説明

蓄電装置及び電源システム

【課題】蓄電池の経年劣化(保存劣化)を低減できる蓄電装置を提供する。
【解決手段】蓄電装置20は、蓄電池22と、蓄電池22の充電に関わる制御を行う制御部23と、を備える。制御部23は、蓄電池22に第1の一定期間で第1の所定量の充電を行う必要がある場合に、以下の式(1)を満足する第1の速度で充電を行わせて、前記充電の開始タイミングを前記第1の一定期間の開始タイミングよりも遅らせる。
v1>c1/t1 (1)
v1:第1の速度、c1:第1の所定量、t1:第1の一定期間の時間長

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電装置に関し、特に蓄電装置が備える蓄電池の劣化を抑制して、蓄電装置の寿命を長くする技術に関する。また、本発明は、長寿命化された蓄電装置を備える電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電装置が備える蓄電池(例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池)は劣化する。蓄電池の劣化としては、充放電使用による劣化(サイクル劣化)や、時間経過とともに進行する劣化(経年劣化:保存劣化と呼ばれる場合もある)が知られている。なお、経年劣化は、蓄電池が使用されていない場合だけでなく、使用時(充電時や放電時)にも生じる。従来、蓄電池の劣化を抑制して、蓄電装置の長寿命化を図ることが望まれている。
【0003】
特許文献1には、蓄電池の長寿命化を図る蓄電池の放電制御装置が開示される。この放電制御装置に備えられる制御手段は、放電深度検出手段が検出した放電深度に基づき、蓄電池の寿命を保証する標準放電深度を超えないように被給電機器の運転を制御する。これにより、上記放電制御装置では、過放電による蓄電池の寿命への影響を無くすことができる。なお、特許文献1には、蓄電池の放電時における長寿命化策が開示されるが、蓄電池への充電時における長寿命化策については開示されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−243572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の点に鑑みて、本発明の目的は、蓄電池の劣化を抑制して、長寿命化が図られる蓄電装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、そのような蓄電装置を備え、コストメリットに優れる電源システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の蓄電装置は、蓄電池と、前記蓄電池の充電に関わる制御を行う制御部と、を備える蓄電装置であって、前記制御部は、前記蓄電池に第1の一定期間で第1の所定量の充電を行う必要がある場合に、以下の式(1)を満足する第1の速度で充電を行わせて、前記充電の開始タイミングを前記第1の一定期間の開始タイミングよりも遅らせる構成(第1の構成)になっている。
v1>c1/t1 (1)
v1:第1の速度
c1:第1の所定量
t1:第1の一定期間の時間長
【0007】
本構成によれば、第1の一定期間の間中、一定の充電速度(v=c1/t1)で第1の所定量を充電する場合(従来の構成)に比べて、蓄電池の経年劣化(保存劣化)を低減可能である。このため、本構成によれば、充電時の蓄電池の劣化を抑制して、蓄電装置の長寿命化を図れる。
【0008】
上記第1の構成の蓄電装置において、前記制御部は、前記充電の終了タイミングを前記第1の一定期間の終了タイミングと略同一とする構成(第2の構成)であるのが好ましい。本構成によれば、蓄電池の経年劣化を低減する効果を大きくできる。
【0009】
上記第1又は第2の構成の蓄電装置において、前記制御部は、充電の速度に応じて増減する前記蓄電池の劣化進行度が、前記第1の一定期間をかけて前記第1の所定量を均一な速度(=c1/t1)で充電する場合よりも小さくなるように、前記第1の速度を設定する構成(第3の構成)であるのが好ましい。なお、蓄電池の劣化進行度は、サイクル劣化の進行度と経年劣化の進行度とを合わせたものである。本構成によれば、適切な速度で充電を行え、蓄電池の劣化を適切に抑制できる。
【0010】
上記第1から第3のいずれかの構成の蓄電装置において、前記制御部は、前記蓄電池の充電に関わる制御に加えて、前記蓄電池の放電に関わる制御を行うように設けられ、前記制御部は、前記蓄電池から第2の一定期間で第2の所定量の放電を行う必要がある場合に、以下の式(2)を満足する第2の速度で放電を行わせて、前記放電の終了タイミングを前記第2の一定期間の終了タイミングよりも早める構成(第4の構成)であるのが好ましい。
v2>c2/t2 (2)
v2:第2の速度
c2:第2の所定量
t2:第2の一定期間の時間長
【0011】
本構成によれば、第2の一定期間の間中、一定の放電速度(v=c2/t2)で第2の所定量を放電する場合(従来の構成)に比べて、蓄電池の経年劣化を低減可能である。すなわち、本構成では、充電時及び放電時において蓄電池の劣化を抑制でき、蓄電装置の長寿命化を図りやすい。
【0012】
上記第4の構成の蓄電装置において、前記制御部は、前記放電の開始タイミングを前記第2の一定期間の開始タイミングと略同一とする構成(第5の構成)であるのが好ましい。本構成によれば、蓄電池の経年劣化を低減する効果を大きくできる。
【0013】
上記第4又は第5の構成の蓄電装置において、前記制御部は、放電の速度に応じて増減する前記蓄電池の劣化進行度が、前記第2の一定期間をかけて前記第2の所定量を均一な速度(=c2/t2)で放電する場合より小さくなるように、前記第2の速度を設定する構成(第6の構成)であるのが好ましい。本構成によれば、適切な速度で放電を行え、蓄電池の劣化を適切に抑制できる。
【0014】
上記第1から第6のいずれかの構成の蓄電装置において、前記蓄電池に電気的に接続される電力変換部が備えられ、前記制御部は、前記電力変換部の定格によって決まる充放電の速度の上限値以下に、前記第1の速度及び前記第2の速度を設定する構成(第7の構成)であるのが好ましい。
【0015】
上記目的を達成するために本発明の蓄電装置は、蓄電池と、前記蓄電池の放電に関わる制御を行う制御部と、を備える蓄電装置であって、前記蓄電池から第2の一定期間で第2の所定量の放電を行う必要がある場合に、以下の式(2)を満足する第2の速度で放電を行わせて、前記放電の終了タイミングを前記第2の一定期間の終了タイミングよりも早める構成(第8の構成)になっている。
v2>c2/t2 (2)
v2:第2の速度
c2:第2の所定量
t2:第2の一定期間の時間長
【0016】
本構成によれば、第2の一定期間の間中、一定の充電速度(v=c2/t2)で第2の所定量を充電する場合(従来の構成)に比べて、蓄電池の経年劣化(保存劣化)を低減可能である。このため、本構成によれば、放電時の蓄電池の劣化を抑制して、蓄電装置の長寿命化を図れる。
【0017】
上記第8の構成の蓄電装置において、前記制御部は、前記放電の開始タイミングを前記第2の一定期間の開始タイミングと略同一とする構成(第9の構成)であるのが好ましい。本構成によれば、蓄電池の経年劣化を低減する効果を大きくできる。
【0018】
上記目的を達成するために本発明の電源システムは、外部負荷に対して電力を供給可能な電力供給部と、前記電力供給部からの電力を充電可能に設けられるとともに、外部負荷に対して放電可能に設けられる、上記第1から第9のいずれかの蓄電装置と、を備える構成(第10の構成)になっている。
【0019】
本構成では、蓄電池の劣化を低減可能な蓄電装置を用いて電源システムが構成されており、電源システムの長寿命化が期待できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、蓄電池の劣化を抑制して、長寿命化が図られる蓄電装置を提供できる。また、本発明によれば、そのような蓄電装置を備え、コストメリットに優れる電源システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る電源システムの概略構成を示すブロック図
【図2】本実施形態の蓄電装置において実行される、充電時の長寿命化制御の一例を示すフローチャート
【図3】本実施形態の蓄電装置において実行される、放電時の長寿命化制御の一例を示すフローチャート
【図4】本実施形態の充放電制御が適用された、充放電プロファイル及びSOC推移の一例を示すグラフ
【図5】比較例の充放電制御が適用された、充放電プロファイル及びSOC推移の一例を示すグラフ
【図6】サイクル劣化特性について説明するためのグラフ
【図7】経年劣化(保存劣化)特性について説明するためのグラフ
【図8】充放電速度の上限について説明するためのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の蓄電装置及び電源システムの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る電源システム1の概略構成を示すブロック図である。図1において、太線は電力線、細線は信号線を示している。図1に示すように、電源システム1は、電力供給部10と、蓄電装置20と、を備える。
【0024】
電力供給部10は、外部負荷や蓄電装置20に対して電力を供給する。電力供給部10としては、例えば、商用交流電源(電力系統)や、自然エネルギーを利用して発電する自然エネルギー発電装置等が挙げられる。なお、自然エネルギー発電装置としては、例えば太陽光によって発電する太陽光発電装置や風力によって発電する風力発電装置等が挙げられる。また、電力供給部10は、例えば商用交流電源と自然エネルギー発電装置との両方を備える構成等、複数の電力供給源を備えるものでもよい。
【0025】
蓄電装置20は、電力供給部10から供給される電力を蓄電可能であるとともに、外部の負荷に対して給電可能に設けられている。なお、蓄電装置20で蓄電された電力が、電力系統に供給可能な構成であってもよい。蓄電装置20は、電力変換部(PCS:Power Conditioning System)21と、蓄電池22と、コントローラ23と、を備える。
【0026】
PCS21は、電力供給部10から供給される電力を適切な電力に変換して蓄電池22に出力する。また、PCS21は、蓄電池22から供給される電力を適切な電力に変換して外部負荷(場合によっては電力系統)に出力する。PCS21には、各種のコンバータ及びインバータの中から電力供給部10の構成に対応して選択された電力変換手段が備えられている。例えば、電力供給部10が商用交流電源を含む場合、PCS21には双方向AC/DCコンバータが含まれてよい。また、電力供給部10が太陽光発電装置を含む場合には、PCS21にはDC/DCコンバータが含まれてよい。
【0027】
蓄電池22は、例えばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の充放電可能な二次電池であればよく、その種類は適宜選択すればよい。蓄電池22は、1つの蓄電池セルで構成されるものでもよいし、複数の蓄電池セルが直列、並列、或いは、直並列に接続された組電池でもよい。また、蓄電池22は、前述の組電池が複数、直列、並列、或いは、直並列に接続された構成であってもよい。蓄電池22は、コントローラ23に対して電池に関する情報(例えば後述のSOCなど)を出力する。
【0028】
コントローラ23は、PCS21に対して蓄電池22の充放電に関する指令信号を出力する。PCS21は、当該指令に基づいて、供給される電力を適切な電力に変換して出力する。コントローラ23には、例えば蓄電池22の充電速度や放電速度に関する情報等を記憶する不揮発性のメモリ23aが備えられる。なお、コントローラ23は、本発明の制御部の一例である。
【0029】
蓄電装置20は、蓄電池22の劣化が抑制されるように、コントローラ23が充放電の制御を行う点に特徴を有する。以下、これについて説明する。
【0030】
図2は、本実施形態の蓄電装置20において実行される、充電時の長寿命化制御の一例を示すフローチャートである。コントローラ23は、入力された充電指令(蓄電装置20の外部、或いは、蓄電装置20の内部に別途設けられるコントローラから入力された指令)に基づいて充電条件の決定を行う(ステップS1)。コントローラ23に入力される充電指令としては、例えば「一定期間(以下、第1の一定期間と表現する)内に所定量(以下、第1の所定量と表現する)を充電せよ」という指令が挙げられる。
【0031】
コントローラ23は、以下の式(1)を満足する第1の速度で充電を行わせて、充電が開始されるタイミングが、第1の一定期間が開始されるタイミングよりも遅れるように、充電条件を決定する。この場合において、コントローラ23は、充電の終了タイミングが、第1の一定期間の終了タイミングとほぼ同一となるように充電条件を決定するのが好ましい。なお、充電条件の決定方法の詳細については後述する。
v1>c1/t1 (1)
v1;充電速度(充電レート)
c1;第1の所定量(充電指令で与えられた所定の充電量)
t1;第1の一定期間の時間長(充電指令で与えられた一定期間の時間長)
【0032】
コントローラ23は、第1の一定期間の開始タイミングに合わせて時間計測を開始する(ステップS2)。なお、第1の一定期間の開始タイミングが、充電指令を受けて即座に始まるような場合には、充電条件の決定処理と並行して、時間計測を開始する処理が行われても構わない。
【0033】
コントローラ23は、ステップS2における時間計測の開始から所定の期間が経過したか否かを監視する(ステップS3)。この所定の期間は、ステップS1で決定される期間(充電条件の一要素)であり、第1の一定期間の開始タイミングから充電が開始されるまでの待ち時間に相当する。
【0034】
コントローラ23は、所定の期間が経過すると(ステップS3でYes)、PCS21に充電開始指令出す。これにより、蓄電池22の充電が開始される(ステップS4)。この際の充電レートは、ステップS1で決められたものとされる。蓄電池22への充電が開始されると、コントローラ23は、指令を受けた第1の所定量の充電が行われたか否かを監視する(ステップS5)。第1の所定量の充電が行われた否かの判断は、例えば、充電開始からの時間等で判断できる。第1の所定量の充電が行われた時点で、コントローラ23はPCS21を制御して蓄電池22への充電を終了する。
【0035】
図3は、本実施形態の蓄電装置20において実行される、放電時の長寿命化制御の一例を示すフローチャートである。コントローラ23は、入力された放電指令(蓄電装置20の外部、或いは、蓄電装置20の内部に別途設けられるコントローラから入力された指令)に基づいて放電条件の決定を行う(ステップS11)。コントローラ23に入力される放電指令としては、例えば「一定期間内(以下、第2の一定期間と表現する)に所定量(以下、第2の所定量と表現する)を放電せよ」という指令が挙げられる。
【0036】
コントローラ23は、以下の式(2)を満足する第2の速度で放電を行わせて、放電の終了タイミングが、第2の一定期間の終了タイミングよりも早くなるように放電条件を決定する。この場合において、コントローラ23は、放電の開始タイミングが、第2の一定期間の開始タイミングとほぼ同一となるように放電条件を決定するのが好ましい。なお、放電条件の決定方法の詳細については後述する。
v2>c2/t2 (2)
v2;放電速度(放電レート)
c2;第2の所定量(放電指令で与えられた所定の放電量)
t2;第2の一定期間の時間長(放電指令で与えられた一定期間の時間長)
【0037】
放電条件が決定されると、コントローラ23は、放電を開始するタイミングか否かを判断する(ステップS12)。放電を開始するタイミングは、できる限り、第2の一定期間の開始タイミングに近づけるのが好ましいが、場合によっては、第2の一定期間の開始タイミングに対して多少遅れても構わない。放電を開始するタイミングになったと判断すると、コントローラ23はPCS21に放電開始指令を出す。これにより、蓄電池22からの放電が開始される(ステップS13)。この際の放電レートは、ステップS11で決められたものとされる。
【0038】
蓄電池22からの放電が開始されると、コントローラ23は、指令を受けた第2の所定量の放電が行われたか否かを監視する(ステップS14)。第2の所定量の放電が行われた否かの判断は、例えば、放電開始からの時間等で判断できる。第2の所定量の放電が行われた時点で、コントローラ23はPCS21を制御して蓄電池22からの放電を終了する。
【0039】
図2及び図3のフローチャートに従って充放電(充電及び放電)の制御を行った場合の効果について説明する。図4は、本実施形態の充放電制御(長寿命化制御)が適用された、充放電プロファイル及びSOC推移の一例を示すグラフである。図4(a)が充放電プロファイルを示し、図4(b)がSOC推移を示している。図5は、比較例(本発明以前の通常形態)の充放電制御が適用された、充放電プロファイル及びSOC推移の一例を示すグラフである。図5(a)が充放電プロファイルを示し、図5(b)がSOC推移を示している。
【0040】
なお、SOCは、電池の充電状態を示す指標であり、満充電容量に対する放電可能容量(残存容量)の比(百分率)で表される。蓄電池22のSOCは、例えば、蓄電池22に流れる充放電電流の積算値から求められる。また、蓄電池22のSOCは、予め決定された、蓄電池22の開放電圧(Open Circuit Voltage(OCV))とSOCとの関係を示す計算式或いはテーブルを参照することにより求めることもできる。
【0041】
図4(a)及び図5(a)に示すグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸は充電時、或いは、放電時の電力である。図5(a)に示すように、比較例の制御では、第1の一定期間(1時間)で第1の所定量(10kWh)を充電する必要がある場合、第1の一定期間の間中、均等な電力(10kW)で充電が行われる。この均等な電力は、第1の所定量(10kWh)を、第1の一定期間の時間長(1時間)で割った値に相当する。
【0042】
一方、本実施形態の充電制御では、図4(a)に示すように、第1の一定期間(1時間)のうち、最初の所定期間(0.5時間)は充電が行われず、残りの所定期間(0.5時間)の間、比較例の2倍の電力(20kW)で充電が行われる。そして、これにより、第1の一定期間(1時間)の終了タイミングに合わせて、第1の所定量(10kWh)の充電が達成される。本実施形態の充電制御では、充電レートを上げて充電を行うことに対応して、第1の一定期間の開始タイミングよりも充電を開始するタイミングが遅らされた構成になっている。
【0043】
また、図5(a)に示すように、比較例では、第2の一定期間(1時間)で第2の所定量(10kWh)を放電する必要がある場合、第2の一定期間の間中、均等な電力(10kW)で放電が行われる。この均等な電力は、第2の所定量(10kWh)を、第2の一定期間の時間長(1時間)で割った値に相当する。
【0044】
一方、本実施形態の放電制御では、図4(a)に示すように、第2の一定期間(1時間)のうち、第2の一定期間の開始から所定期間(0.5時間)の間、比較例の2倍の電力(20kW)で放電が行われ、残りの所定期間(0.5時間)は放電が行われない。そして、これにより、第2の一定期間(1時間)が終了するタイミングよりも早く、所定量(10kWh)の放電が達成される。本実施形態の放電制御では、放電レートを上げて放電が行われることに対応して、第2の一定期間の経過よりも早く放電が完了する構成になっている。
【0045】
蓄電池22が、10kWhの電力量の充電又は放電によってSOCが50%変化することを想定した場合、図4(a)に示す充放電プロファイルに対応するSOCの推移は図4(b)のようになり、図5(a)に示す充放電プロファイルに対応するSOC推移は図5(b)のようになる。なお、図4(b)及び図5(b)に示すグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸はSOCである。
【0046】
図6は、サイクル劣化特性について説明するためのグラフである。図6(a)は図4(a)に示す充放電プロファイルが実行された場合のサイクル劣化特性の一例を示し、図6(b)は図5(a)に示す充放電プロファイルが実行された場合のサイクル劣化特性の一例を示している。図6において、横軸は時間であり、縦軸は単位時間当たりの劣化進行度である。単位時間当たりの劣化進行度は、適当な基準により正規化された値である。
【0047】
充放電に伴う、蓄電池22の単位時間当たりの劣化(サイクル劣化)進行度は、概ね充放電レートに比例する。このために、本実施形態の充放電制御においては、充放電時における単位時間当たりの劣化進行度は、図6に示すように、比較例の充放電制御の2倍となる。しかし、充放電の時間が、比較例の場合に比べて半分である。このために、所定の電力量を充放電するにあたってのサイクル劣化の進行度(サイクル劣化量)は、本実施形態の充放電制御の場合(図6(a)の斜線部分の面積が該当)と、比較例の充放電制御の場合(図6(b)の斜線部分の面積が該当)とで同じになる。
【0048】
図7は、経年劣化(保存劣化)特性について説明するためのグラフである。図7(a)は図4(a)に示す充放電プロファイルが実行された場合の経年劣化特性の一例を示し、図7(b)は図5(a)に示す充放電プロファイルが実行された場合の経年劣化特性の一例を示している。図7において、横軸は時間であり、縦軸は単位時間当たりの劣化進行度である。単位時間当たりの劣化進行度は、適当な基準により正規化された値である。
【0049】
充放電時には、上述のサイクル劣化に加えて経年劣化も進行する。経年劣化の進行は、SOCの大きさに依存し、蓄電池22の単位時間当たりの劣化(経年劣化)進行度は、一般にSOCが大きくなるほど大きくなる。図7(a)及び図7(b)において、所定の電力量を充放電するにあたっての経年劣化の進行度(経年劣化量)は、斜線部分の面積に該当する。
【0050】
図7(a)の斜線部分の面積は0.65(=2h×0.2+1h×0.5/2)である。一方、図7(b)の斜線部分の面積は0.9(=2h×0.2+2h×0.5/2)である。すなわち、所定の電力量を充放電するにあたっての経年劣化の進行度は、本実施形態の充放電制御の場合の方が、比較例の充放電制御の場合に比べて小さくなる(およそ28%低減される)。
【0051】
蓄電池22の充放電後の劣化進行度は、サイクル劣化の進行度と経年劣化の進行度とを合わせたものである。上述のように、本実施形態の充放電制御を行う場合と、比較例(従来)の充放電制御を行う場合を比べた場合、サイクル劣化の進行度は同じであるが、経年劣化の進行度は、本実施形態の方が低減される。すなわち、本実施形態の充放電制御によれば、蓄電池22の長寿命化が図れる。
【0052】
本実施形態の充放電制御における、充放電条件の決定方法について説明しておく。まず、充電条件の決定方法から説明する。第1の一定期間(時間長t1)で第1の所定量(c1)の充電を行う必要がある場合において、充電レートを上げて、第1の一定期間の開始タイミングよりも充電開始のタイミングを遅くすればするほど、充電時の経年劣化を低減できる(図7参照)。すなわち、経年劣化の低減という基準のみからは、充電時の充電レートは、上述の式(1)を満足しつつ、可能な限り速くする(大きくする)のが好ましい。
【0053】
図8は、充放電速度の上限について説明するためのグラフで、横軸は充放電時の電力、縦軸は充放電によって生じるサイクル劣化の進行度を示す。図8においては、充放電時の電力が大きくなるほど、充放電レートが大きくなることを意味する。一般的に、図8に示すように、サイクル劣化の進行度は充放電レートが大きくなるにつれて大きくなり、充放電レートがかなり大きくなると、サイクル劣化の進行度が加速される。このために、充放電レートをあまり大きくしすぎると、サイクル劣化の進行度が加速される影響によって、上述した経年劣化の進行度を低減する効果が相殺されて、蓄電池22の長寿命化を図れなくなる虞がある。
【0054】
そこで、充電条件の決定時においては、サイクル劣化の進行度が加速されることを念頭において、充電レートを大きくし過ぎないように注意するのが好ましい。詳細には、蓄電池22のサイクル劣化の進行度と経年劣化の進行度とを合わせたトータルの劣化進行度が、第1の一定期間(時間長t1)をかけて、第1の所定量(c1)を均一な速度(=c1/t1)で充電する場合(比較条件A)より小さくなるように、充電レートを決定するのが好ましい。
【0055】
充電の終了タイミングは、経年劣化を低減する効果をできる限り大きくするために、第1の一定期間の終了タイミングにできる限り近づけるのが好ましい。本実施形態では、充電の終了タイミングが、第1の一定期間の終了タイミングと略同一とされる。そして、上述の式(1)を満足しつつ、比較条件Aの場合とトータルの劣化進行度が同じになる充電レートよりも小さな充電レートになるように、充電レートが決定される。この際、比較条件Aに比べてトータルの劣化進行度ができる限り小さくなるように、充電レートが決定されるのが好ましい。なお、この充電レートの決定にあたっては、例えば、充電レートと単位時間当たりのサイクル劣化の進行度との関係、及び、SOCと単位時間当たりの経年劣化の進行度との関係について、実験やシミュレーション等によって事前に把握しておく必要がある。
【0056】
また、蓄電池22の充電レートは、PCS21の定格によって決まる充電レートの上限値を超えることができないために、この上限値も考慮して充電レートを設定する必要がある。トータルの劣化進行度から決定される充電レートが、PCS21の定格によって決まる上限値以下の場合には、この充電レートが採用されればよい。一方、トータルの劣化進行度から決定される充電レートが、PCS21の定格によって決まる上限値を超える場合には、該上限値が充電レートに採用されればよい。以上のように、充電レートが決定されることにより、第1の一定期間の開始タイミングに対して充電の開始タイミングを遅らせる時間が決まる。
【0057】
なお、以上のように決定される充電条件は、予めメモリ23aに記憶しておき、必要に応じてコントローラ23が読み出す構成としてもよい。また、これとは違って、メモリ23aに記憶される所定の条件を基に、充電レートが、コントローラ23によって適宜算出される構成でも構わない。所定の条件には、例えば、充電レートと単位時間当たりのサイクル劣化の進行度との関係(テーブル或いは関係式)、及び、SOCと単位時間当たりの経年劣化の進行度との関係(テーブル或いは関係式)等が挙げられる。
【0058】
次に、放電条件の決定方法について説明する。第2の一定期間(時間長t2)で第2の所定量(c2)の放電を行う必要がある場合において、放電レートを上げて、第2の一定期間の終了タイミングよりも放電の終了タイミングを早くすればするほど、放電時の経年劣化を低減できる(図7参照)。すなわち、経年劣化の低減という基準のみからは、放電時の放電レートは、上述の式(2)を満足しつつ、可能な限り速くする(大きくする)のが好ましい。
【0059】
上述の充電の場合と同様に、放電条件の決定時においても、サイクル劣化の進行度が加速される(図8参照)ことを念頭において、放電レートを大きくし過ぎないように注意するのが好ましい。詳細には、蓄電池22のサイクル劣化の進行度と経年劣化の進行度とを合わせたトータルの劣化進行度が、第2の一定期間(時間長t2)をかけて、第2の所定量(c2)を均一な速度(=c2/t2)で放電する場合(比較条件B)より小さくなるように、放電レートを決定するのが好ましい。
【0060】
放電の開始タイミングは、経年劣化を低減する効果をできる限り大きくするために、第2の一定期間の開始タイミングにできる限り近づけるのが好ましい。本実施形態では、放電の開始タイミングが、第2の一定期間の開始タイミングと略同一とされる。そして、上述の式(2)を満足しつつ、比較条件Bの場合とトータルの劣化進行度が同じになる放電レートよりも小さな放電レートになるように、放電レートが決定される。この際、比較条件Bに比べてトータルの劣化進行度ができる限り小さくなるように、放電レートが決定されるのが好ましい。なお、この放電レートの決定にあたっては、例えば、放電レートと単位時間当たりのサイクル劣化の進行度との関係、及び、SOCと単位時間当たりの経年劣化の進行度との関係について、実験やシミュレーション等によって事前に把握しておく必要がある。
【0061】
また、蓄電池22の放電レートは、PCS21の定格によって決まる放電レートの上限値を超えることができないために、この上限値も考慮して放電レートを設定する必要がある。トータルの劣化進行度から決定される放電レートが、PCS21の定格によって決まる上限値以下の場合には、この放電レートが採用されればよい。一方、トータルの劣化進行度から決定される放電レートが、PCS21の定格によって決まる上限値を超える場合には、該上限値が放電レートに採用されればよい。以上のように、放電レートが決定されることにより、第2の一定期間の終了タイミングに対して放電の終了タイミングが早まる時間が決まる。
【0062】
以上のように決定される放電条件は、予めメモリ23aに記憶しておき、必要に応じてコントローラ23が読み出す構成としてもよい。また、これとは違って、メモリ23aに記憶される所定の条件を基に、放電レートが、コントローラ23によって適宜算出される構成でも構わない。所定の条件には、例えば、放電レートと単位時間当たりのサイクル劣化の進行度との関係(テーブル或いは関係式)、及び、SOCと単位時間当たりの経年劣化の進行度との関係(テーブル或いは関係式)等が挙げられる。
【0063】
以上に示した実施形態は本発明の例示であり、本発明の蓄電装置及び電源システムは、以上に示した構成に限定されるものではない。すなわち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、以上に示した実施形態の構成は適宜変更可能である。
【0064】
例えば、以上においては、蓄電池22への充電レートと、蓄電池22からの放電レートが同じである例を示したが、充電レートと放電レートとは異なってもよい。また、充電レート及び放電レートは、途中で異なる値に変更されても構わない。
【0065】
また、以上においては、蓄電池22への充電量と、蓄電池22からの放電量が同じである例を示したが、充電量と放電量が異なる場合にも、本発明の長寿命化制御は適用可能である。
【0066】
また、以上においては、蓄電池22が充電された後に、すぐに放電が開始される例を示したが、充電後、しばらく経ってから放電が開始される構成に対しても本発明の長寿命化制御は適用可能である。また、場合によっては、充電の場合のみ、或いは、放電の場合のみ、本発明の長寿命化制御が適用される構成でもよく、本発明はこのような形態も含む趣旨である。
【0067】
その他、本発明の蓄電装置及び電源システムは、据え置き型の装置に限らず、例えば車両、船、飛行機、ロボット、電動アシスト自転車等の移動体に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 電源システム
10 電力供給部
20 蓄電装置
21 PCS(電力変換部)
22 蓄電池
23 コントローラ(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池と、
前記蓄電池の充電に関わる制御を行う制御部と、
を備える蓄電装置であって、
前記制御部は、前記蓄電池に第1の一定期間で第1の所定量の充電を行う必要がある場合に、以下の式(1)を満足する第1の速度で充電を行わせて、前記充電の開始タイミングを前記第1の一定期間の開始タイミングよりも遅らせる、蓄電装置。
v1>c1/t1 (1)
v1:第1の速度
c1:第1の所定量
t1:第1の一定期間の時間長
【請求項2】
前記制御部は、前記充電の終了タイミングを前記第1の一定期間の終了タイミングと略同一とする、請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記制御部は、充電の速度に応じて増減する前記蓄電池の劣化進行度が、前記第1の一定期間をかけて前記第1の所定量を均一な速度(=c1/t1)で充電する場合よりも小さくなるように、前記第1の速度を設定する、請求項1又は2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記蓄電池の充電に関わる制御に加えて、前記蓄電池の放電に関わる制御を行うように設けられ、
前記制御部は、前記蓄電池から第2の一定期間で第2の所定量の放電を行う必要がある場合に、以下の式(2)を満足する第2の速度で放電を行わせて、前記放電の終了タイミングを前記第2の一定期間の終了タイミングよりも早める、請求項1から3のいずれかに記載の蓄電装置。
v2>c2/t2 (2)
v2:第2の速度
c2:第2の所定量
t2:第2の一定期間の時間長
【請求項5】
前記制御部は、前記放電の開始タイミングを前記第2の一定期間の開始タイミングと略同一とする、請求項4に記載の蓄電装置。
【請求項6】
前記制御部は、放電の速度に応じて増減する前記蓄電池の劣化進行度が、前記第2の一定期間をかけて前記第2の所定量を均一な速度(=c2/t2)で放電する場合より小さくなるように、前記第2の速度を設定する、請求項4又は5に記載の蓄電装置。
【請求項7】
前記蓄電池に電気的に接続される電力変換部を備え、
前記制御部は、前記電力変換部の定格によって決まる充放電の速度の上限値以下に、前記第1の速度及び前記第2の速度を設定する、請求項1から6のいずれかに記載の蓄電装置。
【請求項8】
蓄電池と、
前記蓄電池の放電に関わる制御を行う制御部と、
を備える蓄電装置であって、
前記制御部は、前記蓄電池から第2の一定期間で第2の所定量の放電を行う必要がある場合に、以下の式(2)を満足する第2の速度で放電を行わせて、前記放電の終了タイミングを前記第2の一定期間の終了タイミングよりも早める、蓄電装置。
v2>c2/t2 (2)
v2:第2の速度
c2:第2の所定量
t2:第2の一定期間の時間長
【請求項9】
前記制御部は、前記放電の開始タイミングを前記第2の一定期間の開始タイミングと略同一とする、請求項8に記載の蓄電装置。
【請求項10】
外部負荷に対して電力を供給可能な電力供給部と、
前記電力供給部からの電力を充電可能に設けられるとともに、外部負荷に対して放電可能に設けられる、請求項1から9のいずれかに記載の蓄電装置と、
を備える、電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−106506(P2013−106506A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251238(P2011−251238)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】