説明

藍染生地の脱色法

【課題】簡単な栄養物に、インジゴ還元能を有する組成物及びpH調整用アルカリ緩衝液を添加・接触させ数日間保持するだけで、藍染生地の脱色が可能となる脱色法を提供するものである。
【解決手段】本方法は、一つには操作が簡単な方法の開発を、もう一つは反応液のpHの調整に木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を使用することによる天然素材を用いた方法を開発し、自然に近い脱色製品の提供が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藍染生地の脱色に関する。より詳細には、本発明は酵母エキスなどの溶液(あるいは懸濁液)及びpH 10用アルカリ緩衝液を添加・接触後数日間保持、または酵母エキスなどの溶液(あるいは懸濁液)にインジゴ還元能を有する発酵建液等組成物を添加・接触後、木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰などの天然素材でpHを10〜11付近に調整しながら数日間保持した溶液用いた藍染生地の脱色法、さらに本脱色液に合成インジゴを加えて数日間保持した液を用いた藍染めに関する。
【背景技術】
【0002】
藍染生地の脱色法としては、大きく分けて(1)物理的な方法と(2)化学的方法の2つの方法で行われている。すなわち(1)物理的な方法:石と一緒にジーンズなどを洗うストーンウオッシュ法及び(2)化学的な方法:強力な脱色剤により色落ちさせるケミカルウオッシュ法がある。これらの方法も日々改良が重ねられ、さらにこれら以外にも種々の方法が新たに開発されてきた。
【0003】
改良された化学的な方法としては、中野は「インジゴ染色生地の加工方法および該方法により加工されたインジゴ染色生地」(特許文献1)の中で、インジゴ染色生地に窒素系酸化剤を使用し、該生地を加熱処理することを特徴とするインジゴ染色生地の加工方法を開発した。この方法によれば長期間にわたって保存または使用したインジゴ染色生地と同等のビンテージ色になり、しかも洗い化工等によって色落ちしにくいビンテージ色を比較的短期間で付与できると述べている。
【0004】
田口は「カラージーンズの脱色方法及び該方法によるカラージーンズ」(特許文献2)の中で、還元系漂白剤溶液を浴比1:15〜50の組成にした槽中に浸漬し、さらにこの槽中の溶液温度をおおよそ85℃程度でかつ酸性下で脱色する方法を述べている。使用する還元漂白剤は、ハイドロサルファイトが最も適しており、濃度は1〜10g/literとし、酢酸バッファー溶液を用いておおよそpH 4.5に調整した。この方法によれば、厚地のカラージーンズを希望の色調に脱色或いは退色させることができ、着古し感に富んだカラージーンズ製品が提供できると述べている。
【0005】
また最近では上記ストーンウオッシュ法やケミカルウオッシュ法以外に以下のような脱色法あるいは退色法が開発されている。
1)オゾン水法:市原らは「デニム製品のオゾン水による脱色化工時に於ける発色助剤添加による発色加工方法とその製品」(特許文献3)の中でデニム製品(インジゴ系染料誘導体を含む)のインジゴ染色による染色加工時の発色法の一方法として、洗濯機槽内の水中にデニム製品と発色助剤として適量の臭化カリウムを投入後、オゾンガスを継続して注入しながら一定時間撹拌浸漬することにより、デニム製品の生地へ染着しているインジゴ染料(インジゴ系染料誘導体を含む)に化学反応を起こさせ、黄味を帯びた青色へ色相を変化させることができる発色化工方法を開発した。この方法によれば、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤や酵素剤を使用せずにデニム製品の脱色が可能で、布地を痛めずかつ有害物質の生成もなくなど健康を害する恐れがない発色化工方法(脱色を含む)及び加工製品が提供できると述べている。
【0006】
2)酵素法:上繁は「セルロース系繊維布帛の退色化加工方法」(特許文献4)の中で、セルロース系繊維布帛の表面に印捺により樹脂皮膜を形成した後、布帛の全体をインジゴ染料で染色し、次に、ワッシャーを用いて酵素処理を施した後、回転式乾燥機にて加熱乾燥する方法を開発した。これによると、均一かつ良好な退色効果を有するセルロース系繊維布帛を得ることができると述べている。
【0007】
3)レーザー法:木下は「繊維製品およびその脱色方法」(特許文献5)の中で、レーザー発信装置より発射したレーザー光線を折り返しミラー、シリンドリカルレンズによりジーンズの膝部に照射し、一回の照射ごとにジーンズの位置をずらすことにより脚部の全領域にレーザー光線を照射する方法を開発した。その方法を使えば、染色された繊維製品の部分的な脱色が容易に行え、繊維製品の脱色方法とその方法を適用した繊維製品とを提供することが可能であると述べている。
【0008】
4)電解法:小川は「着色衣料の脱色方法」(特許文献6)の中で、脱色すべき衣料を電解槽に浸漬し、電気分解により生成する酸化性ガスにより脱色を行う方法を開発した。本方法で行えば、薬剤を使用しないためコストが安く、石材を使用しないため衣料が痛むことがなく、また生成する酸化性ガスの脱色能が高いため確実に着色衣料の脱色が行える。従来のジーンズ等の脱色は、薬剤添加又はストーンウオッシュ法により行われているが、経済性、効率性、実用性及び品質管理等において問題点が多く、簡便かつ効果的に衣料を痛めることなく脱色する方法は存在しなかった。このように本発明は、従来技術にない画期的なジーンズ等の脱色方法を提供できると述べている。
【0009】
一方西江は「着色衣料の脱色方法」(特許文献7)で円筒状の電解槽に丸棒状の貴金属酸化物陽極を設置し、その周囲に離間して円筒状のSUS陰極を設置し、両極を電源に接続する。そして電解槽内に濃度3%程度の食塩水を満たし、その中に脱色しようとするジーンズを浸漬し、5A/dm2程度の電流密度になるように両極間に通電して、電解により生成した次亜塩素酸、発生期の塩素ガス、酸素ガス、過酸化水素等の酸化性ガスにより脱色処理を行う方法を開発した。これによれば、処理後に分離・除去の困難な石材や薬剤を使用することなく、迅速かつ低コストで確実にジーンズその他の着色衣料を所望の程度まで定量的に脱色ないし退色されられると述べている。
【0010】
5)酵素とストーンを組み合わせた方法:金は「インジゴジーンズの加工方法」(特許文献8)で、原ダンをのり抜き剤が添加された水溶液でパジングした後、水洗処理及び脱水処理してのり抜きする第1工程、メラミン樹脂、ウレア樹脂、グリオキサール樹脂及びポリウレタン樹脂の群から選択した樹脂と触媒とを溶解する樹脂水溶液中で2〜5分間タンブリングする第2工程、樹脂水溶液からジーンズ原ダンを取り出して脱水処理、乾燥処理及びキュアリングする第3工程、原ダンを、バイオ酵素:2%o.w.f.の溶解する水溶液中40〜60℃の温度範囲で、60〜90分間バイオストーン水洗する第4工程並びに最終脱色水洗する第5工程を開発した。そうすることにより、水洗時の染料により原ダンの再汚染と洗濯による色相の薄れを防止できると述べている。
【0011】
6)薬剤水溶液を塗布する方法:中野は「インジゴ染色生地の加工方法および該方法によって加工されたインジゴ染色生地」(特許文献9)の中で、塩酸、塩化マグネシウム、硫酸、硫酸アルミニウム、硝酸、硝酸亜鉛、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、ホウフッ化亜鉛、リン酸、およびリン酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の物質を含有する水溶液を、インジゴ染色生地に塗布し、該生地を加熱することを特徴とするインジゴ染色生地の加工方法、および該方法によって加工されたインジゴ染色生地について報告している。該方法によれば、短時間かつ低コストで容易にインジゴ染色生地表面におけるよくこすられた部分とあまりこすられていない部分との間で比較的大きい濃淡のコントラストを出させて、優れた中古感を付与できるインジゴ染色生地の加工方法、および優れた中古感を付与され得る、または付与されたインジゴ染色生地の提供が可能だと述べている。
【0012】
発明者らは酵母エキスなどに、藍染工房で使われているインジゴ還元能を有する発酵建液等組成物及びアルカリ調整用緩衝液を添加・接触後、数日間保持するだけで脱色が可能な新らたな方法を開発した。本法によれば藍染生地だけでなくジーンズなどの織物の脱色や部分的な色抜きが可能となる。
【特許文献1】特開2003−268683号公報
【特許文献2】特開2003−306879号公報
【特許文献3】特開平06−017383号公報
【特許文献4】特開平08−100374号公報
【特許文献5】特開平10−102386号公報
【特許文献6】特開平10−226957号公報
【特許文献7】特開平11−036173号公報
【特許文献8】特開平2000−328432号公報
【特許文献9】特開2004−068179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまで酵母エキスなどの溶液(あるいは懸濁液)に、インジゴ還元能を有する発酵建液等組成物及びpH 10調整用緩衝液を添加・接触後数日間、あるいは酵母エキスなどの溶液(あるいは懸濁液)に、インジゴ還元能を有する発酵建液等組成物を添加・接触後木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰でpH 10〜11付近に調整しながら数日間保持した溶液用いた藍染生地の脱色に関する報告は全くなかった。また藍染生地の脱色に用いた溶液に、合成インジゴを加えて数日間保持した液を用いた藍染めに関する報告もない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討し、酵母エキス溶液にインジゴ還元能を有する組成物及びpH 10調整用緩衝液を添加・接触後数日間静置するだけで藍染生地が脱色される簡便な方法を見出した。一方これとは別に、できる限り天然物素材を利用した環境にやさしい藍染生地の脱色を目的として、小麦ふすまや酵母エキスなどに、蓼藍から調製された「すくも」及び琉球藍やインド藍から調製された「泥藍」の発酵建液組成物を添加・接触後、木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を加えてpH 10〜11付近に調整しながら数日間保持した溶液に藍染生地を浸漬することにより脱色されることを見出した。さらに本脱色液に合成インジゴを加えて数日間保持した液は藍染めに用いることができることも見出した。このようにして本発明を完成するに到った。
すなわち本発明者らは、酵母エキスや小麦ふすま(未処理)などに、発酵建液等インジゴ還元能を有する組成物及びpH 10調整用緩衝液を添加・接触後数日間保持、あるいは酵母エキスや小麦ふすま(未処理)などに、発酵建液等インジゴ還元能を有する組成物を添加・接触後pH 10〜11に調整するため木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を加えながら数日間保持した溶液が藍染生地の脱色に効果的であることを認めた。さらにこれに合成インジゴを加え数日間保持した液に藍染め効果があることを認めた。本法により脱色された生地や藍染生地は、独特の色彩や色調をもった商品が得られるものと期待できる。
【0015】
本発明の要旨は次のとおりである。
すなわち、本発明は、
(1)酵母エキス溶液に、インジゴ還元能を有する組成物、pH 10調整用緩衝液を添加・接触後、数日間保持した反応液に藍染生地を浸漬することによる簡易な藍染生地の脱色法である。
(2)小麦ふすま(未処理)懸濁液に、蓼藍から調製された「すくも」を原料として発酵させて得られたインジゴ還元能を有する発酵建組成物を加え、この液を数日間保持する。保持期間中pHを10〜11付近になるように、木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を加えて調節する可能な限り天然素材をベースとした溶液を用いた藍染生地の脱色法である。
【0016】
(3)酵母エキス溶液に、請求項2の発酵建液組成物を加え、これを数日間保持する。保持期間中木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を加えてpHを10〜11付近になるように調節することにより、天然素材をベースとした溶液を用いた藍染生地の脱色法である。
(4)コーンスチープリカー(CSL)、ペプトン、麦芽エキス、小麦ふすま(脱脂)、小麦粉(強力粉)、小麦粉(薄力粉)、糖蜜、廃糖蜜等のいずれか一つ、あるいは酵母エキスや小麦ふすま(未処理)を含めた2つ以上の物質を混ぜたものの溶液(あるいは懸濁液)に、蓼藍から調製された「すくも」を原料として発酵させて得られた発酵建液等のインジゴ還元能を有する組成物及び請求項1のpH 10調整用緩衝液を添加・接触後、数日間保持するか、あるいは請求項2乃至3と同様木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰でpHを10〜11に調節することにより得られた溶液を用いた藍染生地の脱色法である。
(5)請求項1乃至4の物質の溶液(あるいは懸濁液)に、請求項2乃至3の発酵建液組成物およびpH 10調整用緩衝液を添加・接触後、数日間保持するか、あるいはた請求項1乃至4の物質の溶液(あるいは懸濁液)に、請求項2乃至3の発酵建液組成物を加え数日間保持し、保持期間中木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を添加しpHを10〜11付近になるように調節することにより得られた溶液を用いた藍染生地の脱色法である。
(6)請求項1乃至5で使用した溶液(脱色液)に、合成インジゴを添加し数日間静置し、場合によってはアルカリ緩衝液でpH調整を行なった、液を用いた藍染法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は酵母エキスなどの溶液(あるいは懸濁液)に、発酵建液等のインジゴ還元能を有する組成物及びpH調整用緩衝液を添加・接触後数日間保持、あるいは酵母エキスなどの溶液(あるいは懸濁液)に、発酵建液等のインジゴ還元能を有する組成物を添加・接触後、木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰でpH 10〜11付近に調整しながら数日間保持するだけで、藍染生地の脱色が行なえる。本方法によれば、現在合成インジゴで染色された商品が多いジーンズの脱色や色抜きが可能となり、繊維産業で大きな市場を持つジーンズ業界に新たなインパクトを与えるものと考えられる。また本発明の藍染生地脱色はアルカリ性であるので、アルカリ側での藍染布の脱色が可能であり、生地が傷みやすいストンウオッシュ等の物理的な方法や、環境への影響が懸念されている強力な脱色剤(還元剤)を使用する化学的な方法に比べ、ソフトな脱色が可能である。さらに本溶液は藍染めにも利用することができる。このように本発明は、環境に負荷を掛けることなく持続的発展可能な社会を支える意義を実現するためのイノベーションを与えるものと確信している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本発明の藍染生地の脱色法について説明する。
本明細書において、「藍染生地」とは合成インジゴを使って染色した繊維だけでなく天然のインジゴ成分を含有している植物(蓼藍、大青、琉球藍、インド藍など)等を原材料として用いて染色された織物までが含まれる。例えば、ジーンズ、各種の藍染製品等が挙げられる。
【0019】
本発明は酵母エキスなどの溶液(あるいは懸濁液)に、インジゴ還元能を有する組成物及びpH 10調整用緩衝液等を添加・接触後数日間保持、あるいは酵母エキスなどの溶液(あるいは懸濁液)にインジゴ還元能を有する組成物を添加・接触後数日間保持した溶液に藍染生地を浸漬することにより脱色を行う方法である。使用できるのは、酵母エキス、ペプトン、コーンスチープリカー(CSL)、麦芽エキス、小麦ふすま(未処理)、小麦ふすま(脱脂)、小麦粉(強力粉)、小麦粉(薄力粉)、糖蜜、廃糖蜜などの食品補助剤、家畜の飼料、肥料等でもよく、それぞれ単独あるいは2つ以上を混ぜて使用することもできる。液のpHは10あるいは10〜11の範囲が好ましいが、それ前後のアルカリ性ならそれ以外でもよい。
【0020】
本発明の藍染生地を脱色する方法について説明する。本発明の脱色液は、藍染生地を浸漬することにより直接脱色することができる。また既に完成した藍染製品に本脱色液を加えることによっても可能である。
次に脱色液を用いた藍染法について説明する。上記脱色に使用した溶液に合成インジゴを加え数日間保持した液は藍染めが可能となる。使用できるインジゴは合成インジゴに限らず、「すくも」や「泥藍」だけでなくインジゴ成分を含んだものなら何でもよい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例にその技術範囲が限定されるものではない。なお、以下の実施例において%は、特に断りのない限り質量%を表す。
[実施例1]
酵母エキス、インジゴ還元能を有する組成物、pH 10調整用緩衝液を藍染生地の脱色のための材料として用いた。
このうちインジゴ還元能を有する液は、以下のようにして得られた。すなわち内径23 mmの大型試験管に、一般的な基準培地(blank)としてRCM培地(Reinforced Clostridial Medium 培地、Difco社製:38 gを900 mlの蒸留水に溶解)45 mlを入れオートクレ−ブ滅菌後、別滅菌したアルカリ緩衝液5ml(1MのNaHCO3/Na2CO3)を加えpH 10に調整した。本試験管を30℃、5日間静置したところインジゴ還元能を有する液が偶然に得られた。おそらく、数段階の実験操作の過程で偶然にインジゴ還元能が得られたものと考えている。
【0022】
次に(内径15 mmの)試験管にRCM培地(Reinforced Clostridial Medium 培地、Difco社製:38 gを900 mlの蒸留水に溶解)9 mlを入れた後オートクレ−ブで滅菌し、別に滅菌したアルカリ緩衝液1ml(1MのNaHCO3/Na2CO3)を加えpH10に調製したもの}を加えたものにインジゴ還元能を有する液0.3 mlを入れ、30℃、5日間静置してインジゴ還元能を有する組成物を得た。
【0023】
次に500 ml容ねじ口びん(丸型白)に酵母エキス4 gを入れ、360 mlの蒸留水に溶かしてからオートクレーブ滅菌し、別滅菌したアルカリ緩衝液40 ml(1MのNaHCO3/Na2CO3)を加えpH10に調整したものにインジゴ還元能を有する組成物12 mlを接種後、30℃で4日間保持した。保持期間中は、予め容器に入れておいた回転子をスターラーで撹拌することによって一日一回は液を均一にした。この溶液の最終pHはpH 8.85でpHの低下は少なかった。
この溶液に藍染生地を入れ24時間後と2日後の脱色効果を調べた結果、藍染生地を2日間浸漬することにより顕著に脱色されていることが認められた。(表1)
【0024】
本脱色液にインジゴ0.8 g(0.8%)加えてから30℃で4日間静置した。この液に布切れを2日間漬けて、空気に曝して可溶化したインジゴを元のインジゴに戻してから水洗した結果、良好な染色が認められた。(表2)
【0025】
天然素材を用いての脱色を試みた。すなわち液のpH調整に木灰抽出液や石灰を加え、天然素材を使用して環境にやさしい藍染生地の脱色及び染色を指向した。実施例2では小麦ふすま(未処理)を、実施例3では酵母エキスを用いて検討した。
[実施例2]
茨城県桜川市真壁町の真壁藍工房で調製された蓼藍を原料とした「すくも」使用した発酵建液を、藍染生地脱色の材料として用いた。
すなわちRCM培地(Reinforced Clostridial Medium 培地、Difco社製:38 gを900 mlの蒸留水に溶解)90 mlの入った100 mlの三角フラスコをオートクレ−ブで滅菌後、アルカリ緩衝液10 ml(1MのNaHCO3/Na2CO3)を加えpH10に調製した後、真壁藍工房で調製した発酵建液3 mlを添加後、30℃で3日間静保持した。これを発酵建液組成物とした。
【0026】
次に1,000 ml用ビーカーに小麦ふすま(未処理)40 gを加えた後、まず蒸留水160 mlを入れ撹拌した。次に木灰液350 ml(NaOH 0.027M相当)を入れpH 11付近に調整した後、蒸留水を加えて計800 mlにした(調製培地のpHはpH 10.73)後、発酵建液組成物24 mlを添加し、30℃で静置した。液は一日一回予め入れておいた回転子をスターラーで回転させ均一にした。翌日液のpHを計ったところpH 8付近に低下していたので、石灰 2.5 g加えてpH 10.93に調整した。3日後にはpHが6.19に下がっていたので、再度石灰 2.5 gを加えてpH 11.04に調整してから、さらに5日間保持し、計8日間保持した。液の最終pHはpH 6.58と低下が著しく、小麦ふすまを用いると極端なpH低下が見られた。
この溶液に藍染生地を浸漬し、24時間後と2日後の脱色の有無を調べた結果、2日後に若干弱いが脱色が見られた。(表1)
【0027】
本脱色液に合成インジゴ0.08 g(0.01%)を添加後、途中石灰を加えてpH 10〜11に調整しながら30℃で4日間静置した。この液を用いて藍染めを5分間と2日間試みた結果、弱いながら染色が認められた。染色度が弱かったのは、1つは保持している間pHの低下が著しかったこと、2つ目は加えた合成インジゴの量が少なかったこと、さらに小麦ふすま(未処理)ではインジゴ還元能を十分発揮できなかった可能性が考えられる。(表2)
【0028】
[実施例3]
実施例2と同様真壁藍工房で「すくも」から調製された発酵建液を材料として用いた。
発酵建液組成物の調製も同様の方法で行った。
500 ml用ビーカーに、酵母エキス4 gを入れ100 mlの蒸留水に溶かした後オートクレーブ滅菌した。これに木灰抽出液320 ml(NaOH 0.05M相当)を入れpH 10.45に調整した。これに発酵建液組成物12 mlを添加し、30℃で保持した。液は毎日一回予め入れておいた回転子をスターラーで回転させて均一にした。翌日pHが 9.6に下がっていたので、石灰0.56 g加えてpH 10.32に調整した後、さらに保持し計5日間保持した。酵母エキスを用いたときの最終のpHは10.23で、小麦ふすま(未処理)を用いてときと比べpHの低下は少なかった。
この溶液に、藍染生地を浸漬し24時間と2日後に取り出し水洗後、この溶液による脱色の有無を調べた。その結果、2日間浸漬することにより顕著な脱色効果が認められた。(表1)
【0029】
本脱色液に合成インジゴ0.8 g(0.2%)を添加後、途中石灰を加えることによりpHを10〜11に調整しながらさらに30℃で4日間保持した。この液を用いて5分間と2日間染色を試みたところ、良好な染色が認められた。(表2)
【0030】
[表1]

酵母エキスに、発酵建液等インジゴ還元能を有する組成物及びpH 10調整用緩衝液を添加・接触させた後、あるいは小麦ふすま(未処理)や酵母エキスに発酵建液組成物を添加・接触さらに木灰抽出液や石灰でpH調整した後、数日間保持した液に、藍染生地を浸漬することにより藍染生地の脱色(色抜き度)を調べたものである。藍染生地の脱色(色抜き度)を+から++で表した。++は脱色が特に顕著ものを示した。なおwは弱いが脱色が見られたものを示した。

【0031】
[表2]

脱色液に合成インジゴを添加後数日間静置した液を用いた藍染め(染色度)を調べたものである。藍染め(染色度)を+から++で表した。+は浸漬2日間で、一方++は浸漬5分間で十分染色されていることを示した。なおwは弱いが染色が見られたものを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母エキス溶液に、インジゴ還元能を有する組成物、pH 10調整用緩衝液を添加・接触後、数日間保持した溶液に藍染生地を浸漬することによる簡易な藍染生地の脱色法。
【請求項2】
小麦ふすま(未処理)懸濁液に蓼藍から調製された「すくも」を原料として発酵させて得られたインジゴ還元能を有する発酵建液組成物を加え、この液を数日間保持する。保持期間中pHを10〜11付近になるように、木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を加えて調整する可能な限り天然素材をベースとした溶液を用いた藍染生地の脱色法。
【請求項3】
酵母エキス溶液に請求項2の発酵建液組成物を加え、これを数日間保持する。保持期間中木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を加えてpHを10〜11付近になるように調整することにより、天然素材をベースとした溶液を用いた藍染生地の脱色法。
【請求項4】
コーンスチープリカー(CSL)、ペプトン、麦芽エキス、小麦ふすま(脱脂)、小麦粉(強力粉)、小麦粉(薄力粉)、糖蜜、廃糖蜜等のいずれか一つ、あるいは酵母エキスや小麦ふすま(未処理)を含めた2つ以上の物質を混ぜたものの溶液(あるいは懸濁液)に、蓼藍から調製された「すくも」を原料として発酵させて得られた発酵建液等のインジゴ還元能を有する組成物及び請求項1のpH 10調整用緩衝液を添加・接触後、数日間保持するか、あるいは請求項2乃至3と同様木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰でpHを10〜11付近に調整することにより得られた溶液を用いた藍染生地の脱色法。
【請求項5】
請求項2乃至4の物質の溶液(あるいは懸濁液)に、請求項2乃至3の発酵建液組成物およびpH 10調整用緩衝液を添加・接触後、数日間保持するか、あるいはた請求項1乃至4の物質の溶液(あるいは懸濁液)に、請求項2乃至3の発酵建液組成物を加え数日間保持し、保持期間中木灰、木灰抽出液及び/あるいは石灰を添加しpHを10〜11付近になるように調整することにより得られた溶液を用いた藍染生地の脱色法。
【請求項6】
請求項1乃至5で使用した溶液(脱色液)に、合成インジゴを添加し数日間保持し、場合によってはアルカリ緩衝液でpH調整を行なった、液を用いた藍染法。

【公開番号】特開2008−274489(P2008−274489A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120097(P2007−120097)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】