説明

蓄電デバイス

【課題】高電圧域で、安定に稼動し得る蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の蓄電デバイスは、正極、負極および電解液を備え、前記電解液が、下記一般式(1)で表されるシアノボレート塩及び溶媒を含み、且つ、(i)満充電時の正極電位がリチウム基準で4.0V〜5.5Vであるか、又は、(ii)前記正極が、リチウム基準で3.5V〜5.5Vの放電電圧を示す正極活物質を含む。
n+([B(CN)4-a(X213a-n (1)
(式中、Mn+は1価、2価又は3価の有機又は無機カチオン、X2はO又はS、R13はH又は炭素数1〜10の炭化水素基、nは1〜3の整数、aは0〜3の整数を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パーソナルコンピューター、さらには電気自動車やハイブリッド自動車用の電源としては、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスが用いられており、これらの蓄電デバイスの特性向上を目的とした様々な研究が行われている。
【0003】
上記蓄電デバイスの中でも、リチウムイオン二次電池は、構成材料としてリチウムを使用することから、電池の小型化、軽量化が可能であり、また、従来使用されている二次電池に比べて電気容量が大きいといった特徴を有する。したがって、リチウムイオン二次電池の電気容量や入出力特性、サイクル特性の向上を目的として様々な研究がなされている。
【0004】
例えば、電極面からの蓄電デバイスの特性向上の試みとしては、特許文献1には、表面が低結晶性炭素材料で被覆された黒鉛材料と、所定の黒鉛化度を有する易黒鉛化性炭素材料とを組み合わせた負極炭素材が開示されている。また、特許文献2には、縦横比が異なるリチウムニッケル複合酸化物の1次粒子が凝集してなる2次粒子であって、一部の1次粒子の長さ方向が2次粒子の中心方向に向かった構造を有するものは、高出力放電でき、且つ、高温でのサイクル耐久性に優れる正極材料となることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−117240号公報
【特許文献2】WO2006−118279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、リチウムイオン二次電池の特性の向上、特に、高エネルギー密度化を実現するには、上述のように、負極や正極の好適化に加えて、リチウム基準の放電電圧が高い正極材料の使用が有効である。また、この場合には、高電圧下で稼動させた場合にも電解液が分解し難いことが必要である。
【0007】
しかしながら、たとえ高い放電電圧を有する正極材料を用いても、現行の電解液に用いられているLiPF6やLiBF4などの電解質は耐電圧が低いため、充分な電池特性が得られ難いといった問題があることを本発明者らは見出した。
【0008】
本発明は上述の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、高電圧域で、安定に稼動し得る蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得た本発明の蓄電デバイスとは、正極、負極および電解液を備え、前記電解液が、下記一般式(1)で表されるシアノボレート塩及び溶媒を含み、且つ、
(i)満充電時の正極電位がリチウム基準で4.0V〜5.5Vであるか、又は
(ii)前記正極が、リチウム基準で3.5V〜5.5Vの放電電圧を示す正極活物質を含むところに特徴を有している。
n+([B(CN)4-a(X213a-n (1)
(式中、Mn+は1価、2価又は3価の有機又は無機カチオン、X2はO又はS、R13はH又は炭素数1〜10の炭化水素基、nは1〜3の整数、aは0〜3の整数を表す)
【0010】
本発明に係る電解液において、前記式(1)中、Mn+はLi+であるのが好ましく、前記溶媒としては、γ‐ブチロラクトンを含むものが好ましく用いられる。また、本発明の蓄電デバイスは、上記正極と負極との間にガラス繊維からなるセパレータを有するものであるのが好ましい。
【0011】
本発明の蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高電圧域で、安定に稼動し得る蓄電デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実験例1の充放電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の蓄電デバイスとは、正極、負極および電解液を備え、前記電解液が、上記一般式(1)で表されるシアノボレート塩及び溶媒を含み、且つ、
(i)満充電時の正極電位がリチウム基準で4.0V〜5.5Vであるか、又は
(ii)前記正極が、リチウム基準で3.5V〜5.5Vの放電電圧を示す正極活物質を含むところに特徴を有する。
【0015】
<シアノボレート塩>
まず、本発明で使用する電解液に含まれるシアノボレート塩について説明する。本発明に係るシアノボレート塩とは、上記一般式(1)に表されるように、有機または無機カチオン:Mn+とシアノボレートアニオン:[B(CN)4-a(X213a-とからなる化合物である。
【0016】
・シアノボレートアニオン:[B(CN)4-a(X213a-
本発明に係るシアノボレートアニオンは、ホウ素に、シアノ基:−CNと、−X213基が結合した一般式:[B(CN)4-a(X213a-で表される構造を有する。なお、上記一般式中、aは0〜3の整数であるので、本発明に係るシアノボレートアニオンには、aが0であるテトラシアノボレートアニオン:[B(CN)4-;aが1であるトリシアノボレートアニオン:[B(CN)3213-;aが2であるジシアノボレートアニオン:[B(CN)2(X2132-;aが3であるシアノボレートアニオン:[B(CN)(X2133-;のシアノボレートアニオン類が含まれる。なお、シアノボレートアニオンとしては、上記一般式中、aが0又は1であるものが好ましい。
【0017】
上記一般式で表されるアニオン中、X2は、O又はSを表す。X2としてはOが好ましい。R13は、H又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。なお、炭化水素基は置換基を有していてもよく、この場合、置換基を構成する炭素の数は、前述の炭素数には含まれない。また、上記炭化水素基は、その一部にヘテロ原子(O、N、Si等)を含んでいてもよく、更に、炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部がF、Cl、Br及びIなどのハロゲン原子で置換されていてもよい。炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖、分枝鎖又は環状の飽和及び/又は不飽和炭化水素基が好ましく、より好ましい炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または、ベンジル基などが挙げられる。具体的な炭化水素基R13としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロペンチル基等のシクロアルキル基;ビニル基などのアルケニル基;フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基;が挙げられる。好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基である。
【0018】
具体的なシアノボレートアニオンとしては、[B(CN)4-で表されるテトラシアノボレートアニオン;[B(CN)3(OMe)]-、[B(CN)3(OEt)]-、[B(CN)3(O−i−Pr)]-(なお、“−i−”は“iso”を示す。以下同様。)、[B(CN)3(OBu)]-、[B(CN)3(OPh)]-等のアルコキシトリシアノボレートアニオン;[B(CN)3(SMe)]-等のチオアルコキシトリシアノボレートアニオン;[B(CN)2(OMe)2-、[B(CN)2(OEt)2-、[B(CN)2(O−i−Pr)2-、[B(CN)2(OBu)2-、[B(CN)2(OPh)2-等のジアルコキシジシアノボレートアニオン;[B(CN)(OMe)3-、[B(CN)(OEt)3-、[B(CN)(O−i−Pr)3-、[B(CN)(OBu)3-、[B(CN)(OPh)3-等のトリアルコキシシアノボレートアニオン;が挙げられる。
【0019】
・有機又は無機カチオン:Mn+
次に、本発明に係るシアノボレート塩を構成する有機又は無機カチオンMn+について説明する。本発明に係るシアノボレート塩を構成する有機カチオンMn+としては、一般式(2):L+−RS(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表し、Rは、同一若しくは異なる有機基であり、互いに結合していてもよい。sはLに結合するRの数を表し、3又は4である。なお、sは、元素Lの価数およびLに直接結合する二重結合の数によって決まる値である)で表されるオニウムカチオンが好適である。
【0020】
上記Rで示される「有機基」としては、水素原子、フッ素原子、又は、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有してさえいればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子などの他の原子や、置換基などを有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、ジスルフィド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホニル基などが挙げられる。
【0021】
一般式(2)で表されるオニウムカチオンとしては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0022】
【化1】


(式中のRは、一般式(2)と同様)
【0023】
上記一般式で表される6つのオニウムカチオンの中でも、LがN,P,SまたはOであるものがより好ましく、さらに好ましいのはLがNのオニウムカチオンである。上記オニウムカチオンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。具体的に、LがN,P,SまたはOであるオニウムカチオンとしては、下記一般式(3)〜(5)で表されるものが好ましいオニウムカチオンとして挙げられる。
【0024】
一般式(3):
【0025】
【化2】


で表される15種類の複素環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
【0026】
上記有機基R1〜R8は、一般式(2)で例示した有機基Rと同様のものが挙げられる。より詳しくは、R1〜R8は、水素原子、フッ素原子、又は、有機基であり、有機基としては、直鎖、分岐鎖又は環状(但し、R1〜R8が互いに結合して環を形成しているものを除く)の炭素数1〜18の炭化水素基、あるいは炭化フッ素基であるのが好ましく、より好ましいものは炭素数1〜8の炭化水素基、炭化フッ素基である。また、有機基は、上記一般式(2)に関して例示した置換基や、N、O、Sなどのヘテロ原子及びハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0027】
一般式(4):
【0028】
【化3】


(式中、R1〜R12は、一般式(3)のR1〜R8と同様)
で表される9種類の飽和環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
【0029】
一般式(5):
【0030】
【化4】


(式中、R1〜R4は、一般式(3)のR1〜R8と同様)
で表される鎖状オニウムカチオン。
【0031】
例えば、上記鎖状オニウムカチオン(5)としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、2−メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、および、N−プロポキシトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム第1級アンモニウム類およびNH4で表されるアンモニウム化合物等が挙げられる。
【0032】
上記(3)〜(5)のオニウムカチオンの中でも、窒素原子を含むオニウムカチオンがより好ましく、さらに好ましいものとしては、下記一般式;
【0033】
【化5】


(式中、R1〜R12は、一般式(3)のR1〜R8と同様である。)
で表される6種類のオニウムカチオンの少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
上記6種類のオニウムカチオンの中でも、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム及びトリエチルメチルアンモニウム等の鎖状第4級アンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム及びジメチルエチルアンモニウム等の鎖状第3級アンモニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム及び1,2,3−トリメチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム、N,N−ジメチルピロリジニウム及びN−エチル−N−メチルピロリジニウム等のピロリジニウムは入手容易であるためより好ましい。さらに好ましいものとしては、第4級アンモニウム、イミダゾリウムが挙げられる。なお、耐還元性の観点からは、上記鎖状オニウムカチオンに分類されるテトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムおよびトリエチルメチルアンモニウムなどの第4級アンモニウムがさらに好ましい。
【0035】
無機カチオンMn+としては、Li+、Na+、K+、Cs+、Pb+等の1価の無機カチオンM1+;Mg2+、Ca2+、Zn2+、Pd2+、Sn2+、Hg2+、Rh2+、Cu2+、Be2+、Sr2+、Ba2+等の2価の無機カチオンM2+;および、Ga3+等の3価の無機カチオンM3+が挙げられる。これらの中でも、Li+、Na+、Mg2+およびCa2+はイオン半径が小さく蓄電デバイスとして利用し易いため好ましく、より好ましい無機カチオンMn+はLi+である。
【0036】
・シアノボレート塩:Mn+([B(CN)4-a(X213a-n
本発明に係るシアノボレート塩には、上記カチオンとアニオンの組み合わせからなるものは全て含まれる。具体的なシアノボレート塩としては、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、テトラメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、テトラエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノイソプロポキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノブトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノフェノキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメチルチオボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリブチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノジメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムシアノトリメトキシボレート、等の有機カチオンの塩;リチウムテトラシアノボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、ナトリウムトリシアノメトキシボレート、マグネシウムビス(トリシアノメトキシボレート)、リチウムトリシアノイソプロポキシボレート、リチウムトリシアノブトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレート、リチウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、リチウムトリシアノメチルチオボレート、リチウムジシアノジメトキシボレート、リチウムシアノトリメトキシボレート、等の無機カチオンの塩;が挙げられる。これらの中でも、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、リチウムテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレートが好ましい。
【0037】
<シアノボレート塩の製造方法>
本発明に係るシアノボレート塩は、例えば、国際公開第2010/021391号パンフレット等に記載の方法により製造すればよいが、具体的には、シアン化合物と、ホウ素化合物とを反応させることにより製造することができる。
【0038】
・シアン化合物
上記一般式(1)で表されるシアノボレート塩のCN源としては、シアン化合物を用いるのが好ましい。シアン化合物としては、金属シアニド;シアン化アンモニウム系化合物;シリルシアニド類;シアン化水素等が挙げられる。
【0039】
上記金属シアニドとしては、上述の無機カチオンMn+のシアン化物が挙げられる。好ましい金属シアニドとしては、KCN、NaCN、LiCN、Zn(CN)2、Ga(CN)3、Pd(CN)2、Sn(CN)2、Hg(CN)2、Rh(CN)2、Cu(CN)2、およびPbCN等が挙げられる。
【0040】
シアン化アンモニウム系化合物としては、有機カチオンMn+として例示したオニウムカチオンの内、LがNであるオニウムカチオンとシアン化物イオン(CN-)とからなる化合物が挙げられる。好ましくは、テトラブチルアンモニウムシアニド、テトラエチルアンモニウムシアニド及びトリエチルメチルアンモニウムシアニド等の鎖状第4級アンモニウムとシアン化物イオンとの塩、トリエチルアンモニウムシアニド、ジブチルメチルアンモニウムシアニド及びジメチルエチルアンモニウムシアニド等の鎖状第3級アンモニウムとシアン化物イオンとの塩、1−エチル−3−エチルイミダゾリウムシアニド及び1,2,3−トリメチルイミダゾリウムシアニド等のイミダゾリウムとシアン化物イオンとの塩、N,N−ジメチルピロリジニウムシアニド及びN−エチル−N−メチルピロリジニウムシアニド等のピロリジニウムとシアン化物イオンとの塩等が挙げられる。
【0041】
シリルシアニド類としては、トリメチルシリルシアニド、トリエチルシリルシアニド、トリイソプロピルシリルシアニド、エチルジメチルシリルシアニド、イソプロピルジメチルシリルクロリド、tert-ブチルジメチルシリルシアニド等のアルキルシリルシアニド;ジメチルフェニルシリルシアニド、フェニルジメチルシリルシアニド等のアルキルアリールシリルシアニド等が挙げられる。
【0042】
なお、シアン化合物は、市販のものを用いてもよく、また、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0043】
・ホウ素化合物
ホウ素化合物は、本発明に係るシアノボレート塩のホウ素源となるものである。したがって、ホウ素化合物としては、ホウ素を含むものであれば特に限定はされないが、例えば、ZBX14(Zは、水素原子又はアルカリ金属原子、X1は、水素原子若しくはハロゲン原子を表す。以下、同様。)、ZB(X2134(R13は、上記一般式(1)における炭化水素基R13と同様であり、X2はO又はSである。以下、同様。)、BX13、BX13−錯体、B(X2133、B(X2133−錯体、Na247、ZnO・B23およびNaBO3よりなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0044】
ZBX14としては、HBF4、KBF4、KBBr4、LiBF4、NaBH4等が挙げられ、ZB(X2134としては、NaB(OH)4、KB(OH)4、LiB(OH)4等が挙げられ、BX13としては、BH3、BF3、BCl3、BBr3、BI3等が挙げられ、B(X2133としては、ホウ酸;B(OMe)3およびB(OEt)3、B(O−i−Pr)3、B(O−t−Bu)3(なお、−t−は“tert”を示す。以下同様。)、B(OPh)3、B(OTMS)3、B(O(C65))3、B(OCH(CF3)23、B(O−n−Bu)3、(なお、−n−は“normal”を示す。以下同様。)等のホウ酸エステル;B(SMe)3およびB(SEt)3、B(S−i−Pr)3,B(S−t−Bu)3,B(SPh)3などのホウ酸チオエステル;等が挙げられ、BX13−錯体、B(X2133−錯体、としては、ジエチルエーテル、トリプロピルエーテル、トリブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリフェニルアミン、グアニジン、アニリン、モルホリン、ピロリジン、メチルピロリジン等のアミン類と、前記BX13又はB(X2133との錯体等が挙げられる。これらの中でも、反応性が比較的高いNaBH4、BH3、BF3、BCl3、BBr3、B(OMe)3、B(OEt)3、B(SMe)3、B(SEt)3、Na247、B(OH)3が好ましく、BF3、BCl3、BBr3等のX1がハロゲン原子であるBX13や、B(OMe)3、B(OEt)3等、X2がOで、がR13炭素数1〜4のアルコキシ基を有するホウ酸エステル:B(OR133がより好ましく、最も好ましいものとしては、BCl3、B(OMe)3およびB(OEt)3が挙げられる。上記ホウ素化合物は、単独で使用してもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
上記原料の配合割合は、目的生成物であるシアノボレート塩において、ホウ素に結合するシアノ基の数に応じてその割合を変えればよく、これにより、シアノ基の1置換体であるモノシアノボレート塩から、ジシアノボレート塩(2置換体)、トリシアノボレート塩(3置換体)およびシアノ基の4置換体であるテトラシアノボレート塩を得ることができる。例えば、シアン化合物に対するホウ素化合物の使用量は、0.5:1〜100:1(シアン化合物:ホウ素化合物、モル比)とするのが好ましい。より好ましくは0.8:1〜80:1であり、より一層好ましくは1:1〜50:1であり、さらに好ましくは1:1〜40:1であり、さらに一層好ましくは3:1〜40:1であり、特に好ましくは4:1〜20:1であり、特に一層好ましくは4:1〜10:1であり、最も好ましくは4:1〜5:1である。シアン化合物の配合量が少なすぎると、目的のシアノボレート塩の生成量が少なくなったり、副生物が生成する場合があり、一方多すぎると、CN由来の不純物量が増加し、目的生成物の精製が困難になる傾向がある。
【0046】
上記シアン化合物とホウ素化合物との反応は、上述の有機又は無機カチオンMn+の塩や、アミンの存在下で行うのが好ましい。特に、金属シアニドをシアン化物とする場合は、有機又は無機カチオンMn+の塩の存在下で、アルキルシリルシアニド又はアルキルアリールシリルシアニドをシアン化物とする場合は、アミンや、有機又は無機カチオンMn+の塩の存在下で、シアン化水素をシアン化物とする場合は、アミンの存在下で、シアン化合物とホウ素化合物との反応を行うことが推奨される。
【0047】
有機又は無機カチオンの塩を構成する有機又は無機カチオンとしては、上述した有機又は無機カチオンMn+が挙げられる。一方、有機又は無機カチオンMn+の塩を構成するアニオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン(OH-)、シアン酸イオン(OCN-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、アルコキシイオン(RO-)、硫酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、アルキル硫酸イオン、アルキル炭酸イオン等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン化物イオン(F-、Cl-、Br-およびI-)が好適であり、ハロゲン化物イオンの中でも、Cl-またはBr-が特に好ましい。
【0048】
好ましい有機又は無機カチオンMn+の塩としては、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルメチルアンモニウムブロマイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、リチウムブロマイド、トリエチルアンモニウムクロライド、トリブチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、リチウムクロライドが挙げられる。より好ましい有機又は無機カチオンのハロゲン塩は、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルメチルアンモニウムブロマイド、リチウムブロマイド、トリエチルアンモニウムクロライド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、リチウムクロライドであり、さらに好ましくは、トリエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルメチルアンモニウムブロマイド、リチウムブロマイドである。
【0049】
アミンとしては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ブチルジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミンおよびグアニジン等の鎖状アミン、ピペリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、イミダゾリン、ジアザビシクロノネン(DBN)およびジアザビシクロウンデセン(DBU)等の環状アミン、ピリジン、イミダゾール、メチルイミダゾールおよびピラジン等の芳香族アミンが挙げられる。
【0050】
有機又は無機カチオンMn+の塩の使用量は、金属シアニドをシアン化物とする場合は、ホウ素化合物に対して、100:1〜1:100(有機又は無機カチオンMn+の塩:ホウ素化合物、モル比)とするのが好ましく(より好ましくは50:1〜1:50、さらに好ましくは20:1〜1:20)、アルキルシリルシアニド又はアルキルアリールシリルシアニドをシアン化物とする場合は、ホウ素化合物に対して、0.1:1〜10:1(ホウ素化合物:アミン及び/又はアンモニウム塩、モル比)とするのが好ましく(より好ましくは0.2:1〜5:1、さらに好ましくは0.5:1〜2:1)、シアン化水素をシアン化物とする場合は、0.02:1〜50:1(シアン化水素:アミン、モル比)とするのが好ましい(より好ましくは0.05:1〜20:1、さらに好ましくは0.1:1〜10:1)。ホウ素化合物に対する有機又は無機カチオンの塩又はアミンの使用量、あるいは、シアン化水素に対するアミンの使用量が少なすぎると、効率よくシアノボレート塩を生成し難い場合があり、一方、多すぎると、不純物の量が増加し、精製が困難になる場合がある。
【0051】
上記製造方法では、反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、上記原料が溶解するものであれば特に限定されず、水又は有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、へキサン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、ジエチルエーテル、シクロヘキシルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、バレロニトリル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの反応溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
上記出発原料を反応させる際の条件は特に限定されず、反応の進行状態に応じて適宜調節すればよいが、例えば、反応温度は20℃〜180℃とするのが好ましい。より好ましくは40℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜80℃である。反応時間は1時間〜50時間とするのが好ましく、より好ましくは5時間〜40時間であり、さらに好ましくは10時間〜30時間である。
【0053】
上記製造方法において、上述の原料を添加し、混合する順序は特に限定されない。なお、有機又は無機カチオンの塩又はアミンを用いる場合には、予め反応溶媒と有機又は無機カチオンの塩、又は、アミンとを混合した後、この混合溶液に、残りの原料であるホウ素化合物とシアン化合物を添加するのが好ましい。より好ましくは、有機又は無機カチオンの塩、又は、アミンと反応溶媒との混合溶液に、ホウ素化合物を添加し、その後、シアン化合物を添加する態様である。
【0054】
上記反応後、生成したシアノボレート塩の純度を高めるため精製を行ってもよい。精製法は特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒、およびこれらの混合溶媒での洗浄、吸着精製法、再沈殿法、分液抽出法、再結晶法、晶析法及びクロマトグラフィーによる精製法が挙げられる。
【0055】
上記製造方法により得られたシアノボレート塩は、さらに、カチオン交換反応を行ってもよい。一般式(1)で表されるシアノボレート塩の特性はカチオン種に依存するので、カチオン交換反応を行うことで、特性の異なるシアノボレート塩を容易に得ることができる。
【0056】
カチオン交換反応は、上記製造方法により得られた一般式(1)で表されるシアノボレート塩と所望のカチオンを有するイオン性物質とを反応させればよい。イオン性物質としては特に限定されず、例えば上述の有機又は無機カチオンの塩が挙げられる。カチオン交換反応の際の条件も特に限定されず、反応温度や時間は、反応の進行状況に応じて適宜調整すればよい。また、必要に応じて溶媒を使用してもよく、例えば、上述した反応溶媒が好ましく用いられる。
【0057】
<電解液>
次に、本発明に係る電解液について説明する。本発明の蓄電デバイスに備えられる電解液とは、上述の一般式(1)で表されるシアノボレート塩:Mn+([B(CN)4-a(X213a-nと、溶媒を含む。
【0058】
本発明に係る電解液に好適に使用し得る溶媒としては、上記シアノボレート塩を溶解させられる非プロトン性の溶媒が挙げられる。具体的には、誘電率が大きく、電解質塩の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)である。このような有機溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシエタン)、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(メチルエチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができる。これらの中でも、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、環状カルボン酸エステル類、エーテル類がより好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどがさらに好ましい。上記溶媒は1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、2種以上の溶媒を併用する場合は、γ−ブチロラクトンを含むことが好ましい。
【0059】
また、本発明に係る電解液は、ポリマーを上記溶媒として含んでいてもよい。本発明に係る電解液に含まれる溶媒として使用可能なポリマーとしては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素系ポリマー、および、これらの共重合体等が挙げられる。また、これらのポリマーを他の有機溶媒と混合したポリマーゲルも本発明に係る電解液を構成する溶媒の好適な形態の1つである。上記溶媒を単独で用いる代わりに、このようなポリマーゲルに上述の電解質を溶解、分散させたポリマーゲル電解質を用いると、自己放電が少なくなるため、高電圧状態での電圧保持特性が高くなる。したがって、有機溶媒として、上述のポリマーや、ポリマーと他の有機溶媒とを組み合わせたポリマーゲルを用いることも、本発明に係る電解液の好適な態様の一つといえる。
【0060】
なお、蓄電デバイスにおいて、ポリマー電解液(上記ポリマー、有機溶媒、および、電解質を含む)は、通常、膜の状態で、電極間に挟まれた状態で用いられる。したがって、当該ポリマーが充分な膜強度を保持できる場合には溶媒を含んでいてもよい(ポリマーゲル電解質)。この場合、溶媒の含有量は、電解質材料100質量%中、1質量%〜99質量%であるのが好ましい。溶媒量が少なすぎると充分なイオン伝導度が得られ難い場合があり、一方、多すぎる場合には、溶媒の揮発による電解液中のイオン濃度が変化し易くなり、安定したイオン伝導度が得られ難いからである。より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、より一層好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下、より一層好ましくは65質量%以下である。
【0061】
上記ポリマーゲル電解液は、従来公知の方法で成膜したポリマーに、電解液を滴下して、電解質ならびに有機溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質とを溶融、混合した後、成膜し、ここに有機溶媒を含浸させる方法などにより製造することができる。一方、真性ポリマー電解質は、予め有機溶媒に溶解させた電解質溶液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質とを溶融し、混合して成形する方法などにより製造することができる。
【0062】
本発明に係る電解液には、上記シアノボレート塩以外の他の電解質が含まれていてもよい。他の電解質としては、電解液中での解離定数が大きいものが好ましい。他の電解質に含まれるカチオン種としては、例えば、上述の1価の無機カチオン及び2価の無機カチオンが挙げられる。これらの中でも、Li+、Na+、Mg2+及びCa2+が好ましく、より好ましくはLi+である。一方、アニオン種としては、PF6-、BF4-、ClO4-、[C(CN)3-、N[(CN)2-、N[(SO2CF32-、N[(SO2F)2-、CF3(SO3-、C[(CF3SO23-、AsF6-、SbF6-およびジシアノトリアゾレートイオン(DCTA)などが挙げられる。これらの中でも、PF6-、BF4-がより好ましく、BF4-が特に好ましい。具体的には、カチオン成分としてLi+、アニオン成分としてBF4-を含むリチウムテトラフルオロボレートなどが好ましい他の電解質として挙げられる。
【0063】
上記他の電解質を使用する場合、その存在量としては、上記シアノボレート塩と他の電解質との合計100質量%中、1質量%以上、50質量%以下であることが好適である。1質量%未満では、イオンの絶対量が充分なものとはならず、電気伝導度が小さくなるおそれがあり、50質量%を超えると、イオンの移動が大きく阻害される虞がある。より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上あり、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。なお、蓄電デバイスの高エネルギー密度化と安定稼動との両立を図る観点からは、上記一般式(1)で表される化合物のみを電解質として用いるのが望ましい。
【0064】
本発明に係る電解液中における電解質濃度(シアノボレート塩、または、シアノボレート塩と他の電解質の総量)は、1質量%以上が好ましく、また、飽和濃度以下が好ましい。1質量%未満であると、イオン伝導度が低くなるため好ましくない。より好ましくは5質量%以上、また、50質量%以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは40質量%以下である。電解質濃度が低すぎると、所望の電気伝導度が得られ難い場合があり、一方、濃度が高すぎる場合には、特に、低温域(約−20℃)において顕著となるが、電解液の粘度が上昇し、電荷の移動効率を低下させたり、電解液中で電解質(シアノボレート塩、他の電解質)が分離、析出し、デバイスに悪影響を及ぼすことがある。また、電解質の多量使用によるコスト上昇の問題も生じる。
【0065】
本発明に係る電解液は、さらに、添加剤を含んでいてもよい。斯かる添加剤としては、例えば、上記テトラシアノボレート塩や他の電解質の溶解度を向上させるための溶解助剤等が挙げられる。具体的な溶解助剤としては特に限定されないが、例えば、アミン系化合物が好ましい添加剤として挙げられる。具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルブチルアミン、ジエチルブチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、DABCO(ジアザビシクロオクタン)、DBU(ジアザビシクロウンデセン)、TMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)およびN−メチルイミダゾール等が挙げられ、好ましくは、DBU、TMEDAおよびN−メチルイミダゾールである。
【0066】
<蓄電デバイス>
次に、本発明の蓄電デバイスについて説明する。本発明の蓄電デバイスとは、正極、負極および電解液を備え、前記電解液が、上記一般式(1)で表されるシアノボレート塩及び溶媒を含み、且つ、(i)満充電時の正極電位がリチウム基準で4.0V〜5.5Vであるか、又は、(ii)前記正極が、リチウム基準で3.5V〜5.5Vの放電電圧を示す正極活物質を含むところに特徴を有するものである。
【0067】
本発明の蓄電デバイスは、満充電時の正極電位がリチウム基準で4.0V以上であるのが好ましく、より好ましくは4.3V以上であり、さらに好ましくは4.6V以上であり、さらに一層好ましくは4.9V以上である。したがって、本発明の蓄電デバイスは、かかる高電位まで充電することができる。なお、満充電時の正極電位は高いほど好ましいが、安全性の観点からは、5.5V以下であるのが好ましい。より好ましくは、5.4V以下であり、さらに好ましくは5.3V以下である。
【0068】
上記満充電時の正極電位は、Li金属を基準電極(参照電極)とし、任意の材料からなる正極を作用電極とし、一般的なポテンショスタットを用いて、二極間の電位を測定することにより求められる。なお、基準電極としてLi金属以外の材料を用いる場合には、標準電極電位の値を基に、実測値をリチウム基準で測定した正極電位に換算することができる。例えば、Ag電極を基準電極に用いた場合(Ag/Ag+、標準電極電位:0.799V)、Li金属を基準電極とする場合(Li/Li+、標準電極電位:−3.045V)とは、電位が約3.8V異なるので、実測値に3.8Vを加えれば、リチウム基準で測定した正極電位に換算することができる。
【0069】
より具体的に説明すると、満充電時の正極電位は、充放電試験を行った際の充電終止電圧に負極のリチウム基準での作動電圧を加えた値を意味する(例えば、負極として黒鉛を用いた場合は0.2V、チタン酸リチウムを用いた場合は1.6Vを加える。Liを負極とした場合は、充電終止電圧を満充電時の正極電位としてよい)。なお、上記リチウム基準の作動電圧とは、上記負極とLiを電極として電池を作動させた際の充放電曲線において観測される平坦部(プラトー)の電圧を意味する。
【0070】
充放電試験を行う際の充電終止電圧は、後述する正極材料が分解や劣化を起こさず、安定に充電でき、放電により容量を充分に取り出せる範囲に設定すればよい。
【0071】
本発明の蓄電デバイスに備えられる正極、負極は、それぞれ、集電体と、正極活物質または負極活物質、導電剤、および、結着剤(バインダー物質)などから構成され、各電極は、これらの材料を、正極又は負極集電体上に、薄い塗布膜、シート状又は板状に成形することで形成される。
【0072】
正極としては、正極集電体、正極活物質、導電剤および結着剤などで構成されたものを使用する。正極集電体としては、例えば、アルミニウムやステンレス鋼などを例示することができる。
【0073】
上記正極活物質としては、例えば、LiCoO2,LiNiO2,LiNi(1-x)Cox2,LiNi(1-x)Mnx2,LiNi(1-x)Alx2,LiNixMnyCo(1-x-y)2,LiNixCoyAl(1-x-y)2,Li2MnO3−LiMO2(M=Co,Ni,Mn),LiMn24,LiMxMn(2-x)4(M=Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Al),LiMPO4(M=Fe,Mn,Co,Ni),Li2MSiO4(M=Mn,Fe,Co),LiMVO4(M=Co,Ni),LiMBO3(M=Mn,Fe),M(XO43(M=遷移金属,X=S,P,As,Mo,W),Li32(PO43(M=Fe,V,Ti)これらの中でも、LiCoO2,LiNiO2,LiNi0.8Co0.22,LiNi0.5Co0.52,LiNi0.5Mn0.52,LiNi0.75Al0.252,LiNi1/3Mn1/3Co1/32,LiNi0.8Co0.15Al0.052,LiMn24,LiNi0.5Mn1.54,LiMPO4(M=Fe,Mn,Co,Ni),LiMVO4(M=Co,Ni)が好ましい。
【0074】
なお、高出力化のためには、満充電時の電位をリチウム基準で4.0V以上まで上げることが可能である材料を正極活物質として用いるのが好ましい。このような材料としては、例えば、上記正極活物質の中でも下記測定により求められるリチウム基準の放電電圧が3.5〜5.5Vを示す正極活物質が挙げられる。具体的には、LiCoO2(3.9V),LiNiO2(3.9V),LiNi0.5Mn0.52(3.9V),LiNi1/3Mn1/3Co1/32(3.9V),LiNi0.8Co0.15Al0.052(3.7V),LiMn24(4.0V),LiNi0.5Mn1.54(4.7V),LiMnPO4(4.1V),LiCoPO4(4.8V),LiNiPO4(5.1V),LiNiVO4(4.8V),LiCoVO4(4.2V)などが挙げられる。なお、正極活物質の後の括弧内の数値は、正極活物質の放電電圧を示す。このような正極活物質は、例えば、特許第3593322号、特許第4412568号、特許第3566826号、特許第3589542号、特許第4234418号、特開平10−27611号公報、特開平11−16572号公報、特許第4581157号、特開2001−143704号公報、特許第3606289号、特開2001−185145号公報、特開2002−63904号公報、特許第3461800号、特開2004−95534号公報、特開2007−119304号公報、J.Electrochem.Soc.,152,pp.A1434−A1440(2005)、J.Power.Sources,189,p.397(2009)、Electrochem.Solid State Lett.,3,p.178(2000)、J.Power.Sources,142,p.389(2005)、J.Electrochem.Soc.,141,2279(1994)、Electrochim.Acta.,45,295(1999)等に記載の方法により製造することが出来る。上記正極活物質の中でも、特に、満充電時の電位をリチウム基準で4.0V以上まで上げることが可能である正極活物質を使用することは、本発明の推奨される実施態様である。
【0075】
ここで、上記リチウム基準の放電電圧とは、正極として上記正極活物質から構成される正極、負極としてLiを用いて電池を作動させた際の充放電曲線において観測される平坦部(プラトー)の電圧を意味する。
【0076】
正極活物質は粉末状(粒状)であるのが好ましく、また、10nm以上、500μm以下の粒子径を有するものであるのが好ましい。粒子径は20nm以上、100μm以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは50nm以上、50μm以下であり、特に好ましくは100nm以上、30μm以下であり、一層好ましくは10μm以下である。ここで平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された体積平均粒子径の値である。また、販売者の公称値を参考にしてもよい。
【0077】
負極としては、特に制限されず、例えば、リチウムイオン二次電池に用いられている公知の負極はいずれも使用可能であるが、具体的には、負極集電体、負極活物質、導電剤および結着剤などから構成されるものが好ましく用いられる。負極集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0078】
負極活物質としては、例えば、リチウムイオン二次電池で使用される従来公知の負極活物質を用いることができる。具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、アモルファスカーボン、コークスおよびメソフェーズピッチ系炭素繊維、グラファイト、非晶質炭素であるハードカーボン、C−Si複合材料などの炭素材料や、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、リチウム−タリウム合金、リチウム−鉛合金、リチウム−ビスマス合金等のリチウム合金や、チタン、錫、鉄、モリブデン、ニオブ、バナジウム及び亜鉛等の1種若しくは2種以上を含む金属酸化物並びに金属硫化物が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属イオンを吸蔵、放出できる金属リチウムや炭素材料がより好ましい。
【0079】
導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウム、ニッケル等の金属ファイバー等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、少量で効果的に導電性が向上させられる点で、アセチレンブラック及びケッチェンブラックがより好ましい。導電剤の配合量は、使用する活物質の種類によっても異なるが、正極又は負極活物質100質量部に対して、1質量部〜10質量部とするのが好ましく、3質量部〜5質量部であるのがより好ましい。
【0080】
バインダー物質としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシルメチルセルロース、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリイミド、石油ピッチ、石炭ピッチ、フェノール樹脂等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。バインダー物質の配合量としては、使用する活物質の種類によっても異なるが、正極又は負極活物質100質量部に対して、0.5質量部〜10質量部とするのが好ましく、3質量部〜5質量部であるのがより好ましい。
【0081】
上記正極及び負極の成形方法としては、例えば、(1)正極または負極の電極活物質と、導電剤であるアセチレンブラックの混合物に、バインダー物質を添加混合した後、それぞれの集電体上に塗布し、プレス成形する方法、(2)電極活物質とバインダー物質を混合、成型し、集電体と一体化した後、不活性雰囲気下で熱処理して焼結体として電極とする方法等が好適である。なお、炭素繊維布を賦活処理して得られる活性炭繊維布を用いる場合には、バインダー物質を使用せずにそのまま電極として使用してもよい。
【0082】
本発明の蓄電デバイスでは、正極と負極との接触による短絡を防止するため、両者の間にセパレータが設けられる。セパレータは、正極と負極との間にセパレータを挟み込む方法、または、保持手段を用いて、各電極を間隔を隔てて対向させる方法等により、設ければよい。
【0083】
セパレータとしては、蓄電デバイスの使用温度域において上記一般式(1)のシアノボレート塩やその他の電解質等と化学反応を起こさない多孔性の薄膜を用いることが好適である。セパレータの材質としては、紙;ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど);セルロース;アラミド等の有機系材料;アラミド繊維等の有機多孔質系材料;ガラス繊維等の無機系材料;等が好適である。特に蓄電デバイスを高電圧下で作動させる場合は、高い絶縁性が求められるため、無機系材料やポリオレフィン系材料、あるいは、これらの混合物からなるセパレータが好適である。絶縁性の観点からは、ポリプロピレン(PP)膜、ポリエチレン(PE)膜、または、これらの膜を積層した積層膜(例えば、PP/PE/PP3層膜等);ポリオレフィン系材料と無機系材料との混合物の成形体;セルロースを含有する多孔質シートに、上記有機系材料を塗布あるいは含浸させてなるもの;等がセパレータとして好適である。なお、蓄電デバイスの小型化の観点からは、薄膜化が容易な有機系材料や有機多孔質系材料からなるセパレータが好ましく、一方、ガラス繊維などの無機系材料からなるものは、本発明に係る電解液に対するぬれ性が良好であるため好ましい。
【0084】
本発明の蓄電デバイスの電解液としては、上述の電解液を用いる。本発明に係る電解液中に含まれるカチオン:Mn+と、シアノボレートアニオン:[B(CN)4-a(X213a-は、これらのアニオンおよび/またはカチオンを含む化合物に由来するものである。これらのイオンを生成する化合物は、一般式(1)で表されるシアノボレート塩に由来するものであってもよく、他の電解質に由来するものであってもよい。なお、上述のように、本発明に係る電解液にはリチウムイオンが含まれているのが好ましいが、一般式(1)のシアノボレート塩にリチウムイオンが含まれていない場合、本発明に係る電解液に含まれるリチウムイオンは、他の電解質に由来するものとなる。
【0085】
電解液中におけるリチウムイオンの濃度は、5.0×10-4質量%以上、5質量%以下であるのが好ましい。より好ましくは2.5×10-3質量%以上であり、さらに好ましくは1.0×10-2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。一方、シアノボレートアニオンの濃度は、0.1質量%以上、50質量%以下であるのが好ましい。より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。リチウムイオン、シアノボレートアニオンのいずれも、電解液中における存在量が少なすぎる場合には、所望の電気伝導度が得られ難い場合があり、一方、濃度が高すぎる場合には、特に、低温域(約−20℃)において顕著となるが、電解液の粘度が上昇し、電荷の移動効率を低下させたり、電解液中でリチウムシアノボレートが析出し、電極などに悪影響を及ぼすことがある。また、多量の使用はコストの上昇を招く。
【0086】
なお、電解液中における上記一般式(1)で表されるシアノボレート塩および他の電解質の濃度は、リチウムイオン量およびシアノボレートアニオン量が上記範囲となる限り特に限定されないが、例えば、Mn+がリチウムイオンである一般式(1)のシアノボレート塩の濃度は、0.01質量%以上であり、50質量%未満であるのが好ましい。電解質の濃度が上記範囲である場合には、良好な電気伝導度を示すので好ましい。なお、シアノボレート塩の濃度は、0.05質量%以上であるのがより好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。濃度が低すぎると、所望の電気伝導度が得られ難い場合があり、一方、濃度が高すぎる場合には、特に、低温域(約−20℃)において顕著となるが、電解液の粘度が上昇し、電荷の移動効率を低下させたり、電解液中でシアノボレート塩が分離、析出し、電極などに悪影響を及ぼすことがある。また、多量のシアノボレート塩の使用はコストの上昇を招く。
【0087】
本発明の蓄電デバイスでは、電解質としてポリマー電解質またはポリマーゲル電解液を用いてもよい。ポリマー電解質とは、基材となるポリマーに電解質を担持させたものであり、例えば、本発明の電解液をポリマーに含浸させたポリマー電解質(ポリマーゲル電解液)や、一般式(1)のシアノボレート塩や上記他の電解質を基材ポリマーに固溶させたもの(真性ポリマー電解質)が挙げられる。本発明においては、リチウムイオンとシアノボレートアニオンとを含むポリマー電解質を用いるのが好ましい。上記ポリマー電解質の基材となるポリマーとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル系の共重合体などが挙げられ、中でも、ポリエチレンオキシドが好ましく用いられる。
【0088】
本発明の蓄電デバイスは、正極と負極と電解液とを有していればよく、また、正極と負極と電解液とを一つの単位とするセルを複数備えたものであってもよい。上記構成を備えるものであれば、本発明の蓄電デバイスの形状は限定されず、コイン型、捲回円筒型、積層角型、アルミラミネート型等、従来公知の形状がいずれも採用できる。また、上記外装ケースも特に限定されず、アルミ製、スチール製等、従来公知のものを採用すればよい。
【0089】
上記構成を有する本発明の蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池が挙げられる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0091】
[NMR測定]
Varian社製「Unity Plus」(400MHz)を用いて、1H−NMRおよび13C−NMRスペクトルを測定し、プロトンおよびカーボンのピーク強度に基づいて試料の構造を分析した。11B−NMRスペクトルの測定には、Bruker社製「Advance 400M」(400MHz)を使用した。
【0092】
なお、NMRスペクトルの測定は、重ジメチルスルホキシドに、濃度が1質量%〜5質量%となるように反応溶液または得られた塩を溶解させた測定試料を、ホウ素元素を含まない、酸化アルミニウム製のNMRチューブに入れ、室温(25℃)、積算回数64回で測定した。また、1H−NMRおよび13C−NMRスペクトルの測定では、テトラメチルシランを標準物質とし、11B−NMRスペクトルの測定では、三フッ化ホウ素のジエチルエーテラートを標準物質とした。
【0093】
合成例1 イオン性化合物(リチウムテトラシアノボレート)の合成
攪拌装置、還流管および抜き出し装置、滴下ロートを備えた容量1Lのナスフラスコに、予め加熱乾燥しておいたトリブチルアンモニウムクロリド44.4g(200mmol)を加えた。容器内を窒素置換した後、トリメチルシリルシアニド(TMSCN)109.0g(1100mmol)を室温で加え、攪拌し、混合した。次いで、滴下ロートから三塩化ホウ素の1mol/L p−キシレン溶液200mL(200mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、反応容器を150℃まで加熱し、副生するトリメチルシリルクロリド(TMSCl、沸点:約57℃)を還流抜き出し部から抜き出しながら反応を行った。
【0094】
30時間加熱攪拌した後、ダイアフラムポンプで反応容器内を減圧し、還流抜き出し部からTMSCNのp−キシレン溶液を留去した。その後、攪拌装置を備えた500mLのビーカーに、粗生成物45gと酢酸エチル225gを入れ、5分間攪拌して溶解させた後、ここに、活性炭135g(日本エンバイロケミカル社製のカルボラフィン(登録商標))を加え、10分間攪拌した。得られた活性炭懸濁液をメンブレンフィルター(0.2μm、PTFE製)でろ過し、溶媒を留去し、乾燥して、目的物であるトリブチルアンモニウムテトラシアノボレート(黄色固体)を得た(収量:48.2g(160mmol)、収率:80%)。
【0095】
上記測定方法によって、得られたトリブチルアンモニウムテトラシアノボレートの各種物性を測定した。結果は以下の通りである。
【0096】
1H-NMR(d6−DMSO)δ 2.98(m,6H),1.4〜1.8(m,6H),1.2〜1.3(m,6H),0.94(m,9H)
13C-NMR(d6−DMSO)δ 121.9(m),52.7(s),26.2(s),20.3(s),14.4(s)
11B-NMR(d6−DMSO)δ -39.6(s)
【0097】
次いで、攪拌装置を備えた容量500mlのビーカーに、得られたトリブチルアンモニウムテトラシアノボレート48.2g(160mmol)、酢酸ブチル200g、水酸化リチウム1水和物4.6g(192mmol)および超純水200gを加え、1時間攪拌した。その後、混合液を分液ロートに移し、静置すると、混合液は2層に分離した。この内、下層(水層)を分離、濃縮して得られた淡黄色固体をアセトニトリル200gと混合し、攪拌した。その後、得られた溶液をメンブレンフィルター(0.2μm、PTFE製)でろ過し、溶媒を留去することで、目的物であるリチウムテトラシアノボレート(LiTCB、白色固体)を得た(収量:13.6g(112mmol)、収率:70%)。なお、得られた白色固体は、150℃で3日間減圧乾燥した。
【0098】
7Li-NMR(d6−DMSO)δ 0.02(s)
13C-NMR(d6−DMSO)δ 121.9(m)
11B-NMR(d6−DMSO)δ -39.6(s)
【0099】
実験例1 充放電試験
上記合成例1で合成したリチウムテトラシアノボレート、市販のγ−ブチロラクトン(LIBグレード、キシダ化学株式会社製)を用いてCR2032型のコインセルを作製し、充放電試験を行った。
【0100】
コインセルは、正極にリチウム基準の放電電圧が4.7VであるLiNi0.5Mn1.54、負極にリチウム箔(厚み:0.5mm、本城金属株式会社製)を用い、この正極と負極とをガラス不織布を挟んで対向させ、濃度が7質量%(0.7M)のリチウムテトラシアノボレートのγ−ブチロラクトン溶液(電解液)で満たして作製した。
【0101】
作製したコインセルを使用して、充放電試験装置(「Battery Labo System[BS2501 Series]」、株式会社計測器センター製)により、充放電試験を実施した。以下に、測定条件を示す。また、初回充放電時の充放電曲線を図1に示す。
(測定条件)
充放電速度:0.2C
充放電モード:定電流モード
充放電範囲:3.5V−4.9V
【0102】
上記構成を有する蓄電デバイスでは、満充電時の正極電位は4.9Vであり、図1より4.9Vの高電圧条件下においても激しい電解液の分解等が起こることなく充放電が可能であり、本発明の蓄電デバイスは、高電圧域で稼動させても、安定して稼動させられることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、高電圧域で、安定に稼動し得る蓄電デバイスを提供し得るものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および電解液を備え、
前記電解液が、下記一般式(1)で表されるシアノボレート塩及び溶媒を含み、且つ、
満充電時の正極電位がリチウム基準で4.0V〜5.5Vであることを特徴とする蓄電デバイス。
n+([B(CN)4-a(X213a-n (1)
(式中、Mn+は1価、2価又は3価の有機又は無機カチオン、X2はO又はS、R13はH又は炭素数1〜10の炭化水素基、nは1〜3の整数、aは0〜3の整数を表す)
【請求項2】
正極、負極および電解液を備え、
前記電解液が、下記一般式(1)で表されるシアノボレート塩及び溶媒を含み、且つ、
前記正極が、リチウム基準で3.5V〜5.5Vの放電電圧を示す正極活物質を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
n+([B(CN)4-a(X213a-n (1)
(式中、Mn+は1価、2価又は3価の有機又は無機カチオン、X2はO又はS、R13はH又は炭素数1〜10の炭化水素基、nは1〜3の整数、aは0〜3の整数を表す)
【請求項3】
前記式中Mn+がLi+である請求項1または2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記溶媒がγ‐ブチロラクトンを含む請求項1〜3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
上記正極と負極との間にガラス繊維からなるセパレータを有する請求項1〜4のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
リチウムイオン二次電池である請求項1〜5のいずれかに記載の蓄電デバイス。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−216419(P2012−216419A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80952(P2011−80952)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】