説明

蛋白質連結脂質微粒子類の形成方法、およびその組成物類

【課題】延長された保存寿命と静脈注射後のインビボにおける高いトランスフェクション活性を有する脂質:核酸複合体類、およびこのような複合体類を調製する方法類を提供する。
【解決手段】核酸を有機ポリカチオンに接触させ濃縮核酸を製造し、前記濃縮核酸を両媒性カチオン性脂質を含む脂質と組み合わせて、脂質:核酸複合体を形成する。さらに、疎水性側鎖に結合させた親水性ポリマーを添加することによって、安定化させる。前記複合体は、また、親水性ポリマーに結合したFab'断片のような標的部分を取り込むむことによって、特定細胞に対して特異的とする。さらに、親水性ポリマードメインおよび微粒子を、安定結合可能な疎水性ドメインを有するリンカー分子に結合させた結合蛋白質、または親水性ドメインと微粒子との安定結合を可能とする脂質部分を含有するように工学的に処理した蛋白質類を有する脂質性微粒子類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1997年11月10日出願の米国出願番号第08/967、791号および1996年11月12日出願の米国出願番号第60/030、578号の係属部分であり、その両者ともに本文で参考として引用している。研究または開発のための連邦支援、非適用。
【0002】
本発明は、カチオン性脂質:DNA複合体類("CLDC")の分野に関する。特に、本発明は、(1)親水性ポリマー;(2)有機ポリカチオン類によって濃縮された核酸:および(3)親水性ポリマーおよび有機ポリカチオン類によって濃縮された核酸を含有する脂質:核酸複合体類に関する。本発明の脂質:核酸複合体類は、静脈注射後インビボで高トランスフェクション活性を示し、また、インビボトランスフェクション活性によって調べたところ、予測外にも延長された保存寿命(shelf life)を示した。
【0003】
本発明は、さらに、蛋白質に結合した,リポゾーム類、脂質:DNA複合体類、脂質:薬物複合体類およびミクロエマルジョン粒子のような脂質性微粒子類の分野に関する。特に、本発明は、結合蛋白質類を有する脂質性微粒子類に関し、それらの蛋白質類は、親水性ポリマードメインと前記微粒子に安定に結合できる疎水性ドメインを有するリンカー分子類に最初に結合させた蛋白質であるかまたは親水性ドメインと脂質性微粒子に安定に結合できるようにした脂質部分を含有するように工学処理した蛋白質類である。
【背景技術】
【0004】
両媒性のカチオン性分子類で構成されるリポゾーム類は、インビトロおよびインビボにおける遺伝子運搬のための有用な非ウイルス性ベクター類である(Crystal,Science 270:404−410(1995);Blaeseら、Cancer Gene Ther.2:291−297(1995);Behrら、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);Remyら、Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);およびGaoら、Gene Therapy 2:710−722(1995)でレビューされている)。理論上、陽性荷電リポゾーム類は、静電的相互作用によって陰性荷電核酸類と複合体を形成し、脂質:核酸複合体類を形成する。この脂質:核酸複合体類は、遺伝子運搬ベクター類としていくつかの利点を有している。この脂質:核酸複合体類は、ウイルスベクター類と異なり、本質的に大きさが無制限の発現カセット類を運搬するために使用できる。前記複合体類は蛋白質類を有していないので、それらは、免疫源性および炎症性応答を惹起することがほとんどないであろう。さらに、それらは、複製または再結合して感染性物質を形成するということができず、組み込み頻度も低い。
【0005】
インビトロでの培養細胞中におけるレポータ遺伝子の発現が検出可能であることを示すことによって、両媒性カチオン性脂質類がインビボおよびインビトロにおいて遺伝子運搬を媒介できることを確信的に示している刊行物がいくつかある(Felgnerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413−17(1987);Loefflerら、Methods in Enzymology 217:599−618(1993);Felgnerら、J.Biol.Chem.269:2550−2561(1994))。脂質:核酸複合体類は、時として、遺伝子運搬を成功させるためのウイルスベクター類としては効率的でないので、トランスフェクション効率の高められたカチオン性脂質類を見出すことに多大な努力が払われてきた(Behr、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);Remyら、Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);Gaoら、Gene Therapy 2:710−722(1995))。脂質:核酸複合体類は、遺伝子療法の非常に有用な手段として待望されている。
【0006】
動物およびヒトの両者におけるインビボトランスフェクションのための両媒性カチオン性脂質:核酸複合体類の使用については、いくつかのグループが報告している(Gaoら、Gene Therapy 2:710−722(1995);Zhuら、Science 261:209−211(1993);およびThierryら、Proc.Natl.ACad.Sci.USA 92:9742−9746(1995)でレビュー)。しかし、安定な保存寿命を有する複合体調製のための技術的問題は解明されていない。たとえば、脂質:核酸複合体類は、ウイルス性ベクターの調製とは異なり、粒子サイズという観点から不安定である(Behr、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);Remyら、Bioconjgate Chem.5:647−654(1994);Gaoら、Gene Therapy 2:710−722(1995))。ゆえに、全身注入に適したサイズ分布を有する均質な脂質:核酸複合体類を得ることは困難である。脂質:核酸複合体類のほとんどの調製物は、準安定である。その結果、これらの複合体類は、通常、30分から数時間の範囲の短い期間内に使用しなければならない。カチオン性脂質類をDNA運搬のキャリアとして用いた最近の臨床治験では、この2つの成分をベッドサイドで混合しすぐに用いた(Gaoら、Gene Therapy 2:710−722(1995))。脂質核酸複合体のトランスフェクション能の経時的喪失とともに構造的不安定性については、今後の脂質媒介遺伝子療法の発展のために取り組むべきことである。
【0007】
両媒性カチオン性分子類で構成されるリポゾーム類は、もちろん、脂質性微粒子の唯一の形態ではなく、遺伝子療法は、このような微粒子類の唯一の用途というわけではない。脂質性微粒子類は、また、標的部位への薬物運搬および他の物質類の運搬のために使用されてきた。通常、微粒子による標的化は、前記微粒子表面に結合した蛋白質を使用することで達成され、それらは、たとえば、問題の細胞種上の細胞表面レセプター用リガンドであってもよい。それとは逆に、前記蛋白質は、特異的マーカー類を有している疾患細胞類のような問題となっている細胞種上で抗原を特異的に認識する抗体であってもよい。さらに、蛋白質類は、標的化以外の目的のために結合させることができる。たとえば、リポゾーム類は、リポゾームからゆっくりと循環系に入るプロドラッグ類を含有することができる。前記リポゾームに結合した酵素は、その後、前記プロドラッグをその活性型に変換できる。
【0008】
蛋白質類を脂質性微粒子に結合させる現在の方法には、2つの種類がある。第1の方法では、"活性化"粒子を問題の蛋白質に結合させる前に"活性"基(蛋白質の官能基と反応するもの)を有するリンカー分子を粒子組成物に導入することが必要となる。この種の方法の欠点として、制御がしばしば不可能で、前記リンカーと蛋白質の反応が不完全であること、生成した結合物上に過剰のリンカーが存在しこのことが粒子安定性に対して悪影響を及ぼす可能性があること、およびリンカーと反応性の成分類を前記粒子組成物中に組み入れることができないことがある。
【0009】
第2の方法群では、(a)炭化水素鎖のような疎水性部分を蛋白質分子に結合させること、(b)脂質性微粒子の成分類を工程(a)の結合物ともに界面活性剤存在下において溶解させること、および(c)前記界面活性剤を除去し、前記蛋白質結合物を取り込んだ脂質性粒子を形成させることの工程を用いている(Torchilin、Immunomethods 4−244−258(1994);Laukkanenら、Biochemistry 33:11664−11670(1994))。これらの方法にはいくつか欠点があり、粒子形成可能でかつ薬物または他の物質類を微粒子に充填する方法の範囲に厳しい制限が課せられること(例 界面活性剤除去技術が必要である)が含まれる。さらに、工程(b)では、微粒子の溶解を必要としている。これらの方法は、ゆえに、最初に粒子を破壊することなく事前に調製された粒子に蛋白質を結合できない。界面活性剤がないと疎水性に改変された蛋白質が水性媒体に不溶となるので、これらの方法において界面活性剤が存在することは不可避である。
【0010】
小型の(アミノ酸5個)オリゴペプチドまたは小型のオリゴ糖に結合した親水性ポリマー−脂質のリポゾーム類への"挿入"について、報告されている(Zalipskyら、Bioconjugate Chem.8:111−118(1997))。使用した前記ペプチドおよびオリゴ糖は、しかし、リンカーそのもの(分子量2,750Da)よりも小さいかあるいは匹敵する大きさ(分子量500−3,000Da)である。したがって、この研究は、抗体類またはその断片類のような蛋白質を蛋白質よりも有意に小さいリンカー類に結合させてリポゾーム類または他の脂質性微粒子蛋白質類中に挿入するための指針をなんら提示していない。抗体類および他の蛋白質類の親水性を考慮し、本技術は、このような結合物のより大きな蛋白質部分が、疎水性結合部分が脂質性微粒子に安定に結合することを妨げていることを示唆している。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、保存寿命が延長されたカチオン性脂質:核酸複合体類を調製する新規方法を提供するものである。一の態様においては、これらの複合体類は、核酸を有機ポリカチオンに接触させ濃縮または部分濃縮核酸を製造し、調製する。濃縮された核酸をその後両媒性カチオン性脂質およびコレステロールのような中性ヘルパー脂質とモル比で約2:1から約1:2で混合すると、前記の脂質:核酸複合体が生成する。別の方法においては、親水性ポリマーを、濃縮されなかった核酸を含む脂質:核酸複合体に添加する。これらの脂質:核酸複合体類は、たとえば22℃以下に保存した際に、核酸成分を前記の有機ポリカチオンに接触させなかったかおよび/または前記の脂質:核酸複合体が親水性ポリマーに接触しなかった同等の脂質:核酸複合体に比較して、保存寿命延長を示す。
【0012】
特に好適な態様では、前記ポリカチオンはポリアミンであり、さらに好適には、スペルミジンまたはスペルミンのようなポリアミンである。
【0013】
別の好適な態様では、前記の脂質:核酸複合体類は、核酸を両媒性カチオン性脂質と組み合わせ、その後形成された複合体を親水性ポリマーと組み合わせることによって、調製される。この脂質:核酸複合体は、たとえば、22℃以下に保存した際に、前記親水性ポリマーと組み合わせなかった同等の複合体と比較して、長い保存寿命を示す。
【0014】
一の態様では、前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−PE)、ツイーンで誘導体としたポリエチレングリコール、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−DSPE)、ガングリオシドGM1および合成ポリマー類からなる群から選択される。
【0015】
一の態様では、前記脂質:核酸複合体は、凍結乾燥される。
【0016】
本発明の方法類および組成物類のいずれにおいても、前記核酸は、実質的にいかなる核酸であってもよく、たとえば、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、およびペプチド核酸(PNA)等であることができ、最も好適にはDNAである。特に好適な態様では、前記DNAは、前記脂質:核酸複合体をトランスフェクトされた細胞中でポリペプチドを発現できる発現カセットである。
【0017】
一の態様において、前記脂質:核酸複合体類は、最初にリポゾームを形成させ、その後、濃縮してあるかまたは部分濃縮してある核酸と形成されたリポゾームを組み合せることによって、形成される。前記脂質:核酸複合体は、その後、適宜、親水性ポリマーに接触させる。別の方法においては前記リポゾーム類を、未濃縮核酸と組み合せ脂質:核酸複合体を形成させ、その後親水性ポリマー(例 PEG−PE)を添加することにより形成される。核酸と、親水性ポリマーに接触させたリポゾームの組み合せで調製された脂質:核酸複合体を、その後、追加親水性ポリマーと組み合わせることができる。好適な態様では、前記脂質および核酸は、約1から約20、好適には約4から約16、さらに好適には約8から約12nmoleの脂質:核酸μgの範囲で組み合わされる。前記脂質および親水性ポリマーは、約0.1から約10%、さらに好適には約0.3から約5%、さらに最も好適には約0.5%から約2.0%(複合体のカチオン性脂質に対する親水性ポリマーのモル比)のモル比で組み合わされる。
【0018】
標的部分(例 抗体または抗体断片)は、前記脂質:核酸複合体の形成前または後で前記脂質および/またはリポゾームに結合させることができる。好適な態様では、標的部分は親水性ポリマー(例 PEG)に結合させ、前記標的部分/親水性ポリマーは、その後、前記脂質:核酸複合体に添加される。これによって、さもなければ一般的な脂質:核酸複合体の、標的特異性を改変するための便利な手段が提供される。
【0019】
特に好適な態様では、前記脂質:核酸複合体の保存寿命延長の方法は、スペルミジンまたはスペルミンを有する発現カセットを両媒性カチオン性脂質プラスコレステロールのようなヘルパー脂質、およびたとえばポリエチレングリコールのようなスぺーサーに結合した抗体Fab'断片と組み合わせる工程を含み、その結果、前記複合体は、約4℃に保存しても長い保存寿命を有する。
【0020】
特に好適な態様では、前記脂質:核酸複合体の保存寿命延長の方法には、スペルミジンまたはスペルミンを有する発現カセットを両媒性カチオン性脂質プラスコレステロールのようなヘルパー脂質、およびたとえばポリエチレングリコール誘導体に結合した抗体Fab'断片と組み合わせる工程を含む。別の特に好適な態様では、発現カセットを両媒性カチオン性脂質、およびポリエチレングリコール誘導体に結合した抗体Fab'断片と組み合わせる工程を含み、その結果、前記複合体は、約4℃に保存しても長い保存寿命を有する。
【0021】
さらに、本発明は、核酸を哺乳類細胞にトランスフェクションさせる方法を提供し、前記方法は、上述のように調製した前記脂質:核酸複合体類のいずれかに前記細胞を接触させることを含む。一の態様では、前記方法は、哺乳類への脂質:核酸複合体の全身投与を用いる。好適な態様では、トランスフェクション方法は、前記脂質:核酸複合体を哺乳類に静脈注射により投与することを用いる。特に好適な態様では、前記方法は、Fab'断片を認識するリガンドを発現する特定細胞に接触させることを含む。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、また、上記の脂質:核酸複合体を含む薬剤組成物を提供する。前記の薬剤組成物類は、治療上有効量の前記脂質:核酸複合体と薬剤学的に許容できる担体または賦形剤を含む。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、また、脂質:核酸複合体を調製するためのキットを提供し、前記キットは、リポゾームを含む容器;核酸を含む容器;および親水性ポリマーを入れた容器を含み、前記リポゾームおよび核酸を混合し前記脂質:核酸複合体を形成させ、前記脂質:核酸複合体は親水性ポリマーに接触させる。好適な態様では、前記親水性ポリマーは、標的部分で、好適にはFab'断片で誘導体化される。別の好適な態様では、核酸を濃縮する。
【0024】
本発明は、また、上記のように有機ポリカチオンで濃縮した核酸を用いて保存寿命を長くする方法を用いて調製された脂質:濃縮核酸複合体を提供する。
【0025】
本発明は、また、結合蛋白質類を保持した脂質性微粒子を調製する方法を提供する。本法では、脂質性微粒子類と安定に会合するであろうリンカー分子類に結合させた蛋白質類を用いている。本発明は、したがって、たとえば、予め形成された脂質性微粒子の表面に蛋白質類を結合させることができる。
【0026】
定義
【0027】
下記の略語を本文中で使用する:Chol、コレステロール;PA、ホスファチジン酸;PC、ホスファチジルコリン;PI、ホスファチジルイノシトール;SM、スフィンゴミエリン;M−DPE、マレイミド誘導ジパルミトイルエタノールアミン;PBS、りん酸緩衝生理食塩水;LUV、大型単一ラメラ小胞;MLV、マルチラメラ小胞;PE、ホスファチジルエタノールアミン;PEG、ポリエチレングリコール;PEG−PE、ポリエチレングリコール誘導体化ホスファチジルエタノールアミン、DC−Chol、3β[N−(N'、N'−ジメチルアミノエタン)カルバノイル]−コレステロール;DDAB、ジメチルイディオクタデシルアンモニウムブロミド;DMEPC、ジミリストイルグリセロ−3−エチルホスホコリン;DODAP、ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン;DOEPC、ジオレオイルグリセロ−3−エチルホスホコリン;DOGS、N,N−ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン;DOPE、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン;DOTAP、ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン;DOTMA、N−[2、3−(ジオレオイルオキシ)プロピル]N,N、N−トリメチルアンモニウムブロミド;DSPE、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン;PEG−PE、N−[オメガ−メトキシポリ(オキシエチレン)−アルファオキシカルボニル]−DSPE;POEPC、パルミトイルオレオイルグリセロ−3−エチルホスホコリン。
【0028】
用語"両媒性カチオン性脂質"とは、疎水性部分および極性頭部基部分を有し、正味の正の荷電を有する合成脂質類および脂質アナログ類を含むあらゆる両媒性脂質を含むことを意図しており、それ自体は、水中で2層の小胞またはミセルを自然に形成でき、そのことはホスホリピドによって例示される。この用語は、また、ホスホリピドとともに脂質2層類に安定に取り込まれるあらゆる両媒性脂質を含み、2層膜の内部の疎水性領域にその疎水性部分が接触し、その極性頭部基部分は、膜の外部極性表面の方に向いている。
【0029】
用語"特異的結合"とは、酵素/基質、レセプター/アゴニスト、抗体/抗原およびレクチン/炭水化物のような対になった種間で起こる結合を意味し、共有または非共有相互作用によって媒介されるかまたは共有および非共有相互作用の組み合せによって媒介されることができる。前記2種の相互作用が非共有結合複合体を生成する場合は、出現する結合は、通常、静電的、水素結合的であるかまたは脂質親和性の結果である。したがって、"特異的結合"とは、前記2種の間で相互作用がある対になった種間で起こり、抗体/抗原または酵素/基質相互作用の特徴を有する結合複合体を生成する。特に、前記の特異的結合は、特定種に対する対の一員の結合を特徴とし、前記結合の一員に対応する一員が属する化合物族内の他のいかなる種に対しても結合しない。したがって、たとえば、抗体は、好適には、単一のエピトープに結合し、蛋白質族内の他のいかなるエピトープにも結合しない。
【0030】
用語"リガンド"および"標的部分"とは、本文では、一般的に、特定標的分子に特異的に結合し上記のように結合複合体を形成可能なあらゆる分子類を意味している。したがって、前記リガンドおよび対応する標的分子は、特異的結合対を形成する。例としてであり限定されるわけではないが、抗体類、リンホカイン類、サイトカイン類、CD4およびCD8のようなレセプター蛋白質類、可溶化CD4のような可溶化レセプター蛋白質類、ホルモン類、成長因子類など、所望の標的細胞に特異的に結合し、さらに、塩基対相補性を介して対応する核酸類に結合する核酸類が挙げられる。特に好適な標的部分としては、抗体類および抗体断片類(例 Fab'断片)が含まれる。
【0031】
用語"脂質:核酸複合体"とは、両媒性カチオン性脂質類またはリポゾーム類を核酸と混合し形成される生成物を意味している。用語"CLDC"とは、本文では"カチオン性脂質:DNA複合体"を意味しているが、DNAに限定されず、脂質:核酸複合体の便利な略語である。前記脂質:核酸複合体には、ヘルパー脂質も含ませることができる。ヘルパー脂質は、また、DOPEまたはコレステロールのような中性脂質であり、コレステロールが最も好適である。前記脂質:核酸複合体には、また、前記複合体の核酸と接触し濃縮核酸を生成するポリカチオンのような他の化合物類も含まれることができ、さらに、PEGおよび誘導PEGのような親水性ポリマー類を含有させることができる。
【0032】
用語"イムノリポゾーム"および"イムノリピド:核酸複合体"とは、溶液中に存在するかもしれないかまたは細胞表面に結合しているかもしれない特定の"標的"分子に特異的に前記脂質:核酸複合体を結合させることができる標的部分として作用する抗体または抗体断片を有するリポゾームまたは脂質:核酸複合体を意味する。標的分子が、相対的に過剰に(例 およそ(AE)10倍)見られかつ特定の細胞種または特定の生理的条件を発現する多数のすべての細胞種と会合して典型的に見られるものであると、前記標的分子は、この細胞種またはその生理的条件の"特徴的マーカー"であるといわれる。したがって、たとえば、癌は、乳癌の場合、HER2(c−erbB−2/neu)プロトオンコジーンのような特定マーカーの過剰発現により特徴づけられる。
【0033】
"親水性ポリマー"とは、脂質分子類に結合した高度に水和された可撓性の中性ポリマー類を本文で意味するものとして使用している。限定するものではないが例として、ポリエチレングリコール(PEG)、ホスファチジルエタノールアミン誘導体化ポリエチレングリコール(PEG−PE)、ツイーン誘導体化ポリエチレングリコール、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン誘導体化ポリエチレングリコール(PEG−DSPE)、ガングリオシドGM1および合成ポリマー類が挙げられる。このようなポリマー類は、典型的には、1000−10,000の範囲の分子量を有している。好適には、PEGの分子量は、約2000である。
【0034】
"トランスフェクション"とは、たとえば、脂質:核酸複合体の一部としての核酸と生細胞を接触させることを意味している。
【0035】
"トランスフェクション活性"とは、核酸を生細胞に導入する効率を意味している。トランスフェクション効率は、脂質:核酸複合体の一部として細胞に移入されたレポータ遺伝子の発現量を例えば蛍光または機能アッセイによって決定することで、測定することができる。
【0036】
用語"濃縮核酸"および"部分濃縮核酸"とは、たとえば、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミン類、ポリブレン(Polybrene;ヘキサジメトリンブロミド)のようなポリアンモニウム分子類、塩基性ポリアミノ酸類、および塩基性蛋白質類のような有機カチオンと接触させた核酸を意味するために使用している。典型的には、濃縮核酸類は、非濃縮核酸類よりも有意に少ない体積を占めている。しかし、濃縮度は、局所環境(例 水性環境に対しての脂質)によって異なると考えられている。
【0037】
本文に開示した脂質:核酸複合体を意味して用語"保存寿命"を使用した際には、前記脂質:核酸複合体がその生物活性を失うまで保存できる(例として4℃などの規定された条件下)期間を意味している。本発明で保存寿命決定のためにアッセイした生物活性は、静脈注射による投与後インビボで哺乳類細胞にトランスフェクションする前記脂質:核酸複合体の能力である。脂質:核酸複合体の"保存寿命"は、本文に記載のように前記脂質:核酸複合体中におけるレポータ核酸類からの遺伝子発現によるアッセイによって簡易に決定される。
【0038】
"発現カセット"とは、DNA分子に操作可能に結合させたプロモータを意味し、生細胞中でDNA分子が発現するために必要な全要素類を含んでいる。この発現カセットは、エンハンサー類、複製開始点類などの付加的要素類を含むことができ、発現ベクターを形成する。
【0039】
"有機ポリカチオン"または"ポリカチオン"は、ポリマーの1以上のユニットが負の荷電を有しかつポリマーの正味の荷電が正である有機高分子性構造を意味する。このような有機カチオンの例として、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミン類、ポリブレン(Polybrene;ヘキサジメトリンブロミド)のようなポリアンモニウム分子類、塩基性ポリアミノ酸類、および塩基性蛋白質類がある。
【0040】
"薬剤学的に許容できる担体"とは、生物学的にもそうでなくても望ましくないということはない物質であり、すなわち、前記物質は、前記脂質:核酸複合体とともに各人に投与でき、許容できない生物効果をもたらすことがないかまたはそれが含まれる薬剤組成物の他のいかなる成分とも不都合な相互作用をしない。
【0041】
用語"核酸"とは、ホスホジエステル結合によって結合したヌクレオチド単位類(リボヌクレオチド類、デオキシリボヌクレオチド類または関連する構造的変異体類またはその合成アナログ類)で構成されたポリマーまたはオリゴマー(または関連する構造的変異体またはその合成アナログ類)を意味する。したがって、本用語は、ヌクレオチド類およびそれらの間の結合が天然由来であるヌクレオチドポリマー(DNAまたはRNA)、ならびに、例としてであり限定するものではないがペプチド−核酸類(PNA類)、ホスホルアミデート類、ホスホロチオアート類、メチルホスホネート類、2−O−メチルリボ核酸類等の種々のアナログ類を意味する。
【0042】
リポゾーム中の親水性ポリマーの百分率を意味する時、用語"モル百分率"とは、他にことわりがなければ、前記リポゾーム中のカチオン性脂質に対して相対的に示される。したがって、たとえば、コレステロール(Chol)に対するDDABの比率が100:100であるリポゾーム中において、親水性ポリマー(例 PEG)の4モルパーセントは、約100:100:4のDDAB:Chol:PEGの比率を示すであろう。
【0043】
用語"同等の"とは、別の組成物と同一の化合物類を用いて形成された組成物を意味し、前記組成物類は統計的に有意に異なっていない。
【0044】
用語"全身投与"とは、哺乳類に化合物または組成物を投与する方法で、循環系を介して全身の多くの部位に前記化合物または組成物を運搬する方法を意味している。
【0045】
本文で使用したように、"リンカー分子"とは、(a)疎水性領域、(b)末端で前記の疎水性領域に結合した親水性ポリマー鎖および(c)蛋白質分子上で1個以上の官能基に反応し前記ポリマー鎖の、前記疎水性領域と反対側の末端又はその近くで前記ポリマー鎖に結合する化学基、を含む分子を意味する。
【0046】
たとえばリンカー分子の用語"疎水性領域"とは、脂肪酸、脂肪アルコール、ステロールまたは水性媒体から脂質相に分布可能な他の疎水性分子を意味している。たとえば、疎水性領域は、ジアシルグリセロール、ホスホリピド、コレステロールのようなステロール、またはN,N−ジステアロイル−グリシンアミドのようなジアシルアミド誘導体であることができる。
【0047】
蛋白質分子を参考にすると、用語"脂質部分"とは、前記蛋白質分子に共有結合で直接結合した1個以上の疎水性領域で構成される配列を意味する。
【0048】
用語"蛋白質"および"ペプチド"は、一般的に、分子量によって当該分野で区別されており、6000ダルトン未満のポリペプチドはペプチド類と考えられ、6000ダルトン以上のものは蛋白質類と考えられている。McMurray、Organic Chemistry (Brooks/Cole Publishing Co.,Belmont、CA)(1988)の971ページ参照。これらの用語を以下で使用する際には、この区別に従う。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1A】遺伝子運搬における中性脂質の役割を例示している。3種のリポゾーム製剤について、培養細胞(SKBR−3、ヒト乳癌細胞)およびマウス(CD1、雌性、20−25g)の両者に対する遺伝子運搬を試験した。試料は、(1)DDAB/Cho1(1:1);(2)DDAB/Cho1/DOPE(1:0.5:0.5);(3)DDAB/DOPE(1:1);および(4)DDAB単独とした。図1Aは、細胞トランスフェクションを示している。SKBR−3は、12穴プレート中 に50,000細胞/ウェルで入れ、一晩インキュベーションした。各ウェルに対して、DDAB 5nmoleでリポゾームと複合体を形成した、1μgのプラスミドP−CMV/IVSLuc+を導入したが、それは、。37℃で複合体と細胞を24時間インキュベーション後、採取した。示した値は、ウェル2個の平均である。値は、平均の10−30%内に範囲していた。図1Bは、マウスにおけるインビボトランスフェクションを示している。尾静脈注射によりマウスにDNA1μg当たりDDAB 8nmoleの比率でリポゾームと複合体化された40μgのP−CMV/IVS−Luc+プラスミドを投与した。示した値は、マウス2匹の平均である。値は、平均の20−25%内に範囲していた。
【図1B】遺伝子運搬における中性脂質の役割を例示している。3種のリポゾーム製剤について、培養細胞(SKBR−3、ヒト乳癌細胞)およびマウス(CD1、雌性、20−25g)の両者に対する遺伝子運搬を試験した。試料は、(1)DDAB/Cho1(1:1);(2)DDAB/Cho1/DOPE(1:0.5:0.5);(3)DDAB/DOPE(1:1);および(4)DDAB単独とした。図1Aは、細胞トランスフェクションを示している。SKBR−3は、12穴プレート中 に50,000細胞/ウェルで入れ、一晩インキュベーションした。各ウェルに対して、DDAB 5nmoleでリポゾームと複合体を形成した、1μgのプラスミドP−CMV/IVSLuc+を導入したが、それは、。37℃で複合体と細胞を24時間インキュベーション後、採取した。示した値は、ウェル2個の平均である。値は、平均の10−30%内に範囲していた。図1Bは、マウスにおけるインビボトランスフェクションを示している。尾静脈注射によりマウスにDNA1μg当たりDDAB 8nmoleの比率でリポゾームと複合体化された40μgのP−CMV/IVS−Luc+プラスミドを投与した。示した値は、マウス2匹の平均である。値は、平均の20−25%内に範囲していた。
【図2】マウス組織抽出物中におけるレポータ遺伝子発現を示している。マウスに対して60μgのDNA1μg当たり8−nmoleのDDAB/Chol(1:1)比率のリポゾームと複合体化された(スペルミジンなし)P−CMVIVS−Luc+プラスミドを(尾静脈注射により)投与した。示した値は、マウス3匹の平均である。
【図3】ルナマウス(luna)におけるレポータ遺伝子発現の持続を示している。各動物に対して、DNA1μg当たり8nmoleのDDABの比率で、DDAB/Chol(1:1)のリポゾームと複合体化された、40μgのプラスミドP−CMVIVS−Luc+を投与した。
【図4】種々の安定化複合体類によるマウス肺中の遺伝子運搬を示している。各マウスに対して、DNA1μg当たり8nmoleのDDAB比率でDDAB/Chol(1:1)リポゾームと複合体化された、60μgのP−CMVIVS−Luc+を投与した。示した値は、マウス3匹の平均である。点付棒グラフ:新鮮調製複合体類;斜線棒グラフ:1ヶ月前の試料。試料は下記のようである:(1)安定化剤無添加;(2)前記複合体類に対する総脂質1%でPEG−PE添加;および(3)スペルミジン(0.5nmole/DNA1μg)を複合体形成前にプラスミドに添加した。
【図5】イムノリピド:DNA複合体類による細胞系のインビトロトランスフェクションを示している。試料は、下記のようである:(1)DDAB/DOPE(1:1)は、DNAとのみ複合体を形成したカチオン性リポゾーム類を産生している;(2)PEGの究極的位置でマレイミドで誘導体とした1%PEG−PEを有するDDAB/DOPE(1:1)は、DNAと複合体を形成後添加した立体安定化成分を有するリポゾーム類を産生している;および(3)前記マレイミド残基に対する遊離のチオール基を介して究極的位置のPEGに結合したヒト化抗Her−2抗体のFab'断片で誘導体とした1%PEG−PEを有するDDAB/DOPE(1:1)。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、カチオン性脂質:核酸複合体類の保存寿命を長くする方法およびインビボおよび/またはインビトロにおけるこれらの複合体類のトランスフェクション効率を高める方法を提供する。このような複合体類は、治療用(例 アンチセンス)核酸類自体を運搬する手段として、種々の治療用ポリペプチド類を発現する核酸類を運搬する手段として、かなりの関心を集めてきた。残念なことに、インビボ投与に適した均質な脂質:核酸複合体類を維持しかつ保存することが困難であった。前記複合体類は、迅速に凝集するかまたは比較的短い時間に分解する傾向がある。この不安定性は、これらの複合体類を調製後短い時間内に、しばしば30分から数時間の短い間に使用することを必要としてきた。したがって、たとえば、DNA運搬のための担体としてカチオン性脂質類を用いた最近の臨床治験では、DNAおよび脂質成分類をベッドサイドで混合し、すぐに使用した(Gaoら、Gene Therapy 2:710−722(1995))。
【0051】
この脂質:核酸複合体の不安定性は、治療剤としてカチオン性脂質:核酸複合体類が広く受け入れられることをかなり妨げてきた。前記複合体を使用直前に調製する必要性は、薬剤施設が使用エリアのかなり近くにあることを必要としている。これとは別に、脂質および核酸のベッドサイドでの組み合せは、多大な労力を負荷することになり、適切な複合体化を確保する上での品質管理問題を生じ、かつ、潜在的エラー源を生じる。
【0052】
本発明は、脂質:核酸複合体類の保存(貯蔵)寿命を有意に延長する方法を提供することで、これらの問題を解決する。前記方法では、通常、(1)前記脂質:核酸複合体中に取り込む前に核酸を濃縮すること、(2)脂質:核酸複合体を親水性ポリマー(例 PEG)と組み合わせること、および(3)複合体形成前に前記核酸を濃縮することおよび前記複合体を親水性ポリマーと組み合わせることの両者を含む。
【0053】
核酸の濃縮は単離した核酸(例 水性緩衝液中)の安定性につながる一方、濃縮剤(例 有機ポリカチオン)の使用によって、長い保存寿命(例 約22℃以下、さらに好適には約0℃から約22℃および最も好適には約4℃の温度における冷保存)の後でさえも細胞にインビボでトランスフェクションできる能力を保持する脂質:核酸複合体を提供できることは、本発明の驚くべき発見であった。
【0054】
また、両媒性脂質(例 PEG−PE)に結合させた親水性ポリマーと組み合わせた脂質:核酸複合体類が同様に長くなった保存寿命を示すことも驚くべき発見であった。特定の理論に縛られることなく、カチオン性脂質:DNA複合体("CLDC")を親水性ポリマーに接触させた時、前記親水性ポリマーは前記複合体中の疎水性ポケットに局在しその疎水性側鎖を介してその中に取り込まれ、一方、この親水性部分を外表面に留め、それによって全複合体を安定化させると考えられる。
【0055】
これらの発見を考慮し、本発明は、カチオン性脂質:核酸複合体類の保存寿命を延長する方法を提供する。この方法では、通常、ポリカチオンを用いて核酸を濃縮するかおよび/または前記脂質:核酸複合体を親水性ポリマーで被覆するなどの接触させることを含む。本発明は、また、このように調製された脂質:核酸複合体類も含む。
【0056】
本発明は、さらに、たとえば、微粒子類を選択された細胞類または組織類に標的化するために適した結合蛋白質類とともに脂質性微粒子類を形成する方法を提供する。本方法では、先行技術の方法に比べていくつか利点を有している。
【0057】
(1)挿入の定量的性質のゆえに、各粒子あたりのタンパク質数を高度に再現できかつ厳密に規定できる;
【0058】
(2)1種以上のタンパク質を同一粒子表面に厳密に比例させて付着できる。
【0059】
(3)もしタンパク質−リンカー結合物を粒子表面に挿入する前に精製するならば、この粒子は未結合リンカー類を保持していないであろう。
【0060】
(4)前記粒子は、その組成物中において、リンカー活性基と反応性の分子を含有できる。たとえば、前記粒子は、活性基がマレイミドであってもチオールを含有できる。
【0061】
(5)もし粒子が小胞であるならば、前記のリンカー/蛋白質分子類は、外表面上にのみ存在するであろう。
【0062】
(6)本法は、問題の蛋白質類を保持する表面付着結合物を付加させることによって、市販の薬剤学的リポゾーム類のような予め調製された公知の粒子の用途を拡大させる。
【0063】
I.カチオン性脂質:核酸複合体類
上記で説明した通り、本発明は、脂質:核酸複合体類の貯蔵寿命(保存寿命)を延長させる方法類を提供する。好適な態様において、前記複合体類は、核酸とリポゾームの併用によって形成される。しかし、前記脂質類はリポゾームとして供される必要はないことがわかっている。また、複合体化後、前記脂質:核酸複合体はもはや真の小胞として存在せず、したがって、一般的にはリポゾームとしてみなされない。脂質:核酸複合体類の調製は、当業者に公知である(たとえば、Crystal、Science 270:404−410(1995);Blaeseら、Cancer Gene Ther.,2:291−297(1995);Behrら、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);Remyら、Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);およびGaoら、Gene Therapy 2:710−722(1995)を参照)。本発明の安定化された脂質:核酸複合体類の種々の成分類および構造を下記で詳細に説明する。
【0064】
A.両媒性カチオン性脂質類
上記でも示唆したように、本発明の方法類は、カチオン性脂質を核酸と複合体にすることを含む。用語"カチオン性脂質"とは、生理的pHで正味の正の荷電を有する脂質種でありその数はいずれであってもよい。このような脂質類として、DODAC、DOTMA、DDAB、DOTAP、DC−CholおよびDMRIEなどが含まれるが、それらに限定されない。さらに、いくつかの市販されているカチオン性脂質類調製物類も利用でき、本発明で使用できる。これらには、たとえば、LIPOFECTIN 登録商標(GIBCO/BRL、Grand Island、New York、USAから市販されているDOTMAおよびDOPEを含むカチオン性リポゾーム類)、LIPOFECTAMINE 登録商標(GIBCO/BRLから市販されているDOSPAおよびDOPEを含むカチオン性リポゾーム類)、およびTRANSFECTAM 登録商標(Promega Corp.,Madison、Wisconsin、USAから市販されているDOGSを含むカチオン性リポゾーム類)が挙げられる。
【0065】
カチオン性脂質は単独でまたは"ヘルパー"脂質と併用して使用できる。好適なヘルパー脂質類は、生理的pHにおいて非イオン性または非荷電性である。特に好適な非イオン性脂質類として、コレステロールおよびDOPEがあげられるが、それらに限定されず、コレステロールは、最も好適である。
【0066】
ヘルパーに対するカチオン性脂質のモル比は、2:1から約1:2の範囲であることができ、さらに好適には、約1.5:1から約1:1.5であり、最も好適には約1:1である。
【0067】
本発明の脂質:核酸複合体類における使用に適した他のカチオン性および非イオン性脂質類は、当業者に周知でありたとえば、McCutcheon's Detergents and Emulsifiers and McCutcheon's Functional Materials,Allured Publishing Co.、Ridgewood、 N.Jのような種々の周知の出典に引用されている。好適な脂質類として、モル比が1:1のDDAB:コレステロールまたはDOTAP:コレステロールが挙げられる。
【0068】
B.核酸
前記脂質:核酸複合体類は、典型的には組換え技術を用いて構築された発現カセットである核酸を含有する。組換え核酸は、最初に問題の核酸を単離することで調製される。この単離された核酸を、次に、この遺伝子の発現に適したカセットまたはベクターに連結する。組換え核酸調製方法類は、当業者に公知である(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、1989)参照)。
【0069】
たとえば治療用ペプチドをコードする遺伝子またはレポータ遺伝子のような問題の遺伝子を、"発現ベクター"、"クローニングベクター"または"ベクター"中に挿入できるが、それらの用語は、選択された宿主細胞で複製でき問題の遺伝子を発現できるプラスミド類または他の核酸分子類を称する。発現ベクター類は、自律的に複製できるか、または、宿主細胞のゲノム中に挿入されることで複製できる。ベクターがたとえばクローニングおよび構築用大腸菌中においておよび発現用哺乳類細胞中においてのように1種以上の宿主細胞で使用できることが望ましいことが多い。前記ベクターの付加的要素類として、たとえば選択マーカーおよびエンハンサー類が挙げられるが、それらに限定されない。たとえばテトラサイクリン耐性またはハイグロマイシン耐性のような選択マーカー類は、所望のDNA配列類によって形質転換された細胞類の検出および/または選択を可能とする(たとえば、米国特許4,704,362を参照)。細胞に遺伝的情報を運ぶために使用された特定のベクターは、また、特に限定があるというわけではない。原核または真核細胞中で組換え蛋白質類を発現するために使用した従来のベクター類のいずれも、使用することができる。
【0070】
典型的には、発現ベクター類は、宿主細胞中での核酸発現に必要なすべての要素類を含む転写ユニットまたは発現カセットを有している。典型的な発現カセットは、蛋白質をコードするDNA配列に操作可能に連結したプロモータを含んでいる。前記プロモータは、好適には、その天然の配置で転写開始位置からの距離とほぼ同距離にある非相同転写開始位置からの距離に位置している。しかし、当該分野で公知であるように、この距離についてはプロモータ機能を失うことがなければいくらか変更も可能である。
【0071】
この発現カセット中において、問題の核酸配列は、切断可能なシグナルペプチド配列をコードする配列に連結でき、形質転換細胞によるコードされた蛋白質の分泌を可能とする。発現カセットは、また、構造遺伝子の下流に転写終止領域を含み、効率的終止を行う。終止領域は、プロモータ配列と同一の遺伝子から得ることができ、または、異なる遺伝子から得ることもできる。
【0072】
哺乳類細胞中における構造遺伝子でコードされたmRNAのさらに効率的な翻訳のため、ポリアデニル化配列も同様に、通常、前記の発現カセットに添加される。本発明に適した終止およびポリアデニル化配列として、SV40由来のものおよびすでに発現ベクター上にある遺伝子の部分ゲノムコピーが挙げられる。
【0073】
前記の発現ベクターに加えて、多くの発現ベクター類は、最適には、連結した同種または異種のプロモータ類から1000倍まで転写を刺激することが可能なエンハンサー要素類を含む。ウイルス由来の多くのエンハンサー要素類は、宿主範囲が広く、種々の組織で活性である。例えば、初期の遺伝子エンハンサーSV40は様々な細胞タイプに適している。本発明に適した他のエンハンサー/プロモータ組み合せとして、ポリオーマウイルス、ヒトまたはげっ歯類サイトメガロウイルス、又は、げっ歯類白血病ウイルス、げっ歯類またはラウス肉腫ウイルス、HIVなどの種々のレトロウイルス由来のロングターミナルリピートが挙げられる。
(参照:Enhancers and Eukaryotic Expression(1983))
【0074】
上記で述べた組換え核酸類に加えて、合成核酸類またはオリゴヌクレオチド類もまた、本発明で使用できる。本発明で使用した核酸類に関して一般的な点として、当業者は、本発明で使用した核酸類がDNAおよびRNA分子類の両者を含み、また合成、非天然由来の前記のアナログ類、およびデオキシリボヌクレオチド類、リボヌクレオチド類および/またはいずれかのアナログ類のヘテロポリマー類が挙げられることを理解する。核酸または核酸アナログの特定の組成物は、その物質を使用する目的とその物質を導入する環境に依存するであろう。改変または合成の非天然由来ヌクレオチド類が、種々の目的に供されるため、およびヌクレアーゼ類が存在する環境のような種々の環境で安定に保たれるため、設計されることは、当該分野で周知である。天然のリボ−またはデオキシリボヌクレオチド類に比較して、改変または合成された非天然由来ヌクレオチド類は、炭水化物(糖)、りん酸結合、ヌクレオチドの塩基部分に関して異なることがあり、または、ある場合には非ヌクレオチド塩基(または、全く塩基なし)をも含むことがある(たとえば、Arnoldら、PCT特許公報 第WO 89/02439号参照)。たとえば、本発明の改変または非天然由来の核酸類として、ビオチン化核酸類、O−メチル化核酸類、メチルホスホン酸骨格核酸類、ホスホロチオアート核酸類、またはポリアミド核酸類を挙げることができる。
【0075】
下記で述べるアンチセンスRNAのようなオリゴヌクレオチド類は、好適には、Applied BioSystems上でまたは他の市販されているオリゴヌクレオチドシンセサイザー上で製造業者の取扱説明書にしたがって合成される。オリゴヌクレオチド類は、ホスホトリエステルおよびホスホジエステル法のようないかなる適切な方法またはその自動化された態様を用いることで、調製することができる。このような自動化態様のひとつにおいて、ジエチルホスホルアミダイト類は出発物質類として使用され、Beaucageら、Tetrahedron Letters 22:1859(1981)および米国特許第4,458,066号に記載されたように合成することもできる。
【0076】
C.濃縮核酸
小型のポリカチオン性分子類は、静電的荷電−荷電相互作用によって核酸類を濃縮することが公知となっている(Plumら、Biopolymers 30:631−643(1990))。核酸のポリアミン類による前処理は、したがって、カチオン性リポゾーム類を複合体化するための荷電部位の数を減らすことができる。しかし、脂質複合体形成前に核酸を濃縮し、トランスフェクション効率で測定したところ、脂質:核酸複合体類の保存寿命延長として驚くべき結果がもたらされた。このような前処理によって形成された脂質:核酸複合体類は凝集することなく、DNAに対する脂質の比率が低い場合でも安定であった。ポリアミン類、ポリアンモニウム分子類および塩基性ポリアミノ酸類のような有機ポリカチオン類、およびそれらの誘導体類も、脂質複合体形成前に核酸を濃縮するために使用される。好適な態様では、スペルミジンおよびスペルミンのようなポリアミン類を使用し、核酸を濃縮させる(たとえば、実施例1参照)。
【0077】
D.親水性ポリマー
最近、リポゾーム中へのPEG−PEの取り込みが立体的安定性をもたらし、血液中での循環時間が長くなるという結果が得られた(Allenら、Biochim.Biophys.Acta.1066:29−36(1991);Papahadjopoulosら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:11460−11464 (1991))。本発明において、形成されたばかりの脂質:核酸複合体類中にPEG−PE(例 総脂質の1%)を挿入すると、保存寿命中前記複合体類の凝集を防止する。しかし、PEG−PEの取り込みがインビボにおけるトランスフェクション活性を阻害しなかったことおよびインビトロトランスフェクション活性は阻害されたがこれはPEG−PE末端に結合されたFab'断片を取り込むことで再獲得されたことは、驚くべき発見であった。脂質:核酸複合体中における親水性ポリマー類の存在は、保存後トランスフェクション効率で測定したところ、保存寿命延長を生じる。したがって、前記リポゾームに対してポリエチレングリコール(PEG)改変脂質類のような親水性ポリマーまたはガングリオシドGM1を添加することが望ましい。また、PEGは、脂肪酸類、スフィンゴリピド類、グリコリピド類およびコレステロールのような他の両媒性分子類によって誘導体とすることができる。上記成分類を添加すると、リポゾームへの標的部分の結合時にリポゾーム凝集を防止する。これらの成分類は、また、脂質:核酸複合体類の循環寿命を増大させる手段を提供する。
【0078】
リポゾーム中への取り込み用PEGを調製するため、いくつかの異なる方法類を使用することができる。ひとつの好適な態様において、PEGは、PEG誘導ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)またはPEG誘導ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE)として取り込まれる。PEG−PE調製方法は周知であり、一般的に、活性化メトキシPEG(反応末端を一つだけ有する)およびPEを用いることを含む。PEG−サクシンイミジルコハク酸は塩基性有機溶媒中で反応させることができる(Klibanovら、FEBS Lett.268:235−237(1990))。PEG−PE調製の特に好適な方法は、PEGのカルボニルイミダゾールとの反応とその後のPE添加に基づいている(Woodleら、Proc.Intern.Symp.Control.Rel.Bioact.Mater.17:77−78(1990);Papahadjopoulosら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:11460−11464(1991);Allenら、Biochim.Biophys.Acta.1066:29−36(1991);Woodleら、Biochim.Biophys.Acta.1105:193−200(1992);およびWoodleら、Period.Biol.93:349−352(1991)参照)。同様に、塩基性有機溶媒中シアヌルクロリド活性化PEGについても、Blumeら、Biochim.Biophys.Acta.1029:91−97(1990)および米国特許第5,213,804号に記載されている。全く異なる手法は、トレシルクロリド活性化PEGを用いて前形成リポゾーム類とPEGを結合させ、それをその後高pHでPE含有リポゾーム類に添加する(Seniorら、Biochim.Biophys.Acta.1062:77−82(1991))。誘導体化PEGは、また、市販されている。したがって、たとえば、PEG−PEは、Avanti Polar lipids(Alabaster、Alabama)から入手できる。当業者は、たとえばツイーンのようなPEG連結界面活性剤類のような多くの他の連結物類が利用でき、形成された脂質:核酸複合体類中へのPEG誘導脂質の挿入を理解するであろう。
【0079】
E.Fab'抗体断片
好適な態様において、本発明の脂質:核酸複合体類は抗体のFab'断片に結合され、それは、Fab'抗体断片の特異的な標的分子(例 特徴的マーカー)を有する標的細胞を前記脂質:核酸複合体が特異的に結合できるようにする標的部分として作用する。前記の高変異領域または特異的細胞表面リガンドと相互作用する別のペプチド由来の小型ペプチド類は、同様に、前記複合体類に結合することができる。一般的用語において、抗体のFab'断片とは、前記の可変領域と抗体の1腕のCH1領域を含む単量体を意味する。このような一つの好適な態様は、実施例2において記載されている。
【0080】
"抗体"とは、イムノグロブリン遺伝子類またはイムノグロブリン遺伝子類の断片によって実質的にコードされた1個以上のポリペプチド類で構成されるタンパク質を称する。認識されたイムノグロブリン遺伝子類として、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、エプシロンおよびミュー定常部遺伝子類ならびに無数のイムノグロブリン可変領域遺伝子類があげられる。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはエプシロンとして分類され、それらは、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEのイムノグロブリン群を規定する。
【0081】
塩基性イムノグロブリン(抗体)構造単位は、テトラマーを含むことが公知である。各テトラマーは、ポリペプチド鎖の2個の同一対から構成され、各対は、1個の"L"鎖(約25kD)と1個の"H"鎖(約50−70kD)を有している。各鎖のN末は、本質的に抗原認識を司る約100から110個以上のアミノ酸類の変異可能な領域を定義する。用語可変領域L鎖(VL)および可変領域H鎖(VH)とは、これらのLおよびH鎖類をそれぞれ称している。
【0082】
抗体類は、未変化のイムノグロブリン類としてまたは種々のペプチダーゼによる消化によって産生され十分に解析されたいくつかの断片類として存在することもできる。特に、ペプシンは、そのヒンジ領域中のジスルフィド結合以下の抗体を消化し、Fab'ダイマーであるF(ab)'2を産生し、それは、それ自体、ジスルフィド結合によってVH−CH1に結合したL鎖である。このF(ab)'2は温和な条件下で還元され、ヒンジ領域のジスルフィド結合を破壊し、それによって、F(ab)'2ダイマーをFab'単量体に変換する。このFab'単量体は、本質的に、ヒンジ領域の一部を有するFabである(より多くの抗体断片用語については、Fundamental Immunology、W.E.Paul編著、Raven Press,N.Y.(1993)を参照)。Fab'断片は未変化抗体の消化の観点から定義される一方、当業者は、このようなFab'断片類がデノボで化学的にまたは組換えDNA技術を利用することによって、合成できることを理解するであろう。
【0083】
本発明で使用したFab'断片類は、動物(特にマウスまたはラット)またはヒト起源の抗体類に由来することができ、またはキメラであることもできる(Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855(1984))、またはヒト化することもできる(Jonesら、Nature 321:522−525(1986);および公表英国特許出願第8707252)。
【0084】
Fab'断片は、カチオン性脂質:核酸複合体の内容物を運搬することを望む細胞類の表面に特徴的な分子またはマーカーに特異的に結合されるように、選択する。この分子が典型的にはその細胞種と結合して見られるかまたはこれとは別に特定の生理的条件(例 形質転換)を発現するすべての複数の細胞種に見られる場合には、細胞、組織または生理的状態にこの分子は特徴的である。特異的特徴的マーカーは、好適には、特定組織または細胞種の細胞表面上または特定生理的条件を発現する組織または細胞の表面上に見られ、かつ、前記生物中の他の組織または細胞種には見られない。しかし、当業者は、この程度のマーカー特異性がしばしば必要とされていないことに気づくであろう。たとえば、特徴的細胞表面マーカーは、非標的細胞だけが脂質:核酸複合体に到達できないならば、十分な組織特異性を示すであろう。これとは別に、効果的特異性は、他の組織に比較して標的組織中におけるマーカーの過剰発現によって達成できる。この結果、標的組織による優先的取り込みが起こることになり、効果的組織特異性が生じることになる。したがって、たとえば、多くの癌は、乳癌の場合におけるHER2(c−erbB−2、neu)プロトオンコジーンによってコードされたレセプターのような細胞表面マーカー類の過剰発現を特徴としている。
【0085】
当業者は、標的を必要とする特定組織に応じて、良好な特徴的マーカー類を提供する多数の表面マーカー類があることを認識するであろる。これらの細胞表面マーカー類には、炭水化物類、蛋白質類、糖蛋白質類、MHC複合体類、インターロイキン類、およびHER、CD4およびCD8レセプター蛋白質類のようなレセプター蛋白質類ならびに他の成長因子類およびホルモンレセプター蛋白質類が挙げられるが、それらに限定されない。
【0086】
成長因子レセプター類は、特に好適な特徴的細胞表面マーカー類である。成長因子レセプター類は、成長因子類を特異的に結合し、それによって前記特定成長因子の細胞応答特性を媒介する細胞表面レセプター類である。本文で使用した用語"成長因子"とは、細胞分裂または分化を活性化するかまたは刺激するかあるいは蛋白質類の運動性または分泌のような生物応答を刺激する蛋白質またはポリペプチドリガンドを称する。成長因子類は当業者に周知であり、血小板誘導成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、インシュリン様因子(IGF)、形質転換成長因子ベータ(TGF−ベータ)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インタロイキン2(IL2)、神経成長因子(NGF)、インタロイキン3(IL3)、インタロイキン4(IL4)、インタロイキン1(IL1)、インタロイキン6(IL6)、インタロイキン7(IL7)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、エリスロポイエチン、インタロイキン13レセプター(IL13R)などが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、本文で使用した用語成長因子が一般的にサイトカイン類およびコロニー刺激因子類を含むことがわかるであろう。
【0087】
特に好適なマーカー類は、成長因子レセプター類のHERファミリー中に見られる。さらに具体的には、HER1、HER2、HER3およびHER4がさらに好適であり、HER2が最も好適である。HERレセプター類は、それ自体が高度に特異的な抗体標的類を提供する蛋白質チロシンキナーゼ類を含む。したがって、一の態様において、HER2のP185チロシンキナーゼは、本発明のイムノ脂質:核酸複合体類で利用されたFab'断片に対して非常に好適な標的を提供する。
【0088】
前記の特徴的マーカーが天然のマーカーである必要はなく、むしろ、特定の標的細胞に導入できることがわかるであろう。このことは、特定のマーカーで(例
【0089】
マーカー付き特定標的細胞を直接注入するかまたはこれとは別に生物全体に標的組織に選択的に取り込ませるマーカーを投与することによって)細胞または組織に標識を直接付けることによって、可能となるであろう。一の態様において、前記マーカーは、発現カセット中の核酸によってコードされた遺伝子産物であることができる。前期マーカー遺伝子は、特定標的細胞中でのみ活性であるプロモーターの制御下におくこともできる。したがって、発現カセットを含有するベクターの導入の結果、特定標的細胞中にのみ前記マーカーの発現が生じるであろう。当業者は、組換えDNA技術を用いて標的細胞に特徴的マーカー類を導入する多くの手法があることを理解するであろう。
【0090】
好適な一の態様において、標的部分は、特異的に成長因子レセプターの生成物または成分類を結合し、特にHER2(c−erbB−2、neu)プロトオンコジーンの生成物を結合する。特に、標的部分が、通常、乳癌で過剰発現されるHER2、蛋白質p185HER2によってコードされた成長因子レセプター−チロシンキナーゼを結合するのが好適である。(Slamonら、Science 235:177−182(1987))。標的部分のための他の適切な標的類として、EGFR(HER1)、HER3およびHER4、これらのレセプター類の組み合せ、および癌関連の他のマーカー類が挙げられるが、これらに限定されない。問題の他の抗体類として、BR96(Friedmanら、Cancer
【0091】
Res.53:334−339(1993))、e23からerbB2(Batraら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5867−5871(1992))、前立せん癌におけるPR1(Brinkmannら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:547−551(1993))および卵巣癌におけるK1(Changら、Int.J.Cancer
【0092】
50:373−381(1992))が挙げられるが、それらに限定されない。
【0093】
本発明のイムノ脂質:核酸複合体類は、当業者に周知の種々の技術によって前記のFab'断片をリポゾーム中または脂質中に取り込ませることによって調製することができる。このFab'は、脂質:核酸複合体に対して、複合体形成前または後に添加される。たとえば、ビオチン結合Fab'は、ストレプトアビジン含有リポゾームに結合できる。これとは別に、前記のビオチン化Fab'は、アビジンまたはストレプトアビジンリンカーによってビオチン誘導リポゾームに結合させることができる。したがって、たとえば、ビオチン化モノクローナル抗体は、ビオチン化し、ビオチン化ホスファチジルエタノールアミン含有リポゾーム類にアビジンリンカーという手段で付着させることができる(例 Ahmadら、Cancer Res.52:4817−4820(1992)参照)。各脂質:核酸複合体当たり、典型的には、約30から125、およびさらに典型的には約50から100のFab'断片類が使用される。
【0094】
好適な態様において、標的部分は直接リポゾームに結合させることができる。直接結合のこのような手段は当業者に周知である(例 Gregoriadis、Liposome Technology(1984)およびLasic、Liposomes:from Physics to Applications(1993)参照)。これは、前記の抗体をマレイミド誘導ホスファチジルエタノールアミン(M−PE)またはジパルミトイルエタノールアミン(M−DEP)のようなマレイミド誘導脂質と反応させることで、達成することもできる。この手法は、Martinら、J.Biol.Chem.257:286−288(1982)に詳細に記載されている。
【0095】
II.リポゾーム類の調製
種々の方法がリポゾーム類調製のために利用可能であり、たとえば、Szokaら、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467(1980);米国特許第4,186,183;4,217,344;4,235,871;4,261,975;4,485,054;4,501,728;4,774,085;4,837,028;4,946,787;PCT公報第WO91/17424;Szoka&Papahadjopoulos、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:4194−4198(1978);Deamer&Bangham、Biochim.Biophys.Acta 443:629−634(1976);Fraleyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:3348−3352(1979);Hopeら、Biochim.Biophys.Acta 812:55−65(1985);Mayerら、Biochim.Biophys.Acta 858:161−168(1986);Williamsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:242−246(1988)、Liposomes、Ch.1、(Ostro編著、1983);およびHopeら、Chem.Phys.Lip.40:89(1986)に記載されている。適切な方法として、たとえば、音波処理、押し出し、高圧/均質化、微細粉末化、界面活性剤透析、小リポゾーム小胞のカルシウム誘発融合、およびエーテル注入方法などが挙げられ、全て当該分野で周知である。ひとつの方法では、不均一な大きさのマルチラメラ小胞を生成する。この方法において、小胞形成脂質類は、適切な有機溶媒中または溶媒系に溶解させ、真空中または不活性気体中で乾燥させ、薄い脂質膜を形成させる。もし所望であれば、この膜を再度三級ブタノールのような適切な溶媒に溶解させ、その後凍結乾燥させ、より均質な脂質混合物を形成させ、これは、より容易に水和された粉末様形態となる。この膜を水性緩衝液で被覆させ、典型的には15−60分にわたり攪拌下に水和させる。生成したマルチラメラ小胞の径分布は、前記脂質類をより強く攪拌することで水和させてまたはデオキシコーレートのような可溶性界面活性剤を添加することで、より小さい径にシフトさせることができる。
【0096】
好適な態様において、ほとんどがユニラメラなリポゾーム類は、Szoka&Papahadjopoulos、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:4194−4198(1978)の逆相蒸留法によって産生される。
【0097】
ユニラメラ小胞類は、一般的に、音波処理または押し出しによって調製される。音波処理は、一般的に、ブランソン(Branson)チップ音波処理機のようなバスタイプ音波処理機を用いて、脂質の融点で決定した制御温度で行われる。押し出しは、リペックスバイオメンブレンエクストルーダー(Lipex Biomembrane Extruder)のような生体膜押し出し機によって、実行することもできる。押し出しフィルター中の規定された孔径は、特定の大きさのユニラメラリポゾーム小胞類を産生できる。前記リポゾーム類は、また、Norton Company、Worcester、MAから市販されているセラフローミクロフィルター(Ceraflow Micro filter)のような非シンメトリックなセラミックフィルターを介しての押し出しによっても形成することができる。
【0098】
リポゾーム調製後、形成時には大きさが分類されていなかった前記リポゾーム類を押し出しによって大きさをそろえ所望の大きさ範囲とし、比較的狭いリポゾーム径の分布とする。約0.2−0.4ミクロンの径範囲は、前記のリポゾーム懸濁液を、通常は0.22ミクロンフィルターである従来のフィルターを介して殺菌可能とする。フィルター殺菌法は、もし、リポゾーム類が約0.2−0.4ミクロンの大きさより小さくなっていたならば、高生産性ベースで実行することができる。
【0099】
2−3の技術は、所望の大きさにリポゾーム類をそろえるために利用可能である。ひとつのサイジング法は、米国特許第4,529,561または4,737,323に記載されている。バスまたはプローブ音波処理のいずれかによるリポゾーム懸濁液の音波処理で、大きさが0.05ミクロン未満の小型のユニラメラ小胞類に漸次大きさを小さくすることができる。均質化は、大きなリポゾーム類を小さなリポゾーム類に断片化するせん断エネルギーに依存している別法である。典型的な均質化操作において、マルチラメラ小胞類は、標準的エマルジョンホモジナイザーによって再循環され、典型的には約0.1から0.5ミクロンの間にある選択されたリポゾームサイズが観察されるまで再循環させる。リポゾーム性小胞の大きさは、カイ電気光分散(QELS)によってBloomfield、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,10:421−450(1981)に記載のようにして、決定することができる。平均的リポゾーム直径は、形成されたリポゾーム類の音波処理によって小さくすることができる。間欠的音波処理サイクルは、QELS評価で変更することができ、効率的リポゾーム合成を誘導する。
【0100】
小孔ポリカーボネート膜または非シンメトリックセラミック膜を介したリポゾームの押し出しは、同様に、リポゾームサイズを比較的よく規定されたサイズ分布に低減するための効果的方法である。典型的には、懸濁液を1回以上、前記膜を介して循環させ、所望のリポゾーム径分布が得られるまで循環させる。前記リポゾーム類を連続的に小さくした孔を有する膜を介して押し出しで、リポゾーム径を漸次小さくすることができる。本発明で使用するため、約0.05ミクロンから約0.5ミクロンのサイズを有するリポゾーム類。さらに好適であるのは、約0.05から約0.2ミクロンのサイズを有するリポゾーム類である。
【0101】
III.脂質:核酸複合体類の形成
安定化脂質:核酸複合体類(例 濃縮核酸および/または親水性ポリマーを有する)が可視可能な大きな凝集物を形成しない傾向があることおよびトランスフェクション効率上昇および保存寿命延長を示すことは、本発明の発見であった。可視可能な大きな凝集物を形成しない脂質:核酸複合体類調製のための核酸/リポゾーム比率は、当業者が決定できる。典型的には、この比率は、固定された量のたとえばプラスミドのような核酸を種々の量のリポゾーム類と混合することによって、決定される(実施例1参照)。一般的に、脂質:核酸複合体類は、核酸(例 プラスミドDNA)を同量のリポゾーム懸濁液中にピペット操作で注入し急激に混合することによって、形成される。通常、5−15nmoleのDDABまたはDOPE(上記に記載)のような脂質を含有するリポゾーム類は、1μgのプラスミドと複合体を形成するが、可視可能な大きい凝集物を形成しない。可視可能な大きな凝集物の検査は、典型的には、顕微鏡の助けをなくして実施される。脂質および核酸量の滴定の終点は、また、インビトロまたはインビボのいずれかで、非安定化対照(下記に説明)と比較してトランスフェクション効率増大をアッセイすることによって、得られる。
【0102】
脂質:核酸複合体が大きい凝集物を形成し時間の経過とともにトランスフェクション活性を失わないようにするため、2つの手法を用いる:(1)PEG−PEのような少量の親水性ポリマー(約1%モル比)を、調製後数分以内の脂質:核酸複合体利に取り込ませること;および/または(2)リポゾーム類と混合する前に、前記核酸をポリアミン(例 DNA1μg当たり約0.05乃至5.0nmoleのスペルミジン)で濃縮すること。前記ポリアミン類および親水性ポリマーの最適量は、形成された複合体類が大きな、たとえば可視可能な凝集物類を形成しないようにポリアミンまたは親水性ポリマーを核酸で滴定することによって、当業者が決定することができる。これらの脂質:核酸複合体類の大きさは、ダイナミック光分散によって範囲410±150nmであると推定できる。滴定の終点は、また、インビトロまたはインビボのいずれかでトランスフェクション効率増大をアッセイし非安定化対照(下記に記載)と比較することで、得られる。
【0103】
IV.脂質:核酸複合体類によるトランスフェクションおよび遺伝子療法
【0104】
本発明は、インビトロ、インビボおよびエクスビボにおいて哺乳動物細胞のトランスフェクションのための保存寿命が延長した脂質:核酸複合体類および前記複合体類を製造しトランスフェクションさせる方法類を提供する。特に、本発明は、一部ではあるが、有機ポリカチオンに接触させることで濃縮された核酸を含む脂質:核酸複合体が保存寿命延長を示すという予測外の発見に基づいている。さらに、本発明は、脂質:核酸複合体形成後、脂質:核酸複合体を親水性ポリマーと混合すると、高トランスフェクション活性と保存寿命延長を示し、これは保存後のトランスフェクション活性を測定することでわかるという予測外の発見に基づいている。このような延長された保存寿命を有する脂質:核酸複合体類は、たとえば、細胞のインビトロおよびエクスビボトランスフェクションのために有用であり、さらに、インビボでかつ静注投与後の哺乳類遺伝子療法のために核酸を細胞中に運搬するために有用である。
【0105】
脂質:核酸複合体類を用いて核酸類を異なる哺乳類細胞種に用いることで、運搬の安全な方法と遺伝子運搬の高効率がもたらされる。脂質:核酸複合体類によるインビボにおける細胞類のトランスフェクションは当業者に公知であり、実施例1に述べたように標準的手法を用いて実行できる(たとえば Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、1989);Ausbelら、Current Protocols in Molecular Biology(1995)参照)。
【0106】
当業者は、宿主細胞中への導入に適したいかなる非相同核酸も本発明で用いることができる。遺伝子療法に有用な遺伝子類は、本発明の方法類およびベクター類を用いて哺乳類に導入できる。血液蛋白質類、酵素類、ホルモン類、リボザイム類、アンチセンスRNA、ウイルス阻害剤類およびイオンチャンネル蛋白質類をコードする遺伝子類は、遺伝子療法に有用な非相同核酸類の例である。機能的非相同遺伝子を用いて、遺伝子療法を用いて変異遺伝子を置換することができる。たとえば、ベータグロブリンをコードする遺伝子を用いて、ベータサラセミアを治療することができる;さらに、CFTRをコードする遺伝子を用いて嚢胞性線維症を治療することができる。抗生物質耐性を賦与するもののような選択性マーカー類をコードする遺伝子類は、脂質:核酸複合体でトランスフェクションされた細胞を検出し単離するために用いることができる。ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ヒト成長ホルモン(hGH)、および緑色蛍光蛋白質(GFP)のようなレポータ遺伝子類が、トランスフェクション効率を決定するためのアッセイに使用できる遺伝子類の好適な例である。本発明の一の態様において、ルシフェラーゼはトランスフェクション効率を求めるためのレポータ遺伝子として使用できる。
【0107】
レポータ遺伝子のトランスフェクション効率は、使用しているレポータ遺伝子に適したアッセイによって求めることができる。このようなアッセイは、当業者に公知である。たとえば、HGHレポータアッセイは、免疫学に基づいておりかつ市販されているラジオイムノアッセイキットを用いている。本発明の好適な一の態様において、ルシフェラーゼアッセイを用いてルシフェラーゼレポータ遺伝子のトランスフェクションおよび発現を検出する。前記ルシフェラーゼアッセイは、感度が高くかつ放射能を使用しないので、好適である。ルミノメータを用いて、実施例1に記載のようにルシフェラーゼ酵素活性を測定できる。
【0108】
遺伝子療法は、HIV感染のような慢性感染性疾患類ならびに癌および出生異常のような非感染性疾患類に対処するための方法類を提供する(一般的に、Anderson、Science 256:808−813(1992);Yuら、Gene Ther.1:13−26(1994)参照)。遺伝子療法は、エクスビボまたはインビボ操作のいずれかで細胞に形質導入するために使用できる。遺伝子療法のためのエクスビボの方法は、本発明の脂質:核酸複合体によって哺乳類外部で細胞に形質導入することおよび前記細胞を前記生物に再度戻して導入することを含む。前記細胞類は、骨髄から単離した造血器幹細胞または脂質:核酸複合体類でトランスフェクション可能な他の細胞類である。
【0109】
ヒトにおいて、造血器幹細胞は、臍帯血、骨髄、および可動化させた(mobilized)末梢血を含む種々の起源から得ることができる。CD34+細胞の精製は、抗体アフィニティ操作によって達成できる(Hoら、Stem Cells 13(補遺3):100−105(1995)参照;Brenner,J.Hematotherapy 2:7−17(1993))参照)。細胞は、また、患者から単離培養できる。これとは別に、エクスビボ操作に使用した細胞は、細胞バンク(例 血液銀行)に保存されたものであることもできる。幹細胞を使用する利点は、インビトロで他の細胞種に分化できること、または(細胞ドナーのような)骨髄に移植して哺乳類に導入できるということである。GM−CSF、IFN−γ、およびTNF−28のようなサイトカイン類を用いてインビトロで骨髄細胞を臨床的に重要な免疫細胞種類に分化させる方法類は、公知である(例 Inabaら、J.Exp.Med.176:1693−1702(1992)参照)。
【0110】
核酸運搬は、また、インビボ遺伝子療法を用いて達成できる。本発明の脂質:核酸複合体類は、直接、好適にはヒトである患者に投与できる。インビボおよびエクスビボ投与は、通常、分子または細胞を血液または組織細胞に最終的に接触させるべく導入するために使用される経路のいずれかによる。本発明の脂質:核酸複合体類は、いかなる適切な方法によっても投与され、好適には、薬剤学的に許容できる担体とともに投与される。
【0111】
このような非ウイルス性粒子類を本発明の範囲で患者に投与する適切な方法は、当業者に公知である。好適には、前記薬剤組成物類は、エアゾール投与(例 ネブライザーまたは他のアエゾール用具を用いて)、非経口ですなわち動脈内、静脈内、腹腔内、皮下または筋肉内に投与される。さらに好適には、前記薬剤組成物類は、エアゾール投与を介してまたは静脈内または腹腔内にボーラス注入によって投与される。この用途に適した特定の処方は、Remington's Pharmaceutical Sciences(第17版、1985)に見られる。典型的には、前記処方は、好適には水性担体である許容できる担体に懸濁した脂質:核酸複合体類の溶液を含むであろう。
【0112】
V.薬剤組成物類
本発明の脂質:核酸複合体類を含む薬剤組成物類は、標準的技術にしたがって調製され、かつ、さらに薬剤学的に許容できる担体を含む。一般的に、通常の生理食塩水を、薬剤学的に許容できる担体として使用するであろう。他の適切な単体として、たとえば、水、緩衝水、等張液(例 デキストロース)、0.4%生理食塩水、0.3%グリシンなどが挙げられるが、アルブミン、リポプロテイン、グロブリン等のような安定性増強のための糖蛋白質類も含まれる。これらの組成物類は、従来周知の滅菌手法によって滅菌される。生成した水性溶液類を袋に入れ使用することもできるしまたは無菌条件下でろ過し凍結乾燥することもでき、この凍結乾燥調製物を無菌水性溶液と組み合わせて投与できる。前記組成物類は、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等のようなpH調製および緩衝性の物質類、調整剤等のような、生理的条件に近似させるために必要な薬剤学的に許容できる補助剤を含むことができる。さらに、脂質:核酸複合体懸濁液は、保存時のフリーラジカルおよび脂質過酸化性傷害に対して脂質を保護する脂質保護性物質類を含むことができる。アルファトコフェロールおよびフェリオキサミンのような水溶性鉄特異的キレート剤のような脂質親和性フリーラジカルクエンチャー類が適切である。
【0113】
脂質:核酸複合体類の前記薬剤処方中における濃度は広く変化でき、すなわち、0.05%未満、通常は約2−5重量%であるか少なくともそうである濃度から10乃至30重量%まで大きく変化し、選択した投与の特定方式にしたがって、液体量、粘度などによって主に選択されるであろう。たとえば、濃度は、治療に関連した液体負荷量を低減させるために増加させることもできる。これは、動脈硬化関連先天性心不全または重篤な高血圧を有する患者において特に望ましい。これとは別に、刺激性脂質類で構成されたイムノ脂質:核酸複合体類を低濃度に希釈して投与部位における炎症を低減させることもできる。投与した脂質:核酸複合体の量は、使用した特定のFab'、治療している疾病状態および臨床医の判断に依存するであろう。一般的に、投与した脂質:核酸複合体類の量は、治療上有効量の核酸を運搬するために十分となるであろう。治療上有効量を運搬するために必要な脂質:核酸複合体の量は、当業者によって決定できる。典型的な脂質:核酸複合体投与量は、一般的に、体重1kg当たり約0.01乃至約50mgの核酸、好適には体重1kg当たり約0.1乃至約10mgの核酸、最も好適には体重1kg当たり約2.0乃至約5.0mgの核酸である。マウス投与のため、この投与量は、典型的には、マウス20g当たり50−100μgである。
【0114】
VI.血液半減期のアッセイ
標的組織中における脂質:核酸複合体を局在化させるためのためのひとつの手段として、投与後の血流中における脂質:核酸複合体寿命の延長がある。血流中脂質:核酸複合体寿命のひとつの尺度は、複合体投与後の選択された時点に求めた血液/網状系比である。典型的には、複合体の内部にまたは前記複合体を含む脂質に結合させてのいずれかで標識(例 蛍光マーカー、電子密度反応剤または放射性マーカー)を含有する脂質:核酸複合体類を試験生物中に注入する。その後の一定の時点において、生物を屠殺し血液中で検出した(例 発光測定によってまたはシンチレーション測定によって)標識の量を、特定組織(例 肝または脾臓)中に局在したそれと比較する。
【0115】
血液中における脂質:核酸複合体類の滞留の時間的経過は、また、標識含有脂質:核酸複合体類を投与後の一定の時点で血液をサンプリングし循環血液中に残留している標識量を測定することによって求めることができる。結果は、当初の投与量の分画として示すことができる。
【0116】
VII.脂質:核酸複合体類による組織トランスフェクションのアッセイ
本発明の脂質:核酸複合体類による標的細胞のトランスフェクションは、同様に、それ自体検出可能であるかまたは検出可能な生成物をコードする核酸を含有する脂質:核酸複合体類を投与することによって、求めることができる。血液試料類(例 組織生検または液体試料)を次に採取し、トランスフェクションされた核酸それ自体を検出するかまたは前記核酸の発現生成物の存在を検出することによって、トランスフェクションをアッセイする。
【0117】
核酸それ自体は、たとえば、核酸増幅によってのように容易に検出可能な配列を有するものが選択できる。この場合、核酸は、トランスフェクションのためにアッセイする生物組織試料中において対象核酸だけを特徴的に増幅できるように選択されたプライマーサイトを有するように、選択されるであろう。
【0118】
特異的DNA配列を検出するための手段は、当業者に周知である。たとえば、前記領域を有する選択部分配列に対して相補性であるとして選択されたオリゴヌクレオチドプローブ類を使用できる。これとは別に、配列類または部分配列類を、ポリメラーゼチェーン反応(PCR)(Innisら、PCR Protocols:A guide to Methods and Application(1990)、リガーゼチェーンリアクション(LCR)(Wu&Wallace、Genomics 4:560(1989);Landegrenら、Science 241:1077(1988);Barringerら、Gene 89: 117(1990)、転写増幅(Kwohら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173(1989))、および自己持続配列複製(Guatelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874(1990))を含む種々のDNA増幅技術によって増幅できるが、これらに限定されない。
【0119】
特に好適な態様において、トランスフェクションは、1個以上の組織中における遺伝子産物の存在または非存在を検出することによってまたは定量することによって評価される。容易にアッセイ可能なあらゆる遺伝子が、本アッセイのための適切なインジケータを提供するであろう。適切なレポータ遺伝子類は当業者に周知である。それらには細菌性クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ、またはルシフェラーゼ(例 Alamら、Analytical Biochemistry 188:245−254(1990)参照)が含まれるが、それらに限定されない。特に好適なひとつのレポータ遺伝子は、実施例に示したFflux遺伝子である。
【0120】
VIII.保存寿命アッセイ
上記にも述べたように、用語"保存寿命"とは、前記脂質:核酸複合体がその生物活性を失うまで(4℃の緩衝液中のような規定された条件下における)保存可能な期間を称するものとして本文で使用している。本発明で保存寿命決定のためにアッセイする前記の生物活性とは、静脈注射後哺乳類細胞にトランスフェクションする脂質:核酸複合体の能力である。
【0121】
好適な態様において、保存寿命とは、脂質:核酸複合体類を種々の時間保存し、1種以上の動物に前記複合体を注入しかつ上記のようにかつ実施例で例示したようにトランスフェクション用(例 レポータ遺伝子の発現)動物中における選択された組織をアッセイすることによって、求める。
【0122】
保存寿命は、絶対期間ですなわち前記組成物を活性消失前に保存可能な時間的長さであらわすことができることがわかるであろう。これとは別に、保存寿命は、異なる組成物を参考にして相対的期間で表すこともできる。したがって、たとえば、対象複合体が一定の保存寿命後トランスフェクション活性を示しかつこの活性が同一時間同様に保存された異なる複合体の活性よりも高い時、対象複合体はこの異なる複合体に比較して延長された保存寿命を有するという。
【0123】
IX.特異的組織への脂質:核酸複合体類の標的化
本発明の脂質:核酸複合体類とともに特異的標的部分を使用して、特異的細胞または組織を標的とすることができる。一の態様において、抗体または抗体部分のような標的部分を親水性ポリマーに付着させ、複合体形成後において脂質:核酸複合体と組み合わせる。したがって、一般的エフェクター脂質:核酸複合体と併用して標的部分を使用すると、前記複合体を特異的細胞類および組織類への運搬のために都合よく調整できる能力が付与される。
【0124】
脂質:核酸複合体類中のエフェクター類の例として、サイトトキシン類をコードする核酸類(例 ジフテリアトキシン(DT)、シュードモナスエクソトキシンA(PE)、百日咳トキシン(PT)および百日咳アデニレートサイクラーゼ(CYA))、アンチセンス核酸、リボザイム類、標識核酸類、およびp53、p110Rbおよびp72のような腫瘍抑制遺伝子類をコードする核酸類が挙げられる。これらのエフェクター類は、腫瘍細胞類、免疫細胞類(例 BおよびT細胞)、および標的化部分を有する他の所望の細胞性ターゲット類のような細胞類を標的とすることができる。たとえば、上記にも述べたように、多くの腫瘍類は、乳癌で発現されるHER2またはグリオーマで発現されるIL17Rのような細胞表面マーカー類の過剰発現を特徴とする。抗HER2および抗IL17R抗体類および抗体断片類のような標的化部分を用いて、選択した細胞に脂質:核酸複合体を運搬する。前記のエフェクター分子はしたがって特異的細胞種に運搬され、有用かつ特異的な治療処置を提供する。
【0125】
X.脂質:核酸複合体キット類
本発明は、また、上述の脂質:核酸複合体類を調製するキット類を提供する。このようなキット類は、上記のような容易に入手可能な材料類および試薬類から調製できる。たとえば、下記の材料類のいずれかひとつまたはそれ以上を含むことができる:リポゾーム類、核酸(濃縮または非濃縮)、親水性ポリマー類、Fab'断片類のような標的化部分で誘導体とした親水性ポリマー類、および指示書類。実にさまざまなキット類および成分類を本発明にしたがって調製でき、キットを使用するユーザーおよびユーザーの特定の必要性に応じて調製できる。たとえば、このキットは、上記のように前記複合体が特異的細胞種を標的とするようにいくつかの標的化部分のいずれかひとつを含むことができる。
【0126】
本キットは、適宜、カチオン性脂質:核酸複合体のインビボ、エクスビボまたはインビトロにおける細胞トランスフェクションのための用途を提供する指示書(すなわち、プロトコール類)を含めて指示材料を含むことができる。典型的には、前記指示材料は、また、親水性ポリマーと脂質:核酸複合体の混合方法を記載している。さらに、前記指示材料類は、脂質:核酸複合体で細胞をトランスフェクションさせる操作類を説明できる。
【0127】
前記指示材料類が典型的には書面のまたは印刷された材料類を含むのに対して、それらはそれに限定されない。前記指示書類を保存可能でそれを末端のユーザーに伝えることができるいかなる媒体も本発明によって考慮されている。このような媒体としては、電子保存媒体(例 磁気ディスク類、テープ類、カートリッジ類、チップ類)、光媒体(例 CD ROM)等が挙げられるが、それらに限定されない。このような媒体は、このような指示材料を提供するためのインターネットサイトへのアドレス類を含むことができる。
【0128】
XI.表面結合蛋白質類を有する脂質性微粒子の調製
A.全般
本発明は、また、表面結合蛋白質類を有する脂質性微粒子類を調製することを提供する。上記で背景の項でも述べたように、従来技術は、抗体類のような可溶性蛋白質類は極めて大きいため、それらの可溶化傾向が、脂質性微粒子に安定に結合するために蛋白質に結合したリンカー分子の疎水性領域の傾向を圧倒することを示唆する。この教示は、ゆえに、およそ同一サイズかまたは大きいリンカー分子に結合した小型のペプチド類はリンカー分子の疎水性領域が脂質性微粒子に安定に結合するのを許す一方、蛋白質よりもはるかに小さいリンカー分子に結合した蛋白質類はそうすることができないであろうということであった。
【0129】
われわれは、現在、当該従来技術の教示に反して、リンカー分子の何倍も大きい蛋白質類がリンカー分子に結合でき、さらに安定して脂質性微粒子に良好に結合できることを見出した。下記の実施例では、蛋白質類が結合したリンカー分子よりも何倍も大きい蛋白質類が脂質性微粒子に良好に結合できることを示す。この発見は、このような微粒子に負荷できる物質の種類を拡大する。さらに、それは、このような微粒子類を作成しさらに蛋白質類に結合できる方法の範囲を拡大し、その理由として、前記結合がリポゾームのような微粒子の安定性が危険にさらされない条件下で起こりうることが挙げられる。
【0130】
好適には、本方法で使用した蛋白質類は、分子量約6,000と約1,000,000ダルトンの間を有している。さらに好適には、前記蛋白質類は、分子量約10,000と約600,000ダルトンの間を有している。さらにより好適には、前記蛋白質類は分子量約15,000と約250,000ダルトンの間を有している。最も好適には、前記蛋白質類は、分子量約20,000と約75,000ダルトンの間を有している。
【0131】
B.リンカー分子類に結合した蛋白質類と脂質性微粒子類のインキュベーションによる蛋白質類の結合
本発明の用途において、蛋白質は最初に(a)疎水性ドメイン、(b)末端で前記の疎水性ドメインに結合した親水性ポリマー鎖、および(c)蛋白質分子上の1個以上の官能基と反応性で前記疎水性ドメインの反対側の末端あるいはその近くで親水性ポリマー鎖に結合した化学基、を含むリンカー分子に結合できる。このようなリンカー分子類は、当該技術で公知である(Allen&Martin、US5,527,528;Shahinian&Sylvius、Biochim.Biophys.Acta.,1239:157−167(1995);Zalipskyら、J.Controlled Release 39:153-161、1996;Kirpotinら、Biochemistry、36:66−75(1997))。
【0132】
前記リンカー分子の疎水性ドメインは、たとえば、ジアシルグリセロール、ホスホリピド、コレステロールのようなステロール、またはN,N−ジステアロイルグリシンアミドのようなジアシルアミド誘導体であることができる。前記親水性ポリマー鎖は、たとえば、ポリ(エチレングリコール)、ポリグリシドール、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリオキサゾリジノン、ポリサッカライド、または上記ポリマー類のブロックを含むコポリマーであることができる。化学反応基は、たとえば、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、マレイミド基、ヨードアセタミド基、ビニルスルホン基、アルデヒド基、ヒドラジン基、ケトン基、塩化シアヌル基または他の蛋白質と結合を形成できる当該技術で公知の他のいかなる官能基であることもできる。蛋白質は、抗体、酵素、成長因子、ホルモン、核酸結合蛋白質または特定の目的とする応用のための用途を有する他のいかなる蛋白質であることもできる。
【0133】
本発明の好適な態様において、前記蛋白質は、抗体のFab'断片であるか一本鎖(single chain)抗体である。さらに好適な態様において、前記一本鎖抗体は、ファージディスプレイライブラリからの選択によって産生されたFv抗体である。マレイミド基は蛋白質のシステイン残基と反応するが、Fab'抗体断片とともにまたは一本鎖抗体とともに使用するための反応基として好適である。
【0134】
リンカーに対する前記蛋白質の結合は、当該技術で蛋白質結合のために公知のいくつかの方法類のいずれかによって実施できる。好適な方法において、前記のリンカーは水性緩衝液中に簡単に溶解させ、(それは、親水性ポリマードメインの存在のゆえに可能である)さらに選択した蛋白質とインキュベーションして、前記リンカーの化学反応基と前記蛋白質の適当な官能基との間に安定な結合を形成させることができる。前記結合物は、さらに、塩析、透析、クロマトグラフィおよび他の蛋白質精製の分野で公知の他の方法類によって、過剰のリンカーおよびあらゆる未結合蛋白質から精製される。これとは別に、前記結合物をさらに精製することなく、用いることができる。
【0135】
前記結合物の疎水性ドメインが前記粒子の表面脂質層中へ出るために十分な時間、結合蛋白質をその後水性媒体中で脂質性微粒子類とインキュベーションする。必要な時間は、前記微粒子の脂質組成、疎水性ドメインの性質、およびインキュベーション温度に依存するであろう。典型的には、インキュベーション時間は、約1分から約50時間の範囲にある。インキュベーションに必要な時間は、インキュベーション実施温度が上昇するに伴い、短くなるであろう。したがって、37℃において前記インキュベーションは通常一晩かかるが、55−60℃において前記インキュベーションは通常5−60分であり、15−30分が好適である。微粒子、疎水性ドメインおよび温度のいかなる特定の組み合せにも適したインキュベーション時間は、下記の実施例で教示したアッセイを用いて、求めることができる。
【0136】
C.脂質性微粒子に自己挿入するであろう疎水性ドメインを含有する蛋白質類の調製
【0137】
別の態様では、疎水性アンカーおよび親水性ポリマー鎖が組換えDNAおよび蛋白質工学方法によって蛋白質分子中に導入される。この場合、上記に述べた親水性高分子性ドメインは、主に親水性側鎖を有するアミノ酸類を含有する末端付加ポリアミノ酸配列によって、問題の蛋白質に導入される。疎水性アンカーは、末端付加ポリアミノ酸配列の遠位端に位置する脂質改変部位を介して、その生合成時にその構築体中に導入される。
【0138】
(実施例)
【0139】
本発明を下記の実施例によって例示する。これらの実施例は、例示のために示しており、本発明を限定するためではない。
【0140】
(実施例1) インビボ遺伝子運搬のための安定脂質:核酸複合体類の調製
A.材料類および方法類
1.脂質類&他の試薬類
【0141】
DOPEは、Avanti(Alabaster、AL)から購入した。高度精製コレステロールは、Calbiochem(San Diego、CA)から入手した。DDABおよびデキストラン(分子量40、000)は、Sigma(St.Louis、MO)から購入した。 DDABは、アセトン−メタノール溶液から一度再結晶した。D−ルシフェリンは、Boehringer Mannheimから購入した。PEG−PEは、Sequus Pharmaceuticals(Menlo Park、CA)から供与された。DC−Chol、MMCEおよびDOGSは、UCSF Gene Transfer Vehicle Core of Gene Therapy Centerから入手した。ESPM、DOTAP,POEPC、DOEPC,DMEPCおよびDODAPは、Avanti(Alabaster、AL)から供与された。各脂質のクロロホルム溶液は、密封されたアンプル中で−40℃のアルゴン中で保存した。可能な限り高い等級の他の試薬類は、購入後さらに精製することなく使用した。
【0142】
2.リポゾーム類の調製
小型のカチオン性リポゾーム類は、下記のようにして5%(w/v)デキストロース溶液中で調製した。クロロホルム中DDABまたは他のカチオン性脂質類は、DOPEまたは/およびコレステロールと所望のモル比で混合し、溶媒をゆっくりとロータリエバポレータで50℃で減圧下で除去した。50℃に前加温した5%デキストロース溶液で乾燥した脂質膜を水和させ、容器をアルゴン中で密封した。水和脂質懸濁液をバスソニケータ(Lab Supplies,Hickville、N.Y.)中で5−10分間、50℃で音波処理した。リポゾーム類の最終濃度は5mMカチオン性脂質であり、リポゾーム類の大きさは、ダイナミック光分散によって測定し、195±65nmであった。音波処理したリポゾーム類を使用するまで、4℃でアルゴン中に保存した。
【0143】
3.ルシフェラーゼレポータ系
プラスミドpCMV/IVS−luc+は、下記のようにして構築した。CMVプロモータおよび合成IgEイントロンを、含有する断片をpBGt2.CATからSpeIおよびHindIIIを用いて切りとり、pBSIIKS+中にクローニングした。SV40後期ポリ(A)シグナルを含む改変蛍ルシフェラーゼ(luc+)をコードするcDNAを、pGL3−Basic Vector(Promega)からHindIIIおよびSalIによって切断し、前記切断部の下流のpBS−CMV−IVSクローンに入れた。Qiagen社(Chatsworth、CA)によって採択され考案されたアルカリ融解操作法を用いて、プラスミド類を精製した。プラスミド純度は、260nm対280nmの吸光度比によって測定し、1−2mg/mlの濃度で10mMTris−Clおよび1mM EDTA含有pH8.0の緩衝液中に保存した。
【0144】
4.トランスフェクション複合体類の調製
トランスフェクション実験前に、一定量のプラスミドを種々の量のリポゾーム類に対して混合することによって、大きい凝集物ではない複合体類を形成するための最適DNA/リポゾーム比を求めた。一般に、トランスフェクション複合体類は、プラスミドを等量のリポゾーム懸濁液中にピペット操作でいれその後急激に混合することによって、形成させた。通常、8−12nmのDDABを含有する、リポゾーム類は、可視可能な大凝集物を形成することなく、1μgのプラスミドと複合体を形成するであろう。このような複合体類は、過剰の正の荷電を有しているが、しかし、まだ、4℃における保存中に時間とともに凝集し4日後にはトランスフェクション活性を消失する傾向がある。インビトロ実験のためには非常に希釈された複合体類を必要とするが、1μgDNA当たり5nmoleのDDABを含むカチオン性脂質:プラスミドDNA複合体類("CLDC")を使用した。脂質:プラスミドDNA複合体類が大凝集物を形成しトランスフェクション活性を時間とともに喪失しないようにするため、2つの手法を用いた。(1)PEG−PEのような少量の親水性ポリマー(約1%モル比)を調製後数分以内の脂質:プラスミドDNA複合体類に取り込ませること;および/または(2)リポゾーム類と混合する前に、プラスミドをポリアミン(例 DNA1μg当たり約0.05乃至5.0nmoleのスペルミジン)で濃縮すること。前記ポリアミン類の最適量は、大凝集物形成前にDNAに対してポリアミン類を滴定することによって、決定した。これらの複合体類の大きさは、ダイナミック光分散によって範囲410±150nmであると推定された。
【0145】
5.レポータ遺伝子発現のアッセイ
精製されたルシフェラーゼは、ルミノメータを校正し相対的ルシフェラーゼ比活性の対照スタンダードを構築するための標準として、Boehringer Mannheimから購入した。組織抽出物中におけるレポータ遺伝子発現は、ルミノメータで測定した相対的光単位を標準曲線に従って重量単位に変換することによって、ナノグラム量で示した。細胞または組織中で発現したルシフェラーゼは、化学的細胞溶解によって抽出した。効果的な溶解緩衝液は、pH7.8の0.1Mりん酸カリウム緩衝液、1%トリトンX−100、1mMのDTTおよび2mMのEDTAで構成されていた。
【0146】
雌性CD1マウス(4−6週齢、約25g体重)をCharles River Laboratoryから入手した。マウスに対して、脂質:プラスミドDNA複合体類を尾静脈注入によって投与し、24時間後屠殺した。麻酔動物を、心穿刺によって冷りん酸緩衝生理食塩水(PBS)で潅流した。各組織を切除しPBSで洗浄し、その後、溶解緩衝液500μlを含有する6mlの丸底培養試験管中でホモジナイズした。試料をときどき混合しながら室温に20分間保持した。ホモジナイズされた試料を、エッペンドルフ遠心機により3000rpmで10分間、遠心分離した。各組織のルシフェラーゼ活性は、再構成ルシフェラーゼ基質100μlを、20μlの組織ホモジネート上清とともにルミノメータの注入系で混合し、測定した。ピーク光放出を20℃で10秒間、測定した。各試料の相対的光単位は、各実験群について確定した標準曲線と比較することによって、組織抽出物中におけるルシフェラーゼ量に変換させた。前記抽出物の蛋白質含量は、蛋白質アッセイキットを用いて求めた(BioRad,Richmond、CA)。バックグランドは、溶解緩衝液のみのカウントとした。
【0147】
SK−BR−3細胞(Parkら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:1327−1331(1995))は、10%熱不活化ウシ胎児血清添加McCoy'sの媒体中および5%CO2中で培養した。単層培養におけるSK−BR−3細胞類は、12穴プレート中の各ウェル当たり50000細胞で添加し、一晩攪拌した。各ウェルには、複合体形成20分以内に、0.5−1μgのpCMV/IVS−luc+を入れた。細胞を、37℃において複合体類と24時間インキュベーション後、採取した。細胞中のルシフェラーゼ活性は、上記のようにして求めた。
【0148】
B.結果
1."ヘルパー"脂質の最適化
カチオン性リポゾーム類のインビトロ遺伝子運搬のための使用は、Felgnerらがかれらの研究を公表して以降、広く普及した(Felgnerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413−17(1987))。後日、DOPEがインビトロ遺伝子トランスフェクションのためのこれまでで最も効率的な"ヘルパー"脂質であることが確立され(Felgnerら、J.Biol.Chem.269:2550−2561(1994))、この結果は、数箇所の研究室で確認された(Farhoodら、Gene Therapy for Neoplastic Diseases、pp.23−55(Huber&Lazo編著、1994);Zhouら、Biochim.Biophys.Acta 1189:195−203(1994))。インビトロ研究に基づいて、いったん正に荷電された脂質:プラスミドDNA複合体類が細胞膜に結合すると、DOPEは、膜融合によって細胞質運搬を促進することができると示唆されている(Zhouら、Biochim.BioPhys.Acta.1189:195−203(1994))。FriendらはDOTMA/DOPE脂質:プラスミドDNA複合体類が直接形質膜に融合することの形態的証拠を全く得ているというものではないものの、彼らは、融合事象の可能性を排除していない(Friendら、Biochim.BioPhys.Acta 1278:41−50(1996))。彼らは、前記複合体類がエンドサイトーシスの作用を受けカチオン性脂質類がエンドソーム性/ライソゾーム性の膜を破壊し、その後DNA複合体類が細胞質に逃げ込み最終的に核内に入りこむのを促進すると示唆している。
【0149】
多くの予測に違い、インビトロ研究から確立されたDOPEの"ヘルパー"の役割は、前記複合体類の静脈注射後インビボ遺伝子運搬について明確ではない。DOPEがDDABカチオン性リポゾーム中に包含されると、このインビボ遺伝子トランスフェクションは、阻害された。このDOPE依存性の阻害を図1に示した。DOPEではなくコレステロールがインビボ遺伝子運搬のために"ヘルパー"脂質として効果的であることがわかった。コレステロールの半分をDOPEに置換すると、マウス肺中でルシフェラーゼ発現が10分の1に減少する。DDABおよび他のカチオン性リポゾーム類のインビボ結果は、DOPEが適切な"ヘルパー"脂質であるという一般的想定と矛盾している。反対に、カチオン性脂質:プラスミドDNA複合体類中のDOPEは、DOPEがインビボ遺伝子運搬のための処方において阻害剤としてみなされる程、インビボトランスフェクションを減弱させる。コレステロールは、最近公表された報告でインビボ研究のために選択されており(Lieら、J.Biol.Chem.270:24864−70(1995);Solodinら、Biochemistry 34:13537−44(1995))、著者らは、いかにしておよびなぜかれらがその実験計画に異なる"ヘルパー"脂質類を選択したのか、すなわち、インビトロにはDOPEおよびインビボ研究にはコレステロールを選択したのかについて、十分に記載していない。アニオン性および中性リポゾーム類の血液中におけるコレステロールによる安定化は、長い間公知であった(Mayhewら、Cancer
【0150】
Treat.Rep.63:1923−1928)1979)。したがって、全身遺伝子運搬について、血液中脂質:プラスミドDNA複合体類の安定性を検討しなければならないのは明白で、その種々の成分類は、大分子の複合体類と反応することが公知である。実際、脂質:プラスミドDNA複合体類の種々の処方についての凍結割断電子顕微鏡を用いた予備的研究では、コレステロール含有複合体類が血清存在下においてDOPE含有複合体類よりもより構造的に安定であることを示している。
【0151】
インビボトランスフェクション実験用DDAB/Chol脂質:プラスミドDNA複合体類(8nmole DDAB/μgDNA)を用いて、25gマウスの肺中における検出可能なルシフェラーゼ発現は、30μgから60μgの範囲のDNA量を必要とした。通常、マウス1匹当たり40(60μgのプラスミドDNAが一貫した遺伝子発現を起こした。各マウス当たり通常行われている80μg(またはそれ以上)のDNAを伴うDDABの量は、この動物に毒性が強すぎることがわかった。種々の組織中におけるルシフェラーゼの発現を図2に示してある。前にも観察されているように(Zhuら、Science 261:209−211(1993);Lieら、 J.Biol.Chem.270:24864−70(1995);Solodinら、Biochemistry 34:13537−44(1995))、最大発現は、肺組織で見られた。注入プラスミド60μgに対して、組織蛋白質1mg当たり1−2ngのルシフェラーゼが通常得られた。図3は、肺組織中におけるレポータ遺伝子発現の持続時間を示している。ルシフェラーゼ発現は、急激に低下し、2週後には検出不可能なレベルになった。Zhuらは、DOTMA/DOPE(1:1)−プラスミド複合体類の成熟マウスへの静脈注射後、前記レポータ遺伝子(CAT)の発現が種々の組織に広がり、最大発現は総脂質類8nmoleに対してプラスミド1μgの比率の複合体類から得られることを示唆する(Zhuら、Science 261:209−211(1993))。しかし、この比率(カチオン性脂質4nmoleに対するプラスミド1μgに対応する)では、DDAB/Chol脂質:プラスミドDNA複合体類は凝集する傾向があり、本研究では測定可能な遺伝子発現を生じなかった。
【0152】
異なるレポータ遺伝子類が異なる研究室で用いられたきたので、インビボ遺伝子運搬の効率の変動をリポゾーム類処方の変化に帰することが困難である。前記文献の結果を直接比較するため、ルミノメータで測定したルシフェラーゼ活性の相対的光単位類を精製ルシフェラーゼのスタンダードに対して変換した。そうすることによって、DDAB/Chol処方のピークトランスフェクション活性は、最近相当する実験で報告された値よりも3桁も高かった(Thierryら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9742−9746(1995))。実験計画において同一プロモータとともに同一レポータ遺伝子とすると、発現における差は、リポゾーム処方の選択を反映することができる。実際、DDAB/Cholは、最近スクリーニングした18種の異なるカチオン性脂質類由来の多くの処方中、最も効率的な遺伝子運搬担体(ビーヒクル)のひとつであった。静脈注射後のマウス肺における発現の予備的結果は、DOTMA/Chol,DOTAP/Chol,MMCE/CholおよびESPM/CholがDDAB/Cholの10−100%のトランスフェクション活性を示し、DOGS/Chol,POEPC/Chol,LYSPE/DOPEおよびDC−Chol/DOPEが、DDAB/Cholの1−10%を示し、DOEPC/Chol,DMEPC/Chol,DODAP/CholおよびDDAB/DOPEは、全く測定可能な活性を示さなかった。
【0153】
トランスフェクション研究と平行し、これらの複合体類の血清中および細胞培地中における形態は、凍結割断電子顕微鏡によって検査した。50%マウス血清(10分のインキュベーション時間)中で検査すると、1日齢の非安定化CLDCは、低イオン強度の緩衝液中におけると同様、小型であるが(100−250nm)、突起物は観察されなかった。6日齢になると、50%マウス血清中でインキュベーションした非安定化CLDCは、球状粒子の密に充填された凝集物として出現し、付着粒子の数も多かった。このような処方類は、それらのインビボトランスフェクション活性を4日以内にすべて喪失した。残留しているフィブリル状突起物は、観察されなかった。
【0154】
50%マウス血清中でインキュベーションしたPEG−PE安定化CLDCは、6日時点でも小型(100−200nm)であった。同様に、濃縮DNAで調製したCLDCは、保存6日後でさえも同様に極めて小型であった。特に、CLDCは、構造的には血清存在下で構造的に安定な"マップピン"のような形態であった。
【0155】
細胞培地(10%FCS添加RPMI−1640)中におけるインキュベーション後、非安定化6日齢CLDCは、上記に述べたマウス血清中でインキュベーションしたものと形態的に類似であった。しかし、これらの錯体類は、充填がよりゆるくフィブリル状突起物は全くなかった。類似の形態が、PEG−PE安定化CLDCおよび細胞培地中でインキュベーションした濃縮DNA CLDCでも観察された。
【0156】
2.トランスフェクション活性のための保存寿命延長
脂質:プラスミドDNA複合体類の構造的安定性およびトランスフェクション活性の関係は、これまで公表された報告ではあまり詳細に説明されていない。脂質に対するDNAの比率を変更することによって正味で負の荷電から正の荷電にすることで、脂質:プラスミドDNA複合体類の大きい凝集物を避けるため、スクリーニング操作を確立した。種々のDNA/脂質比率にある各粒子カチオン性脂質の脂質:プラスミドDNA複合体類を調製し、結果として生成した安定処方類および準安定処方類をインビボトランスフェクションのために使用した。DNA1μg当たりカチオン性脂質8−12nmoleを含む複合体類は、最大のインビボトランスフェクション活性を有することがわかった。しかし、これらの複合体類のトランスフェクション活性は、時間とともに低下した。脂質:プラスミドDNA複合体類形成操作を改変することなく、数日以内に可視可能な凝集物があり、4℃において1ヶ月間保存した後、トランスフェクション活性は1000倍を超える程低下し、ほとんどバックグランドレベルまで低下した(図4)。したがって、保存中高いインビボトランスフェクション活性を保持できる、安定化脂質:プラスミドDNA複合体類の処方が保証される。
【0157】
i.トランスフェクション安定性の増大:PEG−PE
新鮮形成脂質:プラスミドDNA複合体類中にPEG−PE(総脂質の1%)を挿入することは、保存時にこの複合体類が凝集することを防止できるだけではなく、このPEG−PE含有複合体類は、インビボにおいて妥当な高いトランスフェクション活性を示し、PEG−PEを含まない複合体類に比較してわずかに低い活性であった(図4)。前記複合体類中へPEG−PEを取り込むことは、PEG−PEの百分率増をもたらし、トランスフェクション活性の阻害が用量に関連して生じることが解る(結果は示していない)。予測外ではあるが、PEG−PE含有複合体類を4℃において保存すると、ゆっくりではあるが当初の活性を回復することは、図4に示した通りである。PEG−PEによるトランスフェクションに及ぼす阻害効果の機序面についておよび低温保存後の活性回復については、現時点では公知でない。
【0158】
ii.トランスフェクション安定性の増大:ポリアミン類
PEG−PEの脂質:核酸複合体類の保存寿命延長における役割に加えて、ポリアミンで濃縮された核酸は、また、前記複合体類の保存寿命に対して同様の予測外の増大をもたらした。濃縮DNAで形成された脂質:プラスミドDNA複合体類は凝集することなく、DNAに対する低比率の脂質において安定であった。図4は、このような調製物のインビボトランスフェクション活性レベルとその保存時の動向を示している。再び、ポリアミンで前処理せず複合体形成後すぐに使用した試料の活性と比較した際、トランスフェクション活性の予測外の増大は、熟成させたポリアミン処理脂質:プラスミドDNA複合体類で見られた。脂質−界面活性剤ミセル中においてプラスミドを脂質と複合体化させることによって、安定なカチオン性脂質/DNA複合体類を得るための異なる手法は、最近公表された(Hoflandら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7305−7309(1996))。しかし、トランスフェクション効率の30%しか、インビトロ15%血清中でこのような複合体類によって保持されず、インビボ結果については、全く報告されなかった。
【0159】
iii.トランスフェクション安定性の増大:凍結乾燥
最後に、凍結乾燥による脂質:プラスミドDNA複合体類の安定化のため、条件を確立した。5%(w/v)デキストラン水溶液中における音波処理で懸濁させたDDAB/Cholで構成したリポゾーム類を、方法類で記載したようにDNAと1:10比で(DDAB 1nmoleに対するDNAのμg)で混合すると、活性を喪失することなく凍結乾燥できた。脂質:プラスミドDNA複合体類を形成したデキストランの最終濃度は、8%(w/v)であった。凍結乾燥した調製物は、精製水を添加することによって再構成し、静脈注射後のマウス肺中におけるそれらのトランスフェクション活性をルシフェラーゼレポータ遺伝子発現によって測定した。再構成した調製物の凍結及び融解は、前記活性に影響を及ぼさなかった(通常、組織蛋白質1mg当たり1−2ngのルシフェラーゼ蛋白質)。
【0160】
本文で記載したカチオン性脂質:プラスミドDNA複合体類のいくつかは安定で、4℃で長期保存後もまたは凍結乾燥後も一定したインビボトランスフェクション活性(組織蛋白質当たり0.5から2ngのルシフェラーゼ)を賦与できる。コレステロールを"ヘルパー"脂質として含有する処方類は、はるかに高いインビボトランスフェクション効率をもたらす。前記複合体構造をPEG−PEによって安定化することで、保存時における複合体活性を保持し、特異的組織へ標的化するための血液中循環時間を延長させることができる。脂質複合体化の前にポリアミン類でDNAを濃縮することで、インビトロ保存を増強しかつインビボ活性レベルを高める。インビボにおける高トランスフェクション活性を発揮する脂質:プラスミドDNA複合体類の安定処方類を産生するための方法論的手段は、薬剤学的に許容できる調製物を確立するための利点を供し、それゆえに、リポゾームに基づいた遺伝子療法を促進する。
【0161】
(実施例2) 標的リガンドによる脂質:プラスミドDNA複合体類のインビトロトランスフェクション
A.Fab'断片の調製
【0162】
H鎖およびL鎖のためのクローニングされたrhuMAbHER2配列類は、先に記載されているように大腸菌中で同時発現された(Carterら、Biotechnology 10:163−167(1992))。抗体断片であるrhuMAbHER2−Fab'は、溶連菌蛋白質G(Carterら、Biotechnology 10:163−167(1992))によるアフィニティクロマトグラフィによって大腸菌発酵ペーストから得られ、通常、還元遊離チオール(Fab'−SH)を含有する60−90%のFab'を得た。
【0163】
B.リポゾーム類の調製
濃縮DNAは、3種の異なる脂質組成物類と実施例1に記載の方法を用いて複合体としたが、下記の改変を行った。第1の複合体は、DDAB/DOPE(1/1)により作成され、上記のようにDNAのみで複合体となったカチオン性リポゾーム類を生成した。第2の複合体は、PEGの最終位置でマレイミドで誘導体とした1%PEG−PEを有するDDAB/DOPE(1/1)により作成され、DNAとの複合体化後添加された立体安定化成分を有するCLDCを生成した。第3の複合体は、PEGの最終位置にマレイミド残基に対する遊離のチオール基を介して付着したヒト化抗HER−2抗体のFab'断片で誘導体とした1%PEG−PEを有するDDAB/DOPE(1/1)により作成された。これによって、DNAと複合体形成後添加された立体安定化成分に付着した標的リガンドを有するCLDCを産生した。
【0164】
C.トランスフェクションおよび結果
上記実施例1で記載したように細胞をトランスフェクションしたが、脂質:プラスミドDNA複合体の保存はしなかった。2種の細胞系統をこの実施例で用いた。第1の細胞系統はMCF−7であり、この細胞系統の細胞は、HER−2レセプターを過剰発現しない。これらの細胞を、10%ウシ胎児血清を有するDME H−21および5%CO2中で培養した。第2の細胞系統はSK−BR3細胞類であり、それらの細胞は、HER−2レセプターを過剰発現し、5%CO2中のウシ胎児血清を添加したMcCoy's5A培地で培養した。両者の場合、細胞(約5×104細胞/ウェル)は、上記のように脂質と複合体としたプラスミドDNA12μgと37℃で4時間、トランスフェクションさせかつインキュベーションした。その後上清をアスピレーションし、新鮮培地を添加し、細胞を37℃で24時間インキュベーションした。細胞をその後PBS(Ca/MG非含有)で洗浄し採取し、上記のようなルシフェラーゼアッセイのために溶解緩衝液中に懸濁させた。
【0165】
図5Aは、末端マレイミド残基を介してPEGの先端で結合した標的リガンドを有していても、HER−2レセプターを過剰発現しない非標的細胞のトランスフクションがPEG−PE添加によって阻害されたことを示している。図5Bは、HER−2レセプターを過剰発現する標的細胞のトランスフェクションがPEGの添加によって同様に阻害されたが、前記のPEG−PEを標的リガンドに結合させた場合にはトランスフェクション活性が回復し促進され、それがHER−2レセプターを認識していることを示している。
【0166】
図5Aおよび5Bを比較すれば、標的イムノCLDCが非標的細胞よりもはるかに効率的に標的細胞のトランスフェクションにおいて活性であることを示唆している。この結果は、抗HER−2−Fab'に結合したリガンド保持安定化剤(PEG−PE)のゆえに起こり、それは、非標的細胞(図5A)のトランスフェクションを阻害するが標的細胞のトランスフェクションを促進する(図5B)。
【0167】
(実施例3) リンカーマレイミド−プロピオニルアンチド−PEG2000−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(Mal−PEG−DSPE)の調製
【0168】
ポリ(エチレングリコール)(分子量2、000)から調製された4−マレイミドプロピオニルアミド−ポリ(エチレングリコール)−アルファ−スクシンイミジルカーボネート(Mal−PEG−NHS;Shearwater Polymers社)100mg(44mmol)、ジステアロイル−ホスファチジルエタノールアミン(DSPE;Avanti Polar Lipids)33mg(44μmol)および1mlのクロロホルム中トリエチルアミン12ml(86μmol)を45℃で6時間インキュベーションした。この時点で、シリカによる薄層クロマトグラフィ(溶媒、クロロホルム/メタノール7:3)は、DSPEがよりはやく移動しニンヒドリン陰性生成物に完全に転換したことを示唆しており、Mal−PEG−DSPEと同定された。この生成物を、クロロホルム中のメタノールの段階的勾配(5容量%、10容量%、15容量%のメタノール)を用いてシリカによるカラムクロマトグラフィによって精製した。純粋なMal−PEG−DSPEが15%メタノールで溶出された。収率は、85mg(理論値の67%)であった。Rf0.27−0.29(シリカ60、CHCl3−MeOH−H2O65:25:4)。マレイミド基のりん酸に対する比率は、0.95−1.02であった。
【0169】
これとは別に、このリンカーを、米国5、527、528またはKirpotinら(Biochemistry、36:66−75(1997))に記載のようにして調製することもできる。
【0170】
(実施例4) HER2オンコプロテインに反応性の抗体のFab'断片とのMal−PEG−DSPEの結合
【0171】
0.5mlのクロロホルム中Mal−PEG−DSPE 300nmoleをガラス試験管に入れ、溶媒を真空中で除去した。乾燥した残査を1mlのMES−20緩衝液(20mMモルホリノエタン硫酸、144mM塩化ナトリウム、2mMエチレンジアミン4酢酸、およびNAOHでpH6.0とした)に溶解させた。HER2オンコプロテインの細胞外ドメインに対する組換えヒト化モノクローナル抗体の0.57mg/mlFab'断片類を含有する溶液2.5mlをMal−PEG−DSPE溶液に添加し、注意しながら希釈NaOHでそのpHを7.2−7.4に調整した。この混合物を室温下アルゴン中で2.5時間インキュベーションし、0.2Mシステイン塩酸を最終濃度5mMまで添加し、その反応を停止させた。システイン添加15分後に、反応混合物をHEPES緩衝生理食塩水(20mMヒドロキシエチルピペラジノエタンスルホン酸、144mMNaCl,NaOHでpH7.2とした)に対して透析し、加圧下にYM−10膜(Amicon)を介して限外ろ過によって濃縮し、0.2μmの酢酸セルロースフィルタを介してのろ過によって殺菌した。この反応生成物を、ドデシル硫酸ナトリウム存在下におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分析し、クーマシーブルー染色を行った。総蛋白質は色素結合アッセイ(Bio−Rad)によって求めた。このアッセイで、当初の蛋白質(分子量46、000)がよりゆっくりと動く生成物(分子量49,000)に62%変換されていることが明らかになった。生成物中の総蛋白質回収は、98%であった。
【0172】
(実施例5) HER2オンコプロテインに対して反応性の一本鎖Fv抗体とのMal−PEG−DSPEの結合
【0173】
Mal−PEG−DSPE150nmoleを0.5mlのMES−20に溶解させ、HER2オンコプロテインの細胞外ドメインに対して反応性の0.7mg/mlの一本鎖Fv抗体C6.5Cys含有溶液0.5mlと反応させた。この抗体は、Shierら(Immunotechnology1:73−81(1995))によって記載されているように、調製した。反応および生成物アッセイは、上記実施例に記載のように実行した。総蛋白質回収は、86%であった。回収された蛋白質(分子量27、000)の約52%が、高分子量(分子量29、000−30、000)を有する生成物の形態であり、予測した結合物に一致していた。
【0174】
(実施例6) 結合抗−HER2Fab'断片類を有しかつ蛍光ph感受性インジケータを負荷したイムノリポゾーム類の調製
【0175】
トラップされたpH感受性蛍光インジケータ8−ハイドロキシピレントリスルホン酸を含有する小型(100mm)のユニラメラリポゾーム類を、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン(Avanti)、コレステロール(Calbiochem)およびメトキシポリオキシエチレングリコール(分子量1900)誘導ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(Sygena)をモル比30:20:3でKirpotinら(Biochemistry,36:66−75(1997))の混合物中で調製し、0.2μmolの酢酸セルロースフィルターでろ過滅菌した。ホスホリピド類2μmol含有リポゾーム調製物を0.26mlを、上記実施例4にしたがい調製した抗HER2−Fab'−PEG−DSPE結合物100μg含有溶液0.106mlと混合し、37℃で一晩攪拌した。インキュベーション後、未結合物質からHEPES−緩衝生理食塩水を溶離液として用いて、前記リポゾーム類をセファロース4B(Pharmacia)を入れたカラム上でゲルろ過によって分離した。このリポゾーム類は、カラムボイドボリュームのところに溶出した。リポゾーム結合蛋白質の量はBio−Rad色素結合アッセイによって求め、リポゾーム濃度は、モリブデート法(Morrison,Anal.BioChem.,7:218−224(1964))を用いて総りん酸によって求めた。前記リポゾーム類のSDS−PAGE(下記の実施例13参照)は、抗HER2Fab'−PEG−DSPE結合物の存在を示唆したが、前記リポゾーム調製物中に遊離の抗HER2Fab'はなかった。リポゾーム会合蛋白質を、SDS−PAGEによって(実施例13参照)定量し、添加したFab'−PEG−DSPE結合物の前記リポゾーム類との結合は、投入蛋白質/ホスホリピド比に対する取り出した蛋白質/ホスホリピド比の百分率として示した。Fab'−PEG−DSPEのリポゾーム類への結合は、80%であった。リポゾーム類との蛋白質−PEG−DSPE結合物とのインキュベーション時におけるリポゾーム類からのHTPSのもれは、2%未満であった。
【0176】
(実施例7) 結合抗−HER2scFv抗体類を有しかつ蛍光pH感受性インジケータを負荷したイムノリポゾーム類の調製
【0177】
実施例6の操作を用いて、実施例5にしたがって得られた抗HER2一本鎖Fv C6.5CysのMal−PEG−DSPEとの結合物を、リポゾームホスホリピド1μmol当たり蛋白質15.6μgの投入比率でHPTS負荷リポゾーム類とインキュベーションした。未結合物質をセファロース4B上でのゲルろ過によって分離した後、前記リポゾーム類を実施例6に記載のようにアッセイした。取り出した蛋白質/ホスホリピド比は14.4μg/μmolであり、前記リポゾーム類に対してこの結合物が92.3%結合していることを示唆した。
【0178】
(実施例8) HER2過剰発現細胞によるリポゾーム類の取り込み
【0179】
HER2過剰発現ヒト乳癌細胞(SK−BR−3)は、10%ウシ胎児血清、50U/mlペニシリンおよび50U/mlストレプトマイシン添加McCoy5A培地中37℃でかつ5%CO2で増殖させた。アッセイ24時間前に、細胞をりん酸緩衝生理食塩水中の5mM EDTAによる処理で採取し、細胞培地1ml中密度200,000細胞/ウェルで24穴培養プレート中に入れた。リポゾーム類をウェル中の細胞培地に添加し(3重検定)、最終リポゾームホスホリピド濃度25μMを達成した。その後このプレートを4時間、ゆっくりと37℃でかつ5%CO2で攪拌しながらインキュベーションした。インキュベーション後培地をウェルから吸引し、細胞層を4回、1mlのりん酸緩衝生理食塩水で洗浄し、りん酸緩衝生理食塩水中の5mM EDTA 1ml中に採取し、細胞に結合しかつエンドサイトーシスを受けたリポゾーム類の量をKirpotinら、Biochemistry,36:66−75(1997)に記載のように、フルオロメトリによって求めた。比較のため、同様に、前記リポゾーム組成物に先に入れたMal−PEG−DSPEによって、抗HER2Fab'およびscFvに結合させたリポゾーム類で行った。結果は下記の表に要約してある:
【0180】
【表1】

これらのデータから明らかなように、本発明にしたがって調製した前記リポゾーム類の標的細胞結合およびインタナリゼーションは、最適な先行技術で調製した類似のリポゾーム類のそれに比較して少なくとも同等であるかまたはそれをしのぐことも多かった。
【0181】
(実施例9) 抗HER2 Fab'−PEG−DSPE結合物による55℃における前製造リポゾーム性ドキソルビシンの改変による抗HER2イムノリポゾーム性ドキソルビシンの調製
【0182】
2mg/mlのドキソルビシンを含有する商業的に入手可能なドキソルビシン(Doxil R、Sequus Pharmaceuticals社)0.38mlを、実施例6にしたがって調製した抗HER2 Fab'−PEG−DSPE結合物の調製物0.26mlと混合し、55℃で20分間インキュベーションし、氷水ですばやく冷却した。未結合物質および低分子量成分類を、セファロース4B(Pharmacia)カラムを通してインキュベーション生成物のゲルろ過によって除去した。前記リポゾーム類をカラムのボイドボリューム中に集め、SDS−PAGEを用いて蛋白質をアッセイし、モリブデート法を用いてホスホリピドを、また、酸性にしたイソプロパノール中で分光分析によって(E1%480=208)、ドキソルビシンをアッセイした。結果:約45Fab'/リポゾーム(添加結合物の77%結合)、リポゾーム類からのドキソルビシンのもれは、観察されなかった(インキュベーション前のドキソルビシン含量は、145.9μg/μmolホスホリピド;インキュベーション後、155.8^Zg/molホスホリピド)。
【0183】
(実施例10) 抗HER2scFv−PEG−DSPE結合物による55℃における前製造リポゾーム性ドキソルビシンの改変による抗HER2イムノリポゾーム性ドキソルビシンの調製
【0184】
実施例9に記載のように、C6.5Cys−PEG−DSPE結合調製物(実施例5)0.4mlおよびドキシル(Doxil R)0.31mlを用いて改変を実施した。結果:48蛋白質/リポゾーム(リポゾーム類に対する定量的結合物の結合);薬物もれ3.7%(改変前のドキソルビシン含量は、145.9μg/μmolホスホ;改変後、140.5μg/molホスホリピド)。
【0185】
(実施例11) 抗HER2Fab'−PEG−DSPE結合物による37℃における前製造リポゾーム性ドキソルビシンの改変による抗HER2イムノリポゾーム性ドキソルビシンの調製
【0186】
上記実施例9に記載のように、ドキシル0.34mlおよび抗HER2−Fab'−PEG−DSPE結合調製物(実施例4)0.212mlを用いて改変を実施したが、インキュベーションは37℃で一晩とした。結果:46Fab'/リポゾーム(リポゾーム類に対する添加した結合物の結合は82%);薬物もれは観察されなかった(改変前のドキソルビシン含量は、145.9μg/μmolホスホリピド;改変後、146.0μg/molホスホリピド#)。ドキシル(水和した大豆ホスファチジルコリン)の脂質構成物の転移温度は、55℃に近い。したがって、前記リポゾーム脂質類がゲル状態であるときと、同等に改変が効果的である。
【0187】
(実施例12) 抗HER2scFv−PEG−DSPE結合物による37℃におけるドキシルの改変による抗HER2イムノリポゾーム性ドキソルビシンの調製
【0188】
上記実施例11に記載のように、ドキシル0.31mlおよびC6.5Cys−PEG−DSPE結合調製物(実施例5)0.4mlを用いて改変を実施した。結果:49蛋白質/リポゾーム(リポゾーム類に対する定量的結合物の結合);薬物もれは検出されなかった(改変前のドキソルビシン含量は、145.9μg/μmolホスホリピド;改変後、150.3.0μg/molホスホリピド)。したがって、scFv−PEG−DSPE結合物による前記リポゾーム脂質類の改変は、リポゾーム脂質類がゲル状態であるときと、同等に改変が効果的である。
【0189】
(実施例13) 前記リポゾーム類中の抗体結合物の定量と実施例6−12により調製した結合生成物類
【0190】
前記結合生成物およびリポゾーム類中の蛋白質−PEG結合物の量を、Laemmli(1974)にしたがい、ドデシル硫酸ナトリウム存在下におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、非還元性条件を用いてアッセイした。典型的には、分析試料5−20μlをSDSおよびトラック色素(ブロモフェノールブルー)を含有する6×試料緩衝液と混合し、60℃で1分間インキュベーションし、さらに、10−12%濃度のポリアクリルアミドゲル(10×10×0.075cm)でクロスリンカー2.6%のものにかけた。分離は、定電流30mAで垂直のスラブゲル電気泳動装置中で行った。蛋白質バンド類は、従来の方法を用いて、クーマシーブルー染色法によって発色させた。結合物は明確なバンドを形成し、当初の蛋白質よりも低い電気泳動運動性を示した。蛋白質定量のため、バンドを切りだし、色素を100℃で30分間、水性50%ジメチルホルムアミド中に抽出した。抽出色素の量は、595nmにおける分光分析によって定量し、バンド当たりの蛋白質量は、同時に実験した標準量の対応する蛋白質9(Fab'またはscFv)の類似処理バンドで産生される標準曲線と比較することで、定量した。
【0191】
(実施例14) 実施例9−12にしたがって調製した抗HER2イムノリポゾーム類によるHER2過剰発現癌細胞類に対するドキソルビシンの運搬
【0192】
HER2過剰発現ヒト乳癌細胞(SK−BR−3)を、上記実施例8に記載のように増殖させプレートにはん種した。抗HER2イムノリポゾーム性ドキソルビシン(上記の実施例9−12)の調製物を、ウェル中の細胞培地に添加し(3重検定)、リポゾームホスホリピド最終濃度200μM濃度になるようにした(ドキソルビシン0.030±0.001mg/ml)。その後、このプレートをゆっくりと攪拌しながら4時間、37℃および5%CO2でインキュベーションした。インキュベーション後液体をウェルから吸引し、細胞層を3回、りん酸緩衝生理食塩水で各回1mlで洗浄し、細胞をりん酸緩衝生理食塩水中で5mM EDTA0.5ml中に採取し、遠心分離でペレットとし、0.3N HCl/50%エタノール混合物中で抽出した。エタノ−ル−HCl抽出物中のドキソルビシン量は、蛍光分光分析(励起波長、470nm;発光波長、590nm)によって定量し、プレートにはん種した細胞の量で規格化した。比較のため、インキュベーションを同様に、リポゾーム脂質マトリックス中に取り込ませたMal−PEG−DSPEリンカー類を介して抗HER2scFv(C6.5Cys)に結合したリポゾーム類で実施した(Kirpotinら、1997)。結合の特異性を評価するため、いくつかのウェル中では、細胞を遊離抗HER2の二価のモノクローナル抗体(抗HER2MAb)5μgと前インキュベーションした。結果を、下記の表に要約した。
【0193】
【表2】

本発明にしたがって調製したイムノリポゾーム類は、リポゾームにカプセル化されたドキソルビシンの標的細胞に対して、活性化リンカーを含有するリポゾーム類に対する抗体断片の結合という先行方法類によって調製したイムノリポゾーム類よりもはるかに効率的に運搬可能であった。細胞表面上の標的抗原(HER2蛋白質)に反応性の遊離抗体と前記細胞類をプレインキュベーションすると、本発明にしたがって調製したイムノリポゾーム性ドキソルビシンの取り込みが10倍低下した;したがって、この取り込みは、標的特異性であった。
【0194】
(実施例15) 結合抗体断片類による脂質−DNA複合体微粒子の調製
【0195】
脂質−DNA微粒子類の懸濁液(ダイナミックレーザー分散により410±150nmと大きさが測定された)はプラスミドDNA(pCMV/ICS−Luc+;10μg/mL)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB,60nmol/mL)および5%水性デキストロース中のジオレイルホスファチジルエタノールアルミン(armine)(DOPE、60mnol/mL)で構成され、これは、Hongら(FEBS Lett.400:233−237、1997)に記載のように調製した。Fab'−PEG−DSPE結合物は、Mal−PEG−DSPEおよび抗HER2抗体Fab'断片類とのモル比4:1で、水性生理緩衝液、PH7.2で2時間、蛋白質濃度0.3mg/mLで同時インキュベーションすることで、調製した。結合された抗HER2Fab'断片類を有する脂質−DNA微粒子類は、少なくとも30分間、室温で総粒子脂質含量に対して0.5モル%の量の結合物と前記脂質−DNA微粒子類をインキュベーションすることによって、調製した。リンカー単独(非標的対照)の対照粒子も同様に調製したが、非結合ベータメルカプトエタノールでクエンチさせたMal−PEG−DSPEが、Fab'−PEG−DSPE結合物の代わりに置換していた。
【0196】
(実施例16) 結合抗体断片類を有する脂質−DNA微粒子類による細胞類の標的DNAトランスフェクション
【0197】
上記実施例15で調製したpCMV/IVS−Luc+DNA−脂質微粒子類のトランスフェクション活性は、ヒト乳癌細胞培養物中で検討した:SK−BR−3(標的抗原HER2オンコプロテインを過剰発現する)およびMCF−7(HER2低発現の系統)。レポータ遺伝子(ルシフェラーゼ)の発現は、前記細胞を脂質−DNA複合体類(細胞50−100、000個当たり1^ZgのDNA)に対して10%血清添加増殖培地中で24時間暴露させた後ルミノメトリによって求め、それは、トランスフェクション効率の尺度として機能した。この実験操作の詳細な記載については、Hongら、FEBS Lett.400:233−237(1997)に述べられている。本発明にしたがって調製した抗HER2Fab'結合DNA−脂質微粒子類は、標的陽性のSK−BR−3に対するプラスミド運搬について、相当する非標的粒子よりも約25倍、より効率的であった。標的陰性MCF−7細胞中において、標的および非標的DNA−脂質粒子類は、同等の効率を有していた。したがって、本発明により調製した抗体改変脂質−DNA粒子類は、ヒト癌細胞への機能的DNAの標的特異的運搬ができる。
【0198】
【表3】

上記の実施例は、本発明を例示するために述べられており、その範囲を限定するものではない。本発明の他の変化体も容易に当業者に明らかであろうし、付属の請求の範囲によって包含される。本文に述べたすべての刊行物類、特許類および特許出願類は、本文で参考として引用されている。
【0199】
以下に、本発明の例示的態様を例挙する。
【0200】
(1)脂質:核酸複合体の保存寿命を延長する方法で、前記方法は、核酸を有機ポリカチオンに接触させ濃縮核酸を製造する工程;および前記濃縮核酸を両媒性カチオン性脂質を含む脂質と組み合わせて、前記脂質:核酸複合体を形成する工程を含み、前記濃縮核酸を含む前記脂質:核酸複合体は、前記有機ポリカチオンを欠いた同等の脂質:核酸複合体に比較して、延長された保存寿命を有することを特徴とする方法。
【0201】
(2)前記有機ポリカチオンが、ポリアミン、ポリアンモニウムおよび塩基性ポリアミノ酸からなる群から選択される(1)記載の方法。
【0202】
(3)前記ポリアミンが、スペルミンおよびスペルミジンからなる群から選択される(2)記載の方法。
【0203】
(4)前記核酸が、DNAおよびRNAからなる群から選択される(1)記載の方法。
【0204】
(5)前記核酸がDNAである(1)記載の方法。
【0205】
(6)前記濃縮核酸を前記脂質と組み合わせる工程が、最初に、前記両媒性カチオン性脂質を含むリポゾームを形成させることを含む(1)記載の方法。
【0206】
(7)前記濃縮核酸を前記脂質と組み合わせる工程が、前記脂質および前記核酸を1乃至20nmole(ナノモル)の脂質:μg核酸の範囲の比率で組み合わせることを含む(1)記載の方法。
【0207】
(8)前記濃縮核酸を前記有機ポリカチオンと接触させる工程が、0.05乃至5.0nmoleの有機ポリカチオン:μg核酸の範囲の比率で前記有機カチオンと前記核酸を接触させることを含む(1)記載の方法。
【0208】
(9)前記方法が、発現カセットをスペルミジンおよびスペルミンからなる群から選択されたポリアミンと接触させ濃縮発現カセットを製造する工程;および
【0209】
前記濃縮発現カセットを2:1から1:2のモル比のDDABおよびコレステロールを含む脂質と組み合わせて、前記脂質:発現カセット複合体を形成する工程を含み、前記濃縮発現カセットを含む前記脂質:発現カセット複合体が、前記有機ポリカチオンを欠いた同等の脂質:発現カセット複合体に比較して、4℃において、延長された保存寿命を有することを特徴とする(1)記載の方法。
【0210】
(10)前記脂質複合体が抗体のFab'断片に結合させたポリエチレングリコールに結合させた両媒性脂質と混合されることを特徴とする(9)記載の方法。
【0211】
(11)前記脂質:核酸複合体が凍結乾燥されている(1)記載の方法。
【0212】
(12)脂質:核酸複合体の保存寿命を延長する方法で、前記方法は、核酸を両媒性カチオン性脂質に接触させ前記脂質:核酸複合体を製造する工程;および
【0213】
前記脂質:核酸複合体を親水性ポリマーと混合する工程を有し、前記脂質:核酸複合体が、前記親水性ポリマーを欠いた同等の脂質:核酸複合体に比較して、延長された保存寿命を有することを特徴とする方法。
【0214】
(13)前記親水性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、ホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−PE)、ツイーンで誘導体としたポリエチレングリコール、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−DSPE)、ガングリオシドGM1からなる群から選択される(12)記載の方法。
【0215】
(14)前記核酸が、DNAおよびRNAからなる群から選択される(12)記載の方法。
【0216】
(15)前記核酸がDNAである(12)記載の方法。
【0217】
(16)前記核酸を前記脂質と組み合わせる工程が、最初に、前記両媒性カチオン性脂質を含むリポゾームを形成させることを含む(12)記載の方法。
【0218】
(17)前記核酸を前記脂質と組み合わせる工程が、前記脂質および前記核酸を1乃至20nmoleの脂質:μg核酸の範囲の比率で組み合わせることを含む(12)記載の方法。
【0219】
(18)前記脂質:核酸複合体を前記親水性ポリマーと混合する工程が、前記親水性ポリマーおよび前記脂質:核酸複合体がモル比において、脂質:核酸複合体内部の脂質に対し親水性ポリマーが0.1乃至10%になるように混合することを含む(12)記載の方法。
【0220】
(19)前記方法が、発現カセットを前記両媒性カチオン性脂質を含む前記脂質と組み合せ脂質:発現カセット複合体を製造する工程;および前記脂質:発現カセット複合体をホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−PE)と混合する工程を有し、前記脂質:発現カセット複合体が4℃において、ホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−PE)を欠いた同等の脂質:発現カセット複合体に比較して、延長された保存寿命を有する(12)記載の方法。
【0221】
(20)前記脂質が抗体のFab'断片に結合させたポリエチレングリコールを含む(19)記載の方法。
【0222】
(21)前記脂質:核酸複合体が凍結乾燥されている(12)記載の方法。
【0223】
(22)核酸を細胞中にトランスフェクションさせる方法で、前記方法は、前記細胞を脂質:核酸複合体に接触させる工程を含み、前記脂質:核酸複合体が、有機ポリカチオンに接触させ濃縮核酸を生成させた前記核酸;および両媒性カチオン性脂質を含む脂質を含み、前記細胞を前記脂質:核酸複合体に接触させることで、前記核酸が前記細胞中にトランスフェクションされることを特徴とする方法。
【0224】
(23)前記脂質:核酸複合体が、約22℃またはそれ以下の温度で保存される(22)記載の方法。
【0225】
(24)前記有機ポリカチオンが、ポリアミン、ポリアンモニウムおよび塩基性ポリアミノ酸からなる群から選択される(22)記載の方法。
【0226】
(25)前記ポリアミンは、スペルミンおよびスペルミジンからなる群から選択される(24)記載の方法。
【0227】
(26)前記核酸が、DNAである(22)記載の方法。
【0228】
(27)前記細胞を前記脂質:核酸複合体に接触させる工程が、前記脂質:核酸複合体を哺乳類に全身投与することを含む(22)記載の方法。
【0229】
(28)前記細胞を前記脂質:核酸複合体に接触させる工程が、前記脂質:核酸複合体を哺乳類に静脈注射により投与することを含む(22)記載の方法。
【0230】
(29)前記方法が、前記細胞を脂質:発現カセット複合体に接触させる工程を含み、前記脂質:発現カセット複合体が、濃縮発現カセットを生成させるべくスペルミジンおよびスペルミンからなる群から選択されたポリアミンに接触させた発現カセットおよび前記両媒性カチオン性脂質を含む前記脂質を含み、前記脂質:発現カセット複合体が、約22℃またはそれ以下の温度で保存されることを特徴とする(22)記載の方法。
【0231】
(30)前記脂質が抗体のFab'断片に結合させたポリエチレングリコールを含む(29)記載の方法。
【0232】
(31)核酸を細胞にトランスフェクションさせる方法で、前記方法は、前記細胞を脂質:核酸複合体に接触させる工程を含み、前記脂質:核酸複合体が、前記核酸、両媒性カチオン性脂質を含む脂質、および親水性ポリマーを含み、前記細胞を前記脂質:核酸複合体に接触させることで、前記核酸を前記細胞中にトランスフェクションできる方法。
【0233】
(32)前記脂質:核酸複合体が約22℃またはそれ以下の温度で保存される(31)記載の方法。
【0234】
(33)前記親水性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、ホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−PE)、ツイーンで誘導体としてポリエチレングリコール、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−DSPE)、ガングリオシドGM1からなる群から選択される(31)記載の方法。
【0235】
(34)前記核酸が、DNAである(31)記載の方法。
【0236】
(35)前記細胞を前記脂質:核酸複合体に接触させる工程が、前記脂質:核酸複合体を哺乳類に全身投与することを含む(31)記載の方法。
【0237】
(36)前記細胞を前記脂質:核酸複合体に接触させる工程が、前記脂質:核酸複合体を哺乳類に静注投与することを含む(31)記載の方法。
【0238】
(37)前記方法が、前記細胞を脂質:発現カセット複合体に接触させる工程を含み、前記脂質:発現カセット複合体が、発現カセット;前記両媒性カチオン性脂質を含む前記脂質;およびホスファチジルエタノールアミンで誘導体としたポリエチレングリコール(PEG−PE)を含み、前記脂質:発現カセット複合体が、約22℃またはそれ以下の温度で保存されることを特徴とする(31)記載の方法。
【0239】
(38)前記脂質が抗体のFab'断片に結合させたポリエチレングリコールを含む(37)記載の方法。
【0240】
(39)有機ポリカチオンに接触させて濃縮核酸とした核酸;および両媒性カチオン性脂質を含む脂質を含み、前記脂質:核酸複合体は、前記有機ポリカチオンを欠いた同等の脂質:核酸複合体に比較して、延長された保存寿命を有することを特徴とする脂質:核酸複合体。
【0241】
(40)前記有機ポリカチオンが、ポリアミン、ポリアンモニウムおよび塩基性ポリアミノ酸からなる群から選択される(39)記載の複合体。
【0242】
(41)前記ポリアミンが、スペルミンおよびスペルミジンからなる群から選択される(40)記載の複合体。
【0243】
(42)前記核酸が、DNAおよびRNAからなる群から選択される(39)記載の複合体。
【0244】
(43)前記核酸が、DNAである(39)記載の複合体。
【0245】
(44)前記脂質および前記核酸の量が、1乃至20nmoleの脂質:μg核酸の範囲の比率にある(39)記載の複合体。
【0246】
(45)前記核酸が、0.05乃至5.0nmoleの有機ポリカチオン:μg核酸の範囲の比率で前記有機ポリカチオンと接触させられる(39)記載の複合体。
【0247】
(46)前記複合体が、スペルミジンおよびスペルミンからなる群から選択された有機ポリアミンと接触させ濃縮発現カセットを生成する発現カセット;および
【0248】
前記両媒性カチオン性脂質を含む前記脂質を含み、前記脂質:発現カセット複合体が、約4℃において、前記スペルミジンを欠いた同等の脂質:発現カセット複合体と比較して、延長された保存寿命を有する請求項39記載の複合体。
【0249】
(47)前記脂質が、抗体のFab'断片に結合させたポリエチレングリコールを含む(46)記載の方法。
【0250】
(48)ポリカチオンで濃縮され両媒性カチオン性脂質を含む脂質と複合体とされた核酸を薬学的に許容できる担体中に含む薬剤組成物であって、前記薬剤組成物が前記有機ポリカチオンを欠いた同等の薬剤組成物と比較して延長された保存寿命を有することを特徴とする薬剤組成物。
【0251】
(49)前記有機ポリカチオンが、ポリアミン、ポリアンモニウム、および塩基性ポリアミノ酸からなる群から選択される(48)記載の組成物。
【0252】
(50)前記ポリアミンが、スペルミンおよびスペルミジンからなる群から選択された(49)記載の組成物。
【0253】
(51)前記核酸が、DNAである(48)記載の組成物。
【0254】
(52)前記脂質および前記核酸の量が、1乃至20nmoleの脂質:μg核酸の範囲の比率にある(48)記載の複合体。
【0255】
(53)前記組成物が、スペルミジンおよびスペルミンからなる群から選択された有機ポリアミンと接触させ濃縮発現カセットを生成する発現カセット;および
【0256】
前記両媒性カチオン性脂質を含む前記脂質を含み、前記組成物が、4℃において、前記ポリアミンを欠いた同等の組成物に比較して、延長された保存寿命を有する(48)記載の複合体。
【0257】
(54)前記脂質が、抗体のFab'断片に結合させたポリエチレングリコールを含む(53)記載の組成物。
【0258】
(55)脂質:核酸複合体を調製するためのキットで、前記キットは、(i)リポゾーム含有容器;(ii)核酸含有容器;および(iii)親水性ポリマー含有容器を含み、前記リポゾームおよび核酸を混合し前記脂質:核酸複合体を形成させることおよび前記脂質:核酸複合体を前記親水性ポリマーに接触させることを特徴とするキット。
【0259】
(56)前記親水性ポリマーが、標的部分により誘導体とされる(55)記載のキット。
【0260】
(57)前記標的部分が、Fab'断片である(56)記載のキット。
【0261】
(58)前記核酸が、濃縮された核酸である(55)記載のキット。
【0262】
(59)リンカー分子という手段で蛋白質に結合させた脂質性微粒子を調製する方法であって、疎水性ドメイン、前記疎水性ドメインに末端で結合した親水性ポリマー鎖および蛋白質分子上の1個以上の官能基と反応性でかつ前記疎水性領域の反対側の末端で前記親水性ポリマー鎖に結合した化学基を含むリンカー分子に結合した蛋白質と、脂質性微粒子とを、前記疎水性ドメインが安定に前記脂質性微粒子に結合するようになるまで十分な時間インキュベーションする工程を含む前記方法。
【0263】
(60)蛋白質に結合させた脂質性微粒子を調製する方法であって、主に親水性側鎖を有するアミノ酸を含む末端付加アミノ酸配列を含み、前記配列には合成付加脂質部分による脂質改変部位が続いている蛋白質を、前記脂質部分が安定に前記脂質性微粒子に結合できるようになるまで十分な時間脂質性微粒子とインキュベーションさせる工程を含むことを特徴とする前記方法。
【0264】
(61)前記脂質性微粒子が、リポゾームである(59)記載の方法。
【0265】
(62)前記脂質性微粒子が、脂質:核酸複合体である(59)記載の方法。
【0266】
(63)前記脂質性微粒子が、脂質:薬物複合体である(59)記載の方法。
【0267】
(64)前記脂質性微粒子が、ミクロエマルジョン液滴である(59)記載の方法。
【0268】
(65)前記蛋白質が、抗体である(59)記載の方法。
【0269】
(66)前記蛋白質が、抗体のFab'断片である(59)記載の方法。
【0270】
(67)前記蛋白質が、一本鎖Fv抗体である(59)記載の方法。
【0271】
(68)前記蛋白質が、酵素である(59)記載の方法。
【0272】
(69)前記蛋白質が、ホルモンである(59)記載の方法。
【0273】
(70)前記蛋白質が、成長因子である(59)記載の方法。
【0274】
(71)前記蛋白質が、核酸結合蛋白質である(59)記載の方法。
【0275】
(72)前記反応基が、マレイミド基である(59)記載の方法。
【0276】
(73)前記インキュベーションが、水性媒体中で起こる(59)記載の方法。
【0277】
(74)前記結合蛋白質が、精製工程を受け、それを未反応リンカーおよび未改変蛋白質からインキュベーション前に分離する(59)記載の方法。
【0278】
(75)前記精製工程が、塩析、透析およびクロマトグラフィからなる群から選択される(74)記載の方法。
【0279】
(76)(59)記載の方法によって蛋白質に結合させた脂質性微粒子。
【0280】
(77)(59)記載の方法によって蛋白質に結合させたリポゾーム。
【0281】
(78)(59)記載の方法によって蛋白質に結合させた脂質:核酸複合体。
【0282】
(79)(59)記載の方法によって蛋白質に結合させた脂質:薬物複合体。
【0283】
(80)(59)記載の方法によって蛋白質に結合させたミクロエマルジョン液滴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの異なる蛋白質に結合した脂質性微粒子であって、
前記蛋白質が、リンカー分子を介して前記脂質性微粒子に結合しており、
前記リンカー分子が、親水性ポリマードメイン及び疎水性ドメインを有し、
前記疎水性ドメインの前記脂質性微粒子への挿入により、前記リンカー分子が前記脂質性微粒子と結合している、前記脂質性微粒子。
【請求項2】
前記蛋白質が、抗体、抗体の断片、抗体のFab'断片、一本鎖Fv抗体断片、レセプター蛋白質、リンホカイン、サイトカイン、酵素、ホルモン、成長因子及び核酸結合蛋白質からなる群から独立に選択される、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項3】
前記蛋白質が標的部位を有する、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項4】
前記蛋白質の少なくとも1つが、細胞表面のマーカーと特異的に結合する、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項5】
前記親水性ポリマードメインが、PEG、PEG−PE、PEG−DSPE、PEG連結界面活性剤又は合成ポリマーである、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項6】
前記親水性ポリマードメインと、前記疎水性ドメインが、その末端で結合したしている、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項7】
前記蛋白質が前記リンカー分子に反応基又は融合を介した化学結合により結合している、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項8】
前記反応基が前記リンカー分子の親水性ポリマードメイン上であって、前記疎水性ドメインの反対側の末端にある、請求項7に記載の脂質性微粒子。
【請求項9】
前記反応基が、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、マレイミド基、ヨードアセタミド基、ビニルスルホン基、アルデヒド基、ヒドラジン基、ケトン基、塩化シアヌル基からなる群から選択される、請求項7に記載の脂質性微粒子。
【請求項10】
前記脂質性微粒子がリポゾームである、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項11】
前記脂質性微粒子が脂質:核酸複合体である、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項12】
前記脂質性微粒子が脂質:薬物複合体である、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項13】
前記脂質性微粒子がミクロエマルジョン液滴である、請求項1に記載の脂質性微粒子。
【請求項14】
蛋白質を脂質性微粒子に、少なくとも77%の効率で結合させる方法であって、前記方法が、
(a)蛋白質を提供する工程であって、前記蛋白質の各々が親水性ポリマードメインの末端に結合し、前記親水性ポリマードメインが、前記蛋白質とは反対側の末端で疎水性ドメインに結合している工程と、
(b)前記蛋白質に結合した前記親水性ドメインに結合した前記疎水性ドメインが前記脂質性微粒子に安定に結合するようになるのに十分な時間、結合した複数の前記蛋白質と脂質性微粒子をインキュベーションし、それにより前記蛋白質を脂質性微粒子に結合する工程を含む前記方法。
【請求項15】
蛋白質を脂質性微粒子に、少なくとも77%の効率で結合させる方法であって、前記方法が、
(a)主に親水性側鎖を有するアミノ酸を含む末端付加アミノ酸配列を含み、前記配列には合成付加脂質部分が続いている蛋白質を提供する工程と、
(b)前記脂質部分が安定に前記脂質性微粒子に結合するようになるのに十分な時間、前記蛋白質と前記脂質性微粒子をインキュベーションして、前記蛋白質を前記脂質性微粒子に結合させる工程を含む前記方法。
【請求項16】
前記脂質性微粒子がリポゾーム、脂質:薬物複合体、ミクロエマルジョン液滴及び脂質:核酸複合体からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記脂質性微粒子がリポゾーム、脂質:薬物複合体、ミクロエマルジョン液滴及び脂質:核酸複合体からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
結合の前記効率が少なくとも80%である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
結合の前記効率が少なくとも80%である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
結合の前記効率が少なくとも90%である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
結合の前記効率が少なくとも90%である、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
結合の前記効率が定量的である、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
結合の前記効率が定量的である、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記親水性ポリマー鎖が、PEG、PEG−PE、PEG−DSPE、PEG連結界面活性剤又は合成ポリマーである請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記脂質性微粒子がPEG誘導されている、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記蛋白質が抗体、抗体の断片、抗体のFab'断片、一本鎖Fv抗体断片、レセプター蛋白質、リンホカイン、サイトカイン、酵素、ホルモン、成長因子及び核酸結合蛋白質からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項27】
前記蛋白質が抗体、抗体の断片、抗体のFab'断片、一本鎖Fv抗体断片、レセプター蛋白質、リンホカイン、サイトカイン、酵素、ホルモン、成長因子及び核酸結合蛋白質からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項28】
結合の前記効率が、前記脂質性微粒子に安定に結合している蛋白質の前記脂質性微粒子あたりの平均量を、前記工程aにおいて前記脂質微粒子を前記蛋白質とインキュベーションしたときに存在する、脂質微粒子あたりの前記蛋白質の総量に対する百分率として決定することで測定される、請求項14に記載の方法。
【請求項29】
結合の前記効率が、前記脂質性微粒子に安定に結合している蛋白質の前記脂質性微粒子あたりの平均量を、前記工程aにおいて前記脂質微粒子を前記蛋白質とインキュベーションしたときに存在する、脂質微粒子あたりの前記蛋白質の総量に対する百分率として決定することで測定される、請求項15に記載の方法。
【請求項30】
標的部位に結合した脂質微粒子を調製するキットであって、前記キットは、
(1)前記脂質性微粒子を含む容器、
(2)前記標的部位で誘導体化した親水性ポリマーを含む容器、を含み、
前記脂質性微粒子と前記誘導体化した親水性ポリマーとが、一緒にインキュベーションしたときに安定に結合する、前記キット。
【請求項31】
前記標的部位が、抗体、抗体の断片、抗体のFab'断片、一本鎖Fv抗体断片、レセプター蛋白質、リンホカイン、サイトカイン、酵素、ホルモン、成長因子又は核酸結合蛋白質である、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
前記標的部位が細胞表面マーカーと特異的に結合する、請求項30に記載のキット。
【請求項33】
前記親水性ポリマーがPEG、PEG−PE、PEG−DSPE、PEG連結界面活性剤又は合成ポリマーである、請求項30に記載のキット。
【請求項34】
蛋白質に結合した脂質微粒子を調製するキットであって、前記キットは、
(1)前記脂質性微粒子を含む容器、
(2)前記蛋白質で誘導体化した親水性ポリマーを含む容器、を含み、
前記脂質性微粒子と前記蛋白質で誘導体化した親水性ポリマーとが、一緒にインキュベーションしたときに安定に結合する、前記キット。
【請求項35】
前記親水性ポリマーがPEG、PEG−PE、PEG−DSPE、PEG連結界面活性剤又は合成ポリマーである、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
蛋白質に結合した脂質微粒子を調製するキットであって、前記キットは、
(1)前記脂質性微粒子を含む容器、
(2)親水性ポリマー鎖及び疎水性アンカーを有する蛋白質を含む容器、を含み、
前記脂質性微粒子と、親水性ポリマー鎖及び疎水性アンカーを有する前記蛋白質とが、一緒にインキュベーションしたときに安定に結合する、前記キット。
【請求項37】
前記蛋白質が抗体、抗体の断片、抗体のFab'断片、一本鎖Fv抗体断片、レセプター蛋白質、リンホカイン、サイトカイン、酵素、ホルモン、成長因子又は核酸結合蛋白質である、請求項36に記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2010−31028(P2010−31028A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226639(P2009−226639)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【分割の表示】特願2000−548485(P2000−548485)の分割
【原出願日】平成11年5月11日(1999.5.11)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】