説明

虚血再潅流を治療する方法および組成物

本発明は、虚血再潅流傷害を治療または予防する方法および組成物を提供する。本発明の方法はアポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼを含有する組成物を投与して、虚血再潅流傷害を治療、軽減または予防することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、米国仮出願第60/381,653号(2002年5月17日出願)および第60/405,478号(2002年8月23日出願)の優先権を主張する。これらはそれぞれ本明細書に参照によりその全てが組み入れられる。
【0002】
1.技術分野
本発明は、アポリポタンパク質またはアポリポタンパク質アゴニストを含む組成物を用いて虚血再潅流傷害を治療、軽減または予防する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
2.発明の背景
虚血後再潅流は、哺乳動物における骨格筋および心筋損傷の主な原因である。虚血は、血流減少の結果としての組織または器官に供給される酸素の減少により引き起こされ、器官の機能不全をもたらす。血液供給の減少は、心筋梗塞などの血管血栓症、狭窄、不慮の血管傷害、または外科手術による閉塞または血液迂回から生じうる。次いで酸素を豊富に含む血液の組織への十分な供給が再確立されると、虚血再潅流傷害または閉塞再潅流傷害として知られるプロセスである損傷の拡大を生じうる。虚血再潅流傷害から生じる合併症としては、脳卒中、致死的または非致死的心筋梗塞、心筋再造形、動脈瘤、末梢血管疾患、組織壊死、腎不全、および手術後の筋緊張喪失が挙げられる。
【0004】
虚血は、狭窄または血栓症を含む閉塞性イベントに続いて二次的に起こりうる。狭窄はアテローム性動脈硬化症などの医学的症状によって生じることもありまたは外科手術の際に誘導することもありうる。例えば、外科手術(膝、手、臀部および肩部の手術)、組織移植、冠動脈バイパス移植(CABG)および経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)を含む心臓手術は、全て血流を減少または停止させ、虚血を誘導し、そして再潅流傷害の局面を設けることになりうる。さらに、採取したドナー組織および器官も、受容者への輸送中およびその後の移植の間、再潅流傷害を受けやすい。
【0005】
酸素フリーラジカルは、虚血/再潅流の病態生理学に関与する重要な構成要素であると考えられる(Banerjeeら, 2002, BMC Pharmacol. 2(1):16;DemirおよびInal-Erden 1998, Clin. Chim. Acta 275(2):127-35;Fukuzawaら, 1995, Transplantation 58(1):6-9;Sewerynekら, 1996, Hepatogastroenterology 43(10):898-905;Serteserら, 2002, J. Surg. Res. 107(2)234-40を参照)。
【0006】
動物モデルにおいて、反応性酸素種が様々な組織および器官、例えば腎臓、脳、肝臓、心臓の再潅流傷害に関与することが示されている(Senerら, 2002, J. Pineal Res. 32(2):120-6;Senerら, 2003, Life Sci. 72(24):2707-18;Ding-Zhouら, 2003, J. Pharmacol. Exp. Ther. [印刷に先行するe-公開、2003年5月2日] PMID:12730357;Katamayaら, 1997, Tokai J. Exp. Clin. Med. 22(2):33-44;GRECHら, 1996, Am. J. Cardiol. 77(2):122-7)。
【0007】
ヒトにおいても、反応性酸素種は、虚血再潅流傷害を媒介すると考えられる。酵素キサンチンオキシダーゼは心筋再潅流の際の酸素フリーラジカルの放出を担う(Guanら, 1999, Jpn. Cir. J. 63(12):924-8を参照)。急性心筋梗塞後に冠動脈手術またはPTCAの処置を受ける患者に対するアロプリノール(キサンチンオキシダーゼインヒビター)による前処置は、心臓の健康を改善する。例えば、アロプリノールにより前処置した患者は、対照群と比較すると、不整脈症状の減少および左心室機能の改善を示した(Bochenekら, 1990, Eur. J. Cardiothorac. Surg. 4(10):538-42;Guanら, 2003, J. Cardiovas. Pharmacol. 41(5):699-705)。
【0008】
虚血傷害はまた、上皮細胞および内皮細胞からの前炎症性サイトカイン、ケモカインおよび他のメディエーター、例えば腫瘍壊死因子、インターロイキンおよびインターフェロンの放出によっても起こりうる(Furuichaら, 2002, Drug News Perspect. 15(8):477-82;Donnahooら, 1999, J. Urol. 162(1):196-203;Yoshimotoら, 1997, Acta Neuropathol. (Berl) 93(2):154-8;Sungら, 2002, Kidney Int. 62(4):1160-7;Maekawaら, 2002, J. Am. Coll. Cardiol. 39(7):1229-35)。サイトカインの放出は、次々と、炎症カスケードに寄与する多数の細胞、例えば好中球、単球およびマクロファージを含む白血球を誘引する(Taub 1996, Cytokine Growth Factor Rev. 7(4):355-76;Krishnadasanら, 2003, J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 125(2):261-72;Krishnaswamyら, 1999, J Interferon Cytokine Res. 19(2):91-104;Senerら, 2003, Life Sci. 73(1):81-91;Yueら, 2001, Circulation 104(21):2588-94)。
【0009】
様々な薬物が虚血再潅流傷害の治療または予防における潜在的に有効な薬剤として研究されており、例えば限られた成功を収めているものとして、ペントキシフィリン、N-アセチルシステイン、ニンニク、メラトニン、ビタミンCおよびBN 80933(ニューロン性一酸化窒素シンターゼインヒビターおよび抗酸化薬)がある(DemirおよびInal-Erden 1998、Clin. Chim. Acta 275(2):127-35;Banerjeeら, 2002, BMC Pharmacol. 2(1):16;Fukuzawaら, 1995, Transplantation 58(1):6-9;Senerら, 2002, J. Pineal Res. 32(2):120-6;Ding-Zhouら, 2003, J. Pharmacol. Exp. Ther. [印刷に先行するe-公開、2003年5月2日] PMID:12730357;Guanら, 1999, Jpn. Cir. J. 63(12):924-8)。
【0010】
現行の虚血治療法は、血流を可能な限り速く回復することに焦点を当てている。例えば急性心筋梗塞(AMI)の後の迅速な処置は、長期傷害を予防するために極めて重要である。AMI発症後24時間を超えての血栓溶解治療は、臨床転帰を改善しない。AMI後に血管を再開通するためのPTCAの利用は意見の分かれるところであるが、研究はAMI後48時間以内に実施したPTCAは有益であることを示している。目立った利点としては、例えば、左心室再造形(remodeling)の防止、左心室再造形および動脈瘤の減少、左心室壁運動の改善、ならびにAMI後5年間の心臓疾患症状の減少が挙げられる(Kanamasaら, 2000, J. Thrombo. Thrombolysis 9(1):47-51;Kanamasaら, 1996, J. Cardiol. 28(4):199-205;Horieら, 1998, Circulation 98(22):2377-82;Kanamasaら, 2000, Angiology 51(4):281-8)。
【0011】
血栓溶解療法とPTCAが再潅流に対して用いられるが、両方とも著しい欠点を有する。例えば、血栓溶解療法は、活動性内出血、脳血管発作歴、頭蓋内または脊髄内手術または外傷、動静脈奇形または動脈瘤、頭蓋内新生物、出血体質および非抑制性重症高血圧をもつ患者には禁忌である(Drug Facts and Comparisons, 月刊, 2003年1月, Facts and Comparisons, Wolter Kluwer Company. , St. Louis, MO)。PTCAは侵襲性手法であって、それ自体が死、心筋梗塞および脳卒中を含むリスク群を有し、もともと心臓の健康状態が優れなかったり凝固障害をもつ患者には比較的禁忌である(The Merck Manual, 第17版 (BeersおよびBerkow編) Merck Research Laboratories, Whitehouse Station, N.J., 1999, p.1628-9)。
【0012】
たとえ血栓溶解療法またはPTCAが再潅流を必要とする患者に利用できる場合でも、それらは虚血再潅流傷害を治療または予防するようには決して働かない。虚血再潅流傷害の症状を治療または改善する新しい方法および組成物が必要とされている。
【発明の開示】
【0013】
3.発明の概要
そこで、本発明は虚血再潅流傷害を治療し、軽減しまたは予防するための方法および組成物を提供する。本発明の方法は、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼを含む組成物を用いた、虚血再潅流傷害の治療し、軽減しまたは予防を提供する。本発明の方法は、本発明の虚血再潅流傷害治療薬の投与を含むものである。驚いたことに、虚血再潅流傷害治療薬を投与することによって、個体を虚血再潅流傷害から治療し、軽減しまたは保護することができることが見出された。
【0014】
一態様においては、本発明は、有効量の虚血再潅流傷害治療薬の投与により虚血再潅流傷害を治療し、軽減しまたは予防する方法を提供する。本発明のある特定の実施形態においては、上記治療薬はアポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼであってもよい。特定の実施形態においては、虚血再潅流傷害治療薬はアポリポタンパク質である。アポリポタンパク質はいずれのアポリポタンパク質であってもよく、例えば、アポリポタンパク質A-Iまたはその変異型もしくは断片を含む。ある特定の実施形態においては、アポリポタンパク質はチオールを含有するアポリポタンパク質である。本発明の好ましい実施形態においては、アポリポタンパク質はアポリポタンパク質A-I Milano(ApoA-I)である。
【0015】
ある特定の実施形態においては、虚血再潅流傷害治療薬をアポリポタンパク質と脂質を含む複合体の形態として投与することができる。好ましくは、脂質はリン脂質である。リン脂質は当業者にとって公知のいずれのリン脂質であってもよい。本発明の好ましい実施形態においては、リン脂質はホスファチジルコリンまたはその誘導体もしくは類似体、例えば1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリンであってもよい。
【0016】
本発明の方法および組成物は、虚血再潅流傷害からの治療、軽減または保護が有用である任意の状況において利用することができる。ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物は、筋肉および器官、例えば、心臓、肝臓、腎臓、脳、肺、脾臓およびステロイド産生器官(例えば、甲状腺、副腎および生腺)を虚血再潅流傷害による損傷から保護することができる。ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物は移植片採取、輸送および移植片受容者への埋め込みの際に組織、筋肉または器官を保護することができる。
【0017】
4.図面の簡単な説明
図面の簡単な説明は、下記参照。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
5.発明の詳細な説明
本発明は予防的な再潅流傷害治療薬を用いて虚血再潅流傷害を治療し、軽減しまたは予防する方法を提供する。上記治療薬は、例えばアポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼを含む、本明細書に記載のいずれの予防的な虚血再潅流傷害治療薬であってもよい。
【0019】
5.1. アポリポタンパク質
一態様においては、本発明はアポリポタンパク質を含む組成物を投与することにより虚血再潅流からの傷害を治療し、軽減しまたは予防する方法を提供する。本明細書に使用される用語「アポリポタンパク質」は、当業者に知られているアポリポタンパク質とそれらの変異型および断片、ならびにアポリポタンパク質アゴニスト、類似体またはその断片を意味するものであり、以下に記載される。
【0020】
アポリポタンパク質は、虚血再潅流からの傷害の治療または予防に有効であるいずれのアポリポタンパク質であってもよい。適当なアポリポタンパク質としては、限定されるものでないが、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-VおよびApoE、および活性多型形態、イソ型、変異型および突然変異体ならびにそれらの断片または末端切断型が挙げられる。ある特定の実施形態においては、アポリポタンパク質は、チオールを含有するアポリポタンパク質である。「チオールを含有するアポリポタンパク質」とは、少なくとも1つのシステイン残基を含有するアポリポタンパク質、変異型、断片またはイソ型を意味する。最もありふれた、チオールを含有するアポリポタンパク質は、システイン残基を1個含有するApoA-I Milano(ApoA-IM)およびApoA-I Paris(ApoA-IP)である(Jiaら, 2002, Biochem. Biophys. Res. Comm. 297:206-13;BielickiおよびOda, 2002, Biochemistry 41:2089-96)。ApoA-II、ApoE2およびApoE3もまた、チオールを含有するアポリポタンパク質である。ある特定の実施形態においては、ApoA-Iのように、アポリポタンパク質は、チオールを含有するアポリポタンパク質ではない。
【0021】
ある特定の実施形態においては、アポリポタンパク質はその成熟型、そのプレプロアポリポタンパク質型、またはそのプロアポリポタンパク質型であってもよい。プロApoA-Iおよび成熟ApoA-I(Duvergerら, 1996, Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. 16(12):1424-29)、ApoA-I Milano(Klonら, 2000, Biophys. J. 79:(3)1679-87;Franceschiniら, 1985, J. Biol. Chem. 260:1632-35)、ApoA-I Paris(Daumら, 1999, J. Mol. Med. 77:614-22)、ApoA-II(Shelnessら, 1985, J. Biol. Chem. 260(14):8637-46;Shelnessら, 1984, J. Biol. Chem. 259(15):9929-35)、ApoA-IV(Duvergerら, 1991, Euro. J. Biochem. 201(2):373-83)、およびApoE(McLeanら, 1983, J. Biol. Chem. 258(14):8993-9000)のホモダイマーおよびヘテロダイマー(実現可能な場合)も本発明の範囲内で利用することができる。
【0022】
ある特定の実施形態においては、アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質の断片、変異型またはイソ型であってもよい。用語「断片」は、天然アポリポタンパク質のそれより短いアミノ酸配列を有しかつその「断片」が天然アポリポタンパク質の活性(脂質結合性など)を保持する任意のアポリポタンパク質を意味する。用語「変異型」は、アポリポタンパク質のアミノ酸配列における置換または改変であって、その置換または改変、例えばアミノ酸残基の付加および欠失が天然アポリポタンパク質の活性(脂質結合性など)を無効化しないようなものを意味する。従って、変異型は、本明細書に与えられた天然アポリポタンパク質と実質的に同一のアミノ酸配列を有しかつ1以上のアミノ酸残基が化学的に類似したアミノ酸により保存的に置換されているタンパク質またはペプチドを含みうる。保存的置換の例としては、少なくとも1つの疎水性残基、例えばイソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンの相互の置換が挙げられる。同様に本発明は、例えば少なくとも1つの親水性残基の置換、例えばアルギニンとリシンの間、グルタミンとアスパラギンの間、およびグリシンとセリンの間での置換を意図する(米国特許第6,004,925号、第6,037,323号および第6,046,166号を参照)。用語「イソ型」は、同じかより大きいかもしくはその部分的な機能を有し、かつ類似するか、同一かもしくはその部分的な配列を有するタンパク質を意味し、そしてそれは同じ遺伝子の産物であってもまたはなくてもよく、そして通常、組織特異的である(Weisgraber 1990, J. Lipid Res. 31(8):1503-11;HixsonおよびPowers 1991, J. Lipid Res. 32(9):1529-35;Lacknerら, 1985, J. Biol. Chem. 260(2):703-6;Hoegら, 1986, J. Biol. Chem. 261(9):3911-4;Gordonら, 1984, J. Biol. Chem. 259(1):468-74;Powellら, 1987, Cell 50(6):831-40;Aviramら, 1998, Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. 18(10):1617-24;Aviramら, 1998, J. Clin. Invest. 101(8):1581-90;Billeckeら, 2000, Drug Metab. Dispos. 28(11):1335-42;Draganovら, 2000, J. Biol. Chem. 275(43):33435-42;SteinmetzおよびUtermann 1985, J. Biol. Chem. 260(4):2258-64;Widlerら, 1980, J. Biol. Chem. 255(21):10464-71;Dyerら, 1995, J. Lipid Res. 36(1):80-8;Sacreら, 2003, FEBS Lett. 540(1-3):181-7;Weers,ら, 2003, Biophys. Chem. 100(1-3):481-92;Gongら, 2002, J. Biol. Chem. 277(33):29919-26;Ohtaら, 1984, J Biol. Chem. 259(23):14888-93;および米国特許第6,372,886号を参照)。ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物は、アポリポタンパク質のキメラ構築物の使用を含む。例えば、アポリポタンパク質のキメラ構築物は、虚血再潅流保護特性を有するアポリポタンパク質ドメインに関連する高い脂質結合能力をもつアポリポタンパク質ドメインを含んでもよい。アポリポタンパク質のキメラ構築物は、あるアポリポタンパク質内の別個の領域を含む構築物(すなわち、同種構築物)であってもよいし、またはキメラ構築物は異なるアポリポタンパク質間の別個の領域を含む構築物(すなわち、異種構築物)であってもよい。キメラ構築物を含む組成物はまた、アポリポタンパク質変異型であるセグメントまたは特定の性質(例えば、脂質結合、受容体結合、酵素的、酵素活性化、抗酸化性または還元-酸化特性)を有するように設計されたセグメントを含んでもよい(Weisgraber 1990, J. Lipid Res. 31(8):1503-11;HixsonおよびPowers 1991, J. Lipid Res. 32(9):1529-35;Lacknerら, 1985, J. Biol. Chem. 260(2):703-6;Hoegら, 1986, J. Biol. Chem. 261(9):3911-4;Gordonら, 1984, J. Biol. Chem. 259(1):468-74;Powellら, 1987, Cell 50(6):831-40;Aviramら, 1998, Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. 18(10):1617-24;Aviramら, 1998, J. Clin. Invest. 101(8):1581-90;Billeckeら, 2000, Drug Metab. Dispos. 28(11):1335-42;Draganovら, 2000, J. Biol. Chem. 275(43):33435-42;SteinmetzおよびUtermann 1985, J. Biol. Chem. 260(4):2258-64;Widlerら, 1980, J. Biol. Chem. 255(21):10464-71;Dyerら, 1995, J. Lipid Res. 36(1):80-8;Sorensonら, 1999, Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. 19(9):2214-25;Palgunachari 1996, Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. 16(2):328-38;Thurbergら, J. Biol. Chem. 271(11):6062-70;Dyer 1991, J. Biol. Chem. 266(23):150009-15;Hill 1998, J. Biol. Chem. 273(47):30979-84を参照)。
【0023】
本発明に利用されるアポリポタンパク質はまた、組換え、合成、半合成または精製アポリポタンパク質も含む。本発明により利用されるアポリポタンパク質またはその同等物を得る方法は当技術分野において周知である。例えば、アポリポタンパク質を血漿または天然産物から、例えば密度勾配遠心分離または免疫アフィニティクロマトグラフィにより分離するか、または合成的に、半合成的にもしくは当業者に知られている組換えDNA技術を用いて生産することができる(例えば、Mulugetaら, 1998, J. Chromatogr. 798(1-2):83-90;Chungら, 1980, J. Lipid Res. 21(3):284-91;Cheungら, 1987, J. Lipid Res. 28(8):913-29;Persson,ら, 1998, J. Chromatogr. 711:97-109;米国特許第5,059,528号、第5,834,596号、第5,876,968号および第5,721,114号;ならびにPCT公開公報WO 86/04920およびWO 87/02062を参照)。
【0024】
本発明に利用されるアポリポタンパク質はさらに、アポリポタンパク質アゴニスト、例えばApoA-I、ApoA-I Milano(ApoA-IM)、ApoA-I Paris(ApoA-IP)、ApoA-II、ApoA-IV、およびApoEの活性を模倣するペプチドおよびペプチド類似体を含む。例えば、アポリポタンパク質は、米国特許第6,004,925号、第6,037,323号、第6,046,166号および第5,840,688号に記載のもののいずれかであってもよい。これらの内容は本明細書に参照によりその全てが組み入れられる
アポリポタンパク質アゴニストペプチドまたはペプチド類似体は、例えば、米国特許第6,004,925号、第6,037,323号および第6,046,166号に記載の技術を含む当技術分野で知られるペプチド合成の技術を用いて合成または製造することができる。例えば、ペプチドは最初にMerrifield(1963, J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154)が記載した固相合成技術を用いて調製してもよい。他のペプチド合成技術は、Bodanszkyら, 「ペプチド合成(Peptide Synthesis)」, John Wiley & Sons, 第2版, (1976)および当業者が容易に利用しうる他の参考文献に見出すことができる。ポリペプチド合成技術の総括は、StuartおよびYoung, 「固相ペプチド合成(Solid Phase Peptide Synthesis)」, Pierce Chemical Company, Rockford, Ill., (1984)に見出すことができる。ペプチドはまた、「タンパク質(The Proteins)」, Vol.II, 第3版, Neurathら, 編, p.105-237, Academic Press, New York, N.Y. (1976)に記載の溶液法により合成することもできる。色々なペプチド合成に利用するための適当な保護基は、上記教科書ならびにMcOmie, 「有機化学の保護基(Protective Groups in Organic Chemistry)」, Plenum Press, New York, N.Y. (1973)に記載されている。本発明のペプチドはまた、より大きな部分、例えば、アポリポタンパク質A-Iから、化学または酵素切断により調製することもできる。
【0025】
ある特定の実施形態においては、アポリポタンパク質はアポリポタンパク質の混合物であってもよい。一実施形態においては、アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質の同種混合物、すなわち、単一のタイプのアポリポタンパク質であってもよい。他の実施形態においては、アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質の異種混合物、すなわち2種以上の異なるアポリポタンパク質の混合物であってもよい。アポリポタンパク質の同種混合物の実施形態は、動物起源のアポリポタンパク質と半合成起源のアポリポタンパク質の混合物を含みうる。ある特定の実施形態においては、異種混合物は、例えば、ApoA-IとApoA-I Milanoの混合物を含みうる。ある特定の実施形態においては、異種混合物は、例えば、ApoA-I MilanoとApoA-I Parisの混合物を含みうる。本発明の方法および組成物に使用するための好適な混合物は当業者には明らかであろう。
【0026】
アポリポタンパク質を天然源から得るのであれば、それは植物源または動物源から得ることができる。アポリポタンパク質を動物源から得るのであれば、アポリポタンパク質はいずれの種から得てもよい。ある特定の実施形態においては、アポリポタンパク質を動物源から得ることができる。ある特定の実施形態においては、アポリポタンパク質をヒト源から得ることができる。本発明の好ましい実施形態においては、アポリポタンパク質は、そのアポリポタンパク質を投与する個体と同じ種に由来する。
【0027】
5.3. レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ
他の態様においては、本発明は虚血再潅流からの傷害を、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)を含む組成物を投与することにより治療、軽減または予防する方法を提供する。本明細書に使用される用語「LCAT」は、当業者に知られているレシチンのアシル基転移を触媒する酵素ならびにその変異型および断片を意味する(Jauhiainenら, 1988, J. Biol. Chem. 263(14):6525-33;米国特許第6,498,019号を参照、これらの内容は参照によりその全てが本明細書に組み入れられる)。
【0028】
LCATは虚血再潅流に由来する傷害の治療または予防に有効であるいずれのLCATであってもよい。本発明に利用しうるLCATはまた、組換えまたは精製LCATも含む。本発明に利用しうるLCATまたはその同等物を得る方法は当技術分野で周知である(Jauhiainenら, 1988, J. Biol. Chem. 263(14):6525-33;Vakkilainenら, 2002, J. Lipid Res. 43(4):598-603;Jiangら, 1999, J. Clin. Invest. 103(6):907-14;Lee,ら, 2003, J. Biol. Chem. 278(15):13539-45;Gambert 1995, C. R. Seances Soc. Biol. Fil. (フランス語論文) 189(5):883-8;Jonas 2000, Biochim. Biophys. Acta 1529(1-3):245-56;米国特許第6,498,019号を参照、これらの内容は本明細書に参照によりその全てが組み入れられる)。
【0029】
5.4 パラオキソナーゼ
他の態様においては、本発明は虚血再潅流由来の傷害を、パラオキソナーゼを含む組成物を投与することにより治療、軽減または予防する方法を提供する。本明細書に使用される「パラオキソナーゼ」とは、もともと、パラオクソンの加水分解を担うことが見出された酵素を指し、これは、アポリポタンパク質(ApoA-I)、およびクラステリンを含有する高密度リポタンパク質と物理的に結合し、低密度リポタンパク質の脂質過酸化を防止する(Laplaudら, 1998, Clin. Chem. Lab. Med. 36(7):431-41;Paraghら, 1998, Nephron 81(2):166-70;Ayubら, 1999 Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. 19(2):330-5;Tanimotoら, 2003, Life Sci. 72(25):2877-85;米国特許第6,521,226号、第6,391,298号および第6,242,186号)。
【0030】
5.5 リン脂質複合体
本発明のある特定の実施形態においては、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼは、脂質とアポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼを含む複合体として投与することができる。脂質は当業者に知られているいずれの脂質であってもよい。本発明のある特定の実施形態においては、脂質はリン脂質である。
【0031】
リン脂質は当業者に知られているいずれの供給源から得てもよい。例えば、リン脂質を市販の供給源、天然源から得てもよいし、または当業者に知られている合成もしくは半合成手段により得てもよい(Mel'nichukら, 1987, Ukr. Biokhim. Zh. 59(6):75-7;Mel'nichukら, 1987, Ukr. Biokhim. Zh. 59(5):66-70;Rameshら, 1979, J. Am. Oil Chem. Soc. 56(5):585-7;PatelおよびSparrow, 1978, J Chromatogra. 150(2):542-7;Kaduceら, 1983, J. Lipid Res. 24(10):1398-403;Schlueterら, 2003, Org. Lett. 5(3):255-7;Tsujiら, 2002, Nippon Yakurigaku Zasshi 120(1):67P-69P)。
【0032】
リン脂質は当業者に知られている任意のリン脂質であってよい。例えば、リン脂質は、小アルキル鎖リン脂質、ホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、ダイズ・ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジラウリルホスファチジルコリン、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、1-オレオイル-2-パルミチルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、スフィンゴ脂質、脳スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、(1、3)-D-マンノシル-(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド、3-コレステリル-6'(グリコシルチオ)ヘキシルエーテル糖脂質、およびコレステロールとその誘導体であってもよい。リン脂質はまた、上記リン脂質のいずれの誘導体または類似体であってもよい。ある特定の実施形態においては、組成物は2以上のリン脂質の組合わせを含んでもよい。本発明の好ましい実施形態においては、アポリポタンパク質を1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン(POPC)との複合体として投与する。本発明のある好ましい実施形態においては、アポリポタンパク質は、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリンと1対1の重量比で複合体化した組換えアポリポタンパク質A-I Milano(ApoA-I Milano)である。この複合体をETC-216と呼ぶ。
【0033】
本発明の組成物は、虚血再潅流由来の傷害を治療または予防するために有効である任意の量のリン脂質と任意の量のアポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼを含んでもよい。ある特定の実施形態においては、本組成物は約1対1の比のアポリポタンパク質とリン脂質の複合体を含んでもよい。しかし、本組成物は、約100:1、約10:1、約5:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:5、約1:10および約1:100などのリン脂質 対 アポリポタンパク質の異なる比を示す複合体を含んでもよい。リン脂質 対 アポリポタンパク質の比の最適化は当業者の技術の範囲内である。
【0034】
5.3. アポリポタンパク質-脂質複合体を作る方法
ある態様においては、本発明は、脂質と複合体化したアポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼを含む組成物を投与することにより、虚血再潅流からの傷害を治療、軽減または予防する方法を提供する。一実施形態においては、組成物はアポリポタンパク質-脂質複合体から構成される。
【0035】
アポリポタンパク質と脂質を含む複合体は、限定されるものでないが、小胞、リポソームまたはプロテオリポソームを含む様々な形態で調製することができる。当業者によく知られている様々な方法を用いて、アポリポタンパク質と脂質を含む複合体(アポリポタンパク質-脂質複合体)を調製することができる。リポソームまたはプロテオリポソームを調製するために利用しうる多数の技術を使用することができる。例えば、アポリポタンパク質を適当な脂質と同時超音波処理して(浴式またはプローブ式超音波処理器を用いて)複合体を形成させてもよい。あるいは、アポリポタンパク質を、予め形成した脂質小胞と混合して、アポリポタンパク質と脂質を含む複合体を自然形成させてもよい。アポリポタンパク質-脂質複合体はまた、界面活性剤透析法(例えば、アポリポタンパク質、脂質およびコール酸塩などの界面活性剤の混合物を透析して界面活性剤を除去し、再構築させるとアポリポタンパク質-脂質複合体を形成する。(例えば、Jonasら, 1986, Methods Enzymol. 128,553-82を参照))により、または押出デバイスを用いることにより、またはホモジナイゼーションにより、形成させることができる。他の方法が、例えば、米国特許第6,004,925号、第6,037,323号および第6,046,166号に開示されており、これらは本明細書に参照によりその全てが組み入れられる。同時凍結乾燥によりアポリポタンパク質脂質複合体を調製する方法の例が、米国特許第6,287,590号に記載されており、これは本明細書に参照によりその全てが組み入れられる。アポリポタンパク質-脂質複合体を調製するその他の方法も当業者には明らかであろう。
【0036】
ある特定の実施形態においては、複合体は、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼと脂質を含む。他の実施形態においては、複合体はパラオキソナーゼと脂質を含む。
【0037】
5.3.1. 医薬製剤
本発明は、虚血再潅流傷害を治療、軽減または予防するために有用な方法および組成物を提供する。ある特定の実施形態においては、本発明の組成物は医薬組成物である。一実施形態においては、医薬組成物は、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼ、および脂質を、製薬上許容される組成物中に含む。以下に記載される製薬上許容される組成物は、例えば、許容される希釈剤、賦形剤または担体を含む。
【0038】
好ましい実施形態においては、医薬組成物はアポリポタンパク質を含む。他の好ましい実施形態においては、医薬組成物はアポリポタンパク質-脂質複合体を含む。本出願のこの節の目的では、用語「アポリポタンパク質」は、アポリポタンパク質、またはアポリポタンパク質と脂質の複合体(「アポリポタンパク質-脂質複合体」)を含む組成物の、いずれをも意味する。
【0039】
本発明の医薬組成物は、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼをin vivoまたは体外(ex vivo)の組織もしくは器官へ投与および送達するために好適な製薬上許容される組成物として含む。
【0040】
医薬組成物はアポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼを塩形態で含んでもよい。例えば、タンパク質は酸性および/または塩基性末端および/または側鎖を含みうるので、タンパク質は医薬組成物中に遊離の酸もしくは塩基の形態で、または製薬上許容される塩の形態で含まれてもよい。製薬上許容される塩としては、本発明のタンパク質と塩を形成しうる好適な酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸、リン酸などの無機酸;および、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アントラニル酸、桂皮酸、ナフタレンスルホン酸、スルファニル酸などの有機酸のものが挙げられる。対象のタンパク質と塩を形成しうる、例えば水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;ならびに、例えばモノ-、ジ-およびトリ-アルキルアミン(例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルアミン、ジメチルアミンなど)および場合によっては置換したエタノールアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミンなど)などの有機塩基のものを含んでもよい。
【0041】
医薬組成物は任意の投与経路(限定されるものでないが、非経口、経腸、局所または吸入を含む)に好適な様々な形態であってよい。非経口投与は食道を通らない投与経路を意味し、限定されるものでないが、注射投与(すなわち、以下に記載の静脈、筋肉内など)を含む。経腸投与は、経口投与経路を意味し、限定されるものでないが、以下に記載のように、錠、カプセル、経口溶液、懸濁液、スプレーなどを含む。この節の目的に対して、経腸投与はまた、直腸および膣投与経路も意味する。局所投与は、経皮投与経路を意味し、限定されるものでないが、以下に記載のように、クリーム、軟膏、ジェルおよび経皮パッチを含む(「レミントンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」, 第18版, Gennaroら編, Mack Printing Company, Easton, Pennsylvania, 1990も参照)。
【0042】
本発明の非経口医薬組成物は注射により、例えば、静脈中に(静脈内)、動脈中に(動脈内)、筋肉中に(筋肉内)、皮膚下に(皮下もしくはデポ組成物で)、心膜へ、冠状動脈へ投与するか、または組織もしくは器官へ送達する溶液(例えば、以下に記載のように心肺バイパス機械におけるまたは移植組織もしくは器官を浴するための使用)として使用することができる。
【0043】
注射用医薬組成物は、水性もしくは油性ビヒクル中に含むアポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体の無菌懸濁液、溶液または乳濁液であってもよい。本組成物はまた、製剤用薬剤または賦形剤、例えば懸濁化剤、安定剤および/または分散剤も含んでよい。注射用製剤は単位剤形、例えばアンプルでまたは多回用量容器で提供してもよく、そして追加の保存剤を含んでもよい。ある特定の実施形態においては、医薬組成物はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンまたはTHAM(トロメタミン)などのバッファーを含有する。
【0044】
注射用組成物は、注射投与用経路に薬学的に適当な組成物であってもよく、それらの経路は、限定されるものでないが、静脈内、動脈内、冠動脈内、心膜内(pericardial)、血管周囲、筋肉内、皮下および関節内を含む。注射用医薬組成物は心臓、心膜または冠動脈中に直接投与するために薬学的に適当な組成物でありうる。
【0045】
非経口医薬組成物は、意図する受容者への導入前、その間もしくはその後の移植組織もしくは器官を浴するために好適である薬学的に適当な組成物でありうる。そのような組成物は、移植のための組織もしくは器官の調製前もしくは調製の際に(例えば、採取前もしくは採取時に)使用することができる。さらに、その調製物は、心臓手術の際に投与される心筋保護液であってもよい。ある特定の実施形態においては、医薬組成物を心肺バイパス機械と組み合わせて使用して医薬組成物を心臓に与えることができる。そのような調製物は、心臓手術の誘導、維持または再潅流段階中に使用することができる(Changら, 2003, Masui 52(4):356-62;Ibrahimら, 1999, Eur. J. Cardiothorac. Surg. 15(1):75-83;von Oppellら, 1991, J. Thorac. Cardiovasc. Surg 102(3):405-12;Jiら, 2002, J. Extra Corpor. Technol. 34(2):107-10を参照)。ある特定の実施形態においては、医薬組成物はポンプまたは潅流機などの機械装置(例えば、PerDUCER(登録商標))によって送達することができる(HouおよびMarch 2003, J. Invasive Cardiol. 15(1):13-7;Maischら, 2001, Am. J. Cardiol. 88(11):1323-6;MacrisおよびIgo 1999, Clin. Cardiol. 22(1, 追補1):I36-9)。
【0046】
あるいは、注射用医薬組成物を、使用前に適当なビヒクルを用いて再構成するための粉末製剤として提供しても良く、そのようなビヒクルとしては限定されるものでないが、無菌で発熱物質不含の水、バッファー、デキストロース溶液などが挙げられる。この目的で、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼを凍結乾燥、または適宜、脂質とともに同時凍結乾燥することができる。医薬組成物を単位剤形で供給し、そしてin vivo使用前に再構成してもよい。アポリポタンパク質-脂質複合体を同時凍結乾燥により調製する方法は、例えば米国特許第6,287,590号に記載されており、その内容は本明細書に参照によりその全てが組み入れられる。
【0047】
長時間にわたる送達には、医薬組成物をデポ製剤として、移植により;例えば、皮下、皮内、または筋肉内注射により投与するために、提供することができる。従って、例えば、医薬組成物を、適当なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、許容しうるオイル中の乳液として)もしくはイオン交換樹脂を用いて、または難溶性誘導体;例えば、アポリポタンパク質の難溶性塩形態として、製剤することができる。
【0048】
あるいは、経皮吸収用活性成分を徐々に放出する接着性ディスクまたはパッチとして作られた経皮送達系を用いることができる。この目的では、浸透促進剤を用いて活性成分の経皮浸透を容易にすることができる。アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼまたはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体をニトログリセリンとともに経皮パッチ中に組込むことにより、虚血性心疾患および高コレステロール血症の患者における使用に対して特別な利益を達成しうる。
【0049】
経口投与用には、医薬製剤は例えば、通常の手法により製薬上許容される賦形剤を用いて調製した錠剤またはカプセルの剤形をとってもよく、上記賦形剤としては、例えば結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微晶セルロースまたは水素リン酸カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはグリコール酸デンプンナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)が挙げられる。錠剤は、当技術分野でよく知られている方法によりコーティングすることができる(「レミントンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」, 第18版, Gennaroら編, Mack Printing Company, Easton, Pennsylvania, 1990を参照)。
【0050】
経口投与用の液状医薬組成物は、例えば溶液、シロップもしくは懸濁液の剤形をとってもよく、または乾燥製品であって使用前に水または他の好適なビヒクルを用いて構成してもよい。かかる液状医薬組成物は通常の手法により製薬上許容される添加物を用いて調製することができ、その添加物としては、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンドオイル、油状エステル、エチルアルコールまたは分取植物油);および保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピルまたはソルビン酸)が挙げられる。
【0051】
医薬組成物はまた、バッファー塩、香料、着色剤および甘味剤を適宜含んでもよい。経口投与用医薬組成物は、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体の制御放出が提供されるように調製してもよい。
【0052】
経腸医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチまたはロゼンジの剤形であって、バッカル投与用に好適であってもよい。直腸および膣の投与経路に対しては、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体は溶液(例えば、保持浣腸)座薬または軟膏として調製することができる。経腸医薬組成物は、食事混合物への添加用に、例えば全非経口栄養(TPN)混合物との混合用に、または食事チューブによる送達に好適である(Dudrickら, 1998, Surg. Technol. Int. VII:174-184;Mohandasら, 2003, Natl. Med. J. India 16(1):29-33;Buenoら, 2003, Gastrointest. Endosc. 57(4):536-40;Shikeら, 1996, Gastrointest. Endosc. 44(5):536-40を参照)。
【0053】
吸入による投与のためには、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体は、加圧パックまたは噴霧器からの好適な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロメタン、二酸化炭素または他の適当なガスを用いるエーロゾルスプレー吹付けの形態で、都合よく送達することができる。加圧エーロゾルの場合には、投与単位は計測した量を送達するバルブを備えることにより決定できる。吸入器または吹送器に使用するためには、当該化合物およびラクトースまたはデンプンなどの適当な粉末基剤の粉末混合物を含有する、例えばゼラチンの、カプセルおよびカートリッジを製剤してもよい。吸入される医薬組成物は、心肺移植の際または後の肺組織障害を治療または予防するために有用でありうる。
【0054】
本組成物は、所望であれば、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体を含有する1以上の単位剤形を含んでもよいパックまたはディスペンサーデバイスで提供することができる。パックは例えば、金属またはプラスチック箔、例えばブリスターパックであってもよい。パックまたはディスペンサーデバイスには投与の指示書を添付してもよい。
【0055】
医薬組成物の様々な実施形態を記載した。本明細書の記載と例は、本発明を説明するものであって限定を意図するものでない。実際、記載した本発明の様々な実施形態に対して本発明の精神から逸脱することなく医薬組成物の改変をなしうることは、当業者にとって明らかであろう。
【0056】
5.4 治療方法
本発明の方法および組成物を用いて、虚血再潅流傷害に関連する任意の病的状態を治療もしくは予防するかまたは虚血再潅流傷害を軽減することができる。虚血再潅流傷害は酸素欠乏、好中球活性化およびミエロペルオキシダーゼ産生に関連しうる。虚血再潅流傷害は多数の病的状態の結果でありうるかまたは医原性で誘導されうる。例えば、血栓、狭窄または手術は全て虚血再潅流傷害を誘発しうる。この節および以下の節5.6の目的で、「患者」または「個体」は、虚血再潅流からの傷害の治療、改善または軽減を必要とする、ヒトを含む動物を意味する。
【0057】
ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を用いて、酸素欠乏、好中球活性化およびミエロペルオキシダーゼ産生に関連する病的状態を治療または予防することができる。ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を用いて、血栓(1以上の血栓)、狭窄、手術または機械的閉塞による虚血再潅流傷害を治療、軽減または予防することができる。
【0058】
ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を用いて、虚血再潅流傷害の結果として起こる脳卒中、致死または非致死心筋梗塞、末梢血管疾患、組織壊死、および腎不全、ならびに手術後の筋緊張の喪失を治療または予防することができる。ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物は虚血再潅流傷害の程度を軽減または緩和する。クレアチンキナーゼは組織または器官傷害の基準となりうる。従って、ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物は組織または器官クレアチンキナーゼの量を減少させる。
【0059】
ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を用いて、血管狭窄、血栓症、不慮の血管傷害、または外科手術による閉塞または血液迂回に伴う虚血再潅流傷害を治療、軽減または予防することができる。狭窄はアテローム性動脈硬化症などの医学的状態の結果であるかまたは外科手術などの医原性で誘導されうる。例えば膝、手、臀部および肩部に対する外科手術、組織移植ならびに冠動脈バイパス移植、経皮経管冠動脈形成術を含む心臓手術は全て血流を減少または停止させ、虚血を誘導し、そして再潅流傷害の局面を設けることになりうる。ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を用いて、アテローム性動脈硬化症を含む狭窄、または、限定されるものでないが、膝、手、臀部および肩部に対する外科手術、組織移植ならびに冠動脈バイパス移植、経皮経管的冠動脈形成術を含む心臓手術による虚血再潅流傷害を、治療、軽減または予防することができる。本発明の方法および組成物を用いて、虚血再潅流に関連するいずれかの他の症状、例えば、心筋梗塞、脳卒中、間欠性跛行、末梢動脈疾患、急性冠血管症候群、心臓血管疾患および血管閉塞の結果としての筋肉損傷を治療または予防することができる。
【0060】
ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を用いて、体外組織または器官における虚血再潅流傷害を治療、軽減または予防することができる。体外組織または器官は、移植の場合のように個体外にある(ex vivoとも呼ばれる)組織または器官である。組織および器官移植に際して、取り出されたドナー組織および器官も採取の際、輸送およびその後の受容者への移植の際に再潅流傷害を受けやすい。本発明の方法および組成物を利用して、例えば移植可能な組織または器官を維持または保存するために用いる溶液に添加することにより、移植可能な組織または器官の生存度を増大することができる。例えば本発明の方法および組成物を、移植可能な組織または器官を運搬の間に浸漬しておくために用いてもよく、または移植前、その際、またはその後に移植可能な組織または器官と接触させてもよい。
【0061】
ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を用いて、個体における冠動脈バイパス手術の必要性を減少するかまたは未然に防ぐことすらできる。他の実施形態においては、本発明の方法および組成物を利用して、経皮経管冠状動脈血管造影に関連する病的状態、例えば経皮経管冠状動脈血管造影が誘発する閉塞を、治療または予防することができる。さらなる実施形態においては、本発明の方法および組成物を用いて、いずれかの外科手術からの回復時間を減少することができる。ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物は心臓手術の際に心膜、冠動脈内または動脈内投与するための薬学的に許容される組成物であってもよい。ある特定の実施形態においては、薬学的に許容される組成物をポンプまたは潅流機(例えば、PerDUCER(登録商標))などの機械装置により投与してもよい。
【0062】
本発明の方法および組成物を心臓手術と組み合わせて用いて、例えば心筋保護液中にまたは心筋保護液とともに用いて、心筋に対する虚血または再潅流傷害を予防または最小化することができる。ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を心臓手術の際に心肺バイパス手術機械とともに用いて、心筋に対する虚血再潅流傷害を予防または軽減することができる。
【0063】
ある特定の実施形態においては、本発明の方法および組成物を単一の1回投与としてまたは慢性的に実施することができる。慢性的とは、本発明の方法および組成物を所与の個体に1回以上実行することを意味する。例えば、慢性投与は、個体を含む動物へ、毎日1回の基準で、毎日2回の基準で、またはもっと多いもしくは少ない頻度で投与される、当業者には明らかでありうる医薬組成物の多数回投与であってもよい。他の実施形態においては、本発明の方法および組成物を急性的に実行する。急性的とは、本発明の方法および組成物を虚血または閉塞イベントに近接した時間にまたは同時に実行することを意味する。例えば急性投与は、急性心筋梗塞の発症時、例えば脳卒中の初期徴候の時、または外科手術前、中または後に投与される、医薬組成物の単一用量または多数回用量であってもよい。虚血または閉塞イベントに近接した時間または同時の時間は、虚血イベントに従って変化しうるが、例えば、心筋梗塞、脳卒中または間欠性跛行の症状を経験してから約30分以内でありうる。ある特定の実施形態においては、急性投与は、虚血イベントの約1時間以内に投与される。ある特定の実施形態においては、急性投与は、虚血イベント後の約2時間以内、約6時間以内、約10時間以内、約12時間以内、約15時間以内または約24時間以内に投与される。
【0064】
多数回用量は、組成物を1回以上投与することを意味する。多数回用量は、例えば、2日以上ほぼ毎日投与される1回用量、1日に投与される1回以上の用量、または複数日に投与される多数回用量であってもよい。
【0065】
5.5 併用治療
アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体あるいはそれらの医薬組成物は、本発明の方法において、単独で用いてもよいし、または他薬物との併用治療において用いることができる。このような治療法は、限定されるものでないが、用いる薬物の同時または逐次投与を含む。
【0066】
例えば、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体あるいはそれらの医薬組成物を他の医薬活性薬剤とともに投与してもよく、それらの活性薬剤としては、限定されるものでないが、α/βアドレナリン作動性アンタゴニスト、抗アドレナリン薬剤、α-1-アドレナリン作動性アンタゴニスト、βアドレナリン作動性アンタゴニスト、AMPキナーゼアクチベーター、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシンII受容体アンタゴニスト、カルシウムチャネル遮断薬、抗不整脈薬、血管拡張薬、硝酸塩、血管収縮薬、強心薬、利尿薬、抗凝血薬、抗血小板凝集薬、血小板溶解薬、抗糖尿病薬、抗酸化薬、抗炎症薬、胆汁酸抑制剤、スタチン、コレステロールエステル輸送タンパク質(CETP)阻害薬、コレステロール低下薬/脂質調節薬、アラキドン酸変換を遮断する薬物、エストロゲン置換療法、脂肪酸類似体、脂肪酸合成阻害剤、フィブレート、ヒスチジン、ニコチン酸誘導体、ペルオキシソーム増殖因子アクチベーター受容体アゴニストもしくはアンタゴニスト、脂肪酸酸化阻害剤、サリドマイドまたはチアゾリジンジオン(Drug Facts and Comparisons, 月刊, 2003年1月, Wolters Kluwer Company, St. Louis, MO;「医師デスク参考書(Physicians Desk Reference )」(第56版, 2002) Medical Economics)が挙げられる。このような治療薬は、虚血再潅流傷害を予防する上で相加的または相乗的な影響を与えうる。
【0067】
単独または組合わせで、哺乳動物の組織および器官を虚血再潅流傷害から保護するアポリポタンパク質の有益な特性に追加するかまたは相乗効果を与えることができる他の治療薬としては、限定されるものでないが、以下のもの:α/βアドレナリン作動性アンタゴニスト、例えばカルベジオール(Coreg(登録商標));ラベタロールHCl(Normodyne(登録商標));抗アドレナリン薬剤、例えばグアナドレル(Hylorele(登録商標));グアネチジン(Ismelin(登録商標));レセルピン、クロニジン(Catapres(登録商標)およびCatapres-TTS(登録商標));グアナファシン(Tenex(登録商標));グアナベンズ(Wytensing(登録商標));メチルドーパおよびメチルドーパ塩(Aldomet(登録商標));α-1アドレナリン作動性アンタゴニスト、例えばドキサゾシン(Cardura(登録商標));プラゾシン(Minipress(登録商標));テトラゾシン(Hytrin(登録商標));およびフェントールアミン(Regitine(登録商標));βアドレナリン作動性アンタゴニスト、例えばソタロール(Betapace AF(登録商標)およびBetapace(登録商標));チモロール(Blocadren(登録商標));プロプラノロール(InderalLA(登録商標)およびInderal(登録商標));ベタキソロール(Kerlone(登録商標));アセブトロール(Sectral(登録商標));アテノロール(Tenormin(登録商標));メトプロロール(LopressorxおよびToprol-XL(登録商標));ビソプロロール(Zebata(登録商標));カルテオロール(Cartrol(登録商標));エスモロール(Brevibloc(登録商標));ナルドロール(Corgard(登録商標));ペンブトロール(Levatol(登録商標));およびピンドロール(Visken(登録商標));AMPキナーゼアクチベーター、例えばESP 31015(ETC-1001);ESP 31084、ESP 31085、ESP 15228、ESP 55016およびESP 24232;ゲムカベン(PD 72953およびCI-1027);およびMEDICA 16;アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、例えばキナプリル(Accjupril(登録商標));ベナゼプリル(Lotensin(登録商標));カプトプリル(Capoten(登録商標));エナラプリル(Vasotec(登録商標));ラミプリル(Altace(登録商標));フォシノプリル(Monopril(登録商標));モエキシプリル(UNIVASCG);リシノプリル(Prinivil(登録商標)およびZestril(登録商標));トランドラプリル(Mavik(登録商標))、ペリンドプリル(Aceon(登録商標));およびアンギオテンシンII受容体アンタゴニスト、例えばカンデサルタン(Atacand(登録商標));イルベサルタン(Avapro(登録商標));ロサルタン(Cozaar(登録商標));バルサルタン(Diovan(登録商標));テルミサルタン(Micardis(登録商標));エプロサルタン(Tevetan(登録商標));およびオルメサルタン(Benicar(登録商標));カルシウムチャネル遮断薬、例えばニフェジピン(Adalat(登録商標)、Adalat CC(登録商標)、Procardia(登録商標)およびProcardia XL(登録商標));ベラパミル(Calan(登録商標)、CalanSR(登録商標)、Covera-HS(登録商標)、IsoptinSR(登録商標)、Verelan(登録商標);およびVerelanPM(登録商標));ジルチアゼム(Cardizem(登録商標)、CardizemCD(登録商標)およびTiazac(登録商標));ニモジピン(Nimotop(登録商標));アムロジピン(Norvas(登録商標));フェロジピン(Plendil(登録商標));ニソルジピン(Sular(登録商標));ベプリジル(Vascor(登録商標));イスラジピン(DynaCirc(登録商標));およびニカルジピン(Cardene(登録商標));抗不整脈薬、例えば様々なキニジン;プロカインアミド(Pronestyl(登録商標)およびProcan(登録商標));リドカイン(Xylocaine(登録商標));メキシリチン(Mexitil(登録商標));トカイニド(Tonocard(登録商標));フレカイニド(Tambocor(登録商標));プロパフェノン(Rythmol(登録商標))、モリシジン(Ethmozine(登録商標));イブチリド(Covert(登録商標));ジソピラミド(Norpace(登録商標));ブレチリウム(Bretylol(登録商標));アミオダロン(Cordarone(登録商標));アデノシン(Adenocard(登録商標));ドフェチリド(Tikosyn(登録商標));およびジゴキシン(Lanoxin(登録商標));血管拡張薬、例えばジアゾキシド(Hyperstat IV(登録商標));ヒドララジン(Apresoline(登録商標));フェノルドパム(Corolpam(登録商標));ミノキシジル(Loniten(登録商標));およびニトロプルシド(Nipride(登録商標));硝酸エステル、例えば二硝酸イソソルビド(Isordil(登録商標)およびSorbitrate(登録商標));一硝酸イソソルビド(Imdur(登録商標)、ismo(登録商標)およびmonoketg);ニトログリセリンペースト(Nitrol(登録商標));様々なニトログリセリンパッチ;ニトログリセリンSL(Nitrostat(登録商標)、ニトロ舌スプレー;およびニトログリセリンIV(Tridil(登録商標));血管収縮薬、例えばノレピネフリン(Levophed(登録商標));およびフェニレフリン(Neo-Synephrine(登録商標));変力剤、例えばアムリノン;(Inocor(登録商標));ドーパミン(Intropine(登録商標));ドブタミン(Dobutrex(登録商標));エピネフリン(Adrenaline(登録商標));イソプロテルノール(Isuprel(登録商標))、ミルリノン(Primacor(登録商標));利尿薬、例えばスピロノラクトン(Aldactone(登録商標));トルセミド(Demadex(登録商標));ヒドロフルメチアジド(Diucardin(登録商標));クロロチアジド(Diuril(登録商標));エタクリン酸(Edecrin(登録商標));ヒドロクロロチアジド(HydroDIURIL(登録商標)およびMicrozide(登録商標));アミロライド(Midamor(登録商標));クロルサリドン(ThalitoneおよびHygroton(登録商標));ブメタニド(Bumex(登録商標);フロセミド(Lasix(登録商標));インダパミド(Lozol(登録商標));メトラゾン(Zaroxolyn(登録商標));トリアムテレン(Dyrenium(登録商標));およびトリアムテレンとヒドロクロロチアジドの組合わせ(Dyazide(登録商標)およびMaxzide(登録商標));抗凝固薬/抗血小板薬、例えばビバリルジン(Angiomax(登録商標));レピルジン(Refludan(登録商標));様々なヘパリン;ダナパロイド(Orgaran(登録商標));様々な低分子量ヘパリン;ダルテパリン(Fragmint(登録商標));エノキシパリン(Lovenox(登録商標));チンザパリン(Innohep(登録商標));ワルファリン(Coumadin(登録商標));ジクマロール(Dicoumarol(登録商標));アニシンジオン(Miradone(登録商標));アスピリン;アルガトロバン(Argatroban(登録商標));アブシキシマブ(Reopro(登録商標));エプチフィバチド(Integrilin(登録商標));チロフィバン(Aggrastat(登録商標));クロピトグレル(Plavix(登録商標));チクロピジン(Ticlid(登録商標));およびジピリダモル(Persantine(登録商標));血栓溶解薬、例えばアルテプラーゼ(Activase(登録商標));組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)(Activase(登録商標));アニストレプラーゼ、ASPAC(Eminase(登録商標));レテプラーゼ、rPA(Retavasae(登録商標));ステプトキナーゼ、SK(Streptase(登録商標));ウロキナーゼ(Abbokinase(登録商標));抗糖尿病薬、例えばメトフォルミン(Glucophage(登録商標));グリピジド(Glucotrol(登録商標));クロロプロパミド(Diabinese(登録商標));アセトヘキサミド(Dymelors(登録商標));トラザミド(Tolinases(登録商標));グリメプリド(Amaryl(登録商標));グリブリド(DiaBeta(登録商標)およびMicronase(登録商標));アカルボーゼ(Precose(登録商標));ミグリトール(Glyset(登録商標));レパフリニド(Prandin(登録商標));ナテグリニド(Starlix(登録商標));ロシグリタゾン(Avandia(登録商標));およびピオグリタゾン(Actos(登録商標));抗酸化薬および抗炎症薬;胆汁酸抑制剤、例えばコレスチラミン(LoCholest(登録商標)、Prevalite(登録商標)およびQuestran(登録商標));コレスチポール(Colestid(登録商標));およびコレセベラム(Welchol(登録商標));スタチン、例えばロバスタチン(rovastatin)(Crestor(登録商標));フルバスタチン ;(Lescol(登録商標));アトルバスタチン(Lipitor(登録商標));ロバスタチン(lovastatin)(Mevacor(登録商標));プラバスタチン(Pravachol(登録商標));およびシムバスタチン(Zocor(登録商標));CETP阻害剤;アラキドン酸変換を遮断する薬物:エストロゲン置換療法;脂肪酸類似体、例えばPD 72953、MEDICA 16、ESP 24232、およびESP 31015;脂肪酸合成阻害剤;脂肪酸合成阻害剤;脂肪酸酸化阻害剤、ラノラジン(ranolazine)(Ranexa(登録商標));フィブレート、例えばクロフィブレート(Atromid-S(登録商標));ゲムフィブロジル(Lopid(登録商標));微粉化フェノフィブレートカプセル(Tricor(登録商標));ベザフィブレートおよびシプロフィブレート;ヒスチジン;ニコチン酸誘導体、例えばナイアシン徐放錠(Niaspan(登録商標));ペルオキシソーム増殖因子アクチベーター受容体アゴニストおよびアンタゴニスト;サリドマイド(Thalomid(登録商標))、ならびに米国特許第6,459,003号、第6,506,799号および米国特許出願公開第20030022865号、第20030018013号、第20020077316号および第20030078239号(これらの内容は本明細書に参照によりその全てが組み入れられる)に記載の化合物が挙げられる。
【0068】
5.6 投与方法
アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体は、循環中のバイオアベイラビリティを保証しうることが当業者に知られているいずれの経路により投与してもよい。投与経路は、医薬組成物のタイプにより示され、例えば、注射用組成物は、限定されるものでないが、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮内、皮下(SC)、冠動脈内、動脈内、心膜、関節内および腹腔内(IP)注射を含めて、非経口的に投与することができる。ある特定の実施形態においては、投与は機械式ポンプまたは送達デバイス、例えば、心膜送達デバイス(PerDUCERT(登録商標))または心肺バイパス機械によって実施する。ある特定の実施形態においては、皮下移植可能なポンプまたはデポ調製物により、上記の非経口投与を通して得るのと等しい循環血清濃度を達成する量の組成物を注射により投与する。
【0069】
本発明の方法は、アポリポタンパク質、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼもしくはパラオキソナーゼまたはそれらの脂質複合体あるいはそれらの医薬組成物の様々な異なる治療計画による投与を提供する。例えば、上記のように、本発明の方法は、慢性または単回用量投与を提供する。本方法は、例えば、急性(例えば、虚血または閉塞イベントと同時または時間的に近接した)投与を提供する。
【0070】
ある特定の実施形態においては、慢性投与は、1日の間に周期的に数回投与する静脈内注射であってもよい。他の実施形態においては、慢性投与は、ボーラスとしてまたは連続注入として、毎日、ほぼ隔日に、ほぼ3〜15日毎に、好ましくは5〜10日毎に、そして最も好ましくはほぼ10日毎に投与する1種の静脈注射であってもよい。好ましくは、投与用量は、有害な用量未満である。好ましくは、治療の際、用量と投与スケジュールが、虚血再潅流傷害を治療または予防するための組成物中の有効量の1以上の成分について十分なレベルまたは定常レベルを提供するであろう。ある特定の実施形態においては、用量を漸増させながら投与することができる。ある特定の実施形態においては、組成物を断続的に投与する。個体の必要に応じて、投与をほぼ1時間を超える時間をかけてゆっくりとした輸液により、ほぼ1時間以内の速やかな輸液により、または単回のボーラス注射により行うことができる。
【0071】
他の実施形態においては、急性投与は、虚血または閉塞イベントの発症時にまたは虚血または閉塞イベントの症状の発現時に行ってもよい。一実施形態においては、本方法は、例えば可能性のある心筋梗塞に対する緊急呼出に応答する緊急時医療技術者または資格者(例えば、医療訓練を受けた消防士または警官)による、本発明の組成物の急性投与を提供する。他の実施形態においては、本方法を、例えば脳卒中の兆候があった後に本発明の組成物を投与することにより、急性的に実施することができる。
【0072】
本発明の組成物の急性用量は、投与経路、患者の身長、体重、年齢および病気の重篤度、随伴する医学的症状の存在などによって変化しうる。本発明の組成物は、一般的に意図する目的を達成するために有効な量を使用しうる。勿論、その使用量は特定の用途に依存するであろうことは理解される。
【0073】
例えば、虚血再潅流傷害を予防する用途については、本発明の組成物の予防上有効な量を、それを必要とする動物またはヒトに適用するかまたは投与してもよい。予防上有効な量は、虚血再潅流傷害の症状を抑制または軽減する本発明の組成物の量を意味する。実際の予防上有効な量は特定の用途に依存しうる。当業者であれば、特定の用途に対する特定の組成物の予防上有効な量を必要以上の実験をせずに、例えば、当業者には公知のin vitroアッセイとin vivoアッセイを用いて決定することができるであろう。アッセイの例は以下の実施例に記載されている。
【0074】
虚血再潅流傷害に関係する疾患を治療または予防する用途については、本発明の組成物を治療上有効な量だけ投与または適用してもよい。治療上有効な量は、虚血再潅流傷害の症状を改善するか、または上記傷害を改善、治療または予防するために有効な量を意味する。治療上有効な量の決定は、特に本明細書に与えられた詳細な開示を参照すれば、十分に当業者の能力内にある。
【0075】
全身投与についての治療上有効な用量は、最初にin vitroアッセイから評価することができる。例えば、動物モデルにおいて有益な循環組成物濃度範囲を達成する用量を決定してもよい。最初の用量はまた、in vivoデータ、例えば動物モデルから、当技術分野でよく知られている技術を用いて評価してもよい。そのような情報を利用してヒトにおいて有用な用量をさらに正確に決定することができる。当業者であれば、動物データに基づいてヒトに対する投与を容易に最適化することができよう。
【0076】
本明細書に記載した組成物の毒性は、細胞培養または実験動物における標準の薬学試験法により、例えば、LD50(集団の50%致死レベル)またはLD1OO(集団の100%致死レベル)を測定することにより決定することができる。毒性と治療効果との間の用量比が治療指数である。高い治療指数を示す組成物が好ましい。これらの細胞培養と動物研究から得たデータを利用してヒトで使用する場合に無毒である投与量範囲を設定することができる。本明細書に記載の組成物の投与量は、好ましくは、有効な用量を含有しかつ毒性が少ないかまたは全く無い循環濃度の範囲内にある。投与量はこの範囲内で、使用する投与剤形および利用する投与経路に依存して変化しうる。組成物の正確な投与経路および投与量は、個々の医師が患者の病状を考慮して選択することができる(例えば、Finglら, 1975, 「治療薬の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics)」, 第1章, p.1を参照)。
【実施例】
【0077】
6.実施例
6.1. 実施例1:ex vivo ランゲンドルフ(Langendorff)
本実施例は、予防薬ETC-216の心臓保護効果を、再潅流した単離虚血ウサギ心臓において実証する。チャールスリバー社(Charles River)から入手した体重ほぼ2〜3kgの雄ニュージーランドシロウサギを本研究に用いた。雄性ニュージーランドシロウサギは、本研究の目的に適当な試験系として選択した。単離して虚血-再潅流したウサギ心臓はヒト心筋梗塞のモデルである。到着後、動物に固有の識別番号を付した。
【0078】
動物は、ステンレス鋼製のケージに入れ、動物の利用およびケアに関するミシガン大学委員会のガイドラインに従って飼育した。獣医学的ケアはミシガン大学実験動物医学設備により行われた。ミシガン大学は、米国実験動物ヘルスケア認定協会(the American Association of Accreditation of Laboratory Animal Health Care)による認定を受けており、その動物ケア利用プログラムは「実験動物のケアおよび利用の指針(Guide for the Care and use of Laboratory Animals)」, DHEW (NIH) Publ. No.86-23の基準に適合する。
【0079】
ETC-216は、組換えアポリポタンパク質A-I Milano/1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリンの重量比1対1の複合体である(図1)。ETC-216のストック溶液はスクロース-マンニトールバッファー中に14mgタンパク質/mlを含有した。スクロース-マンニトールバッファーは、クレープス-ヘンゼライト(Krebs-Henseleit)バッファー、およびマンニトール単独の独立した効果に対する対照と適合しないので、4mMリン酸ナトリウム中に2%グルコースを含むバックグラウンドバッファー、pH 7.4を得るためにETC-216を透析した。ETC-216をクレープス-ヘンゼライトバッファーを用いて希釈し、0.45mg/mlの薬物濃度とした。ビヒクルを同様に希釈した。
【0080】
用量選択は、エスペリオン社(Esperion)ヒトフェーズIの単回用量安全臨床試験に用いられた用量の歴代データに基づいて行い、この場合ヒトに対してETC-216が100mg/kgまで投与された。本プロトコルに概要を記載した研究に対しては、0.5mg/mlの濃度がヒトに投与される25mg/kgの静脈内投与用量におよそ相当する。
【0081】
実験はウサギ心臓を潅流するランゲンドルフ(Langendorff)装置(図2および3)を用いて実施した。ウサギを頸椎脱臼により意識喪失させ、そして心臓を迅速に取り出して大動脈を潅流するカニューレに取付けた。潅流メディウムは循環するクレープス-ヘンゼライトバッファー(pH 7.4、37℃)(「KH」)から成り、このKHバッファーは95%O2/5%C02の混合物に連続的に曝されかつ20〜25ml/minの一定速度で送達された。本プロトコル全体にわたって、心臓を右心房に取付けた電極を介してペーシングした。ペーシング刺激は、実験室用方形波発生器から送達した(10%を超える生理学的ペーシング、1msec持続時間、Grass 588, Quincy, MA)。肺動脈流出液の収集を容易にするために、肺動脈にSilasticTMチューブをカニューレ挿入し、冠静脈血が冠静脈洞に戻ることに対応させた。上大動脈および下大静脈と肺静脈を連結して、そうでなければ切断されている血管からの潅流液の損失を防止した。左心室ドレーン、サーミスタープローブ、およびラテックスバルーンを左心房を経由して挿入し、左心室内に配置した。液を満たしたラテックスバルーンを、硬質チューブを用いてミラー(Miller)カテーテル圧力トランスデューサーと接続し、左心室発生圧の測定を可能にした。心室内バルーンを蒸留水を用いて膨張させてほぼ10mmHgの最初のベースラインとなる左心室拡張終期圧を達成した。冠潅流圧を、大動脈カニューレのサイドアームに接続した圧力トランスデューサーを用いて測定した。冠動脈潅流速度を一定に維持したので、冠動脈潅流圧の変化は冠動脈抵抗の変化の指標として役立った。全ての血行力学変数を、多チャンネルレコーダー、例えばPolyviewソフトウエア・データ取得システム(Polyview Software Data Acquisition System)にインターフェース接続したグラス・ポリグラフ(Grass Polygraph)79D(Quincy、MA)を用いて連続的に測定した。温度調節した二重内腔構造のガラス室内に心臓を入れ、かつ潅流メディウムを加熱した貯蔵容器と送達システムの中を通過させることにより、その心臓を実験期間を通して37℃に維持した。
【0082】
2つの処置グループを用いて以下に示す実験操作に用いた。
【0083】
グループ 処置 試験物質 濃度(mg/ml)
1 虚血および再潅流 ビヒクル 0
2 虚血および再潅流 ETC-216 0.45
心臓を図4に示したように実験的に処理した。単離した心臓を正常酸素条件(通常の酸素レベル)のもとで全虚血の誘導前の20分間にわたり安定化した。この期間の最初の10分間、心臓をKHバッファー単独に曝し、次いでさらなる10分間、ビヒクル(グループ1)またはETC-216(グループ2)のいずれかを含有するKHバッファーに曝した。次いで心臓を虚血で30分間、続いてビヒクル(グループ1)またはETC-216(グループ2)を含有するKHバッファーによる再潅流で60分間処理した。全虚血全体の誘導は、心臓への潅流液流を停止することにより達成され、心臓の再潅流は、元来の流速を回復するようポンプを作動させることにより達成させた。
【0084】
肺動脈流出液のアリコートを、全グループの心臓からベースライン(虚血前)で、および再潅流期間中は最初の5分間まで毎分、その後は毎5分に採取した。その流出液を、組織傷害指数となるクレアチンキナーゼ濃度(図5)について分析した。クレアチンキナーゼは、不可逆的傷害を受けた細胞から放出される細胞質酵素である。心臓機能を連続的にモニターした(図6)。
【0085】
心臓の評価項目の測定は以下について行った:
1- 不整脈の存在または不在を検出する心電図-心拍数(ペーシングしたもの);
2- 左心室発生圧(図7)(各グループの所定の心臓数に対する平均±標準誤差として示したデータ);
3- 左心室dP/dt;
4- 左心室拡張終期圧(図8)(各グループの所定の心臓数に対する平均±標準誤差として示したデータ);
5- 冠潅流圧(図9)(各グループの所定の心臓数に対する平均±標準誤差として示したデータ);
6- 再潅流前および後の組織クレアチンキナーゼの放出を測定するためのリンパ排液の収集(図5)。
【0086】
実験プロトコルの終りに、各処置グループの5個までの心臓に由来する心臓生検をすぐに液体窒素中に浸して-80℃にて保存し、続いて脂質ヒドロペルオキシド分析を実施した。ホモジネートサンプルをタンパク質含量に対して正規化した後に過酸化脂質のアッセイを実施した(図10)。このサンプルにおいて、ETC-216は心臓の脂質ヒドロペルオキシドを46%減少させた。
【0087】
説明したプロトコルが終了したら、各グループからの2つの心臓を、2.5%グルタルアルデヒドおよび1%LaCl3を含む0.1Mカコジル酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)を用いて3分間潅流した。通常の条件のもとで、高浸透圧性(osmophilic)LaCl3は、血管壁と結合して血管区画中に保持され、血管完全性の指標として機能する。LaCl3の血管外空間への血管外遊走を用いて血管傷害の存在を示した。左心室心筋から組織サンプルを採取し、そして、一辺がほぼ1mm寸法のセグメントに切断した。サンプルを上記バッファー中でさらに2時間4℃にて固定した。その後、サンプルをエタノール系列中で脱水し、EM-bed-812(Electron Microscopy Sciences, Ft、Washington、PA)中に埋込んだ。組織ブロックをライヘルト(Reichert)ウルトラミクロトームを用いて切片化し、ホルムバール(formvar)でコーティングした銅格子上に配置し、次いで4%酢酸ウラニルを用いて染色した。切片をPhillips CM-10電子顕微鏡を用いて観察した。
【0088】
透過型電子顕微鏡を用いて各被験グループからの心筋試料を試験した。その画像は、ビヒクル処置した心臓のサルコメア構造の特徴が消滅して痙縮帯が存在することを示した。ミトコンドリアは著しく膨張し、結晶性で高浸透圧性の封入体が破壊された。ETC-216処置した心臓では、サルコメア構造は比較的正常であり、ミトコンドリアは無傷でただわずかに膨張しているのが見られる。収縮帯が実質的に存在しない点で対照心臓で観察されたものとは著しく対照的である。ETC-216が収縮帯壊死を予防できることは、ETC-216を用いて前処置した心臓が再潅流時のLVEDPの増加を示さなかったという観察と一致している。収縮帯壊死およびLVEDPの継続的増大は、両方とも細胞内カルシウム過負荷の増加および不可逆的細胞傷害に関連がある。筋原線維のZ帯が不明瞭に存在することと筋原線維構造の破壊は広範囲に及ぶ損傷を示すものである。他の予想される形態上の損傷には、ミトコンドリアのクリステとマトリックスの破壊に加えて、ミトコンドリア中の大きな高電子密度ボディがある。両方の顕微鏡写真の倍率は7900倍である(図11)。
【0089】
クレアチンキナーゼ濃度の分析(図5)は、静脈流出液中への酵素放出の迅速な相が再潅流の時点において起こることを示した。対照心臓(ビヒクルで処置)は、ETC-216処置心臓と比較してクレアチンキナーゼの著しい放出を示した。さらに、ETC-216処置心臓は、対照心臓と比較して、左心室拡張終期圧の低下(図6および図8)、左心室拡張期圧の上昇(図7)、冠動脈潅流圧の低下(図9)および脂質ヒドロペルオキシド(LHP)の減少を示した。さらにETC-216は、心筋における形態学的変化から保護した。これらの結果は、虚血イベントの前に投与した場合のETC-216の心臓保護効果を実証するものである。
【0090】
6.2. 実施例2:LAD閉塞-再潅流したウサギ心臓における100mg/kgの急性および慢性投与
本実施例は、ETC-216の心臓保護効果を局所心筋虚血および再潅流のin vivoモデルにおいて実証する。雄ニュージーランドシロウサギを本研究の目的に適当な試験系として選択したが、その理由は、心臓への側副血液供給を欠き、従って心筋血流測定の必要がないからであった。本研究においては、30分間の冠動脈結紮と再潅流による局所心筋虚血の処理をした別々のグループのウサギに、異なる投薬計画を用いた。2つの投薬計画を用いた。第1のプロトコルでは、心臓を局所虚血の発症直前にETC-216治療薬100mg/kgに曝すという前処置を1回行ってETC-216を試験した。一方、第2プロトコルでは、心臓に局所虚血の発症の1日前および直前に100mg/kgのETC-216の前処置を2回実施した。これらのプロトコルを図12に示す。本研究はin vivo研究における心臓保護薬としてのETC-216の効果に焦点を合わせたものであり、ここではウサギ心臓に30分間にわたり局所心筋虚血を施し、その後、最小限4時間の再潅流を行った。本実施例は、ETC-216が虚血イベント後に与えられると心臓保護薬として機能することを実証する。
【0091】
本研究に用いた方法は、動物の利用およびケアに関するミシガン大学委員会のガイドラインに合致する。獣医学的ケアはミシガン大学実験動物医学設備により提供された。ミシガン大学は、米国実験動物ヘルスケア認定協会(the American Association of Accreditation of Laboratory Animal Health Care)による認定を受けており、その動物ケア利用プログラムは「実験動物のケアおよび利用の指針(Guide for the Care and use of Laboratory Animals)」, DHEW (NIH) Publ. No.86-23の基準に適合する。
【0092】
チャールスリバー社(Charles River)から入手した体重ほぼ2〜3kgの雄ニュージーランドシロウサギを本研究に用いた。到着後、動物に固有の識別番号を付した。ウサギに、キシラジン(3.0mg/kg)とケタミン(35mg/kg)の混合物を筋肉内に注入し、次いでペントバルビタールナトリウム(30mg/kg)の静脈注射により麻酔をかけた。麻酔はペントバルビタール溶液(30mg/ml)の静脈注射により維持した。カフ付き気管内チューブを挿入し、動物を室内空気による陽圧換気のもとにおいた。右頚静脈を単離し、カニューレ挿入し、ETC-216またはそれと一致する体積のビヒクルを投与した。右頚動脈を単離し、大動脈弁の直ぐ上に位置するようにMillarTMカテーテルマイクロチップ圧トランスデューサーを取付け、そして大動脈血圧をモニターしそこから導いた圧パルスの一次導関数(dP/dt)を得た。心電図の第II導出を本実験を通じてモニターした。左開胸術と心膜切開術を施し、次いで左前下行(LAD)冠動脈を確認した。絹縫合糸(3.0;Deknatel、Fall River、MA)を動脈の後ろに通しそして縫合糸の両末端を短いポリエチレンチューブ中に挿入した。ポリエチレンチューブに下向きに圧力をかけて、一方縫合糸の自由末端に上向きの張力をかけると、横たわる冠動脈が圧迫されて血管の閉塞と局所心筋虚血を生じる。閉塞を30分間維持し、その後、縫合糸の張りを緩めてポリエチレンチューブを取り除いて再潅流を起こさせた。局所心筋虚血は、閉塞血管の分布範囲に当該領域が存在することにより、そして壁内局所心筋虚血の存在と一致する心電図の変化(ST-セグメント上昇)により、確かめた。
【0093】
主な評価項目の測定は、左心室に対するパーセントとしての、およびリスク領域に対するパーセントとしての梗塞サイズの測定から構成される(図13および14)。本研究の終わりにウサギに麻酔しながらヘパリン(1,000U、静脈内)を与え、その後に安楽死させた。心臓を切り出し、次いで、ランゲンドルフ装置上で大動脈を通じてクレープス-ヘンゼライトバッファーを用いて22〜24ml/分の一定流量で潅流するよう調製した。心臓をバッファーで10分間洗浄して組織が清浄であることを保証した。塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)のリン酸バッファー(pH7.4)中1%溶液の45ミリリットルを心臓を通って潅流させた。TTCはリスク領域内の非梗塞心筋をレンガ色で区別するが、その色は生存心筋組織中に存在する補酵素によるTTCの還元から生じるホルマザン沈殿の存在を示した。細胞質デヒドロゲナーゼを欠く不可逆的傷害を受けた組織はホルマザン沈殿物を形成できないので淡黄色に見える。左前下行(LAD)動脈を、局所心筋虚血の誘導の際に結紮した領域と同一の位置で結紮した。潅流ポンプを停止し、大動脈カニューレと接続したサイドアーム口を通じて0.25%エバンスブルー溶液2mlをゆっくりと注入した。色素を心臓に10秒間通過させ、色素の分布が均等になるのを保証した。エバンスブルーの存在を利用して、リスク領域とは対照的に、局所虚血をこうむっていない左心室組織を区別した。心臓を潅流装置から取り外し、垂直軸に対して直角に切断して横断切片を形成した。右心室、心尖および心房組織は廃棄した。それぞれの横断切片の両方の表面を透明なアセテートシート上にトレースした。画像をフォトコピーして拡大した。フォトコピーをスキャンしてアドビフォトショップ(Adobe PhotoShop(Adobe Systems INC.、Seattle、WA))にダウンロードした。正常な左心室(NLV)の非リスク領域、リスク領域、および梗塞の面積を、アドビフォトショップ(Adobe PhotoShop)ソフトウェアを用いて各面積を占めるピクセル数を計算することにより決定した。全リスク領域を左心室に対するパーセントとして表した。梗塞サイズをリスク領域(ARR)に対するパーセントとして表した(図13および14)。
【0094】
リスク領域の梗塞率(%)、左心室の梗塞率(%)、および左心室のリスク領域率(%)は、ETC-216(100mg/kg)または同等体積のビヒクルを用いて1回処置(すなわち急性処置)または2回処置(すなわち慢性処置)したウサギにおいて示す。データは1グループ当たりn=6動物について平均±標準誤差である。図14のアスタリスクはそれぞれの対照との有意差を示す。
【0095】
その他の評価項目の測定を行った。最終的な梗塞サイズは心筋酸素利用の増加または減少の影響を受けうる。心筋酸素補償の2つの重要な決定要因は心拍数と圧力負荷である。拍数と圧力の積(心拍数×平均動脈血圧)は心臓による心臓酸素要求の変化の近似値を与える。拍数と圧力の積を計算して、観察される梗塞サイズの減少が拍数と圧力の積における変化と相関するかを確認した。心拍数と平均動脈圧を実験プロトコル全体を通じて連続的にモニターし、そのデータを用いて、それぞれの実験グループについて研究時の特定の時点での拍数と圧力の積を計算した。
【0096】
左心室のリスク領域率(%)は、対照と比較すると、急性および慢性投与の両方で、ETC-216処置した心臓において減少したが、その結果は統計的に有意でなかった。リスク領域の梗塞率および左心室の梗塞率は、対照と比較すると、急性および慢性投与の両方で、ETC-216処置した心臓において有意に減少した。これらの結果は、ETC-216を急性的にまた慢性的に投与すると、ETC-216が心臓を保護する作用があることを示す。
【0097】
リスク領域および非リスク領域における心筋組織のクレアチンキナーゼ活性を比較してもよい。このアッセイの原理は、NADのNADHへの等モル還元の結果として反応混合物の340nmでの吸光度が増加することに基づく。吸光度の変化率はクレアチンキナーゼ活性に正比例する。1単位を、このアッセイ方法の条件のもとで毎分1マイクロモルのNADPHを産生する酵素の量と定義する。
【0098】
再潅流することなく長期間の血流欠乏(虚血)をこうむった心筋組織は、炎症性細胞の存在を伴う壊死が特徴的である形態学的変化を引き起こすであろう。虚血が誘導する細胞死の形態学的外観は、再潅流の結果生じるものとは異なる。後者は収縮帯により特徴づけられ、収縮帯壊死と呼ばれる。各グループから心臓組織を保存し、電子顕微鏡による検査の準備をした。
【0099】
虚血再潅流傷害は、リスク領域中の炎症性細胞、主として好中球の蓄積と関係がある。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)はほとんどもっぱら好中球に存在する酵素である(Liuら, J. Pharmacol. Exp. Ther. 287:527-537,1998)。従って心臓のそれぞれの領域からの組織を傷害の指標としてMPO活性についてアッセイできることが予測される。また、炎症性応答を軽減できる治療介入は、非処置動物のリスク領域からの心臓組織と比較したときの再潅流したリスク領域におけるMPO活性の減少と関連するであろうことも予測される。従って、MPO活性の比率変化(リスク領域/非リスク領域)は、薬物処置した心臓では、対照のビヒクル処置した心臓と比較して減少するであろう。
【0100】
実験終了時に、組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を、予備的な対照実験なしの非検証アッセイにおいて決定した。心臓組織サンプルをリスク領域および非リスク領域から得て、0.5%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド中でホモジナイズし、50mMリン酸カリウムバッファー、pH 6.0に溶解した(Liuら, 1998, J. Pharmacol. Exp. Ther. 287:527-537も参照)。ホモジネートを12,500gにて4℃で30分間遠心分離した。上清を回収し、0.167mg/ml o-ジアニシジンジヒドロクロリド(Sigma)および0.0005パーセントH202を含む50mMリン酸カリウムバッファー、pH 6.0と反応させた。吸光度の変化は分光光度計により460nmで測定した。MPOの1単位は、25℃にて毎分1mmolのH202を加水分解する酵素量と定義した。この予備実験の結果は、本明細書に示してないが、ETC-216処置した心臓とビヒクル処置した心臓の間では虚血再潅流傷害の意味では差がなかったことを示すと思われるが、この結果はさらに、例えば虚血再潅流傷害に先立つMPOレベルの比較により検証する必要がある。
【0101】
リスク領域の梗塞率および左心室の梗塞率の減少により実証されるように、ETC-216処置した心臓は虚血再潅流傷害から保護された。心臓保護は両方の投与プロトコル、すなわち、ETC-216を虚血発症前に100mg/kg用量で1回投与する方法、またはETC-216を100mg/kg用量で2回(虚血前の1日に1用量を与え、虚血直前に第2の用量を与える)として投与する方法によりもたらされた。
【0102】
6.3. 実施例3:LAD閉塞-再潅流したウサギ心臓における急性投与のための最小有効用量の決定
本実施例は、局所虚血の発症直前に1回前処置として投与した場合のETC-216の様々な用量の予防上の有効性を実証する。実施例2の研究は、in vivo研究での心臓保護薬としてのETC-216の効果に焦点を合わせたものであって、この研究においてウサギ心臓に30分間にわたり局所心筋虚血を施し、次に最小4時間の再潅流を施した。2つの投薬計画を用いた。最初のプロトコルでは、ETC-216を、全身循環が局所虚血発症直前に100mg/kgのETC-216治療薬に曝される1回前処置として試験した。一方、第2プロトコルでは、2回の100mg/kg前処置を局所虚血発症の前に(1日前および直前に)施した。いずれの投薬計画も100mg/kg ETC-216による1回または2回の前処置が心臓を保護する作用を示した。
【0103】
それ故に、ETC-216について、心臓を局所虚血の発症直前に1回用量のETC-216治療薬または同等体積のビヒクルに曝す1回の前処置を行って試験し、心臓保護に対する効果を確認した。心臓は実施例2と同じ方法により分析した。さらに、このプロトコルは、ウサギ心臓を虚血から保護するために処置する上でETC-216の最小限有効な量を見出しうるように設計した。
【0104】
ETC-216の最小有効量を見出すために急性処置と同じプロトコル(図12を参照)を利用したが、その試験においては、動物に10、3または1mg/kgのETC-216または同等体積のビヒクルの単回処置を図15に示すように与えた。10mg/kg処置グループについては、全左心室に対するリスク領域(AAR)もしくは虚血領域の割合は、対照グループと処置グループとで同様であった(図16)。10mg/kg ETC-216を用いて処置したウサギはビヒクルを用いて処置したウサギと比較すると、AARに対するパーセントとして表されるより小さな梗塞(P<0.0005)を発生した(図16)。心筋梗塞サイズの減少(P<0.0001)は、データを全左心室に対するパーセントとして表したときにも観察された(図16)。
【0105】
同様な結果は3mg/kgの用量でも観察された。全左心室に対するパーセントとして表したAARは、ETC-216-処置グループとビヒクル処置グループで類似していた(図16)。3mg/kg ETC-216を用いて処置したウサギは、ビヒクルを用いて処置したウサギと比較して、リスク領域に対するパーセントで表されるより小さな梗塞(p<0.05)を発生した(図16)。データを全左心室に対するパーセントとして表したとき、心筋梗塞サイズの減少(p<0.05)が観察された(図16)。
【0106】
左心室に対するパーセントで表したとき、1mg/kgの用量については、ETC-216とビヒクルの間でAARに対するパーセントに有意差は認められなかった(図16)。1mg/kgにおいて、AARに対するパーセント(図16)、および全左心室に対するパーセント(図16)として表した心筋梗塞サイズにグループ間で有意差は認められなかったことに注目すべきである。
【0107】
急性処置の4グループ(すなわち、100、10、3および1mg/kg)のそれぞれならびにそれらのそれぞれの対照からのデータをまとめて図16に示した。梗塞のAARは4グループのそれぞれにおいて類似した。4つの投薬計画の間で、リスク領域に対するパーセントまたは左心室に対するパーセントとして表した梗塞サイズは、ETC-216用量を100、10および3mg/kg用いる場合に、それぞれの対照と比較して減少した。対照的に、1mg/kgを投与された動物のグループにおける梗塞サイズはそれぞれのビヒクル処置グループで観察されたものと差がなかった。
【0108】
図17は、リポタンパク質非エステル化コレステロールの時間変化の例を示す。血液サンプルは、1、3、10または100mg/kgのETC-216またはビヒクルの投与直前に、および投与後周期的にウサギから得た。示したのは、代表的な時間の血清サンプルにおいて得た遊離コレステロールプロファイルであり、ここで血清リポタンパク質は、非エステル化コレステロールオンライン分析を備えたゲル濾過クロマトグラフィによりサイズ基準で分離した。注目すべき点は、静脈内投与したETC-216試験薬中に非エステル化コレステロールは実質的に存在しないにも関わらず、特に100mg/kgでの、そしてより少なければ10mg/kgでのETC-216投与の45分後における、高密度コレステロール非エステル化コレステロールの増大である。注目すべき点はまた、10mg/kgまたは100mg/kgのETC-216投与の210および270分後において遅れて見られる極低密度リポタンパク質非エステル化コレステロールの顕著な増大である。注目すべき点はまた、3mg/kgのETC-216処置用量におけるリポタンパク質非エステル化コレステロールの変化は評価時点で明らかでなかったが、この用量が図16に示すように心臓保護作用を示したことである。
【0109】
この結果は100mg/kg、10mg/kgおよび3mg/kg用量がETC-216の有効な予防用量であることを実証する。
【0110】
6.4. 実施例4:ETC-216は、閉塞-再潅流したウサギ心臓のLAD閉塞発症後に投与すると虚血再潅流傷害を予防する
本実施例は、虚血または閉塞イベント後に投与したときの、虚血再潅流傷害を予防または軽減する上でのETC-216の有効性を実証する。実施例2および3の研究は虚血の発症前に心筋を処置することの予防効果を説明する。そこで、ETC-216が虚血発症後に心筋を保護することができるかどうかを確認するため、試験薬またはビヒクルの投与前にLADを閉塞させた。このプロトコルにおいては、ETC-216を、局所虚血の最後の5分間およびそれと連続して再潅流の最初の55分間にわたって投与された10mg/kgの治療薬もしくは同等体積のビヒクルに心臓を曝した(図18)。10mg/kg処置グループについて全左心室に対するパーセントとして表したAARまたは虚血領域は、対照グループのそれと類似した(図19)。ETC-216を用いて処置したウサギは、ビヒクルを用いて処置したウサギと比較して、AARに対するパーセントとして表されるより小さな梗塞(p<0.001)を発生した(図19)。心筋梗塞サイズの減少(p<0.0005)はデータを全左心室に対するパーセントとして表したときにも観察された(図19)。
【0111】
本実施例は、虚血イベント後に施した単回処置が虚血再潅流傷害を緩和または減少することを実証する。
【0112】
本発明の様々な実施形態を記載した。その記載および実施例は本発明を説明するものとして意図されており限定するものではない。実際、当業者には明らかであるように、本発明の精神または以下に示された添付の請求の範囲の技術的範囲から逸脱することなく、記載された本発明の様々な実施形態に改変を行うことができる。本明細書に引用された全ての参考文献は本明細書に参照によりその全てが組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】2つのアポリポタンパク質A-I Milano鎖の図である。
【図2】単離したウサギ心臓の心臓機能をex vivo処置してモニターするランゲンドルフ装置の図である。
【図3】ランゲンドルフ装置内に据えつけた心臓のより近接した外観を示す。
【図4】単離した心臓を虚血の発症前にビヒクルまたはETC-216により処置したプロトコルの一例を示す。
【図5】冠静脈流出液中のクレアチンキナーゼ活性を示す。
【図6】ランゲンドルフ装置において、ビヒクルおよびETC-216処置した単離ウサギ心臓から収集した心臓機能のリアルタイムモニタリングを示す。
【図7】全虚血停止30分間と再潅流60分間の前、中および後の単離ウサギ心臓における左心室発生圧(developed pressure)(LVDP)の時間変化を示す。
【図8】全虚血停止30分間と再潅流60分間の前、中および後の単離ウサギ心臓における左心室拡張終期圧(LVEDP)の時間変化を示す。
【図9】全虚血停止30分間と再潅流60分間の前、中および後の単離ウサギ心臓における冠潅流圧(CPP)の時間変化を示す。
【図10】全虚血停止30分間に続いて再潅流60分間を施したビヒクルおよびETC-216処置したウサギ心臓から得た組織ホモジネート中の脂質ヒドロペルオキシド含量を示す。
【図11】ビヒクルおよびETC-216処置したウサギ心臓から得た心筋サンプルの電子顕微鏡画像を示す。
【図12】本発明のさらなるプロトコルを示す。ここでは、急性投与グループには1回の前処置を虚血発症前に投与し、そして慢性投与グループには2回の前処置を虚血発症前に投与した。
【図13】梗塞サイズを決定するためのプロトコルを示す。
【図14】ETC-216(100mg/kg)または同等体積のビヒクルを用いて1回処置(すなわち、急性処置)または2回処置(すなわち、慢性処置)したウサギにおける、リスク領域の梗塞率(%)、左心室の梗塞率(%)、および左心室のリスク領域率(%)を示す。
【図15】本発明のさらなるプロトコルを示す。ここではウサギを虚血発症前にビヒクル(グループ1)または10、3もしくは1mg/kgのETC-216(グループ2)のいずれかを用いて前処置した。
【図16】それぞれのグループについて、10、3もしくは1mg/kgのETC-216を用いてまたはそれと同等体積のスクロース-マンニトールビヒクルを用いて1回処置(すなわち、急性処置)したウサギで測定した、リスク領域の梗塞率(%)、左心室の梗塞率(%)、および左心室のリスク領域率(%)を示す。
【図17】リポタンパク質非エステル化コレステロールの時間変化を示す。
【図18】30分間の虚血期の最後の5分間にETC-216もしくはビヒクルの1回処置を投与する本発明のさらなるプロトコルを示す。
【図19】ウサギについて測定した、リスク領域の梗塞率(%)、左心室の梗塞率(%)、および左心室のリスク領域率(%)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織または器官の虚血再潅流傷害を治療、予防または軽減する方法であって、該組織または器官を有効量のアポリポタンパク質と接触させることを含む、上記方法。
【請求項2】
アポリポタンパク質がチオールを含有するアポリポタンパク質ではない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アポリポタンパク質がチオールを含有するアポリポタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アポリポタンパク質がapoA-I、apoA-II、apoA-IV、apoA-V、apoEまたはそれらの変異型もしくは断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アポリポタンパク質がヒトまたは非ヒト起源のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アポリポタンパク質が天然または合成アポリポタンパク質、またはそれらの変異型もしくは断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アポリポタンパク質がアポリポタンパク質の同種混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アポリポタンパク質がアポリポタンパク質の異種混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アポリポタンパク質が全長アポリポタンパク質、天然もしくは合成アポリポタンパク質の断片、またはそれらの変異型である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
アポリポタンパク質がアポリポタンパク質A-I、アポリポタンパク質A-I Milanoまたはアポリポタンパク質A-I Parisである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
アポリポタンパク質がアポリポタンパク質A-I Milanoである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アポリポタンパク質がアポリポタンパク質と脂質を含む複合体の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
脂質が1種以上のリン脂質、コレステロール、トリグリセリドおよびコレステロールエステルを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
リン脂質が、小アルキル鎖リン脂質、ホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、ダイズ・ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジラウリルホスファチジルコリン、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、1-オレオイル-2-パルミチルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、スフィンゴ脂質、脳スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、(1、3)-D-マンノシル-(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド、3-コレステリル-6'(グリコシルチオ)ヘキシルエーテル糖脂質、ならびにコレステロールおよびコレステロール誘導体からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
リン脂質がホスファチジルコリンまたはその類似体である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
リン脂質が1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
脂質とアポリポタンパク質がリポソーム構造を形成する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
アポリポタンパク質が組織または器官の酸化産物を減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
アポリポタンパク質が組織または器官のクレアチンキナーゼを減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
治療処置である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
予防的である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
虚血再潅流傷害を軽減する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
組織または器官が個体内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
虚血再潅流傷害が心筋梗塞、狭窄、少なくとも1つの血栓、脳卒中、間欠性跛行、末梢動脈疾患、急性冠血管症候群、心臓血管疾患または血管閉塞の結果としての筋肉損傷によるものである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記組織または器官が体外にある、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記組織または器官が移植組織または器官である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
アポリポタンパク質を輸送の際に移植組織または器官と接触させる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
移植の際にアポリポタンパク質を移植組織と接触させる、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
虚血後、急性的にアポリポタンパク質を組織または器官と接触させる、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
虚血再潅流傷害が個体の手術によるものであり、かつ組織または器官の接触がアポリポタンパク質を含有する医薬組成物を個体へ投与することを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
手術が心臓手術である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
アポリポタンパク質を心臓手術中に投与する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
心臓手術が冠動脈バイパス手術または経皮経管冠血管造影法である、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
冠動脈バイパス手術の必要性が減少する、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
経皮経管冠血管造影法の必要性が減少する、請求項23に記載の方法。
【請求項36】
外科手術回復時間が短縮される、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
狭窄が1以上の血管疾患によって引き起こされる、請求項23に記載の方法。
【請求項38】
狭窄が1以上の血管の閉塞により機械的に誘導される、請求項23に記載の方法。
【請求項39】
傷害が1以上の血栓によって引き起こされる、請求項23に記載の方法。
【請求項40】
血栓がプラーク破裂によって引き起こされる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
傷害が筋肉に対するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
筋肉が心筋である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
筋肉が骨格筋である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
筋肉が平滑筋である、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
傷害が器官に対するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項46】
器官が心臓、肺、腎臓、脾臓、肝臓または脳である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
アポリポタンパク質が1:1比のアポリポタンパク質A-I Milanoと1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリンの形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項48】
アポリポタンパク質を非経口的に投与する、請求項11に記載の方法。
【請求項49】
アポリポタンパク質を静脈内に、動脈内に、心膜に、血管周囲にまたは冠動脈内に投与する、請求項23に記載の方法。
【請求項50】
血栓溶解薬を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項51】
血栓溶解薬が組織プラスミノーゲンアクチベーター(TPA)、ストレプトキナーゼ、アニストレプラーゼ、レテプラーゼまたはウロキナーゼである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
抗凝固薬または抗血小板薬を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項53】
前記薬剤がアスピリン、クロピドグレルまたはヘパリンである、請求項53に記載の方法。
【請求項54】
酸素欠乏とそれに続く予防または治療を必要とする組織または器官に対する酸素供給の増加と関連する状態を、予防または治療する方法であって、該組織または器官を有効量のアポリポタンパク質と接触させることを含む、上記方法。
【請求項55】
酸素欠乏に関連する状態が好中球活性化である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
酸素欠乏に関連する状態がミエロペルオキシダーゼ産生である、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
酸素欠乏に関連する状態の重篤度を軽減する、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
酸素欠乏後にアポリポタンパク質を組織または器官と急性的に接触させる、請求項54に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2006−502976(P2006−502976A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−506368(P2004−506368)
【出願日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/015469
【国際公開番号】WO2003/097696
【国際公開日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(503131490)エスペリオン セラピューティクス,インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】