説明

薄膜光電変換装置およびその製造方法

【課題】薄膜光電変換セルの発生電流値および使用による各薄膜光電変換セルの経年変化の度合いが同一とされ、長期に渡って発電効率に優れた信頼性の高い薄膜光電変換装置を得ること。
【解決手段】絶縁性透光基板上に、透明導電膜からなる第1電極層3と、半導体膜からなり光電変換を行う光電変換層と、光を反射する導電膜からなる第2電極層と、がこの順で積層されてなる複数の光電変換セル1が配設されるとともに、隣接する前記光電変換セル1同士が電気的に直列接続された薄膜光電変換装置10であって、前記光電変換層が膜厚分布を有するとともに、全ての前記光電変換セル1が前記光電変換層の膜厚分布における全ての膜厚部分を略同一比率で含み、前記光電変換セル1が発生する電流値が全ての前記光電変換セル1において略同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜光電変換装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の太陽電池の薄膜太陽電池モジュール(薄膜光電変換モジュール)では、例えば光透過性を有する透明電極層が形成された基板に薄膜半導体層を光電変換層として形成し、裏面側に裏面電極層として反射導電膜を形成して薄膜太陽電池セル(薄膜光電変換セル)が構成されている。この太陽電池セルでは、表面側(透明電極側)からの光入射により光起電力を発生する。
【0003】
そして、複数の薄膜太陽電池セルが、隣り合うセル同士間で所定の距離を隔てて配置された状態で電気的に直列に接続されて薄膜太陽電池モジュールが構成されている。なお、隣り合う薄膜太陽電池セル間の光電変換層は電気的に分離されている。
【0004】
このような薄膜光電変換モジュールは、以下に示すような方法により製造されている。まず、表面に凹凸によるテクスチャ構造を有する酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などの透明導電性酸化物(Transparent Conductive Oxide:TCO)からなる透明電極層が形成された絶縁性透光基板において、レーザ照射により透明電極層の一部を切断・除去して透明電極層をストライプ状に加工する。テクスチャ構造は光電変換セルに入射した太陽光を散乱させ、薄膜半導体層での光利用効率を高める機能を有する。つぎに、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法などにより透明電極層上に例えばアモルファスシリコンからなる光電変換層としての薄膜半導体層を形成する。
【0005】
その後、透明電極層が切断された場所と異なる箇所で、レーザ照射により薄膜半導体層の一部を切断、除去して薄膜半導体層をストライプ状に加工する。ついで、薄膜半導体層上に光反射性金属からなる裏面電極層をスパッタリング法などにより成膜する。その後、透明電極層および薄膜半導体層が切断された場所と異なる箇所で、レーザ照射により裏面電極層の一部を切断、除去して裏面電極層をストライプ状に加工する。そして、このような薄膜光電変換モジュールでは、ストライプ状に加工された薄膜光電変換セルを直列に接続することで、高出力電圧を発生させている。
【0006】
しかし、薄膜光電変換セルの中に出力電流が小さいセルが存在する場合には、これにより薄膜光電変換モジュールの出力電流が制限されてしまう。その結果、モジュール出力が低下し、必ずしも十分な性能が得られるわけではなかった。
【0007】
例えば、薄膜光電変換モジュールを構成する薄膜半導体層は、プラズマCVD法により成膜される。この方法で成膜される薄膜半導体層の膜厚は、成膜時のプラズマCVD装置内における位置によって分布を有する。例えば、プラズマCVD装置内において反応ガスの供給ノズルに近い位置で成長した薄膜半導体層は膜厚が厚いが、反応ガスの供給箇所から遠い位置(例えば基板の周縁部)で成長した薄膜半導体層は膜厚が薄くなる。また、プラズマCVD装置内におけるプラズマ分布なども、薄膜半導体層に膜厚分布を生じさせる要因となる。
【0008】
この結果、全ての薄膜光電変換セルにおいて薄膜半導体層の膜厚が同じとはならず、薄膜半導体層の膜厚が厚い部分の薄膜光電変換セルで発生する電流密度は大きいが、薄膜半導体層の膜厚が薄い部分の薄膜光電変換セルで発生する電流密度は小さくなり、各薄膜光電変換セルで発生する電流が一定でないことから、モジュール全体として十分な出力特性が得られないという問題が生じる。
【0009】
これらの問題を解決するために、例えば各薄膜光電変換セルのセル幅を調整することで出力電流値をほぼ同一にし、モジュール特性を改善する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2002−076381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の技術によれば、各薄膜光電変換セルのセル幅を調整するため出力電流値は同一であるが、薄膜半導体層の膜厚分布について考慮されていないため、薄膜光電変換セル毎に薄膜半導体層の膜厚は違うことになる。一般に薄膜シリコン光電変換セルは光照射により経年劣化し、劣化の度合いは薄膜半導体層の膜厚に依存することが判明している。このため、上記の特許文献1においては初期特性で出力電流値が同一であるようにセル幅を調整しているが、セルによって薄膜半導体層の膜厚が異なるため、劣化の程度がセル毎に異なる。したがって、使用するにつれて各セルの出力電流値が同一でなくなり、モジュール全体として十分な出力特性が得られなくなる、という問題があった。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、薄膜光電変換セルの発生電流値および使用による各薄膜光電変換セルの経年変化の度合いが同一とされ、長期に渡って発電効率に優れた信頼性の高い薄膜光電変換装置およびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる薄膜光電変換装置は、絶縁性透光基板上に、透明導電膜からなる第1電極層と、半導体膜からなり光電変換を行う光電変換層と、光を反射する導電膜からなる第2電極層と、がこの順で積層されてなる複数の光電変換セルが配設されるとともに、隣接する前記光電変換セル同士が電気的に直列接続された薄膜光電変換装置であって、前記光電変換層が膜厚分布を有するとともに、全ての前記光電変換セルが前記光電変換層の膜厚分布における全ての膜厚部分を略同一比率で含み、前記光電変換セルが発生する電流値が全ての前記光電変換セルにおいて略同一であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、全ての光電変換セルが物理的に略等価になり、使用による劣化の程度も同じになるため、光電変換セル間で光電変換層の膜厚が異なることに起因した各薄膜光電変換セルの経年劣化の程度のばらつきの発生を防止し、光電変換セル間の発生電流バランスを長期に渡って一定に保つことができる。したがって、光電変換セル間の特性バランスが使用の前後で崩れることがなく、長期使用に対しても初期と同じ最適なモジュール特性を維持することができ、光電変換装置としての出力特性が向上する、という従来にない顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる薄膜光電変換装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換装置である薄膜光電変換モジュール(以下、モジュールと呼ぶ場合がある)10の概略構成を示す平面図である。図2は、モジュール10の断面構造を説明するための図であり、図1の円弧線分A−A’における要部断面図である。
【0017】
図1に示すように、実施の形態1にかかるモジュール10は、略長方形状の絶縁性透光基板2上に略扇型のストライプ状に加工された複数の単位薄膜光電変換セル(以下、単位セルと呼ぶ場合がある)1を備えている。詳細には、絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cから外周に向かって放射線状に加工された複数の単位セル1を備えている。単位セル1は、図2に示すように透明電極層3と、光電変換層4と、裏面電極層5と、が絶縁性透光基板2上にこの順で順次積層されて構成されている。
【0018】
絶縁性透光基板2上に形成された透光性の導電膜からなる透明電極層3には、絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cから外周に向かって、絶縁性透光基板2に達するストライプ状の第1の溝7が形成されている。この第1の溝7の部分に光電変換層4が埋め込まれることで、透明電極層3が隣接するセルにまたがるようにセル毎に分離されて形成されている。
【0019】
また、透明電極層3上に形成された光電変換層4には、第1の溝7と異なる箇所において、絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cから外周に向かって、透明電極層3に達するストライプ状の第2の溝8が形成されている。この第2の溝8の部分に裏面電極層5が埋め込まれることで、裏面電極層5が透明電極層3に接続されている。そして、該透明電極層3が隣接するセルにまたがっているため、裏面電極層5と隣接するセルの透明電極層3とが電気的に接続されている。
【0020】
また、裏面電極層5および光電変換層4には、第1の溝7および第2の溝8とは異なる箇所で、絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cから外周に向かって、透明電極層3に達するストライプ状の第3の溝9が形成されて、各単位セル1が分離されている。このように、単位セル1の透明電極層3が、隣接する単位セル1の裏面電極層5と接続することによって、隣接する単位セル1が電気的に直列接続している。
【0021】
このような実施の形態1にかかるモジュール10では、絶縁性透光基板2の裏面(単位セル1が形成されていない方の面)から太陽光が入射すると、光電変換層4で自由キャリアが生成され、電流が発生する。各単位セル1で発生した電流は透明電極層3と裏面電極層5とを介して隣接する単位セル1に流れ込み、モジュール10全体の発電電力を生成する。
【0022】
モジュール10全体の発電電力は、透明電極層3に接続された端子3c、裏面電極層5に接続された端子5cから基板外に取り出される。このため、図1におけるB−B’の部分のように、光電変換セル間の少なくとも1か所に、単位セル1aの透明電極層3と、該単位セル1aに隣接する単位セル1bの裏面電極層5とが電気的に接続されない領域を設けておく。図1においては、この領域を挟む単位セル1bの透明電極層3に端子3cが接続され、単位セル1aの裏面電極層5に端子5cが接続される。
【0023】
図3は、モジュール10の断面構造を説明するための図であり、図1の線分B−B’における要部断面図である。図3においては、モジュール10で発生した電力をモジュール10の外部に取り出すための端子5cが接続されている単位セル1aと、同じくモジュール10で発生した電力をモジュール10の外部に取り出すための端子3cが接続されている単位セル1bと、の断面を示している。
【0024】
端子5cが接続されている単位セル1aは、図3に示すように光電変換層4に第2の溝8が形成されていない。これにより、単位セル1aの裏面電極層5は、隣接する単位セル1bと電気的に分離された構造とされている。
【0025】
透明電極層3は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム錫(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO)などの透明導電性酸化膜や、これらの透明導電性酸化膜にアルミニウム(Al)を添加した膜などの透光性の膜によって構成される。また、透明電極層3は、表面に凹凸が形成された表面テクスチャ構造を有する。このテクスチャ構造は、入射した太陽光を散乱させ、光電変換層4での光利用効率を高める機能を有する。
【0026】
図4は、実施の形態1にかかるモジュール10における光電変換層4の膜厚分布を説明するための模式図である。光電変換層4は、プラズマCVD法で形成されており、その膜厚は図4に示すように絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cが一番厚く、絶縁性透光基板2の外周方向に向かうにしたがって徐々に薄くなる、略同心円状の分布を有する。例えば並行平板型プラズマ電極を有するプラズマCVD装置で電極間に発生するプラズマの密度が電極中央と周辺で異なる場合、このような膜厚分布となる。
【0027】
光電変換層4は、p型の水素化アモルファス炭化シリコン(a−SiC:H)、i型の水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)、n型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)からなるpin接合を形成している。また、n型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)の代わりに、n型のa−Si:Hを使用してもよい。
【0028】
また、光電変換層4は、p型の水素化アモルファス炭化シリコン(a−SiC:H)、i型の水素化アモルファス炭化シリコン(a−SiC:H)、n型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)、p型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)、i型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)、n型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)からなる二段のpin接合構成としてもよい。二段のpin接合の場合には、それぞれのpin接合間を一酸化微結晶シリコン(μc−SiO)、アルミニウム添加酸化亜鉛(ZnO:Al)を挿入して、pin接合間の電気的、光学的接続を改善してもよい。
【0029】
裏面電極層5は、光電変換層4と異なる形状・位置でパターニングされており、図2に示すように透明導電性金属化合物層5aと金属層5bとから構成されている。ここで、透明導電性金属化合物層5aには例えば酸化スズ(SnO)が用いられる。また、金属層5bには、例えば銀(Ag)またはアルミニウム(Al)が用いられる。
【0030】
図5は、実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの他の構成例を示す断面図である。図5に示すように絶縁性透光基板2上には不純物の阻止層として、必要に応じて酸化珪素(以下単にSiOと記す)のアンダーコート層6を設けた構成としてもよい。
【0031】
つぎに、このような実施の形態1にかかるモジュール10の主たる製造工程について図6−1〜図6−3および図7−1〜図7−3を参照して説明する。図6−1〜図6−3は、モジュール10の製造方法の一例を説明するための平面図であり、絶縁性透光基板2を上から見た平面図である。図7−1〜図7−3は、モジュール10の製造方法の一例を説明するための断面図であり、図1の線分A−A’に対応する断面図である。はじめに絶縁性透光基板2を用意する。絶縁性透光基板2としては、例えば白板ガラス基板を用いることができる。
【0032】
つぎに、絶縁性透光基板2の一面側に、透明電極層3となるZnO膜をスパッタリング法により形成する。また、ZnO膜の他にITO、SnOなどの透明導電性酸化膜や、導電率向上のためにこれらの透明導電性酸化膜にAlなどの金属を添加した膜を用いることができる。また、成膜方法として、CVD法などの他の成膜方法を用いてもよい。
【0033】
その後、例えば希塩酸でZnO膜の表面をエッチングし、表面に凹凸が形成された表面テクスチャ構造を形成する。ただし、SnO、ZnO等の膜をCVD法により形成した場合には自己組織的に膜の表面に凹凸が形成されるため、希塩酸を用いたエッチングによる凹凸の形成は必要ない。
【0034】
そして、透明電極層3の一部を切断・除去して、図6−1および図7−1に示すように透明電極層3を略扇型の形状にパターニングする。透明電極層3のパターニングは、レーザスクライブにより、絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cから外周に向かって、絶縁性透光基板2に達するストライプ状の第1の溝7を形成することで行う。
【0035】
つぎに、透明電極層3上に、薄膜半導体層をプラズマCVD法により堆積し、光電変換層4を形成する。薄膜半導体層としては、例えばp型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)層、i型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)層、n型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)層とをこの順で積層して、PIN接合を形成する光電変換層4を形成する。
【0036】
ついで、真空蒸着により光電変換層4上に透明導電性金属化合物層5aとして例えば酸化スズ(SnO)を成膜する。そして、透明導電性金属化合物層5aおよび光電変換層4の一部を切断・除去して、図6−2および図7−2に示すように透明導電性金属化合物層5aおよび光電変換層4を略扇型の形状にパターニングする。透明導電性金属化合物層5aおよび光電変換層4のパターニングは、レーザスクライブにより絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cから外周に向かって、透明電極層3に達するストライプ状の第2の溝8を形成することで行う。
【0037】
ここで、透明導電性金属化合物層5aおよび光電変換層4をレーザスクライブする際には、予め光電変換層4の面内分布を測定し、各箇所での単位セル1の出力電流値の相対分布を予測する。そして、この予測結果に基づいて、各単位セル1の出力電流が同じになる形状を決定し、光電変換層4を加工する。なお、単位セル1aには、第2の溝8を形成しない。
【0038】
つぎに、第2の溝8を形成した透明導電性金属化合物層5a上に金属層5bとして例えば銀(Ag)をスパッタリング法により成膜して裏面電極層5を形成する。このとき、第2の溝8内を金属層5bが満たすような条件で金属層5bを形成する。その後、裏面電極層5および光電変換層4の一部を切断・除去して、図6−3および図7−3に示すように裏面電極層5および光電変換層4を略扇型の形状にパターニングし、複数の単位セル1に分離する。裏面電極層5および光電変換層4のパターニングは、レーザスクライブにより絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cから外周に向かって、第1の溝7および第2の溝8と異なる箇所で透明電極層3に達するストライプ状の第3の溝9を形成することで行う。以上によりモジュール10が得られる。
【0039】
以上のような実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュール10では、各単位薄膜光電変換セル1の出力電流値が同じになるように光電変換層4の膜厚の面内分布に応じて単位薄膜光電変換セル1が配置されており、各単位薄膜光電変換セル1の光電変換層4の面積が略同一であり、各薄膜光電変換セル1には光電変換層4の全ての膜厚領域が同じ割合で存在する。
【0040】
このように、実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュール10においては、各単位薄膜光電変換セル1の出力電流値がほぼ同一とされており、各単位薄膜光電変換セル1の発生電流が略同一になるように予め調整されているため、単位薄膜光電変換セル1毎の出力電流のばらつきに起因した出力特性の低下が防止されており、良好なモジュール出力特性を有する薄膜光電変換モジュールが歩留まり良く得られる。
【0041】
また、薄膜光電変換モジュール10では、各単位薄膜光電変換セル1における光電変換層である光電変換層4が、絶縁性透光基板2の面内方向における略中心部Cを中心に、該中心部Cからの距離に従って膜厚が徐々に変化する(薄くなる)略同心円状の膜厚分布を有する。そして、全ての単位薄膜光電変換セル1が、光電変換層4の全ての膜厚部分を略同一比率で含むように構成されている。このようにある点を中心にその点からの距離に従って膜厚が変化する場合に、その点から放射状に延びる溝によって単位薄膜光電変換セル1同士を分離し、たとえば上記のような放射状に幅が広がる扇型の形状の単位薄膜光電変換セル1とするとよい。こうすることにより、厚膜の光電変換層4を含む比率が特定の単位薄膜光電変換セル1において高い、薄膜の光電変換層4を含む比率が特定の単位薄膜光電変換セル1において高い、などのように単位薄膜光電変換セル1毎に有する光電変換層4の厚みにばらつきがなくなる。
【0042】
これにより、薄膜光電変換モジュール10の使用時に発生する経年劣化の割合を全ての単位薄膜光電変換セル1において略同一とすることができ、単位薄膜光電変換セル1間の発生電流バランスを長期に渡って一定に保つことができ、長期使用に対しても初期と同じ最適なモジュール特性を維持できる。すなわち、各単位薄膜光電変換セル1が物理的(構造、光電変換層4の膜厚分布)に略等価になり、使用による劣化の程度も同じになるため、単位薄膜光電変換セル1間で光電変換層4の膜厚が異なることに起因した各単位薄膜光電変換セル1の経年劣化の程度のばらつきの発生を防止し、単位薄膜光電変換セル1間の発生電流バランスを長期に渡って一定に保つことができる。その結果、各単位薄膜光電変換セル1間の特性バランスが使用の前後で崩れることがなく、長期使用に対しても初期と同じ最適なモジュール特性を維持することができ、薄膜光電変換モジュール10の出力特性が向上する、という従来にない顕著な効果を奏するものである。
【0043】
特に、光電変換層4の膜厚が、絶縁性透光基板2の中央部に対して周辺部が10〜50%薄い(または厚い)など、絶縁性透光基板2の面内において光電変換層4の膜厚分布の変化が著しい場合において、それぞれの単位薄膜光電変換セル1の性能を均一化できるので効果が大きい。
【0044】
なお、全ての単位薄膜光電変換セル1が、光電変換層4の全ての膜厚部分を略同一比率で含むようにするために、絶縁性透光基板2は、面内方向における中心に対して対称な形状が好ましい。このような形状としては、例えば図1に示したように正方形に近い形状や、円形、正多角形のような形状が挙げられる。また、正方形、正六角形、などの基板形状は、薄膜光電変換モジュール10を複数配列する際に薄膜光電変換モジュール10間の隙間が小さくなるように配列できる。このため、正方形、正六角形、などの形状の絶縁性透光基板2を用いた複数の薄膜光電変換モジュール10を配列接続することで、設置面積が少ない光発電装置を得ることができる。
【0045】
実施の形態2.
図8は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜光電変換モジュール(以下、モジュールと呼ぶ場合がある)20の概略構成を示す平面図である。図9は、モジュール20の断面構造を説明するための図であり、図8の円弧線分D−D’における要部断面図である。なお、以下の図面において、図2と同じ部材については同じ符号を付している。
【0046】
図8に示すように、実施の形態2にかかるモジュール20は、略長方形状の絶縁性透光基板102上に略扇型のストライプ状に加工された複数の単位薄膜光電変換セル(以下、単位セルと呼ぶ場合がある)101を備えている。詳細には、絶縁性透光基板102の一つの辺Eの略中央部ECからその他の3つの辺へ向かって放射線状に加工された複数の単位セル101を備えている。単位セル101は、図9に示すように透明電極層3と、光電変換層4と、裏面電極層5と、が絶縁性透光基板102上にこの順で順次積層されて構成されている。
【0047】
絶縁性透光基板102上に形成された透明電極層3には、絶縁性透光基板102の一つの辺Eの略中央部ECからその他の3つの辺へ向かって、絶縁性透光基板102に達するストライプ状の第1の溝7が形成されおり、この第1の溝7の部分には光電変換層4が埋め込まれている。この第1の溝7の部分に光電変換層4が埋め込まれることで、透明電極層3が隣接するセルにまたがるようにセル毎に分離されて形成されている。
【0048】
また、透明電極層3上に形成された光電変換層4には、第1の溝7と異なる箇所において、絶縁性透光基板102の一つの辺Eの略中央部ECからその他の3つの辺へ向かって、透明電極層3に達するストライプ状の第2の溝8が形成されている。この第2の溝8の部分に裏面電極層5が埋め込まれることで、裏面電極層5が透明電極層3に接続されている。そして、該透明電極層3が隣接するセルにまたがっているため、裏面電極層5と隣接するセルの透明電極層3とが電気的に接続されている。
【0049】
また、裏面電極層5および光電変換層4には、第1の溝7および第2の溝8とは異なる箇所で、絶縁性透光基板102の一つの辺Eの略中央部ECからその他の3つの辺へ向かって、絶縁性透光基板102に達するストライプ状の第3の溝9が形成されて、各単位セル101が分離されている。このように、各単位セル101の透明電極層3が、隣接する単位セル101の裏面電極層5と接続することによって、各単位セル101が直列接続している。
【0050】
このような実施の形態2にかかるモジュール20では、絶縁性透光基板102の裏面(単位セル101が形成されていない方の面)から太陽光が入射すると、光電変換層4で自由キャリアが生成され、電流が発生する。各単位セル1で発生した電流は透明電極層3と裏面電極層5とを介して隣接する単位セル101に流れ込み、モジュール20全体の発電電力を生成する。
【0051】
モジュール20全体の発電電力は、透明電極層3に接続された端子3c、裏面電極層5に接続された端子5cから基板外に取り出される。このため、直列接続された単位セル101の両端に位置する、単位セル101bの透明電極層3と、単位セル101aの裏面電極層5とは、電気的に接続されておらず、電気的に分離された構造とされている。そして、単位セル101bの透明電極層3に端子3cが接続され、単位セル101aの裏面電極層5に端子5cが接続される。
【0052】
図10は、実施の形態2にかかるモジュール20における光電変換層4の膜厚分布を説明するための模式図である。光電変換層4は、プラズマCVD法で形成されており、その膜厚は図10に示すように絶縁性透光基板102の面内方向において、一つの辺Eの略中央部ECが一番厚く、そこからその他の3つの辺へ向かうにしたがって徐々に薄くなる、略同心円状の分布を有する。例えば並行平板型プラズマ電極を有するプラズマCVD装置で電極間に発生するプラズマの密度が電極中央と周辺で異なる場合、このような膜厚分布となる。
【0053】
このような実施の形態2にかかるモジュール20は、光電変換層4の膜厚が絶縁性透光基板102の面内方向において一つの辺Eの略中央部ECが一番厚くなり、そこからその他の3つの辺へ向かうにしたがって徐々に薄くなるように形成し、透明電極層3、光電変換層4、裏面電極層5のスクライブを辺Eの略中央部ECを起点として行うこと以外は、実施の形態1のモジュール10と同様の工程により作製することができる。
【0054】
以上のような実施の形態2にかかる薄膜光電変換モジュール20では、各単位薄膜光電変換セル101の出力電流値が同じになるように光電変換層4の膜厚の面内分布に応じて単位薄膜光電変換セル101が配置されており、各単位薄膜光電変換セル101の光電変換層4の面積が近似的にほぼ同じであり、各単位薄膜光電変換セル101には光電変換層4の全ての膜厚領域が近似的にほぼ同じ割合で存在する。
【0055】
このように、実施の形態2にかかる薄膜光電変換モジュール20においては、各単位薄膜光電変換セル101の出力電流値がほぼ同一とされており、各単位薄膜光電変換セル101の発生電流が略同一になるように予め調整されているため、単位薄膜光電変換セル101毎の出力電流のばらつきに起因した出力特性の低下が防止されており、良好なモジュール出力特性を有する単位薄膜光電変換モジュールが歩留まり良く得られる。
【0056】
また、薄膜光電変換モジュール20では、各単位薄膜光電変換セル101における光電変換層である光電変換層4が、絶縁性透光基板102の面内方向において一つの辺Eの略中央部ECを中心に、該略中央部ECからの距離に従って膜厚が徐々に変化する(薄くなる)略同心円状の膜厚分布を有する。そして、全ての単位薄膜光電変換セル101が、光電変換層4の全ての膜厚部分を近似的に略同一比率で含むように構成されている。すなわち、厚膜の光電変換層4を含む比率が特定の単位薄膜光電変換セル101において高い、薄膜の光電変換層4を含む比率が特定の単位薄膜光電変換セル101において高い、などのように単位薄膜光電変換セル101毎に光電変換層4の厚みにばらつきがない。
【0057】
これにより、薄膜光電変換モジュール20の使用時に発生する経年劣化の割合を全ての単位薄膜光電変換セル101において略同一とすることができ、単位薄膜光電変換セル101間の発生電流バランスを長期に渡って一定に保つことができ、長期使用に対しても初期と同じ最適なモジュール特性を維持できる。すなわち、各単位薄膜光電変換セル101が物理的(構造、光電変換層4の膜厚分布)に略等価になり、使用による劣化の程度も同じになるため、単位薄膜光電変換セル101間で光電変換層4の膜厚が異なることに起因した各単位薄膜光電変換セル101の経年劣化の程度のばらつきの発生を防止し、単位薄膜光電変換セル101間の発生電流バランスを長期に渡って一定に保つことができる。その結果、各単位薄膜光電変換セル101間の特性バランスが使用の前後で崩れることがなく、長期使用に対しても初期と同じ最適なモジュール特性を維持することができ、薄膜光電変換モジュール20の出力特性が向上する、という従来にない顕著な効果を奏するものである。
【0058】
特に、光電変換層4の膜厚が、絶縁性透光基板102の一つの辺Eの略中央部ECに対してその他の3つの辺の周辺部が10〜50%薄い(または厚い)など、絶縁性透光基板102の面内において光電変換層4の膜厚分布の変化が著しい場合において、それぞれの単位薄膜光電変換セル101の性能を均一化できるので効果が大きい。
【0059】
なお、全ての単位薄膜光電変換セル101が、光電変換層4の全ての膜厚部分を近似的に略同一比率で含むようにするために、絶縁性透光基板102は、例えば正多角形を半分に分割したような形状が好ましい。また、図6に示した長方形の基板形状は、薄膜光電変換モジュール20を複数配列する際に薄膜光電変換モジュール20間の隙間が小さくなるように配列できる。このため、長方形の絶縁性透光基板102を用いた複数の薄膜光電変換モジュール20を配列接続することで、設置面積が少ない光発電装置を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明にかかる薄膜光電変換装置は、長期にわたって高い発電効率が要求される用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの断面構造を説明するための図であり、図1の円弧線分A−A’における要部断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの断面構造を説明するための図であり、図1の線分B−B’における断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールにおける光電変換層の膜厚分布を説明するための模式図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの他の構成例を示す断面図である。
【図6−1】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの製造方法の一例を説明するための平面図である。
【図6−2】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの製造方法の一例を説明するための平面図である。
【図6−3】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの製造方法の一例を説明するための平面図である。
【図7−1】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの製造方法の一例を説明するための断面図である。
【図7−2】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの製造方法の一例を説明するための断面図である。
【図7−3】本発明の実施の形態1にかかる薄膜光電変換モジュールの製造方法の一例を説明するための断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2にかかる薄膜光電変換モジュールの概略構成を示す平面図である。
【図9】本発明の実施の形態2にかかる薄膜光電変換モジュールの断面構造を説明するための図であり、図8の円弧線分D−D’における要部断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2にかかる薄膜光電変換モジュールにおける光電変換層の膜厚分布を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1 単位薄膜光電変換セル(単位セル)
1a 単位薄膜光電変換セル(単位セル)
1b 単位薄膜光電変換セル(単位セル)
2 絶縁性透光基板
3 透明電極層
3c 端子
4 光電変換層
5 裏面電極層
5a 透明導電性金属化合物層
5b 金属層
5c 端子
6 アンダーコート層
7 第1の溝
8 第2の溝
9 第3の溝
10 薄膜光電変換モジュール(モジュール)
20 薄膜光電変換モジュール(モジュール)
101 単位薄膜光電変換セル(単位セル)
102 絶縁性透光基板
C 絶縁性透光基板の面内方向における略中心部
E 絶縁性透光基板の一つの辺
EC 絶縁性透光基板の一つの辺Eの略中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性透光基板上に、透明導電膜からなる第1電極層と、半導体膜からなり光電変換を行う光電変換層と、光を反射する導電膜からなる第2電極層と、がこの順で積層されてなる複数の光電変換セルが配設されるとともに、隣接する前記光電変換セル同士が電気的に直列接続された薄膜光電変換装置であって、
前記光電変換層が膜厚分布を有するとともに、全ての前記光電変換セルが前記光電変換層の膜厚分布における全ての膜厚部分を略同一比率で含み、
前記光電変換セルが発生する電流値が全ての前記光電変換セルにおいて略同一であること、
を特徴とする薄膜光電変換装置。
【請求項2】
前記絶縁性透光基板が略正多角形状を呈し、
前記光電変換セルは、前記絶縁性透光基板の面内方向において前記絶縁性透光基板の略中心部から外周に向かって放射線状に配置された扇形の形状を呈すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜光電変換装置。
【請求項3】
前記絶縁性透光基板が略四角形状を呈し、
前記光電変換セルは、前記絶縁性透光基板の面内方向において前記絶縁性透光基板の一つの辺の略中央部からその他の3つの辺へ向かって放射線状に配置された扇形の形状を呈すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜光電変換装置。
【請求項4】
絶縁性透光基板上に、透明導電膜からなる第1電極層と、半導体膜からなり光電変換を行う光電変換層と、光を反射する導電膜からなる第2電極層と、がこの順で積層されてなる複数の光電変換セルが配設されるとともに、隣接する前記光電変換セル同士が電気的に直列接続された薄膜光電変換装置の製造方法であって、
前記絶縁性透光基板上に、前記第1電極層と前記光電変換層と前記第2電極層とを含む前記光電変換セルを形成する工程を含み、
前記光電変換層を、全ての前記光電変換セルが前記光電変換層の膜厚分布における全ての膜厚部分を略同一比率で含む形状に形成すること、
を特徴とする薄膜光電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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