説明

蛍光体およびその製造方法、並びに発光装置

【課題】蛍光体表面の変質および構造の乱れにより、発光輝度が低下したり、発光の色調が変化することのない蛍光体、及びその製造方法、並びに当該蛍光体を用いた白色発光ダイオード(LED)を始めとする発光装置を提供する。
【解決手段】組成式がSr4AlSi11O2N17:Eu(SrAl0.2Si2.7ON3.80:Eu) である蛍光体の表面にSiO2被膜を施し、この蛍光体をBNるつぼに充填し、アンモニア雰囲気中で300℃まで昇温し、3時間保持して熱処理をおこなって、熱処理が施されたSiO2被膜を表面に有する蛍光体粉末を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラウン管(CRT)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイ(PDP)などのディスプレイや、半導体発光素子(以下、LEDと記載することがある。)、蛍光灯、蛍光表示管などの照明装置や、液晶バックライト等の発光器具に使用される、窒素を含有する蛍光体およびその製造方法、並びに例えばLEDと当該蛍光体とを組み合わせた白色LED照明を始めとする発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、照明装置として用いられている放電式蛍光灯や白熱電球などは、水銀などの有害な物質が含まれている、寿命が短いといった諸問題を抱えている。ところが、近年になって近紫外・紫外 〜 青色に発光する高輝度LEDが次々と開発され、そのLEDから発生する近紫外・紫外 〜 青色の光と、園波長域に励起帯を持つ蛍光体から発生する光とを混ぜ合わせて白色光を作りだし、その白色光を次世代の照明として利用できないかといった研究、開発が盛んに行われている。この白色LED照明が実用化されれば、電気エネルギーを光へ変換する効率が高く熱の発生が少ないこと、LEDと蛍光体から構成されているため、従来の白熱電球のように切れることがなく長寿命であること、水銀などの有害な物質を含んでいないこと、また照明装置を小型化できること、といった利点があり、理想的な照明装置が得られる。
【0003】
当該LEDと蛍光体から構成されている発光装置の場合においても、通常の蛍光灯などの発光装置と同様に、低い消費電力で高輝度な効率の良い装置が求められている。装置自体の効率を高くするには、励起源である半導体素子からの光の取り出し効率を高めることともに、励起源となる光を効率よく異なる波長に変換する蛍光体が求められ、特に半導体素子の発光波長である近紫外・紫外 〜 青色の発光に対して効率よく発光する蛍光体が求められている。
【0004】
このため、効率良い蛍光体についての研究が現在盛んに行われており、従来からある酸化物系、硫化物系、燐酸系蛍光体のさらなる改善と共に、最近ではCa2Si5N8:Eu、Sr2Si5N8:Eu、Ba2Si5N8:Eu、CaSrSi5N8:Eu、Ca2(Al,Si)5N8:Ceなどの窒化物蛍光体(特許文献1、2参照)、Sr2Si3Al2N8O2:Euなどの酸窒化物蛍光体(特許文献3参照)、など新しい組成の蛍光体が次々と開発されている。
【0005】
【特許文献1】特表2003-515655号公報
【特許文献2】特開2004-244560号公報
【特許文献3】国際公開第2004/055910 A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の技術に係るこれら蛍光体は、近紫外・紫外 〜 緑色の励起光により励起された場合の発光効率が満足すべき水準になく、十分な発光強度および輝度が得られていない。さらに、従来の技術に係る蛍光体は、蛍光体自身が熱を蓄積した場合の発光効率の低下が大きいため、発光素子周辺に蛍光体を配置させた場合、当該発光素子から発生する熱により蛍光体の発光効率が低下すると伴に、当該蛍光体の色味の変化や輝度の低下を起こすといった問題点があった。また、従来の技術に係る蛍光体は、発光装置の製造工程等において大気中での熱処理工程がある場合、輝度の低下を起こすといった問題点があった。当該蛍光体が起こす、これら色味の変化や輝度の低下は、いずれも当該発光装置を汎用的な用途に使用する上での障害となる。
【0007】
本発明は、上述の課題を考慮してなされたものであり、その目的は、近紫外・紫外 〜 緑色の励起光により励起された場合の発光効率および輝度に優れた蛍光体、および、生産性を向上させることが可能な当該蛍光体の製造方法、並びに当該蛍光体を用いた白色LED照明を始めとする発光装置を提供することにある。特には、長時間の点灯や製造工程における熱処理を受けても、輝度の低下や、色味が変化することのない蛍光体、及び、その製造方法、並びに当該蛍光体を用いた白色LED照明を始めとする発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明者らは、発光装置の長時間の点灯や、製造工程における熱処理により、製造された蛍光体や発光装置の輝度が低下し、色味が変化する原因を追求した。その結果、従来の技術に係る蛍光体は、酸化に対する耐性が不十分であっため、発光装置の長時間の点灯や発光装置の製造工程等において大気中での熱処理工程がある場合、大気中に含まれる酸素や樹脂やバインダー中の水分と、当該蛍光体とが反応し、当該蛍光体が輝度の低下を起こすのであるという機構に想到した。
【0009】
ここで本発明者らは、窒化物蛍光体粒子の表面にSiO2膜等の金属酸化膜を形成させることによって、大気中での熱処理工程における劣化を回避し、蛍光体の耐酸化性を向上させる構成に想到した。そして、当該構成によって、発光装置の長時間の点灯や製造工程における熱処理による、蛍光体や発光装置の輝度の低下や色味の変化を軽減出来た。さらに、本発明者らは、当該輝度低下や色味変化の更なる軽減を目指して研究を行い、製造工程における熱処理の際に加わる熱、発光装置として組み込まれた際に発光素子より与えられる熱によって、当該蛍光体の粒子を被覆しているSiO2膜等の金属酸化膜(以下、単に酸化膜と記載する場合がある。)中の酸素原子が、蛍光体粒子の表面から内部に侵入・拡散し、当該蛍光体粒子の極表面の組成が変化してしまうという新たな機構に想到した。そして、当該極表面の組成変化のため、蛍光体の発光強度や輝度が低下し、その結果、色味も変化してしまうのではないかという劣化機構に想到したものである。
【0010】
本発明者らは以上の解明結果に基づき、蛍光体の粒子の表面を覆う酸化膜からの上述の劣化機構に伴う酸素の拡散量を考慮し、蛍光体組成に含まれる酸素量を、予め所定量より不足した状態で製造した後、当該蛍光体の粒子表面に酸化膜を作製し、一定の温度で熱処理するという構成に想到した。すると、蛍光体の作製後における酸化膜から蛍光体粒子表面へ向かって起こる酸素の拡散により、蛍光体粒子の組成が所定のものとなることで、当該蛍光体の発光強度の低下を抑制できる。加えて好ましいことに、上記熱処理により、蛍光体の粒子表面から酸化膜中に向かって窒素が拡散し、蛍光体粒子の表面に強固な酸化膜が形成される。この結果、当該強固な酸化膜の遮蔽効果により、更なる、大気中から蛍光体の粒子内部への酸素の拡散も抑えることが可能になることに想到した。
【0011】
即ち、上述の課題を解決するための第1の構成は、
金属酸化物を含み熱処理が施された被膜が表面に形成された蛍光体粒子を、含む蛍光体であって、
前記蛍光体粒子の組成式は、一般式MmAaBbOoNn:Zで表記され(M元素はII価の価数をとる1種類以上の元素であり、A元素はIII価の価数をとる1種類以上の元素であり、B元素はIV価の価数をとる1種類以上の元素であり、Oは酸素であり、Nは窒素であり、Z元素は1種類以上の付活剤である。)、且つ、2.5 ≦ (a + b)/m < 4.5 、0 < a/m < 0.5、2.0 < b/m < 4.0、0 ≦ o/m < 1.0、o < n 、n = 2/3m + a + 4/3b -2/3oであることを特徴とする蛍光体である。
【0012】
第2の構成は、
第1の構成に記載の蛍光体であって、
前記被膜の膜厚が、0.5 nm以上、100 nm以下であることを特徴とする蛍光体である。
【0013】
第3の構成は、
第1または第2の構成に記載の蛍光体であって、
前記被膜に含まれる金属酸化膜は、Si、Ti、Zr、In、Snのいずれか1種類以上の金属元素を含むことを特徴とする蛍光体である。
【0014】
第4の構成は、
第1から第3の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記一般式において、2.5 < (a + b)/m < 4.0、2.5 ≦ b/m ≦ 3.5、0 < o/m < 1.0であることを特徴とする蛍光体である。
【0015】
第5の構成は、
第1から第4の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
M元素はMg、Ca、Sr、Ba、Znから選択される1種類以上の元素であり、A元素はAl、Gaから選択される1種類以上の元素であり、B元素はSi、Geから選択される1種類以上の元素であり、Z元素はEu、Ce、Mnから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする蛍光体である。
【0016】
第6の構成は、
第1から第5の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
M元素としてSr、A元素としてAl、B元素としてSiを含むことを特徴とする蛍光体である。
【0017】
第7の構成は、
第1から第6の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
当該蛍光体中に、酸素を0.1wt%以上、10.0wt%以下含有し、且つ、窒素を20.0wt%以上、50.0wt%以下含有することを特徴とする蛍光体である。
【0018】
第8の構成は、
第1から第7の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
当該蛍光体へ、波長250nmから500nmの範囲にある所定の励起光を照射した際の、25℃における発光スペクトル中の最大ピークの相対強度の値をBPとし、
当該蛍光体を300℃の大気中に6時間置いた後、25℃にもどし、前記の励起光を照射した際の、発光スペクトル中の前記最大ピークの相対強度の値をAPとしたとき、
(BP - AP)/ BP ≦ 0.05であることを特徴とする蛍光体である。
【0019】
第9の構成は、
第1から第8の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記被膜に含まれる金属酸化物が、SiO2であることを特徴とする蛍光体である。
【0020】
第10の構成は、
第1から第9の構成のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記蛍光体粒子の平均粒径(D50)が、1.0μm以上、20μm以下であることを特徴とする蛍光体である。
【0021】
第11の構成は、
第1から第10の構成のいずれかに記載の蛍光体の製造方法であって、
蛍光体の原料を焼成して蛍光体粒子を得る工程と、
前記蛍光体粒子を解砕する工程と、
水溶性の有機溶媒中に、前記解砕された蛍光体粒子と、オルガノシラン化合物と、水とを投入して混合した後に、ゲル化剤を投入して、表面に金属酸化物を含む被膜を有する蛍光体粒子を得る工程と、
表面に前記金属酸化物を含む被膜を有する蛍光体粒子を、1000℃以下200℃以上のアンモニアガスおよび/または窒素ガスの雰囲気中で熱処理して、金属酸化物を含み熱処理が施された被膜を有する蛍光体粒子を製造する工程と、を有すること特徴とする蛍光体の製造方法である。
【0022】
第12の構成は、
第1から第10の構成のいずれかに記載の蛍光体と、発光部とを有することを特徴とする発光装置である。
【0023】
第13の構成は、
第12の構成に記載の発光装置であって、
前記発光部とは、波長域250 nmから500 nmのいずれかの光を発光するものであることを特徴とする発光装置である。
【0024】
第14の構成は、
第12または第13の構成に記載の発光装置であって、
前記発光部としてLED(発光ダイオード)を用いることを特徴とする発光装置である。
【発明の効果】
【0025】
第1から第10の構成のいずれかに記載された蛍光体は、蛍光体粒子表面が、熱処理が施された緻密な酸化物で被膜されているため、蛍光体の温度上昇に伴う酸化などの変質を回避でき、且つ、外部からの酸素や水分を遮断することができる。このため、点灯や熱処理の際に加わる熱により生ずる組成の変化に起因する発光特性の低下を抑えることができる。
【0026】
第11の構成に係る蛍光体の製造方法によれば、熱処理が施された金属酸化膜を表面に有する蛍光体粒子を含む蛍光体を、容易に高い生産性をもって製造することができる。
【0027】
第12から第14の構成のいずれかに記載された発光装置は、耐久性に優れ、長時間の使用においても人間の視覚において顕著な輝度の低下がない、または、顕著な光の色味の変化が感じられない、優れた発光装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明者らが解明した、蛍光体が設置された発光装置における長時間の点灯に伴う熱や、蛍光体の製造工程における熱処理による熱により、表面に酸化膜を有する蛍光体粒子の輝度が低下するという劣化機構について説明する。
【0029】
当初、本発明者らは、蛍光体が設置された発光装置の発光時における、当該蛍光体の劣化機構の原因となる蛍光体表面の温度上昇を抑えることを考えた。そして、当該温度上昇を抑えるために、窒素を含む当該蛍光体粒子表面へ熱伝導率の低い酸化物の膜を設けることにより、表面の温度上昇による蛍光体粒子の変質を回避できること、および、外部から蛍光体粒子内部への酸素供給を遮断できることに想到した。中でも酸化物としてSiO2酸化膜を設けることにより、蛍光体粒子表面の温度上昇による変質を容易に回避できることに想到した。また、酸化膜としてSiO2以外であっても、ZrO2、TiO2等により同様な効果が得られることに想到した。そして、酸化膜としてInやSnの酸化物を用いた場合においては、当該酸化膜が導電性をも保有するため、ディスプレイ等に用いられる蛍光体のように電子が直接蛍光体表面に照射される用途において好ましい導電性酸化膜といえる。
【0030】
しかしながら、本発明者らの更なる研究によると、上述したように蛍光体粒子の表面に酸化膜を設けても、温度上昇した時間が長期にわたると当該蛍光体の発光特性が劣化していた。
これは、当該蛍光体が設けられた発光装置中の発光素子から発生する発熱により、当該発光素子表面もしくは発光素子近傍に塗布された蛍光体の温度も、例えば200℃程度に上昇していると考えられ、また、発光装置の製造工程において、発光素子が熱処理を受ける場合にも蛍光体粒子の温度が上昇していると考えられる。そして、室温(25℃)では比較的安定であった表面に酸化膜を有する蛍光体は、長時間にわたる点灯や熱処理の際に加わる熱により蛍光体粒子表面の温度が上昇し、蛍光体粒子に被覆した酸化膜中の酸素原子が蛍光体表面から内部に侵入・拡散する。更には、大気中や樹脂中の酸素、有機物を含むバインダー中の水分などが、当該酸化膜を介して蛍光体粒子内部へ侵入・拡散するため、蛍光体粒子の表面組成が変化し当該蛍光体の発光強度や輝度が低下してしまう、という劣化機構に想到したのである。
【0031】
ここで、発光装置の製造工程における熱処理とは、蛍光体を発光素子等に付着させるために、当該蛍光体を有機材料である樹脂などの種々なバインダーと混合し、発光素子等に塗布した後、当該バインダーを硬化・または蒸発させるために熱処理を施すことをいう。熱処理条件としては、使用する樹脂や有機物により様々な条件が考えられるが、約100℃で数時間保持する程度のものである。従って、当該蛍光体に求められる耐熱劣化性能は、100℃の大気中に数時間保持した後の発光強度の低下率を評価するのでは足らないと考えられる。そして、当該発光素子温度が200℃程度まで上昇することや、当該蛍光体が部材として十分な耐久性を有しているか否かを評価することを考えれば、当該蛍光体を、300℃で6時間大気中に保持した後の発光強度の低下率を評価することが必要と考えられた。そして、当該評価において、発光強度の低下率の値が小さければ耐久性に優れた好ましい蛍光体と言える。
【0032】
ここで、本発明者らは、蛍光体の劣化機構の原因となる酸化膜自身から蛍光体粒子への酸素の拡散による発光効率の低下を防ぐためには、上述のように蛍光体表面を酸化膜で被覆する構成に加えて、酸化膜から蛍光体粒子へ拡散する酸素原子を蛍光体組成中に吸収してしまうことで無害化する構成に想到した。すなわち本発明者らは、蛍光体組成中の前記SiとAlとの存在量に注目し、予め、当該蛍光体に含まれるSi原子の一部をAl原子に置換しておいた後に、酸化膜で被覆し熱処理する構成に想到したものである。
【0033】
すなわち、蛍光体の表面を覆う酸化膜から蛍光体粒子への酸素の拡散量を考慮し、蛍光体の作成時に、予め、所定量のAlを添加することによって、当該蛍光体粒子中のSi原子の一部をAl原子に置換して、酸素が欠損した状態の蛍光体粒子を製造する。次に、当該酸素が欠損した状態の蛍光体粒子の表面に酸化膜を作製し、更に、熱処理を施す。すると、当該酸化膜から蛍光体粒子に向かっての酸素の拡散が起こるが、当該拡散した酸素は、前記酸素の欠損を解消することに消費され、蛍光体の発光強度の低下が回避できるのであると考えられる。
【0034】
一方、上述した熱処理により、蛍光体粒子内の窒素原子が、蛍光体粒子内部から被膜である酸化膜中に拡散する。当該酸化膜中に拡散した窒素は酸化膜中において酸素を失った金属と反応し、金属窒化物を生成すると考えられる。ここで、一般に、金属窒化物は緻密で機械的に強固な膜であることから、当該酸化物膜中における金属窒化物の生成により、酸化膜を介して大気中から内部に侵入する酸素の拡散が抑えられるという好ましい効果を発揮する。
【0035】
さらに、当該蛍光体粒子へ、アンモニアガスおよび/または窒素ガスの雰囲気中にて1000℃以下200℃以上の温度で熱処理を行い、当該蛍光体粒子及びその酸化膜に熱処理を施すことも好ましい構成である。当該雰囲気中での熱処理による場合も、酸化膜表面において窒素の拡散が起こり金属窒化物が生成することで、より強固で緻密な酸化膜が形成され、この結果、酸化膜を介して大気中から内部に侵入する酸素の拡散が抑えられるという好ましい効果を発揮する。
【0036】
本発明が適用される蛍光体粒子の組成は、特に限定されるものではなく、多様な蛍光体粒子を含む蛍光体に対して適用することができる。もっとも、本発明は、長時間の点灯により、蛍光体表面の変質、輝度の低下、色味の変化といった問題を抱えている、窒素を含有する蛍光体粒子に対しては特に有効なものである。ここで、蛍光体の粒子形状は球状であっても良いし、板状、柱状であっても良く、特に限定はされない。
【0037】
本発明が、特に有効に適用される窒素を含有した蛍光体粒子の組成式は、MmAaBbOoNn:Zで表記され、M元素はII価の価数をとる元素であり、A元素はIII価の価数をとる元素であり、B元素はIV価の価数をとる元素であり、Oは酸素であり、Nは窒素であり、Z元素は付活剤であり希土類元素、遷移金属元素から選択される元素である。
【0038】
組成式中のm、a、b、o、nの関係において、n > 0である窒素を含有する蛍光体であれば、本発明を好適に適用することができる。
例えば、一般式MmAaBbOoNn:Zで表記される蛍光体であって(M元素はII価の価数をとる1種類以上の元素であり、A元素はIII価の価数をとる1種類以上の元素であり、B元素はIV価の価数をとる1種類以上の元素であり、Oは酸素であり、Nは窒素であり、Z元素は1種類以上の付活剤である。)、2.5 ≦ (a + b)/m < 4.5 、0 < a/m < 0.5、2.0 < b/m < 4.0、0 ≦ o/m < 1.0、o < n 、n = 2/3m + a + 4/3b - 2/3oである蛍光体がある。
【0039】
ここで、上述の本実施形態に係る蛍光体粒子に含まれるM元素、A元素、B元素、およびZ元素についてさらに説明する。
【0040】
前記M元素は、II価の価数をとる1種類以上の元素であるが、好ましくはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選択される1種類以上の元素である。
【0041】
前記A元素は、III価の価数をとる1種類以上の元素であるが、好ましくはAl、Gaから選択される1種類以上の元素である。
【0042】
前記B元素は、IV価の価数をとる1種類以上の元素であるが、好ましくはSi、Geから選択される1種類以上の元素である。
【0043】
前記Z元素は、付活剤として作用する希土類元素または遷移金属元素から選択される少なくとも1種類以上の元素であるが、好ましくはEu、Ce、Mnから選択される1種類以上の元素である。
【0044】
前記Z元素がEuを含むことによって、当該蛍光体は、近紫外・紫外から可視光(250 nm 〜 550 nm)の波長域の光に良好な励起帯を持ち、赤色(580 nm 〜 680 nm)の範囲にブロードなピークを持つ発光に優れた蛍光体となる。
【0045】
これら、M元素、A元素、B元素、Z元素として挙げた好ましい元素については、これらの元素を選択することで、優れた特性の蛍光体が得られるだけでなく、原料の入手が容易で、環境負荷も小さいといった利点も有している。
【0046】
また、上述した、一般式MmAaBbOoNn:Zで表記される蛍光体であって、2.5 ≦ (a + b)/m < 4.5 、0 < a/m < 0.5、2.0 < b/m < 4.0、0 ≦ o/m < 1.0、o < n 、n = 2/3m + a + 4/3b - 2/3oである蛍光体中には、酸素が1.0wt%以上、10.0wt%以下含有され、さらに窒素が20.0wt%以上、50.0wt%以下含有されている。
【0047】
特に、上述した一般式において、2.5 < (a + b)/m < 4.0、0 < a/m < 0.5、2.5 ≦ b/m ≦ 3.5、0 < o/m < 1.0であり、M元素にSrを使用している蛍光体粒子は、優れた発光特性が得られるものの、熱に対して非常に弱いという問題を抱えている為、本発明の適用により得られる効果が大きい。これは、Srを構成元素として含んでいる蛍光体粒子において、Srが水分に溶出し易い為、熱や水分などの外部要因により蛍光体表面が容易に変質したり、結晶構造が崩れてしまう為に、蛍光体の発光特性が大きく悪化してしまうからである。ここで、本発明を当該蛍光体に適用することで、当該蛍光体の変質を引き起こす上記外部要因が、金属酸化物の被膜によって抑制可能となるため当該蛍光体の変質を回避できる。更に、当該蛍光体粒子及びその金属酸化物の被膜に熱処理が施されることで、解砕工程等にて生じた蛍光体粒子表面の欠陥および歪みが除去されるため、外部からの熱による結晶構造の崩れを抑制でき、蛍光体における輝度の低下や色味の変化を、改善することができていると考えられる。
【0048】
尚、本実施形態の蛍光体において、Z元素の添加量は、対応するM元素1モルに対して0.0001モル以上、0.5モル以下の範囲にあることが好ましい。Z元素の添加量が当該範囲にあると、過剰な付活剤の存在に起因する濃度消光や、過少なことに起因する発光効率の低下を回避することが可能となる。添加する元素や母体の構造(組成式の違い)により、Z元素の添加の最適量は若干異なるが、さらに好ましくは0.005モル以上、0.2モル以下の範囲である。
【0049】
尚、本発明は上述の組成式を有する蛍光体だけではなく、公知の蛍光体組成であるCa2Si5N8:Eu、CaSrSi5N8:Eu、Sr2Si5N8:Euなどのシリコンナイトライド蛍光体系にも適用することが出来る。
【0050】
(本発明に係る蛍光体の製造方法)
ここで、本発明に係る蛍光体の製造方法について、本発明が好適に適用されるM元素がSr、B元素がSi、Z元素がEuであるSr4AlSi11(O2)N17:Eu (但し、Eu / (Sr + Eu) = 0.030である。)の組成を有する蛍光体粒子へSiO2被膜を形成した蛍光体の製造を一例として説明する。ただし、当該組成であるSr4AlSi11(O2)N17:Euは、原料混合比より算定した値を一般式MmAaBbOoNn:Zzを用いて表記した組成式である。従って、製造された蛍光体の組成比率が、当該組成式の組成比率から5%程度までの範囲でズレたとしても十分実用特性を有する蛍光体を得ることができる。特に、組成式中の酸素濃度については、後述する製造方法によって調整されるため、必ずしも当該表記の通りとはならない。また、Eu / (Sr + Eu)は、z / (m + z)を意味する。
【0051】
一般的に蛍光体は固相反応により製造されるものが多く、本実施形態の蛍光体の製造方法も固相反応によって得ることができる。しかし、製造方法はこれらに限定されるものではない。M元素、A元素、B元素の各原料は窒化物、酸化物、炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩などの市販されている原料でよいが、M元素については特に炭酸塩が好ましい。純度は高い方が好ましいことから、好ましくは2N以上、さらに好ましくは3N以上のものを準備する。各原料粒子の粒径は、一般的には、反応を促進させる観点から微粒子の方が好ましいが、原料の粒径、形状により、得られる蛍光体の粒径、形状も変化する。このため、最終的に得られる蛍光体に求められる粒径や形状に合わせて、近似の粒径を有する窒化物等の粉末状の原料を準備すればよい。Z元素も、原料として、市販の窒化物、酸化物、炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩、または単体金属を用いることが出来る。勿論、各原料の純度は高い方が好ましく、2N以上、さらに好ましくは3N以上のものを準備する。特に、M元素の原料として炭酸塩を使用した場合には、本実施形態の蛍光体の構成元素に含まれない元素を含む化合物を、フラックス(反応促進剤)として添加することなく、フラックス効果を得ることができるため好ましい構成である。
【0052】
組成式Sr4AlSi11(O2)N17:Eu (但し、Eu / (Sr + Eu) = 0.030)の製造であれば、例えばM元素、A元素、B元素の原料として、それぞれSrCO3(3N)、AlN(3N)、Si3N4(3N)を準備し、Z元素としては、Eu2O3(3N)を準備するとよい。これらの原料を、各元素のモル比がSr : Al : Si : Eu = 0.970 : 0.25 : 2.75 : 0.030となるように、各原料の混合比を、それぞれ、SrCO3を0.970 mol、AlNを0.25 mol、Si3N4を2.75/3 mol、Eu2O3を0.030/2 mol秤量し混合する。Sr原料として炭酸塩を使用したのは、炭酸塩など低融点の原料を使用した際には、原料自体がフラックスとして働き、反応が促進され、発光特性が向上するためである。
【0053】
また、原料として酸化物を使用した場合、フラックス効果を得るために、フラックスとして別の物質を添加してもよいが、その場合には当該フラックスが不純物となり、蛍光体の特性を悪化させる可能性があることに注意する必要がある。当該秤量・混合については、各原料元素の窒化物が水分の影響を受けやすいため、水分を十分取り除いた不活性雰囲気下のグローブボックス内での操作が好ましいが、大気中で行っても良い。混合方式は湿式、乾式どちらでも構わないが、湿式混合の溶媒として純水を用いると窒化物原料が酸化するため、適当な有機溶媒を選定する必要がある。装置としてはボールミルや乳鉢等を用いる通常のものでよい。
【0054】
混合が完了した原料をるつぼに入れ、希ガス等の不活性ガス、水素、アンモニア等の還元性ガスが含まれても良いが、窒素ガスを90%以上含むガス雰囲気中で1600℃以上、さらに好ましくは1700℃以上2000℃以下で30分以上保持して焼成する。焼成温度が1600℃以上であれば、固相反応が良好に進行して発光特性に優れた蛍光体を得ることが可能となる。また2000℃以下で焼成すれば、過剰な焼結や、融解が起こることを防止できる。尚、焼成温度が高いほど固相反応が迅速に進むため、保持時間を短縮出来る。一方、焼成温度が低い場合でも、当該温度を長時間保持することにより目的の発光特性を得ることが出来る。しかし、焼成時間が長いほど粒子成長が進み、粒子形状が大きくなるため、目的とする粒子サイズに応じて焼成時間を設定すればよい。
【0055】
当該焼成中の炉内圧力は0.5 MPa以下が好ましく、更に好ましくは0.1 MPa以下である。(本実施形態において、炉内圧力とは大気圧からの加圧分の意味である。)これは、0.5 MPa以下の圧力下で焼成することにより、粒子間の焼結が進み過ぎることを回避でき、焼成後の粉砕を容易化できるためである。尚、るつぼとしてはAl2O3るつぼ、Si3N4るつぼ、AlNるつぼ、サイアロンるつぼ、C(カーボン)るつぼ、BN(窒化ホウ素)るつぼなどの、上述のガス雰囲気中で使用可能なものを用いれば良いが、BNるつぼを用いると、るつぼからの不純物混入を回避することができ好ましい。
【0056】
また、焼成中は、上述のガス雰囲気を、例えば0.1 ml/min以上の流量で流した状態で焼成することが好ましい。これは、焼成中には原料からガスが発生するが、上述の窒素ガスを90%以上含むガス雰囲気を流動(フロー)させることにより、原料から発生したガスが炉内に充満して反応に影響を与えることを防止でき、この結果、蛍光体の発光特性の低下を防止できるからである。特に、原料に炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩を使用した際には、焼成中に原料が分解し酸化物になる際にガスが発生するため、焼成炉内の雰囲気をフローさせ、発生したガスを排気させることが好ましい。
【0057】
本実施の形態では原料を粉末のまま焼成することが好ましい。一般的な固相反応では、原料同士の接点における原子の拡散による反応の進行を考慮し、原料全体で均一な反応を促進させるために、原料をペレット状にして焼成することが多い。ところが、当該蛍光体原料の場合には、粉末のまま焼成することで、焼成後の解砕が容易であり、1次粒子の形状が理想的な球状となることから、粉末として扱い易いものとすることができ好ましい。更に、原料として、炭酸塩、水酸化物、塩基性炭酸塩を使用した場合には、焼成時の原料の分解によりCO2ガスなどが発生するが、原料が粉体であれば十分に抜けきってしまうので発光特性に悪影響を及ぼさないという観点からも、原料が粉体であることが好ましい。また、本実施形態の蛍光体は、発光特性の向上と共に、蛍光体粒子中に柱状の粒子形状をした粒子が観察される。これは、本実施形態の蛍光体の組成において、結晶成長が進んだ場合に柱状の粒子形状を取り易いためであり、当該柱状の粒子形状をした粒子は、優れた発光特性を発揮するものと考えられる。従って、発光特性の向上の観点から、蛍光体の1次粒子は、柱状粒子を含むものが好ましい。
【0058】
本蛍光体の組成の調整方法としては、原料混合時にAlを数%多めに秤量してもよいが、焼成時の調整によって酸素濃度を変化させる方が容易である。酸素濃度の調整方法には、蛍光体を焼成する炉(例えばバッチ炉、連続炉、加圧炉)や、各々により製造条件は異なるが、焼成温度、焼成時間または雰囲気流量によって調整すればよい。焼成温度を高くする、または焼成時間を長くする、または焼成時の雰囲気流量を多くすれば生成後の酸素濃度は低くなる。目的の酸素濃度は被膜する酸化膜の厚さ、生成後の熱処理温度、時間によって内部に拡散する酸素量に応じて適した数値を定めればよい。一般的には、酸化物の膜厚は0.5nm以上、100nm以下であり、蛍光粒子に対する酸化膜の占める体積比は数%以下であるため、蛍光体粒子において、当該蛍光体が目標とする組成式から求められる酸素量より、1%から2%削減した酸素量とする設定にすればよい。
【0059】
焼成が完了した後、焼成物をるつぼから取り出し、乳鉢、ボールミル等の粉砕手段を用いて、所定の平均粒径となるように粉砕し、組成式Sr4AlSi11(O2)N17:Eu (但し、Eu / (Sr + Eu) = 0.030)で示される蛍光体を製造することができる。得られた蛍光体はこの後必要に応じて、洗浄、分級、表面処理を行う。
M元素、A元素、B元素、Z元素として、他の元素を用いた場合、および付活剤であるEuの付活量を変更した場合にも、各原料の仕込み時の配合量を所定の組成比に合わせることで、上述したものと同様の製造方法により蛍光体を製造することができる。
【0060】
次に、蛍光体粒子の解砕工程について説明する。
焼成後の蛍光体粒子は、乳鉢、ボールミル、ジェットミル、サンプルミル、ローラーミル等を用いて解砕を行う。尚、後述する理由により、当該解砕は蛍光体粒子の平均粒子径が1.0μm以上、20μm以下となるように行うことが好ましい。
【0061】
次に、蛍光体粒子の表面に酸化膜を被膜する工程について説明する。酸化膜についてはSi、Ti、Zr、In、Snから構成される酸化膜が良いが、中でもSiO2膜を設けることが製法上安価、且つ容易で好ましい。ただし、SiO2以外においてもZrO2、TiO2等の酸化膜でも同様な効果が得られる。またInやSnの酸化膜とした場合は、当該酸化膜が、蛍光体表面を覆う以外に導電性を保有するため、ディスプレイ用など電子が直接蛍光体表面に照射される用途においては好ましい導電性酸化膜と言える。
【0062】
蛍光体粒子表面にSiO2膜等の酸化膜を被膜する方法としては、所謂ゾル・ゲル法が好ましい。ゾル・ゲル法とは、まず蛍光体粒子表面に、コーティング物質の加水分解生成物を被着させた後、触媒などによって、当該加水分解生成物を縮合反応させる方法である。そこで本実施形態の場合、蛍光体粒子へのSiO2膜の被膜は、有機溶媒中で蛍光体粒子とオルガノシラン化合物と水とを混合し、ゾルの加水分解反応を行うことから始まる。
【0063】
ここで、有機溶媒としては、加水分解反応を進行させるゾル媒体として機能させるために水溶性のものが好ましく、特に、メチルアルコール、エチルアルコール、およびイソプロピルアルコールなどのアルコール類が好ましい。
【0064】
オルガノシランとしては、一般式R14-aSi(OR2)aで表されるアルコキシシラン(但し、R1は1価の炭化水素基、R2は炭素数1から4の1価の炭化水素基、aは3から4の整数である。)が好ましく、中でも、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと記載する。)、メチルトリメトキシシランが好ましい。
【0065】
アルコキシシランの加水分解を蛍光体粒子表面にて行わせるために、当該有機溶媒中に、加水分解に供される純水と蛍光体粒子とを入れて攪拌し、蛍光体粒子を懸濁させておく。次に、当該懸濁溶液中へアルコキシシランを添加し攪拌する。その後、加水分解・縮合反応を促進させる触媒を添加し攪拌する。これによって、蛍光体粒子表面にSiO2ゲルを含む被膜が形成される。
【0066】
加水分解・縮合反応を促進させるゲル化剤としては、塩酸、硫酸または燐酸などの酸でも良いが、均一で緻密なSiO2膜を得る観点からは、アルカリの方が好ましく、またアルカリの中でも、金属分を有しないアンモニアが好ましい。加えて、アンモニアを用いることで、均一で緻密なSiO2膜が良好に得られる上に、入手しやすく低コストであり、揮発除去が容易で不純物の残留が無いなどの多くのメリットがある。
【0067】
ここで、加水分解反応に使用する反応槽としては、金属槽よりもセラミック反応槽やテフロン(登録商標)コートされた反応槽などを使用することが好ましい。これは、有機溶媒中で攪拌する際に、攪拌羽や反応槽壁が蛍光体粒子との衝突により削り取られ、発光強度を下げる不純物となって蛍光体粉末に混入する可能性があるからである。中でも、蛍光体中のFe,Ni,Co元素の濃度は100ppm以下であることが好ましい。
【0068】
加水分解反応およびこれに続く縮合反応は、アンモニア水を添加した後、熟成させることによって進行させるのが望ましい。アンモニア水の添加速度は特に限定されないが、ゆっくり添加することで、蛍光体懸濁液のpHが一気に上昇することを回避し、蛍光体粒子に被覆されるSiO2膜等の酸化膜の構造が粗になってしまうことを回避できる。
【0069】
また、アンモニア水を添加する際には、連続的に添加することにより、コーティングされる蛍光体粒子同士の凝集を防止できる。これは、アンモニア水を連続的に添加し蛍光体懸濁液のpHを緩やかに上昇させることで、蛍光体粒子表面以外の懸濁液中でSiO2粒子が生成し、当該SiO2粒子が蛍光体粒子同士の凝集を誘発するバインダーとして働いてしまうという事態を回避できるからである。更に、当該蛍光体懸濁液のpHを緩やかに上昇させることで、蛍光体粒子表面にSiO2が不均一に生成してしまうことで表面が凸凹になり、当該蛍光体粒子同士が凝集しやすくなるといった事態を回避できる。また、アンモニア水添加完了後の、熟成時の液温は特に限定されないが、10℃ 〜 70℃、さらには40℃程度が好ましい。液温が10℃ 〜 70℃さらには40℃程度であるとSiO2膜等の酸化膜が粗になるのを回避することができる。熟成時間も特に限定されないが0.5hr 〜 5hrが好ましい。
【0070】
以上の操作により得られる蛍光体粒子上のSiO2膜の膜厚、膜密度は、一般に、添加当初のアルコキシシラン量、純水量、蛍光体懸濁液液温、熟成時間などに依存する。そこで、これらアルコキシシラン量等を制御することによって、任意の膜厚、膜密度を有するSiO2ゲルの膜を蛍光体粒子表面に被着することができる。SiO2ゲルのコーティング膜の膜厚は400 nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは20nm未満とすることで、コーティングされた蛍光体粒子が互いに凝集するのを回避できる。
【0071】
次に、添加するアルコキシシラン量の調整による、SiO2ゲルのコーティング膜における膜厚の制御について説明する。
【0072】
まず、添加するアルコキシシラン量を(W1)、ねらいとするSiO2ゲルのコーティング膜の膜厚を(L)、BET法により求めた蛍光体粒子の比表面積を(S)、蛍光体粒子の仕込み量を(W3)とする。すると、添加された全蛍光体粒子の表面(S×W3)が膜厚(L)をもってSiO2ゲルコーティングされた場合、SiO2ゲルコーティングの体積 (V1)は、
V1 = S × W3 × L…(式1)
となる。
【0073】
一方、SiO2ゲルコーティングの密度をρ(シリカゲル=2.0g/cm3の密度と同値)とすると、全蛍光体粒子の表面に生成するSiO2の重量(W2)は、
W2 = V1×ρ…(式2)
となる。
【0074】
従って、SiO2の分子量を(Mw2)、SiO2のモル量を(M1)としたとき、全蛍光体粒子の表面に生成するSiO2膜のモル量は、
M1 = W2/Mw2…(式3)
となる。
【0075】
ここで、アルコキシシランが例えばTEOSの場合、Si(OC2H5)4 1.0mol中に、Siは1.0mol存在していることから、Si(OC2H5)41.0molから生成するSiO2も1.0molである。すなわち、SiO2をM1モル生成するためにはTEOSもM1モル必要となるので、TEOSの分子量を(Mw1)とするとアルコキシシラン量(W1)は、
W1 = M1 × Mw1…(式4)
となる。
【0076】
そして、式1〜式4より、
W1 = S × W3 × L ×ρ× Mw1/Mw2…(式5)
となり、ρ、Mw1、Mw2は定数、Sは測定値、W3は所定の設定値であることから、ねらいの膜厚値Lの値を式5に代入すれば、添加すべきアルコキシシラン量(W1)を求めることができる。
【0077】
また、式5を膜厚値Lについて解くと、
L=〔Mw2/(S×W3×ρ×Mw1)〕×W1…(式6)
が得られ、添加したアルコキシシラン量(W1)よりSiO2ゲルのコーティング膜厚の値(L)を算定することができる。
【0078】
さらに、SiO2ゲルのコーティング膜厚の値(L)を直接求める方法例として、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた高倍率観察結果から求めることができる。
【0079】
得られたSiO2ゲル膜がコーティングされた蛍光体粒子は、固・液分離により蛍光体懸濁液から単離される。固・液分離の方法としては濾過が一般的である。乾燥方法は温風乾燥、真空乾燥、スプレードライヤーなど一般的な方法でよい。
【0080】
次に、蛍光体粒子を熱処理する工程について説明する。
熱処理の条件として、熱処理温度は、粒子同士が焼結しない温度、及び、蛍光体が製品に組み込まれた際に曝される温度においても安定である安定相を形成できる温度に設定する必要がある。そして、当該熱処理温度は、本焼成の焼成温度1600℃以下であることが好ましく、より好ましくは1000℃以下、さらに好ましくは500℃以下であって、200℃以上である。熱処理時間は熱処理温度によっても変わってくるが、0.5時間以上であることが好ましい。
【0081】
熱処理雰囲気としては、蛍光体表面が酸化すると表面構造が発光に適さない構造へと変化してしまうため、窒素を構成元素に含み、且つ酸素を含まない雰囲気ガス中で行うことが好ましく、中でも、アンモニアガス、窒素ガス、アンモニアガスおよび窒素ガスの混合ガス雰囲気が好ましい。尚、アンモニアガス雰囲気を用いる際は、アンモニアが腐食性ガスであるため、炉材質がアンモニアにより腐食されない炉を使用する必要がある。また、若干ではあるが、熱処理が施される蛍光体粒子からガスが発生する可能性もあるため、雰囲気ガスは流通させることが好ましい。当該熱処理により、表面酸化膜から蛍光体粒子への酸素の拡散、蛍光体粒子から表面酸化膜への窒素の拡散により耐久性に優れた蛍光体粒子を得ることができる。
【0082】
こうして得られた、熱処理が施されたSiO2膜を表面に有し、自身も熱処理された蛍光体粒子は、未処理の蛍光体粒子に比べ、熱劣化、長時間の点灯による輝度低下・色味変化が抑制されたものとなる。
【0083】
この結果、波長250 nmから500nmの範囲にある所定の励起光が照射された蛍光体の、25℃における発光スペクトル中の最大ピークの相対強度の値を発光強度をBPとし、前記蛍光体が300℃の大気中に6時間保持されて熱劣化された後に25℃に戻され、前記所定の励起光が照射された際の発光スペクトル中の最大ピークの相対強度の値を発光強度をAPとしたとき、熱処理が施されたSiO2膜が表面に設けられた蛍光体粒子を含む蛍光体は、当該熱劣化に対する変化率が、(BP - AP)/ BP ≦ 0.05となり、耐熱性に優れていることが判明した。
【0084】
本実施形態の、熱処理が施されたSiO2被膜が設けられ、自身も熱処理が施された蛍光体粒子を含む蛍光体を粉体の形で用いる場合、当該蛍光体の粉体の平均粒径が20μm以下であることが好ましい。これは、蛍光体において発光は主に粒子表面で起こると考えられており、平均粒径が20μm以下であれば、粉体単位重量あたりの表面積を確保でき、輝度の低下を回避できるからである。さらに、当該粉体をペースト状として、発光素子等に塗布した場合には塗布密度を高めることができ、この観点からも輝度の低下を回避できるからである。通常、SiO2を加水分解・重合により粒子表面に被覆した場合には、粒子同士が凝集しやすく、被覆前の平均粒子径に比べて、被覆後の平均粒子径は大きく増加する場合が多い。しかし、上述の本実施形態の製造方法によれば、凝集がほとんどみられず、被覆前と被覆後の平均粒子径はほぼ等しい。更に、被覆後に熱処理した場合にも、処理温度が低温であるため凝集はほとんど見られない。つまり、被覆前の蛍光体粉末の平均粒子径を20μm以下とし、本実施形態の製造方法を適用すれば、粉体の平均粒径が20μm以下である当該蛍光体を容易に得ることが可能である。また、本発明者らの検討によると、詳細な理由は不明であるが、蛍光体粉体の発光効率の観点からは、蛍光体粉末の平均粒径が1μmより大きいことが好ましいことも判明した。以上のことより、本実施形態の蛍光体粉体の平均粒径は、1μm〜20μmであることが好ましい。
【0085】
粉末状となった本実施形態の蛍光体を、波長域250 nmから550 nm、好ましくは波長域250 nmから500 nmのいずれかの光を発光する発光部と組み合わせることで、各種の照明装置やディスプレイ用バックライト装置等の発光装置を製造することができる。
【0086】
発光部として、例えば、紫外から青色の範囲で発光するLED発光素子、紫外光を発生する放電灯等を用いることができる。そして、本実施形態の蛍光体と他の蛍光体とを混合した混合物を当該LED発光素子と組み合わせた場合には、各種の照明装置やディスプレイ用バックライト装置等の発光装置を製造することができる。また、本実施形態の蛍光体と他の蛍光体とを混合した混合物を当該放電灯と組み合わせた場合にも、各種蛍光灯や照明装置やディスプレイ用バックライト装置等の発光装置を製造することができる。
【0087】
本実施形態の蛍光体と、当該LED発光素子またはHg放電灯との組み合わせ方法は公知の方法にて行えば良い。例えば、当該蛍光体を発光部に直接塗布する方法、当該蛍光体をシリコン等の樹脂に分散させた後、当該分散物を発光部に塗布する方法、当該蛍光体を樹脂などにより形成された透明基材等に塗布し、当該基材を発光部上部に配置する方法を採ることができる。
【0088】
上述の発光装置において、LED発光素子、Hg放電灯等を発光させると、これらの発光部は所定波長の光を発光するが、この所定波長の光の一部または全部が励起源となり、当該蛍光体が前記所定波長と異なる波長で発光し、優れた耐久性、輝度を有する白色光を始めとした発光装置を得ることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1では、組成式がSrAl0.2Si2.7(O)N3.80:Eu (但し、Eu / (Sr + Eu) = 0.030)であり、熱処理が施されたSiO2膜が表面に設けられ、自身も熱処理が施された蛍光体粒子を含む蛍光体を製造した。製造方法としては、M元素、A元素、B元素の各原料として、それぞれ市販のSrCO3(3N)、AlN(3N)、Si3N4(3N)を準備し、Z元素として、Eu2O3(3N)を準備する。これらの原料を、各元素のモル比がSr : Al : Si : Eu = 0.970 : 0.20 : 2.70 : 0.030となるように、各原料の混合比を、それぞれ、SrCO3を0.970 mol、AlNを0.20mol、Si3N4を2.70/3 mol、Eu2O3を0.030/2 mol秤量し、大気中にて回転ボールミルを用いて混合した。混合した原料をBNるつぼに入れ、窒素雰囲気中(フロー状態)、炉内圧0.05 MPaで1600℃まで15℃/minで昇温し、1600℃で6時間保持・焼成した後、1600℃から200℃まで1時間で冷却した。その後、焼成後の試料を大気中にて混合解砕し、混合解砕した試料を再びるつぼ内に入れ、窒素雰囲気中(フロー状態)、炉内圧0.05 MPaで1750℃まで15℃/minで昇温し、1750℃で12時間保持・本焼成した後、1750℃から200℃まで1時間で冷却した。その後、本焼成試料を大気中にて適当な粒径になるまで乳鉢を用いて混合解砕し、組成式Sr Al0.2Si2.7(O)N3.80:Eu (但し、Eu / (Sr + Eu) = 0.030)で示される蛍光体を得た。
【0090】
得られた蛍光体試料を、イソプロピルアルコール500gと純水62.2gとの混合溶媒中に30g投入し、液温を40℃に維持して攪拌を続けながら、膜厚が5.0 nmとなるように前記計算式5より求めた0.541gのテトラエトキシシラン(TEOS、95%)を添加した。TEOSの添加の後、アンモニア水(21.83%)111.5gを45minにわたり連続添加し、さらに攪拌を60min継続して熟成を行った。得られた反応液から蛍光体粉末を濾過により分別した後、100℃で3時間以上乾燥させてSiO2膜を有する蛍光体粉末を得た。
【0091】
次に、SiO2膜を有する蛍光体粉末を、BNるつぼに充填し、アンモニア雰囲気中で300℃まで10℃/minで昇温し、300℃で3時間保持し熱処理した。このようにして、熱処理が施されたSiO2膜が表面に設けられ、自身も熱処理が施された蛍光体粒子を得た。得られた蛍光体粒子の酸素濃度 3.74wt%であり、平均粒子径(D50)は 12.08μmであった。
【0092】
(比較例1)
比較例1では、蛍光体粒子及びそれに形成されたSiO2膜へ熱処理を施さない以外は、実施例1と同様の処理を行って、当該蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を得た。当該蛍光体粒子表面には、5nmのSiO2膜を形成したが、アンモニア中での熱処理は行っていない。作製した当該蛍光体粉末の酸素濃度は 3.64wt%であり、平均粒子径(D50)は 12.13μmであった。
【0093】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同様の組成比・製造方法によって蛍光体粒子を製造し、得られた蛍光体粒子30gを、イソプロピルアルコール500gと純水62.2gとの混合溶媒中へ投入し、液温を40℃に維持して攪拌を続けながら、膜厚が20.0 nmとなるように前記計算式5より求めた2.020gのテトラエトキシシラン(TEOS、95%)を添加した。TEOSの添加の後、アンモニア水(21.83%)443.0gを45minにわたり連続添加し、さらに攪拌を60min継続して熟成を行った。得られた反応液から蛍光体粉末を濾過により分別した後、100℃で3時間以上乾燥させて蛍光体表面に20nmのSiO2膜を有する蛍光体粒子を得た。
次に、SiO2膜を有する蛍光体粒子を、BNるつぼに充填し、アンモニア雰囲気中で300℃まで10℃/minで昇温し、300℃で3時間保持し熱処理した。このようにして、熱処理が施されたSiO2膜が表面に設けられ、自身も熱処理が施された蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を得た。
当該蛍光体粉末の酸素濃度は 3.74wt%であり、平均粒子径(D50)は 12.10μmであった。
【0094】
(比較例2)
比較例2では、蛍光体粒子及びそれに形成されたSiO2膜へ熱処理を施さない以外は、実施例2と同様の処理を行って、当該蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を得た。当該蛍光体粒子表面には、20nmのSiO2膜を形成したが、アンモニア中での熱処理は行っていない。作製した当該蛍光体粉末の酸素濃度は 3.87wt%であり、平均粒子径(D50)は 12.18μmであった。
【0095】
(比較例3)
比較例3では、蛍光体粉末の表面にSiO2膜を設けず、熱処理を施されない以外は、実施例1と同様の処理をして蛍光体粒子を得た。得られた蛍光体粒子を含む蛍光体粉末の酸素濃度は 3.34wt%であり、平均粒子径(D50)は 12.11μmであった。
【0096】
(比較例4)
比較例4では、実施例1の組成からAlを添加しない組成で蛍光体粒子を製造し、当該製造された蛍光体粒子表面にSiO2膜を設けて熱処理を施し、SiO2膜が設けられ、自身も熱処理が施された蛍光体粒子を製造した。製造方法としては、M元素、B元素の各原料として、それぞれ市販のSrCO3(3N)、Si3N4(3N)を準備し、Z元素としては、Eu2O3(3N)を準備する。これらの原料を、各元素のモル比がSr : Si : Eu = 0.970 : 2.70 : 0.030となるように、各原料の混合比を、それぞれ、SrCO3を0.970 mol、Si3N4を2.70/3 mol、Eu2O3を0.030/2 mol秤量し、大気中にて回転ボールミルを用いて混合した。混合した原料をBNるつぼに入れ、窒素雰囲気中(フロー状態)、炉内圧0.05 MPaで1600℃まで15℃/minで昇温し、1600℃で6時間保持・焼成した後、1600℃から200℃まで1時間で冷却した。その後、焼成後の試料を大気中にて混合解砕し、混合解砕した試料を再びるつぼ内に入れ、窒素雰囲気中(フロー状態)、炉内圧0.05 MPaで1750℃まで15℃/minで昇温し、1750℃で12時間保持・本焼成した後、1750℃から200℃まで1時間で冷却した。その後、本焼成試料を大気中にて適当な粒径になるまで乳鉢を用いて混合解砕し、目的の蛍光体粒子を得た。
【0097】
この蛍光体粒子を含む蛍光体粉末30gを、イソプロピルアルコール500gと純水99.7gとの混合溶媒中に投入し、液温を40℃に維持して攪拌を続けながら、膜厚が5.0 nmとなるように前記計算式5より求めた0.867gのテトラエトキシシラン(TEOS、95%)を添加した。TEOSの添加の後、チューブポンプを用いて、アンモニア水(21.83%)178.8gを45minにわたり連続添加し、さらに攪拌を60min継続して熟成を行った。得られた反応液から蛍光体粉末を濾過により分別した後、100℃で3時間以上乾燥させてSiO2膜を有する蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を得た。
【0098】
次に、SiO2被覆された蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を、BNるつぼに充填し、アンモニア雰囲気中で300℃まで10℃/minで昇温し、300℃で3時間保持し熱処理した。このようにして、熱処理が施されたSiO2被膜が表面に設けられ、自身も熱処理が施された蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を得た。得られた蛍光体粉末の酸素濃度は 3.93wt%であり、平均粒子径(D50)は 10.22μmであった。
【0099】
(比較例5)
比較例5では、蛍光体粒子及びそのSiO2膜へ熱処理を施さない以外は、比較例4と同様の処理をしてSiO2膜を有する蛍光体粒子を含む蛍光体粉末を得た。得られた蛍光体粉末の酸素濃度は 4.00wt%であり、平均粒子径(D50)は 10.29μmであった。
【0100】
(比較例6)
比較例6では、蛍光体粒子の表面にSiO2膜を設けず、熱処理を施さない以外は、比較例4と同様の処理をして蛍光体粉末を得た。得られた蛍光体粉末の酸素濃度は 3.63wt%であり、平均粒子径(D50)は 10.16μmであった。
【0101】
(評価)
表1に、実施例1、2、および比較例1から6に係る蛍光体粉末の、平均粒径(D50)、酸素濃度(wt%)、25℃で波長460nmの励起光により励起したときの発光特性(ピーク波長(nm)、比較例3に係る蛍光体の発光強度を100と規格化した場合の相対発光強度、比較例3に係る蛍光体の輝度を100%と規格化した場合の輝度、色度(x,y))、当該蛍光体に300℃の熱をかけ、当該加熱時間0min時の発光強度を100と規格化したときの、加熱時間0min(0時間)から360min(6時間)経過後の相対発光強度、及びその変化率((BP-AP)/BP)を示す。
【0102】
尚、当該蛍光体の加熱による熱劣化測定は、次のようにしておこなった。
まず、測定対象の蛍光体試料を、25℃において波長460nmの光で励起して発光強度(BP)を測定した。次に、当該測定用の蛍光体粉末を1.0g秤量し、るつぼに入れ、マッフル炉を用いて大気中で300℃、6時間の加熱を行い、熱劣化後の試料を得た。そして、当該熱劣化後の試料に対し、25℃において波長460nmの光で励起して発光強度(AP)を測定し、熱劣化に伴う発光強度の変化率((BP-AP)/BP)を算出した。
【0103】
実施例1、2、および、比較例1から3に係る蛍光体粉末の平均粒径はいずれもほぼ等しく、熱処理が施されたSiO2膜を設けたことによる、蛍光体粒子の凝集や焼結が生じていないことが解る。これは、実施例1に係る蛍光体粉末の処理条件を、SiO2被覆の反応速度を抑制する条件にしたこと、および、熱処理条件を、蛍光体粒子の焼結が起こらない温度域(200℃から1000℃)に設定した効果であると考えられる。比較例4、5の蛍光体粒子径も同様の効果により、比較例6の蛍光体粒子径と同程度であると考えられる。
【0104】
実施例1、2および比較例1、2に係る蛍光体粉末の酸素濃度は、蛍光体粒子表面にSiO2膜を施していることにより上昇していると考えられる。そこで、実施例1、2および比較例1、2に係る蛍光体粉末の酸素濃度を、比較例3に係る蛍光体粉末の酸素濃度と比較してみると、SiO2膜の被覆により蛍光体粉体の酸素濃度が上昇していることが判明した。加えて、実施例1、2および比較例1、2は、比較例3と比較して、発光強度が維持またはわずかであるが上昇している。これは、蛍光体表面に酸化被膜を作製し、蛍光体及びその酸化被膜に熱処理を施すことによって、酸化皮膜から蛍光体への酸素の拡散が起こり、この酸素の拡散によって蛍光体組成の均一化が起こったものであると考えられる。
【0105】
実施例1および比較例1と、実施例2および比較例2とでは、被覆した酸化膜の膜厚が異なるが、耐久性についての効果は変わらない。ただし、膜厚が過剰に厚いと蛍光体の発光特性の低下を招くため、酸化膜の膜厚は100nm以下、さらに好ましくは20nm以下が良い。
【0106】
次に、実施例1、2、比較例1〜3に係る蛍光体粉末を大気中で加熱させ、耐酸化性について評価した結果について説明する。表1の結果から解るように、実施例1、2、および比較例1、2、に係る蛍光体は、比較例3に係る蛍光体に比べて、熱による劣化に対しての変化率((BP-AP)/BP)の値で評価すると、発光強度の低下を10%以上抑えることができている。従って、本発明に係る蛍光体を用いた各種照明装置の製品化工程において、60min程度の熱処理工程があった場合でも、本発明に係る処理を行った蛍光体を用いた場合には、製品化工程における発光特性低下を回避できることが判明した。
【0107】
次に、比較例4から6に係る蛍光体粒子中にAlを含まない蛍光体粉末に関して、上述と同様な評価を行った。表1の結果から解るように、比較例4、5に係る蛍光体は、熱劣化に対しての変化率((BP-AP)/BP)の値において、比較例6に係る蛍光体に比べて発光強度の低下を10%以上抑えることができている。これは、表面に酸化膜を被覆する効果によるものであると考えられる。しかし、比較例4から6に係るAlを含まない蛍光体粉末は、実施例1、2、等のAlを含む蛍光体粉末に比べて、発光特性において発光強度の低下を起こしている。これは、比較例4から6に係るAlを含まない蛍光体粉末においては、蛍光体粒子内に酸化被膜からの酸素の拡散が起こった際、当該蛍光体粒子内にAlを含まないために組成の不均一が起こり、発光特性が低下した為と考えられる。
【0108】
【表1】

【0109】
(実施例5)
発光部として窒化物半導体を有する青色光の発光素子(発光波長460.0 nm)を準備し、当該発光素子上へ、実施例1で得られた蛍光体粉体と、市販の黄色蛍光体(YAG:Ce)とを塗布して白色LEDを作製し、当該青色光の発光素子を発光させた。このとき、当該青色発光素子の発光スペクトルと、黄色蛍光体(YAG:Ce)と、実施例1に係る蛍光体の発光スペクトルとの混合をシミュレーションし、当該シミュレーション結果より色温度3000K相当の電球色が得られるように配合を求めた。当該白色LEDを発光させたときの、発光スペクトルを図1に示す。図1は、横軸に光の波長(nm)をとり、縦軸に発光強度をとったシミュレーション結果のグラフである。図1の結果から明らかなように、当該白色LED中の各蛍光体は、当該青色発光素子からの光により励起されて発光し、色温度3016Kの白色光を得ることができた。また、当該白色光の平均演色評価数(Ra)は91、R9は67、R15は91と演色性に十分優れたものであった。さらに、当該実施例1に係る蛍光体と黄色蛍光体の配合を変えることで、相関色温度の異なる白色LEDを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】実施例5に係る白色LEDの発光スペクトルを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含み熱処理が施された被膜が表面に形成された蛍光体粒子を、含む蛍光体であって、
前記蛍光体粒子の組成式は、一般式MmAaBbOoNn:Zで表記され(M元素はII価の価数をとる1種類以上の元素であり、A元素はIII価の価数をとる1種類以上の元素であり、B元素はIV価の価数をとる1種類以上の元素であり、Oは酸素であり、Nは窒素であり、Z元素は1種類以上の付活剤である。)、且つ、2.5 ≦ (a + b)/m < 4.5 、0 < a/m < 0.5、2.0 < b/m < 4.0、0 ≦ o/m < 1.0、o < n 、n = 2/3m + a + 4/3b - 2/3oであることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体であって、
前記被膜の膜厚が、0.5 nm以上、100 nm以下であることを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光体であって、
前記被膜に含まれる金属酸化膜は、Si、Ti、Zr、In、Snのいずれか1種類以上の金属元素を含むことを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記一般式において、2.5 < (a + b)/m < 4.0、2.5 ≦ b/m ≦ 3.5、0 < o/m < 1.0であることを特徴とする蛍光体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の蛍光体であって、
M元素はMg、Ca、Sr、Ba、Znから選択される1種類以上の元素であり、A元素はAl、Gaから選択される1種類以上の元素であり、B元素はSi、Geから選択される1種類以上の元素であり、Z元素はEu、Ce、Mnから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする蛍光体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の蛍光体であって、
M元素としてSr、A元素としてAl、B元素としてSiを含むことを特徴とする蛍光体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の蛍光体であって、
当該蛍光体中に、酸素を0.1wt%以上、10.0wt%以下含有し、且つ、窒素を20.0wt%以上、50.0wt%以下含有することを特徴とする蛍光体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の蛍光体であって、
当該蛍光体へ、波長250nmから500nmの範囲にある所定の励起光を照射した際の、25℃における発光スペクトル中の最大ピークの相対強度の値をBPとし、
当該蛍光体を300℃の大気中に6時間置いた後、25℃にもどし、前記の励起光を照射した際の、発光スペクトル中の前記最大ピークの相対強度の値をAPとしたとき、
(BP - AP)/ BP ≦ 0.05であることを特徴とする蛍光体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記被膜に含まれる金属酸化物が、SiO2であることを特徴とする蛍光体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の蛍光体であって、
前記蛍光体粒子の平均粒径(D50)が、1.0μm以上、20μm以下であることを特徴とする蛍光体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の蛍光体の製造方法であって、
蛍光体の原料を焼成して蛍光体粒子を得る工程と、
前記蛍光体粒子を解砕する工程と、
水溶性の有機溶媒中に、前記解砕された蛍光体粒子と、オルガノシラン化合物と、水とを投入して混合した後に、ゲル化剤を投入して、表面に金属酸化物を含む被膜を有する蛍光体粒子を得る工程と、
表面に前記金属酸化物を含む被膜を有する蛍光体粒子を、1000℃以下200℃以上のアンモニアガスおよび/または窒素ガスの雰囲気中で熱処理して、金属酸化物を含み熱処理が施された被膜を有する蛍光体粒子を製造する工程と、を有すること特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項12】
請求項1から10のいずれかに記載の蛍光体と、発光部とを有することを特徴とする発光装置。
【請求項13】
請求項12に記載の発光装置であって、
前記発光部とは、波長域250 nmから500 nmのいずれかの光を発光するものであることを特徴とする発光装置。
【請求項14】
請求項12または13に記載の発光装置であって、
前記発光部としてLED(発光ダイオード)を用いることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−169452(P2007−169452A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368877(P2005−368877)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】