説明

虹彩認証用撮像装置、及び虹彩認証用撮像方法

【課題】鮮明で且つ精度の高い画像を取得することができ、個人認証において十分に信頼のある虹彩情報を取得することのできる虹彩認証用撮像装置を提供する。
【解決手段】撮像装置8の設置点をA、照明装置35の設置点をB、照明装置35から出射され目の角膜34で反射し撮像装置8に入射する光が当該角膜34上で反射する点をPとしたとき、点Bを点Aに対して下記条件式(1)または(2)を満たすよう設置する。
θ<2(asin(p1/r)+atan(p1/L))……(1)
θ>2(asin(p2/r)+atan(p2/L))……(2)
ただし、θは角APB、rは角膜34を表す仮想円の半径、p1は瞳孔3の半径、p2は虹彩2の半径、Lは点Aを通り撮像装置8の光軸に垂直な平面と、この平面に点Pから下ろした垂線との交点をSとしたときの距離PS(撮影距離)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各個人によって独自の模様になっている目の虹彩をセキュリティー等における認証情報として活用すべく、光源からの光で照明された目を撮像素子で撮影する虹彩認証用撮像装置、及び虹彩認証用撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティー等の観点から種々の個人認証システムが提供されている。その一つとして、各個人によって固有の特性を有する目の虹彩を確認情報として活用する虹彩認証システムがある。
【0003】
かかる虹彩認証システムは、個人の目をCCD等の撮像素子で撮影し、その撮影によって得られた画像から虹彩に関する情報(画像)を抽出して既に登録済みの虹彩情報と比較照合することにより、個人認証を行うようになっている。
【0004】
かかる虹彩認証システムは、上述の如く、セキュリティー等の観点から信頼性が要求されるため、鮮明で精度のよい画像を取得すべく、目の全体に近赤外光などの照明光を照射した状態で、目の全体を撮影し、これによって得られた画像から虹彩情報を取得するようにしたものがある。(例えば、特許文献1参照を参照)。
【特許文献1】特開2003−36434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された虹彩認証システムでは、虹彩に照射された照明光がこの虹彩で反射し、その反射光が撮像装置に入射することにより、虹彩の画像が撮影されるようになっている。このとき、照明光は、虹彩を覆う半球形状の透明な角膜を透過することとなる。
【0006】
しかしながら、照明光は角膜を完全に透過するわけではなく、一部が角膜の表面で反射する。このように角膜で反射した照明光が撮像装置に入射すると、照明用の光源(光源の光)が目の画像上に白い点として映り込んだ状態で、撮像素子に撮影される(いわゆるキャッチライト現象)。このように映り込んだ光源の光が虹彩の画像上に差しかかると、その画像における虹彩は、模様が欠落した状態になってしまい、撮影した画像から信頼性の高い虹彩情報を取得できないといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、斯かる実情に鑑み、鮮明で且つ精度の高い画像を取得することができ、個人認証において十分に信頼のある虹彩情報を取得することのできる虹彩認証用撮像装置、及び虹彩認証用撮像方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る虹彩認証用撮像装置は、照明装置と、該照明装置からの光が照射された状態で目を撮影する撮像装置とを備え、撮像装置の光軸と目の中心とを略一致させた状態で目を撮影する虹彩認証用撮像装置であって、前記撮像装置の設置点をA、前記照明装置の設置点をB、照明装置から出射され目の角膜で反射し撮像装置に入射する光が当該角膜上で反射する点をPとしたとき、前記照明装置の設置点Bを、前記撮像装置の設置点Aに対して下記条件式(1)もしくは(2)を満たすように設置したことを特徴としている。
θ<2(asin(p1/r)+atan(p1/L))……(1)
θ>2(asin(p2/r)+atan(p2/L))……(2)
ただし、
θ:角APB
r:目の角膜を表す仮想円の半径
1:目の瞳孔の半径
2:目の虹彩の半径
L:点Aを通り撮像装置の光軸に垂直な平面と、この平面に点Pから下ろした垂線との交点をSとしたときの距離PS(撮影距離)
【0009】
かかる虹彩認証用撮像装置によれば、虹彩認証の際、照明装置の照明光の映り込みが虹彩の画像上にさしかかり、虹彩情報が欠落し、虹彩認証ができなくなるという現象を防止することができる。以下、その根拠を、図6および図7を参照して説明する。
【0010】
そもそも、照明装置35からの照明光が虹彩2の画像上に映り込むという現象のメカニズムは次のように説明できる。図6に示すように、角膜34上で反射し撮像装置8に入射する照明光は、照明装置35の設置点Bから出射され、角膜34上の点Pで反射したのち、撮像装置8の設置点Aに到達する。このとき、照明光の映り込みは、この点Pの位置に発生することとなる。
【0011】
したがって、虹彩2の内周上の点Q1から撮像装置8の光軸に平行な直線と角膜34を表す仮想円Rとの交点をP1とし、虹彩2の外周上の点をP2としたとき、点Pが弧P12上に位置するとき、照明光の映り込みが虹彩2の画像上に位置することとなる。つまり、点Pが弧P12上に位置しないような点Bの位置を示せば、虹彩2の画像上に映り込みが発生しないような照明装置35の位置を示したことになる。以下、このような条件を満たす点Bの位置につき検証する。
【0012】
図7は、図6の各要素をx−y座標上に置いたものであり、x−y座標の原点Oに角膜34の仮想円Rの中心を置いている。このとき、撮像装置8の設置点Aはx軸上の点として表され、点Pは円R上の点として表される。そして、点Bは、点Pを通りこの点Pの法線OPを対称軸として直線PAと対象な直線上の点として表される。ここで、点Pのy座標をpとし、点Pにおける法線OPとx軸(=撮像装置8の光軸)とのなす角をθ’とすると、次式(3),(4)が成立する。
θ =2(θ’+atan(p/L))……(3)
θ’=asin(p/r) ……(4)
【0013】
(3),(4)より、次式(5)が成立する。
θ=2(asin(p/r)+atan(p/L))……(5)
【0014】
ここで、瞳孔3の半径はp1、虹彩2の半径はp2であるので、点P1、点P2の各y座標はp1,p2である。したがって、点Pが弧P12上にあるときのθの範囲は次式で表される。
2(asin(p1/r)+atan(p1/L))≦θ≦2(asin(p2/r)+atan(p2/L))……(6)
【0015】
したがって、θの値が上記数式(6)に示す範囲外、すなわち上記数式(1)もしくは(2)に示す範囲内となるように点Bを設置すると、虹彩2の画像上に照明装置35の照明光が映り込まないこととなる。具体的には、θが数式(1)を満たすとき、照明装置35の映り込みは瞳孔3内に収まり、θが数式(2)を満たすとき、照明装置35の映り込みは強膜など虹彩2の外側に位置させることができ、結果としていずれの場合も虹彩2の画像上に照明装置35の映り込みが発生しないようにできる。
【0016】
また、前記照明装置は、光源と、該光源からの光を被認証者の目に導く導光体とからなり、該導光体は、光源からの光が入射する入射部と、該入射部から入射した光を出射させる平面視環状の出射面が形成された環状の導光部とを備え、前記撮像装置は、撮影中心が前記環状の導光部の中心と略一致するように、導光部に画定された孔部を介して撮影可能に設けられていることが好ましい。このようにすれば、照明装置を撮像装置の周りにくまなく配置することができるため、照明光の照射ムラや影の発生を防止し、鮮明な虹彩の撮影が可能となる。また、撮像装置と照明装置とをユニット化できるので、汎用性に優れた虹彩認証用撮像装置を提供できる。
【0017】
また、前記光源は、閃光放電管であることが好ましい。このようにすれば、例えばLEDなどに比べてより強い発光量を得ることができるため、とくに光量の多い自然光が照射される環境下でも、鮮明な虹彩画像を取得することができる。
【0018】
また、前記光源は、調光機能を有していることが好ましい。このようにすれば、例えば、光量の多い自然光が照射される環境下では光源の光量を上げることにより、鮮明で且つ精度のよい虹彩画像を取得することができる。
【0019】
また、前記入射部に、前記光源からの光の可視光成分を遮って不可視光を通過させる可視光フィルターが設けられていることが好ましい。虹彩の撮影には必ずしも可視光は必要ないので、眩しさの原因となる可視光を遮るようにしたものである。なお、可視光フィルターは、不可視光のうちの近赤外光のみを通過させるように構成されることが好ましい。このようにすれば、虹彩模様を最も鮮明に撮影することができる。
【0020】
本発明に係る虹彩認証用撮像方法は、照明装置からの光を被認証者の目に照射し、撮像装置の光軸と目の中心とを略一致させた状態で、その目を撮像装置で撮影する虹彩認証用撮像方法において、前記撮像装置の設置点をA、前記照明装置の設置点をB、照明装置から出射され目の角膜で反射し撮像装置に入射する光が当該角膜上で反射する点をPとしたとき、前記照明装置の設置点Bを、前記撮像装置の設置点Aに対して下記条件式(1)もしくは(2)を満たすように設置したことを特徴としている。
θ<2(asin(p1/r)+atan(p1/L))……(1)
θ>2(asin(p2/r)+atan(p2/L))……(2)
ただし、
θ:角APB
r:目の角膜を表す仮想円の半径
1:目の瞳孔の半径
2:目の虹彩の半径
L:点Aを通り撮像装置の光軸に垂直な平面と、この平面に点Pから下ろした垂線との交点をSとしたときの距離PS(撮影距離)
【0021】
かかる虹彩認証用撮像方法によれば、虹彩認証の際、照明装置の照明光の映り込みが虹彩の画像上にさしかかり、虹彩情報が欠落し、虹彩認証ができなくなるという現象を防止することができる。なお、上記数式(1),(2)の根拠は、既に述べた虹彩認証用撮像装置の場合と同様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る虹彩認証用撮像装置によれば、鮮明で且つ精度の高い画像を取得することができ、個人認証において十分に信頼のある虹彩情報を取得することができるという優れた効果を奏し得る。
【0023】
本発明に係る虹彩認証用撮像方法によれば、鮮明で且つ精度の高い画像を取得することができ、個人認証において十分に信頼のある虹彩情報を取得することができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の虹彩認証用撮像装置、及び虹彩認証用撮像方法に係る一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0025】
本実施形態に係る虹彩認証用撮像装置は、目の虹彩を認証情報として用い、予め登録されている虹彩情報とを比較した上で、被認証者が登録済みの個人であるか否かを判断して個人認証を行う認証システムの一構成要素である。この虹彩認証用撮像装置の説明に先立ち、この虹彩認証用撮像装置で撮影する目の構成について説明すると、図1に示すように、各個人の目1は、略環状の領域からなる虹彩2と、該虹彩2に内接した略円形領域からなる瞳孔3と、虹彩2に外接すると共に、まぶた4に包囲された強膜5(白目)とが形成されており、虹彩2は、上述の如く、各個人によって全く異なる模様が形成されている。
【0026】
本実施形態に係る虹彩認証用撮像装置は、図2及び図3に示す如く、照明装置35と、撮像装置8と、これら照明装置35と撮像装置8とを内装するケーシング9とで構成される。そして照明装置35は、光源6と、光源6からの光を被認証者に向けて導く導光体7とで構成される。
【0027】
光源6は、周知の閃光放電管である。本実施形態に係る閃光放電管6は、直管状のガラスバルブ10の両端部にそれぞれ主電極12a、12bが封着され、これら主電極12a、12bが軸方向に沿って外部に突出した構成からなる。該閃光放電管6は、主コンデンサ(不図示)に充電された充電電荷がガラスバルブ10内で陰極と陽極間、すなわち主電極12a、12b間で放電されることにより発光する。閃光放電管6は、周囲の環境に応じて調光可能となっており、例えば、光量の多い自然光が照射される環境下では光源の光量を上げられるようになっている。このような調光は、手動で任意に設定できるようにしてもよいし、光センサ(不図示)を用いて自動的に設定できるようにしてもよい。
【0028】
導光体7は、透光性の部材で構成されており、環状の導光部13と、該導光部13の外周の一部に形成され、閃光放電管6からの光を入射させる入射部14とを備えている。導光部13は、一端面に平面視環状の領域からなる出射面15を備えており、閃光放電管6からの光が入射部14を介して外周面から入射し、その光が導光部13内の略全域に到達して出射面15から出射するように構成されている。入射部14は、導光部13と一体的に形成されており、閃光放電管6からの光が導光部13の外周面から導光部13内部に入射するように構成されている。この入射部14には、閃光放電管6からの光のうち、可視光を遮って不可視光のみを抽出する可視光フィルター17が設けられている。本実施形態に係る可視光フィルター17は、虹彩2の模様を鮮明に映し出すのに有効な近赤外光のみを透過させるように構成されている。
【0029】
撮像装置8は、被認証者(目1)を撮影するためのCCDなどからなる固体撮像素子(不図示)を内装する撮像部18と、撮像部18の前面側に配置され光学系レンズ(不図示)を内装するレンズホルダ19とを備えている。撮像部18は、撮影した画像を被認証者の認証に活用すべく、別途設けられたコンピュータ(図示しない)に撮影した画像を画像データとして伝送可能に接続されている。レンズホルダ19は、導光部13から所定距離離れて位置する被認証者(目1)の像を、撮像部18内の固体撮像素子の撮影面(不図示)で結像できるように焦点が設定されている。
【0030】
上記構成の撮像装置8は、撮像部18の光軸が導光体7の中心を通り、かつ、導光体7の出射円15に垂直となるように、導光部13の内周面に画定された孔部20に内装されており、撮像装置8が、この孔部20を介して被認証者の目1を撮影できるように配置されている。
【0031】
ケーシング9は、閃光放電管6を内装する光源内装部21と、導光体7を内装する導光体内装部22とで構成されている。光源内装部21は、閃光放電管6(ガラスバルブ10)の外周面の一部を除いて包囲するように形成されている。つまり、光源内装部21は、反射笠の役目を担い、閃光放電管6が発光させる光の殆どが入射部14に向くように閃光放電管6を包囲している。
【0032】
導光体内装部22は、導光体7の入射部14を除いた外周面及び導光体7の内周面を覆うと共に、導光体7の他端面を覆うように形成されており、入射部14を介して導光部13に入射した光が導光部13の出射面15以外の外周面、内周面及び他端面から出射しないように構成されている。
【0033】
なお、図示しないが、本実施形態においては、撮像装置8で撮影した画像を表示させる確認用ディスプレイが、虹彩認証用撮像装置に隣接して設けられており、被認証者が撮影した画像を認識できるようになっている。
【0034】
本実施形態に係る虹彩認証用撮像装置は以上の構成からなり、次に、この虹彩認証用撮像装置を用いた虹彩2の撮影手順について説明する。
【0035】
まず、導光部13(出射面15)から所定距離おいた位置で撮像装置8の光軸上に被認証者の目1の中心が位置するように、以下に記載するような周知のガイド手段を用いる(例えば特開2003−108983号公報)。
【0036】
すなわち、まず、被認証者が虹彩認証用撮像装置に向き、該虹彩認証用撮像装置を仮起動させる。すると、この虹彩認証用撮像装置は、連続的に被認証者をプレ撮影し、その撮影された画像が確認用ディスプレイに表示される。コンピュータ内には、基本となる目1を模したガイドキャラクター画像が記憶されており、そのガイドキャラクター画像が撮影された画像に重ね合わされて確認用ディスプレイに表示される。被認証者は、この確認用ディスプレイの表示を確認しながら、撮影された画像がガイドキャラクター画像と重なる位置に来るように位置合わせを行う。画像内の目1の領域とガイドキャラクター画像とが略一致したとき、認証システムを本起動させる。この瞬間に閃光放電管6が発光する。そうすると、図4に示すように、閃光放電管6からの光が導光体7を介して被認証者の目1の略全域に照射され、この状態で撮像装置8が目1の略全域を撮影する。なお、被認証者が確認用ディスプレイに目線を置いた瞬間、撮影された目1の画像がガイドキャラクター画像と大きくずれてしまわないように、確認用ディスプレイと虹彩認証用撮像装置とは互いに近接して配置する。
【0037】
そして、撮影された目1の画像は、画像データとしてコンピュータに伝送され、その目1の画像から虹彩2の領域についての情報のみが抽出されることになる。この虹彩2の領域の抽出については、種々の方法を採用することができるが、例えば、濃淡についての閾値を予め設定しておき、その閾値を基に撮影した画像の濃淡を識別して虹彩2の領域のみを抽出するようにしてもよい。
【0038】
そして、データベースに予め登録されている虹彩情報(虹彩2の画像)と、抽出された虹彩情報(虹彩2の画像)とを比較し、データベース内に適合する虹彩情報があると被認証者の個人認証が完了する。
【0039】
ところで、既に述べたように、照明装置35からの光は、虹彩2を覆う透明の角膜34を完全に透過せず、一部が角膜34の表面で反射して目1の画像上に白い点として映り込み、撮像装置8に撮影される(いわゆるキャッチライト現象)。本実施の形態に係る虹彩認証用撮像装置では、このような照明装置35の映り込みが虹彩の画像上に差しかからないように、撮像装置8と照明装置35との位置関係について工夫をしている。すなわち、撮像装置8の設置点をA、照明装置35の設置点をB、照明装置35から出射され目の角膜34で反射し撮像装置8に入射する光が当該角膜34上で反射する点をPとしたとき、照明装置35の設置点Bを、撮像装置8の設置点Aに対して下記条件式(1)もしくは(2)を満たすように設置している。
θ<2(asin(p1/r)+atan(p1/L))……(1)
θ>2(asin(p2/r)+atan(p2/L))……(2)
ただし、
θ:角APB
r:目1の角膜34を表す仮想円の半径
1:目1の瞳孔3の半径
2:目1の虹彩2の半径
L:点Aを通り撮像装置8の光軸に垂直な平面と、この平面に点Pから下ろした垂線との交点をSとしたときの距離PS(撮影距離)
【0040】
このような設定にすることにより、照明装置35の映り込みが虹彩2の画像上に差しかからなくなる根拠を図5から図7を用いて説明する。
【0041】
まず、前記した目1の構造を具体的に説明する。図5に示すように、目1は、略球状のガラス体32と、ガラス体32の正面に形成される水晶体33と、水晶体33の正面に形成される略環状の虹彩2と、水晶体33および虹彩2を正面から覆う略半球面形状の透明な角膜34と、角膜34の外周縁と連続して形成されガラス体32の球面部分を覆う強膜5とで形成されている。虹彩2の中心孔は瞳孔3であり、目1は、この瞳孔3の開き具合を調節することにより、水晶体33に入射する光の量を調節するようになっている。
【0042】
このような目1の構造より、照明装置35からの照明光が虹彩2の画像上に映り込むという現象のメカニズムは次のように説明できる。図6に示すように、角膜34上で反射し撮像装置8に入射する照明光は、照明装置35の設置点Bから出射され、角膜34上の点Pで反射したのち、撮像装置8の設置点Aに到達する。このとき、照明光の映り込みは、この点Pの位置に発生することとなる。
【0043】
したがって、虹彩2の内周上の点Q1から撮像装置8の光軸に平行な直線と角膜34を表す仮想円Rとの交点をP1とし、虹彩2の外周上の点をP2とすると、点Pが弧P12上に位置するとき、照明光の映り込みが虹彩2の画像上に位置することとなる。つまり、点Pが弧P12上に位置しないような点Bの位置を示せば、虹彩2の画像上に映り込みが発生しないような照明装置35の位置を示したことになる。以下、このような条件を満たす点Bの位置につき検証する。
【0044】
図7は、図6の各要素をx−y座標上に置いたものであり、x−y座標の原点Oに角膜34の仮想円Rの中心を置いている。このとき、撮像装置8の設置点Aはx軸上の点として表され、点Pは円R上の点として表される。そして、点Bは、点Pを通りこの点Pの法線OPを対称軸として直線PAと対象な直線上の点として表される。ここで、点Pのy座標をpとし、点Pにおける法線OPとx軸(=撮像装置8の光軸)とのなす角をθ’とすると、次式(3),(4)が成立する。
θ =2(θ’+atan(p/L))……(3)
θ’=asin(p/r) ……(4)
【0045】
(3),(4)より、次式(5)が成立する。
θ=2(asin(p/r)+atan(p/L))……(5)
ここで、瞳孔3の半径はp1、虹彩2の半径はp2であるので、点P1、点P2の各y座標はp1,p2である。したがって、点Pが弧P12上にあるときのθの範囲は次式で表される。
2(asin(p1/r)+atan(p1/L))≦θ≦2(asin(p2/r)+atan(p2/L))……(6)
【0046】
したがって、θの値が上記数式(6)に示す範囲外、すなわち上記数式(1)もしくは(2)に示す範囲内となるように点Bを設置すると、虹彩2の画像上に照明装置35の照明光が映り込まないこととなる。具体的には、θが数式(1)を満たすとき、照明装置35の映り込みは瞳孔3内に収まり、θが数式(2)を満たすとき、照明装置35の映り込みは強膜など虹彩2の外側に位置させることができ、結果としていずれの場合も虹彩2の画像上に照明装置35の映り込みが発生しないようにできる。
【0047】
ところで、瞳孔3の半径は最も絞り込んだ状態で約1.5mm、虹彩2の半径は約5mm、角膜34の半径は約6mmであることが分かっている。そこで、上記条件式(1),(2)において、p1=1.5,p2=5.0,r=6.0とし、さらにL=30mm,40mm,…とLにいろいろな数値を代入しθの値を計算した。結果を表1に示す(ただし表中の数値の単位は全てラジアン)。
【0048】
【表1】

表1より、例えば、点Pが点P1上にあるとき、L=30mmでは、θ=0.605277となる。このとき、例えば撮像装置35の設置点Aを通りx軸に垂直な平面上に照明装置の設置点Bを置くものとして計算すると、距離AB≒18.6mmとなる。すなわち、照明装置35を撮像装置8から18.6mm未満の距離に置けば、映り込みを瞳孔2内に収めることができ、虹彩2への映り込みが生じなくなる。
【0049】
以上より、照明装置35の設置位置を、撮像装置8の設置位置に対して上記条件式(1)もしくは(2)を満たすように設置することにより、照明装置35の映り込みが虹彩2の画像上に映り込まなくなることが示された。すなわち、本実施の形態の虹彩認証用撮像装置において、撮像装置8の設置位置に対して、照明装置35の環状の導光体の光軸方向突出具合および径方向寸法につき、上記条件式(1)もしくは(2)の範囲内に設定することにより、照明装置35の映り込みが虹彩2の画像上に映り込まなくなると言える。
【0050】
なお、以上の説明は、図7において、全ての要素をx−y座標の第1象限上に置いて説明したが、これら各要素を、x軸を中心に回転させて考察することにより、現実の三次元空間上の位置関係を示したことになる。
【0051】
また、目1の各部位のサイズは人により多少異なる場合があるため、上記条件を満たしていても、照明装置35の映り込みが虹彩2の画像をわずかに欠落させてしまうことが起こりうる。しかし、従来例のように、特別な工夫を施さない場合に比べて虹彩2の情報が欠落し認証不可能となる確率は大幅に減少することは確実である。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る虹彩認証用撮像装置は、照明装置35の出射面としての環状の導光体の中心に撮像装置8を設置し、撮像装置8と導光体との位置関係につき、前記数式(1),(2)を満たすように設定している。したがって、虹彩認証の際、照明装置35の映り込みによる虹彩2の画像が欠落することなく、確実な虹彩認証が可能になる。また、照明装置35を撮像装置8の周りにくまなく配置することができるため、照明光の照射ムラや影の発生を防止し、鮮明な虹彩の撮影が可能となる。また、撮像装置8と照明装置35とをユニット化できるので、汎用性に優れた虹彩認証用撮像装置を提供できる。
【0053】
また、光源として閃光放電管6を用いているので、例えばLEDなどに比べてより強い発光量を得ることができるため、とくに光量の多い自然光が照射される環境下でも、鮮明な虹彩画像を取得することができる。
【0054】
また、閃光放電管6は調光機能を有しているので、例えば、光量の多い自然光が照射される環境下では光源の光量を上げることにより、鮮明で且つ精度のよい虹彩画像を取得することができる。
【0055】
また、入射部14に、近赤外光のみを通過させる可視光フィルター17を設けているので、虹彩2を鮮明に撮影できるとともに、眩しさの原因となる可視光を遮り使いやすくなる。
【0056】
以上により、この虹彩認証用撮像装置は、鮮明で且つ精度の高い画像を取得することができ、セキュリティー等の個人認証に対して十分な信頼性のある虹彩情報を取得することができる。
【0057】
尚、本発明の虹彩認証用撮像装置、及び虹彩認証用撮像方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0058】
上記実施形態において、導光体7の入射部14に可視光フィルター17を設け、導光体7から近赤外光のみを照射するようにしたが、これに限定されず、可視光フィルター17を近赤外光のみならず他の波長を含む不可視光を通過させるように構成したり、可視フィルター17を設けずに可視光を被認証者の目に向けて照射するようにしたりしても勿論よい。但し、眩しさによる不快感がなく、しかも鮮明に虹彩2を撮影するべく、可視光フィルター17を設けることが好ましい。
【0059】
また、上記実施形態において、光源として閃光放電管6を用いたが、これに限定されず、例えばLEDなど他の光源を使用することができる。但し、虹彩2を撮影する上で、十分な光量を得るには、閃光放電管6を使用することが最も好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明にかかる虹彩認証用撮像装置、及び虹彩認証用撮像方法は、鮮明で且つ精度の高い画像を取得することができ、個人認証において十分に信頼のある虹彩情報を取得することができるという効果を有し、各個人によって独自に模様になっている目の虹彩をセキュリティー等における認証情報として活用すべく、光源からの光で照明された目を撮像素子で撮影する個人認証システム分野等において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る虹彩認証用撮像装置の撮影対象である目の正面図
【図2】同実施形態に係る虹彩認証用撮像装置の縦断面図
【図3】同実施形態に係る虹彩認証用撮像装置の一部断面を含んだ平面図
【図4】同実施形態に係る虹彩認証用撮像装置の使用状態のイメージ図
【図5】同実施形態に係る虹彩認証用撮像装置の撮影対象である目の縦断面図
【図6】目と撮像装置と照明装置との位置関係を示す縦断面図
【図7】図6における角膜の仮想円の中心を原点とするx−y平面図
【符号の説明】
【0062】
1 目
2 虹彩
3 瞳孔
4 まぶた
5 強膜(白目)
6 閃光放電管(光源)
7 導光体
8 撮像装置
9 ケーシング
10 ガラスバルブ
12a,12b 主電極
13 導光部
14 入射部
15 出射面
17 可視光フィルター
18 撮像部
19 レンズホルダ
20 孔部
21 光源内装部
22 導光体内装部
31 眼球
32 ガラス体
33 水晶体
34 角膜
35 照明装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明装置と、該照明装置からの光が照射された状態で目を撮影する撮像装置とを備え、撮像装置の光軸と目の中心とを略一致させた状態で目を撮影する虹彩認証用撮像装置であって、
前記撮像装置の設置点をA、前記照明装置の設置点をB、照明装置から出射され目の角膜で反射し撮像装置に入射する光が当該角膜上で反射する点をPとしたとき、前記照明装置の設置点Bを、前記撮像装置の設置点Aに対して下記条件式(1)もしくは(2)を満たすように設置したことを特徴とする虹彩認証用撮像装置。
θ<2(asin(p1/r)+atan(p1/L))……(1)
θ>2(asin(p2/r)+atan(p2/L))……(2)
ただし、
θ:角APB
r:目の角膜を表す仮想円の半径
1:目の瞳孔の半径
2:目の虹彩の半径
L:点Aを通り撮像装置の光軸に垂直な平面と、この平面に点Pから下ろした垂線との交点をSとしたときの距離PS(撮影距離)
【請求項2】
前記照明装置は、光源と、該光源からの光を被認証者の目に導く導光体とからなり、該導光体は、光源からの光が入射する入射部と、該入射部から入射した光を出射させる平面視環状の出射面が形成された環状の導光部とを備え、
前記撮像装置は、撮影中心が前記環状の導光部の中心と略一致するように、導光部に画定された孔部を介して撮影可能に設けられている請求項1に記載の虹彩認証用撮像装置。
【請求項3】
前記光源は、閃光放電管である請求項1または2に記載の虹彩認証用撮像装置。
【請求項4】
前記光源は、調光機能を有している請求項1から3の何れか一つに記載の虹彩認証用撮像装置。
【請求項5】
前記入射部に、前記光源からの光の可視光成分を遮って不可視光を通過させる可視光フィルターが設けられている請求項1から4の何れか一つに記載の虹彩認証用撮像装置。
【請求項6】
照明装置からの光を被認証者の目に照射し、撮像装置の光軸と目の中心とを略一致させた状態で、その目を撮像装置で撮影する虹彩認証用撮像方法において、
前記撮像装置の設置点をA、前記照明装置の設置点をB、照明装置から出射され目の角膜で反射し撮像装置に入射する光が当該角膜上で反射する点をPとしたとき、前記照明装置の設置点Bを、前記撮像装置の設置点Aに対して下記条件式(1)もしくは(2)を満たすように設置したことを特徴とする虹彩認証用撮像方法。
θ<2(asin(p1/r)+atan(p1/L))……(1)
θ>2(asin(p2/r)+atan(p2/L))……(2)
ただし、
θ:角APB
r:目の角膜を表す仮想円の半径
1:目の瞳孔の半径
2:目の虹彩の半径
L:点Aを通り撮像装置の光軸に垂直な平面と、この平面に点Pから下ろした垂線との交点をSとしたときの距離PS(撮影距離)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−31078(P2006−31078A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204396(P2004−204396)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】