説明

薄膜形成用塗布ロール、塗布方法及び塗布装置

【課題】被処理物上に形成される塗膜の乾燥後の厚みが1μm以下になるような極薄膜であっても、被処理物表面に均一な塗膜を形成することを課題とする。
【解決手段】芯体4と、この芯体の外周に設けられたスポンジ層5と、このスポンジ層の外周に設けられたソリッド層6と、このソリッド層の外周に設けられた,塗布液に対して非粘着性及び非接着性をもった表面層7とを具備することを特徴とする薄膜形成用塗布ロール1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥後の厚みが1μm以下の極薄膜を形成するための薄膜形成用塗布ロール、塗布方法及び塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被処理物に薄く均一な塗膜を形成するロールコーティング装置としては、特許文献1が知られている。このロールコーティング装置は、塗布ローラを押圧ローラに圧接した一対のローラ間に被処理物を通してローラを回転させ、上記塗布ローラ又は被処理物に塗布した塗布液を被処理物に転写させる技術に関する。ここで、前記塗布ローラは、鋼材等からなる芯体の外周に一定厚みのスポンジ層、表面が平滑な非接着性・非吸着性のチューブ膜を順次被覆した構成となっている。また、押圧ローラは、鋼材等からなる芯体の外周にフッ素樹脂で加工して平滑化した外周層を設けた構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3052127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ロールコーティング装置で用いられている塗布ローラによってロールコーティングを行うと、押圧ローラによる押圧の影響で塗布ローラのスポンジ層が変形し、その変形に対してスポンジ層の外周に被覆されたチューブ膜が追随することができず、ローラ表面にしわが生じる。その結果、被処理物表面に形成された塗膜にしわ状の模様が発生し、塗膜の乾燥速度やレベリング性能をうまく調整しなければ、均一な塗布面を得ることが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明はこうした事情を考慮してなされたもので、被処理物上に形成される塗膜の乾燥後の厚みが1μm以下になるような極薄膜であっても、被処理物表面に均一な塗膜を形成することができる薄膜形成用塗布ロール、塗布方法及び塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る塗布ロールは、芯体と、この芯体の外周に設けられたスポンジ層と、このスポンジ層の外周に設けられたソリッド層と、このソリッド層の外周に設けられた,塗布液に対して非粘着性及び非接着性をもった表面層とを具備することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る塗布方法は、前記薄膜形成用塗布ロールを用いて被処理物に薄膜を形成する塗布方法であり、前記塗布ロールまたは被処理物に薄膜形成用の塗布液を塗布した後、塗布ロールと被処理物を圧接させた状態で被処理物を通すことで被処理物に薄膜を形成することを特徴とする。
【0008】
更に、本発明に係るロール塗布装置は、前記薄膜形成用塗布ロールと、この塗布ロールに被処理物を圧接した状態で通す圧接手段と、前記塗布ロール又は被処理物に塗膜形成用の塗布液を注出する塗布液注出装置とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被処理物上に形成される塗膜の乾燥後の厚みが1μm以下になるような極薄膜であっても、被処理物表面に均一な塗膜を形成することができる薄膜形成用塗布ロール、塗布方法及び塗布装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1に係るロール塗布装置の説明図。
【図2】本発明の実施例2に係るロール塗布装置の説明図。
【図3】図1のロール塗布装置による画像データの説明図。
【図4】図2のロール塗布装置による画像データの説明図。
【図5】従来のロール塗布装置による画像データの説明図。
【図6】本発明のロール塗布装置において、被処理物を塗布ロールに圧接する他の例を示す説明図。
【図7】本発明のロール塗布装置において、被処理物を塗布ロールに圧接する更に他の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において、塗布ロールと被処理物が接触すると、圧接によりスポンジ層が外圧の影響を受けて変形するので、接触面の均圧化が得られるとともに、被処理物の凹凸の影響を低減することができる。
【0012】
本発明において、スポンジ層は柔らかく、かつ均一に変形することが望ましい。スポンジ層の材質としては、例えばシリコーンゴム,ポリビニルアルコール(PVA),ウレタン,ブチルゴム等が挙げられる。また、スポンジ層の厚みはロール径にもよるが、3〜20mmが好ましく、より好ましくは5〜15mm、更に好ましくは5〜10mmである。ここで、厚みが3mm未満では、接触時の変形量が小さくスポンジ層による効果が得られない。また、厚みが20mmを超えると、接触時の変形が大きくなりすぎるため、接触面が大きくなり過ぎてしまい、塗布面が悪化する。
【0013】
本発明において、ソリッド層を設けるのは、スポンジ層の変形による(円周距離の変化)表面層のしわ発生を抑制するためであり、ソリッド層はスポンジ層より硬く、最外層(表面層)より柔らかい必要がある。ソリッド層の硬さとしては、一般的なゴム材質の硬度が適用できるが、前述した機能の発現効果の点から10〜95°(JISA)、好ましくは30〜90°(JISA)、より好ましくは40〜80°(JISA)である。ここで、硬さが10°を下回ると、表面層のしわ発生を抑止することができず、硬さが95°を上回るとスポンジ層の変形によるしわ抑止効果が発現されない。
【0014】
前記ソリッド層の厚みは、次の理由により0.2〜3mmとすることが望ましい。即ち、厚みが0.2mm未満の場合は、スポンジ層が過度に変形するのを抑制することができず、被処理物表面に形成される塗膜にしわ状の模様が発生する。また、厚みが3mmを超えると、ソリッド層の応力の影響が大きくなりすぎ、スポンジ層による復元効果が発揮されずに均一な膜が得られないからである。
【0015】
ソリッド層の材質としては、例えばシリコーンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、天然ゴム等、あらゆるゴムが使用できる。また、ソリッド層に用いられるゴムには、必要に応じて加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、充填剤等公知の添加剤を配合してもよい。
【0016】
本発明において、ソリッド層の外周に設けられる表面層の材質は、基本的には塗布液に対して非粘着性及び非接着性を有しかつ耐性がある材質ならなんでもよい。表面層の材質としては、例えば四ふっ化エチレン樹脂(PTFE),四ふっ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA),四ふっ化エチレンヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂(FEP)等の非接着性,非粘着性,不活性,平滑性を有したフッ素樹脂や、金属,金属酸化物等が挙げられる。前記表面層は、導電性でも絶縁性でもよい。また、表面層はチューブ状でもコート層でもよい。表面層の厚みは、次の理由により0.2mm以下とすることが望ましい。即ち、厚みが0.2mmを超えると、表面層自身の硬さが高すぎるため、被処理物と接触した際の均圧化の効果が十分に得られないからである。
【0017】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
図1は、本発明に係る薄膜形成用塗布ロールを備えたロール塗布装置の一例を示す。
図中の1は薄膜形成用塗布ロールを示し、被処理物2を挟んで対向して配置されたバックアップロール3と対をなしている。前記塗布ロール1は、鋼材からなる芯体4の外周に厚さ7mm,硬さ25°(アスカーC)のシリコーンゴムスポンジ層5、厚さ1mm,硬さ40°(JISA)のソリッド層6及び厚さ0.05mmの非接着性,非粘着性のチューブ層(表面層)7が順次形成された構成となっている。ここで、ソリッド層6はシリコーンゴムからなり、チューブ層7はPFAからなる。一方、バックアップロール3は、鋼材からなる芯体8と、この芯体8の外周に形成された,平滑化されたフッ素樹脂製の表面層9とから構成されている。塗布ロール1の近傍には、塗布ロール1のチューブ層7に塗膜形成用の塗布液を注出する塗布液注出装置10が配置されている。塗布液注出装置10は、塗布液11を収容し先端にノズル12を備えたタンク13と、タンク13内の塗布液11を塗布ロール1のチューブ層7に供給するためのポンプ等の液供給手段(図示せず)と、ノズル12をチューブ層7に対し接近自在に移動させるためのピストン等の駆動機構(図示せず)を備えている。
【0018】
こうした構成のロール塗布装置を用いて被処理物2に薄膜を形成するには、次のようにして行う。即ち、まず、塗布ロール1とバックアップロール3間に被処理物2を挟んだ状態で、駆動機構により塗布液注出装置10のノズル12を回転する塗布ロール1に近づけ、液供給手段によりタンク13内の塗布液を塗布ロール1のチューブ層7に塗布する。この後、バックアップロール3の押圧により被処理物2を介して塗布ロール1と被処理物を圧接させることで塗布液を転写させ、被処理物2に均一で薄い膜を形成する。なお、矢印Aは被処理物の移動方向を示す。
【0019】
実施例1に係るロール塗布装置によれば、シリコーンゴムスポンジ層5とチューブ層7間に厚さ1mm、硬さ40°のソリッド層6を設けた薄膜形成用塗布ロール1を具備することにより、被処理物2にチューブ層7の変形に起因するしわ状の模様の発生を抑制できるとともに、被処理物2の凹凸や傾き、対向するロール1,3の押圧などのロール間の圧力ムラに起因する塗布厚みムラを抑制でき、乾燥後の塗布膜を1μm以下になるような均一な極薄に形成することができる。
【0020】
(実施例2)
図2は、本発明に係る薄膜形成用塗布ロールを備えたロール塗布装置の一例を示す。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
本実施例2のロール塗布装置は、実施例1と比べて塗布液11を被処理物2に塗布し、その後塗布ロール1とバックアップロール3により塗布液を薄い膜にする以外は、実施例1と同様の構成となっている。
実施例2によれば、実施例1とほぼ同様な効果を有する。
【0021】
(比較例)
比較例に係る薄膜形成用塗布ロールは、実施例1のロールと比較して、ソリッド層を除いた以外は、実施例1のロールと同じ構成となっている。また、被処理物に薄い膜を形成する方法は、実施例1の場合と同様である。
【0022】
上記実施例1,2及び比較例に係る薄膜形成用塗布ロールを備えたロール塗布装置を用いて被処理物としてのガラス基板上に薄膜を形成し、その薄膜の厚みムラを画像処理により評価したところ、夫々図3〜図5に示す結果が得られた。なお、塗布液には、有機染料を有機溶媒で固形分が30wt%になるように希釈したものを用いた。塗布後の薄膜はそのまま風乾し、乾燥後の厚みを原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定するとともに塗布面の画像情報をデータ化し、色の濃い部分/薄い部分を2値化することで形成された膜の厚み分布を評価した。ここで、塗布液に染料を用いているので、色の薄い部分は膜厚が小さく、色の濃い部分は膜厚が大きくなっている。このことは、AFMでの実測値と級鋼分析の測定値の比較から確認している。なお、図3〜図5において、紙面の横方向(矢印B方向)はロールの回転方向に対応しており、厚みの厚い部分14は横帯状のしわに相当する。事実、実施例1,2及び比較例に係るAFMによる薄膜の塗布厚みの平均値、薄膜の部分(黒い部分),厚みの厚い部分(白い部分)の面積、全体に対する黒い部分の面積比率を求めた結果、下記表1に示すとおりであった。なお、図3〜図5では、厚みが極端に異なる部分を検出しており、当該事例では色の薄い部分(厚みの薄い部分)が黒になるように処理している。
【表1】

【0023】
上記画像処理の試験により、実施例1,2に夫々対応する図3,図4では薄膜の部分14の領域は、比較例に対応する図5に比べて著しく少ないことが分かる。本発明の場合は上述したような厚み及び硬さを有したソリッド層の存在により、比較例の場合と比べ、しわ模様の発生が抑制されており、その結果として塗膜の厚み均一性が大幅に改善されていることがわかる。なお、本試験の画像処理では、特定色のみを注出し、エッヂ検出を行ってからコントラストを調整し、2値化することで図3〜図5のような画像を得た。この画像は塗布物の色が濃い部分と薄い部分を明確に切り分けたものに相当する。
【0024】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0025】
具体的には、上記実施例では、ソリッド層上に非粘着性のチューブ層を設けた場合について述べたが、これに限らず、非粘着性のコーティング層を設けてもよい。また、ソリッド層の厚さ、硬さも上記実施例で記載した数値に限らない。更に、ロール塗布装置において、塗布ロール及びバックアップロールの下流側に、被搬送物上に形成した薄膜を乾燥するヒータ等からなる乾燥装置を配置してもよい。
【0026】
更には、上記実施例では、塗布ロールとバックアップロールを用いて塗布ロールと被処理物を圧接させる場合について述べたがこれに限らず、例えば図6に示すように薄膜形成用塗布ロール1に対して2つの張架ロール16a,16bを配置し、塗布ロール1と張架ロール16a,16b間に被処理物2を圧接する場合、あるいは図7に示すように薄膜形成用塗布ロール1の下に架台17を設け、塗布ロール1を架台17側に押し付けて被処理物2を圧接する場合が挙げられる。
【符号の説明】
【0027】
1…薄膜形成用塗布ロール、2…被処理物、3…バックアップロール、4,8…芯体、5…シリコーンゴムスポンジ層、6…ソリッド層、7…チューブ層、9…表面層、10…塗布液塗布装置、12…ノズル、14…薄膜の部分、15…厚みの厚い部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯体と、この芯体の外周に設けられたスポンジ層と、このスポンジ層の外周に設けられたソリッド層と、このソリッド層の外周に設けられた,塗布液に対して非粘着性及び非接着性をもった表面層とを具備することを特徴とする薄膜形成用塗布ロール。
【請求項2】
請求項1記載の薄膜形成用塗布ロールを用いて被処理物に薄膜を形成する塗布方法であり、前記塗布ロールまたは被処理物に薄膜形成用の塗布液を塗布した後、塗布ロールと被処理物を圧接させた状態で被処理物を通すことで被処理物に薄膜を形成することを特徴とする塗布方法。
【請求項3】
請求項1記載の薄膜形成用塗布ロールと、この塗布ロールに被処理物を圧接した状態で通す圧接手段と、前記塗布ロール又は被処理物に塗膜形成用の塗布液を注出する塗布液注出装置とを具備することを特徴とするロール塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−230102(P2011−230102A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105630(P2010−105630)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000142436)株式会社金陽社 (25)
【Fターム(参考)】