説明

薬剤揮散体及びこれを用いた薬剤揮散方法

【課題】風力と遠心力に優れ、非常に良好な揮散性能を有することはもちろん、有効成分の拡散性に優れた大きな空間用として特に強力な効果を発揮する薬剤揮散体並びにそれを用いた薬剤揮散方法の提供。
【解決手段】薬剤保持体2を円筒状の薬剤カートリッジ3に収納し、この薬剤カートリッジを回転させて薬剤を揮散させる薬剤揮散体1において、前記薬剤保持体は、平板状の繊維立体構造体を周回させて中空円筒状に形成したものであることを特徴とする薬剤揮散体及び該薬剤揮散体を用いた薬剤揮散方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤揮散体及びこれを用いた薬剤揮散方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
害虫、例えば蚊や蚋などを駆除するために、薬剤を各種空間に揮散させるための方法としては、従来より、種々の方法が提案されており、実用化がなされている。その中でも、熱エネルギーを利用した方法としては、蚊取線香や電気蚊取マット、液体式電気蚊取などが一般的なものとして挙げられる。
【0003】
また、一方で揮散性薬剤を用いて薬剤を揮散させる方法として種々のものが提案されている。
例えば、特開平5−68459号公報においては、揮散性薬剤を拡散用材料に保持させ、駆動手段を用いることで揮散性薬剤を気中に拡散させる方法が提案されている。
また、特開2002−17230号公報では、薬剤含浸体を収納するカートリッジをモーターで回転させ、遠心力とファンによる風力を利用して薬剤を効率的に揮散させる方法を開示している。これらの方法では、薬剤含浸体を収納するカートリッジをモーターで回転させるための薬剤の揮散性能は、非常に良好であったが、薬剤をより効率的に揮散させる観点から、昨今の住宅事情の変化等により、使用する部屋の大型化が進んでいる現状に鑑み、この点においても、更なる製品の改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−68459号公報
【特許文献2】特開2002−17230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、風力と遠心力に優れ、非常に良好な揮散性能を有することはもちろん、特に、有効成分の拡散性に優れた大きな空間用として強力な効果を発揮する薬剤揮散体並びにこれを用いた薬剤揮散方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)薬剤保持体を円筒状の薬剤カートリッジに収納し、この薬剤カートリッジを回転させて薬剤を揮散させる薬剤揮散体において、
前記薬剤保持体は、平板状の繊維立体構造体を周回させて中空円筒状に形成したものであることを特徴とする薬剤揮散体。
(2)前記薬剤カートリッジは、外側面部と内側面部、中心に位置する軸心部、及びこれらの連結部から構成され、前記外側面部と内側面部はいずれも回転面と平行に開口部を有しており、この外側面部と内側面部の間に前記薬剤保持体が収納されることを特徴とする(1)記載の薬剤揮散体。
(3)前記薬剤保持体は、三次元方向にメッシュ状を形成している通気層の内側面に、毛管現象によって薬剤を保持できる程度の隙間を有する薬剤保持層を設けると共に、通気層におけるメッシュ状の隙間の程度が、薬剤保持層における隙間の程度よりも大きい状態としたうえで、通気層と薬剤保持層とを接合させた繊維立体構造体であることを特徴とする(1)又は(2)記載の薬剤揮散体。
(4)前記薬剤カートリッジの内側面部から軸心部までの距離(A)と前記薬剤保持体の厚み(通気層と薬剤保持層とを併せた距離:B)との比率(A/B)が、3〜20であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の薬剤揮散体。
(5)前記薬剤保持体に保持される薬剤は、30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の薬剤揮散体。
(6)(1)ないし(5)のいずれかに記載の薬剤揮散体を用い、駆動モーターのモーター軸に前記薬剤カートリッジの軸心部を嵌合し、この薬剤カートリッジを回転させて薬剤を揮散させることを特徴とする薬剤揮散方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の薬剤揮散体及びこれを用いた薬剤揮散方法を用いることにより、揮散性の有効成分を使用の末期まで、効率的に揮散させることが出来る。また、大きな部屋で用いた場合でも隅々まで十分な効力が得られる。
さらに、通常は薬剤揮散体の回転数が低下した場合には、揮散成分の揮散性が下がり、効力が低下すると考えられるが、本発明の薬剤揮散体では、回転数が低下した場合でも効力の低下はほとんど認められないという効果をも奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明で使用される薬剤揮散体の薬剤カートリッジに薬剤保持体を入れていない一態様の斜め上面図である。
【図2】図1の薬剤揮散体の薬剤カートリッジに薬剤保持体を装着した時の薬剤揮散体の一態様の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いられる薬剤揮散体は、薬剤揮散体が通常の円筒状の薬剤カートリッジに収納された形で使用される。この薬剤カートリッジは、回転させて使用されるので、円筒形状のものであれば、その高さや直径などに特に限定はないが、円筒状の外側面部及び内側面部に開口部を有するものが好ましい。
【0010】
本発明の薬剤保持体としては、平板状の繊維立体構造体であることを必要とする。この繊維立体構造体は、繊維を原料として立体的な構造としたものであれば、特に限定はなく、いずれのものも使用できる。繊維の原料しては、揮散が一定で持続性が良好なものがより好ましく、例えば、天然繊維の木綿、麻、羊毛、絹等またレーヨン等の半合成繊維、合成繊維のポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)やポリブチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド、ポリフェニレンサルファイド等、無機繊維のガラス繊維やカーボン繊維、セラミック繊維等を挙げることが出来る。
【0011】
特に、繊維立体構造体の中でも、上段部分(薬剤保持体では内側面側に位置する)と下段部分(薬剤保持体では外側面側に位置する)の立体構造体の繊維の原料が異なるものが好ましい材料として提示される。
薬剤保持体の立体構造体の中では、特に好適な例として、天然繊維の木綿、麻、羊毛、絹等またレーヨン等の半合成繊維、合成繊維のポリエステルであるポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド、ポリフェニレンサルファイド等、無機繊維のガラス繊維やカーボン繊維、セラミック繊維等を用いたものが挙げられるが、特に、上段部分の材料として、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル材料が、下段部分の材料としては、ポリアミド樹脂などのナイロン系の材料が挙げられる。
これらの材料では、薬剤放出のための薬剤の移動が毛管現象で行われるので、薬剤を一定量、連続して揮散させることが出来、特に好適である。
薬剤保持体の繊維立体構造体の材料は、一般的な材料をいずれも使用可能であるが、特に、通気度を表すと、200〜500cm/cm/秒であれば更に好ましい。
なお、通気度はJISL1096の方法に準じて測定する。
【0012】
本発明の薬剤カートリッジの一形態としては、中心に軸芯部を有し、外側面部と内側面部との間を連結部が繋がれた形状のものが示される。通常は軸芯部からの連結部の形状は特に限定はされないものの、軸芯部からは、数箇所で橋渡し状になっている。この橋渡し状となることで、空気の流通がより起こり易く、揮散性によりよい構造となり、より好ましい。
なお、本発明でいう内側面部とは、平板状の立体繊維構造体を周回させて、薬剤カートリッジに収納する際の内面側に位置し、平板状の立体繊維構造体を内面側より支える構造となる部分を指す。また、外側面部とは、平板状の立体繊維構造体を周回させて、薬剤カートリッジに収納する際の外面側に位置し、平板状の立体繊維構造体を外面側より支える構造となる部分を指す。
これら内側面部及び外側面部は、いずれも円筒状の薬剤カートリッジの一部となるように構成される。
【0013】
本薬剤揮散体中の薬剤カートリッジの内側面部から軸心部までの距離(A)と前記薬剤保持体の厚み(通気層と薬剤保持層とを併せた距離:B)は、特に限定はされないが、軸芯部までの距離(A)と薬剤保持体の厚み(B)の比率(A/B)が、3〜20であることがより好ましく、さらに4〜10がより好ましい。その数値が小さいと十分な効力が得られないし、大きすぎると薬剤揮散体の回転時の負荷が大きくなり、時間が短くなり、実用性の乏しいものとなってしまう。
なお、内側面部から軸芯部までの距離とは、薬剤カートリッジの繊維立体構造体の内面側より支える部分の中心側の面と軸芯部までの距離をいう。
【0014】
薬剤保持体に使用される揮散性薬剤としては、室温にて通常の揮散性を有するものであれば特に限定されず、いずれも使用可能である。特に、ピレスロイド化合物は各種の揮散性を有しており、使用可能な例として挙げられる。30℃において、蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであるピレスロイド化合物では、薬剤が順次揮散し、特に優れている。これらの中で、使用可能なものとしては、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート(トランスフルトリン)、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(プロフルトリン)、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート(メトフルトリン)、4−メチキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Aと称す)、4−プロパルギル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル 2,2,3,3−テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート(以後、化合物Bと称す)などが挙げられる。これらの中には各種の異性体が存在するが、これらは、いずれものの本発明に含まれ、またいずれの比率の混合物であっても利用可能である。
また、これらの中から2種以上の化合物を使用して、揮散性の程度に応じて適宜薬剤を選択し、揮散性の調整をして、長期間の製剤とすることも可能である。
【0015】
揮散性薬剤は、単独で使用することも可能であるが、各種の溶剤により希釈したり、また各種の添加物を添加して使用することも出来る。
使用可能な溶剤としては、n−パラフィン、イソパラフィンなどの炭化水素系溶剤、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどの炭素数3〜6のグリコール、これらのグリコールエーテル、ケトン系溶剤、エステル系溶剤などがあり、これにより適宜希釈して薬剤保持体に添加することが出来る。
また各種の添加剤としては、各種の安定剤として、BHT、BHA、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4´−メチレンビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,5−ジーt−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、メルカブトベンズイミダゾール等が挙げられる。
また、必要に応じて紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、光沢剤、他の粉末、消炎剤、制汗剤、あるいは保湿剤、界面活性剤、分散剤、香料等の種々の成分を添加することも出来る。
【0016】
これらの揮散性薬剤を保持させた薬剤揮散体は、その中心に位置する軸芯部を中心として回転させ、薬剤を揮散させるものが示される。回転数に関しては、通常のモーターの回転数であれば、特に限定をされるものではないが、1分間の回転数としては、300〜10000rpm程度が例示される。さらに好ましくは、500〜2000rpmが例示される。この回転数より少ないと、効力に対する影響に問題が出る可能性があり、これ以上であった場合には、電池の消耗が大きくなり、長期間使用出来ないとの問題が生じる可能性がある。
本発明の薬剤揮散体は、各種の薬剤揮散用の電気式薬剤揮散器に設置し、回転させて使用されるものであり、特にその器具の形態等に制限はないが、特に好適な器具の形態として、薬剤揮散体の上面部に開口部を有し、薬剤揮散体の薬剤カートリッジの外側面部の外側の一部又は全部に開口部を有するものが特に好ましい形態として挙げられる。
【0017】
本発明に用いられる駆動モーターとしては、直流電源及び交流電源のいずれに使用されるモーターであっても一般に使用されるモーターであれば、特に限定はなく、ブラシモーター又はブラシレスモーターのような各種のモーターが例示される。特に、ブラシレスモーターでは、モーターの寿命も長く、使用性にも優れているので、使用性に優れたものとして、例示できる。
【0018】
かかる構成の薬剤揮散体を用い揮散させる薬剤揮散方法によれば、長期間にわたり、大きな部屋や屋外においても各種の害虫に対して、強力な効果を発揮させることが出来る。各種の害虫としては、蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類、イガ類などの飛翔性の害虫に対して有効である。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の試験例について説明するが、本発明はこれらの試験例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
薬剤保持体として、平板状の繊維立体構造体を有する厚み4.5mm×縦45mm×横240mmのものを取り、これにメトフルトリンを含浸し、これを周回させ、直径 8cm× 高さ 5cm の円筒状薬剤カートリッジの内側面部と外側面部の間に収納した。この薬剤揮散体を回転により薬剤を揮散させる電気式薬剤揮散器に装着し、回転数1000rpmにて回転させた。
【実施例2】
【0021】
実施例1で作成した薬剤揮散体を電気式薬剤揮散器に設置し薬剤揮散体を回転させたものを25畳の部屋の中央に置き、アカイエカ雌成虫100匹を放ち、試験室内での効力を確認した。
〔KT50での効力評価〕
○:5分以上30分未満 △〜○:30分以上60分未満 △:60分以上90分未満×:90分以上

初期ではKT50で、25分となり、高い効力を発揮した。また、700時間まで継続して揮散させたところ、末期まで安定した効力を維持した。

【実施例3】
【0022】
実施例1及び2に準じて、表1の通り試験を行った。
【表1】

【0023】
表1に示した通り、本発明の薬剤揮散体を用いたものでは初期から末期まで高い効力を維持した。
これに対し、棒状の樹脂や厚紙を用いた比較例においては、初期には効力が認められたが、時間の経過に伴い、効力が低下し、末期ではほとんど効力が認められなかった。



【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の薬剤揮散体は薬剤を効率的に揮散させることが可能であるので、有効成分を適宜選択し、例えば芳香、消臭、抗菌分野などの、薬剤を揮散させる分野において、実用化が可能である。

【符号の説明】
【0025】
1:薬剤揮散体
2:薬剤保持体
3:円筒状の薬剤カートリッジ
4:軸芯部
5:開口部分
6:連結部
7:内側面部
8:外側面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤保持体を円筒状の薬剤カートリッジに収納し、この薬剤カートリッジを回転させて薬剤を揮散させる薬剤揮散体において、
前記薬剤保持体は、平板状の繊維立体構造体を周回させて中空円筒状に形成したものであることを特徴とする薬剤揮散体。
【請求項2】
前記薬剤カートリッジは、外側面部と内側面部、中心に位置する軸心部、及びこれらの連結部から構成され、前記外側面部と内側面部はいずれも回転面と平行に開口部を有しており、この外側面部と内側面部の間に前記薬剤保持体が収納されることを特徴とする請求項1記載の薬剤揮散体。
【請求項3】
前記薬剤保持体は、三次元方向にメッシュ状を形成している通気層の内側面に、毛管現象によって薬剤を保持できる程度の隙間を有する薬剤保持層を設けると共に、通気層におけるメッシュ状の隙間の程度が、薬剤保持層における隙間の程度よりも大きい状態としたうえで、通気層と薬剤保持層とを接合させた繊維立体構造体であることを特徴とする請求項1又は2記載の薬剤揮散体。
【請求項4】
前記薬剤カートリッジの内側面部から軸心部までの距離(A)と前記薬剤保持体の厚み(通気層と薬剤保持層とを併せた距離:B)との比率(A/B)が、3〜20であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の薬剤揮散体。
【請求項5】
前記薬剤保持体に保持される薬剤は、30℃における蒸気圧が2×10−4〜1×10−2mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の薬剤揮散体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の薬剤揮散体を用い、駆動モーターのモーター軸に前記薬剤カートリッジの軸心部を嵌合し、この薬剤カートリッジを回転させて薬剤を揮散させることを特徴とする薬剤揮散方法。


【図1】
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【図2】
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