説明

薄膜の形成方法およびそれに用いるマスク

【課題】独立した非成膜領域を含むパターンの薄膜を成膜する。
【解決手段】開口パターンが形成された平板状のマスク2を介して、ノズル11から噴射された超微粒子を基板3上に堆積させ、前記開口パターンに対応する形状の薄膜を基板3上に成膜する。マスク2は、前記開口パターンの外郭を画定する外郭画定部2aと、その外郭画定部2aの内側に開口2bを介して配され前記開口パターンの内郭を画定する遮蔽部2bと、外郭画定部2aと遮蔽部2cとの間に延在しこれらを連結する桁部2dとを有する。この桁部2dは、マスク2の底面から離れた位置に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクの開口の形状に対応する形状の薄膜を基板上に成膜する薄膜の形成方法およびそれに用いるマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜の形成方法として、粒子噴射装置から噴射されたエアロゾル化した超微粒子を基板上に堆積させて薄膜を形成するエアロゾルデポジション(AD法)が知られている。AD法によれば、微細な形状の薄膜も形成しうる。
【0003】
AD法において、粒子噴射装置と基板との間に所定のパターンの開口を有する金属製の平板形状のメタルマスクを配置し、前記メタルマスクと基板上の薄膜の成長表面との距離、またはメタルマスクと前記基板の表面との距離を一定に保った状態で、前記粒子噴射装置が、前記マスクに対して相対的に変位しつつ、前記超微粒子を前記メタルマスクの開口を通して前記基板に噴射することも知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、環状をした開口を有するマスク(レジスト)を使用し、基板を回転しつつ前記マスクの開口内に超微粒子を吹き付け、超微粒子の薄膜を環状の形状に成膜することも知られている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−202171号公報(段落0008および図3)
【特許文献2】特開平06−093418号公報(段落0022および図3(c))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術においては、メタルマスクは、開口の外側の輪郭を画定するだけで、開口の内部には、開口の内側の輪郭を画定する部分を持たないので、独立した非成膜領域を含むパターンの薄膜を形成することができない。よって、例えば円形状の非成膜領域の外側に、成膜領域を挟んで、環状の非成膜領域を同心状に形成することはできない。
【0006】
一方、特許文献2の技術において、同様の形状の薄膜を、環状の開口を有するマスクを使用して形成する場合、マスクは2つの部材に分かれるためこれらの2つの部材の位置決めが非常に困難となり現実的ではない。また、マスクの代わりにレジストを用いて、同心環状の開口パターンを有する遮蔽を形成ことによって、独立した非成膜領域を含むパターンの薄膜を成膜することはできるが、露光・現像・レジスト除去工程を必要としないメタルマスクにより前記パターンの薄膜を成膜できることが望まれている。再利用可能であるメタルマスクによる方が、簡便、低コストで、生産性にも優れるからである。
【0007】
この発明は、マスクを利用して、独立した非成膜領域を含むパターンの薄膜を成膜する方法およびそれに用いるマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、基板上に薄膜を形成する方法であって、平板状のマスクであって、第1の領域、第1の領域を取り囲んで配置されて、第1の領域との間に第1の領域を取り囲む開口を画定する第2の領域、及び、所定の方向に延在して第1の領域と第2の領域とを連結し、前記マスクの一方の面から所定の空隙をもって配置された桁を有するマスクを前記基板上に配置する第1工程と、前記基板及び前記マスクの上方に超微粒子を噴射する粒子噴射装置を配置する工程と、前記粒子噴射装置が前記マスクの上面側から前記超微粒子を噴射することにより、前記基板上に前記所定のパターンに対応する形状の薄膜を形成する第2工程とを備える薄膜の形成方法が提供される。ここで、「マスク」とは、例えばメタルマスクなどのように再利用可能であるマスクを意味する。
【0009】
このようにすれば、第1の領域と、第1の領域を取り囲むように配置されて、第1の領域との間に所定のパターンの開口を画定する第2の領域とが、これらの間に延在する桁にて連結された部材を、基板上に配する平板状のマスクとして用いているので、例えばAD法によって、独立した非成膜領域を含むパターンの薄膜を基板上に簡単に成膜することができる。また、前記桁は、マスクの底面から離れた位置に形成されているので、前記基板上に前記マスクの底面を接触させたときに、前記基板と桁部との間に空間が存在する。このとき、桁部の下側にも超微粒子が侵入して、成膜される。つまり、粒子噴射装置から噴射される超微粒子は、完全に直進するのではなく、ある程度の広がりをもって噴射されるので、前記基板との間に空間が存在するマスクの桁部の下側にも超微粒子が侵入して、前記開口のパターンに対応する形状の薄膜が成膜される。そのため、例えばAD法において、再利用可能であるマスクを用いて、独立した非成膜領域を含むパターンの薄膜を基板上に簡単に成膜することができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の薄膜の形成方法において、前記桁は、前記マスクの前記一方の面側に向かって先細っていてもよい。
【0011】
このようにすれば、マスクの桁の下側(底面側)に超微粒子を潜らせ、前記開口のパターンに対応する形状の薄膜を成膜する上で有利となる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2の薄膜の形成方法において、第2工程において、前記粒子噴射装置は、前記マスクの前記一方の面に対して傾斜し、かつ、前記桁の延在方向と交差する方向に前記超微粒子を噴射してもよい。
【0013】
このようにすれば、超微粒子が桁部の下側に潜り込みやすくなり、前記開口のパターンに対応する形状の薄膜を成膜する上で有利となる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの薄膜の形成方法において、第2工程において、前記粒子噴射装置は、前記マスクの前記一方の面に平行であって且つ前記桁の延在方向と直交する方向に沿って、前記マスクに相対して往復移動しつつ、前記超微粒子を噴射してもよい。ここで、往復移動は、直線移動でも回転移動でもよい。
【0015】
このようにすれば、超微粒子を桁部の下側に積極的に潜らせることができ、前記開口のパターンに対応する形状の薄膜を成膜する上で有利となる。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1〜4の形成方法において、前記粒子噴射装置は、前記超微粒子を前記マスクに対して斜め方向から噴射するノズルを有してもよい。
【0017】
このようにすれば、マスクに対し垂直な方向(鉛直方向)から超微粒子を噴射する場合よりも、超微粒子が桁の下側に回りこみやすくなり、前記開口のパターンに対応する形状の薄膜を成膜する上で有利となる。
【0018】
請求項6の発明は、請求項4または5の薄膜の形成方法において、前記粒子噴射装置は、前記マスクの前記一方の面に対して傾斜した第1の方向に向けて超微粒子を噴射する第1のノズルと、前記マスクの面に対して傾斜し且つ第1の方向とは異なる第2の方向に、超微粒子を噴射する第2のノズルとを有し、第2工程において、前記粒子噴射装置が前記マスクとの相対して移動する方向に応じて、前記第1のノズルあるいは第2のノズルが択一的に超微粒子を噴射してもよい。
【0019】
このようにすれば、第1および第2のノズルから噴射される超微粒子どうしが衝突するのを回避して、薄膜が基板上に効率よく形成される。
【0020】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれかの薄膜の形成方法において、前記桁の、前記桁の延在方向と直交する面についての断面の形状が対称な形状であってもよい。
【0021】
このようにすれば、桁部の両側から超微粒子が下側に回りこみやすくなる。
【0022】
請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか薄膜の形成方法において、前記薄膜は、インクジェットプリンタの印字ヘッドを駆動するために、振動板となる基板の上に成膜された、圧電材料の環状の薄膜であってもよい。
【0023】
このようにすれば、AD法を用いることにより、圧電材料からなる環状の膜(層)を簡単に成膜できる。
【0024】
請求項9の発明は、請求項8の薄膜の形成方法において、前記薄膜は、前記圧電材料の環状の薄膜の上に成膜された電極用の金属薄膜であってもよい。
【0025】
このようにすれば、AD法によって、環状の電極(金属薄膜)を、圧電材料からなる環状の膜(層)の上側に簡単に成膜できる。
【0026】
請求項10の発明は、請求項1〜9のいずれかの形成方法において、前記桁の、前記桁の延在方向と直交する面についての断面の形状が二等辺三角形であってもよく、請求項11の発明は、請求項1〜9のいずれかの形成方法において、前記桁の、前記桁の延在方向と直交する面についての断面の形状が台形であってもよい。いずれの場合にも、桁が下側に向かって先細っているので、超微粒子が桁の下側に回りこみやすくなり、前記開口のパターンに対応する形状の薄膜を成膜する上で有利となる。
【0027】
請求項12の発明は、請求項8〜11のいずれかの薄膜の形成方法において、前記圧電材料がPZTであってもよい。この場合には、PZTを材料とした高性能な圧電素子を形成できる。
【0028】
請求項13の発明は、請求項1〜12のいずれかの薄膜の形成方法において、前記マスクが金属で形成されていてもよい。この場合には、容易にマスクを再利用することができる。
【0029】
請求項14の発明は、請求項8〜13のいずれかの薄膜の形成方法において、前記マスクの開口は第1の方向に長く、前記桁は、前記開口の第1の方向に直行する第2の方向についての略中央において、第1の方向に延在してもよい。この場合には、例えば、インクジェットプリンタのヘッドに用いられる圧電アクチュエータの、略楕円形の圧力室を覆う振動板に圧電材料の膜(圧電層)を形成する場合において、マスクを振動板の上に配置したときに、桁は、圧力室の短手方向の略中央と重なり、且つ、圧力室の長手方向に延在する。この場合において、形成される圧電層の、桁と重なる部分の厚さが、他の部分の厚さよりも若干薄くなったとしても、圧電アクチュエータの機能には影響を及ぼさない。
【0030】
請求項15の発明は、粒子噴射装置から噴射された超微粒子を基板上に堆積させて、基板上に薄膜を形成する際に用いられるマスクであって、板状の第1部材と、第1部材を取り囲んで配置され、第1部材との間に第1部材を取り囲む開口を画成する板状の第2部材と、第1部材と第2部材とを連結する桁とを有し、前記桁が第1部材及び第2部材の、一方の面から離れた位置に形成されているマスクが提供される。
【0031】
このようにすれば、例えばAD法において基板上にマスクを接触させた状態で配することで、独立した非成膜領域を含むパターンの成膜を成膜することができる。また、構造も簡単である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0033】
図1(a),(b)は本発明に係る薄膜の成膜装置の概略構成を示しており、図1(a)は成膜時の状態を示す図であり、図1(b)は基板をセットした状態を示す図である。
【0034】
図1(a)に示すように、薄膜の成膜装置1は、開口が形成された板状のメタルマスク2と、基板3と、基板を載置する基板ホルダ6と、メタルマスク2を支持する支持台4と、メタルマスク2を支持台4の上に固定するマスクホルダ5と、基板ホルダ6の高さを調整するアクチュエータ7とを備える。
【0035】
薄膜の成膜装置1において、所定のパターン(開口パターン)の開口が形成された板状のメタルマスク2(ステンレス製のマスク)は、その底面が基板3上に接触した状態で配置される。薄膜を形成する超微粒子を、粒子噴射装置110(図3(a)参照)からメタルマスク2を介して噴射することにより基板3上に堆積させ、前記開口パターンに対応する形状の薄膜(図示せず)を基板3上に成膜することができる。なお、成膜装置1は、真空ポンプ等の減圧装置によって内部が減圧されるチャンバーの内側に配設される。
【0036】
支持台4の上部には支持部4aが設けられており、メタルマスク2は、所定の高さに調節された支持部4a上に支持される。さらに、メタルマスク2の上側にはマスクホルダ5が配置され、メタルマスク2が一定高さの定位置に保持される。メタルマスク2の下側において、基板3が基板ホルダ6上に保持され、この基板ホルダ6の高さは、アクチュエータ7によって調整できる。アクチュエータ7は、基板ホルダ6を水平に支持する可動ロッド7aと、この可動ロッド7aの変位量を変化させる本体(駆動部)7bとを備える。アクチュエータ7により、基板ホルダ6及び基板3は、メタルマスク2と略平行な状態で支持される。
【0037】
アクチュエータ7を駆動して基板3を上昇させて(基板3をメタルマスク2に接近する向きに移動して)、基板3の上面をメタルマスク2の底面と接触させる。この状態が成膜時の状態となる(図1(a)参照)。基板3は、不図示の位置決め機構によって、前記定位置に保持されるメタルマスク2に対して一定の位置関係になるように位置決めされ、且つ、基板ホルダ6上に保持される。なお、図1に示すメタルマスク2を定位置に固定し、基板3を移動させる代わりに、基板を定位置に固定し、メタルマスクを上下方向に移動してもよく、基板およびメタルマスクの両方を移動してもよい。
【0038】
図2(a)〜(d)に示すように、メタルマスク2は、開口の外側の輪郭を画定する平面視で矩形状の外枠(第2の領域、第2部材、外郭確定部)2aと、外枠2aの内側に開口2bを挟んで配置されて、前記開口の内側の輪郭を画定する平面視長円形状の遮蔽部(第1の領域、第1部材、島部、独立部)2cと、外枠2aと遮蔽部2cとの間に延在しこれらを連結する複数の桁2dとを有する。桁2dは、メタルマスク2の底面(基板と接触する面)から離れた位置に形成されている。つまり、桁2dはメタルマスク2の上面側(底面と反対側)に形成されている。そして、メタルマスク2の底面が基板3に接触する状態(図3(b)参照)で、メタルマスク2を基板3上に配置すると、桁2dはメタルマスク7の底面から離れた位置に形成されているので、桁2dと基板3と間に空間ができる。
【0039】
桁2dの断面は、二等辺三角形であり、メタルマスク2の底面側に向かって徐々に小さくなっている(先細っている)。桁2dの延在方向に直交する断面は、対称な形状である。外枠2aがマスクホルダ5を用いて支持台4に支持され、遮蔽部2cは、桁2dを介して外枠2aに対して支持される。つまり、外枠2aが支持台4に固定されることによって、遮蔽部2cも固定される。桁2dの厚さは、外枠2aおよび遮蔽2cの厚さの半分以下であるが、桁2dは遮蔽2cを支持するのに十分な剛性を有する。なお、桁2dの一つが、遮蔽2cを外枠2aに対して支持するのに十分な剛性を有する場合には、残りの桁2dはなくてもよい。また、桁2dが遮蔽2cを外枠2aに対して支持するのに十分な剛性を有する限りにおいて、桁2dを設ける位置は任意にしうる。
【0040】
次に、薄膜の成膜方法について説明する。まず、図3(a)に示すように、メタルマスク2を基板3上に配置する(第1工程)。このとき、基板3の上面とメタルマスク2の底面とは接触しており、メタルマスク2は基板3上を移動することはできない。
【0041】
基板3とメタルマスク2とを接触させた状態で、図3(b)に示すように、粒子噴射装置110のノズル11をメタルマスク2の開口2bの上側に配置する。このとき、ノズル11とメタルマスク2との間の距離は、約1cm程度である。そして、メタルマスク2の上面側からノズル11を通じて、サブミクロン程度(1ミクロン程度又は1ミクロン以下)の粒径を有する超微粒子12を噴射する。これによって、基板3上に超微粒子12が堆積する。このとき、開口2bを通過した超微粒子12が基板3上に達し、基板3上に堆積されるので、開口2bの形状(開口パターン)に対応した形状の薄膜が成膜される。また、超微粒子12の大きさは桁2dの幅に比べて非常に小さく、また、超微粒子12は、噴射される向き(図3(a)の下向き)に向かって広がって噴射されるので、桁2dの下側にも回りこむ。つまり、基板3の、平面視で桁2dと重なる領域(影領域120)にも超微粒子12が堆積し、薄膜が形成される。言い換えると、桁2dの有無にかかわらず、基板3の、開口2bと重なる領域(成膜領域121)全体にわたって超微粒子12が堆積し、薄膜が形成される。
【0042】
ノズル11に対する基板3の位置を固定した状態で基板3の成膜領域121全体にわたって超微粒子12を噴射することが困難な場合には、ノズル11から、下方に向けて超微粒子12を噴射する代わりに、ノズル11が基板3に相対して移動しつつ、基板3に向かって超微粒子12を噴射してもよい。例えば、ノズル11が、メタルマスク2の面方向に平行であってかつ桁部2dの延在方向と直交する方向に沿って相対移動しつつ、基板3の成膜領域121全体にわたって超微粒子12を噴射して、超微粒子12を堆積させることができる。ここで、桁2dの延在方向と直交する方向に沿って相対移動させることにより、超微粒子12が桁2dの下側に回り込みやすくなる。また、粒子噴射装置110のノズル11は、メタルマスク2の面に対して傾斜する方向であって、かつ桁2dの延在方向と交差する方向に向かって超微粒子12を噴射してもよい。つまり、超微粒子12がメタルマスク2に対し斜め方向から噴射されてもよい。
【0043】
成膜が終了した後、アクチュエータ7を駆動して、基板3を初期位置まで下げて、基板3とメタルマスク2とを引き離す。その後、基板3を交換し、前述した工程を繰り返して、順次、基板3に薄膜を形成する。
【0044】
このような成膜方法は、例えばインクジェットプリンタの印字ヘッドを駆動するための圧電アクチュエータ用の圧電層として、振動板(基板)の上に形成される圧電材料からなる環状の薄膜を製造する場合に適用することができる。例えば、図4(a)に示されるメタルマスク21を用いて、圧電材料(PZT等)の超微粒子を基板に向かって噴射して、基板上に堆積させることによって、図4(b)に示すように、略楕円形の圧力室22に対応する略楕円形の非成膜領域を有する環状の膜(圧電層)23を形成することができる。ここで、メタルマスク21は、基板上に非成膜領域を形成するための外枠21aおよび遮蔽部21cと、2つの桁21d1,21d2とを有し、外枠21aと遮蔽部21cとが2つの桁21d1、21d2によって連結されることによって、成膜領域を形成するための開口21bが画定されている。ここで、桁21d1及び21d2は、メタルマスク21を所定の位置に配置したときに、圧力室22の短手方向(第2の方向)略中央と重なり、且つ、圧力室22の長手方向(第1の方向)に沿って延在している。つまり、桁21d1及び21d2が、メタルマスク21を所定の位置に配置したときに圧力室の長手方向端部と重なる位置に形成されている。後述する引き打ち用の圧電アクチュエータにおいて、圧力室の長手方向端部と重なる領域は、短手方向端部と重なる領域に比べて、圧力室の容積を変化させることに対する寄与が小さい。したがって、このメタルマスク21を用いて圧電材料の膜を形成した際に、桁と重なる部分の膜の厚さが、他の部分の膜の厚さよりも若干薄くなったとしても、圧電アクチュエータの動作に及ぼす影響は少ない。メタルマスクの桁は、遮蔽部を支持する限りにおいて任意の箇所に形成しうるが、上述のように、形成される膜について、膜の厚さが部分的に薄くなったとしても、膜の機能に影響が少ない箇所がある場合には、その箇所に対応して、桁を形成することが望ましい。
【0045】
また、上述のように、圧電材料の膜23の形状を圧力室22の周囲と重なる環状の形状にすることによって、引き打ち用の圧電アクチュエータにおいて、駆動効率のよい圧電アクチュエータを形成することができる。一般に、圧電アクチュエータは圧電材料の膜(圧電層)と、圧電層を挟んで形成された2つの電極とを有する。圧電層の、2つの電極にはさまれた領域は、これらの電極に電圧が印加された場合に変形する変形領域となる。例えば、圧電アクチュエータが、振動板(板材)を挟んで、圧力室の上方に配置されている場合を考える。変形領域が圧力室の周囲と重なる状態で圧電アクチュエータが振動板に固定されている場合には、圧電アクチュエータの電極に所定の電圧を印加することによって、振動板の圧力室の中央部と重なる領域を上側に湾曲させることができる。このとき、圧力室の容積が増大するため、圧力室内の圧力が急激に減少し、これに伴って圧力室内に負の圧力波(第1の圧力波)が発生する。第1の圧力波が圧力室の長手方向に片道伝播する時間が経過したとき、圧力室内の圧力が正に転じる。圧力が正に転じるタイミングで、圧電アクチュエータの電極への電圧の印加を停止すると、圧力室の容積が元に戻るため、これに伴って正の圧力波(第2の圧力波)が発生する。正に転じた第1の圧力波と第2の圧力波が合成されるので、圧力室内のインクに大きな圧力が加わり、圧力室に連通するノズルからインクが吐出される。これによって、いわゆる引き打ちを行うことができる。このときには、圧電アクチュエータの電極に電圧を印加している間だけ、圧力室の容積を増大させることができるので、待機時間に圧電アクチュエータの電極に電圧を印加する必要がなく消費電力を抑えることができ、さらに、圧電層の分極劣化を抑えることもできる。また、引き打ちを行うことにより、低い駆動電圧でインクに高い圧力を付与することが可能になり、圧電アクチュエータの駆動効率が高くなる。引き打ち用の圧電アクチュエータにおいては、圧電アクチュエータの駆動領域を除く領域には、圧電層が形成されていない方が望ましい。なぜならば、振動板の圧力室と重なる領域全体に圧電層(圧電材料による薄膜)を形成すると、インク噴射の際の振動板の変形を阻害する原因となるからである。したがって、膜23のように環状の形状に形成されることが望ましい。
【0046】
次に、図4(c)に示すように、PZTの環状の膜23上に、引き打ち用の電極24が形成される。電極24は、例えば、スクリーン印刷法又はスパッタリングにより形成されてもよく、環状の膜23と同様に、AD法により形成されてもよい。
【0047】
AD法によって電極24を形成する場合について、図5(a)〜(e)を参照して説明する。まず、図5(a)に示すように、環状の膜23が形成された基板3上を所定の位置に配置する。次に、図5(b)に示すように、メタルマスク31を環状の膜23の上に位置決めして、メタルマスク31と環状の膜23とが接触した状態で保持する。その後、図5(c)に示すように、電極を形成するための超微粒子(例えば、金、銅などの超微粒子)を基板3に向かって噴射して電極層24’を成膜する。その後、メタルマスク31を取り除き(図5(d))、焼成されて、電極24が形成される(図5(e))。なお、スクリーン印刷法を用いる場合には、メタルマスク31に代えて印刷マスクを使用し、超微粒子を噴射する代わりに、金属微粒子を含む導電性材料等を吐出して基板上に印刷することにより、基板3上に形成された環状膜23の上に電極24を形成することができる。
【0048】
また、スパッタリングによって電極24を形成する場合について、図6(a)〜(f)を参照して説明する。まず、図6(a)に示すように、環状の膜23が形成された基板3上を所定の位置に配置する。図6(b)に示すように、レジスティング(フィルムレジスト)を行い、基板3及び環状の膜23の上にレジストフィルム32を形成する。図6(c)に示すように、レジストフィルム32の上にマスク33を位置決めして配置した状態で、不図示の露光装置を用いて露光する。マスク33を取り除いた後、露光された基板3等を現像する(図6(d))。これにより、レジストフィルム32の露光された領域が除去され、環状の膜23の、電極24が形成される部分が露出される。図6(e)に示すように、スパッタリングにより、レジストフィルム32及び環状の膜23の上に金属膜34を形成する。その後、レジストを除去することにより、環状の膜23の上側に電極24が形成される(図6(f))。
【0049】
本発明は、前記実施の形態のほか、次のように変更することも可能である。
【0050】
図7に示す粒子噴射装置111は、単一のノズル11に代えて、メタルマスク2の面に対して傾斜した第1の方向に延在する第1のノズル11Aと、第1の方向とは異なる第2の方向に延在する第2のノズル11Bとを有している。粒子噴射装置111は、第2の工程において、粒子噴射装置111と基板3およびメタルマスク2との相対移動方向に応じて第1のノズル11Aあるいは第2のノズル11Bが択一的に超微粒子12を噴射してもよい。例えば、図8に示すように、一体化された基板3およびメタルマスク2(基板3等と呼ぶ)がベース41上に配置され、基板3等が粒子噴射装置111に相対して水平方向に往復移動している間に、粒子噴射装置111が基板3等に向かって超微粒子12を噴射してもよい。この場合には、基板3等が粒子噴射装置111に相対して移動する際に、超微粒子12が基板3上への堆積することが阻害されないように、桁2dは、粒子噴射装置111と基板3等との相対移動方向に直交する方向に延在することが望ましい。あるいは、基板3等が粒子噴射装置111に対して静止した状態で、第1のノズル11A又は第2のノズル11Bが択一的に超微粒子12を噴射してもよい。または、例えば、2つのノズル11A、11Bから同時に超微粒子12を噴射した状態において、ノズル11A,11Bのうち一方のノズルから噴射された超微粒子12のみが基板3上の所望の領域に堆積するように、基板3等を粒子噴射装置111に対して相対移動させてもよい。この場合には、ノズル11A,11Bのうち他方のノズルから噴射された超微粒子12は、例えば基板の外側又はメタルマスク2の外枠の上に堆積することになる。
【0051】
前記実施の形態では、超微粒子が桁の下側に回りこみやすいように、桁の断面形状を三角形としているが、本発明はそれに限定されるものではなく、例えば図9(a)〜(g)に示すような断面形状を有する桁部であってもよい。
【0052】
図9(a)に示す桁42aのように、その断面の形状は略矩形であってもよい。図9(b)に示す桁42bのように、その断面形状は、一方の側面42baのみが傾斜面である直角三角形であってもよい。図9(c)、(d)にそれぞれ示す桁42c,42dのように、上面と下面とが平坦な面であって、断面の形状が台形であってもよい。図9(e)に示すように、桁42eの形状は、桁42aの下面を下側に凸の湾曲面にした形状であってもよい。同様に、図9(f)、図9(g)にそれぞれ示すように、桁42f、42gの形状は、桁42c、42dの下面を下側に凸の湾曲面にした形状であってもよい。なお、桁の形状(及び断面形状)は上記の例に限定されず、マスクを基板上に配置したときに、マスクの桁と基板との間に十分な空隙が形成されて、噴射された超微粒子が桁を回り込んでその空隙に達しうる限りにおいて、任意の形状にしうる。
【0053】
上記実施形態及び変形例において、金属製のマスク(メタルマスク)を用いて本発明を説明してきたが、マスクが再利用できる限りにおいて、マスクの材料は任意にしうる。また、マスクの外枠及び/又は遮蔽部の上面(マスクを基板上に配置した際に、基板と反対側になる面)と桁の上面とは、必ずしも面一である必要はなく、例えば桁がマスクの外枠の上面よりも上側に湾曲したアーチ状に形成されていてもよい。また、マスクとノズルとの間の距離及びノズルから噴射される超微粒子の粒径は、上述の実施形態に限定されず任意にしうる。
【0054】
本発明のマスクを用いて成膜される膜は、上記実施形態及び変形例において示されたもの以外であってもよい。例えば、ジルコニア又はアルミナの超微粒子を、マスクを介して基板上に噴きつけることによって、絶縁性の膜を形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る薄膜の成膜装置の概略構成を示し、図1(a)は成膜時の状態を示す図、図1(b)は基板セット時の状態を示す図である。
【図2】図2(a)はメタルマスク2の平面図、図2(b),(c),(d)はそれぞれ図2(a)のIIB−IIB線、IIC−IIC線およびIID−IID線における断面図である。
【図3】図3(a)は基板上にメタルマスクを配置した状態を示す図であり、図3(b)は基板上に超微粒子を噴射している状態を示す図である。
【図4】図4(a)はメタルマスク21の平面図であり、図4(b)は本発明方法によって成膜される薄膜の平面図であり、図4(c)は図4(b)に示された薄膜の上に電極が積層された状態を表す平面図である。
【図5】図5(a)は基板を配置した図であり、図5(b)は基板上にマスクを配置した図であり、図5(c)は基板上に金属の超微粒子を噴射している図であり、図5(d)はマスクを取り外した図であり、図5(e)は焼結後の状態を表す図である。
【図6】図6(a)基板を配置した図であり、図6(b)は基板上にレジストフィルムを形成した図であり、図6(c)は露光状態を表す図であり、図6(d)は現像した状態を表す図であり、図6(e)は露光した基板上に金属膜を形成した図であり、図6(f)はレジストフィルムを除去した図である。
【図7】図7は複数のノズルを有する粒子噴射装置を用いて薄膜を形成する方法についての説明図である。
【図8】図8は基板を往復移動させつつ薄膜を形成する方法についての説明図である。
【図9】図9(a)〜(g)はそれぞれ桁部の断面形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 薄膜の成膜装置
2 メタルマスク
2a 外郭画定部
2b 開口
2c 遮蔽部
2d 桁部
3 基板
11,11A,11B ノズル
12 超微粒子
42a〜42g 桁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に薄膜を形成する方法であって、
平板状のマスクであって、第1の領域、第1の領域を取り囲んで配置されて、第1の領域との間に第1の領域を取り囲む開口を画定する第2の領域、及び、所定の方向に延在して第1の領域と第2の領域とを連結し、前記マスクの一方の面から所定の空隙をもって配置された桁を有するマスクを前記基板上に配置する第1工程と、
前記基板及び前記マスクの上方に超微粒子を噴射する粒子噴射装置を配置する工程と、
前記粒子噴射装置が前記マスクの上面側から前記超微粒子を噴射することにより、前記基板上に前記所定のパターンに対応する形状の薄膜を形成する第2工程とを備える薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記桁は、前記マスクの前記一方の面側に向かって先細っている請求項1記載の薄膜の形成方法。
【請求項3】
第2工程において、前記粒子噴射装置は、前記マスクの前記一方の面に対して傾斜し、かつ、前記桁の延在方向と交差する方向に前記超微粒子を噴射する請求項1または2に記載の薄膜の形成方法。
【請求項4】
第2工程において、前記粒子噴射装置は、前記マスクの前記一方の面に平行であって且つ前記桁の延在方向と直交する方向に沿って、前記マスクに相対して往復移動しつつ、前記超微粒子を噴射する請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記粒子噴射装置は、前記超微粒子を前記マスクに対して斜め方向から噴射するノズルを有する請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項6】
前記粒子噴射装置は、前記マスクの前記一方の面に対して傾斜した第1の方向に向けて超微粒子を噴射する第1のノズルと、前記マスクの面に対して傾斜し且つ第1の方向とは異なる第2の方向に、超微粒子を噴射する第2のノズルとを有し、
第2工程において、前記粒子噴射装置が前記マスクとの相対して移動する方向に応じて、前記第1のノズルあるいは第2のノズルが択一的に超微粒子を噴射する請求項4または5に記載の薄膜の形成方法。
【請求項7】
前記桁の、前記桁の延在方向と直交する面についての断面の形状が対称な形状である請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項8】
前記薄膜は、インクジェットプリンタの印字ヘッドを駆動するために、振動板となる基板の上に成膜された、圧電材料の環状の薄膜である請求項1〜7のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項9】
前記薄膜は、前記圧電材料の環状の薄膜の上に成膜された電極用の金属薄膜である請求項8記載の薄膜の形成方法。
【請求項10】
前記桁の、前記桁の延在方向と直交する面についての断面の形状が二等辺三角形である請求項1〜9のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項11】
前記桁の、前記桁の延在方向と直交する面についての断面の形状が台形である請求項1〜9のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項12】
前記圧電材料がPZTである請求項8〜11のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項13】
前記マスクが金属で形成されている請求項1〜12のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項14】
前記マスクの開口は第1の方向に長く、前記桁は、前記開口の第1の方向に直行する第2の方向についての略中央において、第1の方向に延在する請求項8〜13のいずれかに記載の薄膜の形成方法。
【請求項15】
粒子噴射装置から噴射された超微粒子を基板上に堆積させて、基板上に薄膜を形成する際に用いられるマスクであって、
板状の第1部材と、
第1部材を取り囲んで配置され、第1部材との間に第1部材を取り囲む開口を画成する板状の第2部材と、
第1部材と第2部材とを連結する桁とを有し、
前記桁が第1部材及び第2部材の、一方の面から離れた位置に形成されているマスク。
【請求項16】
前記桁は、前記一方の面側に向かって先細っている請求項15記載のマスク。
【請求項17】
前記桁は所定の方向に延在し、
前記桁の、前記桁の延在方向と直交する面についての断面の形状が二等辺三角形である請求項15に記載のマスク。
【請求項18】
前記桁は所定の方向に延在し、
前記桁の、前記桁の延在方向と直交する面についての断面の形状が台形である請求項15に記載のマスク。
【請求項19】
前記マスクが金属で形成されている請求項15〜18のいずれかに記載のマスク。
【請求項20】
前記開口は第1の方向に長く、前記桁は、前記開口の第1の方向に直行する第2の方向についての略中央において、第1の方向に延在する請求項15〜19のいずれかに記載のマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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