説明

蓄電デバイス

【課題】本発明は、サイクル寿命を低下させることなく、大きなエネルギー密度(大容量)を確保可能な蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質12を有した負極と、純アルミ箔からなる焦電体13上に活性炭を含むグラファイト系正極活物質14を塗布し、乾燥後、圧着した正極と、前記負極と正極間に配置されたイオン伝導性電解液が含浸されたセパレータ15とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム(Li)イオン電池は、エネルギー密度(以下、「容量」ともいう)に優れるため、二次電池として用いられている。この二次電池用負極活物質としては、通常、グラファイト(C)にLiがドープされたものが用いられ、理論的にはC6LiまでLiをドープすることが可能とされているが、実用上はそれ以下の濃度(C10Li)程度までしかLiをドープできないのが現状である。
【0003】
また、二次電池用負極として、アルミニウム(Al)−Li系合金も検討され、一部実用化されている。これは、非水系二次電池用Al−Li合金電極であって、該電極はAlを主体とし4〜12質量%のLiを含むAl−Li合金からなり、該合金は網目状共晶組織中のLiAl化合物が10μm以下の大きさであることを特徴とする(特許文献1参照)。
【0004】
さらに、金属製負極の体積膨張の影響を緩和することを目的として、下記のような電極も検討されている。
【0005】
例えば、表面や内部に球状の空隙を有したスズ(Sn)やSn−ニッケル(Ni)合金負極であって、この空隙は気孔率が10〜98%で、孔径が0.05〜100μmであり、Liと合金化する構成である(特許文献2参照)。
【0006】
また、キャパシタは二次電池と比べて出力密度が高いため、例えば電気自動車の主電源や補助電源、もしくは太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの電力蓄積デバイスとして有望視されている。しかし、エネルギー密度が低い(すなわち、電気容量が小さい)ため、これらを改善する下記のような試みが提案されている。
【0007】
このようなキャパシタとして、例えば、正極と負極とをセパレータを介して、電解液中に浸漬したLiイオンハイブリッドキャパシタであって、正極が活物質として非多孔性炭を含み、負極が活物質としてLiイオンを可逆的に吸蔵・脱離可能な炭素(C)材料を含み、電解液がLi塩を含む非プロトン性の有機溶媒である構成のものが知られている(特許文献3参照)。
【0008】
また、Liイオンハイブリッドキャパシタにおいて、特に負極活物質は、細孔構造を有する平均粒子径12〜300nmの多孔質のカーボンブラックが炭素材で結着された集合体である炭素質多孔性粉末であり、正極活物質としては上記特許文献3に開示された炭素(C)材料と同じであるものが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−51052号公報
【特許文献2】特開2006−260886号公報
【特許文献3】特開2007−294539号公報
【特許文献4】特開2008−150270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に開示された二次電池用負極としてのAl−Li系合金は板状をなしているため、充放電に伴う体積膨張収縮による応力が緩和されず、負極活物質として機能するAl−Li系合金の剥落が発生し、サイクル寿命が不十分であるという問題点が存在する。
【0011】
また、上記特許文献2に開示されたLiと合金化する空隙を有するSnやSn−Ni合金負極は、その空隙形状が球状で、かつ、互いに独立した構造のため、充電に伴う空隙内のLiの体積膨張の影響がSnやSn−Ni合金負極の空隙内壁部に集中して、負極にクラックが発生しやすく、サイクル寿命が不十分であるという問題点が存在する。さらに、上記特許文献2に開示された製造技術では、細孔を有したAlからなる負極を形成することもできない。
【0012】
また、上記特許文献3に開示された負極は、活物質として炭素材料を含むため、理論上もC6Li以上のLiのドープ量が得られず、そもそも大容量を期待できない。さらに、正極はアニオンの吸着のみにより蓄電する機構のため、そもそも容量が負極よりかなり小さくなり、負極の容量さえ十分に生かすことができない。
【0013】
また、上記特許文献4に開示された負極に関しても、上記特許文献3に開示された負極同様に、活物質として炭素材料を含むため、理論上もC6Li以上のLiのドープ量が得られず、そもそも大容量を期待できない。さらに、上記特許文献2に開示された正極同様に、正極はアニオンの吸着のみにより蓄電する機構のため、そもそも容量が負極よりかなり小さくなり、負極の容量さえ十分に生かすことができない。
【0014】
本発明の目的は、サイクル寿命を低下させることなく、大きなエネルギー密度(大容量)を確保可能な蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質を有した負極と、活性炭を含むグラファイト系正極活物質を有した正極と、前記負極と正極間に配置されたイオン伝導性電解液とを備えたことを特徴とする蓄電デバイスである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明は、多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質を有した負極と、活性炭を含むグラファイト系正極活物質を有した正極と、前記負極と正極間に配置されたイオン伝導性電解液とを備えたものであるため、サイクル寿命を低下させることなく、大きなエネルギー密度(大容量)を確保可能な蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る蓄電デバイスの一実施形態を説明するための模式構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0019】
(負極活物質の調製)
(アルミニウム箔の前処理)
1)まず、厚さ110μm、所定組成(Liを含まない、詳細は下記表1参照)のアルミニウム箔を、5.5質量%塩酸、1.5質量%りん酸と0.5質量%硝酸、2.0質量%塩化アルミニウムを含む水溶液中、18℃の電解液中で10Hz、電流密度120mA/cmの三角波交流電流で10秒〜27分エッチングを行ない、イオン交換水で洗浄した。
2)次に、5.0質量%硫酸水溶液中に、60℃で2分間〜3分間浸せきした後、イオン交換水で洗浄した。
【0020】
(負極活物質の合成)
正極側、負極側にそれぞれ接続されたリチウム板、上記予め前処理されたアルミニウム箔を電解液{濃度1モル; 電解質(LiPF)、有機溶媒(エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1の混合溶液)}内に浸漬し対峙させ、前記アルミニウム箔の電位を25mV(対Li/Li)に制御して50℃で電解することにより合金化し、下記表1に示す試験No.1〜8の負極活物質12(図1参照)を合成した。この合成により得られたリチウム含有アルミニウム合金は、多数の細孔を有する。ここで言うリチウム含有アルミニウム合金とは、合成条件等により多少の未合金部を含んだリチウム含有アルミニウム合金も含めた総称である。また、ここで言う細孔とは、上記アルミニウム箔の前処理条件等により発生する多少の穴を含んだ場合も含めた総称である。また、細孔の開口径、および、細孔の長さは、次のように定義する。すなわち、細孔の断面形状は、円形とは限らないので、ここで言う細孔の開口径とは、細孔の断面の最大横断長さとする。また、細孔の深さは、変形している場合もあるので、ここで言う細孔の長さとは、細孔の最大長さとする。試験No.1〜8の負極活物質12の細孔の開口径は、0.05μm〜7μmで、細孔の長さ/細孔の開口径比は、7〜103である。また、細孔の分布状態は、ほぼ均一であり、上記合成により得られた負極活物質12の表面における細孔が占める面積の割合は、30%〜80%のものがよい。この細孔の分布状態は、上記予め前処理されたアルミニウム箔の細孔の分布状態が反映される。また、この細孔を有した多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質中のリチウム含有量は、上記合成実験時の電気量から算出した(下記表1参照)。
【表1】

【0021】
(負極の形成)
図1に示すように、上記合成により得られた負極活物質12を負極として用いた。
【0022】
(正極活物質の調製)
活性炭(平均粒径2.5μm、BET比表面積:800〜1300m/g)とグラファイト(平均粒径2.0μm)を上記表1に示す所定の割合で混合し、正極活物質14(図1参照)として調製した(上記表1に示す試験No.1〜8参照)。正極活物質14内のグラファイト含有率の定義は、グラファイトの質量/(活性炭の質量+グラファイトの質量)×100(%)である。
【0023】
(正極の形成)
図1に示すように、上記調製により得られた正極活物質14をさらにアセチレンブラック45%、PVdF5%を加え、N‐メチル‐2‐ピロリドンでペースト状としたものを純アルミニウム箔からなる集電体13に塗布し、乾燥後、圧着し正極とした。
【0024】
(本発明に係る蓄電デバイス)
図1は、本発明に係る蓄電デバイスの一実施形態としてのキャパシタを説明するための模式構成図である。
【0025】
図1において、10は容器、15は上記負極活物質の合成に使用したものと同じ電解液が含浸されたセパレータである。このセパレータ15を上記負極と上記正極で挟み、キャパシタを構成する。すなわち、セパレータ15は、負極活物質12と正極活物質14に挟まれることになる。このようにして構成したキャパシタを上記表1に示す試験No.1〜8の負極活物質12と正極活物質14に合わせて、下記表2に示すように試験No.1〜8とした。
【表2】

【0026】
図1に示すように構成したキャパシタの充電電圧を計測した。次に、サイクル試験(放電深度20%)を行い、放電容量が初期の95%になったサイクル数をサイクル寿命とした。合わせて、エネルギー密度(Wh/kg)を求めた。その結果を上記表2に示す。
【0027】
上記表2に示すように、試験No.1〜7は試験No.8と比べ、充電電圧が4.4〜4.8Vと高い。また、試験No.1〜6のエネルギー密度(容量)は、90〜200Wh/kgと目標とする所定のエネルギー密度(90〜200Wh/kg以上)を満足したものの、試験No.7、8は、それぞれ84、70と下回った。試験No.1〜6のエネルギー密度(容量)が大きくなったのは、アニオンおよびカチオンをインターカレートし得る活性炭を含むグラファイト系正極活物質を有した正極を多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質を有した負極と組み合わせることによって実現したものと考えている。このように、試験No.1〜6では、本発明の中核をなす「活性炭を含むグラファイト系正極活物質を有した正極と多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質を有した負極とを組み合わせる」という構成を採用したことにより、エネルギー密度(容量)を増加させたにもかかわらず、目標とする所定のサイクル寿命(600以上)も満足する。特に、充電時に、負極内のリチウム含有量が増加し、体積膨張するが、本発明のように多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質を有した負極を採用したことにより、体積膨張による影響が吸収され、緩和されたことの寄与が大きい。また、「サイクル寿命を低下させることなく、大きなエネルギー密度(大容量)が確保可能である。」という本願発明に特有の作用効果を顕著ならしめるためには、正極活物質14内のグラファイト含有率が10%〜70%とするように活性炭を含有させるのが好ましい。
【0028】
負極活物質12中のLiの含有量は、5原子(at)%〜70at%が好ましい。その理由は、5at%未満では、エネルギー密度が小さくなり、70at%を超えると電極の体積デンドライトが発生しやすくなるためである。なお、より好ましくは、Liの含有量を30at%〜65at%とするのがよい。
【0029】
また、負極活物質12は、さらに、Siを0.1at%〜24at%含有することが好ましい。その理由は、0.1at%未満では、強度不足となり、24at%を超えると脆くなるためである。
【0030】
なお、本実施の形態においては、アルミニウム箔として、厚さが110μmの場合を例に説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、厚さが約5μm〜200μmのものを用いることができる。また、本実施の形態においては、多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質として、上記表1に示されるように、AlとLiを中心にSi、Sn、Mgを適宜含有した例について説明したが、上記負極活物質には、不可避不純物として、Fe、Cu、Mn、Zn、Ti等を0.05at%以下含有しても良い。
【0031】
また、セパレータ15に含浸されている電解液は、電解質(LiBF)と有機溶媒{エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=1:1の混合溶液}からなる濃度1.5モルの電解液を採用することも可能である。
【0032】
なお、本実施形態においては、負極活物質12に対して集電体を別途設けない構成について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、負極活物質12を銅製の集電体に導電ペーストを介して軽く圧接し、負極とするなど、負極活物質12に対して集電体を別途設けることも可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 容器
12 負極活物質
13 集電体
14 正極活物質
15 電解液が含浸されたセパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質のリチウム含有アルミニウム合金製負極活物質を有した負極と、活性炭を含むグラファイト系正極活物質を有した正極と、前記負極と正極間に配置されたイオン伝導性電解液とを備えたことを特徴とする蓄電デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2011−228402(P2011−228402A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95225(P2010−95225)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】