説明

薄膜歪み電気特性評価装置及び薄膜歪み電気特性評価方法

【課題】 本発明は、このような状況を鑑みてなされたもので、簡易な構成で、従来よりも詳細に薄膜の電気特性の評価を行うことができる薄膜歪み電気特性評価装置及び薄膜歪み電気特性評価方法を提供するものである。
【解決手段】薄膜Fを支持する支持部としての試料台支持部2と、薄膜Fを押圧し、当該薄膜Fを歪んだ状態にさせる押圧手段としてのピエゾアクチュエータ6と、ピエゾアクチュエータ6による押圧により薄膜Fが歪む際の薄膜Fの電気抵抗(電気特性)を測定する測定手段としての測定制御・解析部7とを備えるようにした。これにより薄膜歪み電気特性評価装置1では、ピエゾアクチュエータ6により薄膜Fを単に押圧して歪ませる簡単な構成を用いつつ、当該ピエゾアクチュエータ6による薄膜Fの歪ませ初めから、当該薄膜Fの歪ませ終了時までの途中過程における当該薄膜Fの電気抵抗を測定でき、かくして簡易な構成で、従来よりも詳細に薄膜の電気抵抗の評価を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜歪み電気特性評価装置及び薄膜歪み電気特性評価方法に関し、例えば、薄膜の電気特性を測定する際に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜に歪みを与える方法として、例えば、非特許文献1では、薄膜を作製した基板に高圧発生装置を用いて高圧の静水圧を供給しながら、当該薄膜の電気特性を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】エス・エル・バドッコ(S. L. Bud’ko)、フィジカル・レビュー・ビー(Physical Review B)、1992年、第46巻、p.1257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の方法では、一般的に大型で構造が複雑な高圧発生装置を用いる必要があるという問題があった。また、このような高圧発生装置を用いて、高圧を維持したまま薄膜の電気特性を測定する際には、複雑な手順が必要となり詳細に薄膜の電気特性の評価を行い難いという問題があった。
【0005】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたもので、簡易な構成で、従来よりも詳細に薄膜の電気特性の評価を行うことができる薄膜歪み電気特性評価装置及び薄膜歪み電気特性評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明において、請求項1記載の発明では、薄膜を支持する支持部と、前記薄膜を押圧し、該薄膜を歪んだ状態にさせる押圧手段と、前記押圧手段による押圧により前記薄膜が歪む際の該薄膜の電気特性を測定する測定手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2記載の発明では、前記薄膜は基板に形成されており、前記基板に前記薄膜を加熱する加熱手段を備え、前記測定手段は前記加熱手段を制御することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3記載の発明では、前記基板は、前記薄膜の温度を測定する温度測定手段を備え、前記測定手段は、前記温度測定手段により測定された前記薄膜の温度を基に、前記加熱手段を制御して該薄膜を所定の温度に加熱させることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4記載の発明では、前記薄膜の表面に電極が蒸着されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5記載の発明では、前記支持部はスペーサを備え、前記押圧手段で前記薄膜が押圧されると、前記スペーサを支点として前記薄膜を歪ませることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6記載の発明では、前記支持部が第1半体と第2半体とからなり、調節用ネジが調節されることにより前記第1半体と前記第2半体との間の距離が調節され、前記第1半体と前記第2半体とが固定用ネジにより螺合されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7記載の発明では、前記支持部が、ステンレス材からなることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8記載の発明では、前記薄膜の表面にレーザ光を照射するレーザ発光部と、前記薄膜の表面から反射された反射レーザ光を受光する波面センサとを備え、前記測定手段は、前記波面センサから受け取る受光データに基づいて前記薄膜の歪みを算出することを特徴とする。
【0014】
また、請求項9記載の発明では、前記薄膜は試料台に設けられており、前記試料台は、該試料台に設けられた配線によって前記薄膜と前記測定手段とを電気的に接続していることを特徴とする。
【0015】
また、請求項10記載の発明では、支持部に支持された薄膜を押圧手段によって押圧し、該薄膜を歪んだ状態にさせる押圧ステップと、前記押圧手段による押圧により前記薄膜が歪む際の該薄膜の電気特性を、測定手段で測定する測定ステップとを備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項11記載の発明では、前記薄膜が基板に形成されており、前記基板の加熱手段により前記薄膜を加熱する加熱ステップと、前記測定手段により前記加熱手段を制御する制御ステップとを備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項12記載の発明では、前記基板に設けられた温度測定手段によって前記薄膜の温度を測定する測定ステップと、前記温度測定手段により測定された前記薄膜の温度を基に、前記測定手段によって前記加熱手段を制御して該薄膜を所定の温度に加熱させる加熱ステップとを備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項13記載の発明では、前記測定ステップでは、前記薄膜の表面に蒸着された電極を介して前記薄膜の電気特性を測定することを特徴とする。
【0019】
また、請求項14記載の発明では、前記押圧ステップでは、前記押圧手段で前記薄膜を押圧した際に、前記支持部に備えたスペーサを支点として前記薄膜を歪ませることを特徴とする。
【0020】
また、請求項15記載の発明では、調節用ネジを調節して、前記支持部を構成する第1半体と第2半体とを固定用ネジにより螺合することにより前記第1半体と前記第2半体との間の距離を調節する調節ステップを備えることを特徴とする。
【0021】
また、請求項16記載の発明では、前記押圧ステップでは、前記支持部がステンレス材からなることを特徴とする。
【0022】
また、請求項17記載の発明では、レーザ発光部によって前記薄膜の表面にレーザ光を照射する照射ステップと、前記薄膜の表面から反射された反射レーザ光を波面センサで受光する受光ステップと、
前記波面センサから受け取る受光データに基づいて、前記測定手段により前記薄膜の歪みを算出する算出ステップとを備えることを特徴とする。
【0023】
また、請求項18記載の発明では、前記測定ステップでは、試料台に設けられた前記薄膜と、前記測定手段とが前記試料台の配線により電気的に接続され該配線を介して前記薄膜の電気特性を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明による請求項1及び請求項10によれば、押圧手段により薄膜を単に押圧して歪ませる簡単な構成を用いつつ、当該押圧手段で薄膜の歪ませ初めから、当該薄膜の歪ませ終了時までの途中過程における当該薄膜の電気特性を測定でき、かくして簡易な構成で、従来よりも詳細に薄膜の電気特性の評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】薄膜歪み電気特性評価装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】薄膜歪み電気特性評価装置の全体構成を示す概略図において、ピエゾアクチュエータに押圧されることで薄膜が歪んでいる状態の図である。
【図3】レーザ発光部からみた薄膜歪み電気特性評価装置の全体図である。
【図4】試料台支持部の第1半体の正面図及び背面図である。
【図5】本実施の形態による試料台と試料の配置の順番を示した模式図である。
【図6】図4の模式図から製作した試料台の図である。
【図7】波面センサの原理を模式的に示した図である。
【図8】測定制御・解析部の構成図である。
【図9】波面センサで測定した薄膜の歪みを画像化した図である。
【図10】薄膜の歪みを一定にした状態で、温度を連続的に変化させながら電気抵抗を測定した場合の測定結果をプロットした図である。
【図11】1kHzで薄膜を歪ませた状態での電気抵抗の変化率と歪みとをプロットした図である。
【図12】1Hz〜1kHzまで薄膜を変動させた状態で、歪みの変化率に対する電気抵抗の変化率と、電気抵抗の変化と歪みの変化との位相差をプロットした図である。
【図13】ピエゾアクチュエータに供給される電圧の変化と、波面センサがピエゾアクチュエータにより歪まされる薄膜の表面からの反射レーザ光を受光した光量の変化をプロットした図と、レーザ発光部に供給される電圧の変化と、波面センサがレーザ光を受光した光量の変化をプロットした図である。
【図14】1Hz〜1kHzまで薄膜を変動させた状態における、膜厚の違いよる歪みの変化率に対する電気抵抗の変化率と位相差とをプロットした図である。
【図15】図12のグラフから考察され得る薄膜の状態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面に基づいて、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0027】
(1)薄膜歪み電気特性評価装置の全体構成
図1及び図2において、1は薄膜歪み電気特性評価装置を示し、この薄膜歪み電気特性評価装置1は、試料台3を着脱自在に支持する試料台支持部2と、試料台3に設けた試料Mを所望の形状に変形させるためのピエゾアクチュエータ6と、測定制御・解析部7とを備え、試料台3とピエゾアクチュエータ6とが配線を介して測定制御・解析部7に接続された構成を有する。
【0028】
ここで、この薄膜歪み電気特性評価装置1は、押圧手段としてのピエゾアクチュエータ6の先端部11で試料Mを押圧して歪ませた状態で静止させたり、あるいは、ピエゾアクチュエータ6の先端部11を一定周期で伸縮させて当該先端部11で試料Mを振動させた状態等、ピエゾアクチュエータ6により試料Mを種々の状態に変形させ、このときの試料Mの電気抵抗(電気特性)を測定手段としての測定制御・解析部7により算出し得るようになされている。
【0029】
実際上、支持部としての試料台支持部2には、内部に試料台3を収納する収納空間が形成されており、所定位置に試料台3が固定されることにより、試料台3のSiヒータHと試料Mとが収納空間内に配置され得る。この実施の形態の場合、試料台支持部2は、第1半体8と第1半体9とからなり、第1半体8側の内壁と薄膜Fとの間にセラミックスペーサC1,C2が設けられている。セラミックスペーサC1は、薄膜Fの一側部側において内壁と薄膜Fとに密着するように設けられているとともに、セラミックスペーサC2は、薄膜Fの一側部側と対向する他側部側において内壁と薄膜Fとに密着するように設けられている。
【0030】
また、試料台支持部2には、一面側に形成された貫通孔を介して収納空間にピエゾアクチュエータ6の先端部11が位置決めされ得る。これにより、試料台支持部2の収納空間には、ピエゾアクチュエータ6の先端部11が試料台3のSiヒータH側に配置されるとともに、当該先端部11がセラミックスペーサC1,C2間に配置され得る。このとき、SiヒータHとピエゾアクチュエータ6の先端部11との間には、セラミックスペーサC3が配置される。これにより、薄膜Fは、試料MがSiヒータH側からピエゾアクチュエータ6の先端部11によりセラミックスペーサC3を介して押されると、セラミックスペーサC1,C2を支点とし、セラミックスペーサC3を作用点として歪むように変位し得る。
【0031】
ピエゾアクチュエータ6は、測定制御・解析部7から電圧信号が与えられることで、先端部11を試料Mに近づける方向に突出させた状態で静止させたり、あるいは電圧信号に基づいて先端部11を試料Mに近づける方向及び遠ざける方向に往復運動させたりするようになされている。
【0032】
因みに、ピエゾアクチュエータ6は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT, lead(Pb) zirconate(Z) titanate(T))などのピエゾ圧電効果を有するピエゾ素子とケーシングとを備え、ピエゾ素子をnm(ナノメータ)から数百μm(マイクロメータ)の範囲で精密に位置決めさせる。このピエゾ素子は、電圧が供給されることで、ピエゾ素子の結晶の長さが変化して強いトルクが発生しアクチュエータとして機能する。
【0033】
これにより、ピエゾアクチュエータ6は、細かく制御された電圧信号を受けることで、ピエゾ素子の伸縮が精密に制御される。その結果、ピエゾアクチュエータ6の先端部11は、測定者の所望する状態にまで伸長したり、又は所定周期で往復運動し得るようになされている。このようにしてピエゾアクチュエータ6は、測定制御・解析部7からの電圧信号に応じて動作し、試料台3に設置されたSiヒータHと試料Mとを、先端部11によってセラミックスペーサC3を介し押圧し得るようになされている。
【0034】
例えば、試料Mは、ピエゾアクチュエータ6の先端部11が試料Mに近づく方向に伸長したとき、図2に示すように、試料台支持部2の収納空間において先端部11によりセラミックスペーサC3を介しSiヒータH側から押されることで、セラミックスペーサC1,C2を支点とし、セラミックスペーサC3を作用点として歪まされる。なお、スペーサとしてのセラミックスペーサC1,C2,C3は、円柱形状のセラミック材で形成される。
【0035】
測定制御・解析部7は、試料台3に接続されたケーブルを介して試料Mに対して電流を供給し、これにより試料Mに生じる電圧降下をホイートストンブリッジ回路などで増幅して電圧を検出してこれを電圧検出信号として取得し得る。これにより測定制御・解析部7は、電圧検出信号に基づく電圧値と、薄膜Fに供給する電流値とから薄膜Fの電気抵抗を算出し得るようになされている。かくして、測定制御・解析部7は、薄膜Fに外力を与えずに変形させていない状態や、ピエゾアクチュエータ6の先端部11で薄膜Fを押して歪ませた状態のまま静止させ(以下、これを静的状態とも呼ぶ)、このときの薄膜Fの電気抵抗を算出して、この結果を基に測定者に対し薄膜Fの電気特性を評価させ得る。これに加えて測定制御・解析部7は、ピエゾアクチュエータ6の先端部11を周期的に伸縮させて先端部11により薄膜Fを振動させた状態(以下、これを動的状態とも呼ぶ)とし、このときの薄膜Fの電気抵抗を算出して、この結果を基に測定者に対し薄膜Fの電気特性を評価させ得る。
【0036】
また、測定制御・解析部7は、加熱手段としてのSiヒータHに温度制御信号を送出し得るようになされており、当該温度制御信号に基づいてSiヒータHを加熱し得る。測定制御・解析部7は、温度測定手段としてのサーミスタ17から電気抵抗を取得することで、SiヒータHの加熱温度を検知し、これを基に温度制御信号を調整して試料Mを所定温度に制御し得るようになされている。
【0037】
かかる構成に加えて薄膜歪み電気特性評価装置1は、レーザ光L1を照射するレーザ発光部4と、反射レーザ光L2を受光する波面センサ5とを備えており、波面センサ5と測定制御・解析部7とがケーブルで接続された構成を有する。実際上、試料台支持部2の第1半体8には、正面にレーザ光入出窓13が設けられており、当該レーザ光入出窓13からレーザ光L1及び反射レーザ光L2が入反射するようになされている。
【0038】
この実施の形態の場合、レーザ光入出窓13は、セラミックスペーサC1,C2間に形成されており、ピエゾアクチュエータ6の先端部11で試料Mが押されて歪んだ際に、当該薄膜Fの歪んだ領域(例えば3.2mm×3.2mmの領域)がレーザ光入出窓13の領域内に位置するように形成されている。この場合、レーザ発光部4は、レーザ光入出窓13から露出した試料Mの表面に向けて所定角度からレーザ光L1を照射し得る。波面センサ5は、試料表面で反射される反射レーザ光L2を受光し得るように配置されている。
【0039】
レーザ発光部4は、試料台支持部2の正面斜め方向に設置されており、試料Mに対して斜め方向からレーザ光L1を照射し得るようになされている。波面センサ5は、レーザ光L1の入射角に対する反射角の方向に設置されており、薄膜Fで反射した反射レーザ光L2を受光し、これにより得られた受光データを測定制御・解析部7へ送出する。
【0040】
測定制御・解析部7は、波面センサ5から受光データを受け取ると、当該受光データに基づいて反射レーザ光L2の焦点のずれ量を検出し、その検出結果を基に3次元の立体モデルとして薄膜Fの表面形状を立体的に表した画像を表示部(後述する)に表示する。また、測定制御・解析部7は、このとして薄膜Fの表面形状を立体的に表した3次元立体画像を生成する際に算出される薄膜Fの歪み量(薄膜Fの表面のうちどの領域がどの程度膨出しているかを示す数値)を基に、ピエゾアクチュエータ6で薄膜Fを振動させた状態における薄膜Fの変形過程を、測定者に確認させつつ、当該測定者に対し薄膜Fの温度変化と電気抵抗の変化との関係をも提示し得るようになされている。
【0041】
(2)試料台支持部の構成
図3は、図1及び図2において、概念的に図示した試料台支持部2、試料台3、波面センサ5及びピエゾアクチュエータ6を実際に製造したときの概略図である。図3に示すように、試料台支持部2は、第1半体8と第2半体9とからなり、第1半体正面8aにレーザ光入出窓13と、一側端側に試料台挿入口12とが設けられている。
【0042】
また、試料台支持部2は、第1半体8にのみ設けられた調節用ネジ穴から調節用ネジ10bを挿入させ、調節用ネジ10bの先端を第1半体背面8bから突出させて第2半体9の面に当接させた状態で、第1半体8の固定用ネジ穴と第2半体9の固定用ネジ穴とを対向させ、これらの固定用ネジ穴に第2半体9側から固定用ネジ10aを螺合させることにより、第1半体8と第2半体9とが所定の距離Dを空けて一体となるように構成されている。この試料台支持部2は、調節用ネジ10bが手動で調節されることで、距離Dを長くしたり、或いは短くしたり調節し得るようになされている。
【0043】
実際上、第1半体8には、距離Dの調節用ネジ10bが挿入される調節用ネジ穴が、第1半体正面8aの一側部側に1つ設けられ、第1半体正面8aの一側部と対向する他側部側に試料台挿入口12を避けて、試料台3を挟み込むようにして2つ設けられている。また、第1半体8と第2半体9には、固定用ネジ穴が互いに対応した位置に数カ所設けられる。なお、この実施の形態では、固定用ネジ穴が試料台3の一側と他側とに2つずつ設けられ、固定用ネジ10aにより第1半体8と第2半体9とが螺合される。
【0044】
また、図4(A)及び図4(B)に示すように、第1半体8は、ステンレス材などの金属製からなり、所定の厚みを有するほぼ円盤状に形成され内部に中空部を有する。第1半体8は、周側部から第1半体8内部に試料台3が挿入し得るように、試料台3の形状に合わせて周側部が長方形状に形成された試料台挿入口12を有するとともに、第1半体背面8bに試料台挿入口12と連通した開口部が形成されている。この開口部には、試料台3を挿入した際に、試料台3を固定するための固定部14が設けられており、固定部14に試料台3がネジ留めされる。
【0045】
図3に示す第2半体9は、ステンレス材などの金属製からなり、所定の厚みを有するほぼ円盤状に形成され、押圧手段取付孔15が第2半体背面9a中央近傍に穿設されている。この押圧手段取付孔15は、ピエゾアクチュエータ6が取り付けられるように形成されている。また、第2半体9は、第1半体8と固定用ネジ10aで螺合することにより、第1半体正面8aの中央近傍のレーザ光入出窓13と第2半体背面9aの中央近傍の押圧手段取付孔15とが対向するように配置され得る。
【0046】
(3)試料台の構成
試料台3は、図5に示すように、凸型形状に形成された基台3cを有し、当該基台3cは、一端側に配置された長方形状の入出力手段としてのコネクタ部3aと、他端側に配置され、コネクタ部3aから突き出した長方形状の試料台基板部3bとからなる。
【0047】
基台3cには、SiヒータHに電流を供給するSiヒータ用配線P1,P2と、サーミスタ17の電気抵抗を測定するサーミスタ用配線Q1,Q2と、薄膜Fに電流を供給して当該薄膜Fに流れた電流を電圧検出信号として測定制御・解析部7へ送出するための電気特性測定用配線R1〜R4とが、コネクタ部3aから試料台基板部3bに亘って設けられている。
【0048】
なお、この実施の形態の場合、試料台3には、Siヒータ用配線P1,P2が試料Mの両端部に配置されているとともに、サーミスタ用配線Q1,Q2がSiヒータ用配線P1,P2間に配置されている。また、試料台3には、Siヒータ用配線P1,P2間に、電気特性測定用配線R1〜R4が薄膜Fの長手方向に沿って所定間隔を空けて配置されている。
【0049】
試料台基板部3bには、試料M及びSiヒータHを設置する長方形状の試料設置部20が先端側に設けられており、当該試料設置部20の中心付近に楕円形状に形成された挿入孔16が穿設されている。この挿入孔16は、試料台基板部3bの厚みを貫通するように形成され、試料台3の背面からピエゾアクチュエータ6の先端部11が挿入され得るようになされている。
【0050】
ここで、試料設置部20には、熱伝導性を有する接着剤であるPtペースト21が、Siヒータ用配線P1,P2の先端近傍に塗布されており、当該Ptペースト21を介してSiヒータHが接着されている。ここでSiヒータHは、試料設置部20と同じ長方形状に形成されていることから、当該試料設置部20に穿設された挿入孔16を覆うように配置され得る。SiヒータHは、Siヒータ用配線P1,P2からPtペースト21を介して供給される電流によって発熱し得るようになされている。
【0051】
また、このSiヒータHには、熱伝導性と絶縁性とを有する接着剤であるアクリルペースト22が塗布されており、当該アクリルペースト22を介して試料Mが接着されている。これにより試料Mは、SiヒータHで発熱された熱がアクリルペースト22を介して基板Sと薄膜Fとに伝導されるようになされている。なお、アクリルペースト22は、絶縁性を有していることから、SiヒータHに供給される電流が試料Mに流れ込むのを防止し得るようになされている。これにより、薄膜Fは、SiヒータHにより加熱され得る。
【0052】
図6は、図5において概念的に示した試料台3を実際に製造したときの図である。Siヒータ用配線P1,P2は、試料設置部20を通って試料台基板部3bの先端近傍まで延伸されているとともに、比較的太く形成され、太くした分だけ電流が流れ易くなっている。
【0053】
また、電気特性測定用配線R1〜R4のうち、中央付近で並んだ2本の電気特性測定用配線R2,R3は、直線状に形成され試料設置部20の近傍まで延伸して設けられている。またサーミスタ用配線Q1と電気特性測定用配線R2間に配置された電気特性測定用配線R1は、コネクタ部3aの近傍から電気特性測定用配線R2に近づくように斜め方向に延伸された後、電気特性測定用配線R2と平行に配置され、先端近傍で電気特性測定用配線R2から離れる方向に延伸される。また、電気特性測定用配線R4は、電気特性測定用配線R1と対称的な形状を有しており、電気特性測定用配線R3に近づくように延伸された後、電気特性測定用配線R3と平行に配置され、先端近傍で電気特性測定用配線R3から離れる方向に延伸される。
【0054】
このように、サーミスタ用配線Q1,Q2は、試料台基板部3bで電気特性測定用配線R1,R2側に近づくように中央付近に寄せて配置され、Siヒータ用配線P1,P2と電気特性測定用配線R1,R2と間に形成された広い領域に形成し得、その分だけ線幅を広くして接続配線を容易に取り付け得るようになされている。
【0055】
サーミスタ用配線Q1の先端には、試料台基板部3bの先端近傍にハンダ23bで固定されたリード線24aの一端が、ハンダ23aで接続され得る。また、サーミスタ用配線Q2の先端には、試料台基板部3bの先端近傍にハンダ23bで固定されたリード線24bの一端が、サーミスタ17を介してハンダ23cで接続され得る。
【0056】
この実施の形態の場合、各電気特性測定用配線R1〜R4の先端は、並列に配置され、中央付近の線幅よりも線幅が大きな四辺状(いわゆる「Pad形状」)に形成されることで、接続手段としてのアルミボンディングワイヤW1〜W4の一端を容易に接続し得るようになされている。
【0057】
また、この実施の形態の場合では、アルミボンディングワイヤW1〜W4が薄膜Fの表面に直接接続され、他方が電気特性測定用配線R1〜R4に接続されている。これにより、試料台3では、電気特性測定用配線R1〜R4のいずれか一つに測定制御・解析部7から電流が供給され、残りの他の電気特性測定用配線R1、R2、R3又はR4における電圧が測定制御・解析部7により測定され得るようになされている。
【0058】
例えば試料台3では、電気特性測定用配線R1に測定制御・解析部7から所定の電流が供給されることで、アルミボンディングワイヤW1を介して、薄膜Fに所定の電流が供給され得る。すなわち試料台3では、アルミボンディングワイヤW1から薄膜Fを流れた電流がアルミボンディングワイヤW2〜W4に流れ、アルミボンディングワイヤW2〜W4にそれぞれ接続された電気特性測定用配線R2〜R4から電流を測定制御・解析部7に供給し得る。このとき、測定制御・解析部7は、アルミボンディングワイヤW1及びアルミボンディングワイヤW2間の電圧降下と、アルミボンディングワイヤW1及びアルミボンディングワイヤW3間の電圧降下と、アルミボンディングワイヤW1及びアルミボンディングワイヤW4間の電圧降下とを検出し得るようになされている。
【0059】
因みに、他の実施の形態として、この薄膜Fには、その表面に図示しない、電極としてのアルミ電極を設け、アルミ電極にアルミボンディングワイヤW1〜W4を接続し得るようにして良く、この場合でも、薄膜Fの任意の数点間での電圧降下を検出し得る。
【0060】
(4)波面センサの構成
図7(A)に示すように、波面センサ5は、微細なマイクロレンズ30aがマトリクス状に配置されたマイクロレンズアレイ30を有し、当該マイクロレンズアレイ30に対向するように配置されたCCDセンサ31を備えている。
【0061】
CCDセンサ31には、複数のセルから構成されたセルブロック32がマトリクス状に設けられており、各セルブロック32がマイクロレンズアレイ30のマイクロレンズ30aにそれぞれ対向するように配置され得る。これによりセルブロック32は、マイクロレンズアレイ30を介して反射レーザ光L2を受光し得るようになされている。
【0062】
波面センサ5は、例えば表面が平坦な薄膜Fから平面波となった反射レーザ光L2を受光すると、反射レーザ光L2がマイクロレンズアレイ30を透過することにより、マイクロレンズ30aに対向した各セルブロック32毎にその中心付近に反射レーザ光L2の焦点が合わせられ得る。
【0063】
これに対して波面センサ5は、図7(B)に示すように、例えば表面が歪んだ薄膜Fから当該薄膜Fの歪みに応じて波面が歪んだ反射レーザ光L2を受光すると、反射レーザ光L2が各マイクロレンズ30aを透過する際に当該反射レーザ光L2がそれぞれ異なった入射角となり、マイクロレンズ30aに対向した各セルブロック32で受光した反射レーザ光L2の焦点位置が、セルブロック32の中心からずれ得る。
【0064】
波面センサ5は、各セルブロック32における反射レーザ光L2の焦点位置をそれぞれ検知し、それら検知結果を焦点位置データとして測定制御・解析部7に送出するようになされている。測定制御・解析部7は、波面センサ5から焦点位置データを受け取ると、セルブロック32の中心位置と、焦点位置データを基に検出したセルブロック32での反射レーザ光L2の焦点位置とを比較することで、薄膜Fがどの程度歪みがありどのように変形しているかを測定し得るようになされている。
【0065】
(5)測定制御・解析部の構成
次いで、ここでは、測定制御・解析部7について以下説明する。測定制御・解析部7は、図8に示すように、波面解析部41と、データ解析部42と、操作部43と、表示部44とが、各種機能を統括的に制御する制御部45に対して接続された構成を有する。
【0066】
ここで制御部45は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Processing)、ROM(Read Only Memory)、固定記憶装置、外部インターフェイスで構成されており、固定記憶装置又はROMに格納された基本プログラム、波面センサ用画像解析プログラム、及び電圧信号等のデータを解析するプログラム等の各種プログラムを、操作部43を介して入力された操作命令に応じて、適宜RAMに読み出すことにより所定の処理を実行し得るようになされている。
【0067】
先ず始めに、薄膜Fに対して一定の歪みを与えて静止させた状態(静的状態)とし、このときの薄膜Fの電気抵抗を算出する場合について以下説明する。制御部45は、測定者により操作部43から入力される操作命令に基づいて電圧信号を生成し、これをピエゾアクチュエータ6に供給する。これにより制御部45は、電圧信号に応じた長さだけピエゾアクチュエータ6の先端部11を突出させ、この状態で静止させ得る。このようにして制御部45は、ピエゾアクチュエータ6の先端部11を所定の突出位置で静止させ、当該先端部11によって薄膜Fを押圧させて薄膜Fを歪ませた状態を維持させ得る。
【0068】
このとき、制御部45は、試料台3に所定の電流を供給することにより、試料台3の薄膜Fに対して電流を流し、薄膜Fに流れた電流を電圧検出信号として試料台3から受け取り得る。データ解析部42は、制御部45から電圧検出信号を受け取り、薄膜Fにおいて電圧降下された電圧値を検出し得る。データ解析部42は、試料台3へ供給された電流の電流値を制御部45から受け取り、当該電流値と、電圧検出信号から検出した電圧値とから薄膜Fの電気抵抗を算出し得る。
【0069】
また、制御部45は、各セルブロック32の焦点位置データを波面センサ5から受け取ると、これを波面解析部41に送出する。波面解析部41は、焦点位置データに基づいて、各セルブロック32毎に焦点位置を算出し、各焦点位置がセルブロック32の中心位置からどの程度ずれているかを示すずれ量を算出し得る。
【0070】
波面解析部41は、各セルブロック32のずれ量に基づいて、薄膜Fの表面のうちどの領域がどの程度膨出されているかを示す歪み量を算出し得る。この場合、例えば波面解析部41は、直交するX軸及びY軸を面方向とし、X軸及びY軸に直交するZ軸を高さ方向とした三次元グラフ上に、歪み量に基づいて薄膜Fの変形した表面の形状を表した立体的な画像を生成し、これを画像データとして表示部44に送出する。これにより表示部44には、薄膜Fの変形した表面の形状を表した立体的な画像(三次元画像)が表示され得る。
【0071】
これにより、測定者は、表示部44に表示された薄膜Fの三次元画像を基に、ピエゾアクチュエータ6によって薄膜Fの表面形状が所望の形状とされているか否かを判定できる。このとき測定者は、必要に応じて、操作部43を操作してピエゾアクチュエータ6を動作させ、先端部11で薄膜Fを押圧する程度を調整し当該薄膜Fを所望の表面形状に変形させることができる。
【0072】
このようにして、薄膜歪み電気特性評価装置1では、薄膜Fを所望する形状に歪ませた状態で静止させると共に、このときの薄膜Fの電気抵抗と歪み量とを関連付けてRAM又は固定記憶装置に記憶し得るようになされている。
【0073】
また、制御部45は、測定者により操作部43から所望の温度が設定されると、操作部43から温度設定命令を受け取り、当該温度設定命令に基づいた温度設定信号を試料台3に送出する。これにより、試料台3は、温度設定信号に基づいてSiヒータHを加熱し、当該SiヒータHによって試料Mを所定温度に加熱する。このとき制御部45は、サーミスタ17から温度信号を受け取り、当該温度信号に基づいて薄膜Fの温度を検知し、当該薄膜Fの温度と、操作部43から入力された設定温度とを比較して、薄膜Fの温度が設定温度になるまで、温度設定信号を生成し得る。
【0074】
このときにも制御部45は、試料台3から電圧検出信号を受け取っており、当該電圧検出信号に基づく電圧値と、薄膜Fに供給された電流の電流値とから所望の温度状態における薄膜Fの電気抵抗値を算出し、当該電気抵抗値と、歪み量と、温度とを関連付けてRAM又は固定記憶装置に記憶し得るようになされている。
【0075】
かかる構成に加えてデータ解析部42は、RAM等に記憶された歪み量を読み出して、予め入力された薄膜Fの膜厚値を、当該薄膜Fの歪み量で除算することにより歪み率δ(単位:%)を算出し得るようになされている。
【0076】
この実施の形態の場合、制御部45は、RAM等から電気抵抗とそのときの温度とを読み出し、当該電気抵抗と温度との関係を表したグラフを生成し、これを表示部44に表示させ得るようになされている。具体的に制御部45は、図10(A)に示すように、横軸を温度とし、縦軸を電気抵抗としたグラフを表示部44に表示させるようになされている。
【0077】
なお、図10(A)では、薄膜Fに外力を与えず歪ませていない薄膜F(歪み率δが0%)と、歪み率δが4.8×10−3%である薄膜Fと、最も歪んだ歪み率δが10×10−3%である薄膜Fとについて、それぞれ電気抵抗と温度との関係をプロットしたグラフを示している。
【0078】
因みに、薄膜歪み電気特性評価装置1では、図10(A)のグラフから歪み率δが0%、4.8×10−3%及び10×10−3%での各金属絶縁体転移温度(単位:K)を読み取り、当該歪み率δ0%の金属絶縁体転移温度と歪み率δ4.8×10−3%の金属絶縁体転移温度との差と、当該歪み率δ0%の金属絶縁体転移温度と歪み率δ10×10−3%の金属絶縁体転移温度との差とを算出し得るようにしてもよい。この場合、薄膜歪み電気特性評価装置1では、図10(B)に示すように、横軸に各歪み率δを示し、縦軸に歪み率δ0%を基準とした金属絶縁体転移温度の差△TMIを示すことで、歪み率δと金属絶縁体転移温度の差△TMIとの関係を示すこともできる。
【0079】
次に、ピエゾアクチュエータ6により薄膜Fを振動させて、当該薄膜Fの表面の歪みを連続的に変化させている状態(動的状態)で、薄膜Fの電気抵抗を算出する場合について以下説明する。この場合、制御部45は、最大電圧と、最小電圧と、電圧変化の周期とが測定者により操作部43から入力されると、これを操作命令として受け取り、当該操作命令に基づいて電圧信号を生成する。制御部45は、この電圧信号をピエゾアクチュエータ6に供給し、その電圧信号に応じてピエゾアクチュエータ6の先端部11を、薄膜Fに近づく方向及び薄膜Fから遠ざかる方向に往復運動させる。これにより、ピエゾアクチュエータ6は、先端部11で試料Mを一定周期で間欠的に押圧し、薄膜Fを所定の周期で振動させる。
【0080】
このとき、制御部45は、試料台3に所定の電流を流すことにより、試料台3において振動している薄膜Fに対して電流を流し、薄膜Fを流れた電流を電圧検出信号として試料台3から受け取り得る。データ解析部42は、制御部45から電圧検出信号を受け取り、薄膜Fにおいて電圧降下された電圧値を検出し、制御部45から受け取った試料台3へ供給された電流の電流値と、電圧検出信号から検出した電圧値とから、振動時における薄膜Fの電気抵抗を算出し得る。
【0081】
また、制御部45は、最大電圧がピエゾアクチュエータ6に供給されたときの薄膜Fのずれ量を受光データとして波面センサ5から受け取ると、これを波面解析部41に送出する。波面解析部41は、このずれ量におけるずれの方向と、セルブロック32の中心からずれた反射レーザ光L2の焦点位置までの距離とに基づいて、薄膜Fの歪み量を算出する。制御部45は、算出された歪み量を受け取り、これを最大歪み量としてRAM等に記憶する。
【0082】
同様にして、制御部45は、最小電圧がピエゾアクチュエータ6に供給されたときの薄膜Fのずれ量を受光データとして波面センサ5から受け取ると、これを波面解析部41に送出する。波面解析部41は、このずれ量におけるずれの方向と、セルブロック32の中心からずれた反射レーザ光L2の焦点位置までの距離とに基づいて、薄膜Fの歪み量を算出する。制御部45は、算出された歪み量を受け取り、これを最小歪み量としてRAM等に記憶する。
【0083】
因みに、薄膜歪み電気特性評価装置1は、設定された電圧変化の周期でピエゾアクチュエータ6を振動させる前に、先ず初めにピエゾアクチュエータ6に最大電圧を供給し、当該ピエゾアクチュエータ6により薄膜Fを歪ませたときの歪み量だけを算出し、次いでピエゾアクチュエータ6に最小電圧を供給し、当該ピエゾアクチュエータ6により薄膜Fを歪ませたときの歪み量だけを算出しておく。これにより薄膜歪み電気特性評価装置1では、仮に薄膜Fの振動が速すぎて当該薄膜Fの変位を波面センサ5で測定し難いときでも、予め算出しておいたピエゾアクチュエータ6に最大電圧が供給されたときの薄膜Fの歪み量と、ピエゾアクチュエータ6に最小電圧が供給されたときの薄膜Fの歪み量と、設定された電圧変化の周期とにより、薄膜Fの振動時における表面の歪み量の変化を推測したグラフを生成し得る。
【0084】
ここで制御部45は、薄膜Fを振動させて、その表面の歪みが連続的に変化している状態において、試料台3から電圧検出信号を受け取りとると、当該電圧検出信号から所定の間隔で検出した電圧値と、試料台3へ供給された電流の電流値とから所定の間隔で薄膜Fの電気抵抗を算出し、これを時間経過と対応付けてRAM等に記憶し得るようになされている。
【0085】
また、制御部45は、上述と同様に、測定者により操作部43から所望の温度が設定されると、操作部43から温度設定命令を受け取り、当該温度設定命令に基づいた温度設定信号を試料台3に送出してSiヒータHによって試料Mを所定温度に加熱し得る。制御部45は、このとき試料台3から受け取った電圧検出信号の電圧値を検出し、この電圧値と、試料台3へ供給された電流の電流値とから薄膜Fの電気抵抗値を算出し得、薄膜Fが振動している際において所望の温度状態での薄膜Fの電気抵抗を得られるようになされている。制御部45は、これら電気抵抗、電圧信号及び温度を関連付けながら時系列にRAM等に記憶し得るようになされている。
【0086】
かかる構成に加えてデータ解析部42は、RAM等に記憶された最大歪み量及び最小歪み量を読み出して、予め入力された薄膜Fの膜厚値を、当該薄膜Fの歪み量の最大値及び最小値でそれぞれ除算することにより、薄膜Fを振動させたときの最大歪み率δcmax(単位:%)と最小歪み率δcmin(単位:%)とをそれぞれ算出し得るようになされている。
【0087】
また、制御部45は、図11に示すようなグラフを生成するために、電気抵抗の変化率△R/Rp−pを算出し得るようになされている。この場合、制御部45は、RAM等に記憶されている最小の電気抵抗値(以下、これを最小電気抵抗率と呼ぶ)Rp−pを検索し、この最小電気抵抗値Rp−pをデータ解析部42に送出する。データ解析部42は、RAM等に記憶されている電気抵抗値を時系列に読み出して、各電気抵抗値から最小電気抵抗値Rp−pを減算し、この結果得られた減算抵抗値△Rを最小電気抵抗値Rp−pで除算して電気抵抗の変化率△R/Rp−pを算出する。
【0088】
データ解析部42は、図11に示すように、電気抵抗の変化率△R/Rp−pと、薄膜Fの振動時における変形の周期との関係を表したグラフを生成すると共に、薄膜Fの歪み率δと薄膜Fの振動時における変形の周期との関係を表したグラフを生成し、これらを表示部44に表示させ得るようになされている。なお、この場合、制御部45は、図11に示すように、横軸を薄膜Fの振動時における変形の周期とし、左側の縦軸を電気抵抗の変化率△R/Rp−pとし、右側の縦軸を歪み率δとしたグラフを表示部44に表示させるようになされている。因みに、図11では、正弦波aが薄膜Fの電気抵抗の変化率△R/Rp−pの時間変位を表し、正弦波bが歪み率δの時間変位を表している。
【0089】
次に、制御部45は、例えば図11に示すようなグラフから2つの正弦波a,bにおける最大値の位相差ΔΦ(単位:rad)を算出する。また、制御部45は、最大歪み率δcmaxと最小歪み率δcmin(単位:%)との差Δδ(単位:%)を算出した後、そのときの電気抵抗の変化率△R/Rp−pを、この差Δδで除算して、歪み率の変位に対する電気抵抗の変化率(△R/Rp−p)/Δδを算出する。
【0090】
制御部45は、操作部43から入力されたピエゾアクチュエータ6の電圧変化の周期毎にこの工程を実行し、ピエゾアクチュエータ6の各電圧変化の周期毎の位相差ΔΦを算出するとともに、ピエゾアクチュエータ6の各電圧変化の周期毎の歪み率の変位に対する電気抵抗の変化率(△R/Rp−p)/Δδを算出し得る。
【0091】
データ解析部42は、図12に示すように、ピエゾアクチュエータ6の各電圧変化の周期毎に、歪み率の変位に対する電気抵抗の変化率(△R/Rp−p)/Δδと、位相差ΔΦとを表したグラフを生成し、これらを表示部44に表示させ得るようになされている。この実施の形態の場合、図12では、横軸を周波数とし、左側の縦軸を歪み率の変位に対する電気抵抗の変化率(△R/Rp−p)/Δδとし、右側の縦軸を位相差ΔΦとしている。また図12において、点線は、歪み率の変位に対する電気抵抗の変化率(△R/Rp−p)/Δδと、ピエゾアクチュエータ6の電圧変化の周期との関係を示し、実線は、位相差ΔΦと、ピエゾアクチュエータ6の電圧変化の周期との関係を示したグラフである。
【0092】
(6)動作及び効果
以上の構成において、薄膜歪み電気特性評価装置1では、操作部43から入力される操作命令に基づいてピエゾアクチュエータ6に供給される電圧信号を一定にすることにより、当該電圧信号に応じて先端部11を薄膜Fに近づく方向に突出した状態で静止させることができる。これにより薄膜歪み電気特性評価装置1では、ピエゾアクチュエータ6の先端部11によりセラミックスペーサC3を介してSiヒータHを押圧し、SiヒータHに設けられた薄膜Fの表面に一定の歪みを与えることができる。
【0093】
このとき薄膜歪み電気特性評価装置1では、一定の歪みを与えた状態の薄膜Fに対して電流を供給し、当該薄膜Fに流した電流を電圧検出信号として測定制御・解析部7で受け取り、一定の歪みを与えた状態での薄膜Fにおける電流(電気特性)を測定できる。また、薄膜歪み電気特性評価装置1では、薄膜Fに供給した電流の電流値と、一定の歪みを与えた状態の薄膜Fからの電圧検出信号から検出した電圧値とを基に電気抵抗(電気特定)を算出し、一定の歪みを与えた状態の薄膜Fにおける電気抵抗(電気特定)を測定することができる。
【0094】
これに加えて、この薄膜歪み電気特性評価装置1では、操作部43の操作により、ピエゾアクチュエータ6に供給される電圧信号の最大電圧と、最小電圧と、電圧変化の周期とが設定されると、これにより生成された電圧信号に基づいてピエゾアクチュエータ6の先端部11を薄膜Fに近づく方向及び遠ざかる方向に一定周期で伸縮動作させることができる。これにより薄膜歪み電気特性評価装置1では、ピエゾアクチュエータ6の先端部11によりセラミックスペーサC3を介してSiヒータHを間欠的に押圧し、SiヒータHに設けられた薄膜Fの表面に一定周期で振動するような歪みを与えることができる。
【0095】
このとき薄膜歪み電気特性評価装置1では、一定周期で振動させた状態の薄膜Fに対して電流を供給し、当該薄膜Fに流した電流を電圧検出信号として測定制御・解析部7で受け取り、一定周期で振動させた状態での薄膜Fにおける電流(電気特性)を測定できる。また、薄膜歪み電気特性評価装置1では、薄膜Fに供給した電流の電流値と、一定周期で振動させた状態の薄膜Fからの電圧検出信号から検出した電圧値とを基に電気抵抗(電気特定)を算出し、一定周期で振動させた状態の薄膜Fにおける電気抵抗(電気特定)を測定することができる。
【0096】
このように薄膜歪み電気特性評価装置1では、ピエゾアクチュエータ6で薄膜Fを押圧する簡易な構成により、一定の歪みを与えた状態や、一定周期で振動させた状態に薄膜Fを自由に変形させ、この各変形時における薄膜Fの電気抵抗を測定することができ、かくして一定の歪みを与えた状態や、一定周期で振動させた状態での薄膜Fの歪みの程度と、このときの薄膜Fの電気抵抗との関係を表したデータから、薄膜Fの変形に対する電気抵抗の依存性を評価することができる。かくして、薄膜歪み電気特性評価装置1では、ピエゾアクチュエータ6を用いた簡易な構成により、精密に様々な状態に変形させた薄膜Fにおける電気特性を測定できるので、従来よりも詳細に薄膜Fの電気特性の評価を行うことができる。
【0097】
またこれに加えて、薄膜歪み電気特性評価装置1では、レーザ発光部4から照射されたレーザ光L1を薄膜Fの表面で反射させ、この反射された反射レーザ光L2を波面センサ5で受光し、波面センサ5の各セルブロック32において、薄膜Fの歪みにより生じる各セルブロック32の中心位置からの反射レーザ光L2の焦点位置のずれを解析する。この場合、薄膜歪み電気特性評価装置1は、その解析結果として、薄膜Fがどの程度歪んだか否かを示す歪み量や歪み率を算出し、例えば薄膜Fの歪み率と、このときの薄膜Fの電気抵抗との関係を示すことができ、薄膜Fの電気特定について一段と詳細に評価を行うことができる。
【0098】
また、薄膜歪み電気特性評価装置1では、試料にSiヒータHとサーミスタ17とを接着し、測定制御・解析部7と電気的に接続された構成にしたことにより、操作部43から所望の温度が設定されることで、SiヒータHを制御して薄膜Fを加熱する。これにより薄膜歪み電気特性評価装置1では、薄膜Fの温度を変えたときの当該薄膜Fの電気抵抗の測定を行うことができ、かくして薄膜Fの歪みと電気抵抗との関係に加えて、薄膜Fの温度と薄膜Fの電気抵抗との関係も詳細に評価を行うことができる。
【0099】
以上の構成によれば、この薄膜歪み電気特性評価装置1では、薄膜Fを支持する支持部としての試料台支持部2と、薄膜Fを押圧し、当該薄膜Fを歪んだ状態にさせる押圧手段としてのピエゾアクチュエータ6と、ピエゾアクチュエータ6による押圧により薄膜Fが歪む際の薄膜Fの電気抵抗(電気特性)を測定する測定手段としての測定制御・解析部7とを備えるようにした。これにより薄膜歪み電気特性評価装置1では、ピエゾアクチュエータ6により薄膜Fを単に押圧して歪ませる簡単な構成を用いつつ、当該ピエゾアクチュエータ6による薄膜Fの歪ませ初めから、当該薄膜Fの歪ませ終了時までの途中過程における当該薄膜Fの電気抵抗を測定でき、かくして簡易な構成で、従来よりも詳細に薄膜の電気抵抗の評価を行うことができる。
【0100】
(7)薄膜歪み電気特性評価
ここでは、薄膜歪み電気特性評価装置1を用いて、薄膜Fの電気特性の歪み依存性に関して解析を行った。ここで薄膜Fとしては、TiO(二酸化チタン)基板S上にVO(二酸化バナジウム)からなる膜厚10nmの薄膜Fを用いた。この場合、VOからなる薄膜Fは、基板温度450度及び酸素雰囲気、圧力3.35mTorr(1torr=1.333hPa)の条件で、PLD(Pulsed Laser Deposition)法により基板S上に作製した。基板Sは、試料台3の試料設置部20にSiヒータHとともに取り付けた。試料台3は、試料台支持部2の試料台挿入口12から当該試料台支持部2の収納空間に挿入して固定部14で固定した。
【0101】
この測定では、薄膜Fを全く歪ませない状態(歪み率δ0%)と、ピエゾアクチュエータ6により薄膜Fの所定位置を歪み率δ4.8×10−3%で歪ませた状態と、ピエゾアクチュエータ6により薄膜Fの所定位置を歪み率δ10×10−3%で歪ませた状態にし、各状態毎に温度を296Kから300Kまで連続的に変化させ、このときの電気抵抗を測定した。その結果、図10(A)に示すような測定結果が得られた。図10(A)では、横軸に温度(単位:K)を示し<縦軸に電気抵抗値(単位:kΩ)を示している。なお、薄膜Fの歪み率δは、波面センサ5からの焦点位置データを基に測定し、薄膜Fの温度は、SiヒータHとサーミスタ17とにより温度調整を行った。
【0102】
図10(A)のグラフからは、薄膜Fの歪みが増加するにつれて、電気抵抗が減少していることや、さらに温度上昇と共に電気抵抗が急激に減少しているという、薄膜Fの電気特性の評価を行うことができる。また、図10(A)に示すグラフを解析することで、図10(B)に示すように、薄膜Fの金属絶縁体転移温度と、薄膜Fの歪み率との関係を検証することもできる。この場合は、薄膜の歪みに対する温度変化が32.42K/%となり、ヘテロエピタキシャル薄膜の歪みに対する温度変化である52.56K/%より少し低い値となっている。この値は、妥当な値であると考えられ、ピエゾアクチュエータ6を用いて薄膜Fに一定の歪みを与えて静止させた状態で電気抵抗を測定することに問題がないこと考えられる。この測定では、薄膜Fの歪みと電気抵抗との関係に加え、温度との関係も観測でき、薄膜Fの歪みが薄膜Fの電気抵抗に関して影響を及ぼしていることが判明した。
【0103】
次いで、薄膜Fを一定周期で振動させた状態で、薄膜Fの電気抵抗を測定した。なお、この場合も、上述と同様の条件で作製された膜厚10nmのVOの薄膜Fを用いた。また、測定条件は、薄膜Fの歪みの最大値と最小値との差がΔδ=0.0146%となるように調整を行い、その後ピエゾアクチュエータ6を1kHzで動作させて、電気抵抗の測定を行った。そして、ここでは、薄膜をおよそδ=0.0100%〜0.0245%の間で1kHzの周期で振動させて、その振動時の薄膜Fの電気抵抗と、薄膜Fの歪みとを連続的に測定した。
【0104】
この測定結果としては、図11に示すような結果が得られ、図11から、薄膜Fの振動の周期(この場合、ピエゾアクチュエータ6の電圧変化の周期を薄膜Fの振動の周期とした)と同じ周期で、電気抵抗も変化していることが分かった。
ここで正弦波aは薄膜Fの電気抵抗の変化率△R/Rp−pの時間変位を示し、ここで正弦波bは歪み率δの時間変位を示す。また、この2つの正弦波a,bから位相差ΔΦが観測された。これにより、薄膜Fの歪みの周期的な振動は、薄膜Fの電気抵抗に関して影響を及ぼしており、薄膜Fの歪みと電気抵抗の変化とが同期しておらず、薄膜Fが歪んで変形した後、一定時間遅れて電気抵抗が変化するという電気特性の評価が行えた。
【0105】
次に、薄膜Fの歪みの変動を、1Hz〜1kHzまで連続的に変化させながら測定した。この場合、それ以外の条件は、上記と同じ条件として、薄膜Fの歪みと電気抵抗とを測定した。2つの正弦波のずれである位相ΔΦは、図12で示すように、薄膜Fの歪みの周波数が増加するにつれて、位相差ΔΦも増加する、すなわち薄膜Fの歪みに対する電気抵抗の変化が遅れていることが判明した。また、歪み率の変位に対する電気抵抗の変化率は、図12の点線で示すように、周波数が増大するにつれて、減少しているという電気特性の評価を行うことができた。
【0106】
次いで、この遅れの増大は、薄膜歪み電気特性評価装置1に由来する原因により発生するのか、薄膜Fが本質的に有する特徴であるか検証した。ピエゾアクチュエータ6に供給される電圧の変化と波面センサ5で受光する光量の変化との関係(遅延程度)と、レーザ発光部4に供給される電圧の変化と波面センサ5の受光する光量の変化との関係(遅延程度)とを測定し、比較した。
【0107】
ピエゾアクチュエータ6に供給される電圧の変化と、波面センサ5で受光する光量の変化との測定では、
ピエゾアクチュエータ6におよそ35V〜75Vの間を変化する電圧を供給して薄膜Fを1kHzの周期で歪ませ、波面センサ5が反射レーザ光L2を受光した際の電圧の変化と、実際にピエゾアクチュエータ6に印加される電圧の1/10とを測定した。その結果、図13(A)に示すような結果が得られた。
【0108】
図13(A)では、ピエゾアクチュエータ6に供給される電圧は正弦波cで表され、波面センサ5で発生する電圧変化は正弦波cで表され、それらの周期は、所定の値でずれている。
【0109】
また、レーザ発光部4に供給される電圧の変化と、波面センサ5で受光する光量の変化との測定では、レーザ発光部4におよそ1.64V〜1.74Vの間を同様に1kHzで変化する電圧を供給して、レーザ光L1の光量を変化させ、そのレーザ光L1を波面センサ5で受光する光量の変化に対応する電圧を変化させた。その結果、図13(B)に示すような結果が得られた。
【0110】
図13(B)では、レーザ発光部4に供給される電圧は正弦波eで表され、波面センサ5で発生する電圧は正弦波fで表され、それらの周期は、図13(A)と同じ値でずれている。このことは、ピエゾアクチュエータ6と波面センサ5との間の遅延と、レーザ発光部4と波面センサ5との間との遅延が全く同じであることを示している。よって、ピエゾアクチュエータ6に電圧が供給されて薄膜Fの変位を測定する間に、薄膜歪み電気特性評価装置1が有している本質的遅れ以外の外部要因による遅れがないことが分る。従って、薄膜歪み電気特性評価装置1を用いて薄膜Fを変動させた状態で行う電気特性の測定では、この所定の遅れを補正することで、薄膜Fの変動とそのときの電気特性と関係性を正確に取得できる。
【0111】
以上より、図12に示したように、薄膜Fの振動を増大させた場合に検出される遅れの増大は、薄膜歪み電気特性評価装置1に由来するものでなく、薄膜Fを変動させた場合に薄膜F自身が有する特徴であることが判明した。
【0112】
次に、薄膜Fの膜厚の違いによる電気特性の差を検証したところ、図14(A)及び(B)に示すような結果が得られた。この場合、同じ条件で作製された6nmのVOからなる薄膜Fと、10nmのVOからなる薄膜Fとを、1〜1kHzまで連続的に変化させながら、薄膜Fの電気抵抗と薄膜Fの歪みとを連続的に測定した。この測定結果として図14(A)に示す結果が得られた。図14(A)では、電気抵抗の変化率を薄膜Fの歪みの変化率で除算した量を縦軸とし、周波数を横軸として、6nmのVOからなる薄膜Fの測定結果を点線で示し、10nmのVOからなる薄膜Fの測定結果を実線で示すと、いずれも周波数が増大するにつれて値が減少することが分かった。
【0113】
しかしながら、両者の歪みに対する電気抵抗の変化率の値は、大きく異なり、6nmのVOからなる薄膜Fの値が、10nmのVOからなる薄膜Fの値のおよそ半分程度になっている。この場合において、図14(B)に示すように、これら2つの薄膜Fの周波数の変化に対する電気抵抗の応答遅延は、点線及び実線ともほとんど変化しておらず、ほぼ同じような値と傾向とを示している。
【0114】
このような結果から、図15に示すように、歪みを与えた際に、10nmのVOからなる薄膜Fでは、膜厚が厚いために粒界が連続しているが、膜厚が薄い6nmのVOからなる薄膜Fでは、膜厚が薄いため粒界部分で互いが分離するような状態となり、10nmの薄膜Fに比べて歪みの変化率に対する電気抵抗の変化率があまり変化しない可能性があると考察することができる。このような知見が得られるのは、作製条件の異なる薄膜Fにおいて、薄膜歪み電気特性評価装置1により、薄膜Fを周期的に変動させて電気抵抗を測定できたことによる。
【0115】
(9)他の実施の形態
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば上述した実施の形態においては、押圧手段としてピエゾアクチュエータ6を用いる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、基板Sを押圧して歪ませることができればよく、例えば電磁アクチュエータや超磁歪アクチュエータなどこの他種々の押圧手段としてもよい。
【0116】
また、上述した実施の形態においては、薄膜FにアルミボンディングワイヤW2〜W4を接続して、当該アルミボンディングワイヤW2〜W4を介して薄膜Fの電流を電圧検出信号として得るようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、薄膜Fに針を接続し、当該針を介して薄膜Fの電流を電圧検出信号として得るようにしてもよい。
【0117】
さらに、上述した実施の形態においては、基板SにVOからなる薄膜Fを設けた試料Mを用い、当該薄膜Fの電気特性を測定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、基板にMOSFETを設けたLSIなどの半導体デバイスを用い、当該MOSFETの電気特性を測定してもよい。
【0118】
さらに、上述した実施の形態においては、基板SにVOからなる薄膜Fを設けた試料Mを用い、当該薄膜Fの電気特性を測定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、薄膜単体を用い、当該薄膜単体の電気特性を測定したり、或いは基板に種々の薄膜を積層されせた薄膜を形成し、当該積層された薄膜の電気特性を測定してもよい。
【0119】
また、上述した実施の形態においては、測定される薄膜の電気特性として、薄膜Fの電気抵抗を測定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、試料台3を誘電率、分極率、圧電効果などこの他種々の電気特性を測定するようにしてもよい。
【0120】
また、上述した実施の形態においては、波面センサ5を用いて歪んだ薄膜Fからの反射レーザ光L2を受光して薄膜Fの歪みを検出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えばレーザセンサを薄膜Fに照射し、当該薄膜F上の歪んだスポットの大きさを測定して薄膜Fの歪みを検出するようにしてもよい。
【0121】
また、上述した実施の形態においては、基板SとしてTiO基板を用いた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、Si基板またはSiO基板などこの他種々の基板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1 薄膜歪み電気特性評価装置
2 試料台支持部(支持部)
3 試料台
4 レーザ発光部
5 波面センサ
6 ピエゾアクチュエータ(押圧手段)
7 測定制御・解析部7(測定手段)
8 第1半体
9 第2半体
10a 固定用ネジ
10b 調節用ネジ
17 サーミスタ(温度測定手段)
D 距離
F 薄膜
S 基板
H Siヒータ(加熱手段)
L1 レーザ光
L2 反射レーザ光
P1,P8 Siヒータ用配線
P2,P7 サーミスタ用配線
C1,C2,C3 セラミックスペーサ(スペーサ)
P3,P4,P5,P6 電気特性測定用配線
W1,W2,W3,W4 アルミボンディングワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜を支持する支持部と、
前記薄膜を押圧し、該薄膜を歪んだ状態にさせる押圧手段と、
前記押圧手段による押圧により前記薄膜が歪む際の該薄膜の電気特性を測定する測定手段と
を備えることを特徴とする薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項2】
前記薄膜は基板に形成されており、前記基板に前記薄膜を加熱する加熱手段を備え、
前記測定手段は前記加熱手段を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項3】
前記基板は、前記薄膜の温度を測定する温度測定手段を備え、
前記測定手段は、前記温度測定手段により測定された前記薄膜の温度を基に、前記加熱手段を制御して該薄膜を所定の温度に加熱させる
ことを特徴とする請求項2記載の薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項4】
前記薄膜の表面に電極が蒸着されている
ことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項5】
前記支持部はスペーサを備え、前記押圧手段で前記薄膜が押圧されると、前記スペーサを支点として前記薄膜を歪ませる
ことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項6】
前記支持部が第1半体と第2半体とからなり、
調節用ネジが調節されることにより前記第1半体と前記第2半体との間の距離が調節され、
前記第1半体と前記第2半体とが固定用ネジにより螺合される
ことを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項7】
前記支持部が、ステンレス材からなる
ことを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項8】
前記薄膜の表面にレーザ光を照射するレーザ発光部と、
前記薄膜の表面から反射された反射レーザ光を受光する波面センサとを備え、
前記測定手段は、前記波面センサから受け取る受光データに基づいて前記薄膜の歪みを算出する
ことを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項9】
前記薄膜は試料台に設けられており、
前記試料台は、該試料台に設けられた配線によって前記薄膜と前記測定手段とを電気的に接続している
ことを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価装置。
【請求項10】
支持部に支持された薄膜を押圧手段によって押圧し、該薄膜を歪んだ状態にさせる押圧ステップと、
前記押圧手段による押圧により前記薄膜が歪む際の該薄膜の電気特性を、測定手段で測定する測定ステップと
を備えることを特徴とする薄膜歪み電気特性評価方法。
【請求項11】
前記薄膜が基板に形成されており、前記基板の加熱手段により前記薄膜を加熱する加熱ステップと、
前記測定手段により前記加熱手段を制御する制御ステップとを備える
ことを特徴とする請求項10記載の薄膜歪み電気特性評価方法。
【請求項12】
前記基板に設けられた温度測定手段によって前記薄膜の温度を測定する測定ステップと、
前記温度測定手段により測定された前記薄膜の温度を基に、前記測定手段によって前記加熱手段を制御して該薄膜を所定の温度に加熱させる加熱ステップとを備える
ことを特徴とする請求項11記載の薄膜歪み電気特性評価方法。
【請求項13】
前記測定ステップでは、前記薄膜の表面に蒸着された電極を介して前記薄膜の電気特性を測定する
ことを特徴とする請求項10〜12いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価方法。
【請求項14】
前記押圧ステップでは、前記押圧手段で前記薄膜を押圧した際に、前記支持部に備えたスペーサを支点として前記薄膜を歪ませる
ことを特徴とする請求項10〜13いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価方法。
【請求項15】
調節用ネジを調節して、前記支持部を構成する第1半体と第2半体とを固定用ネジにより螺合することにより前記第1半体と前記第2半体との間の距離を調節する調節ステップを備える
ことを特徴とする請求項10〜14いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価方法。
【請求項16】
前記押圧ステップでは、前記支持部がステンレス材からなる
ことを特徴とする請求項10〜15いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価方法。
【請求項17】
レーザ発光部によって前記薄膜の表面にレーザ光を照射する照射ステップと、
前記薄膜の表面から反射された反射レーザ光を波面センサで受光する受光ステップと、
前記波面センサから受け取る受光データに基づいて、前記測定手段により前記薄膜の歪みを算出する算出ステップとを備える
ことを特徴とする請求項10〜16いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価方法。
【請求項18】
前記測定ステップでは、試料台に設けられた前記薄膜と、前記測定手段とが前記試料台の配線により電気的に接続され該配線を介して前記薄膜の電気特性を測定する
ことを特徴とする請求項10〜17いずれかに記載の薄膜歪み電気特性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−33496(P2011−33496A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180547(P2009−180547)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り [刊行物名] 第56回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 [発行所] 社団法人応用物理学会 [発行日] 平成21年3月30日
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】