説明

薬物の脂肪酸誘導体および類似体

本開示は、脂肪酸−薬物の結合体、その調製および使用、ならびに薬物の結合体の調製に有用な長鎖(C10〜25)の飽和および不飽和両方の脂肪酸および無水物を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[連邦政府の支援による研究または開発]
本発明は、米国国立衛生研究所の連邦政府補助金CA126825による政府助成によって行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
[発明の分野]
本開示は、薬物の脂肪酸誘導体および類似体、特に単一のC10〜25アルキル鎖を有したマロン酸、コハク酸、およびグルタル酸を含有するものを対象とする。
【背景技術】
【0003】
分子量66kDaのアルブミンは、身体に最も豊富に存在するタンパク質であり、心臓からの静水圧に対して血管に浸透圧を与える。また、アルブミンは様々な生体異物ならびに脂肪酸などの不水溶性の内因性物質の天然担体としても働く。例えば、パクリタキセル(PTX)は、約10−5Mの解離定数Kでアルブミンと結合し(Paal、Mullerら、2001年)、脂肪酸の総濃度によってμM〜nMの範囲のKでステアリン酸と結合する(Curry、Brickら、1999年)。その血清中濃度は40mg/ml(4%または0.61mM)に近いが、間質組織中では約16mg/ml(1.6%または0.24mM)である。アルブミンは脂肪酸に6つのある程度特異的な結合部位を提供するため、脂肪酸結合部位に関する有効濃度は非常に高い。つまり、タンパク質は疎水性生体異物にとってスポンジとしての役割を果たし、血清中の全脂肪酸の99.9%はアルブミンに結合した状態である。
【0004】
分子量150kDaの免疫グロブリンIgGと構造上および機能的に全く異なるが、合成および異化の反応速度論において2つの主要タンパク質の間に多くの類似点がある。IgGは、約12mg/mlでアルブミンに次いで全身に豊富に存在する。これらのタンパク質のサイズによって、それらは、Maedaによって提案されたいわゆる透過性および滞留性の亢進(enhanced permeability and retention)(EPR)効果の候補となる(Maeda 2001年;Tanaka、Shiramotoら、2004年)。簡潔に述べると、これらの分子は血流を通って主に溶媒牽引(つまり対流)によって移動する。腫瘍に近づくと、圧力勾配によってこれらの高分子は漏出性の血管系を通って腫瘍周辺に押しやられる。腫瘍の中心は液圧が高く、腫瘍深部への対流性浸透(convective penetration)を防ぐ(Jain、2005年)。循環に戻ることや、腫瘍の深部へ移動することができないこれらの高分子は、通常リンパ系に流出することになり、内部壊死腫瘍組織で機能不全となる。したがって、これらの高分子がマクロピノサイトーシスによって腫瘍周辺に取り込まれ、そこで高分子が分解されて腫瘍増殖の栄養となることがStehleによって提案された(Stehle、Wunderら、1999年)。血管系においてアルブミンの濃度が低下すると、肝臓はより多くのアルブミンを合成して、定常状態の全身濃度0.6mMに維持する。したがって、腫瘍でアルブミン分解の大部分が生じることが観察されるのは当然のことである(Stehle、Wunderら、1998年)。血管透過性の増加も通常様々な炎症性疾患で観察される。そのため、合成ナノ粒子で見られるように、病的部位においてEPRの媒介によるアルブミンおよびIgGの蓄積が予測される(Sandanaraj、Gremlichら、2009年)。
【0005】
ヒトがいかにしてアルブミンとIgGをそのような高濃度に維持するのかは、FcRnまたはBrambell受容体がこれらの2つの主要タンパク質を保護するという最近の発見まで不可解なままであった(Anderson、Chaudhuryら、2006年;Kim、Bronsonら、2006年)。この受容体は、後期エンドソームの酸性条件下で両方のタンパク質を認識し、後期エンドソームで受容体がこれらのタンパク質と結合することで、エンドソームによる再利用によって表面に回帰される。中性pHの血清では解離が生じ、無傷タンパク質は循環に戻る。この保護は、アルブミンとIgGの半減期がそれぞれ19日と21日であるというこれらの高分子の驚くべき特性に明示されている。つまり、アルブミンは身体で最も豊富なタンパク質として肝臓で生成される。アルブミンは脂肪酸と非常に高い親和性および能力で結合し、比類のない時間循環し、増殖中の腫瘍を受動的に標的とする。
【0006】
薬物担体としてアルブミンを開発するには少なくとも2つの方法がある。1つは、遊離薬物がなんらかの形で放出すると考えられる薬物分子とタンパク質の直接的な化学結合である(Kratz、Muller−Driverら、2000年)。この場合、多数の薬物分子を備えたタンパク質はもはや天然アルブミンとして作用しないため、アルブミンの使用は合成高分子となんら変わりはない。第2のアプローチは、薬物のアルブミンへの親和性を増加させる分子で薬物を誘導体化することである。例えば、オリゴヌクレオチドのイブプロフェン結合体であり、オリゴヌクレオチドのPKはイブプロフェンがアルブミンと結合することによって劇的に変化する(Manoharan、Inamatiら、2002年)。
【0007】
パクリタキセル(PTX)は、現在、乳癌、卵巣癌および肺癌を処置する最適な薬物である。PTXは極めて水に不溶性であるため、薬物を可溶性にし、少しでもその薬物動態(PK)を改善するために、多くの製剤が試みられてきた(SinghおよびDash、2009年)。PTXが界面活性剤のポリオキシエチル化ヒマシ油(Cremophor EL)と無水エタノールで可溶化されたTaxol(登録商標)(Bristol−Myers Squibb、Princeton、NJ)には、まだ難溶性の問題があり(水で戻した後1.2mg/mL未満)、低速の3時間注入が必要とされ、多量のCremophor ELが存在することで過敏症を引き起こすことが多い。副作用として好中球減少症および末梢神経障害が挙げられる。これらの反応は、処置する前にステロイドを投与することで回避しなければならなかった。
【0008】
第2世代製剤Abraxane(登録商標)(Abraxis Bioscience、LLC、Los Angeles、CA)において、PTXはアルブミンとの複合体として存在する。処理にはPTXを溶かす有機溶媒中で高圧下でアルブミンを変性させることが含まれる。その後、溶媒を除去して製品を得る。固体粉末を水で戻すと、約130nmのサブミクロン粒子が2〜10mg/mlの濃度で生成される。製造業者は、ナノ粒子がgp60によって腫瘍周辺に経細胞輸送されることを提案しているが、この仮説は実験的に確立されていない(査読なしのジャーナル、Drug Delivery Report Winter 07/08)。製剤でのアルブミンの変性により、gp60および/またはFcRnによるアルブミンの認識には疑問の余地があり、確実にアルブミンの長い半減期は得られないであろう。
【0009】
インスリン含有製品Detemir(登録商標)はアシル化インスリンである。インスリンは、グルコースの血清濃度を調節する天然ペプチドホルモンである。糖尿病患者はインスリン抵抗性であるか、またはグルコースレベルを調節するのに十分なレベルのインスリンに欠けていることがある。これらの糖尿病患者はインスリン注射を一般的に1日当たり3回受けるであろう。長期循環性のインスリン分子の目的は、一日を通してペプチドの基礎濃度を維持することであり、したがって単回注射しか必要としない。このインスリン分子は、ペプチドがアルブミンに固着することができる鎖のうちの1つの末端に結合した脂肪酸を有する。(Kurtzhals Havelundら、1995年)
【0010】
核酸脂質結合体が知られている。この技術には、脂肪酸またはステロールによる新しいクラスのオリゴヌクレオチド薬物の修飾が含まれていた。これらの修飾核酸は活性を保持することが示され、修飾によっては、アルブミンと同様にリポタンパク質粒子とも結合することも示された。また、合成に関与する化学反応は薬物に合わせられ、通常、脂肪酸の負電荷を排除するアシル化である。カルボキシル化ステロールの電荷も同様に中和されるが、脂肪酸誘導体のみが明らかにアルブミンを結合することが示されている(Wolfrum、Shiら、2007年)。
【0011】
スクアレン酸(squalenic acid)で結合されたゲムシタビンが知られている(Couvreur、Stellaら、2006年)。これによって、ゲムシタビン分子が凝集し、ミセルまたはミセル様粒子を形成することができる。アルブミン結合についての言及はないが、脂肪酸の枝状の性質により、この結合体がアルブミンに対立してリポタンパク質結合により適したものとなる可能性がある。その結果、循環時間が著しく減少した結合体が得られるであろう。ゲムシタビンのステアリン酸(炭素数18の脂肪酸)誘導体が知られている。結合体はリポソームへと処理された。後者は、リン脂質が水性溶媒の中で懸濁されると自然に形成されるミクロン未満の脂質小胞である。結合体がリポソームに取り込まれることで、結合アルブミンと比較して、半減期が不十分になるであろう。
【0012】
疎水性薬物PTXをω−3ドコサヘキサエン酸で誘導体化することで薬物Taxoprexin(登録商標)が得られる(Wolff、Donehowerら、2003年)。この脂質は、一般的に腫瘍でよく吸収されると考えられる天然栄養素である。この薬物の製剤は、Cremophor ELとエタノールで調剤され、食塩水で希釈される点でTaxol(登録商標)様である。この製剤によって、製剤でのプロドラッグの溶解性が向上するが、好中球減少および過敏などのCremophor ELの副作用は除去されない。この製剤は、さらにTaxol(登録商標)に類似した毒性を示し、ちょうどTaxol(登録商標)のように半減期が不十分であろう。脂質の構造のため、それは、アルブミンよりむしろ低比重リポタンパク質および高比重リポタンパク質(LDL/HDL)のバインダーであり、したがって、天然担体に調剤された場合、同様に半減期は依然として長くならない。
【0013】
α−リノレン酸で結合されたドキソルビシンは、天然ω−3脂肪酸の消化に腫瘍を利用するという点でTaxoprexin(登録商標)に類似している(Huan、Zhouら、2009年)。糖に対する親水性の性質、特にアンモニウムのカチオン電荷は、薬物の吸収を妨げる。これは結合によって克服される。なぜなら、結合によって電荷が中和され、薬物がより細胞膜に分配されやすくなり、単純拡散によって細胞に移動することが可能となるからである。他にも多数のドキソルビシン含有製剤がある。それらは、受動的にも能動的にも腫瘍を標的としないため、薬物の重篤な心臓毒性が持続すると予想される。さらに、担体なしでは、薬物のPKが明らかに変化することは期待できず、毒性の軽減または効能の増加が妨げられる。
【0014】
特定の3−置換グルタル酸およびそれらの無水物が知られている(Poldy Peakall、およびBarrow、2008年)。しかしながら、比較的短鎖の誘導体しかフェロモンの合成に開示されていない。本特許出願では、短鎖のグルタル酸無水物はフェロモンの合成での踏み台として以外いかなる方法にも使用されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
つまり、薬物のアルブミンに対する親和性を改変し、長い循環半減期の血清PKおよび病的部位への標的送達などの望ましい生物薬剤学的特性を有する薬物の結合体を作成することが可能な分子が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ポリカルボン脂肪酸(polycarboxylic fatty acid)と薬物分子を共有結合させ、脂肪酸−薬物の結合体を形成する組成物および方法が記載されている。結合体は、薬物の溶解性を向上させるとともに、癌処置での固形腫瘍または関節炎での炎症を起こした関節の治療において薬物を標的とするのに有用である。1つの実施形態では、本開示は、2つ以上の近接した−COOH基を有する長鎖脂肪酸を対象とする。薬物の結合体の−COOH基は、硝酸、硫酸、スルホン酸、リン酸などの他の無機酸、およびそれらの誘導体であってもよい。これらの試薬の1つの−COOH基は、薬物と共有結合していてもよい。脂肪酸分子は、このように薬物に結合する場合、遊離カルボン酸または(1つまたは複数の)他の無機酸アニオンを含んでいる。これらの長鎖脂肪酸−薬物の結合体は改善された生物薬剤学特性を有し得、その結果高い治療指数が実現される。
【0017】
別の実施形態は、本明細書中に記載される長鎖脂肪酸分子−薬物の結合体を対象とする。
【0018】
別の実施形態は、脂肪酸−薬物の結合体を調製するための長鎖脂肪酸分子の使用を対象とする。
【0019】
別の実施形態は、薬物の溶解性を向上させるための長鎖脂肪酸−薬物の結合体の使用を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】血清アルブミン濃度の増加に伴う結合体の溶解性の向上を表す図である。この依存性は両者の相互作用を示唆している。この実験は結晶結合体を使用してPBS中で行い、その溶解には限度があり、平衡化するには長時間かかることが分かった。これを改善するために、PDG−PTX結合体をt−BuOHに溶解させ、それを血清アルブミンの撹拌溶液にゆっくり添加することで、アルブミンを飽和させ、非常に高濃度(1%HSA溶液中、約825μM PDG−PTX)を達成することが可能になった。
【図2】血清アルブミンと結合する際の結合体自体の向きの理論モデルを表す図である。なお、結合体は、結合ポケット周辺のカチオン性アミノ酸残基との静電的相互作用によってタンパク質への結合を促進させるカルボン酸アニオンを依然として保持している。この例におけるジカルボン酸はα炭素で酢酸を含むステアリン酸(C1836)である。2つのカルボン酸のうちの1つはエステル結合によってPTXと結合する(茶色)。このエステル結合が、腫瘍組織の近傍で、またはインターナリゼーションの後に腫瘍細胞の内部で切断され遊離PTXを放出すると予想される。誘導体自体がちょうどドセタキセルのようにPTXと同じくらい薬理学的に活性である可能性があるが(Crown、O’Learyら、2004年)、誘導体はまたプロドラッグとしても作用することもある。
【図3】未処理対照と比較して、PTX、PDG−PTXまたはPDGを用いたH1299非小肺癌細胞のMTTアッセイを表す図である。データは%生細胞として示されている。
【図4】未処理対照と比較して、PTX、PDG−PTXまたはPDGを用いたH1155非小肺癌細胞のMTTアッセイを表す図である。データは%生細胞として示されている。
【図5】未処理対照と比較して、PTX、PDG−PTXまたはPDGを用いたMCF−7乳癌細胞のMTTアッセイを表す図である。データは%生細胞として示されている。
【図6】アルブミンを担体として使用する場合の可能な結合体として脂質の結合親和性の傾向を表す図である。
【図7】ステアリン酸−フルオレセインアミンとヒト血清アルブミンの結合に関する等温滴定熱量測定のデータを表す図である。
【図8】PDG−フルオレセインアミンとヒト血清アルブミンの結合に関する等温滴定熱量測定のデータを表す図である。
【図9】PTX結合体の2つの構造異性体を表す図である。構造によって、カルボキシレートから数えて、化合物2がα位で分岐し、化合物3がβ位で分岐していることが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
新薬製剤およびそれらの使用方法が本明細書中に提供される。本明細書中に記載された新規の製剤は、血清アルブミンの3つのインビボ特性および機能を利用すると仮定される。まず、アルブミンは、ヒトでは半減期が19日という長い間循環する。第2に、アルブミンは強く結合した脂肪酸を運搬する。第3に、薬剤が癌治療である場合、および腫瘍が増殖している場合、タンパク質は主に腫瘍に蓄積し、腫瘍で分解される。したがって、例えば、パクリタキセルのステアリン酸誘導体はアルブミンと結合すると循環半減期が長くなり、固形腫瘍に薬物が著しく蓄積する可能性がある。
【0022】
アルブミンとIgGは魅力的な薬物担体である。なぜなら、これらのタンパク質に保持された薬物分子は長い循環半減期を有するだけでなく、これらのタンパク質に結合した薬物が固形腫瘍または炎症組織に送達される可能性が高いからである。脂肪酸の場合のアルブミンに対する結合親和性には2つ要因がある。1つは、脂肪酸の長いアルキル鎖と結合穴(binding cavity)の間におけるエントロピー(ΔS)駆動の疎水性相互作用であり、もう1つは、カルボン酸アニオンと結合ポケット周辺のリシンおよびアルギニンからの正電荷の間におけるエンタルピー(ΔH)駆動の静電引力である。脂肪酸はアルブミンに対して親和性が高いため、種々の薬物が脂肪酸で修飾されてきた(Lambert、2000年)。しかしながら、いずれの場合も、関与する化学反応が単純であることが多いため、−COOH基は薬物分子に直接結合する。この単純なアプローチの重大な欠点は、結合体と脂肪酸結合部位の相互作用において静電気の寄与がほとんどないため、結合体が遊離脂肪酸より低い親和性でアルブミンと結合することである。本明細書中に記載された技術は、結合体のアルブミン結合に対するエントロピーとエンタルピーの両方の寄与に関与する。非結合のカルボン酸アニオンについての報告がある(Ekrami、Kenney、およびShen、1995年;Kurtzhals、Havelund、Jonassenら、1995年)。
【0023】
本製剤およびプロセスは、本明細書中に記載された結合化学反応を利用する。重要なことであるが、脂肪酸の−COOH官能基は最終結合体において未反応のままである。好ましくは、脂肪酸分子には2つ以上のカルボン酸部分がある。脂肪酸分子が2つ以上のカルボン酸部分を含んでいる場合、分子の好ましい形態は無水物である。ジカルボン酸からの無水物の調製は当技術分野において周知である。
【0024】
1つの実施形態では、本開示は、長鎖脂肪酸および薬物を備える結合体の組成物を対象とし、前記結合体は前記脂肪酸からの少なくとも1つの遊離カルボン酸またはカルボキシレート基を有する。好ましくは、脂肪酸はジカルボン酸である。より好ましくは、脂肪酸は無水物から誘導される。本明細書中に使用される用語「脂肪酸」は、C10〜25アルキル脂肪酸および誘導体、ならびにジカルボン酸の無水物も指す。好ましくは、アルキル鎖は12〜20個の炭素を有する。より好ましくは、アルキル鎖は14〜16個の炭素を有する。有用な脂肪酸には、遠位端にカルボキシレートを有する直鎖アルキル鎖である任意のアルキル二酸が含まれ、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。長鎖アルキル鎖を有するポリカルボン酸が薬物分子の誘導体化に使用される場合、得られる結合体は遊離−COOH基を保持するであろう。マロン酸、コハク酸およびグルタル酸などのジカルボン酸は有用であり、炭素数が8〜25、好ましくは8〜20、10〜20、12〜20または14〜16である1つの長鎖アルキル鎖を含むそれらの単純な誘導体も有用である。これらのジカルボン酸誘導体に加えて、3つ以上の−COOH基を含む任意の化合物も同じ目的に使用することができる。例えば、クエン酸、トリカルボン酸、ならびにβ−メチルトリカルボン酸および1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などのその誘導体を挙げることができる。ショウノウ酸および環式1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸などの環式ジカルボン酸もまた同じ目的を果たすことができる。無機酸を含む混合二価酸または多価酸(multi−acid)も含まれ、天然に存在する例はリン酸化N−アセチルチロシンであり、水酸基含有カルボキシ酸の硫酸エステルが合成由来の例である。
【0025】
最も好ましくは、脂肪酸はグルタル酸であり、特に3−ペンタデシルグルタル酸無水物(PDG)である。組成物は薬学的に許容される賦形剤または希釈剤をさらに備えることができる。
【0026】
求核基を有するか、求核基を含むように修飾することができる薬物または化合物であれば、結合体に使用することができる。これらの薬物は、NSAID、例えばナプロキセン、アセトアミノフェン、イブプロフェンのような化学的性質を有し得る。それらは、手術後などに鎮痛剤の放出を遅らせるためにも使用することができる。典型的な鎮痛剤はコデイン、オキシコドンおよびモルヒネであり得る。しかしながら、本結合技術は低分子薬物に限定されない。その技術は、タンパク質またはペプチドを、長鎖脂肪酸と反応することができる多くのアミノ酸求核種を含むように修飾するために使用することができる。さらに、大部分の非環状ペプチドはカルボキシル末端とアミノ末端を有し、両者は長鎖脂肪酸と反応するため使用することができる。カルボキシル端部は、エタノールアミンリンカーなどのプロモイエティ(promoiety)の合成を必要とするであろう。形成されたエステルはプロドラッグを生成するように不安定であり、したがって、一級アミンは通常の条件下で長鎖脂肪酸と反応することができる。天然ペプチドの代表例は、ホルモン、例えばインスリンであり得る。他の有用な徐放性製剤には、抗生物質またはステロイドなどの短期の反復投与計画(multi−dose regimen)が含まれ得る。高親和性を有するものと、低親和性を有するものがある複数の様々な結合体を用いてこれらの薬物の放出速度を制御することができる。低親和性結合体は早く離れるため一気に放出され、一方、高親和性結合体はゆっくりと離れるため定常状態の濃度を維持することができるであろう。いくつかの可能な抗生物質には、セフレキシン、アモキシシリンおよびバンコマイシンと同様に当技術分野で公知の多数の他のものも含まれる。いくつかの可能なステロイドには、プレドニゾン、ヒドロコルチゾンおよびブデソニド、ならびにほとんどのコルチコステロイドが含まれる。好ましい実施形態では、薬物はパクリタキセルである。
【0027】
一実施形態では、本開示は請求項1に記載の長鎖脂肪酸の結合体を調製する方法を対象とし、この方法は、前記薬物を前記長鎖脂肪酸と接触させることにより前記結合体を調製することを含む。この実施形態の一態様では、結合の方法は脂質によるものであり、薬物から結合体のワンポット合成(single−pot synthesis)を容易に行うことができる。特に、3−ペンタデシルグルタル酸無水物(PDG)の化学反応によって、求核種を含むあらゆる薬剤が本明細書中に記載されるように結合される可能性がある。求核種とは、アルコール、チオール、一級アミンまたは二級アミンを意味する。これらの求核種は薬物上で合成することができる。例えば、アンチセンおよびsiRNAなどの核酸は、薬物に遊離アミンを与えるC6アミノ修飾剤で合成される。この場合、薬物はここでPDGと容易に反応することができるであろう。これらの修飾は可逆的であるため、PDGと容易に反応し、切断されて元の薬物に戻ることができるプロドラッグを生成する。例として、カルボン酸は非求核性であるが、多くの薬物に共通している。エタノールアミンを用いたエステルの形成によって、容易に切断できるエステルを介してプロドラッグが生成されるとともに、PDGと反応することができる遊離アミンを与えるであろう。
【0028】
用語「アルケニル」および「アルキルエニル」は、単独でまたは組み合わせて使用した場合、2〜10個の炭素原子を有する部分に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する直鎖基または分岐基を包含する。例として、エテニル、プロペニル、アルキル、プロペニル、ブテニルおよび4−メチルブテニルが挙げられるが、これらに限定されない。用語「アルケニル」およびアルキルエニルは、当業者に理解されるように、「シス」および「トランス」配向、または「E」および「Z」配向を有する基を包含する。
【0029】
次のスキーム1〜5は、本明細書中に記載される脂肪酸分子または結合体を調製するための合成経路を表す。スキーム1は、PDG(3−ペンタデシルグルタル酸無水物)を調製するための合成経路を表す。
【化1】

スキーム2は、PDG−PTX(パクリタキセル)の合成経路を表す。
【化2】

スキーム3は、パクリタキセル−脂肪酸結合体の一段階合成を表す。
【化3】

スキーム4は、PDG−DOX(ドキソルビシン)の合成経路を表す。
【化4】

スキーム5は、PDG−GEM(ゲムシタビン)の合成経路を表す。
【化5】

【0030】
本発明の組成物および方法は、癌治療、特に固形腫瘍に対する薬剤を調製するために使用することができる。血清アルブミンが増殖中の腫瘍に凝集する自然な傾向は、長鎖脂肪酸の結合による有用な抗腫瘍性製剤の生成に利用することができる。本発明の薬剤で使用される好適な薬物として、有糸分裂阻害剤(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル)、トポイソメラーゼii抑制剤(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン)および核酸類似体(例えば、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル、メトトレキサート)が挙げられる。急速に分裂する細胞を標的とし死滅させるように設計され、遊離求核種を有するか、遊離求核種を含むように修飾することができる任意の薬物を、効果向上のために長鎖脂肪酸を用いて調剤することができる。
【0031】
非担癌状態では、アルブミンは約19日の半減期で循環する。高親和性の脂質はアルブミンからゆっくり解離するが、低親和性脂質はより速く解離する。したがって、アルブミンに対する結合体の親和性を調整して薬物に特有の徐放性製剤を生成することができる。
【0032】
製剤によって異なる親和性の結合体が必要とされ、親和性はいくつかの機構により調整することができる。脂肪酸の尾部長が短くなると親和性は低下し、尾部長が約22個の炭素まで長くなると親和性は増大すると考えられる。なお、さらに長鎖の炭素尾部も有用であり得る。親和性はまた、恐らくアルブミンの結合ポケットの表面におけるリシンおよびアルギニンとの静電的相互作用のため、分子の頭部のアニオン電荷の存在によっても変化すると考えられる。すべての電荷を除去すると親和性が低下し、電荷数または電荷を保持するアームの柔軟性を上げると親和性が増大するであろう。分子の柔軟性は親和性に影響を及ぼすことがあり、例えば、3つの炭素の対称性の頭部基であるマロン酸の柔軟性は、さらに柔軟性のある5つの炭素の対称性の頭部基であるグルタル酸と異なることがある。しかしながら、これらはそれぞれ、1つのアニオン電荷を維持することができる。ポケットの表面で電荷を配向させる柔軟性が高いと親和性が増大する可能性がある。同様に、コハク酸などの4つの炭素の不斉の頭部基も有用である。コハク酸もまた無水物に環化され、求核種と容易に結合することができる。コハク酸に基づく脂質と同様に任意の他のアルキル二酸も、脂質薬物の結合体の製剤の頭部基として、アルブミン結合のために使用することができる。アルキル二酸とは、遠位端にカルボキシレートを有する直鎖アルキル鎖を意味し、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0033】
別の実施形態では、本開示は、本明細書中に記載される長鎖脂肪酸−薬物の結合体を、前記結合体が可溶化される媒体と接触させることを含む、薬物を可溶化する方法を対象とする。媒体は任意の液体であってもよい。好ましくは、媒体は血清である。好ましい実施形態では、結合体は、特定の媒体において薬物単独の溶解性と比較して溶解性が100倍増加している。より好ましくは、結合体は、溶解性が200倍増加している。最も好ましくは、結合体は、溶解性が250倍増加している。
【0034】
別の実施形態では、本開示は次式
【化6】

(式中、R’は置換または非置換のC10〜25アルキルまたはC10〜25アルキルエニルである)
の構造を有する化合物を対象とする。好ましくは、R’はC12〜20アルキルである。より好ましくは、R’はC14〜16アルキルである。最も好ましくは、化合物は3−ペンタデシルグルタル酸無水物である。
【0035】
癌のための薬剤は、特に固形腫瘍の処置に使用することができる。本明細書中に使用される「腫瘍」は、悪性か良性かにかかわらず、すべての新生細胞の成長および増殖、ならびにすべての前癌性および癌性の細胞および組織を指す。用語「固形腫瘍」は、血液、骨髄およびリンパ系以外の体内組織の癌(cancer)または癌腫(carcinoma)を指す。固形腫瘍に分類される癌として、例えば、肺癌、乳癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、胃癌、前立腺癌および皮膚癌が挙げられるが、これらに限定されない。本発明は、CD40発現癌細胞を含む固形腫瘍を患う被験者を処置する方法を対象とし、固形腫瘍として、卵巣癌、肺癌(例えば、扁平上皮癌、腺癌および大細胞癌型の非小細胞肺癌、ならびに小細胞肺癌)、乳癌、結腸癌、腎臓癌(例えば、腎細胞癌を含む)、膀胱癌、肝臓癌(例えば、肝細胞癌を含む)、胃癌、頚部癌、前立腺癌、鼻咽頭癌、甲状腺癌(例えば、甲状腺乳頭癌)、ならびに黒色腫および肉腫(例えば、骨肉腫およびユーイング肉腫を含む)などの皮膚癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
ここで本発明について次の非限定的な例によりさらに説明する。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
PDG−パクリタキセルの合成
50mg(0.15mmol、2当量)量の3−ペンタデシルグルタル酸無水物(PDG)、64mg(0.075mmol、1当量)のパクリタキセルおよび0.9mg(0.0075mmol、0.1当量)の4−ジメチルアミノピリジンを、小型の撹拌子を備えた1ドラムバイアルに添加した。乾燥粉末に、新たに蒸留したピリジン1.3mLを室温で撹拌しながら添加した。反応混合液をシリコーン/PTFEセプタムでキャップし、雰囲気をアルゴンと置き換えた。反応混合液を室温で一晩(18時間)反応させ、その地点で、EtOAcを溶離液として使用したTLCによって、パクリタキセル(R=0.9)が完全に消失し、小さなテーリング(R=0.3〜0.5)を示す新たなUV活性スポットが表れることが分かった。反応混合液を約20mLのジクロロメタンに加え、続いて約20mLの酸性塩水で3回洗浄してピリジンおよびDMAPを除去した。DCM層をMgSOで乾燥し、ろ過および濃縮し、次いでEtOAcに加えた。その混合液をシリカカラムに吸着させ、定組成のEtOAcで溶出した。濃縮して、75mgの生成物を白色結晶として回収した。(収率85%)。
【0038】
[実施例2]
パクリタキセルのステアリン酸誘導体の溶解度の測定
37.5mg量のPDG−PTXを5mLの無水EtOHに溶解させ、7.5mg/mLの溶液を得た。その後、この溶液にMoravekからの(3.14μL/3.5x10DPM/1.43x10−4μmol/168ng)[H−PDG−PTX]を加えた。少ない量から50μL、500μL、1000μL、1500μL、1950μLの様々な量の溶液を5つのバイアルに添加された;その後、窒素によってすべてのバイアルからEtOHを蒸発させ、HSAを少ない濃度から0%、1%、2%、3%、4%で含有する5mLのPBSと置き換えた。高濃度のアルブミンほどより多くのPDG−PTXを含有するバイアルに添加した。懸濁液を25℃で振動させ、24時間、48時間、72時間、192時間(8日)、336時間(14日)の様々な時点で1mLの分量を取り出した。その分量を、0.1μmの無機膜によってろ過し、液体シンチレーション測定によってPDG−PTXを定量し、さらにBCAアッセイによってHSAの濃度を定量することで分析した。
【0039】
結晶の溶解がゆっくりであることが分かった。したがって、結晶をt−BuOHに溶解させ、0.25μL/分の速度でヒト血清アルブミンの1%撹拌溶液に添加した。その後、その懸濁液を一晩凍結乾燥させて水およびt−BuOHを除去し、固形化物(cake)をdHOで戻して1%ヒト血清アルブミン溶液を再生した。溶液をろ過し、シンチレーション測定によって分析することで、約825μMのPDG−PTXの溶解度が示された。これは、1%溶液において、アルブミン1分子当たり約5.5分子のPDG−PTXに概算される。アルブミンは、理論上の結合限界が6分子であるため、アルブミンは結合体でほぼ飽和されている。
【0040】
[実施例3]
NSCLC、胸および卵巣の癌細胞株におけるPDG−PTXとPTX単独のインビトロ細胞毒性の比較
PDG、PTXおよびPDG−PTXの細胞毒性を、H1299(NSCLC)、H1155(NSCLC)、Es2(卵巣)、MCF7(胸)の4つの細胞株に対して検査した。文献により、PTXのIC50が約25μM(MDA−MB−231、SK−Br3)であることが示されたため、0.25μM、2.5μMおよび25μMの濃度を使用した。2.5mM(100倍)のPDG、PTXおよびPDG−PTXの保存溶液をDMSOで作成した。次いで、約60〜70%の培養密度で、細胞培地にDMSOの保存溶液を0.1μL、1μLまたは10μL添加した。すべて一定にするために、0.1μLおよび1μL分量をDMSOで10μLの容量にした。対照細胞は10μLのDMSOのみで処理した。細胞を薬物と共に24時間インキュベートし、洗浄してからMTTと共に30分間インキュベートし、ホルマザン結晶をDMSOに溶解させてUVによって定量した(λ=560)。
【0041】
[実施例4]
マウスモデルで薬物動態を測定することによる血流中のパクリタキセルの半減期の延長の測定
PDG−PTXの製剤:等価用量の3mgPTXおよび225μL[H−PDG−PTX](0.5mCi/mL、11Ci/mmol)を濃縮し、次いで250μLのt−BuOHに溶解させ、10μL/分の速度で2.5mLの4%脱脂HSAのPBS溶液に添加する。得られた溶液を一晩凍結乾燥し、2.5mLのdHOで戻す。その溶液を、0.12mg/マウス(約6mgPTX/kgマウス)の用量でマウスの後部静脈に注入する。(0.12mg/1x10DPM/0.1mL PBS/20gマウス)。
【0042】
Taxol様PTXの製剤:等価用量の3mgPTXおよび114μL[H−PTX](0.25mCi/0.25mL、36Ci/mmol)を濃縮し、次いで30mg/mLの濃度で0.1mL(1:1v/v)のCremophor ELおよび無水EtOHに溶解する。この溶液を、注入直前にPBSで6mg/mLに5倍希釈する。後部静脈に投与する用量は20μL(約6mgPTX/kgマウス)である。(0.12mg/1x10DPM/0.02mL PBS/20gマウス)。
【0043】
薬物動態学実験:雌性Balb/cマウス(6〜8週齢)の右脇腹の毛を剃り、100μLの培地中の2x10CT−26腫瘍細胞を、1mL注射器および25G針を用いて皮下注入する。すべてのマウスが50〜100mm(L2*W)(Lは長期の測定(接種後約9日))の腫瘍を有すると薬物動態研究を始める。Taxol様、C18−PTX、PDG−PTXの3つの処理のうちの1つをマウスに注入する。所定の時点でマウスを3重反復で屠殺する。Taxol様製剤は速く消失するため、時点は24時間(0.25、1、2、4、8、12、24時間)までしかない。C18−PTXおよびPDG−PTX製剤はより長い半減期を有すると予想され、収集したデータポイントは72時間(0.25、1、3、6、18、36、72時間)までである。屠殺する数分前に、マウスにケタミン10mg(1mL注射器25G針)を腹腔内注入する。マウスの意識がなくなってから切開し、続いて最後に心臓穿刺(1mL注射器25G針)することで血液を回収する。血液を、200μLずつ3重反復で取り出し、残りは−20℃で保存する。死んだマウスから器官を採取し、水分を拭き取り、3重反復で小片(約100mg)を切除し、秤量してからシンチレーションバイアルに保存した。残りの器官は、保証されれば、さらに使用するまで−20℃で保存する。特に、器官として、肝臓、肺、心臓、腎臓、脾臓、腫瘍および注入部位が含まれる。
【0044】
血液の処理:200μL分量の全血を、1mLのSolvable(登録商標)が入った3重反復のシンチレーションバイアルに添加する。試料が褐色を帯びた緑に変化するまで、55℃で1時間インキュベートする。これに、100μLの0.1M EDTAニナトリウム、続いて300μLの30%Hを100μLずつ添加する。その反応は非常に激しいものであり、反応時間30分で終了することになるであろう。その後、バイアルにキャップをし、さらに1時間55℃で加熱すると透明から淡黄色の溶液が生成されるはずである。試料を室温まで冷却し、15mLのUltima Goldを添加し、十分混合する。試料は、計測前に光および温度に適応させるため1時間LSCに静置する。
【0045】
器官の処理:小さな塊の器官を3重反復(約100mg)でシンチレーションバイアルに添加し、1mLのSolvable(登録商標)を添加する。試料を時々かき混ぜたり通気させたりしながら2時間55℃まで加熱する。試料が溶解すると(淡黄色)、室温まで冷却し、200μLの30%Hを100μLずつ添加する。その後、試料を30分間再び55℃まで加熱する。試料を室温まで冷却し、各試料に10mLのUltima Goldを十分混合しながら添加する。試料は、計測する前に光および温度に適応させるため1時間LSCに静置する。
【0046】
クエンチ曲線補正:正常なマウスにケタミンで麻酔をかけ、心臓穿刺によってその血液を取り出す。マウスを屠殺し、主要な器官を採取する。175μL、200μLおよび225μLの分量の血液に、公知の比活性のPDG−PTX(約1x10DPM)を加える。さらに、約75、100および125mgの器官の試料に、公知の比活性のPDG−PTX(約1x10DPM)を加える。その後、試料を上記の分析法と同様に処理し、シンチレーション反応混液中のPDG−PTXの3重反復と比較する。(約1x10DPM)。計測効率は、器官DPM/標準DPMの比率である。
【0047】
[実施例5]
薬力学の測定による腫瘍へのパクリタキセルの送達の増加
6〜8週齢の4頭の雌性BALB/Cマウスの処理グループをランダムに分け、100μLの培地中の2x10CT−26細胞を右後脚に接種する。腫瘍が約50〜100mm(L2*W)に成長すると、マウスは、「Taxol様」として調剤されたパクリタキセルおよび血清アルブミンと複合体を形成したPDG−PTXとして調剤されたパクリタキセルを4mg/kg当量で処理する。また、PDG−PTXの用量を増加させて試験し、Taxol様として調剤されたパクリタキセルより高いと予測される最大耐容線量(MTD)を測定する。3回用量の製剤でマウスを処理し、毎日腫瘍のサイズをノギスで測定する。腫瘍がIACUC基準(IACUC standards)で大きすぎると実験は終了し、マウスを屠殺する。
【0048】
[実施例6]
負電荷を有する結合体のアルブミンに対する結合親和性の向上
アルブミンへの脂質親和性は、関心のある脂質と代用薬として働く蛍光団であるフルオレセインアミンとの間に短いポリエチレングリコールリンカーを合成することにより試験する。その後、脂質−フルオレセインアミン結合体を血清アルブミンのPBS溶液に滴定し、相互作用の熱を等温滴定熱量計を用いて測定する。これから、生じている関連のエンタルピーが算出され、続いて結合親和性を計算することができる。
【0049】
[実施例7]
PTXのα−カルボキシメチルステアリン酸結合体の合成
PTXのα−カルボキシメチルステアリン酸結合体の合成は、以前報告され一般的に使用されている、無水コハク酸を用いた合成に基づく。(Thierry B、Kujawa P、Tkaczyk Cら、2005年:PMID 15700982)。100mg量のパクリタキセル(0.117mmol)を秤量し、乾式反応の容器に添加した。これに、76mgのヘキサデシル無水コハク酸(0.234mmol)を添加した。固形物を、1.4mgの4−(ジメチルアミノ)ピリジン(0.012mmol)を含む1.2mLの乾燥ピリジンに溶解させた。反応容器を閉じ、窒素でパージし、室温で48時間撹拌した。100%酢酸エチルでのTLCによって、パクリタキセルの消失が新しい生成物の出現で平衡状態に達することが確認された。生成物は、液体クロマトグラフィーによって7:3:1の石油エーテル:酢酸エチル:酢酸で溶出することにより精製した。この溶媒系を用いると、生成物のRはTLCで0.5である。純生成物は白色固形物(72mg、収率52%)として得られた;1H NMR 300MHz (CDCl3) δ 8.12 (2H, d), 7.75 (2H, t), 7.60 (1H, q), 7.54-7.26 (8H, m), 6.27 (1H, s), 6.17 (1H, t), 5.95 (1H, m), 5.67 (1H, d), 5.50 (1H, m), 4.94 (1H, d), 4.41 (1H, m), 4.83 および 4.16 (2H, dd), 3.77 (1H, d), 2.90-1.98 (8H, m), 2.20 (4H, d), 1.98-1.72 (4H, m), 1.72-1.62 (2H, s), 1.62-1.38 (2H, dm) 1.34-0.96 (25H, br m), 0.88 (3H, t).質量分析LC/MSDトラップSL;(M+H)=1178.8、強度0.9x10;(M+Na)=1201.1、強度4.7x10
【0050】
[実施例8]
PTXのα−カルボキシメチルステアリン酸結合体の溶解度/アルブミン親和性
溶解度特性を作成するために、40%脱脂ウシ血清アルブミン溶液を作り、25℃と37℃でPTXのα−カルボキシメチルステアリン酸結合体で飽和させる。沈殿物をろ過し、吸光度をPBSとアルブミンの吸光度を引いて227nmで読み取る。40%溶液を20%、10%、5%および2.5%に連続希釈し、各工程でろ過する。各温度で各溶液において吸光度を読み取りプロットする。結合体の標準曲線によって、結合が吸光度に影響しないことが示された。この反応では2つの構造異性体が生成される。1つの生成物は、パクリタキセルがカルボン酸に対してβ炭素でエステル化される炭素数19の脂肪酸である。別の生成物は、分岐が脂肪酸のα位で生じる炭素数18の脂肪酸である(図4)。このα生成物の方がアルブミンとわずかに優れた親和性で結合すると考えられる。なぜなら主鎖から外れた余分な炭素によってパクリタキセルがポケットから出たままになるためである。立体的に、アシル鎖に隣接したカルボキシル炭素での立体障害により、α生成物が主要生成物であると考えられる。両方の生成物を液体クロマトグラフィーを用いて分離し、各成分を別々に検査する。
【0051】
アルブミン親和性を測定するにはいくつかの方法がある。アルブミンの40%PBS溶液を調製し、様々な量の結合体PBS溶液をマイクロダイアリシスのチャンバの2つのウェルに添加する。37℃での平衡後、アルブミンのないチャンバの結果をUV吸収によって読み取ることができる。その後、結合および非結合のフラクションを計算することができ、スキャッチャード解析を用いてデータを分析した。(Cho、Mitchellら、1971年)。あるいは、溶解性が許せば、microcal VP−ITC熱量計を用いて結合親和性を直接測定することができる。この技術の有効性はアルブミンに対する脂肪酸の親和性を測定する際に既に実証されている。(Fang、Tong、Means 2006年 PMID:16413837)。
【0052】
[実施例9]
PTXのα−カルボキシメチルステアリン酸結合体の薬物動態研究
結合体の薬物動態研究は、Sigma−Aldrich(製品番号:P1598)製の14C−パクリタキセルなどの定量化用タグを使用する必要がある。最初に、マウスの横腹に接種し、腫瘍を約100mmに成長させる。この地点で、Abraxane(登録商標)第I相臨床試験と比較して、パクリタキセルに関して4.2mg/kgの1回量をアルブミンとの複合体として投与する。(Desai 2001年)。好ましくは、試料は少なくとも10dpm有するため、それらはバックグラウンドよりもおよそ1000倍高い。血液試料は、注入0.5、2、12、24、48および72時間後に採取する。パクリタキセル濃度は直接液体シンチレーション測定によって定量する(PalmaおよびCho 2007年)。薬物動態学の解析はAbraxane(登録商標)と同様にノンコンパートメントモデルを用いて行う(Desai 2001年)。体内分布を検討するために、肝臓、肺、心臓、脾臓および腫瘍をホモジナイズし、それらのPTX含有量を分析する。
【0053】
処理の影響を観察するために、マウスの横腹に再度B16F10細胞を接種し、腫瘍を約100mmに進行させる。この地点で、パクリタキセルに関して4.2mg/kgの1回量を、アルブミンとの複合体として投与する。腫瘍のサイズを2〜3日ごとに観察する。対照マウスは、PBS中のアルブミンのみを受ける。(PalmaおよびCho、2007年)。
【0054】
FcRn再利用が結合体とアルブミンの結合に影響するかどうかを試験するために、文献で示されたように可溶性FcRnを作成することができる。(Gastinel Simister Bjorkman 1992年 PMID:1530991;Chaudhury、Brooksら、PMID:16605266)。この可溶性FcRnはエンドソームのpHが約5でアルブミンと結合する。したがって、結合体が結合した状態であるかどうかを判断するために、結合体の新たなKを、pH5でshFcRn存在下で測定することができる。対照として、shFcRnなしでpH5で同様に結合させるべきである。
【0055】
本出願で引用された文献で引用または参照されたすべての文献、本明細書中で引用または参照されたすべての文献(「本明細書中の引用文献」)、本明細書中で引用された文献で引用または参照されたすべての文献、さらに本明細書中で言及されるか本明細書中に参照により組み込まれた文献におけるあらゆる製品のいかなる製造業者の指示、説明、製品仕様書および製品説明書も、参照により本明細書中に組み込まれ、本発明の実施で使用することができる。
【0056】
このように詳細に記載された本発明の好ましい実施形態によって、上記のパラグラフに定義された本発明が、本発明の精神または範囲から逸脱することなくその多くの明らかな変形が可能なように、上記の説明に記載された特定の詳細に限定されるものではないことが理解されるべきである。
【0057】
[参考文献一覧]
【表1A】

【表1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長鎖脂肪酸および薬物を備える結合体の組成物であって、前記結合体が前記脂肪酸からの少なくとも1つの遊離カルボン酸またはカルボキシレート基を有する、組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸がジカルボン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸が無水物から誘導される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記薬物が、低分子量有機化合物、(ポリ)ペプチドまたはオリゴヌクレオチド類である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸が、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、および炭素数が8〜20の1つの長鎖アルキル鎖を含むそれらの単純な誘導体、クエン酸、トリカルボン酸およびその誘導体、β−メチルトリカルボン酸、および1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、環式ジカルボン酸、ショウノウ酸および環式1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、無機酸を含む混合二価酸または多価酸、およびリン酸化N−アセチルチロシンからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸がグルタル酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸が3−ペンタデシルグルタル酸無水物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルキル鎖がC10〜25アルキル鎖である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記アルキル鎖がC12〜20アルキル鎖である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記アルキル鎖がC14〜16アルキル鎖である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記薬物が求核基を含むか、求核基を含むように修飾することができる、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記薬物がPTX(パクリタキセル)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の長鎖脂肪酸の結合体を調製する方法であって、前記薬物を前記長鎖脂肪酸と接触させることにより前記結合体を調製することを含む方法。
【請求項14】
請求項1に記載の長鎖脂肪酸−薬物の結合体を、前記結合体が可溶化される媒体と接触させることを含む、薬物を可溶化する方法。
【請求項15】
前記媒体が血清またはアルブミンを含有する水溶液である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記薬物単独と比較して前記結合体の溶解性が100倍増加している、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
次式
【化1】

(式中、R’は置換または非置換のC10〜25アルキルまたはC10〜25アルキルエニルである)
の構造を有する化合物。
【請求項18】
R’がC12〜20アルキルである、請求項17に記載の化合物。
【請求項19】
R’がC14〜16アルキルである、請求項17に記載の化合物。
【請求項20】
3−ペンタデシルグルタル酸無水物である、請求項17に記載の化合物。
【請求項21】
薬学的に許容される賦形剤または希釈剤をさらに備える、請求項1に記載の組成物。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−516471(P2013−516471A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548089(P2012−548089)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2011/020221
【国際公開番号】WO2011/085000
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(500093834)ザ・ユニヴァーシティ・オヴ・ノース・キャロライナ・アト・チャペル・ヒル (14)
【Fターム(参考)】