説明

薬物送達具

【課題】血管壁内に薬物を確実に送達することができる薬物送達具を提供する。
【解決手段】薬物送達具10は、例えば腎動脈12の血管壁12a内に所定の薬物20を送達するための医療用器具である。この薬物送達具10は、血管の外周面に巻き付け可能な可撓性を持つシート16と、シート16の前記血管への巻き付け面16aに設けられ、前記血管に刺入可能な複数の針体18と、シート16及び針体18の少なくとも一方に設けられ、前記血管の周囲にある神経に作用する薬物20とを備える。この薬物20は、例えば、腎動脈12周囲にある交感神経14の伝達を遮断するか、又は交感神経14の再生を阻害する薬物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管壁内に所定の薬物を送達するための薬物送達具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、抗圧剤を服用しても高血圧状態の改善が難しい難治性高血圧の患者に対しては、腎動脈周囲にある交感神経を切断し、その伝達を遮断することで血圧低下を期待できるという知見がある。
【0003】
経皮的に腎動脈の交感神経を切断する手技としては、アブレーションカテーテルを用いて行うことが一般的である。例えば、特許文献1には、このような腎動脈周囲にある交感神経を切断するアブレーションカテーテルとして、パルス出力電解発生器によって神経に電気穿孔や電気溶融を付与することができるカテーテルが開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、腎動脈周囲の交感神経の伝達を遮断するための装置として、腎動脈の周囲に、神経ブロッキング剤の送達のための薬剤ポンプ又は薬剤徐放装置を埋め込むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−515544号公報
【特許文献2】特表2008−508024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1のアブレーションカテーテルを用いた手技では、神経の焼灼が確実に行われているか否かを確認することが困難である。さらに、焼灼により神経を一旦破壊することができるものの、その後、神経軸索が伸張し、再生してしまう可能性がある。
【0007】
また、上記特許文献2の装置において、薬剤ポンプを腎動脈周囲に埋め込む方法では、患者の負担が大きくなり、さらに、薬剤徐放装置を単に腎動脈周囲に埋め込んだとしても、その薬剤が血管壁内に確実に送達される保証はなく、特に血管外膜内にある神経に確実に作用させることができない可能性がある。
【0008】
本発明はこのような従来技術の課題を考慮してなされたものであり、血管壁内に薬物を確実に送達することができる薬物送達具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る薬物送達具は、血管壁内に薬物を送達するための薬物送達具であって、血管の外周面に巻き付け可能な可撓性シートと、前記可撓性シートの前記血管への巻き付け面に設けられ、前記血管に刺入可能な複数の針体と、前記可撓性シート及び前記針体の少なくとも一方に設けられ、前記血管の周囲にある神経に作用する薬物とを備えることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、血管の外周面に巻き付け可能な可撓性シートと、血管に刺入可能な複数の針体と、血管周囲にある神経に作用する薬物とを備えることにより、当該薬物送達具を所望の血管、例えば腎動脈に外周から巻き付けるだけで、針体がその血管壁に刺入されるため、該血管壁内に薬物を確実に且つ容易に送達することができる。
【0011】
前記薬物は、前記血管の周囲にある神経の伝達を遮断するか、又は前記神経の再生を阻害する薬物を含むものであってもよい。
【0012】
前記血管に巻き付けた前記可撓性シートを固定する固定手段を備えると、当該薬物送達具の血管への巻き付け状態を確実に保持することができ、一層安定した薬物送達が可能となる。
【0013】
この場合、前記固定手段は、前記可撓性シートの前記巻き付け面に塗布された接着剤、又は、前記可撓性シートを前記血管への巻き付け状態で固定するクリップ、若しくはバンド、若しくは弾性体であってもよい。
【0014】
前記薬物は、前記針体の表面に塗布されているか、又は前記針体の内部に封入されていると、針体が血管壁に刺入した状態で該血管壁内へと薬物を一層確実に送達することができる。
【0015】
この場合、前記針体は、前記可撓性シートから離脱可能であってもよい。
【0016】
当該薬物送達具が、生分解性の材料によって形成されていると、体内に留置された薬物送達具は、薬物の血管壁内への送達の終了後、次第に分解されるため体内に残留することが防止される。
【0017】
前記血管は腎動脈であり、前記神経は前記腎動脈の周囲にある神経であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、血管の外周面に巻き付け可能な可撓性シートと、血管に刺入可能な複数の針体と、血管周囲にある神経に作用する薬物とを備えることにより、当該薬物送達具を所望の血管、例えば腎動脈に外周から巻き付けるだけで、針体がその血管壁に刺入されるため、該血管壁内に薬物を確実に且つ容易に送達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る薬物送達具の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す薬物送達具を腎動脈に巻き付けた状態を示す斜視図である。
【図3】図1に示す薬物送達具に備えられる針体及びその周辺を拡大した側面断面図である。
【図4】図1に示す薬物送達具の製造方法の一例を示す説明図であり、図4Aは、原版の側面断面図であり、図4Bは、図4Aに示す原版にシリコーン樹脂を流し込んだ状態を示す側面断面図であり、図4Cは、スタンパーの側面断面図であり、図4Dは、スタンパーの針状凹部に薬物を塗布した状態を示す側面断面図であり、図4Eは、薬物を塗布したスタンパーにシート原液を塗布した状態を示す側面断面図であり、図4Fは、スタンパーから薬物送達具を剥離した状態を示す側面断面図である。
【図5】図5Aは、第1変形例に係る薬物送達具を腎動脈に巻き付け、バンドで固定した状態を示す斜視図であり、図5Bは、第2変形例に係る薬物送達具を腎動脈に巻き付け、クリップで固定した状態を示す斜視図であり、図5Cは、第3変形例に係る薬物送達具を腎動脈に巻き付け、弾性体で固定した状態を示す斜視図である。
【図6】図6Aは、第4変形例に係る薬物送達具を構成する針体及びその周辺を拡大した側面断面図であり、図6Bは、第5変形例に係る薬物送達具を構成する針体及びその周辺を拡大した側面断面図であり、図6Cは、第6変形例に係る薬物送達具を構成する針体及びその周辺を拡大した側面断面図であり、図6Dは、第7変形例に係る薬物送達具を構成する針体及びその周辺を拡大した側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る薬物送達具について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る薬物送達具10の構成を示す斜視図であり、図2は、図1に示す薬物送達具10を腎動脈12に巻き付けた状態を示す斜視図である。本実施形態に係る薬物送達具10は、例えば、腹腔鏡下手術によって腎動脈12の外周面に巻き付けられることで、該腎動脈12の血管壁12a内及びその周囲にある交感神経(神経)14に対して所定の薬物(薬剤)を送達し、これにより該交感神経14の伝達機能を遮断(ブロック、不能化)して高血圧の治療を行う医療用の薬物送達装置である。
【0022】
図1及び図2に示すように、薬物送達具10は、所定の血管(本実施形態では腎動脈12)の外周面に巻き付け可能な可撓性を有するシート(可撓性シート)16と、シート16の腎動脈12への巻き付け面(表面)16aに突設され、血管壁12aに刺入可能な複数の針体(マイクロニードル)18とを備える。針体18は、巻き付け面16aの略全面を覆うように略等間隔で複数設けられ、各針体18には所定の薬物20が設けられている(図3参照)。
【0023】
さらに、薬物送達具10では、シート16の血管への巻き付け状態を保持するための固定手段として、該シート16の巻き付け面16a全体に接着剤21が塗布されている。接着剤21は、針体18表面にも塗布しておいてもよい。
【0024】
シート16は、可撓性を有する薄い矩形状のシートであり、当該薬物送達具10を適用する所望の血管(例えば、腎動脈12)に外周側から巻き付け可能に構成されている。シート16は、例えば、横方向長さ(血管に巻き付ける周方向長さ)が13.5mm〜21.5mm程度、縦方向長さ(血管の軸方向に対応する長さ)が13mm〜18mm程度、板厚が3〜5mmの矩形状(薄い直方体形状)に構成するとよい。シート16には、生分解性の材料を用いることが好ましく、例えば、ゼラチン、アガロース、マルトース、ペクチン、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、アルギン酸、及びデンプンのうち、いずれか又は複数を組み合わせた材料等が挙げられる。
【0025】
図1及び図2に示すように、腎動脈12への巻き付け時、その軸方向に沿った方向となるシート16の両側部には、一対の把持棒22、22が延在形成されている。各把持棒22は、腎動脈12への薬物送達具10の巻き付け時作業を容易に行うため、所定の鉗子等で把持可能な持ち手である。勿論、該把持棒22は省略してもよいが、把持棒22を設けておくことにより、接着剤21が塗布されたシート16を取り扱う際には、鉗子等が接着面に触れることなく巻き付け作業を行うことができ、当該薬物送達具10の取り扱い性が向上する。このような把持棒22についても、上記したシート16と同様の材料で形成するとよく、また、その形状は、鉗子等で確実に把持できる程度の長さ(例えば、20mm〜30mm程度)や外径(例えば、3mm〜5mm程度)であるとよい。
【0026】
図1〜図3に示すように、針体18は、シート16の巻き付け面16a上で突出し、シート16が腎動脈12に巻き付けられた状態で該腎動脈12の血管壁12aに刺入可能な先鋭な針であり、例えば三角錐形状で構成される。針体18は、例えば、底辺(三角形)の1辺の長さが125μm〜1250μm程度、高さが100μm〜1000μm程度の微小な針、いわゆるマイクロニードルと呼ばれるものである。針体18は、例えば、1枚のシート16上に1000個〜2000個程度が略均等に配置されることが好ましい。勿論、針体18は三角錐形状以外、例えば円錐形状や先鋭な円柱形状等であってもよい。
【0027】
図3に示すように、針体18は、シート16の巻き付け面16a上に固着された三角錐形状の突起(基部)23と、突起23の上部外面に塗布(コーティング)された薬物20を含む薬物層20aとから構成されている。なお、薬物20は、薬物層20aとして突起23の外面に塗布される構成以外にも、例えば、突起23自体の全部又は先端側の一部を薬物20を含む材質によって形成した構成としてもよい。
【0028】
薬物20は、所望の血管の周囲にある神経に作用する薬物、より詳細には、所望の血管の内膜、中膜、外膜及び周辺組織(例えば、前記神経)に作用する薬物であることが好ましく、例えば、腎動脈12の血管壁12a内に送達されることで、該血管壁12a(血管外膜)内及び該腎動脈12周囲の交感神経14を破壊し、その伝達機能を遮断可能な薬物を用いるとよい。このように交感神経14を破壊する薬物としては、ジブカイン、ミコフェノール酸、グリセリン、アルコール、神経毒等を例示することができる。なお、薬物20の溶媒としては、例えば水やアルコールを用いるとよい。また、薬物層20a(薬物20)の塗布厚さは、当該薬物送達具10の仕様によっても異なるが、例えば100μm程度にするとよい。
【0029】
突起23は、生分解性の材料を用いることが好ましく、例えば、シリコーン樹脂、UV硬化樹脂、ポリ乳酸、ゼラチン、アガロース、マルトース、ペクチン、ジェランガム、ガラギナン、キサンタンガム、アルギン酸、及びデンプンのうち、いずれか又は複数を組み合わせた材料で形成するとよい。
【0030】
当該薬物送達具10を血管に巻き付けた際の固定手段である接着剤21には、生分解性の接着剤を用いることが好ましく、例えば、ウレタンプレポリマー、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー及びフィブリン糊等の組織接着剤、又は、GRF(Gelatin Resorcinol Formaldehyde)、牛アルブミンとダルタルアルデヒドの混合接着剤、又は、シアノアクリレート系の合成接着剤、又は、ゼラチン系の天然接着剤等を挙げることができる。また、接着剤21の塗布厚さは、当該薬物送達具10の仕様によっても異なるが、例えば100μm程度で薄く均一に塗布するとよい。
【0031】
次に、本実施形態に係る薬物送達具10の製造方法の一例について、図4A〜図4Fを参照して説明する。
【0032】
先ず、図4Aに示すように、Ni等で形成された所定形状(例えば、横20mm、縦15mm、板厚5mm)の金属基板にダイヤモンドバイト等で切削加工を行い、表面に所定の三角錘形状(例えば、高さ200μmm、底辺の1辺の長さ250μm)の針形状部(アレイ)30を所定数(例えば、1200個)作製した原版32を作製する。針形状部30は針体18の形状に対応している。
【0033】
上記作製した原版32の針形状部30側にシリコーン樹脂を流し込み、加熱処理して硬化させた後(図4B参照)、該シリコーン樹脂を原版32より剥離することによりスタンパー34を作製する(図4C参照)。スタンパー34は、成型品となる薬物送達具10の反転形状を持つ原型であり、針形状部30によって形成された針状凹部34aが針体18型となり、各針状凹部34aの開口側を一体的に覆う浅く広い凹部34bがシート16の型となる。
【0034】
次に、図4Dに示すように、針形状部30の形状が転写されたスタンパー34の各針状凹部34aに所定の薬物20を所定量(例えば、塗布厚100μm程度)塗布する。該薬物20は、上記例示したものを用いるとよい。なお、薬物20の針状凹部34aへの塗布方法としては、例えば、マイクロシリンジポンプ、マイクロディスペンサー、インクジェット及びスプレー等を用いて薬物20を含有する溶液を塗布し、その後、該溶液中の溶媒(例えば、水やアルコール)を真空乾燥又は加熱乾燥で蒸発させる方法や、薬物20を含有する溶液にスタンパー34を浸漬させた後、前記の真空乾燥又は加熱乾燥を行う方法等が挙げられる。
【0035】
続いて、図4Eに示すように、針状凹部34aに薬物20を塗布したスタンパー34の凹部34bに対し、シート16の形成材料(例えば、ゼラチン)を含む水溶液であるシート原液36を塗布し、乾燥・固化させることにより、針体18を固着形成したシート16を成形する。そこで、図4Fに示すように、シート16及び針体18をスタンパー34から剥離した後、シート16の巻き付け面16a全体(及び針体18)に接着剤21を所定量(例えば、塗布厚100μm程度)塗布することにより、当該薬物送達具10の製造が完了する。
【0036】
次に、以上のように構成される本実施形態に係る薬物送達具10の作用について説明する。
【0037】
薬物送達具10は、所望の血管に巻き付け留置することで、針体18に設けた薬物20を該血管内に送達し、その周囲にある神経に作用させることができる医療用器具であり、例えば、抗圧薬を服用しても血圧が下がらない難治性高血圧の患者に対して用いられ、腎動脈12周囲にある交感神経14の伝達機能を遮断し、血圧の低下を目指す治療に使用される。
【0038】
薬物送達具10を腎動脈12に巻き付け留置する際には、例えば、全身麻酔下の腹腔鏡下手術において、所望の腎動脈12周囲の周辺臓器(副腎、膀胱、前立腺等)に向かう神経を避け、所定の鉗子や鋏等(図示せず)を用いて腎動脈12周囲の脂肪層を剥離し、腎動脈12を露出させる。
【0039】
そして、各把持棒22を前記鉗子等によって操作しつつ、シート16の巻き付け面16aが内側となるように腎動脈12の外周面に巻き付け、接着剤21によって接着固定する。これにより、針体18が腎動脈12の血管壁12aに刺入され、薬物20が血管壁12a内に確実に送達されることで、腎動脈12の外膜内や外膜外側にある交感神経14が薬物20の作用によって破壊され、その伝達機能を遮断することができる。
【0040】
この場合、本実施形態に係る薬物送達具10では、血管の外周面に巻き付け可能な可撓性を有するシート16と、該シート16の巻き付け面16aに設けられ、血管に刺入可能な複数の針体18と、血管周囲にある神経(例えば、腎動脈12周囲の交感神経14)に作用する薬物20とを備える。これにより、当該薬物送達具10を所望の血管、例えば腎動脈12に外周から巻き付けるだけで、針体18が血管壁12aに刺入されるため、該血管壁12a内に薬物20を確実に且つ容易に送達し、交感神経14の伝達機能を遮断し、高血圧の治療を行うことができる。
【0041】
この際、薬物送達具10では、上記従来のアブレーションカテーテル等を用いた方法と異なり、治療対象となる血管を直接に又は内視鏡等を介して肉眼的に確認しながら処置を行うことができる。このため、薬物送達具10は、血管近傍の治療対象でない神経を容易に且つ確実に避けつつ、所望の血管(神経)にのみ確実に巻き付けて薬物20を作用させることができるため、無用な神経の損傷を防ぐことができる。
【0042】
また、薬物送達具10では、シート16及び針体18と共に、シート16の固定手段(接着剤21)を含む全ての構成要素を生分解性を有する材料で形成しており、これにより、体内に留置された薬物送達具10は、薬物20の血管壁内への送達の終了後、次第に分解されるため体内に残留することはない。
【0043】
上記では薬物20を針体18に設ける構成を例示したが(図3参照)、薬物20は、針体18と共にシート16の巻き付け面16aに塗布しておいてもよく、さらには、針体18には設けず、シート16の巻き付け面16aにのみ設けてもよい。針体18に薬物20を設けない場合には、血管への薬物20の送達速度が多少低下する可能性はあるが、シート16からの薬物20は、針体18によって穿孔された血管壁の孔部を通して該血管壁内へと確実に送達される。
【0044】
薬物送達具10で血管に送達する薬物20としては、上記のように所望の神経を破壊し、その伝達機能を遮断する薬物以外であってもよく、例えば、物理的方法によって破壊された血管周囲にある神経(例えば、腎動脈12周囲の交感神経14)の再生を阻害するための薬物20、例えば、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、セマフォリン3A等を用いてもよい。薬物20として、この種の神経の再生を阻害する薬物を用いる場合には、薬物送達具10を血管に対して巻き付ける前に、予め、上記従来のアブレーションカテーテル等を用いて神経を切断しておくことにより、該切断した神経の再生を薬物20によって確実に阻害することができ、治療の効果を高めることができる。
【0045】
また、当該薬物送達具10の血管への巻き付け状態を固定する固定手段(上記では、接着剤21)を備えることにより、その巻き付け状態を確実に保持することができ、一層安定した薬物送達が可能となる。
【0046】
薬物送達具10を血管に巻き付けた際のシート16の固定手段としては、上記の接着剤21を用いた構成以外であってもよく、要は、血管に巻き付けたシート16を容易に且つ確実に固定できるものであればよい。
【0047】
例えば、図5Aに示すように、薬物送達具10は、前記固定手段として、血管(腎動脈12)に巻き付けたシート16の外周面(裏面)に巻き付けて結束するバンド40を用いた薬物送達具10aとして構成してもよい。バンド40は、生分解性の材料で形成することが好ましく、例えば、ポリグリコリド、L−ラクチド/グリコリドコポリマー、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシシブチレイト吉草酸、ポリオルソエステル等が挙げられる。バンド40は、2本以上用いてもよい。なお、バンドとは、所定の幅を持った帯や、細い糸や、数本の糸を捩った紐等を含む概念である。
【0048】
なお、バンド40を用いる場合には、接着剤21は当然省略可能であるが、該接着剤21とバンド40とを併用しても勿論よく、以下の各変形例(図5B及び図5C参照)についても同様である。
【0049】
図5Bに示すように、薬物送達具10は、前記固定手段として、血管(腎動脈12)に巻き付けたシート16の両端部(繋ぎ目)を挟持して固定する1又は2以上(図5Bでは3個)のクリップ42を用いた薬物送達具10bとして構成してもよい。クリップ42についても、生分解性の材料で形成することが好ましく、上記のバンド40と同様な材料を用いて構成するとよい。
【0050】
図5Cに示すように、薬物送達具10は、前記固定手段として、シート16の内部に埋設した弾性体(ばね)44を用いた薬物送達具10cとして構成してもよい。弾性体44は、シート16が平板状に伸びた状態(図1参照)では該平板状の状態を維持する方向の付勢力を有し、シート16を血管(腎動脈12)に巻き付ける際に該シート16を多少湾曲させると、前記平板状の状態から反発して血管への巻き付き状態を維持する方向の付勢力を有する。
【0051】
弾性体44についても、生分解性の材料で形成することが好ましく、例えば、ポリ−L−乳酸、「ポリ−D,L−乳酸」、「L−乳酸とD,L−乳酸の共重合体」、乳酸とグリコール酸の共重合体、乳酸とp−ジオキサノンの共重合体、乳酸とエチレングリコールの共重合体、乳酸とカプロラクトンの共重合体等が挙げられる。
【0052】
血管に刺入する針体としては、上記ではシート16上に一体的に成形された突起23の表面に薬物層20a(薬物20)を塗布した構成の針体18を例示したが、針体(マイクロニードル)は血管に刺入可能な構成であればよく、図3に示す構成以外であってもよい。
【0053】
例えば、図6Aに示すように、薬物送達具10は、前記針体として、シート16の巻き付け面16a上に固着された三角錐形状の突起23の外面全体に、薬物20を含む薬物層20aを塗布した針体18aを備える薬物送達具10dとして構成してもよい。針体18aは、突起23の外面全体に薬物20を設けたことから、図3に示す針体18に比べて、多量の薬物20を備えることができる。
【0054】
図6Bに示すように、薬物送達具10は、前記針体として、シート16の巻き付け面16a上に所定の接着剤46で接合された三角錐形状の突起23aの外面全体に、薬物20を含む薬物層20aを塗布した針体18bを備える薬物送達具10eとして構成してもよい。突起23aは、上記の突起23と同様な材質によって構成すればよい。また、接着剤46は、針体18bが血管に接触した際に剥離される程度の弱い接着力を持つ接着剤であり、つまり突起23aは巻き付け面16a上に所定の弱強度で接合されている。
【0055】
従って、針体18bは、シート16を血管に巻き付けた際に該血管に刺入されると同時に接着剤46による接合が外れ、血管壁内に刺入した状態でシート16から離脱(遊離)して該血管壁内に付着する。すなわち、血管壁を穿孔した針体18bは、血管壁内の十分深い位置まで刺入すると同時にシート16から外れて該血管壁内に残留する。このため、例えば、シート16を血管に巻き付けた後、固定手段(接着剤21等)によって固定する際、その巻き付け位置が多少ずれた場合であっても、針体18bは血管側に移行・付着していることから該シート16のずれに引きずられることがなく、針体18bが血管から抜去されることを防止して、薬物20をより確実に血管壁内に送達することができる。
【0056】
図6Cに示すように、薬物送達具10は、前記針体として、シート16の巻き付け面16a上に固着された略円柱形状の突起23bの外面全体に、薬物20を含む薬物層20aを塗布した針体18cを備える薬物送達具10fとして構成してもよい。突起23bは、上記の突起23と同様な材質によって構成すればよい。
【0057】
針体18cは、その先端が鈍形であることから、図3に示す針体18等と比べて血管への刺入性能は低下するものの、血管壁を完全に刺通することが防止されるため、例えば、管壁の薄い血管等、当該薬物送達具10fを適用する血管の種類、形状や位置によっては有効に用いることができる。勿論、当該針体18cと略同様に、他の針体18、18b、18dの先端を鈍形に構成することも可能である。
【0058】
図6Dに示すように、薬物送達具10は、前記針体として、シート16の巻き付け面16a上に固着された三角錐形状の薄い壁面で形成された突起23cの内部空間に、薬物20を含む溶液48を封入した針体18dを備える薬物送達具10gとして構成してもよい。突起23cは、上記の突起23と同様な材質によって構成すればよい。
【0059】
従って、針体18dでは、シート16を血管に巻き付け際、該血管に刺入されると同時に溶液48を内包する殻である突起23cの先端が折れ、該溶液48が流出することにより、薬物20を血管壁内に送達することができる。
【0060】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
10、10a〜10g…薬物送達具 12…腎動脈
14…交感神経 16…シート
16a…巻き付け面 18、18a〜18d…針体
20…薬物 21、46…接着剤
40…バンド 42…クリップ
44…弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管壁内に薬物を送達するための薬物送達具であって、
血管の外周面に巻き付け可能な可撓性シートと、
前記可撓性シートの前記血管への巻き付け面に設けられ、前記血管に刺入可能な複数の針体と、
前記可撓性シート及び前記針体の少なくとも一方に設けられ、前記血管の周囲にある神経に作用する薬物と、
を備えることを特徴とする薬物送達具。
【請求項2】
請求項1記載の薬物送達具において、
前記薬物は、前記血管の周囲にある神経の伝達を遮断するか、又は前記神経の再生を阻害する薬物を含むことを特徴とする薬物送達具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の薬物送達具において、
前記血管に巻き付けた前記可撓性シートを固定する固定手段を備えることを特徴とする薬物送達具。
【請求項4】
請求項3記載の薬物送達具において、
前記固定手段は、前記可撓性シートの前記巻き付け面に塗布された接着剤、又は、前記可撓性シートを前記血管への巻き付け状態で固定するクリップ、若しくはバンド、若しくは弾性体であることを特徴とする薬物送達具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬物送達具において、
前記薬物は、前記針体の表面に塗布されているか、又は前記針体の内部に封入されていることを特徴とする薬物送達具。
【請求項6】
請求項5記載の薬物送達具において、
前記針体は、前記可撓性シートから離脱可能であることを特徴とする薬物送達具。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の薬物送達具において、
当該薬物送達具は、生分解性の材料によって形成されていることを特徴とする薬物送達具。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬物送達具において、
前記血管は腎動脈であり、前記神経は前記腎動脈の周囲にある神経であることを特徴とする薬物送達具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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