説明

蛋白質の酸化的分解の予防のための組成物および方法

本発明は、蛋白質内の芳香族アミノ酸残基の酸化を妨げることができる1以上の化合物と組合せて、蛋白質および遊離メチオニンを含む医薬製剤に関する。より具体的には、本発明は、酸化感受性治療剤の安定化された医薬的に効果的な製剤に関する。本発明は、更に、そのような治療剤の酸化を妨げる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、蛋白質の酸化的分解を予防するための安定化剤としての芳香族化合物の使用に関する。さらに詳しくは、本発明は、酸化感受性治療剤の安定化された医薬的に効果的な製剤に関する。本発明は、さらに、そのような治療剤の酸化を阻害する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質は、精製および貯蔵の間に種々の程度の分解を受ける。酸化は蛋白質の主な分解経路の1つであって、蛋白質の安定性および力価に対して破壊的な作用を有する。酸化的反応はアミノ酸残基の破壊、ペプチド結合の加水分解を引き起こすため、蛋白質の三次構造の変化および蛋白質凝集による蛋白質不安定性を引き起こす(Davies,J.Biol.Chem.262:9895−901(1987))。蛋白質製剤の酸化は、Nguyen(Formulation and Delivery of Protein and Peptides (1994)中の第4章)、Hovorka(J.Pharm Sci.90:25369(2001))およびLi(Biotech Bioengineering 48:490−500(1995))によってレビューされている。
【0003】
蛋白質酸化の原因
酸化は多くのさまざまな相互に連続した経路を介して起こり、高温、酸素濃度、水素イオン濃度(pH)、および遷移金属、過酸化物および光への暴露を含めた種々の引き金となる条件によって触媒される。典型的には、蛋白質の酸化的分解を引き起こす重要な因子は酸素、活性酸素種および金属への暴露である。ある種の賦形剤は、蛋白質凝集に対する保護を供するために医薬組成物中に処方されるが、このような薬剤は活性酸素種を含有するゆえに、それらもまた酸化を増強し得る。例えば、(通常は、Tweenとして知られた)ポリソルベート80のような通常用いられる界面活性剤には痕跡量の過酸化物が混入しており、これは、さらに、界面活性剤の酸化を引き起こして、低濃度の金属の存在下でより大量の活性酸素種(酸素ラジカル)を生じさせかねない(Ha et al.,J Pharm Sci 91:2252−2264(2002);Harmon et al.,J Pharm Sci 95:2014−2028(2006))。酸素ラジカルおよび金属の組合せは、それにより、酸化および、かくして、界面活性剤で処方された蛋白質の分解についての触媒的環境を供する。液体または凍結乾燥製剤の蛋白質の酸化もまた、ポリソルベート中の過酸化物、またはポリエチレングリコール(PEG)のような他の処方賦形剤、および鉄または銅のような痕跡量の金属が引き金となることが示されている。加えて、薬剤は、通常、便宜な貯蔵および適用のために低密度ポリエチレン(LDPE)またはポリプロピレンで作成されたプラスチック容器中にパッケージされる。しかしながら、これらのプラスチック容器は容易に酸素に対して透過性を示す。酸素は活性酸素種を形成し、これは、メチオニンのメチオミンスルホキシドへの酸化のような、医薬品用蛋白質中の酸化感受性残基の迅速な酸化を引き起こす(Manning et al.,Pharmaceutical Research,Vol.6,No.11(1989))。
【0004】
感受性の順番において、酸化に対して特に弱いのはシステイン(Cys)、メチオニン(Met)、トリプトファン(Trp)、ヒスチジン(His)、およびチロシン(Tyr)残基の側鎖である。酸化に対するこれらのアミノ酸残基の感受性は、隣接する二重結合への非局在化によって安定化される芳香族環で形成されたアダクト種の結果である。Cys中のチオール基は最も反応性を示す官能基である。なぜならば、チオール基はラジカルによって容易な水素引抜きを供するからであり、その理由で、医薬品用蛋白質には遊離Cysを含有するものはほとんどない。
【0005】
メチオニン酸化はMetスルホキシド(Met[O])を形成する。
メチオニン酸化はMetスルホキシド(Met[O])および、苛酷な条件下では、スルホンを形成する。以下の例はMet酸化を呈する医薬品用蛋白質を表し、各研究で用いられたオキシダントが確認されている:成長ホルモン(Hを用いるhGH,Teh,L−C,J.Biol Chem 262:6472−7(1987年),Asc/Cu(II)/Oを用いるPearlman R,第1章,Pharmaceutical Biotechnology 第5巻(1993年),Zhao F,J.Biol Chem 272:9019−9029(1997年))、IL−2(100倍のHを用いるSasaoki K,Chem Pharm Bull 37:2160−4(1989年),ペルオキソジスルフェートを用いるCade JA,Pharm Res.18:1461−7(2001年),Tweenを用いるHa E,J Pharm Sci 91:2252−64(2002年))、小ペプチド(Li,Pharm Res 12:348−55(1995年))、レラキシン(2000倍のHを用いるNguyen TH,Pharm Res.10:1563−71(1993年)およびPharmaceutical Biotechnology 第9巻(1996年)中の第5章,Asc/Cu(II)/Oを用いるLi,Biochem 34:5762−72(1995年))、rhGCSF(Hを用いるLu HS,Arch Biochem Biophys 362:1−11(1999年),Herman AC, Pharmaceutical Biotechnology 第9巻(1996年)中の第7章,Yin,Pharm Res 21:2377−83(2004年)およびPharm Res 22:141−7(2005年))、rhVEGF(H & tBHPを用いるDuenas ET,Pharm Res.18:1455−60(2001年))、IGF−1(溶存O、Fe(III)EDTAを用いるFransson,Pharm Res 13:1252(1996年))、rhCNFおよびrhNGF(Hを用いるKnepp V,PDA J Pharm Sci Tech.50:163−171(1996年))、BDNF(Asc/Cu(II)/Oを用いるJensen JL,Pharm Res.17:190−6(2000年))、rhLeptin(tBHPおよびHを用いるLiu JL,Pharm Res.15:632−40(1998年))、アクティミューンおよびアクチバーゼ(tBHPを用いるKeck RG,Anal Biochem.236,56−62(1996年))ハーセプチン(tBHPを用いるShen FJ,Techniq.Protein Chem.VII.275−284(1996年),熱、光およびステンレス鋼を用いるLam XM,J Pharm Sci 86:1250−5(1997年))、およびPTH(Hを用いるYin et al.,Pharm Res 22:141−7(2004年),Chu et al.,Biochem 43:14139−48(2004年)およびChu et al.,J Pharm Sci 93:3096−102(2004年))、およびモノクローナル抗体(tBHP、UV照射およびオゾンを用いるWei et al.Anal Chem.79:2797−805,2007年)。過去20年間において、かなり種々のオキシダントが蛋白質の酸化を研究するのに用いられてきた。tBHPおよびHが主に用いられてきた。アスコルベートを除いて、全ては無金属のオキシダントであった。
【0006】
ヒスチジン酸化はオキソ−ヒスチジンを形成する。
Hisの酸化は、主に、オキソ−ヒスチジンを形成するが、酸化の条件に依存して、種々の他の酸化生成物も形成する。Asc/Cu(II)/Oを用いることによって、Li et al.(J Pharm Sci.85:868−72,1996年)は、レラキシンにおけるHis残基の酸化を観察した。ヒト成長ホルモンに関しては、Zhao et al.(J Biol Chem 272:9019−9029,1997年)は、同一酸化系を用いて金属−結合部位において金属−触媒酸化を刺激した場合、オキソ−ヒスチジンを観察した。Hisの酸化生成物であるアスパラギン酸およびアスパラギンもまた、Cu(II)/Hの存在下でβ−アミロイドペプチドにおいて検出された(Kowalik−Jankowska et al.,J Inorg Biochem 98(6):940−950,2004)。
【0007】
トリプトファンの酸化
トリプトファンの酸化に関しては、多数の生成物が形成される。水性溶液中のトリプトファン(Lee,J Parent Sci Tech 42:20−2(1988年))、および小ペプチドおよびリゾチウム(Simat TJ,J Agric Food Chem 46:490−8(1998年))中の、およびウシα−クリスタリン(Finley EL,Protein Sci 7:2391−7(1998年))中のトリプトファン残基の安定性の研究から、5−ヒドロキシ−トリプトファン、オキシ−インドールアラニン、キヌレニンおよびN−フォルミルキヌレニンである主な分解物が明らかに確認された。アミノ酸の酸化の他の形態と比較して、医薬品用蛋白質におけるTrpの酸化については比較的少数の論文しかない。Davies et al.(J Biol Chem.262:9902−7;1987年)は、コバルト照射から生じた酸素ラジカルによってウシ血清アルブミンを酸化し、Uchida et al.(Agric Biol Chem 53:3285−92,1989年)は、Fe(II)/EDTA/Ascでアルブミンにストレスをかけ、TrpおよびHisの選択的酸化を検出した。最近、モノクローナル抗体中のTrp酸化が、オゾンおよびUV照射によってストレスがかけられたAmgen(Yang et al.J Chrom.A.1156:174−82,2007年)およびMedImmune(Wei et al.Anal Chem.79:2797−805,2007年)によって報告され。Genentechにおいて、Trp酸化は抗VEGF、抗CD40、抗CD22およびApomab抗体において検出されている。Apomabに関しては、力価の低下はTrp酸化の程度に相関していた。
【0008】
酸化のメカニズム
前記分析に基づくと、蛋白質は図1に示されるいずれかのまたは全ての3つの分解メカニズム、ならびに光誘導性の酸化を介する酸化的攻撃に感受性であり得る。Hとの求核反応は、蛋白質生成物が、蛋白質アイソレーターにおける殺菌剤として用いられる、あるいはポリソルベート(例えば、Tween)またはポリエチレングリコールのような通常用いられる分解からのH蒸気に暴露した場合に観察される酸化反応であり得る。微量金属(鉄、銅、またはクロム)を、例えば、ステンレス鋼との接触から処方溶液にすると、HとFe(II)とのフェントン(Fenton)反応は操作可能となる。もう1つの分解メカニズムは、前記したような、分解したTweenに由来し得るアルキルペルオキシドを介する(Jaeger J,J Biochem Biophys Methods,29:77−81,1994)。
【0009】
酸化を受ける蛋白質製剤は、しばしば、蛋白質の修飾および力価の喪失をもたらす。モノクローナル抗体含有溶液のような蛋白質の酸化の結果、抗体の分解、凝集および断片化および、かくして、抗体活性の喪失をもたらし得る。他の場合においては、蛋白質製剤は酸化の後にも依然として生物学的に活性であるが、成長因子は、例えば、高レベルのメチオニンスルホキシドが存在する場合、FDAのような規制当局の標準に従った医薬使用には許容されないであろう。製剤の製造および包装時に酸素を排除するための現在の注意すべき手法は、医薬品用蛋白質の有意な酸化を予防するには効果的でないことが判明した。結果は、薬剤は、もし酸化反応が阻害できれば潜在的に有するものより有効期間が短いことである。かくして、蛋白質分解が加速しないような物理的および化学的条件を洗い出し、長時間にわたって酸化的条件に耐えることができる安定な蛋白質含有医薬組成物を提供する必要性が当該技術に存在する。従って、種々の引き金となる因子による酸化的損傷から蛋白質を保護する賦形剤を含むペプチドおよび抗体含有医薬組成物を処方することが望ましい。
【0010】
当該技術における酸化安定化剤
ポリソルベートおよびポロキサマーなどのような界面活性剤と共に、ある種のアミノ酸およびその種々の組合せが、ペプチドおよび蛋白質組成物を安定化するのに用いられてきた。例えば、Yu−Chang John Wang および Musetta A.Hansen,「Parenteral Formulations of Proteins and Peptides:Stability and Stabilizers」,Journal of Parenteral Science and Technology,42:S14,1988年の文献参照。全ての注射可能な製品のための抗酸化剤の収集情報はNeema et al.(J Pharm Sci Tech 51:166−71(1997年))によって編集されており、そこでは、亜硫酸水素塩、アスコルビン酸、ブチル化ヒドロキシルアニソール、システイン等がリストされていた。しかしながら、リストされた剤のいずれも、蛋白質中のメチオニンのみならずトリプトファンおよび他の芳香族アミノ酸残基の酸化的分解メカニズムおよび同時酸化のあらゆる領域を取り扱うのに有効なようには見えない。抗酸化剤として、遊離メチオニンが最初に米国特許第5,272,135号(Takruri,1993)において、また、米国特許出願公開第2003/0104996(A1)(Li,2003)において引用された。遊離メチオニンは:デポ−subQ Provera、Follistim AQ、Gonal−f RFF、Lutropin−αのような多数の市販の非経口製剤において見出すことができる。また、ヒスチジンは、米国特許第5,849,700号(Sorensen et al.,1998年)において抗酸化剤の可能性があるとして開示されている。Sorensen et al.は、添加剤または緩衝物質としての成長ホルモンおよびヒスチジンまたはヒスチジンの誘導体を含む薬剤が、脱アミド化、(スルホキシド濃度によって測定される)酸化、およびペプチド結合の切断に対して非常に高い安定性を示したことを開示している。蛋白質の酸化を制御することができる他の剤は金属キレート化剤(例えば、EDTA)およびフリー・ラジカル・スカベンジャー(例えば、マンニトール)を含み、それらはテキストブックおよび総括論文において広く引用されてきた。例えば、Yu−Chang John WangおよびMusetta A.Hansen,「Parenteral Formulations of Proteins and Peptides:Stability and Stabilizers」,Journal of Parentral Science and Technology,42:S14,1988年の文献参照。N−アセチルトリプトファナートは、殺菌時にヒト血清アルブミンを安定化させるために特異的部位に結合するリガンドとしてのオクタノエートと共に用いられてきた(Peters Biochemistry,genetics and medical applications.Academic Press,NY,1995)。しかしながら、このアミノ酸も界面活性剤も、分解した界面活性剤に由来し得るアルキルペルオキシドを介する酸化を防止する目的には用いられていない。従って、酸化的攻撃に対して感受性のアミノ酸配列を有するポリペプチドの薬剤用賦形剤において酸化の多数のメカニズムを阻害する方法に対する要望が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、酸化による損傷に対して蛋白質を保護するための改良された組成物および方法を提供する。この組成物は、典型的には、トリプトファン、チロシンまたはヒスチジン残基を酸化させるフリーラジカルが媒介する酸化を効果的に軽減することができる1以上の化合物と共に処方された酸化に感受性の1以上の蛋白質を含有する。この組成物は酸化からの増大した抵抗性を呈し、例えば、より長い製品有効期間、室温貯蔵を可能とする安定性の増大、および/または製品パッケージングにおける柔軟性を広げる。従って、本発明は、抗体組成物のようなマルチ−ユニット蛋白質組成物さえを保護する(すなわち、安定化させる)ための重要な手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの実施態様において、前記蛋白質内の芳香族アミノ酸残基の酸化を妨げることができる1以上の化合物と共に(例えば、実験室グレードまたは医薬組成物のような製剤において)処方された蛋白質を含む医薬製剤が提供される。好ましい実施態様は、一緒になって、蛋白質の酸化の最もよくみられるメカニズムの全てに対して全体に効果的に保護するメチオニンと組合せた、遊離芳香族アミノ酸、ヌクレオチドまたはビタミンおよびそれらの誘導体を利用する。
【0013】
本発明のもう1つの実施態様において、以下に記載される前記蛋白質内の芳香族アミノ酸残基の酸化を妨げることができる1以上の化合物と組合せた、メチオニンと共に蛋白質を処方することによって安定化された蛋白質組成物を調製する方法が提供される。
【0014】
本発明のもう1つの実施態様において、蛋白質−ベースの治療剤およびこの剤内で芳香族アミノ酸残基の酸化を妨げることができる1以上の化合物を含む製剤を、疾患または障害を予防または治療するのに有効な量で哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物において疾患または障害を予防し、または治療する方法が提供される。
【0015】
本発明のもう1つの実施態様において、蛋白質、およびこの蛋白質内で芳香族アミノ酸残基の酸化を妨げることができる1以上の化合物を含む製剤を調製し、次いで、この製剤中の蛋白質の物理的安定性、化学的安定性、または生物学的活性を評価することを含む、医薬製剤を製造する方法が提供される。
【0016】
本発明のもう1つの実施態様において、メチオニン、および1以上の化合物を、蛋白質内で芳香族アミノ酸残基の酸化を阻害するのに十分な量で前記組成物に加えることを含む、蛋白質の医薬組成物を安定化させる方法が提供される。
【0017】
本発明のもう1つの実施態様において、一定量の界面活性剤を蛋白質組成物およびこの界面活性剤の分解から生じる酸化剤種を無効にするのに十分な量の化合物を加えることを含む、医薬製剤を製造する方法が提供される。
【0018】
本発明のもう1つの実施態様において、芳香族アミノ酸、ヌクレオチド、ビタミンおよびそれらの誘導体よりなる群から選択される1以上の化合物と組合せてメチオニンを加えることを含む、感受性蛋白質内で芳香族アミノ酸残基の酸化を妨げる方法が提供される。
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細の記載および限定的なものと解釈されるべきではない実施例から明らかとなるであろう。本出願を通じて引用された全ての文献、特許および公開された特許出願の内容は参照によって本願明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】メチオニン、トリプトファンおよびヒスチジンの酸化のための考えうる経路を示す図。
【図2】加熱に際してアルキルラジカルを生じ、酸素と組合せると、アルキルペルオキシド(丸印)を形成するアゾ化合物であるAIBNを示す図である。もう1つのアゾ化合物であるAAPHもまたその構造と共に示される。
【図3】Hによって分解されたPTHのrp−HPLCクロマトグラムの説明図。40℃において反応させ、試料は2、4および6時間において除去した。PTH一酸化物およびPTH二酸化物の高いピークが示される。
【図4】AAPHで処理されたPTHのクロマトグラム、圧倒的に高い、Trp[O]PTHピークが示される。40℃にて反応させ、試料は2、4および6時間目に除去した。
【図5】分解した(酸化された)トリプトファンの化学構造。それらの質量は+4、+16および+32として示される。
【図6】AAPH、H+鉄、およびHによって酸化されたPTH溶液のrpHPLCクロマトグラム。40℃にて6時間反応を行った。試料は遊離メチオニン2mg/mLの添加が有りまたは無しいずれかであった。
【図7】AAPH、H+鉄、およびHによって酸化されたPTH溶液のrpHPLCクロマトグラム。40℃にて6時間反応を行った。試料は15%マンニトールまたは6%スクロールの添加の有りまたは無しいずれかであった。
【図8】AAPH、H+鉄、およびHによって酸化されたPTH溶液のrpHPLCクロマトグラム。40℃にて6時間反応を行った。試料はEDTA mg/mLの添加の有りまたは無しのいずれかであった。
【図9】AAPH、H+鉄、およびHによって酸化されたPTH溶液のrpHPLCクロマトグラム。40℃にて6時間反応を行った。試料は2mg/mLの遊離トリプトファンの添加の有りまたは無しのいずれかであった。
【図10】AAPH、H+鉄、およびHによって酸化されたPTH溶液のrpHPLCクロマトグラム。40℃にて6時間反応を行った。試料は共に2mg/mLの遊離トリプトファンおよびメチオニンの添加の有りまたは無しのいずれかであった。
【図11】AAPHによるPTHの部位特異的酸化、および他の試薬と比較したTrpおよびMetのさまざまな保護の役割を示すグラフ。個々のTrp23、Met8およびMet18残基の酸化の同定は、それらの対応するトリプシン分解ペプチドのMS/MS断片化スペクトルに基づいて割り当てられた。相対的酸化レベルは、酸化されたおよび酸化されていないペプチドの積分された抽出イオンクロマトグラムに基づいて定量した。
【図12】H/FeによるPTHの部位特異的酸化、および他の試薬と比較したTrpおよびMetのさまざまな保護の役割を示すグラフ。個々のTrp23、Met8およびMet18残基の酸化の同定は、それらの対応するトリプシン分解ペプチドのMS/MS断片化のスペクトルに基づいて割り当てられた。相対的レベルは、酸化されたまたは酸化されていないペプチドの積分された抽出イオンクロマトグラムに基づいて定量した。
【図13】種々の抗VEGF試料のIECクロマトグラム。Hは塩基性領域において酸化的種を生じず、AAPHは生じた。塩基性ピークは、Tweenの不良ロットを用いた場合に、適格ロットにおいて顕著であった。
【図14】AAPH(Trp無し)によって酸化し、次いで、2または10mg/mL遊離Trpを製剤に加えた場合の、抗VEGF抗体のIEC。酸化されたMAbは塩基性領域において溶出した。これらの塩基性ピークは、Trpの添加に際してベースラインまで降下した。
【図15】AAPH、H+鉄、およびHによって酸化されたPTH溶液のrpHPLCクロマトグラム。40℃にて6時間反応を行った。試料は、2mg/mLの遊離Trolox(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸、水溶性ビタミン誘導体)の添加の有りまたは無しのいずれかであった。
【図16】AAPH、H+鉄、およびHによって酸化されたPPH溶液のrpHPLCクロマトグラム。反応は40℃にて6時間行った。試料は、2mg/mLの(通常はビタミンB6として知られた)遊離ピリドキシンの添加の有りまたは無しのいずれかであった。
【発明を実施するための形態】
【0021】
I.定義
蛋白質の化学的不安定性は、蛋白質の一次構造との共有結合の切断または形成を含むことができる。蛋白質におけるいくつかの酸化反応が報告されている。アルカリ性または中性溶媒中では、アミノ酸のシステイン、ヒスチジン、メチオニン、トリプトファンおよびチロシンの残基は特に酸化しやすい。しかしながら、酸性条件においては、メチオニンは感受性である。酸化反応は、生物学的活性や免疫原性にも多大な喪失を引き起こすことが多い。本発明は、第一に、酸化による損傷に対して蛋白質を保護するための改良された組成物および方法に関する。この組成物は、典型的には、トリプトファン、チロシンまたはヒスチジン残基を酸化させるフリーラジカルが介する酸化を効果的に軽減させるための1以上の芳香族化合物と共に処方された酸化に対して感受性の1以上の蛋白質を含有する。
【0022】
(ヌクレオチドにおけるプリンおよびピリミジンあるいは、具体的には、アミノ酸トリプトファンにおけるインドールの芳香族環において例示される)芳香族性は、芳香族化合物がフリーラジカルと反応する場合に過剰の電子を非局在化できるゆえに、生成物は電子非局在化によって安定化される。その結果、芳香族化合物とフリーラジカルとの反応は助長される。差し引きの結果は、フリーラジカルが芳香族化合物に吸収され、他の分子に対するさらなる損傷を及ぼすことができないことになる。この理由で、芳香族化合物は、製剤の賦形剤として加えた場合に、効果的な物質として作用し、フリーラジカルの酸化的損傷作用を中和する。
【0023】
生理学的に適合する芳香族化合物の2つの主なクラスはヌクレオチドおよびアミノ酸である。これらの化合物は身体にある天然の成分であるので、それらは安全性プロフィールをもたらし、非経口製品のための賦形剤として用いるのに適切である。遊離メチオニンは抗酸化剤としてルーチン的に用いられており、多数の市販の非経口製品で見出すことができる。しかしながら、このアミノ酸は単独では酸化の全てのメカニズムに対して保護できず、メチオニンまたはシステイン残基の求核酸化を阻害する場合に最も有効である。また、DNAはフリーラジカルによって損傷を受けやすいこともよく知られており、フリーラジカルと好都合に反応する核酸誘導体の使用を裏付ける事実である。今日、製剤の賦形剤として核酸誘導体を用いることについてほとんど知られておらず、市場の製品は製剤の賦形剤として核酸を利用するものは無い。
【0024】
本発明の1態様では、本発明の組成物は、典型的には、トリプトファン、ヒスチジン、チロシンおよびフェニルアラニンからなる群から選択される芳香族アミノ酸を含有する。分解された界面活性剤から生成することが多い、アルキルペルオキシドを介する酸化を緩和するための好ましい芳香族アミノ酸はトリプトファンまたはその誘導体、ナトリウムN−アセチルトリプトファナートである。メチオニンまたはメチオニン誘導体を製剤に加えると、メチオニンまたはシステインの求核酸化もまた阻害することができる。かくして、遊離トリプトファンおよびメチオニンの組合せは、酸化の多数のメカニズムを効果的にに阻害する。トリプトファンが製剤に存在する組成物は、典型的には、約2ないし10mg/mLの範囲の量を含有する。1つの実施態様において、本発明は、トリプトファン単独にて、あるいは1以上のさらなる芳香族アミノ酸およびメチオニンと組合せて、(例えば、実験室グレードまたは医薬組成物のような製剤において)処方された生物学的に活性な剤を含む医薬製剤に関する。アミノ酸の好ましい組合せはトリプトファンおよびメチオニンであり、これらは一緒になって、蛋白質酸化の最もよくみられるメカニズムの全てに対して有効に保護する。
【0025】
本発明のもう1つの態様では、本発明の組成物は遊離ヌクレオチドまたはそのアナログを含むこともできる。核酸誘導体を、単独で、あるいはメチオニンと組合せて、蛋白質およびペプチドの非経口製剤に加えることができる。1以上の遊離ヌクレオチドが安定化剤として存在する製剤は、典型的には、約0.1ないし10mg/mLの範囲の量を含有する。特別な実施態様において、1以上の遊離ヌクレオチドが1以上の遊離芳香族アミノ酸と組合される。好ましい実施態様は、メチオニンと組合せた遊離ヌクレオチドを含むであろう。
【0026】
本発明のもう1つの態様では、本発明の組成物はトロロックス(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸;水溶性ビタミン誘導体)および(通常はビタミンB6として知られた)ピリドキシンのようなビタミン誘導体も含むこともできる。特別な実施態様において、1以上のビタミン誘導体を1以上の遊離芳香族アミノ酸と組合せる。好ましい実施態様はメチオニンと組合せたビタミン誘導体を含むであろう。
【0027】
本発明の組成物は、さらに、酸素のフリーラジカルを中和する1以上の物質(すなわち、ROSスカベンジャー)を含有することができる。適切なROSスカベンジャーは、例えば、マンニトール、メチオニンおよび/またはヒスチジンを含む。従って、もう1つの実施態様において、本発明は、芳香族アミノ酸、およびマンニトール、メチオニンおよび/またはヒスチジンのような1以上のROSスカベンジャーと一緒に処方された1以上の蛋白質を含有する組成物を提供する。EDTAのような金属キレート剤もまた用いることもできる。というのは、それはROS生成の開始を阻害できるからである。
【0028】
本発明の組成物は、蛋白質凝集を阻害する1以上の剤を含むこともできる。特別な実施態様において、この剤はTWEEN、ポリソルベート80、ポリソルベート20、グリセロールおよびポロキサマーポリマーから選択される。この組成物は、なおさらに、組成物のpHを、好ましくは、約5.0ないし約8.0に維持する緩衝液を含むことができる。適切な緩衝液は、例えば、ヒスチジン、Tris、アセテート、MES、コハク酸、PIPES、ビス−Tris、MOPS、ACES、BES、TES、HEPES、EPPS、エチレンジアミン、リン酸、およびマレイン酸を含む。組成物は塩化ナトリウム、アルギニン塩等のような等張剤を含有することもできる。
【0029】
「界面活性剤」は、データによって十分明らかにされた極性および非極性領域を備えた分子であり、それらが溶液中で凝集してミセルを形成させるようにする。極性エリアの性質に依存して、界面活性剤は非−イオン性、アニオン性、カチオン性、および両性であり得る。最も非経口的に許容される非イオン性界面活性剤はポリソルベートまたはポリエステル基いずれかから由来する。ポリソルベート20および80は、市販の蛋白質製剤における最新の界面活性剤安定化剤である。
【0030】
ペルオキシドは非イオン性界面活性剤の不純物として知られている。ポリソルベート中のペルオキシドは、蛋白質の酸化的分解をもたらしかねない。配合者は、ペルオキシド混入についての蛋白質製剤中のポリソルベートおよび他のポリマー添加剤の原料を選別し、添加剤を用いるためのペルオキシドの規格を確立する傾向がある。別法として、抗酸化剤の取込みを用いて、非イオン性界面活性剤についての可能性を克服して、酸素−感受性蛋白質のための酸化的触媒として働くのを助ける。
【0031】
酸化に対して感受性である注目するいずれの適切な蛋白質またはポリペプチドも保護することができ、かくして、本発明に従って安定化することができる(すなわち、本願明細書中に記載されたように酸化保護組成物に処方することができる)。蛋白質はその天然(例えば、天然の)形態の状態とすることができ、あるいは例えば、マイクロカプセル化またはコンジュゲーションによって修飾することができる。蛋白質は治療剤または診断剤とすることができる。そのような蛋白質は、例えば、免疫グロブリン、ペプチド、蛋白質、および酸化的損傷に対するそのアナログを含む。
【0032】
加えて、当該蛋白質を診断的におよび治療的に非機能的とする、酸化的損傷、蛋白質凝集および分解に対して特に感受性である抗体のようなマルチ−サブユニット蛋白質は、本発明に従って保護することができる。特別な実施態様において、本発明は、十分にヒトの抗体、ならびにその断片および免疫コンジュゲート(すなわち、例えば、トキシン、ポリマー、造影剤または薬物などの治療剤にコンジュゲートした抗体)を含めた1以上のモノクローナル抗体を含むもののような、保護された(すなわち、安定化された)抗体組成物を提供する。
【0033】
本発明の好ましい実施態様は、酸化による損傷に対して蛋白質を保護するための組成物および方法に関するが、この生物学的に活性な剤はペプチド、小分子、炭水化物、核酸、脂質、蛋白質、抗体および/またはそのアナログよりなる群から選択することもできる。
【0034】
ここに、用語「約」が頭に付く数値範囲または量は、明示的に、正確な範囲または正確な数値的量を含む。
【0035】
用語「医薬製剤」とは、有効成分の生物学的活性を有効なものとするような形態である、かつ製剤が投与される対象に対して許容できないように毒性ではない更なる成分を含有しない製剤をいう。
【0036】
もし所与の時間において抗体の生物学的活性が、イン・ビトロまたはイン・ビボにて抗原に結合する抗体の能力によって決定されるとき、医薬製剤が調製された時点で示した生物学的活性の約10%以内(アッセイの誤差内)であり、測定可能な生物学的応答をもたらすならば、抗体は医薬製剤において「生物学的活性」を保有するという。
【0037】
「安定な」製剤とは、その中の蛋白質が貯蔵に際してその物理的および/または化学的安定性を実質的に保持するものである。安定性は選択された温度において選択された期間測定することができる。好ましくは、製剤は、室温(〜30℃)にて、または40℃にて少なくとも1カ月安定であり、および/または約2ないし8℃において少なくとも1年、好ましくは、少なくとも2年の間安定である。例えば、貯蔵の間における凝集の程度は蛋白質安定性の指標として用いることができる。かくして、「安定な」製剤は、蛋白質の約10%未満、好ましくは、約5%未満が製剤中において凝集物として存在するものであってよい。蛋白質安定性を測定するための種々の分析手技が当該技術で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery,247−301,Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991)およびJones,A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29−90(1993)においてレビューされている。
【0038】
用語「水性溶液」とは、水が溶解するための媒体または溶媒である溶液をいう。物質が液体に溶解する場合、混合物は溶液と言われる。溶解した物質は溶質であって、溶解を行う液体(この場合、水)は溶媒である。
【0039】
酸化を[阻害する]とは、少なくとも1つの酸化阻害剤を含む蛋白質含有溶液に存在する酸化の量を、少なくとも1つの酸化阻害剤を含まない蛋白質含有溶液に存在する酸化の量と比較することによって測定された、酸化を妨げ、酸化の量を低下させ、または減少させることを意図する。
【0040】
本願明細書中において、「酸化された」蛋白質または抗体は、1以上のそのアミノ酸残基が酸化されているものである。
【0041】
「酸化に対して感受性である」蛋白質または抗体は、酸化される傾向があることが判明している1以上の残基を含むものである。
【0042】
蛋白質の酸化を測定するための本発明で用途が見出すことができる方法は、ゲル電気泳動、等電点電気泳動、毛細管電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー、ペプチドマッピング、オリゴ糖マッピング、質量分析、紫外線吸収分光法、蛍光分光法、円偏光二色性分光法、等温滴定熱量測定、示差走査熱量測定、分析用超遠心、動的光散乱、蛋白質分解、および架橋、濁度測定、フィルター遅延アッセイ、免疫学的アッセイ、蛍光色素結合アッセイ、蛋白質染色アッセイ、顕微鏡測定法、および他の結合アッセイを含む。
【0043】
「ポリペプチド」または「蛋白質」は、鎖の長さが、さらに高次の第三次および/または第四次構造を生じさせるのに十分な長さのアミノ酸を意味する。かくして、蛋白質は、そのような構造を有しないアミノ酸を主体とする分子でもある「ペプチド」から区別される。
【0044】
処方される蛋白質は好ましくは実質的には純粋であって、望ましくは実質的には均一である(すなわち、不純物を含まない蛋白質)。「実質的に純粋な蛋白質」は、組成物の全重量に基づいて少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95重量%の蛋白質を含む組成物を意味する「実質的に均一な」蛋白質は、組成物の全重量に基づいて、少なくとも約99重量%を含む組成物を意味する。
【0045】
ある実施態様において、蛋白質は抗体である。本願明細書中において、この抗体は注目する「抗原」に対する抗体である。好ましくは、この抗原は生物学的に重要な蛋白質であって、疾患または障害に罹っている哺乳動物への抗体の投与の結果、その哺乳動物において治療的便益がもたらされ得る。しかしながら、(腫瘍関連糖脂質抗原のような(米国特許第5,091,178号参照))非蛋白抗原に対する抗体もまた対象になる。抗原が蛋白質である場合、それは膜貫通分子(例えば、受容体)または増殖因子のようなリガンドであってよい。例示的な抗原は先に議論した蛋白質を含む。本発明に含まれる抗体のための好ましい分子標的はCD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD34およびCD40のようなCDポリペプチド;EGF受容体(HER1)、HER2、HER3またはHER4受容体のようなHER受容体ファミリーのメンバー;LFA1、MAC1、p150,95、VLA−4、ICAM−1、VCAMおよびそのαまたはβサブユニットいずれかを含めたav/b3インテグリン(例えば、抗CD11a、抗CD18または抗CD11b抗体)のような細胞接着分子;CRIgのようなマクロファージ受容体、TRAIL/Apo−2のような腫瘍壊死因子、血管内皮成長因子(VEGF)のような増殖因子;IgE;血液型抗原;flk2/flt3受容体;肥満(OB)受容体;mpl受容体;CTLA4;ポリペプチドC等を含む。他の例示的な蛋白質はヒト成長ホルモン(hGH)およびウシ成長ホルモン(bGH)を含めた成長ホルモン(GH);成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポ蛋白質;α−1アンチトリプシン;インスリンA−鎖;インスリンB−鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体ホルモン;グルカゴン;第VIIIC因子、因子、組織因子、およびフォンビルブラント因子のような凝固因子;プロテインCのような抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性物質;ウロキナーゼまたは組織タイプのプラスミノーゲンアクチベータ(t−PA)のようなプラスミノーゲンアクチベータ;ボンバジン;トロンビン;腫瘍壊死因子−αおよび−β;エンケファリナーゼ;(活性に際して調節され、通常T−細胞発現され、分泌される)RANTES;ヒトマクロファージ炎症蛋白質(MIP−1−α);ヒト血清アルブミン(HSA)のような血清アルブミン;ミュラー管−阻害物質;レラキシンA−鎖;レラキシンB−鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン−関連ペプチド;DNase;インヒビン;アクチビン;ホルモンまたは成長因子に対する受容体;インテグリン;プロテインAまたはD;リウマチ因子;骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5、または−6(NT−3、NT−4、NT−5、またはNT−6)のような神経栄養因子またはNGF−βのような神経成長因子;血小板由来成長因子(PDGF);aFGFおよびbFGFのような線維芽細胞成長因子;表皮成長因子(EGF);TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、またはTGF−β5を含めた、TGF−αおよびTGF−βのようなトランスフォーミング成長因子(TGF);インスリン−様成長因子−Iおよび−II(IGF−IおよびIGF−II);デス(1−3)−IGF−1(脳IGF−1);インスリン−様成長因子結合蛋白質(IGFBP);エリスロポエチン(EPO);トロンボポエチン(TP);骨誘導因子;イムノトキシン;骨形態形成蛋白質(BMP);インターフェロン−α、−β、および−γのようなインターフェロン;コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M−CSF、GM−CSF、およびG−CSF;インターロイキン(IL)、例えば、IL−1ないしIL−10;スーパーオキシドジスムターゼ;T−細胞受容体;表面膜蛋白質;崩壊促進因子(DAF);例えば、AIDSエンベロープの一部のようなウイルス抗原;輸送蛋白質;ホーミング受容体;アドレシン;調節蛋白質;イムノアドヘシン;抗体;および前記リストのポリペプチドのいずれかの生物学的に活性な断片または変種を含む。多くの他の抗体および/または他の蛋白質を本発明に従って用いてもよく、前記リストは限定するものとはならない。
【0046】
所望により他の分子にコンジュゲートしていてもよい可溶性抗原またはその断片は、抗体を生じさせるための免疫原として用いることができる。受容体のような膜貫通分子については、これらの断片(例えば、受容体の細胞外ドメイン)を免疫原として用いることができる。別法として、膜貫通分子を発現する細胞を免疫原として用いることができる。そのような細胞は天然源(例えば、癌細胞株)に由来することができるか、あるいは膜貫通分子を発現するように組換え技術によって形質転換された細胞であってよい。
【0047】
処方される抗体の例は、本願明細書中においては、限定されるものではないが:トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))(Carter et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89;4285−4289(1992)、米国特許第5,725,856号)およびペルツズマブ(OMNITARG(商標))(国際公開第01/00245号パンフレット)を含めたHER2抗体;CD20抗体(後記参照);IL−8抗体(St John et al,Chest,103:932(1993)、および国際公開第95/23865号パンフレット);ヒト化VEGF抗体huA4.6.1ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))およびラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))(Kim et al., Growth Factors,7:53−64(1992),国際公開第96/30046号パンフレット、および1998年10月15日に公開された国際公開第98/45331号パンフレット)のようなヒト化および/または親和性成熟化VEGF抗体を含めたVEGFまたはVEGF受容体抗体;PSCA抗体(国際公開第01/40309号パンフレット);エファリズマズ(RAPTIVA(登録商標))(米国特許第6,037454号、米国特許第5,622,700号、国際公開第98/23761号パンフレット、Stoppa et al.,Transplant Intl.4:3−7(1991)、およびHourmant et al.,Transplantation 58:377−380(1994))を含めたCD11a抗体;オマリズマブ(XOLAIR(登録商標))(Presta et al.,J.Immunol.151:2623−2632(1993)、および国際公開第95/19181号パンフレット;1998年2月3日に発行された米国特許第5,714,338号または1992年2月25日に発行された米国特許第5,091,313号、1993年3月4日に公開された国際公開第93/04173号パンフレット、または1998年6月30日に出願された国際出願番号PCT/US98/13410、米国特許第5,714,338号)を含めた、IgEに結合する抗体;CD18抗体(1997年4月22日に発行された米国特許第5,622,700号、または1997年7月31日に公開された国際公開第97/26912号パンフレット);Apo−2受容体抗体(1998年11月19日に公開された国際公開第98/51793号パンフレット);組織因子(TF)抗体(1994年11月9日に特許権が付与された欧州特許第0420937(B1)号);α−αインテグリン抗体(1998年2月19日に公開された国際公開第98/06248号パンフレット);EGFR抗体(例えば、キメラ化またはヒト化225抗体、セツキシマブ、1996年12月19日に公開された国際公開第96/40210号パンフレットにおけるようなERBUTIX(登録商標));OKT3(1985年5月7日に発行された米国特許第4,515,893号)のようなCD3抗体;CHI−621(SIMULECT(登録商標))およびZENAPAX(登録商標)(1997年12月2日に発行された米国特許第5,693,762号参照)のようなCD25またはTac抗体;cM−7412抗体(Choy et al.,Arthritis Rheum 39(1):52−56(1996))のようなCD4抗体;CAMPATH−1H(ILEX/Berlex)(Riechmann et al.,Nature 332:323−337(1988))のようなCD52抗体;Fcに対するM22抗体(Graziano et al.,J.Immunol.155(10):4996−5002(1995)におけるようなRI)のようなFc受容体抗体;hMN−14(Sharkey et al.,Cancer Res.55(23Suppl):5935s−5945s(1995))のような癌胎児性抗原(CEA)抗体;huBrE−3、hu−Mc3およびCHL6(Ceriani et al.,Cancer Res.55(23):5852s−5856s(1995);およびRichman et al.,Cancer Res.55(23Supp):5916s−5920s(1995))を含めた乳房上皮細胞に対する抗体;C242(Litton et al.,Eur J.Immunol.26(1):1−9(1996))のような結腸癌腫細胞に結合する抗体;CD38抗体、例えば、AT 13/5(Ellis et al.,J.Immunol.155(2):925−937(1995));Hu M195(Jurcic et al.,Cancer Res 55(23 Suppl):5908s−5910s(1995))およびCMA−676またはCDP771のようなCD33抗体;17−1A(PANOREX(登録商標))のようなEpCAM抗体;アブシキマブまたはc7E3 Fab(REOPRO(登録商標))のようなGpIIb/IIIa抗体;MDEI−493(SYNAGIS(登録商標))のようなRSV抗体;PROTOVIR(登録商標))のようなCMV抗体;PRO542のようなHIV抗体;Hep B抗体、OSTAVIR(登録商標)のような肝炎抗体;抗MUC16(国際公開第2007/001851号パンフレット;Yin,BWT and Lloyd,KO,J.Biol.Chem.276−27371−27375(2001))およびOvaRrexを含めたCA125抗体;イディオタイプのGD3エピト−プ抗体BEC2;αvβ3抗体(例えば、VITAXIN(登録商標);Medimmune);ch−G250のようなヒト腎臓細胞癌腫抗体;ING−1;抗ヒト17−1 An抗体(3622W94);抗ヒト結直腸腫瘍抗体(A33);GD3ガングリオシドに対する抗ヒトメラノーマ抗体R24;抗ヒト扁平細胞癌腫(SF25);Smart ID10および抗−HLA DR抗体Oncolym(Lym−1)のようなヒト白血球抗原(HLA)抗体;TRU016(Trubion)のようなCD37抗体;IL−21抗体(Zymozenetics/Novo Nordisk);抗B細胞抗体(Impheron);B細胞標的化MAb(Immunogen/Aventis);1D09C3(Morphosys/GPC);LymphoRad131(HGS);Lym−1Y−90(USC)または抗Lym−1 Oncolym(USC/Peregrine)のようなLym−1抗体;LIF 226(Enhanced Lifesci.);BAFF抗体(例えば、国際公開第03/33658号パンフレット);BAFF受容体抗体(例えば、国際公開第02/24909号パンフレット参照);BR3抗体;べリムマブのようなBlys抗体;LYMPHOSTAT−B(商標);ISF 154(UCSD/Roche/Tragen);ゴミリキシマ(Idec 152;Biogen Idec);アトリズマブ(ACTEMRA(商標);Chugai/Roche)のようなIL−6受容体抗体;HuMax−Il−15(Genmab/Amgen)のようなIL−15抗体;CCR2抗体(例えば、MLN1202;Millieneum)のようなケモカイン受容体抗体;C5抗体(例えば、エクリズマブ,5G1.1;Alexiol)のような抗補体抗体;ヒト免疫ブロブリンの経口製剤(例えば、IgPO;Protein Therapeutics);ABT−874(CAT/Abbott)のようなIL−12抗体;テネリキシマブ(BMS−224818;BMS);S2C6およびそのヒト化変種国際公開第00/75348号パンフレット)およびTNX100(Chiron/Tanox)を含めたCD40抗体;cA2またはインフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、CDP571、MAK−195、アダリムマブ(HUMIRA(商標))、CDP−870(Celltech)のようなPEG化TNF−α抗体断片、D2E7(Knoll)、抗−TNF−αポリクローナル抗体(例えば、PassTNF;Verigen)を含めたTNF−α抗体;LL2、またはエプラツズマブY−90およびエプラツマブI−131を含めたエプラツズマブ(LYMPHOCIDE(登録商標);Immunomedics)、AbiogenのCD22抗体(Abiogen,Italy)、CMC544(Wyeth/Celltech)、コムボトックス(UT Soutwestern)、BL22(NIH),およびLympoScan Tc99(Immunomedics)、ならびに抗−アミロイドベータ(Abeta)、抗−CD4(MTRX1011A)、抗−EGFL7(EGF−様−ドメイン7)、抗−IL13、Apomab(抗DR5−標的化プロ−アポトーシス受容体抗体アゴニスト(PARA))、抗−BR3(CD268,BLyS受容体3,BAFF−R,BAFF受容体)、抗−ベータ7インテグリンサブユニット、ダセツズマブ(抗−CD40)、GA101(抗CD20モノクローナル抗体)、MetMAb(抗MET受容体チロシンキナーゼ)、抗−ニューロピリン−1(NRP1)、オクレリズマブ(抗CD20抗体)、抗−OX40リガンド、抗−酸化LDL(oxLDL)、ペルツズマブ(HER二量体化阻害剤(HDI)、およびrhuMAb IFNアルファのようなCD22抗体を含む。
【0048】
抗CD20抗体の例は:今では「リツキシマブ」(「RITUXAN(登録商標)」)(米国特許第5,736,137号)と呼ばれる「C2B8」;IDEC Pharmaceuticals,Inc.から商業的に入手可能な「Y2B8」または「Ibritumomab Tiuxetan」(ZEVALIN(登録商標))と命名されたイッテリウム−[90]−標識2B8マウス抗体(米国特許第5,736,137号;1993年6月22日に受託番号HB11388下でATCCに寄託された2B8);Corixaから商業的に入手可能な、「131I−B1」または「ヨウ素I131トシツモマブ」抗体(BEXXAR(商標))を生じさせるために所望により131Iで標識されていてもよい、「トシツモマブ」とも呼ばれるマウスIgG2a「B1」(また、米国特許第5,595,721号も参照);マウスモノクローナル抗体「1F5」(Press et al.,Blood 69(2):584−591(1987))および「フレームワークパッチ化」またはヒト化1F5(国際公開第2003/002607号パンフレット,Leung,S.;ATCC寄託HB−96450)を含めたその変種;マウス2H7およびキメラ2H7抗体(米国特許第5,677,180号);ヒト化2H7(国際公開第2004/056312号パンフレット,Lowman et al.,);2F2(HuMax−CD20)、B細胞膜中のCD20分子に標的化された十分にヒトの高親和性抗体(Genmab,Denmark;例えば、Glennie and van de Winkel,Drug Discovery Today8:503−510(2003)およびCragg et al.,Blood 101:1045−1052(2003);国際公開第2004/035607号パンフレット;米国特許出願公開第2004/0167319号参照);国際公開第2004/035607号パンフレットおよび米国特許出願公開第2004/0167319(Teeling et al.)に記載されたヒトモノクローナル抗体;米国特許出願公開第2004/0093621号(Shitara et al.)に記載された、Fc領域に結合した複雑なN−グリコシド−結合糖鎖を有する抗体;HB20−3、HB20−4、HB20−25、およびMB20−11のような、CD20に結合するモノクローナル抗体および抗原結合断片(国際公開第2005/000901号パンフレット,Tedder et al.);抗体のAMEシリーズのようなCD20結合分子、例えば、国際公開第2004/103404号パンフレットおよび米国特許出願公開第2005/0025764号(Watkins et al.,Eli Lilly/Applied Molecular Evolution AME)に記載されたAME33抗体;米国特許出願公開第2005/0025764号(Watkins et al.)に記載されたもののようなCD20結合分子;キメラまたはヒト化A20抗体(各々、cA20,hA20)またはIMMU−106(米国特許出願公開第2003/0219433号,Immunomedics)のようなA20抗体またはその変種;US 2005/0069545A1および国際公開第2005/16969号パンフレット(Carr et al.)におけるような、所望によりIL−2とコンジュゲートしていてもよいエピトープ−欠損Leu−16、1H4、または2B8を含めたCD20−結合抗体;CD22およびCD20に結合する二重特異性抗体、例えば、hLL2xhA20(国際公開第2005/14618号パンフレット,Chang et al.);International Leukocyte Typing Workshopから入手可能なモノクローナル抗体L27、G28−2、93−1B3、B−ClまたはNU−B2(Valentine et al.,In:Leukocyte Typing III(McMichael,Ed.,p.440,Oxford University Press(1987));1H4(Haisma et al.,Blood 92:184(1998));抗CD20アウリスタチンEコンジュゲート(Seattle Genetics);抗−CD20−IL2(EMD/Biovation/City of Hope);抗CD20 MAb療法(EpiCyte);抗CD20抗体TRU 015(Trubion)を含む。
【0049】
本願明細書中で用いる用語「抗体」は、(免疫グロブリンFc領域を有する抗体全体を含めた)モノクローナル抗体、ポリエピトープ特異性を持つ抗体組成物、多特異的抗体(例えば、二重特異性抗体,ダイヤボディー,および単一鎖分子)、ならびに抗体断片(例えば、Fab,F(ab’),およびFv)を含む。用語「免疫グロブリン」(Ig)は、本願明細書中においては、抗体と同じ意味で用いられる。
【0050】
本願明細書中で用いる用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体をいい、すなわちこの集団を含む個々の抗体は、微量で存在するかも知れない可能な天然に生じる突然変異および/または翻訳後修飾(例えば、異性体化、アミド化)を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であって、単一の抗原部位に対するものである。更に、典型的には、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む、従来の(ポリクローナル)抗体製剤とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらが、他の免疫グロブリンが混合していないハイブリドーマ培養によって合成される点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集団から得られる抗体の特徴を示し、いずれかの特定の方法による抗体の生産を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って用いるべきモノクローナル抗体は、Kohler et al.,Nature,256:495(1975年)によって最初に記載されたハイブリドーマ方法によって作成されてもよく、あるいは組換えDNA方法(例えば、米国特許第4,816,567号参照)によって作成されてもよい。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson et al.,Nature,352:624−628(1991年)およびMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581−597(1991年)に記載された技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。
【0051】
モノクローナル抗体は、ここでは、具体的には、望まれる生物学的活性を呈する限り、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来するか、または特定の抗体のクラスまたはサブクラスの属する抗体中の対応する配列と同一であるか、または相同であり、他方、この鎖の残りがもう1つの種に由来する、あるいはもう1つの抗体のクラスまたはサブクラスに属する対応する配列と同一であるか、または相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびにそのような抗体の断片を含む(米国特許第4,816,567号;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851−6855(1984))。注目するキメラ抗体は、ここでは、ヒト以外の霊長類(例えば、旧世界サル、無尾猿など)に由来する可変ドメイン抗原−結合配列、およびヒト内容領域配列を含む「プリミタイズド(primitized)」抗体を含む。
【0052】
用語「治療抗体」とは、疾患の治療に用いる抗体をいう。治療用抗体は、種々の作用メカニズムを有することができる。治療用抗体は、抗原と会合した標的に結合し、この標的の正常な機能を中和することができる。例えば、癌細胞の生存に必要な蛋白質の活性をブロックするモノクローナル抗体は細胞死を引き起こす。もう1つの治療モノクローナル抗体は、抗原と会合した標的に結合し、この標的の正常な機能を活性化することができる。例えば、モノクローナル抗体は細胞上の蛋白質に結合し、アポトーシスシグナルを引き金とすることができる。なお、もう1つのモノクローナル抗体は、疾患のある組織上にのみ発現された標的抗原に結合することができ;化学治療剤または放射性剤のような毒性ペイロード(有効な剤)のモノクローナル抗体へのコンジュゲーションは、疾患のある組織への毒性ペイロードの特異的送達のための剤を作り出すことができ、健康な組織に対する有害性を低下させる。治療抗体の「生物学的に機能的な断片」は、無傷の抗体に帰属される生物学的機能のいくらかまたは全てではないにせよ少なくとも1つを呈し、この機能は標的抗原への少なくとも特異的結合を含む。
【0053】
「無傷の」抗体は、抗原結合部位、ならびにCLおよび少なくとも重鎖ドメインC1、C2およびC3を含むものである。定常ドメインは天然配列の定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列の定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列変種であってよい。好ましくは、無傷の抗体は1以上のエフェクター機能を有する。
【0054】
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部、好ましくは、無傷抗体の抗原結合および/または可変領域を含む。抗体断片の例はFab、Fab’、F(ab’)、Fv断片;ダイヤボディー;線状抗体(米国特許第5,641,870号、実施例2;Zapata et al.,Protein Eng.8(10):1057−1062[1995]参照);単一鎖抗体分子および抗体断片から形成された多特異的抗体を含む。
【0055】
抗体の「生物学的に機能的な断片」は、無傷抗体の一部のみを含み、ここに、この一部は、無傷抗体において存在する場合、その一部と通常は関連する機能の少なくとも1つ、およびほとんどまたは全てのように多くを保有する。1つの実施態様において、抗体の生物学的に機能的な断片は無傷抗体の抗原結合部位を含み、かくして、抗原に結合する能力を保有する。もう1つの実施態様において、抗体の生物学的に機能的な断片、例えば、Fc領域を含むものは、FcRn結合、抗体の半減期の調節、ADCC機能および補体結合のような、無傷抗体に存在する場合のFc領域に通常は関連する生物学的機能の少なくとも1つを保有する。1つの実施態様において、抗体の生物学的に機能的な断片は、無傷抗体に実質的に同様なイン・ビボ半減期を有する一価抗体である。例えば、抗体のそのような生物学的に機能的な断片は、この断片にイン・ビボ安定性を与えることができるFc配列に連結された抗原結合アームを含むことができる。
【0056】
ヒト以外の(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する、ほとんどヒトの配列のキメラ免疫グロブリン免疫グロブリン鎖または(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)または抗体の他の抗原−結合サブ配列のような)その断片である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、受容体の超可変領域(また、CDR)からの残基が、望まれる特異性、親和性、および力価を有するマウス、ラットまたはウサギのようなヒト以外の種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基によって置き換えられたヒト免疫グロブリン(受容体抗体)である。いくつかの例においては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非−ヒト残基によって置き換えられている。更に、本願明細書中で用いる「ヒト化抗体」は、受容体抗体またはドナー抗体に見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は、抗体の性能をさらに改良し、最適化するためになされる。ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部(Fc)、典型的には、ヒト免疫グロブリンのそれをやはり含むであろう。更なる詳細については、Jones et al.,Nature,321:522−525(1986);Reichmann et al.,Nature,332:323−329(1988);およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596(1992)参照。
【0057】
「単離された」とは、本願明細書中で開示された種々のポリペプチドおよび抗体を記載するのに用いる場合、その産生環境の成分から同定され、分離され、および/または回収されたポリペプチドまたは抗体を意味する。好ましくは、単離されたポリペプチドはその生成環境からの全ての他の成分と会合していない。組換えトランスフェクト細胞に由来するもののようなその生成環境の混入成分は、典型的には、ポリペプチドのための診断的または治療的使用に干渉するであろう材料であり、酵素、ホルモン、および他の蛋白質性または非−蛋白質性溶質を含んでもよい。好ましい実施態様において、ポリペプチドは(1)スピニングカップシーケネーターの使用によって、N−末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、あるいは(2)クーマシーブルーまたは、好ましくは、銀染色を用いて非−還元または還元条件下でSDS−PAGEによって均一になるまで精製される。しかしながら、通常は、単離されたポリペプチドまたは抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製されうる。
【0058】
「治療」とは、治療的処置および予防的または予防手段の双方を含む。治療を必要とする者は、既に障害を持つ者ならびに障害を予防すべき者を含む。
【0059】
治療の目的の「哺乳動物」とは、ヒト、家畜および農場動物、およびイヌ、ウマ、ウサギ、ウシ、ブタ、ハムスター、アレチネズミ、マウス、白イタチ、ラット、ネコなどのような動物園、スポーツ用または愛玩動物を含めた、哺乳動物として分類されるいずれの動物もいう。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0060】
「障害」は、当該蛋白質での処置から利益を受けるいずれの疾患である。これは、哺乳動物が問題とする障害に対して素因がある病理学的疾患を含めた、慢性および急性障害を含む。ここでは、治療すべき障害の非限定的例は癌腫および炎症を含む。
【0061】
「治療有効量」とは、特定の障害の測定可能な改善または予防を行うのに必要な少なくとも最小の濃度である。既知の蛋白質の治療有効量は当該分野においてよく知られており、他方、今後発見される蛋白質のこの有効量は、十分に、通常の医師のような当業者の技量内にある標準的技術によって決定することができる。
【0062】
II.発明を実施するための形態
モノクローナル抗体候補についての最近の酸化事象が、我々が、Met、TrpおよびHis残基に対する酸化のメカニズムを調べ、および適切な安定化剤をサーチするよう駆り立てた。rp−HPLC、ペプチドマッピングおよびLC/MS/MS分析によって助けられた、モデル蛋白質である副甲状腺ホルモン(PTH,1−34)を用いることによって、我々は、さまざまなオキシダントによって引き起こされたこれらの不安定な残基に対する酸化を確認し、定量することができた。
【0063】
A.酸化的損傷の特徴付け
酸化メチオニン(Met[O])は、多数の医薬品用蛋白質において容易に検出されるという事実が、H単独に対するだけではなく酸化剤に対するその感受性に帰すことができる。光、tBHP、および/またはペルオキソジスルフェートは、Met[O]を生じさせるのに種々の研究室によって用いられてきた。通常の貯蔵条件下での医薬品用蛋白質中のTrpまたはHisの酸化は非常に遅い可能性がある。酸化を促進するためには、1以上のストレスモデルが共通して用いられている。
【0064】
多くの蛋白質製剤はポリソルベート(20および80)を含有する。古くなったポリソルベート中に存在するオキシダントは圧倒的にHよりなる(75%まで)ことが報告されている(Jaeger et al.,Biochem Biophys Methods 29:77−81(1994年))。Ha et al.(J Pharm Sci 91:2252−2264(2002年))は、古くなったポリソルベートによりインターロイキン−2突然変異体の酸化が高まっていることを報告した。ポリソルベートは蛋白質薬物製品におけるオキシダントの原因であるので、界面活性剤含有製剤における酸化的反応を刺激する方法としてHを用いることが考えられる。加えて、滅菌製品の充填において用いられるアイソレーター用の防腐剤としてHは用いられてきた。残存Hは薬物製品中に認められる可能性がある。この理由で、Hによる酸化に対する蛋白質の感度を決定するのが重要である。
【0065】
TrpおよびHis酸化は、金属触媒またはフリーラジカル媒介による酸化であると考えられる(Davies et al.1987,Hawkins and Davies 2001)。理論的には、金属−触媒酸化は有用なモデルになると考えられる。しかしながら、実験の設計においては、金属(例えば、鉄または銅)の選択、キレート剤(例えば、EDTA)を加えるか否かの決定は、実験結果の成果に対して多大のインパクトを有する。以下の例は金属が関連する酸化から達成された結果の複雑性を示す。アスコルベート/Cu(II)/Oのような酸化系への金属の添加に関しては、レラキシン中の2つのMetおよび1つのHis残基が酸化され、2つのトリプトファン残基のいずれも酸化されなかった。ウシ血清アルブミンに関しては、フリーラジカルはFe(II)/EDTA/アスコルビン酸系、好ましくはトリプトファンから生じ、他方、Cu(II)/アスコルビン酸(EDTAは除く)、好ましくはヒスチジンから生じた(Uchida K,Agric Biol Chem 53:3285−92,1989)。H/Fe(II)/EDTAおよびH/Cu(II)はアルブミン分解の異なるパターンを生じた(Kocha et al.,Biochim Biophys Acta 1337:319−26(1997))。金属触媒された酸化を介し、α−クリスタリン中のトリプトファンおよびメチオニン残基はH/Fe(II)/EDTAによって酸化された(Finley et al.,Protein Sci.7:2391−7(1998))。
【0066】
医薬の生産の間に、組換え蛋白質は、必然的に、ステンレス鋼に暴露され;かくして、蛋白質溶液は痕跡量の鉄または他の金属を含有するだろう。従って、我々は、我々の薬物候補の酸化能力を評価するためのストレス条件としてFe(II)と共にHを選択する−通常知られているFenton反応―。
【0067】
先の段落で議論したように、金属の存在は酸化の研究の複雑性を増大させる。AAPH(2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩)は金属−イオン独立性の活性酸素種(ROS)生成系である(Niki et al.Methods Enzymology.186:100−8,1990)。規定された速度にて、それは水性好気性溶液中で分解して、アルキルラジカルおよびアルキルペルオキシドを生じる。アルキルペルオキシドの化学的構造および生成は図2に示される。AAPHでの処理は、肝臓蛋白質中のMet、TyrおよびTrb残基の酸化に導いた(Chao et al.,Proc Natl Acad Sci 94:2969−74(1997))。同一の研究において、酸化から誘導されるもう1つのアミノ酸であるジチロシンも検出された。グルタミンシンターゼをAAPHに4時間暴露すると、双方のTrp残基、16のHisの内の2、17のTyrの内の6、および16のMetの内5は失われた(Ma et al.,Arch Biochem Biophys 363:129−134(1999))。これらの2つの報告は、AAPHが、Metに加えて広い範囲のアミノ酸の酸化に導いたことを示した。より最近では、小分子薬物に関しては、共にAAPHと同様なアゾ化合物である、AIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)およびACVA(4,4’−アゾ−ビス−4−シアノ吉草酸)を、酸化的強制分解実験で用いるために評価した(Nelson ED,J Pharm Sci 95:1527−39(2006))。アゾ化合物は再現可能な量のラジカルを金属から独立して生じさせることができるゆえに、AAPHは、特異的にTrp酸化蛋白質を生じさせるその能力についてのモデルオキシダントである。
【0068】
部位非特異的酸化では、副甲状腺ホルモン(1−34)(PTH)を、その最小三次構造(Barden et al.,J Biochem,32:7126−32(1993))および全ての3つの望ましいアミノ酸(1 Trp,2 Metおよび3 His)を含有するその配列、逆相高速液体クロマトグラフィー(rp−HPLC)によってそれをアッセイできる容易性、およびその利用可能性のためモデル蛋白質として選択した。Massachusetts Institute of TechnologyのTroutのグループはHによってのみストレスがかけられたPTHにおけるMet酸化を研究し、Met8およびMet18の異なる酸化速度は2−シェル水配位数に相関することが見出された(Chu et al.,Biochem 43:14139−48(2004)およびJ Pharm Sci 93:3096−102(2004))の1.5倍未満の差は、我々が我々の研究から導いた結論に影響を与えるのに十分有意ではなかった。成長ホルモン(The et al.,J Biol Chem 262:6472−7(1987))およびrhVEGF(Duenas et al.,Pharm Res 18:1455−60(2001))における異なるMet残基の酸化速度は、第一に、異なる程度の溶媒暴露に帰属された。我々は、PTH、成長ホルモンおよびrhVEGF中の十分に溶媒に暴露されたMetの酸化速度が匹敵すると予測する。従って、PTH上の2つのMet残基は全ての蛋白質中の溶媒に暴露されたMetをシミュレートすることができる。ただ1つのTrpによるLC/MSによる分析の容易性はPTHを我々の研究のための良好なモデル蛋白質とする。
【0069】
Fe(II)の有りおよび無しでのH、tBHPは主として2つのMet残基を酸化したが、AAPHおよびH+Fe(II)はMetおよびTrp残基を酸化し、前者は後者よりもTrp[O]種より生じさせることができる。金属独立性フリーラジカルジェネレーターであるAAPHはアルキルペルオキシドを生じさせ、これは、分解したTweenから生じた反応性酸化種をシミュレートした。
【0070】
他方、部位特異的金属触媒酸化は、Hでのみ生じた反応とはかなり異なるだろう。例えば、レラキシンにおいては、Met−B(25)はMet−B(4)よりも速くHと反応した。金属触媒反応によってレラキシンがAsc/Cu(II)と反応した場合には、順序は逆となり、金属結合部位に近いMet−B(4)はより速く酸化される傾向がある(Li et al.,Biochem 34:5762−72(1995))。我々の研究において、我々は、部位特異的金属触媒酸化に感受性の蛋白質として、新生血管(湿潤)年齢関連黄斑変性の治療について示された、ヒト化抗VEGF抗体断片を用いた。なぜならば、我々はTrp50(H2)酸化をEDTAの添加によって阻害することができ、さらに、隣接Hisを突然変異させると、Trp50(H2)が安定となることを見出したからである(製剤における原稿)。また、我々は、乾癬の発生に導くT細胞の活性化、再活性化およびトラフィッキングを選択的かつ可逆的にブロックするように設計されたAn抗CD11a抗体の酸化も研究した。なぜならば、それは、異なるMet[O]生成物が観察された種々の条件において酸化されたからである。しかしながら、これらのストレスがかかった条件下で抗CD11a抗体においてTrp酸化は見出されず、抗VEGF抗体とは非常に異なった挙動である。この理由で、抗CD11a抗体を我々の研究において含めた。
【0071】
B.酸化的分解の予防のための安定化剤のスクリーニング
この研究における鍵となる目的は安定化剤をスクリーニングすることであった。これらのストレス実験において生じた情報は、我々を、医薬上有効な製剤で用いるための新規な安定化剤に導くだろうと予測される。H、H+Fe(II)およびAAPHを用いることによって安定化剤をスクリーニングするのは賢明である。というのは、それらは、各々、防腐剤として通常は用いられるH蒸気からの潜在的攻撃、分解したTweenからのH、およびステンレス鋼表面からの金属、および分解したTweenからのアルキルペルオキシドを表すからである。我々のスクリーニング実験から、我々は、1)遊離メチオニンはHおよびH+Fe(II)に対してPTH酸化を保護し、2)マンニトールおよびEDTHはH+Fe(II)に対して有効であり、3)遊離トリプトファンはAAPHによる酸化に対してのみ効果的であり、他方、TrpおよびMetの組合せは全ての3つのオキシダント条件に対して有効であったと決定した。
【0072】
抗VEGF抗体の酸化は部位−特異的金属−触媒酸化を表す。AAPHは、トラブル適格ロットとしてのIECクロマトグラムにおける塩基性領域において過剰なピークを示した抗−VEGF抗体分解物を生じさせることができよう。遊離Trpは、AEPHによって酸化されると、抗VEGF抗体における酸化を緩和するにおいて有効であった。これらの結果は、遊離Trpが部位−特異的金属−触媒酸化に対して有効であることを示唆する。メチオニン、トリプトファンおよび、恐らくは、ヒスチジンのような全ての不安定なアミノ酸残基が保護されるのを確実とするために、メチオニンおよびトリプトファンの組合せは有効な対策であろう。
【0073】
メチオニンと組合せて良好な安定化剤であるトリプトファン以外に、我々は、trolox(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸;水溶性ビタミン誘導体)および(通常はビタミンB6として知られた)ピリドキシンが、共に、蛋白質中のトリプトファン残基の優れた保護を示したことも証明した(図15および16)。これらの安定化剤の各々は、PTHの0.1mg/mL蛋白質溶液、pH5.0への添加によって、2mg/mL濃度において別々にテストした。引き続いて、1mMのAAPHの添加によって、蛋白質溶液にストレスをかけ、40℃において6時間インキュベートした。troloxまたはピリドキシンの保護がなければ、PTHはそのトリプトファン残基における有意な量の酸化を呈し、他方、troloxまたはピリドキシンの存在下では、トリプトファン残基はよく保護された(図15および16)。これらの結果は、蛋白質中のトリプトファン残基を保護するためにフリーラジカルスカベンジャーを用いる利用性を肯定した。
【実施例】
【0074】
実施例1
蛋白質酸化の実験:酸化的分解メカニズムに対する有効な安定化剤としてのメチオニンおよびトリプトファン
本実施例は、抗体および蛋白質の酸化を妨げるための、単独で、およびメチオニンと組合せたトリプトファンの使用を示す。
【0075】
実験方法
材料:
AAPH(2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩)(ロット番号D00024287)はCalBiochem(Gibbstown,NJ)から購入した。副甲状腺ホルモン(1−34)(SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF,ロット番号U07046A1)はAmerican Peptide Company(Sunnyvale,CA)から購入した。この報告においては、それは単にPTHという。L−メチオニンおよびEDTA二ナトリウム(ロット番号E05643)はJ.T.Baker(Phillipsburg,NJ)から購入した。酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、H、t−BHP、L−トリプトファン(ロット番号1152333)、および塩化第二鉄六水和物(ロット番号53H0619)はSigma−Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。塩化第一鉄五水和物(ロット番号NA1759)はEMD(Gibbstown,NJ)から購入した。マンニトール(G10303,ロット番号139476)およびスクロース(G20244,ロット番号292426)はGenentech,Inc.内で得られた。トリプシン、配列決定グレード(TPCK処理)はPromega(Madison,WI)から購入した。HPLCグレードのアセトニトリル(ACN)および水はFisher Scientific(Fairlawn,NJ)から購入した。試料調製実験で用いた水はMilli−Q Plus精製系(Millipore,Bedford,MA)から得られた。
【0076】
試料の調製
pH5.0の20mM酢酸アンモニウム緩衝液中で1:42(蛋白質:オキシダント)のモル比率で、PTH(0.1mg/mL)を、各々、H、H/Fe(II)、t−BHP、t−BHP/Fe(II)、またはAAPHと混合した。Fe(II)の濃度は0.2mMであった。組成物の詳細は表1中に掲げる。括弧中に示すように、テスト試料、マンニトール(15%)、スクロース(6%)、Met(2mg/mL)、EDTA(0.04%)、およびTrp(2mg/mL)中の最終濃度を各濃度にて安定化剤としてこれらの試料に加えた。抗VEGF抗体試料では、2および10mg/mLのTrp濃度をテストした。40℃における6および24時間のインキュベーションの後に、試料のアリコットをメタノールおよびMetと混合して、rp−HPLC分析、ペプチドマッピング、および液体クロマトグラフィー/質量分析/質量分析(LC/MS/MS)に先立って反応をクエンチした。液体形態の、復元された抗CD11a抗体凍結乾燥製剤を、31mMのAAPHにて92mg/mLでテストした。変性された条件において、6MグアニジンHClを用いて5mg/mL抗CD11a抗体を変性し、1.7mM AAPHを加えた。
【0077】
逆相クロマトグラフィー(rp−HPLC)
実験は、C4(Vydac,214TP,5μ,2.1×250mm)を用いてWaters HPLC機器で行った。溶媒AはHO中の0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)であって、溶媒Bはアセトニトリル中の0.08%TFAであった。試料は、45分以内で、0.2mL/分の流速にて20%Bないし80%Bの直線状グラジエントで分析した。カラムの温度は30℃に設定した。UV検出は214nmに設定した。
【0078】
トリプシン消化
試料のpHは、1M炭酸水素アンモニウムを加えることによって>7.5に調整した。5ミリリットルの0.5mg/mLトリプシンを200μLの試料に加え、次いで、これを37℃にて3ないし4時間インキュベートした。消化は0.1%TFAでクエンチした。
【0079】
トリプシン分解ペプチドマップのLC/MS/MS特徴付け:
トリプシン消化後のPTH試料をAgilent 1200シリーズのHPLCシステムで分離し、ペプチドの質量および配列はオンライン−カップルドLTQ直線状イオン−トラップ・マス・スペクトロメーター(Thermo Electron,San Jose,CA)で決定した。Jupiter Proteo 1.0×150mmカラム(粒子サイズ4μm,ポアサイズ90Å;Phenomenex,Torrance,CA)を用いた;その温度は30℃に制御し、カラム流出物を214nmでモニターした。流速は150μL/分に制御し、用いた移動相は水中の0.1%TFA(A)およびアセトニトリル中の0.1%TFA(B)であった。100μL容量の試料を注入した。(%B当たりの分として表した)最適化されたグラジエントは0/2%、3/2%、10/8%、15/8%、60/40%、61/95%、65/95%、66/2%、および76/2%であった。HPLCからの流出物は、直接、LTQ電子スプレイイオン化源に注入した。正イオンモードの電子スプレイイオン化は、4.5kVの針スプレイ電圧および44Vの毛細管電圧を用いることによって達成された。LC/MS/MS実験において、300ないし2000m/zの範囲の全スキャンを含めた9つのスキャン事象を行い、続いて、4つの最も強いイオンについて4サイクルのズームスキャンおよびMS/MSスキャンを行った。
【0080】
MS/MSスペクトルの解釈およびペプチドの帰属は、BioWorks Browserバージョン3.2ソフトウエア(Thermo Electron)および各マッチした生成物イオンスペクトルの手動による調査を用い、SEQUESTアルゴリズムにて自動データベースサーチで達成した。PTHのFASTA単一蛋白質データベースを作成し、サーチング標的として用いた。酸化生成物の同定のために、酸化−関連修飾を可変なものとして定義した(Trpについては+4,+16,および+32Da;Metについては+16Da;およびPTHに対する、Hisについては+16,−22,および−23Da)。満足された相関−因子値(単一に荷電についてはXc≧1.5,二重に荷電については≧2.0,および三重に荷電されたペプチドイオンについては≧2.5)を持つペプチドマッチを、酸化−修飾ペプチドについての潜在的に有意なマッチとして選択した。引き続いて、マッチしたペプチドイオンのズーム−スキャン・マス・スペクトルおよびMS/MSスペクトルの手動による調査を行って、偽陽性同定を排除した。ズーム−スキャンMSプロフィールを調べて、マッチしたペプチドの電荷状態およびモノアイソトピック質量を確認した。各酸化部位についての酸化レベルを評価するために、対応するペプチドの抽出されたイオンのクロマトグラムを、Xcalibur Qual Browserを用いて手動により積分した。引き続いて、酸化されたペプチドイオンのピーク面積を酸化されたおよび酸化されていないペプチドのピーク面積の総和で割ることによって、酸化の相対的パーセンテージを計算した。
【0081】
結果および考察
部位非特異的酸化、PTH:
金属結合部位を含有しないPTHは、非−部位−特異的酸化を実験するためのモデル蛋白質である。反応は溶媒に暴露された残基に対して起こる。0.1mg/mLのPTHを40℃にて全て1mMのオキシダントと6および24時間反応させた。PTHに対するオキシダントのモル比率は41.2であった。合計5つのオキシダントを用いた、すなわち、Fe(II)の有りまたは無しでのAEPH、HおよびtBHPであった。反応体を表1にまとめる。試料は、rp−HPLCおよびトリプシン分解ペプチドのマッピング、続いての、LC/MS/MS特徴付けによって分析した。
【0082】
【表1】

【0083】
図3は、Hと反応させたPTHのrp−HPLCクロマトグラムを示し、そこでは、Met18−修飾、Met8−修飾、および二重に修飾されたPTH種が検出された。この傾向は、Met8よりも酸化され、続いて、二重に酸化されたMet18でのrp−HPLCによって検出されたように3つのMet−酸化種を報告したChu et al.,Biochem 43:14139−48(2004年)によって作成されたデータと合致する。図4はAAPHと反応したPTHのrp−HPLCクロマトグラムを示し、図3に示されたそれとは非常に異なるパターンを明らかにする。トリプレットピークの2つの組は、PTHおよびMet[O]ピークの間の保持時間に出現した。個々のピークは十分に特徴付けされなかったが、これらの新しいピークはTrp[O]修飾PTH種であったことが、トリプシン消化、続いての、LC/MS/MSによって後に確認された。PTH消化物のトリプシン分解ペプチドマッピングにより、Met酸化生成物に加えて、PTHがAAPHで処理された場合には、M+4、M+32、M+16(ここに、MはPTHのトリプシン分解ペプチドVGWLRの質量である)の分子質量を持つ3つのトリプシン分解ペプチド種が生じたことが判明した。ペプチド種のMS/MSスペクトルの分析の結果、3つのTrp酸化誘導体、すなわち、クヌレニン(M+4)、L−フォルミルクヌレニン(M+32)および5−ヒドロキシトリプトファンまたはOX−インドールアラニン(M+16)としてのそれらの帰属がもたらされた。それらの化学構造は図5に示される。3つのモデルオキシダント(例えば、H,H+Fe(II),およびAAPH)によってPTHをテストするための論理的根拠は先に議論した。tBHPおよびtBHP+鉄もテストした。なぜならば、tBHPは、現在、分解された試料の調製のためのプロトコルにおいて選択されたオキシダントだからである。
【0084】
表2は、これらの分解された試料中でのPTHのMet8およびTrp23の総じての酸化をまとめる。一緒にすると、各々、6時間および24時間処理した場合、PTHのTrp残基の43%および84%がAAPHによって酸化された。よって、図2に示された新しいピークは、Trp[O]修飾PTH種として同定された。実験ではHisの酸化は観察されなかった。トリプシン分解ペプチドを含有する酸化されたMet18は逆相カラムに保持されなかった。表2は、これらの分解された試料中でのPTHのMet8およびTrp23の総じての酸化をまとめる。
【0085】
【表2】

【0086】
これらの結果からの鍵となる観察は以下の通りである:
a.3つの条件、鉄の有りまたは無しでのtBHP、およびHは最小量のTrp酸化を生じた。
b.3つのHis残基のいずれも影響されなかった。
c.AAPHおよびフェントン(Fenton)反応、H+Fe(II)のみがTrp酸化を生じた。
d.種(+4および+32)以外のより多くの+16Trp[O]が生じた。
e.匹敵する程度のレベルTrp酸化に到達するために、6時間のAAPH処理は43%Trp[O]、およびMet8における29%Met[O]を生じ、他方、24時間のH/Fe(II)処理は、35%Trp[O]を生じたが、Met8においてかなりより多くの量(91%)のMet[O]を生じた。この比較は、AAPH処理が、フェントン反応よりもTrp酸化に向けてより特異的であることを示す。
【0087】
ペルオキシド(H,tBHP,または他のROOH種)によるチオエステル(メチオニン)の酸化のメカニズムは、ペルオキシド−プロトン性溶媒複合体上でのスルフィドの1−工程求核攻撃、続いての、一連の強調された電子置換であり、酸素のイオン原子への移動に導き、その結果、Metスルホキシド、Met[O]がもたらされた(Li et al.Biotechnol Bioeng.48:490−500,1995)。この反応メカニズムは、ペルオキシドの酸素が電子親和性であることを示唆する。かくして、t−ブチルのような電子−供与基が、酸素の電子親和性を減少させることによって反応を加速する。この理由で、tBHPが表2においてより少ない量の酸化を生じたという事実は驚くべきことではない。Keck(Anal Biochem 236:56(1996))が、組換えインターフェロンガンマ(rIFN−γ;Actimmune)および組換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(rtPA;アルテプラゼ(alteplase),ACTIVASE(登録商標))を調べた場合に、最初に報告したように、tBHPが暴露されたメチオニンのみを酸化する利点を提供することが指摘されるべきである。PTHにはほとんど三次構造がないので、我々は、PTH中のいずれのMetもt−BHPによって選択的に酸化されると予測しない。
【0088】
求核攻撃のメカニズムは特異的な酸触媒成分を予測させるが、反応速度は、PTHで示されたように、pH2ないし8の範囲においては有意に変化しない(Chu et al.,Proc Natl Acad Sci 94:2969−74(2004))。この理由で、酢酸緩衝液中でpH5を用いて得られたデータは、蛋白質製剤において見出された典型的なpHの範囲であるpH5ないし7に適用できる。
【0089】
AAPHおよびフェントン反応のみがTrp酸化を生じた。この結果は、H単独の求核反応がTrpを酸化させることができないという考えを裏付ける。我々は、我々の実験においてHis酸化を全く観察しなかったので驚いた。ウシ血清アルブミンがFe(II)/EDTH/アスコルベートまたはCu(II)/アスコルベートと反応した場合、前者はTrpに対してより多くの酸化を引き起こし、他方、後者はより多くのHis酸化を引き起こした(Uchida et al.,Agric Biol Chem.53:3285−92(1989))。もう1つの実験室において、AscA/Cu(II)によるレラキシン酸化の結果、同時に、有意な量のHis酸化、および少量のAscA/Fe(III)がもたらされ、TrpまたはTyr酸化はいずれも認められなかった(Li et al.,Biochem 34:5762−72(1995))。双方の実験室からの結果は、H+Fe(II)を用いた場合の、PTHにおけるHis酸化の全くの不存在に矛盾する。His酸化は銅の存在に依存する可能性がある。
【0090】
安定化剤PTHのスクリーニング:
前記分析に基づき、我々は、蛋白質が、図1に示されたいずれかまたは全ての3つの分解メカニズムならびに光誘導酸化を介して酸化的攻撃に感受性であろうと提唱する。H(金属無し)との求核反応は、蛋白質生成物がアイソレーター中で防腐剤として用いられるH蒸気に、またはTweenの分解から得られたHに暴露された場合に観察された酸化反応であり得る(Jaeger et al.,Biophy Method 29:77−81(1994))。微量金属(鉄、銅、またはクロム)を、ステンレス鋼との接触の結果として製剤の溶液に導入した場合、フェントン反応−Fe(II)と共にH−が働く。第三のメカニズムは、分解されたTweenから来るであろうアルキルペルオキシドを介するものである(Jaeger et al.,Biophy Method 29:77−81(1994))。本研究において、AAPHを用いて、アルキルペルオキシドから得られた活性酸素種をシミュレートした(図2)。
【0091】
メチオニン:遊離Metは、鉄が存在するか否かに拘わらず、予測されたように、オキシダントHの効果を中和した。遊離MetはPTH中のMet残基の酸化を有意に低下させた。というのは、Met[O]PTHに対応するピークは出現しなかったからである(図6)。Trp[O]ピークは依然として存在したので、遊離MetはTrpの酸化に対しては効果を有しなかった。
【0092】
マンニトール、スクロース:マンニトールはよく知られたヒドロキシルフリーラジカルスカベンジャーである。図7は、それにH/Fe(II)でストレスをかけた場合の、いずれかのMet[O]およびTrp[O]由来PTHの不存在によって証明されるように、マンニトールによるフェントン反応の完全な保護を示す。しかしながら、AAPHによって、またはHによってストレスをかけた場合、PTHはマンニトールによって全く保護されなかった。なぜならば、マンニトールはアルキルペルオキシドまたはHと反応しないからである。スクロースは、PTHをヒドロキシル・フリー・ラジカルに対して保護する場合にマンニトールよりも有効でなかったことを除いて、同様な結果を生じた。ポリオールは、物理的および化学的双方の分解に対して普遍的な安定化剤と考えられた。Li et al.(Biotech Bioeng 48:490−500(1995年))によるレビューにおいて認められているように、ヘモグロビンはある種の糖を使用して酸化なくして凍結乾燥することができる。AAPHを用いる我々のモデルからの結果は、ポリオールと共に蛋白質はアルキルペルオキシドに直面した場合に保護されないままでいると示唆する。
【0093】
EDTA:図8に示されるように、EDTAは、それにH/Fe(II)によってストレスをかけた場合に、PTHを完全に保護した。この場合、EDTHはフリーラジカルの生成を緩和しないのみならず、Hの酸化的効果も緩和しなかった。EDTHは、それにH単独によってストレスがかけられた場合に、PTHを保護しなかった。豊富なMet[O]−およびTrp[O]PTHピークがあったことを仮定すれば、EDTAはAAPH酸化を悪化させるように見えた。EDTAまたは(EGTAのような)他の金属キレーターの効果の報告は混合されてきた。金属キレーターは金属−触媒反応を増強または阻害し得る。一般化して、EDTAは、それが銅を有効に隔離するゆえに、銅―触媒反応を阻害すると言うことができる。それは鉄についての全ての5つの原子価をカバーできないので、EDTA−鉄錯体は時々非常に反応性である。EDTAをPTHおよびAAPHの反応混合物に加えた場合に、何故より多くの酸化が観察されたかは分からないが、そのような調査は本研究の範囲を超えている。
【0094】
文献に頻繁に記載されているように、イン・ビボでの、Met、TrpまたはHis残基の酸化は、金属触媒酸化(MCO)に帰せられてきた。本実験においては、金属を加えないでAAPHによって酸化されたPTHは有意な量のMetおよびTrpを生じ、これは、MetまたはTrp酸化のいずれも金属触媒のみに依存するのではないことを示唆する。
【0095】
遊離トリプトファン:文献においては、多くの物質がフリーラジカル用のスカベンジャーとして引用されてきた。チオ尿素、メタノールおよび尿酸が例であるが、それらは蛋白質製剤で用いるのに適しない。加えて、ブチル化ヒドロキシル−アニソール(BHA)および−トルエン(BHT)は、脂質からラジカルをクエンチングするのにかなり有効なラジカル鎖反応ターミネーターである。それらの低い水溶性のため、それらは蛋白質の水性製剤で適しない。適切な量の界面活性剤と共に、BHAおよびBHTを水性製剤に導入して、いくらかの酸化的保護を供することができる。
【0096】
非経口製剤中での抗酸化剤としての遊離Trpの使用は文献において言及されてこなかった。遊離Metの使用と同様に、それはPTHを酸化に対して保護し得る。図9は、PTHにAAPHまたはフェントン反応によってストレスを与えた場合、遊離TrpがPTH中のTrp残基の酸化からの良好な保護を提供することを示す。Met[O]PTHピークはAAPHストレスの場合に、顕著であり、フェントン反応の場合にはそうでなかった。遊離Trp単独は、Hによる酸化的ストレスに対して保護を供しなかった。
【0097】
トリプトファンおよびメチオニンの組合せ:この組合せは、全ての3つの酸化的条件下でPTHのほとんど完全な保護を提供した(図10)。遊離TrpおよびMetは、各々、アルキルペルオキシドおよびHの効果を中和するだろうと推定することができる。TrpおよびMetが組合せて用いられる場合、蛋白質製剤は、図1に示される全ての3つのメカニズムによる攻撃、ならびに光誘導酸化に耐えることができるはずである。
【0098】
前記した分析は、各rp−HPLCクロマトグラムでのピークの定性的調査から得られた。AAPHおよびフェントン反応によって酸化された試料をトリプシン分解ペプチドマッピングおよびLC/MS/MS特徴付けによる更なる定量的および残基特異的分析に付した。質量シグナルの対応するEIC(抽出イオンクロマトグラム)を積分することによって得られた相対的定量の結果によると、遊離Met単独はMet酸化を有意に抑制し、遊離Trp単独はTrp酸化を有意に抑制した(図11)。TrpおよびMetの組合せは、AAPH(図11)またはフェントン反応(図12)による酸化に対して最も有効な保護を提供した。
【0099】
部位特異的金属触媒酸化:
抗VEGF抗体のTrp50酸化は、適格なロットが、30℃にて1ヶ月間貯蔵した時により高い程度の種ピークの喪失を示した場合に最初に認められた。Trp50に対する自己触媒的酸化は、後に、貧弱に扱われたTween20によって引き起こされたことが示され、その結果、主ピークの喪失およびIEC分析における塩基性ピークの増大がもたらされた。更なる実験は、Hが抗VEGF抗体酸化を引き起こさず、かくして、IECクロマトグラフィーパターンに対する変化をもたらさなかったことを示した。安定化剤としてのEDTAの添加、および近くのHisの突然変異の結果、Trp酸化に関して抗VEGF抗体の改良された安定性がもたらされた。これらのデータに基づくと、抗VEGF抗体の酸化は部位−特異的金属触媒反応である可能性がある。
【0100】
抗VEGF抗体溶液へのAAPHの添加は、IECクロマトグラムの塩基性領域において、更なるピークも生じさせ、問題がある適格ロットによって示されるように、これらのピークは、フリーラジカルにより生じた抗VEGF抗体分解体を表した(図13)。分解した蛋白質のこれらのピークは適格ロットからの分解したピークの匹敵する位置にあるが、プロフィールは同一でない。更なる分析は、これらのピークがTrp酸化に関連するか否かを確認する必要がある。
【0101】
IECクロマトグラムにおける塩基性ピークの不存在によって証明されるように、製剤への遊離トリプトファンの添加はAAPHに対する優れた保護を提供した(図14)。抗VEGF抗体におけるMet残基はHによって酸化させることができないゆえに、遊離Metは抗VEGF抗体には必要でないであろうと予測するのは合理的である。
【0102】
Trp酸化が予測されない場合の抗CD11a抗体:
抗CD11a抗体中のMet残基の酸化は広範に研究されてきた。抗CD11a抗体は4つの反応性メチオニン−Met256、Met432、Met362およびMet50を有する(重鎖)。表3は、H、tBHP、および熱ストレスがMet256および、程度はより低いが、Met50の酸化を引き起こしたことを示す。金属(恐らくは、ステンレス鋼タンクからの溶解した金属)の存在下においては、Met50における酸化はMet256のそれと匹敵するレベルまで増大した。酸化はLys−Cペプチドマッピングによって測定された。反応性の順序の差は、適用された酸化ストレスのタイプに依存した。
【0103】
【表3】

【0104】
AAPHを抗CD11a抗体に加えると、Met50のレベルが増大し、ステンレス鋼タンクにおける反応およびAAPHとの反応が匹敵することを示唆し、共に、Met50における増大した酸化をもたらす(表4)。Met50は、金属またはフリーラジカルが関係する場合、酸化の部位であると推定することができる。これらの条件下では、Trp、HisまたはTyr残基は酸化されなかったのに注意するのは非常に重要である。しかしながら、変性剤を用いた場合には、Trpは種々の場所において酸化することができる。
【0105】
【表4】

【0106】
蛋白質に対するオキシダントの比率が増大した場合、および蛋白質の三次構造がグアニジンの添加によって乱された場合、AAPHによるTrp残基の酸化は豊富であった。更に、これらの条件下で、Met50の優先的な酸化は観察されなかった(データは示さず)。これらの結果は、更に、モデル酸化剤としてのAAPHの使用を裏付ける。適切なオキシダント/蛋白質比率を用いた場合、AAPHは信頼性良くTrp酸化を引き起こす。抗CD11a抗体であてはまるように、通常の取扱い条件がTrp酸化を生じさせない場合、AAPHはTrp酸化を引き起こさない。
【0107】
結論
本報告において我々は、AAPHが蛋白質中のTrp残基を酸化することができる良好なモデルオキシダントであることを示した。H、H+鉄およびAAPH(図1)を一緒に用いて、MetおよびTrp残基の酸化に対する保護についての安定化剤をスクリーニングするのが賢明である。この系は、蛋白質製剤の製造および貯蔵の間に起こるかも知れない全ての可能な酸化的経路の改良されたシミュレーションを可能とする。抗−VEGF抗体の分解は、金属触媒酸化として別々に示された。
【0108】
また、我々は、遊離Trpが、蛋白質含有製剤に加えられると、トリプトファン残基の酸化を有効にブロックしたことを最初に示した。AAPHを用いることによってシミュレートされた酸化的ストレスの下では、トリプトファンはThe抗VEGF抗体における酸化的反応を有効にブロックした。この結果は、遊離Trpが部位−特異的金属−触媒酸化に対して有効であることを示唆する。Met、Trpおよび、可能性として、Hiのような全ての不安定なアミノ酸残基が保護されることを確実とするためには、MetおよびTrpの組合せを考慮すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質、遊離メチオニン、および前記蛋白質内の芳香族アミノ酸残基の酸化を妨げることができる1以上の化合物を含む医薬製剤。
【請求項2】
前記蛋白質がペプチド、蛋白質、抗体およびそのアナログよりなる群から選択される請求項1記載の製剤。
【請求項3】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項2記載の製剤。
【請求項4】
前記蛋白質が抗VEGFモノクローナル抗体である請求項1記載の製剤。
【請求項5】
前記蛋白質が抗血管形成特性を有する請求項1位記載の製剤。
【請求項6】
前記蛋白質が抗CD20モノクローナル抗体である請求項1記載の製剤。
【請求項7】
前記蛋白質が抗CD11aモノクローナル抗体である請求項1記載の製剤。
【請求項8】
前記蛋白質が酸化に対して感受性である請求項1記載の製剤。
【請求項9】
前記蛋白質が凝集に対して感受性である請求項1記載の製剤。
【請求項10】
前記蛋白質内の前記芳香族アミノ酸残基がトリプトファン、ヒスチジン、チロシン、およびフェニルアラニンよりなる群から選択される請求項1記載の製剤。
【請求項11】
水性である請求項1記載の製剤。
【請求項12】
酸化を妨げることができる前記化合物が非経口注射に適している請求項1記載の製剤。
【請求項13】
前記化合物が薬理学的効果に寄与しない請求項1記載の製剤。
【請求項14】
前記化合物が遊離芳香族アミノ酸またはそのアナログを含む請求項1記載の製剤。
【請求項15】
前記芳香族アミノ酸がトリプトファン、ヒスチジン、チロシン、およびフェニルアラニンよりなる群から選択される請求項11記載の製剤。
【請求項16】
前記化合物がトリプトファンである請求項1記載の製剤。
【請求項17】
前記トリプトファンが、約0.1ないし10mg/mlの範囲の量で前記製剤に存在する請求項13記載の製剤。
【請求項18】
遊離トリプトファンを1以上の別の芳香族アミノ酸と合わせた請求項1記載の製剤。
【請求項19】
前記化合物が遊離ヌクレオチドまたはそのアナログを含む請求項1記載の製剤。
【請求項20】
前記遊離ヌクレオチドが、約0.1ないし10mg/mLの範囲の量で前記製剤に存在する請求項17記載の製剤。
【請求項21】
1以上の遊離ヌクレオチドが1以上の遊離芳香族アミノ酸と組み合わせられた請求項1記載の製剤。
【請求項22】
前記化合物が1以上のビタミンまたはビタミン誘導体を含む請求項1記載の製剤。
【請求項23】
前記ビタミンまたはビタミン誘導体が6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸である請求項19記載の製剤。
【請求項24】
前記ビタミンまたはビタミン誘導体がピリドキシンである請求項19記載の製剤。
【請求項25】
前記抗酸化剤ビタミンまたはビタミン誘導体を、約0.1ないし10mg/mlの範囲の量で製剤に存在する請求項19記載の製剤。
【請求項26】
更に、界面活性剤を含有する請求項1記載の製剤。
【請求項27】
更に、マンニトールを含有する請求項1記載の製剤。
【請求項28】
哺乳動物において疾患または障害を予防または治療する方法であって、請求項1記載の製剤を、前記疾患または障害を予防または治療するのに有効な量にて前記哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項29】
請求項1記載の製剤を調製し、次いで、前記製剤中の蛋白質の物理的安定性、化学的安定性、または生物学的活性を評価することを含む、医薬製剤の製造方法。
【請求項30】
蛋白質の医薬組成物を安定化させる方法であって、メチオニンおよび1以上の化合物を、前記蛋白質内の芳香族アミノ酸の酸化を阻害するのに十分な量にて前記組成物に加えることを含む方法。
【請求項31】
一定量の界面活性剤を、蛋白質組成物、および前記界面活性剤の分解から生じた酸化的種をなくするのに十分な量の化合物に加えることを含む、医薬製剤の製造方法。
【請求項32】
芳香族アミノ酸、ヌクレオチド、およびビタミンまたはその誘導体よりなる群から選択される1以上の化合物と組合せてメチオニンを加えることを含む、感受性の蛋白質内の芳香族アミノ酸残基の酸化を妨げる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2012−502102(P2012−502102A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526940(P2011−526940)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/056365
【国際公開番号】WO2010/030670
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】