薬物代謝酵素に関する電気化学的検出アッセイ
電極から溶液中の哺乳類の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ電子を伝達する電気化学的メディエイタの、特にDMEによる候補薬物の代謝を測定するべくアッセイ実施をするための使用が記述される。メディエイタによる電子の伝達は、DME分子の還元酵素の不在下に行なわれる。メディエイタはDME分子とともに溶液中にあり、および/または電極へ固定される。メディエイタが電極へ固定される場合、このことは電極上に保護層を形成してよく、それにより電極との直接的な接触によるDME分子の変性を低減または防止する。アッセイにおける使用のための、電極および電気化学反応チャンバーについても記述される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的メディエイタの、特に酸化的薬物代謝酵素(DME)による候補薬物の代謝測定のための使用、並びにかかるアッセイにおける使用のための電極、電気化学反応チャンバー、および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬産業における一つの重要な興味ある分野は、薬物が体内でどのように代謝されるかを予測することである。主要な薬物代謝プロセスの一つである第I相酸化的代謝は、主としてチトクロームP450(Cyp)またはフラビンモノオキシゲナーゼ(FMO)ファミリーの酵素のいずれか、いわゆる酸化的薬物代謝酵素(DME)によって仲介される。DMEの第一の生理学的役割は、ヒドロキシル成分を外来分子へ付加することであり、したがってその代謝的分解を促進する。触媒反応は:
【化1】
[式中、RHは広範囲の可能な基質の一つであることが可能である]として要約されることが可能である。
【0003】
DMEによる候補薬物の代謝を研究する際、測定のための重要なパラメータは、異なる候補薬物に関するこの反応の最大速度(VMAX)であり、Vmaxの半分を与える候補薬物の濃度、Kmとして知られるパラメータである(図1)。Vmaxは、DMEがいかに速く候補薬物を処理することができるかの目安であり、Kmは、候補薬物とDMFとの間の結合親和性を示す。これら二つのパラメータの比(VMAX/Km)は、固有クリアランスCLintと呼ばれ、血流または結合の影響のない、肝臓原形質からの候補薬物のクリアランス速度として考えられてよい。良好な候補薬物は非常に低いCLintを有し、それらがDMFによる分解に抵抗性であることを意味しており;高いCLintを有する不良な候補薬物は、非常に速く分解されるであろう。
【0004】
DMEのようなレドックス酵素により触媒される反応は、電子の伝達によって駆動される。一般的に受入れられたCyp触媒サイクルは、図2に示されている。反応は、基質が活性部位へ結合した時に始まる(1)。もし反応がさらに進行するなら、基質は、正常には未結合のCyp中のヘム鉄原子へ配位結合されている水分子を置換えるはずである。このことは、Fe3+イオンのスピンにおける、最大5個の3d電子が対を作っている低スピン(1/2)状態から、電子が最大に不対である高スピン(5/2)状態への変化を伴う。このことは次に、約100mVの鉄のレドックス電位における変化を引き起こし、それは、熱力学的に有利なCypのレドックスパートナー(通常NADPHまたはNADH)を還元するのに充分である(2)。還元段階に続いて、Fe3+イオンに隣接する別個の位置へO2分子が結合する(3)。この状態は安定ではなく、容易に自己酸化されてO2-を放出する。しかしながら、もし第二の電子の伝達が起これば(4)、触媒反応は継続する。O2-は周囲の溶媒からのプロトンと反応してH2Oを形成し(これは放出される)、活性化された酸素原子を残す(5)。これは次に基質分子と反応してよく(6)、結果として水酸化された形状の基質を生じ(7)、それは次に活性部位から放出される。
【0005】
この反応サイクルを駆動する電子は、インビボでは通常、適当なレドックス酵素の助けを用いて、レドックスパートナーによって与えられる。DMEの場合、レドックスパートナーは通常ニコチンアミドアデノシンジヌクレオチドリン酸(NADPH)であり、酸化された状態(NADP+)と還元された状態に切り替わる。現在のインビトロのDMEアッセイは、適当な酸化状態にあるレドックスパートナーを再生することが可能な、かなり複雑な反応混合物を必要とする。たとえば、組換えP450は、組換えP450還元酵素およびNADPHと組合せて使用されてきた。NADPHの消費は分光光度法により追跡されることが可能であるが、電子の流れと生成物形成との間のカップリングは変わりやすい。したがって、NADPH消費は、候補薬物の代謝の信頼できる指標ではないかもしれない。かかるアッセイのさらなる不利益は、P450が高価であることである。
【0006】
電気化学反応チャンバー内で電極を用いて直接的に電子を供給することにより、レドックス酵素反応を人工的に駆動することができることが示されている。たとえば、NADPH-チトクロトームP450還元酵素およびチトクロトーム450を含んでいる融合タンパク質が、メディエイタ、コバルト・セパルクレート(sepulchrate)により、白金電極から電気化学的に派生される系が開発された(エスタブルック(Estabrook, R. W.)ら著、Endocrine Research、1996年、第22巻、第4号、p.665-671)。しかしながら、かかる系の不利益は、チトクロトームP450がチトクロトームP450還元酵素との融合タンパク質として供給されねばならないことであり、還元酵素とチトクロトームP450との間のカップリングに依存していることから、信頼できる結果が得られないことがある。
【0007】
WO 00/22158は、電極がP450還元酵素を必要とせずに電子が酵素へ供給されるようにする、黒鉛電極へのチトクロトームP450の付着を記述している。この文書はまた、溶液中のチトクロトームP450へ電子を供給するための、修飾された金電極の使用も開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、こうした開発にもかかわらず、電極から酵素の活性部位への電子の充分な伝達を実現することの困難さの主たる理由に、DMEはまだ完全には電気化学的に開発されていない。さらなる問題は、タンパク質が電極表面において、もし電極が金属であれば特に、容易に変性することである。ほとんどのタンパク質表面は、かなり高い親和性をもって金属表面に結合することができる多数の官能基を保持しており、かかる表面に接触している任意のタンパク質はそれに接着してアンフォールドしやすく、それにより不活性になり、かつ絶縁層で電極を汚染する。
【0009】
国際特許出願番号PCT/GB03/02756は、本出願の優先日と出願日との間に出願された同時係属出願である。それは、DMEによる薬物代謝を予測するための、電気化学的検出の使用に向けられている。電極から酵素内の触媒部位への電子の伝達を最大化する一つの方法は、電極の表面に酵素を固定することであると述べられている。一つの態様においては、電極は共有結合により修飾されている。電極の表面は、たとえば金属(典型的にはもっぱら金というわけではないが)または黒鉛からなり、タンパク質への電子伝達にさらに適するようにするべく、化学基の共有結合により修飾される。一つの技術は、金電極とともに有機チオレート化合物(SH基を含有する)を使用することを含む。チオール基は金属表面に対して強力な結合を形成し、この分子の残りはタンパク質と相互作用するための適当な官能基を提供する。
【0010】
PCT/GB03/02756のさらなる態様においては、微孔性の電解質膜が使用される。これらは、高いイオン伝導性をもつ、機械的および化学的に安定なポリマーゲルであり、電極の表面を薄層の形状でコートする。ゲルを含むポリマーは、そのマトリックス内に、カルボン酸基(多くの正に帯電した表面残基をもつタンパク質用)、アミン基(表面に多くの負電荷をもつタンパク質用)、または脂肪族基(大部分が疎水性の表面をもつタンパク質用)といった、タンパク質をトラップするために適した環境を提供するべく選択されるはずである。
【0011】
PCT/GB03/02756のさらなる態様は、脂質膜の使用を含む。天然のCYP酵素は、それらがほぼ全く、脂質二重層内のアンカーとして作用する領域を含んでいることから、通常は生体膜へ付着して見出される。実際、分析系研究室で使用されるCYPは、一般にこのアンカードメインを除去するべく修飾され、したがって酵素が可溶化されるようにしている。脂質二重層に対するCYPの親和性は、電極の表面にそれらをアンカリングする手段を提供する。好適な膜は、表面に付着された長鎖脂肪酸、脂質、または類似の分子を用いて構築されてよい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、溶液中でありかつ電極へ固定されていない場合の、電極からDMEの触媒部位への電子の伝達に関する。
【0013】
本発明によれば、電子を電極から溶液中の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ伝達するための、溶液中にある電気化学的メディエイタの使用が提供される。
【0014】
本発明によれば、電極からDME分子へのメディエイタによる電子の伝達は、DME分子のための還元酵素の不在下に行なわれる。
【0015】
DME分子は、メディエイタ分子に比べて大きい分子であり、それゆえ電極の表面へ、そしてその表面から、ゆっくりとしか拡散しない。メディエイタ分子はDME分子よりもずっと速く拡散することができるため、それらは電極表面とバルク溶液中のDME分子との間で、一以上の電子を運びながら往復することが可能である。仲介された電子伝達の速度は、それゆえ、DME分子自身によって達成され得るよりもずっと大きい。電極の処理可能な体積はそれにより増加し、したがって信号対雑音比では、DME分子のみを用いたものと比較して劇的に改善される。
【0016】
用語「酸化的DME」は、本文においてCypおよびFMOを包含するべく使用される。他の、まだ定義されていない酸化的DMEもまた、たとえば、ヒトゲノムプロジェクトの結果として発見されることがあるため、この用語の範囲内に包含される。酸化的DMEは、天然に生じた酸化的DMEか、また組換え酸化的DME、または薬物代謝活性を保持しているそれらの誘導体でよい。かかる誘導体の実例は、膜結合に必要なアミノ酸残基を含まず、その可用性が増大されるようにする酵素である。酸化的DMEは、クラスI薬物代謝酵素(インビボでは、これらの酵素はNADPH依存還元酵素および鉄-硫黄タンパク質を必要とし、ほとんどの細菌P450およびミトコンドリアのステロイド代謝酵素を含む)よりはむしろ、クラスII薬物代謝酵素(インビボでは、これらの酵素はフラビンタンパク質NADPH依存還元酵素を必要とし、哺乳類およびいくつかの細菌P450を含む)であるべきである。好ましくは、酸化的DMEはヒトの酸化的DMEである。環境によっては、しかしながら、ラットまたはマウスの酸化的DMEといった、クラスII薬物代謝酵素非ヒト酸化的DMEを使用することが所望されてよい。
【0017】
用語「メディエイタ」は、DMEのものと類似したE0値をもつ、可逆的なレドックスカップルを有する任意の化学種を指す。
【0018】
電極は、任意の適当な電気伝導性物質、好ましくは黒鉛または金属、および最も好ましくは金でよい。
【0019】
本発明の好ましい観点によれば、電極は未修飾電極、好ましくは未修飾の金属電極、特に未修飾の金電極である。
【0020】
本発明の別の好ましい観点によれば、電極から溶液中の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ、電子を伝達するための、電気化学的メディエイタであって、該メディエイタが溶液中の第一のメディエイタと、リンカーによって任意に電極へ固定された第二のメディエイタとを含む、メディエイタの使用が提供される。
【0021】
この別の好ましい観点の態様においては、第一のメディエイタの分子が電極に固定され、第二のメディエイタの分子はバルク溶液中にある。これらの態様においては、酵素分子は電子を、バルク溶液中のメディエイタ分子から、または電極へ固定された分子から直接得てよい。
【0022】
第二のメディエイタは、任意の適当な手段により電極へ固定されてよい。第二のメディエイタは共有結合により、または非共有結合により、電極へ固定されてよい。リンカーが使用される場合には、リンカーは共有結合により、または非共有結合により、電極へ固定されてよく、第二のメディエイタは共有結合により、または非共有結合により、リンカーへ固定されてよい。
【0023】
好ましくは、第二のメディエイタは非共有結合により電極またはリンカーへ固定され、第一および第二のメディエイタは同じ化学構造を有する。このことは、メディエイタが電極へ結合することができる一以上の官能基を含んでいるか、またはリンカーが過剰に与えられている場合に達成されることが可能である。そのような態様においては、電極へ結合するための、およびDME分子とともに溶液中に残存するための、充分なメディエイタがある。
【0024】
別の態様においては、第一および第二のメディエイタは異なる化合物でよい。
【0025】
もう一つの好ましい態様においては、第一のメディエイタは電極またはリンカーと反応して電極またはリンカーと共有結合を形成することができる官能基を含んで成り、そして、第二のメディエイタは、第一のメディエイタと同じ構造をもつ化学物質の、電極またはリンカーへの共有結合の産物である。
【0026】
有利には、第二のメディエイタおよび/またはリンカーは電極上に保護層を形成し、それにより、DME分子と電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止するようにする。かかる態様については、第一および第二のメディエイタが同じ化学構造を有すること、または第二のメディエイタが、第一のメディエイタと同じ構造をもつ化学物質の電極またはリンカーへの共有結合の産物であることが特に好ましい。かかる態様によれば、単一タイプのメディエイタが二つの機能:電極からDME分子へ電子を運ぶための効率的な手段を提供し、かつDME分子を電極表面での変性から保護する、を果たす。
【0027】
第二のメディエイタおよび/またはリンカーが電極上に保護層を形成する場合には、層の密度は、DMEの分子が電極表面から立体的に妨害されるように設定されるべきである。保護層は、その中にDME分子が存在している溶液と接する電極の表面を、できるだけ多く覆うように形成されるべきである。実際には、溶液と接する電極の表面積の約80%までをコートすることが可能であろうと予想される。電極表面の不純物の存在は、表面積の100%に及ぶ保護コーティングの形成を妨げると考えられる。
【0028】
本発明の他の好ましい態様においては、電極はある物質でコートされており、それを通して、DME分子ではなく、メディエイタの分子が拡散することが可能である。かかる態様は、電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性が低減または妨害されるが、メディエイタ分子は効率的に電極から溶液中のDME分子へ電子を伝達することができるというという利点を有する。
【0029】
本発明のさらなる好ましい態様においては、電極はある物質でコートされ、それを通してDME分子は拡散することはできず、第二のメディエイタが該物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより第二のメディエイタを電極上へ固定する。第二のメディエイタに適当な官能基が備えられ、第二のメディエイタが該物質へ結合するようにしてもよいことが認識されるであろう。かかる態様は、それらがもし比較的高濃度の第二のメディエイタ分子が電極の周辺に形成されることを可能にする場合に有利なことがあり、それは、このことが電極からDME分子への効率的な電子伝達を可能にするはずだからである。これらの好ましい態様によれば、第一および第二のメディエイタは異なる化学構造を有してもよい。しかしながら、好ましくは第一および第二のメディエイタは、同じ化学構造を有するか、または第二のメディエイタは、第一のメディエイタと同じ構造をもつ化学物質の、該物質への共有結合の産物である。
【0030】
適当なコーティング物質は、蛋白質サイズ排除ゲル、好ましくはセファデックスのような多糖ゲルを含む。任意に、ゲルは、電極および/またはメディエイタへの親和性を増大するべく修飾されてよい。たとえば、ゲルは硫黄またはピリジン基とのコンジュゲーションにより、金電極へのその親和性を増大するべく修飾されてよい。
【0031】
単分子層のような、保護コーティングの効率的な形成のためには、メディエイタまたは物質は、好ましくは電極の表面上に、電極の操作電圧においてメディエイタ分子または物質を固定するべく充分に強力な結合を形成することができる、一以上の官能基を含む。官能基は電極物質に依存することが認識されるであろう。金属電極への結合のために好ましい金属結合基は、アミド、アミン、カルボン酸、および、チオフェンのような複素環または、ピリジン、プリン、またはピリミジンといった含窒素複素環基を含む。金電極用には、適当な官能基は(これに限定されないが)、チオール、チオエーテル、チオフェン、ピリジン、含窒素複素環、カルボン酸、および最も負に帯電した成分を含む。
【0032】
第二のメディエイタが、リンカーまたは電気伝導度の低い物質(すなわち、脂質のような絶縁体)によって電極へ固定される場合、電極と、電極に最も近接したメディエイタとの間の距離は、20オングストロームを超えないようにされるべきであり、好ましくは15〜18オングストローム(たとえば、C6脂質)である。これよりも大きい距離は、電子が電極からメディエイタへ通過できる速度が限界となり始めると考えられる。
【0033】
メディエイタは、候補薬物、適切には生体異物が、DMEによって代謝されるかどうかを測定するための、電気化学的アッセイにおいて使用されてよい。もし候補薬物がDMEの基質として作用するなら、次に、DMEによる候補薬物の代謝回転が、電子を消費するであろう(たとえば、Cyp酵素は、反応が図2に示されたCyp触媒サイクルによって進行するなら、候補薬剤分子あたり2個の電子が消費されることが予想される)。DMEによる電子の消費速度は、電気化学反応チャンバーの電極からDMEへ電子を、それらがDMEによって消費される速度と少なくとも同程度の速度で伝達する(さもなければ、律速段階は電子の伝達となることから、電子の消費速度の正確な測定は不可能である)メディエイタの備えられた、電気化学反応チャンバーを用いて測定されることが可能である。オームの法則は、もし電気化学反応チャンバーに増大しつつある電圧が適用されれば、一定した抵抗があるなら、一定の直線的な電流の上昇が起こるであろうと予測する。しかしながら、もし候補薬物がDMEの基質として作用するなら、この反応によって電子が消費されることから、一定した直線的な電流の上昇からの偏移が見られるであろう。この偏移はDMEによる電子の消費速度および、したがって、DMEによる候補薬物の代謝回転の速度を計算するべく使用されることが可能である。もしこのアッセイが異なる濃度の候補薬物について行なわれるなら、VmaxおよびKmが計算されることが可能である。
【0034】
好適なアッセイは以下の段階:i)電極、DME分子の溶液、電気化学的メディエイタ、および候補薬物を含む電気化学反応チャンバーを準備すること;ii)電気化学反応チャンバーへ変動する電圧を印加すること;iii)電気化学反応チャンバーを通る電流を測定すること;およびiv)測定された電流から、候補薬物がDMEによって代謝されるかどうかを測定すること、を含む。
【0035】
電極は、任意の適当な電気伝導性金属、好ましくは黒鉛または金属、最も好ましくは金でよい。好ましくは一以上の参照電極も含まれる。
【0036】
本発明により、本発明による使用のための、電極および電気化学反応チャンバーが提供される。
【0037】
特に、本発明により、電極から溶液中の哺乳類の酸化的DMEの分子へ電子を伝達することのできる電気化学的メディエイタを含む電極であって、メディエイタは任意にリンカーにより電極へ固定されており、メディエイタおよび/またはリンカーが電極上に保護層を形成し、それによりDME分子と電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性が低減または防止する、電極が提供される。
【0038】
また本発明により、電極から溶液中の哺乳類の酸化的DMEの分子へ電子を伝達することのできる電気化学的メディエイタを含む電極であって、電極は、それを通してDME分子が拡散することはできない物質によりコートされており、メディエイタは該物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それによりメディエイタを電極へ固定するようにする電極も提供される。
【0039】
さらに本発明により、少なくとも二つの電極、電気化学的メディエイタ、および溶液中のDME分子を含んでおり、前記メディエイタが溶液中にある、電気化学反応チャンバーが提供される。
【0040】
メディエイタは、溶液中の第一のメディエイタ、および任意にリンカーにより一方または双方の電極上に固定された第二のメディエイタを含んでもよい。第二のメディエイタおよび/またはリンカーは、電極または複数の電極上に保護層を形成し、それによりDME分子と電極または複数の電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止するようにしてもよい。別法として、電極または複数の電極は、それを通してDME分子が拡散することはできない物質によりコートされることがあり、第二のメディエイタは該物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより第二のメディエイタを電極へ固定するようにしてもよい。
【0041】
また本発明によれば、少なくとも二つの電極、電気化学的メディエイタ、および溶液中のDME分子を含む電気化学反応チャンバーであって、前記メディエイタは溶液中にあり、かつ一方または双方の電極が、それを通してメディエイタの分子は拡散することができるがDME分子は拡散できない物質で、コートされているチャンバーも提供される。
【0042】
本発明によれば、少なくとも二つの電極、電気化学的メディエイタ、および溶液中のDME分子を含む電気化学反応チャンバーであって、該メディエイタは一つまたは双方の電極へ固定されて保護層を形成し、それによりDME分子と電極または複数の電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止するようにするチャンバーも提供される。
【0043】
本発明はまた、本発明の複数の電気化学反応チャンバーを含む装置であって、各電気化学反応チャンバーが異なるDME分子を含む装置も提供される。かかる装置は、それぞれ異なるDMEによる候補薬物のプロセッシングの程度を測定するべく使用され、どのDMEが候補薬物の代謝の第一の要因であるかを同定するようにしてもよい。
【0044】
前記電気化学反応チャンバーまたは各々の電気化学反応チャンバーは、好ましくはマイクロ電気化学反応チャンバーである。
【0045】
本発明のさらなる観点によれば、電極から溶液中の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ電子を伝達するための電気化学的メディエイタの使用であって、該メディエイタが電極へ固定されて保護層を形成し、それにより電極との直接的な接触によるDME分子の変性が低減または防止する、使用が提供される。
【0046】
本発明による使用のためのメディエイタまたは複数のメディエイタは、DMEの基質または阻害剤として作用するべきではなく、さもなければDMEによる候補薬物の代謝回転速度の正確な測定が可能ではないことが認識されるであろう。
【0047】
メディエイタは、酵素触媒反応を駆動するための適当なレドックス電位をもたねばならない。メディエイタのレドックス電位および、メディエイタへ電子を供給する電気化学反応チャンバーの電極の動作電圧の重要性は、以下に説明される。好ましくは、電気化学反応チャンバー内へ電子を供給する電極の使用電圧は、DMEのレドックス電位よりも電気陰性度が高く、メディエイタのレドックス電位は、電極の動作電圧よりも電気陰性度が低いが、DMEのレドックス電位よりも電気陰性度が高い。
【0048】
酸化-還元(レドックス)反応は、一方の化学種が電子を失い、他方がそれを得るものである。一つの化学種が電子を得るとき、それは還元されている。一つの化学種が電子を失うとき、それは酸化されている。すべてのレドックス反応において、還元および酸化は一緒に起こり、一方が他方なしに起こることはない。電子は一方から他方へ流れ、正味の電荷の増加または低下はない。
【0049】
電気化学的セルにより産生される電気力は、セル電圧により測定され、E.Cell電圧はセル内で起こるレドックス反応および反応物の濃度に依存するが、セルを通過する電子数には依存しない。
【0050】
本発明者らは、レドックス反応を二つの部分に分割することが可能であることから、反応の酸化および還元部分の双方についての標準電圧、Eox0およびEred0を定義することも可能である。本発明者らは、任意に水素還元半反応
【化2】
を、Ered0=0を有するべく選択し、すべての他の半反応の電圧をそれに関連して測定してもよい。レドックス電位は、常にそのような参照反応を基準として与えられる。前文に示した水素「電極」に加えて、銀/塩化銀参照電極もまた一般に使用されており、標準的な電極システムを参照して、半反応の標準的な還元電圧の値を用いて公表された大きな表がある。酸化半反応は、単純に逆に流れる反応であり、ハーフセル酸化電圧は還元電圧の負数である。この意味において参照電極は、レドックスの差異の定量化を可能にするための、「ベースライン」レドックス電位を定義するべく使用されることに注目されたい。そのレドックス電位が、たとえば100mVまで異なる化合物は、実験用電気化学的セルにおいてどのような材料が参照電極に使用されているかに拘らず、同じ差異を示すであろう。
【0051】
セルの標準電圧、E0は、酸化および還元半反応の標準電圧の和である。E0はすべての反応物が25℃、かつ1M濃度、または1気圧における場合に測定される。「0」の上付き文字の使用は、値が標準条件下に測定されたことを示している。アポストロフィの付いた、E0′は、値が、調べられるシステムにとって標準状態の下に測定されることを示す。生物学的系については、このことはpH、イオン濃度、および温度という適切な生理学的条件においてであろう。レドックス反応が自発性であるかどうかを測定するためには、反応の電圧を計算しなければならない。もし電圧が正であれば、反応は自発性であり、もし電圧が負であれば、反応は自発性ではない。
【0052】
一般的な反応
【化3】
については、平衡定数の数式は、
【数1】
[式中、Kは反応の平衡定数であり、[X]は化学種Xの濃度を示す]の形式を有する。反応商Qは、
【数2】
として表される。
【0053】
反応の反応商の数式は、その反応の平衡定数の数式と同じ等式を有するが、反応商は平衡濃度ではなく、太字の使用によって示された、現在の濃度を用いて計算される。平衡においては、Q=Kである。Qの一つの使用は、現在の圧力および濃度を用いてQを計算すること、およびそれを反応のKと比較することにより、反応がどちらの方向に進むかを決定することである。もしQ<Kであれば、反応は右に動き、もしQ>Kであれば、反応は左に動くであろう。
【0054】
セル電圧E0は、セル内の反応が自発性であるか否かを決定することから、ギブスの自由エネルギーにおける変化、ΔGに明らかに関連づけられるはずである。その関係は
【数3】
[式中、nは平衡レドックス反応の間に交換される電子の数であり、Fはファラデー定数、9.648x104C/molである]である。標準的な濃度において、25℃で、この等式は
【数4】
のように書かれることが可能である。
【0055】
レドックス反応は、他のすべてのものと同様、平衡に達する。本発明者らはE0とΔG0との間に一つの関係を、ならびにΔG0とKとの間にも一つの関係を有していることから、セル電圧と平衡定数との間に一つの関係を導き出すことが可能である。本発明らは、
【数5】
を有することから、二つの等式を一つに組合せることが可能である:
【数6】
【0056】
標準状態の下では、RT/Fは0.0257Vの値を有しており、従って上記の等式を単純化することができる
【数7】
【0057】
上記の等式を用いて、本発明者らはセル電圧の値を平衡定数から導き出すことが可能であり、逆の場合も同様である。
【0058】
本発明者らは、非平衡状態におけるΔGとEの間の関係を結びつけ、この二つの間の関係を、平衡にあるKおよびEを関係づけることができる方法とほぼ同じ方法で得ることが可能である。本発明らは、関係式
【数8】
を有する。
【0059】
三つの関係の組み合せは、ネルンストの等式
【数9】
を与える。
【0060】
この等式は本発明者らに、反応物および産物のあらゆる濃度における、およびあらゆる温度におけるセル電圧を計算することを可能にする。本発明者らは、前と同様に定数を組合せることにより、等式をわずかに単純化することが可能である
【数10】
【0061】
この発明においては、メディエイタは電極から電子を受取り、それゆえ還元される。このことがどの程度まで起こるかは、上記の等式を用いて計算されることが可能であり、電極電圧とレドックス電位との間の差異が、電気化学反応チャンバー内の酸化および還元されたメディエイタの相対比を決定することが明らかとなるはずである。したがって、メディエイタのレドックス電位および電極の動作電圧は、化学反応を必要な方向に駆動する上で極めて重要なものである。同様に、メディエイタは次にDME分子へ電子を渡し、それゆえ酸化される。重ねて、この二つの分子のレドックス電位の間の差異が、方向および、どの程度まで化学反応が起こるかの決定に重要である。
【0062】
典型的なCypは、-450mV(Ag/AgCl参照電極に対比して)のレドックス電位を有しており、それゆえこの値が、好適なメディエイタのための好ましいレドックス電位を決定するべく使用されてよい。標準的なCyp触媒機構によれば、レドックス電位は基質結合に際してさらにおよそ100mVまで低下される。各DMEは特徴的なレドックス電位を有するが、好ましいメディエイタは、Ag/AgCl電極に対比して+/-750mVの範囲内に収まる電位を有する。
【0063】
メディエイタは,二つの電気化学反応:
【化4】
に関係する。
【0064】
これらの反応は双方とも、左から右の方向へ、DMEによって触媒される反応の速度よりも速い速度で動くはずであり、
【化5】
[式中、Rは薬物を表す]のように要約される。
【0065】
記述されてきたように、電気化学反応の方向はギブスの自由エネルギーの変化によって測定され、それは以下の等式
【数11】
[式中、ΔHはエンタルピーにおける変化であり、ΔSはエントロピーにおける変化であり、Tは反応温度である]により、化学的なエンタルピーおよびエントロピーへ関係づけられる。
【0066】
ΔHは、主として、二つの相互作用している分子の間ばかりでなく、各々の相互作用している分子と溶媒との間での、化学的(共有)結合、静電的相互作用、水素結合、およびファン・デル・ワールス相互作用のような相互作用により決定される。この成分に大きな衝撃を与えることとなる官能基は、それゆえ先にリストされたタイプの強力な相互作用を生じるものであろう。これらは、ヒドロキシル、アミン、アミド、カルボン酸、芳香族系、複素環、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテルといった、水素結合の供与体および受容体、加えてハロ-、ニトロ-、ホスホ-、および硫酸基、あるいはこられの基のチオール同等物を含む(がこれに制限されない)。好ましくは、メディエイタはこれらの基の少なくとも二つまたは三つを含む。
【0067】
ΔSは主として、各分子がそれに沿って動くかまたは回転する軸の全数、回転可能な結合の数、鎖様の基における分岐の程度、および系における原子の総数といった、系における自由度によって決められる。再度、この成分は二つの相互作用している分子の間ばかりでなく、各々の相互作用している分子と溶媒との間においても考慮される必要がある。この成分に対して大きい衝撃を与えることとなる官能基は、それゆえ先にリストされた特徴に寄与するものであろう。前と同様、これらはアミン、アミド、カルボン酸、芳香族系、環状基、特に複素環、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、加えてハロ-、ニトロ-、ホスホ-、および硫酸基を含む(がこれに制限されない)。
【0068】
上記の相互作用の多くは、ΔGの「疎水性相互作用」成分に寄与しており、それは芳香系、水素結合受容体および/または供与体、および荷電基といった官能基によって特に影響されうる。
【0069】
候補薬物がDMEによって代謝される場合、メディエイタは電極からDMEへ、DMEによる電子の消費速度と少なくとも同様の、好ましくは2倍速い速度で、電子を伝達させることができなければならない。もし候補薬物の代謝が電子の伝達により制限されるなら、DMEへの電子伝達はそれゆえ律速段階となることから、DMEによる候補薬物の代謝回転速度の正確な測定は可能ではない。
【0070】
典型的には、DME分子は1秒当たり約10〜100基質分子を代謝回転することができる。Cyp触媒機構によれば、代謝回転される基質の各分子につき2個の電子が消費される。したがって、メディエイタは電極からDMEへ、1秒当たり少なくとも20電子、さらに好ましくは1秒当たり少なくとも40電子、最も好ましくは1秒当たり少なくとも200電子の速度で電子を伝達させることができなければならない。
【0071】
いくつかの特徴が、DME分子へ電子伝達の全体速度に影響を及ぼす。メディエイタが溶液中にある本発明の態様では、溶液を通したメディエイタの拡散速度は、溶液を通したDMEの拡散速度よりも速くされるべきであることが認識されるであろう。同等に、またはさらに重要である他の特徴は、メディエイタおよびDME分子が溶液中で衝突する速度(主としてそれらの拡散速度および濃度によって決まる)、適当なレドックス状態にあるメディエイタ分子の割合(主として電極の動作電圧によって決まる)、結果としてメディエイタからDME分子への電子の伝達を生じる衝突の割合(主としてそれらの相対的なレドックス電位および結合時のΔGによって決まる)を含む。
【0072】
多くの種類の有機分子は、本発明による使用に適したメディエイタである。これらは、メタロセン、フラビン、キノン、およびNADHか、またはそれらのレドックス活性誘導体を含む(がこれに制限されない)。
【0073】
好ましいメディエイタは、メタロセン、特にフェロセンである。コバルトメタロセンおよびバナジウムメタロセンもまた好ましい。メタロセンは稀な構造を有しており、負に帯電したシクロペンタンジエンイオン:
【化6】
のような二つの芳香環の間に、遷移金属イオンがサンドイッチ状にはさまれている。
【0074】
二つのシクロペンタジエニル環は、Fe2+へ配位結合してフェエロセンを形成することが可能であり、それは酸化または還元された状態のいずれかで存在してよく、それにより、特徴である鉄を、DMEへム基の活性部位中に反映させる。
【化7】
【0075】
フェロセンは特に、DME用の電荷の効率的なメディエイタとなるべく好適なレドックス電位を有する。それらは、酵素への結合特性を最適化するべく使用されることが可能な置換基を保持してよく、加えてそれらは、電極の表面へそれらをしっかりと結合させるための適当な化学基で官能基化されてよく、それにより保護単分子層を形成する。
【0076】
フェロセン骨格上には、分子のレドックス電位および、形、サイズ、疎水性、電荷、可溶性などといった他の物理化学的性質を調整するための、化学基の付加により官能基化されてよい、いくつかの位置がある。これらの位置は、以下のマルクーシュ構造において、ラベルR1〜R10によって示されている。
【化8】
【0077】
フェロセン自体においては、10個の置換位置すべてが単一の水素原子で占められている。置換位置は独立である必要はない。たとえば、R1およびR2は環構造によりつなぎ合わされてもよい。Rの位置はそれゆえ、単にフェロセンコア周囲の化学を変えることが可能な場所の指標である。
【0078】
図6は、多様な一置換フェロセン誘導体(すなわち、1つのR基が水素ではない)と、Ag/AgCl参照電極を基準とするそれらのレドックス電位とを示している。電子は、平衡における荷電化学種の相対濃度を決定するレドックス電位の差異によって、より電気的陰性の分子から、より電気的陽性のものへ転移する。しかしながら、不都合な静電相互作用は分子が物理的に相互作用するのを妨げることがあり、したがって電子伝達の効率を低減することがあることから、分子は電気的陰性(または電気的陽性)でありすぎてはならない。それゆえ、メディエイタ分子のレドックス電位を最適化して、自身が固有の異なるレドックス電位を有するであろう、各種のDMEのタイプにそれらを適合させることが必要である。たとえば、生理的条件下での電子伝達タンパク質、チトクロトームCのレドックス電位は、約+260mVであり、一方典型的なCypのレドックス電位は約-450mVである。
【0079】
分子のレドックス電位を調整することに加えて、もし潜在的なR基の少なくとも一つが電極への結合に好適な官能基を保持してれば、メディエイタ分子は電極の表面に保護単分子層を形成することができるであろう。たとえば、金属金がチオールのような硫黄含有基に対して特に強い親和性を有することは周知である。もしR基のうちの一つがチオールを保持していれば、その結果、強い金結合能をこの分子に与えるはずである。もしこの結合基が、金属結合部位からサンドイッチ構造の中心部の配位結合された遷移金属イオンへの、電子の素早い伝達を支持することができるとすれば(たとえば、非局在化された電子システムを含むことによって)、単分子層はさらに、電子を液相へ与える能力をもつはずである。メディエイタを金電極へ結合するためのチオール基に対しては、多くの代替物があり、電極材料としての金に対し、多くの代替物がある。
【0080】
好ましいフェロセンは,以下の式:
【化9】
[式中、R1-10は独立して任意の以下のもの:水素、およびヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ、ニトロ、ホスホ、硫酸基、であり、R1-10がすべて水素であるものを除く]の化合物である。
【0081】
特に好ましいフェロセンは、以下の式:
【化10】
[式中、R1は任意の以下のもの:ヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基か、またはフェロセンであって;かつR2-10は水素である]の化合物である。
【0082】
他の好ましいフェロセンについては、R3-10は水素であり、かつR1およびR2は独立して、R1について前文に指定された任意の基である。
【0083】
実例として、チオメチルフェロセン(R1=CH2SH、かつR2〜R10=Hをもつ)は、金表面に強力な共有結合を形成することが予測される。分子表面における静電電位の予測は、この分子もまた金属から電子を抜取り、かつそれらをその溶媒接触可能面へ差出すことができることを示唆している。したがってチオメチルフェロセンは、DMEのための電子伝達メディエイタとして作用するために、それを抜きん出て好適にすることができるいくつかの性質を有することが予測される。
【0084】
図7は、金原子(球)の小クラスターへ、チオール基を介して結合されたチオメチルフェロセン(スティックとして表す)の分子モデルを示す。この図の右側は、静電電位に従って陰影づけされた、予想される溶媒接触可能表面であって、より暗い陰影は最も電気陰性であり、より明るい陰影は最少のものである。チオメチルフェロセン成分は、バルク金属から電子を抜取り、それらを溶媒接触可能表面へ差出し、それにより図4および5に表されたような球の単分子層を提供することが予測される。
【0085】
チオメチルフェロセンは、DME電気化学のためのメディエイタとして好適であってよい分子のタイプのほんの一例である。実際には、各DMEは、レドックスと物理化学的特性との固有のセットをもつメディエイタを必要とするであろうし、各タイプの電極は、保護相が形成されることを可能にするべく、異なる結合基を必要としてよい。
【0086】
メディエイタ用にチオール含有基を使用することは、DMEがフラビンモノオキシゲナーゼであるか、またはチトクロトームP450以外の酸化的DMEである場合に好ましい。
【0087】
他の好ましいメディエイタは、フラビンかまたは、それらのレドックス活性誘導体である。好ましいフラビンを主成分とするメディエイタの一般的な構造は以下に示される:
【化11】
[式中、R1、R2、およびR3は、水素、-CHO、-COCH3、-COCH2CH3、-COC3H6COOH、-COCH2CH2COOH、-CNOHCH3、-COOH、-CH2OH、-CHOHCH3、-OH、アミド、アミン、カルボン酸、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、または、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基であり;
R4およびR5は、酸素、ヒドロキシル、ヌクレオチド、ヌクレオシド、チオール、チオエーテル、チオフェン、ピリジン、含窒素複素環、カルボン酸、または負に帯電した成分であり;かつ
Aはスペーサーであり、好適には、誘導体化されたかまたは誘導体化されていないアルカン、アルケン、アルキン、エーテル、エステル、アミド、芳香族基、または複素環である。実例は、天然分子であるフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)およびフラビンモノヌクレオチド(FMN)に見られるようなリビチル糖である]。
【0088】
好ましいフラビンは、FADおよびFMN、またはそれらのレドックス活性誘導体である。
【0089】
当業者には、本発明による使用のための候補メディエイタが、DMEおよびそのDMEの既知の基質(それについては、特定の基質およびDME濃度における反応速度、および/またはKmまたはVmax値が既知である)を用いて、電気化学的アッセイにおいてアッセイされることが可能であることが認識されよう。もし候補メディエイタが、電極からDMEへ、正確な反応速度および/またはKmまたはVmax値の計算を可能にする速度で電子を伝達するなら(これは、計算された値が、既知の値と一致するかどうかによって判断される)、候補メディエイタは本発明によるメディエイタとして使用されることが可能である。
【0090】
本発明によれば、本発明による使用のための、電気化学的メディエイタを同定するためのアッセイであって:
i)電極、DME分子の溶液、DME分子の基質、および候補電気化学的メディエイタを含む、電気化学反応チャンバーを準備すること;
ii)前記電気化学反応チャンバーへ変化する電圧を印加すること;
iii)電気化学反応チャンバーを通る電流を測定すること;および
iV)測定された電流から、基質とDMEとの反応の速度を測定すること;および
v)測定された反応速度を、対応する条件下での、基質とDMEとの既知の反応速度と比較すること、
を含むアッセイもまた提供される。
【0091】
もし測定された反応速度が既知の反応速度と一致すれば、候補メディエイタは本発明による使用のためのメディエイタとして同定される。反応の速度は、異なる濃度の基質について測定されることが可能であり、Kmおよび/またはVmaxが計算され、既知の値と比較されることが可能となる。再度、もし計算されたKmまたはVmax値が既知の値と一致すれば、候補メディエイタは本発明による使用のためのメディエイタとして同定される。
【0092】
本発明の態様によっては、共有結合により電極へ固定されているメディエイタは除外されることがある。
【0093】
本発明の態様によっては、電極の表面を薄層の形状でコートしている、微孔性の電解質膜(機械的に、かつ安定な高いイオン伝導性をもつポリマーゲル)であるメディエイタは、除外されることがある。
【0094】
本発明の態様によっては、電極の表面に固定された脂質膜であるメディエイタは、除外されることがある。
【0095】
本発明のアッセイの実行における使用に適した多くの可能な実験アプローチのうちの二つが、次に記述される。反応は電気化学反応チャンバーにおいて行なわれる。DMEおよび候補薬物は、好ましくは、標準的な生理的条件のものに厳密に適合するpH、温度、およびイオン濃度において、水溶液中に(メディエイタがもし溶液中にあればそれと一緒に)溶解される。電気化学反応チャンバーに増加していく電圧が適用され、電流が測定される。もし抵抗が一定であればオームの法則から予測される電流における、一定の直線的な上昇からの電流の偏差が、異なる濃度の候補薬物について反応速度を計算するべく使用される。異なる反応速度は、次にDMEによる候補薬物の代謝回転の最大速度(Vmax)、およびVmaxの半分を与える候補薬物の濃度(Km)を計算するべく用いられる。
【0096】
電気化学反応チャンバーは、任意の適当なサイズでよい。数ミリリットルの体積のベンチスケールの容器が一般的であるが、本発明者らの好ましい反応チャンバーは、数十または数百ナノリットルのマイクロフルイディクス(マイクロ流体)スケールの装置へ取込まれるであろう。電極は任意の適当な金属でよいが、本発明者らの好みは金であろう。
【0097】
種々の成分の典型的な濃度は、1〜100mMの範囲に入ることが見込まれるが、さらに希薄な条件もまた好ましいであろう。
【0098】
(リニアスイープボルタンメトリ(LSV))
リニアスイープボルタンメトリにおいては、電極電位は、図8に示されたように下限から上限までスキャンされる。電圧スキャン速度(ν)は、線の勾配から計算される。明らかに、範囲をスイープするためにかかる時間を変えることにより、スキャン速度は変更される。
【0099】
記録されたリニアスイープボルタモグラムの特徴は、多数の因子、例えば:
*電子伝達反応の速度
*電気活性分子種の化学的反応性
*電圧スキャン速度
に依存する。
【0100】
LSV測定においては、電流応答は、ポテンシャル・ステップ測定法とは異なり、時間よりもむしろ電圧の関数としてプロットされる。たとえば、もしFe3+/Fe2+システム
【化12】
を考えるなら、図9に示されたボルタモグラムは、電圧スイープから結果として生じるFe3+のみを含有する電解質溶液を用いた、単一の電圧スキャンについて見られるであろう。
【0101】
スキャンは、電流の流れでない電流/電圧プロットの左手側から始まる。電圧が右(より還元的な値へ)に向かってさらにスイープされるにつれ、電流は流れ始め、遂には降下に先立ちピークに達する。この挙動を合理的に扱うためには、本発明者らは電極表面において確立された平衡に対する電圧の影響を考慮する必要がある。Fe3+からFe2+への電気化学的還元を考える場合、電子伝達の速度は電圧スイープ速度に比べてより速い。それゆえ、電極表面では、熱力学によって予測されるものと同一の平衡が確立される。ネルンストの等式:
【数12】
は、濃度と電圧(電位差)の間の関係を予測しており、式中、Eは印加された電位差であり、E0は標準電極電位である。それゆえ、電圧がV1からV2までスイープされるにつれ、平衡位置は、電極表面における反応物のV1の変換なしから、V2の完全変換までシフトする。
【0102】
ボルタモグラムの正確な形状は、電圧およびマス・トランスポート効果を考慮することにより、合理的に扱われることが可能である。電圧は、最初にV1からスイープされるとき、表面における平衡は変化し始め、電流が流れ始める:
【化13】
【0103】
電流は、電圧がその最初の値からさらにスイープされるにつれ、平衡位置がさらに右手側へシフトして上昇し、したがってより多くの反応物を変換する。ある点においては、拡散層が電極上に充分成長して、電極への反応物の流束が、ネルンストの等式によって必要とされるものを満たすための充分な速さをなくすようにすることから、ピークが発生する。この状態において電流は、ポテンシャル・ステップ測定においてまさにそうしたように降下し始める。
【0104】
上記のボルタモグラムは、単一のスキャン速度において記録された。もしスキャン速度が変えられると、電流応答も変化する。図10は、Fe3+のみを含有する電解質溶液について、異なるスキャン速度で記録された、一連のリニアスイープボルタモグラムを示す。各曲線は、同じ形状を有するが、全電流はスキャン速度の増加とともに増加することは明らかである。これは、再度、拡散層のサイズおよびスキャンを記録するのに要した時間を考慮することによって合理的に扱われることが可能である。明らかに、リニアスイープボルタモグラムは、スキャン速度が減少するにつれて記録するのにより長くかかるようになるであろう。それゆえ、電極表面の上の拡散層のサイズは、用いた電圧スキャン速度に依存して異なるであろう。遅い電圧スキャンにおいて拡散層は、速いスキャンに比べて電極からずっと遠くまで成長するであろう。結果として、電極表面への流束は、遅いスキャン速度では、速いスキャン速度におけるそれよりもかなり小さい。電流は電極へ向かう流束に比例することから、電流の大きさは遅いスキャン速度ではより低く、高速度ではより高くなるであろう。このことは、LSV(およびサイクリックボルタモグラム)を調べる際に重要なポイントを強調しており、グラフ上には何ら時間軸が存在しないにもかかわらず、電圧スキャン速度(およびそれゆえボルタモグラムを記録するためにかかる時間)が、強く挙動が見られるようにしている。図10から示される最後のポイントは、最大電流の位置であり、ピークが同じ電圧において起こることは明らかであり、このことは速い電子伝達カイネティクスをもつ電極反応の特徴である。これらの速いプロセスは、しばしば可逆的な電子伝達反応と呼ばれる。
【0105】
このことは、電子伝達プロセスが「遅い」(電圧スキャン速度に比較して)場合、何が起こるかについて疑問を残す。このような場合、反応は擬可逆または不可逆的電子伝達反応と呼ばれる。図11は、還元速度定数(Kred)の異なる値について、単一の電圧スイープ速度で記録された、一連のボルタモグラムを示している。
【0106】
この状況においては、印加された電圧は、ネルンストの等式によって予想された電極表面における濃度の発生を生じる結果とはならないであろう。このことは、反応のカイネティクスが「遅く」、したがって平衡が迅速に(電圧スキャン速度に比較して)確立されないことから起こる。この状況においては、記録されたボルタモグラムの全体の形状は、図11に示されたものと同様であるが、可逆的反応とは異なり、最大電流は還元速度定数(および電圧スキャン速度にも)に依存してシフトする。このことが起こるのは、印加された電圧に対して電流が反応するために、可逆的な場合よりもさらに時間がかかるためである。
【0107】
(サイクリックボルタンメトリ)
サイクリックボルタンメトリ(CV)は、LSVに非常に類似している。この場合、電圧は二つの値(図12参照)の間で、固定された速度でスイープされているが、電圧がV2に達したとき、スキャンは逆転され、電圧はV1へスイープバックされる。
【0108】
可逆的単一電極伝達反応について記録された典型的なサイクリックボルタモグラムは、図13に示されている。再度、溶液は単一の電気化学的反応物のみを含有している。前向きのスイープは、LSV実験について見られたものと同等の応答を生じる。スキャンが逆転されたとき、本発明者らは単純に平衡位置を通って後退し、電解産物(Fe2+)を元通り反応物(Fe3+)へ徐々に変換する。電流の流れは次に、溶液中の化学種から電極へ戻り、それゆえ前向きの段階に対して反対の意味において起こるが、その他の点では同じ方法で説明されることが可能である。可逆的な電気化学反応については、記録されたCVは、いくつかの充分に定義された特徴を有する:
【0109】
I)電流ピーク間の電圧分離は
【数13】
であり、
II)ピーク電圧の位置は、電圧スキャン速度の関数として変化せず、
III)ピーク電流の比は1に等しく
【数14】
IV)ピーク電流はスキャン速度の平方根に比例する
【数15】
【0110】
可逆的な電子伝達についての、電流に対する電圧スキャン速度の影響は、図14において見ることができる。LSVについてと同様に、スキャン速度の影響は、可逆的な電子伝達反応については、拡散層の厚さという観点で説明される。
【0111】
電子伝達が可逆的ではない場合のCVは、その可逆的な対応相手とはかなり異なる挙動を示す。図15は、還元および酸化速度定数の異なる値についての、擬可逆的な反応のボルタモグラムを示す。第一の曲線は、酸化および還元の双方の速度定数がまだ速く、しかしながら、速度定数が低下するにつれて曲線はより還元電位へシフトする場合を示す。再度、このことは、表面における平衡がもはやそれほど速く確立されない、という観点で合理的に扱われてよい。これらの場合、ピーク分離はもはや固定されず、スキャン速度の関数として変化する。同様に、ピーク電流はもはやスキャン速度の平方根の関数として変化しない。ピーク位置の変動をスキャン速度の関数として分析することにより、電子伝達速度定数の推定値を得ることが可能である。
【0112】
次に本発明の態様が、単なる例として添付の図面を参照して記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0113】
メディエイタ分子が溶液中にある本発明の一つの態様が、図3に図式的に示されている。メディエイタ分子は、一以上の電子を運びながら、電極表面とバルク溶液中のタンパク質との間を往復する。タンパク質は大きな分子であり、それゆえ電極表面へ、および電極表面から,ゆっくりと拡散するのみである(「マス・トランスポート問題」)。タンパク質よりも物理的にずっと小さいことから、メディエイタははるかに速く拡散することができ、それゆえ媒介される電子伝達の速度は,タンパク質自体によって達成され得るものよりもはるかに大きい。
【0114】
メディエイタ分子が電極に固定されて電極表面上に保護層を形成する、本発明の別の態様は、図4に図式的に示されている。電極の表面との直接的な接触によって引き起されるDME分子の変性は、これによって低減される。メディエイタ分子は、共有結合または非共有結合により電極へ固定されてよい。
【0115】
本発明の特に好ましい態様は、図5に図式的に示されている。この態様によれば、メディエイタ分子は二つの機能を果たすことができる:それらは電極からバルク溶液中のDME分子へ、電子を運ぶための効率的な手段を提供し、かつ、保護的な、導電性のコーティング層を形成することにより、電極表面での変性からタンパク質分子を保護する。
【0116】
メディエイタ分子は、特定のDMEへ効率的な電子の伝達を提供するべく最適化されたレドックスおよび物理化学的性質、ならびにまた、電極の表面上に保護単分子層を形成することを可能にする結合部位、をもつべくデザインされている。結合部位が電極と非共有結合を形成する場合には、電極へ結合されたメディエイタ分子は、溶液中のメディエイタ分子と同様の化学構造を有するであろう。結合部位が電極と共有結合を形成する場合には、電極へ結合されたメディエイタは、メディエイタ分子の電極への共有結合の産物であろう。溶液中のメディエイタ分子は、電極と反応して共有結合を形成することが可能であろう。
【0117】
以下の実施例は:
i)本発明らは、電子伝達メディエイタ分子を、電気化学的技術を用いて検出することができること
ii)本発明らは、メディエイタの還元および酸化を正確に定量化できること
iii)本発明者らは、チトクロトームP450に触媒される反応の電気化学的駆動によって誘導される、メディエイタの電気化学的応答における差異を検出することが可能であること、
iv)反応が実際に,電気化学的メディエイタによって駆動されていること、
を証明する。
【0118】
以下の実施例においては、電気化学的反応は、100mMリン酸緩衝食塩水中で,pH7.2において行なわれた。他に述べない限り、タンパク質は5nM濃度で、メディエイタは100μMで存在していた。実施例1に記述された結果は、ジメチルアミノメチルフェエロセンによって仲介されるチトクロトームcに関するものであり、それゆえ本発明の範囲内にないが、実例メディエイタの使用を例示している。実施例2および3において提示された結果は、フラビンを主成分とする化合物、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)により仲介されるチトクロトームP450 3A4に関するものである。
【0119】
すべての実験は、体積100μlの反応チャンバーとともに、表面積0.1mm2の、化学的に未処理の金微小電極を用いて行なわれた。用いた電気化学的測定技術は、関係する電圧範囲を、1秒あたり約100mVの速度で横切ってスキャンされた作用電極における電位を用いた、サイクリックボルタンメトリであった。典型的なスキャンは、それゆえカバーされる実際の電圧範囲に依存して、完了までに約10秒を要した。
【実施例1】
【0120】
(実例メディエイタの電気化学的応答)
実例電気化学的メディエイタ(ジメチルアミノメチルフェロセン)の濃度増加についての電気化学的応答は、図16に示されている。データは、リン酸緩衝食塩水中、pH7.2において、未処理の金電極を用いて収集された。結果は、メディエイタのレドックス状態における誘導変化のため、ピークの強度および位置に明らかな変化があることを示している。図17は、メディエイタ濃度に対する最大ピーク高のプロットを示す。プロットは、原点を通る明らかな直線的応答を示している。このことは、測定された電流が、電極によって酸化(または還元)されるメディエイタの量に直接的に比例することを証明している。したがって、メディエイタの量を増加することは、増加する電気化学的シグナルを発生させる。
【実施例2】
【0121】
(仲介されたチトクロトームP450:電気化学的に駆動される反応)
図18は、PBS緩衝液中のFADメディエイタの電気化学的応答が、チトクロトームP450(この場合には、3A4アイソザイム)の存在によって変化すること、および適当な基質(Vivid(登録商標)3A4グリーン・フルオロジェニック・サブストレート(Green Fluorogenic Substrate)、インビトロジェン社(Inbitrogen Ltd.)の追加によってさらに変化することを示している。
【0122】
メディエイタのみでは、フラビン含有化合物について予想されるような、二つの主要なレドックスピークをもつボルタモグラムを生じる。P450酵素の添加は、これらのピークの大きさを低減し、酵素がそれ自身メディエイタと相互作用していること、および、それゆえ電極において検出される電気化学的応答を変化させることを示している。この混合物へ適当な基質化合物を添加することは、メディエイタのレドックスピークの大きさをさらに低減し、酵素が今やメディエイタのレドックス状態を、さらに変化させていることを示している。このことは、メディエイタが酵素触媒反応を駆動しているという主張を支持する.実施例1で記述された実験における場合と同様に、ピークの大きさにおける差異は、反応速度をモニターするべく使用されることが可能である。酸化される各々の基質分子が2個の電子の伝達を必要とすることから、電流の差異は、1秒当たりに触媒される反応の数を計算するべく使用されることが可能である(1アンペアは毎秒1molの電子の伝達に等しいとして)。
【実施例3】
【0123】
(仲介されたチトクロトームP450)
図19は、低い濃度においては、電気化学的電流(反応速度を示す)が、酵素濃度にほぼ比例することを示している。これは予期された結果であり、全体の反応速度(反応チャンバー内で起こっている1秒当たりの反応)が、存在する酵素の量によって決まることを示している;律速段階は酵素反応であり、電子のデリバリーではない。より高い酵素濃度では、しかしながら、反応速度は最大値へ向かう傾向がある。付加的な酵素がいかに多く存在しても、反応がより速く進行することはできない。このことは、律速段階が今や、電子が酵素へデリバリーされ得る速度となったことを示唆しており、メディエイタが所望の方式で作用している(すなわち、反応はメディエイタによって駆動されている)という主張を支持している。このことが事実でないとすれば、さらなる酵素が添加されるにつれて、反応速度はなお上昇するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】図1は、DMEによる薬物の変換速度における、該薬物の濃度が増加された場合の変化を示している。
【図2】図2は、一般的に受入れられているCyp触媒サイクルを示している。
【図3】図3は、メディエイタ分子が溶液中にある、本発明の一つの態様を示している。
【図4】図4は、メディエイタ分子が電極へ固定されて電極の表面上に保護層を形成する、本発明の一つの態様を示している。
【図5】図5は、メディエイタ分子が溶液中にあり、電極へ固定されて電極の表面上に保護層を形成する、本発明の一つの態様を示している。
【図6】図6は、種々の一置換フェロセン誘導体および、Ag/AgCl参照電極を基準とするそれらのレドックス電位を示している。
【図7】図7は、チオール基によって金原子の小クラスターへ結合されたチオメチルフェロセン(スティックとして表された)の分子モデルを示している。
【図8】図8は、リニアスイープボルタンメトリ(LSV)において使用された電圧スキャンを示している。
【図9】図9は、LSVボルタモグラムを示している。
【図10】図10は、異なるスキャン速度において記録された、一連のリニアスイープボルタモグラムを示している。
【図11】図11は、単一の電圧スイープ速度において、異なる値の還元速度定数について記録された、一連のボルタモグラムを示している。
【図12】図12は、サイクリックボルタンメトリ(CV)において使用された電圧スキャンを示している。
【図13】図13は、可逆的な単一の電極伝達反応についての、典型的なボルタモグラムを示している。
【図14】図14は、可逆的な電子伝達についての、電流に対する電圧スキャン速度の影響を示している。
【図15】図15は、異なる値の還元および酸化速度定数についての、擬可逆反応のボルタモグラムを示している。
【図16】図16は、実施例の電気化学的メディエイタ(ジメチルアミノメチルフェロセン)の増加する濃度についての電気化学的応答を示している。
【図17】図17は、図16の最大ピーク高の、メディエイタ濃度に対するプロットを示している。
【図18】図18は、FADメディエイタの電気化学的応答を示している。
【図19】図19は、P450濃度が増加するときの、電流の変化を示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的メディエイタの、特に酸化的薬物代謝酵素(DME)による候補薬物の代謝測定のための使用、並びにかかるアッセイにおける使用のための電極、電気化学反応チャンバー、および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬産業における一つの重要な興味ある分野は、薬物が体内でどのように代謝されるかを予測することである。主要な薬物代謝プロセスの一つである第I相酸化的代謝は、主としてチトクロームP450(Cyp)またはフラビンモノオキシゲナーゼ(FMO)ファミリーの酵素のいずれか、いわゆる酸化的薬物代謝酵素(DME)によって仲介される。DMEの第一の生理学的役割は、ヒドロキシル成分を外来分子へ付加することであり、したがってその代謝的分解を促進する。触媒反応は:
【化1】
[式中、RHは広範囲の可能な基質の一つであることが可能である]として要約されることが可能である。
【0003】
DMEによる候補薬物の代謝を研究する際、測定のための重要なパラメータは、異なる候補薬物に関するこの反応の最大速度(VMAX)であり、Vmaxの半分を与える候補薬物の濃度、Kmとして知られるパラメータである(図1)。Vmaxは、DMEがいかに速く候補薬物を処理することができるかの目安であり、Kmは、候補薬物とDMFとの間の結合親和性を示す。これら二つのパラメータの比(VMAX/Km)は、固有クリアランスCLintと呼ばれ、血流または結合の影響のない、肝臓原形質からの候補薬物のクリアランス速度として考えられてよい。良好な候補薬物は非常に低いCLintを有し、それらがDMFによる分解に抵抗性であることを意味しており;高いCLintを有する不良な候補薬物は、非常に速く分解されるであろう。
【0004】
DMEのようなレドックス酵素により触媒される反応は、電子の伝達によって駆動される。一般的に受入れられたCyp触媒サイクルは、図2に示されている。反応は、基質が活性部位へ結合した時に始まる(1)。もし反応がさらに進行するなら、基質は、正常には未結合のCyp中のヘム鉄原子へ配位結合されている水分子を置換えるはずである。このことは、Fe3+イオンのスピンにおける、最大5個の3d電子が対を作っている低スピン(1/2)状態から、電子が最大に不対である高スピン(5/2)状態への変化を伴う。このことは次に、約100mVの鉄のレドックス電位における変化を引き起こし、それは、熱力学的に有利なCypのレドックスパートナー(通常NADPHまたはNADH)を還元するのに充分である(2)。還元段階に続いて、Fe3+イオンに隣接する別個の位置へO2分子が結合する(3)。この状態は安定ではなく、容易に自己酸化されてO2-を放出する。しかしながら、もし第二の電子の伝達が起これば(4)、触媒反応は継続する。O2-は周囲の溶媒からのプロトンと反応してH2Oを形成し(これは放出される)、活性化された酸素原子を残す(5)。これは次に基質分子と反応してよく(6)、結果として水酸化された形状の基質を生じ(7)、それは次に活性部位から放出される。
【0005】
この反応サイクルを駆動する電子は、インビボでは通常、適当なレドックス酵素の助けを用いて、レドックスパートナーによって与えられる。DMEの場合、レドックスパートナーは通常ニコチンアミドアデノシンジヌクレオチドリン酸(NADPH)であり、酸化された状態(NADP+)と還元された状態に切り替わる。現在のインビトロのDMEアッセイは、適当な酸化状態にあるレドックスパートナーを再生することが可能な、かなり複雑な反応混合物を必要とする。たとえば、組換えP450は、組換えP450還元酵素およびNADPHと組合せて使用されてきた。NADPHの消費は分光光度法により追跡されることが可能であるが、電子の流れと生成物形成との間のカップリングは変わりやすい。したがって、NADPH消費は、候補薬物の代謝の信頼できる指標ではないかもしれない。かかるアッセイのさらなる不利益は、P450が高価であることである。
【0006】
電気化学反応チャンバー内で電極を用いて直接的に電子を供給することにより、レドックス酵素反応を人工的に駆動することができることが示されている。たとえば、NADPH-チトクロトームP450還元酵素およびチトクロトーム450を含んでいる融合タンパク質が、メディエイタ、コバルト・セパルクレート(sepulchrate)により、白金電極から電気化学的に派生される系が開発された(エスタブルック(Estabrook, R. W.)ら著、Endocrine Research、1996年、第22巻、第4号、p.665-671)。しかしながら、かかる系の不利益は、チトクロトームP450がチトクロトームP450還元酵素との融合タンパク質として供給されねばならないことであり、還元酵素とチトクロトームP450との間のカップリングに依存していることから、信頼できる結果が得られないことがある。
【0007】
WO 00/22158は、電極がP450還元酵素を必要とせずに電子が酵素へ供給されるようにする、黒鉛電極へのチトクロトームP450の付着を記述している。この文書はまた、溶液中のチトクロトームP450へ電子を供給するための、修飾された金電極の使用も開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、こうした開発にもかかわらず、電極から酵素の活性部位への電子の充分な伝達を実現することの困難さの主たる理由に、DMEはまだ完全には電気化学的に開発されていない。さらなる問題は、タンパク質が電極表面において、もし電極が金属であれば特に、容易に変性することである。ほとんどのタンパク質表面は、かなり高い親和性をもって金属表面に結合することができる多数の官能基を保持しており、かかる表面に接触している任意のタンパク質はそれに接着してアンフォールドしやすく、それにより不活性になり、かつ絶縁層で電極を汚染する。
【0009】
国際特許出願番号PCT/GB03/02756は、本出願の優先日と出願日との間に出願された同時係属出願である。それは、DMEによる薬物代謝を予測するための、電気化学的検出の使用に向けられている。電極から酵素内の触媒部位への電子の伝達を最大化する一つの方法は、電極の表面に酵素を固定することであると述べられている。一つの態様においては、電極は共有結合により修飾されている。電極の表面は、たとえば金属(典型的にはもっぱら金というわけではないが)または黒鉛からなり、タンパク質への電子伝達にさらに適するようにするべく、化学基の共有結合により修飾される。一つの技術は、金電極とともに有機チオレート化合物(SH基を含有する)を使用することを含む。チオール基は金属表面に対して強力な結合を形成し、この分子の残りはタンパク質と相互作用するための適当な官能基を提供する。
【0010】
PCT/GB03/02756のさらなる態様においては、微孔性の電解質膜が使用される。これらは、高いイオン伝導性をもつ、機械的および化学的に安定なポリマーゲルであり、電極の表面を薄層の形状でコートする。ゲルを含むポリマーは、そのマトリックス内に、カルボン酸基(多くの正に帯電した表面残基をもつタンパク質用)、アミン基(表面に多くの負電荷をもつタンパク質用)、または脂肪族基(大部分が疎水性の表面をもつタンパク質用)といった、タンパク質をトラップするために適した環境を提供するべく選択されるはずである。
【0011】
PCT/GB03/02756のさらなる態様は、脂質膜の使用を含む。天然のCYP酵素は、それらがほぼ全く、脂質二重層内のアンカーとして作用する領域を含んでいることから、通常は生体膜へ付着して見出される。実際、分析系研究室で使用されるCYPは、一般にこのアンカードメインを除去するべく修飾され、したがって酵素が可溶化されるようにしている。脂質二重層に対するCYPの親和性は、電極の表面にそれらをアンカリングする手段を提供する。好適な膜は、表面に付着された長鎖脂肪酸、脂質、または類似の分子を用いて構築されてよい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、溶液中でありかつ電極へ固定されていない場合の、電極からDMEの触媒部位への電子の伝達に関する。
【0013】
本発明によれば、電子を電極から溶液中の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ伝達するための、溶液中にある電気化学的メディエイタの使用が提供される。
【0014】
本発明によれば、電極からDME分子へのメディエイタによる電子の伝達は、DME分子のための還元酵素の不在下に行なわれる。
【0015】
DME分子は、メディエイタ分子に比べて大きい分子であり、それゆえ電極の表面へ、そしてその表面から、ゆっくりとしか拡散しない。メディエイタ分子はDME分子よりもずっと速く拡散することができるため、それらは電極表面とバルク溶液中のDME分子との間で、一以上の電子を運びながら往復することが可能である。仲介された電子伝達の速度は、それゆえ、DME分子自身によって達成され得るよりもずっと大きい。電極の処理可能な体積はそれにより増加し、したがって信号対雑音比では、DME分子のみを用いたものと比較して劇的に改善される。
【0016】
用語「酸化的DME」は、本文においてCypおよびFMOを包含するべく使用される。他の、まだ定義されていない酸化的DMEもまた、たとえば、ヒトゲノムプロジェクトの結果として発見されることがあるため、この用語の範囲内に包含される。酸化的DMEは、天然に生じた酸化的DMEか、また組換え酸化的DME、または薬物代謝活性を保持しているそれらの誘導体でよい。かかる誘導体の実例は、膜結合に必要なアミノ酸残基を含まず、その可用性が増大されるようにする酵素である。酸化的DMEは、クラスI薬物代謝酵素(インビボでは、これらの酵素はNADPH依存還元酵素および鉄-硫黄タンパク質を必要とし、ほとんどの細菌P450およびミトコンドリアのステロイド代謝酵素を含む)よりはむしろ、クラスII薬物代謝酵素(インビボでは、これらの酵素はフラビンタンパク質NADPH依存還元酵素を必要とし、哺乳類およびいくつかの細菌P450を含む)であるべきである。好ましくは、酸化的DMEはヒトの酸化的DMEである。環境によっては、しかしながら、ラットまたはマウスの酸化的DMEといった、クラスII薬物代謝酵素非ヒト酸化的DMEを使用することが所望されてよい。
【0017】
用語「メディエイタ」は、DMEのものと類似したE0値をもつ、可逆的なレドックスカップルを有する任意の化学種を指す。
【0018】
電極は、任意の適当な電気伝導性物質、好ましくは黒鉛または金属、および最も好ましくは金でよい。
【0019】
本発明の好ましい観点によれば、電極は未修飾電極、好ましくは未修飾の金属電極、特に未修飾の金電極である。
【0020】
本発明の別の好ましい観点によれば、電極から溶液中の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ、電子を伝達するための、電気化学的メディエイタであって、該メディエイタが溶液中の第一のメディエイタと、リンカーによって任意に電極へ固定された第二のメディエイタとを含む、メディエイタの使用が提供される。
【0021】
この別の好ましい観点の態様においては、第一のメディエイタの分子が電極に固定され、第二のメディエイタの分子はバルク溶液中にある。これらの態様においては、酵素分子は電子を、バルク溶液中のメディエイタ分子から、または電極へ固定された分子から直接得てよい。
【0022】
第二のメディエイタは、任意の適当な手段により電極へ固定されてよい。第二のメディエイタは共有結合により、または非共有結合により、電極へ固定されてよい。リンカーが使用される場合には、リンカーは共有結合により、または非共有結合により、電極へ固定されてよく、第二のメディエイタは共有結合により、または非共有結合により、リンカーへ固定されてよい。
【0023】
好ましくは、第二のメディエイタは非共有結合により電極またはリンカーへ固定され、第一および第二のメディエイタは同じ化学構造を有する。このことは、メディエイタが電極へ結合することができる一以上の官能基を含んでいるか、またはリンカーが過剰に与えられている場合に達成されることが可能である。そのような態様においては、電極へ結合するための、およびDME分子とともに溶液中に残存するための、充分なメディエイタがある。
【0024】
別の態様においては、第一および第二のメディエイタは異なる化合物でよい。
【0025】
もう一つの好ましい態様においては、第一のメディエイタは電極またはリンカーと反応して電極またはリンカーと共有結合を形成することができる官能基を含んで成り、そして、第二のメディエイタは、第一のメディエイタと同じ構造をもつ化学物質の、電極またはリンカーへの共有結合の産物である。
【0026】
有利には、第二のメディエイタおよび/またはリンカーは電極上に保護層を形成し、それにより、DME分子と電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止するようにする。かかる態様については、第一および第二のメディエイタが同じ化学構造を有すること、または第二のメディエイタが、第一のメディエイタと同じ構造をもつ化学物質の電極またはリンカーへの共有結合の産物であることが特に好ましい。かかる態様によれば、単一タイプのメディエイタが二つの機能:電極からDME分子へ電子を運ぶための効率的な手段を提供し、かつDME分子を電極表面での変性から保護する、を果たす。
【0027】
第二のメディエイタおよび/またはリンカーが電極上に保護層を形成する場合には、層の密度は、DMEの分子が電極表面から立体的に妨害されるように設定されるべきである。保護層は、その中にDME分子が存在している溶液と接する電極の表面を、できるだけ多く覆うように形成されるべきである。実際には、溶液と接する電極の表面積の約80%までをコートすることが可能であろうと予想される。電極表面の不純物の存在は、表面積の100%に及ぶ保護コーティングの形成を妨げると考えられる。
【0028】
本発明の他の好ましい態様においては、電極はある物質でコートされており、それを通して、DME分子ではなく、メディエイタの分子が拡散することが可能である。かかる態様は、電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性が低減または妨害されるが、メディエイタ分子は効率的に電極から溶液中のDME分子へ電子を伝達することができるというという利点を有する。
【0029】
本発明のさらなる好ましい態様においては、電極はある物質でコートされ、それを通してDME分子は拡散することはできず、第二のメディエイタが該物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより第二のメディエイタを電極上へ固定する。第二のメディエイタに適当な官能基が備えられ、第二のメディエイタが該物質へ結合するようにしてもよいことが認識されるであろう。かかる態様は、それらがもし比較的高濃度の第二のメディエイタ分子が電極の周辺に形成されることを可能にする場合に有利なことがあり、それは、このことが電極からDME分子への効率的な電子伝達を可能にするはずだからである。これらの好ましい態様によれば、第一および第二のメディエイタは異なる化学構造を有してもよい。しかしながら、好ましくは第一および第二のメディエイタは、同じ化学構造を有するか、または第二のメディエイタは、第一のメディエイタと同じ構造をもつ化学物質の、該物質への共有結合の産物である。
【0030】
適当なコーティング物質は、蛋白質サイズ排除ゲル、好ましくはセファデックスのような多糖ゲルを含む。任意に、ゲルは、電極および/またはメディエイタへの親和性を増大するべく修飾されてよい。たとえば、ゲルは硫黄またはピリジン基とのコンジュゲーションにより、金電極へのその親和性を増大するべく修飾されてよい。
【0031】
単分子層のような、保護コーティングの効率的な形成のためには、メディエイタまたは物質は、好ましくは電極の表面上に、電極の操作電圧においてメディエイタ分子または物質を固定するべく充分に強力な結合を形成することができる、一以上の官能基を含む。官能基は電極物質に依存することが認識されるであろう。金属電極への結合のために好ましい金属結合基は、アミド、アミン、カルボン酸、および、チオフェンのような複素環または、ピリジン、プリン、またはピリミジンといった含窒素複素環基を含む。金電極用には、適当な官能基は(これに限定されないが)、チオール、チオエーテル、チオフェン、ピリジン、含窒素複素環、カルボン酸、および最も負に帯電した成分を含む。
【0032】
第二のメディエイタが、リンカーまたは電気伝導度の低い物質(すなわち、脂質のような絶縁体)によって電極へ固定される場合、電極と、電極に最も近接したメディエイタとの間の距離は、20オングストロームを超えないようにされるべきであり、好ましくは15〜18オングストローム(たとえば、C6脂質)である。これよりも大きい距離は、電子が電極からメディエイタへ通過できる速度が限界となり始めると考えられる。
【0033】
メディエイタは、候補薬物、適切には生体異物が、DMEによって代謝されるかどうかを測定するための、電気化学的アッセイにおいて使用されてよい。もし候補薬物がDMEの基質として作用するなら、次に、DMEによる候補薬物の代謝回転が、電子を消費するであろう(たとえば、Cyp酵素は、反応が図2に示されたCyp触媒サイクルによって進行するなら、候補薬剤分子あたり2個の電子が消費されることが予想される)。DMEによる電子の消費速度は、電気化学反応チャンバーの電極からDMEへ電子を、それらがDMEによって消費される速度と少なくとも同程度の速度で伝達する(さもなければ、律速段階は電子の伝達となることから、電子の消費速度の正確な測定は不可能である)メディエイタの備えられた、電気化学反応チャンバーを用いて測定されることが可能である。オームの法則は、もし電気化学反応チャンバーに増大しつつある電圧が適用されれば、一定した抵抗があるなら、一定の直線的な電流の上昇が起こるであろうと予測する。しかしながら、もし候補薬物がDMEの基質として作用するなら、この反応によって電子が消費されることから、一定した直線的な電流の上昇からの偏移が見られるであろう。この偏移はDMEによる電子の消費速度および、したがって、DMEによる候補薬物の代謝回転の速度を計算するべく使用されることが可能である。もしこのアッセイが異なる濃度の候補薬物について行なわれるなら、VmaxおよびKmが計算されることが可能である。
【0034】
好適なアッセイは以下の段階:i)電極、DME分子の溶液、電気化学的メディエイタ、および候補薬物を含む電気化学反応チャンバーを準備すること;ii)電気化学反応チャンバーへ変動する電圧を印加すること;iii)電気化学反応チャンバーを通る電流を測定すること;およびiv)測定された電流から、候補薬物がDMEによって代謝されるかどうかを測定すること、を含む。
【0035】
電極は、任意の適当な電気伝導性金属、好ましくは黒鉛または金属、最も好ましくは金でよい。好ましくは一以上の参照電極も含まれる。
【0036】
本発明により、本発明による使用のための、電極および電気化学反応チャンバーが提供される。
【0037】
特に、本発明により、電極から溶液中の哺乳類の酸化的DMEの分子へ電子を伝達することのできる電気化学的メディエイタを含む電極であって、メディエイタは任意にリンカーにより電極へ固定されており、メディエイタおよび/またはリンカーが電極上に保護層を形成し、それによりDME分子と電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性が低減または防止する、電極が提供される。
【0038】
また本発明により、電極から溶液中の哺乳類の酸化的DMEの分子へ電子を伝達することのできる電気化学的メディエイタを含む電極であって、電極は、それを通してDME分子が拡散することはできない物質によりコートされており、メディエイタは該物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それによりメディエイタを電極へ固定するようにする電極も提供される。
【0039】
さらに本発明により、少なくとも二つの電極、電気化学的メディエイタ、および溶液中のDME分子を含んでおり、前記メディエイタが溶液中にある、電気化学反応チャンバーが提供される。
【0040】
メディエイタは、溶液中の第一のメディエイタ、および任意にリンカーにより一方または双方の電極上に固定された第二のメディエイタを含んでもよい。第二のメディエイタおよび/またはリンカーは、電極または複数の電極上に保護層を形成し、それによりDME分子と電極または複数の電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止するようにしてもよい。別法として、電極または複数の電極は、それを通してDME分子が拡散することはできない物質によりコートされることがあり、第二のメディエイタは該物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより第二のメディエイタを電極へ固定するようにしてもよい。
【0041】
また本発明によれば、少なくとも二つの電極、電気化学的メディエイタ、および溶液中のDME分子を含む電気化学反応チャンバーであって、前記メディエイタは溶液中にあり、かつ一方または双方の電極が、それを通してメディエイタの分子は拡散することができるがDME分子は拡散できない物質で、コートされているチャンバーも提供される。
【0042】
本発明によれば、少なくとも二つの電極、電気化学的メディエイタ、および溶液中のDME分子を含む電気化学反応チャンバーであって、該メディエイタは一つまたは双方の電極へ固定されて保護層を形成し、それによりDME分子と電極または複数の電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止するようにするチャンバーも提供される。
【0043】
本発明はまた、本発明の複数の電気化学反応チャンバーを含む装置であって、各電気化学反応チャンバーが異なるDME分子を含む装置も提供される。かかる装置は、それぞれ異なるDMEによる候補薬物のプロセッシングの程度を測定するべく使用され、どのDMEが候補薬物の代謝の第一の要因であるかを同定するようにしてもよい。
【0044】
前記電気化学反応チャンバーまたは各々の電気化学反応チャンバーは、好ましくはマイクロ電気化学反応チャンバーである。
【0045】
本発明のさらなる観点によれば、電極から溶液中の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ電子を伝達するための電気化学的メディエイタの使用であって、該メディエイタが電極へ固定されて保護層を形成し、それにより電極との直接的な接触によるDME分子の変性が低減または防止する、使用が提供される。
【0046】
本発明による使用のためのメディエイタまたは複数のメディエイタは、DMEの基質または阻害剤として作用するべきではなく、さもなければDMEによる候補薬物の代謝回転速度の正確な測定が可能ではないことが認識されるであろう。
【0047】
メディエイタは、酵素触媒反応を駆動するための適当なレドックス電位をもたねばならない。メディエイタのレドックス電位および、メディエイタへ電子を供給する電気化学反応チャンバーの電極の動作電圧の重要性は、以下に説明される。好ましくは、電気化学反応チャンバー内へ電子を供給する電極の使用電圧は、DMEのレドックス電位よりも電気陰性度が高く、メディエイタのレドックス電位は、電極の動作電圧よりも電気陰性度が低いが、DMEのレドックス電位よりも電気陰性度が高い。
【0048】
酸化-還元(レドックス)反応は、一方の化学種が電子を失い、他方がそれを得るものである。一つの化学種が電子を得るとき、それは還元されている。一つの化学種が電子を失うとき、それは酸化されている。すべてのレドックス反応において、還元および酸化は一緒に起こり、一方が他方なしに起こることはない。電子は一方から他方へ流れ、正味の電荷の増加または低下はない。
【0049】
電気化学的セルにより産生される電気力は、セル電圧により測定され、E.Cell電圧はセル内で起こるレドックス反応および反応物の濃度に依存するが、セルを通過する電子数には依存しない。
【0050】
本発明者らは、レドックス反応を二つの部分に分割することが可能であることから、反応の酸化および還元部分の双方についての標準電圧、Eox0およびEred0を定義することも可能である。本発明者らは、任意に水素還元半反応
【化2】
を、Ered0=0を有するべく選択し、すべての他の半反応の電圧をそれに関連して測定してもよい。レドックス電位は、常にそのような参照反応を基準として与えられる。前文に示した水素「電極」に加えて、銀/塩化銀参照電極もまた一般に使用されており、標準的な電極システムを参照して、半反応の標準的な還元電圧の値を用いて公表された大きな表がある。酸化半反応は、単純に逆に流れる反応であり、ハーフセル酸化電圧は還元電圧の負数である。この意味において参照電極は、レドックスの差異の定量化を可能にするための、「ベースライン」レドックス電位を定義するべく使用されることに注目されたい。そのレドックス電位が、たとえば100mVまで異なる化合物は、実験用電気化学的セルにおいてどのような材料が参照電極に使用されているかに拘らず、同じ差異を示すであろう。
【0051】
セルの標準電圧、E0は、酸化および還元半反応の標準電圧の和である。E0はすべての反応物が25℃、かつ1M濃度、または1気圧における場合に測定される。「0」の上付き文字の使用は、値が標準条件下に測定されたことを示している。アポストロフィの付いた、E0′は、値が、調べられるシステムにとって標準状態の下に測定されることを示す。生物学的系については、このことはpH、イオン濃度、および温度という適切な生理学的条件においてであろう。レドックス反応が自発性であるかどうかを測定するためには、反応の電圧を計算しなければならない。もし電圧が正であれば、反応は自発性であり、もし電圧が負であれば、反応は自発性ではない。
【0052】
一般的な反応
【化3】
については、平衡定数の数式は、
【数1】
[式中、Kは反応の平衡定数であり、[X]は化学種Xの濃度を示す]の形式を有する。反応商Qは、
【数2】
として表される。
【0053】
反応の反応商の数式は、その反応の平衡定数の数式と同じ等式を有するが、反応商は平衡濃度ではなく、太字の使用によって示された、現在の濃度を用いて計算される。平衡においては、Q=Kである。Qの一つの使用は、現在の圧力および濃度を用いてQを計算すること、およびそれを反応のKと比較することにより、反応がどちらの方向に進むかを決定することである。もしQ<Kであれば、反応は右に動き、もしQ>Kであれば、反応は左に動くであろう。
【0054】
セル電圧E0は、セル内の反応が自発性であるか否かを決定することから、ギブスの自由エネルギーにおける変化、ΔGに明らかに関連づけられるはずである。その関係は
【数3】
[式中、nは平衡レドックス反応の間に交換される電子の数であり、Fはファラデー定数、9.648x104C/molである]である。標準的な濃度において、25℃で、この等式は
【数4】
のように書かれることが可能である。
【0055】
レドックス反応は、他のすべてのものと同様、平衡に達する。本発明者らはE0とΔG0との間に一つの関係を、ならびにΔG0とKとの間にも一つの関係を有していることから、セル電圧と平衡定数との間に一つの関係を導き出すことが可能である。本発明らは、
【数5】
を有することから、二つの等式を一つに組合せることが可能である:
【数6】
【0056】
標準状態の下では、RT/Fは0.0257Vの値を有しており、従って上記の等式を単純化することができる
【数7】
【0057】
上記の等式を用いて、本発明者らはセル電圧の値を平衡定数から導き出すことが可能であり、逆の場合も同様である。
【0058】
本発明者らは、非平衡状態におけるΔGとEの間の関係を結びつけ、この二つの間の関係を、平衡にあるKおよびEを関係づけることができる方法とほぼ同じ方法で得ることが可能である。本発明らは、関係式
【数8】
を有する。
【0059】
三つの関係の組み合せは、ネルンストの等式
【数9】
を与える。
【0060】
この等式は本発明者らに、反応物および産物のあらゆる濃度における、およびあらゆる温度におけるセル電圧を計算することを可能にする。本発明者らは、前と同様に定数を組合せることにより、等式をわずかに単純化することが可能である
【数10】
【0061】
この発明においては、メディエイタは電極から電子を受取り、それゆえ還元される。このことがどの程度まで起こるかは、上記の等式を用いて計算されることが可能であり、電極電圧とレドックス電位との間の差異が、電気化学反応チャンバー内の酸化および還元されたメディエイタの相対比を決定することが明らかとなるはずである。したがって、メディエイタのレドックス電位および電極の動作電圧は、化学反応を必要な方向に駆動する上で極めて重要なものである。同様に、メディエイタは次にDME分子へ電子を渡し、それゆえ酸化される。重ねて、この二つの分子のレドックス電位の間の差異が、方向および、どの程度まで化学反応が起こるかの決定に重要である。
【0062】
典型的なCypは、-450mV(Ag/AgCl参照電極に対比して)のレドックス電位を有しており、それゆえこの値が、好適なメディエイタのための好ましいレドックス電位を決定するべく使用されてよい。標準的なCyp触媒機構によれば、レドックス電位は基質結合に際してさらにおよそ100mVまで低下される。各DMEは特徴的なレドックス電位を有するが、好ましいメディエイタは、Ag/AgCl電極に対比して+/-750mVの範囲内に収まる電位を有する。
【0063】
メディエイタは,二つの電気化学反応:
【化4】
に関係する。
【0064】
これらの反応は双方とも、左から右の方向へ、DMEによって触媒される反応の速度よりも速い速度で動くはずであり、
【化5】
[式中、Rは薬物を表す]のように要約される。
【0065】
記述されてきたように、電気化学反応の方向はギブスの自由エネルギーの変化によって測定され、それは以下の等式
【数11】
[式中、ΔHはエンタルピーにおける変化であり、ΔSはエントロピーにおける変化であり、Tは反応温度である]により、化学的なエンタルピーおよびエントロピーへ関係づけられる。
【0066】
ΔHは、主として、二つの相互作用している分子の間ばかりでなく、各々の相互作用している分子と溶媒との間での、化学的(共有)結合、静電的相互作用、水素結合、およびファン・デル・ワールス相互作用のような相互作用により決定される。この成分に大きな衝撃を与えることとなる官能基は、それゆえ先にリストされたタイプの強力な相互作用を生じるものであろう。これらは、ヒドロキシル、アミン、アミド、カルボン酸、芳香族系、複素環、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテルといった、水素結合の供与体および受容体、加えてハロ-、ニトロ-、ホスホ-、および硫酸基、あるいはこられの基のチオール同等物を含む(がこれに制限されない)。好ましくは、メディエイタはこれらの基の少なくとも二つまたは三つを含む。
【0067】
ΔSは主として、各分子がそれに沿って動くかまたは回転する軸の全数、回転可能な結合の数、鎖様の基における分岐の程度、および系における原子の総数といった、系における自由度によって決められる。再度、この成分は二つの相互作用している分子の間ばかりでなく、各々の相互作用している分子と溶媒との間においても考慮される必要がある。この成分に対して大きい衝撃を与えることとなる官能基は、それゆえ先にリストされた特徴に寄与するものであろう。前と同様、これらはアミン、アミド、カルボン酸、芳香族系、環状基、特に複素環、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、加えてハロ-、ニトロ-、ホスホ-、および硫酸基を含む(がこれに制限されない)。
【0068】
上記の相互作用の多くは、ΔGの「疎水性相互作用」成分に寄与しており、それは芳香系、水素結合受容体および/または供与体、および荷電基といった官能基によって特に影響されうる。
【0069】
候補薬物がDMEによって代謝される場合、メディエイタは電極からDMEへ、DMEによる電子の消費速度と少なくとも同様の、好ましくは2倍速い速度で、電子を伝達させることができなければならない。もし候補薬物の代謝が電子の伝達により制限されるなら、DMEへの電子伝達はそれゆえ律速段階となることから、DMEによる候補薬物の代謝回転速度の正確な測定は可能ではない。
【0070】
典型的には、DME分子は1秒当たり約10〜100基質分子を代謝回転することができる。Cyp触媒機構によれば、代謝回転される基質の各分子につき2個の電子が消費される。したがって、メディエイタは電極からDMEへ、1秒当たり少なくとも20電子、さらに好ましくは1秒当たり少なくとも40電子、最も好ましくは1秒当たり少なくとも200電子の速度で電子を伝達させることができなければならない。
【0071】
いくつかの特徴が、DME分子へ電子伝達の全体速度に影響を及ぼす。メディエイタが溶液中にある本発明の態様では、溶液を通したメディエイタの拡散速度は、溶液を通したDMEの拡散速度よりも速くされるべきであることが認識されるであろう。同等に、またはさらに重要である他の特徴は、メディエイタおよびDME分子が溶液中で衝突する速度(主としてそれらの拡散速度および濃度によって決まる)、適当なレドックス状態にあるメディエイタ分子の割合(主として電極の動作電圧によって決まる)、結果としてメディエイタからDME分子への電子の伝達を生じる衝突の割合(主としてそれらの相対的なレドックス電位および結合時のΔGによって決まる)を含む。
【0072】
多くの種類の有機分子は、本発明による使用に適したメディエイタである。これらは、メタロセン、フラビン、キノン、およびNADHか、またはそれらのレドックス活性誘導体を含む(がこれに制限されない)。
【0073】
好ましいメディエイタは、メタロセン、特にフェロセンである。コバルトメタロセンおよびバナジウムメタロセンもまた好ましい。メタロセンは稀な構造を有しており、負に帯電したシクロペンタンジエンイオン:
【化6】
のような二つの芳香環の間に、遷移金属イオンがサンドイッチ状にはさまれている。
【0074】
二つのシクロペンタジエニル環は、Fe2+へ配位結合してフェエロセンを形成することが可能であり、それは酸化または還元された状態のいずれかで存在してよく、それにより、特徴である鉄を、DMEへム基の活性部位中に反映させる。
【化7】
【0075】
フェロセンは特に、DME用の電荷の効率的なメディエイタとなるべく好適なレドックス電位を有する。それらは、酵素への結合特性を最適化するべく使用されることが可能な置換基を保持してよく、加えてそれらは、電極の表面へそれらをしっかりと結合させるための適当な化学基で官能基化されてよく、それにより保護単分子層を形成する。
【0076】
フェロセン骨格上には、分子のレドックス電位および、形、サイズ、疎水性、電荷、可溶性などといった他の物理化学的性質を調整するための、化学基の付加により官能基化されてよい、いくつかの位置がある。これらの位置は、以下のマルクーシュ構造において、ラベルR1〜R10によって示されている。
【化8】
【0077】
フェロセン自体においては、10個の置換位置すべてが単一の水素原子で占められている。置換位置は独立である必要はない。たとえば、R1およびR2は環構造によりつなぎ合わされてもよい。Rの位置はそれゆえ、単にフェロセンコア周囲の化学を変えることが可能な場所の指標である。
【0078】
図6は、多様な一置換フェロセン誘導体(すなわち、1つのR基が水素ではない)と、Ag/AgCl参照電極を基準とするそれらのレドックス電位とを示している。電子は、平衡における荷電化学種の相対濃度を決定するレドックス電位の差異によって、より電気的陰性の分子から、より電気的陽性のものへ転移する。しかしながら、不都合な静電相互作用は分子が物理的に相互作用するのを妨げることがあり、したがって電子伝達の効率を低減することがあることから、分子は電気的陰性(または電気的陽性)でありすぎてはならない。それゆえ、メディエイタ分子のレドックス電位を最適化して、自身が固有の異なるレドックス電位を有するであろう、各種のDMEのタイプにそれらを適合させることが必要である。たとえば、生理的条件下での電子伝達タンパク質、チトクロトームCのレドックス電位は、約+260mVであり、一方典型的なCypのレドックス電位は約-450mVである。
【0079】
分子のレドックス電位を調整することに加えて、もし潜在的なR基の少なくとも一つが電極への結合に好適な官能基を保持してれば、メディエイタ分子は電極の表面に保護単分子層を形成することができるであろう。たとえば、金属金がチオールのような硫黄含有基に対して特に強い親和性を有することは周知である。もしR基のうちの一つがチオールを保持していれば、その結果、強い金結合能をこの分子に与えるはずである。もしこの結合基が、金属結合部位からサンドイッチ構造の中心部の配位結合された遷移金属イオンへの、電子の素早い伝達を支持することができるとすれば(たとえば、非局在化された電子システムを含むことによって)、単分子層はさらに、電子を液相へ与える能力をもつはずである。メディエイタを金電極へ結合するためのチオール基に対しては、多くの代替物があり、電極材料としての金に対し、多くの代替物がある。
【0080】
好ましいフェロセンは,以下の式:
【化9】
[式中、R1-10は独立して任意の以下のもの:水素、およびヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ、ニトロ、ホスホ、硫酸基、であり、R1-10がすべて水素であるものを除く]の化合物である。
【0081】
特に好ましいフェロセンは、以下の式:
【化10】
[式中、R1は任意の以下のもの:ヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基か、またはフェロセンであって;かつR2-10は水素である]の化合物である。
【0082】
他の好ましいフェロセンについては、R3-10は水素であり、かつR1およびR2は独立して、R1について前文に指定された任意の基である。
【0083】
実例として、チオメチルフェロセン(R1=CH2SH、かつR2〜R10=Hをもつ)は、金表面に強力な共有結合を形成することが予測される。分子表面における静電電位の予測は、この分子もまた金属から電子を抜取り、かつそれらをその溶媒接触可能面へ差出すことができることを示唆している。したがってチオメチルフェロセンは、DMEのための電子伝達メディエイタとして作用するために、それを抜きん出て好適にすることができるいくつかの性質を有することが予測される。
【0084】
図7は、金原子(球)の小クラスターへ、チオール基を介して結合されたチオメチルフェロセン(スティックとして表す)の分子モデルを示す。この図の右側は、静電電位に従って陰影づけされた、予想される溶媒接触可能表面であって、より暗い陰影は最も電気陰性であり、より明るい陰影は最少のものである。チオメチルフェロセン成分は、バルク金属から電子を抜取り、それらを溶媒接触可能表面へ差出し、それにより図4および5に表されたような球の単分子層を提供することが予測される。
【0085】
チオメチルフェロセンは、DME電気化学のためのメディエイタとして好適であってよい分子のタイプのほんの一例である。実際には、各DMEは、レドックスと物理化学的特性との固有のセットをもつメディエイタを必要とするであろうし、各タイプの電極は、保護相が形成されることを可能にするべく、異なる結合基を必要としてよい。
【0086】
メディエイタ用にチオール含有基を使用することは、DMEがフラビンモノオキシゲナーゼであるか、またはチトクロトームP450以外の酸化的DMEである場合に好ましい。
【0087】
他の好ましいメディエイタは、フラビンかまたは、それらのレドックス活性誘導体である。好ましいフラビンを主成分とするメディエイタの一般的な構造は以下に示される:
【化11】
[式中、R1、R2、およびR3は、水素、-CHO、-COCH3、-COCH2CH3、-COC3H6COOH、-COCH2CH2COOH、-CNOHCH3、-COOH、-CH2OH、-CHOHCH3、-OH、アミド、アミン、カルボン酸、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、または、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基であり;
R4およびR5は、酸素、ヒドロキシル、ヌクレオチド、ヌクレオシド、チオール、チオエーテル、チオフェン、ピリジン、含窒素複素環、カルボン酸、または負に帯電した成分であり;かつ
Aはスペーサーであり、好適には、誘導体化されたかまたは誘導体化されていないアルカン、アルケン、アルキン、エーテル、エステル、アミド、芳香族基、または複素環である。実例は、天然分子であるフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)およびフラビンモノヌクレオチド(FMN)に見られるようなリビチル糖である]。
【0088】
好ましいフラビンは、FADおよびFMN、またはそれらのレドックス活性誘導体である。
【0089】
当業者には、本発明による使用のための候補メディエイタが、DMEおよびそのDMEの既知の基質(それについては、特定の基質およびDME濃度における反応速度、および/またはKmまたはVmax値が既知である)を用いて、電気化学的アッセイにおいてアッセイされることが可能であることが認識されよう。もし候補メディエイタが、電極からDMEへ、正確な反応速度および/またはKmまたはVmax値の計算を可能にする速度で電子を伝達するなら(これは、計算された値が、既知の値と一致するかどうかによって判断される)、候補メディエイタは本発明によるメディエイタとして使用されることが可能である。
【0090】
本発明によれば、本発明による使用のための、電気化学的メディエイタを同定するためのアッセイであって:
i)電極、DME分子の溶液、DME分子の基質、および候補電気化学的メディエイタを含む、電気化学反応チャンバーを準備すること;
ii)前記電気化学反応チャンバーへ変化する電圧を印加すること;
iii)電気化学反応チャンバーを通る電流を測定すること;および
iV)測定された電流から、基質とDMEとの反応の速度を測定すること;および
v)測定された反応速度を、対応する条件下での、基質とDMEとの既知の反応速度と比較すること、
を含むアッセイもまた提供される。
【0091】
もし測定された反応速度が既知の反応速度と一致すれば、候補メディエイタは本発明による使用のためのメディエイタとして同定される。反応の速度は、異なる濃度の基質について測定されることが可能であり、Kmおよび/またはVmaxが計算され、既知の値と比較されることが可能となる。再度、もし計算されたKmまたはVmax値が既知の値と一致すれば、候補メディエイタは本発明による使用のためのメディエイタとして同定される。
【0092】
本発明の態様によっては、共有結合により電極へ固定されているメディエイタは除外されることがある。
【0093】
本発明の態様によっては、電極の表面を薄層の形状でコートしている、微孔性の電解質膜(機械的に、かつ安定な高いイオン伝導性をもつポリマーゲル)であるメディエイタは、除外されることがある。
【0094】
本発明の態様によっては、電極の表面に固定された脂質膜であるメディエイタは、除外されることがある。
【0095】
本発明のアッセイの実行における使用に適した多くの可能な実験アプローチのうちの二つが、次に記述される。反応は電気化学反応チャンバーにおいて行なわれる。DMEおよび候補薬物は、好ましくは、標準的な生理的条件のものに厳密に適合するpH、温度、およびイオン濃度において、水溶液中に(メディエイタがもし溶液中にあればそれと一緒に)溶解される。電気化学反応チャンバーに増加していく電圧が適用され、電流が測定される。もし抵抗が一定であればオームの法則から予測される電流における、一定の直線的な上昇からの電流の偏差が、異なる濃度の候補薬物について反応速度を計算するべく使用される。異なる反応速度は、次にDMEによる候補薬物の代謝回転の最大速度(Vmax)、およびVmaxの半分を与える候補薬物の濃度(Km)を計算するべく用いられる。
【0096】
電気化学反応チャンバーは、任意の適当なサイズでよい。数ミリリットルの体積のベンチスケールの容器が一般的であるが、本発明者らの好ましい反応チャンバーは、数十または数百ナノリットルのマイクロフルイディクス(マイクロ流体)スケールの装置へ取込まれるであろう。電極は任意の適当な金属でよいが、本発明者らの好みは金であろう。
【0097】
種々の成分の典型的な濃度は、1〜100mMの範囲に入ることが見込まれるが、さらに希薄な条件もまた好ましいであろう。
【0098】
(リニアスイープボルタンメトリ(LSV))
リニアスイープボルタンメトリにおいては、電極電位は、図8に示されたように下限から上限までスキャンされる。電圧スキャン速度(ν)は、線の勾配から計算される。明らかに、範囲をスイープするためにかかる時間を変えることにより、スキャン速度は変更される。
【0099】
記録されたリニアスイープボルタモグラムの特徴は、多数の因子、例えば:
*電子伝達反応の速度
*電気活性分子種の化学的反応性
*電圧スキャン速度
に依存する。
【0100】
LSV測定においては、電流応答は、ポテンシャル・ステップ測定法とは異なり、時間よりもむしろ電圧の関数としてプロットされる。たとえば、もしFe3+/Fe2+システム
【化12】
を考えるなら、図9に示されたボルタモグラムは、電圧スイープから結果として生じるFe3+のみを含有する電解質溶液を用いた、単一の電圧スキャンについて見られるであろう。
【0101】
スキャンは、電流の流れでない電流/電圧プロットの左手側から始まる。電圧が右(より還元的な値へ)に向かってさらにスイープされるにつれ、電流は流れ始め、遂には降下に先立ちピークに達する。この挙動を合理的に扱うためには、本発明者らは電極表面において確立された平衡に対する電圧の影響を考慮する必要がある。Fe3+からFe2+への電気化学的還元を考える場合、電子伝達の速度は電圧スイープ速度に比べてより速い。それゆえ、電極表面では、熱力学によって予測されるものと同一の平衡が確立される。ネルンストの等式:
【数12】
は、濃度と電圧(電位差)の間の関係を予測しており、式中、Eは印加された電位差であり、E0は標準電極電位である。それゆえ、電圧がV1からV2までスイープされるにつれ、平衡位置は、電極表面における反応物のV1の変換なしから、V2の完全変換までシフトする。
【0102】
ボルタモグラムの正確な形状は、電圧およびマス・トランスポート効果を考慮することにより、合理的に扱われることが可能である。電圧は、最初にV1からスイープされるとき、表面における平衡は変化し始め、電流が流れ始める:
【化13】
【0103】
電流は、電圧がその最初の値からさらにスイープされるにつれ、平衡位置がさらに右手側へシフトして上昇し、したがってより多くの反応物を変換する。ある点においては、拡散層が電極上に充分成長して、電極への反応物の流束が、ネルンストの等式によって必要とされるものを満たすための充分な速さをなくすようにすることから、ピークが発生する。この状態において電流は、ポテンシャル・ステップ測定においてまさにそうしたように降下し始める。
【0104】
上記のボルタモグラムは、単一のスキャン速度において記録された。もしスキャン速度が変えられると、電流応答も変化する。図10は、Fe3+のみを含有する電解質溶液について、異なるスキャン速度で記録された、一連のリニアスイープボルタモグラムを示す。各曲線は、同じ形状を有するが、全電流はスキャン速度の増加とともに増加することは明らかである。これは、再度、拡散層のサイズおよびスキャンを記録するのに要した時間を考慮することによって合理的に扱われることが可能である。明らかに、リニアスイープボルタモグラムは、スキャン速度が減少するにつれて記録するのにより長くかかるようになるであろう。それゆえ、電極表面の上の拡散層のサイズは、用いた電圧スキャン速度に依存して異なるであろう。遅い電圧スキャンにおいて拡散層は、速いスキャンに比べて電極からずっと遠くまで成長するであろう。結果として、電極表面への流束は、遅いスキャン速度では、速いスキャン速度におけるそれよりもかなり小さい。電流は電極へ向かう流束に比例することから、電流の大きさは遅いスキャン速度ではより低く、高速度ではより高くなるであろう。このことは、LSV(およびサイクリックボルタモグラム)を調べる際に重要なポイントを強調しており、グラフ上には何ら時間軸が存在しないにもかかわらず、電圧スキャン速度(およびそれゆえボルタモグラムを記録するためにかかる時間)が、強く挙動が見られるようにしている。図10から示される最後のポイントは、最大電流の位置であり、ピークが同じ電圧において起こることは明らかであり、このことは速い電子伝達カイネティクスをもつ電極反応の特徴である。これらの速いプロセスは、しばしば可逆的な電子伝達反応と呼ばれる。
【0105】
このことは、電子伝達プロセスが「遅い」(電圧スキャン速度に比較して)場合、何が起こるかについて疑問を残す。このような場合、反応は擬可逆または不可逆的電子伝達反応と呼ばれる。図11は、還元速度定数(Kred)の異なる値について、単一の電圧スイープ速度で記録された、一連のボルタモグラムを示している。
【0106】
この状況においては、印加された電圧は、ネルンストの等式によって予想された電極表面における濃度の発生を生じる結果とはならないであろう。このことは、反応のカイネティクスが「遅く」、したがって平衡が迅速に(電圧スキャン速度に比較して)確立されないことから起こる。この状況においては、記録されたボルタモグラムの全体の形状は、図11に示されたものと同様であるが、可逆的反応とは異なり、最大電流は還元速度定数(および電圧スキャン速度にも)に依存してシフトする。このことが起こるのは、印加された電圧に対して電流が反応するために、可逆的な場合よりもさらに時間がかかるためである。
【0107】
(サイクリックボルタンメトリ)
サイクリックボルタンメトリ(CV)は、LSVに非常に類似している。この場合、電圧は二つの値(図12参照)の間で、固定された速度でスイープされているが、電圧がV2に達したとき、スキャンは逆転され、電圧はV1へスイープバックされる。
【0108】
可逆的単一電極伝達反応について記録された典型的なサイクリックボルタモグラムは、図13に示されている。再度、溶液は単一の電気化学的反応物のみを含有している。前向きのスイープは、LSV実験について見られたものと同等の応答を生じる。スキャンが逆転されたとき、本発明者らは単純に平衡位置を通って後退し、電解産物(Fe2+)を元通り反応物(Fe3+)へ徐々に変換する。電流の流れは次に、溶液中の化学種から電極へ戻り、それゆえ前向きの段階に対して反対の意味において起こるが、その他の点では同じ方法で説明されることが可能である。可逆的な電気化学反応については、記録されたCVは、いくつかの充分に定義された特徴を有する:
【0109】
I)電流ピーク間の電圧分離は
【数13】
であり、
II)ピーク電圧の位置は、電圧スキャン速度の関数として変化せず、
III)ピーク電流の比は1に等しく
【数14】
IV)ピーク電流はスキャン速度の平方根に比例する
【数15】
【0110】
可逆的な電子伝達についての、電流に対する電圧スキャン速度の影響は、図14において見ることができる。LSVについてと同様に、スキャン速度の影響は、可逆的な電子伝達反応については、拡散層の厚さという観点で説明される。
【0111】
電子伝達が可逆的ではない場合のCVは、その可逆的な対応相手とはかなり異なる挙動を示す。図15は、還元および酸化速度定数の異なる値についての、擬可逆的な反応のボルタモグラムを示す。第一の曲線は、酸化および還元の双方の速度定数がまだ速く、しかしながら、速度定数が低下するにつれて曲線はより還元電位へシフトする場合を示す。再度、このことは、表面における平衡がもはやそれほど速く確立されない、という観点で合理的に扱われてよい。これらの場合、ピーク分離はもはや固定されず、スキャン速度の関数として変化する。同様に、ピーク電流はもはやスキャン速度の平方根の関数として変化しない。ピーク位置の変動をスキャン速度の関数として分析することにより、電子伝達速度定数の推定値を得ることが可能である。
【0112】
次に本発明の態様が、単なる例として添付の図面を参照して記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0113】
メディエイタ分子が溶液中にある本発明の一つの態様が、図3に図式的に示されている。メディエイタ分子は、一以上の電子を運びながら、電極表面とバルク溶液中のタンパク質との間を往復する。タンパク質は大きな分子であり、それゆえ電極表面へ、および電極表面から,ゆっくりと拡散するのみである(「マス・トランスポート問題」)。タンパク質よりも物理的にずっと小さいことから、メディエイタははるかに速く拡散することができ、それゆえ媒介される電子伝達の速度は,タンパク質自体によって達成され得るものよりもはるかに大きい。
【0114】
メディエイタ分子が電極に固定されて電極表面上に保護層を形成する、本発明の別の態様は、図4に図式的に示されている。電極の表面との直接的な接触によって引き起されるDME分子の変性は、これによって低減される。メディエイタ分子は、共有結合または非共有結合により電極へ固定されてよい。
【0115】
本発明の特に好ましい態様は、図5に図式的に示されている。この態様によれば、メディエイタ分子は二つの機能を果たすことができる:それらは電極からバルク溶液中のDME分子へ、電子を運ぶための効率的な手段を提供し、かつ、保護的な、導電性のコーティング層を形成することにより、電極表面での変性からタンパク質分子を保護する。
【0116】
メディエイタ分子は、特定のDMEへ効率的な電子の伝達を提供するべく最適化されたレドックスおよび物理化学的性質、ならびにまた、電極の表面上に保護単分子層を形成することを可能にする結合部位、をもつべくデザインされている。結合部位が電極と非共有結合を形成する場合には、電極へ結合されたメディエイタ分子は、溶液中のメディエイタ分子と同様の化学構造を有するであろう。結合部位が電極と共有結合を形成する場合には、電極へ結合されたメディエイタは、メディエイタ分子の電極への共有結合の産物であろう。溶液中のメディエイタ分子は、電極と反応して共有結合を形成することが可能であろう。
【0117】
以下の実施例は:
i)本発明らは、電子伝達メディエイタ分子を、電気化学的技術を用いて検出することができること
ii)本発明らは、メディエイタの還元および酸化を正確に定量化できること
iii)本発明者らは、チトクロトームP450に触媒される反応の電気化学的駆動によって誘導される、メディエイタの電気化学的応答における差異を検出することが可能であること、
iv)反応が実際に,電気化学的メディエイタによって駆動されていること、
を証明する。
【0118】
以下の実施例においては、電気化学的反応は、100mMリン酸緩衝食塩水中で,pH7.2において行なわれた。他に述べない限り、タンパク質は5nM濃度で、メディエイタは100μMで存在していた。実施例1に記述された結果は、ジメチルアミノメチルフェエロセンによって仲介されるチトクロトームcに関するものであり、それゆえ本発明の範囲内にないが、実例メディエイタの使用を例示している。実施例2および3において提示された結果は、フラビンを主成分とする化合物、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)により仲介されるチトクロトームP450 3A4に関するものである。
【0119】
すべての実験は、体積100μlの反応チャンバーとともに、表面積0.1mm2の、化学的に未処理の金微小電極を用いて行なわれた。用いた電気化学的測定技術は、関係する電圧範囲を、1秒あたり約100mVの速度で横切ってスキャンされた作用電極における電位を用いた、サイクリックボルタンメトリであった。典型的なスキャンは、それゆえカバーされる実際の電圧範囲に依存して、完了までに約10秒を要した。
【実施例1】
【0120】
(実例メディエイタの電気化学的応答)
実例電気化学的メディエイタ(ジメチルアミノメチルフェロセン)の濃度増加についての電気化学的応答は、図16に示されている。データは、リン酸緩衝食塩水中、pH7.2において、未処理の金電極を用いて収集された。結果は、メディエイタのレドックス状態における誘導変化のため、ピークの強度および位置に明らかな変化があることを示している。図17は、メディエイタ濃度に対する最大ピーク高のプロットを示す。プロットは、原点を通る明らかな直線的応答を示している。このことは、測定された電流が、電極によって酸化(または還元)されるメディエイタの量に直接的に比例することを証明している。したがって、メディエイタの量を増加することは、増加する電気化学的シグナルを発生させる。
【実施例2】
【0121】
(仲介されたチトクロトームP450:電気化学的に駆動される反応)
図18は、PBS緩衝液中のFADメディエイタの電気化学的応答が、チトクロトームP450(この場合には、3A4アイソザイム)の存在によって変化すること、および適当な基質(Vivid(登録商標)3A4グリーン・フルオロジェニック・サブストレート(Green Fluorogenic Substrate)、インビトロジェン社(Inbitrogen Ltd.)の追加によってさらに変化することを示している。
【0122】
メディエイタのみでは、フラビン含有化合物について予想されるような、二つの主要なレドックスピークをもつボルタモグラムを生じる。P450酵素の添加は、これらのピークの大きさを低減し、酵素がそれ自身メディエイタと相互作用していること、および、それゆえ電極において検出される電気化学的応答を変化させることを示している。この混合物へ適当な基質化合物を添加することは、メディエイタのレドックスピークの大きさをさらに低減し、酵素が今やメディエイタのレドックス状態を、さらに変化させていることを示している。このことは、メディエイタが酵素触媒反応を駆動しているという主張を支持する.実施例1で記述された実験における場合と同様に、ピークの大きさにおける差異は、反応速度をモニターするべく使用されることが可能である。酸化される各々の基質分子が2個の電子の伝達を必要とすることから、電流の差異は、1秒当たりに触媒される反応の数を計算するべく使用されることが可能である(1アンペアは毎秒1molの電子の伝達に等しいとして)。
【実施例3】
【0123】
(仲介されたチトクロトームP450)
図19は、低い濃度においては、電気化学的電流(反応速度を示す)が、酵素濃度にほぼ比例することを示している。これは予期された結果であり、全体の反応速度(反応チャンバー内で起こっている1秒当たりの反応)が、存在する酵素の量によって決まることを示している;律速段階は酵素反応であり、電子のデリバリーではない。より高い酵素濃度では、しかしながら、反応速度は最大値へ向かう傾向がある。付加的な酵素がいかに多く存在しても、反応がより速く進行することはできない。このことは、律速段階が今や、電子が酵素へデリバリーされ得る速度となったことを示唆しており、メディエイタが所望の方式で作用している(すなわち、反応はメディエイタによって駆動されている)という主張を支持している。このことが事実でないとすれば、さらなる酵素が添加されるにつれて、反応速度はなお上昇するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】図1は、DMEによる薬物の変換速度における、該薬物の濃度が増加された場合の変化を示している。
【図2】図2は、一般的に受入れられているCyp触媒サイクルを示している。
【図3】図3は、メディエイタ分子が溶液中にある、本発明の一つの態様を示している。
【図4】図4は、メディエイタ分子が電極へ固定されて電極の表面上に保護層を形成する、本発明の一つの態様を示している。
【図5】図5は、メディエイタ分子が溶液中にあり、電極へ固定されて電極の表面上に保護層を形成する、本発明の一つの態様を示している。
【図6】図6は、種々の一置換フェロセン誘導体および、Ag/AgCl参照電極を基準とするそれらのレドックス電位を示している。
【図7】図7は、チオール基によって金原子の小クラスターへ結合されたチオメチルフェロセン(スティックとして表された)の分子モデルを示している。
【図8】図8は、リニアスイープボルタンメトリ(LSV)において使用された電圧スキャンを示している。
【図9】図9は、LSVボルタモグラムを示している。
【図10】図10は、異なるスキャン速度において記録された、一連のリニアスイープボルタモグラムを示している。
【図11】図11は、単一の電圧スイープ速度において、異なる値の還元速度定数について記録された、一連のボルタモグラムを示している。
【図12】図12は、サイクリックボルタンメトリ(CV)において使用された電圧スキャンを示している。
【図13】図13は、可逆的な単一の電極伝達反応についての、典型的なボルタモグラムを示している。
【図14】図14は、可逆的な電子伝達についての、電流に対する電圧スキャン速度の影響を示している。
【図15】図15は、異なる値の還元および酸化速度定数についての、擬可逆反応のボルタモグラムを示している。
【図16】図16は、実施例の電気化学的メディエイタ(ジメチルアミノメチルフェロセン)の増加する濃度についての電気化学的応答を示している。
【図17】図17は、図16の最大ピーク高の、メディエイタ濃度に対するプロットを示している。
【図18】図18は、FADメディエイタの電気化学的応答を示している。
【図19】図19は、P450濃度が増加するときの、電流の変化を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極から、DME分子の還元酵素の不在下の、溶液中の哺乳類の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ、電子を伝達するための電気化学的メディエイタの使用であって、該メディエイタがDME分子とともに溶液中にあるメディエイタの使用。
【請求項2】
前記電極が未修飾の電極である、請求項1の使用。
【請求項3】
前記電極が、メディエイタの分子は拡散することができるがDME分子は拡散することができない物質でコートされている、請求項1の使用。
【請求項4】
前記メディエイタが、溶液中にDME分子とともに第一のメディエイタを含み、かつ任意にリンカーによって前記電極へ固定された第二のメディエイタを含む、請求項1の使用。
【請求項5】
前記第二のメディエイタおよび/または前記リンカーが前記電極上に保護層を形成し、それにより、DME分子と前記電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止する、請求項4の使用。
【請求項6】
前記第二のメディエイタが、非共有結合により前記電極へ固定されている、請求項4または5の使用。
【請求項7】
前記電極が、DME分子は拡散することができない物質でコートされており、前記第二のメディエイタが該物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより前記第二のメディエイタを前記電極へ固定する、請求項4の使用。
【請求項8】
前記物質がゲル、好ましくは多糖ゲルである、請求項3または7の使用。
【請求項9】
前記第一および第二のメディエイタが同じ化学構造を有している、請求項4〜8の使用。
【請求項10】
前記第二のメディエイタが共有結合により前記電極または前記リンカーへ固定されている、請求項4または5の使用。
【請求項11】
前記第一のメディエイタが、前記電極または前記リンカーと反応して前記電極または前記リンカーと共有結合を形成することができる官能基を含んでおり、前記第二のメディエイタが、前記第一のメディエイタと同じ構造をもつ化学物質の、前記電極または前記リンカーへの共有結合の産物である、請求項4、5、または10の使用。
【請求項12】
前記電極が金属電極である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記電極が金電極であり、前記固定されたメディエイタが硫黄含有基、ピリジン基、含窒素複素環基、カルボン酸、または負に帯電した成分を含んでおり、それにより前記メディエイタが前記電極へ固定されている、請求項4〜12のいずれかの使用。
【請求項14】
DMEがヒトDMEか、または酸化的薬物代謝活性を保持しているその誘導体である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
DMEがチトクロトームP450(Cyp)であるか、または酸化的薬物代謝活性を保持しているその誘導体である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記メディエイタまたは各々のメディエイタが、標準条件下で銀/塩化銀電極に対し、約-750mVから約+750mVまでのレドックス電位を有している、請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記メディエイタまたは各々のメディエイタが、1秒当たり少なくとも20電子の速度で、前記電極からDME分子へ電子を伝達することができる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記メディエイタ、あるいは前記第一および/または前記第二のメディエイタが、以下の官能基:ヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基、のいずれかを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記メディエイタ、あるいは前記第一および/または前記第二のメディエイタが、メタロセン、フラビン、キノン、またはNADHか、あるいはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記メディエイタが、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)、あるいはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項19の使用。
【請求項21】
前記メディエイタが、フェロセン、またはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項19の使用。
【請求項22】
前記フェロセンが、式(I):
【化1】
[式中、R1は、水素;CHO;COCH3;COCH2CH3;COC3H6COOH;COCH2CH2COOH;CNOHCH3;COOH;CH2OH;またはCHOHCH3であり;かつR2-10が水素である]の化合物である、請求項21の使用。
【請求項23】
前記フェロセンが、式(II):
【化2】
[式中、R1-10が独立して以下のいずれかである:ヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基]の化合物である、請求項21の使用。
【請求項24】
候補薬物がDMEによって代謝されるかどうかを測定するためのアッセイにおける、請求項1〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記アッセイが以下の段階:
i)電極、DME分子の溶液、1または複数のメディエイタ、および候補薬物を含む、電気化学反応チャンバーを準備すること;
ii)前記電気化学反応チャンバーへ変化する電圧を印加すること;
iii)前記電気化学反応チャンバーを通る電流を測定すること;および
iV)測定された電流から、候補薬物がDMEによって代謝されるかどうかを決定すること、
を含む、請求項24の使用。
【請求項26】
電極から溶液中の哺乳類の酸化的DMEの分子へ電子を伝達することのできる電気化学的メディエイタを含む電極であって、前記メディエイタは任意にリンカーにより前記電極へ固定されており、前記メディエイタおよび/または前記リンカーが前記電極上に保護層を形成し、それによりDME分子と前記電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止する電極。
【請求項27】
電極から溶液中の哺乳類の酸化的DMEの分子へ電子を伝達することのできる電気化学的メディエイタを含む電極であって、前記電極は、DME分子が拡散できない物質によりコートされており、前記メディエイタは前記物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより前記メディエイタを前記電極へ固定する電極。
【請求項28】
前記物質がゲル、好ましくは多糖ゲルである、請求項27の電極。
【請求項29】
前記電極が金属電極である、請求項26〜28のいずれかの電極。
【請求項30】
前記固定されたメディエイタが、以下の官能基:ヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基、または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基、のいずれかを含む、請求項請求項26〜29のいずれかの電極。
【請求項31】
前記固定されたメディエイタが、メタロセン、フラビン、キノン、またはNADHか、あるいはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項26〜30のいずれかの電極。
【請求項32】
前記固定されたメディエイタが、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)、あるいはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項31の電極。
【請求項33】
前記固定されたメディエイタが、フェロセン、またはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項31の使用。
【請求項34】
前記固定されたメディエイタが、共有結合により前記電極へ固定されている、請求項26の電極。
【請求項35】
前記電極が金電極であり、前記固定されたメディエイタが、共有結合によって金へ付着された硫黄含有基を含んでいる、請求項34の電極。
【請求項36】
前記固定されたメディエイタが、チオメチルフェロセンの、金への共有結合の産物である、請求項35の電極。
【請求項37】
前記電極が金電極であり、前記固定されたメディエイタがピリジン基、含窒素複素環基、カルボン酸、または負に帯電した成分を含んでおり、それにより前記メディエイタが前記電極へ固定されている、請求項26の電極。
【請求項38】
前記固定されたメディエイタが、標準条件下で銀/塩化銀電極に対し約-750mVから約+750mVまでのレドックス電位を有している、請求項26〜37のいずれかの電極。
【請求項39】
前記固定されたメディエイタが、1秒当たり少なくとも20電子の速度で、前記電極からDME分子へ電子を伝達することができる、請求項26〜38のいずれか1項に記載の電極。
【請求項40】
DMEがヒトDMEか、または酸化的薬物代謝活性を保持しているその誘導体である、請求項26〜39のいずれか1項に記載の電極。
【請求項41】
DMEがチトクロトームP450(Cyp)であるか、または酸化的薬物代謝活性を保持しているその誘導体である、請求項26〜40のいずれか1項に記載の電極。
【請求項42】
少なくとも二つの電極、電気化学的メディエイタ、および、DME分子の還元酵素の不在下の溶液中の哺乳類DME分子を含む、電気化学反応チャンバーであって、前記メディエイタがDME分子とともに溶液中にある電気化学反応チャンバー。
【請求項43】
前記メディエイタが、第一のメディエイタを溶液中に含んでおり、第二のメディエイタは任意にリンカーにより、前記電極の一方又は両方に固定されている、請求項42の反応チャンバー。
【請求項44】
前記第二のメディエイタおよび/または前記リンカーが、1または複数の前記電極の上に保護層を形成し、それによりDME分子と前記電極または複数の電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止する、請求項43の反応チャンバー。
【請求項45】
前記電極の一方又は両方が、前記メディエイタ分子は拡散することができるがDME分子は拡散することができない物質でコートされている、請求項42の反応チャンバー。
【請求項46】
1または複数の前記電極が、DME分子は拡散することのできない物質でコートされており、前記第二のメディエイタは前記物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより第二のメディエイタを前記電極へ固定する、請求項43の反応チャンバー。
【請求項47】
請求項42〜46のいずれか1項に記載の、複数の電気化学反応チャンバーを含む装置であって、各々の電気化学反応チャンバーが異なるDMEの分子を含んでいる装置。
【請求項48】
請求項1〜25のいずれかの使用のために、電気化学的メディエイタを同定するためのアッセイであって:
i)電極、DME分子の還元酵素の不在下の、哺乳類の酸化的DME分子の溶液、DME分子の基質、ならびに、溶液中のおよび/または前記電極の一方または両方へ固定された、候補電気化学的メディエイタ、を含む、電気化学反応チャンバーを準備すること;
ii)前記電気化学反応チャンバーへ変化する電圧を印加すること;
iii)前記電気化学反応チャンバーを通る電流を測定すること;および
iV)測定された電流から、前記基質とDMEとの反応の速度を決定すること;および
v)測定された反応速度を、対応する条件下での、前記基質とDMEとの既知の反応速度と比較すること、
を含むアッセイ。
【請求項49】
決定された反応速度が既知の反応速度と一致した場合、前記候補電気化学的メディエイタが、請求項1〜25のいずれかの使用に適した電気化学的メディエイタとして同定される、請求項48のアッセイ。
【請求項1】
電極から、DME分子の還元酵素の不在下の、溶液中の哺乳類の酸化的薬物代謝酵素(DME)の分子へ、電子を伝達するための電気化学的メディエイタの使用であって、該メディエイタがDME分子とともに溶液中にあるメディエイタの使用。
【請求項2】
前記電極が未修飾の電極である、請求項1の使用。
【請求項3】
前記電極が、メディエイタの分子は拡散することができるがDME分子は拡散することができない物質でコートされている、請求項1の使用。
【請求項4】
前記メディエイタが、溶液中にDME分子とともに第一のメディエイタを含み、かつ任意にリンカーによって前記電極へ固定された第二のメディエイタを含む、請求項1の使用。
【請求項5】
前記第二のメディエイタおよび/または前記リンカーが前記電極上に保護層を形成し、それにより、DME分子と前記電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止する、請求項4の使用。
【請求項6】
前記第二のメディエイタが、非共有結合により前記電極へ固定されている、請求項4または5の使用。
【請求項7】
前記電極が、DME分子は拡散することができない物質でコートされており、前記第二のメディエイタが該物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより前記第二のメディエイタを前記電極へ固定する、請求項4の使用。
【請求項8】
前記物質がゲル、好ましくは多糖ゲルである、請求項3または7の使用。
【請求項9】
前記第一および第二のメディエイタが同じ化学構造を有している、請求項4〜8の使用。
【請求項10】
前記第二のメディエイタが共有結合により前記電極または前記リンカーへ固定されている、請求項4または5の使用。
【請求項11】
前記第一のメディエイタが、前記電極または前記リンカーと反応して前記電極または前記リンカーと共有結合を形成することができる官能基を含んでおり、前記第二のメディエイタが、前記第一のメディエイタと同じ構造をもつ化学物質の、前記電極または前記リンカーへの共有結合の産物である、請求項4、5、または10の使用。
【請求項12】
前記電極が金属電極である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記電極が金電極であり、前記固定されたメディエイタが硫黄含有基、ピリジン基、含窒素複素環基、カルボン酸、または負に帯電した成分を含んでおり、それにより前記メディエイタが前記電極へ固定されている、請求項4〜12のいずれかの使用。
【請求項14】
DMEがヒトDMEか、または酸化的薬物代謝活性を保持しているその誘導体である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
DMEがチトクロトームP450(Cyp)であるか、または酸化的薬物代謝活性を保持しているその誘導体である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記メディエイタまたは各々のメディエイタが、標準条件下で銀/塩化銀電極に対し、約-750mVから約+750mVまでのレドックス電位を有している、請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記メディエイタまたは各々のメディエイタが、1秒当たり少なくとも20電子の速度で、前記電極からDME分子へ電子を伝達することができる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記メディエイタ、あるいは前記第一および/または前記第二のメディエイタが、以下の官能基:ヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基、のいずれかを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記メディエイタ、あるいは前記第一および/または前記第二のメディエイタが、メタロセン、フラビン、キノン、またはNADHか、あるいはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記メディエイタが、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)、あるいはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項19の使用。
【請求項21】
前記メディエイタが、フェロセン、またはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項19の使用。
【請求項22】
前記フェロセンが、式(I):
【化1】
[式中、R1は、水素;CHO;COCH3;COCH2CH3;COC3H6COOH;COCH2CH2COOH;CNOHCH3;COOH;CH2OH;またはCHOHCH3であり;かつR2-10が水素である]の化合物である、請求項21の使用。
【請求項23】
前記フェロセンが、式(II):
【化2】
[式中、R1-10が独立して以下のいずれかである:ヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基]の化合物である、請求項21の使用。
【請求項24】
候補薬物がDMEによって代謝されるかどうかを測定するためのアッセイにおける、請求項1〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記アッセイが以下の段階:
i)電極、DME分子の溶液、1または複数のメディエイタ、および候補薬物を含む、電気化学反応チャンバーを準備すること;
ii)前記電気化学反応チャンバーへ変化する電圧を印加すること;
iii)前記電気化学反応チャンバーを通る電流を測定すること;および
iV)測定された電流から、候補薬物がDMEによって代謝されるかどうかを決定すること、
を含む、請求項24の使用。
【請求項26】
電極から溶液中の哺乳類の酸化的DMEの分子へ電子を伝達することのできる電気化学的メディエイタを含む電極であって、前記メディエイタは任意にリンカーにより前記電極へ固定されており、前記メディエイタおよび/または前記リンカーが前記電極上に保護層を形成し、それによりDME分子と前記電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止する電極。
【請求項27】
電極から溶液中の哺乳類の酸化的DMEの分子へ電子を伝達することのできる電気化学的メディエイタを含む電極であって、前記電極は、DME分子が拡散できない物質によりコートされており、前記メディエイタは前記物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより前記メディエイタを前記電極へ固定する電極。
【請求項28】
前記物質がゲル、好ましくは多糖ゲルである、請求項27の電極。
【請求項29】
前記電極が金属電極である、請求項26〜28のいずれかの電極。
【請求項30】
前記固定されたメディエイタが、以下の官能基:ヒドロキシル基、アミド、アミン、カルボン酸基、芳香族基、環状基、チオフェンのような複素環基、または、ピリジン、プリン、またはピリミジンのような含窒素複素環基、エノール、エーテル、ケトン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ハロ-、ニトロ-、ホスホ-、または硫酸基、のいずれかを含む、請求項請求項26〜29のいずれかの電極。
【請求項31】
前記固定されたメディエイタが、メタロセン、フラビン、キノン、またはNADHか、あるいはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項26〜30のいずれかの電極。
【請求項32】
前記固定されたメディエイタが、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)、あるいはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項31の電極。
【請求項33】
前記固定されたメディエイタが、フェロセン、またはそれらのレドックス活性誘導体を含む、請求項31の使用。
【請求項34】
前記固定されたメディエイタが、共有結合により前記電極へ固定されている、請求項26の電極。
【請求項35】
前記電極が金電極であり、前記固定されたメディエイタが、共有結合によって金へ付着された硫黄含有基を含んでいる、請求項34の電極。
【請求項36】
前記固定されたメディエイタが、チオメチルフェロセンの、金への共有結合の産物である、請求項35の電極。
【請求項37】
前記電極が金電極であり、前記固定されたメディエイタがピリジン基、含窒素複素環基、カルボン酸、または負に帯電した成分を含んでおり、それにより前記メディエイタが前記電極へ固定されている、請求項26の電極。
【請求項38】
前記固定されたメディエイタが、標準条件下で銀/塩化銀電極に対し約-750mVから約+750mVまでのレドックス電位を有している、請求項26〜37のいずれかの電極。
【請求項39】
前記固定されたメディエイタが、1秒当たり少なくとも20電子の速度で、前記電極からDME分子へ電子を伝達することができる、請求項26〜38のいずれか1項に記載の電極。
【請求項40】
DMEがヒトDMEか、または酸化的薬物代謝活性を保持しているその誘導体である、請求項26〜39のいずれか1項に記載の電極。
【請求項41】
DMEがチトクロトームP450(Cyp)であるか、または酸化的薬物代謝活性を保持しているその誘導体である、請求項26〜40のいずれか1項に記載の電極。
【請求項42】
少なくとも二つの電極、電気化学的メディエイタ、および、DME分子の還元酵素の不在下の溶液中の哺乳類DME分子を含む、電気化学反応チャンバーであって、前記メディエイタがDME分子とともに溶液中にある電気化学反応チャンバー。
【請求項43】
前記メディエイタが、第一のメディエイタを溶液中に含んでおり、第二のメディエイタは任意にリンカーにより、前記電極の一方又は両方に固定されている、請求項42の反応チャンバー。
【請求項44】
前記第二のメディエイタおよび/または前記リンカーが、1または複数の前記電極の上に保護層を形成し、それによりDME分子と前記電極または複数の電極との直接的な接触によって引き起こされるDME分子の変性を低減または防止する、請求項43の反応チャンバー。
【請求項45】
前記電極の一方又は両方が、前記メディエイタ分子は拡散することができるがDME分子は拡散することができない物質でコートされている、請求項42の反応チャンバー。
【請求項46】
1または複数の前記電極が、DME分子は拡散することのできない物質でコートされており、前記第二のメディエイタは前記物質へ結合されるか、またはその中にトラップされ、それにより第二のメディエイタを前記電極へ固定する、請求項43の反応チャンバー。
【請求項47】
請求項42〜46のいずれか1項に記載の、複数の電気化学反応チャンバーを含む装置であって、各々の電気化学反応チャンバーが異なるDMEの分子を含んでいる装置。
【請求項48】
請求項1〜25のいずれかの使用のために、電気化学的メディエイタを同定するためのアッセイであって:
i)電極、DME分子の還元酵素の不在下の、哺乳類の酸化的DME分子の溶液、DME分子の基質、ならびに、溶液中のおよび/または前記電極の一方または両方へ固定された、候補電気化学的メディエイタ、を含む、電気化学反応チャンバーを準備すること;
ii)前記電気化学反応チャンバーへ変化する電圧を印加すること;
iii)前記電気化学反応チャンバーを通る電流を測定すること;および
iV)測定された電流から、前記基質とDMEとの反応の速度を決定すること;および
v)測定された反応速度を、対応する条件下での、前記基質とDMEとの既知の反応速度と比較すること、
を含むアッセイ。
【請求項49】
決定された反応速度が既知の反応速度と一致した場合、前記候補電気化学的メディエイタが、請求項1〜25のいずれかの使用に適した電気化学的メディエイタとして同定される、請求項48のアッセイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図6】
【図7】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2006−525502(P2006−525502A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506191(P2006−506191)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001806
【国際公開番号】WO2004/097035
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(505406615)イー2ブイ テクノロジーズ(ユーケー)リミティド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001806
【国際公開番号】WO2004/097035
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(505406615)イー2ブイ テクノロジーズ(ユーケー)リミティド (1)
【Fターム(参考)】
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