説明

薄膜状樹脂成形用押さえロール

【課題】ロール間に導かれた溶融樹脂を調温する際に、溶融樹脂製品の厚みおよび表面性状を、より均一にし得る薄膜状樹脂成形用押さえロールを提供する。
【解決手段】押出成形機から押し出されたシート状の溶融樹脂を主ロールとの間に導いてシート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品を成形するための押さえロール12であって、導電性材料により形成された軸体31と、この軸体31に対して環状空間部34を有して回転自在に支持された筒状体36と、軸体31の外周に巻き付けられた電磁誘導コイル37とから構成すると共に、筒状体36を、可撓性を有する磁性材料からなる金属製薄板により形成し、さらにコイル37を軸体31の軸心方向において複数に分割するとともに、これら分割された各分割コイル部37aに供給する電流をそれぞれ制御し得る制御部5を具備したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品を成形するための押さえロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、熱可塑性樹脂の押出成形法には、金属製ロールを用いた金属ロール挟圧成形法と、ゴム製ロールを用いたゴムロール挟圧成形法とがある。
上記金属ロール挟圧成形法の場合、すなわち金属ロールを用いてシート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品を成形する場合、押出成形機のダイから押し出されたシート状の溶融樹脂は2本のロール間に導かれ、そしてこれら両ロールにて挟圧されて所定の厚さでもって引き出されることにより、薄膜状樹脂製品が得られていた。
【0003】
例えば、2本のロールのうち、1本は金属ロールと呼ばれ主に溶融樹脂を案内するもので、他の1本は成形用ロールと呼ばれ、可撓性を有して溶融樹脂を金属ロール側に押し付けることにより、溶融樹脂を所定の厚さに且つ所定の表面性状を得るものである。
【0004】
このため、金属ロールは高い剛性を有するように構成されるとともに、成形用ロールは、溶融樹脂に均等に力をかけ得るように且つ傷を付けないように弾性を有するように、つまり可撓性を有する金属性の薄板が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そして、特許文献1に開示されているように、成形用ロールは、内筒と外筒との二重管構造にされるとともに、両者の間の環状空間空部には、圧送手段により冷却水が供給されて溶融樹脂を適正な温度に保つように、すなわち調温されている。
【特許文献1】特許第3422798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した成形用ロールの構成によると、冷却水が外筒と内筒との間の環状空間部に圧送手段により圧送されているとともに、溶融樹脂に直接触れる外筒は薄い金属製板であることから、圧送手段、例えばポンプ側の圧力変動により、成形用ロールの外筒に形状変化が生じ、したがって製品の厚さおよび表面性状が均一にはならず、つまり製品の品質の低下に繋がるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、ロール間に導かれた溶融樹脂を調温する際に、溶融樹脂製品の厚みおよび表面性状を、より均一にし得る薄膜状樹脂成形用押さえロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、押出成形機から押し出されたシート状の溶融樹脂を主ロールとの間に導いてシート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品を成形するための押さえロールであって、
導電性材料により形成された軸体と、この軸体との間で環状空間部を有するようにその外周にて回転自在に支持された筒状体と、上記軸体の外周に巻き付けられた電磁誘導コイルとから構成するとともに、
上記筒状体を、可撓性を有する磁性材料からなる金属製薄板により形成したものである。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、
押出成形機から押し出されたシート状の溶融樹脂を主ロールとの間に導いてシート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品を成形するための押さえロールであって、
導電性材料により形成された軸体と、この軸体との間で環状空間部を有するようにその外周にて回転自在に支持された筒状体と、上記軸体の外周に巻き付けられた電磁誘導コイルとから構成するとともに、
上記筒状体を、可撓性を有する磁性材料からなる金属製薄板により形成し、さらに上記電磁誘導コイルを軸体の軸心方向において複数に分割するとともに、これら分割された各分割コイル部に供給する電流をそれぞれ制御し得る制御部を具備したものである。
【0010】
また、請求項3に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項1または2に記載の押さえロールにおける筒状体の厚さを、0.6〜5mmの範囲にしたものである。
また、請求項4に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項1乃至3のいずれかに記載の押さえロールにおいて、熱伝導性を有するアルミニウムの薄板材を蛇腹形状にしてなる熱伝達部材を筒状体の環状空間部に配置したものである。
【0011】
また、請求項5に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項1乃至3のいずれかに記載の押さえロールにおける筒状体の内壁面に、非磁性材料で且つ熱伝導性を有する薄板状部材を配置したものである。
【0012】
また、請求項6に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項5に記載の押さえロールにおける薄板状部材を、銅、黄銅、アルミニウム、亜鉛およびオーステナイト系ステンレスのいずれかで構成したものである。
【0013】
また、請求項7に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項1乃至3のいずれかに記載の押さえロールにおける筒状体の内壁面に非磁性材料で且つ熱伝導性を有する第1薄板部と磁性材料で且つ熱伝導性を有する第2薄板部とを交互に積層してなる薄板状部材を配置したものである。
【0014】
また、請求項8に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項7に記載の押さえロールにおける第1薄板部が銀、銅およびアルミニウムのいずれかであるとともに、第2薄板部を鋼またはニッケルで構成したものである。
【0015】
また、請求項9に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項1乃至3のいずれかに記載の押さえロールにおける筒状体の内壁面に銅層を配置するとともに、この銅層の内壁面に、所定長さの環状ニッケル層を所定間隔を有してロール軸心に沿って複数個配置したものである。
【0016】
また、請求項10に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項1乃至3のいずれかに記載の押さえロールにおける筒状体の内壁面に銅層を配置するとともに、この銅層の内壁面に、所定長さの環状カーボン層を所定間隔を有してロール軸心に沿って複数個配置したものである。
【0017】
また、請求項11に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項1乃至3のいずれかに記載の押さえロールにおける筒状体の内壁面に非磁性材料からなる環状板材を配置して筒状体と当該環状板材との間に環状隙間を形成するとともに、この環状隙間内に熱媒体を充填して、当該筒状体の内面にヒートパイプ機能を具備したものである。
【0018】
さらに、請求項12に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールは、請求項1乃至3のいずれかに記載の押さえロールにおける環状空間部に空気を流すようにしたものである。
【発明の効果】
【0019】
上記請求項1に記載の押さえロールの構成によると、軸体に設けられた電磁誘導コイルを介して筒状体を誘導加熱することにより調温を行うようにしたので、従来のように、軸体と筒状体との間の環状空間部に液媒を圧送して調温する場合に比べて、薄膜状樹脂製品の厚さおよび表面性状を、より均一に、すなわち製品の品質の一層の向上を図ることができる。
【0020】
また、請求項2に記載の押さえロールの構成によると、電磁誘導コイルをロール軸心方向にて複数に分割するとともに、各分割コイル部に流す電流をそれぞれ制御するようにしたので、筒状体における温度の均一化を一層図ることができる。
【0021】
さらに、押さえロールの構成において、環状空間部内に熱伝達部材を配置し、または筒状体の内壁面に熱伝導性の薄板状部材若しくは銅層を配置し、または筒状体の内面にヒートパイプ機能を具備したので、筒状体における温度の均一化を、より一層図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に薄膜状樹脂成形用押さえロールについて説明する。
この薄膜状樹脂成形用押さえロールは、例えばシート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品(以下、シートと称して説明する)を金属ロール挟圧成形法により製造するロール成形装置に用いられるものとして説明する。
【0023】
まず、図1に基づき、ロール成形装置の概略構成について説明する。
このロール成形装置1は、押出成形機のダイ2から押し出されたシート状の溶融樹脂3を導き所定厚さのシート4を製造するためのもので、厚肉(厚さが大きいという意味)の金属製ロールが用いられた高剛性の主ロール11と、この主ロール11に接触するように並置された押さえロール12と、この押さえロール12とは反対側で主ロール11に近接した位置にて並置された冷却用ロール13とから構成されている。
【0024】
すなわち、シート状の溶融樹脂3は、主ロール11と押さえロール12との間に導かれて、押さえロール12により主ロール11側に押し付けられることにより、所定厚さに形成されるとともに所定温度に維持された後すなわち調温された後、下流側に配置された冷却用ロール13にて冷却されてシート4として引き出される。
【0025】
なお、上記主ロール11は、厚肉の内筒21と、この内筒21の外周に放射状に設けられた複数のリブ22を介して配置された内筒21よりも厚い肉厚を有する外筒23とから構成されており、上記内筒21と外筒23との間に設けられた環状空間部24つまりリブ22間には冷却流体が供給されるように構成されている。また、冷却用ロール13についても、説明はしないが、主ロール11と略同じ構成にされている。
【0026】
以下、本発明に係る押さえロール12について説明する。
この押さえロール12は、図2および図3に示すように、中央部分に所定外径で且つ所定長さの円柱部(筒状部ともいえる)32が形成されるとともに両端部に当該円柱部32よりも小径の軸部33(33A,33B)が形成され且つ導電性材料(例えば、鋼が用いられる)よりなる円柱軸体31と、この円柱軸体31の外周に且つ所定幅(まは所定隙間で、具体的には、15〜20mm程度である)dでもって環状空間部34を有するように配置された筒状体36と、上記円柱軸体31の円柱部32の外周に銅線が巻き付けられてなる電磁誘導コイル37とから構成されている。
【0027】
上記筒状体36は、中央部分の薄肉円筒部41と、この薄肉円筒部41の両端部に取り付けられる支持軸部42(42A,42B)とから構成されている。
そして、上記円柱軸体31の一端側の軸部33Aは軸受43を介して一方の支持軸部42A側に回転自在に支持され、また他端側の軸部33Bは軸受44を介して他方の支持軸部42B側に回転自在に支持され、さらにこの他端側の軸部33Bの端面から小径軸状部33Baが突設されるとともにその先端は他方の支持軸部42Bに設けられた貫通穴46を挿通して外部に導出され、この導出された先端部分に上記電磁誘導コイル37に交流電流、例えば高周波電流を供給するための接続用端子45が設けられている。なお、小径軸状部33Baは、他方の支持軸部42Bに形成された貫通穴46に軸受47を介して支持されている。勿論、この押さえロール12の両端部である両支持軸部42A,42Bは軸受48を介してフレーム49側に支持されている。
【0028】
そして、上記筒状体36の薄肉円筒部41は、磁性材料で且つ導電性材料である鋼(強磁性体で、具体的には炭素鋼)が用いられるとともにその厚さが0.6〜5mmの範囲内(この厚さの範囲については後述する)にされている。つまり、薄肉円筒部41は、金属製薄板(所謂、薄鋼板である)により構成されている。
【0029】
また、円柱軸体31と筒状体36との間の環状空間部34には空気が封入されており、筒状体36の全体に対する温度の均一化が図られている。
ところで、上記電磁誘導コイル37は、円柱軸体31の長手方向、つまりロール軸心方向において、複数に例えば3つに分割されている(勿論、4つ以上、例えば5つまたは7つに分割してもよい)。なお、分割された分割コイル部37a同士間には隙間δが設けられている。
【0030】
そして、上記各分割コイル部37aに供給される高周波電流をそれぞれ制御する制御部5が設けられている。
すなわち、制御部5を介して各分割コイル部37aに高周波電流が流されると、円柱軸体31の一端側から出て他端側に入り交番磁束が発生し、この磁束が筒状体36の薄肉円筒部41を通過することにより当該薄肉円筒部41に誘導電流が発生する。この誘導電流により、筒状体36が、より正確には薄肉円筒部41がジュール熱により加熱される。
【0031】
そして、この薄肉円筒部41が所定温度となるように、制御部5により、ロール軸心方向でその温度が制御されている。したがって、各分割コイル部37aに対応する筒状体36の内壁面には、温度センサ(図示せず)が設けられるとともに、この温度センサにて検出された検出温度が制御部5に入力されている。
【0032】
例えば、筒状体36全体としての温度範囲は、100〜400℃の範囲内(勿論、具体的な温度は、製造する溶融樹脂製品によって異なる)となるように制御されるとともに、溶融樹脂との接触部分の全長に亘って均一な温度となるように、それぞれの分割コイル部37aに流される高周波電流が制御されて、ロールの調温が行われる。
【0033】
特に、電磁誘導コイル37の端面からは磁束が逃げやく、すなわち薄肉円筒部41の端部近傍が低温領域になりやすいため、例えば両端部近傍の分割コイル部37aに流される高周波電流が強くされる。
【0034】
上記構成において、シートを製造する場合、まず制御部5を介して電磁誘導コイル37に、すなわち各分割コイル部37aに所定の高周波電流が供給されて交番磁束が発生される。この交番磁束により筒状体36すなわち薄肉円筒部41には誘導電流が発生し、そしてこの誘導電流に起因して発生するジュール熱により当該筒状体36は所定温度に加熱される。この加熱とともに所定の回転速度でもって主ロール11および押さえロール12が回転されている状態において、押出成形機のダイ2からシート状の溶融樹脂3が両ロール11,12間に導かれ、ここで両ロール11,12による押圧(挟圧)にて所定厚さにされた後、冷却用ロール13を介してシート4として引き出される。
【0035】
ところで、押さえロール12内においては、電磁誘導コイル37により発生した交番磁束による電磁誘導により、薄肉円筒部41の表面が所定温度に、例えば300℃に維持されて、つまり導かれたシート状溶融樹脂3の調温が行われる。このとき、円柱軸体31と筒状体36との間の環状空間部34に封入された空気により、薄肉円筒部41の温度の均一化が図られている。
【0036】
このように、押さえロール12を、円柱軸体31および筒状体36で構成するとともに、この筒状体36を円柱軸体31に設けられた電磁誘導コイル37により電磁誘導加熱を行うようになし、さらに電磁誘導コイルを複数に分割してそれぞれに流される高周波電流を制御するとともに円柱軸体31と筒状体36との間の環状空間部34に空気を封入したので、従来のように、ポンプなどの圧送手段により液媒を環状空間部に直接供給するものとは異なり、圧力変動が発生せず、したがって筒状体36における表面の変形を防止することができ、したがって製品であるシート4の厚さおよび表面性状を、より均一にして、品質の向上を図ることができる。
【0037】
ここで、上記筒状体36の厚さ、すなわち薄肉円筒部41の厚さについて説明すると、0.6〜5mmの範囲とされ、この範囲の決定に際しては、主ロール11との接触部分で発生する線圧に基づき求められる。
【0038】
最小線圧の下限値は機械強度上から決定され、機械的摺動抵抗を考慮した機械的な下限線圧は2N/mm程度であり、また低残留歪、表面平滑性、透明性などの特長を有する薄肉シート・フィルムを挟圧成形し得る場合の上限の線圧域は30〜40N/mm程度である(これより高い線圧域では、残留歪や収縮率が大きくなってしまう)。したがって、最小線圧は2N/mmとするとともに、最大線圧は40N/mmとする。
【0039】
次に、最小線圧および最大線圧に基づき、薄肉円筒部41の厚さ(ここでは、ロールの厚さと称して説明する)を解析した結果について説明する。なお、解析を行うにあたっては、実用上、代表的なロール形状寸法である押さえロール外径300mm,主ロール外径400mmおよび有効接触面長さ2000mmを採用した。
【0040】
まず、最小線圧が2N/mmとした場合のロール厚と最大応力との関係を求めると、図4のグラフのようになる。
最小線圧を2N/mmとした場合の炭素鋼、例えばSCM材(JIS規格:調質材)の回転曲げの疲労限度が520N/mmであり、安全率(0.8)を考慮して、420N/mm(520×0.8≒420)を満足する最小肉厚を、図4のグラフから求めると、0.65mmとなる。この値を丸めて、0.6mm(安全率を高く見ているので、切捨てた値を採用)を最小肉厚とした。
【0041】
一方、最大肉厚については、最小肉厚が疲労限度を満足している関係上、当然、満足していることから、弾性接触の観点に基づき求めた。
すなわち、低残留歪、表面平滑性、透明性などの特長を有する薄肉シート・フィルムを挟圧成形し得る場合の上限の線圧域は、30〜40N/mm程度で、これ以上の高線圧域では、残留歪や収縮率が大きくなる。
【0042】
そこで、押さえロールの弾性変形による接触幅が一定となるように、例えば3mmとなるように、押さえロール肉厚と線圧との関係を求めると、図5に示すグラフのようになる。
【0043】
このグラフから、線圧が40N/mmであるときの肉厚を求めると、4.7mmとなるが、これを丸めて、5mmを最大肉厚とした。
上述したような肉厚の範囲であれば、常温から600℃程度の高温度までの温度範囲において、国内の商用電源(交流)の周波数(50〜60Hz)にて筒状体36の内外面を効率良く均一な温度にすることができるとともに、もう少し高い200Hz程度の周波数を用いることもできる。さらに即効的に加熱するために、図6に示す周波数をパラメータとする温度と電流浸透深さとの関係を示すグラフから、採用する薄肉円筒部の肉厚に対応する周波数を選定してもよい。例えば、肉厚が0.6mmの場合には10kHzが、また2〜3mmの場合には500Hz程度が選定される。
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールを、図7に基づき説明する。
【0044】
上記実施の形態1においては、押さえロール12の筒状体36における薄肉円筒部41と電磁誘導コイル37との間の環状空間部34には何も配置しなかったが、図7に示すように、本実施の形態2に係る押さえロール50は、その環状空間部34に、非磁性材料であるとともに高熱伝導性を有するアルミニウムの薄板材を蛇腹形状(勿論、環状でもある)にした熱伝達部材51を配置したものである。
【0045】
このような熱伝達部材51を配置することにより、薄肉円筒部41におけるロール軸心方向での温度のより一層の均一化を図ることができる。
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールを、図8および図9に基づき説明する。
【0046】
上記実施の形態1においては、押さえロール12の筒状体36における薄肉円筒部41の内面側には何も配置しなかったが、図8および図9に示すように、本実施の形態3に係る押さえロール60は、筒状体36すなわち薄肉円筒部41の内壁面の略全面に亘って、銅、黄銅、アルミニウム、亜鉛、オーステナイト系ステンレスなどの非磁性材料からなる薄板状部材61を配置する(貼り付ける)ようにしてもよい。また、この薄板状部材61には、熱による膨張および収縮を許容するために、切れ目62が形成されている。
【0047】
この構成によると、実施の形態2と同様に、薄肉円筒部41におけるロール軸心方向での温度のより一層の均一化を図ることができる。
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールを、図10および図11に基づき説明する。
【0048】
上記実施の形態1においては、押さえロール12の筒状体36の内面には何も設けなかったが、図10および図11に示すように、本実施の形態4に係る押さえロール70は、筒状体36すなわち薄肉円筒部41の内壁面の略全面に亘って、銀、銅、アルミニウムなどの非磁性材料で且つ高熱伝導性を有する第1薄板材(第1薄板部)71と、鋼、ニッケルなどの磁性材料で且つ熱伝導性を有する第2薄板材(第2薄板部)72とを交互に積層してなる薄板状部材73を配置したものである。この場合も、例えば平面視が三角波形状(ギザギザ状)の切れ目74が形成されている。
【0049】
このような熱伝導性を有する薄板状部材73を配置することにより、実施の形態2と同様に、薄肉円筒部41におけるロール軸心方向での温度のより一層の均一化を図ることができる。
【0050】
なお、本実施の形態4においては、非磁性材料である第1薄板材71と磁性材料である第2薄板材72とを交互に積層したが、例えば図12に示すように、非磁性材料である第1薄板材71の内壁面(表面)に、磁性材料で且つ熱伝導性を有するニッケルからなる所定長さの環状の第2薄板材72′を所定隙間を有してロール軸心方向に沿って複数個配置するとともに、薄肉円筒部41の両端近傍の低温領域に対応する第2薄板材72′は中央部分のそれよりも長くされている。
【0051】
このように、ニッケルからなる第2薄板材72′を複数箇所に配置し且つ両端近傍の低温領域に対応する第2薄板材72′を中央部分のそれよりも長くしたので、第1薄板材71および複数個の第2薄板材72′とにより、薄肉円筒部41に発生した熱の均一化、すなわちロール軸心方向での温度のより均一化を図ることができる。つまり、第4実施の形態の場合よりも、温度のさらなる一層の均一化を図ることができる。
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールを、図13に基づき説明する。
【0052】
図12に示した上記実施の形態4における変形例においては、薄肉円筒部41の内壁面の略全面に亘って非磁性材料である第1薄板材71およびさらにその内周面に、磁性材料で且つ熱伝導性を有するニッケルからなる所定長さの第2薄板材72′を所定隙間を有して複数個配置したが、本実施の形態5に係る押さえロールは、その積層位置を逆にしたものである。
【0053】
すなわち、図13に示すように、この押さえロール80は、薄肉円筒部41の内壁面の略全面に亘って磁性材料で且つ熱伝導性を有するニッケルからなる第1薄板材81を配置するとともに、その内周面に、電気抵抗が高く且つ熱伝導率が小さいために速やかに加熱されるカーボンからなる所定長さの第2薄板材82を所定隙間を有して複数個配置したものである。例えば、このカーボンは、蒸着により、第1薄板材81の内周面に形成される。この場合も、薄肉円筒部41の両端近傍の低温領域に対応する第2薄板材82を中央部分のそれよりも長くされている。
[実施の形態6]
次に、本発明の実施の形態6に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールを、図14に基づき説明する。
【0054】
上記実施の形態1においては、押さえロール12の筒状体36の内壁面には何も設けなかったが、図14に示すように、本実施の形態6に係る押さえロール90は、筒状体36の内面側にヒートパイプ機能を具備させたものである。
【0055】
すなわち、この押さえロール90の筒状体36における薄肉円筒部41の内面側に且つ内壁面に沿って環状隙間91を形成するように、断面がコの字形状の薄い環状板材(円柱部と両端のフランジ部とからなり、環状薄板材ともいえる)92が設けられるとともに、この環状隙間91には、水、アルコール、ナフタリンなどの熱媒体Hが充填(封入)されている。なお、この環状板材92は、アルミニウム、真鍮などの非磁性材料にて構成されている。
【0056】
この押さえロール90によると、やはり、筒状体36すなわち薄肉円筒部41に発生した熱については、その温度が高い箇所では、熱媒体Hが加熱されて蒸気となり、そしてこの蒸気がロール軸心方向で移動して温度が低い箇所で熱を放出して液化することにより、筒薄肉円筒部41におけるロール軸心方向での温度のより一層の均一化が図られる。
[実施の形態7]
次に、本発明の実施の形態7に係る薄膜状樹脂成形用押さえロールを、図15に基づき説明する。
【0057】
上記実施の形態1においては、押さえロール12の筒状体36における薄肉円筒部41の内面には何も設けずに空気を封入したが、図15に示すように、本実施の形態7に係る押さえロール100は、筒状体36における薄肉円筒部41の内側である環状空間部34内の空気を所定方向でもって供給および排出するようにしたものである。
【0058】
すなわち、筒状体36の一端側に空気を供給し得る空気供給部(簡単に言えば、継手である)101を設けるとともに他端側に空気を搬出し得る空気排出部(同じく、継手である)102を設け、そして空気供給部101には空気供給管103が接続されるとともに空気排出部102には空気排出管104が接続されている。勿論、空気供給管103の端部には、送風機などが接続されている。
【0059】
この場合、円柱部32の両端に設けられる軸部33は、薄肉円筒部41の両端に設けられる支持軸部42に形成された貫通穴46を挿通するように突設されるとともにそれぞれ軸受47,48により支持され、そして貫通穴46と軸部33との隙間を介して環状空間部37内を空気が流れるようにされている。
【0060】
この押さえロール100によると、やはり、筒状体36における薄肉円筒部41に発生した熱が環状空間部34内を流れる空気によりロール軸心方向で均一化され、すなわち薄肉円筒部41のロール軸心方向での温度の均一化が図られる。この場合、供給空気量を制御することにより、空冷効果を増減することができるので、溶融樹脂の加熱温度が比較的低い温度であっても対応することができる。
【0061】
なお、貫通穴46と軸部33との隙間を介して空気の供給および排出を行う替わりに、円柱軸体31内に、空気の流通用穴部を形成することにより、環状空間部37に対して空気の供給および排出を行うようにしてもよい。
【0062】
ところで、上述した各実施の形態においては、電磁誘導コイルをロール軸心方向にて複数に分割したものとして説明したが、例えば図16に示すように、温度調整域全体に亘って一体化したものであってもよい。
【0063】
そして、さらに、この場合、両端部近傍の低温領域における電磁誘導コイル37の巻数を中間部分のそれよりも多くすることにより、薄肉円筒部41における温度のより均一化を図ることができる。
【0064】
このような電磁誘導コイルを有する押さえロールの基本的な構成を、簡潔に表現すると、以下のようになる。
すなわち、この押さえロールは、押出成形機から押し出されたシート状の溶融樹脂を主ロールとの間に導いてシート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品を成形するための押さえロールであって、
導電性材料により形成された軸体と、この軸体との間で環状空間部を有するようにその外周にて回転自在に支持された筒状体と、上記軸体の外周に巻き付けられた電磁誘導コイルとから構成するとともに、
上記筒状体を、可撓性を有する磁性材料からなる金属製薄板により形成したものであり、
また上記構成において、筒状体の両端部近傍の低温領域における電磁誘導コイル37の巻数を中間部分のそれよりも多くしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1に係る押さえロールを用いたロール成形装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】同実施の形態1に係る押さえロールの一部切欠正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】同実施の形態1に係る押さえロールの肉厚を決定するためのロール厚と最大応力との関係を示すグラフである。
【図5】同実施の形態1に係る押さえロールの肉厚を決定するためのロール厚と線圧との関係を示すグラフである。
【図6】炭素鋼の誘電加熱時における電流浸透深さと温度との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態2に係る押さえロールの要部断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係る押さえロールの要部断面図である。
【図9】同実施の形態3に係る押さえロールの要部斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係る押さえロールの要部断面図である。
【図11】同実施の形態4に係る押さえロールの要部斜視図である。
【図12】実施の形態4に係る押さえロールの変形例を示す要部断面図である。
【図13】本発明の実施の形態5に係る押さえロールの要部断面図である。
【図14】本発明の実施の形態6に係る押さえロールの要部断面図である。
【図15】本発明の実施の形態7に係る押さえロールの要部断面図である。
【図16】本発明の各実施の形態に係る押さえロールの変形例を示す一部切欠正面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 ロール成形装置
2 ダイ
3 溶融樹脂
4 シート
11 主ロール
12 押さえロール
31 円柱軸体
32 円柱部
33 軸部
34 環状空間部
36 筒状体
37 電磁誘導コイル
41 薄肉円筒部
42 支持軸部
45 接続用端子
50 押さえロール
51 熱伝達部材
60 押さえロール
61 薄板状部材
62 切れ目
70 押さえロール
71 第1薄板材
72 第2薄板材
72′ 第2薄板材
73 薄板状部材
74 切れ目
80 押さえロール
81 第1薄板材
82 第2薄板材
90 押さえロール
91 環状隙間
92 環状板材
100 押さえロール
101 空気供給部
102 空気排出部
103 空気供給管
104 空気排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成形機から押し出されたシート状の溶融樹脂を主ロールとの間に導いてシート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品を成形するための押さえロールであって、
導電性材料により形成された軸体と、この軸体との間で環状空間部を有するようにその外周にて回転自在に支持された筒状体と、上記軸体の外周に巻き付けられた電磁誘導コイルとから構成するとともに、
上記筒状体を、可撓性を有する磁性材料からなる金属製薄板により形成したことを特徴とする薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項2】
押出成形機から押し出されたシート状の溶融樹脂を主ロールとの間に導いてシート・フィルムなどの薄膜状樹脂製品を成形するための押さえロールであって、
導電性材料により形成された軸体と、この軸体との間で環状空間部を有するようにその外周にて回転自在に支持された筒状体と、上記軸体の外周に巻き付けられた電磁誘導コイルとから構成するとともに、
上記筒状体を、可撓性を有する磁性材料からなる金属製薄板により形成し、
さらに上記電磁誘導コイルを軸体の軸心方向において複数に分割するとともに、これら分割された各分割コイル部に供給する電流をそれぞれ制御し得る制御部を具備したことを特徴とする薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項3】
筒状体の厚さを、0.6〜5mmの範囲にしたことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項4】
熱伝導性を有するアルミニウムの薄板材を蛇腹形状にしてなる熱伝達部材を筒状体の環状空間部に配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項5】
筒状体の内壁面に非磁性材料で且つ熱伝導性を有する薄板状部材を配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項6】
薄板状部材が銅、黄銅、アルミニウム、亜鉛およびオーステナイト系ステンレスのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項7】
筒状体の内壁面に非磁性材料で且つ熱伝導性を有する第1薄板部と磁性材料で且つ熱伝導性を有する第2薄板部とを交互に積層してなる薄板状部材を配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項8】
第1薄板部が銀、銅およびアルミニウムのいずれかであるとともに、第2薄板部が鋼またはニッケルであることを特徴とする請求項7に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項9】
筒状体の内壁面に銅層を配置するとともに、この銅層の内壁面に、所定長さのニッケル層をロール軸心に沿って複数個配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項10】
筒状体の内壁面に銅層を配置するとともに、この銅層の内壁面に、所定長さのカーボン層をロール軸心に沿って複数個配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項11】
筒状体の内壁面に非磁性材料からなる環状板材を配置して筒状体と当該環状板材との間に環状隙間を形成するとともに、この環状隙間内に熱媒体を充填して、当該筒状体の内面にヒートパイプ機能を具備したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。
【請求項12】
環状空間部に空気を流すようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜状樹脂成形用押さえロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−17943(P2010−17943A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180832(P2008−180832)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】