説明

薬剤活性因子を注入する装置

【課題】 前記固体薬剤(10)が、前記ニードル(4)を患者に刺し引き抜くことにより前記患者の体内に注入される前に、前記開口(34)から落下するのを防止する機構を提供する。
【解決手段】 本発明の固体薬剤(10)を患者の体内に注入する注入装置は、本体(2)と、前記固体薬剤(10)が導入されるニードル(4)とを有する。前記ニードル(4)は、先端が面取された開口(34)を有し、前記本体(2)内を、その長手方向軸(X−X)に沿って、移動し、前記開口部(34)の面取りされた部分が、前記本体(2)の内側に当たることにより前記ニードル(4)の長手方向軸が、前記本体(2)長手方向軸に対し傾斜する。これにより、前記固体薬剤(10)が、前記開口(34)から落下するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入装置に関し、特に、活性薬剤因子を筋肉あるいは皮下から注入する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの場合、活性薬剤因子は、経口投与が好ましい。特に、薬剤が一部あるいは完全に消化器系に投与される時、あるいは器官の早い反応が求められている時には、経口投与が好ましい。
【0003】
薬剤因子の非経口投与には、欠点がある。その内の1つは、薬剤因子が投与される患者に苦痛が伴うことである。薬剤の非経口投与の準備には、薬剤が懸濁あるいは分解する大量の液体の形態を採る。薬剤が懸濁液に溶けやすくない時、即ち解けづらい時、更には活性因子を大量のドーズ量で投与しなければならない時には、大量の液体を注入しなければならない。活性因子と賦形剤との比率は、通常1%と0.1%の間である。患者の苦痛は、針(ニードル)の太さと注入される液体の量に依る。ある場合には、賦形剤の性質が、患者に苦痛を感じさせることもある。
【0004】
液体媒体中に分解あるいは懸濁させた薬剤を投与する別の欠点は、薬剤は、液体中ではしばしば不安定になることである。かくして、薬剤と液剤は注入直前に混合しなければならない。これは、例えば伝染病を防止するために、短期間に数百人を治療しなければならない時(ワクチン投与の時)には、特に不都合である。
【0005】
上記の欠点を解決するために、液体形状ではなく固体形状の薬剤を用いて、徐々に放出することあるいは管理しながらの放出が行われる。この投与は、套管針を用いて直接挿入されるロッドあるいはインプラントの形態を採る。この種のインプラントは、薬剤の毎日のドーズ量と薬剤活性の日数との積の量の薬剤と、所定の期間薬剤の放出速度を制御する媒体を十分な量収納しなければならない。従って、この固体注入は、通常の注射針よりもはるかに太い針を必要とし、苦痛を伴う注入となる。
【0006】
【特許文献1】欧州特許第0783342号明細書
【特許文献2】米国特許第6228049号明細書
【0007】
特許文献1に開示された安全注入装置は、最後に述べた欠点を解決する。この注入装置を図1とともに簡単に説明する。図1は、静止位置にあるこの種の注入装置の断面図である。
【0008】
図1の注入装置1は、本体2を有する。この本体2は、結合手段6を介してニードル4に固定される。ロッド8がニードル4の内側に入り移動し、前記ニードル4の内側に配置された医薬のドーズ量である固形薬剤10に当たって停止する。空洞のシース12がニードル4を包囲する。その結果、ニードル4は、使用前には露出しない。ロッド8は、突起14を有し、この突起14が本体2内でのロッド8の移動を制限する。本体2はカラー16を有し、薬剤の注入後、注入装置1の引き抜きを容易にする。ピストン18は、ロッド8の近位端に取り付けられ、本体2の近位端内をスライドするよう配置される。ピストン18は、カラー20を有する。シース12は、本体2の遠位端をスライドするよう配置され、それが出口部分にある時に、ニードル4を包囲する。
【0009】
上記の注入装置1の操作方法を簡単に説明する。注入装置1が患者の皮膚に当たり押されると、シース12は本体2上をスライドし、これにより、ニードル4を露出し、ニードル4が患者の皮膚を貫通するようにする。この際、ピストン18とロッド8は、スライドするよう配置され、ニードル4が取り除かれた時に、薬剤を皮膚の下に保持する。
【0010】
注入されるべき固形薬剤は、身体により直ちに同化される。かくして、注入された薬剤量は、速い薬効を得るために必要な量だけなので、針は従来の注射器と同程度に細くできる。注入される薬剤量は、液体で注入する場合の必要量よりもかなり少ないために、痛みも少ない。さらに、注入装置の針は外部に露出しない。従って、針は大気中の汚染物質が付着することなく、誤って人を刺すこともない。同様に、薬剤の一部或いは患者の血液を病院関係者に誤って注入することもない。
【0011】
シール22は、ニードル4が注入装置1から飛び出す開口24を封止し、ニードル4と固形薬剤10の清潔さを保持する。シール22は、脆い材料から形成される。例えば生物適合材料製および生物分解性のワックス製である。別の構成として、開口24は、シース12を完全にカバーするキャップを用いてシールすることもできる。
【0012】
注入装置1をシールするこれらの手段は、必ずしも満足できるものではない。ワックス製のキャップの場合には、ニードル上に残留した材料の一部が患者の皮膚内に注入される無視できないリスクがあるために、製造業者は、ワックスと注入される薬剤との間の相互作用がないことを立証しなければならない。キャップの場合、キャップが取り除かれた時に、インプラント(固形薬剤)が落下するリスクがある。
【0013】
それ故に、注入装置を使用する前に、インプラントが落下するのを防止する手段が必要である。特に実際に注入前に、注入装置を保存している間、あるいは取り扱っている間、インプラントが落下するのを防止する装置が必要である。
特許文献2に開示された薬剤導入ガイドも、その図13,14で明らかなように、放射性薬剤130が挿入ニードル111から落下するのを防止する機構を具備していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記の欠点を解決することである。本発明の固形薬剤を注入する注入装置は、ボディを有し、このボディの内側で傾斜面を有する針が移動する。このボディ内に薬剤が導入される。この注入装置は、さらに注入前に薬剤が落下するのを防止する保持手段を有する。薬剤は、保持手段により加えられる針の弾性変形を介して保持されるか、保持手段自身の弾性変形を介して保持されるか、あるいはこれら2つの手段の弾性特性の組み合わせで保持される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、「インプラント」とも称する固形薬剤を注入する以下の特徴を有する装置を提供する。本発明の装置は、大きな注意力を必要とせずに、インプラントが落下するリスク無しに、取り扱うことができる。特に、注入装置の開放端(そこを通して針が突出する)が、キャップでシールされている場合には、注入を行う準備の間、インプラントが落下する危険性はなく、キャップを取り除くことが可能である。ニードルと/または保持手段の弾性(伸縮性)の特性を利用しているために、本発明の注入装置を使用する前に、保持手段を取り除くために複雑な操作が必要がない。さらに本発明の保持手段は注入装置の通常操作と干渉しない。
【0016】
本発明の補足的な特徴によると、前記保持手段は、一時的にニードルの面取された開口をシールし、これにより、固体薬剤が前記ニードルから出て落下するのを阻止する。
【0017】
本発明の第1実施例によると、前記保持手段は、開口を有し、前記開口を介して、前記ニードルが突出し、前記開口の中心は、前記注入装置内にある前記ニードルの移動軸に対し、偏心している。
【0018】
本発明の第2実施例によると、前記保持手段は、弾性状の弾性舌状部材を有し、前記弾性舌状部材は、前記ニードルの面取された開口に一時的に当たる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
インプラントと称する固形薬剤を注入する装置に、固形薬剤を注入を実行する直前あるいは薬剤の保存期間の間、固形薬剤が落下するのを防止する手段を組み込んだ本発明の概念について説明する。ニードル(針)の弾性あるいは薬剤落下防止手段の自身の弾性を利用することにより、ユーザは、注入装置を操作する際に、複雑な操作を必要としない。さらに、インプラントは、ニードルの静止(収納)位置においては落下することがないために、本発明の保持手段は、ニードルの出口と干渉することなく、また注入装置の通常の操作と干渉することはない。
【実施例】
【0020】
本発明の保持手段の第1実施例を図2A,2Bに示す。以下の説明においては、図に記載した図1と類似又は同一の機能を有する要素は、図1と同一番号を示す。図1に記載した注入装置1は、本発明が適用される注入装置の単なる一実施例である。
【0021】
本体2の先端26には、挿入部28が具備される。この挿入部28は、生物適合性のプラスチック材料(例、ポリカーボネート)製で、例えば照射により殺菌されている。挿入部28は、本体2内に開口24を介して、導入される。この開口24を介してニードル4が突出する。挿入部28は円筒形状をし、本体2の内径に適合した外径を有する。2つの部品2,28の間の摩擦力が、挿入部28が偶発的に落下するのを阻止する。
【0022】
図を参照すると、挿入部28は、そのベースに開口30を有する。この開口30を介してニードル4が突出する。この開口30の中心は、ニードル4の移動方向X−Xの軸に対してずれている。挿入部28は、ニードル4に向き合った対向面に傾斜面32を有する。この傾斜面32は、上から下に向かってニードル4の移動方向軸に近づく方向に移動して、ニードル4と交差するまで移動し、開口30に至る。かくして、静止(収納)位置(図2A)においては、ニードル4は、面取された開口34で傾斜面32に当たる。これにより、固形薬剤10が落下するのを阻止する。ニードル4が出口方向に動く間(図2B)、ニードル4は、傾斜面32の上を変形しながらスライドする。この移動は、ニードル4のフレキシビリティ(柔軟性)により可能である。面取された開口34は、ニードル4のシャープな部分を形成し、軸X−Xに対して角度αだけ傾斜している。この面取された開口34は、軸X−Xに角度β(角度αより小さい)で傾斜しているスライド表面36で前進する。スライド表面36でニードル4は、傾斜面32上をスライドする。好ましくは、挿入部28の傾斜面32は、軸X−Xに対し角度β’で傾斜している。角度β’は角度βにほぼ等しい。従って、ニードル4のシャープな部分である開口34と挿入部28の傾斜面32との間の接触が回避される。この接触はプラスチック製部品が破損する原因となる。
【0023】
本発明の保持手段の第2実施例を図3A,3Bに示す。注入装置の本体2の先端26は、挿入部38を具備する。前の実施例と同様に、挿入部38は、ポリカーボネートのようなプラスチック材料製で、本体2内に開口24を介して導入される。この開口24を通してニードル4が突出する。挿入部38は、挿入部38と本体2の内側壁との間の摩擦力により、保持される。
【0024】
挿入部38は、貫通孔40、42を有する。貫通孔40、42は、本体2のニードル4の移動方向軸X−X上で整列する。第1貫通孔40により、ニードル4は、注入装置の本体2から、注入が実行された時(図3B)に、突出する。第2貫通孔42により、挿入部38は、挿入部38の組み立て時に、ニードル4に適合する。挿入部38が本体2内で軸方向から導入される動きの間、ニードル4は、弾性舌状部材44をその静止位置から離す方向に移動させる。弾性復帰力により、弾性舌状部材44は、ニードル4の面取された開口34に当たり、薬剤物質の固形薬剤10が落下するのを阻止する。注入操作の間、ニードル4は、挿入部38に対し前方に移動し、弾性舌状部材44を押し戻す(図3B)。
【0025】
図4A,4Bは、上記の挿入部38の変形例の断面図である。挿入部38と一体に形成する代わりに、弾性舌状部材44は、挿入部38上でヒンジ46を介して回転(旋回)し、ニードル4の挿入部38に、スプリング48の弾性復帰力により、当たって保持される。ニードル4が前方に移動すると、弾性舌状部材44は引き戻されて、スプリング48を圧縮する。
【0026】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。特許請求の範囲の構成要素の後に記載した括弧内の番号は、図面の部品番号に対応し、発明の容易なる理解の為に付したものであり、発明を限定的に解釈するために用いてはならない。また、同一番号でも明細書と特許請求の範囲の部品名は必ずしも同一ではない。これは上記した理由による。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来技術に係る固形薬剤を注入する装置の断面図。
【図2A】本発明の第1実施例による、薬剤が落下するのを防止する手段を具備した注入装置の先端部の断面図で、針が静止位置にある状態を示す図。
【図2B】本発明の第1実施例による、薬剤が落下するのを防止する手段を具備した注入装置の先端部の断面図で、針が突出した位置にある状態を示す図。
【図3A】本発明の第2実施例による、薬剤が落下するのを防止する手段を具備した注入装置の先端部の断面図で、針が静止位置にある状態を示す図
【図3B】本発明の第2実施例による、薬剤が落下するのを防止する手段を具備した注入装置の先端部の断面図で、針が突出した位置にある状態を示す図。
【図4A】本発明の第3実施例による、薬剤が落下するのを防止する手段を具備した注入装置の先端部の断面図で、針が静止位置にある状態を示す図。
【図4B】本発明の第3実施例による、薬剤が落下するのを防止する手段を具備した注入装置の先端部の断面図で、針が突出した位置にある状態を示す図。
【符号の説明】
【0028】
1 注入装置
2 本体
4 ニードル(針)
6 結合手段
8 ロッド
10 固形薬剤
12 空洞シース
14 突起
16 カラー
18 ピストン
20 カラー
22 シール
24 開口
26 先端
28 挿入部
30 開口
32 傾斜面
34 面取された開口
36 スライド表面
38 挿入部
40,42 貫通孔
40 第1貫通孔
42 第2貫通孔
44 弾性舌状部材
46 ヒンジ
48 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体薬剤(10)を患者の体内に注入する注入装置において、
(A) 本体(2)と、
(B) 前記固体薬剤(10)が導入されるニードル(4)と
前記ニードル(4)は、前記本体(2)内を、その長手方向軸(X−X)に沿って、移動し、
を有し、
前記ニードル(4)の先端に面取された開口(34)が形成され、前記先端(34)から前記ニードル(4)の長手方向軸に対し傾斜したスライド表面(36)が形成され、
前記スライド表面(36)の前記ニードル(4)の長手方向軸に対する傾斜角(β)は、前記本体(2)内側に形成された傾斜面(32)の前記本体(2)の長手方向軸に対する傾斜角(β’)に等しく、
前記開口部(34)の面取りされた部分が、前記本体(2)の内側に当たることにより、前記ニードル(4)の長手方向軸が、前記本体(2)の長手方向軸に対し傾斜し、
前記固体薬剤(10)が、前記ニードル(4)を患者に刺し引き抜くことにより前記患者の体内に注入される前に、前記開口(34)から落下するのを防止する
ことを特徴とする固形薬剤を注入する注入装置。
【請求項2】
前記本体(4)は、先端に開口(30)を有し、
前記開口(30)から、前記ニードル(4)が突出し、
前記開口(30)の中心は、前記本体(2)内にある前記ニードル(4)の移動軸(X−X)に対し、ずれている
ことを特徴とする請求項1記載の注入装置。
【請求項3】
前記本体(2)は、前記ニードル(4)の面取された開口(34)に対向する側に、傾斜面(32)を有し、
前記傾斜面(32)は、前記ニードル(4)の移動軸(X−X)に近づき、前記ニードル(4)と交差し、前記開口(30)につながる
ことを特徴とする請求項1記載の注入装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2012−20189(P2012−20189A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238299(P2011−238299)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【分割の表示】特願2007−543727(P2007−543727)の分割
【原出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(507180526)イプセン ファーマ エス.エー.エス. (4)
【Fターム(参考)】