説明

薬物徐放担体

本発明の目的は、タンパク質またはペプチドの生物活性を阻害せずに高封入率で封入でき、完全に生分解性で安全なタンパク質またはペプチドの徐放製剤を提供することである。本発明は、ヒアルロン酸(HA)にヒドラジド基を導入したヒアルロン酸誘導体を、タンパク質またはペプチド共存下で、pH6以下の溶液中で架橋、ハイドロゲル化することを特徴とするヒアルロン酸誘導体ゲルの製造方法に関連する。本発明により、タンパク質、ペプチドの生物活性を維持したままこれらの効率な当該ゲル内への封入、および徐放が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、タンパク質またはペプチドを徐放するヒアルロン酸ハイドロゲル薬物徐放担体に関する。
【背景技術】
近年、薬効を持つタンパク質、ペプチドの製剤が盛んに実用化されているが、一般にこうした薬物は血中半減期が短く、またその大部分が頻回投与の注射剤であるため、薬剤投与における患者の負担は過大なものとなっている。したがって、できるだけ少量で薬効を発揮させ且つ投与回数も少なくできる、タンパク質またはペプチド薬剤の実用的な徐放型製剤が望まれている。
薬効を持つタンパク質またはペプチドの徐放製剤は、製剤調製時、あるいは徐放中のタンパク質またはペプチドの変性、凝集による回収率低下が大きな問題である。ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(PLGA)等の生分解性高分子を基材にした徐放製剤も試みられているが、基材の疎水性、乾燥工程、pHの低下に起因するタンパク質の変性、凝集が認められる(J.Pharm.Sci.第88巻、第166−173頁、1999年、およびJ.Microencapsulation 第15巻、第699−713頁、1998年)。こうした問題が低減される親水性のハイドロゲルを基材に用いた徐放製剤も報告されているが実用化には至っていない。この原因は、タンパク質またはペプチドの封入率、回収率、および製剤に用いる基材の安全性の全てを実用化レベルで実現することが困難なためである。安全性の面からは、徐放基材として、非抗原性、非変異原性、無毒性、生分解性を併せ持つ素材でなければならない。
ヒアルロン酸(HA)は、1934年、K.Meyerによって牛の眼の硝子体から単離された生体材料(多糖)であり、細胞外マトリックスの主成分として古くから知られている。ヒアルロン酸は、D−グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとがβ(1→3)グリコシド結合により連結された二糖単位から成るグルコサミドグリカンの一種である(式(II))。

ヒアルロン酸は、化学的、物理的構造に種差が無く、ヒトも代謝系を持っており、免疫性、毒性といった面でも最も安全な医用生体材料(Biomaterial)である。近年、微生物による高分子量ヒアルロン酸の大量生産が可能となり、変形性軟骨治療薬、化粧品等の分野でも実用化されている。
ヒアルロン酸を基材に用いた架橋方法、ヒアルロン酸ゲルからのタンパク質やペプチド薬物の徐放も多数報告されている。ヒアルロン酸を化学架橋でゲル化させる方法としては、カルボジイミド法(国際公開第94/02517号パンフレット)、ジビニルスルフォン法(特開昭61−138601号公報)、グリシジルエーテル法(特開平5−140201号公報)、等が知られている。一般に、ゲル中にタンパク質またはペプチドを封入する際、架橋後にタンパク質またはペプチドを導入する方法では、ヒアルロン酸とタンパク質またはペプチドとの相溶性、静電反発等の問題でその導入率は低い。一方でタンパク質またはペプチド存在下で、in situ架橋を行うと高封入率でタンパク質またはペプチドを担持させられる利点がある。こうしたin situ架橋により、ヒアルロン酸ゲル中にタンパク質またはペプチドを封入、徐放させることも報告されている(例えば、米国特許第5827937号明細書)が、こうした方法を用いてタンパク質またはペプチド存在下でヒアルロン酸をin situ架橋すると、封入したタンパク質またはペプチドの回収率が低い点に問題がある。ヒドラジド基(HZ)を導入したヒアルロン酸誘導体(HA−HZ)をN−ハイドロキシスクシンイミド(NHS)からなる架橋剤で架橋する方法(国際公開95/15168号パンフレット、および国際公開第00/44808号パンフレット)が報告されているが、生理条件下でのin situ架橋を目的としているため、pH7.4−8.5で架橋反応を行っている。本発明者らによる検討では、この方法で得られるヒアルロン酸誘導体ゲルからの、タンパク質またはペプチドの回収率は低い。この原因は、架橋反応中にタンパク質またはペプチドの一部(主にアミノ基)が架橋剤と反応し、タンパク質が架橋してしまう点にある。
またゲル中に残った変性したタンパク質またはペプチドは、生物活性が低下しており、むしろ抗原性発現の原因になる等の問題がある。
封入した薬物が高回収率で放出されることは、医薬品として必須の条件であるが、タンパク質またはペプチドを反応させずにヒアルロン酸を化学架橋、ゲル化させる方法は知られていない。
一方、高回収率でタンパク質ペプチドを封入する方法として、ポリエチレングリコール(PEG)を基材に不飽和官能基を求核付加反応で架橋する報告もあるが(国際公開第00/44808号パンフレット)、生分解性でないPEG断片が残存する問題がある。
【発明の開示】
上述したとおり、タンパク質またはペプチド存在下でその生物活性を維持したままin situでヒアルロン酸を効率的に化学架橋する方法、高回収率を得られるヒアルロン酸の架橋方法、およびそのような方法により高封入率で製造され、高回収率を得られる、タンパク質またはペプチド徐放製剤は知られていない。
本発明者は、かかる問題点を解決する為に鋭意研究を進めたところ、ヒアルロン酸(HA)にヒドラジド基を導入したヒアルロン酸誘導体を、ヒドラジド基と反応する官能基が、ゲル調製液中の化学反応性を有するヒドラジド基に対して40モル%以下の架橋剤量を用い、タンパク質またはペプチド共存下で、pH6.4以下の溶液中で架橋、ハイドロゲル化することで、タンパク質、ペプチドの生物活性を維持したままこれらを効率よく封入できることを見出し本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、タンパク質、ペプチドの生物活性を維持したままこれらをin situ架橋し、ハイドロゲル中に封入したタンパク質またはペプチド徐放製剤に関するものであり、本発明の一つの側面によれば、pH6.4以下の溶液中でヒアルロン酸にヒドラジド基を導入したヒアルロン酸誘導体を化学架橋することを特徴とするヒアルロン酸誘導体ゲルの製造方法が提供される。
ここで、ヒアルロン酸におけるヒドラジド基の導入は、特に限定はされるものではないが、好ましくは、ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、置換ヒドラジド基、置換アミド基、またはエステル基に変換することにより、導入される。
ここで、置換ヒドラジド基または置換アミド基の置換基は、ヒドラジド基を有する置換基であれば特に限定されないが、例えば、ヒドラジド基を有する直鎖または分枝C1−10アルキル基、ヒドラジド基を有する直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ヒドラジド基を有するポリアルキレンオキサイド基、ヒドラジド基を有するポリペプチド基、およびヒドラジド基を有するポリエステル基等が挙げられる。
また、エステル基としては、ヒドラジド基を有するエステル基であれば特に限定されないが、例えば、ヒドラジド基を有する直鎖または分枝C1−10アルキルエステル基、ヒドラジド基を有する直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキルエステル基、ヒドラジド基を有するポリアルキレンオキサイドエステル基、ヒドラジド基を有するポリペプチドを含むエステル基、およびヒドラジド基を有するポリエステル基等が挙げられる。
さらに、ヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸誘導体は、特に限定されるものではないが、好ましくは式(I):

(式中、Xは、−N(−R)−、または−O−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基であり、
は、−Y−R−Y−NHNHであり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5、およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
は、単結合、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−1ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基であり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−CO−、または、−CHCO−であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体である。
さらに、式(I)において、Xは、好ましくは−N(−R)−であり、Rは、好ましくは水素原子であり、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5、およびRa6は、好ましくは水素原子であり、Yは、好ましくは単結合、または、−CO−であり、Rは、好ましくは直鎖または分枝C1−10アルキレン基であり、Yは、好ましくは、単結合、または、−CO−であり、Rは、好ましくは水素原子であり、Rは、好ましくは水素原子である。
また式(I)中、ポリアルキレンオキサイド基とは、−(CH(−R)CHO)−OH(式中、Rは水素原子、またはC1−5アルキル基)で示される基であり、好ましくは、ポリエチレンオキサイド基、ポリプロピレンオキサイド基であり、また好ましくはnは、1−20の整数である。またポリペプチド基は、特に限定されるものではないが、好ましくはアミノ酸1−20個からなるものである。またポリエステル基は、特に限定されるものではないが、好ましくはポリグリコール酸基、ポリ乳酸基である。
本願発明の別の側面によれば、上記の方法により作製された、ヒアルロン酸ゲルが提供される。該ヒアルロン酸ゲルは、特に限定されるものではないが、ハイドロゲルであることが望ましい。
本願発明のさらに別の側面によれば、タンパク質又はペプチド存在下で、pH6.4以下の溶液中でヒアルロン酸にヒドラジド基を導入したヒアルロン酸誘導体を化学架橋することを特徴とする薬物徐放担体の製造方法が提供される。
該薬物徐放担体の製造方法は、好ましくは上記式(I)(X、X、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6については、上述のとおりである。)で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体を、合成する工程、および、該ヒアルロン酸誘導体を、タンパク質またはペプチド存在下、pH6.4以下で化学架橋する工程、を含むものである。
本願発明のさらに別の側面によれば、上記の方法により作製された薬物徐放担体が提供され、さらに該薬物徐放担体を含む薬剤組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、pH4.8でゲル化した際の、NHS基の存在比(対 HZ基)による回収EPOの変化を示す、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のチャートである。
図2は、NHS基の存在比(対 HZ基)を10%としてゲル化した際の、pH値による回収EPOの変化を示す、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定結果である。
図3は、NHS基の存在比(対 HZ基)を10%としてゲル化した際の、pH値によるEPO回収率の変化を示す、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の測定結果である。
図4は、pH4.8でゲル化した際の、HZ基の導入率、およびNHS基の存在比(対 HZ基)によるEPO回収率の変化を示すグラフである。
図5は、HZ基の導入率、およびNHS基の存在比(対 HZ基)によるEPO回収率の変化を示すグラフである。
図6は、NHS基の存在比(対 HZ基)が10モル%の際の、pH値によるEPO回収率の変化を示すプロットである。
図7は、pH4.8、NHS基の存在比(対 HZ値)を20%としてゲル化した際の、150mM PBS(pH7.4)でのEPO累積放出率の経時変化を示すグラフである
発明を実施するための好ましい形態
以下、本発明を更に具体的に説明する。
本発明の薬物徐放担体の製造法は、タンパク質またはペプチド共存下の溶液中でヒアルロン酸にヒドラジド基を導入したヒアルロン酸誘導体を化学架橋、ハイドロゲル化することを特徴とする。
本発明の薬物徐放担体は、以下のような優れた特徴を有している。
1.生分解性、生体に対する安全性を付与できる。
2.タンパク質の変性を防ぐことができる。
化学架橋とは、共有結合による、分子間または分子内架橋を含むものであり、同時に分子間および分子内架橋を有する場合もある。
本発明の薬物徐放担体は、ヒアルロン酸(HA)にヒドラジド基を導入したヒアルロン酸誘導体をタンパク質またはペプチド共存下で架橋することを特徴とする。架橋時のpHは、アミノ基に対するHZとの選択的反応性、タンパク質の変性等を考慮し、pH3.0〜pH6.4が好ましい。さらに好ましくは、pH3.5〜pH6.2、特に好ましくはpH4.0〜6.0である。
一般的にタンパク質やペプチドのアミノ基のpKa(−NH → −NH)は、9程度であるのに対し、ヒドラジド基(HZ)の場合は、3程度である。これらの官能基が、スクシンイミジルエステル、アルデヒド基、ビニルスルフォン基等の求核的に反応しうる官能基と反応するには、反応点である窒素原子の不対電子が脱プロトン化されている必要がある。よって、架橋時のpH、および導入されたヒドラジド基に対する架橋剤の量比を調製することで、架橋剤とヒドラジド基およびアミノ基との反応性を制御できると考えられる。
また、いかに架橋剤とヒドラジド基との選択的反応が進行しても、余剰の架橋剤が存在すれば反応性の低いアミノ基とも反応してしまう。そこで、本薬物徐放担体において、ヒドラジド基と反応する架橋剤中の官能基は、ゲル調製液中の化学反応性を有するヒドラジド基に対して40モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。
また、本薬物徐放担体において、その架橋剤中のヒドラジド基と反応する化合物官能基は、ゲル調製液中の化学反応性を有するヒドラジド基に対して通常、0.1モル%以上であり、好ましくは1モル%以上であり、特に好ましくは3モル%以上である。
本発明でいう化学反応性を有するヒドラジド基とは、一般にアミノ基、ヒドラジド基の定量化に用いられるトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)法で定量されるHZ基を言う。
架橋剤としては、ヒドラジド基と求核的または求電子的に反応しうる官能基を2以上有するものであれば特に限定されないが、例えば、スクシンイミジルオキシカルボニル基、イミドエステル基などの反応性の高いエステル基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、アリルハライド基、カルボジイミド基、スルホニルクロライド基、スルフォニルフルオライド基、アルデヒド基、ペンタフルオロフェノキシカルボニル基、p−ニトロフェノキシカルボニル基、イミダゾリルカルボニル基、ビニルスルホン基、酸無水物、4−ニトロフェニルフォルメート基、エポキシド基、アルキルホスフェート基、カーボネート基、アクリルアジド基、フェニルアジド基等の官能基を同一分子内に2つ以上持つ分子が挙げられる。当該架橋剤の例には、ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、ジスクシンイミジルグルタレート、ジスクシンイミジルタルトレート、エチレングリコールビス[スクシンイミジルスクシネート]などが含まれる。
さらに、架橋剤は水中で用いることができるように、水溶性を付与する置換基、例えば、スルホン酸基、ホスホン酸基などで置換されていてもよい。
ヒアルロン酸へのヒドラジド基の導入は当業者に公知の方法で行うことができ、ヒアルロン酸のカルボキシル基と2価のヒドラジド含有化合物(ジヒドラジド化合物)を、縮合剤を用いて縮合させることにより合成することができる。ジヒドラジド化合物としては、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジドが挙げられる。また、縮合剤としては、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどが挙げられる。例えば、ヒアルロン酸のカルボン酸とアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)で縮合させ、ヒドラジド基で修飾されたヒアルロン酸(HA−HZ)を合成することが可能である。
ゲル調製液中の化学反応性を有するヒドラジド基のヒアルロン酸への導入率は特に限定されないが、流動性のないゲルを得るためにHAのグルクロン酸当たり3モル%以上、好ましくは5モル%以上である。
ヒアルロン酸誘導体と薬理作用を持つタンパク質またはペプチドとからなるハイドロゲルの調製方法としては、例えば、ヒアルロン酸誘導体とタンパク質またはペプチドを酢酸バッファーやリン酸緩衝生理食塩水等に溶解した後、ここに架橋剤を加えて均一分散させ室温等で約2時間反応させればよい。
本発明に用いられるヒアルロン酸は、どのようにして得られたヒアルロン酸でもよく、動物組織から抽出されたヒアルロン酸、発酵法で得られたヒアルロン酸、化学合成で得られたヒアルロン酸など、その由来は限定されない。さらに、加水分解処理など、ヒアルロン酸にさらなる処理を行ってもよい。本発明のヒアルロン酸には、様々な方法で修飾された修飾ヒアルロン酸や、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩なども含有される。ヒアルロン酸はカルボキシル基とハイドロキシル基が修飾されることが多いが、本発明において修飾ヒアルロン酸はどの部分が修飾されていてもよい。修飾ヒアルロン酸は特に限定されず、どのような修飾がされていてもよいが、例えば、硫酸化されたヒアルロン酸(国際公開第95/25751号パンフレット)、N−硫酸化されたヒアルロン酸(国際公開98/45335号パンフレット)、エステル化されたヒアルロン酸(欧州特許出願公開第0216453、国際公開第98/08876号パンフレット、欧州特許出願公開第0341745号明細書)、過沃素酸酸化されたヒアルロン酸、アミド修飾されたヒアルロン酸などを挙げることができる。
本発明に用いられるヒアルロン酸の分子量は特に限定されず、いかなる分子量のヒアルロン酸でも使用することが可能であるが、通常5000〜350万ダルトン、好ましくは1万〜200万ダルトンのヒアルロン酸を用いることができる。
薬効を持つタンパク質またはペプチドとしては特に限定されないが、例えば、エリスロポエチン(EPO)、グラニュロサイトコロニー刺激因子(G−CSF)、インターフェロン−α、β、γ、(INF−α、β、γ)、トロンボポエチン(TPO)、シリアリーニューロトロフィクファクター(CNTF)、チューマーネクローシスファクター結合タンパク質(TNFbp)、インターロイキン−10(IL−10)、FMS類似チロシンカイネース(Flt−3)、成長ホルモン(GH)、インシュリン、インシュリン類似成長因子−1(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDFG)、インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)、ブレイン由来ニューロトロフィクファクター(BDNF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、幹細胞因子(SCF)、メガカリオサイト成長分化因子(MGDF)、オステオプロテゲリン(OPG)、レプチン、副甲状腺ホルモン(PTH)、塩基性フィブロブラスト成長因子(b−FGF)、骨形成タンパク質(BMP)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)、抗体、ダイアボディー等が挙げられる。
本発明の方法は、G−CSFのように分子中にメルカプト基が存在するようなタンパク質でも、タンパク質中のメルカプト基を反応させずにヒアルロン酸を架橋できる点で優れている。
本発明のヒアルロン酸誘導体ゲルは、特に限定されないが、例えば、ハイドロゲルまたはオルガノゲルであってもよく、好ましくはハイドロゲルである。
本発明の徐放担体は、1種もしくはそれ以上の薬学的に許容し得る希釈剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤等を含む薬学的組成物として、目的とする投与経路に応じ、適当な任意の形態にして投与することができる。投与経路は非経口的経路であっても経口的経路であってもよい。
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
EPO封入HAハイドロゲルの調製
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
逆相カラムによる高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)分析は、Waters600Sコントローラ、717plusオートサンプラー、486紫外光吸収測定器(Waters社製)を用い、以下の測定条件より行った。
カラム:C4(粒子径 5μm、サイズ 4.6×250mm、VYDAC製)
移動相A:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸=400/100/1、
移動相B:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸=100/400/1
流速:1mL/分
移動相A/B=65/35〜0/100のグラジエント溶出
カラム温度:室温付近
サンプル温度:4℃
検出波長:UV 280nm
解析ソフト:Millenium32ver.3.21
トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基の定量は、「学会出版センター 生物化学実験法12 蛋白質の化学修飾<上> 初版」37ページに記載の方法(TNBS法)に従った。ただし、TNBS溶液は0.5Mに調製し、ヒドラジド基を定量するために500nmの吸光度を測定した。
実施例1:ヒドラジド基(HZ)が導入されたヒアルロン酸(HA−HZ)の合成
〔実施例1−1〕
分子量2.5×10ダルトンのヒアルロン酸(HA)(電気化学工業株式会社製)500mgを1.0%濃度で蒸留水に溶解し、塩酸でpHを4.7〜4.8に調製した。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)とアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を、HA:EDC:ADH=1:0.3:40モル比になるよう添加し、塩酸でpHを4.7〜4.8に保ちながら室温で2時間反応させた。100mM塩化ナトリウム溶液、25%エタノール水溶液、蒸留水で透析(スペクトラポア7、分画分子量(MWCO):12k−14kダルトン)し、凍結乾燥して標題のヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸誘導体(HA−HZ)を得た。TNBS法で定量したところ、10.0%であった。
〔実施例1−2〕
実施例1−1でHA:EDC:ADH=1:0.3:40モル比の替わりにHA:EDC:ADH=1:1:40モル比になるよう添加したこと以外は実施例1−1と同様の方法でヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸(HA−HZ)を調製した。TNBS法で求めたHZ化率は23.7%であった。
〔実施例1−3〕
実施例1−1でHA:EDC:ADH=1:0.3:40モル比の替わりにHA:EDC:ADH=1:5:40モル比になるよう添加したこと以外は実施例1−1と同様の方法でヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸(HA−HZ)を調製した。TNBS法で求めたHZ化率は39.1%(ロット1)、40.7%(ロット2)であった。
実施例2:EPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲル調製
(実施例2−1)
実施例1−1のヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸誘導体(HA−HZ)(MW25KD、TNBS法で求めたHZ化率は10.0%)111.01mgを0.888mLの蒸留水に溶解した。この溶液0.640mLに対して、1M酢酸水溶液(pH 4.8)0.080mLを添加、混合し、均一溶液とした。更に8.74mg/mLのEPO水溶液を0.080mLを加えて均一溶液とした。これを0.100mLずつ取り分け、架橋剤としてBS3(ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、PIERCE製)をヒドラジド基に対して、BS3/HZ=0.5、0.2、0.1、0.05、および0、すなわち化学反応性を有するヒドラジド基に対してBS3に含まれるスクシンイミジルエステル(NHS)基が100、40、20、10、および0モル%になるように0.725、0.290、0.145、0.072、および0mgずつ100mg/mLの水溶液として添加し、速やかに均一混合した。これを室温で2時間反応させてEPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルを得た。
(実施例2−2)
実施例1−2のヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸(HA−HZ)、112.00mgを0.896mLの蒸留水に溶解した。この溶液0.640mLに対して、1M酢酸水溶液(pH 4.8)0.080mLを添加、混合し、均一溶液とした。更に8.74mg/mLのEPO水溶液を0.080mLを加えて均一溶液とした。これを0.1mLずつ取り分け、架橋剤としてBS3(ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、PIERCE製)をヒドラジド基に対してBS3/HZ=0.5、0.2、0.1、0.05、および0、すなわち化学反応性を有するヒドラジド基に対して、BS3に含まれるスクシンイミジルエステル(NHS)基が、100、40、20、10、0モル%になるように1.629、0.652、0.326、0.163、0mgずつ100mg/mLの水溶液として添加し、速やかに均一混合した。これを室温で2時間反応させてEPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルを得た。
(実施例2−3)
実施例1−3で調製したヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸(HA−HZ)(ロット1)、311.01mgを2.488mLの蒸留水に溶解した。この溶液0.640mLに対して、1M酢酸水溶液(pH 4.8)0.080mLを添加、混合し、均一溶液とした。更に8.74mg/mLのEPO水溶液を0.080mLを加えて均一溶液とした。これを0.1mLずつ取り分け、架橋剤としてBS3(ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、PIERCE製)をHZに対してBS3/HZ=0.5、0.2、0.1、0.05、0、すなわち化学反応性を有するヒドラジド基に対して、BS3に含まれるスクシンイミジルエステル(NHS)基が、100、40、20、10、0モル%になるように2.541、1.016、0.508、0.254、0mgずつ100mg/mLの水溶液として添加し、速やかに均一混合した。これを室温で2時間反応させてEPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルを得た。
(実施例2−4)
実施例2−3の1M酢酸水溶液(pH 4.8)0.080mLの替わりに1Mのリン酸緩衝液(pH 6.0)0.080mLを添加する他は、前述の実施例2−3と同様の方法でEPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルを得た。
(実施例2−5)
実施例2−3の1M酢酸水溶液(pH 4.8)0.080mLの替わりに1Mのリン酸緩衝液(pH 7.4)0.080mLを添加する他は、前述の実施例2−3と同様の方法でEPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルを得た。
(実施例2−6)
実施例1−3で調製したヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸(HA−HZ)(ロット2)、84.30mgを0.6744mLの蒸留水に溶解した。これを0.040mLずつ4つに取り分け、それぞれに対して、1Mリン酸緩衝液(pH 6.2、6.4、6.6および6.8)を0.005mL、及び8.57mg/mLのEPO水溶液を0.005mLを添加、混合し、均一溶液とした。これらに、架橋剤としてBS3(ビス[スルホスクシンイミジル]スベレート、PIERCE製)をヒドラジド基に対してBS3/HZ=0.05、すなわち化学反応性を有するヒドラジド基に対して、BS3に含まれるスクシンイミジルエステル(NHS)基が、10モル%になるように0.132mgずつ100mg/mLの水溶液として添加し、速やかに均一混合した。これを室温で2時間反応させてEPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルを得た。
実施例3:EPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルのEPO回収率測定
(実施例3−1)
実施例2−1〜5で調製したEPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルに対して、1Mリン酸緩衝液(pH 6.5)0.020mL、ならびにヒアルロニダーゼ(Hyaluronidase SD、生化学工業製)溶液(1ユニット/mL、100mMリン酸緩衝液、pH 6.0、0.01%BSAを含む)0.100mLを添加して、37℃で2日間、酵素処理を行った。一部のゲルに対しては、更にヒアルロニダーゼ(Hyaluronidase SD)溶液を追加して、ゲルを完全に分解させた。酵素処理後の溶液0.030mLを、100mMリン酸緩衝液(pH7.4)0.120mLと混合し、試料溶液とした。試料溶液は、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)測定を行い、0.1mg/mLのEPO水溶液を標準溶液として、標準溶液と試料溶液のピークエリア比から試料溶液中EPO濃度を算出した。添加したEPO量(0.0874mg/ゲル1個)に対してRP−HPLCより求めたEPO量を回収率として算出した。
実施例2−3で調製した5つのサンプルについてのRP−HPLCの測定結果を図1に示す。標準溶液の測定よりEPOの保持時間は19.789分および21.484分であり、各サンプルにおいてEPOのピークが観測された。また、実施例2−1〜3についての測定結果を表1および図4に示す。この結果は、ヒアルロン酸に導入されたヒドラジド(HZ)基に対して、スクシンイミジルエステル(NHS)基が10〜20%程度となるような条件での架橋反応は、EPOに大きな影響を与えないことを示している。
実施例2−3〜5の各々で5つずつ調製した計15個のサンプルのうち、ヒドラジド(HZ)基に対するスクシンイミド(NHS)基の存在比が10モル%となる条件のものについてのRP−HPLCの測定結果を図2(クロマトグラム)、表2(数値)、および図5(グラフ)に示す。この結果は、pH7.4の場合に対してpH6.0およびpH4.8の場合は、EPOの回収率が有意に向上していることを示している。
(実施例3−2)
実施例2−6で調製したEPO封入ヒアルロン酸ハイドロゲルに対して、1Mリン酸緩衝液(pH 6.5)0.010mL、ならびにヒアルロニダーゼ(Hyaluronidase SD、生化学工業製)溶液(1ユニット/mL、100mMリン酸緩衝液、pH 6.0、0.01%BSAを含む)0.050mLを添加して、37℃で1日間、酵素処理を行った。酵素処理後の溶液0.030mLを、100mMリン酸緩衝液(pH7.4)0.120mLと混合し、試料溶液とした。試料溶液は、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)測定を行い、0.1mg/mLのEPO水溶液を標準溶液として、標準溶液と試料溶液のピークエリア比から試料溶液中EPO濃度を算出した。添加したEPO量(0.0428mg/ゲル1個)に対してRP−HPLCより求めたEPO量を回収率として算出した。
実施例2−6で調製した4つのサンプルについてのRP−HPLCの測定結果を図3(クロマトグラム)、表3(数値)、および図6(グラフ)に示す。この結果は、EPOの回収率は架橋反応条件におけるpHの変化によって有意に変化すること、該回収率はpH6.0〜6.8付近で大きく変化すること、さらに約pH6.4以下のpH値が架橋反応の条件として好ましいことを示している。
実施例4:EPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルのin vitro薬物放出実験
(実施例4−1)
実施例1−3で調製したヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸(HA−HZ)(ロット2)、117.44mgを0.9395mLの蒸留水に溶解した。この溶液に対して、1M酢酸水溶液(pH 4.8)0.1174mLを添加、混合し、均一溶液とした。更に8.57mg/mLのEPO水溶液を0.1174mLを加えて均一溶液とした。これを0.1mLずつ取り分け、架橋剤としてBS3(PIERCE製)をヒドラジド基に対してBS3/HZ=0.1、すなわち化学反応性を有するヒドラジド基に対してスクシンイミジルエステル(NHS)基が20モル%になるように0.526mgずつ100mg/mLの水溶液として添加し、速やかに均一混合した。これを室温で2時間反応させてEPO封入HAハイドロゲルを得た(n=4)。
4つのうち、1つのゲルは、実施例3−1と同様の処理を行い、封入されたEPO量を求めた。3つのゲルは、各々150mM PBS(pH7.4)1mLを添加して密封し、37℃の恒温相中で穏やかに振とうすることで、in vitro薬物放出実験を行った。37℃での振とう開始後、1、3、6、20、44、116、164、212、290、357時間に溶出液を0.2mL採取した。採取後、新たに150mM PBS(pH7.4)0.2mLを加えて、放出実験を継続した。採取した溶出液を試料溶液として、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)測定を行い、0.1mg/mLのEPO水溶液を標準溶液として、標準溶液と試料溶液のピークエリア比から試料溶液中EPO濃度を算出した。放出されたEPO量を算出し、累積放出量をEPO封入量に対する累積放出率として算出した。
EPOの累積放出率(%、平均値±標準偏差、n=3)を表4(数値)および図7(グラフ)に示す。この結果は、EPO封入ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲルからのEPOの徐放期間は約12日間であり、封入量の85%が放出されたことを示している。




【産業上の利用の可能性】
本発明の薬物徐放担体は、タンパク質、ペプチドの生物活性を維持したままこれらをin situ化学架橋、ヒアルロン酸誘導体ハイドロゲル中に封入でき、優れた回収率でタンパク質、ペプチドの徐放を可能にする。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH6.4以下の溶液中でヒアルロン酸にヒドラジド基を導入したヒアルロン酸誘導体を化学架橋することを特徴とする、ヒアルロン酸誘導体ゲルの製造方法。
【請求項2】
以下の工程を含む、ヒアルロン酸誘導体ゲルの製造方法:
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、置換ヒドラジド基、置換アミド基、またはエステル基に変換することにより、ヒドラジド基を導入する工程、
(b)上記ヒドラジド基が導入されたヒアルロン酸誘導体をpH6.4以下の溶液中で架橋する工程。
【請求項3】
以下の工程を含む、ヒアルロン酸ゲルの製造方法:
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、置換ヒドラジド基、置換アミド基、またはエステル基に変換することにより、式(I):

(式中、Xは、−N(−R)−、または−O−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基であり、
a2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、−Y−R−Y−NHNHであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
は、単結合、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−1ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基であり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−CO−、または、−CHCO−であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体を合成する工程、
(b)上記ヒアルロン酸誘導体をpH6.4以下で化学架橋する工程。
【請求項4】
ヒドラジド基の、ヒアルロン酸誘導体中のグルクロン酸当たりの導入率が3モル%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
架橋剤中に含まれる、ヒドラジド基と反応する化合物官能基が、導入されたヒドラジド基に対して40モル%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により作製された、ヒアルロン酸ゲル。
【請求項7】
上記ヒアルロン酸ゲルがハイドロゲルである、請求項6に記載のヒアルロン酸誘導体ゲル。
【請求項8】
タンパク質又はペプチド存在下で、pH6.4以下の溶液中でヒアルロン酸にヒドラジド基を導入したヒアルロン酸誘導体を化学架橋することを特徴とする薬物徐放担体の製造方法。
【請求項9】
以下の工程を含む、薬物徐放担体の製造方法:
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、ヒドラジド基に変換することにより、ヒドラジド基を導入する工程、
(b)上記ヒドラジド基導入されたヒアルロン酸誘導体を、タンパク質またはペプチド存在下、pH6.4以下の溶液中で架橋する工程。
【請求項10】
以下の工程を含む、薬物徐放担体の製造方法:
(a)ヒアルロン酸の少なくとも1以上のカルボキシル基を、ヒドラジド基に変換することにより、式(I):

(式中、Xは、−N(−R)−、または−O−であり、
は、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基であり、
2a、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−6アルキル基、直鎖または分枝C1−6アルケニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニル基、直鎖または分枝C1−6アルキルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルケニルカルボニル基、直鎖または分枝C1−6アルキニルカルボニル基、または−SOOHであり、
は、−Y−R−Y−NHNHであり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−N(−R)−、−CO−、または−CHCO−であり、
は、単結合、直鎖または分枝C1−10アルキレン基、直鎖または分枝C1−1ヒドロキシアルキレン基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基であり、
は、単結合、−N(−R)CO−、−CO−、または、−CHCO−であり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖または分枝C1−10アルキル基、直鎖または分枝C1−10ヒドロキシアルキル基、ポリアルキレンオキサイド基、ポリペプチド基、ポリエステル基である。)
で示される繰り返し構造を、少なくとも1以上分子内に有するヒアルロン酸誘導体を合成する工程、
(b)上記ヒアルロン酸誘導体を、タンパク質またはペプチド存在下、pH6.4以下で化学架橋する工程。
【請求項11】
ヒアルロン酸中のグルクロン酸当たりのヒドラジド基の導入率が3モル%以上であることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
架橋剤中に含まれる、ヒドラジド基と反応する化合物官能基が、導入されたヒドラジド基に対して40%モル以下であることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法により作製された、薬物徐放担体。
【請求項14】
請求項13に記載の薬物徐放担体を含む、薬剤組成物。

【国際公開番号】WO2004/050712
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556859(P2004−556859)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015259
【国際出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】