説明

蛍光体およびその製法

【課題】 Ba1−xCaTiOの組成式で表され、330nmよりも長い励起波長の領域に最大の発光強度を持ち、かつ励起する波長を広い範囲でカバーできる蛍光体と、その製法を提供する。
【解決手段】 Ba、Ca、TiおよびPrを含む前駆体溶液に超音波を与えて、前記前駆体溶液を霧状にする工程と、霧状にした前記前駆体溶液を火炎中に導入して、前記Ba、Ca、TiおよびPrを含む結晶を有する粒子を得る工程とを経て、Prを含み、Ba1−xCaTiO(0.2≦x≦0.8)の組成式で表され、単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ粒子により構成され、前記Ba、CaおよびTiが前記粒子中に均一に分布している蛍光体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は可視光を吸収し、長波長の可視光を発する蛍光体とその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料からなる発光素子(LEDともいう)は、小型で電力効率が良く鮮やかに発光することで知られ、しかも、製品寿命が長くかつ消費電力が低いという優れた特徴を有するため、液晶等のバックライト光源や照明用光源に応用されている。
【0003】
LEDについては、種々の材料により、赤色、青色、緑色および黄色などが実用化されているが、近年、強誘電性を持つ材料の一つであるチタン酸バリウムにカルシウムとプラセオジムとを固溶させた誘電体材料が発光特性を示すことが見出されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
上述の非特許文献1に開示された誘電体材料からなる蛍光体は、Prを含み、Ba1−xCaTiO(x=0.23)の組成式で表され、得られた粒子のX線回折パターンからは、ほぼ単一の結晶相が形成されており、この材料に対して、波長が330nmの励起光(紫外線)を照射すると、波長が490nmおよび610nmの領域に発光ピークが現れることが示されている。
【非特許文献1】アプライド・フィジクス・レターズ(Applied Physics Letters)92,222908(2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Ba1−xCaTiOの組成式で表される蛍光体については、これまで330nmよりも長い励起波長の領域に最大の発光強度を持ち、かつ励起する波長を広い範囲でカバーできる蛍光体は未だ見出されていない。
【0006】
従って本発明の目的は、Ba1−xCaTiOの組成式で表され、330nmよりも長い励起波長の領域に最大の発光強度を持ち、かつ励起する波長を広い範囲でカバーできる蛍光体と、その製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光体は、Prを含み、Ba1−xCaTiO(0.2≦x≦0.8)の組成式で表され、単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ粒子により構成されており、Ba、CaおよびTiが前記粒子中に均一に分布していることを特徴とする。
【0008】
本発明の蛍光体の製法は、Ba、Ca、TiおよびPrを含む前駆体溶液に超音波を与えて、前記前駆体溶液を霧状にする工程と、霧状にした前記前駆体溶液を火炎中に導入して、前記Ba、Ca、TiおよびPrを含む結晶を有する粒子を得る工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体によれば、Prを含み、Ba1−xCaTiOの組成式で表される粒子が単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ粒子により構成されるとともに、その粒子に含まれるBa、CaおよびTiが粒子中に均一に分布していることから、330nmよりも長い励起波長の領域に最大の発光強度を持ちつつ、励起する波長を広い範囲でカバーできる。
【0010】
本発明の蛍光体の製造方法によれば、Ba、Ca、TiおよびPrを含む前駆体溶液に超音波を与えて、その前駆体溶液を霧状にすることから、微細な液滴を得ることができ、さらに、このような微細な液滴を火炎中に導入して高温に加熱して合成する工法であることから、Ba、Ca、TiおよびPrが均一に固溶することとなり、Prを含み、Ba1−xCaTiO(0.2≦x≦0.8)の組成式で表され、単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ粒子により構成されるとともに、Ba、CaおよびTiが粒子中に均一に分布した蛍光体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の蛍光体は、Prを含み、Ba1−xCaTiO(0.2≦x≦0.8)の組成式で表され、単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ粒子により構成されており、当該粒子に含まれるBa、CaおよびTiが粒子中に均一に分布している。
【0012】
これにより本発明の蛍光体は330〜360nmの広い範囲の励起波長の領域に最大の発光強度を持つものとなる。
【0013】
即ち、本発明の蛍光体は、Ba1−xCaTiOの組成式において、Xの値を変化させた場合に、その結晶構造が正方晶系のBaTiOから斜方晶系のCaTiOへの相変化を示すものであり、いずれの組成においても正方晶系のBaTiOおよび斜方晶系のCaTiO以外の異相のピークが殆ど見られないものであり、しかも粒子中に含まれるBa、CaおよびTiが粒子中に均一に分布している。
【0014】
この場合、Ba1−xCaTiOのX=0.2(20%)〜0.8(80%)までの範囲において、格子定数a,bおよびcは、同じ結晶構造の範囲においてXの値の変化に伴いほぼ直線的に変化し、これらの格子定数の変化からも単一のペロブスカイト型結晶構造を持つものとなり、このため330nmよりも長い励起波長の領域に最大の発光強度を持ち、励起する波長を広い範囲でカバーできる蛍光体となる。
【0015】
これに対して、Xの値が0.2よりも小さいかもしくは0.8より大きい場合には最大の発光強度を持つ励起波長が330nm以下となる。
【0016】
また、粒子が単一のペロブスカイト型結晶構造を持つものでないか、または粒子中に含まれるBa、CaおよびTiが粒子中に均一に分布していない場合にも最大の発光強度を持つ励起波長を330nmよりも長くすることが困難となる。
【0017】
なお、本発明において、単一のペロブスカイト型結晶構造を持つとは、後述する図1からも明らかなように、X線回折パターンにおいて、X線回折パターンのベースラインに見られるノイズレベルの回折強度のピークを除いて、ペロブスカイト型結晶構造を持つ正方晶系のBaTiOか、または斜方晶系のCaTiOのみが存在することをいう。また、粒子中に含まれるBa、CaおよびTiが粒子中に均一に分布しているとは、粒子の粒界付近から中央部を通り、反対側の粒界付近まで引いた直線上のほぼ等間隔に位置する点における各成分の濃度差が0.5原子%以内にある場合をいう。
【0018】
また、本発明の蛍光体は、その形状が球形をした粒子であり、その粒子の表面が滑らかで、凝集していないものである。
【0019】
また、本発明の蛍光体を構成する粒子の平均粒径は30〜50nmであることが望ましく、その粒径の標準偏差は2以下であることが望ましい。蛍光体を構成する粒子の平均粒径および標準偏差がこの範囲であると単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ結晶相を形成しやすく励起波長が330nmよりも広い範囲に最大の発光強度をもつ励起波長を有するものとなる。
【0020】
なお、粒子の平均粒径は、試料である粒子に予めイオンスパッタを行った後、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、粒子の写真を撮る。次いで、その写真上で粒子が約200個入る円を描き、円内および円周にかかった粒子を選択し、各粒子の輪郭を画像処理して、各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求める。
【0021】
また、本発明の蛍光体を形成する粒子は、選択領域電子回折(SAED)スペクトルによれば、多重の回折リングを示しており、このことから、この粒子は多結晶体であり、また、その粒子の内部では、Ba,CaおよびTiがほぼ均一な分布をしている。
【0022】
本発明の蛍光体を構成する粒子中にふくまれるPr(プラセオジム)は、Ba1−xCaTiOを主成分とする蛍光体の発光特性を高めることができるという理由から、0.05〜0.2原子%であることが望ましい。
【0023】
そして、本発明の蛍光体では、Prを含むBa1−xCaTiO(0.2≦x≦0.8)の組成式において、Xの値を変化させても発光特性を持つものにできる。特に、本発明の蛍光体は、Ba1−xCaTiOの組成式において、X≧0.45で、励起波長が340nm以上の領域において、高い発光強度を得ることができる。
【0024】
次に、本発明の蛍光体の製法について説明する。本発明の製法においては、まず、Ba、Ca、TiおよびPrを含む前駆体溶液を調製する。Ba源として酢酸バリウム(Ba(CHCOO))、Ca源として硝酸カルシウム(Ca(NO・4HO)、Ti源としてチタンのアルコキシド溶液(titanium tetra-isopropoxide(TTIP-97%))、およびPr源として硝酸プラセオジム(Pr(NO・6HO)が好適である。これらの原料の純度は、得られる蛍光体が単一の結晶相を形成できるという理由からいずれも99%以上であることが好ましい。
【0025】
前駆体溶液は、TTIPが透明な溶液になるように硝酸を少量加え、これに酢酸バリウム、硝酸カルシウムおよび硝酸プラセオジムを添加して所望の組成になるようにする。
【0026】
前駆体溶液の濃度は、得られる粒子が均一な組成の分布を有し、単一のペロブスカイト型結晶構造にできるという理由から0.01〜0.3Mであることが望ましい。
【0027】
図1は、本発明の蛍光体を調製するための合成装置の模式図である。
【0028】
この合成装置は周波数1.7MHzの超音波振動器を備えたエアロゾル発生器1と、拡散火炎反応塔3と、回収器5とから構成されている。回収器5はバグフィルタを備えており、真空ポンプにより吸引する方式になっている。
【0029】
次に、調製した前駆体溶液に超音波振動器を備えたエアロゾル発生器1を用いて前駆体溶液を霧状にし、次いで、霧状にした前駆体溶液を酸素、窒素およびメタンガスをキャリアガスとして拡散火炎反応塔3の火炎中に導入し、高温で加熱することによりBa、Ca、TiおよびPrを含む結晶相を得る。ここで霧状にした前駆体溶液の液滴を加熱する温度としては2000℃以上が好ましい。液滴をこのような温度で瞬時に加熱することにより得られる粒子が均一な組成の分布を有し、単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ粒子を得ることができる。
【0030】
本発明の製法は、上記のように、霧状にした前駆体溶液を火炎中に導入するものであるために、得られる粒子は、微粒であり、その粒子は微細な結晶が成長して形成された多結晶体であり、しかも粒子の表面から内部に至るまで各元素は均一な濃度分布を有しており、さらに、得られる粒子の組成は前駆体溶液中の元素の濃度にほぼ一致するものである。
【0031】
特に、本発明の製法によって得られる粒子が上記のように微細な結晶が成長して形成された多結晶体となるために、Ba1−xCaTiOのX=0.2〜0.8の範囲において、格子定数a,bおよびcは、同じ結晶構造において、Xの値の変化に伴いほぼ直線的に変化し、単一ペロブスカイト型結晶構造が得られるものと考えられる。
【実施例】
【0032】
まず、原料として、純度が99%の酢酸バリウム(Ba(CHCOO))と、純度が99.5%の硝酸カルシウム(Ca(NO・4HO)と、チタンのアルコキシド溶液(titanium tetra-isopropoxide(TTIP-97%))と、純度が99.95%の硝酸プラセオジム(Pr(NO・6HO)とを準備した。
【0033】
次に、TTIPが透明な溶液になるように1Nの硝酸を少量加え、これに酢酸バリウム、硝酸カルシウムおよび硝酸プラセオジムを添加して表1に示す組成になるように前駆体溶液を調製した。なお、前駆体容器中の硝酸プラセオジムの濃度は0.12原子%とした。
【0034】
次に、調製した前駆体溶液を上述の反応装置を用いて粒子の合成を行った。反応装置の条件は火炎ゾーンにおける酸素ガス、窒素ガスおよびメタンガスの流速を4L/min.とした。また、火炎の最高温度はFULUENTシミュレーションによる測定において約2500℃である。
【0035】
次に、合成した各試料の粒子について以下の評価を行った。
【0036】
粒子の平均粒径は、試料である粒子に予め30秒のイオンスパッタを行った後、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて粒子の写真を撮り、次いで、その写真上で粒子が約200個入る円を描き、円内および円周にかかった粒子を選択し、各結晶粒子の輪郭を画像処理して、各粒子の面積を求め、同じ面積をもつ円に置き換えたときの直径を算出し、その平均値より求めた。
【0037】
得られた粒子の結晶構造はX線回折装置を用いて評価した。X線回折装置はフィルターをニッケルとし、X線源をCuKα(λ=0.154nm)としたものであり、X線出力を40kV、30mAとし、スキャンステップを0.02°、スキャン速度を4°/min.として、2θ=10〜80°の範囲で回折を行った。格子定数はリートベルト解析によって求めた。
【0038】
粒子内部の元素の分布はエネルギー分散型X線分析器(EDS)を備えた走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて求めた。この評価には粒子をアルゴンエッチングしたものを用いた。このとき電子線のスポットサイズは5nmとし、分析する箇所は粒子の一方の粒界付近から中央部を直線的に通って対向する粒界付近までの範囲で、その直線上のほぼ等間隔に位置する点とし、粒子の各測定点から検出されるBa、TiおよびCaの濃度を求めた。
【0039】
得られた粒子の組成分析はICP(Inductively Coupled plasma)分析および原子吸光分析により行った。この場合、得られた粒子を硼酸と炭酸ナトリウムと混合し溶融させたものを塩酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により粒子に含まれる元素の定性分析を行い、次いで、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP発光分光分析にかけて定量化した。また、各元素の価数を周期表に示される価数として酸素量を求めた。
【0040】
なお、本発明の製法により得られた蛍光体の粒子の組成は、調製した前駆体溶液に含まれる元素の組成と一致していた。
【0041】
以下、結果について詳細に説明する。
【0042】
本発明の蛍光体は、Prを含むBa1−xCaTiO(0.2≦x≦0.8)の組成式において、Xの値を変化させても、励起波長が330nmよりも長い波長の領域において最大の発光強度を示した。特に、本発明の蛍光体は、Ba1−xCaTiOの組成式において、X≧0.45で、励起波長が340nm以上の領域において、高い発光強度が得られた。
【0043】
図2は、Ba1−xCaTiO(X=0.02(2%)〜0.8(80%))の組成におけるX線回折パターンであり、図2中の(a)はX=0.02〜0.25(2%〜25%)、(b)は、X=0.3〜0.8(30%〜80%)の範囲を示すものである。また、2θ=30〜34°の範囲の回折ピークを拡大してそれぞれ示している。
【0044】
本発明の蛍光体は、図2から明らかなように、Ba1−xCaTiOの組成式において、Xの値を変化させた場合に正方晶系のBaTiOから斜方晶系のCaTiOへの相変化を示しており、いずれも正方晶系のBaTiOおよび斜方晶系のCaTiO以外の異相のピークが殆ど見られず、単一のペロブスカイト型結晶構造となっている。
【0045】
この場合、X<0.5(50%)の範囲では、正方晶系のBaTiOのX線回折パターンによくフィットし、一方、X>0.5(50%)では斜方晶系のCaTiOのX線回折パターンによくフィットしている。これは、図2の2θ=30〜34°の範囲で拡大したBa1−xCaTiOの最強の回折ピークからわかるように、Xの値が増えるにつれて回折ピークの角度(2θ)がシフトしているからである。こうして本発明の蛍光体はBa1−xCaTiOの組成を有する磁器が完全な固溶体により形成されているといえる。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に、Ba1−xCaTiO(X=0.02(2%)〜1(100%))の組成を持つ粒子の格子定数の変化を示す。なお、格子定数はリートベルト解析によって求めた。
【0048】
Ba1−xCaTiOのX<0.5の組成については、格子定数aおよびcは、Xの値の変化に伴い、それぞれ1.71%および1.08%の傾きでほぼ直線的に減少しており、これらの格子定数から求められる単位体積Vについても4.45%の傾きで減少している。
【0049】
一方、X=0.6(60%)の組成の粒子は、X=1(100%)の組成の粒子に対して、a,b,cおよびVがそれぞれ1.16%,0.94%,1.27%および3.41%だけ大きくなっている。
【0050】
図3(a)は、Ba1−xCaTiO(X=0.25(25%))の組成を持つ粒子の電子顕微鏡写真であり、(b)は観察した粒子の粒度分布、(c)は粒子の透過電子顕微鏡写真、(d)は選択領域電子回折(ASED)の結果である。合成した粒子の形状は球形であり、滑らかな表面を有しており、凝集の無い状態となっており、その平均粒径は41.7nm、標準偏差は1.28であり、粒径のばらつきの小さいものである。
【0051】
また、本発明の蛍光体を形成する粒子はSAEDスペクトルによれば、多重の回折リングを示しており、このことから、この粒子は多結晶体であることがわかる。この多結晶体はTEM観察によれば異なった格子の方位をもつ多くの微細な結晶から構成されている。
【0052】
図4は、図2の評価に用いた試料(X=0.25(25%))の粒子の透過電子顕微鏡写真と、粒子内の元素の分布を示すグラフである。この評価は粒子の粒界付近から中央部を通り、反対側の粒界付近まで引いた直線上のほぼ等間隔に位置する点における各成分についてEDSを備えたSTEMを用いて求めたものである。
【0053】
図4からわかるように、本発明の蛍光体を形成する粒子の内部では、Ba,CaおよびTiがほぼ均一な分布をしている。なお、本発明の製法により作製した粒子は同様の分析の結果、いずれの試料もBa、CaおよびTiの濃度差が0.5原子%以内の分布を示していた。
【0054】
【表2】

【0055】
表2は、得られた粒子のうちBa1−xCaTiO(X=0.1(10%)〜0.3(30%))の組成を有する粒子のICP分析結果である。表2中のXは前駆体溶液を調製したときの値である。
【0056】
表2から分かるように、本発明の蛍光体を形成する粒子は合成を通じて成分の損失がほとんど無く前駆体溶液の組成の相当するものである。なお、本発明の製法により作製した粒子は、他の試料についても、合成を通じて成分の損失がほとんど無く前駆体溶液の組成に相当するものであった。
【0057】
図5(a)は、従来の固相法の反応過程を示す模式図であり、(b)は、本発明の蛍光体の製法における反応過程を示す模式図である。
【0058】
このことは、図5(a)に示しているように、炭酸バリウム、硝酸バリウムおよび酸化チタンを原料粉末として用いる固相法では、反応が主に表面拡散によって起こるものと考えられているが、図5(b)に示すように、本発明の蛍光体の製法により得られる粒子は前駆体溶液の微細な液滴から作られるため、溶液中の元素が均一に混合された状態で化合物が合成される。このため火炎中での合成後の粒子はサブミクロンのサイズでありながらも数nmの微細な結晶が集まった状態であり、しかも、その粒子内部の元素はほぼ均一に分布している。こうして少なくともBa1−xCaTiO(X=0.2(20%)〜0.8(80%))の組成において、単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ粒子を得ることができると考えられる。
【0059】
次に、本発明の蛍光体の製法によって得られた粒子について発光特性を評価した。
【0060】
図6(a)は、PrをドープしたBa1−xCaTiO(X=0(0%)〜1(100%))の組成について、612nmの波長においてモニターされた蛍光特性の結果である。
【0061】
図6(b)は、PrをドープしたBa1−xCaTiO(X=0(0%)〜1(100%))の組成について、Xの値を変化させたときの励起波長の変化を示すものである。
【0062】
図6(a)、(b)からわかるように、本発明の蛍光体の製法により得られた蛍光体は、335〜355nmの範囲において、Xの値を変えることによって励起波長を変更することができ、特に、本発明では、Ba1−xCaTiOの組成式において、X≧0.45とすると、励起波長が340nm以上の領域において、高い発光強度を得ることができた。
【0063】
これによりPrを含むBa1−xCaTiO(0.2≦x≦0.8)の組成式において、Xの値を変化させることにより、発光する波長を異ならせることが可能となるため、励起波長の異なる光源についても広い範囲で適用できる。
【0064】
なお、上述した非特許文献1では、チタン酸バリウム系誘電体材料からなる蛍光体を合成する手法として、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化チタンおよび酸化プラセオジムを用いる伝統的な固相法を採用しているが、本出願人がこの方法を用いてX=0〜1の範囲の材料の合成を試みたところ、いずれの組成においても、粒子に含まれるBa、CaおよびTiが粒子中に均一な分布を示すものではなかった。また、X>0.23の組成範囲では、いずれもチタン酸バリウムを主成分とし正方晶系を示す結晶相とチタン酸カルシウムを主成分とし斜方晶系を示す結晶相とが混在した材料しか得られず、いずれの組成においても最大の発光強度を持つ励起波長が330nm以下であった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の蛍光体を調製するための合成装置の模式図である。
【図2】Ba1−xCaTiO(X=0.02(2%)〜0.8(80%))の組成におけるX線回折パターンであり、図1中の(a)はX=0.02〜0.25(2%〜25%)、(b)は、X=0.3〜0.8(30%〜80%)の範囲を示すものである。また、2θ=30〜34°の範囲の回折ピークを拡大してそれぞれ示している。
【図3】(a)は、Ba1−xCaTiO(X=0.25(25%)の組成を持つ粒子の電子顕微鏡写真であり、(b)は観察した粒子の粒度分布、(c)は粒子の透過電子顕微鏡写真、(d)は選択領域電子回折(ASED)の結果である。
【図4】図2の評価に用いた試料(X=0.25)の粒子の透過電子顕微鏡写真と、粒子内の元素の分布を示すグラフである。
【図5】(a)は、従来の固相法の反応過程を示す模式図であり、(b)は、本発明の蛍光体の製法における反応過程を示す模式図である。
【図6】(a)は、PrをドープしたBa1−xCaTiO(X=0(0%)〜1(100%))の組成について、612nmの波長においてモニターされた蛍光特性の結果であり、(b)は、PrをドープしたBa1−xCaTiO(X=0(0%)〜1(100%))の組成について、Xの値を変化させたときの励起波長の変化を示すものである。
【符号の説明】
【0066】
1 エアロゾル発生器
3 拡散火炎反応塔
5 回収器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Prを含み、Ba1−xCaTiO(0.2≦x≦0.8)の組成式で表され、単一のペロブスカイト型結晶構造を持つ粒子により構成されており、Ba、CaおよびTiが前記粒子中に均一に分布していることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
Ba、Ca、TiおよびPrを含む前駆体溶液に超音波を与えて、前記前駆体溶液を霧状にする工程と、霧状にした前記前駆体溶液を火炎中に導入して、前記Ba、Ca、TiおよびPrを含む結晶を有する粒子を得る工程とを具備することを特徴とする蛍光体の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−106110(P2010−106110A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278136(P2008−278136)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】