説明

蛍光体およびこれを用いた画像表示装置

【課題】近紫外光で励起したときの発光効率が高く、発光色の色純度が優れた赤色発光蛍光体、ならびにそれを用いたカラー画像表示装置の提供。
【解決手段】ARS(ただし、AはNa、K、またはRbのうちの少なくとも一つ、RはY、Gd、またはLuのうちの少なくとも一つ)で表される母体に、0.003〜0.3モル%のBiおよび0.1〜3モル%のMnが添加された蛍光体。この蛍光体はカラーフィルターを用いないカラー画像表示装置の赤色蛍光体として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色蛍光体、およびこの赤色蛍光体を用いたカラー画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭用テレビや情報表示機器に用いられるカラー画像表示装置としては液晶表示装置が用いられることが多くなってきている。一般的なカラー液晶表示装置では、バックライトとして冷陰極蛍光ランプや赤、青、および緑の成分を含む発光ダイオード(以下、LEDという)を用い、赤青緑各色の表示画素に対応してそれぞれの表示色に相当する波長領域の光を選択的に透過するカラーフィルターを設置し、液晶素子によってそれぞれの画素の透過率を制御することによってカラー階調表示を可能にする方式が多用されている。この方式では、白色光をカラーフィルターによって分離するため、表示色以外の波長成分の光は遮断されるために利用されない。したがって、この方式での表示色以外の光エネルギーは無駄にされているために、LEDから放出される光エネルギー全体に対する利用効率は高くない。
【0003】
これに対し、異なった発光色を示す複数種類の蛍光体を用い、それぞれの画素の位置に、それぞれ対応した発光色を示す蛍光体を塗布する方法が提唱されている。この方式では励起エネルギーを蛍光体により各画素の表示色に近い発光色に変換するため、光利用効率を高くでき、発光効率も高くできる。たとえば特許文献1にはこの一例として、蛍光管より発せられた紫外光および青色光を励起源として用い、カラーフィルター中に各画素の表示色に対応する発光色の蛍光体を分散させた液晶表示装置が開示されている。この中にはこの液晶表示装置に用いられる蛍光体も例示されている。しかし、励起源として紫外光および青色光を用いることは開示されているものの、励起光に近紫外LEDを用いることの有用性については示されていない。特許文献2には、青色光源を用い、赤色と緑色の画素には青色光励起でそれぞれの色に発光する蛍光体を用いたカラー表示装置が開示されている。ただし、赤色と緑色の画素においては青色励起光も少なからず漏洩してしまうため、表示色の色純度を改善するためにはカラーフィルターを併用することが必須である。この結果、この方法による表示装置は構成が複雑になってしまうという改良すべき問題点があった。
【0004】
この問題点を克服する目的で、非特許文献1には近紫外LEDを励起源に用いた発光型液晶ディスプレイが開示されている。近紫外光を励起源に用いた場合、励起光の漏洩があっても視感度が低いため色純度の低下は小さくて済み、カラーフィルターを用いなくても十分なカラー表示が可能である。ただし非特許文献1には、概念的な開示があるものの。この方式に有効な、近紫外光で発光する蛍光体は明示されていない。
【0005】
また、昨今、蛍光体を用いた表示装置において、励起光源として発光波長が400nm程度の近紫外光LEDが着目されている。しかしながら、従来の赤色発光蛍光体は、このような励起光によって十分な発光強度が達成できない、発光に色濁りがあるなど、改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−255320号公報
【特許文献2】特開2007−25621号公報
【特許文献3】特開2008−208328号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】矢田、他:第56回応用物理学関係連合講演会講演予稿集、31p−P11−20 p.1489 (2009)
【非特許文献2】Y. Fukuda、他:Proceedings of The 15th International Display Workshops、PH1−2, p.803 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、各画素の表示色に対応した発光色の蛍光体を用いるため発光効率が高く、近紫外光を励起源に用いてカラーフィルターを用いない画像表示装置が非特許文献1に開示されている。この方式の画像表示装置に好適で、近紫外光励起での発光効率が高く、発光色の色純度が優れた蛍光体を提供することが本発明の目的である。またこの蛍光体を用いることによって、発光効率が高く、表示色の色再現域が広いカラー画像表示装置を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による赤色発光蛍光体は、母体が下記一般式(1):
ARS (1)
(式中、AはNa、K、およびRbのうちの少なくとも一つの元素を表し、RはY、Gd、およびLuのうちの少なくとも一つ元素を表す)
で表され、さらに微量のBiおよびMnを含み、波長380〜430nmの光を照射したときに赤色光を放射することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明による画像表示装置は、
ピーク波長が380〜430nmの近紫外光を発生する励起光源と、
前記近紫外光により青色に発光する蛍光体からなる蛍光体層と
前記近紫外光により緑色に発光する蛍光体からなる蛍光体層と
前記近紫外光により赤色に発光する蛍光体からなる蛍光体層と
を具備し、前記の各蛍光体層が平面状に配置されており、さらに各蛍光体層の位置に対応して、励起光または蛍光体から照射される光の透過率を制御するための液晶素子が設置されたものであって、前記の赤色に発光する蛍光体が、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、近紫外光励起での発光効率が高く、発光色の色純度が優れた赤色発光蛍光体が実現できる。またこの蛍光体を用いることによって、発光効率が高く、表示色の色再現域が広いカラー画像表示装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の蛍光体NaGdS:Bi,Mnの波長254nmの紫外線励起による規格化した発光スペクトルを示す図。
【図2】参考例1の蛍光体NaGdS:Biの波長254nmの紫外線励起による規格化した発光スペクトルを示す図。
【図3】本発明による画像表示装置の構成を示す図。
【0013】
本発明の第一の実施態様である赤色発光蛍光体は、特定のアルカリ金属と特定の希土類元素の硫化物を母体とし、微量のBi(ビスマス)とMn(マンガン)とを含み、近紫外光によって励起されて赤色の発光を示すものである。ここで、近紫外光とは、波長が380〜430nmの光を意味する。本発明者は、アルカリ金属と希土類元素の硫化物を母体とし種々の元素を付活元素として用いることが可能な蛍光体を発明して開示している(特許文献3)。この特許文献中にはBiまたはMnのいずれか一つで付活した、アルカリ金属と希土類元素の硫化物を母体とする蛍光体も例示されている。またこの特許文献中にはBiとPr(プラセオジム)の両方で付活された蛍光体が、波長400nm以下の近紫外光の励起で発光し、液晶ディスプレイのバックライトとして使用できることも開示されている。
【0014】
しかし、特許文献3に開示されている、アルカリ金属と希土類元素の硫化物がBiとPrの両方で付活された蛍光体では、Biイオンに起因する発光とPrイオンに起因する発光とが独立に同時に起こっているものと考えられ、BiとPrの間に特別な相互作用は起こっていないと考えられる。
【0015】
この根拠は以下のような現象から説明できる。Pr単独で付活した蛍光体は励起波長がおよそ350nmで発光強度のピークを示し、励起波長が長くなるにつれ徐々に発光強度が低下し、励起波長が400nmを超えるとPrイオンからの発光は観測されない。また、Bi単独で付活した蛍光体は励起波長が410nm付近の時に発光強度が最大になる。 一方、BiとPrの両方で付活した蛍光体は、400nm以下の励起波長ではPrイオンに起因する発光とBiイオンに起因する発光の両者が観測されるが、Biの励起に適したたとえば410nmの波長で励起するとBiの発光は観測されるが、Prの発光はまったく観測されない。これはBiイオンを励起してもBiからPrへのエネルギー伝達は起こらないことを示している。
【0016】
本発明による蛍光体はアルカリ金属と希土類元素の硫化物にBiとMnとの両方を添加したものであるが、それぞれの付活元素による発光が同時に起こるものではなく、その相互作用によって生じると考えられる。
【0017】
その根拠は以下のような現象から説明できる。硫化物にBiだけが添加された蛍光体は、近紫外光によって青色に発光する。また硫化物にMnだけが添加された蛍光体は、近紫外光で励起された場合にはあまり発光せず、より短波長、たとえば波長300nm以下の紫外光によって励起された場合に赤色に発光する。Mnだけが添加された蛍光体が近紫外光で励起された場合にあまり発光しないのは、発光効率が低いことよりも、光吸収が少ないためである。
【0018】
これに対して、BiとMnの両方で付活した蛍光体は、近紫外光によって励起された時、青色の発光を示すのではなく、赤色の発光、つまりMnイオンに起因する発光が観測される。しかも同量のBiで単独付活した蛍光体に比べて、BiとMnの両方で付活した蛍光体のBiイオンに起因する発光の強度は著しく低下する。
【0019】
本発明者らの検討によれば、この現象は、本発明による蛍光体が380〜430nmの波長範囲の近紫外光で励起された場合、BiイオンからMnイオンへのエネルギー伝達が起こり、Biイオンに起因する青色発光ではなく、Mnイオンに起因する赤色発光の強度が増大したことによる考える。したがって、本発明による、アルカリ金属と希土類元素の硫化物にBiとMnを同時に添加した蛍光体により、380〜430nmの波長範囲の近紫外光励起で発光強度が強い赤色発光を得ることができる。このようなBiイオンからMnイオンへのエネルギー伝達の例は、本発明者の知る限り報告されていない。
【0020】
本発明の第一の実施態様では、母体を構成するアルカリ金属がNa(ナトリウム)、K(カリウム)、またはRb(ルビジウム)に限定されている。アルカリ金属としては、そのほかにLi(リチウム)またはCs(セシウム)があるが、これらを用いた場合には、発光強度の高い蛍光体を得ることが非常に困難である。また、母体を構成する希土類元素はY(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)、またはLu(ルテチウム)に限定されている。これ以外の希土類元素を用いた場合にも、発光強度の高い蛍光体を得ることが非常に困難である。特定された元素以外からなる硫化物母体を用いた場合に発光強度の高い蛍光体を得ることが困難である理由は、そのような母体は適切な結晶構造とならないことが理由であると考えられる。すなわち、本発明において特定された元素を用いた母体からなる蛍光体は、六方晶系に属する結晶構造を有するが、特定されたもの以外の元素からなる母体は、六方晶系に属する結晶構造をとりにくい。言い換えれば、本発明における蛍光体の結晶構造は六方晶系であることが好ましい。そして、結晶構造が六方晶系となるならば、特定された以外の元素を母体中に少量含んでいてもよい。
【0021】
母体であるアルカリ金属と希土類元素の硫化物においては、アルカリ金属:希土類元素:イオウの原子比は1:1:2が理想であるが、実際には組成が数%程度ずれることが多い。また、イオウの一部が酸素に置換されることも起こりうる。ただしこれらの場合でも、結晶構造が六方晶系のα−NaFeO構造を有することで強い発光強度が維持される。
【0022】
なお、本発明の第一の実施態様において、Biの添加量は、母体のARSアルカリ金属−希土類硫化物に対し、0.003〜0.3モル%であることが好ましく、0.01〜0.3モル%であることがより好ましい。Bi濃度がこれより低い場合には赤色発光強度が低下する傾向にある。また、Bi濃度が0.3モル%より高い場合には、Biイオンに起因する青色発光成分が強く出るようになり、望ましい発光色が得られなくなる場合がある。また、Mnの添加量は、母体のARSアルカリ金属−希土類硫化物に対し、0.1〜3モル%であることが好ましく、0.1〜1モル%であることがより好ましい。Mn濃度がこの範囲外にある場合、赤色発光強度が低下する傾向にある。
【0023】
さらに、Bi/Mnのモル比は1/3未満であることが好ましい。Mnに対するBiの割合が高すぎると、青色発光成分が強く出るようになり、望ましい発光色が得られなくなる場合がある。一方、Bi/Mnのモル比は1/100以上であることが好ましく、1/30以上であることがより好ましい。Mnに対するBiの割合が低すぎると、Mnに伝達される励起エネルギーが少なくなり、発光強度が低くなる場合がある。
【0024】
このような硫化物を母体とする蛍光体は、従来知られている任意の方法で製造することができる。すなわち、アルカリ金属A、希土類元素R、Bi、Mn、およびイオウを含むそれぞれの化合物を所望の配合比となるように混合し、その混合物を高温で焼成することにより製造できる。具体的には、アルカリ金属A、希土類元素R、Bi、およびMnの炭酸塩などの塩類、酸化物、または硫化物などを原料とし、不活性ガスや硫化水素雰囲気下で焼成することにより製造することができる。
【0025】
本実施形態の蛍光体材料は、構成金属元素の硫化物や酸化物などその他化合物を、硫化水素など硫黄を含む雰囲気中で焼成することで合成できるが、焼成時の雰囲気制御が重要である。すなわち酸素を含む雰囲気中で焼成すると容易に酸化されてしまうため、酸素を極力含まない雰囲気での焼成が必要である。また、原料中に酸化物など酸素を含むものを用いる場合には、酸素を除去するため硫化水素など還元性の雰囲気で焼成することが必要になる。
【0026】
また、本発明による蛍光体を製造する場合には焼成温度の制御も重要である。焼成温度が高すぎると母体硫化物を構成するアルカリ金属が揮散してしまったり、結晶構造が立方晶系に転移してしまうこともありえるため、発光強度が著しく低下する場合がある。好ましい焼成温度の上限は母体構成元素の組み合わせにもよるが、本発明者の知見によれば約1200℃である。一方、焼成により本発明による蛍光体を製造するためには、約600℃以上で焼成することが好ましい。また、焼成時間は、好ましくは一般に0.5〜
5時間程度である。
【0027】
本発明の第二の実施態様による画像表示装置は、近紫外光を発生する光源を励起光源として用い、この励起光により青色に発光する蛍光体からなる蛍光体層を形成した領域と緑色に発光する蛍光体からなる蛍光体層を形成した領域と赤色に発光する蛍光体からなる蛍光体層を形成した領域とを平面状に配置し、各蛍光体層を形成した領域に対応して透過率を制御するための液晶素子を設置した画像表示装置において、赤色に発光する蛍光体として、本発明の第一の実施態様による赤色発光蛍光体を用いることを特徴とするものである。この画像表示装置の基本的な構造は、一般的に知られているものを用いることができ、例えば非特許文献1に記載されている画像表示装置の構造を利用することができる。このような画像表示装置の特徴の一つは、表示色が各蛍光体の発光色に依存し、カラーフィルターを使用しないことである。
【0028】
また、本発明の第二の実施態様による画像表示装置に用いる青色発光蛍光体として、母体が下記一般式(2):
NaRS (2)
(式中、RはY、Gd、およびLuのうちの少なくとも一つ元素を表す)
で表され、さらに0.01〜1モル%のBiを含む、波長380〜430nmの光を照射したときに青色光を放射する青色発光蛍光体を用いることが好ましい。このような青色発光蛍光体については、本発明者らによる特許文献3に開示されている。今回発明された、本発明の第二の実施態様による画像表示装置にこの青色発光蛍光体を用いた場合、画像表示装置としての色再現域が拡大され、より優れた画像表示装置が得られることが見出された。
【0029】
本発明の第二の実施態様による画像表示装置では、蛍光体を発光させるための励起光として380〜430nmの波長範囲の近紫外光を用いる。励起光の波長が380nmより短くなると赤色発光蛍光体や青色発光蛍光体の発光強度が低下する傾向があるばかりでなく、ガラスや樹脂などの画像表示装置の構成部材の光透過率が低くなるのが一般的であり、励起光の透過量が低下する。その結果として画像表示装置としての発光効率が低下する傾向にある。また、波長が430nmより長くなっても、各蛍光体の発光強度が低下することがあるほか、励起光に含まれる視感度の高い青色成分が増加するため、漏洩した励起光の一部により赤色や緑色の表示色が青みを帯びてしまい、色再現域が狭くなってしまうという問題も起こり得る。具体的な励起光源としては、ピーク波長が380〜430nmの波長領域内にある発光ダイオードや半導体レーザを用いることができる。特に、画像表示装置への組み込みの容易性、発色の色再現性、およびコストなどの観点から近紫外LEDを用いることが好ましい。励起光は、蛍光体に直接照射するほか導光板などにより励起光を導いて間接的に照射することもできる。
【0030】
本発明による第二の実施態様による画像表示装置に用いられる赤色発光蛍光体は、前記した特定の赤色発光蛍光体である。この蛍光体は上記波長範囲の近紫外光励起での発光強度が強く、かつ色純度の高い赤色発光を示すため色再現域の拡大に有効である。青色発光蛍光体としては前記した青色発光蛍光体を用いることが好ましいが、近紫外光励起での発光強度が強く青色発光色の色純度が高い蛍光体であれば、公知のもので代用することも可能である。緑色発光蛍光体としては、近紫外光励起での発光強度が強く緑色発光色の色純度が高い、SrGa:Euや非特許文献2などに示されるEu付活のサイアロン系蛍光体など公知の蛍光体を用いることができる。
【0031】
本発明の第二の実施態様による画像表示装置では、カラー画像表示を可能にするための透過率制御素子として液晶素子を用いる。液晶素子を設置する位置は、励起光源と蛍光体層の間でも、励起光に対し蛍光体層の後方でも可能である。すなわち液晶素子により励起光の強度を制御する方式と蛍光体の発光を制御する方式の両者が考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
実施例1、参考例1、比較例1
原料としてNaCO、Gd、Bi、およびMnCOをそれぞれ5.56g、17.9g、0.012g、および0.11gを秤量し、混合した。これらの原料のモル比は、1.05:0.9895:0.0005:0.02であった。これをアルミナ製のるつぼに充填し硫化水素雰囲気で1000℃、3時間の焼成を行った。得られた焼成物を乳鉢により粉砕し、水洗、乾燥を経て実施例1のNaGdS:Bi,Mn蛍光体を得た。この蛍光体中には原料に用いられたBiおよびMnのほぼ全量が取り込まれており、BiおよびMnの含有量はそれぞれ0.05モル%および1モル%であり、Bi/Mnのモル比は1/20であった。
【0033】
次に、参考例1の蛍光体を作製した。原料としてNaCO、Gd、およびBiをそれぞれ5.56g、18.1g、および0.023gを秤量し、混合した。これらの原料のモル比は、1.05:0.999:0.001であった。得られた混合物を用いて、上記と同様の条件の作製法で参考例1のNaGdS:Bi蛍光体を得た。
【0034】
また、比較のために比較例1の蛍光体を作製した。原料としてNaCO、Gd、およびMnCOをそれぞれ5.56g、17.9g、および0.11gを秤量し、混合した。これらの原料のモル比は1.05:0.99:0.02であった。得られた混合物を用いて、実施例1の蛍光体と同様の作製法で比較例1のNaGdS:Mn蛍光体を得た。
【0035】
これらの蛍光体のX線回折測定を行ったところ、いずれも六方晶系のNaGdSと類似の回折パターンであることを確認した。これらの蛍光体にピーク波長400nmの近紫外LEDからの光を照射したところ、実施例1の蛍光体は赤色、参考例1の蛍光体は青色の発光を明瞭に目視確認できたが、比較例1の蛍光体は弱い赤色発光を示した。実施例1と比較例1の600nm〜700nmの波長領域における発光強度(発光スペクトルのピーク高さ)を比較すると、比較例1の蛍光体の発光強度は実施例1のそれの27%でしかなかった。波長254nmの紫外線励起で実施例1と参考例1の蛍光体の発光スペクトルを測定したところ、それぞれ図1と図2のスペクトルが得られた。この励起下で比較例1の発光スペクトルを測定し、その強度を比較したところ2.8倍の強度を示した。これらの結果から、BiとMnの両者を含有する蛍光体(実施例1の蛍光体)は、Biだけを含有する蛍光体(参考例1)とは異なった発光色を示し、さらにMnだけを含有する(Biを含有していない)蛍光体(比較例1の蛍光体)に比べて近紫外励起での赤色発光が著しく増大していることがわかる。この違いは、Biの有無によるものであることから、BiからMnへのエネルギー伝達が起こっていることが推察される。
【0036】
画像表示装置D1、DR1およびDR2
次に、本発明の画像表示装置の構成と作製方法を、図3を用いながら示す。赤色発光蛍光体として実施例1の蛍光体、緑色発光蛍光体として公知のSrGa:Eu蛍光体、青色発光蛍光体として参考例1の蛍光体を用い、ガラス基板(4)上に印刷法等の方法により各蛍光体をストライプ状に塗り分けた蛍光体層のパターン(1〜3)を形成させた。図3には、それぞれの蛍光体層をひとつずつ示したが、各蛍光体層は通常複数個形成させる。この際、ストライプのピッチは後述の液晶アレイの素子ピッチと同じになるようにした。ピーク波長400nmの近紫外発光LEDをアレイ状に並べたもの(7)の上に上記ガラス基板上に蛍光体パターンを形成したものを設置し、この直上に多数の液晶素子(5)をマトリックス上に並べた液晶アレイ(6)を蛍光体パターンと液晶素子の平面状の位置が一致するように設置して、本発明による第二の実施態様の実施例である、簡易的な画像表示装置(D1)を作製した。この画像表示装置D1を駆動して赤色のみを表示させたときの表示色をCIE x,y色度図の座標で示すと、(0.640,0.295)であった。同様に緑色は(0.274,0.686)、青色は(0.155,0.070)であった。代表的なカラー画像表示の規格としてNTSCがあるが、CIE u’,v’式度図の座標上での赤緑青の三角形の作る三角形の面積(色再現域)を比較すると、本発明の画像表示装置はNTSCの三角形の面積の99%という高い値を示した。なお、この画像表示装置D1において、蛍光体層の画像表示面側に液晶素子が設けられ、駆動時には液晶素子によって、蛍光体層からの発光が画像表示面に放射されるのを制御している。しかし、液晶素子は、蛍光体層と励起光源との間に設けてもよい。この場合には、液晶素子によって蛍光体層の励起強度そのものが制御されることになる。
【0037】
比較のために、上記本発明の画像表示装置における近紫外LEDの代わりに青色発光LEDと黄色発光蛍光体を組み合わせた市販の白色LEDを用い、蛍光体パターンを形成したガラス基板の代わりに市販の液晶用カラーフィルターをストライプ状に形成したガラス基板を用いて、比較の画像表示装置(DR1)を作製した。この画像表示装置DR1の表示色は、赤色が(0.599,0.356)、緑色が(0.350,0.579)、青色が(0.148,0.112)であり、同様にNTSCの三角形の面積と比較すると52%でしかなかった。また、画像表示装置D1と画像表示装置DR1に同じ電力を投入したときの、液晶素子を全開にした状態での画面の明るさを比較すると、画像表示装置D1が画像表示装置DR1の1.2倍の明るさを示した。
【0038】
本発明の蛍光体と公知蛍光体の比較を行うために、優れた発光特性を示すことで知られているCaAlSiN:Eu蛍光体とBaMgAl1017:Eu蛍光体をそれぞれ赤色発光、青色発光の蛍光体として用いる以外は本発明の画像表示装置と同様にして、比較の画像表示装置(DR2)を作製した。画像表示装置DR2は画面の明るさが画像表示装置DR1の1.3倍とやや高い値を示したが、三色の表示色の作る三角形の面積はNTSCの三角形の90%と低い値であった。たとえばCaAlSiN:Eu蛍光体の発光色をもっと色純度の高い方向にシフトさせることができれば、この蛍光体の組み合わせでも三角形の面積を拡大して、色再現性を改良することができると推測される。しかし、例えばEu濃度を高くすることによって色純度を改善しようとしてもCaAlSiN:Eu蛍光体の発光強度は低下することが知られており、色再現性を改良することは困難である。この点、本発明の第一の実施態様である赤色発光蛍光体は好適な発光色を示しながら十分な発光強度を持ち、画像表示装置の色再現性を優れたものとすることができる。
【0039】
実施例2、参考例2、画像表示装置D2
原料としてNaCO、Y、Bi、MnCOをそれぞれ5.56g、13.5g、0.023g、0.11gを秤量し、混合した。これらの原料のモル比は、1.05:0.989:0.001:0.02であった。得られた混合物を実施例1の蛍光体と同様の方法により。実施例2のNaYS:Bi,Mn蛍光体を得た。この蛍光体中には原料に用いたBiおよびMnのほぼ全量が取り込まれており、BiおよびMnの含有量はそれぞれ0.1モル%および1モル%であり、Bi/Mnのモル比は1/10であった。この蛍光体をピーク波長400nmの近紫外LEDで励起したところ、600nm〜700nmの赤色領域における発光強度は実施例1の蛍光体とほぼ同等であり、比較例1の蛍光体に比べて明らかに高い発光強度を示した。
【0040】
また、原料としてNaCO、Lu、Biをそれぞれ5.56g、19.9g、0.023gを秤量し、混合した。これらの原料のモル比は、1.05:0.999:0.001であった。得られた混合物を実施例1と同様の方法により参考例2のNaLuS:Bi蛍光体を得た。赤色発光蛍光体として実施例2の蛍光体、青色発光蛍光体として参考例2の蛍光体を用いる以外は画像表示装置D1と同様にして、画像表示装置D2を作製した。この画像表示装置の表示色は、赤色が(0.646,0.299)、緑色は画像表示装置D1と同様の(0.274,0.686)、青色が(0.183,0.066)であり、NTSCの三角形と比較すると100%という高い値になった。また、同じ電力を投入したときの画面の明るさも画像表示装置DR1の1.2倍という優れたものであった。
【0041】
画像表示装置D3
緑色発光蛍光体としてSrGa:Eu蛍光体の代わりに非特許文献2に記載されているSrSi13Al21:Eu蛍光体を用いる以外は画像表示装置D1と同様にして、画像表示装置D3を作製した。この画像表示装置D3の表示色は、赤色と青色の表示色は画像表示装置D1と同様であり、緑色は(0.241,0.568)であった。三色の表示色の作る三角形の面積を比較すると、NTSCの三角形の93%と優れていた。また、同じ電力を投入したときの画面の明るさは画像表示装置DR1の1.7倍という高い値を示した。
【0042】
実施例3
原料としてNaCO、Gd、Bi、MnCOをそれぞれ8.35g、27.2g、0.010g、0.017gを秤量し、混合した。これらの原料のモル比は1.05:0.9987:0.0003:0.002であった。得られた混合物を用いて、実施例1の蛍光体と同様の方法により実施例3のNaGdS:Bi,Mn蛍光体を得た。この蛍光体中には原料に用いたBiおよびMnのほぼ全量が取り込まれており、BiおよびMnの含有量はそれぞれ0.03モル%および0.1モル%であり、Bi/Mnのモル比は3/10であった。この蛍光体をピーク波長400nmの近紫外LEDで励起したところ、600nm〜700nmの赤色領域における発光強度は実施例1の蛍光体の約50%であったが、比較例1の蛍光体に比べて明らかに高い発光強度を示した。
【0043】
実施例4
原料としてKCO、Gd、Bi、MnCOをそれぞれ10.88g、27.1g、0.010g、0.052gを秤量し、混合した。これらの原料のモル比は1.05:0.9967:0.0003:0.006であった。得られた混合物を用いて、実施例1の蛍光体と同様の方法により実施例4のKGdS:Bi,Mn蛍光体を得た。この蛍光体中には原料に用いたBiおよびMnのほぼ全量が取り込まれており、BiおよびMnの含有量はそれぞれ0.03モル%および0.3モル%であり、Bi/Mnのモル比は1/10であった。この蛍光体をピーク波長400nmの近紫外LEDで励起したところ、発光ピーク波長は630nmと短波長にシフトし、600nm〜700nmの赤色領域における発光強度は実施例1の蛍光体の約110%と高い発光強度を示した。
【0044】
実施例5
原料としてRbCO、Gd、Bi、MnCOをそれぞれ18.19g、27.1g、0.010g、0.052gを秤量し、混合した。これらの原料のモル比は1.05:0.9967:0.0003:0.006であった。得られた混合物を用いて、実施例1の蛍光体と同様の方法により実施例5のRbGdS:Bi,Mn蛍光体を得た。この蛍光体中には原料に用いたBiおよびMnのほぼ全量が取り込まれており、BiおよびMnの含有量はそれぞれ0.03モル%および0.3モル%であり、Bi/Mnのモル比は1/10であった。この蛍光体をピーク波長400nmの近紫外LEDで励起したところ、発光ピーク波長は約610nmであり、600nm〜700nmの赤色領域における発光強度は実施例1の蛍光体の約60%であったが、比較例1の蛍光体に比べて明らかに高い発光強度を示した。
【符号の説明】
【0045】
1 ストライプ状に形成した赤色発光蛍光体層
2 ストライプ状に形成した緑色発光蛍光体層
3 ストライプ状に形成した青色発光蛍光体層
4 ガラス基板
5 液晶素子
6 液晶アレイ
7 近紫外発光LEDをアレイ状に並べた励起光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体が下記一般式(1):
ARS (1)
(式中、AはNa、K、およびRbのうちの少なくとも一つの元素を表し、RはY、Gd、およびLuのうちの少なくとも一つ元素を表す)
で表され、さらに微量のBiおよびMnを含み、波長380〜430nmの光を照射したときに赤色光を放射することを特徴とする、赤色発光蛍光体。
【請求項2】
Biの含有量が0.003〜0.3モル%であり、Mnの含有量が0.1〜3モル%であり、かつBi/Mnのモル比が1/3未満である、請求項1記載の赤色発光蛍光体。
【請求項3】
結晶構造が六方晶系である、請求項1または2に記載の赤色発光蛍光体。
【請求項4】
ピーク波長が380〜430nmの近紫外光を発生する励起光源と、
前記近紫外光により青色に発光する蛍光体からなる蛍光体層と
前記近紫外光により緑色に発光する蛍光体からなる蛍光体層と
前記近紫外光により赤色に発光する蛍光体からなる蛍光体層と
を具備し、前記の各蛍光体層が平面状に配置されており、さらに各蛍光体層の位置に対応して、励起光または蛍光体から照射される光の透過率を制御するための液晶素子が設置された画像表示装置であって、前記の赤色に発光する蛍光体が、請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体であることを特徴とする、画像表示装置。
【請求項5】
前記の、青色に発光する蛍光体として、母体が下記一般式(2):
NaRS (2)
(式中、RはY、Gd、およびLuのうちの少なくとも一つ元素を表す)
で表され、さらに0.01〜1モル%のBiを含む、波長380〜430nmの光を照射したときに青色光を放射する青色発光蛍光体を用いる、請求項4記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記励起光源が、近紫外発光ダイオードである、請求項4または5に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−52156(P2011−52156A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203851(P2009−203851)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】