説明

薬品カート

【課題】取出対象のトレーを一斉に前進させることができるうえトレー挿着の誤りを確実に防止することもできる薬品カートを安価に実現する。
【解決手段】薬品類収容トレー5を抜き取り可能に挿着する多数の区画14を本体部11の前面に形成し、各区画14の後方に駆動機構12を配設し、トレー5の識別情報9の読取装置15を設け、制御装置20が識別情報9に基づいて駆動機構12を制御して、トレー収納作業時には、区画14のうちトレー既挿着状態の区画とトレー次挿着候補の区画については後退駆動状態・完全挿着可能状態にさせるとともに他の区画については前進駆動状態・不完全状態にさせ、トレー取出作業時には取出対象と同時取出対象の薬品類を収容しているトレーを一斉に前進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薬品類を収容したトレーを多数収納して運ぶ薬品カートに関し、詳しくは、薬品類の情報管理も行う薬品カートに関する。
なお、薬品カートの例としては、調剤部門から病棟へ医薬品を分配するためのカートや、病棟内で病室へ医薬品を運ぶためのカート、医薬品を手術室や前室等へ運び込むためのカートなどが挙げられる。また、薬品類には、アンプル・バイアル・造影剤等の注射薬の他、箱・ボトル等に収容された錠剤・散剤等の医薬品や補助薬品も該当する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トレーを収納する引出式のトレー棚が多段に設けられた薬品カートが使用されている(例えば特許文献1参照)。各々のトレーは、上面の解放した角箱状や角皿状の容器・搬器であり、この薬品カートでは、注射薬等をセットしやすいよう内部空間が適宜に区画割りされている。トレーの識別情報やセット薬品の情報は、トレー単位で管理されるが、薬品カートとは別体の使用量検知機で処理されるようになっていた。
また、薬品情報管理装置を薬品カートに搭載した医薬品運搬用手押車も実用に供されており(例えば特許文献2参照)、運搬対象の医薬品を識別管理するようになっている。
【0003】
さらに、棚部や庫部を多段多列に区画して各区画に薬品類の収納容器を前方へ引出可能な状態で挿着した薬品類収納装置が提供されている(例えば特許文献3,4参照)。収納容器は、トレーと同様に上面の解放した角箱状や角皿状の容器からなるが、引出可能とは言っても、トレーのように棚から抜き取って使用することまで想定されている訳ではないので、収納容器と薬品とを対応付ける情報管理は、区画位置に基づいて固定的に処理するもので間に合っていた。収納容器の後方にはそれを前進させる駆動機構が収納容器毎に一つずつ配設されており、調剤指示で取出対象にされた薬品類を収容している収納容器が、該当する幾つかの駆動機構の作動によって、一斉に前進させられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−198191号公報
【特許文献2】特開2005−040371号公報
【特許文献3】特開2004−187958号公報
【特許文献4】特開2007−007093号公報
【特許文献5】特願2009−238050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、機械や人手で運搬される搬器に装着される視認可能かつ書換可能なラベルに、電子ペーパーと内蔵電子回路と無線受信部とを一体化したラベル装置を採用したものが開発されている(例えば特許文献5参照)。ラベル表示を目視や機械で読み取って搬器を識別するのであるが、搬器の識別情報のバーコード表示に加えて、処方情報の文字表示や,欠品情報,状態情報,運搬先,分割情報までラベル表示されるようになっている。分割情報は図形表示されるので、それを見れば、搬器の内部空間を幾つかの小器の平面配置で仕切って薬剤を整理整頓するのが、容易かつ迅速に行える。
【0006】
そして、このようなラベル表示の利便性が分かると、薬品カートに挿着される多数のトレーにも個々にラベルを装着させて、識別情報の表示と読取にてトレーと収容薬品を管理したくなる。また、トレー単位で薬品の情報を管理できるようになると、上述した薬品類収納装置のようにトレー前進用の駆動機構を薬品カートの後背部に多数配設して、患者単位や施用単位で取り扱うべき薬品類を収容しているトレーが複数存在するときにはそれらのトレーを一斉に前進させることまでもできるように、改良を重ねることが望まれる。特に、病棟や病室で用いる薬品カートでは、複数の患者の薬品類を収容した多数のトレーを混載させて一緒に運搬することが多いので、そのような要請が強い。
【0007】
もっとも、薬品カートの場合、上述の薬品類収納装置と異なり、トレーが挿着位置で進退するにとどまらず、通常使用時でもトレーがカートから完全に抜き取られることが頻発する。また、トレーは利便性や原価低減の観点から互換性が重視されて同一形状のものが多数使用されるので、薬品カートの複数区画の何処にトレーを挿着しても抵抗なく挿着できてしまうことも想定される。このため、トレーを薬品カートに挿着するに際しては、決められた区画にトレーを間違いなく挿着するか、決めておかない場合はトレーが挿着された区画を薬品カートが自動認識するといったことが、求められる。
【0008】
しかしながら、トレー挿着位置の自動認識の実現には、識別情報の読取装置を区画毎に多数設置しておくか、あるいは識別情報の読取装置を全区画に亘って走査させるといったことが必要になるため、原価が嵩みすぎる。これに対し、トレー挿着先の区画を決めるのは薬品情報管理装置の機能拡張で比較的安価に実現できるが、人手で行うトレー挿着の誤り防止を単なる情報管理だけで達成するのは難しい。案内表示を付加しても難しい。
そこで、取出対象のトレーを一斉に前進させることができるうえトレー挿着の誤りを確実に防止することもできる薬品カートを安価に実現することが、技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の薬品カートは(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、薬品類を収容するトレーを抜き取り可能に挿着しうる多数の区画が前面に形成された本体部と、前記区画それぞれの後方に配設されていて付設先区画内の前記トレーを前進させる前進駆動状態と前進させない後退駆動状態とを選択的に採る多数の駆動機構と、前記トレーに付された識別情報を読み取る読取装置と、トレー収納作業時もトレー取出作業時も前記識別情報に基づいて前記駆動機構の制御を行う装置であってトレー取出作業時には前記トレーのうち何れかが取出対象に選択されるとそのトレー及びそれと同時取出対象の薬品類を収容しているトレーが挿着されている前記区画の後方の前記駆動機構を一斉に前進駆動状態にさせる制御装置と、底部に設けられた脚輪とを備えた薬品カートであって、前記制御装置が、トレー収納作業時には、前記区画のうち前記トレーが既に挿着されている既挿着状態の区画と未だ挿着されていないが次に挿着されるべき次挿着候補の区画については、その後方の前記駆動機構を後退駆動状態にさせ、他の区画については、後方の前記駆動機構を前進駆動状態にさせるものであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の薬品カートは(解決手段2)、上記解決手段1の薬品カートであって、前記制御装置が、前記の次挿着候補の区画を一個に限定するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明の薬品カートにあっては(解決手段1)、本体部の前面に薬品類収容トレー挿抜用の区画を多数形成するとともに、底部にカート移動を可能とする脚輪を設けたので、薬品カートの基本構成が引き継がれている。また、駆動機構付設先の区画のトレーを前進させる前進駆動状態と前進させない後退駆動状態とを選択的に採る駆動機構を各区画毎に後方配設したうえで、トレーから読み取った識別情報に基づき、トレー取出作業時にトレーのうち何れかが取出対象に選択されると、そのトレー及びそれと同時取出対象の薬品類を収容しているトレーに関しては、それらが挿着されている区画の後方の駆動機構が一斉に前進駆動状態になる。そして、同時取出対象の薬品類を収容しているトレーが複数存在するときには、それらのトレーが一斉に前進して容易かつ迅速に取り出せる状態になるので、従来の薬品カートや薬品類収納装置の利点を兼備した装置ができあがる。
【0012】
しかも、更に制御装置を改良して、トレー収納作業時には、既挿着状態の区画と次挿着候補の区画については後方の駆動機構が後退駆動状態になる一方、他の区画については後方の駆動機構が前進駆動状態になるようにしたことにより、トレー挿着位置の自動認識を行うまでもなく、正しく次挿着候補の区画にトレーを挿着したときだけトレーを十分に挿入して完全収納状態で挿着できるが、それ以外の区画に誤ってトレーを挿着しようとすると、トレーが前進状態にとどまって、トレーを十分に挿入することができないので、トレー挿着作業が完遂せず、収納状態が不完全・未完のままなので、誤挿着が発生しない。
したがって、この発明によれば、取出対象のトレーを一斉に前進させることができるうえトレー挿着の誤りを確実に防止することもできる薬品カートを安価に実現できる。
【0013】
また、本発明の薬品カートにあっては(解決手段2)、次挿着候補の区画が常に一個に限定されるようにしたことにより、トレー挿着先が明確になるので、作業に迷いを生じる余地がないうえ、制御装置が簡素化される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1について、薬品カートの構造を示し、(a)が全体外観斜視図、(b)がトレー未挿着の区画と駆動機構の側面図、(c)がトレー挿着時の区画と駆動機構の側面図、(d)がトレー前端のラベル装置の表示面、(e)が薬品情報管理装置兼用の制御装置のブロック図である。
【図2】トレー収納作業時の動作状態等を示し、(a)がトレー挿着前の全体外観斜視図、(b)が駆動機構の斜視図、(c)が制御装置の識別情報管理テーブル、(d)がトレー適正挿着時の全体外観斜視図、(e)がトレー誤挿着時の全体外観斜視図である。
【図3】トレー取出作業時の動作状態を示し、(a)がトレー取出前の全体外観斜視図、(b)が複数トレー前進後の全体外観斜視図、(c)がトレー取出後の全体外観斜視図、(d)が次のトレー前進後の全体外観斜視図である。
【図4】本発明の実施例2について、薬品カートの構造を示し、(a)が本体部の要部正面図、(b)が薬品情報管理装置兼用の制御装置のブロック図である。
【図5】トレー取出作業時の動作状態等を示し、(a)が関連づけテーブル、(b)が複数トレー前進後の全体外観斜視図、(c)が本体部の要部正面図である。
【図6】本発明の実施例3について、薬品カートの構造等を示し、(a)が薬品情報管理装置兼用の制御装置の要部ブロック図、(b)がトレー収納作業時の識別情報管理テーブルと関連づけテーブルと本体部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
このような本発明の薬品カートについて、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜3により説明する。
図1〜3に示した実施例1は、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を具現化したものであり、図4〜5に示した実施例2や、図6に示した実施例3は、その変形例である。
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、ボルト等の締結具や,ヒンジ等の連結具,電動モータ等の駆動源,タイミングベルト等の伝動部材,モータドライバ等の電気回路,コントローラ等の電子回路の詳細などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心に図示した。
【実施例1】
【0016】
本発明の薬品カートの実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、(a)が薬品カート10の全体外観斜視図、(b)がトレー5を未だ挿着していない複数の区画14とそれぞれに付設された駆動機構12との側面図、(c)がトレー5した挿着した区画14と駆動機構12の側面図、(d)がトレー5の前端のラベル装置7の表示面、(e)が薬品情報管理装置兼用の制御装置20のブロック図である。
【0017】
この薬品カート10は(図1(a)参照)、搬送対象の薬品類を収容した多数のトレー5を収納するための本体部11と、それを手押し等にて移動可能にすべく底部に突設された転動自在な脚輪13と、四隅に手押用ハンドル部が形成された作業台兼用の天板部と、例えばバーコードリーダからなりトレー5に付された識別情報9を読み取る読取装置15と、例えばプログラマブルなマイクロプロセッサシステムからなり薬品情報管理装置を兼ねる制御装置20とを具えている。読取装置15は、読み取った識別情報9を制御装置20へ送信すれば、天板上に固定されていてもよく移動可能になっていても良い。
【0018】
本体部11は(図1(a)参照)、前面に多数の例えば12段×3列の区画14が形成されている。区画14は、総てが同じ形状である必要はないが、同一形状のものが多く、何れも、前面解放で奥行きの深い収納空間であり、前面からトレー5を挿入して収納することも手前に引き出して抜き取ることもできるようになっている。駆動機構12は、本体部11において区画14それぞれの後方に一つずつ配設されているが、何れも(図1(b)参照)、例えば安価な偏心カム方式のものが採用されており(特許文献4参照)、制御装置20の制御に従って後退駆動状態(図1(b)の上半分を参照)と前進駆動状態(図1(b)の下半分を参照)とのうち何れか一方の駆動状態を採るようになっている。
【0019】
後退駆動状態では(図1(c)の上半分を参照)、偏心カムが区画14から退出していて、付設先の区画14にトレー5が完全収納状態で挿着されていればそのトレー5が前進させられることなく完全収納状態が維持され、付設先の区画14にトレー5が挿着されていなければ、その区画14にトレー5を挿着しようとしたときに、トレー挿着が途中で妨げられることなく十分に奥まで挿入されるので、完全収納状態で挿着できる。これに対し、前進駆動状態では(図1(c)の下半分を参照)、偏心カムが区画14に後方から進入して、付設先の区画14にトレー5が完全収納状態で挿着されていればそのトレー5が前進させられ、付設先の区画14にトレー5が挿着されていなければ、その区画14にトレー5を挿着しようとしたときに、トレー挿着が途中で妨げられて、トレー5の前端部が本体部11の前面から突き出た不完全収納状態・未完状態にとどまることとなる。
【0020】
なお(図1(c),(d)参照)、トレー5は、薬品類を収容した状態で区画14に挿着させて纏めて搬送することができるとともに抜き取った状態で単体運搬もできるものであれば箱状でも皿状でも良く、内部が仕切り板や小容器などで分割されていても良く、内部を仕切らず薬品類をランダム収容するようになっていても良い。トレー5の前端面にはラベル装置7が装着されており、ラベル装置7の表示面に識別情報9が表示されるようになっている。識別情報9は、上位の処方オーダーエントリシステムや先行の調剤システムにより処方情報に基づいて発行され、トレー5及びそれに投入された薬品類を他から区別して特定するためのものであり、一連番号でも良く、それより複雑なものでも良い。
【0021】
制御装置20は(図1(e)参照)、本体部11に内蔵されて蓄電池と外部給電の何れでも動作するものであり、トレー収納作業時もトレー取出作業時も識別情報9に基づいて多数の駆動機構12を制御するために、駆動機構制御プログラム21とトレー挿着先区画決定プログラム22と識別情報管理テーブル23とトレー前進区画決定プログラム24とがインストールされている。また、制御装置20は、上述した駆動機構12と読取装置15に接続されている他、同時取出対象の薬品類を収容しているトレーを把握するのに必要な情報を入力するために、識別情報9を発行した外部の処方オーダーエントリシステムや調剤システムとも有線や無線の通信回線を介して交信できるようになっているが、以下、簡潔な説明のため、処方オーダーエントリシステムだけを具体例にして説明する。
【0022】
駆動機構制御プログラム21は、多数の駆動機構12の具体的な動作制御を行うものであり、制御装置20の動作モードがトレー収納作業時モードになっているときには、トレー挿着先区画決定プログラム22の指示に従ってそれぞれの駆動機構12を後退駆動状態か前進駆動状態か何れかの状態にさせる一方、制御装置20の動作モードがトレー取出作業時モードになっているときには、トレー前進区画決定プログラム24の指示に従ってそれぞれの駆動機構12を後退駆動状態か前進駆動状態か何れかの状態にさせるようになっている。なお、制御装置20の動作モードの切り替えや設定は、図示しない専用ボタンの操作等で行うようにしても良いが、この例では、トレー5に使用されないよう予め確保された特定コードを読取装置15にて読み取ったときに行われるようになっている。
【0023】
識別情報管理テーブル23は、本体部11の前面における区画14の配置に対応した配列データであり、それぞれのデータ記憶領域には、対応する区画14に挿着して収納されているトレー5に付された識別情報9が記憶保持されるよう、次のトレー挿着先区画決定プログラム22によってデータ書き込みがなされるので、その書き込みの度に、識別情報管理テーブル23では、データ記憶領域が一つずつ、識別情報9を未だ記憶していないデータ記憶領域である空き領域から、識別情報9を既に記憶しているデータ記憶領域である情報保持領域に、変わるようになっている。そして、識別情報管理テーブル23の情報保持領域に対応した区画14は、トレー5が既に挿着されている既挿着状態の区画であり、識別情報管理テーブル23の空き領域に対応した区画14は、トレー5が未だ挿着されていない未挿着状態の区画である、ということを示すものとなっている。
【0024】
トレー挿着先区画決定プログラム22は、制御装置20の動作モードがトレー収納作業時モードになっているときに、トレー5に付される範囲に属している識別情報9が読取装置15で読み取られると、その度に次のトレー挿着先の区画14を簡便な順序固定方式で決定するものである。具体的には、識別情報管理テーブル23を一方向走査して例えば上段から下段へ且つ各段では左から右へ走査して、最初に見つけた空き領域を次の書込候補に選出するとともに、それに対応した区画14を次挿着候補に選出することで、未挿着状態だが次にトレー5が挿着されるべき次挿着候補の区画14を一個だけに限定するものとなっている。さらに、読取装置15から受け取った識別情報9を次書込候補のデータ記憶領域に書き込むとともに、駆動機構制御プログラム21に指示して、既挿着状態の区画14と次挿着候補の区画14については、その後方の駆動機構12を後退駆動状態にさせ、他の未挿着状態の区画14については、その後方の駆動機構12を前進駆動状態にさせるようになっている
【0025】
トレー前進区画決定プログラム24は、制御装置20の動作モードがトレー取出作業時モードになっているときに、トレー5に付される範囲に属している識別情報9が読取装置15で読み取られると、その度に、自動で一斉に前進させる取出対象のトレー5を一括選択するものである。具体的には、先ず、読取装置15から受け取った識別情報9を付されたトレー5を取出対象に含めるとともに、そのトレー5と同時取出対象の薬品類を収容している他のトレー5も取出対象に加えるようになっている。同時取出対象の薬品類は、処方箋データが参照できるときにはそれを解析して判定しても良いが、読取装置15から受け取った識別情報9を上位の処方オーダーエントリシステム等に送信して、同時取出対象の薬品類に係る識別情報9を総て返信してもらうのが安直である。それから、それらの識別情報9のうち何れかを記憶保持しているデータ記憶領域を識別情報管理テーブル23から総て探し出し、それらに対応する区画14の後方の駆動機構12を駆動機構制御プログラム21に指示して一斉に前進駆動状態にさせるようになっている。
【0026】
この実施例1の薬品カート10について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図1(a)は、使用前の薬品カート10の全体外観斜視図である。また、図2は、トレー収納作業時の動作状態等を示し、(a)がトレー挿着前の全体外観斜視図、(b)が駆動機構12の斜視図、(c)が制御装置10の識別情報管理テーブル23、(d)がトレー適正挿着時の全体外観斜視図、(e)がトレー誤挿着時の全体外観斜視図である。さらに、図3は、トレー取出作業時の動作状態を示し、(a)がトレー取出前の全体外観斜視図、(b)が複数トレー前進後の全体外観斜視図、(c)がトレー取出後の全体外観斜視図、(d)が次のトレー前進後の全体外観斜視図である。
【0027】
薬品類のカート搬送には、先ず、トレー5を収納していない空の薬品カート10が準備され(図1(a)参照)、次に、その薬品カート10がトレー払出方式(例えば特許文献5参照)の調剤部門に移動してトレー収納作業に供され(図2参照)、それから、病棟や手術室等へ移動してトレー取出作業に供され(図3参照)、空になれば再利用される。
詳述すると、空の薬品カート10では、識別情報管理テーブル23のデータ記憶領域が総てクリアされており、総ての駆動機構12が前進駆動状態になっている。そして、調剤部門で、薬品カート10の動作モードをトレー収納作業時モードに設定すると、薬品類を収容したトレー5を薬品カート10に収納するトレー収納作業の準備が整う。
【0028】
トレー収納作業時は、次々に、トレー5が払い出されて来るが、トレー5のラベル装置7に識別情報9が表示されているので、トレー収納作業の担当者は、読取装置15に識別情報9を読み取らせるとともに、トレー5を次挿着候補の区画14aに挿入する(図2(a)参照)。薬品カート10では、トレー挿着先区画決定プログラム22によって、次挿着候補の区画14aが順序固定方式で決定され、既挿着状態の区画14の右隣か下段左端のうち空いている区画14が次挿着候補の区画14aに選出され、駆動機構制御プログラム21の制御で、区画14aの後方の駆動機構12aが後退駆動状態になる(図2(a),(b)参照)。既挿着状態の区画14は既に後退駆動状態になっていてその状態を維持し、他の未挿着状態の区画14の後方の駆動機構12は総て前進駆動状態を維持する。
【0029】
さらに、薬品カート10では、後のトレー取出作業に備えて、ラベル装置7で読み取られた識別情報9が識別情報管理テーブル23のデータ記憶領域のうち次挿着候補の区画14aに対応したデータ記憶領域23aに書き込まれる(図2(c)参照)。
このような薬品カート10に対して、トレー収納作業者がトレー5を正しく次挿着候補の区画14aに挿入すると、トレー5が区画14aに奥まで入って完全収納状態で挿着される(図2(d)参照)。これに対し、トレー収納作業者がトレー5を次挿着候補以外の区画14に誤って挿入した場合は(図2(e)参照)、前進駆動状態の駆動機構12に途中で挿入を妨げられるため、トレー5が前進状態にとどまって、トレー前端部分が本体部11の前面から突き出ているので、誤って挿着したことが一目瞭然で分かる。
【0030】
トレー5を積み終えた薬品カート10は(図3(a)参照)、病棟等に移して、動作モードをトレー取出作業時モードに設定すると、トレー取出作業の準備が整う。
そこで、トレー取出作業の担当者は、指示箋や患者名などを頼りに取出対象の薬品類を決めて、その指示箋に予め印刷されている識別情報や,取出対象と判っているトレー5があればそのラベル装置7に表示されている識別情報を、読取装置15に読み取らせる。すると、それに応じて薬品カート10では、トレー前進区画決定プログラム24によって、読取装置15から受け取った識別情報を付されたトレー5及びそれと同時取出対象の薬品類を収容している他のトレー5が取出対象に加えられる。
【0031】
そして、それらの識別情報のうち何れかを記憶保持しいるデータ記憶領域が識別情報管理テーブル23から総て探し出され、それらに対応する区画14の後方の駆動機構12が駆動機構制御プログラム21の制御で一斉に前進駆動状態になるので、同時取出対象の薬品類を収容しているトレー5が一斉に前進して本体部11の前面から突き出る(図3(c)参照)。それらのトレー5を目視で確認しながら薬品カート10から抜き取れば(図3(c)参照)、トレー取出作業者は容易に必要な薬品類を取り揃えることができる。なお、同時取出対象の薬品類が一個のトレー5に纏めて収容されている場合は、該当する一個のトレー5だけが前進する(図3(d)参照)。
【実施例2】
【0032】
本発明の薬品カートの実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図4は、(a)が本体部11の要部の正面図、(b)が薬品情報管理装置兼用の制御装置40のブロック図である。また、図5(a)は関連づけテーブル43の例である。
この薬品カートが上述した実施例1のものと相違するのは、区画14に一対一でLED等の表示部材16が付設された点と(図4(a)参照)、制御装置20が機能拡張されて制御装置40になった点である(図4(b)参照)。
【0033】
制御装置40では(図4(b)参照)、駆動機構制御プログラム21を機能拡張した駆動機構制御プログラム41が、上述した駆動機構12の制御に加えて、新たに表示部材16の点灯制御や消灯制御も行うようになっている。また、トレー挿着先区画決定プログラム22を機能拡張したトレー挿着先区画決定プログラム42が、上述のように識別情報9の読取に応じて次挿着候補の区画14aを簡便な順序固定方式で決定するとともに識別情報管理テーブル23の更新や駆動機構12の制御を行うのに加えて、新たに、次挿着候補の区画14aに付設された表示部材16は点灯させ他の表示部材16は消灯させるとともに(図4(a)参照)、トレー前進区画決定プログラム24の行っていた同時取出対象の薬品類に係る識別情報9の問い合わせ等も行うようになっている(図4(b)参照)。
【0034】
制御装置40のデータメモリには識別情報管理テーブル23に加えてそれと同じ配列のデータ記憶領域を持った関連づけテーブル43が割り付けられており、両者のデータ記憶領域は一対一で対応している。そして、トレー挿着先区画決定プログラム42によって、同時取出対象の薬品類を収容してトレー5の識別情報9とそれを挿着された区画14には同一のグループ番号(分類記号)が割り振られ、そのグループ番号が関連づけテーブル43において該当するデータ記憶領域に書き込まれるようになっている(図5(a)参照)。さらに(図4(b)参照)、トレー前進区画決定プログラム24を改造したトレー前進区画決定プログラム44が、一斉に前進させる取出対象のトレー5の一括選択を関連づけテーブル43の参照にて行うようになり、トレー5を一斉に前進させた区画14に付設された表示部材16を点灯させ他の表示部材16を消灯させるようになっている。
【0035】
この実施例2の薬品カートについて、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図4(a)は、トレー収納作業時の本体部11の要部の正面図である。また、図5は、トレー取出作業時の動作状態等を示し、(a)が関連づけテーブル43、(b)が複数トレー前進後の全体外観斜視図、(c)が本体部11の要部の正面図である。
【0036】
基本的な使い方と装置動作は上述した薬品カート10と大差ないので、ここでは相違点を中心に説明する。
トレー収納作業時は、次挿着候補の区画14aに付設された表示部材16だけが点灯するため、その案内に従ってトレー5を挿着すれば良いので、作業が楽なばかりか間違いも少なくなる(図4(a)参照)。とはいえ、うっかりミスや表示の見間違い等で、トレー5を次挿着候補の区画14a以外の区画14に挿入することもありうるが、そのような誤挿着の場合は、上述した薬品カート10のときと同じく、前進駆動状態の駆動機構12に途中で挿入を妨げられるため、トレー5が前進状態にとどまって、トレー前端部分が本体部11の前面から突き出ているので、誤って挿着したことが一目瞭然で分かる。
【0037】
また、トレー取出作業時には、取出対象の薬品類が決まると、例えばグループ番号「8」のものが取出対象に選ばれたとすると、関連づけテーブル43においてグループ番号「8」を記憶保持しているデータ記憶領域が総て選出される(図5(a)参照)。また、それらに対応した区画14が一括選択されて、それらの区画14の後方の駆動機構12が一斉に前進駆動状態になり、同時取出対象の薬品類を収容しているトレー5が一斉に前進して本体部11の前面から突き出るとともに(図5(b)参照)、そこの区画14に付設された表示部材16も一斉に点灯する(図5(c)参照)。
そのため、トレー取出作業者が必要な薬品類を取り揃える作業が一層容易になる。
【実施例3】
【0038】
本発明の薬品カートの実施例3について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図6は、(a)が薬品情報管理装置兼用の制御装置60の要部ブロック図、(b)がトレー収納作業時の識別情報管理テーブル23と関連づけテーブル43と本体部11の正面図である。
【0039】
この薬品カートが上述した実施例2のものと相違するのは制御装置40が機能拡張されて制御装置60になった点であり、制御装置60が制御装置40と相違するのは、次挿着候補の区画14aを順序固定方式で決定していたトレー挿着先区画決定プログラム42に代わるトレー挿着先区画決定プログラム62が次挿着候補の区画14aを順序可変方式で決定するようになっている点である。なお、順序可変方式の場合、トレー収納作業の担当者は次挿着候補の区画14aを自分で決定できないので、表示部材16等を用いた次挿着候補案内機能を併用するのが望ましい。
【0040】
この場合、トレー収納作業時に次挿着候補の区画14aを決定するとき、読取装置15から受け取った識別情報9から同時取出対象のグループ番号が求められ、そのグループ番号が関連づけテーブル43のデータ記憶領域に記憶保持されており且つ識別情報管理テーブル23において対応するデータ記憶領域には未だ識別情報9が書き込まれていないデータ記憶領域が探される。そして、それが見つかったときには、それに対応した区画14が次挿着候補の区画14aに選出されるとともに、識別情報管理テーブル23の該当データ記憶領域に識別情報9が書き込まれる。
【0041】
これに対し、そのようなデータ記憶領域が見つからなかったときには、関連づけテーブル43から未だグループ番号の書き込まれていないデータ記憶領域が一つ選出されて、それに対応した区画14が次挿着候補の区画14aに選出されるとともに、識別情報管理テーブル23の該当データ記憶領域に識別情報9が書き込まれる。さらに、それに加えて、関連づけテーブル43の該当データ記憶領域にグループ番号が書き込まれるとともに、関連づけテーブル43において同一グループ番号を記憶保持されているデータ記憶領域の個数が同時取出対象に含まれるトレー5の個数に達するまで、関連づけテーブル43から未だグループ番号の書き込まれていないデータ記憶領域が確保されて、そこにグループ番号が書き込まれる。
【0042】
こうして、次挿着候補の区画14aが決定されると、この場合も、次挿着候補の区画14aに付設された表示部材16だけが点灯するため、その案内に従ってトレー5を挿着すれば良い。トレー5を次挿着候補の区画14a以外の区画14に誤って挿着しようとしても途中で阻止されて完全状態に至らないことも上述したのと同じである。
もっとも、この場合は、次挿着候補の区画14aが上述したような順序可変方式で決定されるため、関連づけテーブル43において同一のグループ番号が連なる確率が高くなることから、トレー取出作業時に一斉に前進する同時取出対象のトレー5も連なっていることが多いので、必要な薬品類を取り揃える作業が極めて容易に行えることとなる。
【0043】
[その他]
なお、上記実施例では、薬品カート10が手押移動式であったが、薬品カート10は、牽引式でも良く、自走式でも良い。
また、上記実施例では、識別情報9がバーコードであったが、識別情報9は、他の方式で表示されていても良く、例えばQRコードや,コード化されていない文字列で表示されていても良い。ラベル装置7は便利であるが必須ではなく、識別情報9を表示できれば他の表示手段たとえばバーコード印刷シールの貼付を採用しても良い。
【0044】
さらに、上記実施例では、同時取出対象の薬品類を収容しているトレー5は複数個であれ一個だけであれトレー取出作業時に一斉に前進させられることを述べたが、薬品類が同時取出対象になる基準の具体例としては、薬剤の特質等から施用前に混注その他の混合調剤が必要な場合、処方箋等で同時施用が指定されている場合、一回施用分や一手術セットに含まれる場合、一日での使用分に含まれる場合、患者同一の場合などが挙げられる。病棟や手術室といったカート使用先において課される規制と望まれる利便性との兼ね合い等で適宜な基準が採用される。
【符号の説明】
【0045】
5…トレー、7…ラベル装置、9…識別情報(バーコード)、
10…薬品カート、
11…本体部(庫部,棚部)、12…駆動機構(トレー前進用モータ)、
13…脚輪(キャスター)、14…区画(トレー挿入空間)、
15…読取装置(バーコードリーダ)、16…表示部材(発光ダイオード)、
20…制御装置(薬品情報管理装置)、
21…駆動機構制御プログラム、22…トレー挿着先区画決定プログラム、
23…識別情報管理テーブル(データ)、24…トレー前進区画決定プログラム、
40…制御装置(薬品情報管理装置)、
41…駆動機構制御プログラム、42…トレー挿着先区画決定プログラム、
43…関連づけテーブル(データ)、44…トレー前進区画決定プログラム、
60…制御装置(薬品情報管理装置)、62…トレー挿着先区画決定プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬品類を収容するトレーを抜き取り可能に挿着しうる多数の区画が前面に形成された本体部と、前記区画それぞれの後方に配設されていて付設先区画内の前記トレーを前進させる前進駆動状態と前進させない後退駆動状態とを選択的に採る多数の駆動機構と、前記トレーに付された識別情報を読み取る読取装置と、トレー収納作業時もトレー取出作業時も前記識別情報に基づいて前記駆動機構の制御を行う装置であってトレー取出作業時には前記トレーのうち何れかが取出対象に選択されるとそのトレー及びそれと同時取出対象の薬品類を収容しているトレーが挿着されている前記区画の後方の前記駆動機構を一斉に前進駆動状態にさせる制御装置と、底部に設けられた脚輪とを備えた薬品カートであって、前記制御装置が、トレー収納作業時には、前記区画のうち前記トレーが既に挿着されている既挿着状態の区画と未だ挿着されていないが次に挿着されるべき次挿着候補の区画については、その後方の前記駆動機構を後退駆動状態にさせ、他の区画については、後方の前記駆動機構を前進駆動状態にさせるものであることを特徴とする薬品カート。
【請求項2】
前記制御装置が、前記の次挿着候補の区画を一個に限定するようになっていることを特徴とする請求項1記載の薬品カート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−34800(P2012−34800A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176816(P2010−176816)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000151472)株式会社トーショー (156)
【Fターム(参考)】