説明

薄膜アクチュエータ及びこれを用いるタッチパネル

【課題】アクチュエータ層が1mm以下の厚さであっても、短時間に変形して操作者に反力の感触を与えることができる薄膜アクチュエータ、及びこれを用いるタッチパネルの提供。
【解決手段】電圧を印加することによって駆動するアクチュエータで、電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成され、アクチュエータ層の両側の面に沿って設けられ、電圧が印加される電極とを有し、変性架橋ポリロタキサンが、イオン交換能を有する官能基を有し、ならびに第1の環状分子の開口部に第1の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第1のポリロタキサン、及び第2の環状分子の開口部に第2の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第2のポリロタキサンを有し、第1及び第2の環状分子の環は実質的な環であり、第1の環状分子の少なくとも1つと第2の環状分子の少なくとも1つとが化学結合されている薄膜アクチュエータ、これを用いるタッチパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより力学的に駆動し(湾曲又は変形し)、これにより反力を発生する薄膜アクチュエータ及びこれを用いるタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、デジタルカメラ、カーナビゲーションシステムのディスプレイ等の小型電子機器にはユーザからの入力デバイスとして、タッチパネル式ディスプレイが用いられている。タッチパネル式ディスプレイは、指等によりディスプレイの所定の部分を押圧することにより、機器に信号を入力することのできる入力デバイスを備えたディスプレイである。しかしながら、このタッチパネル式ディスプレイでは、操作者は入力されたことの確認を入力と同時に発する音や表示画面中の色の変化により知る方法しかない。
【0003】
近年、操作者(例えば、運転中タッチパネル式ディスプレイを視認することのできないドライバや視覚障害者、聴覚障害者を含む。)が、ディスプレイを視認、または音を確認することができなくても、アナログスイッチを押したときのように操作者が反力の感触を受けるように、あるいは入力に対する到達度(達成感)を操作者に与えるように、種々のデバイスが提案されている。
例えば、タッチパネル(スイッチ)を押したとき、圧電素子による振動がタッチパネルに発生するものや、力学的または弾性的にタッチパネルが変形するものや、磁力による反力をタッチパネルに発生させるもの等が提案されている。これらの方式は、いずれも無機材料を主材料として用いたものであるため、電子機器の小型化の際に必要とされる柔軟性に富んだデバイスに適用することは難しい。さらに、小型化に伴って軽量化して、スイッチを押した操作者に適切な感触を付与することはきわめて難しい。
【0004】
また、有機組成物は、柔軟性、加工性に富み、軽量でかつ人体になじむ材料であり、色素材料や磁性材料などの機能材料の分散、混合が容易であることから、入力デバイスの主材用として期待が寄せられていた。
例えば、高分子ゲルの相変化を利用した入力デバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、近年、金属膜電極上に、イオン交換樹脂膜またはイオン高分子ゲル膜などのイオン伝導性高分子を積層した膜に電圧を印加することによってイオン伝導性高分子と電解質間でイオン交換に起因した体積変化を利用する電位応答型の高分子アクチュエータが提案されている。本願出願人は以前にアニオン捕獲能を有するカチオン交換樹脂を用いたアクチュエータについて特許文献2を提案している。
【0006】
最近、架橋点が自由に動くことに特徴を持つ環動ゲルと呼ばれる超分子(架橋ポリロタキサン)のゲルが提案されている。超分子は柔軟性に富むポリマーとして注目されており、人工血管、人工関節などのバイオマテリアル、繊維、化粧品、塗料などへの実用化が期待されている(例えば、特許文献3)。
【0007】
【特許文献1】特開平5−333171号公報
【特許文献2】特開2008−211938号公報
【特許文献3】国際公開第2001/083566号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高分子ゲルを用いる入力デバイスの場合、アクチュエータ層の膜厚を1mm以下とすることができず(詳細には、膜厚を1mm以下とすると高分子ゲルが凹凸形成するために必要な膨潤液を保持することができない。)、膜厚を厚くすると高分子ゲルの体積変化に時間がかかり応答速度が遅く1秒以内に応答することができないという問題がある。
膨潤液を保持することができないという問題は、高分子ゲルが物理架橋や化学架橋による三次元構造を形成しているため、膨潤液を保持するための柔軟な構造をとれないことに起因していると本願発明者らは考えた。
また、イオン伝導性高分子を用いるアクチュエータは、これを押圧する際に、柔軟な感触を示さず反力感覚に劣るという実用性能上の問題がある。
また、超分子ゲルについては、従来の化学ゲルや物理ゲルは構造変化に対して不可逆であるため、引張り、収縮に対して架橋点の位置が不均一にあるのに対し、超分子ゲルは引張り、収縮に対して架橋点が自由に動けるため応力集中が起こりにくく、柔軟性に優れ、強靭である。また、超分子ゲルは化学ゲルや物理ゲルよりも高分子密度を低くすることができ、これによって、超分子ゲルは化学ゲルや物理ゲルよりもゲル中に溶媒分子を多く取り込むことができることに本願発明者らは想到した。すなわち、超分子ゲルを薄膜アクチュエータ化できれば、従来のゲルでは達成できなかった1mm以下の膜厚での駆動が可能となるものとの発想に至った。
しかしながら、超分子ゲルは電位応答しないので従来の超分子ゲルをアクチュエータに用いることができない。
【0009】
そこで、本発明は、電圧を印加することにより駆動する薄膜アクチュエータであって、アクチュエータ層の膜厚が1mm以下であっても、例えば操作者が指でスイッチ等のボタンを押圧したときに、ボタンを押圧したことによって薄膜アクチュエータが短時間に変形し操作者に反力の感触(反力感覚、反力感触)を与えることができる薄膜アクチュエータを提供するとともに、この薄膜アクチェータを用いるタッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、
電圧を印加することによって駆動する薄膜アクチュエータであって、
電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成されるアクチュエータ層と、
前記アクチュエータ層の両側の面に沿って設けられ、電圧が印加される電極とを有し、
前記変性架橋ポリロタキサンが、イオン交換能を有する官能基を有し、ならびに第1の環状分子の開口部に第1の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第1のポリロタキサン、及び第2の環状分子の開口部に第2の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第2のポリロタキサンを有し、前記第1及び第2の環状分子の環は実質的な環であり、前記第1の環状分子の少なくとも1つと前記第2の環状分子の少なくとも1つとが化学結合を介して結合されている薄膜アクチュエータが、アクチュエータ層の膜厚が1mm以下であっても、薄膜アクチュエータが、押圧されたことによって短時間に変形し、変形によって操作者に反力の感触(反力感覚、反力感触)を与えることができることを見出した。
また、当該薄膜アクチェータを用いるタッチパネルが、ボタンが押圧されたことによって薄膜アクチュエータが短時間に変形し、変形によって操作者に反力の感触(反力感覚、反力感触)を与え、操作者がボタンを押したことを知覚することができることを見出し、本願を完成させた。
【0011】
すなわち、本願発明は以下の1〜7を提供する。
1. 電圧を印加することによって駆動する薄膜アクチュエータであって、
電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成されるアクチュエータ層と、
前記アクチュエータ層の両側の面に沿って設けられ、電圧が印加される電極とを有し、
前記変性架橋ポリロタキサンが、イオン交換能を有する官能基を有し、ならびに第1の環状分子の開口部に第1の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第1のポリロタキサン、及び第2の環状分子の開口部に第2の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第2のポリロタキサンを有し、前記第1及び第2の環状分子の環は実質的な環であり、前記第1の環状分子の少なくとも1つと前記第2の環状分子の少なくとも1つとが化学結合を介して結合されている薄膜アクチュエータ。
2. 前記官能基が、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、炭化水素基を1〜3個有するアミノ基、およびこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1に記載の薄膜アクチュエータ。
3. 前記官能基が前記第1の直鎖状分子および/または前記第2の直鎖状分子の末端に結合している上記1または2に記載の薄膜アクチュエータ。
4. 前記電解質溶液がイオン性液体である上記1〜3のいずれかに記載の薄膜アクチュエータ。
5. 前記第1の環状分子および/または前記第2の環状分子がα−シクロデキストリンおよびβ−シクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1つである上記1〜4のいずれかに記載の薄膜アクチュエータ。
6. 前記第1の直鎖状分子および/または前記第2の直鎖状分子が、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜5のいずれかに記載の薄膜アクチュエータ。
7. 上記1〜6のいずれかに記載の薄膜アクチュエータを用いるタッチパネル。
【0012】
本発明は、架橋点が自由に動く架橋ポリロタキサン(超分子ゲル)にイオン交換能(カチオンまたはアニオンに対する捕捉能)を付与することで、これらを電気対応性の薄膜アクチュエータとして捉えた点に特徴を持つものである。
その結果、当該薄膜アクチュエータを用いるタッチパネル式の感触提示型入力デバイスへの適用が可能となることを見出したものである。
すなわち、本発明の薄膜アクチュエータは、電気応答型であり、変性架橋ポリロタキサンを使用することによって1秒以内の高い応答速度と、膜厚1mm以下の柔軟なフィルム化を達成するのものである。
また、本発明のタッチパネル(操作者がタッチすることによって入力操作を行うタッチパネル装置)は、タッチパネルの表面形状をユーザーに和む感触である滑らかな形状へと可逆的に変化させることによって、アナログスイッチを入力した際と同様の反力感覚(操作感)を伝えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄膜アクチュエータは、アクチュエータ層の膜厚が1mm以下であっても、当該薄膜アクチュエータが、押圧されることによって短時間に変形して操作者に反力の感触を与えることができる。
本発明のタッチパネルは、アクチュエータ層の膜厚が1mm以下であっても、例えば操作者が指でスイッチ等のボタンを押圧することによって薄膜アクチュエータが短時間に変形して操作者に反力の感触を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の薄膜アクチュエータは、
電圧を印加することによって駆動する薄膜アクチュエータであって、
電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成されるアクチュエータ層と、
前記アクチュエータ層の両側の面に沿って設けられ、電圧が印加される電極とを有し、
前記変性架橋ポリロタキサンが、イオン交換能を有する官能基を有し、ならびに第1の環状分子の開口部に第1の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第1のポリロタキサン、及び第2の環状分子の開口部に第2の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第2のポリロタキサンを有し、前記第1及び第2の環状分子の環は実質的な環であり、前記第1の環状分子の少なくとも1つと前記第2の環状分子の少なくとも1つとが化学結合を介して結合されているものである。
【0015】
本発明の薄膜アクチュエータについて添付の図面を用いて以下に説明する。なお本発明は添付の図面に限定されない。
図3は、本発明の薄膜アクチュエータの一実施形態を示す模式断面図である。
図3において、薄膜アクチュエータ10は、電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成されるアクチュエータ層12と、アクチュエータ層12の両側の面に沿って設けられ、アクチュエータ層12の両側から電圧を印加する電極13と、電極13に電圧を印加する電源20と、電圧の印加を制御するコントローラ22と、を有して構成される。
電源20は、電極13に所定の電位差を与えるための電圧を印加するものである。電源としては例えばDC電源(直流電源)が挙げられる。電源20はコントローラ22を介して−2〜+2Vの電圧を電極13間に印加することができる。
コントローラ22は、図示されていない外部装置からの制御信号に応じて電圧の印加を調整する。
【0016】
アクチュエータ層について以下に説明する。
本発明の薄膜アクチュエータに使用されるアクチュエータ層は、電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成される。
本発明において、ゲルに含有される変性架橋ポリロタキサンは、第1の特徴として、イオン交換能を有する官能基を有する。
イオン交換能はアニオン交換能もしくはカチオン交換能のいずれか、またはアニオン交換能およびカチオン交換能の両方であってもよい。
【0017】
本発明において、アニオン交換能を有する官能基としては、例えば、アミノ基、炭化水素基を1〜3個有するアミノ基などのブレンステッド塩基、あるいはこれらの塩が挙げられる。具体的には例えば、−NH2、−NHR(R:炭化水素基、以下イオン交換能を有する官能基において同様。)、−NR2、−NR3+、−NH3+、−NH3+-(X:ハロゲン)、−NH3+OH-、−NR3+-(X:ハロゲン)、−NR3+OH-が挙げられる。
アミノ基が有する炭化水素基は特に制限されない。例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基;芳香族炭化水素基;アラルキル基が挙げられる。
アニオン交換能を有する官能基が塩を形成する場合、塩を形成するアニオン種としては、例えば、OH-、臭素イオン、塩素イオンのように原子化価数が低く価電子数の少ない(すなわちイオン半径の小さい)ものが挙げられる。
【0018】
本発明において、カチオン交換能を有する官能基としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基などのブレンステッド酸、あるいはこれらの塩が挙げられる。
カチオン交換能を有する官能基が塩を形成する場合、塩を形成するカチオン種としては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンのようなアルカリ金属イオン、アンモニウム(NH4+)、プロトンのように原子化価数が低く価電子数の少ない(すなわちイオン半径の小さい)ものが挙げられる。
【0019】
官能基はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
官能基は、環状分子および/または直鎖状分子に結合することができる。また、官能基は直鎖状分子の側鎖および/または末端に結合することができる。
なかでも、反力感触により優れ、薄膜アクチュエータをより薄くすることができ、透明性に優れるという観点から、官能基は直鎖状分子の末端に結合するのが好ましく、直鎖状分子の両末端に結合するのがより好ましい。
なお未変性の架橋ポリロタキサンを以下「架橋ポリロタキサン」ということがある。
【0020】
また、本発明において、変性架橋ポリロタキサンは、第2の特徴として、第1の環状分子の開口部に第1の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第1のポリロタキサン、及び第2の環状分子の開口部に第2の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第2のポリロタキサンを有し、前記第1及び第2の環状分子の環は実質的な環であり、前記第1の環状分子の少なくとも1つと前記第2の環状分子の少なくとも1つとが化学結合を介して結合されている。
【0021】
変性架橋ポリロタキサンは、第1の特徴(変性)の他に、上述のとおり、2以上のポリロタキサン分子を有してなり、該2以上のポリロタキサン分子の環状分子同士が化学結合を介して架橋するものである。
なお、本明細書において、「ポリロタキサン」又は「ポリロタキサン分子」とは、「回転子」としての環状分子、及び「軸」としての直鎖状分子を有し、該環状分子の開口部を串刺し状にして包接し非共有結合的に一体化された分子をいう。変性架橋ポリロタキサンは上記の構造を一部に有する化合物をその範囲に含む。
【0022】
変性架橋ポリロタキサンにおいて、第1の環状分子の少なくとも1つと第2の環状分子の少なくとも1つとは化学結合を介して結合されている。第1の環状分子の少なくとも1つと第2の環状分子の少なくとも1つとが化学結合を介して結合されることによって架橋環状分子(ビシクロ分子)が形成される。変性架橋ポリロタキサンが複数の架橋環状分子を有する場合、複数の架橋環状分子は同じでも異なっていてもよい。
2以上のポリロタキサン分子は同じであっても異なっていてもよい。即ち、第1のポリロタキサン分子とそれとは異なる第2のポリロタキサン分子とを結合又は架橋することができる。第1のポリロタキサン分子は、第1の環状分子を有し、第2のポリロタキサン分子は第2の環状分子を有し、この際、第1の環状分子と第2の環状分子とは同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
変性架橋ポリロタキサンについて添付の図面を用いて以下に説明する。
図1は、変性架橋ポリロタキサンの一例を模式的に示す図である。
図1において、変性架橋ポリロタキサン100は、ポリロタキサン分子1とポリロタキサン分子2とを有する。ポリロタキサン分子1は、「回転子」としての環状分子3、環状分子3の開口部を串刺し状にして包接される「軸」としての直鎖状分子5を有する。ポリロタキサン分子2は、「回転子」としての環状分子4、環状分子4の開口部を串刺し状にして包接される「軸」としての直鎖状分子6を有する。環状分子3と環状分子4とは結合部7において結合または架橋され架橋環状分子8を形成する。架橋環状分子8により2個以上のポリロタキサン分子(図1においてはポリロタキサン分子1とポリロタキサン分子2)が架橋されて変性架橋ポリロタキサン100を形成する。なお図1において官能基は図示されていない。
架橋環状分子8は、反力感覚により優れ、薄膜アクチュエータをより薄くすることができ、応答性に優れるという観点から、少なくとも2個が直鎖状分子5上に存在するのが好ましく、5〜50個であるのがより好ましい。ポリロタキサン分子中における架橋環状分子の包接量は、NMR、光吸収、元素分析等によって確認することができる。
【0024】
図2は、変性架橋ポリロタキサンの一例を模式的に示す図である。
図2(a)において、変性架橋ポリロタキサン200は、複数の架橋環状分子11、直鎖状分子5およびイオン交換能を有する官能基9を有する複数のポリロタキサン分子1によって形成されている。官能基9は直鎖状分子5の末端に結合している。
架橋環状分子11と直鎖状分子5とは非共有結合的に一体化した包接状態にあり、架橋環状分子11は直鎖状分子5上を容易に移動することができる。
変性架橋ポリロタキサンは、環状分子または架橋環状分子が密に詰まった包接化合物を用いるのではなく、図2(a)に示すポリロタキサン分子1のように架橋環状分子11が直鎖状分子5の上に疎な状態で存在するのが、反力感触により優れるという観点から好ましい。
なお、図2(a)において複数のポリロタキサン分子は異なっていてもよい。
【0025】
変性架橋ポリロタキサンは、直鎖状分子間の直接の架橋点が存在せず、幾何学的な拘束によりゲル化することができる。即ち、従来の物理ゲル又は化学ゲルのような直接の架橋点を有するものとは異なった構造である。
具体的には、変性架橋ポリロタキサンに応力を加えたとき、ポリマー間に直接の架橋が存在しないため、該化合物内の内部応力が分散されることにより破壊に対する強度が高い。また、膨潤の際においても、直鎖状分子が無駄なく網目構造を形成するため、より均一且つより高い膨潤特性をもたらすことができる。
【0026】
変性架橋ポリロタキサンの特性を添付の図面を用いて以下に説明する。
図2(a)において、変性架橋ポリロタキサン200にB方向に応力が負荷された場合、図2(b)に示すように架橋環状分子11又は直鎖状分子5が容易に移動して内部応力を均一にすることができる。
したがって、変性架橋ポリロタキサンは、破壊に対する強度が高く、電解質溶液を例えば網目構造の部分に大量に含浸させることができる。また、変性架橋ポリロタキサンは、その構造に由来して、従来の物理ゲルよりもエントロピー弾性が非常に高い化合物を提供することができる。
変性架橋ポリロタキサンは、高い破壊強度を示し、優れた伸張性、柔軟性、透明性、復元性を有し、エントロピー弾性が非常に高い材料である。
【0027】
変性架橋ポリロタキサンを製造する際に使用される直鎖状分子は、環状分子に包接され非共有結合的に一体化することができる分子又は物質であって直鎖状のものであれば、特に限定されない。
なお、本発明において「直鎖状分子」とは、高分子を含めた分子、及びその他上記の要件を満たす全ての物質をいう。
また、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。即ち、回転子である環状分子が回転可能、もしくは直鎖状分子上で環状分子が摺動又は移動可能であれば、直鎖状分子は分岐鎖を有していてもよい。また、「直鎖」の長さは、直鎖状分子上で環状分子が摺動又は移動可能であれば、その長さに特に制限はない。
【0028】
変性架橋ポリロタキサンを製造する際に使用することができる直鎖状分子としては、親水性ポリマー、例えばポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体など;疎水性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0029】
なかでも、反力感触により優れ、薄膜アクチュエータをより薄くすることができ、透明性に優れるという観点から、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフランのようなポリエーテルポリオール;ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン:ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン;ポリジメチルシロキサンのようなオルガノポリシロキサンが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールであるのがより好ましい。
【0030】
直鎖状分子の重量平均分子量(Mw)は、通常100以上であり、粘弾性および応答性に優れるという観点から、重量平均分子量(Mw)は好ましくは1,000以上であり、より好ましくは5,000以上である。
なお、本発明において、重量平均分子量は、水/アセトニトリルを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される標準ポリスチレン換算により測定される。
直鎖状分子はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
変性架橋ポリロタキサンを製造する際に使用することができる環状分子は、上記直鎖状分子と包接可能な環状分子であれば、いずれの環状分子であっても用いることができる。
なお、本発明において、「環状分子」とは、環状分子を含めた種々の環状物質をいう。
また、「環状分子」とは、実質的に環状である分子又は物質をいう。即ち、「実質的に環状である」とは、英字の「C」のように、完全に閉環ではないものを含む意であり、英字の「C」の一端と他端とが結合しておらず重なった螺旋構造を有するものも含む意である。さらに、後述する「ビシクロ分子(架橋環状分子)」の環についても、「環状分子」の「実質的に環状である」と同様に定義することができる。即ち、「ビシクロ分子」の一方の環又は双方の環は、英字の「C」のように、完全に閉環ではないものであってもよく、英字の「C」の一端と他端とが結合しておらず重なった螺旋構造を有するものであってもよい。
【0032】
変性架橋ポリロタキサンを製造する際に使用することができる環状分子としては、例えば、シクロデキストリン類(例えばα-シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、ジメチルシクロデキストリン及びグルコシルシクロデキストリン、これらの誘導体又は変性体など)、クラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類、及びジシクロヘキサノクラウン類、並びにこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
上述のシクロデキストリン類及びクラウンエーテル類などは、その種類により環状分子の開口部の大きさが異なる。したがって、用いる直鎖状分子の種類、具体的には用いる直鎖状分子を円柱状と見立てた場合、その円柱の断面の直径、直鎖状分子の疎水性又は親水性などにより、用いる環状分子を選択することができる。また、開口部が相対的に大きな環状分子と、相対的に直径が小さな円柱状の直鎖状分子を用いた場合、環状分子の開口部に2以上の直鎖状分子を包接することもできる。
【0033】
なかでも、反力感触により優れ、薄膜アクチュエータをより薄くすることができ、粘弾性に優れるという観点から、環状分子は、α−シクロデキストリン(グルコース6量体)、β−シクロデキストリン(グルコース7量体)であるのが好ましい。
【0034】
また、環状分子と直鎖状分子の組合せとしては、例えば、α−シクロデキストリンとポリエチレングリコールとの組み合わせ、α−シクロデキストリンとポリプロピレングリコールとの組み合わせ、β−シクロデキストリンとポリエチレングリコールとの組み合わせ、β−シクロデキストリンとポリプロピレングリコールとの組み合わせが挙げられる。
【0035】
架橋環状分子について以下に説明する。
変性架橋ポリロタキサンにおいて、第1の環状分子と第2の環状分子とは、化学結合を介して架橋される。この際、化学結合は単なる結合であっても種々の原子又は分子を介する結合であってもよい。
環状分子は、その環の外側に反応基(例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基)を有することができる。環状分子が有する反応基と架橋剤とを反応させ環状分子同士を架橋し、架橋環状分子を製造することができる。架橋環状分子の製造方法としては、例えば、特開2006-002077号公報に記載されている方法が挙げられる。
本発明に用いることができる架橋剤は、従来より公知の架橋剤を用いることができる。例えば、3,5−ジメルカプトピリジン、塩化シアヌル、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、フェニレンジイソシアネート、ジイソシアン酸トリレイン(例えば2,4−ジイソシアン酸トリレイン)、1,1′−カルボニルジイミダゾール、及びジビニルスルホンなどを挙げることができる。また、シランカップリング剤(例えば種々のアルコキシシラン)及びチタンカップリング剤(例えば種々のアルコキシチタン)などの各種カップリング剤を挙げることができる。さらに、ソフトコンタクトレンズ用材料に用いられる各種の光架橋剤、例えばホルミルスチリルピリジウムなどのスチルバゾリウム塩系の光架橋剤(K.Ichimura et al.,Journal of polymer science.Polymer chemistry edition 20,1411−1432(1982)(本文献は、参考として本明細書に含まれる)を参照のこと)、並びにその他の光架橋剤、例えば光二量化による光架橋剤、具体的にはケイ皮酸、アントラセン、チミン類などを挙げることができる。
【0036】
架橋剤は、その分子量が2,000未満、好ましくは1,000未満、より好ましくは600未満、最も好ましくは400未満であるのが好ましい。
環状分子として反応基を有するα−シクロデキストリンを用い、且つ架橋剤を用いて架橋する場合、該架橋剤の例として、例えば、3,5−ジメルカプトピリジン、塩化シアヌル、2,4−ジイソシアン酸トリレイン、1,1′−カルボニルジイミダゾール、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、並びにテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシラン等のアルコキシシラン類などを挙げることができる。
【0037】
架橋環状分子としては、例えば、シクロデキストリンの2量体が挙げられる。具体的には、例えば、α−シクロデキストリン2量体、β−シクロデキストリン2量体が挙げられる。
架橋環状分子は、粘弾性に優れるという観点から、α−シクロデキストリン2量体、β−シクロデキストリン2量体が好ましい。
架橋環状分子はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
変性架橋ポリロタキサンの製造方法としては、例えば、架橋環状分子、即ち第1の実質的な環及び第2の実質的な環を有する「ビシクロ分子」を製造し(ビシクロ化工程)、ビシクロ分子と直鎖状分子とを混合して「ビシクロ分子」の第1の環及び第2の環に直鎖状分子を串刺し状に包接して架橋ポリロタキサンを製造し(混合工程)、得られた架橋ポリロタキサンにイオン交換能を有する官能基を導入することによって(変性工程)、変性架橋ポリロタキサンを得ることができる。
【0039】
ビシクロ化工程において、反応基を有する環状分子と架橋剤とを反応させて第1の実質的な環及び第2の実質的な環を有するビシクロ分子(架橋環状分子)を製造する。
反応基を有する環状分子と架橋剤は上記のとおりである。反応基を有する環状分子はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。架橋剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
架橋剤の使用量は、反力感触により優れ、薄膜アクチュエータをより薄くすることができ、粘弾性に優れるという観点から、反応基を有する環状分子100モルに対して、1〜10モルであるのが好ましい。
【0040】
混合工程において、ビシクロ分子と直鎖状分子とを混合してビシクロ分子の第1の環及び第2の環に直鎖状分子を串刺し状に包接して架橋ポリロタキサンを製造する。
ビシクロ分子、直鎖状分子は上記のとおりである。ビシクロ分子はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。直鎖状分子はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ビシクロ分子の量は、反力感触により優れ、薄膜アクチュエータをより薄くすることができ、応答性に優れるという観点から、直鎖状分子100質量部に対して、1〜70質量部であるのが好ましく、2〜30質量部であるのがより好ましい。
混合工程における混合方法としては、例えば、ビシクロ分子と直鎖状分子とを含有する水溶液を室温下で撹拌する方法が挙げられる。
【0041】
変性工程において、架橋ポリロタキサンの直鎖状分子および/または架橋環状分子にイオン交換能を有する官能基を導入して変性架橋ポリロタキサンを得る。
【0042】
未変性の架橋ポリロタキサンにアニオン交換能を有する官能基を導入する方法は特に制限されない。
例えば、アニオン交換能を有する官能基としてアミノ基を付与する場合、未変性の架橋ポリロタキサンを構成する直鎖状分子の末端部分である第一級アルコールを塩化オキザリルや塩化リンなどを用いてハロゲン化した後、アミンおよび/またはアンモニアと反応させることにより架橋ポリロタキサンにアミノ基を導入することができる。ハロゲン化の後に使用されるアミンは特に制限されない。
得られたアミノ基を有する架橋ポリロタキサンは、塩酸との反応により容易に塩を形成することができる。また、得られたアミノ基を有する架橋ポリロタキサンをハロゲン化アルキルと反応させることによってN−アルキル化が達成できる。N−アルキル化の際に使用されるハロゲン化アルキルは特に制限されない。
【0043】
未変性の架橋ポリロタキサンにカチオン交換能を有する官能基を導入する方法は特に制限されない。例えば、カチオン交換能を有する官能基としてカルボキシ基を付与する場合、未変性の架橋ポリロタキサンを構成する直鎖状分子の末端部分である第一級アルコールを過酸化水素水や過マンガン酸塩などで酸化する方法が挙げられる。
また、得られたカルボキシ基を有する架橋ポリロタキサンを例えば、水酸化ナトリウムと反応させることによって、カルボキシ基を容易に塩(例えば、ナトリウム塩)に変換させることができる。
一方、スルホ基の付与では、未変性の架橋ポリロタキサンを構成する直鎖状分子の末端部分である第一級アルコールを塩化チオニルと反応させることで塩化スルホニルとし、その後、金属亜鉛、続いて塩酸と反応させることで得られるスルフィン酸を過マンガン酸塩などで酸化することによってスルホ基を導入する方法が挙げられる。
また、得られたスルホ基を有する架橋ポリロタキサンを例えば、水酸化ナトリウムと反応させることによって、スルホ基を容易に塩(例えば、ナトリウム塩)に変換させることができる。
【0044】
架橋ポリロタキサンはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。イオン交換能を有する官能基を導入するために使用される化合物はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
イオン交換能を有する官能基を導入するために使用される化合物の量は、薄膜アクチュエータをより薄くすることができ、粘弾性、応答性に優れるという観点から、架橋ポリロタキサン100質量部に対して、0.01〜100質量部であるのが好ましく、0.1〜10質量部であるのがより好ましい。
【0045】
架橋環状分子に官能基を導入する方法としては、例えば、架橋環状分子がシクロデキストリンである場合シクロデキストリンを構成するグルコース分子中の第1級ヒドロキシ基(R−CH2−OH)をナトリウムで−CH2−O-Na+とする方法、カルボン酸やその誘導体(R−COOH、R−COONa)、スルホン酸やその誘導体(R−SO3H、R−SO3Na)に変換する方法が挙げられる。
【0046】
変性架橋ポリロタキサンが有する直鎖状分子としては、両末端に官能基を有する直鎖状高分子が挙げられる。具体的には例えば、下記式で表されるものが挙げられる。
【化1】

【0047】
変性架橋ポリロタキサンとしては、例えば、上記の式で表される直鎖状高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種と、シクロデキストリンの2量体との組み合わせが挙げられる。
なかでも、変性架橋ポリロタキサンは、1分子の直鎖状分子中に多くの環状分子(架橋環状分子)を有することができ、反力感触により優れ、薄膜アクチュエータをより薄くすることができ、粘弾性に優れるという観点から、直鎖状分子と環状分子との組合せとしては、ポリエチレングリコールとα−シクロデキストリン2量体との組み合わせ、ポリプロピレングリコールとβ−シクロデキストリン2量体との組み合わせが好ましい。
変性架橋ポリロタキサンはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
電解質溶液について説明する。
本発明の薄膜アクチュエータに使用される電解質溶液は、導電性(イオン導電性)を有するものであれば特に制限されない。例えば、電解質と水系溶媒とを含む溶液、電解質と非水系溶媒とを含む溶液、イオン性液体が挙げられる。
電解質は特に制限されない。例えば、ゲル電解質塩、固体電解質塩が挙げられる。具体的には例えば、カチオン種として、リチウムイオン、ナトリウムイオン、ジアルキルイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピロリジニウムイオンからなる群から選択されるものと、アニオン種として、AlCl4、BF4、ClO4、PF6、SbF6、OTf、スルホニウムイミドアニオン[例えば、(CF3SO22イミドアニオン:NTf2]からなる群から選択されるものとの組み合わせが挙げられる。
【0049】
電解質を溶解させるための溶媒としては、水系溶媒、非水系溶媒を使用することができる。
水系溶媒としては水が挙げられる。
非水系溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、スルホラン、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートが挙げられる。
【0050】
溶媒を使用する場合、電解質溶液の濃度は、反力感触により優れ、応答性に優れるという観点から、1〜50質量%であるのが好ましい。
溶媒は、反力感触により優れ、電解質塩の役割を併せ持つという観点から、イオン性液体(イオン液体)が好ましい。
【0051】
イオン性液体は特に制限されない。例えば、カチオンとして、リチウムイオン、ジアルキルイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピロリジニウムイオンからなる群から少なくとも1種と、アニオンとして、AlCl4、BF4、ClO4、PF6、SbF6、OTf、スルホニウムイミドアニオン[例えば、(CF3SO22イミドアニオン:NTf2]からなる群から少なくとも1種とを有するものが挙げられる。
【0052】
電解質溶液は、反力感触により優れ、応答性に優れるという観点から、イオン性液体、水系溶媒を含むものが好ましく、過塩素酸リチウム水溶液、過塩素酸ナトリウム水溶液、
リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiNTf2)がより好ましい。
電解質溶液はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
ゲル(アクチュエータ層)を形成する際に使用される電解質溶液の量は、反力感触により優れ、応答性に優れるという観点から、変性架橋ポリロタキサン100質量部に対して、1〜100質量部であるのが好ましく、10〜20質量部であるのがより好ましい。
【0054】
本発明の薄膜アクチュエータに使用されるアクチュエータ層を形成するゲルは、電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有する。
電解質溶液を変性架橋ポリロタキサンに含浸させ、変性架橋ポリロタキサンを膨潤させ(イオン交換させる)ことによって、アクチュエータ層を活性化させる。
変性架橋ポリロタキサンに電解質溶液を含浸させる方法は特に制限されない。例えば、変性架橋ポリロタキサンと電解質溶液とを均一に混合することによってゲルを形成することができる。
また、混合後必要に応じて変性架橋ポリロタキサンと電解質溶液とを含有する組成物を例えば50〜80℃の条件下において乾燥させることができる。
本発明においては上記のようにしてゲル、つまりアクチュエータ層を形成する。
【0055】
本発明の薄膜アクチュエータにおいて使用されるアクチュエータ層は、軽量化、透明性、柔軟性、応答性に優れるという観点から、1mm以下であるのが好ましく、0.1〜0.5mmであるのがより好ましい。
【0056】
電極について以下に説明する。
本発明の薄膜アクチュエータに使用される電極は、アクチュエータ層の両側の面に沿って設けられ、電極に電圧が印加される。
電極に材料は特に制限されない。例えば、金、白金、パラジウム、ニッケルのような金属;スズドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ニオブドープ酸化スズ、タンタルドープ酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズのような導電性無機材料;ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)のような導電性高分子材料が挙げられる。
なかでも、透明性、応答性に優れるという観点から、ITO、導電性高分子材料が好ましい。
電極の材料はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0057】
アクチュエータ層に電極を設ける方法は特に制限されない。例えば、メッキ処理、スパッタ、印刷手法(例えば、スクリーン印刷)によってアクチュエータ層に電極を形成することができる。各処理方法は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0058】
本発明の薄膜アクチュエータは、優れた柔軟性、透明性、耐環境性及び化学的安定性を有し、さらに、良好な接着性を有し、フレキシブルな膜形状に容易に加工することができる。
本発明の薄膜アクチュエータは、無機材料のものと比較して、柔軟性、加工性に優れ、軽量であり、指に近い繊細な弾力性、肌のような感触を有する。
また、有機組成物を材料とするものと比較して、アクチュエータ層の膜厚を1mm以下とすることができ、1秒以内の応答速度を達成することができ、軽量化に優れ、コストを下げることができる。
イオン交換樹脂を材料とするものと比較して、柔軟性、透明性に優れ、製造が容易でイオン交換能を効率的に付与することができる。
【0059】
本発明の薄膜アクチュエータは、入力デバイスとして使用することができる。例えば、操作者がボタンに接触することで入力可能なタッチパネルに好適に用いることができる。本発明の薄膜アクチュエータは、タッチパネルの入力操作ボタンとして適用することで、操作者が指で押圧するとき、この押圧に対応してボタンが形状変化するので操作者の指先に和む反力感触を与えることができる。
本発明の薄膜アクチュエータは、柔軟性、透明性、耐環境性、化学的安定性、接着性、加工性に優れるので当該薄膜アクチュエータをタッチパネルに用いる利点は大きい。
【0060】
本発明の薄膜アクチュエータの変形のメカニズムについて以下簡単に説明する。
本発明において、反力は、アクチュエータが(指で押されたことによって)へこんだときに生じる物理的な反発力と、薄膜アクチュエータの電気的な変形とによって生じるものである。
本発明の薄膜アクチュエータにおいて、アクチュエータ層は、電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成されている。
アクチュエータ層はゲルで形成されていることから、人が本発明の薄膜アクチュエータに指等で触れた場合、ゲルの弾力性によって本発明の薄膜アクチュエータを押したことを知覚することができる。
また、ゲルは変性架橋ポリロタキサンを含有していることから変性架橋ポリロタキサンが有する弾力性によって本発明の薄膜アクチュエータを押したことを知覚することができる。
さらに、本発明の薄膜アクチュエータにおいて変性架橋ポリロタキサンがイオン交換能を有する官能基を有し、変性架橋ポリロタキサンが電解質溶液を含浸していることから、電圧の印加によって、イオン交換能を有する官能基によって捕捉されていないイオンがクラスターを形成し、イオンおよび/またはクラスターが電極に移動することができる。イオンおよび/またはクラスターの移動と共に電解質溶液が移動することによって薄膜アクチュエータ内に体積変動が生じて薄膜アクチュエータが変形(例えば、ドーム状に変形する。)し、変形が指に反力を与え、人に薄膜アクチュエータ(スイッチ)を確実に押したことを確認させることができる。
なお、変性架橋ポリロタキサンにおいてイオン交換能を有する官能基がアニオン交換能を有する場合(つまり官能基がカチオンの場合)、ゲル中のアニオンを変性架橋ポリロタキサンが捕獲しつつ、電極の間に電圧を印加することによってカチオンが陰極側に移動し、これに伴って電解質溶液の溶媒分子も陰極側に移動する。これによってアクチュエータ層が大きく変形する構成となっている。
反対に変性架橋ポリロタキサンにおいてイオン交換能を有する官能基がカチオン交換能を有する場合(つまり官能基がアニオンの場合)、ゲル中のカチオンを変性架橋ポリロタキサンが捕獲しつつ、電極の間に電圧を印加することによってアニオンが陽極側に移動し、これに伴って電解質溶液の溶媒分子も陽極側に移動する。これによってアクチュエータ層が大きく変形する構成となっている。
【0061】
次に本発明のタッチパネルについて以下に説明する。
本発明のタッチパネルは、本発明の薄膜アクチュエータを用いるものである。
本発明のタッチパネルに使用される薄膜アクチュエータは本発明の薄膜アクチュエータであれば特に制限されない。
【0062】
本発明のタッチパネルは、操作者が押圧することによって入力可能なタッチパネルである。
本発明のタッチパネルの好ましい態様の1つとしては、例えば、
電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成されるアクチュエータ層と、前記アクチュエータ層の両側の面に沿って設けられ、電圧が印加される電極とを有するデバイス本体、
前記デバイス本体の両側に設けられ、前記デバイス本体を駆動するために前記電極に電圧を印加する第1の電極端子、および
前記デバイス本体の両側に設けられ、操作者の接触によって生じる前記デバイス本体の変形に応じて前記デバイス本体に生じる起電力を検知し、前記電極の電位差を取り出す第2の電極端子を有するものが挙げられる。
前記変性架橋ポリロタキサンは、上記と同様のものである。
【0063】
本発明のタッチパネルについて添付の図面を使用して以下に説明する。なお、本発明は図面に制限されるものではない。
【0064】
図4(a)は、タッチパネル(以降、パネルという)40の装置構成を示す概略模式図である。
図4(a)において、パネル40には、操作面上に、操作者が指で押圧するボタン42が3段3列で9個設けられている。このボタン42のそれぞれは薄膜アクチュエータを用いて構成されている。
【0065】
図4(b)は、図4(a)中のA−A’線に沿って切断し、外側カバーを外したときのA−A’断面図である。図4(c)は、薄膜アクチュエータ10に第1の電極端子46,48及び第2の電極端子50,52を設けた構成を示す斜視図である。
図4(b)において、薄膜アクチュエータ10(ボタン42)はセパレータ44によりそれぞれのボタン42が分離されて構成され、それぞれの薄膜アクチュエータ10の両側の面にそれぞれ、第1の電極端子46,48及び第2の電極端子50,52が設けられている。
また、薄膜アクチュエータ10は、電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成されるアクチュエータ層12と、アクチュエータ層12の両側の面に沿って設けられ、アクチュエータ層12の両側から電圧を印加する電極13と、電極13に電圧を印加する電源20と、電圧の印加を制御するコントローラ22と、を有して構成される。
デバイス本体(図示せず。)は、アクチュエータ層12と電極13とをあわせたものをいう。
【0066】
また、第1の電極端子46,48は、図4(b)中の電源20から、コントローラ22の制御に応じて、電極13に電圧を印加するものであり、電源20及びコントローラ22と接続されている。
一方、第2の電極端子50,52は、コントローラ22に接続されており、操作者の接触によるアクチュエータ層12の変形に応じてアクチュエータ層12に生じる起電力を検出するために、電極間の電位差を取り出すように構成されている。第2の電極端子50,52から取り出された電位差はコントローラ22に送られて、操作者がボタン42を押圧したことを検知する。すなわち、薄膜アクチュエータ10は、第2の電極端子50,52を設けることにより、操作者の押圧の有り無しを検知する圧力検知センサーとして機能することができる。
【0067】
コントローラ22は、検知した操作者の押圧に応じて、薄膜アクチュエータ10に所定の電圧を印加するように構成されている。このため、操作者のボタン42への押圧に応じて、この押圧によるボタン42の接触時間内(1秒以内)に、薄膜アクチュエータ10を駆動させて変形させる。すなわち、操作者がボタン42を押したとき、ボタン42は瞬時に反応する。これにより、操作者はボタン42による入力が実行されたことを知覚することができる。
【0068】
本発明のタッチパネルは、本発明の薄膜アクチュエータを用いることによって、アクチュエータ層の厚さを1mm以下にしても、薄膜アクチュエータを大きく変形させることができ、ボタンの押圧に応じて操作者に知覚できる程度の大きな反力を与えることができる。
本発明のタッチパネルに使用されるアクチュエータ層は、透明性に優れ、柔軟性に富みかつ加工性も容易であるため、軽量で人体に馴染む材料であり、色素材料や磁性材料等の機能を有する材料を分散し配合することもできる。
【0069】
以上、本発明の薄膜アクチュエータ及びこれを用いるタッチパネルについて詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
1.シクロデキストリン2量体の製造
(1)α−シクロデキストリン2量体
α−シクロデキストリン(東京化成社製)16gを200mLの無水ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、水素化ナトリウム(60%in oil、500mg)を加え室温で10時間撹拌した。反応液に塩化トシル(2.9g)を加え3時間撹拌した。反応液をアセトンに加え析出した白色沈殿を濾取し、逆相シリカゲルカラム(40%メタノール水溶液を展開溶媒とした。)にて精製し、2−モノトシル−α−シクロデキストリンを得た。
次に、2−モノトシル−α−シクロデキストリン(6g)を0.2M水酸化ナトリウム水溶液に加え室温で撹拌し、40時間後0℃にて希塩酸で中和し、反応液をアセトンに加えることで2,3−エポキシ−α−シクロデキストリンを得た。
2,3−エポキシ−α−シクロデキストリン(2g)をDMF(80mL)に投入し水素化ナトリウム(1.2g)を加えた後、反応液を0℃に保ちながらヨウ化メチル(4mL)を滴下し、滴下後24時間室温で撹拌した。反応液にメタノール(3mL)を加え、チオ硫酸ナトリウムで脱ヨウ素した後、溶媒を留去し、2,3−エポキシ−パーメチル−α−シクロデキストリンを得た。
2,3−エポキシ−パーメチル−α−シクロデキストリン(1g)を0.1M:NaHCO3水溶液に加え、3,5−ジメルカプトメチルピリジン(50mg)を加え24時間加熱還流し、3,5−ジメルカプトメチルピリジンで架橋されたα−シクロデキストリン2量体を得た。同定はFAB−MASSで行った。
得られたα−シクロデキストリンの2量体をα−シクロデキストリン2量体とする。
【0071】
α−シクロデキストリン2量体の構造は下記式(1)で表される。
【化2】

式(1)中、mはそれぞれ1であり、nはそれぞれ1である。
【0072】
(2)β−シクロデキストリン2量体
上記の方法に従いβ−シクロデキストリン(東京化成社製)17gを用いて、3,5−ジメルカプトメチルピリジンで架橋されたβ−シクロデキストリン2量体を得た。
【0073】
β−シクロデキストリン2量体の構造は下記式(1)で表される。
【化3】

式(1)中、mはそれぞれ1であり、nはそれぞれ2である。
【0074】
2.架橋ポリロタキサンの製造
(1)架橋ポリロタキサン1
3,5−ジメルカプトメチルピリジンで架橋されたα−シクロデキストリン2量体(1g)とポリエチレングリコール(重量平均分子量:1,500、シグマアルドリッチ社製)(5mg)とを水(10ml)に加え、超音波を照射しながら室温で混合した。2時間後沈殿物としてα−シクロデキストリン2量体による架橋ポリロタキサンを得た。得られた架橋ポリロタキサンを架橋ポリロタキサン1とする。
【0075】
(2)架橋ポリロタキサン2
3,5−ジメルカプトメチルピリジンで架橋されたα−シクロデキストリン2量体を3,5−ジメルカプトメチルピリジンで架橋されたβ−シクロデキストリン2量体に代え、ポリエチレングリコールをポリプロピレングリコール(重量平均分子量:1,000、シグマアルドリッチ社製)に代えた他は架橋ポリロタキサン1と同様にしてβ−シクロデキストリン2量体による架橋ポリロタキサンを得た。得られた架橋ポリロタキサンを架橋ポリロタキサン2とする。
【0076】
(3)架橋ポリロタキサン3
重量平均分子量:1,000のポリエチレングリコール(シグマアルドリッチ社製)を使用する以外は架橋ポリロタキサン1と同様に実験を行いα−シクロデキストリン2量体による架橋ポリロタキサンを得た。得られた架橋ポリロタキサンを架橋ポリロタキサン3とする。
【0077】
得られた架橋ポリロタキサンについて、包接された架橋環状分子の割合(収率)を以下のようにして求めた。結果を第1表に示す。
上記のようにして得られたシクロデキストリン2量体を上記の量で使用した。
架橋ポリロタキサンをガラスフィルターでろ過した際のろ液を乾燥させ、ろ液中に残ったシクロデキストリン2量体の量を測定し、得られた数値を下記の式にあてはめて包接された架橋環状分子の割合を求めた。
包接された架橋環状分子の割合(質量%)=(A−B)/A×100
A:架橋ポリロタキサンを製造する際に使用したシクロデキストリン2量体の量
B:ろ液中に残ったシクロデキストリン2量体の量
収率が30質量%未満の場合を「L」、30質量%以上60質量%未満の場合を「M」60〜100質量%の場合を「H」とした。
【0078】
3.変性架橋ポリロタキサンの製造(架橋ポリロタキサンへの官能基の導入)
(1)変性架橋ポリロタキサン1
得られた架橋ポリロタキサン1:1gと過酸化水素水10mLとを混合し、0℃の条件下で反応させてポリエチレングリコールの末端のヒドロキシ基を酸化させてカルボキシ基とし、その後カルボキシ基と水酸化ナトリウムとを反応させることによって、カルボキシ基をナトリウム塩に変換させ、カルボン酸ナトリウム塩で変性された架橋ポリロタキサンを得た。得られた架橋ポリロタキサンを変性架橋ポリロタキサン1とする。
【0079】
(2)変性架橋ポリロタキサン2
得られた架橋ポリロタキサン2:1gと過酸化水素水10mLとを混合し0℃の条件下で反応させてポリエチレングリコールの末端のヒドロキシ基を酸化させてカルボキシ基とし、カルボン酸で変性された架橋ポリロタキサンを得た。得られた架橋ポリロタキサンを変性架橋ポリロタキサン2とする。
【0080】
(3)メトキシ化架橋ポリロタキサン
得られた架橋ポリロタキサン3:1gとヨウ化メチル0.1g(東京化成社製)とを混合し0℃の条件下で反応させてポリエチレングリコールの片方の末端をメトキシ基とし、メトキシ基を有する架橋ポリロタキサンを得た。得られた架橋ポリロタキサンをメトキシ化架橋ポリロタキサンとする。
【0081】
なお、変性架橋ポリロタキサン1〜2、メトキシ化架橋ポリロタキサン、架橋ポリロタキサン2を構成する変性された直鎖状高分子の構造は以下のとおりである。
変性架橋ポリロタキサン1を構成する変性された直鎖状高分子は下記式(I)で表される。
変性架橋ポリロタキサン2を構成する変性された直鎖状高分子は下記式(II)で表される。
メトキシ化架橋ポリロタキサンを構成する直鎖状高分子は下記式(III)で表される。
架橋ポリロタキサン2を構成する直鎖状高分子は下記式(IV)で表される。
【0082】
【化4】

【0083】
変性架橋ポリロタキサン1〜2、メトキシ化架橋ポリロタキサン、架橋ポリロタキサン2を構成する直鎖状高分子とシクロデキストリン2量体との組み合わせは下記第1表に示すとおりである。
なお、CDは「シクロデキストリン」を意味する。
【0084】
【表1】

【0085】
4.変性架橋ポリロタキサンのゲルの製造
第2表に示す成分を同表に示す量(質量部)で用いてシャーレに入れ撹拌し均一に混合し変性架橋ポリロタキサン組成物を得た。
この後、シャーレを50℃の条件下で2時間おいて変性架橋ポリロタキサン組成物を乾燥させ、膜厚1mm以下の変性架橋ポリロタキサンのゲルを製造した。なお、電解質溶液としてイオン性液体を使用する場合は上記の乾燥は行わない。得られたゲルをアクチュエータ層1〜10として次の薄膜アクチュエータの製造において使用した。
【0086】
5.薄膜アクチュエータの製造
得られたアクチュエータ層1〜10(膜厚1mm以下)にスパッタリング装置を用いて金属ターゲットとしてITOを使用し、アルゴンガス、窒素ガス、および酸素ガスを使用して、室温で−100Vの条件でスパッタリングを行い各アクチュエータ層の両面にITO層(電極)を付与した。アクチュエータ層1から得られた薄膜アクチュエータを薄膜アクチュエータ1とする。同様にアクチュエータ層2〜10から得られた薄膜アクチュエータをそれぞれ薄膜アクチュエータ2〜10とする。
【0087】
【表2】

【0088】
第2表に示す成分の詳細は以下のとおりである。
・変性架橋ポリロタキサン1〜2:上述のとおり製造した変性架橋ポリロタキサン1〜2
・メトキシ化架橋ポリロタキサン:上述のとおり製造したメトキシ化架橋ポリロタキサン
・架橋ポリロタキサン2:上述のとおり製造した架橋ポリロタキサン2
・電解質溶液1:1mol/L過塩素酸リチウム水溶液
・電解質溶液2:1mol/L過塩素酸ナトリウム水溶液
・電解質溶液3:リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiOTf)、シグマアルドリッチ社製
【0089】
7.タッチパネルの製造
(1)実施例7
薄膜アクチュエータ1を添付の図4に示すタッチパネル40のボタン42として用いてタッチパネルを製造した。
(2)実施例8
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ2に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
(3)実施例9
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ3に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
(4)比較例5
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ4に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
(5)比較例6
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ5に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
(6)実施例10
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ6に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
(7)実施例11
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ7に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
(8)実施例12
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ8に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
(9)比較例7
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ9に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
(10)比較例8
薄膜アクチュエータ1を薄膜アクチュエータ10に代えた他は実施例1と同様にしてタッチパネルを製造した。
【0090】
8.タッチパネルの評価
得られたタッチパネルを用いて電源20としてDC電源を使用し、−2〜+2Vの電圧を電極に印加して、薄膜アクチュエータの応答性を評価した。
評価基準はボタンを指で押圧してから1秒以内に薄膜アクチュエータがドーム型に変形するかどうかを指触および目視で確認した。
【0091】
その結果、実施例7〜12のタッチパネルは薄膜アクチュエータのアクチュエータ層の膜厚が1mm以下であるにもかかわらず、指での押圧してから1秒以内に薄膜アクチュエータが滑らかなドーム型に変形することが確認された。
これに対して、イオン交換能を有する官能基を有さない架橋ポリロタキサンを使用する比較例5〜8のタッチパネルは、実施例と同様に電圧を印加しても薄膜アクチュエータに顕著な動作を確認することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、変性架橋ポリロタキサンの一例を模式的に示す図である。
【図2】図2は、変性架橋ポリロタキサンの一例を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の薄膜アクチュエータの一実施形態を示す模式断面図である。
【図4】図4(a)は、本発明のタッチパネルの一実施形態の装置構成を示す概略模式図であり、図4(b)は、(a)中のA−A’線に沿って切断したA−A’断面図であり、図4(c)は、薄膜アクチュエータに第1の電極端子及び第2の電極端子を設けた構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0093】
100、200 変性架橋ポリロタキサン
1,2 ポリロタキサン分子
3,4 環状分子
5,6 直鎖状分子
7 結合部
8、11 架橋環状分子
9 官能基
10 薄膜アクチュエータ
12 アクチュエータ層
13 電極
20 電源
22 コントローラ
40 タッチパネル(パネル)
42 ボタン
44 セパレータ
46,48 第1の電極端子
50,52 第2の電極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を印加することによって駆動する薄膜アクチュエータであって、
電解質溶液を含浸する変性架橋ポリロタキサンを含有するゲルで形成されるアクチュエータ層と、
前記アクチュエータ層の両側の面に沿って設けられ、電圧が印加される電極とを有し、
前記変性架橋ポリロタキサンが、イオン交換能を有する官能基を有し、ならびに第1の環状分子の開口部に第1の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第1のポリロタキサン、及び第2の環状分子の開口部に第2の直鎖状分子が串刺し状に包接されてなる第2のポリロタキサンを有し、前記第1及び第2の環状分子の環は実質的な環であり、前記第1の環状分子の少なくとも1つと前記第2の環状分子の少なくとも1つとが化学結合を介して結合されている薄膜アクチュエータ。
【請求項2】
前記官能基が、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、炭化水素基を1〜3個有するアミノ基、およびこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の薄膜アクチュエータ。
【請求項3】
前記官能基が前記第1の直鎖状分子および/または前記第2の直鎖状分子の末端に結合している請求項1または2に記載の薄膜アクチュエータ。
【請求項4】
前記電解質溶液がイオン性液体である請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜アクチュエータ。
【請求項5】
前記第1の環状分子および/または前記第2の環状分子がα−シクロデキストリンおよびβ−シクロデキストリンからなる群から選択される少なくとも1つである請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜アクチュエータ。
【請求項6】
前記第1の直鎖状分子および/または前記第2の直鎖状分子が、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜アクチュエータを用いるタッチパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−86864(P2010−86864A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256574(P2008−256574)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】