薬物を制御送達するための植込み型装置
リドカイン又は他の薬物を患者に送達するための植込み型装置及び方法が提供される。一実施形態において、この装置は、リドカインの薬学的に許容可能な塩を含む固形剤形の第1の薬物製剤を収容する第1の薬物ハウジングを有する第1の薬物部分と;リドカイン塩基を含む第2の薬物製剤を収容する第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分とを含む。別の実施形態において、この装置は、開放気泡構造、独立気泡構造、又はそれらの組み合わせを有する多孔側壁により画成される少なくとも1つのルーメンを有する弾性チューブを有する薬物リザーバ構成要素と;少なくとも1つのルーメン内に収容される薬物製剤とを含み、装置は低プロファイルの展開形状と比較的拡がった留置形状との間で変形可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本願は、2009年9月10日に出願された米国仮特許出願第61/241,277号の利益を主張し、2010年6月28日に出願された米国特許出願第12/825,215号の一部継続出願であって、及び2010年8月5日に出願された米国特許出願第12/851,494号に対する優先権を主張するものであり、これらの各々は全体として参照により本明細書に援用される。
【0002】
[0002]本開示は薬物の制御送達に関し、詳細には、薬物を制御放出するため患者の膀胱内又は別の部位内に展開することができる植込み型装置に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]米国特許出願公開第2007/0202151号及び同第2009/0149833号は、患者の体腔又は管腔、例えば膀胱において最小侵襲で展開及び留置される薬物送達装置について記載している。これらの装置は、排尿に伴う力を受けるなどしても排泄されないよう抵抗する。例えば、装置は留置フレームを含んでもよい。留置フレームは、体内に展開するため比較的低プロファイルとなるよう構成され得るとともに、植込み後は比較的拡がったプロファイルをとって留置を促進し得る。装置は、所定の方法で長期間にわたる薬物の制御放出を提供し得る。いくつかの実施形態では、装置は、薬物を格納するための薬物リザーバと、薬物を放出するための少なくとも1つの開口部とを画定する透水性シリコーンチューブを含む。薬物は、固形剤形の塩酸リドカインなどの高水溶性薬物であってもよく、及び生体内の薬物放出機構は、部分的に、又は主に、浸透圧ポンプ機構であってもよい。例えば膀胱に展開される装置からの、生体内での薬物放出動態の制御性を向上させるさらなる技法、構造、及び/又は製剤が提供されたならば望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0004]リドカイン又は他の薬物を患者に送達するための植込み型装置及び方法が提供される。
【0005】
[0005]一態様において、本装置は、リドカインの薬学的に許容可能な塩を含む固形剤形の第1の薬物製剤を収容する第1の薬物ハウジングを有する第1の薬物部分と;リドカイン塩基を含む第2の薬物製剤を収容する第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分とを含む。
【0006】
[0006]別の態様において、開放気泡構造、独立気泡構造、又はそれらの組み合わせを有する多孔側壁により画成される少なくとも1つのルーメンを有する弾性チューブを有する薬物リザーバ構成要素と;少なくとも1つのルーメン内に収容される薬物製剤とを含む植込み型薬物送達装置が提供され、この装置は、低プロファイルの展開形状と比較的拡がった留置形状との間で変形可能である。
【0007】
[0007]さらに別の態様において、薬物の制御送達装置用の植込み型医療装置が提供され、これは、(i)第1の薬物を含む第1の薬物製剤が装填された第1の薬物ハウジングを含む第1の薬物部分であって、第1の薬物ハウジングは、水に対しては透過性だが第1の薬物に対しては実質的に不透過性である第1の壁であって、第1の壁を貫通する少なくとも1つの通路を有する第1の壁を含み、第1の薬物部分が生体内で第1の薬物を第1の放出プロファイルに従い放出する、第1の薬物部分と;(ii)第2の薬物を含む第2の薬物製剤が装填された第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分であって、第2の薬物ハウジングが、水と第2の薬物とに対して透過性である第2の壁を含み、第2の薬物部分が生体内で第2の薬物を、第1の放出プロファイルと異なる第2の放出プロファイルに従い放出する、第2の薬物部分と;(iii)第1の薬物部分及び第2の薬物部分の双方に動作可能に連係された留置部分とを含む。
【0008】
[0008]さらなる態様において、リドカインを患者の膀胱に送達する方法が提供される。一実施形態において、本方法は、固形剤形のリドカイン塩基を収容する透水性ハウジングを含む装置を患者の膀胱内に展開する工程と;生体内でリドカイン塩基が可溶化した後、可溶化されたリドカインを装置から透水性ハウジングを通じて膀胱内に放出する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面平面図であり、この薬物部分は、浸透圧により駆動される薬物放出用に構成される。
【図2】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面平面図であり、この薬物部分は、拡散により薬物を放出するように構成される。
【図3】薬物送達装置の多孔壁の一部分の断面平面図である。
【図4】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面平面図であり、この薬物部分は、薬物放出の開始を遅延させるように構成されたプラグを含む。
【図5】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面平面図であり、この薬物部分は、薬物放出を調節するように構成されたシースを含む。
【図6】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面側面図であり、この薬物部分は、時限膜により封鎖された開口を含む。
【図7】薬物送達装置の実施形態の断面平面図である。
【図8】図7に示される薬物送達装置の断面平面図であり、展開器具内にある薬物送達装置を示す。
【図9】図7に示される薬物送達装置の断面側面図である。
【図10】薬物送達装置の留置フレームについての例示的な形状を示す。
【図11】少なくとも1つの薬物送達部分と留置フレーム部分とを有する薬物送達装置の例示的な構成を示す。
【図12】薬物送達装置の別の実施形態の平面図である。
【図13】男性患者の矢状断面図であり、展開器具を出て患者の膀胱内に入る薬物送達装置を示す。
【図14】留置形状をとる薬物送達装置を概略的に示す。
【図15】様々な構造のチューブからの塩酸リドカイン一水和物又はリドカイン塩基のいずれかの放出を時間の関数として示すグラフである。
【図16】様々な構造のチューブからの塩酸リドカイン一水和物、リドカイン塩基又はそれらの組み合わせの放出を時間の関数として示すグラフである。
【図17】様々な構造のチューブからのリドカイン塩基の放出を時間の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0026]以下では、植込み部位周辺に薬物を局所送達又は局部送達するため体腔又は管腔に植え込むことのできる植込み型装置について説明する。本開示の目的上、用語「植込み部位」は、概してヒト患者又は他の動物の体内における部位を指す。植込み部位は任意の泌尿生殖器部位、例えば数ある位置のなかでも特に、例えば、膀胱、尿道、尿管、腎臓、前立腺、精嚢、射精管、精管、腟、子宮、ファロピウス管、卵巣又は体の泌尿器系若しくは生殖器系内にある任意の他の位置であり得る。詳細な実施形態では、植込み部位は膀胱である。
【0011】
[0027]実施形態において、本装置は、最小侵襲の展開手技で体の天然の開口及び管腔を通じて展開されるように設計される。例えば装置は、天然の体管腔を通じて展開するのに適した展開形状を有し得る。装置はまた、植え込まれたときに留置形状を実現したり、又は体内に係留したりするなどして、植込み後に体内に留置されるようにも設計される。詳細な実施形態において、装置は尿道を通って膀胱内に展開することができ、植込み後は排尿の力に耐えて膀胱に留まることができる。
【0012】
[0028]植込み後、本装置は1つ又は複数の薬物を長期間にわたり放出することができる。薬物は、装置の開放部を通じた浸透圧ポンピングによるか、装置の表面を通じた拡散によるか、装置の開放部を通じた拡散によるか、又はそれらの組み合わせで放出され得る。薬物放出は連続的で、且つ所定の放出プロファイルに従うものであり得る。
【0013】
[0029]詳細な実施形態において、本装置は少なくとも2つの薬物放出部分を含み、少なくとも1つの放出部分が別の放出部分と異なる速度で薬物を放出する。放出部分は、特に、異なる構成を有することによるか、異なる薬物製剤を格納することによるか、若しくは異なる放出機構を用いることにより、又はそれらの組み合わせにより、異なる放出速度を実現し得る。放出部分を組み合わせて所望の放出プロファイルを実現し得る。例えば装置は、特に、初期放出が始まるまでの誘導時間又は遅延時間について異なる時間を呈する放出部分、放出開始後に異なる速度で、若しくは異なる放出曲線に従い薬物を放出する放出部分、又は薬物負荷が実質的に空になるまでの期間について異なる期間にわたり薬物を放出する放出部分、又はそれらの組み合わせを含み得る。異なる放出部分を組み合わせることにより、全体としての薬物送達装置からの所望の放出プロファイル、例えば、比較的短い初期遅延時間を示した後、比較的一定した速度での長期間にわたる持続的な放出を示す放出プロファイルを実現し得る。
【0014】
[0030]実施形態において、本装置には多数の固形薬物錠剤の形態の薬物が装填され、これらの薬物は従来の薬物錠剤と比べてサイズが小さいものであり得る。装置が体内への薬物の放出を制御するため、薬物それ自体は、薬物放出を制御する賦形剤をほとんど又は全く含まなくてもよい。代わりに、薬物錠剤中に存在する賦形剤は主に、又は完全に、打錠過程又は生体内での可溶化を促進するために存在し得る。従って、装置は容量基準又は重量基準で高い薬物ペイロードを提供することができ、それでもなお装置は、最小侵襲的な方法によって生体内で展開するのに十分な小ささであり得る。
【0015】
[0031]詳細な実施形態において、本薬物送達装置は、間質性膀胱炎/膀胱痛症候群、神経因性膀胱、又は疼痛などの病態を治療するため、リドカイン又は別のコカイン類似体を膀胱に比較的長期間にわたり局所送達し得る。リドカインは、多数の個別的な薬物錠剤の形態など、固体形態であってもよい。種々の形態のリドカイン、例えばリドカイン塩基及びリドカイン塩、例えば塩酸リドカイン一水和物を、単一装置から異なる放出機構によって放出し、所望の放出プロファイルを実現し得る。
【0016】
[0032]本装置は最小侵襲手技で患者に植え込んでもよく、植込み手技が終了して長く経った後に薬物を受動的に、なおかつ局所的に送達し得る。本装置が膀胱に植え込まれるとき、従来の治療の欠点の多くは解消される。本装置は一回の植込みでよく、外科手術又は頻繁なインターベンションなしに薬物を長期間にわたり放出することができるため、感染症及び副作用の可能性が低減され、膀胱に局所的又は局部的に送達される薬物量が増加し、及び治療過程における患者のライフクオリティが向上する。
【0017】
[0033]本明細書に開示される装置及び方法は、男性か女性か、成人か子供かを問わずヒトに対し、又は動物に対し、例えば獣医学若しくは畜産用途に適合し得る。本装置及び方法は、参照によって本明細書に援用される以下の米国特許出願に記載されるものに基づく:2006年8月11日に出願された米国特許出願第11/463,956号;2008年12月11日に出願された米国特許出願第12/333,182号;2009年8月10日に出願された米国特許出願第12/538,580号;2010年6月28日に出願された米国特許出願第12/825,215号;2010年6月28日に出願された米国特許出願第12/825,238号、2009年9月10日に出願された米国仮特許出願第61/241,277号、及び2010年8月5日に出願された米国仮特許出願第61/370,902号。
【0018】
I.植込み型薬物送達装置
[0034]本明細書に開示される装置の実施形態は、概して少なくとも1つの薬物部分と少なくとも1つの留置部分とを含む。薬物部分は少なくとも1つの薬物と少なくとも1つの薬物用薬物ハウジングとを含む。薬物ハウジングは、薬物が植込み部位に直接曝露されないよう少なくとも部分的に遮断するとともに、薬物の植込み部位への放出を少なくとも部分的に制御し得る。例示的な薬物部分は、各々が薬物を異なる方法で放出するように構成されるもので、図1〜図6を参照して以下に説明される。留置部分は、植込み後に装置を体内に留置する。例えば留置部分は、留置形状をとることで装置を体内に留置する留置フレーム、又は装置を体内に係留するアンカーを含み得る。装置は体内で、尿道又は他の天然の体管腔などを通じて膀胱又は他の体腔の中に展開することができる。このように植え込まれると、留置部分がそこで留置形状をとるか、又は係留することにより装置を体内に留置し、薬物部分が薬物を植込み部位に長期間にわたり放出する。以下にさらに説明するとおり、単一の留置部分に複数の異なる薬物部分を連係させて所望の薬物放出プロファイルを実現することができる。しかしながら、初めにいくつかの薬物部分の構成について説明する。
【0019】
[0035]例示的な薬物部分が図1及び図2に示される。薬物部分100、200の各々は、単一の管状壁から形成される薬物ハウジング102を含む。ハウジング102は、薬物を格納するための内部薬物リザーバ104を画定し、リザーバ104内に薬物106が配置される。薬物ハウジング102は端部が密封用構造108で閉鎖され、そこに薬物を収容する。ハウジング壁の構成により薬物の薬物リザーバから植込み部位への放出が少なくとも部分的に制御される。放出速度に影響を与える例示的な壁の特性には、数ある特性のなかでも特に、壁の水に対する透過性、壁の薬物に対する透過性、壁の厚さ、壁の多孔性、及び壁を貫通する通路、例えば開放部、開口部、穴、又は貫通孔などの存在若しくは不在、又はそれらの組み合わせが含まれる。例えば、薬物部分100は、薬物を浸透圧下で放出するための開口部110を含み、一方で薬物部分200は開口部を含まず、拡散により薬物を放出する。従って、壁の特性がリザーバからの薬物の放出速度に影響を与えるため、この壁を放出壁と見なすことができる。
【0020】
[0036]図1及び図2、並びに本明細書における他の例の薬物部分100及び200については、完全に単一の放出壁から形成された薬物ハウジングを参照して説明する。しかし当業者は、全ての壁が一体となって薬物を植込み部位から遮断し、但しそのうちの1つ又は一部のみが放出壁を構成し得るいかなる数の壁からハウジングが形成されてもよいことを理解するであろう。換言すれば、薬物は、放出に影響を与える単一の壁によって全ての側面で画成される必要はない。代わりに薬物は、一群の壁であって、そのうちの1つ又はそのうちの一部のみが放出に影響を与える壁によって画成されてもよい。加えてハウジングは、管状又はシリンダ状でない形状を含め、他の形状を有してもよい。これらの構成の全てが本開示の範囲内にある。
【0021】
[0037]いくつかの実施形態において、薬物ハウジングは可撓性であってもよく、従って薬物部分は展開中に変形することができる。例えば、壁が可撓性材料から形成されてもよい。薬物もまた、可撓性又は可動性(workable)の形態、特に、液体、半固形、粉末、又は互いに対して動くことのできる複数の個別的な固形薬物錠剤の形態であってもよい。本明細書で使用されるとき、「液体」薬物剤形は溶液及び他の液体形態の薬物を含み;「半固形」薬物剤形は、粘稠性の乳濁液又は懸濁液、ゲル、ペースト、及び他の半固形剤形の薬物を含み;及び「固形」薬物剤形は、粉末、ロッド、錠剤、ペレット、ビーズ及び他の固体形態の薬物を含む。
【0022】
[0038]いくつかの実施形態において、薬物ハウジングは透水性であってもよい。典型的には、壁は透水性材料から形成され、水が薬物ハウジングの中へとその全長又はその実質的な部分に沿って拡散することを可能にする。壁はまた、水が流れ込むことを可能にするようにその表面を完全に貫通して形成された1つ以上の開放部又は通路も有し得る。薬物ハウジング内に入り込む水は、ハウジングに装填された固形薬物錠剤を溶解させて、薬物が放出され得るようにすることができる。薬物ハウジング内に入り込む水はまた、ハウジング内に浸透圧勾配を作り出すこともでき、薬物が装置から開口部又は他の出口通路を通じて駆動されるよう促進する。
【0023】
[0039]薬物ハウジングはまた、植込み時のままで又は生体内での可溶化後に液体又は半固形のいずれかの形態である薬物が出て行くことも可能にする。壁を薬物透過性材料から形成し、薬物が薬物ハウジングを通じてその全長に沿って流れ出ることを可能としてもよい。壁はまた、少なくとも一部には薬物剤形に依存して薬物に対し半透性である材料から形成されてもよい。例えば壁は、荷電形態などの、ある形態の薬物に対しては透過性で、しかし非荷電形態などの、別の形態の薬物に対しては不透過性であってもよい(例えば、塩基形態と塩形態)。壁はまた、それを完全に貫通して形成される1つ以上の開放部又は通路を含んでもよく、薬物が薬物ハウジングから出ることを可能としてもよい。
【0024】
[0040]いくつかの実施形態において、壁は、弾性の生体適合性ポリマー材料で作製される。この材料は非吸収性であっても、又は吸収性であってもよい。例示的な非吸収性材料には、ポリ(エーテル)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ウレタン)、セルロース、酢酸セルロース、ポリ(シロキサン)、ポリ(エチレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)及び他のフッ素化ポリマー、及びポリ(シロキサン)から選択される合成ポリマーが含まれる。例示的な吸収性材料、具体的には生体分解性又は生体侵食性ポリマーには、ポリ(アミド)、ポリ(エステル)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、ポリホスファゼン、疑似ポリ(アミノ酸)、ポリ(グリセロール−セバシン酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)(PC)誘導体、アミノアルコールベースのポリ(エステルアミド)(PEA)及びポリ(オクタン−ジオールクエン酸)(poly (octane-diol citrate))(POC)、及び他の硬化性の生体吸収性エラストマーから選択される合成ポリマーが含まれる。PCベースのポリマーは、エラストマー特性を得るため、リジンジイソシアネート又は2,2−ビス(ε−カプロラクトン−4−イル)プロパンなどのさらなる架橋剤を必要とし得る。上記材料の共重合体、混合物、及び組み合わせもまた用いられ得る。
【0025】
[0041]詳細な実施形態において、壁は、透水性及び可撓性の双方を有する材料から形成されてもよい。シリコーンは、可撓性であって、且つ薄壁として形成された場合に透水性の膜として働くことのできるポリマー材料の一例であり、その透過性は、少なくとも一部には壁厚により決定される。例えば、シリコーンの薄壁は約100μm〜約1000μmの範囲の厚さを有し得るが、他の壁厚を用いることもできる。さらにシリコーンの薄壁は、例えば壁の多孔性、薬物分子のサイズ、その分子量、又はその電荷に応じて、一部の薬物に対して透過性を有し得る。例えば少なくとも一部には電荷及び/又は分子サイズの違いに起因して、シリコーンの薄壁はリドカイン塩基に対して透過性であり得るが、塩酸リドカイン一水和物に対しては実質的に不透過性であり得る。簡単にするため、本開示全体を通してシリコーン壁が参照されるが、当業者は、同等の特性を備える他の材料を使用し得ることを理解するであろう。他の好適な材料の例には、医療級のポリ(塩化ビニル)、ポリオレフィン及びポリエーテルウレタンが含まれる。
【0026】
[0042]ハウジングのサイズは、壁の厚さを含め、特に、収容される薬物製剤の容積、薬物のチューブからの所望の送達速度、装置の体内での目標植込み部位、装置に所望される機械的完全性、所望の放出速度又は水及び尿に対する透過性、初期放出が始まるまでの所望の誘導時間、及び体内への所望の挿入方法又は経路に基づき選択され得る。チューブ壁厚はチューブ材料の機械的特性及び透水性に基づき決定することができ、チューブ壁が薄過ぎると機械的完全性が不十分となり得る一方、チューブ壁が厚過ぎると、装置からの初期薬物放出に望ましくない長い誘導時間がかかったり、及び/又は尿道若しくは他の狭い体管腔を通じた送達を可能にするには可撓性が不十分となったりし得る。
【0027】
[0043]いくつかの実施形態において、壁は多孔質であってもよく、すなわち壁は1つ以上の孔を有し得る。図3に多孔壁300の拡大断面図が示される。孔の種類には、壁300内に完全に閉じ込められた孤立した孔302と、壁の表面308からその内側部分まで延在する浸透可能な孔とが含まれる。浸透可能な孔は、壁の内側部分の内部で終端となる非貫通孔304であっても、又は内側部分を完全に貫通して延在することで壁を通る画定された通路を形成する貫通孔306であってもよい。多孔壁300は独立気泡構造を有してもよく、この構造では全ての孔が孤立し、若しくは封じ込められ、又は開放気泡構造を有してもよく、この構造では孔の少なくとも一部が互いに接続し、その内表面と外表面との間に延在する貫通孔を形成する。開放気泡構造は、行き止まりとなる、又は封じ込められた孔を含み得るが、少なくとも一部には浸透可能な貫通孔が存在する。詳細な実施形態では、開放気泡構造を有する多孔壁が疑似的に独立気泡構造を呈するように、その外表面、その内表面、又はそれらの双方の周りにコーティング又はスキン層を塗布するなどして処理することができる。一例が図3に示され、ここでは多孔壁300の本来は開放気泡である構造が表面の一方をコーティング310で処理され、貫通孔306が塞がれて独立気泡構造を形成している。スキン層の形成に使用される材料は、多孔壁の形成に使用される材料と同じであっても、又は異なってもよい。例えば、スキン層はポリマー材料であってもよい。多孔壁は、非多孔壁と比較して水又は薬物に対する透過性が高くなり得るとともに、開放気泡構造を備える多孔壁は、独立気泡構造を備える多孔壁と比較して透過性が高くなり得る。
【0028】
[0044]上述のとおり、壁は、その表面を完全に貫通して形成された1つ以上の通路を有してもよく、薬物リザーバに水が流れ込む、及び/又はそこから薬物が流れ出る経路を提供し得る。この通路は、ドリル加工、打抜き、又は成形などにより壁を完全に貫通して形成された開口部であってもよい。開口部という用語は、本明細書では、開口、開放部、及び穴という用語と同義的に使用される。開口部は、壁を真っ直ぐに貫通して延在するか、僅かにテーパ状であるか、又はそれ以外であるかにかかわらず、円形又は他の形状を有し得る。図1に例示的な開口部110が示される。通路はまた、多孔壁に通じる貫通孔であってもよい。図3に例示的な貫通孔306が示される。貫通孔は、壁を通じて蛇行した通路を画定する傾向を有し得る一方、開口部は、壁を通じて直線状又はテーパ状の通路を画定する傾向を有し得る。壁は、単一の通路、離間した構成で位置決めされた通路の列、又は壁のその全長又は特定の範囲に沿って偏在する多数の通路を含み得る。開口部は個別的な位置に配設するのに好適であり得る一方、貫通孔は、例えば壁構造の全体にわたってランダムに、又は均一に分布して、より広い範囲に偏在させるのに好適であり得る。
【0029】
[0045]薬物ハウジングに薬物が装填されることにより薬物部分が形成される。薬物は薬物ハウジング内の薬物リザーバを実質的に充填し、小型の装置から送達可能な薬物ペイロードを最大化し得るが、充填することは必須ではない。薬物ペイロードはまた、装置の展開中に装填された薬物部分が変形できるように、全体として可撓性又は可動性であってもよい。液体又は半固形薬物剤形は本質的に可動性であり、植込み後の急速放出に好適であり得る。固形薬物剤形は、液体及び半固形薬物剤形と比較して容積当たりを基準として高い活性薬物含有分を有するため、薬物リザーバの空間をより有効に利用し、全体的な装置サイズを低減することが可能であり得る。固形薬物はまた、壁及び/又は壁に形成された任意の通路を通じて送り込まれる水などにより、放出前に生体内で可溶化することができる。一部の固形薬物ペイロードは、粉末状の薬物ペイロード、又は互いに対して動くことができる個別の薬物錠剤から形成されたペイロードを含め、全体として可撓性である。可撓性の固形薬物形態はまた、ハウジング内の固形薬物を分割して、装置の動きに適応する部分片を形成することにより、薬物ハウジング内に直接作製することができる。かかる技法は、ハウジングと共に押出しされた固形薬物、又は液体の状態若しくは加工可能な状態でハウジングに装填された後にハウジング内で硬化若しくは固化された固形薬物に用いられ得る。
【0030】
[0046]例示される実施形態において、薬物ペイロードは、一列に整列し、薬物リザーバを少なくともその断面に沿って実質的に充填するように付形された多数の固形薬物錠剤の形態である。薬物錠剤は延伸状の細長い「ミニ錠剤」であり、これは従来の薬物錠剤と比べて比較的小さいため、薬物錠剤が一列に装填された薬物部分を尿道又は他の天然の体管腔に挿通することができる。固形薬物錠剤の使用では、薬物錠剤は再現性のある薬物放出特性を備えて高い信頼性で製造することができ、さらには装填後にも個別の単位薬物は互いに対して動くことができるため、装置の可撓性が犠牲になることはないという事実が利用される。固形薬物錠剤並びにそれを作製するシステム及び方法の実施形態については、本明細書に援用される米国特許出願に記載されている。
【0031】
[0047]薬物製剤としては、本質的に任意の治療剤、予防剤、又は診断剤、例えば体腔若しくは管腔への局所送達又は体腔若しくは管腔の周辺への局部送達に有用であり得る薬剤が含まれ得る。本明細書で使用されるとき、本明細書に記載される任意の特定の薬物に関連する用語「薬物」は、その代替的な形態、例えば、塩形態、遊離酸形態、遊離塩基形態、及び水和物などを含む。薬物は生物学的なものであってもよい。薬物製剤は薬物のみからなってもよく、又は薬物製剤は、1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤、例えば、潤滑剤、粘度改質剤、界面活性剤、浸透圧剤、希釈剤、及び薬物の製造、装填作業性、安定性、投薬性(dispensability)、湿潤性、及び/又は放出動態を促進することを目的とした他の非有効成分を含んでもよい。
【0032】
[0048]好ましい実施形態において、各薬物錠剤は、比較的高い重量分率の薬物と比較的低い重量分率の賦形剤とを含む。例えば、各薬物錠剤は50重量%を超える薬物を含んでもよく、それにより治療有効量の薬物を比較的小型の装置に装填することが可能となる。装置からの薬物の放出速度は主に薬物ハウジングにより制御されてもよく、ハウジング特性、例えばその厚さ及び透過性を調節することにより変えることができる。従って、賦形剤含有分は第一に、製造を促進するように、且つ好適な溶解度又は溶解特性を実現するように選択してもよく、それが薬物ハウジングの構造及び材料特性と共になって装置の薬物放出プロファイルを決定する。例えば、薬物及び賦形剤の配合は、薬物錠剤を植込み後可溶化することができるように選択されてもよい。この配合はまた、膀胱内でのその見かけの尿中溶解度など、植込み環境でのその見かけの溶解度が向上するように選択されてもよい。
【0033】
[0049]いくつかの実施形態において、薬物は高溶解度薬物である。本明細書で使用されるとき、用語「高溶解度」は、水中37℃での溶解度が約10mg/mLを上回る薬物を指す。他の実施形態において、薬物は低溶解度薬物である。本明細書で使用されるとき、用語「低溶解度」は、水中37℃での溶解度が約0.01mg/mL〜約10mg/mLである薬物を指す。薬物の溶解度は、少なくとも一部にはその形態に影響され得る。例えば、水溶性塩の形態の薬物は高溶解度を有し得るが、同じ薬物で塩基形態のものは低溶解度を有し得る。一例はリドカインであり、これは可水溶性塩である塩酸リドカイン一水和物の形態の場合には約680mg/mLの高い溶解度であるが、リドカイン塩基の形態の場合には約8mg/mLの低い溶解度である。高溶解度薬物は浸透圧勾配による放出に適し得る一方、低溶解度薬物は薬物ハウジングの壁又は通路を通じた拡散による放出に適し得る。従って薬物は、目的とする放出様式に応じて高溶解度又は低溶解度を有するように配合され得る。
【0034】
[0050]詳細な実施形態において、薬物はコカイン類似体などの局所麻酔剤であってもよく、特に間質性膀胱炎/膀胱痛症候群、神経因性膀胱、又は疼痛、例えば術後痛などの病態を治療するため、膀胱に比較的長期間にわたり局所的に送達される。詳細な実施形態において、局所麻酔剤はリドカイン、例えば塩酸リドカイン一水和物又はリドカイン塩基である。局所麻酔剤はまた、任意の他のアミノアミド、アミノエステル、若しくは他の局所麻酔剤であることができ、又は薬物は局所麻酔剤以外の薬物であることができる。他の薬物の代表的な例が以下に記載され、組み合わせを用いることができる。
【0035】
[0051]植込み後、薬物が薬物ハウジングから放出され得る。薬物は、薬物ハウジングにおける開口部又は貫通孔を介した浸透圧ポンピングによるか、薬物ハウジングの壁を通じた拡散によるか、ハウジングの開口部又は貫通孔を直接通る拡散によるか、又はそれらの組み合わせにより放出され得る。薬物部分の特性を変えることによって放出を遅延させ、又は調節してもよい。例を以下に図1〜図6を参照して説明する。
【0036】
[0052]図1は、浸透圧ポンプとして動作するように構成された薬物部分を示す。薬物部分100は、水は容易に透過させるが薬物106は透過させない壁102と、極めて水溶性が高い、しかし壁102を通じては容易に拡散できない薬物106とを含む。装置が植え込まれた後、壁102を通じて水又は尿が浸透し、リザーバ104に入って薬物106を可溶化する。薬物ハウジングの内側と外側との間で浸透圧勾配が生じ始め、十分な圧力に達すると、可溶化された薬物がリザーバ104内の浸透圧により駆動され、制御された速度でリザーバ104から開口部110を通じて放出される。かかる放出様式は、本明細書では「浸透圧放出」又は「浸透圧ポンピング」と称される。浸透圧により駆動される放出に適した壁/薬物の組み合わせの一例は、塩酸リドカイン一水和物の固形薬物錠剤に関連するシリコーン薄壁である。
【0037】
[0053]薬物部分100は、浸透圧勾配を実現するのに十分な容積の薬物が可溶化される間、誘導期間を呈し得る。続いて、薬物部分100は長期間にわたりゼロ次放出速度を呈した後、減衰期間にわたり低下した非ゼロ次放出速度を呈し得る。送達速度は、数ある要因の中でも特に、壁102の表面積;壁102の厚さ;壁102の形成に使用される材料の水に対する透過性;開口部110の形状、サイズ、数及び配置;並びに薬物106の溶解プロファイルによって影響を受ける。例えば比較的薄い壁102を使用すると、水に対する透過性は薄い壁102ほど相対的に高くなり得るため、比較的厚い壁102と比べて比較的速い浸透圧ポンプをもたらすことができる。別の例として、開口部110のサイズ及び数を変化させて特定の放出速度を実現することができ、しかしながら開口部110が大き過ぎると拡散輸送が許容され得るとともに、開口部110が小さ過ぎる、又は離れ過ぎているとリザーバ104内の静水圧の上昇が生じ得る。好適な開口部110は、特に、約20μm〜約500μmの直径であり得る。浸透圧ポンプ設計の代表例、及びかかる設計を選択するための式が、本明細書に援用される米国特許出願及びTheeuwes, J. Pharm. Sci., 64(12):1987-91 (1975)に記載されている。
【0038】
[0054]浸透圧ポンピングは、透水性の壁と開口部とを有する薬物ハウジングから放出される高水溶性の薬物、例えばシリコーン壁と開口部とを有する薬物ハウジングから放出される塩酸リドカイン一水和物に対して有力な薬物放出機構であり得る。壁の薬物透過性及び開口部のサイズによっては、壁又は開口部を通じた拡散は薬物放出においてそれほど大きい役割を果たさないこともある。浸透圧放出は高水溶性の薬物について実現可能であるが、多くの薬物は水に対する溶解度が低いため、かかる放出機構に適さない。そのような場合、薬物部分は拡散により薬物を放出するように構成してもよい。
【0039】
[0055]図2は、薬物部分の壁202を通じた拡散(本明細書では「経壁拡散(trans-wall diffusion)」とも称される)により薬物206を放出する薬物部分200の実施形態を示す。装置が植え込まれた後、壁202を通じて水又は尿が浸透し、リザーバ204に入って薬物206を可溶化する。次に、装置200の内側と外側との間の薬物濃度勾配により、薬物206が制御された速度で直接壁202を通って拡散する。経壁拡散放出に適した壁/薬物の組み合わせの一例は、リドカイン塩基の固形薬物錠剤に関連するシリコーン薄壁である。
【0040】
[0056]薬物部分200は、長期間にわたりゼロ次放出速度を呈した後、減衰期間にわたり低下した非ゼロ次放出速度を呈し得る。薬物206は可溶化されると壁202を通じた拡散に直ちに利用可能となり得るため、ゼロ次放出は比較的短時間のうちに始まり得る。送達速度は、数ある要因の中でも特に、壁202の表面積;壁202の厚さ;壁202の形成に使用される材料の水及び薬物に対する透過性;薬物206の電荷又は粒度;及び薬物106の溶解プロファイルによって影響を受け得る。例えば薬物は、少なくとも一部には分子サイズの違いに起因して、荷電した状態では壁を通じて拡散可能であるが、荷電していない状態では拡散不能であってもよい。一例はリドカインであり、これは塩基として配合される場合にはシリコーン薄壁を通じて拡散することができ、しかし塩として配合される場合には拡散できない。特に、以下の実施例1で説明するとおり、リドカイン塩基は最小限の初期遅延時間でシリコーン薄壁を通じてゼロ次放出速度で拡散し得る。治療有効量のリドカインがこのようにして送達され得る。
【0041】
[0057]他の実施形態において、薬物部分は、1つ以上の開口部又は貫通孔を通じた拡散により薬物を放出してもよい。例えば図1では、薬物106は開口部110を直接通る拡散により放出されてもよく、又は図3では、薬物は貫通孔306を直接通る拡散(スキン層310が省かれる場合)により放出されてもよい。用語「拡散」は、特定の一方が明示的に指定されない限り経壁拡散にも同様に、双方に適用される。1つの開口部110のみ、及び1つの貫通孔306のみが図示されるが、複数の、又は組み合わせた開口部又は貫通孔を使用することができ、それが拡散に起因する全体的な放出速度に影響を与え得る。
【0042】
[0058]拡散は、浸透圧ポンピングなどの別の放出様式に代わり、又はそれに加えて起こり得る。通路を追加することによって放出速度が増加するかどうかは、少なくとも一部には壁の構成及び薬物の配合に応じて変わり得る。例えば、薬物を容易に拡散する壁に通路を追加しても、経壁拡散に関連する放出速度は増加しないことがあり得る。一例は、直接表面を介してリドカインを容易に拡散させるシリコーン薄壁であり、従って追加の通路は局所的な放出速度を僅かに増加させるに過ぎない。別の例として、水に対して易透過性の壁に通路を追加しても、浸透圧ポンピングに関連する放出速度は増加しないことがあり得る。一例は、易透水性のシリコーン薄壁である。
【0043】
[0059]図3に示されるとおり、薬物部分はまた独立気泡構造を備えた多孔壁300を含んでもよく、これは壁の水又は薬物に対する透過性が増加することで放出速度に影響が及び得る。透水性の高い壁ほどより多くの水が流れ込むことが可能で、より急速な浸透圧ポンピングを実現し得ると同時に、薬物透過性の高い壁ほどより多くの薬物が流れ出ることが可能で、より急速な拡散輸送を実現し得る。非貫通孔がどの程度壁の透過性に影響を与えるかは、例えば、非貫通孔がないときの壁の透過性及び薬物の溶解度又は溶解速度に依存する。例えば、易透水性である本来は非多孔性の壁に非貫通孔を追加しても、壁の水に対する透過性には影響しないこともあり得る。詳細な例は、水に対して既に(already)透過性のシリコーン薄壁である。別の例として、薬物に対して易透過性である本来は非多孔性の壁に非貫通孔を追加しても、壁の薬物に対する透過性には影響しないこともあり得る。詳細な例は、リドカイン塩基に対して易透過性のシリコーン薄壁である。この開示の目的上、用語「非多孔性の」壁は、開放気泡又は独立気泡の多孔構造を含まない壁を指す。
【0044】
[0060]図4〜図6は、植込み後の初めの薬物放出開始を遅延させる分解性時限構造を備えた薬物部分を示す。分解性時限構造は、例えば水との接触を受けて生体内で生分解し、侵食され、又は溶解する材料から形成される。分解性時限構造は最初は、水が薬物ハウジングに入って薬物を可溶化するのを防止することによるか、又は薬物が壁若しくは1つ以上の通路を通ってハウジングから出るのを防止することにより、薬物の放出を阻止又は防止する。植込み後のある時点で、分解性時限構造は部分的又は完全に溶解され、又は分解し、水の流出及び/又は薬物の放出が可能となる。従って薬物の初期放出が遅延される。遅延の長さは分解性時限構造の特性、例えばその構造材料、サイズ、及び形状などにより影響を受け得る。
【0045】
[0061]図4は、分解性時限構造が、薬物リザーバ404内で薬物406と少なくとも1つの貫通孔又は開口部410との間に位置決めされる分解性時限プラグ412である実施形態を示す。分解性時限プラグ412は通路を通じた可溶化薬物の放出を、それが浸透圧ポンピングによるか又は拡散によるかにかかわらず、分解性時限プラグ410が分解されるまで阻止する。分解性時限プラグ412は、特に、PLG、PGA、PLGA、脂質、又は多糖などの、生体吸収性又は他の形により生体内で分解性である当該技術分野において公知の様々な生体適合性材料から作製され得る。
【0046】
[0062]図5は、分解性時限構造が、壁502の少なくとも一部分の周りに位置決めされる分解性コーティング514である実施形態を示す。分解性コーティング514は、分解性コーティング514が分解されるまで水又は薬物が壁502を通過することを防止し、浸透圧ポンピング及び拡散の双方を防止する。分解性コーティング514は、例えば生体吸収性の皮膜であってもよい。
【0047】
[0063]図6は、分解性時限構造が、貫通孔又は開口部610などの通路に連係される分解性膜616である実施形態を示す。分解性膜は貫通孔又は開口部610を通じた薬物の放出を、それが浸透圧ポンピングによるか又は拡散によるかにかかわらず、分解性膜616が分解されるまで阻止する。分解性膜616は、例えば吸収性合成ポリマー(ポリエステル、ポリ(無水物)、又はポリカプロラクトンなど)又は吸収性生体材料(コレステロール、他の脂質及び脂肪)で形成されてもよい。薬物ハウジングの任意の一部分に沿ってこれらの分解性時限構造の組み合わせが用いられてもよい。例えば、分解性時限構造の1つ又は複数を薬物ハウジングの一部分又は一部の通路のみに連係させて装置の一部分からの放出を制限することで、初期の期間中の放出速度を低下させてもよい。
【0048】
[0064]薬物放出はまた、他の方法で調節されてもよい。例えば、壁の一部分を覆ってシースを配置し、壁の浸透圧表面積を低減したり、又は壁を通じた拡散を低減したりするなどして放出速度を低下させてもよい。コーティング又はシースは、壁の全て又は任意の部分を被覆してもよく、比較的均一であってもよく、又は特に、厚さ、サイズ、形状、配置、位置、向き、及び材料、及びそれらの組み合わせが変化してもよい。シリコーン壁に対する例示的なコーティングはパリレンから形成されてもよく、一方、例示的なシースは、ポリウレタン若しくは硬化性シリコーンなどのポリマー、又は当該技術分野において公知の別の生体適合性コーティング若しくはシース材料から形成されてもよい。いくつかの実施形態において、コーティング又はシースは壁において開口部と薬物部分の端部との間に位置決めされてもよく、それにより端部に隣接する壁から透過する水がハウジングのうちシースにより被覆された部分を通り抜けるよう駆動され、シースの下側に薬物が隔離されたり、又は停滞したりすることが低減又は回避される。
【0049】
[0065]薬物部分からの薬物放出速度は、リブ付け又はナブなどの突出部によって壁の特性、例えばその厚さ又は表面積を変えることにより調節してもよい。有効表面積を増加させると、植込み部位で水又は尿と接触する浸透圧表面積が増加し得るため、薬物ハウジングを通じた水の透過量が増加し得る。他方で、表面積を増加させると、特定の範囲で薬物ハウジングの厚さが増加し得るため、ハウジングを通じた水又は薬物の透過量は減少し得る。全体的な所望の放出速度を実現するための必要に応じて、リブ付け又は突出部のサイズ、形状、及び位置を選択することにより、水又は薬物の透過量を増加又は減少させることができる。
【0050】
[0066]上述のとおり、植込み型薬物送達装置は、薬物部分を留置部分と連係させることにより形成することができる。図7に例示的な実施形態が示され、ここで装置700は薬物部分702と留置部分704とを含む。薬物部分702は、薬物708を格納する薬物ハウジング706を含み、留置部分704は、留置フレーム712を格納する留置フレームハウジング710を含む。薬物ハウジング706と留置フレームハウジング710とは互いに軸方向に整列し、及び可撓性材料から形成されるため、装置700は図7に示される留置形状と、図8に示される展開形状との間で動くことが可能である。「留置形状」は、概して装置を目的の植え込み位置に留置するのに適した任意の形状を指し、これには、限定はされないが、装置を膀胱に留置するのに適した図7に示されるコイル状に巻かれた形状が含まれ、一方「展開形状」は、概して薬物送達装置を体内に展開するのに適した任意の形状を指し、これには、尿道又は他の天然の管腔に位置決めされた展開器具800のワーキングチャンネル802を通じて装置を展開するのに適した、図8に示される直線状の又は延伸した形状が含まれる。
【0051】
[0067]薬物ハウジング706は多数の固形薬物錠剤708の形態の薬物を格納し、これらの薬物は薬物ハウジング706の中に順次一列に並んで整列し、プラグ714などの、薬物ハウジング706の両端部で入口開放部を閉鎖する密封用構造によって薬物ハウジング706内に封じ込められる。隣接する薬物錠剤708の間に形成される間隙716又は切れ間により、薬物錠剤708は互いに対して動くことが可能であり、従って固形剤形の薬物が装填されるにもかかわらず装置700は可撓性である。
【0052】
[0068]薬物部分702は、図1〜図6を参照して上記に説明される特性又は構成の任意の組み合わせを有して所望の放出プロファイルを実現することができ、すなわち開口部718は提供されても、省略されても、貫通孔に置き換えられても、又は追加の開口部若しくは貫通孔により拡張されてもよく;ハウジングは開放気泡構造又は独立気泡構造を備える多孔壁を有してもよく;1つ以上の分解性時限構造又は放出調節構造をハウジングと連係させてもよく、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0053】
[0069]留置フレームハウジング710は留置フレーム712を格納し、留置フレーム712は、挿入のため展開形状に変形させることができ、且つ展開器具から出ると自発的に、或いは人の手を介して留置形状に戻ることができる弾性ワイヤであってもよい。例示的な留置フレーム712は、ニッケル−チタン合金(例えば、ニチノール(Nitinol))又はチタン−モリブデン合金(例えば、フレキシウム(Flexium))などの超弾性材料及び/又は形状記憶材料から形成されても、又はポリウレタン、シリコーン、スチレン系熱可塑性エラストマー、若しくはポリ(グリセロール−セバシン酸)(PGS)などの低弾性率エラストマーから形成されてもよい。他の好適な材料、及び組み合わせ又は材料を使用することができる。留置形状では、留置フレームは、装置が展開形状をとることを妨げる弾性限界、弾性率、及び/又はばね定数を有してもよく、装置が排尿の力などの予想される力を受けて体内から排除されることを抑制又は防止し得る。例示される形状は単に好適な形状の一例に過ぎず、それなしには排尿の力を受けてフレームが著しく変形し得るばね定数を提供する他の形状が用いられてもよい。例えば留置フレームは、約3N/m〜約60N/mの範囲、又はより詳細には約3.6N/m〜約3.8N/mの範囲のばね定数を有し得る。かかるばね定数は、フレームの直径を増加させることによるか、フレームの1つ以上の巻き、コイル、若しくは湾曲部の曲率を増加させることによるか、フレームにさらなる巻き、コイル、若しくは湾曲部を追加することによるか、又はそれらの組み合わせにより実現され得る。
【0054】
[0070]図7の線9−9に沿った装置700の断面図である図9に示されるとおり、薬物ハウジング706及び留置フレームハウジング710は、概して、対応する装置構成要素を格納するための内部ルーメンを画定する壁である。一つの壁720が薬物ハウジング706を画定し、別の壁722が留置フレームハウジング710を画定する。壁720、722は単一の装置本体となるよう共に一体形成され、装置本体の形成に使用される材料が弾性又は可撓性であることにより、装置700は展開形状と留置形状との間で動くことが可能であり得る。例示される壁720、722は、実質的にシリンダ状のルーメンを画定する実質的にシリンダ状の管であり、薬物リザーバルーメンは留置フレームルーメンと比べて比較的大きい直径を有する。
【0055】
[0071]他の装置構成が本開示の範囲内にあり、その一部は参照により本明細書に援用される同時係属中の特許出願にさらに説明される。例えば、2つの部分は互いに対して他の相対配置を有することができ、これには、一方の部分が他方と軸方向に整列する配置、一方の部分が他方から離間される配置、一方が他方を包み込む配置、又は一方の部分が他方と一致する配置が含まれる。2つの部分は互いに一体形成することができ、又は間欠的に、或いはその全長に沿って互いに取り付けることができる。2つの部分は異なる相対長さ及び寸法を有することができ、一方の部分が他方より短く、一方の部分が他方より長く、一方の部分が他方より大きい断面を有し、又は一方の部分が他方より小さい断面を有し得る。いずれの部分も、例示されるシリンダ形状以外の異なる形状、例示される単一の管状壁以外の異なる数の壁、及び可撓性の壁以外の異なるタイプの壁を有することができる。2つのハウジングは装置本体に一体形成されるのではなく、個別に作製されて組み立てられてもよく、及び2つのルーメンは互いに個別的なものである必要はなく、代わりに全体的に、或いは部分的に一体化されてもよい。
【0056】
[0072]薬物錠剤は、薬物ハウジングの構成に応じて、順次一列に並ぶ以外の任意の並び方で整列し得る。薬物錠剤は、示されるとおりの薬物ハウジング全体ではない薬物ハウジングの任意の部分を充填し得る。シリコーン接着剤などの充填材料を使用して、薬物錠剤が装填されない薬物ハウジングの任意の部分を充填することができ、又は空気を使用して装置の浮力を増加させてもよい。薬物錠剤の組成は装置に沿って同じであっても、又は変化してもよい。薬物はまた、他の液体、半固形、又は固形剤形など、薬物錠剤以外の形態であってもよい。
【0057】
[0073]留置部分は、留置部分が留置形状をとるか、留置部分が薬物部分に留置形状をとらせるか、又は留置部分が装置を体に係留するかのいずれかによって装置を体内に留置させる他の構成を有してもよい。留置部分が留置ハウジング内に留置フレームを含む実施形態では、留置ハウジングは、留置フレームに塗布されてその外面を軟化させるコーティングなどの他の構成を有し得る。留置フレームは、展開するために延伸させるか、又は他の方法で変形させることができ、且つ植込み後、排泄に対して予想される力を受けて抵抗するのに十分なばね定数、弾性限界、及び/又は弾性率を呈することのできる他の形状を有し得る。留置フレーム部分は、1つ以上の巻き、コイル、又はらせんを有し得る。留置フレームは、一平面に留まる二次元構造を有してもよく、又は留置フレーム部分は、回転楕円体の内部を占有する三次元構造を有してもよい。図10に例が示され、ここで例A〜例Gが示すフレームは1つ以上のループ、カール、又は小環部を含み、それらが、直線的に、或いは半径方向に接続され、同じ方向又は互い違いの方向に曲がって、重なり合い、又は重なりがなく、及び例H〜例Nが示すフレームは、二次元構成又は三次元構成に配置された1つ以上の環又は楕円であって、開放した、或いは閉じた環又は楕円を含み、同じ又は異なるサイズを有し、重なり合い、又は重なりがなく、且つ1つ以上の接続点で共につなぎ合わされている。留置フレーム部分はまた、球空間、扁長回転楕円形状を有する空間、又は扁平回転楕円形状を有する空間などの回転楕円形状の空間を占有する、又はその周りを巻回する形状の三次元構造であってもよい。例O〜例Sは、球空間を占有する、又はその周りを巻回する形状の留置フレーム部分を示し、各留置フレーム部分を、球で表現したフレームの上に示す。留置フレーム部分は概して、例Oに示されるとおり異なる平面にある2つの交差する環の形状、例Pに示されるとおり異なる平面にある2つの交差する環であって、内側に丸まった端部を有する環の形状、例Qに示されるとおり異なる平面にある3つの交差する環の形状、又は例Rに示されるとおり球面らせんの形状をとり得る。これらの例の各々において、留置フレーム部分は、展開器具を通じて展開するため例Sに示される直線状の形状に伸ばすことができる。留置フレーム部分は、様々な他の方法によって球空間又は他の回転楕円形状の空間の周りに、又はそこに通して巻回することができる。留置フレーム及び留置ハウジングの一方又は双方が省略されてもよく、その場合に留置部分は、留置形状をとり得るか、若しくは留置形状に変形し得る薬物部分それ自体の構成要素であってもよく、又は留置部分は薬物部分と連係されたアンカーであってもよい。代替的な構成の例が、参照によって本明細書に援用される米国特許出願に記載される。
【0058】
[0074]代替的な構成のさらなる例が図11に示される。例A〜例Eに示されるとおり、1つ又は複数の薬物部分は留置部分の中間領域又は端部に取り付けられてもよく、薬物部分は留置部分の内側に、又はその周囲を越えて位置し、その端部は留置部分に取り付けられるか、又はそれに重なり得る。例F〜例Oは、少なくとも部分的に整列した薬物部分と留置部分とを有する装置の断面を示す。換言すれば、薬物部分は留置部分の一部分又は全長に沿って、留置部分と実質的に平行に、又は一致して延在してもよい。例F〜例Iに示されるとおり、留置フレームワイヤは、薬物部分の壁の外表面に沿って、壁の内表面に沿って、壁を通って、或いは壁の内側又は外側の補強範囲の中に延在し得る。例J〜例Lに示されるとおり、留置フレームはまた、ウェブにより支持されたチューブの内側の範囲内に配置されてもよく、ウェブはチューブを複数の画室に仕切ってもよい。ウェブは、画室が互いに連通するよう有孔であるか、若しくは他の形で不連続であってもよく、又はウェブは、画室が互いに分離されて異なるリザーバを形成するように比較的連続的であってもよい。実施形態に応じて、ウェブはチューブと同じ材料から形成されても、又は水若しくは尿に対する透過性が異なる材料から形成されてもよい。例M〜例Oに示されるとおり、弾性ワイヤはチューブに沿って、又はチューブの間に延在して、複数のチューブと連係されてもよい。弾性ワイヤは、複数の別個のチューブを一体に接合する補強範囲に埋設されてもよい。薬物部分が留置部分も構成してもよく、これは上記に説明したとおり、薬物部分が装置を体内に留置するのに十分なばね定数を有する構成で形成されたチュービングを含む場合などである。上述の変形例のいずれかを組み合わせて、所望の特性の装置を実現することができる。
【0059】
[0075]詳細な実施形態において、薬物送達装置は、単一の留置部分と連係した少なくとも2つの個別的な、又は分離された薬物部分を含む。薬物部分は、各々が留置部分と連係した個別の薬物ハウジングであってもよく、又は薬物部分は、留置部分と連係した単一の薬物ハウジング内にある個別の範囲であってもよい。図11は、例C〜例Eにおいて、個別のハウジングを備えた例示的な薬物部分を示す。図11はまた、例J〜例Lにおいて、単一のハウジング内の分離された範囲である例示的な薬物部分も示す。図11はまた、例M〜例Oにおいて、材料及び構成に応じていずれの構成も有し得る薬物部分を示す。
【0060】
[0076]図12は、複数の分離された薬物部分となるよう仕切られた薬物ハウジングを有する薬物送達装置1200の別の実施形態の平面図である。3つの薬物部分1202、1204、及び1206が図示されるが、任意の数を用いることができる。各薬物部分は、薬物ハウジングの壁の一部分と、その薬物部分を隣接する薬物部分と隔てる少なくとも1つの仕切り構造1208とにより画定される。仕切り構造1208は、特に、シリンダ、球、又はディスクなどの、ハウジングに挿入されたプラグであってもよく、これはそのサイズによって、又は接着剤で所定位置に固定される。仕切り構造1208はまた、中に成形などにより形成されたハウジングの一部分であってもよい。例えば、図11の例J〜例Lに示されるウェブは仕切り構造であり、薬物部分を装置の長さに沿って分離する。
【0061】
[0077]少なくとも2つの個別部分を備える装置は、少なくとも2つの薬物ペイロードを対応する数の薬物リザーバから制御放出するのに適し得る。2つの個別部分は、図1〜図6を参照して上記に説明する構成の一つ又は任意の組み合わせなど、同じ構成を有しても、又は異なる構成を有してもよい。2つの薬物ペイロードは、特に、有効成分含有分又は賦形剤含有分などの含有分;塩形態又は塩基形態などの形態;液体、半固形、又は固形状態などの状態;又はそれらの組み合わせに関して、互いに同じであってもよく、又は互いに異なってもよい。従って2つの個別部分は2つの薬物ペイロードを、同時に、又は異なる時点で、同じ速度で、又は異なる速度で、同じ放出機構、又は異なる放出機構を介して、又はそれらの任意の組み合わせで放出し得る。
【0062】
[0078]例えば、一つの薬物部分がその薬物ペイロードを植込み後比較的急速に放出するように構成されてもよく、及び別の薬物部分が誘導時間を経てから放出を始めるように構成されてもよく、又はそれらの組み合わせであってもよい。異なる薬物部分にある2つのペイロードの放出の開始は段階的であってもよい。速放性の薬物部分の例には、比較的薄い壁を有するシリコーンチューブなどの、比較的速効性の浸透圧ポンプとして動作する薬物部分、液体剤形又は特別に配合された固形剤形などの、速放性の剤形の薬物が装填された薬物部分、比較的速効性の分解性時限構造と連係した薬物部分、又はそれらの組み合わせが含まれる。従ってこの装置は、初期の急性相の間と維持相の間とに薬物を放出し得る。
【0063】
[0079]別の例として、一つの薬物部分がその薬物ペイロードを他の薬物ペイロードと比べて比較的速い速度で放出するように構成されてもよい。例えば、一つの薬物部分が、植込み後比較的早く始まる拡散放出のため低水溶性の薬物ペイロードを格納してもよく、別の薬物部分が、誘導期間後に浸透圧放出する高水溶性の薬物ペイロードを格納してもよい。別の例として、一つの薬物部分が、速効分解性時限膜を有する開口部を通じて急速放出される液体状態の薬物ペイロードを格納してもよく、別の薬物部分が、生体内での可溶化後に持続放出される固形錠剤の別の薬物ペイロードを格納してもよい。さらに別の例として、一つの薬物部分が比較的中実の壁を有し得る一方、別の薬物部分が、その壁を貫通して形成された複数の開口部若しくは孔を有してもよく、それにより拡散による放出速度が増加し得るか、又は独立気泡の多孔壁を有してもよく、それにより壁を通じた水又は薬物の透過が増加するため放出速度が増加し得る。
【0064】
[0080]放出部分は、所望の放出プロファイルを実現するように組み合わされ得る。例えばこの装置は、特に、初期放出が始まるまでの誘導時間又は遅延時間について異なる時間を呈する放出部分、放出開始後に異なる速度で、若しくは異なる放出曲線に従い薬物を放出する放出部分、又は薬物負荷が実質的に空になるまでの期間について異なる期間にわたり薬物を放出する放出部分、又はそれらの組み合わせを含み得る。別個の放出部分を組み合わせることにより、全体としての薬物送達装置からの所望の放出プロファイル、例えば、比較的短い初期遅延時間を示した後、比較的一定した速度での長期間にわたる持続的な放出を示す放出プロファイルを実現し得る。
【0065】
[0081]実施形態において、薬物部分の1つ又は複数は、装置の浮力を向上させるため空のままとされ得る。かかる薬物部分は空気及び水に対して低透過性を呈する材料から形成され、又はそれで被覆され、水の流入及び空気の流出が低減され得る。
【0066】
[0082]薬物部分の総容積は、単一の治療コースにわたる局所送達又は局部送達に必要な全ての薬物を収容するのに十分であり、特定の病態の治療に必要な手技の回数が低減される。
【0067】
[0083]装置の一つの詳細な例が図12に示され、これは、リドカインの3つの異なるペイロードを3つの異なる放出プロファイルに従い放出する3つの別個の薬物部分1202、1204、1206を含む装置1200を示す。各薬物部分は、シリコーン薄壁により形成された薬物ハウジング内にリドカインを含む。リドカイン薬物部分の1つ又は複数は、錠剤など固形の形態であってもよい。シリコーン薄壁は、少なくとも一部にはその電荷及び/又は分子の大きさに起因して、水及びリドカイン塩基に対しては透過性であるが、塩酸リドカイン一水和物に対しては不透過性である。図12では、明確にするため薬物錠剤は図示されないことに留意されたい。
【0068】
[0084]第1の個別部分1202は、主に経壁拡散により放出されるリドカイン塩基の固形薬物錠剤を格納する。第1の個別部分1202は開口部を含まない。動作時、水は壁を通じて浸透し、ハウジングに入って低水溶性のリドカインを可溶化する。可溶化された薬物は、制御された形での壁を通じた拡散に直ちに利用可能となる。放出速度は、数日間又は数週間などの長期間にわたり相対的にゼロ次で、その後減衰期間となってもよい。
【0069】
[0085]第2の個別部分1204は、例えば錠剤の形態の、主に浸透圧放出される固形塩酸リドカイン一水和物を格納する。第2の個別部分1204は少なくとも1つの開口部1210を含む。動作時、水は壁を通じて浸透して高水溶性のリドカイン錠剤を可溶化し、浸透圧勾配を作り出す。十分な圧力が生じると、薬物は装置から開口部1210を通って制御された形で圧送される。放出速度は、浸透圧勾配が生じる間は数時間などの初期誘導期間を呈し得、その後数日間又は数週間などの長期間にわたり相対的にゼロ次となった後、減衰期間となる。シリコーンの塩酸リドカイン一水和物に対する透過性は不十分であるため、壁を通じた拡散は最小限であり得る。開口部を通じた拡散が放出速度に寄与し得るが、かかる拡散は、開口部のサイズを適切に選択することによって制御することができる。
【0070】
[0086]第3の個別部分1206は、薬物放出の開始を遅延させるように構成された分解性時限構造を有する。例示される実施形態において、第3の個別部分1206は第2の個別部分1204と同様の構成を有し、開口部1210から浸透圧放出される塩酸リドカイン一水和物錠剤を格納する。第3の個別部分1206はまた、開口部1210の下側に位置決めされた、流出又は流入を当初遮断する分解性プラグ1212も含む。植込み後のある時点で、分解性プラグ1212は部分的又は完全に溶解又は分解し、薬物が開口部から流れ出ることが可能となる。第3の個別部分1206は他の分解性時限構造、例えば分解性時限コーティングと共に使用するのに適した他の構成を有し得ることに留意しなければならない。
【0071】
[0087] 単一の装置において複数の個別の薬物部分1202、1204、1206を組み合わせることにより、1200は所望のリドカイン放出プロファイルを呈し得る。装置1200からの全体としての放出プロファイルは、3つの個別部分1202、1204、1206の放出プロファイルの合計であってもよく、第1の部分1202は放出の開始前に最小限の遅延時間を呈し、第2の部分1204は、浸透圧勾配が生じるため短い誘導期間を呈し、第3の部分1206は、分解性構造が溶解又は分解するためより長い開始前の遅延を呈する。いずれか1つの部分からの放出が始まると、放出速度は長期間にわたり相対的にゼロ次で、その後減衰期間となり得る。3つの個別部分1202、1204、1206は例であり、任意の数又は組み合わせの個別部分を使用して所望の放出プロファイルを実現し得ることに留意しなければならない。
【0072】
[0088]異なる薬物部分1202、1204、1206は、単に単一の管状ハウジング内の分離された範囲に過ぎないため、装置1200は有利には作製及び展開が比較的単純であり得るが、それでもなお異なる薬物部分は、異なる薬物ペイロード、開口部の配設、及び分解性時限構造によって異なる放出プロファイルを呈する。薬物部分1202、1204、1206が、例えば異なる材料、厚さ、又は多孔気泡構造の壁を使用する他の実施形態では、ハウジングはその長さに沿って変化してもよく、又は図11に例示されるとおり個別の薬物ハウジングが使用されてもよい。このように、制御放出は様々な方法で実現され得る。
【0073】
[0089]複数の異なる放出機構を介して薬物を放出することに加え、装置1200は、図7に示される装置700と僅かに異なる形状及び構成を有する。例えば、装置1200の端部は装置700の端部と比べて比較的直線状であり、装置1200の留置フレームは比較的直線的な端部部分を有するのに対し、装置700の留置フレーム712は比較的湾曲した端部部分を有する。比較的直線的な端部部分を備える留置フレームは、薬物の装填時及びその後にハウジングを穿刺することが少なく、植込み後に装置に不具合が起こるリスクが低減され得る点で、有益であることが分かっている。しかしながら、いずれの留置フレーム形状も用いられ得る。
【0074】
[0090]さらに、装置が留置形状にあるとき、留置部分は薬物部分に対していかなる配向で置かれてもよく、薬物部分の内側、外側、上側、若しくは下側に位置し得るか、又は装置が植込み部位を通って動くに従い、薬物部分に対して動き得る。例えば、装置700は薬物部分の周囲より内側に位置する留置部分を含む一方、装置1200は薬物部分より下側に(従って留置部分が図12では見えないように)位置する留置部分を含む。2つの部分間の特定の配向は、留置フレームを装填した後、留置フレームハウジングに充填材料、例えばシリコーン接着剤を充填して維持することができる。充填材料は硬化又は固化され、一方の部分が他方に対して動くことが防止され得る。留置部分の薬物部分に対する配向を維持する他の手段もまた用いることができる。
【0075】
[0091]開口部は、装置の周囲の内側、装置の周囲の外側、又は装置の上側面若しくは下側面に位置決めされ得る。例えば装置700は、装置の外周に配置された開口部718を含み、一方、装置1200は、装置の上側平面に配置された開口部1208を含む。装置の内周又は上側面若しくは下側面に位置決めされた開口部は、有利には、膀胱壁などの植込み部位の一部分に直接隣接して位置決めされて多量の薬物が一つの特定の位置に送達されることが起こりにくくなり得る。開口部はまた、薬物ハウジングの壁と留置フレームハウジングの壁との間に画定される溝又は刻み目として形成されてもよく、従って壁は、開口部が植込み部位に直接隣接して位置決めされることを妨げる緩衝材として機能する。例えば、装置700の開口部718はむしろ、壁720と壁722との間の溝又は刻み目として形成され得る。
【0076】
[0092]製造を容易にするため、開口部は、図9に示されるとおり、薬物ハウジングのうち留置ハウジングと反対側にある壁を貫通して形成され得る。開口部が留置ハウジングの反対側に配置される場合、留置部分を上述のとおり装置の下側に固定し、従って図12に示されるとおり、開口部が装置の上側に位置決めされるようにして、開口部が装置の外周に配置されるようになるリスクを低減することが望ましいこともある。しかしながら、図7及び図12に示される構成の任意の組み合わせを含め、他の構成が可能である。
【0077】
H.植込み型薬物送達装置の作製方法
[0093]本明細書に記載される植込み型薬物送達装置は、様々な方法で形成することができる。装置の一つの作製方法は、(i)1つ又は複数の薬物部分を形成する工程と、(ii)留置部分を形成する工程と、(iii)1つ又は複数の薬物部分を留置部分と連係させる工程とを含む。薬物部分は、薬物ハウジングを形成し、その薬物ハウジングに薬物を装填することにより形成され得る。留置フレーム部分は、留置フレームハウジングを形成し、その留置フレームハウジング内に留置フレームを装填することにより形成され得る。薬物部分を留置部分と連係させる工程は、2つのハウジングを共に一体形成することによるか、又は接着剤若しくは他の好適な取付け手段で続いて2つのハウジングを取り付けることによるなど、2つの部分を互いに取り付ける工程を含み得る。これらの工程は、繰り返し行うこと及び/又は同時に行うことを含め、他の順序で実施されてもよい。
【0078】
[0094]薬物ハウジング及び留置フレームハウジングの一方又は双方は、特に、射出成形、圧縮成形、押出成形、トランスファー成形、インサート成形、熱成形、鋳込み、又はそれらの組み合わせにより形成され得る。2つのハウジングは図9に示されるタイプの単一の装置本体となるよう共に成形又は押出しされてもよく、その場合ハウジングは、それらが形成されたままで互いに連係されたものであり得る。2つのハウジングを個別に作製して組み立てることも企図される。他の技法もまた用いられ得る。例えば、留置フレームハウジングは留置フレームにオーバーモールディングされてもよい。
【0079】
[0095]薬物ハウジングが形成されると、薬物ハウジングに薬物錠剤が装填される。固形薬物錠剤の細長い薬物ハウジングへの装填は、錠剤をハウジングへの入口近傍に配置し、装置と流体連通する空気のシリンジを押圧するなど、加圧ガスを使用して錠剤をハウジング内に推進させることにより行われ得る。装填後、薬物錠剤は、薬物ハウジングの端部を栓塞又は密閉するなどして薬物ハウジング内に密閉され得る。固形薬物錠剤は、直接圧縮及び成形などの、公知の薬物錠剤製造法を用いて作製することができる。薬物錠剤の詳細な作製及び装填方法が、参照によって本明細書に援用される米国特許出願第12/825,215号に記載される。
【0080】
[0096]装置が複数の異なる放出プロファイルに従い薬物を放出するように構成される実施形態では、複数の個別の異なる薬物ハウジングが形成され、装填され、及び留置部分と連係され得る。また単一の薬物ハウジングが複数の個別の薬物リザーバに仕切られ、その各々に薬物が装填されてもよい。例えば、図12の細長い管状の薬物ハウジングは、薬物リザーバルーメン内に1つ以上の仕切り構造の配置を、薬物錠剤の装填と交互に行うことにより仕切られ得る。管状ハウジングはまた、その内面の長さに沿って延在するウェブを含むようにハウジングを成形又は押出しするなどして、その長さに沿って仕切られてもよい。
【0081】
[0097]薬物ハウジングには、レーザードリル加工、レーザーアブレーション、機械的な打ち抜き、又はインデンタを用いる成形などにより、チューブに薬物を装填する前、或いはその後に1つ以上の開口部が形成されてもよい。薬物ハウジングはまた、多孔質にされてもよい。多孔質エラストマー構造は、溶液中のポリマー又はポリマー前駆体への細孔形成剤の添加を含め、当該技術分野において公知の任意の好適な方法を用いて生じさせることができる。好適な細孔形成剤には、重炭酸ナトリウムなどのガス発生剤、並びにポリ(エチレングリコール)(PEG)及びソルビトールなどの水浸出性でポリマー不溶性の添加剤が含まれる。多孔質ハウジングの、その外表面上、その内表面上、又はその双方にスキン層を配置して独立気泡構造を形成してもよい。
【0082】
[0098]シース又はコーティングなどの1つ以上の放出制御構造が、薬物部分の表面の少なくとも一部分を覆って配設されてもよく、ハウジング壁の水又は薬物に対する透過性を変えることで薬物の放出速度を制御し得る。
【0083】
[0099]開口部の1つ又は複数からの薬物の初期放出時間を制御するため、ハウジング内において開口部に隣接して生体吸収性プラグが配置されてもよく、又は開口部を覆って、又は開口部内に分解性膜が配置されてもよい。分解性膜の形成は、開口部の一端、例えばハウジングの外表面の開放部内又はその上などに流体をマイクロインジェクトするか、又はインクジェットプリントして膜を形成することにより行われ得る。流体は、溶媒中に溶解した吸収性材料を含む溶液、非溶媒中に吸収性材料を含む懸濁液、又は液化した吸収性材料であってもよい。
【0084】
[0100]留置フレームは、例えば超弾性合金若しくは形状記憶材料から弾性ワイヤを形成し、自然に留置形状をとるように弾性ワイヤを熱処理などによって「仕込む(programming)」ことにより作製されてもよい。次に留置フレームは留置フレームハウジングに挿入され得る。留置フレームの端部を真っ直ぐにしたり、鈍端にしたり、又はその断面を増加させたりすることによるか、フレーム挿入中に2つの表面間で留置ハウジングを僅かに圧縮して開口を延ばすことによるか、又はこれらの組み合わせなどにより、留置フレームがハウジングを穿刺する可能性を低減し得る。留置フレームを装填した後に留置ハウジングに充填材料、例えばシリコーン接着剤を充填することにより、留置ハウジングが伸びたり、捩れたり、又は留置フレームの周りに回転したりする傾向を低減し得る。留置フレームが低弾性率のエラストマーを含む実施形態では、フレームは、フレームがばねとして機能するように1つ以上の巻き、コイル、ループ又はらせんを含んで形成されてもよい。例えば留置フレームは、特に、押出し、液状射出成形、トランスファー成形、又はインサート成形により形成されてもよい。本開示に基づき当業者に明らかな他の製造方法を用いることもできる。
【0085】
III.植込み型薬物送達装置の使用及び適用
[0101]本明細書に記載される植込み型薬物送達装置は様々な医学的用途、特に患者の治療処置及び予防処置において用いられ得る。
【0086】
[0102]詳細な実施形態において、本装置は患者に痛みの緩和を提供する。様々な麻酔剤、鎮痛剤、及びそれらの組み合わせを使用することができる。実施形態において、本装置は1つ以上の局所麻酔剤を送達する。局所麻酔剤はコカイン類似体であってもよい。詳細な実施形態において、局所麻酔剤は、アミノアミド、アミノエステル、又はそれらの組み合わせである。アミノアミド又はアミドクラスの麻酔剤の代表的な例には、アルチカイン、ブピバカイン、カルチカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、及びトリメカインが含まれる。アミノエステル又はエステルクラスの麻酔剤の代表的な例には、アミロカイン、ベンゾカイン、ブタカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン、ヘキシルカイン、ラロカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、オルトカイン、ピペロカイン、プロカイン、プロパラカイン、プロポキシカイン、プロキシメタカイン、プロカイン、リソカイン及びトラカインが含まれる。これらの局所麻酔薬は典型的には弱塩基であり、塩、例えば塩酸塩として配合されて水溶性にされ得るが、麻酔剤はまた、遊離塩基又は水和物の形態で使用することもできる。他の麻酔剤、例えばロントカイン(lontocaine)もまた用いられ得る。薬物はまた、オキシブチニン又はプロピベリンなどの、麻酔作用を呈する抗ムスカリン化合物であってもよい。薬物はまた、本明細書に記載される他の薬物も、単独で、又は局所麻酔剤との組み合わせで含み得る。
【0087】
[0103]特定の実施形態において、鎮痛剤にはオピオイドが含まれる。オピオイド作動薬の代表的な例には、アルフェンタニル、アリルプロジン、アルファプロジン、アニレリジン、ベンジルモルフィン、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、デソモルフィン、デキストロモラミド、デゾシン、ジアンプロミド、ジアモルフォン(diamorphone)、ジヒドロコデイン、ジヒドロモルフィン、ジメノキサドール、ジメフェプタノール、ジメチルチアンブテン、ジオキサフェチルブチラート、ジピパノン、エプタゾシン、エトヘプタジン、エチルメチルチアンブテン、エチルモルヒネ、エトニタゼン フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、ケトベミドン、レボルファノール、レボフェナシルモルファン、ロフェンタニル、メペリジン、メプタジノール、メタゾシン、メサドン、メトポン、モルヒネ、ミロフィン、ナルブフィン、ナルセイン、ニコモルフィン、ノルレボルファノール、ノルメタドン、ナロルフィン、ノルモルヒネ、ノルピパノン、アヘン、オキシコドン、オキシモルホン、パパベレタム、ペンタゾシン、フェナドキソン、フェノモルファン、フェナゾシン、フェノペリジン、ピミノジン、ピリトラミド、プロヘプタジン、プロメドール、プロペリジン、プロピラム、プロポキシフェン、スフェンタニル、チリジン、トラマドール、その薬学的に許容可能な塩、及びその混合物が含まれる。他のオピオイド薬物、例えば、μ、κ、δ、及び侵害受容オピオイド受容体作動薬などが企図される。
【0088】
[0104]他の好適な疼痛緩和剤の代表的な例には、サリチルアルコール、塩酸フェナゾピリジン、アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸、フルフェニサール、イブプロフェン、インドプロフェン、インドメタシン、ナプロキセンなどの薬剤が含まれる。
【0089】
[0105]実施形態において、薬物送達装置を使用して、間質性膀胱炎、放射線膀胱炎、膀胱痛症候群、前立腺炎、尿道炎、術後痛、及び腎結石などの炎症性の病態が治療される。これらの病態に特異的な薬物の非限定的な例には、リドカイン、グリコサミノグリカン(例えば、コンドロイチン硫酸、スロデキシド)、ペントサンポリ硫酸ナトリウム(PPS)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、オキシブチニン、マイトマイシンC、ヘパリン、フラボキサート、ケトロラク、又はそれらの組み合わせが含まれる。腎結石には、痛みを処置し、及び/又は結石の溶解を促進する1つ以上の薬物が選択され得る。
【0090】
[0106]いくつかの実施形態では、薬物送達装置は尿管ステントの留置に関連して、例えば尿管ステント留置により引き起こされる痛み、尿意切迫又は尿意頻数を治療するために使用される。かかる治療に特異的な薬物の非限定的な例には、特に、抗ムスカリン薬、α遮断薬、麻薬、及びフェナゾピリジンが含まれる。
【0091】
[0107]薬物送達装置を使用して、例えば、急迫性尿失禁及び神経性失禁を含む尿失禁、尿意頻数、又は尿意切迫、並びに膀胱三角炎を治療することができる。用いられ得る薬物には、抗コリン剤、鎮痙剤、抗ムスカリン剤、β−2アゴニスト、αアドレナリン作動薬、抗痙攣薬、ノルエピネフリン取り込み阻害薬、セロトニン取り込み阻害薬、カルシウムチャネル遮断薬、カリウムチャネル開口薬、及び筋弛緩剤が含まれる。失禁の治療に好適な薬物の代表的な例には、オキシブチニン、S−オキシブチチン(S-oxybutytin)、エメプロニウム、ベラパミル、イミプラミン、フラボキサート、アトロピン、プロパンテリン、トルテロジン、ロシベリン、クレンブテロール、ダリフェナシン、テロジリン、トロスピウム、ヒヨスチアミン、プロピベリン、デスモプレシン、バミカミド、臭化クリジニウム、ジサイクロミンHCl、グリコピロレートアミノアルコールエステル、臭化イプラトロピウム、臭化メペンゾラート、臭化メトスコポラミン、臭化水素酸スコポラミン、臭化イオトロピウム(iotropium bromide)、フマル酸フェソテロジン、YM−46303(山之内製薬株式会社、日本)、ランペリゾン(日本化薬株式会社、日本)、イナペリゾン、NS−21(Nippon Shinyaku Orion、Formenti、日本/イタリア)、NC−1800(日本ケミファ株式会社、日本)、ZD−6169(Zeneca Co.、英国)、及びヨウ化スチロニウムが含まれる。
【0092】
[0108]他の実施形態では、薬物送達装置を使用して、膀胱癌及び前立腺癌などの尿路癌が治療される。用いられ得る薬物には、抗増殖剤、細胞傷害剤、化学療法剤、又はそれらの組み合わせが含まれる。尿路癌の治療に好適であり得る薬物の代表的な例には、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、シスプラチン、ドキソルビシン、バルルビシン、ゲムシタビン、マイコバクテリア細胞壁−DNA複合体(MCC)、メトトレキサート、ビンブラスチン、チオテパ、マイトマイシン、フルオロウラシル、ロイプロリド、ジエチルスチルベストロール、エストラムスチン、酢酸メゲストロール、シプロテロン、フルタミド、選択的エストロゲン受容体調節薬(すなわちタモキシフェンなどのSERM)、ボツリヌス毒素、及びシクロホスファミドが含まれる。薬物は生物学的なものであってもよく、モノクローナル抗体、TNF阻害薬、アンチロイキンなどを含み得る。薬物はまた、イミキモド又は別のTLR7アゴニストを含め、TLRアゴニストなどの免疫調節薬であってもよい。薬物はまた、特に、線維芽細胞成長因子受容体−3(FGFR3)選択的チロシンキナーゼ阻害薬、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害薬、又はマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)阻害薬などのキナーゼ阻害薬又はそれらの組み合わせであってもよい。他の例には、セレコキシブ、エロロチニブ(erolotinib)、ゲフィチニブ、パクリタキセル、ポリフェノンE、バルルビシン、ネオカルチノスタチン、アパジコン、ベリノスタット、インゲノールメブテート、ウロシジン(Urocidin)(MCC)、プロキシニウム(Proxinium)(VB 4845)、BC 819(BioCancell Therapeutics)、キーホールリンペットヘモシアニン、LOR 2040(Lorus Therapeutics)、ウロカニン酸、OGX 427(OncoGenex)、及びSCH 721015(Schering-Plough)が含まれる。薬物治療は、癌性組織を標的とする従来の放射線療法又は外科的療法と併用されてもよい。
【0093】
[0109]さらに他の実施形態では、本装置を使用して、膀胱、前立腺、及び尿道の関与する感染症が治療される。かかる感染症の治療には、抗生物質、抗細菌薬、抗真菌薬、抗原虫薬、消毒薬、抗ウイルス薬及び他の抗感染剤を投与することができる。感染症の治療用薬物の代表的な例には、マイトマイシン、シプロフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、メタンアミン、ニトロフラントイン、アンピシリン、アモキシシリン、ナフシリン、トリメトプリム、スルホンアミド系のトリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、メトロニダゾール、テトラサイクリン、カナマイシン、ペニシリン、セファロスポリン、及びアミノグリコシドが含まれる。
【0094】
[0110]他の実施形態では、本装置を使用して、膀胱又は子宮などの泌尿生殖器部位の線維症が治療される。類線維腫の治療用薬物の代表的な例には、ペントクスフィリン(pentoxphylline)(キサンチン類似体)、抗TNF剤、抗TGF剤、GnRH類似体、外因性プロゲスチン、抗プロゲスチン、選択的エストロゲン受容体調節薬、ダナゾール及びNSAIDsが含まれる。
【0095】
[0111]植込み型薬物送達装置を使用して、神経因性膀胱もまた治療され得る。神経因性膀胱の治療用薬物の代表的な例には、リドカイン、ブピバカイン、メピバカイン、プリロカイン、アルチカイン、及びロピバカインなどの鎮痛薬又は麻酔薬;抗コリン作動薬;オキシブチニン又はプロピベリンなどの抗ムスカリン薬;カプサイシン又はレシニフェラトキシンなどのバニロイド;M3ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)に作用するものなどの抗ムスカリン薬;バクロフェンなどのGABABアゴニストを含む鎮痙剤;ボツリヌス毒素;カプサイシン;αアドレナリン拮抗薬;抗痙攣薬;アミトリプチリンなどのセロトニン再取り込み阻害薬;及び神経成長因子アンタゴニストが含まれる。様々な実施形態において、薬物は、Reitz et al., Spinal Cord 42:267-72 (2004)に記載されるとおり、膀胱求心性神経に作用するもの又は遠心性コリン作動性伝達に作用するものであってもよい。
【0096】
[0112]神経因性膀胱の治療用薬物は、2つの一般的なタイプのうちの一方に分類することができる:痙性神経因性膀胱の治療用及び弛緩性神経因性膀胱の治療用。実施形態において、薬物は、神経因性排尿筋過活動及び/又は排尿筋の柔軟性の低さに起因する失禁の治療用として公知のものから選択される。例としては、膀胱弛緩薬(例えば、オキシブチニン(顕著な筋弛緩活性及び局所麻酔活性を有する抗ムスカリン剤)、プロピベリン、インプラトロプリウム(impratroprium)、チオトロピウム、トロスピウム、テロジリン、トルテロジン、プロパンテリン、オキシフェンサイクリミン、フラボキサート、及び三環系抗うつ薬;膀胱及び尿道を支配する神経を遮断する薬物(例えば、バニロイド(カプサイシン、レシニフェラトキシン)、ボツリヌス毒素A);又は排尿筋収縮強度、排尿反射、排尿筋括約筋協調不全を調節する薬物(例えば、GABAbアゴニスト(バクロフェン)、ベンゾジアザピン(benzodiazapine))が含まれる。他の実施形態において、薬物は、神経学的な括約筋不全に起因する失禁の治療用として公知のものから選択される。例としては、αアドレナリン作動薬、エストロゲン、βアドレナリン作動薬、三環系抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリン)が含まれる。さらに他の実施形態では、薬物は、排尿を促進することが公知のものから選択される(例えば、αアドレナリン拮抗薬(フェントラミン)又はコリン作動薬)。さらに他の実施形態では、薬物は、抗コリン作動薬(例えば、ジサイクロミン)、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ベラパミル)トロパンアルカロイド(例えば、アトロピン、スコポラミン)、ノシセプチン/オルファニンFQ、及びベタネコール(例えば、m3ムスカリン作動薬、コリンエステル)の中から選択される。
【0097】
[0113]本装置は体腔又は管腔に植え込まれ得る。植込み後、装置は1つ以上の病態を治療するための1つ以上の薬物を、展開部位における1つ以上の組織に局所的に、展開部位より遠位の他の組織に局部的に、或いはその双方に放出し得る。放出は長期間にわたり制御され得る。その後、装置は取り出されるか、吸収されるか、排泄されるか、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0098】
[0114]特定の実施形態において本装置は、展開器具に装置を挿通し、装置を展開器具から体内に解放することにより植え込まれる。展開器具は、市販のものか、又は装置の展開に特別に適合したものであるかに関わらず、カテーテル、尿道カテーテル、膀胱鏡、又はそれらの組み合わせなどの任意の好適なルーメン装置であってもよい。詳細な実施形態において本装置は、図13に示されるとおり膀胱に植え込まれる。成人男性の解剖学的構造が例として示されるが、装置は他の場合には女性ヒト患者又は小児患者に植え込まれ得る。展開器具1302が尿道から膀胱に挿入され、その展開器具1302に装置1300が挿通され、例えばスタイレット又は潤滑剤若しくは他の流体の流れにより推進されて、最終的に装置1300は膀胱内に出る。次に装置は、留置形状をとるか、又は膀胱に係留するなどして、留置機能によって膀胱に留置される。留置形状をとる装置の例が図14に示され、これは装置が展開器具1402を出るに従い留置形状をとる装置1400を示す。
【0099】
[0115]本装置は、独立した手技で、又は別の泌尿器科の若しくは他の手技若しくは手術と併せて、他の手技の前、その最中、或いはその後に展開され得る。装置は、治療又は予防のために局所組織及び/又は局部組織に送達される1つ以上の薬物を、周術期、術後、或いはその双方に放出し得る。
【0100】
[0116]生体内での展開後、装置は薬物を放出する。放出は装置の内側と外側との間の浸透圧勾配により起こってもよく、薬物は浸透圧の力を受けて装置の1つ以上の穴又は貫通孔を通過する。放出はまた拡散により起こってもよく、ここでは装置の内側と外側との間の薬物濃度勾配により、薬物は装置の1つ以上の開口又は貫通孔及び/又は装置の薬物透過性の壁を通過する。単一の装置内にこれらの放出様式を組み合わせることが可能であり、いくつかの実施形態では、いずれか一方の様式単独では容易に実現できない全体的な薬物放出プロファイルを実現するために、それが好ましい。
【0101】
[0117]薬物の剤形の選択は放出動態に影響を与え得る。例えば、乳剤、懸濁液、及び溶液の形態の薬物を含む液体薬物は、植込み後の即時放出に利用可能であり得る一方、固形剤形の薬物は、概して放出前に生体内で可溶化される必要がある。詳細には、植込み部位からの体液が、装置の透水性の壁又は壁にある通路を通るなどして装置に入り込み、薬物を溶解し得る。例えば、装置が膀胱に植え込まれる場合には、薬物は尿と接触することで可溶化されてもよい。
【0102】
[0118]詳細な実施形態において、少なくとも2つの薬物ペイロードの放出が異なる放出プロファイルに従い起こってもよく、これには、即時放出と遅延放出など、異なる初期の放出開始を呈するプロファイル;急速放出と持続放出など、異なる放出期間を呈するプロファイル;及びゼロ次放出速度か、又はその他かどうかの、異なる放出速度を呈するプロファイルが含まれる。装置からの全体的な放出プロファイルは、個別の薬物ペイロードに関連する個別化された放出プロファイルの総和であってもよい。従って所望のプロファイルに従う連続放出及び持続放出が促進される。例えば、装置は第1のペイロード、例えば液体ペイロード又は速効性浸透圧ポンプとして動作するハウジング内のペイロードを比較的急速に放出してもよく、装置は第2のペイロードを、より低速の浸透圧ポンプとして動作するハウジングなどから継続的に放出してもよい。
【0103】
[0119]薬物の放出はまた、装置の構成に基づき遅延させ、又は調節してもよい。例えば、初期の薬物放出の開始は、分解性時限構造、例えば、装置の開口部を被覆する時限膜、装置の開口部を塞ぐ時限プラグ、又は装置の外面の少なくとも一部分の周りの時限コーティングが分解し、それにより保護された開口部又は壁を通じて水が流れ込み、及び/又は薬物が流れ出ることが可能となるまで遅延させてもよい。
【0104】
[0120]本装置は、所望の所定時間にわたる所望の分量の薬物の持続的、連続的、間欠的、又は周期的な放出をもたらし得る。様々な実施形態において、装置は、12時間、24時間、5日間、7日間、10日間、14日間、又は20、25、30、45、60、若しくは90日間、又はそれ以上など、長期間にわたり所望の用量の薬物を送達することができる。薬物の送達速度及び投薬量は、送達される薬物及び治療される疾患又は病態に応じて選択することができる。
【0105】
[0121]続いて、装置が非吸収性であるか、又は他の形で除去が必要な場合など、装置は体内から回収され得る。このための回収装置は当該技術分野において公知であり、又は特別に作製することができる。装置はまた、装置全体が吸収されるか、或いは装置が排尿中に膀胱から排除されるのに十分なまで分解されるなど、完全に、又は部分的に生体吸収性で、従って回収が不要であってもよい。装置は、薬物の一部、又は好ましくは薬物のほとんど若しくは全てが放出されるまで、回収又は吸収されなくてもよい。必要であれば、続いて新しい薬物が装填された装置が、回収と同じ手技中に、又は後になって、植え込まれてもよい。
【0106】
[0122]一実施形態において、自蔵式薬物ペイロードを有する植込み型装置が膀胱内で完全に展開され、少なくとも1つの薬物の持続的な局所送達を有効量で局所的に膀胱にもたらす。装置の生体内での展開後、薬物のペイロードの少なくとも一部分は、尿路上皮に対して、及び可能性としては近接する組織に対して、治療の提供又は患者の膀胱機能の改善に有効な量で長期間にわたり実質的に連続的に装置から放出される。好ましい実施形態において、装置は膀胱内に留まりながら薬物を所定の期間にわたり、例えば2週間、3週間、4週間、1ヶ月、又はそれ以上放出する。その場合、装置を使用して、間質性膀胱炎、放射線膀胱炎、骨盤痛、過活動膀胱症候群、膀胱癌、神経因性膀胱、神経障害性若しくは非神経障害性膀胱括約筋不全、感染症、術後痛又は膀胱に送達される薬物で治療される他の疾患、障害、及び病態を治療することができる。装置は、膀胱容量、コンプライアンス、及び/又は無抑制収縮の頻度などの膀胱機能を改善する薬物、膀胱又は他の近接範囲における痛み及び不快感を低減する薬物、又は他の効果を有する薬物、又はそれらの組み合わせを送達し得る。
【0107】
[0123]いくつかの実施形態において、薬物送達装置は、1つ以上の近接した泌尿生殖器部位に薬物を局部送達するため患者の膀胱内に展開される。装置は薬物を膀胱に局所的に、及び膀胱に近接した他の部位に局部的に放出し得る。膀胱に展開される装置はまた、治療有効量の1つ以上の薬物を体内の他の泌尿生殖器部位に、特に、腎臓の一方若しくは双方、尿道、尿管の一方若しくは双方、陰茎、精巣、精嚢の一方若しくは双方、精管の一方若しくは双方、射精管の一方若しくは双方、前立腺、腟、子宮、卵巣の一方若しくは双方、又はファロピウス管の一方若しくは双方、又はそれらの組み合わせを含めた、身体の泌尿器系又は生殖器系の範囲内における他の位置などにも送達し得る。例えば、膀胱内薬物送達装置は、数ある疾患、障害、及び病態の中でも特に、腎結石又は線維症、勃起障害の治療に使用することができる。かかる送達は、望ましくない副作用を伴ったり、又は薬物のバイオアベイラビリティが不十分となったりし得る全身投与に代わる手段を提供することができる。
【0108】
[0124]詳細な実施形態では、薬物送達装置が膀胱内に植え込まれて局所麻酔剤が局所送達され、それにより泌尿生殖器組織における疾患又は障害などの任意の疼痛源に起因する痛み、又は任意の膀胱の手技、特に、外科手術、カテーテル処置、アブレーション、医療装置の植込み、又は結石若しくは異物の摘出から生じる痛みが管理される。例えば、局所麻酔剤を膀胱内に放出することで近接部位に局部送達し、医療装置の尿管中の、若しくは尿管を通じた通過に関連する術後痛、又は膀胱から離れた部位における他の術後痛などの、任意の疼痛源に起因する近接する痛みを管理することができる。
【0109】
[0125]詳細な実施形態において、リドカインのペイロードを有する装置が膀胱に送達されてもよく、リドカインが装置から長期間にわたり継続的に放出されてもよい。膀胱の尿路上皮へのリドカインの局所送達は、点滴投与によって長期間にわたり達成され得る濃度を上回るが、しかし点滴投与で観察される高い初期ピークはなく、且つ著しい全身濃度のない、持続的なレベルのリドカインを実現するようにして提供され得る。従って、植え込むペイロードは少なくてもよく、装置が不具合を起こした場合の全身作用のリスクが低減される。固形剤形のリドカインを植え込むことにより、装置のサイズを低減し、膀胱刺激作用及び患者の不快感を低減することがさらに可能となる。リドカインは尿のpHに関わらず送達され得る。
【0110】
[0126]リドカインは、初期急性相の間、及び維持相の間、膀胱に継続的に放出され得る。例えば装置は、リドカインの少なくとも2つのペイロードを異なる放出プロファイルに従い放出してもよい。ペイロードの一つは、浸透圧勾配の力を受けて開口から放出される塩酸リドカイン一水和物を含んでもよく、一方、もう一つのペイロードは、拡散により装置の壁を通じて放出されるリドカイン塩基を含んでもよい。リドカイン塩基は可溶化されると直ちにハウジングを通じた拡散に利用可能となり得るため、この薬物は初期放出前に経る遅延がより短いことがあり得る。塩酸リドカイン一水和物が経る初期放出前の遅延は、浸透圧勾配を作り出すのに十分な薬物が可溶化されるまでなど、より長いことがあり得る。以下の非限定的な実施例を参照することにより、本発明がさらに理解され得る。
【実施例】
【0111】
実施例1:様々な形態のリドカインのシリコーンチューブを通じた拡散
[0127]管状薬物ハウジングのシリコーン壁を通じた拡散によるリドカインの送達の実現可能性を判断する試験を実施した。装置は、各々が約3cmの長さを有するシリコーンチューブから形成された。総ペイロードを約60mgとして、塩酸リドカイン一水和物又はリドカイン塩基のいずれかの薬物錠剤を装置に装填した。装置は約37℃の水中においてインビトロで試験した。図15に示される放出プロファイルデータは、開口部を含まないシリコーン壁を通じた拡散によるリドカイン塩基の送達が実行可能であることを実証している。
【0112】
[0128]管状薬物ハウジングのシリコーン壁を通じた拡散によるリドカインの送達の実現可能性を判断する試験を実施した。装置は、各々が約0.060インチの内径、0.076インチの外径、及び約3cmの長さを有するシリコーンチューブから形成された。総ペイロードを約60mgとして、リドカインの固形薬物錠剤を装置に装填した。装置の一部はチューブ壁を貫通して形成された開口部を含み、開口部は直径が150μmであった。これらの装置に、塩酸リドカイン一水和物(LHM)又は塩酸リドカイン一水和物とリドカイン塩基との組み合わせ(L)のいずれかの固形錠剤を装填した。他の装置は開口部を含まないもので、リドカイン塩基の固形薬物錠剤を装填した。装置は約37℃の水中においてインビトロで試験した。図16に示される放出プロファイルデータは、開口部を含まないシリコーン壁を通じた拡散によるリドカイン塩基の送達が実行可能であることを実証している。
【0113】
[0129]シリコーン壁を通じた拡散及びシリコーン壁の開口部からの拡散によるリドカイン塩基の送達の実現可能性を調べる別の試験を実施した。装置は、約3cmの長さを有するシリコーンチューブから形成された。総ペイロードを約60mgとして、リドカイン塩基の固形薬物錠剤を装置に装填した。5つの装置が約0.060インチの内径及び0.076インチの外径を有した。第1の装置は直径が約150μmの1個の開口部を有し、第2の装置は直径が各々約360μmの2個の開口部を有し、第3の装置は直径が各々約360μmの30個の開口部を有し、第4の装置は直径が各々約360μmの60個の開口部を有し、及び第5の装置は開口部を有しなかった。第6の装置は内径が約0.062インチ、外径が0.095インチで、及び開口部を有しなかった。これらの装置は約37℃の水中においてインビトロで試験した。図17に示される放出プロファイルデータは、開口部を全く含まないシリコーンチューブからリドカイン塩基が放出され得ること、及び装置に開口部を加えることにより放出速度が増加し得ることを実証している。
【0114】
実施例2:リドカイン塩基が装填されたシリコーンベースの装置の例示的な放出速度
[0130]開口部を有しない管状シリコーン壁から形成される2つの薬物部分の理論的な放出速度を計算した。理論的な放出は、主としてシリコーン壁を通じた拡散により起こる。定常状態の放出速度(R)は、壁の透過性(D)、壁の内径(ID)、壁の外径(OD)、壁の長さ(L)、及び薬物の溶解度(S)の関数であり、R=(2DSL)/In(OD/ID)である。ペイロードが60mgのリドカイン塩基、長さが3cm、内径が1.52mm、及び外径が1.93mmの管状シリコーン薬物部分を計算すると、13mg/日の放出速度が示された。ペイロードが800mgのリドカイン塩基、長さが14cm、内径が2.58mm、及び外径が3.31mmの別の管状シリコーン薬物部分を計算すると、57mg/日の放出速度が示された。
【0115】
[0131]前述の説明及び図では、例示を目的として植込み型薬物送達装置の特定の実施形態を詳細に開示しているが、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく変形例及び改良例を実現し得ることを理解するであろう。例えば、一実施形態の一部として例示され、又は説明される特徴を別の実施形態で使用して、さらに別の実施形態をもたらすことができる。かかる変形例及び改良例は全て、以下の特許請求の範囲及びその均等物により保護されるとおりの、本開示の範囲内に含まれることが意図される。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本願は、2009年9月10日に出願された米国仮特許出願第61/241,277号の利益を主張し、2010年6月28日に出願された米国特許出願第12/825,215号の一部継続出願であって、及び2010年8月5日に出願された米国特許出願第12/851,494号に対する優先権を主張するものであり、これらの各々は全体として参照により本明細書に援用される。
【0002】
[0002]本開示は薬物の制御送達に関し、詳細には、薬物を制御放出するため患者の膀胱内又は別の部位内に展開することができる植込み型装置に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]米国特許出願公開第2007/0202151号及び同第2009/0149833号は、患者の体腔又は管腔、例えば膀胱において最小侵襲で展開及び留置される薬物送達装置について記載している。これらの装置は、排尿に伴う力を受けるなどしても排泄されないよう抵抗する。例えば、装置は留置フレームを含んでもよい。留置フレームは、体内に展開するため比較的低プロファイルとなるよう構成され得るとともに、植込み後は比較的拡がったプロファイルをとって留置を促進し得る。装置は、所定の方法で長期間にわたる薬物の制御放出を提供し得る。いくつかの実施形態では、装置は、薬物を格納するための薬物リザーバと、薬物を放出するための少なくとも1つの開口部とを画定する透水性シリコーンチューブを含む。薬物は、固形剤形の塩酸リドカインなどの高水溶性薬物であってもよく、及び生体内の薬物放出機構は、部分的に、又は主に、浸透圧ポンプ機構であってもよい。例えば膀胱に展開される装置からの、生体内での薬物放出動態の制御性を向上させるさらなる技法、構造、及び/又は製剤が提供されたならば望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0004]リドカイン又は他の薬物を患者に送達するための植込み型装置及び方法が提供される。
【0005】
[0005]一態様において、本装置は、リドカインの薬学的に許容可能な塩を含む固形剤形の第1の薬物製剤を収容する第1の薬物ハウジングを有する第1の薬物部分と;リドカイン塩基を含む第2の薬物製剤を収容する第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分とを含む。
【0006】
[0006]別の態様において、開放気泡構造、独立気泡構造、又はそれらの組み合わせを有する多孔側壁により画成される少なくとも1つのルーメンを有する弾性チューブを有する薬物リザーバ構成要素と;少なくとも1つのルーメン内に収容される薬物製剤とを含む植込み型薬物送達装置が提供され、この装置は、低プロファイルの展開形状と比較的拡がった留置形状との間で変形可能である。
【0007】
[0007]さらに別の態様において、薬物の制御送達装置用の植込み型医療装置が提供され、これは、(i)第1の薬物を含む第1の薬物製剤が装填された第1の薬物ハウジングを含む第1の薬物部分であって、第1の薬物ハウジングは、水に対しては透過性だが第1の薬物に対しては実質的に不透過性である第1の壁であって、第1の壁を貫通する少なくとも1つの通路を有する第1の壁を含み、第1の薬物部分が生体内で第1の薬物を第1の放出プロファイルに従い放出する、第1の薬物部分と;(ii)第2の薬物を含む第2の薬物製剤が装填された第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分であって、第2の薬物ハウジングが、水と第2の薬物とに対して透過性である第2の壁を含み、第2の薬物部分が生体内で第2の薬物を、第1の放出プロファイルと異なる第2の放出プロファイルに従い放出する、第2の薬物部分と;(iii)第1の薬物部分及び第2の薬物部分の双方に動作可能に連係された留置部分とを含む。
【0008】
[0008]さらなる態様において、リドカインを患者の膀胱に送達する方法が提供される。一実施形態において、本方法は、固形剤形のリドカイン塩基を収容する透水性ハウジングを含む装置を患者の膀胱内に展開する工程と;生体内でリドカイン塩基が可溶化した後、可溶化されたリドカインを装置から透水性ハウジングを通じて膀胱内に放出する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面平面図であり、この薬物部分は、浸透圧により駆動される薬物放出用に構成される。
【図2】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面平面図であり、この薬物部分は、拡散により薬物を放出するように構成される。
【図3】薬物送達装置の多孔壁の一部分の断面平面図である。
【図4】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面平面図であり、この薬物部分は、薬物放出の開始を遅延させるように構成されたプラグを含む。
【図5】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面平面図であり、この薬物部分は、薬物放出を調節するように構成されたシースを含む。
【図6】薬物送達装置の薬物部分の実施形態の断面側面図であり、この薬物部分は、時限膜により封鎖された開口を含む。
【図7】薬物送達装置の実施形態の断面平面図である。
【図8】図7に示される薬物送達装置の断面平面図であり、展開器具内にある薬物送達装置を示す。
【図9】図7に示される薬物送達装置の断面側面図である。
【図10】薬物送達装置の留置フレームについての例示的な形状を示す。
【図11】少なくとも1つの薬物送達部分と留置フレーム部分とを有する薬物送達装置の例示的な構成を示す。
【図12】薬物送達装置の別の実施形態の平面図である。
【図13】男性患者の矢状断面図であり、展開器具を出て患者の膀胱内に入る薬物送達装置を示す。
【図14】留置形状をとる薬物送達装置を概略的に示す。
【図15】様々な構造のチューブからの塩酸リドカイン一水和物又はリドカイン塩基のいずれかの放出を時間の関数として示すグラフである。
【図16】様々な構造のチューブからの塩酸リドカイン一水和物、リドカイン塩基又はそれらの組み合わせの放出を時間の関数として示すグラフである。
【図17】様々な構造のチューブからのリドカイン塩基の放出を時間の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0026]以下では、植込み部位周辺に薬物を局所送達又は局部送達するため体腔又は管腔に植え込むことのできる植込み型装置について説明する。本開示の目的上、用語「植込み部位」は、概してヒト患者又は他の動物の体内における部位を指す。植込み部位は任意の泌尿生殖器部位、例えば数ある位置のなかでも特に、例えば、膀胱、尿道、尿管、腎臓、前立腺、精嚢、射精管、精管、腟、子宮、ファロピウス管、卵巣又は体の泌尿器系若しくは生殖器系内にある任意の他の位置であり得る。詳細な実施形態では、植込み部位は膀胱である。
【0011】
[0027]実施形態において、本装置は、最小侵襲の展開手技で体の天然の開口及び管腔を通じて展開されるように設計される。例えば装置は、天然の体管腔を通じて展開するのに適した展開形状を有し得る。装置はまた、植え込まれたときに留置形状を実現したり、又は体内に係留したりするなどして、植込み後に体内に留置されるようにも設計される。詳細な実施形態において、装置は尿道を通って膀胱内に展開することができ、植込み後は排尿の力に耐えて膀胱に留まることができる。
【0012】
[0028]植込み後、本装置は1つ又は複数の薬物を長期間にわたり放出することができる。薬物は、装置の開放部を通じた浸透圧ポンピングによるか、装置の表面を通じた拡散によるか、装置の開放部を通じた拡散によるか、又はそれらの組み合わせで放出され得る。薬物放出は連続的で、且つ所定の放出プロファイルに従うものであり得る。
【0013】
[0029]詳細な実施形態において、本装置は少なくとも2つの薬物放出部分を含み、少なくとも1つの放出部分が別の放出部分と異なる速度で薬物を放出する。放出部分は、特に、異なる構成を有することによるか、異なる薬物製剤を格納することによるか、若しくは異なる放出機構を用いることにより、又はそれらの組み合わせにより、異なる放出速度を実現し得る。放出部分を組み合わせて所望の放出プロファイルを実現し得る。例えば装置は、特に、初期放出が始まるまでの誘導時間又は遅延時間について異なる時間を呈する放出部分、放出開始後に異なる速度で、若しくは異なる放出曲線に従い薬物を放出する放出部分、又は薬物負荷が実質的に空になるまでの期間について異なる期間にわたり薬物を放出する放出部分、又はそれらの組み合わせを含み得る。異なる放出部分を組み合わせることにより、全体としての薬物送達装置からの所望の放出プロファイル、例えば、比較的短い初期遅延時間を示した後、比較的一定した速度での長期間にわたる持続的な放出を示す放出プロファイルを実現し得る。
【0014】
[0030]実施形態において、本装置には多数の固形薬物錠剤の形態の薬物が装填され、これらの薬物は従来の薬物錠剤と比べてサイズが小さいものであり得る。装置が体内への薬物の放出を制御するため、薬物それ自体は、薬物放出を制御する賦形剤をほとんど又は全く含まなくてもよい。代わりに、薬物錠剤中に存在する賦形剤は主に、又は完全に、打錠過程又は生体内での可溶化を促進するために存在し得る。従って、装置は容量基準又は重量基準で高い薬物ペイロードを提供することができ、それでもなお装置は、最小侵襲的な方法によって生体内で展開するのに十分な小ささであり得る。
【0015】
[0031]詳細な実施形態において、本薬物送達装置は、間質性膀胱炎/膀胱痛症候群、神経因性膀胱、又は疼痛などの病態を治療するため、リドカイン又は別のコカイン類似体を膀胱に比較的長期間にわたり局所送達し得る。リドカインは、多数の個別的な薬物錠剤の形態など、固体形態であってもよい。種々の形態のリドカイン、例えばリドカイン塩基及びリドカイン塩、例えば塩酸リドカイン一水和物を、単一装置から異なる放出機構によって放出し、所望の放出プロファイルを実現し得る。
【0016】
[0032]本装置は最小侵襲手技で患者に植え込んでもよく、植込み手技が終了して長く経った後に薬物を受動的に、なおかつ局所的に送達し得る。本装置が膀胱に植え込まれるとき、従来の治療の欠点の多くは解消される。本装置は一回の植込みでよく、外科手術又は頻繁なインターベンションなしに薬物を長期間にわたり放出することができるため、感染症及び副作用の可能性が低減され、膀胱に局所的又は局部的に送達される薬物量が増加し、及び治療過程における患者のライフクオリティが向上する。
【0017】
[0033]本明細書に開示される装置及び方法は、男性か女性か、成人か子供かを問わずヒトに対し、又は動物に対し、例えば獣医学若しくは畜産用途に適合し得る。本装置及び方法は、参照によって本明細書に援用される以下の米国特許出願に記載されるものに基づく:2006年8月11日に出願された米国特許出願第11/463,956号;2008年12月11日に出願された米国特許出願第12/333,182号;2009年8月10日に出願された米国特許出願第12/538,580号;2010年6月28日に出願された米国特許出願第12/825,215号;2010年6月28日に出願された米国特許出願第12/825,238号、2009年9月10日に出願された米国仮特許出願第61/241,277号、及び2010年8月5日に出願された米国仮特許出願第61/370,902号。
【0018】
I.植込み型薬物送達装置
[0034]本明細書に開示される装置の実施形態は、概して少なくとも1つの薬物部分と少なくとも1つの留置部分とを含む。薬物部分は少なくとも1つの薬物と少なくとも1つの薬物用薬物ハウジングとを含む。薬物ハウジングは、薬物が植込み部位に直接曝露されないよう少なくとも部分的に遮断するとともに、薬物の植込み部位への放出を少なくとも部分的に制御し得る。例示的な薬物部分は、各々が薬物を異なる方法で放出するように構成されるもので、図1〜図6を参照して以下に説明される。留置部分は、植込み後に装置を体内に留置する。例えば留置部分は、留置形状をとることで装置を体内に留置する留置フレーム、又は装置を体内に係留するアンカーを含み得る。装置は体内で、尿道又は他の天然の体管腔などを通じて膀胱又は他の体腔の中に展開することができる。このように植え込まれると、留置部分がそこで留置形状をとるか、又は係留することにより装置を体内に留置し、薬物部分が薬物を植込み部位に長期間にわたり放出する。以下にさらに説明するとおり、単一の留置部分に複数の異なる薬物部分を連係させて所望の薬物放出プロファイルを実現することができる。しかしながら、初めにいくつかの薬物部分の構成について説明する。
【0019】
[0035]例示的な薬物部分が図1及び図2に示される。薬物部分100、200の各々は、単一の管状壁から形成される薬物ハウジング102を含む。ハウジング102は、薬物を格納するための内部薬物リザーバ104を画定し、リザーバ104内に薬物106が配置される。薬物ハウジング102は端部が密封用構造108で閉鎖され、そこに薬物を収容する。ハウジング壁の構成により薬物の薬物リザーバから植込み部位への放出が少なくとも部分的に制御される。放出速度に影響を与える例示的な壁の特性には、数ある特性のなかでも特に、壁の水に対する透過性、壁の薬物に対する透過性、壁の厚さ、壁の多孔性、及び壁を貫通する通路、例えば開放部、開口部、穴、又は貫通孔などの存在若しくは不在、又はそれらの組み合わせが含まれる。例えば、薬物部分100は、薬物を浸透圧下で放出するための開口部110を含み、一方で薬物部分200は開口部を含まず、拡散により薬物を放出する。従って、壁の特性がリザーバからの薬物の放出速度に影響を与えるため、この壁を放出壁と見なすことができる。
【0020】
[0036]図1及び図2、並びに本明細書における他の例の薬物部分100及び200については、完全に単一の放出壁から形成された薬物ハウジングを参照して説明する。しかし当業者は、全ての壁が一体となって薬物を植込み部位から遮断し、但しそのうちの1つ又は一部のみが放出壁を構成し得るいかなる数の壁からハウジングが形成されてもよいことを理解するであろう。換言すれば、薬物は、放出に影響を与える単一の壁によって全ての側面で画成される必要はない。代わりに薬物は、一群の壁であって、そのうちの1つ又はそのうちの一部のみが放出に影響を与える壁によって画成されてもよい。加えてハウジングは、管状又はシリンダ状でない形状を含め、他の形状を有してもよい。これらの構成の全てが本開示の範囲内にある。
【0021】
[0037]いくつかの実施形態において、薬物ハウジングは可撓性であってもよく、従って薬物部分は展開中に変形することができる。例えば、壁が可撓性材料から形成されてもよい。薬物もまた、可撓性又は可動性(workable)の形態、特に、液体、半固形、粉末、又は互いに対して動くことのできる複数の個別的な固形薬物錠剤の形態であってもよい。本明細書で使用されるとき、「液体」薬物剤形は溶液及び他の液体形態の薬物を含み;「半固形」薬物剤形は、粘稠性の乳濁液又は懸濁液、ゲル、ペースト、及び他の半固形剤形の薬物を含み;及び「固形」薬物剤形は、粉末、ロッド、錠剤、ペレット、ビーズ及び他の固体形態の薬物を含む。
【0022】
[0038]いくつかの実施形態において、薬物ハウジングは透水性であってもよい。典型的には、壁は透水性材料から形成され、水が薬物ハウジングの中へとその全長又はその実質的な部分に沿って拡散することを可能にする。壁はまた、水が流れ込むことを可能にするようにその表面を完全に貫通して形成された1つ以上の開放部又は通路も有し得る。薬物ハウジング内に入り込む水は、ハウジングに装填された固形薬物錠剤を溶解させて、薬物が放出され得るようにすることができる。薬物ハウジング内に入り込む水はまた、ハウジング内に浸透圧勾配を作り出すこともでき、薬物が装置から開口部又は他の出口通路を通じて駆動されるよう促進する。
【0023】
[0039]薬物ハウジングはまた、植込み時のままで又は生体内での可溶化後に液体又は半固形のいずれかの形態である薬物が出て行くことも可能にする。壁を薬物透過性材料から形成し、薬物が薬物ハウジングを通じてその全長に沿って流れ出ることを可能としてもよい。壁はまた、少なくとも一部には薬物剤形に依存して薬物に対し半透性である材料から形成されてもよい。例えば壁は、荷電形態などの、ある形態の薬物に対しては透過性で、しかし非荷電形態などの、別の形態の薬物に対しては不透過性であってもよい(例えば、塩基形態と塩形態)。壁はまた、それを完全に貫通して形成される1つ以上の開放部又は通路を含んでもよく、薬物が薬物ハウジングから出ることを可能としてもよい。
【0024】
[0040]いくつかの実施形態において、壁は、弾性の生体適合性ポリマー材料で作製される。この材料は非吸収性であっても、又は吸収性であってもよい。例示的な非吸収性材料には、ポリ(エーテル)、ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ウレタン)、セルロース、酢酸セルロース、ポリ(シロキサン)、ポリ(エチレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)及び他のフッ素化ポリマー、及びポリ(シロキサン)から選択される合成ポリマーが含まれる。例示的な吸収性材料、具体的には生体分解性又は生体侵食性ポリマーには、ポリ(アミド)、ポリ(エステル)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、ポリホスファゼン、疑似ポリ(アミノ酸)、ポリ(グリセロール−セバシン酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)(PC)誘導体、アミノアルコールベースのポリ(エステルアミド)(PEA)及びポリ(オクタン−ジオールクエン酸)(poly (octane-diol citrate))(POC)、及び他の硬化性の生体吸収性エラストマーから選択される合成ポリマーが含まれる。PCベースのポリマーは、エラストマー特性を得るため、リジンジイソシアネート又は2,2−ビス(ε−カプロラクトン−4−イル)プロパンなどのさらなる架橋剤を必要とし得る。上記材料の共重合体、混合物、及び組み合わせもまた用いられ得る。
【0025】
[0041]詳細な実施形態において、壁は、透水性及び可撓性の双方を有する材料から形成されてもよい。シリコーンは、可撓性であって、且つ薄壁として形成された場合に透水性の膜として働くことのできるポリマー材料の一例であり、その透過性は、少なくとも一部には壁厚により決定される。例えば、シリコーンの薄壁は約100μm〜約1000μmの範囲の厚さを有し得るが、他の壁厚を用いることもできる。さらにシリコーンの薄壁は、例えば壁の多孔性、薬物分子のサイズ、その分子量、又はその電荷に応じて、一部の薬物に対して透過性を有し得る。例えば少なくとも一部には電荷及び/又は分子サイズの違いに起因して、シリコーンの薄壁はリドカイン塩基に対して透過性であり得るが、塩酸リドカイン一水和物に対しては実質的に不透過性であり得る。簡単にするため、本開示全体を通してシリコーン壁が参照されるが、当業者は、同等の特性を備える他の材料を使用し得ることを理解するであろう。他の好適な材料の例には、医療級のポリ(塩化ビニル)、ポリオレフィン及びポリエーテルウレタンが含まれる。
【0026】
[0042]ハウジングのサイズは、壁の厚さを含め、特に、収容される薬物製剤の容積、薬物のチューブからの所望の送達速度、装置の体内での目標植込み部位、装置に所望される機械的完全性、所望の放出速度又は水及び尿に対する透過性、初期放出が始まるまでの所望の誘導時間、及び体内への所望の挿入方法又は経路に基づき選択され得る。チューブ壁厚はチューブ材料の機械的特性及び透水性に基づき決定することができ、チューブ壁が薄過ぎると機械的完全性が不十分となり得る一方、チューブ壁が厚過ぎると、装置からの初期薬物放出に望ましくない長い誘導時間がかかったり、及び/又は尿道若しくは他の狭い体管腔を通じた送達を可能にするには可撓性が不十分となったりし得る。
【0027】
[0043]いくつかの実施形態において、壁は多孔質であってもよく、すなわち壁は1つ以上の孔を有し得る。図3に多孔壁300の拡大断面図が示される。孔の種類には、壁300内に完全に閉じ込められた孤立した孔302と、壁の表面308からその内側部分まで延在する浸透可能な孔とが含まれる。浸透可能な孔は、壁の内側部分の内部で終端となる非貫通孔304であっても、又は内側部分を完全に貫通して延在することで壁を通る画定された通路を形成する貫通孔306であってもよい。多孔壁300は独立気泡構造を有してもよく、この構造では全ての孔が孤立し、若しくは封じ込められ、又は開放気泡構造を有してもよく、この構造では孔の少なくとも一部が互いに接続し、その内表面と外表面との間に延在する貫通孔を形成する。開放気泡構造は、行き止まりとなる、又は封じ込められた孔を含み得るが、少なくとも一部には浸透可能な貫通孔が存在する。詳細な実施形態では、開放気泡構造を有する多孔壁が疑似的に独立気泡構造を呈するように、その外表面、その内表面、又はそれらの双方の周りにコーティング又はスキン層を塗布するなどして処理することができる。一例が図3に示され、ここでは多孔壁300の本来は開放気泡である構造が表面の一方をコーティング310で処理され、貫通孔306が塞がれて独立気泡構造を形成している。スキン層の形成に使用される材料は、多孔壁の形成に使用される材料と同じであっても、又は異なってもよい。例えば、スキン層はポリマー材料であってもよい。多孔壁は、非多孔壁と比較して水又は薬物に対する透過性が高くなり得るとともに、開放気泡構造を備える多孔壁は、独立気泡構造を備える多孔壁と比較して透過性が高くなり得る。
【0028】
[0044]上述のとおり、壁は、その表面を完全に貫通して形成された1つ以上の通路を有してもよく、薬物リザーバに水が流れ込む、及び/又はそこから薬物が流れ出る経路を提供し得る。この通路は、ドリル加工、打抜き、又は成形などにより壁を完全に貫通して形成された開口部であってもよい。開口部という用語は、本明細書では、開口、開放部、及び穴という用語と同義的に使用される。開口部は、壁を真っ直ぐに貫通して延在するか、僅かにテーパ状であるか、又はそれ以外であるかにかかわらず、円形又は他の形状を有し得る。図1に例示的な開口部110が示される。通路はまた、多孔壁に通じる貫通孔であってもよい。図3に例示的な貫通孔306が示される。貫通孔は、壁を通じて蛇行した通路を画定する傾向を有し得る一方、開口部は、壁を通じて直線状又はテーパ状の通路を画定する傾向を有し得る。壁は、単一の通路、離間した構成で位置決めされた通路の列、又は壁のその全長又は特定の範囲に沿って偏在する多数の通路を含み得る。開口部は個別的な位置に配設するのに好適であり得る一方、貫通孔は、例えば壁構造の全体にわたってランダムに、又は均一に分布して、より広い範囲に偏在させるのに好適であり得る。
【0029】
[0045]薬物ハウジングに薬物が装填されることにより薬物部分が形成される。薬物は薬物ハウジング内の薬物リザーバを実質的に充填し、小型の装置から送達可能な薬物ペイロードを最大化し得るが、充填することは必須ではない。薬物ペイロードはまた、装置の展開中に装填された薬物部分が変形できるように、全体として可撓性又は可動性であってもよい。液体又は半固形薬物剤形は本質的に可動性であり、植込み後の急速放出に好適であり得る。固形薬物剤形は、液体及び半固形薬物剤形と比較して容積当たりを基準として高い活性薬物含有分を有するため、薬物リザーバの空間をより有効に利用し、全体的な装置サイズを低減することが可能であり得る。固形薬物はまた、壁及び/又は壁に形成された任意の通路を通じて送り込まれる水などにより、放出前に生体内で可溶化することができる。一部の固形薬物ペイロードは、粉末状の薬物ペイロード、又は互いに対して動くことができる個別の薬物錠剤から形成されたペイロードを含め、全体として可撓性である。可撓性の固形薬物形態はまた、ハウジング内の固形薬物を分割して、装置の動きに適応する部分片を形成することにより、薬物ハウジング内に直接作製することができる。かかる技法は、ハウジングと共に押出しされた固形薬物、又は液体の状態若しくは加工可能な状態でハウジングに装填された後にハウジング内で硬化若しくは固化された固形薬物に用いられ得る。
【0030】
[0046]例示される実施形態において、薬物ペイロードは、一列に整列し、薬物リザーバを少なくともその断面に沿って実質的に充填するように付形された多数の固形薬物錠剤の形態である。薬物錠剤は延伸状の細長い「ミニ錠剤」であり、これは従来の薬物錠剤と比べて比較的小さいため、薬物錠剤が一列に装填された薬物部分を尿道又は他の天然の体管腔に挿通することができる。固形薬物錠剤の使用では、薬物錠剤は再現性のある薬物放出特性を備えて高い信頼性で製造することができ、さらには装填後にも個別の単位薬物は互いに対して動くことができるため、装置の可撓性が犠牲になることはないという事実が利用される。固形薬物錠剤並びにそれを作製するシステム及び方法の実施形態については、本明細書に援用される米国特許出願に記載されている。
【0031】
[0047]薬物製剤としては、本質的に任意の治療剤、予防剤、又は診断剤、例えば体腔若しくは管腔への局所送達又は体腔若しくは管腔の周辺への局部送達に有用であり得る薬剤が含まれ得る。本明細書で使用されるとき、本明細書に記載される任意の特定の薬物に関連する用語「薬物」は、その代替的な形態、例えば、塩形態、遊離酸形態、遊離塩基形態、及び水和物などを含む。薬物は生物学的なものであってもよい。薬物製剤は薬物のみからなってもよく、又は薬物製剤は、1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤、例えば、潤滑剤、粘度改質剤、界面活性剤、浸透圧剤、希釈剤、及び薬物の製造、装填作業性、安定性、投薬性(dispensability)、湿潤性、及び/又は放出動態を促進することを目的とした他の非有効成分を含んでもよい。
【0032】
[0048]好ましい実施形態において、各薬物錠剤は、比較的高い重量分率の薬物と比較的低い重量分率の賦形剤とを含む。例えば、各薬物錠剤は50重量%を超える薬物を含んでもよく、それにより治療有効量の薬物を比較的小型の装置に装填することが可能となる。装置からの薬物の放出速度は主に薬物ハウジングにより制御されてもよく、ハウジング特性、例えばその厚さ及び透過性を調節することにより変えることができる。従って、賦形剤含有分は第一に、製造を促進するように、且つ好適な溶解度又は溶解特性を実現するように選択してもよく、それが薬物ハウジングの構造及び材料特性と共になって装置の薬物放出プロファイルを決定する。例えば、薬物及び賦形剤の配合は、薬物錠剤を植込み後可溶化することができるように選択されてもよい。この配合はまた、膀胱内でのその見かけの尿中溶解度など、植込み環境でのその見かけの溶解度が向上するように選択されてもよい。
【0033】
[0049]いくつかの実施形態において、薬物は高溶解度薬物である。本明細書で使用されるとき、用語「高溶解度」は、水中37℃での溶解度が約10mg/mLを上回る薬物を指す。他の実施形態において、薬物は低溶解度薬物である。本明細書で使用されるとき、用語「低溶解度」は、水中37℃での溶解度が約0.01mg/mL〜約10mg/mLである薬物を指す。薬物の溶解度は、少なくとも一部にはその形態に影響され得る。例えば、水溶性塩の形態の薬物は高溶解度を有し得るが、同じ薬物で塩基形態のものは低溶解度を有し得る。一例はリドカインであり、これは可水溶性塩である塩酸リドカイン一水和物の形態の場合には約680mg/mLの高い溶解度であるが、リドカイン塩基の形態の場合には約8mg/mLの低い溶解度である。高溶解度薬物は浸透圧勾配による放出に適し得る一方、低溶解度薬物は薬物ハウジングの壁又は通路を通じた拡散による放出に適し得る。従って薬物は、目的とする放出様式に応じて高溶解度又は低溶解度を有するように配合され得る。
【0034】
[0050]詳細な実施形態において、薬物はコカイン類似体などの局所麻酔剤であってもよく、特に間質性膀胱炎/膀胱痛症候群、神経因性膀胱、又は疼痛、例えば術後痛などの病態を治療するため、膀胱に比較的長期間にわたり局所的に送達される。詳細な実施形態において、局所麻酔剤はリドカイン、例えば塩酸リドカイン一水和物又はリドカイン塩基である。局所麻酔剤はまた、任意の他のアミノアミド、アミノエステル、若しくは他の局所麻酔剤であることができ、又は薬物は局所麻酔剤以外の薬物であることができる。他の薬物の代表的な例が以下に記載され、組み合わせを用いることができる。
【0035】
[0051]植込み後、薬物が薬物ハウジングから放出され得る。薬物は、薬物ハウジングにおける開口部又は貫通孔を介した浸透圧ポンピングによるか、薬物ハウジングの壁を通じた拡散によるか、ハウジングの開口部又は貫通孔を直接通る拡散によるか、又はそれらの組み合わせにより放出され得る。薬物部分の特性を変えることによって放出を遅延させ、又は調節してもよい。例を以下に図1〜図6を参照して説明する。
【0036】
[0052]図1は、浸透圧ポンプとして動作するように構成された薬物部分を示す。薬物部分100は、水は容易に透過させるが薬物106は透過させない壁102と、極めて水溶性が高い、しかし壁102を通じては容易に拡散できない薬物106とを含む。装置が植え込まれた後、壁102を通じて水又は尿が浸透し、リザーバ104に入って薬物106を可溶化する。薬物ハウジングの内側と外側との間で浸透圧勾配が生じ始め、十分な圧力に達すると、可溶化された薬物がリザーバ104内の浸透圧により駆動され、制御された速度でリザーバ104から開口部110を通じて放出される。かかる放出様式は、本明細書では「浸透圧放出」又は「浸透圧ポンピング」と称される。浸透圧により駆動される放出に適した壁/薬物の組み合わせの一例は、塩酸リドカイン一水和物の固形薬物錠剤に関連するシリコーン薄壁である。
【0037】
[0053]薬物部分100は、浸透圧勾配を実現するのに十分な容積の薬物が可溶化される間、誘導期間を呈し得る。続いて、薬物部分100は長期間にわたりゼロ次放出速度を呈した後、減衰期間にわたり低下した非ゼロ次放出速度を呈し得る。送達速度は、数ある要因の中でも特に、壁102の表面積;壁102の厚さ;壁102の形成に使用される材料の水に対する透過性;開口部110の形状、サイズ、数及び配置;並びに薬物106の溶解プロファイルによって影響を受ける。例えば比較的薄い壁102を使用すると、水に対する透過性は薄い壁102ほど相対的に高くなり得るため、比較的厚い壁102と比べて比較的速い浸透圧ポンプをもたらすことができる。別の例として、開口部110のサイズ及び数を変化させて特定の放出速度を実現することができ、しかしながら開口部110が大き過ぎると拡散輸送が許容され得るとともに、開口部110が小さ過ぎる、又は離れ過ぎているとリザーバ104内の静水圧の上昇が生じ得る。好適な開口部110は、特に、約20μm〜約500μmの直径であり得る。浸透圧ポンプ設計の代表例、及びかかる設計を選択するための式が、本明細書に援用される米国特許出願及びTheeuwes, J. Pharm. Sci., 64(12):1987-91 (1975)に記載されている。
【0038】
[0054]浸透圧ポンピングは、透水性の壁と開口部とを有する薬物ハウジングから放出される高水溶性の薬物、例えばシリコーン壁と開口部とを有する薬物ハウジングから放出される塩酸リドカイン一水和物に対して有力な薬物放出機構であり得る。壁の薬物透過性及び開口部のサイズによっては、壁又は開口部を通じた拡散は薬物放出においてそれほど大きい役割を果たさないこともある。浸透圧放出は高水溶性の薬物について実現可能であるが、多くの薬物は水に対する溶解度が低いため、かかる放出機構に適さない。そのような場合、薬物部分は拡散により薬物を放出するように構成してもよい。
【0039】
[0055]図2は、薬物部分の壁202を通じた拡散(本明細書では「経壁拡散(trans-wall diffusion)」とも称される)により薬物206を放出する薬物部分200の実施形態を示す。装置が植え込まれた後、壁202を通じて水又は尿が浸透し、リザーバ204に入って薬物206を可溶化する。次に、装置200の内側と外側との間の薬物濃度勾配により、薬物206が制御された速度で直接壁202を通って拡散する。経壁拡散放出に適した壁/薬物の組み合わせの一例は、リドカイン塩基の固形薬物錠剤に関連するシリコーン薄壁である。
【0040】
[0056]薬物部分200は、長期間にわたりゼロ次放出速度を呈した後、減衰期間にわたり低下した非ゼロ次放出速度を呈し得る。薬物206は可溶化されると壁202を通じた拡散に直ちに利用可能となり得るため、ゼロ次放出は比較的短時間のうちに始まり得る。送達速度は、数ある要因の中でも特に、壁202の表面積;壁202の厚さ;壁202の形成に使用される材料の水及び薬物に対する透過性;薬物206の電荷又は粒度;及び薬物106の溶解プロファイルによって影響を受け得る。例えば薬物は、少なくとも一部には分子サイズの違いに起因して、荷電した状態では壁を通じて拡散可能であるが、荷電していない状態では拡散不能であってもよい。一例はリドカインであり、これは塩基として配合される場合にはシリコーン薄壁を通じて拡散することができ、しかし塩として配合される場合には拡散できない。特に、以下の実施例1で説明するとおり、リドカイン塩基は最小限の初期遅延時間でシリコーン薄壁を通じてゼロ次放出速度で拡散し得る。治療有効量のリドカインがこのようにして送達され得る。
【0041】
[0057]他の実施形態において、薬物部分は、1つ以上の開口部又は貫通孔を通じた拡散により薬物を放出してもよい。例えば図1では、薬物106は開口部110を直接通る拡散により放出されてもよく、又は図3では、薬物は貫通孔306を直接通る拡散(スキン層310が省かれる場合)により放出されてもよい。用語「拡散」は、特定の一方が明示的に指定されない限り経壁拡散にも同様に、双方に適用される。1つの開口部110のみ、及び1つの貫通孔306のみが図示されるが、複数の、又は組み合わせた開口部又は貫通孔を使用することができ、それが拡散に起因する全体的な放出速度に影響を与え得る。
【0042】
[0058]拡散は、浸透圧ポンピングなどの別の放出様式に代わり、又はそれに加えて起こり得る。通路を追加することによって放出速度が増加するかどうかは、少なくとも一部には壁の構成及び薬物の配合に応じて変わり得る。例えば、薬物を容易に拡散する壁に通路を追加しても、経壁拡散に関連する放出速度は増加しないことがあり得る。一例は、直接表面を介してリドカインを容易に拡散させるシリコーン薄壁であり、従って追加の通路は局所的な放出速度を僅かに増加させるに過ぎない。別の例として、水に対して易透過性の壁に通路を追加しても、浸透圧ポンピングに関連する放出速度は増加しないことがあり得る。一例は、易透水性のシリコーン薄壁である。
【0043】
[0059]図3に示されるとおり、薬物部分はまた独立気泡構造を備えた多孔壁300を含んでもよく、これは壁の水又は薬物に対する透過性が増加することで放出速度に影響が及び得る。透水性の高い壁ほどより多くの水が流れ込むことが可能で、より急速な浸透圧ポンピングを実現し得ると同時に、薬物透過性の高い壁ほどより多くの薬物が流れ出ることが可能で、より急速な拡散輸送を実現し得る。非貫通孔がどの程度壁の透過性に影響を与えるかは、例えば、非貫通孔がないときの壁の透過性及び薬物の溶解度又は溶解速度に依存する。例えば、易透水性である本来は非多孔性の壁に非貫通孔を追加しても、壁の水に対する透過性には影響しないこともあり得る。詳細な例は、水に対して既に(already)透過性のシリコーン薄壁である。別の例として、薬物に対して易透過性である本来は非多孔性の壁に非貫通孔を追加しても、壁の薬物に対する透過性には影響しないこともあり得る。詳細な例は、リドカイン塩基に対して易透過性のシリコーン薄壁である。この開示の目的上、用語「非多孔性の」壁は、開放気泡又は独立気泡の多孔構造を含まない壁を指す。
【0044】
[0060]図4〜図6は、植込み後の初めの薬物放出開始を遅延させる分解性時限構造を備えた薬物部分を示す。分解性時限構造は、例えば水との接触を受けて生体内で生分解し、侵食され、又は溶解する材料から形成される。分解性時限構造は最初は、水が薬物ハウジングに入って薬物を可溶化するのを防止することによるか、又は薬物が壁若しくは1つ以上の通路を通ってハウジングから出るのを防止することにより、薬物の放出を阻止又は防止する。植込み後のある時点で、分解性時限構造は部分的又は完全に溶解され、又は分解し、水の流出及び/又は薬物の放出が可能となる。従って薬物の初期放出が遅延される。遅延の長さは分解性時限構造の特性、例えばその構造材料、サイズ、及び形状などにより影響を受け得る。
【0045】
[0061]図4は、分解性時限構造が、薬物リザーバ404内で薬物406と少なくとも1つの貫通孔又は開口部410との間に位置決めされる分解性時限プラグ412である実施形態を示す。分解性時限プラグ412は通路を通じた可溶化薬物の放出を、それが浸透圧ポンピングによるか又は拡散によるかにかかわらず、分解性時限プラグ410が分解されるまで阻止する。分解性時限プラグ412は、特に、PLG、PGA、PLGA、脂質、又は多糖などの、生体吸収性又は他の形により生体内で分解性である当該技術分野において公知の様々な生体適合性材料から作製され得る。
【0046】
[0062]図5は、分解性時限構造が、壁502の少なくとも一部分の周りに位置決めされる分解性コーティング514である実施形態を示す。分解性コーティング514は、分解性コーティング514が分解されるまで水又は薬物が壁502を通過することを防止し、浸透圧ポンピング及び拡散の双方を防止する。分解性コーティング514は、例えば生体吸収性の皮膜であってもよい。
【0047】
[0063]図6は、分解性時限構造が、貫通孔又は開口部610などの通路に連係される分解性膜616である実施形態を示す。分解性膜は貫通孔又は開口部610を通じた薬物の放出を、それが浸透圧ポンピングによるか又は拡散によるかにかかわらず、分解性膜616が分解されるまで阻止する。分解性膜616は、例えば吸収性合成ポリマー(ポリエステル、ポリ(無水物)、又はポリカプロラクトンなど)又は吸収性生体材料(コレステロール、他の脂質及び脂肪)で形成されてもよい。薬物ハウジングの任意の一部分に沿ってこれらの分解性時限構造の組み合わせが用いられてもよい。例えば、分解性時限構造の1つ又は複数を薬物ハウジングの一部分又は一部の通路のみに連係させて装置の一部分からの放出を制限することで、初期の期間中の放出速度を低下させてもよい。
【0048】
[0064]薬物放出はまた、他の方法で調節されてもよい。例えば、壁の一部分を覆ってシースを配置し、壁の浸透圧表面積を低減したり、又は壁を通じた拡散を低減したりするなどして放出速度を低下させてもよい。コーティング又はシースは、壁の全て又は任意の部分を被覆してもよく、比較的均一であってもよく、又は特に、厚さ、サイズ、形状、配置、位置、向き、及び材料、及びそれらの組み合わせが変化してもよい。シリコーン壁に対する例示的なコーティングはパリレンから形成されてもよく、一方、例示的なシースは、ポリウレタン若しくは硬化性シリコーンなどのポリマー、又は当該技術分野において公知の別の生体適合性コーティング若しくはシース材料から形成されてもよい。いくつかの実施形態において、コーティング又はシースは壁において開口部と薬物部分の端部との間に位置決めされてもよく、それにより端部に隣接する壁から透過する水がハウジングのうちシースにより被覆された部分を通り抜けるよう駆動され、シースの下側に薬物が隔離されたり、又は停滞したりすることが低減又は回避される。
【0049】
[0065]薬物部分からの薬物放出速度は、リブ付け又はナブなどの突出部によって壁の特性、例えばその厚さ又は表面積を変えることにより調節してもよい。有効表面積を増加させると、植込み部位で水又は尿と接触する浸透圧表面積が増加し得るため、薬物ハウジングを通じた水の透過量が増加し得る。他方で、表面積を増加させると、特定の範囲で薬物ハウジングの厚さが増加し得るため、ハウジングを通じた水又は薬物の透過量は減少し得る。全体的な所望の放出速度を実現するための必要に応じて、リブ付け又は突出部のサイズ、形状、及び位置を選択することにより、水又は薬物の透過量を増加又は減少させることができる。
【0050】
[0066]上述のとおり、植込み型薬物送達装置は、薬物部分を留置部分と連係させることにより形成することができる。図7に例示的な実施形態が示され、ここで装置700は薬物部分702と留置部分704とを含む。薬物部分702は、薬物708を格納する薬物ハウジング706を含み、留置部分704は、留置フレーム712を格納する留置フレームハウジング710を含む。薬物ハウジング706と留置フレームハウジング710とは互いに軸方向に整列し、及び可撓性材料から形成されるため、装置700は図7に示される留置形状と、図8に示される展開形状との間で動くことが可能である。「留置形状」は、概して装置を目的の植え込み位置に留置するのに適した任意の形状を指し、これには、限定はされないが、装置を膀胱に留置するのに適した図7に示されるコイル状に巻かれた形状が含まれ、一方「展開形状」は、概して薬物送達装置を体内に展開するのに適した任意の形状を指し、これには、尿道又は他の天然の管腔に位置決めされた展開器具800のワーキングチャンネル802を通じて装置を展開するのに適した、図8に示される直線状の又は延伸した形状が含まれる。
【0051】
[0067]薬物ハウジング706は多数の固形薬物錠剤708の形態の薬物を格納し、これらの薬物は薬物ハウジング706の中に順次一列に並んで整列し、プラグ714などの、薬物ハウジング706の両端部で入口開放部を閉鎖する密封用構造によって薬物ハウジング706内に封じ込められる。隣接する薬物錠剤708の間に形成される間隙716又は切れ間により、薬物錠剤708は互いに対して動くことが可能であり、従って固形剤形の薬物が装填されるにもかかわらず装置700は可撓性である。
【0052】
[0068]薬物部分702は、図1〜図6を参照して上記に説明される特性又は構成の任意の組み合わせを有して所望の放出プロファイルを実現することができ、すなわち開口部718は提供されても、省略されても、貫通孔に置き換えられても、又は追加の開口部若しくは貫通孔により拡張されてもよく;ハウジングは開放気泡構造又は独立気泡構造を備える多孔壁を有してもよく;1つ以上の分解性時限構造又は放出調節構造をハウジングと連係させてもよく、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0053】
[0069]留置フレームハウジング710は留置フレーム712を格納し、留置フレーム712は、挿入のため展開形状に変形させることができ、且つ展開器具から出ると自発的に、或いは人の手を介して留置形状に戻ることができる弾性ワイヤであってもよい。例示的な留置フレーム712は、ニッケル−チタン合金(例えば、ニチノール(Nitinol))又はチタン−モリブデン合金(例えば、フレキシウム(Flexium))などの超弾性材料及び/又は形状記憶材料から形成されても、又はポリウレタン、シリコーン、スチレン系熱可塑性エラストマー、若しくはポリ(グリセロール−セバシン酸)(PGS)などの低弾性率エラストマーから形成されてもよい。他の好適な材料、及び組み合わせ又は材料を使用することができる。留置形状では、留置フレームは、装置が展開形状をとることを妨げる弾性限界、弾性率、及び/又はばね定数を有してもよく、装置が排尿の力などの予想される力を受けて体内から排除されることを抑制又は防止し得る。例示される形状は単に好適な形状の一例に過ぎず、それなしには排尿の力を受けてフレームが著しく変形し得るばね定数を提供する他の形状が用いられてもよい。例えば留置フレームは、約3N/m〜約60N/mの範囲、又はより詳細には約3.6N/m〜約3.8N/mの範囲のばね定数を有し得る。かかるばね定数は、フレームの直径を増加させることによるか、フレームの1つ以上の巻き、コイル、若しくは湾曲部の曲率を増加させることによるか、フレームにさらなる巻き、コイル、若しくは湾曲部を追加することによるか、又はそれらの組み合わせにより実現され得る。
【0054】
[0070]図7の線9−9に沿った装置700の断面図である図9に示されるとおり、薬物ハウジング706及び留置フレームハウジング710は、概して、対応する装置構成要素を格納するための内部ルーメンを画定する壁である。一つの壁720が薬物ハウジング706を画定し、別の壁722が留置フレームハウジング710を画定する。壁720、722は単一の装置本体となるよう共に一体形成され、装置本体の形成に使用される材料が弾性又は可撓性であることにより、装置700は展開形状と留置形状との間で動くことが可能であり得る。例示される壁720、722は、実質的にシリンダ状のルーメンを画定する実質的にシリンダ状の管であり、薬物リザーバルーメンは留置フレームルーメンと比べて比較的大きい直径を有する。
【0055】
[0071]他の装置構成が本開示の範囲内にあり、その一部は参照により本明細書に援用される同時係属中の特許出願にさらに説明される。例えば、2つの部分は互いに対して他の相対配置を有することができ、これには、一方の部分が他方と軸方向に整列する配置、一方の部分が他方から離間される配置、一方が他方を包み込む配置、又は一方の部分が他方と一致する配置が含まれる。2つの部分は互いに一体形成することができ、又は間欠的に、或いはその全長に沿って互いに取り付けることができる。2つの部分は異なる相対長さ及び寸法を有することができ、一方の部分が他方より短く、一方の部分が他方より長く、一方の部分が他方より大きい断面を有し、又は一方の部分が他方より小さい断面を有し得る。いずれの部分も、例示されるシリンダ形状以外の異なる形状、例示される単一の管状壁以外の異なる数の壁、及び可撓性の壁以外の異なるタイプの壁を有することができる。2つのハウジングは装置本体に一体形成されるのではなく、個別に作製されて組み立てられてもよく、及び2つのルーメンは互いに個別的なものである必要はなく、代わりに全体的に、或いは部分的に一体化されてもよい。
【0056】
[0072]薬物錠剤は、薬物ハウジングの構成に応じて、順次一列に並ぶ以外の任意の並び方で整列し得る。薬物錠剤は、示されるとおりの薬物ハウジング全体ではない薬物ハウジングの任意の部分を充填し得る。シリコーン接着剤などの充填材料を使用して、薬物錠剤が装填されない薬物ハウジングの任意の部分を充填することができ、又は空気を使用して装置の浮力を増加させてもよい。薬物錠剤の組成は装置に沿って同じであっても、又は変化してもよい。薬物はまた、他の液体、半固形、又は固形剤形など、薬物錠剤以外の形態であってもよい。
【0057】
[0073]留置部分は、留置部分が留置形状をとるか、留置部分が薬物部分に留置形状をとらせるか、又は留置部分が装置を体に係留するかのいずれかによって装置を体内に留置させる他の構成を有してもよい。留置部分が留置ハウジング内に留置フレームを含む実施形態では、留置ハウジングは、留置フレームに塗布されてその外面を軟化させるコーティングなどの他の構成を有し得る。留置フレームは、展開するために延伸させるか、又は他の方法で変形させることができ、且つ植込み後、排泄に対して予想される力を受けて抵抗するのに十分なばね定数、弾性限界、及び/又は弾性率を呈することのできる他の形状を有し得る。留置フレーム部分は、1つ以上の巻き、コイル、又はらせんを有し得る。留置フレームは、一平面に留まる二次元構造を有してもよく、又は留置フレーム部分は、回転楕円体の内部を占有する三次元構造を有してもよい。図10に例が示され、ここで例A〜例Gが示すフレームは1つ以上のループ、カール、又は小環部を含み、それらが、直線的に、或いは半径方向に接続され、同じ方向又は互い違いの方向に曲がって、重なり合い、又は重なりがなく、及び例H〜例Nが示すフレームは、二次元構成又は三次元構成に配置された1つ以上の環又は楕円であって、開放した、或いは閉じた環又は楕円を含み、同じ又は異なるサイズを有し、重なり合い、又は重なりがなく、且つ1つ以上の接続点で共につなぎ合わされている。留置フレーム部分はまた、球空間、扁長回転楕円形状を有する空間、又は扁平回転楕円形状を有する空間などの回転楕円形状の空間を占有する、又はその周りを巻回する形状の三次元構造であってもよい。例O〜例Sは、球空間を占有する、又はその周りを巻回する形状の留置フレーム部分を示し、各留置フレーム部分を、球で表現したフレームの上に示す。留置フレーム部分は概して、例Oに示されるとおり異なる平面にある2つの交差する環の形状、例Pに示されるとおり異なる平面にある2つの交差する環であって、内側に丸まった端部を有する環の形状、例Qに示されるとおり異なる平面にある3つの交差する環の形状、又は例Rに示されるとおり球面らせんの形状をとり得る。これらの例の各々において、留置フレーム部分は、展開器具を通じて展開するため例Sに示される直線状の形状に伸ばすことができる。留置フレーム部分は、様々な他の方法によって球空間又は他の回転楕円形状の空間の周りに、又はそこに通して巻回することができる。留置フレーム及び留置ハウジングの一方又は双方が省略されてもよく、その場合に留置部分は、留置形状をとり得るか、若しくは留置形状に変形し得る薬物部分それ自体の構成要素であってもよく、又は留置部分は薬物部分と連係されたアンカーであってもよい。代替的な構成の例が、参照によって本明細書に援用される米国特許出願に記載される。
【0058】
[0074]代替的な構成のさらなる例が図11に示される。例A〜例Eに示されるとおり、1つ又は複数の薬物部分は留置部分の中間領域又は端部に取り付けられてもよく、薬物部分は留置部分の内側に、又はその周囲を越えて位置し、その端部は留置部分に取り付けられるか、又はそれに重なり得る。例F〜例Oは、少なくとも部分的に整列した薬物部分と留置部分とを有する装置の断面を示す。換言すれば、薬物部分は留置部分の一部分又は全長に沿って、留置部分と実質的に平行に、又は一致して延在してもよい。例F〜例Iに示されるとおり、留置フレームワイヤは、薬物部分の壁の外表面に沿って、壁の内表面に沿って、壁を通って、或いは壁の内側又は外側の補強範囲の中に延在し得る。例J〜例Lに示されるとおり、留置フレームはまた、ウェブにより支持されたチューブの内側の範囲内に配置されてもよく、ウェブはチューブを複数の画室に仕切ってもよい。ウェブは、画室が互いに連通するよう有孔であるか、若しくは他の形で不連続であってもよく、又はウェブは、画室が互いに分離されて異なるリザーバを形成するように比較的連続的であってもよい。実施形態に応じて、ウェブはチューブと同じ材料から形成されても、又は水若しくは尿に対する透過性が異なる材料から形成されてもよい。例M〜例Oに示されるとおり、弾性ワイヤはチューブに沿って、又はチューブの間に延在して、複数のチューブと連係されてもよい。弾性ワイヤは、複数の別個のチューブを一体に接合する補強範囲に埋設されてもよい。薬物部分が留置部分も構成してもよく、これは上記に説明したとおり、薬物部分が装置を体内に留置するのに十分なばね定数を有する構成で形成されたチュービングを含む場合などである。上述の変形例のいずれかを組み合わせて、所望の特性の装置を実現することができる。
【0059】
[0075]詳細な実施形態において、薬物送達装置は、単一の留置部分と連係した少なくとも2つの個別的な、又は分離された薬物部分を含む。薬物部分は、各々が留置部分と連係した個別の薬物ハウジングであってもよく、又は薬物部分は、留置部分と連係した単一の薬物ハウジング内にある個別の範囲であってもよい。図11は、例C〜例Eにおいて、個別のハウジングを備えた例示的な薬物部分を示す。図11はまた、例J〜例Lにおいて、単一のハウジング内の分離された範囲である例示的な薬物部分も示す。図11はまた、例M〜例Oにおいて、材料及び構成に応じていずれの構成も有し得る薬物部分を示す。
【0060】
[0076]図12は、複数の分離された薬物部分となるよう仕切られた薬物ハウジングを有する薬物送達装置1200の別の実施形態の平面図である。3つの薬物部分1202、1204、及び1206が図示されるが、任意の数を用いることができる。各薬物部分は、薬物ハウジングの壁の一部分と、その薬物部分を隣接する薬物部分と隔てる少なくとも1つの仕切り構造1208とにより画定される。仕切り構造1208は、特に、シリンダ、球、又はディスクなどの、ハウジングに挿入されたプラグであってもよく、これはそのサイズによって、又は接着剤で所定位置に固定される。仕切り構造1208はまた、中に成形などにより形成されたハウジングの一部分であってもよい。例えば、図11の例J〜例Lに示されるウェブは仕切り構造であり、薬物部分を装置の長さに沿って分離する。
【0061】
[0077]少なくとも2つの個別部分を備える装置は、少なくとも2つの薬物ペイロードを対応する数の薬物リザーバから制御放出するのに適し得る。2つの個別部分は、図1〜図6を参照して上記に説明する構成の一つ又は任意の組み合わせなど、同じ構成を有しても、又は異なる構成を有してもよい。2つの薬物ペイロードは、特に、有効成分含有分又は賦形剤含有分などの含有分;塩形態又は塩基形態などの形態;液体、半固形、又は固形状態などの状態;又はそれらの組み合わせに関して、互いに同じであってもよく、又は互いに異なってもよい。従って2つの個別部分は2つの薬物ペイロードを、同時に、又は異なる時点で、同じ速度で、又は異なる速度で、同じ放出機構、又は異なる放出機構を介して、又はそれらの任意の組み合わせで放出し得る。
【0062】
[0078]例えば、一つの薬物部分がその薬物ペイロードを植込み後比較的急速に放出するように構成されてもよく、及び別の薬物部分が誘導時間を経てから放出を始めるように構成されてもよく、又はそれらの組み合わせであってもよい。異なる薬物部分にある2つのペイロードの放出の開始は段階的であってもよい。速放性の薬物部分の例には、比較的薄い壁を有するシリコーンチューブなどの、比較的速効性の浸透圧ポンプとして動作する薬物部分、液体剤形又は特別に配合された固形剤形などの、速放性の剤形の薬物が装填された薬物部分、比較的速効性の分解性時限構造と連係した薬物部分、又はそれらの組み合わせが含まれる。従ってこの装置は、初期の急性相の間と維持相の間とに薬物を放出し得る。
【0063】
[0079]別の例として、一つの薬物部分がその薬物ペイロードを他の薬物ペイロードと比べて比較的速い速度で放出するように構成されてもよい。例えば、一つの薬物部分が、植込み後比較的早く始まる拡散放出のため低水溶性の薬物ペイロードを格納してもよく、別の薬物部分が、誘導期間後に浸透圧放出する高水溶性の薬物ペイロードを格納してもよい。別の例として、一つの薬物部分が、速効分解性時限膜を有する開口部を通じて急速放出される液体状態の薬物ペイロードを格納してもよく、別の薬物部分が、生体内での可溶化後に持続放出される固形錠剤の別の薬物ペイロードを格納してもよい。さらに別の例として、一つの薬物部分が比較的中実の壁を有し得る一方、別の薬物部分が、その壁を貫通して形成された複数の開口部若しくは孔を有してもよく、それにより拡散による放出速度が増加し得るか、又は独立気泡の多孔壁を有してもよく、それにより壁を通じた水又は薬物の透過が増加するため放出速度が増加し得る。
【0064】
[0080]放出部分は、所望の放出プロファイルを実現するように組み合わされ得る。例えばこの装置は、特に、初期放出が始まるまでの誘導時間又は遅延時間について異なる時間を呈する放出部分、放出開始後に異なる速度で、若しくは異なる放出曲線に従い薬物を放出する放出部分、又は薬物負荷が実質的に空になるまでの期間について異なる期間にわたり薬物を放出する放出部分、又はそれらの組み合わせを含み得る。別個の放出部分を組み合わせることにより、全体としての薬物送達装置からの所望の放出プロファイル、例えば、比較的短い初期遅延時間を示した後、比較的一定した速度での長期間にわたる持続的な放出を示す放出プロファイルを実現し得る。
【0065】
[0081]実施形態において、薬物部分の1つ又は複数は、装置の浮力を向上させるため空のままとされ得る。かかる薬物部分は空気及び水に対して低透過性を呈する材料から形成され、又はそれで被覆され、水の流入及び空気の流出が低減され得る。
【0066】
[0082]薬物部分の総容積は、単一の治療コースにわたる局所送達又は局部送達に必要な全ての薬物を収容するのに十分であり、特定の病態の治療に必要な手技の回数が低減される。
【0067】
[0083]装置の一つの詳細な例が図12に示され、これは、リドカインの3つの異なるペイロードを3つの異なる放出プロファイルに従い放出する3つの別個の薬物部分1202、1204、1206を含む装置1200を示す。各薬物部分は、シリコーン薄壁により形成された薬物ハウジング内にリドカインを含む。リドカイン薬物部分の1つ又は複数は、錠剤など固形の形態であってもよい。シリコーン薄壁は、少なくとも一部にはその電荷及び/又は分子の大きさに起因して、水及びリドカイン塩基に対しては透過性であるが、塩酸リドカイン一水和物に対しては不透過性である。図12では、明確にするため薬物錠剤は図示されないことに留意されたい。
【0068】
[0084]第1の個別部分1202は、主に経壁拡散により放出されるリドカイン塩基の固形薬物錠剤を格納する。第1の個別部分1202は開口部を含まない。動作時、水は壁を通じて浸透し、ハウジングに入って低水溶性のリドカインを可溶化する。可溶化された薬物は、制御された形での壁を通じた拡散に直ちに利用可能となる。放出速度は、数日間又は数週間などの長期間にわたり相対的にゼロ次で、その後減衰期間となってもよい。
【0069】
[0085]第2の個別部分1204は、例えば錠剤の形態の、主に浸透圧放出される固形塩酸リドカイン一水和物を格納する。第2の個別部分1204は少なくとも1つの開口部1210を含む。動作時、水は壁を通じて浸透して高水溶性のリドカイン錠剤を可溶化し、浸透圧勾配を作り出す。十分な圧力が生じると、薬物は装置から開口部1210を通って制御された形で圧送される。放出速度は、浸透圧勾配が生じる間は数時間などの初期誘導期間を呈し得、その後数日間又は数週間などの長期間にわたり相対的にゼロ次となった後、減衰期間となる。シリコーンの塩酸リドカイン一水和物に対する透過性は不十分であるため、壁を通じた拡散は最小限であり得る。開口部を通じた拡散が放出速度に寄与し得るが、かかる拡散は、開口部のサイズを適切に選択することによって制御することができる。
【0070】
[0086]第3の個別部分1206は、薬物放出の開始を遅延させるように構成された分解性時限構造を有する。例示される実施形態において、第3の個別部分1206は第2の個別部分1204と同様の構成を有し、開口部1210から浸透圧放出される塩酸リドカイン一水和物錠剤を格納する。第3の個別部分1206はまた、開口部1210の下側に位置決めされた、流出又は流入を当初遮断する分解性プラグ1212も含む。植込み後のある時点で、分解性プラグ1212は部分的又は完全に溶解又は分解し、薬物が開口部から流れ出ることが可能となる。第3の個別部分1206は他の分解性時限構造、例えば分解性時限コーティングと共に使用するのに適した他の構成を有し得ることに留意しなければならない。
【0071】
[0087] 単一の装置において複数の個別の薬物部分1202、1204、1206を組み合わせることにより、1200は所望のリドカイン放出プロファイルを呈し得る。装置1200からの全体としての放出プロファイルは、3つの個別部分1202、1204、1206の放出プロファイルの合計であってもよく、第1の部分1202は放出の開始前に最小限の遅延時間を呈し、第2の部分1204は、浸透圧勾配が生じるため短い誘導期間を呈し、第3の部分1206は、分解性構造が溶解又は分解するためより長い開始前の遅延を呈する。いずれか1つの部分からの放出が始まると、放出速度は長期間にわたり相対的にゼロ次で、その後減衰期間となり得る。3つの個別部分1202、1204、1206は例であり、任意の数又は組み合わせの個別部分を使用して所望の放出プロファイルを実現し得ることに留意しなければならない。
【0072】
[0088]異なる薬物部分1202、1204、1206は、単に単一の管状ハウジング内の分離された範囲に過ぎないため、装置1200は有利には作製及び展開が比較的単純であり得るが、それでもなお異なる薬物部分は、異なる薬物ペイロード、開口部の配設、及び分解性時限構造によって異なる放出プロファイルを呈する。薬物部分1202、1204、1206が、例えば異なる材料、厚さ、又は多孔気泡構造の壁を使用する他の実施形態では、ハウジングはその長さに沿って変化してもよく、又は図11に例示されるとおり個別の薬物ハウジングが使用されてもよい。このように、制御放出は様々な方法で実現され得る。
【0073】
[0089]複数の異なる放出機構を介して薬物を放出することに加え、装置1200は、図7に示される装置700と僅かに異なる形状及び構成を有する。例えば、装置1200の端部は装置700の端部と比べて比較的直線状であり、装置1200の留置フレームは比較的直線的な端部部分を有するのに対し、装置700の留置フレーム712は比較的湾曲した端部部分を有する。比較的直線的な端部部分を備える留置フレームは、薬物の装填時及びその後にハウジングを穿刺することが少なく、植込み後に装置に不具合が起こるリスクが低減され得る点で、有益であることが分かっている。しかしながら、いずれの留置フレーム形状も用いられ得る。
【0074】
[0090]さらに、装置が留置形状にあるとき、留置部分は薬物部分に対していかなる配向で置かれてもよく、薬物部分の内側、外側、上側、若しくは下側に位置し得るか、又は装置が植込み部位を通って動くに従い、薬物部分に対して動き得る。例えば、装置700は薬物部分の周囲より内側に位置する留置部分を含む一方、装置1200は薬物部分より下側に(従って留置部分が図12では見えないように)位置する留置部分を含む。2つの部分間の特定の配向は、留置フレームを装填した後、留置フレームハウジングに充填材料、例えばシリコーン接着剤を充填して維持することができる。充填材料は硬化又は固化され、一方の部分が他方に対して動くことが防止され得る。留置部分の薬物部分に対する配向を維持する他の手段もまた用いることができる。
【0075】
[0091]開口部は、装置の周囲の内側、装置の周囲の外側、又は装置の上側面若しくは下側面に位置決めされ得る。例えば装置700は、装置の外周に配置された開口部718を含み、一方、装置1200は、装置の上側平面に配置された開口部1208を含む。装置の内周又は上側面若しくは下側面に位置決めされた開口部は、有利には、膀胱壁などの植込み部位の一部分に直接隣接して位置決めされて多量の薬物が一つの特定の位置に送達されることが起こりにくくなり得る。開口部はまた、薬物ハウジングの壁と留置フレームハウジングの壁との間に画定される溝又は刻み目として形成されてもよく、従って壁は、開口部が植込み部位に直接隣接して位置決めされることを妨げる緩衝材として機能する。例えば、装置700の開口部718はむしろ、壁720と壁722との間の溝又は刻み目として形成され得る。
【0076】
[0092]製造を容易にするため、開口部は、図9に示されるとおり、薬物ハウジングのうち留置ハウジングと反対側にある壁を貫通して形成され得る。開口部が留置ハウジングの反対側に配置される場合、留置部分を上述のとおり装置の下側に固定し、従って図12に示されるとおり、開口部が装置の上側に位置決めされるようにして、開口部が装置の外周に配置されるようになるリスクを低減することが望ましいこともある。しかしながら、図7及び図12に示される構成の任意の組み合わせを含め、他の構成が可能である。
【0077】
H.植込み型薬物送達装置の作製方法
[0093]本明細書に記載される植込み型薬物送達装置は、様々な方法で形成することができる。装置の一つの作製方法は、(i)1つ又は複数の薬物部分を形成する工程と、(ii)留置部分を形成する工程と、(iii)1つ又は複数の薬物部分を留置部分と連係させる工程とを含む。薬物部分は、薬物ハウジングを形成し、その薬物ハウジングに薬物を装填することにより形成され得る。留置フレーム部分は、留置フレームハウジングを形成し、その留置フレームハウジング内に留置フレームを装填することにより形成され得る。薬物部分を留置部分と連係させる工程は、2つのハウジングを共に一体形成することによるか、又は接着剤若しくは他の好適な取付け手段で続いて2つのハウジングを取り付けることによるなど、2つの部分を互いに取り付ける工程を含み得る。これらの工程は、繰り返し行うこと及び/又は同時に行うことを含め、他の順序で実施されてもよい。
【0078】
[0094]薬物ハウジング及び留置フレームハウジングの一方又は双方は、特に、射出成形、圧縮成形、押出成形、トランスファー成形、インサート成形、熱成形、鋳込み、又はそれらの組み合わせにより形成され得る。2つのハウジングは図9に示されるタイプの単一の装置本体となるよう共に成形又は押出しされてもよく、その場合ハウジングは、それらが形成されたままで互いに連係されたものであり得る。2つのハウジングを個別に作製して組み立てることも企図される。他の技法もまた用いられ得る。例えば、留置フレームハウジングは留置フレームにオーバーモールディングされてもよい。
【0079】
[0095]薬物ハウジングが形成されると、薬物ハウジングに薬物錠剤が装填される。固形薬物錠剤の細長い薬物ハウジングへの装填は、錠剤をハウジングへの入口近傍に配置し、装置と流体連通する空気のシリンジを押圧するなど、加圧ガスを使用して錠剤をハウジング内に推進させることにより行われ得る。装填後、薬物錠剤は、薬物ハウジングの端部を栓塞又は密閉するなどして薬物ハウジング内に密閉され得る。固形薬物錠剤は、直接圧縮及び成形などの、公知の薬物錠剤製造法を用いて作製することができる。薬物錠剤の詳細な作製及び装填方法が、参照によって本明細書に援用される米国特許出願第12/825,215号に記載される。
【0080】
[0096]装置が複数の異なる放出プロファイルに従い薬物を放出するように構成される実施形態では、複数の個別の異なる薬物ハウジングが形成され、装填され、及び留置部分と連係され得る。また単一の薬物ハウジングが複数の個別の薬物リザーバに仕切られ、その各々に薬物が装填されてもよい。例えば、図12の細長い管状の薬物ハウジングは、薬物リザーバルーメン内に1つ以上の仕切り構造の配置を、薬物錠剤の装填と交互に行うことにより仕切られ得る。管状ハウジングはまた、その内面の長さに沿って延在するウェブを含むようにハウジングを成形又は押出しするなどして、その長さに沿って仕切られてもよい。
【0081】
[0097]薬物ハウジングには、レーザードリル加工、レーザーアブレーション、機械的な打ち抜き、又はインデンタを用いる成形などにより、チューブに薬物を装填する前、或いはその後に1つ以上の開口部が形成されてもよい。薬物ハウジングはまた、多孔質にされてもよい。多孔質エラストマー構造は、溶液中のポリマー又はポリマー前駆体への細孔形成剤の添加を含め、当該技術分野において公知の任意の好適な方法を用いて生じさせることができる。好適な細孔形成剤には、重炭酸ナトリウムなどのガス発生剤、並びにポリ(エチレングリコール)(PEG)及びソルビトールなどの水浸出性でポリマー不溶性の添加剤が含まれる。多孔質ハウジングの、その外表面上、その内表面上、又はその双方にスキン層を配置して独立気泡構造を形成してもよい。
【0082】
[0098]シース又はコーティングなどの1つ以上の放出制御構造が、薬物部分の表面の少なくとも一部分を覆って配設されてもよく、ハウジング壁の水又は薬物に対する透過性を変えることで薬物の放出速度を制御し得る。
【0083】
[0099]開口部の1つ又は複数からの薬物の初期放出時間を制御するため、ハウジング内において開口部に隣接して生体吸収性プラグが配置されてもよく、又は開口部を覆って、又は開口部内に分解性膜が配置されてもよい。分解性膜の形成は、開口部の一端、例えばハウジングの外表面の開放部内又はその上などに流体をマイクロインジェクトするか、又はインクジェットプリントして膜を形成することにより行われ得る。流体は、溶媒中に溶解した吸収性材料を含む溶液、非溶媒中に吸収性材料を含む懸濁液、又は液化した吸収性材料であってもよい。
【0084】
[0100]留置フレームは、例えば超弾性合金若しくは形状記憶材料から弾性ワイヤを形成し、自然に留置形状をとるように弾性ワイヤを熱処理などによって「仕込む(programming)」ことにより作製されてもよい。次に留置フレームは留置フレームハウジングに挿入され得る。留置フレームの端部を真っ直ぐにしたり、鈍端にしたり、又はその断面を増加させたりすることによるか、フレーム挿入中に2つの表面間で留置ハウジングを僅かに圧縮して開口を延ばすことによるか、又はこれらの組み合わせなどにより、留置フレームがハウジングを穿刺する可能性を低減し得る。留置フレームを装填した後に留置ハウジングに充填材料、例えばシリコーン接着剤を充填することにより、留置ハウジングが伸びたり、捩れたり、又は留置フレームの周りに回転したりする傾向を低減し得る。留置フレームが低弾性率のエラストマーを含む実施形態では、フレームは、フレームがばねとして機能するように1つ以上の巻き、コイル、ループ又はらせんを含んで形成されてもよい。例えば留置フレームは、特に、押出し、液状射出成形、トランスファー成形、又はインサート成形により形成されてもよい。本開示に基づき当業者に明らかな他の製造方法を用いることもできる。
【0085】
III.植込み型薬物送達装置の使用及び適用
[0101]本明細書に記載される植込み型薬物送達装置は様々な医学的用途、特に患者の治療処置及び予防処置において用いられ得る。
【0086】
[0102]詳細な実施形態において、本装置は患者に痛みの緩和を提供する。様々な麻酔剤、鎮痛剤、及びそれらの組み合わせを使用することができる。実施形態において、本装置は1つ以上の局所麻酔剤を送達する。局所麻酔剤はコカイン類似体であってもよい。詳細な実施形態において、局所麻酔剤は、アミノアミド、アミノエステル、又はそれらの組み合わせである。アミノアミド又はアミドクラスの麻酔剤の代表的な例には、アルチカイン、ブピバカイン、カルチカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、及びトリメカインが含まれる。アミノエステル又はエステルクラスの麻酔剤の代表的な例には、アミロカイン、ベンゾカイン、ブタカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン、ヘキシルカイン、ラロカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、オルトカイン、ピペロカイン、プロカイン、プロパラカイン、プロポキシカイン、プロキシメタカイン、プロカイン、リソカイン及びトラカインが含まれる。これらの局所麻酔薬は典型的には弱塩基であり、塩、例えば塩酸塩として配合されて水溶性にされ得るが、麻酔剤はまた、遊離塩基又は水和物の形態で使用することもできる。他の麻酔剤、例えばロントカイン(lontocaine)もまた用いられ得る。薬物はまた、オキシブチニン又はプロピベリンなどの、麻酔作用を呈する抗ムスカリン化合物であってもよい。薬物はまた、本明細書に記載される他の薬物も、単独で、又は局所麻酔剤との組み合わせで含み得る。
【0087】
[0103]特定の実施形態において、鎮痛剤にはオピオイドが含まれる。オピオイド作動薬の代表的な例には、アルフェンタニル、アリルプロジン、アルファプロジン、アニレリジン、ベンジルモルフィン、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、デソモルフィン、デキストロモラミド、デゾシン、ジアンプロミド、ジアモルフォン(diamorphone)、ジヒドロコデイン、ジヒドロモルフィン、ジメノキサドール、ジメフェプタノール、ジメチルチアンブテン、ジオキサフェチルブチラート、ジピパノン、エプタゾシン、エトヘプタジン、エチルメチルチアンブテン、エチルモルヒネ、エトニタゼン フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、ケトベミドン、レボルファノール、レボフェナシルモルファン、ロフェンタニル、メペリジン、メプタジノール、メタゾシン、メサドン、メトポン、モルヒネ、ミロフィン、ナルブフィン、ナルセイン、ニコモルフィン、ノルレボルファノール、ノルメタドン、ナロルフィン、ノルモルヒネ、ノルピパノン、アヘン、オキシコドン、オキシモルホン、パパベレタム、ペンタゾシン、フェナドキソン、フェノモルファン、フェナゾシン、フェノペリジン、ピミノジン、ピリトラミド、プロヘプタジン、プロメドール、プロペリジン、プロピラム、プロポキシフェン、スフェンタニル、チリジン、トラマドール、その薬学的に許容可能な塩、及びその混合物が含まれる。他のオピオイド薬物、例えば、μ、κ、δ、及び侵害受容オピオイド受容体作動薬などが企図される。
【0088】
[0104]他の好適な疼痛緩和剤の代表的な例には、サリチルアルコール、塩酸フェナゾピリジン、アセトアミノフェン、アセチルサリチル酸、フルフェニサール、イブプロフェン、インドプロフェン、インドメタシン、ナプロキセンなどの薬剤が含まれる。
【0089】
[0105]実施形態において、薬物送達装置を使用して、間質性膀胱炎、放射線膀胱炎、膀胱痛症候群、前立腺炎、尿道炎、術後痛、及び腎結石などの炎症性の病態が治療される。これらの病態に特異的な薬物の非限定的な例には、リドカイン、グリコサミノグリカン(例えば、コンドロイチン硫酸、スロデキシド)、ペントサンポリ硫酸ナトリウム(PPS)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、オキシブチニン、マイトマイシンC、ヘパリン、フラボキサート、ケトロラク、又はそれらの組み合わせが含まれる。腎結石には、痛みを処置し、及び/又は結石の溶解を促進する1つ以上の薬物が選択され得る。
【0090】
[0106]いくつかの実施形態では、薬物送達装置は尿管ステントの留置に関連して、例えば尿管ステント留置により引き起こされる痛み、尿意切迫又は尿意頻数を治療するために使用される。かかる治療に特異的な薬物の非限定的な例には、特に、抗ムスカリン薬、α遮断薬、麻薬、及びフェナゾピリジンが含まれる。
【0091】
[0107]薬物送達装置を使用して、例えば、急迫性尿失禁及び神経性失禁を含む尿失禁、尿意頻数、又は尿意切迫、並びに膀胱三角炎を治療することができる。用いられ得る薬物には、抗コリン剤、鎮痙剤、抗ムスカリン剤、β−2アゴニスト、αアドレナリン作動薬、抗痙攣薬、ノルエピネフリン取り込み阻害薬、セロトニン取り込み阻害薬、カルシウムチャネル遮断薬、カリウムチャネル開口薬、及び筋弛緩剤が含まれる。失禁の治療に好適な薬物の代表的な例には、オキシブチニン、S−オキシブチチン(S-oxybutytin)、エメプロニウム、ベラパミル、イミプラミン、フラボキサート、アトロピン、プロパンテリン、トルテロジン、ロシベリン、クレンブテロール、ダリフェナシン、テロジリン、トロスピウム、ヒヨスチアミン、プロピベリン、デスモプレシン、バミカミド、臭化クリジニウム、ジサイクロミンHCl、グリコピロレートアミノアルコールエステル、臭化イプラトロピウム、臭化メペンゾラート、臭化メトスコポラミン、臭化水素酸スコポラミン、臭化イオトロピウム(iotropium bromide)、フマル酸フェソテロジン、YM−46303(山之内製薬株式会社、日本)、ランペリゾン(日本化薬株式会社、日本)、イナペリゾン、NS−21(Nippon Shinyaku Orion、Formenti、日本/イタリア)、NC−1800(日本ケミファ株式会社、日本)、ZD−6169(Zeneca Co.、英国)、及びヨウ化スチロニウムが含まれる。
【0092】
[0108]他の実施形態では、薬物送達装置を使用して、膀胱癌及び前立腺癌などの尿路癌が治療される。用いられ得る薬物には、抗増殖剤、細胞傷害剤、化学療法剤、又はそれらの組み合わせが含まれる。尿路癌の治療に好適であり得る薬物の代表的な例には、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、シスプラチン、ドキソルビシン、バルルビシン、ゲムシタビン、マイコバクテリア細胞壁−DNA複合体(MCC)、メトトレキサート、ビンブラスチン、チオテパ、マイトマイシン、フルオロウラシル、ロイプロリド、ジエチルスチルベストロール、エストラムスチン、酢酸メゲストロール、シプロテロン、フルタミド、選択的エストロゲン受容体調節薬(すなわちタモキシフェンなどのSERM)、ボツリヌス毒素、及びシクロホスファミドが含まれる。薬物は生物学的なものであってもよく、モノクローナル抗体、TNF阻害薬、アンチロイキンなどを含み得る。薬物はまた、イミキモド又は別のTLR7アゴニストを含め、TLRアゴニストなどの免疫調節薬であってもよい。薬物はまた、特に、線維芽細胞成長因子受容体−3(FGFR3)選択的チロシンキナーゼ阻害薬、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)阻害薬、又はマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)阻害薬などのキナーゼ阻害薬又はそれらの組み合わせであってもよい。他の例には、セレコキシブ、エロロチニブ(erolotinib)、ゲフィチニブ、パクリタキセル、ポリフェノンE、バルルビシン、ネオカルチノスタチン、アパジコン、ベリノスタット、インゲノールメブテート、ウロシジン(Urocidin)(MCC)、プロキシニウム(Proxinium)(VB 4845)、BC 819(BioCancell Therapeutics)、キーホールリンペットヘモシアニン、LOR 2040(Lorus Therapeutics)、ウロカニン酸、OGX 427(OncoGenex)、及びSCH 721015(Schering-Plough)が含まれる。薬物治療は、癌性組織を標的とする従来の放射線療法又は外科的療法と併用されてもよい。
【0093】
[0109]さらに他の実施形態では、本装置を使用して、膀胱、前立腺、及び尿道の関与する感染症が治療される。かかる感染症の治療には、抗生物質、抗細菌薬、抗真菌薬、抗原虫薬、消毒薬、抗ウイルス薬及び他の抗感染剤を投与することができる。感染症の治療用薬物の代表的な例には、マイトマイシン、シプロフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、メタンアミン、ニトロフラントイン、アンピシリン、アモキシシリン、ナフシリン、トリメトプリム、スルホンアミド系のトリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、メトロニダゾール、テトラサイクリン、カナマイシン、ペニシリン、セファロスポリン、及びアミノグリコシドが含まれる。
【0094】
[0110]他の実施形態では、本装置を使用して、膀胱又は子宮などの泌尿生殖器部位の線維症が治療される。類線維腫の治療用薬物の代表的な例には、ペントクスフィリン(pentoxphylline)(キサンチン類似体)、抗TNF剤、抗TGF剤、GnRH類似体、外因性プロゲスチン、抗プロゲスチン、選択的エストロゲン受容体調節薬、ダナゾール及びNSAIDsが含まれる。
【0095】
[0111]植込み型薬物送達装置を使用して、神経因性膀胱もまた治療され得る。神経因性膀胱の治療用薬物の代表的な例には、リドカイン、ブピバカイン、メピバカイン、プリロカイン、アルチカイン、及びロピバカインなどの鎮痛薬又は麻酔薬;抗コリン作動薬;オキシブチニン又はプロピベリンなどの抗ムスカリン薬;カプサイシン又はレシニフェラトキシンなどのバニロイド;M3ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)に作用するものなどの抗ムスカリン薬;バクロフェンなどのGABABアゴニストを含む鎮痙剤;ボツリヌス毒素;カプサイシン;αアドレナリン拮抗薬;抗痙攣薬;アミトリプチリンなどのセロトニン再取り込み阻害薬;及び神経成長因子アンタゴニストが含まれる。様々な実施形態において、薬物は、Reitz et al., Spinal Cord 42:267-72 (2004)に記載されるとおり、膀胱求心性神経に作用するもの又は遠心性コリン作動性伝達に作用するものであってもよい。
【0096】
[0112]神経因性膀胱の治療用薬物は、2つの一般的なタイプのうちの一方に分類することができる:痙性神経因性膀胱の治療用及び弛緩性神経因性膀胱の治療用。実施形態において、薬物は、神経因性排尿筋過活動及び/又は排尿筋の柔軟性の低さに起因する失禁の治療用として公知のものから選択される。例としては、膀胱弛緩薬(例えば、オキシブチニン(顕著な筋弛緩活性及び局所麻酔活性を有する抗ムスカリン剤)、プロピベリン、インプラトロプリウム(impratroprium)、チオトロピウム、トロスピウム、テロジリン、トルテロジン、プロパンテリン、オキシフェンサイクリミン、フラボキサート、及び三環系抗うつ薬;膀胱及び尿道を支配する神経を遮断する薬物(例えば、バニロイド(カプサイシン、レシニフェラトキシン)、ボツリヌス毒素A);又は排尿筋収縮強度、排尿反射、排尿筋括約筋協調不全を調節する薬物(例えば、GABAbアゴニスト(バクロフェン)、ベンゾジアザピン(benzodiazapine))が含まれる。他の実施形態において、薬物は、神経学的な括約筋不全に起因する失禁の治療用として公知のものから選択される。例としては、αアドレナリン作動薬、エストロゲン、βアドレナリン作動薬、三環系抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリン)が含まれる。さらに他の実施形態では、薬物は、排尿を促進することが公知のものから選択される(例えば、αアドレナリン拮抗薬(フェントラミン)又はコリン作動薬)。さらに他の実施形態では、薬物は、抗コリン作動薬(例えば、ジサイクロミン)、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ベラパミル)トロパンアルカロイド(例えば、アトロピン、スコポラミン)、ノシセプチン/オルファニンFQ、及びベタネコール(例えば、m3ムスカリン作動薬、コリンエステル)の中から選択される。
【0097】
[0113]本装置は体腔又は管腔に植え込まれ得る。植込み後、装置は1つ以上の病態を治療するための1つ以上の薬物を、展開部位における1つ以上の組織に局所的に、展開部位より遠位の他の組織に局部的に、或いはその双方に放出し得る。放出は長期間にわたり制御され得る。その後、装置は取り出されるか、吸収されるか、排泄されるか、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0098】
[0114]特定の実施形態において本装置は、展開器具に装置を挿通し、装置を展開器具から体内に解放することにより植え込まれる。展開器具は、市販のものか、又は装置の展開に特別に適合したものであるかに関わらず、カテーテル、尿道カテーテル、膀胱鏡、又はそれらの組み合わせなどの任意の好適なルーメン装置であってもよい。詳細な実施形態において本装置は、図13に示されるとおり膀胱に植え込まれる。成人男性の解剖学的構造が例として示されるが、装置は他の場合には女性ヒト患者又は小児患者に植え込まれ得る。展開器具1302が尿道から膀胱に挿入され、その展開器具1302に装置1300が挿通され、例えばスタイレット又は潤滑剤若しくは他の流体の流れにより推進されて、最終的に装置1300は膀胱内に出る。次に装置は、留置形状をとるか、又は膀胱に係留するなどして、留置機能によって膀胱に留置される。留置形状をとる装置の例が図14に示され、これは装置が展開器具1402を出るに従い留置形状をとる装置1400を示す。
【0099】
[0115]本装置は、独立した手技で、又は別の泌尿器科の若しくは他の手技若しくは手術と併せて、他の手技の前、その最中、或いはその後に展開され得る。装置は、治療又は予防のために局所組織及び/又は局部組織に送達される1つ以上の薬物を、周術期、術後、或いはその双方に放出し得る。
【0100】
[0116]生体内での展開後、装置は薬物を放出する。放出は装置の内側と外側との間の浸透圧勾配により起こってもよく、薬物は浸透圧の力を受けて装置の1つ以上の穴又は貫通孔を通過する。放出はまた拡散により起こってもよく、ここでは装置の内側と外側との間の薬物濃度勾配により、薬物は装置の1つ以上の開口又は貫通孔及び/又は装置の薬物透過性の壁を通過する。単一の装置内にこれらの放出様式を組み合わせることが可能であり、いくつかの実施形態では、いずれか一方の様式単独では容易に実現できない全体的な薬物放出プロファイルを実現するために、それが好ましい。
【0101】
[0117]薬物の剤形の選択は放出動態に影響を与え得る。例えば、乳剤、懸濁液、及び溶液の形態の薬物を含む液体薬物は、植込み後の即時放出に利用可能であり得る一方、固形剤形の薬物は、概して放出前に生体内で可溶化される必要がある。詳細には、植込み部位からの体液が、装置の透水性の壁又は壁にある通路を通るなどして装置に入り込み、薬物を溶解し得る。例えば、装置が膀胱に植え込まれる場合には、薬物は尿と接触することで可溶化されてもよい。
【0102】
[0118]詳細な実施形態において、少なくとも2つの薬物ペイロードの放出が異なる放出プロファイルに従い起こってもよく、これには、即時放出と遅延放出など、異なる初期の放出開始を呈するプロファイル;急速放出と持続放出など、異なる放出期間を呈するプロファイル;及びゼロ次放出速度か、又はその他かどうかの、異なる放出速度を呈するプロファイルが含まれる。装置からの全体的な放出プロファイルは、個別の薬物ペイロードに関連する個別化された放出プロファイルの総和であってもよい。従って所望のプロファイルに従う連続放出及び持続放出が促進される。例えば、装置は第1のペイロード、例えば液体ペイロード又は速効性浸透圧ポンプとして動作するハウジング内のペイロードを比較的急速に放出してもよく、装置は第2のペイロードを、より低速の浸透圧ポンプとして動作するハウジングなどから継続的に放出してもよい。
【0103】
[0119]薬物の放出はまた、装置の構成に基づき遅延させ、又は調節してもよい。例えば、初期の薬物放出の開始は、分解性時限構造、例えば、装置の開口部を被覆する時限膜、装置の開口部を塞ぐ時限プラグ、又は装置の外面の少なくとも一部分の周りの時限コーティングが分解し、それにより保護された開口部又は壁を通じて水が流れ込み、及び/又は薬物が流れ出ることが可能となるまで遅延させてもよい。
【0104】
[0120]本装置は、所望の所定時間にわたる所望の分量の薬物の持続的、連続的、間欠的、又は周期的な放出をもたらし得る。様々な実施形態において、装置は、12時間、24時間、5日間、7日間、10日間、14日間、又は20、25、30、45、60、若しくは90日間、又はそれ以上など、長期間にわたり所望の用量の薬物を送達することができる。薬物の送達速度及び投薬量は、送達される薬物及び治療される疾患又は病態に応じて選択することができる。
【0105】
[0121]続いて、装置が非吸収性であるか、又は他の形で除去が必要な場合など、装置は体内から回収され得る。このための回収装置は当該技術分野において公知であり、又は特別に作製することができる。装置はまた、装置全体が吸収されるか、或いは装置が排尿中に膀胱から排除されるのに十分なまで分解されるなど、完全に、又は部分的に生体吸収性で、従って回収が不要であってもよい。装置は、薬物の一部、又は好ましくは薬物のほとんど若しくは全てが放出されるまで、回収又は吸収されなくてもよい。必要であれば、続いて新しい薬物が装填された装置が、回収と同じ手技中に、又は後になって、植え込まれてもよい。
【0106】
[0122]一実施形態において、自蔵式薬物ペイロードを有する植込み型装置が膀胱内で完全に展開され、少なくとも1つの薬物の持続的な局所送達を有効量で局所的に膀胱にもたらす。装置の生体内での展開後、薬物のペイロードの少なくとも一部分は、尿路上皮に対して、及び可能性としては近接する組織に対して、治療の提供又は患者の膀胱機能の改善に有効な量で長期間にわたり実質的に連続的に装置から放出される。好ましい実施形態において、装置は膀胱内に留まりながら薬物を所定の期間にわたり、例えば2週間、3週間、4週間、1ヶ月、又はそれ以上放出する。その場合、装置を使用して、間質性膀胱炎、放射線膀胱炎、骨盤痛、過活動膀胱症候群、膀胱癌、神経因性膀胱、神経障害性若しくは非神経障害性膀胱括約筋不全、感染症、術後痛又は膀胱に送達される薬物で治療される他の疾患、障害、及び病態を治療することができる。装置は、膀胱容量、コンプライアンス、及び/又は無抑制収縮の頻度などの膀胱機能を改善する薬物、膀胱又は他の近接範囲における痛み及び不快感を低減する薬物、又は他の効果を有する薬物、又はそれらの組み合わせを送達し得る。
【0107】
[0123]いくつかの実施形態において、薬物送達装置は、1つ以上の近接した泌尿生殖器部位に薬物を局部送達するため患者の膀胱内に展開される。装置は薬物を膀胱に局所的に、及び膀胱に近接した他の部位に局部的に放出し得る。膀胱に展開される装置はまた、治療有効量の1つ以上の薬物を体内の他の泌尿生殖器部位に、特に、腎臓の一方若しくは双方、尿道、尿管の一方若しくは双方、陰茎、精巣、精嚢の一方若しくは双方、精管の一方若しくは双方、射精管の一方若しくは双方、前立腺、腟、子宮、卵巣の一方若しくは双方、又はファロピウス管の一方若しくは双方、又はそれらの組み合わせを含めた、身体の泌尿器系又は生殖器系の範囲内における他の位置などにも送達し得る。例えば、膀胱内薬物送達装置は、数ある疾患、障害、及び病態の中でも特に、腎結石又は線維症、勃起障害の治療に使用することができる。かかる送達は、望ましくない副作用を伴ったり、又は薬物のバイオアベイラビリティが不十分となったりし得る全身投与に代わる手段を提供することができる。
【0108】
[0124]詳細な実施形態では、薬物送達装置が膀胱内に植え込まれて局所麻酔剤が局所送達され、それにより泌尿生殖器組織における疾患又は障害などの任意の疼痛源に起因する痛み、又は任意の膀胱の手技、特に、外科手術、カテーテル処置、アブレーション、医療装置の植込み、又は結石若しくは異物の摘出から生じる痛みが管理される。例えば、局所麻酔剤を膀胱内に放出することで近接部位に局部送達し、医療装置の尿管中の、若しくは尿管を通じた通過に関連する術後痛、又は膀胱から離れた部位における他の術後痛などの、任意の疼痛源に起因する近接する痛みを管理することができる。
【0109】
[0125]詳細な実施形態において、リドカインのペイロードを有する装置が膀胱に送達されてもよく、リドカインが装置から長期間にわたり継続的に放出されてもよい。膀胱の尿路上皮へのリドカインの局所送達は、点滴投与によって長期間にわたり達成され得る濃度を上回るが、しかし点滴投与で観察される高い初期ピークはなく、且つ著しい全身濃度のない、持続的なレベルのリドカインを実現するようにして提供され得る。従って、植え込むペイロードは少なくてもよく、装置が不具合を起こした場合の全身作用のリスクが低減される。固形剤形のリドカインを植え込むことにより、装置のサイズを低減し、膀胱刺激作用及び患者の不快感を低減することがさらに可能となる。リドカインは尿のpHに関わらず送達され得る。
【0110】
[0126]リドカインは、初期急性相の間、及び維持相の間、膀胱に継続的に放出され得る。例えば装置は、リドカインの少なくとも2つのペイロードを異なる放出プロファイルに従い放出してもよい。ペイロードの一つは、浸透圧勾配の力を受けて開口から放出される塩酸リドカイン一水和物を含んでもよく、一方、もう一つのペイロードは、拡散により装置の壁を通じて放出されるリドカイン塩基を含んでもよい。リドカイン塩基は可溶化されると直ちにハウジングを通じた拡散に利用可能となり得るため、この薬物は初期放出前に経る遅延がより短いことがあり得る。塩酸リドカイン一水和物が経る初期放出前の遅延は、浸透圧勾配を作り出すのに十分な薬物が可溶化されるまでなど、より長いことがあり得る。以下の非限定的な実施例を参照することにより、本発明がさらに理解され得る。
【実施例】
【0111】
実施例1:様々な形態のリドカインのシリコーンチューブを通じた拡散
[0127]管状薬物ハウジングのシリコーン壁を通じた拡散によるリドカインの送達の実現可能性を判断する試験を実施した。装置は、各々が約3cmの長さを有するシリコーンチューブから形成された。総ペイロードを約60mgとして、塩酸リドカイン一水和物又はリドカイン塩基のいずれかの薬物錠剤を装置に装填した。装置は約37℃の水中においてインビトロで試験した。図15に示される放出プロファイルデータは、開口部を含まないシリコーン壁を通じた拡散によるリドカイン塩基の送達が実行可能であることを実証している。
【0112】
[0128]管状薬物ハウジングのシリコーン壁を通じた拡散によるリドカインの送達の実現可能性を判断する試験を実施した。装置は、各々が約0.060インチの内径、0.076インチの外径、及び約3cmの長さを有するシリコーンチューブから形成された。総ペイロードを約60mgとして、リドカインの固形薬物錠剤を装置に装填した。装置の一部はチューブ壁を貫通して形成された開口部を含み、開口部は直径が150μmであった。これらの装置に、塩酸リドカイン一水和物(LHM)又は塩酸リドカイン一水和物とリドカイン塩基との組み合わせ(L)のいずれかの固形錠剤を装填した。他の装置は開口部を含まないもので、リドカイン塩基の固形薬物錠剤を装填した。装置は約37℃の水中においてインビトロで試験した。図16に示される放出プロファイルデータは、開口部を含まないシリコーン壁を通じた拡散によるリドカイン塩基の送達が実行可能であることを実証している。
【0113】
[0129]シリコーン壁を通じた拡散及びシリコーン壁の開口部からの拡散によるリドカイン塩基の送達の実現可能性を調べる別の試験を実施した。装置は、約3cmの長さを有するシリコーンチューブから形成された。総ペイロードを約60mgとして、リドカイン塩基の固形薬物錠剤を装置に装填した。5つの装置が約0.060インチの内径及び0.076インチの外径を有した。第1の装置は直径が約150μmの1個の開口部を有し、第2の装置は直径が各々約360μmの2個の開口部を有し、第3の装置は直径が各々約360μmの30個の開口部を有し、第4の装置は直径が各々約360μmの60個の開口部を有し、及び第5の装置は開口部を有しなかった。第6の装置は内径が約0.062インチ、外径が0.095インチで、及び開口部を有しなかった。これらの装置は約37℃の水中においてインビトロで試験した。図17に示される放出プロファイルデータは、開口部を全く含まないシリコーンチューブからリドカイン塩基が放出され得ること、及び装置に開口部を加えることにより放出速度が増加し得ることを実証している。
【0114】
実施例2:リドカイン塩基が装填されたシリコーンベースの装置の例示的な放出速度
[0130]開口部を有しない管状シリコーン壁から形成される2つの薬物部分の理論的な放出速度を計算した。理論的な放出は、主としてシリコーン壁を通じた拡散により起こる。定常状態の放出速度(R)は、壁の透過性(D)、壁の内径(ID)、壁の外径(OD)、壁の長さ(L)、及び薬物の溶解度(S)の関数であり、R=(2DSL)/In(OD/ID)である。ペイロードが60mgのリドカイン塩基、長さが3cm、内径が1.52mm、及び外径が1.93mmの管状シリコーン薬物部分を計算すると、13mg/日の放出速度が示された。ペイロードが800mgのリドカイン塩基、長さが14cm、内径が2.58mm、及び外径が3.31mmの別の管状シリコーン薬物部分を計算すると、57mg/日の放出速度が示された。
【0115】
[0131]前述の説明及び図では、例示を目的として植込み型薬物送達装置の特定の実施形態を詳細に開示しているが、当業者は、本開示の範囲から逸脱することなく変形例及び改良例を実現し得ることを理解するであろう。例えば、一実施形態の一部として例示され、又は説明される特徴を別の実施形態で使用して、さらに別の実施形態をもたらすことができる。かかる変形例及び改良例は全て、以下の特許請求の範囲及びその均等物により保護されるとおりの、本開示の範囲内に含まれることが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者にリドカインを送達するための植込み型装置であって、
リドカインの薬学的に許容可能な塩を含む第1の薬物製剤を収容する第1の薬物ハウジングを含む第1の薬物部分であって、前記第1の薬物製剤が固形剤形である、第1の薬物部分と、
リドカイン塩基を含む第2の薬物製剤を収容する第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分と、
を含む装置。
【請求項2】
前記第1の薬物ハウジングが、透水性であり、前記リドカイン塩に対して不透過性であり、開口部を含み、且つ浸透圧による生体内での前記リドカイン塩の放出をもたらす、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2の薬物ハウジングが、水及び水溶液中のリドカイン塩基に対して透過性であり、且つ拡散による生体内でのリドカイン塩基の放出をもたらす、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1のハウジング及び前記第2の薬物ハウジングが、単一の管状本体の仕切られた範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の薬物製剤及び前記第2の薬物製剤の少なくとも一方が、前記単一の管状本体内に一列に整列した複数の薬物錠剤を含む、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記単一の管状本体がシリコーンから形成される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の薬物部分及び前記第2の薬物部分が、留置部分に動作可能に連係される、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記留置部分が留置フレームを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記装置が留置形状と展開形状との間で変形可能である、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
塩酸リドカインを含む第1の薬物製剤を収容する第1の薬物ハウジングを含む第1の薬物部分であって、前記第1の薬物製剤が固形剤形である、第1の薬物部分と、
リドカイン塩基を含む第2の薬物製剤を収容する第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分と、
前記第1の薬物部分及び前記第2の薬物部分が動作可能に連係する留置フレームと、
を含む、患者の膀胱内にリドカインを送達するための植込み型装置であって、
前記患者の尿道を通じた前記装置の展開を可能にする展開形状と、前記展開された装置を前記膀胱内に留置する留置形状との間で変形可能である、装置。
【請求項11】
開放気泡構造、独立気泡構造、又はそれらの組み合わせを有する多孔側壁により画成された少なくとも1つのルーメンを有する弾性チューブを含む薬物リザーバ構成要素と、
前記少なくとも1つのルーメン内に収容される薬物製剤と、
を含む、薬物の制御送達装置用の植込み型医療装置であって、
低プロファイルの展開形状と比較的拡がった留置形状との間で変形可能である、装置。
【請求項12】
前記薬物製剤が、前記ルーメンに収容されるとき固形剤形又は半固形剤形であり、放出のため生体内で可溶化される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記多孔側壁がシリコーンを含む、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記多孔側壁が、1つ又は複数の穿孔又は機械加工された開口部をさらに含む、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
薬物の制御送達装置用の植込み型医療装置であって、
第1の薬物を含む第1の薬物製剤が装填された第1の薬物ハウジングを含む第1の薬物部分であって、前記第1の薬物ハウジングが、水に対しては透過性だが前記第1の薬物に対しては実質的に不透過性である第1の壁であって、前記第1の壁を貫通する少なくとも1つの通路を有する第1の壁を含み、前記第1の薬物部分が生体内で前記第1の薬物を第1の放出プロファイルに従い放出する、第1の薬物部分と、
第2の薬物を含む第2の薬物製剤が装填された第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分であって、前記第2の薬物ハウジングが、水と前記第2の薬物とに対して透過性である第2の壁を含み、前記第2の薬物部分が生体内で前記第2の薬物を、前記第1の放出プロファイルと異なる第2の放出プロファイルに従い放出する、第2の薬物部分と、
前記第1の薬物部分及び第2の薬物部分の双方に動作可能に連係された留置部分と、
を含む装置。
【請求項16】
前記第1の薬物製剤が、前記第2の薬物製剤と比べて比較的高い水中溶解度を有する、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記第1の薬物ハウジングが、前記第1の薬物を主に浸透圧により放出するように構成され、及び
前記第2の薬物ハウジングが、前記第2の薬物製剤を主に拡散により放出するように構成される、
請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記第1の薬物が、水中溶解度が高い塩形態であり、及び
前記第2の薬物が、前記第1の薬物と同じ薬物であるが、水中溶解度が低い非塩形態である、
請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記第1の薬物ハウジングと前記第2の薬物ハウジングとが、単一の管状本体の仕切られた領域である、請求項15〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記薬物製剤の少なくとも1つが、前記単一の管状本体内に一列に整列した複数の固形薬物錠剤を含む、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記留置部分が留置フレームを含み、前記装置が留置形状と展開形状との間で変形可能である、請求項15に記載の装置。
【請求項22】
前記第1の薬物ハウジングが複数の放出通路を含み、前記第1の放出プロファイルが、前記複数の放出通路を通じた前記薬物の拡散を少なくとも部分的に反映する、請求項15に記載の装置。
【請求項23】
各放出通路が、非多孔壁を通じて延在する開口部、又は多孔壁を通じて延在する貫通孔のいずれかを含む、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
リドカインを患者の膀胱内に送達する方法であって、
固形剤形のリドカイン塩基を収容する透水性ハウジングを含む装置を前記患者の膀胱内に展開する工程と、
生体内で前記リドカイン塩基が可溶化した後、前記可溶化されたリドカインを前記装置から前記透水性ハウジングを通じて前記膀胱内に放出する工程と、
を含む方法。
【請求項25】
前記装置が薬学的に許容可能な塩形態のリドカインをさらに含み、前記リドカイン塩もまた、それが生体内で可溶化された後に前記装置から放出される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
治療有効量のリドカインが、拡散と浸透圧ポンピングとの組み合わせにより長期間にわたり放出される、請求項24に記載の方法。
【請求項1】
患者にリドカインを送達するための植込み型装置であって、
リドカインの薬学的に許容可能な塩を含む第1の薬物製剤を収容する第1の薬物ハウジングを含む第1の薬物部分であって、前記第1の薬物製剤が固形剤形である、第1の薬物部分と、
リドカイン塩基を含む第2の薬物製剤を収容する第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分と、
を含む装置。
【請求項2】
前記第1の薬物ハウジングが、透水性であり、前記リドカイン塩に対して不透過性であり、開口部を含み、且つ浸透圧による生体内での前記リドカイン塩の放出をもたらす、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2の薬物ハウジングが、水及び水溶液中のリドカイン塩基に対して透過性であり、且つ拡散による生体内でのリドカイン塩基の放出をもたらす、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1のハウジング及び前記第2の薬物ハウジングが、単一の管状本体の仕切られた範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の薬物製剤及び前記第2の薬物製剤の少なくとも一方が、前記単一の管状本体内に一列に整列した複数の薬物錠剤を含む、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記単一の管状本体がシリコーンから形成される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の薬物部分及び前記第2の薬物部分が、留置部分に動作可能に連係される、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記留置部分が留置フレームを含む、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記装置が留置形状と展開形状との間で変形可能である、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
塩酸リドカインを含む第1の薬物製剤を収容する第1の薬物ハウジングを含む第1の薬物部分であって、前記第1の薬物製剤が固形剤形である、第1の薬物部分と、
リドカイン塩基を含む第2の薬物製剤を収容する第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分と、
前記第1の薬物部分及び前記第2の薬物部分が動作可能に連係する留置フレームと、
を含む、患者の膀胱内にリドカインを送達するための植込み型装置であって、
前記患者の尿道を通じた前記装置の展開を可能にする展開形状と、前記展開された装置を前記膀胱内に留置する留置形状との間で変形可能である、装置。
【請求項11】
開放気泡構造、独立気泡構造、又はそれらの組み合わせを有する多孔側壁により画成された少なくとも1つのルーメンを有する弾性チューブを含む薬物リザーバ構成要素と、
前記少なくとも1つのルーメン内に収容される薬物製剤と、
を含む、薬物の制御送達装置用の植込み型医療装置であって、
低プロファイルの展開形状と比較的拡がった留置形状との間で変形可能である、装置。
【請求項12】
前記薬物製剤が、前記ルーメンに収容されるとき固形剤形又は半固形剤形であり、放出のため生体内で可溶化される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記多孔側壁がシリコーンを含む、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記多孔側壁が、1つ又は複数の穿孔又は機械加工された開口部をさらに含む、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
薬物の制御送達装置用の植込み型医療装置であって、
第1の薬物を含む第1の薬物製剤が装填された第1の薬物ハウジングを含む第1の薬物部分であって、前記第1の薬物ハウジングが、水に対しては透過性だが前記第1の薬物に対しては実質的に不透過性である第1の壁であって、前記第1の壁を貫通する少なくとも1つの通路を有する第1の壁を含み、前記第1の薬物部分が生体内で前記第1の薬物を第1の放出プロファイルに従い放出する、第1の薬物部分と、
第2の薬物を含む第2の薬物製剤が装填された第2の薬物ハウジングを含む第2の薬物部分であって、前記第2の薬物ハウジングが、水と前記第2の薬物とに対して透過性である第2の壁を含み、前記第2の薬物部分が生体内で前記第2の薬物を、前記第1の放出プロファイルと異なる第2の放出プロファイルに従い放出する、第2の薬物部分と、
前記第1の薬物部分及び第2の薬物部分の双方に動作可能に連係された留置部分と、
を含む装置。
【請求項16】
前記第1の薬物製剤が、前記第2の薬物製剤と比べて比較的高い水中溶解度を有する、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記第1の薬物ハウジングが、前記第1の薬物を主に浸透圧により放出するように構成され、及び
前記第2の薬物ハウジングが、前記第2の薬物製剤を主に拡散により放出するように構成される、
請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記第1の薬物が、水中溶解度が高い塩形態であり、及び
前記第2の薬物が、前記第1の薬物と同じ薬物であるが、水中溶解度が低い非塩形態である、
請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記第1の薬物ハウジングと前記第2の薬物ハウジングとが、単一の管状本体の仕切られた領域である、請求項15〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記薬物製剤の少なくとも1つが、前記単一の管状本体内に一列に整列した複数の固形薬物錠剤を含む、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記留置部分が留置フレームを含み、前記装置が留置形状と展開形状との間で変形可能である、請求項15に記載の装置。
【請求項22】
前記第1の薬物ハウジングが複数の放出通路を含み、前記第1の放出プロファイルが、前記複数の放出通路を通じた前記薬物の拡散を少なくとも部分的に反映する、請求項15に記載の装置。
【請求項23】
各放出通路が、非多孔壁を通じて延在する開口部、又は多孔壁を通じて延在する貫通孔のいずれかを含む、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
リドカインを患者の膀胱内に送達する方法であって、
固形剤形のリドカイン塩基を収容する透水性ハウジングを含む装置を前記患者の膀胱内に展開する工程と、
生体内で前記リドカイン塩基が可溶化した後、前記可溶化されたリドカインを前記装置から前記透水性ハウジングを通じて前記膀胱内に放出する工程と、
を含む方法。
【請求項25】
前記装置が薬学的に許容可能な塩形態のリドカインをさらに含み、前記リドカイン塩もまた、それが生体内で可溶化された後に前記装置から放出される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
治療有効量のリドカインが、拡散と浸透圧ポンピングとの組み合わせにより長期間にわたり放出される、請求項24に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図11G】
【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図11K】
【図11L】
【図11M】
【図11N】
【図11O】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図11G】
【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図11K】
【図11L】
【図11M】
【図11N】
【図11O】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2013−504584(P2013−504584A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528895(P2012−528895)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/048266
【国際公開番号】WO2011/031855
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(511305575)タリス バイオメディカル,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/048266
【国際公開番号】WO2011/031855
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(511305575)タリス バイオメディカル,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
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