説明

薬物含有徐放性微粒子、その製造法、及びそれを含有する製剤

種々の薬物に関する徐放性微粒子を得ること、又少なくとも3日間以上にわたり薬物が徐放され、かつ水溶性の高い薬物においても初期バースト放出を抑制することが出来る薬物含有徐放性微粒子、その製造法、及びそれを含有する製剤を提供することにある。ヒト成長ホルモンを除く薬物、及び多孔性アパタイト誘導体からなり、かつ、ヒト成長ホルモンを除く薬物、多孔性アパタイト誘導体および水溶性2価金属化合物からなる。多孔性アパタイト誘導体の微粒子を薬物含有の水溶液中に攪拌・分散し、水溶液が該多孔性アパタイト誘導体中に浸潤したのち水溶性2価金属化合物を含む水溶液を添加し、水溶性2価金属化合物を該多孔性アパタイト誘導体に浸潤させ、その後安定剤などの添加物を加えて、凍結乾燥または真空乾燥することにより製造されることからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内で消失する多孔性アパタイト誘導体の微粒子を基剤とする薬物含有徐放性微粒子、その製造法、及びそれを含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の長期間にわたる微粒子の徐放性注射剤は、これまでポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)を基剤にしてその多くは検討されてきた(特開平11−286403、特開2000−239104、特開2002−326960参照)。又、ヒト成長ホルモン(hGH)を含有するPLGAを基剤とした徐放性マイクロカプセルが報告されている(Nature Medicine,2:795−799,1996)。又、LHRHアゴニストであるリュープロレリンを含有するPLGAを基剤とした徐放性マイクロカプセルが報告されている(Chemical Pharmaceutical Bulletin,36:1095−1103,1988)。PLGAは生体内で加水分解して消失する生体内消化性の基剤で注射剤の基剤としては好ましい性質を有している。しかし、一般的にPLGAを使用する微粒子型の徐放性製剤において内封される薬物の水溶性が高ければ、投与初期に過剰な放出(初期バースト)をすることは避けられない問題点がある。また、製造に際して、有機溶媒の使用が避けられず、タンパク性薬物においては失活の問題がある。さらに、通常使用される製造方法としての溶媒除去法を採用すると、水溶性薬物の場合、その封入量は10重量%以下となり、活性の弱い薬物では全体の投与量が大きくなり、投与しにくい。また、製剤の平均粒子径が20μm以上となり、比較的大きく、注射用針は21〜23Gと太い針が必要となる。また、ヒドロキシアパタイトを用いた薬物の徐放性粒子についてはすでにいくつかの報告はある(H.Gautier et al:Journal of Biomedical Material Research,40,606−613,1998、J.Guicheux et al:Journal of Biomedical Material Research,34,165−170,1997)。しかし、いずれも薬物とヒドロキシアパタイトとの2成分系であり、ヒドロキシアパタイトの粒子径も40〜80μmあるいは200μmと大きく、また、in vivoにおける徐放効果は不明である。さらに、アパタイト粒子に吸着した薬物(封入量)も1%以下と小さいものであった。
【発明の開示】
【0003】
徐放性基剤には、投与後、薬物の放出の終了に近い時間内に生体内から消失するいわゆる生体内分解性あるいは生体内消失性の性質を有する素材を選定しなければならない。水溶性の高い薬物の場合においても投与初期に過剰の薬物が放出する初期バースト放出も小さいものでなければならない。さらに、薬物がタンパク性である場合を考慮して、有機溶媒を極力使用しないで製造ができる徐放性基剤と製造方法をみいださなければならない。薬物含有微粒子中の薬物封入量は10重量%以上とし、23G以下の細い注射針でも容易に通過でき、薬物徐放期間は少なくとも3日間以上にわたる微粒子製剤を調製するものでなければならない。
【0004】
本発明者らは、これらの問題を解決するために、多孔性アパタイト誘導体の微粒子を利用することによって、種々の薬物に関する徐放性微粒子が得られることをみいだした。さらに、水溶性2価金属化合物及びヒト成長ホルモンを除く薬物を併用することによって少なくとも3日間以上にわたり薬物が徐放されること、ならびに水溶性の高い薬物においても初期バースト放出が抑制されることをみいだした。さらに、水溶性2価金属化合物を用いない場合でも同様の効果があることをみいだした。
【0005】
そこで、本発明は、種々の薬物に関する徐放性微粒子を得ること、又少なくとも3日間以上にわたり薬物が徐放され、かつ水溶性の高い薬物においても初期バースト放出を回避することが出来る薬物含有徐放性微粒子、その製造法、及びそれを含有する製剤を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の薬物含有徐放性微粒子は、ヒト成長ホルモンを除く薬物、及び多孔性アパタイト誘導体からなり、さらに、ヒト成長ホルモンを除く薬物、多孔性アパタイト誘導体および水溶性多価金属化合物からなるものであり、水溶性多価金属化合物としては、塩化亜鉛、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化鉄、水酸化鉄、塩化コバルト、塩化アルミニウム、酢酸亜鉛などがあげられるが、なかでも水溶性2価金属化合物が最も好ましい。水溶性2価金属化合物としては亜鉛化合物及びカルシウム化合物が好適であるが、塩化亜鉛が最も好ましい。その他酢酸亜鉛、塩化カルシウム等も好適である。
又、本発明の非経口的投与用製剤は薬物含有徐放性微粒子を有効成分とすることからなる。
又、非経口的投与用製剤が皮下注射剤または筋肉注射剤であることが好適である。
又、多孔性アパタイト誘導体がヒドロキシアパタイトの構成成分であるカルシウムの一部を組成として製造時に亜鉛に置換した多孔性アパタイト誘導体であることが好適である。
又、多孔性アパタイト誘導体の亜鉛置換率または含有率が0.1〜2.0であることが好適である。
【0007】
又、本発明の薬物含有徐放性微粒子の製造法は、多孔性アパタイト誘導体の微粒子を薬物含有の水溶液中に攪拌・分散し、水溶液が該多孔性アパタイト誘導体中に浸潤したのち水溶性2価金属化合物を含む水溶液を添加し、水溶性2価金属化合物を該多孔性アパタイト誘導体に浸潤させ、その後安定剤などの添加物を加えて、凍結乾燥または真空乾燥することからなる。
さらに、その製造法において、水溶性2価金属化合物を含む水溶液を添加せず、したがって水溶性2価金属化合物を該多孔性アパタイト誘導体に浸潤させない場合もある。
又、同様に、多孔性アパタイト誘導体がヒドロキシアパタイトの構成部分であるカルシウムの一部を製造時に亜鉛に置換した多孔性アパタイト誘導体であること、多孔性アパタイト誘導体の亜鉛の置換または含有率が0.1〜2.0であること、水溶性2価金属化合物が塩化亜鉛または酢酸亜鉛であることが好適である。
【0008】
また、ここで用いられるヒト成長ホルモンを除く薬物についてはとくに限定しないが水溶性の薬物が好ましい。例えば、タンパク性薬物では、インターフェロン類、インターリュウキン類、G−CSF、BDNF、FGF、EGF、各種抗体などがあげられる。ペプチド系薬物としては、GnRH誘導体、TRH、エンケファリン類、PTH、カルシトニンなどがあげられる。DNA関連物質として、アンチセンス、リボザイムなどがあげられる。その他、抗炎症薬、ステロイド、抗痴呆薬、循環器系疾患治療薬などがあげられる。
【0009】
基本的な製造方法は、多孔性アパタイト誘導体の微粒子を薬物含有の水溶液中に攪拌・分散し、十分に水溶液が該多孔性アパタイト誘導体中に浸潤したのち、さらに水溶性2価金属化合物を含む水溶液を添加し、水溶性2価金属化合物を十分に該多孔性アパタイト誘導体中に浸潤させる。その後、適当な安定剤などの添加物を加えて凍結乾燥または真空乾燥することによって薬物を含む多孔性アパタイト誘導体微粒子を基剤とする粉末の薬物含有徐放性微粒子を得る。実際に投与するときには、この得られた粉末を適当な分散媒中に分散して、皮下または筋肉内などに注射投与する。このようにして得られた微粒子を室温で多量の精製水中に分散することによって封入した薬物の脱離を測定すると、薬物により異なるが、多孔性アパタイト誘導体類に対して一定の量までは薬物は脱離しなかった。すなわち、薬物は、多孔性アパタイト類の細孔内に浸潤して吸着しているものと考えられる。
【0010】
ここで使用する多孔性アパタイト誘導体微粒子は、既知の方法で得ることができる。たとえば、「山口喬・柳田博明編、牧島亮男・青木秀希著:セラミックスサイエンスシリーズ7バイオセラミックス.技報堂出版株式会社、7−9ページ,1984」に記載されている方法などが挙げられる。多孔性アパタイト誘導体としては、ヒドロキシアパタイトの組成としてCaの一部を亜鉛(Zn)で置換したものが最も好ましい。その置換率(Ca10原子に対するZnの原子数)は、0.1〜5.0が好ましく、0.1〜2.0がより好ましい。このとき、(Ca+Zn)/Pの比率によって生体内での消失速度が異なり、1.67よりも小さい方が水に溶けやすく、すなわち生体内で消失する速度が速くなる。(Ca+Zn)/Pの比が1.67〜1.51の範囲内であることが好ましい。この範囲の多孔性アパタイト誘導体を使用すると生体内で数週間から数ヶ月以内で消失する。その置換率または含有率(Ca10原子に対するZnの原子数)は、0.1〜5.0が好ましく、0.1〜2.0がより好ましい。また、多孔性アパタイト誘導体を製造するときの焼成温度は、低い方が水に溶けやすく、したがって生体内での消失速度も速くなる。焼成温度は、室温〜800℃が用いられるが、150℃〜600℃が好ましい。さらには150℃〜400℃がより好ましい。800℃以上で焼成されると生体内で消失しなくなる。微粒子の粒子径は、焼成温度で制御できるが0.1μm〜100μmの範囲で使用できる。このうち、0.1μm〜20μmが好ましい。さらには、0.2μm〜10μmがより好ましく利用できる。
【0011】
上記の薬物の多孔性アパタイト誘導体への吸着率は、Zn置換をしないヒドロキシアパタイトに比較して多孔性アパタイト誘導体の方がはるかに大きい。これは亜鉛を置換または含有させることで、有意に比表面積・気孔率が高くなるためである。吸着率の大きいほど薬物含有徐放性微粒子の総投与量が少なくなり好ましい。好ましい吸着率は、薬物の至適投与量によって異なるが、一般的には、多孔性アパタイト類の2〜30重量%である。このうち5〜25重量%が好ましく用いられる。さらには10重量%以上吸着するものがより好ましい。
【0012】
多孔性アパタイト誘導体類に薬物を吸着させた後添加する水溶性2価金属化合物は、ZnまたはCaが好ましい。なかでもZnが最も好ましい。その使用量は、薬物の物理化学的性質によって異なるが、一般的には、多孔性アパタイト誘導体の1〜70重量%の範囲で使用される。十分な徐放性を維持させるには、5〜70重量%が好ましく用いられる。使用される水溶性2価金属化合物は、塩化物、有機酸の塩が好んで用いられる。たとえば塩化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0013】
以上のようにして得られた薬物を含有する徐放性微粒子の徐放期間は、HAP誘導体の焼成温度、2価金属化合物の使用量により制御でき、3日間以上にわたり薬物の徐放が可能である。1週間以上にわたる徐放も可能で、実用的には1週間以上の徐放が好ましい。
【0014】
最終的に得られた薬物含有徐放性微粒子の粒子径は、通常の投与に用いられる注射針を通過すればよい。実際には、注射針の径は細いほど患者に対する恐怖心も小さい。注射針の太さをあらわす国際基準で25G以下(数字の大きいほど細くなる)の太さの針を通過することが好ましい。このため、薬物含有徐放性微粒子の粒子径は小さいほど好ましいが、極端に小さくすると薬物の保持量が少なくなるし、かつ、初期バースト放出が大きくなる。実際には0.5μm〜20μmが好ましい。さらに、0.5μm〜10μmがより好ましい。10μm以下の粒子とすると27Gの注射針を容易に通過する。ここで使用される薬物には特に制限がないが、水溶性であることおよび多孔性アパタイト誘導体類に吸着すればよい。水溶性の尺度は、水に対する溶解度で評価できる。その溶解度は100μg/mL以上あれば通常は薬物含有徐放性微粒子を調製できる。より好ましくは500μg/mL以上、1mg/mL以上の溶解度がさらに好ましい。
【実施例】
【0015】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に記載するがもちろんこの例に限定されるのものではない。
【実施例1】
【0016】
リン酸ベタメタゾンあるいはリン酸ヒドロキシコーチゾン水溶液(100μL、100μg/mL)に所定量の多孔性ヒドロキシアパタイト(HAP)または多孔性アパタイト0.5モル亜鉛置換誘導体(HAP−Zn−0.5)の水懸濁液(100μL)を混合し、室温10分間放置後2500Gで遠心し、その上清の230nmでの吸収値から上清に遊離したリン酸ベタメタゾンまたはリン酸ヒドロキシコーチゾンを定量した。はじめに適用した所定量の薬物量から上清中に流失した残りの薬物量を吸着量とした。その結果を下記の表1に示す。表1から明らかのように、薬物に対してHAPまたは多孔性アパタイト誘導体の量が大きくなるほど薬物はHAPまたは多孔性アパタイト誘導体に高い比率で吸着した。その吸着比は、HAPに比べて多孔性アパタイト誘導体を用いた方が有意に高かった。

表1中Betaは、リン酸ベタメサゾンを意味し、Hydは、リン酸ヒドロコルチゾンを意味する。また、ステロイドとは、リン酸ベタメタゾンまたはリン酸ヒドロキシコーチゾンを意味する。
【実施例2】
【0017】
多孔性ヒドロキシアパタイト(HAP)または多孔性アパタイト誘導体(0.5モル亜鉛置換または含有誘導体(HAP−Zn−0.5))を45mg精秤し、それにインターフェロン−α(IFN)の2.4mg/mL溶液からIFNとして30μgを加え、10分間放置した。その後、これに20mMの酢酸亜鉛溶液を1mL加え、30分間振とうした。この分散液に1.5mLの水を加え、洗浄して洗浄液中IFNを定量したところ、HAPの場合もHAP−Zn−0.5の場合もIFNは検出されなかった。すなわち、全てのIFNはHAPまたはHAP−Zn−0.5に吸着していることが確認された。このように、有機溶媒を使用しないでタンパク質であるIFNを吸着した薬物含有微粒子をえることができた。洗浄後、得られた粉末に20%FCS含有のPBS溶液20mLを加え、37℃で16時間振とうした。上清に溶出してきたIFNを定量して溶出率を算出した。下記の表2に示す結果が得られた。

いずれのシステムでも酢酸亜鉛の添加によって溶出は抑制され、無添加に比較してより長時間にわたる徐放性をしめした。HAPとHAP−Zn−0.5とを比較すると、明らかにHAP−Zn−0.5の方が溶出は遅延され、より長時間の徐放性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト成長ホルモンを除く薬物および多孔性アパタイト誘導体からなることを特徴とする薬物含有徐放性微粒子。
【請求項2】
ヒト成長ホルモンを除く薬物、多孔性アパタイト誘導体および水溶性2価金属化合物からなることを特徴とする薬物含有徐放性微粒子。
【請求項3】
多孔性アパタイト誘導体がヒドロキシアパタイトの構成成分であるカルシウムの一部を製造時に亜鉛に置換した多孔性アパタイト誘導体であることを特徴とする請求の範囲第1又は2項記載の薬物含有徐放性微粒子。
【請求項4】
多孔性アパタイト誘導体の亜鉛置換または含有率が0.1〜2.0であることを特徴とする請求の範囲第3項記載の薬物含有徐放性微粒子。
【請求項5】
水溶性2価金属化合物が亜鉛化合物であることを特徴とする請求の範囲第2項記載の薬物含有徐放性微粒子。
【請求項6】
水溶性2価金属化合物が塩化亜鉛または酢酸亜鉛であることを特徴とする請求の範囲第5項記載の薬物含有徐放性微粒子。
【請求項7】
請求の範囲1〜6のいずれかに記載された薬物含有徐放性微粒子を有効成分として含有することを特徴とする非経口的投与用製剤。
【請求項8】
非経口的投与用製剤が皮下注射剤または筋肉注射剤のいずれかであることを特徴とする請求の範囲第7項記載の製剤。
【請求項9】
多孔性アパタイト誘導体の微粒子を薬物含有の水溶液中に攪拌・分散し、水溶液が該多孔性アパタイト誘導体中に浸潤したのち水溶性2価金属化合物を含む水溶液を添加し、水溶性2価金属化合物を該多孔性アパタイト誘導体に浸潤させ、その後安定剤などの添加物を加えて、凍結乾燥または真空乾燥することにより製造されることを特徴とする薬物含有徐放性微粒子の製造法。
【請求項10】
多孔性アパタイト誘導体がヒドロキシアパタイトの構成部分であるカルシウムの一部を製造時に亜鉛に置換した多孔性アパタイト誘導体であることを特徴とする請求の範囲第9項記載の製造法。
【請求項11】
多孔性アパタイト誘導体の亜鉛の置換または含有率が0.1〜2.0であることを特徴とする請求の範囲第10項記載の製造法。
【請求項12】
水溶性2価金属化合物が塩化亜鉛または酢酸亜鉛であることを特徴とする請求の範囲第9項記載の製造法。

【国際公開番号】WO2004/112751
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507206(P2005−507206)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008188
【国際出願日】平成16年6月11日(2004.6.11)
【出願人】(303010452)株式会社LTTバイオファーマ (27)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(304062317)ガレニサーチ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】