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虚血性脳卒中改善薬
説明

虚血性脳卒中改善薬

【課題】投与時関連反応の発生を抑制して、小粒子酸素運搬体の虚血性脳卒中の患者への投与を可能にする。
【解決手段】赤血球よりも小さい平均粒子径の粒子状担体に有効成分のヘムタンパク質が内封された液状製剤を、投与開始から15分間は2.4(mg/kg)/min未満の速度で、その後2.4(mg/kg)/min以上の速度で静脈内投与する虚血性脳卒中治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血性脳卒中治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞は、アテローム血栓性梗塞、心原性寒栓症、ラクナ梗塞およびその他の脳梗塞に分類されているが、共通の病態は脳血管局所での血流遮断や低下が原因で虚血あるいは低酸素状態に陥った脳組織が、時間と共に様々な過程を経て、最終的に死に至ることである。梗塞部位には、ほぼ完全に血流が途絶えた虚血中心領域とその周辺のペナンブラ領域が存在する。虚血中心領域は、残存血流が極めて不十分であるため、非常に早い段階で不可逆的変化を起こすが、ペナンブラ領域では残存血流がある程度保たれているため、脳組織機能は低下しても直ちに不可逆的な障害に至らず、適切な処置により障害を最小限に止めることが可能である(非特許文献1参照)。
【0003】
このようなペナンブラ領域の保護のために、高圧酸素療法や酸素運搬体の投与により当該部位に酸素を供給して低酸素状態を改善することによる治療の試みがなされており(たとえば、非特許文献2および3参照)、広くは虚血性脳卒中治療薬としての可能性が示されている(たとえば、特許文献1参照)。さらに、脳卒中および外傷性脳損傷などの脳障害の従来から行われている脳低温療法(脳を選択的に冷却)に、酸素運搬体としての酸素ナノバブルの使用を組み合わせて、ペナンブラ領域を保護する提案もある(たとえば、特許文献2参照)。
【0004】
酸素運搬体としては、フッ化炭素エマルジョンの酸素溶解能力(水の20倍)を利用した化学合成品が検討されたが、酸素運搬量が不足すること、さらに体内蓄積性が危惧されている。
酸素運搬体として、天然赤血球由来ヘモグロビンを利用する試みも行われているが、遊離ヘモグロビンの生体内半減期は極端に短く、血管外への遊出が起こりやすい。血管外に遊出したヘモグロビンが一酸化窒素をトラップした結果として、血管収縮が起こり、末梢循環の不良状態を来たして、末梢の病巣へ十分な酸素供給が行なえないこと、さらに臓器障害性を示すことなどが問題点として指摘されている。このような遊離ヘモグロビン溶液の問題点を改善すべくヘモグロビンの蛋白分子自体を化学的に改変した修飾ヘモグロビン(安定化ヘモグロビン、重合ヘモグロビン等)の検討も行われてきたが、ヘモグロビンの持つ、本質的な問題を解決するには至っていない。
【0005】
一方、ヘモグロビンを脂質小胞体のリポソーム内に封入したヘモグロビン含有リポソームは、赤血球に疑似化した構造的な特徴を有しており、上記のようなヘモグロビンの抱える問題点を解決し得る可能性を持つ手段として期待されている。特に、輸血における血液型の問題がなく、ウィルス感染等も回避できる安全性の高さに加え、粒子径が小さく、粘度も小さいことから、赤血球では十分に酸素運搬できていないような微小循環系においても必要とされる酸素量を供給することが可能である。
【0006】
ここで、虚血性脳卒中の治療においては、脳虚血発症後、ある治療が脳損傷の程度を軽減し、機能回復を促進し、長期的な予後を改善しうるある一定の期間「Therapeutic time window」(非特許文献4参照)が存在し、発症後できるだけ早く治療を行う(薬物の場合は必要量の投与を終える)必要がある。
【0007】
一方、リポソーム等の粒子状の担体の経血管的な投与においては、投与開始時に顔面紅潮、息切れ、背痛・頭痛、悪寒、腰や食道の緊張、血圧変動等の投与時関連反応(infusion-related reactions;IRRs)が起こることが多数報告されている(非特許文献5〜7参照)。これは、通常の輸血(適合血液)では問題とならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3746293号公報
【特許文献2】特開2011−001271号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Stroke,1981,12:723-725
【非特許文献2】Stroke,2007,38:1626-1632
【非特許文献3】J Pharmacol Exp Ther,2010,332:429-436
【非特許文献4】Ann NY Acad Sci,1997,835:187-193
【非特許文献5】Radiology,1987,163:339-343
【非特許文献6】Lancet,1994,344:1156-1157
【非特許文献7】J Clin Oncol,1995,13:1777-1785
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、虚血性脳卒中の治療では酸素運搬体の投与を早く完了することが重要である一方、副作用(IRRs)を誘発する粒子状製剤の酸素運搬体には早い投与は避けるべきという背反する現実が存在している。なお、通常の輸血(赤血球)には、血液型適合性等の問題があるが、IRRsに関連する問題は格別認識されない。
本発明は、特に、非血球性の粒子状製剤の酸素運搬体に特有のIRRsの課題を解決し、該酸素運搬体の虚血性脳卒中の患者への投与を可能にした虚血性脳卒中治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、虚血性脳卒中の治療を目的として、より具体的には急性期脳梗塞に伴う神経症状、日常生活運動障害および/または機能障害の改善を目的として鋭意検討したところ、上記粒子状製剤の酸素運搬体であっても、投与初期の15分間を2.4(mg/kg)/min((ヘモグロビン量/体重)/時間)未満の緩和速度で投与を実施すれば、予想外にも、その後高速投与してもIRRsの発生がほぼ観察されないという知見を得た。このIRRs観察結果は、血圧および肺動脈圧観察として後述の実施例に示すが、上記態様により、結果として、必要量(用量全量)の酸素運搬体の投与(以下、本投与ともいう)を短時間で終えることができる。この知見に基づいてさらに詳細に研究し、以下のような本発明を完成した。
【0012】
本発明は、赤血球よりも小さい平均粒子径の粒子状担体に内封されたヘムタンパク質を含む液状製剤であって、投与開始から15分間の2.4(mg/kg)/min未満の速度での初期投与と、その後の2.4(mg/kg)/min以上の速度での投与とにより、静脈内投与されることを特徴とする、前記ヘムタンパク質を有効成分とする虚血性脳卒中治療薬である。
上記において、初期投与の緩和速度が2.4(mg/kg)/minでも肺動脈圧の変動が見られるものの血圧の変動は見られず、極端なIRRsは起きないことが確かめられており、これ未満はIRRsを誘発しない安全な速度といえる。なお、初期投与は緩和された速度である程度の投与が実施できればよいことから、0.05(mg/kg)/min以上であればよい。
【0013】
上記粒子状担体の平均粒子径は、通常1μm以下である。
なお、赤血球の粒子径(直径)は約7〜8μmである。
【0014】
上記製剤のヘムタンパク質濃度は、0.5w/v%以上である。
【0015】
上記投与速度は、段階的あるいは一気に速めることができる。
本発明において、本投与の速度は、IRRsを考慮せずに設定でき、初期投与速度の1.2倍以上に速めることができ、初期投与速度に対して100倍程度に速めても構わない。本投与の速度は、用量、初期投与を含む全投与時間等によっても特に制限なく設定でき、具体的に、上記2.4(mg/kg)/min以上の速度であっても構わない。通常の緊急時最大輸血量に相当する120(mg/kg)/minでも構わない。
【0016】
全投与時間は、90分以内が好ましい。
【0017】
1回の用量は、12mg/kg以上が望ましく、通常、12〜2400mg/kgである。
また、投与回数は、通常1回である。
【0018】
有効成分のヘムタンパク質は、好ましくは人工および/または天然由来のヘモグロビンである。
【0019】
また、粒子状担体はリポソームが好ましい。
本発明の好ましい態様における液状製剤は、ヘモグロビン含有リポソーム製剤である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特定の投与形態で投与されることによってIRRsの発生が抑制され、迅速投与による虚血性脳卒中治療に有用性を発揮しうる、粒子状ヘムタンパク質製剤の酸素運搬体からなる虚血性脳卒中の治療薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】麻酔下イヌに対して酸素運搬体Aを投与した際の循環動態(血圧および肺動脈圧)の変化を示す図である。上段のカラムが血圧の変化を、下段のカラムが肺動脈圧の変化を示す。(A)は1200mg/kgを10分間で投与(120(mg/kg)/min)、(B)は1200mg/kgを50分間で投与(24(mg/kg)/min)、(C)は1200mg/kgを200分間で投与(6(mg/kg)/min)、(D)は300mg/kgを250分間で投与(1.2(mg/kg)/min)した際の循環動態の変化を示す。
【図2】麻酔下イヌに対して酸素運搬体Bを投与した際の循環動態(A,血圧;B,肺動脈圧)の変化を示す図である。図中の矢印で示した時間幅が投与を行っている期間を示す。
【図3】麻酔下イヌに対して酸素運搬体Bを0.18(mg/kg)/minで投与を開始して、15分後に6(mg/kg)/minに変更して投与した際の循環動態(A,血圧;B,肺動脈圧)の変化を示す図である。図中の矢印で示した時間幅が投与を行っている期間を示す。
【図4】麻酔下イヌに対して酸素運搬体Bを0.12(mg/kg)/minで投与を開始して、段階的に投与速度を早くした際の循環動態(A,血圧;B,肺動脈圧)の変化を示す図である。図中数字は投与速度((mg/kg)/min)を示し、矢印で示した時間幅がその投与速度にて投与を行っている期間を示す。図中の結果は、◇,301;□,302;△,303の各個体のデータを示す。
【図5】ラット中大脳脈閉塞−再開通モデルにおける酸素運搬体Bの脳梗塞巣進展抑制効果を示す図である。「生食」は対照として生理食塩液を投与した群を、「酸素運搬体B」は酸素運搬体Bを投与した群を示す。
【図6】ラット中大脳動脈永久閉塞モデルにおける酸素運搬体Bの脳梗塞巣進展抑制効果に対する投与時間が与える影響を示す図である。「生食」は対照として生理食塩液を投与した群を、それ以外のカラムは酸素運搬体Bを投与した群を示す。また、図中の時間は屈曲確認後から酸素運搬体Bが投与されるまでの時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る虚血性脳卒中治療薬は、粒子状担体に内封されたヘムタンパク質を有効成分として含む液状製剤(以下、酸素運搬体とも称す)である。
ヘムタンパク質としては、たとえばヘモグロビン、ミオグロビン、アルブミン−ヘムなどが挙げられる。
【0023】
また、液状製剤は、ヘムタンパク質を内封することのできる閉鎖小胞構造で、平均粒子径が赤血球よりも小さい粒子状担体を含むものであればよく、リポソーム、リピッドマイクロスフェアおよびナノパーテイクルなどの様々な形態をとることができる。通常、W(水相)/O(油相)型およびW/O/W型が存在し、W/O型担体としては、たとえば、ミセル、マイクロスフェア等が挙げられる。また、W/O/W型担体としては、たとえば、膜状に集合した脂質および内部に水相から構成されるリポソームなどが挙げられる。
これらのうちでも、ヘムタンパク質を高濃度封入することのできる潜在的機能を有する閉鎖小胞、特にリポソームが好ましい。
【0024】
以下には、液状製剤の代表例として、粒子状担体がリポソームであり、ヘムタンパク質がヘモグロビンであるヘモグロビン含有リポソームについて具体的に説明する。
リポソームの構造も特に限定されず、多重層であってもよいし、一枚膜であってもよい。リポソームの大きさは特に限定されないが、平均粒子径は1μm以下、通常10〜1000nm程度、好ましくは30〜500nm程度、より好ましくは100〜300nm程度である。また、リポソームを構成する脂質も特に限定されず、生体内において安全かつ安定な酸素運搬体を提供するという観点から、天然または合成のリン脂質、他の脂質、それらの誘導体、安定化剤、酸化防止剤、荷電物質等を好適に組み合わせて用いることができる。
【0025】
リン脂質およびその誘導体としては、たとえば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ガングリオシド、カルジオリピン、およびこれらの不飽和結合について一部または完全に水素添加した水素添加リン脂質などが挙げられる。リポソームの膜成分としては水素添加リン脂質が好ましい。水素添加リン脂質は、部分水素添加物であってもよい。たとえば水素添加率50%以上の卵黄または大豆由来の水素添加リン脂質が好ましい。
【0026】
安定化剤は、たとえば、コレステロール、コレスタノール等のステロール;グリセロール、シュクロース等の糖類が挙げられる。酸化防止剤は、たとえば、トコフェロール同族体、即ち、ビタミンEが挙げられる。トコフェロールには、α、β、γおよびδの4個の異性体が存在するが、本発明にはいずれも用いることができる。荷電物質は、たとえば、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ジセチルホスフェート、脂肪酸が挙げられる。脂肪酸としては、他の脂質類と共に、リポソームを形成し得るものであれば特に限定はないが炭素数12〜22の飽和および不飽和脂肪酸が用いられる。たとえば、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサペンタエン酸などが挙げられる。
【0027】
また、上記膜成分の脂質が、たとえば、親水性高分子で修飾されている態様も好適である。特に、リポソームの外表面に親水性高分子を配置した形態がより好ましい。
修飾に用いられる親水性高分子は、酸素運搬体の構造安定を損なうものでなければ特に限定されないが、たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、合成ポリアミノ酸、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナン、およびこれらの誘導体、さらにグルクロン酸、シアル酸等の水溶性多糖類が挙げられる。これらのうちでもPEGが好ましい。
本発明では、リポソームが血液中においてタンパク等と結合し凝集したり、細網内皮系への取り込みにより血流中から早期に排除されたりするのは好ましくないため、これを避けるために、平均重合度で10〜200(平均分子量として500〜10000)より好ましくは40〜100の鎖長のPEGが好ましい。
【0028】
リポソーム表面をPEG等により修飾するには、様々な手法が挙げられ特に限定されないが、PEG等をリン脂質、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステル等の疎水性化合物と結合させて、その疎水性化合物の部分をリポソーム表面に挿入する方法が好ましい。
具体的に、PEG結合リン脂質は、リン脂質の親水部(極性頭部)に、PEGを結合させた構造の分子であり、一分子中に1または2以上のPEG鎖を含有する。特に、PEG結合リン脂質、たとえばPEG−DSPE(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン)などが好ましい。
【0029】
ヘモグロビン含有リポソームおよび内封するヘモグロビンの好ましい調製方法については、たとえば特開2007−269646、特開2009−35517などにより公知であり、その記載に準じて適宜調製することができる。また、好ましい組成および構造などとともに、そこに開示される記載を引用することにより、本明細書に記載されているものとすることができる。
本発明におけるヘモグロビン含有リポソームのヘモグロビン濃度は、上記したとおり、通常、0.5w/v%以上であるが、好ましくは1〜12w/v%である。
【0030】
上記酸素運搬体の初期投与は、IRRsが起こらない、あるいはほとんど起こらない2.4(mg/kg)/min未満の投与速度で行われ、通常、0.05〜2(mg/kg)/minにて、好ましくは0.1〜1.2(mg/kg)/minにて実施される。この範囲での投与速度で15分間実施した後、投与開始15分以降の本投与を1.2〜100倍、好ましくは2〜60倍に速度を上げることが好ましい。
【0031】
本発明では、投与開始15分経過時に投与速度を一気に所定速度上げることができる。また投与速度を段階的に上げてもよく、その場合、前記2.4(mg/kg)/min未満の範囲内であれば、初期投与時から変化させても構わないが、初期投与の完了時以降に速度を変化させることが好ましい。
【0032】
また投与量(1回用量)は、患者の症状、体重、年令などにより変わりうるが、12〜2400mg/kg、好ましくは30〜1200mg/kg、より好ましくは60〜600mg/kgである。
また、上記用量で、通常1回だけ投与する。
【0033】
上記のような本発明における虚血性脳卒中治療薬は、虚血性脳卒中に起因する脳梗塞巣の拡大、運動機能障害や各種神経機能障害などを予防または軽減することができる。虚血性脳卒中としては、たとえば、脳梗塞(アテローム血栓性梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳塞栓症など)や一過性脳虚血発作、さらに脳出血またはくも膜下出血後に発症する二次的な虚血性脳卒中などが挙げられる。虚血性脳卒中に起因する症状としては運動機能傷害、意識障害、感覚障害、言語障害、記憶障害、感情の障害、思考能力の障害、めまい、頭痛、吐き気、嘔吐等が挙げられる。
本発明における虚血性脳卒中治療薬は、現行の治療法を併せて使用可能である。現行の治療法とは、たとえば、急性期脳梗塞の治療に用いられる血栓溶解療法、局所線溶療法、血栓除去術、抗凝固療法、抗血小板療法、脳浮腫治療薬、脳保護薬、血液希釈療法、高圧酸素療法、低体温療法、開頭外減圧術などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
イヌ循環動態に対する酸素運搬体Aの投与速度が与える影響
(1)酸素運搬体Aの調製
水素添加大豆ホスファチジルコリン181.7g、コレステロール89.0g、ステアリン酸65.3gからなる均一混合脂質に水336.0gを加えて、85℃で30分間加温して水和膨潤均一混合脂質を調整した。
期限切れ濃厚赤血球製剤からヘモグロビンを精製・濃縮し、イノシトールヘキサリン酸をヘモグロビンに対して等モル添加したヘモグロビン濃度42.6w/w%の濃厚高純度ヘモグロビン溶液を調整した。
【0036】
前記水和膨潤均一混合脂質672gに、前記濃厚高純度ヘモグロビン溶液2,400gを添加した後に、pH調整剤として1.6M−NaOH 83.63gを混合滴下してプレ乳化物とした後に、高速攪拌法により乳化して、ヘモグロビン含有リポソーム混合乳化液を得た。
粒子径の制御を行った後、リポソームに封入されなかったヘモグロビンおよびイノシトールヘキサリン酸を除去・濃縮して、ヘモグロビン含有リポソームの生理食塩液による懸濁液を得た。
【0037】
このヘモグロビン含有リポソームの生理食塩液による懸濁液に、PEG結合リン脂質としてPEG5000−DSPE(日油株式会社)を生理食塩液に溶解させたPEG結合リン脂質水溶液を添加して、ヘモグロビン含有リポソームおよびPEG結合リン脂質を含有し、生理食塩液による懸濁液中のヘモグロビン濃度が6.0w/v%であり、PEG結合リン脂質濃度が0.15w/v%である様に調製した後に、PEG結合リン脂質を表面固定化処理したものを酸素運搬体Aとした。
【0038】
(2)麻酔管理
イヌ(ビーグル、株式会社日本医科学動物資材研究所、雄性)に、チオペンタールナトリウム(田辺三菱製薬株式会社)25mg/kgを静脈内投与し、人工呼吸のための気管カテーテル(テルモ株式会社)を挿入した。臭化パンクロニウム(第一三共株式会社)0.1mg/kgを右橈側皮静脈に留置した21G翼付静注針(テルモ株式会社)を介してシリンジポンプを用いて静脈内投与し、自発呼吸が消失したのを確認した後、1〜2%イソフルランの吸入麻酔薬を混合したガス(酸素:笑気=3:7)を用いた人工呼吸(1回換気量およそ15mL/kg/回、分時換気数およそ10回/分)による維持麻酔を開始した。その後、術中の不感蒸泄分の水分の補充を目的とした乳酸リンゲル液(10mL/kg/h)の持続投与を開始した。乳酸リンゲル液の投与は左橈側皮静脈に留置した21G翼付静注針(テルモ株式会社)を介して輸液ポンプを用いて静脈内投与した。
【0039】
(3)カテーテルの留置
動脈圧測定のため、右大腿動脈に7Fr.イントロデューサーを留置し、このイントロデューサーを介し、マイクロチップ圧トランスデューサー(MILLAR INSTRUMENTS社)を大腿動脈に留置した。検体投与のため、右大腿静脈に7Fr.イントロデューサーを留置し、このイントロデューサーを介し、5Fr.フィーディングチューブを大腿静脈に留置した。
肺動脈圧測定のため、右総頚静脈に7Fr.イントロデューサーを留置し、このイントロデューサーを介して5Fr.サーモダイリューションカテーテル(エドワーズライフサイエンス社)を肺動脈内に留置した。
また、イントロデューサーおよびサーモダイリューションカテーテルは、血栓予防の為カテーテル内をヘパリンロックした(ヘパリンは100U/mLに生理食塩液で希釈したものを用いた)。
【0040】
(4)循環動態の測定
動脈圧は大腿動脈に留置したマイクロチップ圧トランスデューサーを、ひずみ圧力用アンプ(日本光電工業株式会社)もしくは張力用アンプ(日本光電工業株式会社)にそれぞれ接続し測定した。また、肺動脈圧はサーモダイリューションカテーテルの圧力測定ハブ(黄色チューブ)を、圧力トランスデューサー(日本光電工業株式会社)をひずみ圧力用アンプもしくは張力用アンプにそれぞれ接続し測定した。動脈圧および肺動脈圧のデータは熱書記録器(日本光電工業株式会社)にて記録した。また、これらのデータは、データ解析システムPowerLab System(ADInstruments社)を用いてパソコンに取り込んだ。この際、平均血圧および肺動脈圧は、収縮期圧から拡張期圧を減じたものを3で除したものに拡張期圧を加え算出した。
【0041】
(5)酸素運搬体Aの投与速度が与える影響
酸素運搬体A(1200mg/kg)を120、24、6、1.2(mg/kg)/minの各投与速度における循環動態(血圧および肺動脈圧)の変動を観察した。
120(mg/kg)/minにて投与した際には、血圧が投与前の116mmHgに対して62mmHgまで低下した(投与8分後)。また、肺動脈圧は、投与前の15mmHgに対して23mmHgまで上昇した(投与4分後)(図1(A))。
24(mg/kg)/minにて投与した際には、血圧が投与前の70mmHgに対して50mmHgまで低下した(投与7分後)。また、肺動脈圧は、投与前の13mmHgに対して投与7分後には15mmHgを示し、投与中に20mmHgまで上昇した(図1(B))。
6(mg/kg)/minにて投与した際には、血圧が投与前の70mmHgに対して40mmHgまで低下した(投与8分後)。また、肺動脈圧は投与前の15mmHgに対して投与中に19mmHgまで上昇した(図1(C))。
一方、1.2(mg/kg)/minにて投与した際には、300mg/kgを投与する間中、血圧および肺動脈圧の変動は認められなかった(図1(D))。
これらの結果は、酸素運搬体による麻酔下イヌの一過的な循環動態の変動を起こす投与速度の閾値が1.2〜6(mg/kg)/minの範囲にあることを示す。
【0042】
(実施例2)
イヌ循環動態に対する酸素運搬体Bの投与速度が与える影響
(1)酸素運搬体Bの調製
水素添加大豆ホスファチジルコリン192.4g、コレステロール94.2g、ステアリン酸49.4gからなる均一混合脂質に水336.0gを加えて、85℃で30分間加温して水和膨潤均一混合脂質を調整した。
期限切れ濃厚赤血球製剤からヘモグロビンを精製・濃縮し、イノシトールヘキサリン酸をヘモグロビンに対して等モル添加したヘモグロビン濃度41.6w/w%の濃厚高純度ヘモグロビン溶液を調整した。
【0043】
前記水和膨潤均一混合脂質672gに、前記濃厚高純度ヘモグロビン溶液2,400gを添加して減圧処理を行った後に、プレ乳化物とした。このプレ乳化物を45℃以下の温度で、高速攪拌法により乳化して、ヘモグロビン含有リポソーム混合乳化液を得た。
前記乳化液の粒子径の制御を行った後に、リポソームに内封されなかったヘモグロビンおよびイノシトールヘキサリン酸を除去・濃縮し、ヘモグロビン含有リポソームの生理食塩液による懸濁液を得た。
【0044】
このヘモグロビン含有リポソームの生理食塩液による懸濁液に、PEG5000−DSPEを生理食塩水に溶解させたPEG結合リン脂質水溶液を添加して、ヘモグロビン含有リポソームおよびPEG結合リン脂質を含有し、生理食塩液による懸濁液中のヘモグロビン濃度が6.0w/v%であり、PEG結合リン脂質濃度がリポソ−ム構成膜成分の0.4w/v%である様に調製した後に、PEG結合リン脂質の表面固定化処理したものを酸素運搬体Bとした。
【0045】
(2)酸素運搬体Bの投与速度が与える影響
実施例1に記載した方法にて、イヌにおける麻酔管理、カテーテル留置および循環動態の測定を行った。
酸素運搬体B(60mg/kg)を2.4あるいは1.2(mg/kg)/minの投与速度にて投与した際には、両条件共に血圧の変化は見られなかった。一方、2.4(mg/kg)/minにて投与した際には、一過性の肺動脈圧の上昇が認められた(図2)。これらの結果は、酸素運搬体による麻酔下イヌの一過的な循環動態の変動を起こす閾値は約2(mg/kg)/minであることを示す。
【0046】
(実施例3)
イヌ循環動態に対する酸素運搬体Bの低速から高速へと切り替えた際の影響
実施例1に記載した方法にて、イヌにおける麻酔管理、カテーテル留置および循環動態の測定を行った。
酸素運搬体B(30mg/kg)を0.18(mg/kg)/minの投与速度で15分間投与した後に、6(mg/kg)/minに速度を一気に速くして投与した際には、循環動態の変動は認められなかった(図3)。
【0047】
(実施例4)
イヌ循環動態に対する酸素運搬体Bの段階的速度切り替えが与える影響
実施例1に記載した方法にて、イヌにおける麻酔管理、カテーテル留置および循環動態の測定を行った。
酸素運搬体B(60mg/kg)を0.12(mg/kg)/minの投与速度にて投与を開始し、その後15分間隔で0.24、1.2および6(mg/kg)/minの順に投与速度を速めて投与した際には、循環動態の変動は認められなかった(図4)。
【0048】
(実施例5)
ラット中大脳動脈閉塞−再開通モデルに対する脳梗塞巣進展抑制作用
(1)ラット中大脳動脈閉塞−再開通モデルの作製
ラット(Crl:CD (SD)、日本チャールス・リバー株式会社、雄性)を2%イソフルラン(麻酔背景:空気)吸入麻酔下にて、仰臥位に固定した。右総頸動脈、外頸動脈および内頸動脈を露出し、中大脳動脈(MCA)を閉塞するため総頸動脈および外頸動脈を縫合糸で結紮した。予めシリコン(ヘレウスクルツァージャパン株式会社)コーティングし、19mmの長さに切断した4号のナイロン糸(栓子)を外頸動脈と内頸動脈の分岐部より挿入し、MCAを閉塞した。MCA閉塞30分後に閉塞側と対側前肢の屈曲を確認した。上述の麻酔条件下でMCA閉塞2時間後に栓子を抜き、MCAの血流を再開させた。
【0049】
(2)酸素運搬体の有効性評価
MCA閉塞30分後に閉塞側と対側前肢の屈曲を確認後、屈曲が認められた動物に上述の酸素運搬体A(12、60、300あるいは600mg/kg)あるいは生理食塩液を静脈内投与した。
MCA閉塞24時間後に動物を断頭し、全脳を素早く摘出して厚さ2mmの脳切片を作製した。脳切片はBregma前方4mm、Bregma前方2mm、Bregma上、Bregma後方2mm、Bregma後方4mmおよびBregma後方6mmの冠状面が得られる位置とした。
脳切片は、1w/v% 2,3,5-Triphenyltetrazolium chloride(ナカライテスク株式会社)溶液に室温で浸漬・染色し写真撮影を行った。得られた写真に画像解析(Adobe PhotoshopTM 3.0J,Adobe Systems Incorporated;Color Count 0.3b,K&M Software Corporation)を施し、梗塞巣面積を実測値で求め、その値よりBregma前方4mm〜Bregma後方6mmの体積を次式より算出した。
【0050】
【数1】

V:梗塞巣体積(mm
a:Bregma前方4mm断面上の梗塞巣面積(mm
b:Bregma前方2mm断面上の梗塞巣面積(mm
c:Bregma断面上の梗塞巣面積(mm
d:Bregma後方2mm断面上の梗塞巣面積(mm
e:Bregma後方4mm断面上の梗塞巣面積(mm
f:Bregma後方6mm断面上の梗塞巣面積(mm
【0051】
酸素運搬体Bが投与されたラットでは梗塞巣体積は、対照となる生理食塩液を投与したラットと比較して12mg/kgから用量依存的に小さい値を示し、60mg/kg以上の投与によって統計学的に有意に低値を示した(図5)。
【0052】
(実施例6)
ラット中大脳動脈永久閉塞モデルに対する脳梗塞巣進展抑制作用の対する投与時間の影響
実施例5と同様の方法でラットのMCAを閉塞させた。MCA閉塞30分後に閉塞側と対側前肢の屈曲を確認後、屈曲が認められた動物に実施例1に記載した酸素運搬体B(300mg/kg)あるいは生理食塩液を静脈内投与した。
一方、投与完了時間による効果の違いを確認するために、屈曲を確認してから1.5、3.5あるいは5.5時間後(それぞれMCA閉塞2、4、あるいは6時間後)に酸素運搬体Bを投与した。MCA閉塞24時間後に動物を断頭し、全脳を素早く摘出して実施例5と同様の方法にて梗塞巣体積を計測した。
【0053】
まず、酸素運搬体AはMCAの永久閉塞モデルに対しても脳梗塞巣進展抑制作用を示した。また、その効果は時間依存的に弱くなったが、屈曲確認5.5時間後(MCA閉塞6時間後)でも抑制効果を示した(図6)。これらの結果は、酸素運搬体Bは遅くとも5.5時間以内に投与を完了すれば効果を発揮し、より早く投与を完了するほどその効果が強まることを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球よりも小さい平均粒子径の粒子状担体に内封されたヘムタンパク質を含む液状製剤であって、投与開始から15分間の2.4(mg/kg)/min未満の速度での初期投与と、その後の2.4(mg/kg)/min以上の速度での投与とにより、静脈内投与されることを特徴とする、前記ヘムタンパク質を有効成分とする虚血性脳卒中治療薬。
【請求項2】
前記粒子状担体の平均粒子径が、1μm以下である請求項1に記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項3】
前記製剤のヘムタンパク質濃度が、0.5w/v%以上である請求項1または2に記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項4】
前記投与速度が、段階的あるいは一気に速められる請求項1〜3のいずれかに記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項5】
前記15分間経過後の速度が、初期投与速度の1.2倍以上である請求項1〜4のいずれかに記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項6】
1回の用量が12mg/kg以上である請求項1〜5のいずれかに記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項7】
前記用量が12〜2400mg/kgである請求項6に記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項8】
投与回数が1回である請求項1〜7のいずれかに記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項9】
全投与時間が90分以内である請求項1〜8のいずれかに記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項10】
前記ヘムタンパク質が人工および/または天然由来のヘモグロビンである請求項1〜9のいずれかに記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項11】
前記粒子状担体がリポソームである請求項1〜10のいずれかに記載の虚血性脳卒中治療薬。
【請求項12】
前記液状製剤が、ヘモグロビン含有リポソーム製剤である請求項1〜11のいずれかに記載の虚血性脳卒中治療薬。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−103883(P2013−103883A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246536(P2011−246536)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】