説明

蘚苔類および藻類防除用粉粒剤

【課題】芝生地に侵入した蘚苔類および藻類をむら無く、有効に防止する技術を提供する。
【解決手段】300ミクロン以下の硫酸第一鉄1水和物と無機化合物の粒子から構成され、鉄含有率を5重量%から20重量%に調製した防除薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
芝生地に侵入した蘚苔類および藻類の防除技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ場および公園を中心とした芝生地は、重金属を含んだ農薬の使用制限によって蘚苔類および藻類が増加傾向にある。蘚苔類および藻類は、芝生地の景観を損ね、ゴルフ場のグリーンにおいては、パッティングクォリティーを悪化させる等の問題がある。現在、蘚苔類に対処する有効な手段は確立していない。また、藻類の繁茂はその後に蘚苔類が増加する原因ともなるため、防除が重要となっている。
【非特許文献1】Algae and Mosses on Greens.Golf Course Management.September2000.Golf Course Superintendents Association of America.
【特許文献1】特許公開平11−106305
【0003】
米国における蘚苔類および藻類の防除方法の中には、わが国で芝生の色調改善に使用されている硫酸鉄を色調改善量の数倍施用する方法が示されている。この方法は安定した蘚苔類および藻類の防除方法として家庭園芸用からゴルフ場まで広く普及している。
【非特許文献2】EPA R.E.D.FACTS.Iron Salts.EPA−738−F−93−002.February1993.
【非特許文献3】Jim Douglas,and Wayne Vandre.MOSS CONTROL IN LAWNS.HGA−00133.Alaska Cooperative Extension.University of Alaska Fairbanks
【0004】
わが国の農業生産場面では、硫酸第一鉄1水和物をアルカリ土壌の矯正肥料として、また飼料添加物として利用している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蘚苔類および藻類に対して有効な銅、水銀等の重金属を含んだ農薬類は多くの環境生物に与える影響が大きく使用の制限が求められている。一方、人畜および環境に対して安全性が高く、蘚苔類および藻類に対して有効と考えられる鉄イオンは、芝生を暗緑色化させる問題点を抱えている。加えて、蘚苔類および藻類は、維管束系が発達していないため、防除は薬剤の接触効果に頼らざるをえず、米国で使用されているような硫酸第一鉄1水和物の粒剤を使用した場合、散布むらによる芝生の暗緑色化度の違いや、甚だしいときは枯死症状を生じるため我が国のゴルフ場グリーンにおいて使用することは困難である。
【0006】
一方、硫酸鉄類を水溶液として使うことによって散布むらを減少させることは可能である。しかし、蘚苔類および藻類に対して有効な鉄塩類は全て強酸性であり、その水溶液は、耐酸性の対応がなされていない散布器具を腐食する場合もあって使用場面は限定されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
強い酸性物質である鉄塩類による金属腐食を防止するには、製品として吸湿性が無く良好な固体状態を維持しうるものが望ましい。硫酸第一鉄1水和物は、大気中にあっても安定に粉末状態を維持する物質である。しかし、同時に、硫酸第一鉄1水和物は、水への溶解性が低いため、粒度が大きい場合や粒度分布にばらつきがある粒剤は、散布むらを生じやすい欠点を有していた。
【0008】
散布むらを減少させる方法のひとつは、粒子径を小さくして単位面積当たりの粒子数を増加させ均一散布を行うことである。現在、わが国の農薬剤型の分類基準における微粒剤Fおよび微粒剤に相当する粒子径63ミクロンから300ミクロンの粒子は、均一散布性能の向上はもとより、飛散が少なく、植物の茎葉にも付着しうる粒子径であることが知られている。すなわち、硫酸第一鉄1水和物粒子を300ミクロン以下にすることで均一散布性能を確保することが必要であり、更に、飛散をより少なくするためには粒子径を63ミクロンから300ミクロンの範囲にすることが望ましい。
【0009】
散布むらを減少させるいまひとつの方法は、鉄の含有率を可能な限り低下させて散布薬量を増加させることである。1回で防除する場合、蘚苔類防除には、平方メートル当たり約約4g以上の鉄イオンが必要である。また藻類防除には、平方メートル当たり約1.5g以上の鉄イオンが必要である。しかしながら、一方で多量の鉄イオン処理は、芝生への薬害が発生することから一時期の使用総量は、約12g以下にすることが望まれる。これらの要件を満たしながら、製造費用、輸送費用、散布処理費用を低下させるには、鉄の含有率を、5重量%から20重量%に調製することが必要である。
【0010】
従って、理論上32.8%の鉄を含有する硫酸第一鉄1水和物は、芝生に負の影響をあたえない物質を混合して鉄の含有率を低下させる必要がある。同時に、混合する物質は、飛散を少なくするため比重が大きく、且つ安価な無機化合物が望ましい。例えば、天然鉱物である軽石、珪砂、ゼオライト、もしくは無機肥料成分などを粉砕、篩い分け、乾燥したものがあげられる。
【0011】
硫酸第一鉄1水和物は、硫黄を理論上18.8%含有する肥料であり、アルカリ性に傾いた芝生土壌のpHを矯正し芝生の健全な生育に有効である。しかし、同時に濃緑色化させる欠点を持っている。従って、芝生の濃緑色化を抑制する窒素化合物や植物必須金属を含む無機肥料化合物を併用することは望ましいことである。加えて、これらの肥料成分は芝生の健全な生育を促し蘚苔類の発生を抑制する。これらの無機肥料化合物は、硫酸第一鉄1水和物の処理と同時、もしくは近時処理することによって目的を達成させることもできるが、使用時の手間を省き、使用量の誤りを防ぐためには、硫酸第一鉄1水和物と混合製剤することが望ましい。ここで用いる無機肥料化合物は、吸湿性、潮解性が少なく、水溶解度が高いものが望まれる。例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、各種燐酸カリウム、各種燐酸カルシウム、硫酸カリウム、ピロ硫酸水素カリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸水素マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、各種燐酸マグネシウム、ホウ酸ナトリウム、硫酸マンガン、モリブデン酸アンモニウム、硫酸銅、硫酸亜鉛などを混合して使用することができる。
【0012】
微粒剤をグリーンなどに均一に散布する装置としては散粒機の他、目土散布機、播種機などを用いることも可能である。微粒剤は散布後、直ちに散水して硫酸第一鉄1水和物の溶解を促し浸透性を上げ、薬害を回避し、さらに散布むらをなくすことが求められる。このとき必要とする水量は、平方メートル当り500ml以上が望ましい。従って、高い水溶解度を有する無機肥料化合物であれば、混合する硫酸第一鉄1水和物およびその他の無機化合物と分級しない程度の粒度であれば、必ずしも300ミクロン以下である必要はない。
【発明の効果】
【0013】
硫酸第一鉄1水和物を無機化合物と混合希釈し、微粒剤化することにより、むらなく、かつ特殊な散布装置を用いないで芝生地に生育する蘚苔類および藻類の防除を可能にする。
【0014】
硫酸第一鉄1水和物の微粒に無機肥料化合物を混合することによって暗緑色化の抑制と芝生の健全な生育を促し蘚苔類の発生を抑制する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(薬剤調製例1)
硫酸第一鉄1水和物(FeSO・HO 保証鉄含有率30.7% 富士チタン工業株式会社製品)を48メッシュ(300ミクロン)で篩い分けし、篩い分けしてないもの(以下FeSO・HO−Lとして示す)と48メッシュ以下のもの(以下FeSO・HO−Sとして示す)、それぞれを、100〜300ミクロンの珪砂(三河珪石株式会社製品 珪砂V7号)、ゼオライト(日本ゼオライト株式会社製品 ゼオグリーン8号)と混合撹拌機(岡田精工株式会社製 メカノミル)を用いて下記表1に示す比率で混合させた。
【0016】
【表1】

【0017】
(薬剤調製例2)
硫酸第一鉄1水和物(FeSO・HO 飼料添加物用0.25mm以下 富士チタン工業株式会社製品)とゼオライト(日本ゼオライト株式会社製品 ゼオグリーン8号)に硫酸アンモニウム粉((NHSO 和光純薬工業株式会社商品)、第一燐酸カリウム粉(KHPO 和光純薬工業株式会社商品)、硫酸カリウム粉(KSO 上野製薬株式会社製品)、硫酸マンガン粉(MnSO・5HO 和光純薬工業株式会社商品)、ホウ酸ナトリウム10水和物粉(Na・10HO 和光純薬工業株式会社商品)を混合撹拌機(岡田精工株式会社製 メカノミル)を用いて下記表2に示す比率で混合させた。
【0018】
【表2】

【0019】
(分級試験)
薬剤調製例1による各微粒剤100gをポリプロピレン製の100ml容器に詰め、超音波分散機(80W エスエヌディ社製 型式US−1)を用いて30分間振動させた後、微細粉体の分級度合いを目視観察した。その結果、微細粒子が分級することによって発現する帯状の筋はゼオライトより珪砂に多く認められ、ゼオライトが優れた。
【0020】
(効果試験例1)
平成17年8月10日、茨城県つくば市殿山地区にある植栽したベントグラス内に発生したギンゴケ(Bryum argenteum)を対象として調製例に基づく薬剤を平方メートル当たり鉄として5g相当量を処理した。処理後、無処理区を含む全ての区に平方メートル当たり500ml散水した。1区面積は0.5平方メートルの2反復で実施した。1日後、2週間後、1ヵ月後におけるギンゴケ防除価および1ヵ月後におけるギンゴケ防除後の芝生の回復を0(変化なし)〜5(完全に回復)の5段階で調査した。試験期間中の施肥は行わず、刈り込みは1〜2日おきに実施した。被覆割合は%で表し、防除価は以下の式で示す。対照薬剤として鉄10%を含有する硫酸第一鉄1水和物の粒剤(米国LillyMiller社製品 MOSS OUT)と硫酸第二鉄40%溶液(日鉄鉱業株式会社製品 ポリテツ)を使用した。実施例1による結果の平均値を表3に示す。
防除価=(1−薬剤処理後ギンゴケ被覆割合/薬剤処理前ギンゴケ被覆割合)×100
【0021】
【表3】

処方3およびLilly Miller社製の粒剤は、一部、帯状に芝生の枯死が認められた。
処方3、処方4、処方5、およびFe(SO40%溶液は、暗緑色程度がやや強い。
【0022】
(効果試験例2)
平成17年8月10日、茨城県つくば市殿山地区にある植栽したベントグラス内に発生した藻類を対象として調製例に基づく薬剤を平方メートル当たり鉄として2g処理した。処理後、無処理区を含む全ての区に平方メートル当たり500ml散水した。1区面積は0.5平方メートルの2反復で実施した。1日後、2週間後、1ヵ月後の藻類防除価を調査した。試験期間中の施肥は行わず、刈り込みは1〜2日おきに実施した。被覆割合は%で表し、防除価は以下の式で示す。実施例1による結果の平均値を表4に示す。
防除価=(1−薬剤処理後藻類被覆割合/薬剤処理前藻類被覆割合)×100
【0023】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
300ミクロン以下の粒子からなる硫酸第一鉄1水和物に無機化合物を混合し、且つ混合物中の鉄含有率が5重量%から20重量%である蘇苔類および藻類の防除薬剤。
【請求項2】
請求項1における無機化合物の一部が肥料成分である蘇苔類および藻類の防除薬剤。

【公開番号】特開2007−169254(P2007−169254A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381119(P2005−381119)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(593182923)丸和バイオケミカル株式会社 (25)
【Fターム(参考)】