説明

薬物の長期送達のための埋め込み型装置

水に難溶性の薬物の持続的送達のための装置が記載される。該装置内のリザーバーは、作動中、賦形剤の懸濁液と混合された上記薬物の水性懸濁液を含み、1つの実施態様においては、該賦形剤は、持続的な期間、酸性基を生成し、上記水性懸濁液中の所望のpHを保持して、次に上記薬物の可溶性形態の一定の濃度を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、2009年3月12日に出願され、その全体が参考文献として本明細書中に援用されている、米国仮特許出願第61/159,742号の利益を請求するものである。
【0002】
技術分野
本明細書に記載された主題は、薬物送達、及び特に、長期にわたって一定速度で治療剤を送達するために設計された埋め込み型の薬物送達装置に関する。
【背景技術】
【0003】
さまざまな治療剤のために、最大数ヶ月の持続期間にわたって実質的に一定の速度で、対象の皮下に埋め込まれた装置から血流中に活性医薬成分(剤又は薬物など)を送達することが望ましい。選択された薬物のためには、この送達パターンは、患者に実質的な臨床的利益を提供し、かつ、まだ満たされていない重要な医学的ニーズに取り組むことができる。
【0004】
一般的に、このタイプの有効な長期の薬物送達装置を実施するにあたって克服されなければならない2つの課題がある。第一に、埋め込まれた装置によって送達される薬物の量は、所望の治療効果を提供するのに十分であり、かつ、時間の経過とともに実質的に一定でなければならない;すなわち、用量の急増又は治療用量未満が送達される期間がなく、治療される個人が特定の期間にわたって実質的に一定の治療用量を受容するように、放出プロフィールがゼロ次速度過程に近いものでなければならない。第二に、装置は、選択された解剖学的部位への埋め込みに適したサイズ及び形状を有し、長期間、例えば1〜6ヶ月、にわたって治療用量の化合物を放出するのに十分な量の薬物を入れておくことが可能でなければならない。例えば、皮下部位への埋め込みを目的とする装置は、皮下スペースの限られた深さに適合し、かつ、埋め込み部位上部の皮膚に不適当に大きな隆起を作らないように、細長い形状で約5〜6mm未満の断面の深さを有することが好ましい。好ましくは装置は、通常の動きにより、特に通常の動きの間に組織平面に対して装置が屈曲し、皮膚表面を装置が切り裂いてしまうかもしれない装置の端部において、該装置が周囲の組織を損傷しないように、全体の長さが約50mm未満であることが必要である。これらの制約により、皮下に埋め込まれる装置の薬物リザーバーの実際の最大体積は、装置壁に囲まれた体積の実質的にすべてが薬物リザーバーとして機能することができると仮定して、一般的に500マイクロリッター(μL)の範囲内であると考えられる。
【0005】
皮下埋め込み型装置の好ましい形状は円筒形である。円筒形の装置は、埋め込み用具又は装置の外径よりもわずかに大きな内径を有する、開口の先の尖ったカニューレであるトロカール中に該装置を置くことによって埋め込まれることができる。該装置を装填されたトロカールは、小さな切開部を通して挿入され、入り口点から遠位にむかって皮膚の下を進められる。該装置は、トロカールのシャフトを機械的に引っ込めること又はトロカールシャフトの反対の端部を通したロッド又はプランジャーを用いて装置の端部に圧力をかけている間にトロカールを除去し、装置を皮膚の下の正しい位置に残すことによって、位置づけられる。
【0006】
当該技術分野では、埋め込み型薬物送達装置が記載される。例えば、埋め込み型浸透圧ポンプが知られている(例えば、米国特許第5,728,396号)。これらの薬物送達ポンプは、浸透圧エンジンが利用可能な内部体積の50%をも占めるため、治療的速度での水溶性の低い薬物の長期の送達に十分な内部体積を有さない。これらの薬物送達ポンプはまた、リザーバー内の溶液中に保持された薬物の沈殿によって出口の目詰まりをおこす傾向があり、これは、急速な停止、装置破裂及び/又は用量ダンピングの可能性をもたらしうる。
【0007】
関連技術の上記例及びそれに関連した制限は、例示的であって排他的なものではないことを目的とする。関連技術の他の制限は、明細書を読むこと及び図面を検討することによって当業者に明らかとなるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
概要
以下の側面、及び以下に記載されそして例解されたその実施態様は、例示的かつ説明のためであり、範囲を限定することを意味しない。
【0009】
1つの側面においては、薬物送達装置が提供される。該装置は、リザーバーを定める非浸食性で無孔性のハウジング部材を含み、該ハウジング部材は第一及び第二の対向する端部を有する。多孔質の隔壁がハウジング部材の第一の端部に配置され、リザーバー内には難溶性の薬物及び溶解度調整賦形剤を含む薬物製剤が含まれている。溶解度調整賦形剤は、薬物製剤が水和している場合に、可溶性の薬物が隔壁を横切って装置の外に拡散するにつれて1ヶ月超の期間にわたって装置からの薬物の治療用量の放出を提供するのに十分な薬物濃度を水性懸濁液中に提供するために有効である。
【0010】
1つの実施態様においては、該ハウジング部材は、非透水性である。
【0011】
他の実施態様においては、該ハウジング部材は、金属である。
【0012】
1つの実施態様においては、多孔質の隔壁は、多孔質ポリマー膜、焼結金属膜、及びセラミック膜から選ばれる。1つの実施態様においては、溶解度調整賦形剤は、生物適合性かつ生物浸食性のポリマーである。例示的な実施態様においては、該ポリマーは、ポリラクチド、ポリグリコリド、それらのコポリマー及びポリエチレングリコールから選ばれる。好ましい実施態様においては、該ポリマーは、ポリ乳酸及びポリグリコール酸モノマー単位のコポリマーであり、ここで、ポリ乳酸含量は約50%〜100%である。
【0013】
1つの実施態様においては、薬物は神経弛緩薬である。例示的な実施態様においては、該神経弛緩薬は、リスペリドン、9−ヒドロキシリスペリドン又は医薬として許容可能なその塩である。他の実施態様においては、神経弛緩薬は、オランザピン、パリペリドン、アセナピン、ハロペリドール若しくはアリピプラゾール又は医薬として許容可能なその塩である。
【0014】
1つの実施態様においては、リザーバー中に充填される神経弛緩薬の総量は、100mg超である。
【0015】
さらに他の実施態様においては、薬物はブプレノルフィンである。
【0016】
さらに他の実施態様においては、薬物は100mg/mL超の総量で可溶性及び不溶性形態で存在する。
【0017】
1つの実施態様においては、薬物の可溶性画分は、総量の1%未満である。
【0018】
他の側面においては、難溶性の薬物を水性懸濁液から使用環境中へ送達する方法が提供される。該方法は、治療量の薬物の使用環境中への放出を少なくとも30日間維持するために、水性懸濁液中の可溶性形態の薬物濃度を実質的に一定に保持するために有効な賦形剤とともに薬物を製剤化することを含む。
【0019】
他の側面においては、患者の治療方法が提供される。該方法は、本明細書に記載の装置を提供し、そして該装置を患者に埋め込むことを含む。1つの実施態様においては、該方法は、精神異常に罹った患者の治療方法であり、ここで、薬物は神経弛緩薬であり、1〜6ヶ月間、実質的に一定の放出速度で送達される。1つの実施態様においては、装置は皮下に埋め込まれる。
【0020】
他の側面においては、対象の埋め込み部位における実質的に一定の放出速度での約1〜6ヶ月の選択された期間にわたる治療剤の放出に使用される埋め込み型装置が提供される。該装置は、作動状態で、内部チャンバーを定める、非浸食性で無孔性の材料で形成されたハウジング;該ハウジングの端部に取り付けられた隔壁、ここで、該隔壁は、不溶性形態ではなく可溶性形態の治療剤がチャンバーから外部媒体中に拡散することを可能とする複数の孔を含み、及びチャンバーが水和されていて作動状態の場合、チャンバー内に収容されている可溶性の剤の形態及び不溶性の剤の形態を有する水溶性の低い治療剤及び溶解度調整賦形剤の混合物を含む、水性懸濁液を含む。チャンバー内及び使用環境中の可溶性の形態の剤の濃度勾配によって可溶性の形態の剤が隔壁を横切って装置から外へ拡散するにつれて、該溶解度調整賦形剤は、選択された期間にわたって薬物の治療用量を提供するのに十分な可溶性の形態の剤の濃度を作り出すために作用する。
【0021】
1つの実施態様においては、該装置は円筒形の形状であり、その外部表面はくぼみ、突起部又は孔を有さない。円筒の1つ又は両方の端部に、多孔質の隔壁が取り付けられており、そして、該装置の全外部表面積は7cm2未満である。
【0022】
他の側面においては、対象の埋め込み部位における実質的に一定の放出速度での約1〜6ヶ月の選択された期間にわたる治療剤の放出において使用されるための埋め込み型装置が提供される。該装置は、ハウジング部材によって定められた内部リザーバー及び該リザーバー内に含まれる治療剤を含む。該装置はまた、リザーバーを外部媒体から分離している隔壁を含み、該隔壁は不溶性形態ではなく可溶性形態の治療剤がリザーバーから外部媒体中へ拡散することを可能とする複数の孔を含み、ここで、1つの実施態様において該孔はチャンバーの総表面の約1.7cm2未満を占める。リザーバーが水和されて作動状態のとき、該リザーバー内には、治療剤及び溶解度調整賦形剤の混合物を含む水性懸濁液が含まれている。治療剤は、懸濁液の水相中の剤の濃度が該剤の治療用量の外向きの流れを推進するには不十分であるような水溶解度を中性のpHにおいて有する。該賦形剤は、隔壁を横切る可溶性の剤の濃度勾配によって、可溶性の剤が隔壁を横切って装置から外へ拡散するときに、選択された期間にわたって治療用量を提供するのに十分な可溶性の形態の剤の濃度を作り出すために作用する。
【0023】
1つの実施態様においては、剤の水溶解度の平衡を制御するために、上記懸濁液のpHが、2.5〜6.8の範囲内であるように調節される。
【0024】
他の実施態様においては、該溶解度調整剤は、上記装置の目的の作動期間に対応する速度で浸食するように選ばれるポリマー混合物である。1つの実施態様においては、ポリマーは、浸食して、装置作動の目標期間の間、連続的に乳酸及びグリコール酸を生成するような粒子サイズ、分子量、酸性末端基濃度、モノマー比、固有の粘度及び/又は多孔性を有する、ポリラクチド/ポリグリコリドコポリマー粒子である。
【0025】
図面を参照し、そして以下の記載を検討することによって、上記の例示的側面及び実施態様に加えて、さらなる側面及び実施態様が明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、剤の放出反応速度論(時間の経過に伴う速度と反応次数)及び濃度勾配の維持の間の理論的関係をグラフで表したものである。流動速度及び剤の溶解速度のバランスをとることによって、内部リザーバー中で剤の濃度はおよそ一定に維持される。
【図2】図2は、本明細書に記載の原理による操作のために製造された埋め込み型薬物送達装置の1つの実施態様を図示したものである。
【図3A−3B】図3A−3Bは、埋め込み型装置の他の実施態様を、装置の分解図(図3A)及び組み立て図で図示したものである。
【図4A−4B】図4A−4Bは、埋め込み型装置の他の実施態様を、装置の分解図(図4A)及び組み立て図(図4B)で、そして、装置の1つの又は両方の端部に多孔質隔壁を挿入する方法を図示したものである。
【図5A−5B】図5A−5Bは、本明細書中の教示による埋め込み型装置の他の実施態様を図示したものであり、該装置は分解図(図5A)及び組み立て図(図5B)で示される。
【図6】図6は、pHとリスペリドン塩基の水溶解度のおおよその関係を図示する投影図である。
【図7A−7B】図7A−7Bは、インビトロでの、薬物製剤を使用環境から分離している多孔質隔壁を有する装置からのmgで表したリスペリドンの累積的放出(図7A)及びmg/日で表したリスペリドンの放出速度(図7B)を、日で表した時間の関数として示すグラフであり、該装置中の多孔質隔壁は、100KD(三角)又は3KD(四角)の分子量カットオフ(MWCO)を有するか、又は0.45μmのフッ化ポリビニリデンメンブレンフィルター(Durapore(登録商標);丸)であった。
【図8】図8は、該装置中のリスペリドンの総量のパーセントとしてのリスペリドンの累積的放出を日で表した時間の関数として示すグラフであり、ここで、装置中のリスペリドンは、5mg(菱形)、10mg(四角)又は15mg(三角)のポリ乳酸/ポリグリコール酸(PLGA)を含む水溶液であった。
【図9】図9は、mg/日で表したリスペリドン放出速度と装置に充填した水性薬物懸濁液に添加した溶解度調整剤(85:15 PLGA)の量(5mg、10mg、15mg)の間の用量応答関係を示す棒グラフである。
【図10】図10は、本明細書の教示による2つの装置についての、日で表した時間の関数としてのmg/日で表したリスペリドン放出速度のグラフであり、ここで、1つの装置は、装置に充填された薬物懸濁液中の2つの溶解度調整剤(50:50 PLGA及び85:15 PLGA)の混合物を含み(黒丸)、他の装置は、溶解度調整剤を含まない薬物懸濁液で満たされた(白丸)。
【図11】図11は、日で表した時間の関数としてのmg/日で表したリスペリドン放出速度のグラフであり、ここで、一連の曲線は、異なる乳酸:グリコール酸比を有する溶解度調整剤PLGAの、インビトロでのリスペリドンの放出に対する影響を図解する。
【図12A】図12Aは、両端部に多孔質隔壁が取り付けられ、溶解補助賦形剤(四角)を含むか又は賦形剤を含まない(三角)リスペリドンの水性懸濁液で満たされた2つの群(n=3)の送達装置についての、日で表した時間の関数としてのmg/日で表したインビトロでの放出速度のグラフである。
【図12B】図12Bは、図12Aの装置のラットへの皮下埋め込み後の日で表した時間の関数としての、ng/mLで表したリスペリドン及びその活性代謝物(9−ヒドロキシリスペリドン)のインビボ血漿濃度を示すグラフであり、ここで、薬物製剤は、溶解度調整剤を含む(四角)か又は含まかった(三角)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.定義
「水性懸濁液」という用語は、実質的に水である液体溶液中に分散されている固体材料を意味する。
【0028】
「治療剤」、「薬物」、「活性医薬成分」又は「API」という用語は、病気又は障害の治療において使用されるか、或いは病気又は障害に伴う症状を治療又は緩和するための生物学的又は化学的作用物質を意味する。
【0029】
「シリコンナノポアメンブレン」という用語は、マイクロエレクトロニクス産業界から借りたマイクロマシニング技術を用いるなどして製造された膜を意味する。
【0030】
「沈殿物」又は「不溶性形態」という用語は、溶液から分離する固体物質を意味する。
【0031】
治療剤は、室温で測定されたその水中での平衡溶解度が約1×10-3M未満である場合、「比較的水に不溶性」又は「水に難溶性」である。
【0032】
「溶解度調整剤」という用語は、薬物懸濁液製剤に添加される賦形剤であって、薬物の水溶解度を増加させる作用をするものを意味する。
【0033】
「実質的なゼロ次反応速度論」という用語は、薬物送達装置において提供される治療剤の用量の医学的に許容可能なパーセンテージにわたって、該剤の放出速度がおよそ一定であることを意味する。
【0034】
II.薬物送達装置
第一の側面においては、治療剤を使用環境中へ放出するために使用される装置が提供される。該治療剤は、水に難溶性のものであることが好ましい。以下に記載の理由により、該装置は、長期間にわたって薬物を実質的に一定の放出速度で提供することができる。該装置は、中性のpHでは水に難溶性であるが、酸性のpHにおいてはより水溶性となる剤の送達に特によく適している。該装置はまた、わずかに水溶性であるがその治療用量の外への流れを推進するのに十分な濃度勾配を生成しない剤の送達も可能とする。該装置は、皮下埋め込み及び外移植に適したサイズ、形状及び表面特性のものである。該装置は、多孔質隔壁によって使用環境中の外部媒体から分離された内部チャンバーを含み、装置の使用中、該チャンバー内には酸性の同等物を生成する賦形剤と混合された薬物の水性懸濁液が含まれる。これらの酸性部分の出現はリザーバー内のpHを低下させ、そして次には、薬物の溶解度を改善するのに有効である。1つの一般的実施態様においては、賦形剤は分解性ポリマーであり、該ポリマーの連続的な加水分解は、上記の長期間の大部分にわたってチャンバー内の剤の溶液濃度を一定に維持することによって、剤の実質的に一定の放出速度を提供し、そしてしたがって、目的の装置作動期間にわたって治療的レベルの剤を提供する速度での多孔質隔壁を横切る剤の外への拡散を生じさせるのに十分な濃度勾配をチャンバーと外部媒体の間に提供する。
【0035】
図1は、薬物送達装置中に充填された(可溶性及び不溶性形態の両方を含む)薬物全体のパーセント間の関係を、時間の関数として図示する。示されるように、濃度勾配が維持される限り、アウトプット速度は一定(すなわち、ゼロ次)である。図1中の挿入部分は、拡散に関するFickの法則を表しており、流束(すなわち、剤の外への動き)が剤の濃度に直接比例することを示している。
【0036】
A. 薬物送達装置の構成要素及び組み立て
図2〜5を見ると、薬物の長期間の連続的送達のための埋め込み型薬物送達装置のいくつかの例示的実施態様が図示される。最初に図2を参照すると、皮膚の下又は腹腔内などの対象の解剖学的区画内の埋め込みを目的とする装置10が図示される。該装置は、内部コンパートメント又はリザーバー14を定めるハウジング部材12を含む。該リザーバー内には、以下に記載する薬物製剤が含まれる。ハウジング部材12は、第1及び第2の端部、16及び18を有する。図2に図示される装置の実施態様において、第1の端部16は、流体密封性のエンドキャップ20で密封されている。対向する第2の端部18には、多孔質隔壁22が取り付けられている。多孔質隔壁がハウジング部材の一つ又は両方の端部に配置されうることは評価されるであろう。本明細書中で使用される、「多孔質膜」及び「多孔質隔壁」という用語は、マイクロメーター(μm)範囲、好ましくは0.1〜100μm範囲の孔を複数有する構造部材を意味する。すなわち、多孔質隔壁は、リザーバー内に含まれる薬物製剤からの可溶性形態の薬物の通過を許容する。多孔質隔壁はまた、以下において検討する可溶性形態にある薬物製剤の一部である溶解度調整賦形剤の通過も許容することができる。好ましい実施態様における多孔質隔壁は、薬物及び/又は溶解度調整賦形剤をそれらの不溶性形態で保持する。すなわち、不溶性形態にある薬物及び/又は溶解度調整賦形剤は、好ましくは、多孔質隔壁の孔を通過しない。
【0037】
ハウジング部材12は、生物適合性材料から形成されることが好ましく、そして、当業者は、チタニウムなどの金属及びポリマーを含むがこれらに限定されない、好適な材料を容易に特定するであろう。ハウジング部材12の好ましい形状は円筒形である。しかしながら、当業者は、別の幾何学的形態も好適でありうることを理解し、これらの形態が考慮される。1つの実施態様においては、円筒形のハウジング部材の管状部分は、無孔性の滑らかな及び/又は液体不透過性の外部表面を有する。ハウジング部材12の管状部分は、例えばチタニウムで形成され、そしてその外部表面が仕上げされている、すなわち、使用環境25に接触している装置10の表面がサテン、鏡面又は他の研磨を施されている。装置の安全で医学的に複雑でない使用及び取り外しを確実にするために、その外部表面が滑らかで、くぼみ、突起部及び孔を有さないことが好ましい。起伏のある又は多孔質の表面は、埋め込み期間の間に組織反応を引き起こす傾向にあるかも知れず;成長中の組織、装置の表面上の突起部又は孔へのマトリックス成分又は細胞過程又は偽足の結合又は接着は、取り外しを複雑にし、そして、取り外しによって成長中の組織を引き裂いてその部位に外傷を引き起こしさえするかもしれない。一方、成長中の組織への刺激がわずかであるか又は全くない、表面が滑らかな円筒形の装置は、単純に、埋め込みの間に作られた切開部を再び開き、そして皮膚を通して指で装置の遠位端部を押して、装置が切開部から現れるようにさせることによって埋め込み部位から容易に取り外される。したがって、1つの実施態様においては、ハウジング部材は、無孔性であり、他の実施態様においては、非透水性で、非浸食性及び/又は非膨潤性である。
【0038】
装置のリザーバー内に入れられた薬物製剤14は、溶解度調整賦形剤24を可溶性形態、不溶性形態又は可溶性形態と不溶性形態の混合物として含むことができる連続的水性相26の形態であることが好ましい。薬物製剤は、その例が以下に示される活性成分又は薬物を連続的水性相内に含む。薬物は、粒子28により表されるような不溶性形態及び30により表されるような可溶性形態の両方で存在する。矢印32により示されるように、リザーバー内に入れられた薬物製剤内の薬物の可溶性及び不溶性形態の間には平衡が確立されている。可溶性及び不溶性形態で存在する薬物の相対的質量は、溶解度調整賦形剤を含みうる連続的水性相中のその固有の溶解度、pH及び温度に依存する。
【0039】
上記のとおり、装置10は、対象の解剖学的部位中に埋め込まれることを目的とし、そして皮下部位に埋め込まれることが好ましい。埋め込みに続いて、外部媒体25中の薬物の濃度が、装置周囲の間質液の持続的な動きによって常に事実上ゼロに維持される。作動中、リザーバーと外部媒体内の薬物又は剤の可溶性形態の間に濃度勾配が確立される。勾配は、剤の可溶性形態がリザーバーから多孔質隔壁を通って外部媒体中へ拡散することを推進する役割を果たす。リザーバー内の一般的に35において示される不溶性画分と一般的に37において示される剤の可溶性画分、及び外部媒体に入りそして直ちに全身循環中へ洗い流される39において示される放出された画分の間に平衡が確立される。濃度勾配の影響下で剤の可溶性形態が多孔質隔壁を通って装置のリザーバーから外部媒体中へ移動するにつれて、装置のリザーバー中に含まれる製剤中の不溶性の剤は、溶解し、放出されたものに置き換わる。このやり方で、一定の濃度勾配が維持され、そして、剤の一定の外への流れがFickの法則にしたがって維持される。
【0040】
質量/単位時間で表した、膜を通過する分子の拡散フラックス、Jは、Fickの法則によって以下のように定義される:
【0041】
【数1】

【0042】
有効膜面積はさらに以下のとおり示される:
【数2】

【0043】
一定温度で、かつ典型的なタイプの多孔質隔壁(本明細書においては、微多孔膜とも呼ばれる)については、式(1)中のDeffは通常、拡散分子の分子量のみの関数であり、一般に、Deffは分子量が増加するとともに減少する。したがって、式(1)は、インビボでそうであろうように(シンクコンディション)、C0がおよそゼロである埋め込み適用については、可溶性薬物濃度が一定に近ければ、膜が特定の選択された特性(例えば、厚さ及び孔隙率)を有する埋め込み型薬物送達装置からの一定に近い薬物拡散速度を提供することを示している。
【0044】
送達装置中では、薬物リザーバー内で剤の水溶性形態及び不溶性形態の間の化学的平衡が確立されている。リザーバーを外部媒体から分離している多孔質隔壁は、比較的薄く(0.02〜0.2cm)、非常に多孔質であり、好ましくは親水性である。作動中、孔は毛管作用によって水性媒体で満たされ;したがって、孔はリザーバー内に保持された剤の可溶性画分のために拡散プロセスによる外部環境への通過経路を提供する。リザーバー内に保持された不溶性薬物粒子の通過を防ぐのに、孔は十分に小さい。実際には、外部媒体は間質液である。したがって、埋め込み後、隔壁を横切って濃度勾配が確立され;間質液中の剤の濃度は事実上ゼロであるが、リザーバー内の剤の濃度は懸濁液の内部水性相内の剤の溶解度に等しい。薬物の流束は、拡散に関するFickの第二法則にしたがって隔壁の表面積(孔隙率)と内部水性媒体内の剤の平衡溶解度のバランスをとることによって制御され、ここで、mg/日で表される所望のアウトプット速度(J)は以下のように定義される:
【0045】
【数3】

【0046】
チャンバー内の剤の平衡水中濃度(Ci)は、以下の式による所望のアウトプット速度を達成するために調節される:
【0047】
【数4】

【0048】
上記のとおり、装置のリザーバーは、薬物の水性懸濁液を含む。リザーバー内の水性懸濁液は、水を自由に通すことのできる多孔質隔壁によって使用の外部環境から分離される。好ましいインビボコンパートメント、間質コンパートメント中に置かれた場合、リザーバー内のキャリア流体は、多孔質隔壁の孔を通して(皮下スペースを通って流れる)間質液と直接連通する。間質液は、本質的に、血液の限外ろ過液であり、赤血球などの有形成分を除いて、血液中に存在するのと同じイオン、緩衝物質及びタンパク質の約70%を含む。血液に類似して、間質液のpHは約7.4に正確に調節されている。間質液は、持続的に皮下スペースを通って移動する。キャリア流体自体を含む、本明細書に記載されたもののような多孔質隔壁を組み込んだ装置のリザーバー内に保持されたすべての可溶性成分は、隔壁を横切って両方向に自由に拡散する。間質液とリザーバーの可溶性成分の間のイオン及び緩衝物質の迅速な平衡化は、埋め込みに続いて迅速に起こる。この理由により、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はエタノールなどの水混和性溶媒はキャリア流体としての用途に好ましくなく;かかる溶媒は装置の外へ拡散し、間質液の流入によって置き換わられる。リザーバー内でのかかる溶媒キャリアと水性間質液の交換は、充填された剤の溶解度を変化させ、その放出速度に悪影響を及ぼし、したがって、かかる水混和性溶媒は適切でない。水ベースのキャリア流体が使用される場合、その最初の組成及びpHにかかわらず、すべての可溶性種と間質液のそれとの平衡化は、埋め込み後の数時間以内に起こる。したがって、1つの実施態様においては、装置のリザーバーは、有機溶媒を含まないか又は水混和性の有機溶媒を含まない。他の実施態様においては、装置のリザーバー及び装置自体は、浸透圧ポンプ又はエンジンを含まない。
【0049】
図3〜5はさらに、その組み立てを検討することによって埋め込み型装置を図解する。図3Aは、分解した断面図において埋め込み型薬物送達装置50を図解する。ハウジング部材52は、外部表面56及び内部表面58を有する壁54を有する。ハウジング部材52は、中空であり、内部コンパートメント60を定める。例示的なハウジング部材は、チタニウム合金製の管であり、これは、固体チタニウム合金材料を圧延/旋盤加工することによって作りだされる。1つの実施態様において、ロッドの外径(OD)は、約4.3mmであり、そして長さは約35mmである。内部リザーバーは、各ロッドの中心からの穴あけ/圧延によって形成される。図3Aに図示された装置のためには、ハウジング部材の第一の端部62は開口しており、そして開口端部を通って追加の装置部品がその中へ挿入されることを許容する適切な大きさとされる。図3Aにおいて見られるように、第一の端部62は、ハウジング部材52の主要部分62bの外径よりも小さい外径を有する第一の部分62aを含む。リップ(lip)部又は移行部68は、第一の部分62aと主要部分62bをスムーズに連結する。
【0050】
続けて図3Aを参照すると、第二の端部64は、内壁から内側に向かって伸長し、縁部保持(rim retaining)セクションと呼ばれる環状の縁部66を有する。縁部保持セクションは、例えば、3.4mmの内径(ID)及び百分の数ミリメーターの深さを有する。ハウジング部材は、保持縁部(retention rim)に直接隣接する肩部70も含む。肩部70は、装置を構成するOリング72、74及び多孔質隔壁76などの部品の挿入を可能とするのに十分に広いサイズを有するが、ハウジング部材の第二の端部64中に正しくOリング/多孔質隔壁/Oリングのスタック80(図3Bを参照のこと)を密封するための圧縮リング78を捕捉しそして係合するのに十分小さいサイズを有する。肩部70とリップ部68の間の部分であるハウジング部材の残りの部分のIDは、この実施態様においては、約3〜4.5mmであり、より好ましくは、3.5〜4.0mmであり、そして、3.8mmであることが好ましい。装置の内部容積は、したがって、およそ350〜400マイクロリッターであり、より好ましくは、375〜390マイクロリッターであり、そして、380マイクロリッターであることが好ましい。
【0051】
1つの実施態様においては、多孔質隔壁は、溶解された剤の拡散を可能とするが、不溶性の材料が装置を出ることを防ぐために選択された孔サイズを有する慣用の多孔質膜である。他の実施態様においては、隔壁は、それぞれがその最小の寸法が剤自体の流体力学直径の1.5〜5倍である、平行するチャンネルのアッセイを作り出すシリコンマイクロ加工技術を用いて作られてもよい。チャンネル幅が剤の分子寸法に合わせて適切に調整された場合、かかるナノポアメンブレンは、剤の拡散を抑制することが示されている。或いは、多孔質隔壁は、限外ろ過及び透析への適用において使用されるようなさまざまな慣用の架橋ポリマー膜、或いはポリアクリルアミド、アガロース、アルギン酸などの架橋又は重合化ゲルから選ばれることができる。チタニウム、チタニウム合金又はステンレススチールからなる焼結金属膜又はフリット或いは焼結セラミック膜及び典型的にはインラインフィルターとして使用される金属スクリーンも、多孔質隔壁としての役割を果たすことができる。膜又はゲルの孔サイズ及び/又は分子量カットオフは、膜を横切る剤の拡散を可能とする一方、薬物の不溶性形態を装置リザーバー内に実質的に保持するために選択される。作動中、剤の拡散速度は、膜を横切る剤の濃度勾配(すなわち、チャンバー内及び装置外部の「シンクコンディション」にある剤の可溶性部分の濃度の相違)及び(上記の等式により例示された)隔壁の断面積(孔隙率)により決定されるであろう。1つの実施態様においては、隔壁中に含まれる孔が占める総面積は、約2cm2未満、より好ましくは、約1.7cm2未満である。
【0052】
装置50は、矢印90によって示すように、2つのOリング72、74をOリングにはさまれた多孔質隔壁76とともにリザーバー中に挿入することによって構築される。この実施態様においては、多孔質隔壁は、ステンレススチールメッシュスクリーン又は焼結チタニウムフリットである。Oリングは、Shore Aスケール70のシリコンから作られることが好ましく、0.091インチの内径で0.026インチの横断面寸法であることが好ましい。
【0053】
そして、隔壁の圧縮リング78は、Oリング74の上部に機械的に押し付けられて、Oリング/隔壁/Oリングのスタック80に圧力を加え、そしてハウジング部材の内壁、多孔質隔壁及び保持縁部に対してOリングを封止する。1つの実施態様においては、隔壁リングは、フラットなOリング接触表面を有する環状リングである。Oリングが適切な深さまでハウジング部材中に挿入されると、それはハウジング部材の肩部70に係合し、Oリング/隔壁/Oリングのスタック80と保持縁部との液密シールを形成する。
【0054】
例示的な充填手順を以下に記載するが、リザーバーが所望の薬物製剤で満たされた後、半球形の外部表面94、ハウジング部材の壁と接触して液密シールを形成する圧縮表面96を有するエンドキャップ92が、矢印98により示すように端部62に押し付けられる。図3Bは、その構成部分が埋め込み及び作動のための正しい位置にある装置を図示する。
【0055】
図4A〜4Bは、薬物送達装置の他の実施態様を、分解図(図4A)及び使用のために完全に組み立てられた状態(図4B)で図示する。薬物送達装置100は、内部キャビティ106を定める壁104を有する管状のハウジング102を含む。ハウジング102は、対向する端部106、108を有する。ハウジング102は、第1の外径寸法を対向する端部106、108において有し、第2の外径寸法を対向する端部の間のハウジングの部分において有する。移行領域110、112は、ハウジング102の第1及び第2の外部寸法を連結する。多孔質隔壁114などの多孔質隔壁は、環状縁部115などの環状縁部と、ハウジングの各端部で接触するためにサイズ形成される。各多孔質隔壁は、各端部106、108における第1の外径におよそ等しい外径を有することが好ましい。シーリング部材116などのシーリング部材は、各端部106、108における縁部の周りの各多孔質隔壁に係合するためにサイズ調整される。エンドキャップ118などのエンドキャップは、各端部においてハウジングの外部表面の周囲にしっかりと適合するための寸法とされる。この実施態様においては、各エンドキャップは、キャップ118内の開口部120などの中心開口部を有し、装置外部の使用環境からリザーバー106中への間質液の流入と、リザーバー106から多孔質隔壁を横切り、そして使用環境への可溶性薬物の流出を許容する。図4Bは、ハウジング部材102上の正しい位置に多孔質隔壁、シーリング部材、及びエンドキャップを有する装置を示す。見られるとおり、完全に組み立てられたときに装置全体の外のり寸法が均一であるように、エンドキャップの外径は、対向する端部の間のハウジングの部分における第2の外径寸法に一致するような寸法となっている。
【0056】
図5A〜5Bは、薬物送達装置の他の実施態様を分解図(図5A)及び使用のための完全に組み立てられた状態(図5B)で図解する。装置130は、滑らかで無孔性であり、そして液体不透過性の外部表面134を有する環状の容器132を含む。容器132は、中空であり、その壁は、使用のために組み立てられたときに薬物製剤を入れる内部キャビティ136を定める。環状容器の各端部138、140は、環状容器の中間セクション142よりも小さな外径を有する。フリット144、146などのフリットは、各端部においてリップ部148、150と接触するための寸法となっており、フリット144、146は、端部138、140の外径におよそ等しい直径を有する。フリットは、セラミック、ガラス、又は金属であることができ、そして薬物製剤中の可溶性薬物に対して透過性である。膜152などのポリマー膜は、各フリットに隣接し、そしてフリットと寸法が一致する。ポリマー膜は、使用環境中の可溶化された薬物及び流体に対して透過性である限り、多孔質又は無孔性であることができる。Oリング又は部材154などの類似のシーリング部材は、フリット、膜、及び圧縮キャップ156、158などの圧縮キャップの密封係合状態を提供する。フリットとともに、ポリマー膜及びOリングは装置の各端部においてスタック160のようなスタックを形成し、これは圧縮キャップによって各端部において正しい位置に保持される。各圧縮キャップは、装置のキャビティと使用環境の間の流体連通のための中心開口部を有する。
【0057】
薬物送達装置の内部リザーバーは、薬物製剤で満たされる。製剤は、(治療剤とも呼ばれる)薬物、溶解度調整剤、水性連続相を含む。装置中で使用される治療剤は、好ましくは、水性連続相中、37℃で約1×10-3M〜5×10-3Mの平衡溶解定数を有する小分子量薬物であることができる。好ましい実施態様においては、装置リザーバー中の製剤は、水に難溶性の薬物の水性懸濁液を含む。本明細書中で使用される「難溶性」という用語は、37℃で水中で測定して、中性のpHにおいて、約3mg/mL未満の溶解度、好ましくは中性のpHにおいて、約0.001〜3mg/mL、又は0.025〜3mg/mLの溶解度を有する薬物を意味する。より一般的には、本明細書に記載の装置において使用するための難溶性の薬物は、37℃で中性のpHにおいて約3mg/mL未満の水溶解度を有し、かつ以下で検討するように、pHが低下するにしたがって溶解度が増加する。上記で検討されたように、拡散は装置中の多孔質隔壁を横切って確立された濃度勾配によって推進されるため、生理学的pHにおいて低い水溶解度を有する薬物は薬物の治療用量の放出を提供するのに十分な濃度勾配を達成しない。
【0058】
他の実施態様においては、本明細書に記載の装置とともに使用される薬物は、約3mg/日未満、好ましくは約2.5mg/日未満、そしてさらにより好ましくは約2mg/日又は1.5mg/日未満の治療用量を有する。
【0059】
薬物の非制限的例は、リスペリドン及びオランザピンなどの神経弛緩薬を含む。神経弛緩薬は、統合失調症及び二極性障害などの精神異常の治療のために処方される。神経弛緩薬のための望ましい用量又は放出速度は、約1〜3、1〜4、1〜5又は1〜6ヶ月の期間、0.5〜3mg/日、より好ましくは1〜2mg/日である。例示的な治療剤の他のクラスは、慢性疼痛、オピオイド中毒及びアルコール依存症の治療に使用されるブプレノルフィンなどの低溶解性のアゴニスト−アンタゴニスト混合型オピオイドである。他の難溶性薬物は、パリペリドン、アリピラゾール、アセナピン及びハロペリドールである。これらの薬物、そして特にリスペリドン、オランザピン及びブプレノルフィンは、生理学的pHにおいて、1×10-3M〜5×10-3Mのオーダーの低い水溶解度を有する。
【0060】
多孔質隔壁によって外部媒体から分離された装置リザーバー内の薬物懸濁液のpHを、実質的に任意の所望のレベルまで調整し、そしてリスペリドンなどの薬物の最初の平衡溶解度を調節することが可能である。リスペリドンの場合、pHが6.0まで低下すると溶解度は数倍に増加する。図6に示されるように、リスペリドン懸濁液の内部pHを調整することにより、実際に、pH7.4において0.4mg/mLである水溶解度をpH2.0では約100mg/mLまで高めることが可能である。本明細書に記載の装置については、適切な薬物放出速度が約6.0未満のpHにおいて可能である。しかしながら実際には、埋め込み後、装置のリザーバー内に保持された薬物製剤の水性相と外部間質液の間の(水及び小分子の両方を自由に透過させることのできる)隔壁を横切る緩衝物質の交換が、薬物製剤の内部pHを最初のpHに関わらず急速に7.4に平衡化させる。したがって、薬物製剤はさらに、不溶性の賦形剤であって、装置の作動中に持続的に酸性基を生成し、装置リザーバー内の薬物製剤のpHを効果的に低下させて、少なくとも約1ヶ月、2ヶ月、又は3、4、5、又は6ヶ月の間、治療的なインビボ放出速度を達成するのに必要な外向きの拡散を推進するのに十分な濃度を提供するレベルに、薬物の水溶解度を増加させるpHを維持するための賦形剤を含む。
【0061】
1つの実施態様においては、本明細書中で溶解度調整賦形剤とも呼ばれる不溶性の賦形剤はポリマーである。ポリマーへの言及は、コポリマーを含むことが好ましい。「コポリマー」は、1つ超のポリマー前駆体から形成されるポリマーである。薬物製剤中で使用されるための好ましいポリマーは、好ましい実施態様においては、貧溶媒に溶解可能な溶媒に対して可溶性であって、光開始により重合可能な前駆体から調製されるものである。かかるポリマーの1つのクラスは、分解性、好ましくは生物分解性のものを含む。ポリマーの他のクラスは、ポリ乳酸を含む。好ましい実施態様においては、ポリマーは分解性又は浸食性である。分解性又は浸食性のポリマーは、時間及び水性媒体への曝露を含むなんらかの刺激への曝露により分解するものである。分解性又は浸食性のポリマーは、生物分解性ポリマーを含む。生物分解性ポリマーは、生体系中、又は水性媒体などの生体系中に存在する条件下で分解する。好ましい生物分解性ポリマーは、水性媒体の導入に続いて、本明細書に記載の装置内で分解する。生物分解性ポリマーの例は、以下のうちの少なくとも1つの代表的な繰り返し単位を少なくとも数個有するものを含む:アルファ−ヒドロキシカルボン酸、アルファ−ヒドロキシカルボン酸の環状ジエステル、ジオキサノン、ラクトン、環状カーボネート、環状オキサレート、エポキシド、グリコール及び無水物。好ましい分解性又は浸食性ポリマーは、乳酸、グリコール酸、ラクチド、グリコリド、エチレンオキシド及びエチレングリコールの少なくとも1つの重合した代表的な繰り返し単位を少なくとも数個含む。
【0062】
好適なポリマーの他のクラスは、生物適合性ポリマーである。生物適合性ポリマーの1つのタイプは、分解して無毒性の酸性生成物となる。生体系から除去する必要のない無毒性の生成物に分解する生物適合性ポリマーの特異的な例は、ポリ(水素酸)、ポリ(L-乳酸)、ポリ(D、L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)及びそれらのコポリマーを含む。ポリ無水物は、生物適合性及び表面分解特性の歴史がある(Langer, R. (1993) Acc. Chem. Res. 26:537-542; Berm, H. et al. (1995) Lancet 345: 1008-1012; Tamada, J. and Langer, R.J. (1992) J. Biomat Sci.-Polym. Ed. 3:315-353)。
【0063】
ポリ(乳酸/グリコール酸コポリマー)(PLGA)は、2つの異なるモノマー、グリコール酸及び乳酸の環状ダイマー(1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)の共重合により製造される。重合化の間、次に続くグリコール酸又は乳酸のモノマー単位がエステル結合により一緒に連結され、こうして線状の脂肪族ポリエステルを生成物として得る。重合化に使用されるグリコリドに対するラクチドの比率によって、異なる形態のPLGAが得られる。これらの形態は通常、使用されるモノマー比に関して特定され、例えば、PLGA 75:25は、その組成が乳酸75%とグリコール酸25%であるコポリマーを特定する。PLGAは、水の存在下でのそのエステル結合の加水分解により分解する。約2ヶ月内に水性環境中で分解を示す、ラクチド及びグリコリドのモノマー比が50:50であるコポリマー以外では、PLGAの分解に要する時間は、製造において使用されたモノマー比に関連し、ここで、グリコリド単位の含量が高いほど、分解に要する時間は短い。(フリーのカルボン酸とは対照的に)エステルで末端キャップされたPLGAコポリマーは、より長い分解半減期を示す。PLGAは、体内で加水分解してもとのモノマー、乳酸及びグリコール酸を生成するため、生物分解性ポリマーである。これら2つのモノマーは、正常な生理学的条件下では、体内のさまざまな代謝経路の副産物である。体は効果的に2つのモノマーを取り扱い、薬物送達又は生物材料における利用のためのPLGAの使用には非常にわずかの全身毒性が伴う。合成中に使用されるモノマーの比を変更することによって、ポリマー分解時間を調整することが可能であることは、以下においてさらに例解されるように(図11)、このポリマーを本明細書に記載の装置に特に適したものとする。しかしながら、当業者は、他の生物分解性ポリマーが、溶解度調整賦形剤としての使用のために同様に有益であることを理解するであろう。
【0064】
薬物製剤で薬物送達装置のリザーバーを満たすための例示的アプローチをここに提供する。1つの端部にステンレススチール又は焼結チタニウムの多孔質隔壁又はポリマー膜が取り付けられている装置は、風袋重量を得るために(エンドキャップを含めて)重量測定され、そして、隔壁端部を下側にしてホルダー中に置かれる。約100mgのリスペリドン(遊離塩基)粉末(Ren-Pharm Intl、粒子サイズ2〜100マイクロメーター)などの既知量の薬物が各リザーバー中に充填される。粉末は、任意の知られた粉末充填方法によって充填されることができ、そして、とがっていない3.7mmのステンレススチール棒を用いてリザーバー内に詰められる。薬物/溶解度調整剤混合物も、エタノールなどの揮発性溶媒中の溶液として導入されることができる。温度上昇、窒素流又は減圧などによって、同時に溶媒を除去しながらリザーバー中への溶液の導入を徐々に増加させることは、他のアプローチである。薬物及び溶解度調整剤の固体又は半固体混合物は、本分野で知られた標準的な方法によってリザーバー中へ押し出されることもできる。乾燥薬物の充填に続いて、リザーバーの開口端部が上記の機械的に押し付けられるエンドキャップを用いて密封され、そして、リザーバーが再び重量測定されて充填された薬物重量が計算される。或いは、図4〜5に図解されるように、薬物の拡散による放出を可能とする有効表面積を増加させるために(二倍)、開口端部には、第2の多孔質隔壁が取り付けられることができる。
【0065】
1つの実施態様においては、剤の結晶性の、非結晶性の、凍結乾燥された、スプレー乾燥された又は他の方法で乾燥された粉末、ペレット又は微粉末(又は本分野で知られたさまざまな充填剤及び賦形剤と混合された物理的混合物、メルト又は融合混合物としての剤)と溶解度調整賦形剤を、所望の濃度勾配を達成するために設計された条件下で内部水性媒体と混合することによって、水性懸濁液が作られる。乾燥した剤の小部分は水溶液中にすぐに溶解する一方、大部分は不溶性の懸濁形態のままである。最初は、内部リザーバー中に充填された剤の総量のうち、内部水性相中に溶解する小部分のみが多孔質隔壁を通過してチャンバーの外に拡散することができる。剤の可溶性形態が隔壁を通ってリザーバーから外部媒体中へ拡散するとき、それは、リザーバー内の不溶性形態の溶解によって置き換わられる。最初に溶解した剤が出て行くことと、不溶性の剤の溶解の持続的プロセスとの間のバランスが、装置のリザーバー内の可溶性の剤の一定に近い濃度を維持する。
【0066】
小規模の生成においては、各リザーバーの膜端部が三方弁の1つの端部に連結された管中に挿入される。連結部は、リザーバーハウジングの周囲に適合するように選ばれたOリング及びスクリューキャップの圧迫装着を用いて密封される。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で満たされたシリンジが三方弁の第2のポートに取り付けられる。第3のポートは、真空源に接続される。最初、バルブはリザーバーが真空源に接続するような位置にあり、リザーバー内の空気が10分間排出される。そして、バルブは、排気され、乾燥した薬物を充填したリザーバーが緩衝液を入れたシリンジに接続されるような位置とされる。真空ステップの間に作り出された減圧下でPBSが排気されたリザーバー中に引き込まれ、ただちにリザーバー内のその場所で薬物懸濁液を生成する。取り外し可能なキャップが、使用されるまで、リザーバーの膜端部に取り付けられる。
【0067】
各端部に膜が取り付けられている単一の装置のためには、該装置は先ず、装置の外径よりもわずかに大きな内径と、全体の長さがわずかにより長い円筒形の管中に置かれる。該管は、1つの端部において蓋をされて密封される。そして、管の開口端部が三方弁に接続され、上記のように排気されて緩衝液で満たされる。或いは、複数の装置がより大きなチャンバー又はマニホールド系中に置かれて、同様に、真空下でのチャンバーの排気に続いて緩衝液で満たされてもよい。
【0068】
より大きな規模での生成においては、薬物が充填され、密封された個々のリザーバーが、各装置を保持するために設計された13mmネックのホウケイ酸ガラス凍結乾燥バイアル中に置かれる。バイアルには凍結乾燥ストッパーが緩く取り付けられ、機械的に移動可能な棚を備えた真空オーブン中に置かれる。バイアルは140℃で30分間加熱されて、最終的に系を滅菌する。周囲温度に戻った後、真空が24時間適用され、この時バイアルは、棚を持ち上げて完全に栓をすることによって真空で密封される。栓は取り外し可能な圧着アルミニウムとともにバイアルに取り付けられる。バイアルは検査され、ラベルを貼られて、使用ために室温で貯蔵される。
【0069】
C.薬物送達装置の性能:インビトロでの放出
1つの実施態様においては、装置は、難溶性の治療剤を一定の放出速度で少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12ヶ月間、好ましくは1つの実施態様においては、ゼロ次放出速度で送達するために構成され、作動可能であり、及び/又は該送達が可能である。上記のように製造され、そして、かかる送達が可能な装置のインビトロ及びインビボでの性能がここに記載される。
【0070】
実施例1に記載されるように、典型的なFranz型の拡散セルにドナーチャンバーをレセプターチャンバーから分離する多孔質隔壁を取り付けた。隔壁は、広範囲の孔サイズ(すなわち、分子量カットオフ又は「MWCO」値又は見かけの孔直径)に及ぶように選択された。この試験での使用のために選択された多孔質隔壁は、100,000ダルトン及び3,000ダルトンの分子量カットオフ値を有した。さらに、0.45μmフッ化ポリビニリデンメンブレンフィルター(Durapore(登録商標))の形態の多孔質隔壁が使用された。難溶性の治療剤のためのモデルとしてのリスペリドン、生物分解性、生物適合性コポリマーである溶解度調整賦形剤PLGA(ポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー)を含む水性懸濁液の形態の薬物製剤が調製され、ドナーチャンバー中に置かれた。製剤からのレセプターチャンバー中へのリスペリドンの放出が、時間の関数として測定され、結果が図7A〜7Bに示される。
【0071】
図7A〜7Bは、インビトロでのリスペリドンのmgで表した累積的放出(図7A)、及びmg/日で表したリスペリドンの放出速度(図7B)を日で表した時間の関数として示すグラフである。図7Bに最もよく示されるように、持続的な実質的にゼロ次の放出速度が得られた。100,000ダルトンの分子量カットオフ(三角)、3,000ダルトンの分子量カットオフ(四角)の多孔質隔壁、及び0.45μmのフッ化ポリビニリデンメンブレンフィルター(丸)を備えた装置から、リスペリドンがそれぞれ、200μg/日、100μg/日及び70μg/日の速度で放出され、これは、短い3〜4日の平衡化相に続いて達成された。
【0072】
リスペリドンなどの多くの難溶性薬物の水溶解度は、pHが生理液のその特性(すなわち、7.4のpH)未満に低下すると増加する。リスペリドンは、pH7.4においてわずかしか水に溶解できない(約0.42mg/mL)。0.42mg/mLのリスペリドン濃度、3.5mmの隔壁の孔面積(A)が0.09cm2であり、かかる2つの隔壁が本明細書に記載の薬物送達装置の各端部において使用されて拡散に関する総面積2×Aを提供し、グルコースの拡散定数が7.0×10-6であり、そして、隔壁の厚さが0.12cmであると仮定すると、Fickの法則は流出速度、Jを決定するために、以下のように使用可能である:
【0073】
【数5】

【0074】
流出速度は、ヒトに治療効果を与えるのに必要なリスペリドン用量よりも十分に低い。治療効果を達成するためには約1〜2mg/日のインビトロ速度が必要であろう。約1〜2mg/日の流出速度を与える装置内の濃度にリスペリドンの溶解度を調整するためには、可溶性のリスペリドンの内部濃度を1〜2mg/mLに増加させる必要があるだろう。したがって、治療用量を提供する装置からの放出速度を達成するためには、難溶性の薬物の溶解度を高めることが必要である。1つのアプローチは、装置内の水性懸濁液のpHを低くすることである。例えば、pH6.8においては、リスペリドンの平衡濃度は約1.5mg/mLである(図6を参照のこと)。上記の例中のこの濃度においては、アウトプット速度は治療範囲内にあるだろう。しかしながら、薬物の水性懸濁液を入れた装置のリザーバーが、そのpHが緩衝物質(主に二酸化炭素−pCO2)により7.4に制御されている間質液で満たされた使用環境中の外部媒体と連通しているため、内部水性相の最初のpHにかかわらず埋め込み直後に装置の内部pHがpH7.4に平衡化されることは避けられない。本発明の装置は、このジレンマを回避する発見に基づく。持続的に酸性基を生成することのできる溶解度調整賦形剤を含ませることは、装置からの治療的速度の持続的な放出を達成するのに十分な薬物の溶解度を提供する、装置内の水性懸濁液のpHを維持する。1つの実施態様においては、溶解度調整賦形剤は、生物適合性で生物分解性のポリ乳酸及びポリグリコール酸のコポリマー(PLGA)である。PLGAはポリマーが浸食して酸性基、遊離の乳酸及びグリコール酸をそれぞれ放出するときに水性懸濁液の内部pHを効果的に低下させる。酸性基の連続的放出は、水性懸濁液中の薬物の溶解度を増加させ、そして、外部緩衝液のpHがpH7.4に維持されるにもかかわらず、増加した放出速度を提供する。
【0075】
この効果は実施例3に記載の試験によって例解され、ここでは、すべての難溶性薬物のモデルとしての難溶性薬物リスペリドンの、さまざまな量のPLGAを含む水性懸濁液からの放出が時間の関数として測定された。図8に見られるように、装置のリザーバー内に含まれるリスペリドン水性懸濁液への5mg(菱形)、10mg(四角)、又は15mg(三角)の、85:15PLGAの添加が、薬物放出速度の用量依存的な増加をもたらした。15mgのPLGA(三角)を含む薬物製剤は、約0.6〜1.0mg/日に等しい放出速度を得た。5mgから10mg、15mgへ増加する量の溶解度調整賦形剤PLGAを含む薬物送達装置は、図9に見られるように0.25mg/日から0.43mg/日、0.64mg/日へと放出速度の直線的増加をもたらした。溶解度調整賦形剤PLGAの量を2倍にすると放出速度は2倍になった。
【0076】
溶解度調整賦形剤のタイプ及び組み合わせを評価するためのさらなる試験が行われた。上記のとおり、PLGAは、2つの異なるモノマー、グリコール酸及び乳酸の共重合によって調製される。合成で用いられたラクチドのグリコリドに対する比率は、異なる形態のPLGAを生じた。さまざまなタイプのPLGAを用いて、本明細書に記載の装置からの難溶性薬物の放出速度を評価するための試験が行われた。実施例3に記載されるように、リスペリドン、5つの異なるPLGAコポリマーの水性懸濁液が調製された。3つのコポリマーは、50:50ポリ(dlラクチド/グリコリドコポリマー−1A)、50:50ポリ(dlラクチド/グリコリドコポリマー−2A)及び85:15ポリ(dlラクチド/グリコリドコポリマー)である。結果を図11に示す。
【0077】
図11は、さまざまな薬物製剤を充填された装置についての、日で表した時間の関数としてのmg/日で表したリスペリドンの放出速度を示す。一連の曲線は、インビトロでのリスペリドンの放出に対する、異なる乳酸:グリコール酸比を有する溶解度調整剤PLGAの影響を図示する。図11中の最初の2つの曲線は、50:50PLGAを含む水性懸濁液(DL1A及びDL2A)からのリスペリドンの放出を示す。第3の曲線は、85:15PLGAを含む水性懸濁液からのリスペリドンの放出を示す。第4及び第5の曲線は、それぞれ90:10及び95:5の比率のPLGAを含む水性懸濁液からのリスペリドンの推定による放出を図解する。図11に表されたデータ及び推定は、水性媒体中のPLGAの浸食速度が乳酸含量の増加とともに減少することを例解している。(50:50から始めて)乳酸含量の増加するPLGAの水性混合物は、例えば、2、3、4、5、6ヶ月又はそれより長い選択された期間にわたって一定数の遊離酸等価物(乳酸グリコール酸)を生成するために選択されることができる。PLGAコポリマーファミリー中のさまざまなコポリマーの異なる浸食によって生成された遊離の乳酸及びグリコール酸等価物は、リスペリドンの溶解度を増加させ、そして薬物送達装置の多孔質隔壁を横切るその拡散速度を増加させる。そして、1つの実施態様においては、異なるが重複する浸食速度を有するPLGAの混合物を選択することによって、増強された、遊離酸を介する難溶性薬物の放出が持続的に維持される。実際、薬物送達装置は、リスペリドン及び難溶性薬物の持続的放出を提供するために選択された1つ以上のPLGAの乾燥粉末の物理的混合物で満たされることができる。水和及び埋め込みに続いて、PLGAはその乳酸:グリコール酸比率に依存した速度で浸食を開始し、連続的に遊離酸等価物を生成し、これは次に、リザーバー内の難溶性薬物の溶解度を高めて装置からのその一定の放出速度を維持する。1〜2mg/日の治療範囲内の放出速度が、1〜6ヶ月の期間にわたって達成可能である。
【0078】
したがって、1つの実施態様においては、溶解度調整剤を含む薬物製剤を含む装置が考慮され、該溶解度調整剤は、薬物製剤中の酸性基の持続的な連続的放出を達成し、それによって難溶性薬物の持続的なゼロ次放出を達成するために、15%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%又は1%未満のグリコリド含量を有するように選択された1つ以上のポリ(dlラクチド/グリコリド)コポリマーである。1つの実施態様においては、薬物製剤は、難溶性薬物を含む水性懸濁液である。すなわち、使用前の装置のリザーバーは、薬物及び1つ以上の溶解度調整賦形剤の水性懸濁液を含む。他の実施態様においては、薬物製剤は難溶性薬物及び1つ以上の溶解度調整賦形剤の乾燥した又は乾燥された混合物である。この後者の実施態様においては、乾燥した薬物製剤が装置の埋め込みの後に、多孔質隔壁を横切る間質液の流入によって水和する。
【0079】
実施例4に記載の他の試験においては、チタニウムの円筒形の管から装置が製造された。各装置のリザーバーは、乾燥粉末の形態のリスペリドン遊離塩基で満たされ、装置の1つの群においては、50:50PLGA及び85:15PLGAが含まれた。図4A〜4B及び5A〜5Bに図示されるように、多孔質隔壁が装置の各端部に取り付けられた。装置からレシピエント緩衝液中へのリスペリドンの放出が測定され、そして結果が図11に示される。見てのとおり、PLGAを添加しないと装置はリスペリドンを0.05mg/日未満の速度で放出し、これは、1グラム/日超の治療用量レベルよりもはるかに低かった。対照的に、PLGAが添加された装置は、平均1〜1.2mg/日でリスペリドンを放出し、これは、十分に標的治療範囲内であった。
【0080】
さらに他の試験においては、本明細書に記載のとおりに装置が製造され、そしてインビトロ及びインビボで試験された。実施例5に記載のとおり、内部リザーバーを有する円筒形のチタニウムハウジングがリスペリドン乾燥粉末で満たされた。装置の1つの群はさらに、リスペリドンと混合された50:50PLGA及び85:15PLGA混合物を含んだ。装置の各群の一部は、リスペリドンのインビトロでの放出について試験され、他の一部はラットの皮下に埋め込まれた。したがって、アリコートの緩衝液又は血液を採取することによってリスペリドンの放出が測定された。結果が図12A〜12Bに示される。
【0081】
図12Aは、リスペリドンとPLGAを含む装置(PLGA50:50及びPLGA85:15の混合物、四角)に比較した、リスペリドンのみを含む装置(三角)に関するインビトロでの放出速度を示す。PLGAを含まない装置は限定された放出を示し;PLGAを含む装置は30日間、0.4mg/日超の放出速度を維持した一方、PLGAを含まないものは同じ期間を通して、0.05mg/日未満を放出した。
【0082】
図12Bは、比較のインビボデータを表す。リスペリドンのみを含む群(三角)については、リスペリドン(+9−ヒドロキシリスペリドン)の血漿レベルは最初の週ではぎりぎりで検出可能であり、その後、アッセイの定量限界(0.1ng/mL)未満に低下する。溶解度調整剤を含む装置(四角)においては、リスペリドン(+9−ヒドロキシリスペリドン)の血漿レベルがただちに形成され、そして1ヶ月の期間全体にわたって4ng/mL超のレベルを維持する。
【0083】
図12A〜12Bに表されたデータを比較することによって、卓越したインビトロ/インビボの相関が明らかである。このデータから、インビトロのデータを用いて装置のインビボ性能を最適化することが可能であることは明らかである。溶解度調整剤の好適な質量及び浸食速度を選択することによって、アウトプットを増加させるか又は引き伸ばす(又はその両方)ことが可能である。
【0084】
本明細書に示される特定の実施例はモデル薬物リスペリドンに関するものであるが、任意の難溶性薬物が本明細書に記載の装置において使用可能であることは理解されるであろう。実施例6は、pH7〜7.4で3mg/mLの水溶解度を有する薬物、アセナピンの送達のために設計された装置を例解する。以下の表は、本明細書に記載の装置における使用のために考慮された例示的な薬物の溶解度及び薬物動態パラメータを示す。
【0085】
【表1】

【0086】
III.治療方法
他の側面においては、本明細書において上記した装置を用いて病気又は障害を治療する方法が提供される。特別な実施態様においては、埋め込み型装置は治療剤を、1〜3ヶ月、好ましくは1〜4ヶ月、さらにより好ましくは1〜5ヶ月、1〜6ヶ月、2〜4ヶ月、2〜6ヶ月、或いは2〜12ヶ月の間送達する。統合失調症、二極性障害又はアルコール依存症などの慢性の病気のためには、患者は多くの月、おそらく年の間治療されるかもしれない。かかる病気の状況においては、1つの装置が数ヶ月の作動の後に消耗した場合、中断されない治療を提供するために、それは取り除かれて新しく完全に充填された装置に取り替えられる。該装置は同じ又は異なる部位に埋め込まれることができる。
【実施例】
【0087】
IV.実施例
以下の実施例は、例示的な性質のものであり、決して制限することを意図するものでない。
【0088】
実施例1
リスペリドンのインビトロでの放出
典型的なFranz型拡散セルに、ドナーチャンバーをレセプターチャンバーから分離する多孔質隔壁を取り付けた。多孔質隔壁は、3,000ダルトンの分子量カットオフ、100,000ダルトンの分子量カットオフの孔サイズを有する膜、そして、0.45ミクロンのフッ化ポリビニリデンメンブレンフィルター(Durapore(登録商標))であった。リスペリドン(10mg/mL PBS、pH7.4)及びポリ(乳酸/グリコール酸コポリマー)を含む水性懸濁液を調製し、そして各セルのドナーチャンバー中に置いた。セルを室温に保持した。レセプターチャンバー内の緩衝液中のリスペリドン濃度を、UV分光法により270nmにおいて、リスペリドンのための消光係数20.5を用いて測定した。濃度がUV測定の直線範囲内にあることを確実にするために、測定の前に緩衝液を20〜50マイクログラム/mLに希釈した。緩衝液を毎日交換した。結果を図7A〜7Bに示す。
【0089】
実施例2
リスペリドンのインビトロでの放出
Franz拡散セルを上記のように製造した。リスペリドン(10mg)及び5mg、10mg又は15mgの85:15ポリ(乳酸/グリコール酸コポリマー)を含む水性懸濁液を調製し、各セルのドナーチャンバー中に入れた。セルを室温に保持した。レセプターチャンバー内の緩衝液中のリスペリドン濃度を、UV分光法により270nmにおいて、リスペリドンのための消光係数20.5を用いて測定した。濃度がUV測定の直線範囲内にあることを確実にするために、測定の前に緩衝液を20〜50マイクログラム/mLに希釈した。緩衝液を毎日交換した。結果を図8に示す。
【0090】
実施例3
リスペリドンのインビトロでの放出
2つの群の薬物送達装置を以下のように組み立てた。直径4mmで長さが35mmの円筒形チタニウム管を製造した。乾燥粉末形態のリスペリドン遊離塩基(100mg、Ren-Pharm Intl、粒子サイズ2〜100マイクロメーター)を第1の群の装置(グループA、n=9)に充填した。第2の群の装置(グループB、n=5)においては、同じ量のリスペリドンを5mgの50:50PLGA及び15mgの85:15PLGA(Lakeshore Biomaterials, Birmingham, AL)と混合した。減圧下、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で装置のリザーバーを満たした。図5A〜Bに示すように、Oリングとチタニウムフリット(5ミクロン孔)の間に膜をはさむことによって、グループBの各装置に2つの再生セルロース膜(5000ダルトン分子量カットオフ)を円筒形の管の各端部に取り付けた。グループA中の装置は、図4A〜4Bに図解するようにセルロース膜が除かれる以外は同じであった。その後、およそ1mLのPBSの入った管に個別に装置を設置した。管を37℃で回転ラック(1時間あたり1回転)上に置いた。
【0091】
レシピエント緩衝液中のリスペリドン濃度を、UV分光法により270nmにおいて、リスペリドンのための消光係数20.5を用いて測定した。濃度がUV測定の直線範囲内にあることを確実にするために、測定の前に緩衝液を20〜50マイクログラム/mLに希釈した。緩衝液を毎日交換した。グループB(黒丸、2つの異なるPLGAを含む)及びグループA(白丸、PLGAなし)の装置についての放出速度を図10に示す。溶解度調整賦形剤を含まない装置は、1gm/日超の治療用量レベルをはるかに下回る0.05mg/日未満の速度で放出した。対照的に、溶解度調整賦形剤、2つの異なるPLGAの混合物を含む装置は、十分にリスペリドンの標的治療範囲内にある、平均1〜1.2mg/日で放出した。
【0092】
実施例4
異なる水中浸食速度を有するPLGA混合物を含む装置
PLGAの乳酸:グリコール酸比がリスペリドンのインビトロでの放出速度に及ぼす影響を調べた。100mgのリスペリドンと5〜15mgの乳酸:グリコール酸比50:50及び85:15のPLGAの物理的混合物を作製し、リン酸緩衝生理食塩水中に懸濁した。リスペリドンの放出を実施例1に記載のとおりに測定した。結果を図11に示す。図11中のはじめの2つの曲線は、2つの異なる50:50PLGAサンプル(Lakeshore Biomaterials, Birmingham, ALから供給されたDL1A及びDL2A)を混合したリスペリドンの放出を示す。第3の曲線は、15mgの85:15PLGA(これもLakeshore Biomaterials, Birmingham, ALから供給された)と混合したリスペリドンの放出を示す。第4及び第5の曲線は、90:10及び95:5それぞれの比のPLGAと混合した場合のリスペリドンの推定による放出を図解する。
【0093】
実施例5
インビトロ及びインビボでの送達
2つの群の装置(n=6)を製造した。各装置の本体は、内部リザーバーを定める円筒形のチタニウム管からなるものであった。管は長さが35mm、4.3mmの外径(OD)及び約3mmの内径(ID)であった(Peridot Manufacturing, Pleasanton, CA)。図4〜5に示すように、各管の両端部は、多孔質隔壁を保持する役割をするプレスキャップを受けるように先が細くなっていた(旋盤加工されていた)。第1の群の装置に、1つの端部において直径3.5mm、深さ0.5mm及び5ミクロンの見かけの粒子保持サイズを有するチタニウム焼結フリット(Applied Porous Materials, Farmington, CT)を取り付けた。管をホルダー中に水平に置き、そして開口端部の向こう側からフリット、Oリング、そしてプレスキャップの順番で配置することによって、各管中にフリットを固定した。フリット/Oリングスタックを、機械(Schmidt Press No307)による圧迫を用いてメンブレンプレスカップ(membrane press cup)(Peridot Manufacturing, Pleasanton, CA)に対して下向きに押し付けることによってリザーバーの縁部上の正しい位置に密封した。
【0094】
装置を裏返して、100mgのリスペリドン乾燥粉末(Ren-Pharm Intl, 粒子サイズ2〜100マイクロメーター)を充填した。混合のために2.5mmのステンレススチールボールをリザーバー中に置いた。他の端部に関しては、上記したのと同じ手順を用いて、第2のフリットをリザーバーの残りの開口端部に対して密封した。
【0095】
図5A〜5Bに図解するように、フリットとOリングの間に位置する環状の直径3.5mmのポリマー膜(3KD MWCO Membranes, Millipore #PLBC02510)を含む以外は同じ手順で、第2の群の各装置に取り付けを行った。ポリマー膜は、埋め込み後にフリットと皮下組織の間の生物適合性の境界としての役割を果たすことを目的とした。第2の群の装置を、100mgのリスペリドン、15mgの50:50PLGA及び50mgの85:15PLGA(Lakeshore Biomaterials, Birmingham, AL)、と2.5mmのステンレススチールミキシングボールから成る物理的混合物で満たした。
【0096】
薬物及び/又はPLGAで満たした後、各群のすべての装置を、それぞれ真空チャンバー中に入れ、真空下でチャンバーを脱気し、脱気したPBSを再び充填することによって水和した。
【0097】
両群の装置をインビトロ又はインビボでの試験のいずれかのために設計された3つの装置の各亜群に等しく分割した。スクリューキャップクリオバイアル中に入れた1mLのPBS中に装置を沈めることによってインビトロの放出速度を測定した。管を密封して37℃インキュベータ中の回転ラック(1時間あたり1回転)中に置いた。毎日、新鮮な緩衝液を入れた新しい管に各装置を移し、そして放出緩衝液中のリスペリドン濃度をUV分光法によって測定した。
【0098】
インビボでの実験のために、ラットを麻酔し、そしてトロカールを用いて正中線の背側側部において皮下に設置した。全血サンプルを尾静脈穿刺により得た。直ちに血漿を有形成分から遠心分離により分離した。血漿中のリスペリドンと9−ヒドロキシリスペリドン濃度を検出するために、血漿サンプルを参照試験所(Integrated Analytics Solutions, Berkeley, CA)に送り、そして有効なLC/MS/MS法によって定量した。定量の下限は0.10ng/mLであった。結果を図12A〜12Bに示す。
【0099】
図12Aは、リスペリドン+PLGA(上記したPLGA50:50及びPLGA85:15の混合物)を含む装置に比較した、リスペリドンのみを含む装置についてのインビトロでの放出速度を示す。PLGAを含まない群は、限定された放出を示し;PLGAを有する装置は、30日間、0.4mg/日超の放出速度を維持した一方、PLGAを含まないものは、同じ期間を通して、0.05mg/日未満を放出した。
【0100】
図12Bは、比較インビボデータを示す。リスペリドンのみを含む群については、リスペリドン(+9−ヒドロキシリスペリドン)の血漿レベルは最初の1週間はぎりぎりで検出可能であり、その後、アッセイの定量の下限(0.1ng/mL)未満に低下した。一方、PLGAを含む群においては、リスペリドン(+9−ヒドロキシリスペリドン)の血漿レベルがただちに形成され、そして1ヶ月の期間全体にわたって4ng/mL超のレベルを維持する。図12A及び12Bに表したデータを比較することによって、卓越したインビトロ/インビボの相関が明らかである。
【0101】
実施例6
アセナピンの送達のための装置
アセナピンは、本明細書に記載の装置による利益を受ける剤を例示する。この剤は、統合失調症及び二極性障害の治療においては活性が認められているが、その臨床的利益を損なう多くの因子を有する。それは、高い初回通過効果により経口のバイオアベイラビリティが低く(2%未満)、その現在の剤形は、毎日2回摂取しなくてはならない舌下錠であり、標的の患者集団における服薬遵守を困難なものとしている。アセナピンは、急速に循環から除去されるが(血漿クリアランス52L/時間)、低い血漿濃度で活性である(2.1ng/mLにおいて70%D2受容体占有率)。本明細書において可能となった薬物送達装置については、必要なアウトプット速度は、(mL/日で表した)CLを有効性のために必要な定常状態血漿濃度(mg/mL)に掛け合わせることによって計算可能であり、1.25×106mL/日×2.1×10-6mg/mL=2.65mg/日のアウトプットが2.1ng/mLを維持するのに必要である。
【0102】
薬物は、中性のpHにおいて限られた水溶解度を示すが(pH7.0において3mg/mL)、その溶解度はpHが低くなると改善する(0.1NのHCl中で13mg/mL)。
【0103】
本明細書においてクレームされた薬物送達装置は、典型的には、3.8mmのID及び40mmの長さのチタニウム円筒からなり、各端部に0.2cmの厚さ及び2μm以下の孔サイズの焼結チタニウムフリットが取り付けられている。リザーバーの体積=πr2h=453μL。2つのフリットを併せた表面積は、0.23cm2であり;フリットの孔隙率は30%であって、拡散のために利用可能な孔面積は0.07cm2である。リザーバーが250mgの薬物のみの水性懸濁液で満たされた場合、中性pHにおける流束(外向きの拡散)は、Fickの法則から計算可能である:J(mg/秒)=D(cm/秒)×ΔC(mg/cm3で表した、リザーバーの内側と外側の間の濃度勾配)/0.2cm(拡散膜の厚さ又はこの場合にはフリットの厚さ)×A(cm2で表した、拡散のために利用可能な有効孔面積)。外部媒体(間質液)中の濃度は、ゼロと考えることができる。リザーバーの水性相内の濃度は、中性pHにおける薬物の固有の溶解度である3mg/mLとなり、したがって、ΔC=3mg/mL、又は3mg/cm3。薬物の拡散係数は、グルコース(7×10-6cm2/秒)などの小分子のものに近似可能である。したがって、中性pHにおいては、流束は7×10-6cm・秒-1×3mg・cm3-1/0.2cm×0.07cm2=7.35×10-6mg・秒-1となるであろう。Jをmg/日に変換すると、これらの条件下での最大流束は0.6mg/日となる。このレベルは、薬物の治療用量を提供するのに必要なアウトプット、2.65mg/日には4倍及ばない。
【0104】
現在の装置は、PLGAポリマーと薬物の混合物を充填することによってアセナピンのアウトプット速度を増加させる手段を提供する。この場合、250mgの薬物+約200mgのPLGAを450μLのリザーバー中に入れる。該装置は水和され、そして皮下に埋め込まれる。PLGAが時間の経過とともに加水分解するとき、乳酸及びグリコール酸等価物がリザーバー内の不溶性ポリマーから生成し、内部pHを効果的に低下させる。さらに、ラクチド及びグリコリドモノマーはアセナピン塩基と塩を形成し、そしてリザーバー内の薬物の水溶解度を少なくとも13mg/mLに改善する。これらの条件下での流束を再計算すると、アウトプット速度は2.6mg/日となり、充填された薬物総量が250mgであるとすると、このアウトプットは96日間維持可能であり、したがって、埋め込み後、治療レベルの薬物を3ヶ月間提供する。
【0105】
比較例1
米国特許第3,896,819号;第3,948,254号、第3,948,262号;第3,993,072号及び第3,993,073号に記載された従来技術の装置を試験し、そして本発明の装置と比較した。従来技術の装置の欠点は、図12Bに示されたインビボデータを分析することによって明らかである。図12Bにおいては、2つの装置が比較され;一方はこれらの従来技術の文献による教示をモデルとし、他方は本願の教示をモデルとする。この比較において、装置は、その外部表面が滑らかな生物適合性の、サテン仕上げされた表面であって、皮膚の下への埋め込みに適した、円筒形のリザーバーである。リザーバーの端部には多孔質隔壁が取り付けられている。リスペリドンのみを含み(下の曲線、三角)、(すなわち、「薬物に対して透過性であるように設計された、少なくとも部分的に多孔質膜によって形成された容器によって囲まれた」)従来技術の教示をモデルとする装置は、治療用量を維持するのに十分なアウトプットを提供しない。これは、この構成では、装置の多孔質表面を横切る薬物の大量輸送を推進するのに十分な濃度勾配を作り出すには、リスペリドンの水溶解度が低すぎるからである。対照的に、本明細書に記載された、好ましい溶解度調整賦形剤を含む装置は、少なくとも1ヶ月間、治療レベルの活性薬物を生成する(上の曲線、四角)。
【0106】
リスペリドンの場合、従来技術の装置に対する制限が以下の分析において例解される。pH7.4におけるリスペリドンの水溶解度は、約0.42mg/mLである。したがって、キャリア流体が水であって、従来技術の装置において考慮された装置中にリスペリドンの水性懸濁液が充填され、そしてFickの法則を適用すると、約1.78mg/日(すなわち、この薬物の治療反応を維持するのに必要な用量)のアウトプット速度を生成するのに必要な多孔質表面積が計算可能である。
【0107】
この例のための前提は以下のとおりである。
i. pH7.4におけるPBS中のリスペリドン遊離塩基の平衡溶解度は、0.42mg/mLである。
ii. 外部濃度は事実上ゼロであろう。したがって、濃度勾配は内部濃度により近似される(すなわち、0.42mg/mL)。
iii. Risperdal Constaの投与速度に基づいて、製品のための望ましいアウトプット速度(放出速度)は、(すなわち、2週間ごとに25mg用量のRisperdal Constaの推奨される用量に基づいて、www.risperdalconsta.com)1.78mg/日である。
iv. リスペリドンの拡散定数は、グルコースのものに等しい(7×10-6cm2/秒、http://www.d.umn.edu/-dlong/samrpt.html)。
v. 容器の多孔質部分の厚さは、1.2×10-1cmである。
vi. 容器の多孔質部分の孔隙率は、50%である。
【0108】
多孔質容器のODが4.6mmであり、IDが2.2mmである場合、所望の放出速度を提供するのに必要な多孔質セグメントの内部に露出する表面積が以下のように計算される。先ず、放出速度がmg/秒を用いて以下のように言い換えられる。
【0109】
【数6】

【0110】
流束は、単位時間当たりに定義された面積を通って拡散する分子の数(又は質量)により表される。この場合、流束の単位はmg・秒-1・cm3-1であり、膜の定義された表面積(「A」と称される)を通る分子の動きを説明する。我々が決定したいのは、この面積である。Fickの法則は以下のとおりである(かっこ内は単位である)。
【0111】
【数7】

【0112】
放出速度(「R」)で流束を表すと以下のとおりとなり、拡散のために利用可能な表面積を含むことが必要であり、それは、R÷膜表面積(A)である。
【0113】
【数8】

【0114】
式中、Dは剤の拡散定数であり;そしてTM=多孔質セクションの厚さである。濃度、放出速度及び厚さの値を入れると、以下のとおりとなる。
【0115】
【数9】

【0116】
【数10】

【0117】
実際、この面積のわずか約50%以下が拡散のために利用可能であり、したがって、必要とされる有効多孔質表面積(AEff)は以下のとおりである。
【0118】
【数11】

【0119】
したがって、リスペリドンの場合、その低い水溶解度によって従来技術の装置の教示をモデルとする装置は、治療用量をインビボで提供するために、少なくとも1.7cm2の多孔質表面積を必要とする。
【0120】
上で詳述した理由により、皮下へ埋め込まれるように設計された本明細書に記載の装置は、滑らかな壁を有する円筒形のものである。薬物の拡散に必要な多孔質隔壁が、円筒形リザーバーの1つ又は両方の端部に取り付けられている。典型的な装置は、該装置が皮下に快適に設置可能であるように、0.46cm以下のODを有する。機械的強度のために必要な壁の厚さを考慮すると、リザーバーのIDは0.22cmである。したがって、滑らかな管状の表面を有し、その両端部に円形の多孔質隔壁が取り付けられている装置のために利用可能な最大の多孔質表面積は以下のとおりである。
【0121】
【数12】

【0122】
そして、2つの膜については以下のとおりである。
【0123】
【数13】

【0124】
皮下への埋め込みに適し、水性キャリア流体を用い、そして従来技術の装置の教示をモデルとするこのサイズおよび形状の装置は、リスペリドン又は類似の低い水溶解度を有する他の剤を選択した場合に、十分な薬物アウトプットを提供しないであろう。上記の計算式に示されるように、従来技術の装置の教示にしたがうと、リスペリドンの治療量を提供するのには少なくとも1.7cm2の有効多孔質表面積が必要である(式13)。しかしながら、皮下への埋め込みに適した本明細書に記載の構成においては、多孔質隔壁は、従来技術の装置が必要とする値の20分の1のわずか0.08cm2の有効表面積を提供する。
【0125】
以下に記載され、そして図12A〜12Bにグラフをもって表されるとおり、現在の装置は、従来技術の装置の制限を両方とも克服し、そして、リスペリドンおよび類似の低い水溶解性を有する他の薬物の十分なアウトプット速度を達成する。
【0126】
数多くの例示的側面および実施態様が上記において検討されたが、当業者はその一定の改変、置換、付加およびサブコンビネーションを認識するであろう。したがって、以下の添付されたクレームおよび今後導入されるクレームは、かかるすべての改変、置換、付加およびサブコンビネーションを、それらの真の精神および範囲内にあるものとして含むと解釈されることを目的とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達装置であって、以下の:
リザーバーを定める非浸食性で無孔性のハウジング部材であって、第1及び第2の対向する端部を有する前記ハウジング部材;及び
前記ハウジング部材の第1の端部に位置する多孔質隔壁を含み、
ここで、前記リザーバー内には難溶性薬物及び溶解度調整賦形剤を含む薬物製剤が含まれ、前記溶解度調整賦形剤は、該薬物製剤が水和している場合、可溶性薬物が前記隔壁を横切って前記装置の外へ拡散するにつれて1ヶ月超の期間にわたって前記装置からの前記薬物の治療用量の放出を提供するのに十分な前記薬物の濃度を水性懸濁液中に提供するために有効である、前記薬物送達装置。
【請求項2】
前記ハウジング部材が非透水性である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ハウジング部材が金属である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記多孔質隔壁が、多孔質ポリマー膜、焼結金属膜、及びセラミック膜から選ばれる、先の請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記溶解度調整賦形剤が、生物適合性であり生物浸食性のポリマーである、先の請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、それらのコポリマー及びポリエチレングリコールから成る群から選ばれる、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記ポリマーが、ポリ乳酸及びポリグリコール酸モノマー単位のコポリマーであり、ここで、該ポリ乳酸含量が約50%〜100%である、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記薬物が神経弛緩薬である、先の請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記神経弛緩薬が、リスペリドン、9−ヒドロキシリスペリドン又は医薬として許容可能なその塩である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記神経弛緩薬が、オランザピン、パリペリドン、アセナピン、ハロペリドール若しくはアリピプラゾール又は医薬として許容可能なその塩である、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記リザーバーに充填された前記神経弛緩薬の総量が、100mg超である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記薬物がブプレノルフィンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記薬物が、100mg/mL超の総量で、可溶性及び不溶性形態で存在する、請求項8〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記薬物の可溶性画分が全体の1%未満である、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
難溶性薬物を水性懸濁液から使用環境中へ送達するための方法であって、以下の:
少なくとも30日間、使用環境中への前記薬物の治療量の放出を維持するために、水性懸濁液中の前記薬物の可溶性形態の実質的に一定の濃度を維持するのに有効な賦形剤とともに前記薬物を製剤化することを含む、前記方法。
【請求項16】
前記賦形剤が生物適合性で生物浸食性のポリマーである、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、それらのコポリマー、及びポリエチレングリコールから成る群から選ばれる、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記ポリマーが、ポリ乳酸及びポリグリコール酸モノマー単位のコポリマーであり、ここで、該ポリ乳酸含量が約50%〜100%である、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記薬物が神経弛緩薬である、請求項15〜18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
前記神経弛緩薬が、リスペリドン、9−ヒドロキシリスペリドン又は医薬として許容可能なその塩である、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記神経弛緩薬が、オランザピン、パリペリドン、アセナピン、ハロペリドール若しくはアリピプラゾール又は医薬として許容可能なその塩、又はブプレノルフィンである、請求項19に記載の装置。
【請求項22】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の装置を含む、患者の治療における使用のための装置。
【請求項23】
精神異常に罹った患者の治療における使用のための請求項22に記載の装置であって、ここで、前記薬物が神経弛緩薬であり、そして1〜6ヶ月間、実質的に一定の放出速度で送達される、前記装置。
【請求項24】
前記装置が皮下に埋め込まれる、請求項22又は23に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A−7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【公表番号】特表2012−520148(P2012−520148A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−554209(P2011−554209)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/027037
【国際公開番号】WO2010/105093
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511220625)デルポー,インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】