説明

虚血性心疾患予防又は治療用石菖蒲抽出物及びこれを含有する薬学的組成物と健康食品

本発明は虚血性心疾患予防又は治療効果を持つ石菖蒲(Acorus gramineus soland)抽出物、及びこれを含有する虚血性心疾患予防又は治療用薬学的組成物と健康食品に関するものであり、本発明の石菖蒲抽出物及びこれを含有する薬学的組成物と健康食品は、虚血性心疾患によって本来の機能を果たせない心臓を回復させる効果を持つので、狭心症、心筋梗塞症などの虚血性心疾患関連疾病の予防、又は治療に効果的に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は虚血性心疾患予防又は治療用石菖蒲(Acorus gramineus soland)抽出物に関するものであり、さらに詳細には、虚血性心臓疾患によって本来の機能を果たせない心臓を回復させる石菖蒲抽出物及びこれを含有する薬学的組成物と健康食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患は先天性心疾患と後天性心疾患に分けられ、後天性心疾患には、うっ血性心疾患(心不全)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞症)、弁膜疾患、心筋疾患及び心内膜疾患、不整脈、心臓神経症などがある。
【0003】
これらの心疾患のうち、特に虚血性心疾患(Ischemic heart disease)は、一般的に「冠状動脈疾患」と呼ばれ、心臓に血流を供給する冠状動脈の血管内幕に脂肪、コレステロールなどが蓄積されることによって、プラーク(plaque)が生じて動脈が厚く硬くなる動脈硬化症により起こる疾患で、冠状動脈の直径が狭くなることにより、十分な量の酸素を供給できないので起こる疾患である。血流の供給が悪化されて好転することを繰り返す程度の心筋の血流障害が招かれる場合、狭心症を引き起こし、プラークが破裂する場合には、血栓生成による不安定狭心症と、冠状動脈の一部分が完全に詰まり、心臓の一部分に血液がまったく供給できなくなり心筋梗塞症のような急性虚血性症候群を誘発するようになる。
【0004】
WHO統計によると、毎年1,700万人が循環器疾患によって死亡し、これは全体死亡人口の1/3として死亡原因の1位に当たる数値である。アメリカの場合、1998年に約100万人が循環器疾患によって死亡し、死亡原因の1位であり、循環器疾患のうち、特に虚血性心疾患が51%を占めた(Topal、1998)。虚血性心疾患はアメリカで65歳以上人口では、死亡原因1位であり、45〜64歳人口では、癌についで死亡原因の2位で、老齢人口の増加とともに虚血性心疾患による死亡は毎年増え続けている。このような虚血性心疾患は、現在先進国で死因として最も多く占める主な発病で、アメリカだけで1,200万人の患者が存在し、5人の死亡の中で2人は虚血性心疾患によって死亡し、欧米では突然死の80%が虚血性心疾患によるものと報告されている。韓国の場合も虚血性心疾患は、死亡の最大原因になっており、食生活の西欧化、高い喫煙率、ストレスの増加によって、死亡率が急速に増加傾向にある。
【0005】
このような虚血性心疾患の治療剤では、一般的に交感神経遮断薬、硝酸製剤及びカルシウム拮抗薬などが使われている。
【0006】
これらの中で、交感神経遮断薬(「ベータ・遮断薬」とも言う)は、血中カテコールアミンに対する交感神経受容体に対する抑制作用により、心拍数及び心筋収縮力を低下させ、心筋酸素要求量を減少させることで、急性冠動脈症候群と心筋梗塞症で最も優先的に使用される。このような作用は、運動中に発生する血圧と心筋収縮力の上昇を阻むので、運動中狭心症発作、交感神経系活動時に起こる狭心症発作に特に効果的なものとみられている。しかし、交感神経遮断薬をジヒドロピリジンDPH(Dihydropyridine)系カルシウム拮抗薬と併合する場合には、徐脈が生じて房室ブロックのリスクがある。
【0007】
一方、硝酸製剤は実際に死亡率や心筋梗塞で進行率を減少させたと言う証拠はないが、交感神経遮断薬とともに最も広く使用される第一選択薬(first-line drug)である。抗虚血機転 は前負荷及び後負荷を減少させ、動脈血管を拡張させ、側副血管を拡張させる一方、冠動脈血管痙攣(coronary vasospasm)を減少させる効果を通じて作用する。また、血小板凝集作用を抑制すると言う報告もある。たいてい硝酸製剤を静脈注射して、症状によって用量を増減して使用する。しかし、頭痛が発生し、脈拍が増加するか、継続的に注射する場合、耐性が発生することができる。
【0008】
また、カルシウム拮抗薬(「カルシウム遮断薬」とも言う)は、冠動脈血管拡張及び血圧降下効果を有し、ジヒドロピリジンDPH(Dihydropyridine)系と、非ジヒドロピリジン DPH(non-dihydropyridine)系に大きく分類できる。しかし、ニフェジピン(Nifedipine)などのDPH系の製剤は、血管拡張効果が強い反面、脈拍低下効果や心筋収縮力低下効果は弱いので、心筋酸素要求量を増加させる。実際ニフェジピンを利用した研究で、心筋梗塞に進行して再発性狭心症が約16%増加を見せていることが分かるので、ニフェジピン単独で使用することは危なく、必ず交感神経遮断薬と併用しなければならない。 非ジヒドロピリジンDPH系製剤は脈拍数を減少させ、心筋の収縮力を減少させて心臓の酸素消費量を減少させる。このようなカルシウム拮抗薬は、第二選択薬(second-line drug)として使用され、交感神経遮断薬に対する禁忌症がある患者の場合、又は心筋機能が正常な急性冠動脈症候群患者、冠動脈血管痙攣による狭心症患者に使用される。
【0009】
前記の虚血性心疾患治療のために使用される薬物は、突然の血圧低下又は心臓機能低下によるショック死、完全麻痺及び痙攣などの副作用を発生できるので、使用によるリスクがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明者はこのような従来の問題点を解決するために研究を重ねた結果、主に漢方薬剤として使用されて来た石菖蒲抽出物が、虚血性心疾患によって本来の機能を果たせない心臓を回復させるという点を発見して発明を完成したものである。
【0011】
本発明の目的は、人体に安全で、抗虚血性心疾患予防、又は治療効果を持って、前記の副作用発生のリスクが無い石菖蒲(Acous Gramineus)抽出物、及びこれを含有する薬学的組成物と健康食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明は石菖蒲を溶媒で抽出して製造した抗虚血性心疾患予防、又は治療用石菖蒲 (Acous Gramineus)抽出物を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記石菖蒲抽出物を有効成分として含有する抗虚血性心疾患予防、又は治療用薬学的組成物と健康食品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
以上から分かるように、本発明による石菖蒲抽出物は、人体に無害な天然薬剤として、虚血性心疾患によって本来の機能を果たせない心臓を回復させる効果を持つので、虚血性心疾患関連疾病の予防、又は治療に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
石菖蒲は天南星科(Araceae)植物である石菖蒲(Acorus gramineus soland)の根を乾燥したもので、根茎は横に育ち、外皮は黄褐色を帯びる。主に、谷及び泉が流れる水石の間に育ち、秋に採取して基葉から髭根まで除去して日に干したものを使用する。既に健忘症、中毒、脳卒中、肌のかゆみ、風邪、消化不良などの治療に効果があることがわかり、このような疾病治療に使われて来た。
【0016】
前記の石菖蒲の薬理作用に基づいて様々な用途が研究されて来たが、特に最近には、石菖蒲を痴呆疾患の予防のための有効成分として医薬組成物に使用しようとする試みがあった。例えば、韓国特許公開第2002-87721号によると、石菖蒲抽出物が神経細胞の壊死を阻害する神経保護作用を有することを発見し、石菖蒲抽出物を有効成分として含有する脳血管疾患の予防及び治療に効果を持つ薬学的製剤を提案したが、本発明のように虚血性心疾患の予防及び治療で使用することについては言及したことがない。
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明すると次のようである。
【0018】
本発明による石菖蒲抽出物は水、低級アルコール、ヘキサン、酢酸エチル又はこれらの混合溶媒で抽出することができる。さらに好ましくは、有機溶媒を利用して揮発性又は非揮発性物質を分離する有機溶媒抽出法によって製造することができる。これは低級アルコール、ヘキサン、酢酸エチル又はこれらの混合溶媒で抽出する段階、及び抽出濾液をろ過して濃縮する段階及び凍結乾燥する段階からなる。前記低級アルコールは、メタノール、エタノールおよびブタノールからなる群から選ばれる。抽出過程では浸出抽出法、超音波抽出法、濾過法、還流抽出法、 減圧濃縮法(真空法)などの方法が使用することができ、このほかにも通常の抽出法が使用することができる。また、石菖蒲抽出物は高温の熱水を利用して可溶性物質を分離する熱水抽出法によっても製造できる。熱水抽出は80乃至100℃の温度で1乃至3時間に行われることが好ましく、石菖蒲に水を加えた後、ろ過して濃縮する段階及び凍結乾燥する段階で構成される。濃縮及び凍結過程も通常の知られた方法が使用されうる。
【実施例1】
【0019】
熱水抽出による石菖蒲抽出物の準備
3次蒸留水1リットルを入れたフラスコに石菖蒲(Acorus gramineus soland)乾燥物粉末500gを投入した後、100℃で1時間、熱水抽出してガーゼで濾過した濾液を減圧濾過器(Eyela.Japan)で濃縮した後、凍結乾燥して本発明の石菖蒲抽出物を製造した。その結果、122gの乾燥抽出物を得た。
【実施例2】
【0020】
有機溶媒抽出による石菖蒲抽出物の準備
石菖蒲乾燥物粉末1リットルにエタノール水溶液2リットルを加えた後、漢方薬の抽出時、通常に使用される超音波処理器を使用して超音波で15分間2回抽出して3リットルの抽出液を得た。得られた抽出液を濾過紙で濾過した濾液を45℃、1気圧で減圧濾過器(Eyela.Japan)で濃縮した後、凍結乾燥して本発明の石菖蒲抽出物を製造した。その結果、85gの乾燥抽出物を得た。
【0021】
先ず、石菖蒲抽出物の人体の安全性を検査するために急性毒性実験をした。
【0022】
(試験例1)ラットに対する急性毒性実験
6週齢の特定病原体不在(specific pathogen-free、SPF)SD系ラットを用いて急性毒性実験を行った。群当たり5ラットの動物に本発明の石菖蒲抽出物を各0.5%メチルセルローズ溶液に懸濁し、各5g/kg 、10g/kg及び20g/kgの用量で1回単回経口投与した。試験物質投与後、通常の方法によって動物の死亡の可否、臨床症状、体重変化を観察し、血液学的検査と血液生化学的検査を実施し、剖検して肉眼で腹腔臓器と胸腔臓器の異常可否を観察した。
【0023】
その結果、試験物質を投与したすべての動物で特別な臨床症状や死亡した動物は無かった。体重変化、血液検査、血液生化学検査、剖検所見などでも毒性変化は観察されなかった。以上の結果、本発明の石菖蒲抽出物は全部ラットで 20g/kgまで毒性変化を生じず、従って、経口投与中間致死量(LD50)は、石菖蒲抽出物20g/kg 以上の安全な物質と判断された。
【0024】
本発明の石菖蒲抽出物を通常の方法によって白ネズミに経口投与、腹腔内投与及び皮下注射時の毒性実験を行った結果、腹腔内投与の毒性試験による50%致死量(LD50)は、少なくとも石菖蒲抽出物20g/kg以上の安全な物質と判明された。
【0025】
以後、石菖蒲抽出物の抗虚血性心疾患の治療能を確認するために経時的な血圧、大動脈拍出量、冠状動脈灌流量及び心臓拍出量の変化を測定した。
【0026】
(試験例2)心筋梗塞誘導ラットに対する抗虚血性心疾患の治療能試験
(1)実験群準備
1 心臓の分離
予め準備した体重約250〜300mgのSD系ラット(Sprague-Dawleystrain)を温度24〜26℃で、相対湿度50〜60%の環境で、自動電源装置によって12時間の間隔で飼育室の電燈を調節するようにし、ケージ(cage)内で水と飼料を自由に摂取できるように提供した。すべての実験過程は動物実験倫理規定によって行った。実験前2時間程度絶食させた後、ペントバルビタール(pentobarbital)を体重100mg当たり5mgずつ、腹腔内に注射して麻酔を誘導した。 麻酔されたネズミは、四肢を縛って実験台に固定させ、鼠径部に切開を加えて大腿静脈を露出させた後、体重100mg当たり100単位のヘパリンを大腿静脈に注射した。ヘパリン注射後、60秒経過時、ネズミの胸骨を正中切開して心臓を摘出し、4℃の生理食塩水に浸して心臓の停止を誘導した。心臓が停止されれば、心臓の周りの気道と食道を剥離した後、大動脈と左心房にカテーテルを挿入し、3番縫合糸で固定させた。両側肺門部を結紮した後、肺組織を分離し、その次に、肺動脈に切痕を残して灌流液が右心房内に充満することを防止した。
【0027】
2 心臓の体外循環
(体外循環装置の準備及び原理)
本実験に利用した白ネズミ心臓の体外循環回路では、ランゲンドルフによって考案された非作業性体外循環装置(non-working Langendorff persusion system)と、ニーリー(Neeley)、チェーン(Chain)などによって考案された作業性体外循環装置(working heart perfusion system)を同時に付着設計したものを使用する。
【0028】
前記「非作業性体外循環装置」は、心臓上方100cm高さの大動脈貯蔵所で100cmH2Oの水圧で、大動脈内に逆流循環する回路で、逆流循環による冠状動脈灌流で心臓機能を維持するが、左心室を通じる心臓摘出が無いので「非作業性心臓」と言う。このような非作業性心臓は、実験初期15分及び心筋梗塞誘導後、回復期の初15分間利用し、心臓摘出時及び心筋梗塞時の酵素欠乏に対する心臓の回復を誘導する。前記「作業性体外循環装置」は、心臓上方20cm高さの左心房貯蔵所(Atrial bubble trap)を通じて、20cmH2Oの水圧で左心房内に循環される左心房装置(left heart preparation)を言って、左心房内に流入された灌流液は、左心室を通じて心拍ごとに100cmH2Oの水圧に該当する高さの左心房貯蔵所に分当たり20〜30mlずつ流出(この量が「大動脈拍出量」である)される。このとき、心拍には電気的心室ペーシング装置(electrical pacin)は使用しない。このような作業性心臓は、心筋梗塞誘導前20分及び心筋梗塞誘導後、ランゲンドルフ体外循環装置を15分間行った後に60分間利用され、心筋梗塞誘導前後の心臓回復状態を比較するのに有意である。本実験で大動脈灌流液と冠状動脈の灌流液は再循環に利用しない。
【0029】
前記1で用意された心臓を前記のように用意された体外循環装置のランゲンドルフ循環装置(modified langendorff perfusion system)に連結した後、ランゲンドルフ体外循環を15分行い、心臓内の血液成分を除去し、細胞間質内の溶液と灌流液の気質濃度が平行するようにした。左心房注入もこの時に行った。また、このときに心拍数、最大大動脈の収縮気圧、冠状動脈灌流量の標準値(control)を求めた。
【0030】
その次に、ランゲンドルフ体外循環を継続させると同時に、左心房を灌流させて作業性心臓に転換した。心筋梗塞誘導前の作業性心臓15分後、左心房管及び大動脈管を閉鎖した。
【0031】
3 石菖蒲抽出物の注入及び心筋梗塞誘導
前記2による左心房管及び大動脈管閉鎖後、実施例1で製造された石菖蒲抽出物を1mg/1mlの濃度で50mlを65cmH2Oの水圧で、約3分間インジェクションキャップ(injection cap)を通じて冠状動脈に注入し、薬物が心臓の全体に全て入るようにし、心臓表面の乾燥することを防止するために37℃生理食塩水を心臓表面に点滴した後、心臓局所加温法を併用し、心房および心室(heart chamber)の水ジャケット(water jacket)をウォームジャケット(warm jacket)に維持し、全実験過程の間に心筋の温度が37±1℃を維持した。また、左心房管と大動脈管を閉鎖して5分間心筋梗塞を誘導した。
【0032】
心筋梗塞誘導後、心虚血状態を中止し、37℃灌流液でランゲンドルフ循環を15分間行った。この時の冠状動脈灌流液は再循環させなかった。
【0033】
前記非作業性循環15分後、ランゲンドルフ循環を続きながら、左心房灌流を行い、作業性心臓に変え、60分間心臓機能の回復状態を測定した。このとき、心筋損傷によって機能が回復不良状態の場合には、非作業性循環に誘導しないことで、同一条件で測定及び観察できるようにした。
【0034】
(2)対照群準備
石菖蒲抽出物を添加しない灌流液を使用し、心筋梗塞を誘導したという点のみを異にし、前記実験群準備の一連の過程を行った。
【0035】
実験群及び対照群各10個を対象にしてそれぞれの血圧、大動脈拍出量、冠状動脈灌流量及び心臓拍出量を測定した。
【0036】
図1は実験群及び対照群を対象にして作業性心拍時の経時的な血圧の回復状態変化を測定したもので、下記の表1に数値として示した結果値は、平均血圧と標準偏差を示す。図1中**は対照群と比較して確率(P)〈0.01であることを示す。図2は実験群及び対照群を対象にして作業性心拍時の経時的な大動脈拍出量の回復状態変化を測定したもので、表1に数値として示した結果値は、分当たり平均拍出量と標準偏差を示す。図3は実験群及び対照群を対象にして作業性心拍時の経時的な冠状動脈灌流量の回復状態変化を測定したもので、表1に数値として示した結果値は、分当たり平均灌流量と標準偏差を示す。図4は実験群及び対照群を対象にして作業性心拍時の経時的な心臓拍出量の回復状態変化を測定したもので、表1に数値として示した結果値は分当たり平均拍出量と標準偏差を示す。図2乃至図4中*は、対照群と比較して偶然によって起こる確率が5%以下((P)〈0.05)で、**は、対照群と比較して偶然によって起こる確率が1%以下((P)〈0.01)であることを示す。
【表1】

【0037】
前記表1から分かるように、石菖蒲抽出物を処理した実験群の冠状動脈灌流量と心臓拍出量は、対照群の値と比較する時、10分経過時から統計的に有意な増加を示した。また、実験群の血圧及び大動脈拍出量は、対照群の値と比較する時、20分経過時から統計的に有意な増加を示した。
【0038】
また、前記対照群及び実験群を対象にして虚血性ショックの心筋梗塞を誘導する前、及び虚血性ショック後の血圧、大動脈拍出量、冠状動脈灌流量及び心臓拍出量寸法を測定し、その数値を虚血性ショックの前の測定値に対する虚血性ショック後の測定値を百分率に換算して下記の表2に示した。
【表2】

【0039】
前記表2から分かるように、本発明の石菖蒲抽出物を処理した実験群の場合、虚血性ショック後の血圧、大動脈拍出量、冠状動脈拍出量及び心臓拍出量が虚血性ショックの前の値をほとんど回復する程の数値を示す。このように石菖蒲抽出物が虚血性心疾患を治療するのに効果的であることを確認した。
【0040】
人体に安全で抗虚血性心疾患予防、又は治療効果を持つ前記石菖蒲抽出物を有効成分として虚血性心疾患治療用薬学組成物を製造することができる。石菖蒲抽出物は臨床投与時に経口又は非経口に投与が可能であり、一般的な医薬品製剤の形態で使用することができる。
【0041】
即ち、本発明の石菖蒲抽出物は、実際臨床投与時に経口及び非経口のさまざまな剤形に投与することができ、製剤化する場合には普通使用する充填剤、増粘剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤および界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を使用して調剤される。
【0042】
経口投与のための固形製剤には錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤およびカプセルなどが含まれ、このような固形製剤には、石菖蒲抽出物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、でんぷん、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)、ラクトースおよびゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム(Magnesium stearate)、タルク(talc)のような滑沢剤も使用される。
【0043】
経口投与のための液状の製剤には、懸濁剤、内容液剤、乳剤およびシロップ剤などがあり、頻繁に使用される単純希釈剤の水、リキッドパラフィン(liquid paraffin)以外に、様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤および保存剤などが含まれる。
【0044】
非経口投与のための製剤には滅菌された水溶液、非水溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤および坐剤が含まれる。非水溶剤と懸濁剤にはプロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)、オリーブオイル(olive oil)のような植物性油脂、オレイン酸エチル(ethyl oleate)のような注射可能なエステルなどが使用できる。坐剤の基剤にはウィテプソル(witepsol)、マクロゴール(macrogol)、トゥイーン(tween)61、カカオ脂、ラノリン脂、グリセロールおよびゼラチンなどが使用できる。
【0045】
投薬単位は、例えば、個別投薬量の1、2、3又は4倍を含有するか、又は 1/2、1/3、又は1/4倍を含有することができる。個別投薬量は好ましくは、有効薬物が1回に投与される量を含有し、これは通常1日投与量の全部、1/2、1/3又は1/4倍に該当する。
【0046】
虚血性心疾患治療用薬学組成物で、石菖蒲抽出物の有効用量は30乃至700mg/kgであり、好ましくは100乃至500mg/kgで、一日1-6回投与することができる。但し、特定患者に対する投与用量水準は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、疾患の重症度によって変化できる。
【0047】
また、前記石菖蒲抽出物を有効成分として虚血性心疾患治療用健康食品も製造することができる。本発明の抽出物を食品として使用する場合、前記抽出物をそのまま添加するか、他の食品又は食品成分とともに使用され、通常の方法によって適切に使用することができる。有効成分の混合量は、その使用目的(予防、健康又は治療目的)によって適切に決定され得る。
【0048】
一般的に、本発明の抽出物を食品又は飲料の製造時に原料に対して0.01乃至1重量%、望ましくは、0.1乃至1重量%の量で添加できる。本発明の抽出物の有効用量は、前記薬学的組成物の有効用量に準して使用できるが、健康及び衛生を目的とするか、又は健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記範囲の以下である可能性があり、有効成分は安全性面で何の問題がないため、前記範囲の以上の量でも使用できることは勿論である。前記食品の種類には特別な制限は無い。前記物質を添加できる食品の例には肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類、スナック類、お菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤などがあり、抗貧血剤、身体機能補強剤、皮膚美白剤などを目的とする民間療法剤などをあげられる。また、チォングミョングタング、アンシンボシムファン、ゲシンサン、チングポヘウルタング、ゲグムサンなどのような様々な漢医学処方にも使用することができる。
【0049】
以下、製剤例1乃至7で石菖蒲抽出物を含有する薬学製剤及び健康食品を製造したが、本発明がこれらの例に限定されるものではない。
【0050】
(製剤例1)
軟カプセル剤の製造
実施例1によって製造された石菖蒲抽出物100.0mg、大豆油175.0mg、黄蝋45.0mg、パーム硬化油127.5mg、大豆燐脂質21.0mg、ゼラチン212.0mg、グリセリン(比重 1.24)50.0mg、D-ソルビトール76.0mg、パラオキシ安息香酸メチル0.54mg、パラオキシ安息香酸プロピル0.90mg、メチルバニリン0.56mg、黄色203号適正量の成分が1カプセル内に含有されるように、韓国薬局方の軟カプセルの製法によって製造した。
【0051】
(製剤例2)
錠剤の製造
実施例1によって製造された石菖蒲抽出物100.0mg、とうもろこし澱粉90.0mg、乳糖175.0mg
L−ヒドロキシプロピルセルロース15.0mg、ポリビニルピロリドン90 5.0mg及びエタノール適正量の原料を均質に混合し、湿式顆粒法で顆粒化し、ステアリン酸マグネシウム1.8mgを加えて混合した後、1錠が400mgになるように打錠した。
【0052】
(製剤例3)
カプセル剤の製造
実施例1によって製造された石菖蒲抽出物100.0mg、とうもろこし澱粉83.2mg、乳糖175.0mg及びステアリン酸マグネシウム1.8mgの原料を均質に混合し、1カプセルに360mgを含有するように充填した。
【0053】
(製剤例4)
チューインガムの製造
実施例1によって製造された石菖蒲抽出物0.24〜0.64%、ガム基礎剤20%、果実香1%、水2%及び砂糖残量の組成として、通常の方法を使用してチューインガムを製造した。
【0054】
(製剤例5)
アイスクリームの製造
実施例1によって製造された石菖蒲抽出物0.24〜0.64%、乳脂肪10.0%、無脂固形分10.8%、砂糖12.0%、水飴3.0%、乳化安定剤(スパン,span)0.5%、香料(イチゴ)0.15%及び水残量の組成として通常の方法を使用してアイスクリームを製造した。
【0055】
(製剤例6)
飲料の製造
実施例1によって製造された石菖蒲抽出物0.48〜1.28mg、蜂蜜522mg、チオクト酸アミド5mg、ニコチン酸アミド10mg、塩酸リボフラビン・ナトリウム3mg、塩酸ピリドキシン2mg、イノシトール30mg、オロト酸50mg及び水200mlの組成として通常の方法を使用して飲料を製造した。
【0056】
(製剤例7)
ソーセージの製造
実施例1によって製造された石菖蒲抽出物0.24〜0.64%、鶏肉27.5%、澱粉3.5%、大豆蛋白1.7%、食塩1.62%、ブドウ糖0.5%、その他の添加物(グリセリン)0.94〜1.34%及び豚肉残量の組成として通常の方法を使用してソーセージを製造した。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の石菖蒲抽出物を処理した実験群と、これを処理しない対照群を対象にして、作業性心拍時の経時的な血圧の回復変化を示したグラフ。
【図2】本発明の石菖蒲抽出物を処理した実験群と対照群を対象にして、作業性心拍時の経時的な大動脈拍出量の回復変化を示したグラフ。
【図3】本発明の石菖蒲抽出物を処理した実験群と対照群を対象にして、作業性心拍時の経時的な冠状動脈灌流量の回復変化を示したグラフ。
【図4】本発明の石菖蒲抽出物を処理した実験群と対照群を対象にして、作業性心拍時の経時的な心臓拍出量の回復変化を示したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石菖蒲を溶媒で抽出して製造する抗虚血性心疾患予防又は治療用石菖蒲(Acorus Gramineus Soland)抽出物。
【請求項2】
請求項1において、石菖蒲を水として熱水抽出して製造する抗虚血性心疾患予防又は治療用石菖蒲抽出物。
【請求項3】
請求項1において、前記溶媒は水、低級アルコール、ヘキサン、酢酸エチル又はこれらの混合溶媒であることを特徴とする抗虚血性心疾患予防又は治療用石菖蒲抽出物。
【請求項4】
請求項1の石菖蒲抽出物を有効成分として含有する抗虚血性心疾患予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項5】
請求項1の石菖蒲抽出物を有効成分として含有する抗虚血性心疾患予防又は治療用健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−501788(P2008−501788A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527008(P2007−527008)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【国際出願番号】PCT/KR2005/001738
【国際公開番号】WO2005/120531
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506408520)ピュリメド カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】