説明

薄片状光触媒体およびその製造方法

【課題】 酸化チタンの高い屈折率(ルチル型で2.76,アナタース型で2.52)および薄片の形状と大きさを利用することによって,光を薄片中に複数回透過することによる光利用効率の改善と水処理に利用した場合の水と光触媒との容易な分離が可能な新規光触媒体とその製造技術の提供。

【解決手段】
薄片状酸化チタン光触媒体は粉体状光触媒体と比べて光利用効率が優れているので,少ない光触媒量で水中の有機物を効率良く分解できる.厚みに対して数百〜数千倍のアスペクト比を有する薄片状光触媒体であるので,水に対しては水の流れによって容易に浮遊−分散するが,流れを止めると直ちに沈降することから,水と光触媒との分離が容易となる.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,紫外線および可視光に対して光触媒活性を有し,その厚みと大きさがそれぞれ10ナノメートル〜500ナノメートルおよび1マイクロメートル〜5ミリメートルの範囲を有する薄片状光触媒体およびその製造方法に関するもので,酸化チタンの高い屈折率(ルチル型で2.76,アナタース型で2.52)および薄片の形状と大きさを利用することで,薄片中に光を複数回透過させて光利用効率を高め,水処理に対しては沈降速度を速められることから水と光触媒とを容易に分離できる新規光触媒体とその製造技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
水処理に利用される光触媒体の利用の形態は,粉末で使用される場合も考えられるが,水との分離が困難である。したがって,水との分離を容易にするために吸着性能を有する無機質支持材を選んでそれに光触媒を固定化する考え方が主流となっている。例えば,多孔質球状シリカゲルの細孔に光触媒を担持させる方法がある(特許文献1参照)。しかし,これらの形状や基材との組み合わせでは光エネルギーの基材による損失が大きいため,背後に重なって存在する光触媒体へは光が届かない。すなわち,水処理効率を上げるためには,光触媒の効果が有効に働く光触媒と水との接触面積を如何に稼ぐかが重要なポイントである。
【0003】
基材や支持材を使用しないで水との分離を容易にする方法としては,繊維状の光触媒体があり,特許文献では,例えば,チタンテトライソプロポキシドとエチルシリケートを原料としてゾルゲル法でチタニア連続繊維を製造する方法(特許文献2参照),チタンアルコキサイドを原料として紡糸する方法(特許文献3参照),アルコキシチタンとアルコキシシランを用いてゾルゲル法で光触媒活性を有するチタニア−シリカ繊維を製造する方法(特許文献4参照)が開示されている。しかし,繊維状の光触媒体の場合,光触媒の効果が有効に働く光触媒と水との接触界面を稼ぐには困難であった.
いずれにしても,利用できる光はいずれの触媒体の場合も紫外領域の光に限られていることも不利な条件に加えられる。

【特許文献1】特許第3417862号公報
【特許文献2】特開平9−276705号
【特許文献3】特開2000−192336号公報
【特許文献4】特開平11−269725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の上記課題を解決するために第1の解決手段は,光触媒前躯体ゾルを出発原料として基板上に薄膜状に調製した光触媒体薄膜を,基板から容易に剥離させることで得られ,その厚みと大きさがそれぞれ10ナノメートル〜500ナノメートルおよび1マイクロメートル〜5ミリメートルの範囲を有し,表裏の2面を光触媒として利用できることを特徴とする薄片状光触媒体とその製造方法を提供する。
【0005】
第2の解決手段は,入射する光(面への入射角度が75°以上)に対しては高い透明性を確保でき,光の干渉作用による発色を生じる程度の入射角度が75°以下の斜め方向から入射する光に対しては,光は薄片中を複数回透過することになるので光の利用効率を改善できる請求項1記載の薄片状光触媒体とその製造方法を提供する.
【0006】
第3の解決手段は,基材上の光触媒体薄膜は過酸化チタンゾルなどの光触媒前躯体ゾルを出発原料とし,乾燥または焼成により得られる酸化チタン薄膜であることを特徴とする請求項1〜2記載の薄片状の光触媒体を提供する。
【0007】
第4の解決手段は,光触媒体薄膜の出発原料の光触媒前躯体ゾルに含窒素化合物を添加,混合して光触媒体薄膜を調製することで,紫外領域とともに可視光領域における光触媒活性も発揮できることを特徴とする,請求項1〜3記載の薄片状光触媒体の製造方法を提供する。
【0008】
第5の解決手段は,基板上に薄膜形成した光触媒前躯体ゾルを出発原料として調製した光触媒体の基板からの剥離方法として,基材ごとNaCl等の塩の水溶液に浸漬することで容易に行うことができることを特徴とする薄片状光触媒体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
光エネルギーの損失を少なくし,利用効率を高め,水との接触面積を大きくし,しかも処理後の水との分離を容易にする方法として鋭意検討した結果,ナノレベルの厚みを持つ薄片状の可視光応答型薄片状光触媒開発が解決に結びつくとの結論に至った。具体的には特開2004−136178号に示されている可視光応答型酸化チタン光触媒薄膜の作成方法を基礎技術として,この技術を発展させ,得られた薄膜を基材から効率よく剥離することで薄片状光触媒体を得る手法を基本技術とするものである。得られる光触媒は薄片状の光触媒体の単体であるので,水との接触には裏,表の2面が有効となる。
【0010】
光触媒体の形状をナノサイズの厚みを持つ薄片状とすることによるメリットとして,(1)垂直方向からの光に対する透過性がよい。(2)触媒表面に対して垂直方向からの入射光に対しては透明性が高く,光の透過方向に複数の薄片が重なって存在しても最背面の薄片まで光が到達できるなど,光利用効率を高めることができる。(3),光の干渉作用による発色が観測される程度の入射面への入射角度が75°未満で入射する光に対しては,光触媒体中を光が複数回透過することになるので光の利用効率が改善される。(4)薄膜状の形状は水の流れを利用して浮遊,分散が容易でしかも光触媒体の大きさをミクロン〜ミリ単位と大きくできるので沈降速度が速く,水との分離が容易であることなどが挙げられる。

【発明の効果】
【0011】
薄片状酸化チタン光触媒体は粉体状光触媒体と比べて光利用効率が優れているので,少ない光触媒量で水中の有機物を効率良く分解できる.
【0012】
厚みに対して数百〜数千倍のアスペクト比を有する薄片状光触媒体であるので,水に対しては水の流れによって容易に浮遊−分散するが,流れを止めると直ちに沈降することから,水と光触媒との分離が容易となる.
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
まず,本発明の薄片状光触媒体の原料である光触媒前躯体ゾルとしては過酸化チタンゾルが使用できる。これはペルオキシチタン酸ゾルとも呼ばれ,例えば次のようにして調製することができるが,調製方法はこれに限るものではない。硫酸チタニルにアンモニア水を加えて加水分解し,水酸化チタンを洗浄し,洗浄液と分離した後,過酸化水素水に溶解することにより,黄色透明のアモルファスの過酸化チタンゾルが得られる。
【0014】
前記過酸化チタンゾルの市販品としては,(株)アリテックスのPTA−85,PTA−170,テイカ(株)のTKC−300シリーズ等があるがこれに限るものではない。
可視光活性の付与については,アモルファス型過酸化チタンゾルに窒素化合物を添加,混合して得た光触媒前駆体ゾルを乾燥あるいは焼成してアナターゼ型の酸化チタンに結晶化させることにより,おそらく結晶中あるいは結晶粒界に窒素原子が取り込まれると考えられる。前記の結晶中あるいは結晶粒界に取り込まれた窒素原子が原因となって,アナターゼ型酸化チタン光触媒のバンドギャップ間に新たな準位を形成することで,波長550nm以下の可視光領域の光に対しても触媒活性を発現するようになるものと推定する。
【0015】
なお,アモルファス型過酸化チタンゾルに添加,混合する窒素化合物としては,アンモニアまたはアンモニア水が好ましい。また,水溶性の含窒素有機化合物も好ましい。過酸化チタンゾルは水を媒体とするゾルであるため,過酸化チタンゾルと均一に混合するためには水溶性の物質である必要がある。含窒素有機化合物の水溶性定義としては,含窒素有機化合物の20℃における水への溶解度が10wt%以上を目安とするのが好ましい。
【0016】
含窒素有機化合物の20℃における水への溶解度がこれより低い場合は,必要量の窒素を添加するために大量の含窒素有機化合物水溶液を添加しなければならず,過酸化チタンゾルの濃度が低くなりすぎて,コーティング膜が薄くなり過ぎるなどの問題が発生する場合がある。ただし,多層コーティングによって膜厚を確保できる場合はこの限りではない。
【0017】
水溶性の含窒素有機化合物としては,尿素,メチルアミン,ジメチルアミン,トリメチルアミン,エチルアミン,ジエチルアミン,ジプロピルアミン,ブチルアミン,イソブチルアミン,sec-ブチルアミン,tert-ブチルアミン,ペンチルアミン,アリルアミン,シクロヘキシルアミン,ピペリジン,ピリジン,α-ピコリン,β-ピコリン,γ-ピコリン,エチレンジアミン,ジエチレントリアミン,テトラエチレンペンタミン,ホルムアミド,N-メチルホルムアミド,N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジエチルホルムアミド,アセトアミド,N-メチルアセトアミド,N,N-ジメチルアセトアミド,N-メチルプロピオンアミド,2-ピロリドン,ε-カプロラクタムなどがあるが,これらに限るものではない。
【0018】
アモルファス型過酸化チタンゾルは,コーティングした状態で乾燥あるいは焼成させることで結晶化し,実質的に光触媒だけからなる膜を形成する特性がある。従って,アモルファス型過酸化チタンゾルに窒素原子を含有する物質を添加,混合して得た光触媒前駆体ゾルをコーティング液として基材に塗布した後,乾燥あるいは焼成することで可視光領域において触媒活性を有する光触媒コーティング膜を形成することができる。乾燥温度あるいは焼成温度が高すぎると,光触媒活性が高いアナターゼ型から光触媒活性が低いルチル型への転移が起こるので,乾燥温度あるいは焼成温度は高くても約600℃を上限とするほうが好ましく,さらに本発明の光触媒体の活性を最大に高めるためには焼成温度は350〜400℃が好ましい。
【0019】
アモルファス型過酸化チタンゾルは,コーティングした後,室温で乾燥しても成膜するが,光触媒活性の点から乾燥温度あるいは焼成温度の下限を約300℃とするのが好ましい。
【0020】
窒素含有物の添加量としては,過酸化チタンゾルの固形分をTiO3として換算すると,過酸化チタンゾル中のチタン(Ti)原子に対して,窒素化合物中の窒素原子(N)の重量比率がTi:N=1:0.5〜1:10の範囲になるように添加するのが好ましく,さらに言えばTi:N=1:1〜1:5の範囲になるように添加するのがより好ましい。Ti:N=1:0.5よりNの添加量が少ないと,可視光領域の光触媒活性が不十分になることがある。一方,Ti:N=1:10よりNの添加量が多くても,可視光領域の光触媒活性は頭打ちとなり,また,過酸化チタンゾルに窒素化合物を添加,混合して調整した光触媒前躯体ゾルがゲル化し易く不安定になるなどの不具合が生じる場合がある。
【0021】
添加した窒素化合物中の窒素原子の多くは乾燥あるいは焼成の過程で脱離すると考えられ,最終的な光触媒体には添加量の何分の1の窒素原子が留まっているかは不明であるが,上記添加量は実験的に確認されたものである。
【0022】
本発明の薄片状光触媒に用いられる基材としては,例えば,シリコンウエハ,石英ガラス,硬質ガラス,テトラフルオロエチレンなどのシート,プラスチックなどを挙げることができるが,表面が滑らかな平面が得られるものであり,乾燥または焼成温度に耐えられるものであればこれに限るものではない。その形状については特に制限はないが,剥離の効率を上げるためには,平板状,シート状などが好ましい。
【0023】
本発明の薄片状光触媒体は,基材上に前記光触媒前躯体ゾルを出発原料に薄膜を形成し,その薄膜を金属塩水溶液中に浸漬することで,基材から薄膜を自然剥離させて得ることができる。
この金属塩水溶液中の金属塩としては,塩化ナトリウム,塩化カリウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどが挙げられるが,この限りではない。また,擬似体液などの複合塩水溶液も自然剥離に効果的に利用することができ,この場合は自然剥離後続けて浸漬することで引き続きアパタイトによるナノコーティング処理もできる。
【0024】
さらに,公知の薄片状二酸化チタンの剥離方法としては,ポリエチレンテレフタレート製のベルト上で水性懸濁液から分離採取する方法(特表2000−515927号公報)があり,本発明の薄片状光触媒体の効率良い製造についても,この方法は有効である。
【0025】
図−1に薄片状光触媒体の製造プロセスをフローチャートで示した.図−1に示したように本発明の薄片状光触媒体はプロセス1およびプロセス2の2つのプロセスによって製造することができる.いずれも基材に前駆体ゾルをコーティングして一旦基材表面にアモルファス状酸化チタンの薄膜を形成する.この場合,基材が樹脂の場合は乾燥過程で自然に剥離しやすいので,剥離後に焼成するが,基材がガラスあるいは金属場合は基材とともに焼成し酸化チタン薄膜としてから基材から剥離することで得られる.
【実施例1】
【0026】
以下,本発明の薄片状光触媒体の製造方法にかかわる,本発明者らが確認したより具体的な実施例について説明する。
【0027】
〔光触媒前駆体ゾルの調製〕
過酸化チタンゾル(テイカ(株)製 商品名TKC-301 固形分濃度1.5重量%)10重量部を攪拌しながら,濃度27重量%のアンモニア水1重量部を添加して充分に混合し光触媒体前躯体ゾルとする。前記前躯体ゾル調製時に添加するアンモニア水中の窒素原子Nのチタン原子Tiに対する比率は,過酸化チタンゾルの固形分をTiO3として換算するとTi:N=1:2.96である。
【0028】
〔薄膜状の光触媒体の調製〕
5cm×5cm(厚さ1.1mm)のガラス板を以下の手順で脱脂処理した。まず,5重量%の水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に30秒浸漬した後,水洗した。次に,30重量%の硝酸(液温60℃)に30秒浸漬した後,水洗した。ガラス板が完全に脱脂したかの確認は処理後のガラス板に蒸留水を掛け,撥水しなければ脱脂できたものとする。その後100℃で乾燥し脱脂処理とした。
【0029】
前記脱脂処理済のガラス板を前記光触媒前駆体ゾルに浸漬した後,22mm/分の引き上げ速度でガラス板をゾルから引き上げ風乾した。なおこの操作は6回行った。コーティングを繰り返すことにより,ガラス板に担持される光触媒量を制御するためである。次に,375℃に調整した電気炉中で60分焼成し,ガラス板上に成膜した薄膜状の光触媒体を得た。(前記薄膜状の光触媒体についてJIS K5600−5−4に基づいて測定した鉛筆硬度は5Hであった。)
【0030】
〔塩化ナトリウム剥離による薄片状光触媒体の調製〕
薄片状の光触媒体の調製方法として,前記薄膜状の光触媒体を,6重量%の塩化ナトリウム水溶液に浸漬した後,60℃の恒温層にて24時間保持した。水への浸積では剥離は起こりにくいが,塩化ナトリウム水溶液に対してはガラス板上に担持されていた薄膜状光触媒体は自然剥離し,薄片状の光触媒体が得られる。
【0031】
〔塩化ナトリウム剥離薄片状光触媒体の光触媒活性評価〕
調製した薄片状酸化チタン光触媒と擬似汚染物質として0.4mM/L安息香酸 20mLを円筒形ガラス容器(直径 5 cm,高さ 7 cm)にとり,イオン交換水を加えて全量を 40mLにし,マグネチックスターラーで系を攪拌しながらキセノンランプ(ウシオ電機製,SX−UI500XQ照度:80,000 Lx)を上部から照射し,安息香酸の濃度変化を可視紫外分光光度計(UV-1200,島津製作所製)によって求め,分解率を求めた。照射時間4時間一定として,薄片状酸化チタン光触媒の仕込量を変化させた場合の安息香酸の分解率の関係を求めた(図2参照)。なお,光源には熱による影響を軽減させる目的で,IRカットフィルター(IRA-25S,東芝製)を取り付けた。
【0032】
〔比較例1〕
〔水処理用光触媒の市販品との比較〕
多孔質球状シリカの細孔に酸化チタン光触媒を充填した水処理用酸化チタン光触媒の市販品として新東Vセラックス社製HQC51を選び,光触媒活性を実施例1と同様の方法で調べ,同じく,照射時間4時間一定として,HQC51中に含まれる酸化チタン光触媒量を変化させた場合について安息香酸の分解率の関係を求めた(図3参照)。
【0033】
実施例1と比較例1を比較すると,HQC51(図3)では,酸化チタン量の増加とともに分解率も増加し,3.2g付近で75%に達し,以後,酸化チタンの増加とともに分解率は一挙に低下する傾向を示している。一方,薄片状酸化チタン(図2)では,酸化チタン量が 40mg程度で分解率が98%に達し,わずかな量でも効率よく分解反応が進行していることがわかる。
【0034】
図4に酸化チタン量を 40mgに揃えたときの安息香酸の分解率を実施例1と比較例1とで比較した。性能に4倍程度の大差が見られ,少ない光触媒量で水中の有機物を効率良く分解できることが示されている。
【0035】
薄片状酸化チタンは,マグネチックスターラーによる攪拌を止めると速やかに沈降し,水と光触媒との分離が容易であることがわかるが,粉体状の酸化チタン光触媒は,例えば,P−25では白濁状態が長時間安定であることから,分離は困難である。
【0036】
〔比較例2〕
実施例1で用いた過酸化チタンゾル(テイカ(株)製 商品名TKC-301 固形分濃度1.5重量%)10重量部を実施例と同じプロセスで攪拌しながら,濃度27重量%のアンモニア水1重量部を添加して充分に混合し光触媒体前躯体ゾルとする。このものをビーカー中でゲル化させ,乾燥−粉砕したアモルファス状酸化チタン粉体を実施例1と同じ焼成条件で焼成して得た粉末状酸化チタン光触媒体について,実施例1と同様の方法で光触媒活性を調べた.
【0037】
図5に実施例1と比較例2について光触媒量を変化させたときの安息香酸の分解率を示した.原料も焼成温度も同じなので,これらの比較は光触媒体の形状による触媒活性を比較することになる.比較例2の光触媒体は粉体状であるので比表面積は実施例1の約20倍の大きさを持つが,安息香酸の分解量は比表面積が圧倒的に小さい薄片状の実施例1が勝っており,薄片状とすることで触媒活性は明らかに上昇することが示されている.これは,光の利用効率が改善されたことに起因すると判断される.
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】薄片状光触媒体の製造プロセス
【図2】光触媒量と安息香酸の分解率の関係 (実施例 1)
【図3】光触媒量と安息香酸の分解率の関係(比較例1)
【図4】同じ重量(40mg)としたときの実施例1と比較例1の光触媒活性の比較
【図5】実施例1と比較例2の光触媒活性の比較

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン光触媒体の高い屈折率を利用することで,光触媒体に入射する光が,入射面に対して入射角75°以上で入射する光に対しては高い透過性を確保でき,入射面への入射角度が75°未満では,光が光触媒体中を複数回透過することで光の利用効率が上がり,その結果,光触媒活性を高められる薄片状光触媒体とその製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の光触媒体において,その厚みと大きさがそれぞれ10ナノメートル〜500ナノメートルおよび1マイクロメートル〜5ミリメートルの範囲を有し,表裏の2面を光触媒として利用できることを特徴とする薄片状光触媒体とその製造方法。
【請求項3】
過酸化チタンゾルなどの光触媒前躯体ゾルを出発原料とし,乾燥または焼成により得られることを特徴とする請求項1〜2記載の薄片状の光触媒体。
【請求項4】
出発原料の光触媒前躯体ゾルに含窒素化合物を添加,混合して光触媒体薄膜を調製することで,紫外領域とともに可視光領域における光触媒活性も発揮できることを特徴とする,請求項1〜3記載の薄片状光触媒体の製造方法。
【請求項5】
薄片状光触媒体の製造においては,出発原料の光触媒前躯体ゾルを基板上に塗布し,乾燥または焼成により薄膜形成した光触媒体を基材ごとNaCl等の塩の水溶液に浸漬することで基板からの剥離を容易に行うことができることを特徴とする薄片状光触媒体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−43594(P2006−43594A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228755(P2004−228755)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(503465502)
【出願人】(302062377)日本メンテナスエンジニヤリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】