説明

薬物のスクリーニング方法

【課題】放射ラベル体を用いずに、薬物トランスポーターの薬剤輸送を高感度に測定する方法を開発して、製薬企業のリード化合物のスクリーニング等に応用できるシステムを構築することを目的とする。
【解決手段】薬物トランスポーターを発現している細胞から細胞膜ベシクルを調製すること;得られた細胞膜ベシクルをATP(アデノシン3リン酸)存在下に被検薬物と接触させること;被検薬物と接触した細胞膜ベシクルをトラップすること;トラップした細胞膜ベシクルを可溶化して、細胞膜ベシクル内に取り込まれた被検薬物を抽出した抽出溶液を得ること;この抽出溶液から被検薬物以外の成分を除去して測定用試料を得ること;ならびにこの測定用試料中の被検薬物量を液体クロマトグラフおよびタンデム質量分析(LC/MS/MS)により定量すること、を特徴とする薬物トランスポーターにより輸送される薬物のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物トランスポーターにより輸送される薬物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスポーターは細胞の膜を物質が通過する際に必要な通路を形成し、本来は栄養素等の生体機能維持に必須である物質もしくは体内代謝産物等を、体内に吸収、代謝もしくは排泄するのに重要な役割を果たしている。そして、このようなトランスポーターがこれらの物質もしくは体内代謝産物等と類似の構造を有する薬物をも認識することから、特に輸送基質として薬物を考えた場合に薬物トランスポーターと称されている。一つの薬物トランスポーターが認識する基質の種類は多く、その基質認識部位と類似性がない構造の薬物を輸送することもあり、その薬物選択の機構は不明な点が多い。
【0003】
このような薬物トランスポーターとしては、ABC(ATP結合部位)トランスポーター、有機イオントランスポーター、ペプチドトランスポーター等が知られており、たとえばABCトランスポーターは、ヒトゲノム解析から、約50種類のABCトランスポーター遺伝子の存在が予測されている。
【0004】
P-糖蛋白(ABCB1)やcMOAT/MRP2(ABCC2)、BCRP(ABCG2)といったABCトランスポーターは多種多様な薬剤を輸送する性質をもっており、創薬の開発段階で薬剤のヒト体内動態や薬剤応答性に深く影響することが最近の研究によって明らかになっている。しかしながら、多種類の化合物をスクリーニングするシステムは現在まだ充分には確立していない。例えあったとしても、後述するように放射ラベル体を用いた輸送実験とATPase活性を測定する方法である。製薬企業において、新薬を探索する段階にトランスポーターのスクリーニング系を導入したくても、すべてのリード化合物を放射ラベル化するのは経費がかかり過ぎ、非現実的である。
【0005】
現在、創薬において前臨床および臨床開発の段階で数多くの開発候補化合物がドロップアウトすることは、憂慮すべき重大な問題である。開発中止のケースの約50%は薬物動態の不具合(即ち、低い吸収率、低血中濃度レベル、速いクリアランス等)と毒性に起因する。多くの製薬企業は新薬開発のコストが上昇するに従い、新薬の探索と開発戦略を真剣に再検討し始めている。創薬のスピードアップ化には薬物動態のスクリーニングを探索研究の初期段階から取り入れる必要がある。
【0006】
ABCトランスポーターの薬剤輸送能力を評価する方法として次の4つの方法が現在報告されているが、大量の化合物をスクリーニングするにあたって、それぞれ潜在的な問題点を持つ。
(1)細胞レベルでの薬剤の輸送または阻害測定:培養細胞を用いるので、大量の化合物 のスクリーニングに不向き、かつ実験値にバラツキが出て動的解析が困難である。
(2)細胞膜画分を用いたATPase活性測定:基質の輸送にともなうABCトランスポーター のATPase活性を測定するものであるが、細胞膜画分に内在する他のATPase活性が高 く、シグナル/ノイズ比が不十分である(たとえば、本発明者はATPase活性を測定 するスクリーニング系を構築したが、その方法は現在のところ、P-糖蛋白(ABCB1) とBCRP(ABCG2)しか適用できない。)
(3)[32P]-8-azido-ATPの光親和ラベリングによる測定:細胞膜画分を用いたcell-free 系で、 ABCトランスポーターが基質を認識するとともにATP結合部位にATPを結合す る性質を用いて、[32P]-8-azido-ATPの光親和ラベリングする。ゲル電気泳動によ って蛋白質を分離するので、大量の化合物をスクリーニングするには不適当である 。
(4)ABCトランスポーターを発現させた細胞の細胞膜ベシクルを用いて、放射ラベルし た化合物の膜ベシクル内への取り込みを液体シンチレーションカウンターで測定す る方法:この方法は最も感度が優れて、輸送過程そのものを測定できる利点をもつ 一方、放射ラベル化合物を使用しなくてはならない。したがって放射能取り扱い施 設と放射ラベル化が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、放射ラベル体を用いずに、薬物トランスポーターの薬剤輸送を高感度に測定する方法を開発して、製薬企業のリード化合物のスクリーニング等に応用できるシステムを構築することを目的とする。そのために、ABCトランスポーターを発現させた細胞の細胞膜ベシクル輸送系とLC/MS/MSとを組み合わせて、高感度測定を実現し、さらには、たとえば96ウェルまたは384ウェルフィルタープレート等を用いることによりサンプル処理時間を短縮し、高速スクリーニングを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の発明を提供する。
(1)薬物トランスポーターを発現している細胞から細胞膜ベシクルを調製すること;得られた細胞膜ベシクルをATP(アデノシン3リン酸)存在下に被検薬物と接触させること;被検薬物と接触した細胞膜ベシクルをトラップすること;トラップした細胞膜ベシクルを可溶化して、細胞膜ベシクル内に取り込まれた被検薬物を抽出した抽出溶液を得ること;この抽出溶液から被検薬物以外の成分を除去して測定用試料を得ること;ならびにこの測定用試料中の被検薬物量を液体クロマトグラフおよびタンデム質量分析(LC/MS/MS)により定量すること、を特徴とする薬物トランスポーターにより輸送される薬物のスクリーニング方法;
(2)薬物トランスポーターがABCトランスポーターである(1)記載の薬物のスクリーニング方法;
(3)細胞膜ベシクルをウェルフィルタープレートでトラップする(1)もしくは(2)記載の薬物のスクリーニング方法;
(4)トラップした細胞膜ベシクルを洗浄し、ついで可溶化する(1)〜(3)のいずれか記載の薬物のスクリーニング方法;ならびに
(5)被検薬物以外の成分が膜蛋白質、リン脂質および可溶化剤を含む(1)〜(4)のいずれか記載の薬物のスクリーニング方法、
にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスクリーニング方法によれば、リード化合物を放射ラベル化する必要がなく、LC/MS/MSにより高感度測定ができる。しかも96ウェルまたは384ウェルフィルタープレートを用いることによりサンプル処理時間を短縮し、高速スクリーニングを実現することができる。従って、当該スクリーニング方法を導入することにより、薬物動態の問題で新薬が開発段階でドロップアウトする確率は大幅に減少して、製薬企業等では多額の研究開発費をコストダウンできるものと予測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の薬物のスクリーニング方法は、薬物トランスポーターを発現している細胞から細胞膜ベシクルを調製すること;得られた細胞膜ベシクルをATP(アデノシン3リン酸)存在下に被検薬物と接触させること;被検薬物と接触した細胞膜ベシクルをトラップすること;トラップした細胞膜ベシクルを可溶化して、細胞膜ベシクル内に取り込まれた被検薬物を抽出した抽出溶液を得ること;この抽出溶液から被検薬物以外の成分を除去して測定用試料を得ること;ならびにこの測定用試料中の被検薬物量を液体クロマトグラフおよびタンデム質量分析(LC/MS/MS)により定量すること、を含む。
【0011】
薬物トランスポーターとしては、特に制限されず、ABCトランスポーター、有機イオントランスポーター、ペプチドトランスポーター等が挙げられ、ヒトABCトランスポーターとしてはABCB1(P-糖蛋白質、MDR1)、ABCG2(BCRP)が好適に用いられる。
【0012】
薬物トランスポーターを発現している細胞から細胞膜ベシクルを調製する際には、常法を用いることができる。
【0013】
たとえば、ABC蛋白質をコードするcDNAを抗生物質耐性発現ベクターに組み込み、培養細胞にトランスフェクションし、この細胞を抗生物質の存在下で培養してABC蛋白質発現ベクターを発現する細胞を選択し、これを大量培養する。ついで、このABC蛋白質発現細胞を集め、破砕して遠心により目的とする細胞膜ベシクルを得る。
【0014】
ついで、本発明方法においては、得られた細胞膜ベシクルをATP存在下に被検薬物と接触させる。たとえばABCトランスポーターを発現させた細胞から細胞膜ベシクルを調製し、ATP存在下、被検薬物とともにインキュベートする。ABCトランスポーター質の基質となる薬物は膜ベシクル内に取り込まれる。一方、基質にならない薬物は取り込まれない。
【0015】
ついで、この被検薬物と接触した細胞膜ベシクルをウェルフィルタープレートにトラップし、さらに細胞膜ベシクルを可溶化して、細胞膜ベシクル内に取り込まれた被検薬物を抽出した抽出溶液を得る。細胞膜ベシクルのトラップは種々の方法によることができるが、好適には96ウェルまたは384ウェル等のウェルフィルタープレートが用いられる。たとえば、膜ベシクルを96ウェルフィルタープレート(ウェル径0.2〜0.4 μm)でトラップして、緩衝液で洗浄する。次いで膜ベシクルを可溶化して、内部に蓄積した薬物を抽出する。可溶化剤として、NaOH溶液, DMSO(ジメチルスルホキシド)等の溶媒、各種界面活性剤等を用いることができる。たとえば、10 mM NaOH溶液を使用することによって容易に膜ベシクルを回収率良く可溶化することができる。
【0016】
ついで、この抽出溶液からの被検薬物以外の成分を除去して測定用試料を得る。被検薬物以外の成分としては膜蛋白質、リン脂質および可溶化剤が含まれる。このためにも、上記のウェルフィルタープレートが好適に用いられる。
【0017】
本発明においては、膜ベシクルを可溶化して、内部に蓄積した被検薬物を完全に抽出し、脱塩/除蛋白質の処理をするステップが特に重要である。最も好適には、回収率を実質的に100%とする。また、たとえば96ウェルフィルタープレート等を用いることにより作業を簡便化して、高速スクリーニングを実現させることができる。
【0018】
さらに本発明においては、上記測定用試料中の被検薬物量を液体クロマトグラフおよびタンデム質量分析計(LC/MS/MS)により定量する。好適には、たとえば96ウェルフィルタープレート対応のオートサンプラーと適切なカラムおよび溶出液を装備したLC/MS/MSにより、被検薬物を測定する。標準サンプルとの比較により、膜ベシクルに取り込まれた被検薬物をの量を定量的に算出することができる。LC/MS/MS分析においては、まず測定用試料を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分離して、溶出成分をイオン化室に導入し、イオン化してMSスペクトルを得る。すなわち第1のMSでイオンを選択し衝突室で不活性ガスを衝突させてイオンを解離させて、第2のMSで特定イオンを選別し、分析することにより、選択性良く、高感度の分析値を得ることができる。
【0019】
本発明方法は、試験化合物を放射ラベルする必要がなく、たとえば96ウェルフィルタープレートを用いることにより高速自動化スクリーニング装置へ応用することができるので、製薬企業のリード化合物のスクリーニング等に適用できる。LC/MS/MSを応用する本方法は、創薬において薬剤輸送という観点から多種類のリード化合物をスクリーニングすることを可能にして、バイオアベイラビリテイー(小腸での吸収)が高い薬剤や中枢神経系で選択的に作動する薬剤、あるいは新規の制癌剤の探索開発等に応用できる利点を持つ。さらに、ゲノム解析で得られた新規ABCトランスポーターの機能解析において、未知の基質を探索するスクリーニング法としても応用できる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
(A)ABCG2を発現する昆虫細胞膜の調製
ヒトABCトランスポーターを昆虫細胞に発現させて、その細胞膜を用いて機能解析を行った。まずABCG2のcDNAをベクター (pFastBac1) に組み込んだ。ベクターから発現用バクミドを作成した後、昆虫細胞に遺伝子改変ウイルスを感染させ、トランスポーターのタンパク質を発現させた。その方法は以下の通りである。
【0021】
ABCG2のcDNAをもつpFastBac1ベクターをDH10Bacコンピテントセルに形質転換し、ABCG2のcDNAをバクミドに組み換えた。その後、組み換えバクミドをCellfectin試薬 (Invitrogen Co.) を用いてSf9昆虫細胞に遺伝子導入することにより、ABCG2のcDNAをゲノム中にもつ遺伝子改変ウイルスを得た。Sf9昆虫細胞にこの遺伝子改変ウイルスを感染させ、ABCG2タンパク質を発現させた。
【0022】
ABCG2タンパク質の発現を確認するために、ABCG2特異的モノクローナル抗体BXP-21 (SIGNET) を用いたウェスタンブロッティングを行った。タンパク質を転写したニトロセルロース膜をp0.5%(w/v) スキムミルク含有TTBS (0.05% Tween 20含有TBS) でブロッキングした後、0.5%(w/v) スキムミルク含有TTBSで500倍に希釈したBXP-21に室温で1.5時間浸して抗原抗体反応を行った。ニトロセルロース膜をTTBSで良く洗浄し、0.5%(w/v) スキムミルク含有TTBSで3000倍に希釈した抗マウスIgG抗体に室温で1時間浸して二次抗体反応を行った。ニトロセルロース膜をTTBSで良く洗浄した後、Western Lightning Chemiluminescence Reagent Plusに浸し、その化学発光をLumino Imaging Analyzer FAS-1000 (TOYOBO Co., Ltd.) で検出した。
(B)膜ベシクルを用いて輸送活性のスクリーニングとサンプルの調製
ABCG2を発現させた昆虫細胞から形質膜を調製し、その膜ベシクルを用いて輸送活性のスクリーニングを行った。高速スクリーニング方法では96ウェルフィルタープレート (日本ミリポア社製「MultiScreen」) と自動化システム (バイオテック社製「EDR384S」) を用いてスピード化を図った。ABCG2の基質であるメトトレキセート (MTX) を用いて輸送活性を調べた。
MTX輸送測定の標準的アッセイ系は次のとおりである。
【0023】
53 μl 250 mMショ糖・10 mM Tris/HEPES (pH7.4) 溶液
30 μl 3.33 mM ATP・33.3 mM クレアチンリン酸・33.3 mM MgCl2
(または 33.3 mM クレアチンリン酸・33.3 mM MgCl2)
5 μl 2 mg/ml クレアチンキナーゼ
2 μl 10 mM MTX (最終濃度200 μM)
10 μl Sf9細胞膜サンプル (計50 μg タンパク質)
計100 μl
インキュベーションを37℃で行った。反応開始から0, 10, 20分後、反応混液に氷冷した250 mMショ糖・2 mM EDTA・10 mM Tris/HEPES (pH7.4) 溶液1 mlを速やかに加えて、反応を停止させた。その溶液を270 μlずつMillipore 「MultiScreenのウェルに注いで、吸引した。そして氷冷した250 mMショ糖・10 mM Tris/HEPES (pH7.4) 溶液200 μlで各ウェルを4回洗浄した。細胞膜ベシクルに取り込まれたMTXを定量するために、各ウェルに200 μl の10 mM NaOH溶液を加え、室温で10分間静置した。この処理によって膜ベシクルは壊れて、その内部に閉じ込められていたMTXがNaOH溶液に溶け出してきた(回収率99%以上)。その後、吸引により底部フィルターを通して、新しい96ウェルプレートに そのNaOH溶液を移した。
【0024】
次いで除タンパクをするために、サンプル溶液50μlに対して100μlのアセトニトリルを添加して遠心分離を行った。その上清10μlを採取し、milli-Q水190μlと混ぜて測定用サンプルとした。
(C)LC/MS/MSによる定量的分析
上述のサンプルをLC/MS/MSを用いて定量的に分析した。使用した機器は以下の通りである。
【0025】
LC(液体クロマトグラフィー):「Waters 2695セパレーションモジュール」
MS/MS(質量分析):「Waters Quattro micro API」
まず、標準MTXサンプルをLC(液体クロマトグラフィー)にかけて、溶出時間を測定した(図1のA)。カラムには40°Cに保温したAtlantis dC18 3mm, 2.1 x 150 mm逆相カラムを用いた。LCの移動相はA, B, Cの3相からなり、以下のグラジエントをかけた。流速は0.2 ml/minとした。この条件で、MTXの溶出時間は7.61分であった。
【0026】
時間(min) A(%) B(%) C(%)
0 80 10 10
10 0 90 10
12 80 10 10
MTXをイオン化するには、大気圧イオン化法で、一般的なESI(Electron Spray ionization)で測定を行なった。MS1スキャンモードで、MTXの最適コーン電圧(引き込み電圧)を検討し、その各々のコーン電圧におけるMTXのマススペクトルを図1のBに示す。最適コーン電圧は30Vであり、MTXは1価のプロトン化分子(m/z=455)として観測された。
【0027】
次に、MS1とMS2の間にあるコリジョンセルにかけるエネルギーを最適化するために種々のコリジョンエネルギーにおける標準MTXサンプルのマススペクトルを測定し、図2に示す。コリジョンエネルギーを高くかける程、分子量関連イオンはフラグメント化した。コリジョンエネルギー20 eVでのm/z=308の感度が最高だったので、これをモニターイオンとした。
【0028】
最後にLC/MS/MS測定における定量性と再現性を検討した。異なった濃度のMTX溶液のサンプルを用いて、上述のLC/MS/MSの条件下で分析した。それぞれの濃度ポイントに対して繰り返し3回注入した。その結果、図3に示す検量線が得られた。本条件下LC/MS/MS分析すると、繰り返し再現性が良く、微量のMTXも信頼性高く測定できることが判った。
【0029】
以上の基本的な条件下で、膜ベシクル内部に閉じ込められていたMTXをLC/MS/MS分析した。その結果を図4に示す。S/N比も良好で、コリジョンエネルギー20 eVでのm/z=308のMTXのシグナルが観測された。
【0030】
こうして得られたLC/MS/MS分析条件に基づいて、ABCG2による膜ベシクル内部へのMTX輸送を測定した。その時間経過を図5(平均+標準偏差(N=3))に示す。放射ラベル化したMTXを用いなくても、本実施例のように高速ベシクルスクリーニング法とLC/MS/MS分析法を組み合わせることによってABCG2の輸送機能を正確にかつ速やかに測定することができた。この方法は、膜ベシクル輸送の実験が可能であるかぎり、基本的には他のABCトランスポーターまたはSLC(solute carrier)トランスポーターにも応用できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の、放射ラベル体を用いずに、薬物トランスポーターの薬剤輸送を高感度に測定する方法により、製薬企業のリード化合物のスクリーニング等に応用できるシステムを提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】標準メトトレキセート (MTX)のLCおよびマススペクトル。
【図2】種々のコリジョンエネルギーにおける標準MTXのマススペクトル。
【図3】LC/MS/MS分析による標準MTXの検量線。
【図4】膜ベシクル内部に輸送されたMTX のLC/MS/MS分析結果。
【図5】ABCG2による膜ベシクル内部へのMTX輸送。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物トランスポーターを発現している細胞から細胞膜ベシクルを調製すること;
得られた細胞膜ベシクルをATP存在下に被検薬物と接触させること;
被検薬物と接触した細胞膜ベシクルをトラップすること;
トラップした細胞膜ベシクルを可溶化して、細胞膜ベシクル内に取り込まれた被検薬物を抽出した抽出溶液を得ること;
この抽出溶液から被検薬物以外の成分を除去して測定用試料を得ること;ならびに
この測定用試料中の被検薬物量を液体クロマトグラフおよびタンデム質量分析(LC/MS/MS)により定量すること、
を特徴とする薬物トランスポーターにより輸送される薬物のスクリーニング方法。
【請求項2】
薬物トランスポーターがABCトランスポーターである請求項1記載の薬物のスクリーニング方法。
【請求項3】
細胞膜ベシクルをウェルフィルタープレートでトラップする請求項1もしくは2記載の薬物のスクリーニング方法。
【請求項4】
トラップした細胞膜ベシクルを洗浄し、ついで可溶化する請求項1〜3のいずれか記載の薬物のスクリーニング方法。
【請求項5】
被検薬物以外の成分が膜蛋白質、リン脂質および可溶化剤を含む請求項1〜4のいずれか記載の薬物のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−114091(P2007−114091A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306956(P2005−306956)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(500235973)日本ウォーターズ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】