエチレン樹脂粉体30部、ノボラックタイプフェノール樹脂粉体1.4部、無機粉体として比表面積150m/gのシリカ粉体190部、可塑剤として鉱物オイルの一種であるパラフィン系オイル410部をレーディゲミキサーで混合し、先端にTダイを取り付けた二軸押出成形機で加熱溶融・混練しながらシート状に押出成形し、次いで成形ロールにて圧延処理して厚さ80μmのシートを得た。次に、このシートを一軸方向に延伸処理した後、前記可塑剤を有機溶剤で抽出除去し、ポリエチレン樹脂34.3重量%、フェノール樹脂0.5重量%、シリカ粉体65.2重量%で構成される厚さ18μmの微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用セパレータを得た。得られたセパレータの耐熱性を測定した結果、雰囲気温度200℃、保持時間120分の条件で形状保持し、目標を満足した。
【0031】
(実施例4)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体70部と、重量平均分子量20万の高密度ポリエチレン樹脂粉体30部、ノボラックタイプフェノール樹脂粉体1.4部、無機粉体として比表面積150m/gのシリカ粉体190部、可塑剤として鉱物オイルの一種であるパラフィン系オイル410部をレーディゲミキサーで混合し、先端にTダイを取り付けた二軸押出成形機で加熱溶融・混練しながらシート状に押出成形し、次いで成形ロールにて圧延処理して厚さ92μmのシートを得た。このシートを延伸処理を行わずに、前記可塑剤を有機溶剤で抽出除去し、ポリエチレン樹脂34.3重量%、フェノール樹脂0.5重量%、シリカ粉体65.2重量%で構成される厚さ92μmの微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用セパレータを得た。得られたセパレータの耐熱性を測定した結果、雰囲気温度200℃、保持時間120分の条件で形状保持し、目標を満足した。
【0032】
(比較例1)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体70部と、重量平均分子量20万の高密度ポリエチレン樹脂粉体30部、無機粉体として比表面積150m/gのシリカ粉体190部、可塑剤として鉱物オイルの一種であるパラフィン系オイル410部をレーディゲミキサーで混合し、実施例1と同様にして、ポリエチレン樹脂34.5重量%とシリカ粉体65.5重量%で構成される厚さ39μmの微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用セパレータを得た。得られたセパレータの耐熱性を測定した結果、雰囲気温度200℃、保持時間120分の条件で形状保持できなかった。
【0033】
(比較例2)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体70部と、重量平均分子量20万の高密度ポリエチレン樹脂粉体30部、ノボラックタイプフェノール樹脂粉体2.8部、無機粉体として比表面積150m/gのシリカ粉体190部、可塑剤として鉱物オイルの一種であるパラフィン系オイル410部をレーディゲミキサーで混合し、実施例1と同様にして、ポリエチレン樹脂34.2重量%、フェノール樹脂1.0重量%、シリカ粉体64.9重量%で構成される厚さ41μmの微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用セパレータを得た。しかし、溶融混練押出時に、樹脂圧力が低下し、原料組成物が均一に分散せず混練不足の状態で製膜が行われたことにより、その後の延伸処理にてシート破断がしばしば発生する状況であった。得られたセパレータの耐熱性は、雰囲気温度200℃、保持時間120分の条件で形状保持し、目標を満足した。
【0034】
(比較例3)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体70部と、重量平均分子量20万の高密度ポリエチレン樹脂粉体30部、ノボラックタイプフェノール樹脂粉体0.7部、無機粉体として比表面積150m/gのシリカ粉体140部、可塑剤として鉱物オイルの一種であるパラフィン系オイル302部をレーディゲミキサーで混合し、実施例1と同様にして、ポリエチレン樹脂41.5重量%、フェノール樹脂0.3重量%、シリカ粉体58.2重量%で構成される厚さ40μmの微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用セパレータを得た。得られたセパレータの耐熱性を測定した結果、雰囲気温度200℃、保持時間120分の条件で形状保持し、目標を満足した。しかし、得られたセパレータの密度が高く、空隙率が低下し、蓄電デバイスの内部抵抗が上昇する問題が発生した。
【0035】
(比較例4)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量200万の高密度ポリエチレン樹脂粉体70部と、重量平均分子量20万の高密度ポリエチレン樹脂粉体30部、ノボラックタイプフェノール樹脂粉体1.4部、無機粉体として比表面積150m/gのシリカ粉体410部、可塑剤として鉱物オイルの一種であるパラフィン系オイル885部をレーディゲミキサーで混合し、実施例1と同様にして、ポリエチレン樹脂19.6重量%、フェノール樹脂0.3重量%、シリカ粉体80.2重量%で構成される厚さ41μmの微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用セパレータを得た。しかし、溶融混練押出時に、樹脂圧力が低下し、原料組成物が均一に分散せず混練不足の状態で製膜が行われたことにより、その後の延伸処理にてシート破断がしばしば発生する状況であった。得られたセパレータの耐熱性を測定した結果、雰囲気温度200℃、保持時間120分の条件で形状保持し、目標を満足した。しかし、得られたセパレータの強度が低く、蓄電デバイスの組み立てにおいて、セパレータが破断する問題が発生した。
【0036】
次に、上記にて得られた実施例1〜4、比較例1〜4の各セパレータについて、以下の方法により、各種特性評価を行った。結果を表1に示す。尚、以下において、幅方向とは、原反の帯状シートの流れ方向(長手方向)に対して直交する方向を指す。
〈厚さ〉
0.001mm目盛のダイヤルシックネスゲージにより測定し、幅方向に5箇所測定し、その平均を値とした。
〈密度〉
測定した目付(g/m)を試料厚さ(μm)で除した計算値(目付÷厚さ)で算出した。
〈空隙率〉
平均孔径を測定する方法の一つである水銀圧入法で、試料への水銀の圧入量より空隙率を求めた。
〈平均孔径〉
水銀圧入法(JIS R 1655)により測定し、平均孔径を求めた。
〈引張強さ〉
JIS K 7113に準拠した方法で、チャック間距離50mm、引張速度200mm/分の条件で、幅方向から3箇所サンプリング測定し、その平均を値とした。
〈突き刺し強度〉
試験片上部よりφ1mmの鉄棒を速度100mm/分の条件で突き刺し、試験片が破断した最大荷重を測定した。
〈耐熱性〉
箱型乾燥機にて、雰囲気温度200℃で120分間、暴露させてから取り出し、形状を保持したものを○、炭化したものを×として評価した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から以下のことがわかった。
(1)本発明の実施例1〜4の微多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)は、溶融混練押出時の樹脂圧力が80%(比較例1の樹脂圧力を100%として)以上を確保し、溶融混練押出時の原料組成物の均一分散性の低下による製膜シートの欠陥を抑え、また、空隙率が75%以上を確保し、蓄電デバイスの内部抵抗の上昇を抑え、また、引張強さが30N/mm以上を確保しながら、耐熱性が良好であった(200℃で120分間暴露後に炭化せず形状を保持した)。
(2)これに対し、比較例1の微多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)は、フェノール樹脂を含ませなかったため、耐熱性が良好ではなかった(200℃で120分間暴露後に炭化し形状を保持できなかった)。また、比較例2の微多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)は、フェノール樹脂を1.0重量%含ませたため、耐熱性は良好であった(200℃で120分間暴露後に炭化せず形状を保持した)が、溶融混練押出時の樹脂圧力が80%(比較例1の樹脂圧力を100%として)未満に低下し、溶融混練押出時の原料組成物の均一分散性の低下による製膜シートの欠陥が多発した。また、比較例3の微多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)は、無機粉体の含有量が60重量%未満であったため、空隙率が75%未満に低下し、蓄電デバイスの内部抵抗の上昇が顕著であった。また、比較例4の微多孔質フィルム(蓄電デバイス用セパレータ)は、ポリオレフィン系樹脂の含有量が20重量%未満であったため、引張強さが30N/mm未満に低下し、十分な機械的強度を確保できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン系樹脂と、比表面積が100m/g以上の無機粉体と、可塑剤とを主成分とした原料組成物を溶融混練して製膜するとともに前記可塑剤を除去することで多孔質化した、厚さが10〜100μmで、平均孔径が0.01〜0.5μmで、空隙率が75〜95%である微多孔質フィルムであって、前記原料組成物に更にフェノール樹脂を含み、前記ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量%、前記無機粉体を60〜80重量%、前記フェノール樹脂を0.2〜0.5重量%含むようにして耐熱性を向上させた微多孔質フィルムからなることを特徴とする蓄電デバイス用耐熱セパレータ。
【請求項2】
前記厚さが50μm以下であることを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス用耐熱セパレータ。
【請求項3】
前記蓄電デバイスは有機系電解液または非水溶液系電解液を使用した蓄電デバイスであることを特徴とする請求項1または2記載の蓄電デバイス用耐熱セパレータ。
【請求項4】
重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン系樹脂と、比表面積が100m/g以上の無機粉体と、可塑剤とを主成分とした原料組成物を溶融混練して製膜するとともに前記可塑剤を除去することで多孔質化した、厚さが10〜100μmで、平均孔径が0.01〜0.5μmで、空隙率が75〜95%である微多孔質フィルムであって、前記原料組成物に更にフェノール樹脂を含ませ、前記フェノール樹脂を含むようにして耐熱性を向上させた微多孔質フィルムからなる蓄電デバイス用耐熱セパレータの製造方法であって、前記原料組成物を溶融混練する工程において、前記原料組成物として、前記ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量部、前記無機粉体を60〜80重量部および前記可塑剤を120〜200重量部に対して、前記フェノール樹脂を0.2〜0.5重量部含むようにして、前記微多孔質フィルムとして、前記ポリオレフィン系樹脂を20〜40重量%、前記無機粉体を60〜80重量%、前記フェノール樹脂を0.2〜0.5重量%含むようにしたことを特徴とする蓄電デバイス用耐熱セパレータの製造方法。

【公開番号】特開2013−70006(P2013−70006A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209358(P2011−209358)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】