説明

薄肉樹脂成形品及び薄肉樹脂成形品成形用の成形型

【課題】成形時の樹脂流れがよく、ヒケを抑制するとともに剛性の高い薄肉樹脂成形品、及びこれを成形する薄肉樹脂成形用の成形型を提供する。
【解決手段】薄肉樹脂成形品としてのドアトリム1は、肉厚が1.0〜1.8mmである一般部2と、肉厚が一般部2よりも大きく且つ3.0mm以下の厚肉部3とを有する。ドアトリム1の非意匠面1b側では、厚肉部3が一般部2よりも突出している。厚肉部3は、ドアトリム1の非意匠面1bの面方向のうち少なくとも一方向に連続して延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形法により形成される厚みが薄い薄肉樹脂成形品、及びこれを製造する際に用いられる薄肉樹脂成形品成形用の成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品は、軽量化及び材料節約のため、肉厚を薄くすることが考えられている。しかし、肉厚を薄くすると、射出成形時の樹脂流れが悪くなり、不完全形状の成形品が形成されるという、所謂ショートショットという不具合が生じる場合がある。また、薄肉化した成形品は、断面二次モーメントの減少により、剛性が低下する。このため、若干の荷重によって撓んだり変形したりするおそれがあった。
【0003】
そこで、従来、薄肉の樹脂成形品の非意匠面には、剛性不足を補うために、リブを突設させていた。薄肉樹脂成形品は樹脂材料を射出成形して形成される。溶融した樹脂材料は、冷却固化する際に収縮する。肉厚が厚いリブ設置部分は、他の一般部に比べて樹脂材料の冷却が遅い。このため、リブ設置部分は、一般部の樹脂材料が固化した後に収縮しながら固化する。それゆえ、薄肉樹脂成形品のリブ設置部の意匠面にヒケが生じて、意匠面の見栄えを損なう原因となる。
【0004】
そこで、リブ付き樹脂成形品のヒケ発生を抑制するために、特許文献1の図4には、発泡樹脂基材(21)と、その内面側に一体化されるリブ(22)と、表面側に位置し、クッション性を有する加飾材(23)とからなる積層構造体が開示されている。この積層構造体を製造するに当たっては、成形型のキャビティ内に、発泡樹脂シートと加飾材とをセットし、型締めし、キャビティ内の溝部内にリブ用の溶融樹脂を射出充填し、その後型を緩めて溶融樹脂が冷却固化する際の収縮歪みを加飾材及び発泡樹脂シートの復元作用で吸収して、成型品表面へのヒケ発生を回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−68598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、リブ成形用の溶融樹脂が冷却固化する際の収縮を吸収させるために、発泡樹脂シートと加飾材とからなる積層体を予めキャビティ内にセットしている。このため、リブ付き樹脂成形品の製造工程が多くなり、製造コストアップにつながる。また、樹脂成形品は発泡樹脂材とクッション性を有する加飾材との積層体からなるため、剛性が低くなり、強度が要求される部分には、使用することができない。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、成形時の樹脂流れがよく、ヒケを抑制するとともに剛性の高い薄肉樹脂成形品、及びこれを成形するために用いる薄肉樹脂成形品成形用の成形型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の薄肉樹脂成形品は、肉厚が1.0〜1.8mmである一般部と、肉厚が該一般部の肉厚よりも大きく且つ3.0mm以下である厚肉部とを有する薄肉樹脂成形品であって、前記厚肉部は、前記薄肉樹脂成形品の非意匠面側に前記一般部よりも突出して、前記薄肉樹脂成形品の非意匠面の面方向のうち少なくとも一方向に連続して延びていることを特徴とする。
【0009】
本発明の薄肉樹脂成形品は、一般部よりも肉厚の大きい厚肉部を設けている。このため、薄肉樹脂成形品の剛性が、一般部のみからなる薄肉樹脂成形品に比べて高くなる。また、厚肉部の肉厚は、3.0mm以下である。このため、厚肉部の意匠面にヒケが発生することを防止することができる。また、厚肉部は、薄肉樹脂成形品の非意匠面の面方向のうち少なくとも一方向に連続して延びている。このため、溶融した樹脂材料は、厚肉部の延び方向に流動しやすくなる。ゆえに、射出成形時の樹脂流れがよく、厚肉部を通じて薄肉樹脂成形品の全体に樹脂材料が十分に行き渡り、いわゆるショートショットという不具合を防止することができる。
【0010】
前記一般部の肉厚に対する前記厚肉部の肉厚の比率は、1.5〜3.0であることが好ましい。この場合には、ヒケ発生を抑制しつつ、薄肉樹脂成形品の剛性を効果的に高めることができる。また、ショートショットという不具合も効果的に抑制できる。
【0011】
前記厚肉部の幅は、5〜20mmであることが好ましい。この場合には、薄肉樹脂成形品の軽量化と十分な剛性とを両立させることができる。
【0012】
前記厚肉部と前記一般部との間には、前記一般部から前記厚肉部に向けて肉厚が漸次大きくなる徐変部が形成されていることが好ましい。この場合には、厚肉部から一般部への樹脂流れがさらに良くなり、またヒケの発生を効果的に抑制することができる。
【0013】
前記徐変部の幅は、30〜50mmであることが好ましい。この場合には、厚肉部から一般部への樹脂流れがさらに良くなり、またヒケをさらに効果的に抑制することができる。
【0014】
前記厚肉部は、前記薄肉樹脂成形品に格子状に形成されていることが好ましい。この場合には、薄肉樹脂成形品の面方向の剛性をバランスよく高めることができる。
【0015】
本発明の薄肉樹脂成形品成形用の成形型は、肉厚が1.0〜1.8mmである一般部を有する薄肉樹脂成形品を射出成形する際に用いられる成形型であって、該成形型は、前記薄肉樹脂成形品に相当する形状をもつキャビティと、該キャビティに樹脂を射出するゲートとを有し、前記キャビティは、前記一般部の肉厚と同じ厚みをもつ一般部成形部と、該一般部成形部の厚みよりも大きく且つ3.0mm以下の厚みをもつ厚肉部成形部とを有するとともに、該厚肉部成形部は、前記ゲートから樹脂流れ方向の先端まで連続して延びており、前記キャビティの薄肉樹脂成形品の非意匠面を形成する成形面は、前記厚肉部成形部で前記一般部成形部よりも厚み方向外側に窪んでいることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、キャビティが、一般部成形部の厚みよりも大きい厚みをもつ厚肉部成形部を有している。このため、ゲートから射出された樹脂は、厚肉部成形部を通ってその周辺の一般部成形部に樹脂を行き渡らせながら、樹脂流れ方向の先端まで滞りなく流動する。ゆえに、樹脂はキャビティ全体に充満することができ、完全形状の薄肉樹脂成形品を確実に成形することができる。また、成形された薄肉樹脂成形品は、意匠面にヒケが生じず、また一般部よりも厚肉の厚肉部が形成されることによって、薄肉樹脂成形品の剛性が高まる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の薄肉樹脂成形品は、一般部よりも肉厚が大きくかつ3.0mm以下の肉厚をもつ厚肉部を有している。このため、薄肉樹脂成形品の剛性が高く、また意匠面にヒケが生じにくい。さらに、成形時の樹脂流れがよく、完全形状の成形品を確実に成形することができる。
【0018】
本発明の薄肉樹脂成形品成形用の成形型によれば、薄肉樹脂成形品と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例1のドアトリムの斜視図である。
【図2】図2は、実施例1のドアトリムの要部断面図である。
【図3】図3は、実施例1のドアトリムを成形する成形型の断面図である。
【図4】図4は、実施例2のドアトリムの斜視図である。
【図5】図5は、実施例3のインストルメントパネルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
薄肉樹脂成形品は、肉厚が薄い一般部と、一般部よりも厚肉の厚肉部とからなる。一般部は、樹脂成形品の本来の厚みをもつ部分であり、厚肉部は、一般部よりも肉厚であり且つ最も肉厚の大きい部分である。
【0021】
一般部は、薄肉樹脂成形品の全体形状の中で面方向に広範囲に広がっている。一般部は、平面状に延びていてもよいし、一部又は全体が湾曲又は屈曲していてもよい。薄肉樹脂成形品の全体形状は、薄肉製品がとり得る様々な形状であり、たとえば、板状、アーチ形状、箱形状などである。薄肉樹脂成形品は、肉厚方向の表面、裏面を、それぞれ意匠面、非意匠面としている。
【0022】
一般部の肉厚は、1.0〜1.8mmである。1.0mm未満の場合には、一般部での樹脂流れが低下して一般部に樹脂不足部分が生じるおそれがある。1.8mmを越える場合には、成形品の材料節約と軽量化という目的を十分に果たすことができない。
【0023】
一般部の肉厚は、1.3〜1.8mmであることが好ましい。この場合には、一般部での樹脂流れを向上させつつ軽量化及び材料節約の目的を効果的に果たすことができる。
【0024】
厚肉部の肉厚は、一般部の肉厚よりも大きく且つ3.0mm以下である。3.0mmを越える場合には、厚肉部の意匠面にヒケが生じて意匠面の外観を損なうおそれがある。
【0025】
厚肉部の肉厚は、1.8〜3.0mmであることが好ましい。この場合には、厚肉部の意匠面にヒケが生じることなく、薄肉樹脂成形品の剛性を高め、且つ成形時の樹脂流れを良好にすることができる。
【0026】
薄肉部の肉厚に対する厚肉部の肉厚の比率は、1.5〜3.0であることが好ましく、更には1.5〜2.0であることが望ましい。この場合には、薄肉樹脂成形品の剛性を十分に高めつつ、意匠面のヒケを効果的に抑制することができる。
【0027】
厚肉部の意匠面は、一般部の意匠面と面一である。すなわち、厚肉部の意匠面は、一般部の意匠面とともに、薄肉樹脂成形品の意匠面を形成している。
【0028】
厚肉部は、薄肉樹脂成形品の非意匠面側に一般部よりも突出している。非意匠面での厚肉部と一般部との間の肉厚の差、すなわち厚肉部の一般部からの非意匠面側への突出量は、0mmを越えて大きく、且つ2.0mm以下であることが好ましい。この場合には、薄肉樹脂成形品の剛性を十分に高めつつ、意匠面のヒケを効果的に抑制することができる。
【0029】
厚肉部の幅とは、厚肉部の延び方向と肉厚方向に直交する方向の幅をいう。厚肉部の幅は特に限定しないが、5〜20mmであることが好ましい。この場合には、薄肉樹脂成形品を軽量にしつつ、剛性が高く、成形時の樹脂流れが更に向上する。
【0030】
厚肉部は、薄肉樹脂成形品の非意匠面の面方向のうち少なくとも一方向に連続して延びている。面方向とは、薄肉樹脂成形品の非意匠面の広がり方向をいう。たとえば、厚肉部は、面方向のうち少なくとも一方向の一端部から他端部まで連続して延びていてもよい。厚肉部の延び方向は、樹脂成形時の樹脂流れ方向と平行であるとよく、直線又は曲線のいずれでもよい。厚肉部は、たとえば、格子状に形成されたり、1又は複数のライン状に形成されたりする。
【0031】
厚肉部の幅方向のピッチは、特に限定しないが、薄肉樹脂成形品の軽量化及び剛性を両立させるために、100〜300mmであるとよい。
【0032】
一般部と厚肉部との間には、徐変部を設けていることが好ましい。徐変部は、肉厚が一般部から厚肉部に向けて漸次大きくなる部分である。徐変部の肉厚は、一般部から厚肉部に向けて、直線状に大きくなっていてもよいし、曲線又は複数の段状に大きくなってもよい。徐変部の肉厚は直線状に変化していることが好ましい。この場合には、厚肉部でのヒケを効果的に抑制できる。
【0033】
徐変部は、一般部と厚肉部との間の境界部分の全体にわたって形成されていることが好ましい。すなわち、厚肉部の幅方向の両側には、厚肉部と平行に徐変部が延びていることが好ましい。この場合には、一般部と厚肉部との間に段差部分がなくなり、成形時の樹脂流れが良好になり、ヒケも効果的に抑制できる。
【0034】
徐変部の幅は、徐変部の延び方向と肉厚方向とに直交する方向の幅をいう。徐変部の幅は、特に限定しないが、厚肉部を適切なピッチで樹脂成形品に形成するために、30〜50mmであることが好ましい。
【0035】
薄肉樹脂成形品を成形する成形型は、薄肉樹脂成形品に相当する形状をもつキャビティと、キャビティに樹脂を射出するゲートとを有する。キャビティは、一般部の肉厚と同じ厚みを有する一般部成形部と、厚肉部の肉厚と同じ厚みを有する厚肉部成形部とをもつ。厚肉部成形部は、ゲートから樹脂流れ方向の先端まで連続して延びている。キャビティの薄肉樹脂成形品の非意匠面を形成する成形面は、厚肉部成形部で一般部成形部よりも厚み方向外側に窪むことで、厚肉部成形部の厚みが一般部成形部の厚みよりも大きくなる。このため、厚肉部成形部での樹脂流れ抵抗を低くできる。
【0036】
ゲートは、厚肉部成形部に開口している。キャビティにおけるゲートの開口位置は、厚肉部成形部の端部でも中央部でもよい。キャビティにおいて複数の厚肉部成形部が一般部成形部を隔ててそれぞれ接することなく互いに孤立して配置されている場合には、各厚肉部成形部に少なくとも1つのゲートを開口させるとよい。
【0037】
薄肉樹脂成形品は、たとえば、インストルメントパネル、ダッシュボックス、ドアトリムなどの車両内装品、バンパーなどの車両外装品、エンジンカバー、タンクカバーなどのシャシ部品などの車両部品に用いることができる。
【実施例1】
【0038】
本例の薄肉樹脂成形品は、車両用ドアの内張として設けられるドアトリムである。図1は、ドアトリムの斜視図である。図1において、上、下、前、後、右、左は、車両に着座した乗員からみた方向である。後述の図4、図5においても同様である。
【0039】
図1に示すように、ドアトリム1は、ほぼ平坦な略四角形状を呈する本体部11と、本体部11の周縁に車両外側に向かって突設された側壁部12とを有する。本体部11の上下方向の中央には、アームレスト部13が設けられている。アームレスト部13は、車両の前後方向に延び車室内側に突出している。ドアトリム1の車室内側に向いている面は意匠面1aであり、車室外側に向いている面は非意匠面1bである(図2)。
【0040】
図1,図2に示すように、ドアトリム1は、薄い肉厚をもつ一般部2と、一般部2よりも厚肉の厚肉部3とをもつ。ドアトリム1の側壁部12、及び本体部11のアームレスト部13,及びアームレスト部13よりも上方に位置する上部分11aは、一般部2から構成されている。
【0041】
本体部11のアームレスト部13よりも下方に位置する下部分11bは、一般部2と厚肉部3とから構成されている。薄肉樹脂成形品1の意匠面1aは、本体部11の下部分11bは、その意匠面1aは平面形状を呈している。本体部11の下部分11bには、一般部2の間に格子状の厚肉部3が形成されている。厚肉部3は、本体部11の下部分11bの上下方向に延びる縦部31と、前後方向に延びる横部32とからなる。厚肉部3の縦部31は、アームレスト部13から下部分11bの下端部まで直線状に延びている。縦部31は、下部分11bの前端部から後端部まで直線状に延びている。縦部31は、下部分11bの前後方向に等間隔を隔てて複数配列している。厚肉部3の横部32は、下部分11bの上下方向の中央部に配置されている。縦部31と横部32とは直角に交わっている。
【0042】
図2に示すように、一般部2の肉厚Aは1.3mmであり、厚肉部3の肉厚Bは2.5mmである。一般部2の肉厚に対する厚肉部3の肉厚の比率は、1.9である。ドアトリム1の意匠面1aは、厚肉部3と一般部2とでは面一である。ドアトリム1の非意匠面1bは、厚肉部3が、一般部2よりも厚み方向外側に1.2mm分だけ突出している。厚肉部3は、格子形状を呈している。厚肉部3の幅Cは5mmであり、厚肉部3の縦部31のピッチは200mmである。
【0043】
一般部2と厚肉部3との間には、一般部2から厚肉部3に向けて直線状に肉厚が増加する徐変部4が形成されている。徐変部4は、一般部2と厚肉部3との間の境界部分全体に形成されている。徐変部4の幅Dは、40mmである。
【0044】
ドアトリム1を成形するに当たっては、図3に示すように、成形型5を用いる。成形型5は、上型51と下型52とゲート53とからなる。上型51と下型52との間には、キャビティ50が形成されている。キャビティ50は、ドアトリム1に相当する形状を呈している。薄肉樹脂成形品1の意匠面1aは、上型51の成形面によって形成され、非意匠面1bは下型52の成形面によって形成される。キャビティ50は、ドアトリム1の一般部2を成形する一般部成形部50aと、厚肉部4を成形する厚肉部成形部50bと、徐変部4を成形する徐変部成形部50cとをもつ。
【0045】
一般部成形部50aの厚みは、ドアトリム1の一般部2の肉厚と同じであり、厚肉部成形部50bの厚みは、ドアトリム1の厚肉部3の肉厚と同じである。
【0046】
図1の符号Gはゲートの開口位置を示す。ゲートは、下型52の成形面に開口している。ゲートは、本体部11の下部分11bの上下方向の中央部であって前後方向の中央部に位置する厚肉部成形部50bに開口している。
【0047】
ゲートよりキャビティに樹脂材料を射出する。ゲートから樹脂材料を射出すると、図3に示すように、キャビティ50の厚肉部成形部50bに流入する。厚肉部成形部50bを流通しながら、厚肉部成形部50bの周囲の一般部成形部50aにも行き渡る。そして、キャビティ50の全体に樹脂材料が充満する。
【0048】
本例のドアトリム1は、非意匠面1b側に突出して一般部2よりも厚肉の厚肉部3を設けている。このため、ドアトリム1の剛性が、一般部2のみからなるドアトリム1に比べて高くなる。また、厚肉部3は、非意匠面1bの面方向のうち上下方向と前後方向の二方向に連続して延びている。このため、射出成形時の樹脂流れがよく、ドアトリム1の全体に樹脂材料が十分に行き渡る。したがって、いわゆるショートショットという不具合を防止することができる。
【0049】
一般部2と厚肉部3との間には、一般部2から厚肉部3に向けて漸次突出量が大きくなる徐変部4が形成されている。このため、一般部2と厚肉部3との境界部分での応力集中を抑制でき、ドアトリム1の剛性がさらに高くなる。
【0050】
厚肉部3は、本体部11の下部分11bに格子状に形成されている。このため、ドアトリム1の面方向の剛性をバランスよく高めることができる。
【0051】
また、ドアトリム1を成形する成形型5のキャビティ50は、一般部成形部50aの厚みよりも大きい厚みをもつ厚肉部成形部50bを有している。このため、ゲート53から射出された樹脂材料は、厚肉部成形部50bを通って周辺の一般部成形部50aに行き渡り、樹脂流れ方向の先端まで滞りなく流動する。ゆえに、樹脂材料はキャビティ50全体に充満することができ、完全形状のドアトリム1を確実に成形することができる。
【実施例2】
【0052】
本例においては、図4に示すように、ドアトリム1の下部分11bに形成された厚肉部3は、上下方向に延びる複数の縦部31から構成されており、前後方向に延びる横部は有していない点が、実施例1と相違する。
【0053】
ドアトリム1を射出成形により形成するに当たっては、図4のGに示すように、成形型のキャビティにおけるドアトリム1の下端部に対応する部分にゲートが開口している。ゲートは、キャビティを囲む下型の成形面における複数の縦部31の下端部に対応する部分に、それぞれ配置されている。ゲートから樹脂材料をキャビティ内に射出すると、厚肉部3を構成する各縦部31を通って、縦部31周囲の一般部2に流入しながら、縦部31のゲートを配置した端部と反対側の方向に樹脂が流通する。やがて、キャビティ全体に樹脂が充満して、完全形状のドアトリム1が形成される。
【0054】
本例においても、ドアトリム1の下部分11bに、上下方向に延びる厚肉部3を形成しているため、軽量で、剛性が高く、ヒケも生じない。また、ショートショットという樹脂流れ不足を効果的に抑制することができる。
【実施例3】
【0055】
本例の薄肉樹脂成形品は、図5に示すように、車両のインストルメントパネル7である。インストルメントパネル7は、車室内前方に設けられている。インストルメントパネル7は、乗員と対向する正面部71と、正面部71の上部に設けられた上部72とを有する。正面部71は、操縦者の前方側に位置する部分に速度計などのメータ類が配設される表示部71aと、助手席の前方に設けられ小物類を収容する収納部71bと、操縦者と助手席との間の前方に設けられ空調装置やオーディオ機器の操作パネルが配設される操作部71cとを有する。上部72は、車室上側に向いて略水平方向に広がる。インストルメントパネル7は、車室内側に意匠面7aをもち、車室外側に非意匠面7bをもつ。
【0056】
インストルメントパネル7の正面部71は一般部2から構成されており、上部72は一般部2と厚肉部3とから構成されている。上部72の厚肉部3は、前後方向に直線状に延びる複数の縦部31と、縦部31の前後方向の略中央部で直交する横部32とを有する。縦部31は、上部72の左端部から右端部までの間に等間隔を隔てて配列している。横部32は、上部72の左端部から右端部までにわたって直線状に形成されている。
【0057】
厚肉部3と一般部2との間には、徐変部4が形成されている(図2参照)。厚肉部3の厚みは3.0mmであり,一般部2の厚みは1.8mmである。厚肉部3の縦部31のピッチは250mmであり、厚肉部3の幅は10mmである。徐変部4の幅は、40mmである。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0058】
インストルメントパネル7は、実施例1のドアトリム1と同様に、成形型を用いた射出成形により形成する。この成形型のキャビティは、実施例1と同様に、インストルメントパネル7の厚肉部3を成形する厚肉部成形部もつ。この厚肉部成形部は、ゲートから樹脂流れ方向の先端まで連続して延びている。成形型に設けられているゲートは、図5のGに示すように、成形型のキャビティにおけるインストルメントパネル7の左端部に相当する部分に開口している。ゲートは、キャビティを囲む下型の成形面における厚肉部3の左端部に対応する部分に配置されている。
【0059】
本例のインストルメントパネル7の正面部71においても、実施例1のドアトリム1の下部分11bと同様に、格子状の厚肉部3が形成されているため、剛性が高く、軽量であり、また成形時の樹脂流れがよく、ヒケも生じない。
【0060】
(実験)
厚肉部3の肉厚を変化させて、実施例1のドアトリムを形成した。厚肉部の厚みは、2.0mm、2.5mm、3.0mmとし、それぞれの厚みのドアトリムを、成形型を用いて複数回成形した。一般部の肉厚は、1.3mmとした。その他のドアトリムの構成及び成形法は実施例1と同等とした。
【0061】
その結果、厚肉部の肉厚が2.0mm、2.5mm、3.0mmの場合には、ドアトリムの意匠面にヒケ発生が抑制され、またショートショットという樹脂流れ不足による不具合も生じなかった。さらに、厚肉部の肉厚が2.0mm、2.5mmの場合には、ドアトリムの意匠面にヒケが全く発生しなかった。
【0062】
このことから、厚肉部3の肉厚は、一般部1の肉厚よりも厚く且つ3.0mm以下であることがよく、また、薄肉部1の肉厚に対する厚肉部3の肉厚の比率は、1.5〜3、さらには1.5〜2.0であることがよいことはわかる。
【符号の説明】
【0063】
1:ドアトリム、1a:意匠面、1b:非意匠面、2:一般部、3:厚肉部、4:徐変部、5:成形型、7:インストルメントパネル、7a:意匠面、7b:非意匠面、11:本体部、11a:上部分、11b:下部分、12:側壁部、13:アームレスト部、31:縦部、32:横部、33:格子結合部、50:キャビティ、50a:一般部成形部、50b:厚肉部成形部、50c:徐変部成形部、51:上型、52:下型、71:正面部、72:上部、G:ゲートの位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚が1.0〜1.8mmである一般部と、肉厚が該一般部の肉厚よりも大きく且つ3.0mm以下である厚肉部とを有する薄肉樹脂成形品であって、
前記厚肉部は、前記薄肉樹脂成形品の非意匠面側に前記一般部よりも突出して、前記薄肉樹脂成形品の非意匠面の面方向のうち少なくとも一方向に連続して延びていることを特徴とする薄肉樹脂成形品。
【請求項2】
前記一般部の肉厚に対する前記厚肉部の肉厚の比率は、1.5〜3.0である請求項1記載の薄肉樹脂成形品。
【請求項3】
前記厚肉部の幅は、5〜20mmである請求項1又は請求項2に記載の薄肉樹脂成形品。
【請求項4】
前記厚肉部と前記一般部との間には、前記一般部から前記厚肉部に向けて肉厚が漸次大きくなる徐変部が形成されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の薄肉樹脂成形品。
【請求項5】
前記徐変部の幅は、30〜50mmである請求項4記載の薄肉樹脂成形品。
【請求項6】
前記厚肉部は、前記薄肉樹脂成形品に格子状に形成されている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の薄肉樹脂成形品。
【請求項7】
肉厚が1.0〜1.8mmである一般部を有する薄肉樹脂成形品を射出成形する際に用いられる成形型であって、
該成形型は、前記薄肉樹脂成形品に相当する形状をもつキャビティと、該キャビティに樹脂を射出するゲートとを有し、
前記キャビティは、前記一般部の肉厚と同じ厚みをもつ一般部成形部と、該一般部成形部の厚みよりも大きく且つ3.0mm以下の厚みをもつ厚肉部成形部とを有するとともに、
該厚肉部成形部は、前記ゲートから樹脂流れ方向の先端まで連続して延びており、前記キャビティの薄肉樹脂成形品の非意匠面を形成する成形面は、前記厚肉部成形部で前記一般部成形部よりも厚み方向外側に窪んでいることを特徴とする薄肉樹脂成形品成形用の成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−201902(P2010−201902A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53243(P2009−53243)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】