説明

薄肉成形焼き菓子の製造方法と金型と製造装置

【課題】従来のものよりも薄い薄肉成形焼き菓子を製造する方法を提供する。
【解決手段】一対の金型の間に水種生地を閉じ込めて焼成する薄肉成形焼き菓子の製造方法であり、一対の金型の間に水種生地を流し込み、一対の金型を閉じて加熱する第1工程と、金型内の水種生地が流動性を失った後であり、かつ、弾力を失う前に金型を開いて水蒸気を放出する第2工程と、一対の金型を再び閉じて加熱する第3工程を含んでいる。焼成の途中で金型内の水蒸気を一気に放出することによって、薄肉で非常に軽いサクサクした食感の薄肉成形焼き菓子を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉を主原料とする水種生地を一対の金型に閉じ込めて焼成する薄肉成形焼き菓子の製造方法と金型と製造装置に関する。薄肉成形焼き菓子は、代表的には、モナカの皮に代表される可食容器である。以下では、「薄肉成形焼き菓子」を単に「薄肉焼き菓子」と称する場合がある。
【背景技術】
【0002】
モナカの皮に代表される薄肉焼き菓子は、所望の形状を作るために、雄金型(上金型)と雌金型(下金型)からなる一対の金型に水種生地を入れて製造(焼成)する。モナカのような薄肉焼き菓子の場合、薄肉の凹形状が形成される。水種生地は、小麦粉を主原料とし、澱粉や糖分を添加した水溶液である。水種生地を一対の金型に流し込み、金型を閉じて加熱する。金型の内部で水種生地が水蒸気発泡し、金型内のキャビティ全体に水種生地が膨らむ。「キャビティ」とは、金型を閉じたときに内部に形成される空間を意味する。金型の表面のうち、キャビティを画定する面をキャビティ面と称する。水種生地内の水分含有量が約5重量%以下に低下するまで加熱したのち、金型を開いて成形された薄肉焼き菓子を取り出す。金型を閉じて加熱を開始してから薄肉焼き菓子が焼成するまでに要する時間は概ね1分から2分程度である。金型には、水種生地から発生する水蒸気を金型外部に放出するための孔や溝が設けられている(例えば、特許文献1参照)。なお、以下では、金型に設けられた水蒸気放出用の孔や溝を水蒸気孔と称する。
【0003】
小麦粉を主原料として焼成される薄肉焼き菓子の肉厚は、薄い方が食感がよく、特許文献2によれば、約0.5mm〜8mmが好ましいとされている。薄肉焼き菓子の肉厚は、一対の金型を閉じたときのキャビティの厚みで決定される。なお、キャビティの厚みとは、金型を閉じたときの、上金型のキャビティ面と下金型のキャビティ面との間の距離である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−284486号公報
【特許文献2】特開2004−89028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄肉焼き菓子の肉厚は0.5mm〜8mmが好ましいとされているが、この技術分野においては2mm以下の肉厚の薄肉焼き菓子を金型で焼成することは難しいとされている。少なくとも発明者らは、肉厚が2mm以下の薄肉焼き菓子の存在を知らない。薄い肉厚の薄肉焼き菓子を焼成するには、キャビティの厚みを小さくする必要があるが、キャビティの厚みが小さいと、焼成時に金型の外へ水蒸気が逃げ難くなり、水種生地が蒸された状態となって十分に乾燥した薄肉焼き菓子が成形されない。十分に乾燥するまで焼成を続けると、生地が焦げてしまう。その対策として、水蒸気孔を多数設ける、あるいは水蒸気孔の径を大きくすることが考えられるが、水種生地が漏れ出ないように、水蒸気孔は金型において薄肉焼き菓子の縁に相当する部分に設ける必要があるため、水蒸気孔の個数や径サイズを変更しても、金型の中央部分で発生する水蒸気を効率よく放出することはできない。なお、2枚の金属平板の間に水種を配し、金属平板を相互に押し付けると2mm程度の肉厚の板状の焼き菓子を得ることはできる。これは、2枚の金属平板の間から水蒸気が自由に放散できるからである。しかしながら、所望の形状に成形するために金型を用いると、前述したように水蒸気を逃がす通路が限られるため、2mm以下の薄肉焼き菓子を成形することは困難であった。
本発明は、上記の課題に鑑みて創作されたものであり、その目的は、可食容器に代表される、薄肉成形焼き菓子を製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のひとつは、一対の金型の間に水種生地を閉じ込めて焼成する薄肉成形焼き菓子の製造方法に具現化できる。その方法は次の工程を含んでいる。
第1工程:一対の金型の間に水種生地を流し込み、一対の金型を閉じて加熱する工程。
第2工程:金型内の水種生地が流動性を失った後であり、かつ、弾力を失う前に金型を開いて金型内から水蒸気を放出する工程。
第3工程:一対の金型を再び閉じて加熱する工程。
ここで、第3工程において金型を閉じたときのキャビティの厚みを、第1工程において金型を閉じたときの厚みよりも小さくする。
【0007】
上記の製造方法は、まず、第1工程で、水種生地をキャビティ全体へ膨張させる。次いで第2工程で一旦金型を開いて水蒸気を一気に放出する。第2工程において金型を開くタイミングは、膨張した水種生地が流動性を失ったあとであり、かつ、弾力を失う前である。「弾力を失う前」とは、別言すれば、持ち上げたときに形状を維持するほどには固化していない状態を意味する。そのような状態を実現するには、第1工程において金型を閉じてから第2工程において金型を開くまでの時間が長くとも60秒であることが好ましい。なお、第2工程において「金型を開く」とは、膨張した水種生地の全面に亘って水蒸気が金型外部へ放出されればよいため、いずれか一方の金型のキャビティ面と水種生地の間に空隙が形成される程度の開度であってよい。
【0008】
次いで第3工程で、再び金型を閉じて水種生地を加熱する。第2工程で多くの水蒸気を放出しているので水種生地は蒸し焼き状態にならず、水種生地が焦げる前に固化する。ここでいう「固化」は、水種生地の水分が約5重量%以下、好ましくは3重量%以下となる状態を意味する。即ち、ここでいう「固化」とは、いわゆる焼き上がった状態を意味する。第3工程において金型を再び閉じてから再び開くまでの時間は、長くとも60秒であることが好ましい。
【0009】
上記の方法は、焼成中に一旦金型を開いて水蒸気を一気に放出するので、第3工程において焼成する際のキャビティの厚みを小さくしても水種生地が蒸し焼き状態にならず、速やかに固化する。即ち、第3工程において金型を閉じたときのキャビティの厚みを、第1工程において金型を閉じたときのキャビティの厚みよりも小さくすることによって、2mm以下の薄肉成形焼き菓子を得ることができる。なお、第1工程において完成品としての目標の厚みまで金型を閉じてしまうと加熱による圧力が過度になり、巣穴ができるなど、水種がキャビティ内に均一に広がらない。
本発明は、目標の厚みよりも大きいキャビティ厚みで金型を閉じたのちに、一旦金型を開いて水蒸気を一気に放出し、その後に目標の厚みまで金型を閉じるという斬新なアイデアによって、薄肉焼き菓子を製造することに成功した。
【0010】
可食容器の場合、一対の金型は、容器形状(凹形状)を形成するために必要であり、具体的には、可食容器の容器外側面を形成する雌金型(下金型)と可食容器の容器内側面を形成する雄金型(上金型)からなる。雌金型(下金型)と雄金型(上金型)のいずれか一方、或いは両方は、さらに分割可能であってもよい。本明細書にいう「一対の金型」とは、可食容器の容器外側面を形成する雌金型(複数の金型が組み合わさって雌金型を構成してよい)と、可食容器の容器内側面を形成する雄金型(複数の金型が組み合わさって雄金型を構成してよい)の組を意味する。より広義には、「一対の金型」とは、薄肉成形焼き菓子の一方の面を成形する金型と他方の面を成形する金型の組を意味する。以下では、説明の便宜上、雄金型を上金型と称し、雌金型を下金型と称する。
なお、金型の少なくとも一方には、薄肉焼き菓子の縁に相当する部分に水蒸気孔(溝であってもよい)が設けられていてもよい。
【0011】
第3工程におけるキャビティの厚みは、薄肉焼き菓子の完成品としての肉厚(目標とする肉厚)に相当する。第1工程におけるキャビティの厚みを、目標とする肉厚よりも大きくすることによって、第1工程において水種生地が速やかにキャビティ全体に膨張する。第2工程で水蒸気を一気に放出した後に、第3工程において第1工程のときよりもキャビティの厚みを小さくして金型を閉じ、水種生地を厚み方向に加熱加圧するので、含有する気泡の径は小さいが(即ち、キメは細かいが)、非常に軽いサクサクした食感の薄肉焼き菓子を製造することができる。
【0012】
キャビティの厚みは、前述したように、金型と閉じたときに対向するキャビティ面の間の距離であり、薄肉焼き菓子の肉厚を決める。薄肉焼き菓子には、その表面に凹凸などの模様が形成されることがある。本明細書において「薄肉焼き菓子(薄肉成形焼き菓子)の肉厚」とは、凹凸が形成されている場合には最も広い面積を占めている表裏面間の距離を意味する。「キャビティの厚み」についても同様である。即ち、キャビティの厚みは、薄肉焼き菓子全体で均一である必要はない。
一対の金型の同一の部位において、第3工程におけるキャビティの厚みが第1工程におけるキャビティの厚みよりも相対的に小さければよい。第3工程において金型を閉じたときのキャビティの厚みは、2mm以下であることが好ましい。
【0013】
本明細書は、上記した製造方法に適した金型も開示する。その金型は、キャビティと分割面との境界に、分割面からキャビティへ斜めに下がる傾斜面がキャビティを一巡して形成されており、一対の金型を閉じたときに、上金型の傾斜面と下金型の傾斜面が略平行となることを特徴とする。「分割面」とは、一対の金型を閉じたときにキャビティ面以外で対向する面を意味し、「見切面」、「パーティング面」、或いは、単に「型面」と呼ばれることがある。
【0014】
上記の金型は、キャビティを一巡する傾斜面を備えている。前記した第3工程において、キャビティの厚みが目標の厚みとなるまで金型を閉じたときに、双方の金型の傾斜面が接する。第1工程においては、目標の厚みよりも厚くなるように金型を閉じる。このとき、双方の金型の傾斜面の間に間隙が形成され、水蒸気が逃げ易くなる。
【0015】
さらに本明細書は、上記した製造方法に適した製造装置も開示する。その製造装置は、一対の金型の間に水種生地を閉じ込めて薄肉成形菓子を焼成する装置であり、金型を閉じたときのキャビティの厚みが可変であることを特徴とする。
【0016】
製造装置は、下金型を支持する支持台と、上金型を支持するとともに支持台に揺動可能に連結されている揺動部材を備えている。揺動部材と支持台の連結部は、次の技術的特徴を備える。
・連結部の支持台側に、先端の両側面がテーパ状に形成されている突条部材が取り付けられている。
・支持台上に、突条部材に嵌合するテーパ状の溝が形成されている。
・溝の底面を貫通するロッドが突条部から伸びている。
・一端が支持台下面に当接しているとともに他端がロッド先端に係止されて連結部を下方に付勢するバネがロッドに嵌挿されている。
・バネ力に抗してロッドの先端を押し上げると連結部が上方に移動する。ここで、「上方」とは、一対の金型が離れる方向を意味する。
【0017】
この製造装置は、バネ力に抗してロッドの先端を押し上げることで、上下の金型が平行となるときのキャビティ厚みを、目標の厚みよりも大きくすることができる。ロッドを押し上げる力を弱めると、突条部のテーパ状の先端が溝に完全に嵌合して位置決めされる。即ち、目標の厚みとなるように金型を閉じたときには、上下の金型が精密に位置合わせされる。
【0018】
上記の製造装置は、バネ力に抗してロッドの先端を押し上げた状態で金型を閉じて前記した第1工程を実施する。次いで揺動部材を揺動させて金型を開き、水蒸気を放散させる。次に、ロッドを押し上げている力を弱め、再度金型を閉じる。こうして第3工程が実施される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来のものより薄く、軽い食感の薄肉成形焼き菓子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】簡略に表した製造装置の模式図である。
【図2】モナカ皮製造方法の第1工程を説明する図である。
【図3】モナカ皮製造方法の第2工程を説明する図である。
【図4】モナカ皮製造方法の第3工程を説明する図である。
【図5】下金型の平面図である。
【図6】図5のVI−VI線に沿って見たときの下金型の断面図である。
【図7】図5のVII−VII線に沿って見たときの下金型の断面図である。
【図8】製造装置の模式的断面図である。
【実施例】
【0021】
図面を参照して、本発明に係る薄肉焼き菓子の製造装置を、製造方法とともに説明する。本実施例では、薄肉焼き菓子の代表例としてモナカ皮の製造装置と製造方法を説明する。図1に、モナカ皮を焼成する製造装置100の模式図を示す。なお、より好適な製造装置については後述する。製造装置100は、一対の金型(下金型110と上金型112)を備えている。なお、図1では、理解を助けるために、下金型110と上金型112は、断面を描いてある。また、金型の詳細については後述する。
下金型110は、製造装置100のベース20に固定されており、上金型112は、昇降ユニット22に固定されている。昇降ユニット22は、上金型112を上下し、金型を閉じたり開いたりする。
下金型110には、凹形状のキャビティ面110aが形成されている。上金型112には、凸形状のキャビティ面112aが形成されている。一対の金型(下金型110と上金型112)を閉じると、下金型110のキャビティ面110aと上金型112のキャビティ面112aが略平行に対向し、モナカ皮の形状と同じ形状のキャビティが形成される。すなわち、下金型110のキャビティ面110aが、モナカ皮の容器外側面を形成し、上金型112のキャビティ面112aが、モナカ皮の容器内側面を形成する。金型を閉じたときのキャビティ面110aとキャビティ面112aの間の距離がキャビティの厚みである。後述するように、第3工程におけるキャビティの厚みが完成品としてのモナカ皮の厚みを決定する。
【0022】
図示を省略しているが、製造装置100には、下金型110と上金型112を加熱する加熱器が備えられている。
図1の符号Wは、水種生地を示している。図1は、水蒸気発泡する前の水種生地Wを示しており、そのことを明らかにするために黒点のハッチングを施してある。
【0023】
モナカ皮の原料となる水種生地Wについて説明する。水種生地Wは小麦粉を主原料とし、水蒸気発泡する前は水分が約50重量%以上の水溶液である。水種生地Wには、小麦粉の他に、少量の糖分が含まれている。その他、香料や色素、或いは澱粉が含まれている場合もある。
以下、製造装置100を用いたモナカ皮の製造方法を説明する。
【0024】
(第1工程)
まず、加熱器によって、一対の金型(下金型110と上金型112)を予め加熱しておく。金型の温度が150℃から200℃程度まで上昇した後、下金型110のキャビティ面110aに水種生地Wを流し込む(図1参照)。次に、昇降ユニット22によって、上金型112を降下させ、金型を閉じる。このとき、昇降ユニット22は、キャビティの厚み(キャビティ面110aとキャビティ面112aとの間の距離)が第1の厚みD1になるまで上金型112を降下させる。第1の厚みD1は、約3mmである。ここでは、第1の厚みD1は、モナカ皮の底部に相当する部位におけるキャビティ面間の距離である。
【0025】
金型を閉じると、水種生地Wは加熱・加圧されて内部の水分が蒸発を始め、膨張を開始する。すなわち、水種生地Wが水蒸気発泡を開始する。このとき、水蒸気の一部は、後述する水蒸気溝18(19)を通って金型の外部に放出される。約3mmのキャビティの厚み(第1の厚みD1)は、溶液状の水種生地Wが膨張するのに十分な厚みであり、図2に示すように、速やかに金型のキャビティ全体に拡がる。水種生地Wは、キャビティの中で、厚みD1の容器形状に膨張する。図2では、水種生地W内に気泡が発生している様子を明らかにするため、水種生地Wを白抜き丸のハッチングで表している。白抜き丸が気泡を表している。
【0026】
(第2工程)
次に、第1工程で金型を閉じてから時間T1(約30秒、長くとも60秒)経過したのち、金型を開き、キャビティに充満している水蒸気を一気に金型外へ放出する(図3)。ここで、キャビティ内に一様に広がった水種の表面からも水蒸気を逃がすために、少なくとも水種の表面と一方の金型のキャビティ面との間に間隙が形成される程度に金型を開けばよい。もちろん、金型を全開にしてもよい。膨張した水種生地Wの全面(本実施例では、モナカ皮の内側の全表面)に亘って水蒸気が放出する。金型に充満した水蒸気が一気に放出するので、水種生地Wに残留している水分も蒸発が促進され、新たに発生した水蒸気も金型の外部へ散逸する。
【0027】
時間T1の加熱・加圧では、水種生地Wは、流動性は失っているが、持ち上げた際に重力に抗して形状を維持するほどには固化していない。逆に第2工程では、水種生地Wがそのような状態(流動性を失っており、かつ、弾力を失っている状態)のうちに金型を開く。流動性が残っていると、金型を開いたときに水種生地Wが金型に粘着してしまい、容器形状が崩れてしまう。他方、弾力を失った後だと、後述する第3工程で金型を再び閉じたときに乾燥した水種生地Wが潰れてしまう。流動性を失っており、かつ、弾力を失っている状態は、水種生地Wがキャビティ全体に膨張し終えた後であり、かつ、未だ多くの水分を含有しており焦げておらず、乾燥前の状態ということもできる。
【0028】
(第3工程)
第2工程で金型を開いてから時間T2後、昇降ユニット22によって、上金型112を降下させ、金型を再び閉じて加熱する。時間T2は、水種生地Wが自然乾燥しないかぎりは長くても良いが、十数秒以下であることが好ましい。より好ましくは、十秒以下でよい。水種表面の局所的な乾燥を防ぐためである。
金型を再び閉じるとき、昇降ユニット22は、キャビティの厚みが第1の厚みD1より小さい第2の厚みD2になるまで上金型112を降下させる(図4参照)。第2の厚みD2は、2mm以下である。
【0029】
金型を再び閉じると水種生地W内の水分が再び活発に蒸発するが、第2工程によってキャビティに充満していた水蒸気と水種生地Wに残存していた水分の一部が放出されているので、水種生地Wは、蒸し焼きならず、焦げ付く前に乾燥する。また、水蒸気の一部が水蒸気溝18(19)から外部へ放出されていくことも乾燥を促進する。従って、水種生地Wは、時間T3(長くとも60秒)経過したのち、焦げ付くことなく完全に固化する。なお、ここにいう「完全に固化」とは、水種生地Wが弾力を失った状態を意味し、より具体的には水種生地Wの水分が約10重量%以下、好ましくは約5重量%以下の状態を意味する。平たくいうと、「完全に固化した状態」とは、「焼き上がった状態」を意味する。時間T3経過後に、再び金型を開き、完全に固化した水種生地W、すなわち、モナカ皮が完成する。
【0030】
上記の製造方法によれば、第1工程で厚みD1の半固化状態のモナカ皮(水種生地W)を成形し、第2工程でキャビティ内の水蒸気を一気に放出した後、第3工程において厚みD1のモナカ皮(水種生地W)を厚みD2まで加熱・加圧する。そのため、水種生地Wの内部に発生する気泡の径は小さくなる。すなわち、キメの細かいモナカ皮を製造することができる。同時に、第2工程でキャビティ内の水蒸気と水種生地Wの水分の一部を除去してから再び加熱・加圧するので、第3工程においてキャビティの厚みを小さくしても、水種生地Wは焦げ付く前に速やかに固化する。薄肉でキメが細かく、かつ非常に軽いサクサクした食感の容器形状(凹形状)のモナカ皮を得ることができる。
【0031】
後述する水蒸気溝18(19)が設けられていることにより、第1工程及び第3工程でも金型内の水蒸気が逐次に放出されるが、第2工程における「水蒸気の放出」は、金型内に充満した水蒸気を一気に解放する工程であって、水蒸気溝18(19)からの逐次的な放出とは質的に異なる。仮に、水蒸気溝18(19)がモナカ皮の縁に相当する金型部分の全周に亘って形成されていても、モナカ皮の中央に相当する部位から発生する水蒸気は水蒸気溝から直ちには放出されないからである。
【0032】
上記の製造方法において、第1の厚みD1と第2の厚みD2は、容器形状のモナカ皮の底部を形成する部位におけるキャビティの厚みである。モナカ皮の底部に相当する金型の部位において、キャビティ面110a、112aは、金型の移動方向(図における上下方向)に対してほぼ直交している。他方、モナカ皮の側面に相当する金型の部位では、キャビティ面110a、112aが金型の移動方向に対して傾斜している。従って、モナカ皮の側面に相当する部位では、第1工程におけるキャビティの厚みと第3工程におけるキャビティの厚みの比は、D1/D2と同じにはならない。しかしながら、第3工程における上金型112の位置は第1工程における位置よりも降下しているから、モナカ皮の側面に相当する部位でも、第3工程におけるキャビティの厚みは第1工程におけるキャビティの厚みよりも小さくなる。すなわち、モナカ皮の全域において、第3工程におけるキャビティの厚みは第1工程におけるキャビティの厚みよりも小さくなる。モナカ皮の全体に亘って薄肉でキメが細かく、かつ非常に軽いサクサクした食感のモナカ皮を得ることができる。
【0033】
次に、図5から図7を参照して、金型について詳しく説明する。図5は、下金型110(雌金型)の平面図である。図6は、一対の金型(上金型112と下金型110)の断面図である。図6に示す下金型110の断面は、図5のVI−VI線に沿った断面に相当する。なお、図6において、二点鎖線Aは、一対の金型が閉じた状態における上金型を示している。また、符号120は、キャビティを示している。
【0034】
図7は、図5のVII−VII線に沿って見たときの下金型110の断面図を示している。図7は、水蒸気溝18(19)によって形成される水蒸気の通路を示している。なお、図7においても、二点鎖線Aは、一対の金型が閉じた状態における上金型の位置を示している。
【0035】
符号110a、110b、及び110cはそれぞれ、下金型110のキャビティ面、分割面、及び、傾斜面を示している。符号112a、112b、及び112cはそれぞれ、上金型112のキャビティ面、分割面、及び傾斜面を示している。
下金型110について説明する。図6に示すように、キャビティ面110aと分割面110bの間に、分割面110bからキャビティ面110aに向かって下がる傾斜面110cが形成されている。図6は断面図であるが、傾斜面110cは、キャビティ面110aの縁の全周に亘って形成されている(図5参照)。符号θは、分割面の垂線と傾斜面110cがなす角度を示しており、約5度である。
上金型112にも同様に、キャビティ面112aと分割面112bの間に、分割面112bからキャビティ面112aに向かって下がる傾斜面112cが形成されている。
【0036】
図5と図7に示すように、下金型110の傾斜面110cの一部に、水蒸気溝18が形成されている。図示を省略しているが、上金型112において、水蒸気溝18に対向する位置にも水蒸気溝19が形成されている。図7に示すように、水蒸気溝18と19によって、金型を閉じたときにキャビティから外部に水蒸気を逃がすための通路が形成される。図5に示すように、水蒸気溝18は、傾斜面112cの四方に設けられている。
【0037】
図6において、二点鎖線Aは、キャビティの厚みが目標の厚みになるときの上下の金型の配置を示しており、このとき、下金型110の傾斜面110cと上金型112の傾斜面112cは、密着する。即ち、傾斜面110cと傾斜面112cは、平行に対向している。
【0038】
前述の第1工程を実施する際、キャビティの厚みが目標の厚みよりも厚くなるように一対の金型が閉じられる。このときには、全周に亘って傾斜面110cと傾斜面112cの間に、キャビティから外部に通じる間隙が形成される。この間隙から水蒸気を逃がすことができる。
【0039】
仮にθがゼロの場合、第1工程においてキャビティの厚みが目標の厚みよりも厚くなるように一対の金型が閉じられても、傾斜面110cと傾斜面112cの間に間隙が形成されず、水蒸気の逃げ道は、図7に示したように、水蒸気溝18と19によって形成される通路のみとなる。この一対の金型110と112は、第1工程においてキャビティの周囲に間隙が形成されるので、水蒸気を逃がし易くなっている。なお、θが約5度と小さいのは、キャビティの厚みが目標の厚みよりも厚くなるように一対の金型を閉じたときの傾斜面間の間隙を、水種が流出しない程度に小さくするためである。
【0040】
次に、上記の製造方法に好適な製造装置を説明する。図8は、薄肉成形焼き菓子の製造装置200の模式的断面図である。製造装置200は、支持台50と、ヒンジピン54を介して支持台50に揺動可能に連結されている揺動部材52を備えている。図8の矢印が揺動方向を示している。支持台50には、下金型210が固定されている。揺動部材52には上金型212が固定されている。揺動部材52を揺動することによって、一対の金型210、212が開閉する。一対の金型210と212は、前記した金型110と112であってよいが、図8では単純な矩形で模式的に表している。
【0041】
この製造装置200には、支持台50と揺動部材52の連結部に特徴がある。連結部とは、ヒンジを形成する部分を意味する。連結部の支持台側に、先端の両側面がテーパ状に形成されている突条部材56が取り付けられている。突条部剤56は、図8の紙面に垂直な方向に伸びている。突条部材56は、ヒンジピン54を固定する部材である。また、支持台50上に、突条部材56に嵌合するテーパ状の溝50a(テーパ溝)が形成されている。テーパ溝50aも、図8の紙面に垂直な方向に伸びている。
【0042】
突条部材56の先端面からロッド58が伸びている。ロッド58は、テーパ溝50aの底面を貫通しており、支持台50の下方まで伸びている。ロッド58の先端にはナット60が固定されている。ロッド58にはコイルバネ62が嵌挿されている。コイルバネ62は、一端が支持台50の下面に当接しており、他端がロッド58の先端にナット60によって係止されている。コイルバネは圧縮されて支持台50とナット60の間に挿入されており、連結部(ヒンジピン54や突条部剤56)を下方に付勢している。
【0043】
コイルバネ62の付勢力によって、突条部材56のテーパ状の側面がテーパ溝50aに嵌合し、ヒンジピン54が正確に位置決めされる。このとき、上金型212と下金型210が正確に位置合わせされる。コイルバネ62のバネ力に抗してロッド58を押し上げるとヒンジピン54が上方に移動する。このとき、揺動部材52に固定された上金型212が上方に平行移動し、下金型210から離間する。
【0044】
この製造装置200は、ロッド58を上下させることで、金型が閉じられて一対の金型が平行となるときの金型間の距離、即ち、キャビティの厚みを変更することができる。この製造装置200は、突条部材56のテーパ状の先端がテーパ溝50aに嵌合したときに、キャビティの厚みが目標の厚みとなるように構成されている。従って、前述の第3工程においてキャビティの厚みを小さくするときは、突条部材56のテーパ状の先端がテーパ溝50aに嵌合し、上下の金型が正確に位置合わせされる。
【0045】
この製造装置200は、バネ力に抗してロッド58の先端を押し上げた状態で一対の金型210、212を閉じて前記した第1工程を実施する。次いで揺動部材52を揺動させて金型を開き、水蒸気を放散させる。次に、ロッド58を押し上げている力を弱め、再度金型を閉じる。こうして第3工程が実施される。
【0046】
この製造装置200は、キャビティの厚みを容易に変更することができるとともに、キャビティの厚みを目標の厚みにするときには一対の金型が正確に位置合わせされる。従って、前述したモナカ皮(薄肉焼き菓子)の製造方法の実施に適している。
【0047】
本発明はモナカ皮に限られず、小麦粉や澱粉を主原料とし、金型によって所望の形状に焼成される様々な薄肉成形焼き菓子に適用することが可能である。また、本発明によって製造される薄肉成形焼き菓子は、小さくカットされて、いわゆる「クランチ」として用いられることがあってもよい。
【0048】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、上記したキャビティの厚み(第1の厚みD1、第2の厚みD2)は、モナカ皮の底部全体に亘って均一でなくともよい。また、第2の厚みD2(完成品である薄肉成形焼き菓子の厚みに相当する)は、2mm以下とすることもできる。
【0049】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0050】
18、19:水蒸気溝
20:ベース
22:昇降ユニット
50:支持台
50a:テーパ溝
52:揺動部材
56:突条部材
62:コイルバネ
100、200:製造装置
110、210:下金型
112、212:上金型
110a、112a:キャビティ面
110b、112b:分割面
110c、112c:傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金型の間に水種生地を閉じ込めて焼成する薄肉成形焼き菓子の製造方法であり、
一対の金型の間に水種生地を流し込み、一対の金型を閉じて加熱する第1工程と、
金型内の水種生地が流動性を失った後であり、かつ、弾力を失う前に金型を開いて水蒸気を放出する第2工程と、
一対の金型を再び閉じて加熱する第3工程と、を含んでおり、
第3工程において金型を閉じたときのキャビティの厚みが、第1工程において金型を閉じたときのキャビティの厚みよりも小さいことを特徴とする薄肉成形焼き菓子の製造方法。
【請求項2】
第3工程は、水種生地が弾力を失う前に、金型を再び閉じることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1工程において金型を閉じてから第2工程において金型を開くまでの時間が長くとも60秒であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
第3工程において金型を再び閉じてから再び開くまでの時間が長くとも60秒であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
第3工程において金型を閉じたときのキャビティの厚みが2mm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
キャビティと分割面との境界に、分割面からキャビティへ斜めに下がる傾斜面がキャビティを一巡して形成されており、一対の金型を閉じたときに、上金型の傾斜面と下金型の傾斜面が略平行となることを特徴とする薄肉成形焼き菓子用の金型。
【請求項7】
下金型を支持する支持台と、
上金型を支持するとともに支持台に揺動可能に連結されている揺動部材と、を備えており、揺動部材と支持台の連結部が、
連結部の支持台側に、先端の両側面がテーパ状に形成されている突条部材が取り付けられており、
支持台上に前記突条部材に嵌合するテーパ状の溝が形成されており、
溝の底面を貫通するロッドが突条部から伸びており、
一端が支持台下面に当接しているとともに他端がロッド先端に係止されて連結部を下方に付勢するバネがロッドに嵌挿されており、
バネ力に抗してロッドの先端を押し上げると連結部が上方に移動することを特徴とする薄肉成形焼き菓子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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