説明

薬剤懸濁状態維持装置およびその方法

【課題】少なくとも注入工程の間に懸濁する造影剤を懸濁媒体内に維持および注入できる装置を提供する。
【解決手段】軸54とアクチュエータ30を有する容器に保持された薬剤を懸濁状態に維持する装置において、容器を軸の回りに回転させ、供給力を選択的に付与する回転手段51と、回転手段に駆動可能に接続され、容器から懸濁剤を提供する提供手段とからなり、提供手段は回転手段から供給力をアクチュエータに伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を懸濁状態に維持するための装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
懸濁液は、液体または気体の懸濁媒体内の沈殿していない固体の微粒子の混合物である。前記粒子は分散相と呼ばれ、前記懸濁媒体は連続相と呼ばれている。前記微粒子は、集積を促進する散逸力が打ち負かされている、または補償されている限り、懸濁状態を持続するようになっている。前記補償が、例えば、浮力、凝集した大きい粒子に作用する重力、または流体粘性の非保存力により充分でなくなると、粒子運動は、静止した容器内の作用力に抗するのにエネルギー的に十分でなくなり、粒子は、塊形状、凝集形状、沈殿形状など様々な形状に集積する。粒子がこれらのうち1つの形状に集積した後、粒子は攪拌によって懸濁媒体内で再び懸濁する。
【0003】
懸濁液の一例として生物医学的な造影剤が挙げられる。造影剤は、キャリヤー媒体を懸濁するための医薬的に受容可能な液体内に懸濁された粒子を含む。患者の血管系内に注入された場合、造影剤は、注入位置から血流内を搬送され、映し出される対象となる組織または器官に到達する。この薬剤は、得られる像を強調するために対象位置で差異を提供する。医学的な診断や治療に用いられる造影技術は、得られた像の画質を強調する造影剤次第である。
【0004】
造影剤による像強調度は、造影剤が患者に調整された比率で供給されて、特定の造影時間の間、対象となる組織または器官において最適な濃度を生み出すと、改善される。投与量は、最小時間で造影を完了する効果的範囲内となるように、対象となる組織または器官内の造影剤の濃度を維持するのに充分な量でなければならない。これらのパラメータは、高精度かつ正確な投与を必要とする。対象位置で適切な濃度を保証するために過剰な造影剤がよく投与される。
【0005】
造影剤は、ボーラス注射(bolus injection)の場合、比較的速く、かつ比較的短い時間で投与され、もしくは輸液注入の場合、比較的長い時間で、かつゆっくりした割合で投与される。ボーラス注射に対して輸液注入には、いくつかの利点がある。それは、器官または特定の組織内の血液流れを視覚化するために血流観察が長時間に渡って行われるであろうし、診断画像形成工程の時間が延びるかもしれないし、また、対象組織の血流内の造影剤濃度の増加が防止されて画像が過度に減衰することがなくなる。しかしながら、輸液注入の欠点は、患者が長時間に渡って造影剤を受け、その間に造影剤が懸濁状態から脱することである。これにより画像形成工程の間、造影剤を再び懸濁させる必要がある。
【0006】
造影剤は、様々な種類の装置を用いて輸液注入により投与される。従来の注入器は、手動または自動注入装置を用いて造影剤を注入するのに使用されている。また、電動注入装置も使用されており、そこではモータ駆動のプランジャドライブが注入器のプランジャをゆっくりと連続的に前進させて、流速、容積、継続時間、および回数などの所定の注入パラメータに従って長時間に渡って注入器の内容物を徐々に供給する。電動注入装置は、手動注入器に比べて注入率および投薬量においてより高い信頼性と一貫性を有するので、輸液注入に一般的に使用される。
【0007】
しかしながら、従来の注入器または従来の電動注入装置を用いて造影剤の懸濁液を供給することの主な欠点は、造影剤が、注入する間、均一に懸濁した状態でなくなることである。その結果、注入の終了時または終了間際に供給された造影剤は、注入の開始時または開始直後に供給された造影剤と比較して、異なる構成および/または濃度を有する。この結果得られる画像には、造影剤の不均一な供給による人為的なもの(artifact)が含まれ、その結果、誤診を導いたり、不正確な画像となる。画質が所望の目的に対して適切でない場合、画像形成工程全てが再び繰り返され、さらなる費用、患者の不便、患者の危険性、および設備資源の不必要な利用を招くことになる。
【0008】
この問題を解決する1つの手段は、電動注入装置を用いて供給される造影剤を絶えず攪拌することである。このことは、磁性攪拌棒(stir bar)などの攪拌源を、懸濁した造影剤を収容する注入器の筒内部に配置し、注入器に隣接する一対の磁力攪拌板(stir plate)によって前記攪拌棒を動かすことによって達成することができる。別の解決手段は、注入を中断し、注入器を電動注入装置から取り外し、手動で内容物を攪拌することである。さらに他の解決手段としては、注入する間に注入器が長手方向軸の周囲を遊星回転することができるように、従来の電動式注入装置を変更することである。
【特許文献1】国際公開第99/27981号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの解決手段は満足のゆくものではない。前記装置は、かさばっており、および/または複雑であって、画像形成を行う場所内での使用、またはその場所内に適応させることが困難である。変更した電動注入装置は、既存の注入器の規格に対応せず、特注の規格品でない注入器を用いる必要があるかもしれない。造影剤の供給における途切れは、臨界注入時間が遅延することによって画像形成の質に有害な影響を与える可能性がある。さらに、懸濁していない造影剤を検知するために付添人が注入器の筒内部の造影剤を監視して、沈殿した造影剤が再び懸濁することを防止する必要がある。手動で造影剤を再び懸濁すると、汚染および/または人的ミスが生じる可能性があり、また、工程の重大な個所、もしくは全ての工程でさえ遅延するかもしれない。磁力攪拌装置を使用するには、殺菌して注入器の筒部内部に配置しなければならない付加的な構成部材が必要となり、さらに磁力攪拌板を必要とする。従来の電動注入装置を変更すると、付加的なハードウェアが必要となり、機械的に複雑になり、占有空間が大きくなり、また、現在の注入器寸法の規格と一致しなくなる。
【0010】
したがって、使用、維持および保管するのに都合のよい装置、また、少なくとも注入工程の間に懸濁する造影剤を懸濁媒体内に維持および注入できる装置、およびそのような装置の使用方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前述したような特徴および他の特徴を提供する。本発明の装置および方法は、容器内部の懸濁媒体内に薬剤を懸濁させ、また前記容器を回転させて長時間の間、懸濁状態を維持し、さらに懸濁中の薬剤を前記容器から選択的に送出するようになっている。さらに、本発明は、薬剤の懸濁状態に維持しつづける間に薬剤の供給を一時停止または中断することができる装置および方法を提供する。前記懸濁した薬剤の一例として、医薬基準に合った懸濁媒体内において懸濁する造影剤が挙げられる。
【0012】
前記装置の一実施形態は、容器に駆動可能に接続されたロータリードライブアセンブリと、該ロータリードライブアセンブリを前記容器のアクチュエータに駆動可能に連結されているアクチュエータドライブアセンブリを含む。ロータリードライブアセンブリは、容器をロータリードライブアセンブリの軸周りを回転させ、薬剤を容器内で懸濁した状態にして維持する。アクチュエータドライブアセンブリは、ロータリードライブアセンブリからの駆動力を容器のアクチュエータに伝え、容器から造影剤を懸濁した状態で供給するアクチュエータを動作させるようになっている。
【0013】
一実施形態において、ロータリードライブアセンブリは、容器に連結された容器のための保持部材と、該保持部材をロータリードライブアセンブリの軸周りに回転させるモータとを備える。前記モータが前記保持部材を回転させると、前記容器は軸周りを遊星状態に回転する。前記保持部材は容器から半径方向外方に広がっていることが好ましく、これにより前記回転は惑星回転となる。一解決手段において、ロータリードライブは、回転するために前記モータに駆動可能に接続されている第1部分と、前記保持部材に接続されている第2部分とを有するねじ付き主軸を備えることが好ましい。アクチュエータドライブアセンブリは、容器のアクチュエータを動作させるための連結部材を備えることが好ましく、また、前記連結部材を前記主軸と解放可能に係合させることが可能なクラッチアセンブリを備えていてもよい。懸濁した薬剤を供給するのに、カテーテルのようなコネクタを容器と患者との間に設けてもよい。さらに、前記装置は、アクチュエータドライブアセンブリおよびロータリードライブアセンブリを停止するためのスイッチを備えていてもよい。
【0014】
本発明の他の実施形態は、内部部材が前記容器を保持し、前記容器を囲むハウジングと、前記内部部材と駆動可能に連結され、前記内部部材を回転させるためのモータとを備えてもよい。前記モータは、懸濁媒体内において薬剤を懸濁状態に維持するために前記内部部材をハウジングの軸周りを回転させるようになっている。また、内部部材の回転により容器のアクチュエータが懸濁状態にある薬剤を容器から供給するようになっている。
【0015】
本発明の方法の一実施形態は、造影剤を懸濁するのに充分なように容器を回転軸周りを回転させ、容器が造影剤を懸濁状態に維持するために回転しているときにアクチュエータを動作させるのに充分なようにアクチュエータに力を作用することによって容器から薬剤を供給する。前記容器の回転と薬剤の供給は同時に行ってもよいし、回転させてから供給を行ってもよい。代案として、容器を回転させている間は供給を中断してもよい。所定の実施形態において、容器を回転軸周りを遊星回転させてもよい。他の実施形態において、容器の長手方向軸と回転軸とが同一直線上にあってもよい。また、容器は、あらかじめ造影剤のような薬剤で充填されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の設計により、充分な混合を達成するように変更された注入専用のポンプのような他の代案と比較してより軽く、小さく、および相対的に安く製造および使用することができる。変更された電動式注入装置に対して、本発明は標準寸法の注入器を利用できる。
【0017】
これにより、本発明の装置および方法は、懸濁媒体内において造影剤のような薬剤を均一に懸濁した状態で供給および維持することができる。このことは、注入時間を延ばし、画質を強調するために造影剤を効果を生ずるように注入するのに利点を有する。前記装置は、機械的に簡単であるので信頼性を有する運転が行え、滅多に保守作業を必要とせず、その結果、非運転時間または中断時間を最小にでき、また、小型であるので処置室内で自在に配置できる。これらおよび他の目的、利点、特徴および実施形態は添付図面および以下の詳細な説明を参照することにより明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
懸濁媒体内で懸濁した薬剤を供給し、注入と一致する時間の間、薬剤の懸濁液を維持するための装置および方法が開示されている。本発明は、輸液注入またはボーラス注射によるいずれかの方法で薬剤を投与するのに使用される。ここで用いられているように、注入という用語は、遅い速度で、かつ長時間に渡って容器から患者の体内に薬剤を注射することを意味し、これと比較してボーラス注射は、相対的に速い速度で、かつ短時間で容器の内容物全てを患者の体内に注射することを意味する。本発明の装置は、薬剤を懸濁した状態で維持するとともに、薬剤を関連した容器から供給する速度を、例えば、遅く、速く、一時停止、中断、終了などのように変更可能になっている。
【0019】
図1は、本発明に係る一実施形態である造影剤などの懸濁した薬剤を注入器などの容器から供給するための装置50の概略図である。懸濁液は、同時係属中の米国特許出願第09/316315に記載されているように、大容量の容器から容器に供給されるようになっている。上記米国出願の内容は、参照することによりここに全て明らかに組み入れられている。代案として、注入器を無菌処理技術を使用して人手により充填してもよいし、またはあらかじめ充填された注入器を用いてもよい。
【0020】
図1を参照すると、注入器20は、当業者に公知であるように、フランジが形成された基端24と先端26を備える筒部22からなる。筒部22は、略均一な直径を有し、造影剤のような供給される薬剤29を収容する貯蔵部28を囲むように長手方向に伸張している。基端24は、前記貯蔵部28を充填するために開口していてもよいが、使用時には筒部22の内面と係合して摺動自在かつ液密するように取り付けられるプランジャ30を受け入れる。プランジャ30は、筒部22の長手方向軸に沿って移動自在である。先端26は、カニューレ34内の流出口32と流体的に連通するように取り付けられている。基端から先端に向かって充分に大きい直線方向の力がプランジャ30に作用されると、薬剤29が貯蔵部28から流出口32を介して供給される。注入器20の容積は変更可能であって、例えば、注入される薬剤29の総量に応じて1ml、5ml、10mlなどの最大容積を収容できればよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、カニューレ34の外面には、(図示しない)取付部材が設けられており、この取付部材は、ルアー(Luer)固定コネクタ35の一端に設けられた相補的な取付部材に、解放可能に液密連結をするために取り付けられている。ルアー固定コネクタ35は、固定連結部36を備え、この固定連結部36は中間接続部材37によって回転連結部38と連結されている。この目的に適したルアー固定コネクタ35として、ビーブラウンメルサンゲンAG (B.Braun Melsungen, AG)の子会社であるビーブラウンメディカルリミテッド(英国シェフィールド)(B.Braun Medical, Ltd.)により製造されているS370016型が挙げられる。固定連結部36は、カニューレ34に形成された取り付けフランジに取り付けるための取付部材を有する。固定連結部36および回転連結部38は、流出口32を介して供給された薬剤29をルアー固定コネクタ35の長手方向軸に沿う方向に向けるように形成されている。接続部材37は、回転を許容するとともに液密シールを維持する動的シール部材(不図示)を有する。導管40の一端は、固定連結部36により流体流路と解放可能に接続されている。導管40は、均一に懸濁した薬剤29を患者に供給し、例えば、血管用カテーテルであってもよい。
【0022】
図1に示すように、本発明に係る装置50は、ロータリードライブアセンブリ51とアクチュエータドライブアセンブリ53を備える。ロータリードライブアセンブリ51は、ねじ付き主軸54に取り付けられた連結部材もしくは保持部材52と、主軸54に駆動可能に接続されたモータ60とからなっている。アクチュエータドライブアセンブリ53は、力作用部材もしくは加圧プレート58と該加圧プレート58を選択的に係合させるクラッチアセンブリ56とからなっている。
【0023】
保持部材52は、ねじ付き主軸54から半径方向外方に広がり、離して配置された注入器取付部62と主軸取付部64を有する2重ヨーク(double yoke)構造からなっている。注入器取付部62は、注入器20を保持部材52に取り付け固定するためのものである。図1に示す特徴的な実施形態において、注入器取付部62は、注入器20を摺動自在に挿入できるように寸法が決定された断面形状を有する開口部を備え、注入器20の基端24に形成されたフランジが保持部材52の表面に接触している。固定具66は、半径方向内向きの力を作用し、筒部22を注入器取付部62の内壁に対して押圧する。固定具66によって直交方向に固定されると、注入器20は、その長手方向軸に対して平行な向きに移動しないように固定される。主軸取付部64は、ねじ付き主軸54を保持部材52に取り付け固定するためのものである。図1に示す特徴的な実施形態において、主軸取付部64は、ねじ付き主軸54を挿入できるように寸法が決定された断面形状を有する開口部を備える。固定具68は、半径方向内向きの力を作用し、ねじ付き主軸54を主軸取付部64の内壁に対して押圧する。また、保持部材52はスイッチ69を備え、該スイッチ69は、作動されると選択的にモータ60の電源をオン/オフする。
【0024】
モータ60は、(2点鎖線で示すように)ハウジング73内に配置されており、ねじ付き主軸54を駆動可能に接続されている。モータ60に電圧が印加されると、ねじ付き主軸54は、矢印67で示す向きに所定の角速度で長手方向軸周りを回転する。モータ60は、例えば、歯車ボックス内の互いに噛み合う歯車、遊星歯車、またはベルトなどによる機械的連動機構(不図示)によってねじ付き主軸54に設けられている。モータ60が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく直接的に主軸54を駆動してもよいことは明らかである。ねじ付き主軸54は、細長い円柱形状部材からなり、この円柱形状部材には、その外面の長さ方向に沿って端から端へ外周面に配置された連続するらせん形状の外側ねじ山70が形成されている。一実施形態において、ねじ付き主軸54は、約50cmの長さを有し、また1インチあたり32個のねじ山を有し、これにより360回転毎に約0.12mmだけ直線移動して1時間あたり36mlの供給速度を生ずる。ねじ山70のピッチが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、主軸54の所定の角速度に対して遅い供給速度または速い供給速度を生ずるように変形してもよいことは明らかである。
【0025】
加圧プレート58は、軸受71によってねじ付き主軸54に回転可能に設けられている。図1に示す実施形態において、加圧プレート58は、背中合わせの平行な面72,72aを有する薄い円形状板からなっている。加圧プレート58は、ねじ付き主軸54が回転するとき面72の一部がプランジャ30などのアクチュエータに常に接触するように形成されている。加圧プレート58の形状が本発明の範囲および精神から逸脱することなく変形可能であることは明らかである。このような加圧プレート58における変形例として、制限的でないロッド、レバーなどが挙げられる。支持アーム75は、固定された取付部まで延びており、加圧プレート58を動かないようにし、また主軸54と連動して回転しないようになっている。
【0026】
クラッチアセンブリ56は、面72aに設けられており、ねじ付き主軸54の外側ねじ山70と解放可能に係合するようになっている。図1に示す実施形態において、クラッチアセンブリ56は、面72aに摺動可能に取り付けられた2つの移動止め部76,76aからなっている。止め部76,76aが外側ねじ山70と係合すると、ねじ付き主軸54の回転は、クラッチアセンブリ56の螺旋回転によって加圧プレート58に作用される直線方向の駆動力に変換される。そして、加圧プレート58は、前記直線方向の駆動力をプランジャ30などのアクチュエータに伝達し、これによりプランジャ30を注入器20の先端26側に徐々に前進させる。プランジャ30が前進すると、貯蔵部28内の薬剤29が流出口32を介して供給される。他の実施形態において、クラッチアセンブリ56は、ねじ付き主軸54によってねじ切るように受け入れられ、また、ねじ付き主軸54のねじ山70と非回転であるように解放可能に係合するナットのような固定具から構成してもよい。
【0027】
供給操作を実行するにあたり、装置50は、筒部22の長手方向軸が重力方向に対して略垂直であるように向けられ、これにより薬剤29は、注入器20の基端24または先端26のいずれかに向かって懸濁媒体内で長手方向に分離しない。しかしながら、薬剤29の長手方向の移動速度が供給操作の間、僅かである場合、注入器20の長手方向軸は僅かに傾斜する角度を有していてもよいことは当業者にとって明らかである。一般的に、許容される傾斜角度は、供給媒体の粘度と薬剤29の浮力による。
【0028】
モータ60に電圧が印加されると、注入器20は、ねじ付き主軸54の長手方向軸周りを遊星回転する。ねじ付き主軸54に対する一般的な角速度または回転速度は、1分あたり約3回転(rpm)から約30rpmである。薬剤29を非懸濁状態から懸濁状態へと懸濁するのに必要とされる一般的な時間は、回転速度に応じて約1分から約5分の間である。視覚化手段または他の手段によって薬剤29が貯蔵部28内において懸濁したと決定されると、クラッチアセンブリ56が係合され、加圧プレート58は面72がプランジャ30と接触しながら基端から先端に向かって前進する。その結果、モータ60によって提供される直線方向の駆動力によりプランジャ30が、ねじ付き主軸54の角速度に比例した線速度で基端から先端に向かって移動する。プランジャ30が筒部22の先端26側に移動するにつれて、懸濁液29は、貯蔵部28から流出口32を介して供給され、ルアーコネクタ35内の流路を通過し、画像形成を行おうとする、もしくは画像形成を行う工程中の患者の脈管(vasculature)内に供給するための導管40の内部に侵入する。3mlの注入器であれば、供給速度は、主軸54の回転速度またはモータ60の速度に依存する約5ml/hrから約50ml/hrの範囲内であることが好ましい。導管34は、ルアー固定コネクタ35の回転部36に取り付けられているので、導管40は、注入器20がねじ付き主軸54の周りの遊星軌道において回転されても回転しない。
【0029】
薬剤29の投与を中止または中断する必要がある場合、クラッチアセンブリ56を解放することによって加圧プレート58の前進を停止するとともに注入器内において懸濁状態を維持できる。加圧プレート58が停止すると、プランジャ30は、注入器20の先端26側にもはや前進せず、薬剤29の供給が終了する。しかしながら、注入器20は、モータ60への電力供給を故意に停止しない限り、ねじ付き主軸54周りを遊星回転し続ける。その結果、薬剤29の投与が再開または完了されるまで懸濁状態が維持される。
【0030】
本発明の原則に係る他の実施形態である装置100を図2−4において示す。図2,3Bおよび4の各図を参照すると、注入器123は供給される薬剤129を含み、薬剤129は懸濁媒体内において拡散している。図3Aを参照すると、注入器123には実質的に内容物が入っていない。
【0031】
図2を参照すると、装置100は、外ケースまたはハウジング102、ハウジング102内に配置されたモータ106、およびモータ106に動作可能に連結されたタンブラ108を備えている。ハウジング102は、基端107から先端109まで長手方向軸に沿って延びる円筒形状の壁体を有する。先端109は、取り外し可能なカバー104で覆われている。カバー104は、充填されたまたは空の注入器123をハウジング102の内側に挿入するために取り外せる。ねじ付き部110が、ハウジング102の内面の長さ方向に沿って設けられており、このねじ付き部110にはハウジング102の基端107上において1つまたは複数の長手方向溝112が形成されている。モータ106の外面には、溝112内にそれぞれ摺動自在に受け入れられるように形成され、かつ位置決めされたフランジ114が設けられている。フランジ114と溝112との間の係合により、モータ106は、ハウジング102に対してモータ106の長手方向軸周りを回転しない。モータ106がハウジング102内を長手方向に移動すると、各フランジ114は対応する溝112内を移動する。モータ106は両回転可能であり、バッテリーのようなDC電源、エキスパンダ付き(spring-loaded)ぜんまい機構、AC電源、または当業者に一般的に知られている他の電源によって電力が供給されることが好ましい。
【0032】
モータ106は、タンブラ108に設けられた凹部117内に延びる駆動軸116を回転するように形成されている。駆動軸116は、セットねじ(不図示)または当業者に公知の他の固着手段により凹部117に固定されている。タンブラ108は、環状円筒形の細長い構造であり、その両端に外面から半径方向外側に延びるセンタリングフランジ124と126を備えている。フランジ124,126はタンブラ108をハウジング102にセンタリング(center)する役割をする。フランジ126は図4に示すように、外部ハウジング接触面にねじ部を有し、該ねじ部はハウジング102のねじ部110と螺合するように配置され形成されている。タンブラ108の内部は、平坦部(flat)118を有し、該平坦部は注入器123のフランジ122に形成された対応の平坦部120と係合するように配置され形成されている。
【0033】
タンブラ108の内部寸法および外部寸法は、可変容量を有する注入器123を収容するように、また、ハウジング102の内面に嵌合するように、変更することができる。タンブラ108またはハウジング102の内部寸法は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく変更することができる。なぜなら、タンブラ108およびハウジング102の内部表面は、注入器123の外面と接触し、処置(procedure)の滅菌性(sterility)が維持されるからである。
【0034】
ルアー(Luer)コネクタ135が注入器123の先端に取り付けられ、注入器123の内部と流体的に連通している。ルアーコネクタ135の固定カップリング136は、取外し可能なカバー104の内部と当接係合しているため、回転することができない。モータ106が駆動すると、タンブラ108が同時に注入器123を回転し、プランジャー130を前進させて、供給力(dispensing force)を与え、注入器123の内容物を供給する。なぜなら、固定カップリング136は自由に回転せず、取り付けられた導管(不図示)は回転方向に静止したままであるからである。
【0035】
装置100を準備して供給動作を行うために、取外し可能なカバー104をハウジング102の端部から取り外す。注入器123は、懸濁剤129が予め充填され、図4Aに示すようにタンブラ108の内部に配置する。代案として、空の注入器123をタンブラ108内に配置して、注入器123の先端を多量の懸濁剤129と接触させてプランジャー130を吸引する。注入器123を挿入し、注入器本体の平坦部120がタンブラ108の内部の対応の平坦部118と係合するようにする。プランジャー130の基端はタンブラ108の基端部に接触する。注入器123を挿入した後、ルアーコネクタ135を注入器123の先端に取り付ける。取外し可能なカバー104をハウジング102の先端109に再び取り付けて、固定カップリング136に係合する。血管カテーテルのような適当な導管(不図示)をルアーコネクター135の端部に取り付ける。
【0036】
注入器123の長手軸が重力方向にほぼ垂直になるように装置100を定位する。これにより懸濁剤129は懸濁媒体内で長手方向に分離しなくなる。しかしながら、懸濁剤29の長手方向の移動速度が供給操作中に無視できるなら注入器123の長手軸が僅かな傾きを有していてもよいことは、当業者に認められることである。一般に、許容傾斜角は懸濁媒体の粘性と懸濁剤29の浮力に依存する。開始にあたってモータ106を所定の角速度で駆動し、これは駆動軸116を凹部117に固定することでタンブラ108に伝えられる。タンブラ108がハウジング102の長手軸の回りに回転するにつれて、ケース110のねじ部とセンタリングフランジ126のねじとが噛み合うことにより、タンブラ108が螺旋状に強制的に回転する。タンブラ108が注入器123の先端109に向かって前進すると、タンブラ108の基端とプランジャー130の係合によりプランジャー130が注入器123の内部で前進する。プランジャー130が先端109に向かって前進すると、注入器123内の懸濁剤129はルーメンを経てルアーコネクター135に供給され、取り付けた導管(不図示)に入る。注入器123の螺旋状の一方向性の回転により、注入器123内の懸濁剤129の均一な懸濁が達成され維持される。回転と供給が同時であるため、懸濁剤が吹き込まれるか注入されるか否かにかかわらず、懸濁剤129は画像形成中に懸濁状態に維持される。
【0037】
超音波からのエネルギーを使用する画像形成(超音波画像形成)に対しては、造影剤の一つのタイプは、薬学的に受容可能な懸濁搬送媒体内のガス充填ミクロスフェア(gas-filled microsphere)である。気体は液体や固体に比べて大いに向上したエコー発生性(echogenicity)を有するので、ガス充填ミクロスフェアは音波を強く反射する。ミクロスフェアは、搬送媒体内で浮揚性があり、これにより同種の懸濁は投与の延長期間中に達成し維持するのが困難である。本発明の装置および方法は、以下の実施例に示すように、この問題を軽減するのに使用してもよい。
【実施例1】
【0038】
3mlのガラス注入器に、ミクロスフェア含有造影剤特にオプティソン(Optison(登録商標))を充填した。オプティソンは、ペルフルオロプロパン(C)を含有するアルブミンミクロスフェアの水性懸濁液である。
【0039】
注入器を逆さにして過剰ガスを排出した後、本発明の原理に従って注入器を図1に示す装置の保持部材に設置した。加圧プレートをプランジャーの端部に接触させ、クラッチアセンブリを解除した。この実施例では、ねじ付き主軸は1インチ当たり32ねじを有する10番ねじであった。注入器の先端には、実際の注入セットアップ(infusion setup)を模擬するために、(B.Braun製の)ルアー回転アダプターと19−ゲージの血管カテーテルを取り付けた。
【0040】
血管カテーテルを固定している間、モータ/ギヤボックスの組み合わせ(Fisher Scientific のSL300攪拌ユニット)を駆動して、ねじ付き主軸を回転させ、その遊星軌道内で注入器を移動させた。この実施例では、注入器を毎分約15回転の角速度で回転させた。
【0041】
約2分間注入器を回転させると、ミクロスフェアは十分に均一に薬剤搬送液内で分散し、均一な懸濁を生じた。この時点で、クラッチをつないでプランジャーを注入器の筒部内で前進させた。血管カテーテルポートから供給される薬剤は、後のミクロスフェア分布の分析のために、部分標本(aliquots)に収集した。薬剤の供給は注入器が空になるまで続けた。注入器内のプランジャーの全移動距離は約2インチ、すなわちねじの72回転であった。これにより、注入器は5分弱で空になった。これは、超音波を用いて心臓のような器官を画像形成するのに適度な時間である。
【0042】
薬剤の部分標本(500μl)は、注入器アセンブリに接続された血管カテーテルの開口端から収集した。各部分標本は、コールター粒子サイズ分析器(米国カリフォルニア州フラートンのBeckman Coulter,Inc.製)を使用して、ミクロスフェアのサイズと濃度を分析した。
【0043】
一般に、コールター粒子サイズ分析は、電解溶液内に懸濁する粒子が検出域を検出する電極間の小孔を通過する際に生じる。検出域では、各粒子はそれ自身の容積の電解液を置換する。置換容積は電圧パスルとして測定され、各パルスの高さは粒子の容積に比例する。孔を通って引き出される容積薬剤は、正確に制御され、これにより本システムは、粒子形状、色および密度と無関係に、正確で再生可能な容積に対して、粒子を計数し分類することができる。
【0044】
懸濁粒子を分粒し計数するコールター法の標準の条件は、開口50-μm、電解液200ml、この場合はイソトン(Isoton(登録商標))緩衝液、薬剤の等分容積500μl、注入容積20μlである。その結果は、次の通りである。
[表1]
部分標本 平均粒子サイズ 粒子濃度
(それぞれ約1分) (μm) (×10/ml)
1 3.315 1003
2 3.328 969
3 3.323 945
4 3.265 1004
5 3.286 1051
【0045】
全供給期間にわたって、5つの部分標本の各々において、薬剤の平均サイズと粒子濃度はほぼ均一であった。5つの部分標本の統計的分析から、平均粒子サイズの平均値および標準偏差を計算して3.303μm±0.027μmを得た。また、粒子濃度の平均値および標準偏差を計算して994×10/ml±40×10/mlを得た。
【0046】
前述した本発明の詳細、特徴および実施形態は多くの利点を有する。本発明の権利による装置は、画像形成操作中に、造影剤のような薬剤を均一に懸濁し、これにより、均一な懸濁剤が患者に注入される。さらに、装置は、混合用に修正された専用のパワーインジェクターに比べて、軽くて、小さく、比較的製造が安価である。
【0047】
本明細書に示され記載された本発明の実施形態は、当業者である発明者の好ましい実施形態に過ぎず、これに限定されるものではないことが理解されるべきである。例えば、本発明の装置と方法は、同時継続の米国出願第09/316315号に記載された容器または供給容器のような容器と関連して使用してもよい。したがって、本発明の精神および特許請求の範囲から逸脱することなく、これらの実施形態に対する種々の変更、修正および代案が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による懸濁剤を供給する装置の概略側面図。
【図2】本発明による懸濁剤を供給する装置の代案実施形態の斜視図。
【図3A】図2の装置の部分断面側面図。
【図3B】図2の装置のプランジャーを延ばした部分断面側面図。
【図4】図3Bの丸で囲んだ領域の拡大図。
【符号の説明】
【0049】
20 注入器
30 プランジャ
51 ロータリドライブアセンブリ
53 アクチュエータドライブアセンブリ
52 保持部材
54 ねじ付き主軸
56 クラッチアセンブリ
58 加圧プレート
60 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸とアクチュエータを有する容器に保持された薬剤を懸濁状態に維持する装置において、
前記容器を前記軸の回りに回転させ、供給力を選択的に付与する回転手段と、
前記回転手段に駆動可能に接続され、前記容器から懸濁剤を提供する提供手段とからなり、
前記提供手段は前記回転手段から前記供給力を前記アクチュエータに伝達することを包含可能な装置。
【請求項2】
前記提供手段は、前記容器が前記回転手段により回転している間、前記容器から懸濁剤を射出する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
注入器に収容された薬剤を懸濁状態に維持する装置であって、前記注入器は、軸を有し、薬剤を保持する筒部と該筒部に装着されたプランジャーとからなる装置において、
軸を有するねじ付き主軸と、
該ねじ付き主軸に駆動可能に接続され、前記注入器の軸か前記主軸の軸のいずれか一方の回りに前記主軸を回転させるロータリーモータと、
前記注入器に取り付けられた第1部分と、前記ねじ付き主軸に取り付けるために前記注入器から離れて延びる第2部分とを有する保持部材と、
前記主軸に装着され、前記薬剤が懸濁状態にある間に、前記注入器の回転中に前記プランジャーを前進させて前記注入器から薬剤を提供するのに十分な力を前記プランジャーに選択的に作用させるように形成された力作用部材とからなる装置。
【請求項4】
前記力作用部材を前記主軸に選択的に係合させるように適合されたクラッチアセンブリをさらに有する請求項3に記載の装置。
【請求項5】
容器に収容された薬剤を懸濁状態に維持する装置であって、前記容器は該容器から薬剤を提供するために駆動可能なアクチュエータを有する装置において、
円筒壁と軸を有する容器のハウジングと、
前記円筒壁の内部に配置され、前記容器を受け入れて保持するように形成され、前記ハウジングの前記軸の回りに回転可能に移動するように適合された内部部材と、
前記内部部材を回転させるために前記内部部材に駆動可能に接続されたモータとからなり、
前記内部部材は、前記容器のアクチュエータに駆動可能に接続されて前記容器から薬剤を提供し、前記容器内の薬剤は、前記内部部材の回転により懸濁状態に維持される装置。
【請求項6】
前記ハウジングの円筒壁は、ねじ付き内部を有し、前記内部部材は、前記円筒壁のねじ付き内部に係合するねじ付き周辺部を有し、前記ねじ付き部分間の係合により前記内部部材が前記ハウジングの軸に対して回転する請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記内部部材は、該内部部材の表面から外側へ半径方向に延びる第1フランジを有し、該第1フランジは前記ハウジングの前記円筒壁と係合して回転運動するように適合されている請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記壁はねじ付き内部を有し、前記第1フランジは前記ハウジングの円筒壁の前記ねじ付き内部と係合するねじ付き周辺部を含む請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記ハウジングは、少なくとも1つの開口端と該開口端に取り外し可能に装着されたカバーとを有する請求項5に記載の装置。
【請求項10】
前記カバーは前記容器にコネクターを取り付けることができる開口を有する請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記コネクターは、前記カバーにより静止状態に保持された第1部分を有し、該第1部分は前記容器に回転するように取り付けられた第2可回転部に液密状態で接続されている請求項10に記載の装置。
【請求項12】
アクチュエータと容器軸を有する容器内にある薬剤を懸濁状態に維持する方法において、
前記容器を回転軸の回りに回転させて前記薬剤を十分に懸濁させ、
前記容器が回転して前記薬剤を懸濁状態に維持している際に、前記アクチュエータを駆動するのに十分な力を前記アクチュエータに作用させて、前記容器から前記薬剤を提供する方法。
【請求項13】
前記容器の回転および前記薬剤の提供は同時に行なう請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記容器の回転は前記薬剤の提供の前に行なう請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記薬剤の提供を中断し、前記容器の回転を維持する請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記容器の回転は、前記回転軸の回りに遊星駆動で前記容器を回転させることからなる請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記容器軸と前記回転軸は同一線上にある請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記容器の回転の前に、前記容器に前記薬剤を予め充填することをさらに有する請求項12に記載の方法。
【請求項19】
容器と、該容器内の懸濁媒体中の薬剤とをさらに有する請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記薬剤は造影剤である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記容器は注入器である請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−149119(P2008−149119A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281869(P2007−281869)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【分割の表示】特願2002−533990(P2002−533990)の分割
【原出願日】平成13年10月4日(2001.10.4)
【出願人】(595181003)マリンクロッド・インコーポレイテッド (203)
【氏名又は名称原語表記】Mallinckrodt INC.
【Fターム(参考)】