説明

薬物溶出のための人工内耳電極の構成

本明細書は、薬物溶出部分を含む、蝸牛組織を電気刺激するための蝸牛電極アレイを開示する。この装置は、治療有効量の内耳向け薬学的作用物質を経時的に放出するのに適合している。薬学的作用物質は、各種治療応用に合わせて局所的に放出できる。本発明の実施態様は、電気的に蝸牛組織を刺激するための蝸牛電極アレイに関する。前記アレイは、内耳中に、経時的に、治療効果量の薬学的作用物質を放出するのに適合した薬物溶出部分を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬理学的活性作用物質を内耳中に一過性に溶出させるための薬物溶出人工内耳電極に関する。
【背景技術】
【0002】
内耳の電気刺激は、難聴患者の聴覚回復に大きな成功をおさめている。蝸牛内電極は、電極接点近傍の神経組織を直接電気刺激することによって聴覚を回復させるものである。電気刺激は、鼓室階腔内深くに挿入された電極に接続する、移植された人工内耳刺激装置を使って行われる。
【0003】
しかし電極の挿入は、様々な大きさの外傷および結合組織増殖を起こす。外傷の大きさを予測することは難しく、蝸牛の解剖学的構造、電極のデザイン、および挿入技術に依存する。組織が負った外傷は、続いて神経組織(即ち有毛細胞および螺旋神経節細胞)のアポトーシスおよび/または壊死をもたらす。組織の増殖および外傷は、インプラントの性能を制限することがあり、螺旋神経節細胞への外傷は蓄積性であり、現在の技術水準では取り除くことはできない。有効で利用可能な聴覚を残す患者の多くが人工内耳を利用するようになり、外傷性を最小限にとどめる電極の使用がますます重要になっており、また生涯に繰り返し再移植を受けることになる若年患者への移植が増加していることから、その後の移植においては、螺旋神経節細胞への外傷を最小限にとどめなければならない。
【0004】
外傷は通常、内耳の繊細組織内に電極を挿入することによって起こる。挿入に際しては、電極が螺旋状の蝸牛組織から受ける摩擦を上回る機械力を電極に加える必要がある。器官または組織への外傷を減らすためには、電極およびカテーテルは柔らかく且つ柔軟でなければならず、挿入力は最小限でなければならない。残念なことに、今日販売されている大部分の人工内耳電極は、鼓室階の全長に比べ遙かに短い距離でさえ、挿入に大きな力を必要とする。
【0005】
電極またはカテーテルの挿入に必要な力は、そのサイズ、幾何学、および構成材料に関係する。このような装置に用いられる材料としては、ワイヤー、接点、金属製またはポリマー製の機能セグメント用の材料、およびバルク材料が挙げられる。装置のサイズ、使用する材料の剛性、電極アレイ外殻の疎水性、何かにつけて電極表面に保存されるエネルギー、および装置を挿入する行程の全てが、電極交換中に加わる組織損傷の大きさと場所に影響する。
【0006】
損傷および外傷は、出血、炎症、軟組織の穿孔、膜内の断裂および穴、ならびに薄い骨構造の破砕を引き起こす。生じた損傷は、生存有毛細胞を消失させ、コルティ器官に分布する樹状突起を退行性に変性させ、最悪の場合ローゼンタール管内の螺旋神経節細胞を死滅させることもある。細胞死は、刺激に応答できる神経細胞が量的に少なくなることを意味し、定性的には周波数情報を示すことができる周波数同調神経繊維が少なくなることを意味する。螺旋神経節細胞が失われないまま有毛細胞が更に減少し、樹状突起が減るということは、音刺激がもはや不可能であること、音刺激と電気刺激の相乗作用が利用できなくなることを意味する。電気−音の相乗効果は、騒々しい環境での良好な音識別にとって重要であろう。
【0007】
人工内耳に関する別の不都合は、測定される電極インピーダンスが手術後に上昇することである。この上昇は電極が緻密な繊維性の膜に封入され、これが接点周囲にイオン減少域を作りだして電気刺激の効率を下げるためと考えられている。その結果、低い電極インピーダンスを維持するために、手術後、蝸牛内に医薬品を投入することになる。例えば、コルチコステロイドの投入は、手術後のインピーダンス上昇を下げることができる。この投入は電極上に医薬品を沈積させるか、または擦り込むことによって行える。電極は鼓室階の体液内にも入ることから、医薬品の溶液は直ぐに溶け出してしまい、医薬品が最も利益をもたらす場所に到達できないか、または手術後薬物が必要とされる所望時間まで保たないことがある。
【0008】
人工内耳を使用していない患者については、メニエール病または目眩の治療を目的として内耳に医薬品を送り込むことが試みられている。薬物は、中耳内にボーラス注射されると、若干透過性である正円窓を通り送達される。正円窓を使った薬物の送達に関係する一つの問題は、分子性物質に対する膜透過性が日中変動すること、更に高分子が緻密なこの膜を通過できないことである。非常に小さな薬学的物質は、蝸牛入口から数ミリメートル先の蝸牛域に到達すると考えられる。
【0009】
人工内耳を移植した後に内耳に医薬品を送り込む簡単な方法は無い。中耳へのアクセスは容易ではなく、内耳は人工内耳手術時を除いて医薬品を直接沈積または注射できない密封されたシステムである。手術後、蝸牛は一部が電極で占められるが、電極は動かすことも取り出すこともできない。
【0010】
コルチコステロイドを含む薬物溶出電極のリード線は、これまで心臓ペースメーカー電極において接触インピーダンスを下げるのに成功している。これに加えて薬理的活性作用物質が加えられたシリコンエラストマーも、避妊具、血管傷害治療装置、およびステントといった複数の応用で溶出構造物として用いられている。薬物溶出電極は、人工内耳と一緒に用いられてはいない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明の実施態様は、電気的に蝸牛組織を刺激するための蝸牛電極アレイに関する。前記アレイは、内耳中に、経時的に、治療効果量の薬学的作用物質を放出するのに適合した薬物溶出部分を具備する。
【0012】
更なる態様では、電極アレイは、収納型薬物放出装置を含むスロットも具備でき、その場合装置の幾何学が薬学的作用物質の放出速度を決定する。薬学的作用物質放出装置は、ゲル、粒子、または固体でよい。薬物溶出部分は、シリコンをベースとしたエラストマーのような、薬学的作用物質を組み入れるポリマー材料でよい。
【0013】
様々な態様では、薬物溶出部分は、二層の非薬物溶出材料層に挟まれた一層の物質でよい。例えば、薬物溶出部分は、電極アレイの0.25〜2%の質量を占めることができる。薬物溶出部分は、非薬物溶出物質の厚みが薬学的作用物質の放出速度を決定するように非薬物溶出物質中に埋め込むことができる。薬物溶出部分は、電極アレイが内耳に入る場所から3mm以下の場所から始まってよい。薬学的作用物質の放出速度は、薬物溶出および非薬物溶出部分の材料の架橋密度、非薬物溶出部に面する薬物溶出部分の表面積、および薬物溶出部分の容積のうちの一つまたは複数によって決定される。
【0014】
いくつかの態様では、薬物溶出部分は第一および第二薬物溶出部分を具備することができ、それぞれの部分は異なる薬学的作用物質を放出するのに適合している。電極アレイは、蝸牛組織を電気刺激するための電気接点を複数具備することができ、前記接点の少なくとも一つは、薬学的作用物質によってコーティングされている。薬学的作用物質は、薬物溶出部分の材料に混入された100μm未満の固形粒子の形でよい。
【0015】
薬学的作用物質の放出速度は、複数の規定サイズの薬学的作用物質の粒子を持たせることに拠ってもよい。例えば、粒子の少なくとも90%は50μm未満でよく、且つ/または粒子の少なくとも50%は10μm未満でよい。
【0016】
薬学的作用物質は、ベータメタゾン、クロベタゾール、ジフロラゾン、フルオシノロン、トリアムシノロン、それらの塩、エステル、または組み合わせのようなコルチコステロイドでよい。または、コルチコステロイドはデキサメタゾンでよく、例えば電極アレイは使用開始から24時間の間に0.1〜1μgのデキサメタゾンを放出するのに適合させることができる。
【0017】
幾つかの態様では、薬学的作用物質は抗炎症剤でよい。例えば、抗炎症剤の生理食塩水中への飽和溶解度は37℃では少なくとも80μg/mlであろう。電極アレイは、移植後最初の1週間の間に1〜5μgの抗炎症剤を放出するのに適合させることができる。薬学的作用物質は、抗生物質、酸化防止剤、または成長因子でもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
特定態様の詳細な説明
手術後のある期間、治療効果量の薬理学的作用物質を放出できる蝸牛電極アレイが求められている。本発明の態様は、所定量の医薬品を、電極本体を形作るシリコンポリマーエラストマーの一部または全体に組み入れることに基づく蝸牛電極アレイを含む。前記医薬品は、エラストマー材料から経時的に放出され、内耳の体液内に拡散する。拡散した分子は、次に関心対象の受容体を標的にする。
【0019】
内耳には、薬理学的作用物質の局所送達に関して、深部コンパートメントであることを含め様々な考慮すべき事項があり、このことは全身投与後の薬物作用が遅延すること、即ち抗生物質、コルチコステロイド、酸化防止剤、および成長因子を送達して、神経組織および軟組織の様な聴覚器官を再生させるのには好適であることを意味する。内耳は非常に小さく、本質的に閉じた空間であり、内耳に放出された医薬品はその空間内に閉じ込められ続ける傾向があるが、この期間の薬物動態特性はよく分かっていない。かくして、この環境内にゆっくり放出される薬理学的作用物質は、内耳内でのみ生物活性である傾向があり、内耳の外への拡散は非常に小さい。
【0020】
図1は、本発明の様々な態様に従って薬物溶出部分11および非薬物溶出部分12を含むように作られた人工内耳電極アレイ10の例を示す。図1に示すそれぞれの例では、斜交平行模様の付いた部位は、薬理学的作用物質の放出に適合する材料、即ち薬物溶出部分11を表す。図1の陰影の付いていない部位は、薬物放出機能を持たない材料、即ち非薬物溶出部分12を表す。
【0021】
図1Aに示す様に、電極アレイ10の断面は、典型的には楕円形または卵形である。図1Aは、電極アレイ10の下半分に、内耳の周囲体液に薬理学的作用物質を持続放出する薬物溶出材料を含む薬物溶出部分11が含まれる態様を示す。この態様の上半分は、薬物溶出機能を持たない材料を含有する非薬物溶出部分12である。図1Bは、それぞれが異なる薬理学的作用物質の放出に適合させることができる2つの異なる薬物溶出部分11を有する電極アレイ10の別の態様を示す。図1Cに示す態様では、電極アレイ10の下半分全体が薬物溶出部分11である。このような態様では、電気刺激接点および接続ワイヤーのような電極アレイ10の他の構造要素は、アレイの非薬物溶出部分12内に収められるだろう。図1Dに示す態様では、電極アレイ10の一部の断面積全体が、薬理学的作用物質をその材料内に組み入れ持続放出にするのに適合している薬物溶出部分11である。図1Eでは、電極アレイ10全体に、薬理学的作用物質を組み入れる材料が使用される。このような配置では、アレイのより小さな容積部分を用いる態様に比べると、エラストマー材料内の薬理学的作用物質の濃度は低くなるだろう。図1Fは、電極アレイ10の前方部分の全容積が薬物溶出部分11として働くのに適合する更に別の態様を示す。例えば、薬物溶出部分11は、電極アレイ10が内耳内に入る場所から3mm以上の場所で始まる。
【0022】
薬理学的作用物質が電極アレイ10の薬物溶出部分11のポリマーマトリックス材料から放出される速度は、様々な因子に依存する。そのような因子としては、ポリマー周囲の体液に露出する薬物溶出部分11の表面積の大きさ、または薬物非装填ポリマーが挙げられる。薬物溶出部分11のポリマー材料内の医薬品の濃度も送達持続時間に影響する。薬理学的作用物質の放出速度は、薬物溶出部分11内の物質の架橋密度、ならびに薬物溶出部分11の容積といった別の要因にも依存するだろう。
【0023】
図2は、本発明の更なる多様な態様の断面図を示す。図2Aに示す例では、電極アレイ20は、非薬物溶出材料22の2つの層に挟まれた材料層である薬物溶出部分21を含む。このような態様では、薬物溶出部分21内の薬理学的作用物質の放出速度は、電極アレイ20側に向いた薬物溶出部分の表面積の大きさに依存する。例えば、薬物溶出部分21の質量は、電極アレイ20の質量の0.25〜2%であろう。
【0024】
図2B〜Dに示す態様では、電極アレイ20は非溶出材料22の中に通路溝23を具備し、その中に薬物溶出部分21が組み入れられる。図2Bでは、薬物溶出部分21は、それが保持される通路溝23よりも若干小さな棒状であり、そのため内耳の体液は薬物溶出部分21の全外周と接し、経時的に薬理学的作用物質を内耳体液内に放出する。図2Cでは、薬物溶出部分21は非薬物溶出物質材料22の通路溝23内に、よりしっかり嵌め込まれる。その結果、薬物溶出部分21の底面だけが内耳体液と接触しており、薬理学的作用物質はよりゆっくり放出される。図2Dに示す態様では、薬物溶出材料の丸棒21は、非薬物溶出材料22の通路溝23の中に埋め込まれており、通路溝には内耳体液を制御しながら薬物溶出材料21の円筒棒表面にアクセスさせる正方形の断面域がある。
【0025】
図3は、薬物溶出部分31が非薬物溶出材料32の中に完全に埋め込まれている電極アレイ30(電極接点33を含む)の態様を示す。このような態様では、薬理学的作用物質が薬物溶出部分31から放出される速度は、装填量および表面積といった薬物溶出部分のパラメータだけでなく、被覆層の非薬物溶出材料33の厚みによっても決まる。
【0026】
図4Aは、図3に示したものと類似するが、非薬物溶出材料43中に通路溝42を含み、これによって内耳体液の一部が薬物溶出部分41の表面の一部と接触できるようになる電極アレイ40の別の態様の断面を示す。この場合も、薬理学的作用物質の放出速度は、露出している薬物溶出部分41の表面積の大きさのみならず薬物溶出部分41の材料内の薬理学的作用物質の濃度によって、且つおそらくは薬物溶出物質を通過する薬理学的作用物質の拡散速度によって決まる。図4Bは、薬物溶出部分41のシリコン材料が電極アレイ40表面上の電極接点44のどちらか一方の側に配置され、電極の残りの領域は単なるシリコン材料である電極アレイ40の別の態様を示す。このような態様では、電極接点44の一つまたは複数を、薬学的作用物質でコーティングすることもできる。
【0027】
手術後の内耳内への放出に好適な具体的な薬理学的作用物質の例としては、神経栄養因子、遺伝子治療作用物質、抗アポトーシス剤、および酸化防止剤、ならびに抗生物質が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの薬剤は神経保護作用を有し、いくらか外傷性である蝸牛移植後に内耳の中立状態を保つのに役立つだろう。
【0028】
他の好適な薬理学的作用物質としては、抗炎症剤が挙げられる。これらの疎水性および低溶解性の作用物質は、蝸牛移植手術後の局所炎症の克服に役立つだろう。例えば、抗炎症剤の生理食塩水への飽和溶解度は、37℃では80μg/mlであろう。電極アレイは、移植後最初の1週間の間に、1〜5μg未満の抗炎症剤を放出するのに適合させることができる。装置は、2つの異なる薬物装填領域を利用して、上記に提案するデザインを用いて、一または複数の殺菌剤、抗生物質、酸化防止剤、または成長因子を、コルチコステロイドを同時に送達することもできる(図1B及び4B)。
【0029】
特別、且つ緊急の関心事は、コルチコステロイドを使用して移植後の繊維化を制御することである。このようなコルチコステロイドの一例はデキサメタゾンである。例えば、電極アレイは、使用開始から24時間の間に0.1〜1μgのデキサメタゾンを放出するのに適合させることができる。薬物溶出人工内耳電極アレイでの使用に好適なコルチコステロイドの他の例としては、ベータメタゾン、クロベタゾール、ジフロラゾン、フルオシノロン。トリアミシノロン、またはそれらの塩、エステル、もしくは組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
コルチコステロイドの溶解性は低いことから、シリコンを基材とした薬物溶出装置は、最初に薬理学的作用物質の粒子を所望サイズまで微粉砕することによって作ることができる。例えば、薬学的作用物質は、薬物溶出部分を調製する材料内に混入された100μm未満の固体粒子の形をとることができる。薬学的作用物質の放出速度は、薬学的作用物質の粒子を複数の規定サイズにすることに基づくことができる。例えば、幾つかの態様では、粒子の少なくとも90%は50μm未満のサイズでよい。これに加えて、またはこれに代わって、粒子の少なくとも50%は10μm未満のサイズでよい。粒子は、高速二重遠心分離混合機を使って、有効性が確認されたやり方で、液体シリコンポリマーと完全に混合できる。全ての態様で、前記混合物に架橋溶液を加えることができる。得られた混合物は次に、適切にデザインされた型を使って、薬物溶出部分のために用意された空間に注入される。
【0031】
周辺の内耳体液中の薬学的作用物質の濃度は、薬物溶出材料内に装填された薬物の量および薬学的作用物質の透過性に依存する。放出時間は、シリコンの架橋密度、電極アレイのパーセンテージで表される薬物装填量、薬物を装填したポリマーの容積、および蝸牛体液に露出している面積に依存して、数日から数ヶ月であろう。
【0032】
本発明の態様による電極アレイは、様々な段階で組み立てることができる。例えば、電気刺激に用いるワイヤーおよび電極接点は、アレイの成形型の半体内に配置できる。次に成形の第一段階では、もう一方の型またはマスキングを使って、第二段階で薬物溶出シリコン材料を注入できる空間をのこしながらワイヤーおよび電極接点を封入する。この方法は、2つの類似ポリマーを結合させ、電極の輪郭を確実に均一にできる。
【0033】
二段階の成形工程を用いる一つの利点は、薬学的作用物質を装填しなければならない部分が、内耳体液内に入る電極アレイの一部だけでよいことである。蝸牛の外になる電極アレイ部分は、非薬物溶出材料で作ることができ、薬物放出に関わる必要はない。
【0034】
複数回のマスキングを含む多段階成形工程も、二カ所以上に好適な薬物溶出材料を連続して加え、各薬物溶出部分が異なる薬学的作用物質の組成物を持つようにできる。こうすることで、電極に、異なる受容体を標的とし、および拡散速度が異なる好適薬物または薬物を電極内に組み入れることができる。
【0035】
薬理学的に活性な作用物質を装填したポリマーロッドは、事前に作製してもよい。薬物溶出材料のロットは、電極アレイの主たる非薬物溶出部分を作る時に用いたものと同一、または類似のシリコンから作ることができる。例えば、薬物溶出ロッドは、必要な設備を備えた高いレベルの製薬研究所で事前に作製できる。次にロッドを別の場所に運び、そこで人工内耳電極と一緒に組み立てることができる。例えば図2B、2D、および4に示す電極アレイは、事前に作製された薬物溶出ロッドとの最終的組立てのために、事前作製することができる。
【0036】
本発明の様々な例示的態様を開示したが、本発明の真の範囲から逸脱することなく本発明の利点の幾つかを達成する各種の変更および修正が可能であることは当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1A〜Fは、人工内耳電極に薬物溶出シリコンを部分装填する様々なやり方を示す図である。
【図2】図2A〜Dは、薬物溶出シリコンを有する蝸牛電極の、更に様々な具体的態様を示す図である。
【図3】図3は、薬物溶出シリコン、および電極上の溝内に薬物溶出シリコン棒を有する態様を示す図である。
【図4】図4A〜Bは、薬物溶出シリコンを電極に組み入れる別の態様を示す図である。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蝸牛組織を電気刺激するための蝸牛電極アレイを含む蝸牛人工内耳電極アレイであって:
治療有効量の内耳用の薬学的作用物質を経時的に放出するのに適合した薬物溶出部分を含む人工内耳電極アレイ。
【請求項2】
薬学的作用物質が装填されたロッドが収められる溝を具備する、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項3】
前記溝の幾何学は、前記薬学的作用物質が放出される速度を決定する、請求項2に記載の電極アレイ。
【請求項4】
前記薬学的作用物質は、ゲル、粒子、または固体である、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項5】
前記薬物溶出部分は、前記薬学的作用物質を組み入れたポリマー材料である、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項6】
前記ポリマー材料は、シリコンをベースとしたエラストマーである、請求項5に記載の電極アレイ。
【請求項7】
前記薬物溶出部分は、非薬物溶出材料の2つの層の間に挟まれた材料の層である、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項8】
前記薬物溶出部分は、前記電極アレイの質量の0.25〜2%を占める、請求項7に記載の電極アレイ。
【請求項9】
前記薬物溶出部分は、非薬物溶出材料内に埋め込まれている、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項10】
前記非薬物溶出材料の厚さが、前記薬学的作用物質が放出される速度を決定する、請求項9に記載の電極アレイ。
【請求項11】
前記薬物溶出部分は、電極が内耳に入る場所から3mm以下の位置で始まる、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項12】
前記薬学的作用物質の放出速度は、薬物溶出部分の材料の架橋密度に基づく、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項13】
前記薬学的作用物質の放出速度は、内耳の体液に曝される前記薬物溶出部分の表面積の大きさに基づく、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項14】
前記薬学的作用物質の放出速度は、前記薬物溶出部分の容積に基づく、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項15】
前記薬物溶出部分は、第一および第二薬物溶出部分を具備し、各部分は異なる薬学的作用物質の放出に適合する、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項16】
蝸牛組織を電気刺激するための電気接点を複数具備し、前記接点の少なくとも一つは薬学的作用物質でコーティングされている、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項17】
前記薬学的作用物質は、前記薬物溶出部分の材料内に混入された100μm未満の固形粒子の形状をした、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項18】
前記薬学的作用物質の放出速度は、複数の規定サイズの薬学的作用物質の粒子を有することに基づく、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項19】
前記粒子の少なくとも90%は50μm未満である、請求項18に記載の電極アレイ。
【請求項20】
前記粒子の少なくとも50%は10μm未満である、請求項18に記載の電極アレイ。
【請求項21】
前記薬学的作用物質はコルチコステロイドである、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項22】
前記コルチコステロイドは、ベータメタゾン、クロベタゾール、ジフロラゾン、フルオシノロン、トリアムシノロン、それらの塩、エステル、または組み合わせを含む、請求項21に記載の電極アレイ。
【請求項23】
前記コルチコステロイドはデキサメタゾンである、請求項21に記載の電極アレイ。
【請求項24】
使用開始24時間の間に0.1〜1μgのデキサメタゾンを放出するのに適合している、請求項23に記載の電極アレイ。
【請求項25】
前記薬学的作用物質は抗炎症剤である、請求項1に記載の電極アレイ。
【請求項26】
前記抗炎症剤の生理食塩水中の飽和溶解度は、37℃で少なくとも80μg/mlである、請求項25に記載の電極アレイ。
【請求項27】
移植後最初の1週間の間に1〜5μgの抗炎症剤を放出するのに適合している、請求項25に記載の電極アレイ。
【請求項28】
前記薬学的作用物質は、抗生物質、酸化防止剤、または成長因子である、請求項1に記載の電極アレイ。

【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2009−529363(P2009−529363A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557854(P2008−557854)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002833
【国際公開番号】WO2007/148231
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(507417101)メド−エル エレクトロメディジニシェ ゲラテ ゲーエムベーハー (26)
【Fターム(参考)】