説明

蛋白質相互作用解析用プローブ及びそれを用いた蛋白質相互作用の解析方法

二つの蛋白質間の相互作用を解析するためのプローブであって、少なくともレニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドを含むプローブAと、少なくともレニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドを含むプローブBの二つのプローブからなる蛋白質相互作用解析用プローブを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この出願の発明は、生細胞内の、どこで、いつ蛋白質−蛋白質相互作用が生起したかを検出・定量するための蛋白質相互作用解析用プローブと、それを用いた蛋白質−蛋白質相互作用の解析方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、生細胞内や個体内における種々の蛋白質−蛋白質相互作用に関わる細胞内シグナル増強/抑制物質を、精度高く、高速にスクリーニングすることを可能とする蛋白質相互作用解析用プローブと、それを用いた蛋白質−蛋白質相互作用解析方法に関するものである。
【背景技術】
生細胞の構築や機能においては、蛋白質−蛋白質相互作用が重要な役割を果たしていることが知られている。また、遺伝子の転写機構や細胞内シグナル伝達などにおいても、蛋白質相互作用が関連することが知られている。
従来、蛋白質−蛋白質相互作用を解析するための方法としては、スプリット酵素法が報告されている(Rossi,F.,Charlton,C.A.and Blau,H.M.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,94,8405−8410,1997;Remy,I.,and Michnick,S.W.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,5394−5399,1999;Pelletier,J.N.,Arndt,K.M.,Pluckthun,A.,and Michnick,S.W.,Nature Biotech.17,683−690,1999;Karimova,G.,Pidoux,J.,Ullmann,A.,and Ladant,D.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95,5752−5756)。この方法では、開裂した酵素が蛋白質−蛋白質相互作用により再構築され、それにより復旧された酵素活性を菌や細胞の表現型、あるいは蛍光性酵素基質によって測定して蛋白質−蛋白質相互作用を検出する。
しかし、このようなスプリット酵素法では、酵素反応に時間を要する上、酵素反応により産生された蛍光性酵素基質が安定な物質であり、細胞内において拡散するため、蛋白質相互作用が起きた場所や時を細胞内で特定できないという問題があった。
そこで、この出願の発明者らは、あらゆる蛋白質について高い精度で簡便に蛋白質−蛋白質相互作用を解析できるプローブとして、蛋白質相互作用により生起するプロテインスプライシングにより発光酵素やGFPが生成され、発光酵素などの酵素活性やGFPのフルオロフォアが再生される蛋白質相互作用解析用プローブを作成し、報告している(特願2000−224939;PCT/JP00/09348)。
しかし、酵素の蛍光性生成物やGFPなどのフルオロフォアは拡散性であるため、このような蛋白質相互作用解析用プローブでも、蛋白質−蛋白質相互作用がいつ、どの部位で生じたのかを特定することは困難であったのが実情である。
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、生細胞内の、どこで、いつ蛋白質−蛋白質相互作用が生起したかを検出・定量するためのプローブと、それを用いた蛋白質−蛋白質相互作用の解析方法を提供することを課題としている。
【発明の開示】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、二つの蛋白質間の相互作用を解析するためのプローブであって、少なくともレニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドを含むプローブAと、少なくともレニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドを含むプローブBの二つのプローブからなることを特徴とする蛋白質相互作用解析用プローブを提供する。
この出願の発明は、第2には、前記の蛋白質相互作用解析用プローブに関連して、inteinのN−末端側のポリペプチドとレニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドを含むプローブAと、inteinのC−末端側のポリペプチドとレニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドを含むプローブBの二つのプローブからなる蛋白質相互作用解析用プローブを提供する。
この出願の発明は、また、第3には、レニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドと、レニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドに、各々リンカー配列が結合している前記いずれかの蛋白質相互作用解析用プローブを、第4には、リンカー配列が3〜20アミノ酸残基からなるものである前記の蛋白質相互作用解析用プローブを提供する。
さらに、この出願の発明は、第5には、レニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドとレニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドが、レニラルシフェラーゼを Ser91とTyr92の間で分割して得られるものである前記いずれかの蛋白質相互作用解析用プローブを提供する。
この出願の発明は、さらに、第6には、前記いずれかのプローブAを連結した蛋白質aと前記いずれかのプローブBを連結した蛋白質bを、セレンテラジンと酸素の存在下で共存させ、発光を測定することを特徴とする蛋白質相互作用の解析方法を提供する。
また、この出願の発明は、第7には、前記いずれかのプローブAを連結した蛋白質aと前記いずれかのプローブBを連結した蛋白質bを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入することによりプローブAを連結した蛋白質aとプローブBを連結した蛋白質bをセレンテラジンと酸素の存在下で共存させる蛋白質相互作用の解析方法を提供する。
この出願の発明は、第8には、前記いずれかのプローブAを連結した蛋白質aと前記いずれかのプローブBを連結した蛋白質bを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞においてプローブAを連結した蛋白質aとプローブBを連結した蛋白質bをセレンテラジンと酸素の存在下で共存させる蛋白質相互作用の解析方法を提供する。
さらに、この出願の発明は、第9には、前記いずれかのプローブAを連結した蛋白質aと前記いずれかのプローブBを連結した蛋白質bを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって得られる非ヒト動物またはその子孫動物を提供する。
そして、第10には、前記非ヒト動物またはその子孫動物に検査試料を導入し、該非ヒト動物またはその子孫動物の細胞における蛋白質相互作用を解析する物質のスクリーニング方法をも提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブの一例とその作用原理を表す概略模式図である。
図2は、この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブの別の例とその作用原理を表す概略模式図である。
図3は、この出願の発明の実施例において使用されたレニラルシフェラーゼのアミノ酸配列と分割部位を示した概略模式図である。
図4は、この出願の発明の実施例において使用されたスプリットレニラルシフェラーゼ融合蛋白質(sRL)のプラスミドの構成を示した図である。(a:hRL124C/A、b:sRL、c:sRL91のN−末端側、d:sRL91のC−末端側、e:sRL91F)
図5は、この出願の発明の実施例において、レニラルシフェラーゼの分割箇所と、蛋白質相互作用により生起した発光の関係を示した図である。(a:インスリンの存在下における発光とインスリンの非存在下における発光の比、b:全長レニラルシフェラーゼ(hRL124C/A)による発光強度に対する各蛋白質相互作用解析用プローブの相対発光強度)
図6は、この出願の発明の実施例において、sRL91Fを用いた際のインスリン存在下および非存在下での発光強度を示した図である。(a:sRL91F、b:sRL91のN−末端側のみ、c:sRL91FのC−末端側のみ)
図7は、この出願の発明の実施例において、sRL91を用いた際のインスリンの添加量とY941とSH2nの間の相互作用の経時変化を示した図である。
図8は、この出願の発明の実施例において、sRL91を用いた際のインスリン添加後のY941とSH2nの相互作用の経時変化をイムノブロッティングにより示した図である。
図9は、この出願の発明の実施例において、CHO−IR細胞の顕微鏡像を示す写真である。(a:sRL91を発現したCHO−IR細胞においてインスリン刺激の非存在下、b:10−7Mインスリン刺激の存在下、c:全長レニラルシフェラーゼ(hRL124C/A)を発現したCHO−IR細胞)
図10は、アダプタープロテインShcとGrbの相互作用機構を示した概略模式図である。
図11は、この出願の発明の実施例において、Shcの3カ所のチロシン基をフェニルアラニン基に、PTBドメイン内のセリン基をプロリン基に置換した各種変異体とGrb2との相互作用を定量的に評価した結果を示した図である。(a:EGF、b:E2、c:DHT、d:DES添加)
なお、図中の各符号は次のものを示す。
1 蛋白質相互作用解析用プローブ
1a プローブA
1b プローブB
1c プローブC
1d プローブD
2 レニラルシフェラーゼ
2a N−スプリットレニラルシフェラーゼ
2b C−スプリットレニラルシフェラーゼ
3a 蛋白質a
3b 蛋白質b
4 生物発光
5a リンカー配列
5b リンカー配列
6a inteinのN−末端側のポリペプチド
6b inteinのC−末端側のポリペプチド
I 共存
II 相互作用
III 再構成
III’ 切り出し
IV 酸化分解
V 発光
【発明を実施するための最良の形態】
この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブは、標識物質としてレニラルシフェラーゼを用いることを特徴とするものである。
レニラルシフェラーゼ(Lorenz,W.W.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88,4438−4442(1991).)(配列番号1)は、ホタルルシフェラーゼの約半分の分子量(36kDa)を有するモノマー蛋白質であり、哺乳類細胞内で容易に発現することが知られている。また、レニラルシフェラーゼの結晶構造は不明であるが、ルミネッセンス活性のためにはN−末端といくつかのシステイン残基が重要であり(Paulmurugan,R.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,15608−13(2002);Liu,J.et al.Gene 203,141−148(1997).)、レニラルシフェラーゼの酵素反応は、ホタルルシフェラーゼの場合とは異なり、ATPを必要としない(Liu,J.& Escher,A.Gene 237,153−159(1999).)ことが知られている。さらに、ルシフェラーゼの基質であるセレンテラジンは哺乳類の細胞膜を貫通し、細胞基質中に急速に拡散することも知られている(Contag,C.H.& Bachmann,M.H.Annu.Rev.Biomed.Eng.4,235−260(2002);Greer,L.F.& Szalay,A.A.Luminescence 17,43−74(2002).)。
レニラルシフェラーゼは、溶存酸素存在下においてセレンテラジンの励起状態化合物(オキシセレンテラジンモノアニオン)への酸化を触媒し、組織透過性を有する近赤外線領域(400nm〜630nm)の広いバンドのルミネッセンスを発し、セレンテルアミドと二酸化炭素を生じさせる。
この出願の発明者らは、このようなレニラルシフェラーゼの酵素反応に着目し、生細胞のどこで、いつ蛋白質相互作用が起こったのかを精度高く検出できるプローブを実現することを目的として鋭意研究を進めた結果、本願発明に至ったのである。
図1および図2にこの出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブの構成と作用原理を示した。
この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブ(1)は、図1に示されるように、少なくともレニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチド(2a)を含むプローブA(1a)と、少なくともレニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチド(2b)を含むプローブB(1b)からなるものである(以下、このように分割されたレニラルシフェラーゼのN−およびC−末端をN−スプリットレニラルシフェラーゼ、C−スプリットレニラルシフェラーゼと呼ぶことがある。)。
そして、この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブを用いて蛋白質相互作用を解析するには、プローブA(1a)およびプローブB(1b)を各々、その相互作用を調べたい二つの蛋白質aおよびb(3aおよび3b)に結合し、これらをセレンテラジンと溶存酸素の存在下で共存させる(I)。このとき、蛋白質(3a)および(3b)が相互作用する(II)と、プローブA(1a)およびB(1b)におけるN−スプリットレニラルシフェラーゼ(2a)とC−スプリットレニラルシフェラーゼ(2b)が近位に並置され、レニラルシフェラーゼ(2)の再構成が起こる(III)。そして、このレニラルシフェラーゼ(2)が発光触媒酵素として作用し、瞬時に、セレンテラジンを酸化分解し(IV)、生成される励起カルボニル基が基底状態に戻るときのエネルギーが生物発光(4)として放出されるのである(V)。したがって、この生物発光(4)を検出することにより蛋白質−蛋白質相互作用を解析することが可能となる。
以上のとおりのこの出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブ(1)において、プローブA(1a)とプローブB(1b)は、各々、N−およびC−スプリットレニラルシフェラーゼのみからなるものであってもよいが、それぞれさらに、inteinのN−末端側のポリペプチド(6a)とinteinのC−末端側のポリペプチド(6b)を含有していてもよい。
すなわち、この場合、図2に示されるように、蛋白質相互作用解析用プローブ(1)において、プローブAは、inteinのN−末端側のポリペプチド(6a)とレニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチド(2a)を含むもの(以下プローブA’と呼ぶ)(1c)となり、プローブBは、inteinのC−末端側のポリペプチド(6b)とレニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチド(2b)を含むもの(以下プローブB’と呼ぶ)(1d)となる。
このような蛋白質相互作用解析用プローブを用いて蛋白質相互作用解析を解析するには、プローブA’(1c)およびプローブB’(1d)を各々相互作用を調べたい蛋白質aおよびb(3aおよび3b)に結合し、共存させる(I)。このとき、蛋白質(3aおよび3b)が相互作用すれば(II)、スプライシングが起こり、各スプリットレニラルシフェラーゼ(2a、2b)が連結してレニラルシフェラーゼ(2)が再構成される(III)。
このとき、系内にセレンテラジンと酸素が共存していると、切り出された(III’)レニラルシフェラーゼ(2)を発光触媒酵素として、瞬時に、膜透過性基質であるセレンテラジンの酸化分解が起こり(IV)、励起カルボニル基が基底状態に戻るときのエネルギーが生物発光(4)として放出される(V)。したがって、この生物発光(4)を検出することにより蛋白質−蛋白質相互作用を解析することが可能となる。
一方、蛋白質a(3a)と蛋白質b(3b)が相互作用(II)しなければ、inteinのスプライシングが起こらないため、レニラルシフェラーゼ(2)は再構成(III)されず、生物発光(4)に顕著な変化が現れない。
この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブにおいて使用されるinteinとしては、種々の生物由来の公知物質が適用できる。例えば、Saccharomyces cerevisiae(酵母)Sce VMA、Candida tropiallis(ガンジタ菌)Ctr VMAなどに代表される真核生物由来のもの、Mycobacterium tuberculosis(結核菌)Mtu recAなどの真正細菌由来のもの、Thermoplasma asidophilum(サーモプラスマアシドフィラム)Tac VMAなどの古細菌由来のもの等が挙げられる。
この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブ(1c、1d)において、蛋白質a(3a)と蛋白質b(3b)の相互作用によりinteinが自動的に切り出されるためには、inteinは、部位特異的エンドヌクレアーゼであることが好ましい。さらに、この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブ(1c、1d)において、inteinのスプライシングが有効に起こるためには、蛋白質前駆体において、スプライシングに関与する二つの部位が隣接するように、正しく折り畳まれ、かつ、各部位が正確に並べられなければならない(Duan,X.,Gimble,F.S.and Quiocho,F.A.,Cell 89,555−564,1997)。したがって、inteinとしては、生物由来のものをそのまま用いてもよいが、一部のアミノ酸残基を変換したり、削除したり、適当なリンカー配列を導入したりして、スプライシングが起こりやすいように設計されてもよい。
以上のとおりのこの出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブでは、プローブA(1a)およびプローブB(1b)は、各々、N−およびC−スプリットレニラルシフェラーゼのみからなるものであってもよいが、それぞれの末端にリンカー配列(5a、5b)を有していてもよい。このようにリンカー配列(5a、5b)を有する場合には、プローブA(1a)とプローブB(1b)はこれらのリンカー配列(5a、5b)を介して蛋白質(3a、3b)と結合する。リンカー配列(5a、5b)としては、各種のものが例示され、とくに限定されないが、例えば3〜20アミノ酸残基からなるもの、具体的には、グリシン−アラニン繰り返し配列を有するもの等が挙げられる。
また、同様に、プローブA’(1c)およびプローブB’(1d)は、各々、inteinのN−またはC−末端側のポリペプチド(6a、6b)とN−またはC−スプリットレニラルシフェラーゼ(2a、2b)のみからなるものであってもよいが、これら以外に、前記と同様のリンカー配列(5a、5b)等を含んでいてもよい。つまり、プローブA’(1c)およびプローブB’(1d)においてinteinのポリペプチド(6a、6b)とスプリットレニラルシフェラーゼ(2a、2b)は、直接結合されていてもよいし、リンカー配列(5a、5b)を介して結合されていてもよいのである。
この出願の発明の蛋白質相互作用解析用プローブ(1)において、用いられるN−およびC−スプリットレニラルシフェラーゼ(2aおよび2b)とは、レニラルシフェラーゼを適当な位置で分割したN−末端側と残るC−末端側を意味するが、これらN−およびC−スプリットレニラルシフェラーゼ(2aおよび2b)は、蛋白質aおよびb(3a、3b)の相互作用(III)により、あるいは、蛋白質aおよびb(3a、3b)の相互作用により生じるintein(6)のスプライシングにより、直接ペプチド結合し、再構成(IV)されるものである。
したがって、このようなN−およびC−スプリットレニラルシフェラーゼ(2aおよび2b)が再構成(IV)前(個々のとき)には発光活性を示さず、再構成により酵素活性を取り戻すようにするために、活性中心を2つに分割するような分け方をする必要がある。具体的には、レニラルシフェラーゼをシステイン(Cys)、セリン(Ser)、またはチロシン(Tyr)の位置で分割することを試みた。
なお、後述の実施例にも示されるとおり、発明者らの研究によれば、プローブA(またはA’)におけるN−スプリットレニラルシフェラーゼを、ルシフェラーゼをSer91とTyr92の間で分割して得られるN−スプリットレニラルシフェラーゼとし、残るC−末端側を、プローブB(またはB’)におけるC−スプリットレニラルシフェラーゼとすることにより、とくに精度高い検出が可能となる。
この出願の発明では、以上のとおりの蛋白質相互作用解析用プローブが提供されるが、これを用いて蛋白質−蛋白質相互作用を解析するには、前記のとおり、一方のプローブ(例えばプローブA)を相互作用を確かめたい一方の蛋白質aに連結させ、もう一方のプローブ(プローブB)を相互作用を確認したいもう一方の蛋白質bに連結して両者を共存させ、生物発光(4)を検出、測定すればよい。なお、このとき、各蛋白質(3a、3b)とプローブ(1a、1b、1c、1d)の連結方法は、蛋白質やプローブに影響を及ぼさなければどのような方法であってもよい。例えば、通常用いられる化学的、生物化学的、あるいは、遺伝子工学的手法等が適用できる。
この出願の発明では、以上のとおりの蛋白質相互作用解析用プローブをセレンテラジンと酸素の存在下で共存させる方法としては、蛋白質相互作用解析用プローブ(1aおよび1b、または1cおよび1d)を各々相互作用を確認した蛋白質aおよびb(3a、3b)に結合させ、それらをセレンテラジンを含有する溶液に添加して共存させる方法があげられる。このような方法で蛋白質−蛋白質相互作用を解析をin vitroで検出・定量できる。
また、この出願の発明では、蛋白質相互作用解析用プローブ(1)におけるプローブA(1a)を連結した蛋白質aとプローブB(1b)を連結した蛋白質b、または蛋白質相互作用解析用プローブA’(1c)を連結した蛋白質a(3a)とプローブB’(1d)を連結した蛋白質b(3b)を組み込んだ発現ベクターを、個々の培養細胞に導入する方法により、蛋白質aおよびb(3a、3b)をセレンテラジンおよび酸素と共存させることができる。なお、酸素は細胞内に存在する濃度で十分であり、新たに酸素を供給する必要はない。
このとき、発現ベクターとしては、動物細胞発現用のプラスミドベクターが好ましく用いられる。このようなプラスミドベクターを細胞に導入する方法としては、電気穿孔法、リン酸化カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法を採用することができる。このように、蛋白質相互作用解析用プローブ(1aと1b、または1cと1d)を連結した蛋白質(3aと3b)を組み込んだ発現ベクターを細胞に導入する方法を用いることにより、細胞内で蛋白質相互作用解析用プローブ(1)、蛋白質(3)、セレンテラジンおよび酸素が共存でき、細胞を破壊することなく、蛋白質−蛋白質相互作用を検出・定量するin vivo法が可能となる。
さらに、この出願の発明の蛋白質相互作用の解析方法では、蛋白質相互作用解析用プローブA(1a)を連結した蛋白質a(3a)とプローブB(1b)を連結した蛋白質b(3b)、または蛋白質相互作用解析用プローブA’(1c)を連結した蛋白質a(3a)とプローブB’(1d)を連結した蛋白質b(3b)を発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞において蛋白質相互作用解析用プローブ(1)、蛋白質(3)、セレンテラジンおよび酸素を共存させることもできる。このとき、酸素は、生体内に存在する濃度で十分であり、新たに添加する必要はない。
なお、この出願の発明では、このようにして得られるトランスジェニック非ヒト動物をも提供する。トランスジェニック非ヒト動物は、公知の作成法(例えばProc.Natl.Acad.Sci.USA 77;7380−7384,1980)に従って作成することができる。このようなトランスジェニック非ヒト動物は、すべての体細胞に蛋白質相互作用解析用プローブ(1)と蛋白質(3)を保有しているため、例えば、その体内に医薬品や毒物などの試料物質を導入し、細胞および組織における蛋白質相互作用を解析することによって、蛋白質−蛋白質相互作用に関わる細胞内シグナル増強/抑制物質を精度高くスクリーニングすることができる。
この出願の発明の蛋白質−蛋白質相互作用の解析方法では、前記のとおりの作用原理および操作により発せられるルミネッセンス(生物発光)(4)を検出することにより蛋白質−蛋白質相互作用が起こったことを確認できる。また、レニラルシフェラーゼによる生物発光は組織透過性であることから、細胞内での発光を観察して画像化すれば、蛋白質−蛋白質相互作用が起こったタイミングのみならず、部位をも特定できる。さらに、特定の試料の添加や濃度など、条件を変化させた際の発光強度の変化を測定することにより、蛋白質−蛋白質相互作用を定量することもできる。さらにまた、発光強度の変化を経時的に測定することにより、蛋白質−蛋白質相互作用の開始から終了までを追跡することもできる。
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
蛋白質のリン酸化に伴って、Y941ペプチド(配列番号2)とN−末端SH2ドメイン(SH2n)の間で生じる、公知の蛋白質−蛋白質相互作用(Ozawa,T.et al.Anal.Chem.73,2516−2521(2001);Sato,M.et al.Nat.Biotechnol.20,287−294(2002);Sato,M.et al.Anal Chem.71,3948−3954(1999).)について、本願発明の蛋白質相互作用解析用プローブを用いて可視化した。
なお、以下の実施例において、試薬は次のものを使用した。
制限酵素、修飾酵素およびリガーゼは Takara Biomedicals(東京、日本)から購入した。
哺乳類において最も頻繁に用いられるコドンを含むレニラルシフェラーゼをコードする、合成レニラルシフェラーゼ遺伝子ベクター(hRL−CMV)およびレニラルシフェラーゼアッセイキットはPromega Co.(Madison、WI)から購入した。
哺乳類の発現ベクターであるpcDNA3.1(+)およびpIRESは、それぞれInvitrogen(Groningen、オランダ)およびClonetech(Palo Alto、CA)より入手した。
Ham’s F−12培地、ウシ胎児血清(FBS)およびLipofectAMINEはGibco BRL(Rockville、MD)から入手した。
抗myc抗体、抗flag抗体および抗リン酸化チロシン抗体(PY20)はSanta CruzBiotechnology,Inc.(Santa Cruz、CA)より購入した。
アルカリホスファターゼ標識化抗ウサギおよび抗マウス抗体は、Jacson ImmunoResearch Lab.,Inc.(Pennsylvania、PA)より購入した。
ニトロセルロース膜はAmersham Pharmacia Biotech(Buckinghamshire、イギリス)より入手した。
CDP−STARの化学ルミネッセンス基質はNew England Biolabs.Inc.(Beverly、MA)より購入した。
<実施例1> 蛋白質相互作用解析用プローブの最適化
インスリン受容体基質−1(insulin receptor substrate−1:以下、IRS1)由来のY941ペプチド内の941チロシン残基は、インスリン刺激されると、インスリン受容体によりリン酸化され、チロシンホスファターゼにより脱リン酸化される(Sato,M.et al.Anal Chem.71,3948−3954(1999);Pratipanawatr,W.et al.Diabetes 50,2572−2578(2001).)。また、ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼのp85サブユニット(p85 330−429)由来のSH2nは、IRS1内部のリン酸化された941−チロシン残基に結合する(Yoshimura,R.et al.Diabetes 46,929−936(1997);Golstein,B.J.et al.J.Biol.Chem.1275,4283−4289(2000).)。
(1)プラスミドの構築
レニラルシフェラーゼの遺伝子をシステイン、セリンおよびチロシン近傍の8箇所で分割し、2個の不活性なフラグメント(N−スプリットレニラルシフェラーゼ、C−スプリットレニラルシフェラーゼ)にした。
配列番号1および図3にレニラルシフェラーゼのアミノ酸配列と分割部位を示した。なお、本実施例においては、レニラルシフェラーゼ(hRL)の124−システイン残基がアラニンに置換され、ルミネッセンス活性が増大されたレニラルシフェラーゼ変異体(hRL124C/A:配列番号3)(Liu,J.et al.Gene 203,141−148(1997).)を用いた。
N−スプリットレニラルシフェラーゼ(hRLn)およびC−スプリットレニラルシフェラーゼ(hRLc)を、それぞれ蛋白質(Y941とSH2n)に結合させた。各スプリットレニラルシフェラーゼ融合蛋白質(sRL)のプラスミドの構成を図4に示した。なお、これらのプラスミドは、いずれも開始コドン上流にCMV−プロモーター配列を有するものとした。
Y941のアミノ酸配列はTEEAYMKMDLGPG(配列番号2)であり、これはIRS1内部のチロシンリン酸化ドメインとなっている。SH2nはウシホスファチジルイノシトールのp85サブユニットのN−末端SH2ドメインである。また、図4において、点線部分はリボソーム内部進入部位(IRES)を示す。さらに、sRLは、いずれも(翻訳終了コドン)−(リボソーム内部進入部位)−(翻訳開始コドン)より構成されるカセットを有するものとした。
さらに、蛋白質−蛋白質相互作用が生じた際に、N−およびC−スプリットレニラルシフェラーゼが確実に近接するようにするために、N−スプリットレニラルシフェラーゼとY941の間に、G−Aリピートを含む柔軟な18アミノ酸残基からなるリンカー配列(配列番号4)を、SH2nとC−スプリットレニラルシフェラーゼの間に同様のリンカー配列(配列番号5)を挿入した。さらに、MycおよびFLAGエピトープをN−およびC−スプリットレニラルシフェラーゼの下流に挿入した。
なお、全てのプラスミド構築サブクローニングの微生物宿主としては、大腸菌株DH5αを用いた。また、プラスミドは、全てジーンアナライザーAB1 prism 310(PE Biosystems、東京、日本)を用いた配列解析により確認した。
(2)細胞培養と形質移入
CHO−HIR細胞の生育は、10%熱不活性化FBS(Filtron)、100unit/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを添加したHam’s F−12培地中で行った。形質移入はLipofectAMINE 2000を用いて行った。
細胞を6ウェルの培養プレート上に播種し、前記いずれかのプラスミドを2ng用いて形質移入を行った。形質移入の6時間後にLipofectAMINEを含む培地をFBS、ペニシリンおよびストレプトマイシンを添加したHam’s F−12培地に置換し、40時間インキュベートして各蛋白質相互作用解析用プローブを発現させた。
(3)免疫沈降およびイムノブロット分析
CHO−HIR細胞を、100nMインスリンを用いて37℃で5分間刺激し、氷冷した2x免疫沈降緩衝液(10mM Tris−HCl(pH7.4)、1mM EDTA、1mM EGTA、10mM NaF、0.2mMオルソバナジン酸ナトリウム、10μg/mLロイペプチン、10μg/mlペプスタチン、0.2mMフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)、2% IGEPALCA630、1% Triton X−100)により機械的に破砕した。
N−融合蛋白質は抗myc抗体により4℃で1時間処理し、CHO−HIR細胞の全細胞破砕液から免疫沈降した。この免疫沈降物を、蛋白質Gセファロース4FFビーズを用いて吸着し、次いで氷冷した免疫沈降緩衝液を用いて5回洗浄した。
試料をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、Y941リン酸化については抗リン酸化チロシン抗体(1:500)を用いて、N−末端蛋白質の評価には抗myc抗体(1:500)を用いて、C−末端蛋白質の評価には抗flag抗体(1:1000)を用いて分析した。
(4)発光測定
37℃でCHO−HIR細胞のインスリン刺激を行った。また、発光強度はレニラルシフェラーゼアッセイキットを用いて測定した。
次に冷PBSを用いて細胞を2回洗浄し、破砕した。破砕液を4℃で15,000g、30秒間遠心分離し、上澄の一部について、Minilumat LB9506照度計(Berthold GmbH & Co.KG、Wildbad、ドイツ)を用いて発光強度を10秒間測定した。上澄中の蛋白質濃度はBradford法により測定した。
(5)結果
レニラルシフェラーゼの分割箇所と、蛋白質相互作用により生起した発光(インスリンの存在下における発光とインスリンの非存在下における発光の比)の関係を図5(a)に示した。また、全長レニラルシフェラーゼ(hRL124C/A)による発光強度に対する各蛋白質相互作用解析用プローブの相対発光強度を図5(b)に示した。
なお、各測定は、培養プレートの異なるウェルを用いて3回行った。
レニラルシフェラーゼがSer91とTyr92の間で分割された蛋白質相互作用解析用プローブ(SRL91)を発現したCHO−HIR細胞は、10−7Mインスリン存在下において、非存在下の場合と比べて25倍の発光強度を示した。
一方、レニラルシフェラーゼが他の位置で分割された蛋白質相互作用解析用プローブでは、10−7Mインスリン存在下で2〜4倍の増加が確認された。
【実施例2】
実施例1において、sRL91を発現したCHO−HIR細胞でのレニラルシフェラーゼの補完が蛋白質のリン酸化に起因する蛋白質−蛋白質相互作用により引き起こされたものであることを確認するために、sRL91におけるY941ペプチド中の941番目のチロシン残基のリン酸化部位をフェニルアラニン残基に変換し、sRL91変異体(sRL91Fを作成した。N−末端側およびC−末端側プローブを各々配列番号6および7に示した。
このsRL91Fを用いて実施例1と同様の操作を行い、インスリン刺激の存在下および非存在下での発光強度を測定した。同様に、図4(c)および図4(d)のプラスミドを用いてsRL91のN−末端側およびC−末端側のみを個別にCHO−HIR細胞に発現させ、各々の発光強度を測定した。
結果を図6に示した。
sRL91Fを発現したCHO−HIR細胞においては、インスリン刺激時の酵素活性の増加は見られなかった。また、sRL91のN−末端側およびC−末端側のみを個別に発現したCHO−HIR細胞では、インスリンの非存在下のみならず存在下においても、ルミネッセンス活性が完全に消失していた。
以上より、Y941とSH2n間の蛋白質−蛋白質相互作用により、レニラルシフェラーゼの補完が起こることが確認された。したがって、レニラルシフェラーゼをSer91とTyr92の間で分割したスプリットレニラルシフェラーゼを含む本願発明のプローブ(sRL91)が蛋白質相互作用解析用プローブとして有効であることが示された。
<実施例3> 蛋白質−蛋白質相互作用の経時変化測定
前記の方法によりsRL91を発現した細胞を、100nMまたは10pMインスリンを添加した培地において、1分、5分、10分、30分および60分間、37℃でインキュベートし、直ちにルミネッセンスを測定した。
Y941とSH2nの間の相互作用の経時変化を図7に示した。
発光強度はインスリン刺激の5分後に増加し、以後は漸減した。
さらに、sRL91を発現した細胞を、10−7Mインスリンを添加した培地において、1分、5分、10分、30分および60分間、37℃でインキュベートし、抗myc抗体を用いて全細胞の破砕液の免疫沈降を行った。抗リン酸化チロシン抗体と抗myc抗体を用いて免疫ブロッティングを行った。なお、抗体染色の可視化は、CDP−STARを用い、LAS−1000とイメージアナライザ(Fujifilm Co.、東京、日本)により行った。
得られた結果を図8に示した。
発光強度の経時変化とイムノブロッティングの結果は一致し、蛋白質相互作用の時間依存性は、チロシンのリン酸化および脱リン酸化によるものであることが示唆された。
以上より、sRL91の発光強度の変化が生細胞中で進行する蛋白質−蛋白質相互作用を直接的に反映することが確認された。
【実施例4】
以上のような発光は、膜透過性基質であるセレンテラジンの存在下で、蛋白質−蛋白質相互作用が起こり、レニラルシフェラーゼが補完されることにより生じる。
そこで、次に本願発明の蛋白質相互作用解析用プローブを用いて生細胞内における特定の蛋白質−蛋白質相互作用の発生部位および時間について非侵襲的に画像化することを検討した。
そこで、sRL91を発現したCHO−HIR細胞におけるY941とSH2nの間の蛋白質−蛋白質相互作用を画像化した。なお、細胞は、カールツァイス社のAxioverts100顕微鏡に、40倍の油浸対物レンズを付けたTill Vision V3.02(PHOTONICS,Planegg,ドイツ)により制御された冷却装置付きカメラMicroMax(Roper Scientific Inc,Tucson,AZ)を取り付け、室温下で画像化した。
図9に、sRL91を発現したCHO−IR細胞の10−7Mインスリン刺激の非存在下(a)および存在下(b)における顕微鏡像と全長レニラルシフェラーゼ(hRL124C/A)を発現したCHO−IR細胞の顕微鏡像を示した。
なお、撮影はCCDカメラを用い、20%セレンテラジン基質緩衝液を添加したPBS中で、露出時間をそれぞれ300秒(a、b)および60秒(c)として実施した。発光強度はカラースケールで表した。
補完されたレニラルシフェラーゼにより放出された発光の増強は、インスリン刺激時には細胞膜下においてのみ見られた(図9b)。一方、インスリン非存在下では、このような鮮やかな対照は見られなかった。
以上より、インスリン刺激によるY941とSH2nの間の相互作用が細胞膜下においてのみ生じることが示された。
さらに、全長レニラルシフェラーゼ(hRL124C/A)を発現したCHO−HIR細胞では、細胞全体において均一にルミネッセンスが放出された(図9c)ことから、図9bの結果が細胞膜直下におけるセレンテラジンの過剰蓄積によるものではないことが示された。
【実施例5】
スプリットレニラルシフェラーゼを用いて、リン酸化されたアダプタープロテインShcとGrb2の相互作用(図10)を定量的に検出することに成功した。
その結果、epidermal growth factor(EGF)、17β−estradiol(E2)、dihydrotestosterone(DHT)およびdiethylstilbestrol(DES)により細胞外から刺激した場合、Shcのリン酸化部位およびGrb2との相互作用部位に多くの選択性があることが示された。
リセプター型キナーゼに対する刺激、すなわちEGF添加の場合、317番目のチロシン基がリン酸化されてGrb2と結合し、その結合にはPTBドメイン内のセリンが必要であることが示された。これは、ShcがPTBドメイン内のセリンの存在によりリセプター型キナーゼに結合するためであると考えられる。
一方、E2添加の場合、239および240番目のチロシン基がリン酸化してGrb2と結合するためには、PTBドメイン内のセリンの存在が必要であることが示された。一方、317番目のチロシンのリン酸化によるGrb2との結合は、セリン存在下では起こらないことが示された。
また、DHT添加およびEstrogen Receptorに対するアゴニストとして知られるDES添加の場合も、同様の結果が得られた(図11)。
【産業上の利用可能性】
以上詳しく説明したとおり、この発明によって、生細胞における蛋白質−蛋白質相互作用を直接可視化できる蛋白質相互作用解析用プローブが提供される。このような蛋白質相互作用解析用プローブは、蛋白質−蛋白質相互作用によるレニラルシフェラーゼの補完を用いるものであるが、他の補完酵素系で用いられる拡散性の生成物(Blakely,B.T.et al.Nat.Biotechnol.18,218−22(2000);Rossi,F.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94,8405−8410(1997);Remy,I.& Michnick,S.W.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96,5394−5399(1999);Galarneau,A.et al.Nat.Biotechnol.20,619−622(2002);Wehrman,T.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99,3469−3474(2002).)とは異なり、補完レニラルシフェラーゼによる生物発光は、生細胞や生物内において、蛋白質−蛋白質相互作用が発生した部位と時間を特定できる点で有用性が高い。
【配列表】







【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの蛋白質間の相互作用を解析するためのプローブであって、少なくともレニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドを含むプローブAと、少なくともレニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドを含むプローブBの二つのプローブからなることを特徴とする蛋白質相互作用解析用プローブ。
【請求項2】
プローブAは、レニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドとともに inteinのN−末端側のポリペプチドを含み、プローブBは、レニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドとともにinteinのC−末端側のポリペプチドを含む請求項1の蛋白質相互作用解析用プローブ。
【請求項3】
レニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドと、レニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドに、各々リンカー配列が結合している請求項1または2のいずれかの蛋白質相互作用解析用プローブ。
【請求項4】
リンカー配列は、3〜20アミノ酸残基からなるものである請求項3の蛋白質相互作用解析用プローブ。
【請求項5】
レニラルシフェラーゼのN−末端側のポリペプチドとレニラルシフェラーゼの残るC−末端側のポリペプチドは、レニラルシフェラーゼをSer91とTyr92の間で分割して得られるものである請求項1ないし4の蛋白質相互作用解析用プローブ。
【請求項6】
請求項1ないし5記載のいずれかのプローブAを連結した蛋白質aと請求項1ないし5記載のいずれかのプローブBを連結した蛋白質bを、セレンテラジンと酸素の存在下で共存させ、発光を測定することを特徴とする蛋白質−蛋白質相互作用の解析方法。
【請求項7】
請求項1ないし5記載のいずれかのプローブAを連結した蛋白質aと請求項1ないし5記載のいずれかのプローブBを連結した蛋白質bを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入することによりプローブAを連結した蛋白質aとプローブBを連結した蛋白質bをセレンテラジンと酸素の存在下で共存させる請求項6の蛋白質−蛋白質相互作用の解析方法。
【請求項8】
請求項1ないし5記載のいずれかのプローブAを連結した蛋白質aと請求項1ないし5記載のいずれかのプローブBを連結した蛋白質bを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞においてプローブAを連結した蛋白質aとプローブBを連結した蛋白質bをセレンテラジンと酸素の存在下で共存させる請求項6の蛋白質−蛋白質相互作用の解析方法。
【請求項9】
請求項1ないし5記載のいずれかのプローブAを連結した蛋白質aと請求項1ないし5記載のいずれかのプローブBを連結した蛋白質bを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって得られる非ヒト動物またはその子孫動物。
【請求項10】
請求項9の非ヒト動物またはその子孫動物に検査試料を導入し、該非ヒト動物またはその子孫動物の細胞における蛋白質相互作用を解析する物質のスクリーニング方法。

【国際公開番号】WO2004/104222
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506412(P2005−506412)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007245
【国際出願日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】