説明

藤の蔓による吹付法面の張設安定工法

【目的】 本発明は、藤の蔓による吹付法面の張設安定工法に関し、期間の経過により劣化して亀裂や剥落の恐れのある吹付法面を、植栽して生長した藤の蔓を活用して吹付法面を張設して剥落を防止する。
【構成】 法面(1)に適宜の間隔で複数個所に抱持枠体(2)を収容し、法面全体にラス(6)を張ると共に、抱持枠体の開口部位のラスを欠除し、客土袋抱持枠体(2)の周囲にモルタル又はコンクリート吹付工を施して植栽用ポケット(9)を成形し、法面(1)にも吹付工を行って吹付層(8)を成形し、植栽用ポケットから客土袋(3)に藤の苗木(A)を植栽し、且つ隣合う植栽用ポケット(9)間に紐体(13)を渡し、期間の経過によって藤の苗木の幹部(Aa)から生え出して生長し且つ延伸した藤蔓(Ab)を紐体に沿わせて他方の植栽用ポケット(9)に誘導して隣合う植栽口(10)に接しさせ、当該接触部位から藤蔓の発根(Ac)を客土袋内に活着させる構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藤の蔓による吹付法面の張設安定工法に関するもので、法面に吹付けたモルタル又はコンクリート等の吹付層が期間の経過により劣化して亀裂や剥落の恐れに対して、植栽によって生育した藤の蔓を活用して吹付層の表面を張設して当該法面を緑化しながら剥落の防止を図ることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
一般に法面保護工にあって、モルタル又はコンクリートの吹付層は、施工後そのままであると無味乾燥であるため所定間隔をあけて客土袋を配置してその場所に適合した草本類を植栽して緑化を図ることが行われている。
【特許文献1】実公昭59−030061号公報
【特許文献2】特公平02−052050号公報
【特許文献3】特開平10−311037号公報
【特許文献4】特開平10−311038号公報
【特許文献5】特開2004−132021号公報
【0003】
特許文献1ないし特許文献4は、本願の出願人の出願であり、いわゆるグリーンポケット(登録第4618314 号)、工法と称し、法面の要所要所に生育基盤を造成し低木やツタ植物などの植栽で環境緑化を図る工法である。これによってモルタル又はコンクリートの吹付層面の緑化が図れるようになって広く実施されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記の特許文献1〜4の緑化工法は、樹木の生長(葉張り、樹形)や蔓の伸長によってモルタル又はコンクリート吹付層面を緑化し環境の改善を図る目的であったが、安全面は風化の抑制程度で必ずしも万全ではなかった。そして、前記の吹付面は、経年変化で凍上や亀裂の発生で劣化する場合があり、劣化したモルタル又はコンクリート吹付は大小様々の塊状態になって剥落する危険がある。
【0005】
上記のように、吹付層の劣化剥落のおそれがある場合において、従来は吹付層面に金網を張り巡らしたり、特許文献5のように、前記の金網の上からさらワイヤーロープを網状に張って落石などの防止を図っていた。
【0006】
これによって、吹付層の剥落は防止できるが、法面に金網やワイヤーロープの材質はいずれも金属であり、これが法面に半永久的に残っていて錆が発生して環境に悪影響を与えている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、従来の課題を解決し、発明の目的を達成するために提供するものである。
本発明の第1は、藤の蔓による吹付法面の張設安定工法において、法面の左右及び上下及び斜め方向に1.0〜2.5mの間隔で所定個所にアンカーピンで設置した抱持枠体の中に客土袋を収容し、施工する法面全体にラスを張り巡らすと共に、当該抱持枠体の上部における植栽用開口部位のラスを欠除し、当該開口部位を除く客土袋抱持枠体の周囲にモルタル又はコンクリート吹付工を施して植栽用ポケットを成形すると共に法面にも吹付工を行って吹付層を成形し、当該植栽用ポケットに位置する客土袋を切り開いて藤の苗木を植栽し、期間の経過によって藤の苗木の根部からの発根を客土袋の内部に根付かせると共に、地上に露出している幹部から生え出して生長し且つ延伸した藤蔓を隣り合う植栽口に接しさせ、当該植栽口の接地部位からの発根を客土袋内に活着させたものである。
【0008】
本発明の第2は第1の発明に係る藤の蔓による吹付法面の張設安定工法において、隣合う植栽用ポケット間に棕櫚又は麻又は藁等の植物性材料を可とする紐体を渡し、一方の植栽用ポケットから生長した藤蔓を沿わせて隣り合う植栽口に誘導したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記の構成であるか、次の効果がある。すなわち、第1に、法面に設置した植栽用ポケットに藤の苗を植栽し、その藤蔓を隣接する植栽用ポケットの客土袋部位に誘導することで藤蔓(葡萄茎)が当該ポケットの客土内に根が張り出して活着し、年々成長して藤蔓の径が太くなる。第2に、生長した藤蔓は互いに植栽用ポケットの客土袋部位で引き合って緊張した細いロープ状態となって吹付法面を抑える。第3に、藤の苗木を植栽したことにより、植栽したポケットの客土袋部位では藤蔓の根茎が地山に侵入して根の緊縛力でアンカーの役目を果たし、法面に露出して生長した藤蔓は、モルタル又はコンクリート吹付層の表面全体を抑えるため、これらの効果で法面の安定を向上させることができる。第4に、吹付け工以外は天然資材を使用しているため産業廃棄物の発生を抑制することができるほか、人工物のように目立つこともない。また、植物の生長とともに法面の安定を期待することができる。さらに施工も容易でしかも経済的に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態は次の通りである。まず、法面の左右及び上下に格子模様又は千鳥模様状態で1.0〜2.5mの間隔で複数個所にアンカーピンで設置した抱持枠体の中に客土袋を収容する。次に、施工しようとする法面全体にラスを張り巡らすと共に、当該抱持枠体の上部における植栽用開口部に位置するラスにくり抜き穴をあけ、当該くり抜き穴を除く客土袋抱持枠体の周囲にモルタル又はコンクリート吹付工を施して植栽用ポケットを成形すると共に法面全体にも吹付工を行って吹付層を成形する。
そして、左右・斜め・上下の方向に渡って隣り合う客土袋抱持枠体同士に紐体を繋いで適度に緊張させておく。
さらに、植栽用ポケットに位置する客土袋を切り開いて藤の苗木を植栽し、期間の経過によって藤の苗木の根部からの発根を客土袋内の客土に根付かせると共に、地上に露出している幹部から生え出して生長し且つ延伸する藤蔓を紐体に絡ませながら隣り合う植栽用ポケットに接しさせ、当該ポケットの接触部位からの発根を客土袋内の客土に活着させる。
両植栽用ポケットに根付いた藤蔓は、その中間部位においても法面に接して発根することによって適度に張り付くことによって、法面を押圧する状態が保持される。
【実施例】
【0011】
次に本発明の実施例を図面に基づいて説明する。1は地山の法面、2はその法面に1.0〜2.5mの間隔で左右・上下の方向で格子模様又は斜めの方向で千鳥模様の状態に設置したリブネット製の客土袋抱持枠体であり、その側面が略逆三角形を成し、その左右側面に横向きの翼片2′が一体成形されている。3は客土袋抱持枠体2の内側に収容する客土袋であり、内部に客土3′が充填されている。4は翼片21の網目から打ち込むアンカーピン、5は抱持枠体2の正面内側に取り付けたスペーサー、6は法面1に沿って張り巡らした金網等のラス、7は当該ラスを法面1から少し浮かして吹付層の略中間に位置させるためのスペーサー、8は法面1及び抱持枠体2の開口部だけを除く正面部21・底面部22・左右側面部23に吹き付けて成形したモルタル又はコンクリート吹付層、9はモルタル又はコンクリート吹付けにより、抱持枠体2の上部に成形した植栽用ポケット、10は客土袋の植栽口であり、その中に客土袋3に詰めてある客土3′とは別に客土(培養土)3"が詰められている。11は植栽口10を形成するための植栽パイプであり、客土袋3の上部切り開き部に載置してある。12は抱持枠体2の下部に装着した水抜きパイプ、13は左右の横方向又は上下の方向又は斜めの方向に向かって隣り合う抱持枠体2又は客土袋3の間に渡して連結する棕櫚又は麻等の植物性材料を綯って作製した紐体である。この紐体は、針金でも可能であるが、藤蔓の生長後も残存して発錆の原因にもなるため、腐熟して地に還る植物性材料が最適である。14は紐体の端末を法面1又は抱持枠体2又は客土袋3側に装着するための止着ピンである。
【0012】
図中、Aはその植栽用ポケットから客土袋5の植栽口10に植栽した藤の苗木であり、期間の経過により、幹部AaからのAcが客土袋3内に根付き、且つ藤蔓Abが生長して左右の一方向若しくは両方向・斜めの方向又は上下の方向に延伸するようになっている。
【0013】
「具体的な工事例」
本発明の具体的な工事例は次の通りである。
(1)法面1の植栽しようとする複数個所に客土袋抱持枠体2を左右・斜め・上下に格子又は千鳥模様状に配置すると共に、その下部を接地し、上部を法面から少し浮かせて開口を広くした状態でアンカーピン4を途中まで法面1に打ち込んで仮止めしておく(図3)。当該抱持枠体2の正面内側にスペーサ5を取り付けておく。
(2)抱持枠体2の広くなっている上部の開口から客土袋3を収納した後、アンカーピン4を深く打ち込んで法面1に固定する(図4)。抱持枠体2の下部に水抜きパイプ12を適度の水抜き勾配で装着しておく。また、客土袋3の上部の平面部位をカッターで切り開いておく。
(3)施工しようとする法面1の全体にラス6を張り巡らす。このとき、法面1から少し浮かせるためにスペーサー7を法面1とラス6の間に介在させる。
(4)抱持枠体2の開口部付近を金属切断用カッターでくり抜いて植栽用穴をあける。
(5)モルタル又はコンクリート吹付材料を上部開口部を除く客土袋抱持枠体2の周囲及び法面1の全体に吹き付けてモルタル又はコンクリート吹付層8を成形すると共に、抱持枠体2の上部位置に植栽用ポケット9を成形する。これによって、客土袋3及びその抱持枠体2による緑化用植栽個所が格子模様又は千鳥模様の状態で配置される(図1、図2)。
(6)藤の苗木Aを客土袋3の切り開いた植栽口10から藤の苗木を植栽する。このとき、あらかじめ植栽パイプ11を苗木に挿通しておくか、または後から苗木の上部から挿通しておく(図5)。
(7)隣り合う抱持枠体2同士の植栽用ポケット9間の左右・斜め・上下方向に紐体11を渡し、その端末を止着ピン14の打ち込み又は抱持枠体のネットリブに結着して適度の緊張度で繋いでおく。
(8)期間の経過により、藤の苗木Aからの発根Acは、客土袋内の客土3′に根付く一方で、藤の苗木の幹Aaから生長して延伸した藤蔓Abは紐体13に絡みながら隣りの植栽用ポケット8に到達する。
(9)目的の植栽用ポケット9に到達した藤蔓Abは植栽口10の客土(培養土)3"に接し、その部位から発根して当該隣接する抱持枠体2の客土袋3内の客土3′に活着して両抱持枠体間の藤蔓が適度の緊張度で張設する(図6、図7)。
(10)法面1に近接した状態で隣り合う植栽口10に根付いた藤蔓Aaの押圧力によって劣化した吹付層8が剥落して落下する作用を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明工法により客土袋を格子模様状に配置し、紐体を左右・斜め・上下方向に張った状態の概略斜視図。
【図2】本発明工法により客土袋を千鳥模様状に配置し、紐体を斜め・左右方向に張った状態の概略斜視図。
【図3】法面に対する抱持枠体の設置開始状態の概略側面図。
【図4】法面に対する抱持枠体の設置終了状態の概略側面図。
【図5】図1及び図2に示す客土袋及び客土袋抱持枠体の中央縦断側面図。
【図6】図5の藤の苗木が期間の経過によって生長した状態の断面図。
【図7】モルタル又はコンクリート吹付層を省略した客土袋抱持枠体の斜視図。
【符号の説明】
【0015】
1……法面
2……リブネット製の抱持枠体
3……客土袋
4……アンカーピン
5……抱持枠体と客土袋の間に介在したスペーサー
6……ラス
7……法面とラスとの間に介在したスペーサー
8……モルタル又はコンクリート吹付層
9……植栽用ポケット
10……客土袋の植栽口
11……植栽パイプ
12……水抜きパイプ
13……棕櫚又は麻等の紐体
14……止着ピン
A……藤の苗木

【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面(1)の左右及び上下及び斜め方向に1.0〜2.5mの間隔で複数個所にアンカーピン(4)で設置した抱持枠体(2)の中に客土袋(3)を収容し、施工する法面全体にラス(6)を張り巡らすと共に、当該抱持枠体の上部における開口部位のラスを欠除し、当該開口部位を除く客土袋抱持枠体(2)の周囲にモルタル又はコンクリート吹付工を施して植栽用ポケット(9)を成形すると共に法面(1)にも吹付工を行って吹付層(8)を成形し、当該植栽用ポケットに位置する客土袋(3)を切り開いて藤の苗木(A)を植栽し、期間の経過によって藤の苗木の根部からの発根(Ac)を客土袋(3)の内部に根付かせると共に、幹部(Aa)から生え出して生長し且つ延伸した藤蔓(Ab)を隣り合う植栽口(10)に接しさせ、当該植栽口の接地部位からの発根(Ac)を客土(3′)に活着させたことを特徴とする藤の蔓による吹付法面の張設安定工法。
【請求項2】
隣り合う植栽用ポケット(9)に棕櫚又は麻又は藁等の植物性材料を可とする紐体(13)を渡し、一方の植栽した藤の木の幹部(Aa)から生長して延伸した藤蔓(Ab)を沿わせて隣り合う植栽口(10)に誘導した請求項1記載の藤の蔓による吹付法面の張設安定工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−321545(P2007−321545A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156677(P2006−156677)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(592141400)株式会社高特 (9)
【Fターム(参考)】