説明

薬物代謝能力を有する酵素を不可逆的に阻害する能力を検定する方法

【課題】物質が有する薬物代謝能力を有する酵素を不可逆的に阻害する能力を簡易に且つ精度良く検定する方法の開発
【解決手段】1)2種以上の哺乳動物由来の薬物代謝酵素からなる混合系酵素(本酵素群)と各酵素に対応する指標と成り得る2種以上の指標基質からなる混合系指標基質(本基質群)と本基質群及び本酵素群の両者に適する混合系溶媒とを含む反応液を決定する工程、2)本酵素群と被験物質とを接触させた後、本基質群を反応系内に加えることにより、前記反応液の中で本酵素群と本基質群とを反応させ、代謝体を混合系代謝体(本代謝体群)として生成させる工程、3)前工程の本代謝体群の生成量をHPLCタンデム型質量分析計を用いて測定する工程及び4)前工程の測定された生成量又は指標値に基づき、不可逆的な阻害能力の有無等を評価する工程、を特定条件下で行う薬物代謝酵素不可逆的阻害能力の検定方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質が有する、薬物代謝能力を有する酵素を検定対象となる物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を検定する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
生物は、生体内に取り込まれた薬物を異物として認識し、極性を高めて体外に排泄するシステムを持っており、当該システムを薬物代謝と呼ぶことがある。薬物代謝において中心的な役割を担っているのが、例えば、チトクロームP450と呼ばれる一群の酸化還元酵素であり、薬物(特に医薬化合物)の薬理効果や毒性を決定する重要な因子の一つとして位置づけられている。
このようなチトクロームP450等の薬物代謝能力を有する酵素は、多くの組織中に含まれるが、特に肝臓中に高い水準で含まれている。例えば、ヒト等の哺乳動物由来の肝臓では15〜20種類の異なるチトクロームP450分子種の存在が推測されている。この中で、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4と呼ばれるチトクロームP450分子種は、薬物代謝及び薬物−薬物相互作用を最も一般的に担うと考えられている。そして、特定のチトクロームP450分子種による薬物代謝における競合は、臨床的に重要な薬物−薬物相互作用のメカニズムであるとされている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0003】
【非特許文献1】P450の分子生物学、大村 恒雄、藤井 義明、石村 巽、出版社:講談社;ISBN 406153677X、発行日:2003/10
【0004】
【非特許文献2】薬物代謝学−医療薬学・毒性学の基礎として、出版社: 東京化学同人;ISBN 4807905279、第2版、発行日:2000/10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、チトクロームP450等の薬物代謝酵素による薬物代謝及び薬物−薬物相互作用において、当該薬物代謝酵素による代謝体が当該薬物代謝酵素自身若しくは別のチトクロームP450等の薬物代謝酵素と共有結合する等して複合体を形成し、当該複合体が前記の薬物代謝酵素を不可逆的に阻害する「Mechanism-Based Inhibition」(以下、MBIと記すこともある。)と呼ばれる現象が臨床的に重要視されてきており、創薬段階や臨床において重篤な相互作用を未然に防ぐためのアプローチを提唱すべく、分子生物学的手法と速度論的思考とを統合した研究の重要性が増している。そして、各製薬企業においては、薬物の開発段階において薬物−薬物相互作用の有無及びその程度を検討しておくことが求められており、そのために、例えば、薬物が有する、薬物代謝能力を有する酵素を検定対象となる薬物の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を簡易に且つ精度良く検定する方法の開発等が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる状況のもと混合系反応における反応液に係る実験を積み重ねながら鋭意検討した結果、哺乳動物由来の薬物代謝酵素を2種以上組み合せてなる混合系反応用酵素と、前記酵素の夫々に対応する基質のうち指標と成り得る指標基質を混合系反応用酵素に適するように組み合せてなる混合系反応用指標基質と、前記混合系反応用指標基質の溶解及び前記混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適する混合系反応用溶媒とを含む反応液の基本組成を決定することにより、混合系反応用酵素が混合系反応用指標基質と反応して混合系反応代謝体を常に安定して製造可能であることを見出した。
さらに本発明者らは、かかる状況のもと混合系反応における薬物−薬物相互作用に係る実験を積み重ねながら鋭意検討した結果、前記混合系反応用酵素と被験物質及び必要に応じて補酵素とを所定時間接触させた後、次いで前記混合系反応用指標基質を前記(a)の接触系内に加えることにより、上述の基本組成に基づく反応液の中で前記混合系反応用酵素と前記混合系反応用指標基質とを反応させ、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体を、前記混合系反応用酵素による前記混合系反応用指標基質の混合系反応代謝体として生成させ、これを高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計を用いて測定し、その測定結果を解析する一連の工程を特定条件下で行うことにより、上記所望の検定方法が構築できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明は、
1.物質が有する、薬物代謝能力を有する酵素を検定対象となる物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を検定する方法において、
(1)哺乳動物由来の薬物代謝酵素を2種以上組み合せてなる混合系反応用酵素と、前記酵素の夫々に対応する基質のうち指標と成り得る指標基質を混合系反応用酵素に適するように組み合せてなる混合系反応用指標基質と、前記混合系反応用指標基質の溶解及び前記混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適する混合系反応用溶媒とを含む反応液の基本組成を決定する第一工程、
(2)(a)前記混合系反応用酵素と被験物質及び必要に応じて補酵素とを所定時間接触させた後、次いで(b)前記混合系反応用指標基質を前記(a)の接触系内に加えることにより、第一工程により決定された基本組成に基づく反応液の中で前記混合系反応用酵素と前記混合系反応用指標基質とを反応させ、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体を、前記混合系反応用酵素による前記混合系反応用指標基質の混合系反応代謝体として生成させる第二工程、
(3)第二工程により生成された混合系反応代謝体を試料として、当該混合系反応代謝体の中に含まれる、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量を、高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計を用いて同時に測定する第三工程、及び、
(4)第三工程により同時に測定された、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量、又は、当該生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値に基づき、前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価する第四工程
を有し、且つ、
(A)第一工程において反応液の基本組成を決定する際に、
前記混合系反応用指標基質の溶解及び前記混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適する混合系反応用溶媒としてメタノール又はアセトニトリルを選択する第A工程、
を有し、且つ、
(B)第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
(B1)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定されてなる試験を存在させ、且つ、
(B2)第二工程の(b)段階での反応において被験物質が非存在であること以外は同等な反応における反応時間と当該反応における前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量とが、前記混合系反応用酵素に含まれる全ての酵素において略比例するように、用いられる前記酵素の夫々の量及び前記酵素の夫々に対応する前記指標基質の量並びに第二工程の(b)段階での反応時間を選択する第B工程、
を有し、且つ、
(C)第三工程において測定する際に、
高速液体クロマトグラフィーにおける移動相として前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体を選択し、及び/又は、高速液体クロマトグラフィーにおける試料及び移動相を前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体に調製する第C工程を有することを特徴とする検定方法(以下、本発明検定方法と記すこともある。);
2.前記酵素がヒト由来チトクロムP450であることを特徴とする前項1記載の検定方法;
3.前記酵素がヒト肝ミクロソームであることを特徴とする前項1記載の検定方法;
4.前記混合系反応用酵素がCYP1A2、CYP2C8、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A4からなる酵素群であることを特徴とする前項1記載の検定方法;
5.前記混合系反応用酵素がCYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2E1及びCYP3A4からなる酵素群であることを特徴とする前項1記載の検定方法;
6.前記第四工程において、前記第三工程の前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量又はその指標値と、対照における前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量又はその指標値とを比較し、その差異に基づいて前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価することを特徴とする前項1〜5のいずれかの前項記載の検定方法;
7.前項1〜5のいずれかの前項記載の検定方法によって、前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価し、当該評価結果に基づき、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を有する物質を選抜することを特徴とする、薬物代謝能力を有する酵素を探索対象となる物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を有する物質の探索方法(以下、本発明探索方法と記すこともある。);
8.第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
(i)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間がゼロに単一設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が複数設定されてなる試験、及び、
(ii)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が上記(i)での最高量に単一設定されてなる試験、
が存在することを特徴とする前項1〜5のいずれかの前項記載の検定方法;
9.第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が複数設定されてなる試験が存在することを特徴とする前項1〜5のいずれかの前項記載の検定方法;
10.第一次試験として前項8記載の検定方法を実施し、次いで、第二次試験として前項9記載の検定方法を実施することを特徴とする試験方法(以下、本発明試験方法と記すこともある。);
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、物質が有する、薬物代謝能力を有する酵素を検定対象となる物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を簡易に且つ精度良く検定する方法が提供可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、GLP又は信頼性基準に準拠した本格的な試験に先立つプレスクリーニング試験に有用であり、特にハイスループット代謝阻害スクリーニング試験に応用することができるものである。
【0010】
本発明における「薬物代謝能力を有する酵素」(以下、本酵素と記すこともある。)とは、例えば、哺乳動物由来の薬物代謝酵素を意味している。具体的には例えば、ヒト由来チトクロムP450や、ヒト肝ミクロソーム等を挙げることができる。ヒト由来チトクロムP450やヒト肝ミクロソーム等は市販の製品を用いてもよいし、公知の方法(例えば、「実験生物学講座6 細胞分画法」、編集:毛利秀雄、香川靖雄、発行所:丸善株式会社、ISBN:4-621-02950-9 C3345、発行日:1984/12/25、「Method in Enzymolozy, Volume 206, Cytochrome P450」、EDITED BY Michael R.Waterman、Eric F. Johnson、ACADEMIC PRESS, INC.、1991等の文献参照)に従って調製してもよい。具体的には、ヒト肝ミクロソームの場合には、由来の明らかなヒトの肝臓をホモジナイズして得られる組織破砕物を遠心分離(例えば、4℃、10,000×g、30 min)した後、その上清をさらに遠心分離(4℃、100,000×g、90 min)し、得られた沈殿を 100 mM ピロリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4) に再度懸濁し遠心分離(4℃、100,000×g、60 min)して得られる沈殿を、適切な緩衝液に懸濁して得られる画分をヒト由来チトクロムP450等の薬物代謝能力を有する酵素を含む膜画分として、これを試料とすれば用いればよい。
【0011】
人為的に作製される、哺乳動物由来の薬物代謝酵素は、突然変異処理により作製される酵素であってもよいし、遺伝子工学的な手法を用いて作製させる酵素(以下、改変型酵素と記すこともある。)であってもよい。尚、改変型酵素形質を作製する際に用いられる哺乳動物由来の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子(以下、本遺伝子と記すこともある。)は、(1)天然に存在する遺伝子の中からクローニングされたものであってもよいし、(2)天然に存在する遺伝子であっても、このクローニングされた遺伝子の塩基配列において、その一部の塩基の欠失、置換又は付加が人為的に導入されてなる遺伝子(即ち、天然に存在する遺伝子を変異処理(部分変異導入法、突然変異処理等)を行ったものであってもよいし、(3)人為的に合成されたものであってもよい。
【0012】
本発明における「哺乳動物由来の薬物代謝酵素を2種以上組み合せてなる混合系反応用酵素」(以下、本混合系反応用酵素と記すこともある。)とは、例えば、2種以上の哺乳動物由来の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)(例えば、ヒト由来のチトクロムP450分子種)を組み合せて使用するための酵素群を意味している。具体的には例えば、2種以上のヒト由来チトクロムP450を組み合せてなる酵素群や、2種以上のヒト肝ミクロソームを組み合せてなる酵素群等を挙げることができる。
本混合系反応用酵素において、例えば、ヒト肝臓における各々の薬物代謝酵素への存在量に相当する割合で、当該薬物代謝酵素を混合した状態で組み合せて使用すればよい。尚、この組み合せ割合を適宜変えることにより、ヒトにおける人種差、個人差に対応させることもできる。ここで「混合した状態」とは、上記の2種以上の分子種を混合し、1つの反応系で同時に存在させる状態を意味する。
【0013】
本発明における「指標と成り得る指標基質」とは、薬物代謝能力を有する酵素(即ち、本酵素)によって作用を受ける典型的な化合物であり、当該酵素がその構造を特異的に認識しながら作用するような酵素反応を特徴付けるに足り得る代表的な物質を意味する。具体的には、例えば、本酵素がヒト由来チトクロムP450の場合には、ヒト由来チトクロムP450の基質となる各種の脂溶性化合物を、当該チトクロムP450に基づく酸素添加等の異化作用(即ち、モノオキシゲナーゼ反応)により分解して得られる典型的な化合物とし、これを当該指標基質として挙げることができる。
【0014】
より具体的には、本酵素がヒト由来のチトクロムP450分子種の場合には、例えば、
【0015】
【表1】

【0016】
等を挙げることができる。勿論、この他にも、FDA(米国食品医薬品局)や厚生労働省等が推奨する指標と成り得る酵素反応の中から適切なものを選択し、当該反応を特徴付けるに足り得る代表的な物質であってもよい。
尚、本酵素が2箇所以上の基質結合部位を有する場合には、2種以上の指標と成り得る酵素反応の各々に対応した、指標と成り得る指標基質を利用することが好ましい。このような酵素としては、例えば、CYP3A4等を挙げることができる。
【0017】
本発明における「前記酵素(即ち、本酵素)の夫々に対応する基質のうち指標と成り得る指標基質を混合系反応用酵素に適するように組み合せてなる混合系反応用指標基質」(以下、本混合系反応用指標基質と記すこともある。)とは、例えば、2種以上の前記「指標と成り得る指標基質」を組み合せて使用するための指標基質群を意味している。具体的には例えば、本酵素がヒト由来チトクロムP450の場合には、2種以上の、ヒト由来チトクロムP450の基質となる各種の脂溶性化合物を組み合せてなる指標基質群等を挙げることができる。
本混合系反応用指標基質として、例えば、本発明の効果を減じない範囲において、基質のうち指標と成り得る指標基質の組み合せ割合を適宜変えることにより、ヒトにおける人種差、個人差に対応させることもできる。ここで「混合した状態」とは、上記の2種以上の指標基質を混合し、1つの反応系で同時に存在させる状態を意味する。
【0018】
本発明における「指標基質に対応する代謝体」とは、薬物代謝能力を有する酵素(即ち、本酵素)の指標と成り得る指標基質を当該酵素に基づく異化作用により分解して得られる化合物を意味し、具体的には、例えば、本酵素がヒト由来チトクロムP450の場合には、ヒト由来チトクロムP450の基質となる各種の脂溶性化合物を当該チトクロムP450に基づく酸素添加等の異化作用(即ち、モノオキシゲナーゼ反応)により分解して得られる化合物を挙げることができる。
【0019】
より具体的には、本酵素がヒト由来のチトクロムP450分子種の場合には、例えば、
【0020】
【表2】

【0021】
等を挙げることができる。
【0022】
本発明における「前記混合系反応用酵素による前記混合系反応用指標基質の混合系反応代謝体」(以下、本混合系反応代謝体と記すこともある。)とは、本混合系反応用酵素の指標と成り得る本混合系反応用指標基質を本混合系反応用酵素に基づく異化作用により分解して得られる化合物群を意味し、具体的には、例えば、本混合系反応用酵素が2種以上のヒト由来チトクロムP450を組み合せてなる酵素群の場合には、本混合系反応用指標基質となる2種以上の脂溶性化合物を当該酵素群に基づく酸素添加等の異化作用(即ち、モノオキシゲナーゼ反応)により分解して得られる化合物群を挙げることができる。
【0023】
本発明検定方法における第一工程について説明する。
第一工程では、哺乳動物由来の薬物代謝酵素を2種以上組み合せてなる混合系反応用酵素(即ち、本混合系反応用酵素)と、前記混合系反応用指標基質の溶解及び前記混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適するように組み合せてなる混合系反応用指標基質(即ち、本混合系反応用指標基質)と、前記混合系反応用指標基質を溶解することに適する混合系反応用溶媒(以下、本混合系反応用溶媒と記すこともある。)とを含む反応液(以下、本反応液と記すこともある。)の基本組成を決定する。尚、ここで「基本組成」とは、複数の要素・成分を組み合わせて成るものの、各要素・成分の種類を意味するものであり、必ずしもその各要素・成分の存在割合までを含めるものではない。
よって、第一工程では、本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質との2者の組合せによる反応に適する反応液の基本組成が、後述する第二工程において用いられる反応液の基本組成として選択されることがよい。
まず、本混合系反応用指標基質を溶解するのに適する溶媒を溶媒候補として選択する。次いで、本混合系反応用指標基質を溶解する溶媒は、本混合系反応用指標基質(特に、本混合系反応用酵素がヒト由来のチトクロムP450分子種を2種以上組み合せてなる場合)の活性を上昇させたり、又は、阻害させたりすることがあるため、このような変化を回避するのに適する溶媒を前記の溶媒候補の中から二次選択する。この場合、本混合系反応用酵素に含まれる夫々の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)の組合せに応じる重要性から、単独系反応での使用に耐え得る単独系反応用溶媒の中から、後述する第二工程の(b)段階における反応での使用可能な本混合系反応用溶媒を、良い精度の検定になるように総合的に鑑み、二次選択しなければならない。
従って、第一工程において反応液の基本組成を決定する際には、本混合系反応用指標基質の溶解及び本混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適する混合系反応用溶媒としてメタノール又はアセトニトリルを選択することが重要である。
下表に、本混合系反応において使用可能な本混合系反応用溶媒としての適正を予め確認した代表的な例を記載する。
【0024】
【表3】

【0025】
具体的には、本混合系反応用酵素に含まれる夫々の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)の一つがCYP2E1であり且つ本混合系反応用指標基質に含まれる夫々の指標基質(即ち、本指標基質)の一つがChlorzoxazone(クロルゾキサゾン)である場合には、0.2%のアセトニトリルは影響を与えないが、0.2%のジメチルスルホキサイド(DMSO)は阻害作用(>80%)を示す。このことから、万一、溶媒として不適切なものを選択した場合には、阻害作用を誤って評価することに繋がり、精度良い検定が困難になろう。このため、当該ケースの場合には、まずアセトニトリル(より適正なもの)又はメタノール(適正なもの)が溶媒候補として選択され、次いで、組み合される薬物代謝酵素に応じてどちらかの一方の溶媒若しくはその混合物を選択してもよい。例えば、当該薬物代謝酵素がCYP2D6であり且つ本混合系反応用指標基質に含まれる夫々の指標基質の一つがBufuralol(ブフラロール)である場合には、アセトニトリルを溶媒として選択してもよい。一方、当該薬物代謝酵素がCYP2A6及びCYP2C9であり且つ本混合系反応用指標基質に含まれる夫々の指標基質の一つがCoumarin(クマリン)及びジクロフェナックである場合には、メタノールを溶媒として選択してもよい。
【0026】
また第一工程における反応液は、緩衝液(例えば、pH7.4)であることがよい。
【0027】
次いで、本発明検定方法における第二工程について説明する。
第二工程では、(a)前記混合系反応用酵素と被験物質及び必要に応じて補酵素とを所定時間接触させた後、次いで(b)前記混合系反応用指標基質を前記(a)の接触系内に加えることにより、第一工程により決定された基本組成に基づく反応液の中で前記混合系反応用酵素と前記混合系反応用指標基質とを反応させ(以下、当該反応を本混合系反応と記すこともある。)、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体を、前記混合系反応用酵素による前記混合系反応用指標基質の混合系反応代謝体(即ち、本混合系反応代謝体)として生成させる。
【0028】
第二工程における(a)段階では、第一工程により決定された基本組成に基づく反応液の中で、本混合系反応用酵素と被験物質及び必要に応じて補酵素とを所定時間接触させる。これは、本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質とを接触させる段階(第二工程における(b)段階)の前操作として、本混合系反応用酵素と被験物質とを接触させるためである。本混合系反応用酵素と被験物質とを接触させるための時間は、例えば、被験物質の一部若しくは全部が本混合系反応用酵素と結合するために足り得る時間であればよい。さらには被験物質の一部若しくは全部が本混合系反応用酵素による触媒反応を受けるために足り得る時間であればよい。
上記操作は、例えば、約10℃〜約40℃で、約2分間〜約60分間インキュベートすることにより行うことができる。
尚、前記(a)の接触中(特に接触開始時)は、本混合系反応用酵素と被験物質及び必要に応じて補酵素とがよく混合するように、攪拌又は振とう等の操作を用いることがよい。
【0029】
第二工程における(b)段階では、本混合系反応用指標基質を前記(a)の接触系内に加えることにより、第一工程により決定された基本組成に基づく反応液の中で本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質とを反応させ、本酵素による本指標基質に対応する代謝体を、本混合系反応用酵素による本混合系反応用指標基質の混合系反応代謝体(即ち、本混合系反応代謝体)として生成させる。これは、本混合系反応用酵素と被験物質(及び必要に応じて補酵素)とを接触させる段階(第二工程における(a)段階)の後操作として、本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質とを接触させるためである。
【0030】
第二工程において本混合系反応代謝体を生成させる際には、
(B1)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定されてなる試験を存在させ、且つ、
(B2)第二工程の(b)段階での反応において被験物質が非存在であること以外は同等な反応における反応時間と当該反応における前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量とが、前記混合系反応用酵素に含まれる全ての酵素において略比例するように、用いられる前記酵素の夫々の量及び前記酵素の夫々に対応する前記指標基質の量並びに第二工程の(b)段階での反応時間を選択することが重要である。
ここで、上記(B1)では、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定されてなる試験を存在させることにより、後述の第三工程及び第四工程において複数の所定時間毎での前記生成量の減少又は前記指標値の増加等を調べることが可能になる。そして当該所定時間の増加に依存した前記生成量の減少又は前記指標値の増加等が認められれば、被験物質はMBIを有すると評価することができる。
また、上記(B2)では、このような酵素量、指標基質量及び反応時間を適宜選択するためには、例えば、本混合系反応用酵素による本混合系反応用指標基質の代謝体を生成させるための反応での酵素反応速度論に基づいて、第二工程の(b)段階での反応において被験物質が非存在であること以外は同等な反応における反応時間と当該反応における前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量とが、前記混合系反応用酵素に含まれる全ての酵素において比例関係をほぼ保持し得るように、選択すればよい。基本的には、本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質とを接触させるための時間は、本混合系反応用指標基質の一部若しくは全部が本混合系反応用酵素と結合するために足り得る時間であることが好ましく、また本混合系反応用指標基質の一部若しくは全部が本混合系反応用酵素による触媒反応を受けるために足り得る時間であることが好ましい。
例えば、具体的な時間としては、5分間〜60分間を挙げることができる。
より具体的には、本酵素がヒト由来のチトクロムP450分子種の場合には、例えば、
【0031】
【表4】

【0032】
等を好ましく挙げることができる。
【0033】
また、本混合系反応用指標基質に含まれる夫々の本指標基質の濃度としては、Michaelis 定数(Km:酵素反応における初速度が最大速度Vmaxの1/2になる時の基質濃度)を含む濃度範囲を挙げることができる。具体的には、例えば、本混合系反応用酵素がヒト由来のチトクロムP450分子種を2種以上組合せてなる場合には、本混合系反応用指標基質に含まれる夫々の本指標基質の濃度としては、下表のような濃度範囲が好ましく挙げられる。
【0034】
【表5】

【0035】
また本混合系反応用酵素に含まれる夫々の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)の濃度としては、本反応液に対して、例えば、0.05mg/mL〜1mg/mLを挙げることができる。
より具体的には、本酵素がヒト肝ミクロソームの場合には、例えば、
【0036】
【表6】

【0037】
等を好ましく挙げることができる。
【0038】
さらに具体的には、例えば、本混合系反応用酵素がヒト由来のチトクロムP450分子種を2種以上組合せてなる場合には、本混合系反応用指標基質に含まれる夫々の本指標基質の存在量が、例えば、溶液1mlあたり約0.01μmol 〜約10μmol 程度の範囲であり、且つ、被験物質の存在量が、例えば、溶液1mlあたり約0.01μmol 〜約10μmol 程度の範囲である場合には、溶液1mlあたり約1010〜約1015程度のチトクロムP450分子数、好ましくは溶液1mlあたり約1012〜約1013のチトクロムP450分子数を一層望ましいものとして挙げることもできる。
【0039】
本反応の代表的な具体例としては、例えば、100mmol/LのEDTA−リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)及び複数のチトクロムP450分子種を含むヒト肝ミクロソームを含む溶液に、被験物質を5μL(終濃度が検討すべき濃度となるように原液の濃度を調整する。)添加した後、当該混合物をプレウォーミングを37℃で10分間実施する。10mmol/LのNADPH溶液を100μL(終濃度:1mmol/L)添加することにより、プレインキュベーションを開始する(⇒第二工程の(a)段階に相当する)。尚、プレインキュベーションでは、0分間、15分間及び30分間等のような所定時間が複数設定されてなる試験が存在する試験区になるように設計する。このようなプレインキュベーションを実施した後、これに本混合系反応指標基質を5μLを添加することにより、代謝反応(反応温度:37℃)を開始する(⇒第二工程の(b)段階に相当する)。反応停止には、前記の反応液に反応液容量と等量の冷メタノールを添加すればよい。ここで、ヒト肝ミクロソームを含む溶液に含まれる複数のチトクロムP450分子種の組合せの代表例としては、例えば、CYP1A2、CYP2C8、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A4からなる本混合系反応用酵素「B」、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2E1及びCYP3A4からなる本混合系反応用酵素「A」等を挙げることができる。このような本混合系反応用酵素を用いる場合における「指標と成り得る指標基質(濃度)」、「本混合系反応溶媒」及び「反応時間」の代表例については表7に記載する。
【0040】
【表7】

【0041】
第二工程により選択された反応液の中で、本混合系反応用指標基質と、被験物質と、これら2者に応じた濃度である本混合系反応用酵素とを接触させながら、前記混合系反応用酵素による前記混合系反応用指標基質の代謝体(即ち、本混合系反応代謝体)を生成させる。前記代謝体の生成は、本混合系反応用酵素と被験物質及び必要に応じて補酵素とを含む反応液に本混合系反応用指標基質を添加する操作により開始される。
【0042】
上記反応(即ち、本混合系反応)は、例えば、約10℃〜約40℃でインキュベートすることにより行うことができる。尚、本混合系反応中(特に反応開始時)は、本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質と被験物質とがよく混合するように、攪拌又は振とう等の操作を用いることがよい。
【0043】
反応の終点は、例えば、反応液中の本混合系反応用指標基質に含まれる夫々の本指標基質の存在量を高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計を用いた測定等により追跡することにより決定することもできる。
【0044】
本発明検定方法では、被験物質によっては、NADPH等の補酵素の存在下で、本混合系反応用酵素とインキュベーションすることにより、本混合系反応用酵素に含まれる夫々の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)を、前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素(即ち、本酵素)若しくは他の前記薬物代謝酵素(即ち、本酵素)による代謝体が不可逆的に失活させる現象が生じることから、これを簡易に且つ精度良く検定するために極めて有効である。これには、後述の説明のように、本発明検定方法の第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定され、且つ、第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量、並びに、第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が別々に単一又は複数設定されてなる試験が存在する試験区になるように設計することで、被験物質が有する、薬物代謝酵素を前記被験物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を体系的に解析するためのルーチンワーク的な検定方法若しくは試験方法を構築し提供することも可能となる。
具体的には例えば、
1.第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
(i)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間がゼロに単一設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が複数設定されてなる試験、及び、
(ii)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が上記(i)での最高量に単一設定されてなる試験、
が存在することを特徴とする本発明検定方法(以下、第一の体系的検定方法と記すこともある。);
2.第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が複数設定されてなる試験が存在することを特徴とする本発明検定方法(尚、当該本発明検定方法は、MBIの存在を一層精度高く確認するために有効な方法の一つである。以下、第二の体系的検定方法と記すこともある。);
3.第一次試験として前項1記載の検定方法を実施し、次いで、第二次試験として前項2記載の本発明検定方法を実施することを特徴とする試験方法(即ち、本発明試験方法);
等を代表的なものとして挙げることができる。
【0045】
本発明における第三工程について説明する。
第三工程では、第二工程により生成された混合系反応代謝体を試料として、「当該混合系反応代謝体の中に含まれる、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体」(以下、「生成された代謝体」と記すこともある。)の生成量を、高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計を用いて同時に測定する。
「生成された代謝体」の生成量を、高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計(以下、LC−MS/MSと記すこともある。)を用いて測定するには、例えば、まず「生成された代謝体」を含む反応液に内標準物質を添加した後、当該反応液を遠心分離(室温、3000rpm、10分間)する。得られた上清を、第二工程で「生成された代謝体」の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体に調製するために、0.1%ギ酸水溶液を用いて2倍希釈した後、得られた希釈液をフィルターろ過した。得られたろ液の一部を採取し、これをLC−MS/MSに注入することにより「生成された代謝体」の生成量を測定すればよい。前記上清の希釈倍率は、前記代謝体の生成量の測定感度に応じて適宜変更すればよいが、例えば、2倍〜100倍希釈が好ましい。
第三工程において測定する際には、高速液体クロマトグラフィーにおける移動相として前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体を選択し、及び/又は、高速液体クロマトグラフィーにおける試料及び移動相を前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体に調製することが重要である。
【0046】
以下に、より具体的なLC−MS/MSによる「生成された代謝体」の生成量の測定方法に係る代表的な分析例を詳細に述べる。
(1)分析条件
(a)LC−MS/MSにおける高速液体クロマトグラフィー法
分析カラム:Luna 5μ C18(2)、150mm L.×2.0mm I.D.,5μm(Phenomenex社)、又は、Atlantis、100mm L.×2.1mm I.D.,3μm(日本Waters社)
カラム温度:25〜50℃
移動相:移動相A;0.1%ギ酸水溶液、移動相B; メタノール、又は、移動相A;10mMぎ酸アンモニウム水溶液、移動相B; アセトニトリルグラジエント条件:
【0047】
【表8】


または
【0048】
【表9】

【0049】
流量:0.2〜0.5mL/min
注入量:10〜50μL
【0050】
尚、勿論、移動相の組成をグラジエント条件に代えて定比率条件にしてもよい。その場合には、所望の代謝体の保持時間に応じた0.1%ギ酸水溶液/メタノール、又は、10mMぎ酸アンモニウム水溶液/アセトニトリルの比率を選択すればよい。
(b)LC−MS/MSにおける質量分析法
装置:Tandem Mass Spectrometer:API 4000 Applied Biosystems /MDS SCIEX社
API interface:TurboV (ESIプローブ)
測定条件:
【0051】
【表10】

【0052】
尚、上記に挙げたフラグメントイオンの他に、十分なピーク強度が得られるフラグメントイオンを適宜選択してもよい。
【0053】
また、内部標準物質を利用する場合には、第二工程における代謝反応の停止後、直ちに、本混合系反応代謝体の物性に適した内部標準物質をスパイクすればよい。
より具体的には、本混合系反応用酵素がヒト由来のチトクロムP450分子種を2種以上組合せてなる場合には、例えば、
【0054】
【表11】

【0055】
等を挙げることができる。好ましい内部標準物質としては、デキストロファン酒石酸塩、フロセミド等を挙げることができる。
【0056】
(2)本混合系反応代謝体の定量方法(測定された「生成された代謝体」の生成量、又は、当該生成量に基づき算出された本混合系反応用酵素に含まれる夫々の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)に対する被験物質が有する阻害能力に係る指標値)
まず100mmol/LのEDTA−リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)、複数のチトクロームP450分子種を含むヒト肝ミクロソーム及びメタノール(反応停止液)を含む溶液に、既知濃度の「生成された代謝体」及び内部標準物質が添加された試料(以下、添加検量線試料と記すこともある。)を調製する。次いで、当該試料と、第二工程における代謝反応を停止した後の反応液とを供試試料として、これら供試試料に含まれる「生成された代謝体」の生成量をLC−MS/MSを用いて測定する。
添加検量線試料の測定で得られたピーク面積比(前記代謝体のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)をYとし、代謝体の濃度をXとする。前記X及び前記Yから、最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重み付けは得られた回帰式の直線性を考慮して選択する。)を算出する。上記の代謝反応を停止した後の反応液についても同様にピーク面積比を求め、上記の一次回帰式に代入することにより、「生成された代謝体」の生成量(即ち、定量値)を算出する。
このようにして算出された「生成された代謝体」の生成量から、単位時間(分)、ミクロソーム1mg当たりの「生成された代謝体」の生成量を算出する。また同時に、当該代謝反応の代謝速度(v)を算出してもよい。
【0057】
代謝速度(v、nmol/min/mg protein)
=(代謝物生成量(μmol/L))/(反応時間(分))/(反応液中の夫々のヒト肝ミクロソーム濃度(mg蛋白/mL))
【0058】
「生成された代謝体」の生成量に基づき算出された本酵素に対する被験物質が有する阻害能力に係る指標値である「IC50」は、例えば、以下の手順で算出すればよい。
残存活性は、被験物質の濃度がゼロである場合の値(コントロール)に対する百分率であり、下記で示すことができる。
残存活性(%)=(平均代謝速度/コントロールの平均代謝速度)×100
残存活性をYとし、被験物質の濃度の対数をXとする。前記X及び前記Yから、残存活性が50%のときの被験物質の濃度をIC50として算出する。尚、IC50は、50%阻害となる被験物質の濃度を挟む被験物質の他の濃度2点を用い、最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重みなし)を算出する。算出された一次回帰式においてY=50を与えるXの値をIC50とする。
因みに、被験物質が一連の類似阻害物質(競合阻害物質)である場合には、「IC50」はどれが最も効果的な阻害物質であるかを表し、低濃度領域においては、最小の「IC50」を持つ阻害物質が多くの場合において最大の阻害効果を表している。
【0059】
また「生成された代謝体」の生成量に基づき算出された本酵素に対する被験物質が有する阻害能力に係る指標値である「Ki値」は、例えば、以下の手順で算出すればよい。
まず本混合系反応用指標基質に含まれる夫々の本指標基質の濃度(3濃度)毎に、代謝速度(v)の逆数(1/v)をYとし、被験物質の濃度をXとする。前記X及び前記Yから、最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重みなし)を算出する(当該プロットをDixon plotと呼ぶこともある。)。ここで直線の交点のX軸座標の絶対値を平均してこれをKiとする。Dixon plotから被験物質が有する阻害タイプを評価する。
因みに、被験物質が一連の類似阻害物質(競合阻害物質)である場合には、「Ki値」はどれが最も効果的な阻害物質であるかを表し、低濃度領域においては、最小の「Ki値」を持つ阻害物質が多くの場合において最大の阻害効果を表している。
【0060】
本発明における第四工程について説明する。
第四工程では、第三工程により同時に測定された、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量、又は、当該生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値に基づき、前記被験物質が有する、前記酵素を前記被験物質の当該前記酵素若しくは他の前記酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価する。
第四工程における好ましい態様としては、例えば、前記第三工程における試験区分として存在する第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定されてなる試験の間で得られた前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量、又は、当該生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値を各々比較し、その差異に基づいて前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価することを挙げることができる。この場合、上記の所定時間の増加に依存した前記生成量の減少又は前記指標値の増加等が認められれば、被験物質はMBIを有すると評価することができる。
より具体的な代表例としては、例えば、前述のような「第一の体系的検定方法」、「第二の体系的検定方法」、「本発明試験方法」等におけるものを挙げることができる。
当該「第一の体系的検定方法」では、(ii)における「被験物質の供試量が上記(i)での最高量」がIC50よりも低い場合には、より精度高く評価が可能となる。
【0061】
第四工程におけるより好ましい態様としては、例えば、前記第三工程により同時に測定された、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量、又は、当該生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値と、対照における生成量又はその指標値とを比較し、その差異に基づいて前記被験物質が有する、前記酵素を前記被験物質の当該前記酵素若しくは他の前記酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価することを挙げることができる。
対照における生成量又はその指標値(以下、総じて対照値と記すことがある。)としては、例えば、第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量がゼロである場合や、第二工程の(a)段階での所定時間がゼロに単一設定される場合の前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量、又は、当該生成量に基づき算出された指標値をあげることができる。ここで、被験物質の濃度がゼロである場合とは、例えば、被験物質を添加しない反応系である場合や被験物質が溶媒である場合等を意味する。かかる対照値は、前記の第二工程〜第三工程と併行して測定して求めてもよいし、別途測定して求めてもよい。
より具体的な代表例としては、例えば、前述のような「第一の体系的検定方法」、「本発明試験方法」等におけるものを挙げることができ、当該方法では(i)を対照として位置付けることもできる。また、第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
第二工程における対照区として、(a)段階での所定時間がゼロに単一設定され且つ(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が複数設定され且つ(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が複数設定されてなる試験が存在するように、本発明検定方法と組み合わせれば、同時に上述のような「Ki値を決定するための方法」としても利用価値がある。
【0062】
またさらに、被験物質が有する、薬物代謝能力を有する酵素を検定対象となる被験物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無に拘らず、当該被験物質が有する、薬物代謝能力を有する酵素に対する阻害能力の有無若しくはその程度を評価することも可能である。
例えば、被験物質が溶媒である場合の値を対照値として、各種の被験物質における前記の生成量又は前記の指標値が当該対照値に対して統計学上有意に減じていれば(例えば、2分の1以下であれば、)、被験物質は薬物代謝能力を有する酵素を阻害する能力を有すると評価することができる。また当該減少量の大きさに応じてその程度を評価してもよい。
また例えば、被験物質が、前記酵素に対する阻害能力を有することが既に知られている物質(陽性対照物質)である場合の値を対照値として、各種の被験物質における前記の生成量又は前記の指標値が当該対照値に対して実施的に同等であれば、被験物質は薬物代謝能力を有する酵素を阻害する能力を有すると評価することができる。また前記の同等性において、当該阻害能力のタイプにおける差異が実質的に認められなければ、被験物質は、前記の陽性対照物質と同タイプの阻害能力を有すると評価することもできる。
また例えば、被験物質が有する前記酵素に対する阻害能力が、前記酵素による前記指標基質の濃度増加により解除される(競合阻害)か否(非競合阻害)かによって、競合阻害物質と非競合阻害物質とに区別することもできる。さらにまた、縦軸に1/Vi、横軸に1/[S]とする二重逆数プロットを作成し反応速度論的解析を行えば、典型的な競合阻害の場合には、2本の直線(阻害剤存在下のものと非存在下のもの)はY軸上で交わり(Vmaxは不変)、X軸との交点(-1/Km)は、阻害剤が存在するときには、より原点に近いところで交わることになる(見かけKmが大となる)。非競合阻害の場合には、阻害剤が存在するとY軸との交点(1/Vmax)が大となるが(Vmaxは減少)、X軸との交点は不変である。
より具体的には例えば、上述のような「第一の体系的検定方法」、「第二の体系的検定方法」、「本発明試験方法」等との組み合わせにより、第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量と被験物質が有する前記酵素に対する阻害能力との関係有無若しくはその程度(即ち、特定な供試量における阻害能力の存在有無若しくはその程度)を考慮しながら、被験物質が有する、前記酵素を検定対象となる被験物質の当該前記酵素若しくは他の前記酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を評価すれば、(1)被験物質が有するMBIの有無と(2)被験物質が有する前記酵素に対する阻害能力とが同時に検定でき、一層効率的な方法になる。
【0063】
本発明は、薬物代謝能力を有する酵素を探索対象となる物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を有する物質の探索方法(即ち、本発明探索方法)を含む。本発明探索方法では、本発明検定方法によって、前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価し、当該評価結果に基づき、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を有する物質を選抜すればよい。
選抜された物質が医薬品候補化合物である場合には、一般に併用薬との薬物相互作用を起こす可能性があるため、得られた知見(即ち、選抜された物質に係る情報等)をもって医薬品開発の意思決定に利用することができる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
実施例1 (本発明検定方法における第一工程(その1):本反応液の基本組成の決定)
哺乳動物由来の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)を2種以上組み合せてなる混合系反応用酵素(即ち、本混合系反応用酵素)として、ヒト肝ミクロソームを含む溶液に含まれる複数のチトクロムP450分子種の組合せ、即ち、CYP1A2、CYP2C8、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A4からなる本混合系反応用酵素「B」を用いた。
【0066】
また、前記酵素の夫々に対応する基質のうち指標と成り得る指標基質(即ち、本指標基質)を混合系反応用酵素に適するように組み合せてなる混合系反応用指標基質(即ち、本混合系反応用指標基質)としては、表1記載の「指標と成り得る指標基質」を上記の本混合系反応用酵素に含まれる本酵素に応じて組み合せてなるもの、即ち、Phenacetin、Paclitaxel、Mephenytoin、Bufuralol及びTestosteroneからなる本混合系反応用指標基質「B」を用いた。
【0067】
また、上記の本混合系反応用指標基質の溶解及び上記の混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適する混合系反応用溶媒(即ち、本混合系反応用溶媒)として、表7記載の「本混合系反応溶媒」、即ち、アセトニトリルを用いた。尚、本混合系反応用酵素による酵素反応は、表7記載の「酵素反応」(表7参照)とした。
【0068】
このように、本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質と本混合系反応用溶媒とを含む反応液の基本組成を決定し、以下の実施例で用いた。
【0069】
実施例2 (本発明検定方法における第二工程(その1):代謝体の生成)
まず、890μLの本混合系反応用酵素「B」を含む溶液(組成:100mmol/LのEDTA−リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)、0.2mg/mLの本混合系反応用酵素「B」))に、被験物質であるエリスロマイシン溶液5μL(終濃度:0〜100μmol/Lに相当する複数のポイント)を添加することにより、本混合系反応用酵素「B」と被験物質とを接触させた。そして当該混合物は37℃、10分間プレウォーミングされた。
次いで、得られた混合物に10mmol/mLの補酵素であるNADPH溶液を100μL添加する(終濃度:1mmol/Lに相当する)ことにより、本混合系反応用酵素「A」と被験物質と補酵素とを所定時間接触させた。そして当該混合物は37℃、複数設定された所定時間プレインキュベーションされた。ここで「複数設定された所定時間」としては、0分間、10分間、15分間及び30分間の4種類の所定時間からなる組合せが用いられた。
次いで、得られた混合物(即ち、前記接触系内)に本混合系反応用指標基質「B」5μL(組成:150μmol/LのPhenacetin、10μmol/LのPaclitaxel、100μmol/LのMephenytoin、10μmol/LのBufuralol及び70μmol/LのTestosterone)を添加することにより、実施例1で決定された基本組成に基づく反応液の中で本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質とを37℃、適正反応時間反応させ、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体を、前記混合系反応用酵素による前記混合系反応用指標基質の混合系反応代謝体として生成させた。ここで「適正反応時間」としては、15分間が用いられた。因みに、当該適正反応時間は、当該反応(即ち、本反応)において被験物質が非存在であること以外は同等な反応における反応時間と当該反応における前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量とが、前記混合系反応用酵素に含まれる全ての酵素において略比例するように、本実施例における試験で用いられた前記酵素の夫々の量及び前記酵素の夫々に対応する前記指標基質の量に対応(具体的には、表4〜表6及び表7等を考慮しながら)して選択されたものである。
反応終了後、当該反応液に反応液容量と等量の冷メタノールを添加することにより当該代謝反応を停止させた。
【0070】
実施例3 (本発明検定方法における第三工程(その3):代謝体の生成量の測定)
実施例2で得られた反応停止後の反応液(生成させた混合系反応代謝体を含む)に、50μmol/Lのデキストロファン及びフロセミドを内標準物質(I.S)として添加した。次いで、これを遠心分離(室温、3000rpm、10分間)した後、その上清を回収した。回収された上清を、実施例2で「生成された代謝体」の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体に調製するために、0.1%ギ酸水溶液を用いて2倍希釈した後、得られた希釈液をフィルターろ過した。得られたろ液の一部を採取し、これをLC−MS/MSに供することにより、代謝体の生成量を測定した。
尚、LC−MS/MSにおける高速液体クロマトグラフィーによる分析操作中の「生成された代謝体」の解離状態を抑制可能とするために、下記の移動相が用いられた。
【0071】
<高速液体クロマトグラフィーでの移動相に係る分析条件>
移動相:移動相A;10mMぎ酸アンモニウム水溶液、移動相B; アセトニトリル
グラジエント条件:
【0072】
【表12】

【0073】
その他のLC−MS/MSにおける高速液体クロマトグラフィーでの分析条件は下記の通りであった。
<高速液体クロマトグラフィーでの他の分析条件>
分析カラム:Atlantis、100mm L.×2.1mm I.D.,3μm(日本Waters社)
カラム温度:40℃
流量:0.3mL/min
注入量:10μL
オートサンプラー洗浄液:水/アセトニトリル(1/1)
オートサンプラー温度:4℃
Run Time:6分間
【0074】
またLC−MS/MSにおける質量分析法での分析条件は下記の通りであった。
<質量分析法での分析条件>
装置:Tandem Mass Spectrometer:API 4000 Applied Biosystems /MDS SCIEX社
API interface:TurboV (ESIプローブ)
Ionization mode:Positive/Negative
測定条件:
【0075】
【表13】

【0076】
実施例4 (本発明検定方法における第四工程(その1):阻害能力の評価)
(1)測定された前記代謝体の生成量、及び、当該生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値(本発明検定方法の第四工程前半段階)
まず100mmol/LのEDTA−リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)、0.5mg protein/mLのヒト肝ミクロソーム及び0.5(v/v)%のメタノールを含む溶液に、既知濃度の代謝体が添加された試料を調製した。当該試料に含まれる「生成された代謝体」の生成量と、実施例3に従い代謝反応が停止された後の反応液に含まれる「生成された代謝体」の生成量とをLC−MS/MSを用いて測定した。
添加検量線試料の測定で得られたピーク面積比(前記の試料中に添加された代謝体のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)をYとし、前記の試料中に添加された代謝体の濃度をXとする。前記X及び前記Yから、パーソナルコンピューター「臨床試験データ分析システム WDP32 ver.2.0」、Excel(Microsoft)、またはAPI4000付属のデータ解析ソフト「Analyst」等を用いて最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重み付け;1/Yまたは1/Y)を算出した(表13参照)。上記の実施例3に従い代謝反応が停止された後の反応液についても同様にピーク面積比を求め、算出された一次回帰式に代入することにより、前記代謝体の生成量(即ち、定量値)を算出した。
このようにして算出された前記代謝体の生成量から、単位時間(分)、ミクロソーム1mg当たりの前記代謝体の生成量を算出し、さらにまた当該代謝反応の代謝速度(v)を算出した。
【0077】
代謝速度(v、nmol/min/mg protein)
=(代謝物生成量(μmol/L))/(反応時間(分))/(反応液中ヒト肝ミクロソーム濃度(mg蛋白/mL))
【0078】
【表14】

【0079】
前記代謝体の生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値である「IC50」は、以下の手順で算出した。
まず残存活性は、被験物質の濃度がゼロである場合の値(コントロール)に対する百分率であり、下記の式により算出した。
【0080】
残存活性(%)=(平均代謝速度/コントロールの平均代謝速度)×100
【0081】
次いで、残存活性をYとし、被験物質の濃度の対数をXとする。前記X及び前記Yから、残存活性が50%のときのエリスロマイシンの濃度をIC50として算出した。具体的には、IC50は、50%阻害となる被験物質の濃度を挟む被験物質の他の濃度2点を用い、最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重みなし)を算出した。そして算出された一次回帰式においてY=50を与えるXの値をIC50とした。
【0082】
また前記代謝体の生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値である「Ki値」は、以下の手順で算出する。
まず前記指標基質の濃度(3濃度)毎に、代謝速度(v)の逆数(1/v)をYとし、被験物質の濃度をXとする。次いで、前記X及び前記Yから、最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重みなし)を算出する(当該プロットをDixon plotと呼ぶこともある。)。ここで直線の交点のX軸座標の絶対値を平均してこれをKiとした。上記のDixon plotから前記被験物質が有する阻害タイプを評価する。
また前記代謝体の生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力のうち、MBI(不可逆的阻害)に係る指標値である「kinact値」及び「K’app値」を、以下の手順で算出した。まず、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定されてなる試験で得られた前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量から、夫々の所定時間における残存酵素活性を算出した。
【0083】
その結果から、プレインキュベーション時間の増加に依存した代謝反応阻害の増強が認められる前記酵素(即ち、前記被験物質に基づく不可逆的に阻害する能力が確認される薬物代謝酵素)に対し、横軸を夫々のプレインキュベーション時間とし、且つ、縦軸を残存酵素活性として、各測定値に基づいたデータを片対数プロットし、その傾きが直線的である範囲における傾きを求め、これを酵素不活性化速度定数(kobs)とする(例えば、図2参照)。このとき、kobsと前記被験物質濃度(I)との関係は、kobs=(kinact×I)/(K’app+I)となる。このとき、kobsの最大値はkinactとなり、kobsがkinactの半分になる被験物質濃度はK’appとなる。kinactは最大不活性化速度定数であり、K’appは酵素と被験物質との見かけの解離定数である。
【0084】
このようにしてなされた代謝反応に関する酵素速度論に基づき解析した。因みに、表15及び表16には、薬物代謝酵素がCYP1A2、CYP2C8、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A4で、且つ、指標基質が、フェナセチン、パクリタキセル、(S)−メフェニトイン、ブフラロール及びテストステロンである場合における、本発明検定方法での被験物質であるエリスロマイシンに基づく不可逆的に阻害する(MBI)能力の有無を検討した結果を示した。尚、表15には、参考のために薬物代謝酵素及び指標基質が夫々単独で存在する非混合系での結果をカッコ内に記載し、また表16には、前記非混合系において算出された各パラメーター値を記載する。
【0085】
【表15】

【0086】
【表16】


【0087】
(2)代謝反応に関する酵素速度論に基づく解析結果に基づく、前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度、並びに、前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力の有無、そのタイプ若しくはその程度の評価(本発明検定方法の第四工程後半段階)
前記(1)において得られた代謝反応に関する酵素速度論に基づく解析結果(即ち、表15及び表16)から、被験物質であるエリスロマイシンに基づく不可逆的に阻害する能力の存在がCYP3A4において確認できた。一方、他の薬物代謝酵素(1A2、2C8、2C19及び2D6)においては、被験物質であるエリスロマイシンに基づく可逆的に阻害する能力の非存在及び不可逆的に阻害する能力の非存在が確認できた。
【0088】
実施例5 (本発明検定方法における第一工程(その2):本反応液の基本組成の決定)
哺乳動物由来の薬物代謝酵素(即ち、本酵素)を2種以上組み合せてなる混合系反応用酵素(即ち、本混合系反応用酵素)として、ヒト肝ミクロソームを含む溶液に含まれる複数のチトクロムP450分子種の組合せ、即ち、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2E1及びCYP3A4からなる本混合系反応用酵素「A」を用いた。
【0089】
また、前記酵素の夫々に対応する基質のうち指標と成り得る指標基質(即ち、本指標基質)を混合系反応用酵素に適するように組み合せてなる混合系反応用指標基質(即ち、本混合系反応用指標基質)としては、表1記載の「指標と成り得る指標基質」を上記の本混合系反応用酵素に含まれる本酵素に応じて組み合せてなるもの、即ち、Coumarin、Bupropion、Diclofenac、Chlorzoxazone及びMidazolamからなる本混合系反応用指標基質「A」を用いた。
【0090】
また、上記の本混合系反応用指標基質の溶解及び上記の混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適する混合系反応用溶媒(即ち、本混合系反応用溶媒)として、表7記載の「本混合系反応溶媒」即ち、メタノールを用いた。尚、本混合系反応用酵素による酵素反応は、表7記載の「酵素反応」(表7参照)とした。
【0091】
このように、本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質と本混合系反応用溶媒とを含む反応液の基本組成を決定し、以下の実施例で用いた。
【0092】
実施例6 (本発明検定方法における第二工程(その2):代謝体の生成)
まず、890μLの本混合系反応用酵素「A」を含む溶液(組成:100mmol/LのEDTA−リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)、0.05mg/mLの本混合系反応用酵素「A」))に、被験物質であるエリスロマイシン溶液5μL(終濃度:0〜150μmol/Lに相当する複数のポイント)を添加することにより、本混合系反応用酵素「A」と被験物質とを接触させた。そして当該混合物は37℃、10分間プレウォーミングされた。
次いで、得られた混合物に10mmol/mLの補酵素であるNADPH溶液を100μL添加する(終濃度:1mmol/Lに相当する)ことにより、本混合系反応用酵素「A」と被験物質と補酵素とを所定時間接触させた。そして当該混合物は37℃、複数設定された所定時間プレインキュベーションされた。ここで「複数設定された所定時間」としては、0分間、10分間、15分間及び30分間の4種類の所定時間からなる組合せが用いられた。
次いで、得られた混合物(即ち、前記接触系内)に本混合系反応用指標基質「A」5μL(組成:1μmol/LのCoumarin、100μmol/LのBupropion、20μmol/LのDiclofenac、100μmol/LのChlorzoxazone及び1μmol/LのMidazolam)を添加することにより、実施例5で決定された基本組成に基づく反応液の中で本混合系反応用酵素と本混合系反応用指標基質とを37℃、適正反応時間反応させ、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体を、前記混合系反応用酵素による前記混合系反応用指標基質の混合系反応代謝体として生成させた。ここで「適正反応時間」としては、15分間が用いられた。因みに、当該適正反応時間は、当該反応(即ち、本反応)において被験物質が非存在であること以外は同等な反応における反応時間と当該反応における前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量とが、前記混合系反応用酵素に含まれる全ての酵素において略比例するように、本実施例における試験で用いられた前記酵素の夫々の量及び前記酵素の夫々に対応する前記指標基質の量に対応(具体的には、表4〜表6及び表7等を考慮しながら)して選択されたものである。
反応終了後、当該反応液に反応液容量と等量の冷メタノールを添加することにより当該代謝反応を停止させた。
【0093】
実施例7 (本発明検定方法における第三工程(その3):代謝体の生成量の測定)
実施例2で得られた反応停止後の反応液(生成させた混合系反応代謝体を含む)に、50μmol/Lのデキストロファン及びフロセミドを内標準物質(I.S)として添加した。次いで、これを遠心分離(室温、3000rpm、10分間)した後、その上清を回収した。回収された上清を、実施例6で「生成された代謝体」の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体に調製するために、0.1%ギ酸水溶液を用いて2倍希釈した後、得られた希釈液をフィルターろ過した。得られたろ液の一部を採取し、これをLC−MS/MSに供することにより、代謝体の生成量を測定した。
尚、LC−MS/MSにおける高速液体クロマトグラフィーによる分析操作中の「生成された代謝体」の解離状態を抑制可能とするために、下記の移動相が用いられた。
【0094】
<高速液体クロマトグラフィーでの移動相に係る分析条件>
移動相:移動相A;10mMぎ酸アンモニウム水溶液、移動相B;アセトニトリル
グラジエント条件:
【0095】
【表17】

【0096】
その他のLC−MS/MSにおける高速液体クロマトグラフィーでの分析条件は下記の通りであった。
<高速液体クロマトグラフィーでの他の分析条件>
分析カラム:Atlantis、100mm L.×2.1mm I.D.,3μm(日本Waters社)
カラム温度:40℃
流量:0.3mL/min
注入量:10μL
オートサンプラー洗浄液:水/アセトニトリル(1/1)
オートサンプラー温度:4℃
Run Time:6分間
【0097】
またLC−MS/MSにおける質量分析法での分析条件は下記の通りであった。
<質量分析法での分析条件>
装置:Tandem Mass Spectrometer:API 4000 Applied Biosystems /MDS SCIEX社
API interface:TurboV (ESIプローブ)
Ionization mode:Positive/Negative
測定条件:
【0098】
【表18】

【0099】
実施例8 (本発明検定方法における第四工程(その2):阻害能力の評価)
(1)測定された前記代謝体の生成量、及び、当該生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値(本発明検定方法の第四工程前半段階)
まず100mmol/LのEDTA−リン酸カリウム緩衝液(pH7.4)、0.5mg protein/mLのヒト肝ミクロソーム及び0.5(v/v)%のメタノールを含む溶液に、既知濃度の代謝体が添加された試料を調製した。当該試料に含まれる「生成された代謝体」の生成量と、実施例7に従い代謝反応が停止された後の反応液に含まれる「生成された代謝体」の生成量とをLC−MS/MSを用いて測定した。
添加検量線試料の測定で得られたピーク面積比(前記の試料中に添加された代謝体のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)をYとし、前記の試料中に添加された代謝体の濃度をXとする。前記X及び前記Yから、パーソナルコンピューター「臨床試験データ分析システム WDP32 ver.2.0」、Excel(Microsoft)、またはAPI4000付属のデータ解析ソフト「Analyst」等を用いて最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重み付け;1/Yまたは1/Y)を算出した(表13参照)。上記の実施例7に従い代謝反応が停止された後の反応液についても同様にピーク面積比を求め、算出された一次回帰式に代入することにより、前記代謝体の生成量(即ち、定量値)を算出した。
このようにして算出された前記代謝体の生成量から、単位時間(分)、ミクロソーム1mg当たりの前記代謝体の生成量を算出し、さらにまた当該代謝反応の代謝速度(v)を算出した。
【0100】
代謝速度(v、nmol/min/mg protein)
=(代謝物生成量(μmol/L))/(反応時間(分))/(反応液中ヒト肝ミクロソーム濃度(mg蛋白/mL))
【0101】
【表19】

【0102】
前記代謝体の生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値である「IC50」は、以下の手順で算出した。
まず残存活性は、被験物質の濃度がゼロである場合の値(コントロール)に対する百分率であり、下記の式により算出した。
【0103】
残存活性(%)=(平均代謝速度/コントロールの平均代謝速度)×100
【0104】
次いで、残存活性をYとし、被験物質の濃度の対数をXとする。前記X及び前記Yから、残存活性が50%のときのをIC50として算出した。具体的には、IC50は、50%阻害となる被験物質の濃度を挟む被験物質の他の濃度2点を用い、最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重みなし)を算出した。そして算出された一次回帰式においてY=50を与えるXの値をIC50とした。
【0105】
また前記代謝体の生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値である「Ki値」は、以下の手順で算出する。
まず前記指標基質の濃度(3濃度)毎に、代謝速度(v)の逆数(1/v)をYとし、被験物質の濃度をXとする。次いで、前記X及び前記Yから、最小二乗法により一次回帰式(Y=aX+b、重みなし)を算出する(当該プロットをDixon plotと呼ぶこともある。)。ここで直線の交点のX軸座標の絶対値を平均してこれをKiとした。上記のDixon plotから前記被験物質が有する阻害タイプを評価する。
また前記代謝体の生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力のうち、MBI(不可逆的阻害)に係る指標値である「kinact値」及び「K’app値」を、以下の手順で算出した。まず、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定されてなる試験で得られた前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量から、夫々の所定時間における残存活性を算出した。
【0106】
その結果から、プレインキュベーション時間の増加に依存した代謝反応阻害の増強が認められる前記酵素(即ち、前記被験物質に基づく不可逆的に阻害する能力が確認される薬物代謝酵素)に対し、横軸を夫々のプレインキュベーション時間とし、且つ、縦軸を残存酵素活性として、各測定値に基づいたデータを片対数プロットし、その傾きが直線的である範囲における傾きを求め、これを酵素不活性化速度定数(kobs)とする(例えば、図4参照)。このとき、kobsと前記被験物質濃度(I)との関係は、kobs=(kinact×I)/(K’app+I)となる。このとき、kobsの最大値はkinactとなり、kobsがkinactの半分になる被験物質濃度はK’appとなる。kinactは最大不活性化速度定数であり、K’appは酵素と被験物質との見かけの解離定数である。
【0107】
このようにしてなされた代謝反応に関する酵素速度論に基づき解析した。因みに、表20及び表21には、薬物代謝酵素がCYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2E1及びCYP3A4で、且つ、指標基質が、クマリン、ブプロピオン、ジクロフェナック、クロルゾキサゾン及びミダゾラムである場合における、本発明検定方法での被験物質であるエリスロマイシンに基づく不可逆的に阻害する(MBI)能力の有無を検討した結果を示した。尚、表20には、参考のために薬物代謝酵素及び指標基質が夫々単独で存在する非混合系での結果をカッコ内に記載し、また表21には、前記非混合系において算出された各パラメーター値を記載する。
【0108】
【表20】

【0109】
【表21】

【0110】
(2)代謝反応に関する酵素速度論に基づく解析結果に基づく、前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度、並びに、前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力の有無、そのタイプ若しくはその程度の評価(本発明検定方法の第四工程後半段階)
前記(1)において得られた代謝反応に関する酵素速度論に基づく解析結果(即ち、表20及び表21)から、被験物質であるエリスロマイシンに基づく可逆的に阻害する能力の存在及び不可逆的に阻害する能力の存在がCYP3A4において確認できた。一方、他の薬物代謝酵素(2A6、2B6、2C9及び2E1)においては、被験物質であるエリスロマイシンに基づく可逆的に阻害する能力の非存在及び不可逆的に阻害する能力の非存在が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明により、物質が有する、薬物代謝能力を有する酵素を検定対象となる物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を簡易に且つ精度良く検定する方法が提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、薬物代謝酵素がCYP3A4で、且つ、指標基質がテストステロンである場合における、本発明検定方法での被験物質であるエリスロマイシンに基づく可逆的に阻害する能力の有無を検討した結果を示す図である。当該図の横軸を「阻害剤(被験物質)濃度の対数表示」とし、且つ、縦軸を「残存酵素活性」として、各測定値に基づいたデータをプロットしたものである。当該図から、指標基質をテストステロンとした場合において、被験物質であるエリスロマイシン(0.1〜100μmol/Lの範囲)に基づく可逆的に阻害する能力の非存在がCYP3A4において確認できる。
【図2】図2は、薬物代謝酵素がCYP3A4で、且つ、指標基質がテストステロンである場合における、本発明検定方法での被験物質であるエリスロマイシンに基づく不可逆的に阻害する(MBI)能力の有無を検討した結果を示す図である。当該図の横軸を「プレインキュベーション時間」とし、且つ、縦軸を「残存酵素活性」として、各測定値に基づいたデータを片対数プロットしたものである。図中のシンボル●は、阻害剤(被験物質)濃度0μmol/L、■は、阻害剤(被験物質)濃度25μmol/L、▲は、阻害剤(被験物質)濃度50μmol/L、◆は、阻害剤(被験物質)濃度100μmol/Lにおけるプロットを示している。当該図から、被験物質をエリスロマイシンとし、且つ、指標基質をテストステロンとした場合において、プレインキュベーション時間及び被験物質であるエリスロマイシン濃度の増加に依存した代謝反応阻害の増強が認められることから、被験物質であるエリスロマイシンに基づく不可逆的に阻害する能力の存在がCYP3A4において確認できる。即ち、当該系では、MBIが起こっていると判断できる。
【図3】図3は、薬物代謝酵素がCYP3A4で、且つ、指標基質がミダゾラムである場合における、本発明検定方法での被験物質であるエリスロマイシンに基づく可逆的に阻害する能力の有無を検討した結果を示す図である。当該図の横軸を「阻害剤(被験物質)濃度の対数表示」とし、且つ、縦軸を「残存酵素活性」として、各測定値に基づいたデータをプロットしたものである。当該図から、指標基質をミダゾラムとした場合において、被験物質であるエリスロマイシン(0.1〜150μmol/Lの範囲)に基づく可逆的に阻害する能力の存在がCYP3A4において確認できる。そのIC50は63.7μmol/Lと算出される。
【図4】図3は、薬物代謝酵素がCYP3A4で、且つ、指標基質がミダゾラムである場合における、本発明検定方法での被験物質であるエリスロマイシンに基づく不可逆的に阻害する(MBI)能力の有無を検討した結果を示す図である。当該図の横軸を「プレインキュベーション時間」とし、且つ、縦軸を「残存酵素活性」として、各測定値に基づいたデータを片対数プロットしたものである。図中のシンボル●は、阻害剤(被験物質)濃度0μmol/L、■は、阻害剤(被験物質)濃度5μmol/L、▲は、阻害剤(被験物質)濃度10μmol/L、◆は、阻害剤(被験物質)濃度40μmol/Lにおけるプロットを示している。当該図から、被験物質をエリスロマイシンとし、且つ、指標基質をミダゾラムとした場合において、プレインキュベーション時間及び被験物質であるエリスロマイシン濃度の増加に依存した代謝反応阻害の増強が認められることから、被験物質であるエリスロマイシンに基づく不可逆的に阻害する能力の存在がCYP3A4において確認できる。即ち、当該系では、MBIが起こっていると判断できる。
【図5】図5は、図1に示される結果に基づき、各エリスロマイシン濃度における傾きを算出し、縦軸を酵素不活性化速度定数(kobs)とし、横軸をエリスロマイシン濃度として、夫々の値に基づいてデータをプロットしたものである。このとき、kobsとエリスロマイシン濃度(I)との関係は、kobs=(kinact×I)/(K’app+I)である。
【図6】図6は、図5に示された結果に基づき、横軸をエリスロマイシン濃度の逆数(1/I)とし、且つ、縦軸を酵素不活性化速度定数(kobs)の逆数(1/kobs)として、夫々の値に基づいてデータをプロットしたものである。当該図より、K'app(μmol/L)は「傾き/切片」として、またkinact(min-1)は「1/切片」として求めることができる。このようにして求められる「K'app」は17.5μmol/Lであり、「kinact」は0.0382min-1である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質が有する、薬物代謝能力を有する酵素を検定対象となる物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を検定する方法において、
(1)哺乳動物由来の薬物代謝酵素を2種以上組み合せてなる混合系反応用酵素と、前記酵素の夫々に対応する基質のうち指標と成り得る指標基質を混合系反応用酵素に適するように組み合せてなる混合系反応用指標基質と、前記混合系反応用指標基質の溶解及び前記混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適する混合系反応用溶媒とを含む反応液の基本組成を決定する第一工程、
(2)(a)前記混合系反応用酵素と被験物質及び必要に応じて補酵素とを所定時間接触させた後、次いで(b)前記混合系反応用指標基質を前記(a)の接触系内に加えることにより、第一工程により決定された基本組成に基づく反応液の中で前記混合系反応用酵素と前記混合系反応用指標基質とを反応させ、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体を、前記混合系反応用酵素による前記混合系反応用指標基質の混合系反応代謝体として生成させる第二工程、
(3)第二工程により生成された混合系反応代謝体を試料として、当該混合系反応代謝体の中に含まれる、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量を、高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計を用いて同時に測定する第三工程、及び、
(4)第三工程により同時に測定された、前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量、又は、当該生成量に基づき算出された前記酵素に対する前記被験物質が有する阻害能力に係る指標値に基づき、前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価する第四工程
を有し、且つ、
(A)第一工程において反応液の基本組成を決定する際に、
前記混合系反応用指標基質の溶解及び前記混合系反応用酵素による酵素反応の両者に適する混合系反応用溶媒としてメタノール又はアセトニトリルを選択する第A工程、
を有し、且つ、
(B)第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
(B1)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定されてなる試験を存在させ、且つ、
(B2)第二工程の(b)段階での反応において被験物質が非存在であること以外は同等な反応における反応時間と当該反応における前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量とが、前記混合系反応用酵素に含まれる全ての酵素において略比例するように、用いられる前記酵素の夫々の量及び前記酵素の夫々に対応する前記指標基質の量並びに第二工程の(b)段階での反応時間を選択する第B工程、
を有し、且つ、
(C)第三工程において測定する際に、
高速液体クロマトグラフィーにおける移動相として前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体を選択し、及び/又は、高速液体クロマトグラフィーにおける試料及び移動相を前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の解離状態を抑制可能とする酸性状態の液体に調製する第C工程を有することを特徴とする検定方法。
【請求項2】
前記酵素がヒト由来チトクロムP450であることを特徴とする請求項1記載の検定方法。
【請求項3】
前記酵素がヒト肝ミクロソームであることを特徴とする請求項1記載の検定方法。
【請求項4】
前記混合系反応用酵素がCYP1A2、CYP2C8、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A4からなる酵素群であることを特徴とする請求項1記載の検定方法。
【請求項5】
前記混合系反応用酵素がCYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2E1及びCYP3A4からなる酵素群であることを特徴とする請求項1記載の検定方法。
【請求項6】
前記第四工程において、前記第三工程の前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量又はその指標値と、対照における前記酵素の夫々による前記指標基質に対応する代謝体の生成量又はその指標値とを比較し、その差異に基づいて前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項記載の検定方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの請求項記載の検定方法によって、前記被験物質が有する、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力の有無若しくはその程度を評価し、当該評価結果に基づき、前記薬物代謝酵素を前記被験物質の当該前記薬物代謝酵素若しくは他の前記薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を有する物質を選抜することを特徴とする、薬物代謝能力を有する酵素を探索対象となる物質の当該薬物代謝酵素若しくは他の薬物代謝酵素による代謝体が不可逆的に阻害する能力を有する物質の探索方法。
【請求項8】
第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
(i)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間がゼロに単一設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が複数設定されてなる試験、及び、
(ii)第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が上記(i)での最高量に単一設定されてなる試験、
が存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項記載の検定方法。
【請求項9】
第二工程において混合系反応代謝体を生成させる際に、
第二工程における試験区として、第二工程の(a)段階での所定時間が複数設定され且つ第二工程の(b)段階での前記混合系反応用指標基質の供試量が単一設定され且つ第二工程の(a)及び(b)の両段階での被験物質の供試量が複数設定されてなる試験が存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの請求項記載の検定方法。
【請求項10】
第一次試験として請求項8記載の検定方法を実施し、次いで、第二次試験として請求項9記載の検定方法を実施することを特徴とする試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−206451(P2008−206451A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46618(P2007−46618)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【Fターム(参考)】