説明

蘚苔類からの油脂類抽出方法

【課題】ゼニゴケ類の蘚苔類から効率よく油脂類を抽出し、その後の残渣処理も容易な処理方法の提供を目的とする。
【解決手段】蘚苔類にマイクロ波を照射することで予備乾燥し、その後に油脂類を抽出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼニゴケ等の蘚苔類から不飽和脂肪酸等が含まれている油脂類を分解することなく効率良く抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本のみならず世界の多くの国に群生するゼニゴケ類等の蘚苔類が産生する油脂類にはエイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)等が含まれていることは公知である。
これらの不飽和脂肪酸は、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン等のエイコサノイドの有用な前駆体である。
また、石川県立大学生物資源工学研究所では、エイコサノイド類を産生するゼニゴケを検討をしている。
【0003】
植物体から脂肪酸類の成分を抽出する前処理技術としては、ホモジナイズ法(破砕均一化)、凍結破砕法等が公知であるが、夾雑物が多いことが問題となる。
そこで、特許文献1にはマイクロ波の付加により試料から有機化合物を抽出する装置を開示するがソックスレ一式を採用しているので油脂類の抽出後に残渣処理が必要なゼニゴケ等に適用できるものではない。
また、特許文献2はマイクロ波を用いて溶媒蒸気を生成させるとともにバイオマスを加熱する方法を開示するが、やはり残渣物の処理が問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2000−510765公報
【特許文献2】特開2007−98383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はゼニゴケ類の蘚苔類から効率よく油脂類を抽出し、その後の残渣処理も容易な処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る蘚苔類からの油脂類抽出方法は、蘚苔類にマイクロ波を照射することで予備乾燥し、その後に油脂類を抽出することを特徴とする。
また、本発明は蘚苔類にマイクロ波を照射することで予備乾燥し、その後に水蒸気蒸留にて油脂類を抽出することを特徴とする。
【0007】
ここで、蘚苔類はゼニゴケ(Marchantia polymorpha L.)であってもよく、油脂類は、不飽和脂肪酸類が含まれている油脂であってよい。
また、不飽和脂肪酸類は、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸及びそれらの誘導体であるエイコサノイドのいずれかであることが好ましい。
ここで、マイクロ波は、1〜10GHzであるのがよい。
その中でも水は2.45GHzをよく吸収するので、2.4〜2.5GHzが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明にあっては、ゼニゴケ等にマイクロ波を照射することにより、細胞の内部の水分が加熱されることで細胞膜が容易に破壊し、乾燥も進行するので油脂類の抽出性が向上するのみならず、乾燥したゼニゴケ等の残渣はそのまま焼却処理できる。
また、マイクロ波加熱を用いたことにより、不飽和脂肪酸等の分解も抑えられている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ゼニゴケにマイクロ波を照射した結果を示す。
【図2】TLC展開結果を示す。
【図3】マイクロ波加熱より乾燥したゼニゴケの性状を示す。
【図4】マイクロ波処理する前のゼニゴケの状態とマイクロ波処理条件を示す。
【図5】マイクロ波処理した試料を用いてTLC展開した結果を示す。
【図6】マイクロ波処理した際の温度、入射/反射電力の変化を示す。
【図7】マイクロ波処理装置の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、予備調査として図1に示すように2.45GHzのマイクロ波を1.2.5分間それぞれゼニゴケ(生重量10g)に照射して減量率を調査した。
これにより、マイクロ波を照射すると大きく減量することが明らかになった。
例えば、2分の短時間で、85%以上減量している。
用いたマイクロ波装置は、単相AC100V,1.4KW,最大発振出力770Wである。
【0011】
次に他の前処理方法と比較すべく、ホモジナイズ処理したもの、液体窒素による凍結破砕したもの、マイクロ波照射したもの、及びそれらに水蒸気蒸留操作を追加したもののTLC(薄層クロマトグラフィー)展開したスポットを標準アラキドン酸と比較した結果を図2に示す。
TLC展開条件は、次のとおりである。
生重量20gのゼニゴケを各前処理し、ヘキサン50mLに抽出したものをエバポレーターで1mLまで濃縮した。
これをシクロヘキサン:酢酸エチル:酢酸:メタノール=30:10:1:1にてサンプル量20μLを展開した。
発色にはバニリン硫酸試薬を用いた。
なお、図2中AAは標準アラキドン酸のスポットを示し、スポットの濃さで判定した。
これによりマイクロ波照射すると夾雑物が少なく、アラキドン酸の抽出性に優れていた。
また、マイクロ波照射後に水蒸気蒸留するとさらによいことも明らかになった。
ここで水蒸気蒸留は、常法に従い水蒸気を蒸留室に充填し、蒸留したものを冷却した。
なお、液体窒素で凍結破砕(図中、凍結のみ)したものは、抽出性が劣り、その後、水蒸気蒸留をしてもあまり効果がなかった。
ホモジナイズ破砕(図中、ホモジのみ)したものは、アラキドン酸の抽出は良かったが、夾雑物の量が多く、問題であった。
【0012】
ゼニゴケの残渣(マイクロ照射による乾燥品)の性状を分析した結果を図3に示す。
表中、熱量はカロリーメーター、工業分析はTG/DTA分析装置で行った。
これにより、ゼニゴケ残渣は、揮発分が多くて、灰分が少ないことから焼却処理が容易であることが明らかになった。
また、発熱量は木くずの低位発熱量と同等であり、XRF結果から硫黄や塩素が少なく、有害なガスが発生する恐れが少なく、XRD結果から重金属もほとんど含まれていない。
酸化分解が比較的低温の250℃、430℃の2段分解であることも明らかになった。
【0013】
次にゼニゴケの予備的前処理によるアラキドン酸の抽出への影響を調査した。
調査に用いたマイクロ波処理装置の構成例を図7に示す。
マイクロ波処理装置は箱型の処理室3を備え、この処理室3の中にターンテーブルと、ターンテーブルにより回転するトレーを有する。
このトレーにゼニゴケを投入し、マイクロ波処理する。
ゼニゴケの投入及び排出はベルトコンベア等にて連続処理できるようにしてもよいが、本実施例では、扉5の開閉を昇降装置4にて行うバッチ処理装置の例になっている。
マイクロ波発振器電源2に接続されたマイクロ波発振器1からマイクロ波が処理室内に照射されるようになっているが、ゼニゴケのマイクロ波処理においては、反射電力を調整することができる。
【0014】
図4の表に示すように採取したままの「生」の状態の水分率98%のゼニゴケ(50.2g),温室内に9時間放置してゼニゴケの表面の水分を蒸発させた「半生」(水分率95%)状態のゼニゴケ(33.1g)、温室内に1週間放置して乾燥させた状態のゼニゴケ(1.3g)の3種類の試料に対して、周波数2.45GHzのマイクロ波を照射し、反射電力が一定になってから、さらに、約9分間照射した。
このときの入射電力、反射電力、温度変化を図6のグラフにそれぞれ示す。
その後の試料の重量変化、残存率を図4の表に示す。
このようにマイクロ波処理したゼニゴケの試料を、ヘキサン50mLに抽出しエバポレーターで1mLまで濃縮した。
次に、展開溶媒「シクロヘキサン:酢酸エチル:酢酸:メタノール=30:10:1:1」にてTLC展開した結果を図5に示す。
この結果、ゼニゴケを乾燥させてしまうとその後のアラキドン酸の抽出がよくないことが確認できた。
また、採取したままの「生」の状態でもマイクロ波処理することでアラキドン酸を抽出することができるが、最も抽出効率が高いのは「半生」状態の試料であった。
これは、図6の反射電力変化を比較すると分かるように、ゼニゴケの表面に水分が多いと、それにマイクロ波が多く吸収されるため、グラフ(a)のように、初期の反射電力の立ち上がりが小さく、細胞膜の破壊に使用されるマイクロ波が少ないことが明らかになった。
【符号の説明】
【0015】
1 マイクロ波発振器
2 マイクロ波発振器電源
3 処理室
4 昇降装置
5 扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蘚苔類にマイクロ波を照射することで予備乾燥し、その後に油脂類を抽出することを特徴とする蘚苔類からの油脂類抽出方法。
【請求項2】
蘚苔類にマイクロ波を照射することで予備乾燥し、その後に水蒸気蒸留にて油脂類を抽出することを特徴とする蘚苔類からの油脂類抽出方法。
【請求項3】
蘚苔類はゼニゴケ(Marchantia polymorpha L.)であることを特徴とする請求項1又は2記載の蘚苔類からの油脂類抽出方法。
【請求項4】
油脂類は、不飽和脂肪酸類が含まれている油脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蘚苔類からの油脂類抽出方法。
【請求項5】
不飽和脂肪酸類は、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸及びそれらの誘導体であるエイコサノイドのいずれかであることを特徴とする請求項4記載の蘚苔類からの油脂類抽出方法。
【請求項6】
マイクロ波は、1〜10GHzであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の蘚苔類からの油脂類抽出方法。

【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−52086(P2011−52086A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201107(P2009−201107)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業,生物系特定産業技術研究支援センター,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(392019857)株式会社アクトリー (27)
【Fターム(参考)】